以下、本発明に係る実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。また、本明細書において、適宜、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
図1は、実施形態における超音波診断装置の外観構成を示す図である。図2は、実施形態における超音波診断装置の電気的な構成を示すブロック図である。図3は、実施形態の超音波診断装置における超音波探触子の構成を示す図である。図3(A)は、超音波探触子の全体構成を示す斜視図であり、図3(B)は、超音波探触子を構成する複数の第1圧電素子のうちの一素子分を示す断面図である。
超音波診断装置Sは、図1および図2に示すように、図略の生体等の被検体に対して超音波(第1超音波信号)を送信すると共に、この被検体で反射した超音波の反射波(エコー、第2超音波信号)を受信する超音波探触子2と、超音波探触子2とケーブル3を介して接続され、超音波探触子2へケーブル3を介して電気信号の送信信号を送信することによって超音波探触子2に被検体に対して第1超音波信号を送信させると共に、超音波探触子2で受信された被検体内から来た第2超音波信号に応じて超音波探触子2で生成された電気信号の受信信号に基づいて被検体内の内部状態を超音波画像として画像化する超音波診断装置本体1とを備えて構成される。
超音波診断装置本体1は、例えば、図2に示すように、操作入力部11と、送信部12と、受信部13と、相関部14と、画像処理部15と、表示部16と、制御部17と、参照信号記憶部18とを備えて構成されている。
操作入力部11は、例えば、診断開始を指示するコマンドや被検体の個人情報等のデータの入力や後述の参照信号の各重み付け係数g(n)を微調整する指示を受け付けるものであり、例えば、複数の入力スイッチを備えた操作パネルやキーボード等である。
送信部12は、制御部17の制御に従って、超音波探触子2へケーブル3を介して電気信号の送信信号を供給して超音波探触子2に第1超音波信号を発生させる回路である。第1超音波信号には、例えば、周波数を時間経過に伴って予め設定された所定割合で変化させるチャープ波が用いられる。チャープ波の前記所定割合は、周波数が時間経過に従って徐々に高くなるチャープ波であってもよく、また、周波数が時間経過に従って徐々に低くなるチャープはであってもよい。送信部12は、例えば、制御部17からの送信信号s(t)に応じて送信ビームを形成する送信ビームフォーマ回路122、および、送信ビームフォーマ回路122から後述の超音波探触子2の各第1圧電素子22を駆動するための駆動信号を生成する駆動信号生成回路121等を備えて構成される(図4参照)。受信部13は、制御部17の制御に従って、超音波探触子2からケーブル3を介して電気信号の受信信号を受信する回路であり、この受信信号を相関部14へ出力する。受信部13は、例えば、受信信号を予め設定された所定の増幅率で増幅する増幅器等を備えて構成される。
相関部14は、受信部13の出力と予め設定された参照信号との相関処理を行うことによって受信部13の出力から第2超音波信号を検出するものである。この参照信号は、第1超音波信号の周波数を基本周波数とした場合における検出すべき高調波の次数、被検体の診断部位(診断部位の種類)、および、被検体の診断深度に応じて設定されている。
参照信号記憶部18は、例えば、ROMあるいはEEPROM等の記憶素子を備えて構成され、第1超音波信号の周波数を基本周波数とした場合における検出すべき高調波の次数、被検体の診断部位、および、被検体の診断深度に応じて設定された複数の参照信号を記憶するものである。そして、上記相関部14は、第1超音波信号の周波数を基本周波数とした場合における検出すべき高調波の次数、被検体の診断部位、および、被検体の診断深度に応じて参照信号記憶部18に記憶されている複数の参照信号から1つの参照信号を選択して相関処理を行う。これら検出すべき高調波の次数、被検体の診断部位および被検体の診断深度は、例えば、操作入力部11から入力される。
ここで、参照信号は、後述するように、第1超音波信号に基づいて生成される関数であってよい。より具体的には、参照信号は、例えば、第1超音波信号の周波数を基本周波数とした場合における検出すべき高調波の次数を2n(nは正の整数)とした場合に、第1超音波信号が正の値である場合には+1を乗算した第1超音波信号の2n乗であって、第1超音波信号が負の値である場合には−1を乗算した第1超音波信号の2n乗である。また例えば、参照信号は、第1超音波信号の周波数を基本周波数とした場合における検出すべき高調波の次数を(2n+1)(nは正の整数)とした場合に、第1超音波信号の(2n+1)乗である。なお、参照信号は、その振幅がフォーカルポイント深度に応じて増減されていてもよい。
タイミング発生部19は、超音波診断装置本体1の各部の動作タイミングを生成し、動作タイミングの必要な各部へ出力するものである。
画像処理部15は、制御部17の制御に従って、相関部14で相関処理された受信信号に基づいて被検体内の内部状態の画像(超音波画像)を生成する回路である。画像処理部15は、例えば、後述の各相関処理部50−1、50−2、50−3、・・・、50−nからの各出力y−1、y−2、y−3、・・・、y−nに対し遅延時間を補正する遅延補正回路151、および、遅延補正回路151の出力を整相加算する整相加算回路152等を備えて構成される(図4参照)。表示部16は、制御部17の制御に従って、画像処理部15で生成された被検体の超音波画像を表示する装置である。表示部16は、例えば、CRTディスプレイ、LCD、有機ELディスプレイおよびプラズマディスプレイ等の表示装置やプリンタ等の印刷装置等である。制御部17は、例えば、マイクロプロセッサ、記憶素子およびその周辺回路等を備えて構成され、これら操作入力部11、送信部12、受信部13、相関部14、参照信号記憶部18、画像処理部15および表示部16を当該機能に応じてそれぞれ制御することによって超音波診断装置Sの全体制御を行う回路である。
超音波探触子(超音波プローブ)2は、被検体内に第1超音波信号を送信しこの第1超音波信号に基づく被検体内から来た第2超音波信号を受信する装置であって、例えば、図3(A)に示すように、圧電材料を備えて成り、圧電現象を利用することによって電気信号と超音波信号との間で相互に信号を変換することができる複数の第1圧電素子22を備えて構成されている。すなわち、複数の第1圧電素子22は、被検体内へ第1超音波信号を送信する場合では、超音波診断装置本体1の送信部12からケーブル3を介して入力された送信の電気信号を圧電現象を利用することによって第1超音波信号に変換して被検体内にこの第1超音波信号を送信し、そして、被検体内から来た第2超音波信号を受信する場合では、圧電現象を利用することによってこの受信した第2超音波信号を電気信号に変換して受信信号をケーブル3を介して超音波診断装置本体1の受信部13へ出力する。超音波探触子2が被検体に当てられることによって、第1圧電素子22で生成された第1超音波信号が被検体内へ送信され、被検体内からの第2超音波信号が第1圧電素子22で受信される。
より具体的には、例えば、図3(B)に示すように、これら複数の第1圧電素子22のそれぞれは、導電線の信号線24と接続する導電材料から成る信号電極層222と、信号電極層222上に形成され、圧電材料から成る圧電層221と、圧電層221上に形成され、導電材料から成る接地電極層223とを備えて構成される。すなわち、これら複数の第1圧電素子22のそれぞれは、互いに対向する一対の第1および第2電極を備え、これら第1および第2電極間に、圧電材料から成る圧電部が形成されている。圧電材料は、例えば、無機圧電材料が用いられる。無機圧電材料は、例えば、いわゆるPZT、水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、ニオブ酸タンタル酸カリウム(K(Ta,Nb)O3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)およびチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)等である。
複数の第1圧電素子22は、一方向に配列され、1次元アレイ状に構成されてもよく、また、図3(A)に示すように、平面視にて互いに線形独立な2方向に、例えば、互いに直交する2方向にm行×n列で配列され、2次元アレイ状に構成されてもよい(m、nは、正の整数である)。図3(A)は、24個の第1圧電素子22−11〜22−46が、互いに直交する2方向に配列された2次元アレイを構成している例を示している。実際の超音波探触子では、例えば、第1圧電素子22が64×64の4096個であったり、また例えば第1圧電素子22が128×128の16900個であったり、多数の第1圧電素子22を備えていることは言うまでもない。
なお、本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。また、添え字のうちの左側の添え字は、行番号を示し、その右側の添え字は、列番号を示している。例えば、第1圧電素子22−23は、行番号2で列番号3の第1圧電素子22である。
これら複数の第1圧電素子22は、平板状の音響制動部材21の一方主面上に配置され、これら複数の第1圧電素子22上に音響整合層23が積層される。複数の第1圧電素子22は、クロストーク等の相互干渉を低減するために、互いに所定の隙間(溝、間隙、ギャップ)を空けて音響制動部材21上に配置される。なお、さらに相互干渉を低減するために、超音波を吸収する超音波吸収材がこの隙間に充填されることが好ましい。この超音波吸収材には、例えば、ポリイミド樹脂やエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が用いられる。
音響制動部材21は、超音波を吸収する材料から構成され、複数の第1圧電素子22から音響制動部材21方向へ放射される超音波を吸収するものである。音響制動部材21は、一般に、ダンパあるいはバッキング層とも呼ばれる。そして、各第1圧電素子22のそれぞれに接続する複数の複数の信号線24(図3(A)では信号線24−11〜24−46)が音響制動部材21を貫通している。なお、各第1圧電素子22のそれぞれに接続する複数の接地線(アース線)は、図示が省略されているが、各第1圧電素子22の上面からそれぞれ引き出される。
音響整合層23は、第1圧電素子22の音響インピーダンスと被検体の音響インピーダンスとの整合をとる部材である。したがって、音響整合層23は、第1圧電素子22の音響インピーダンスと被検体の音響インピーダンスとの差が最も小さくなるように設定される。音響整合層23は、単層で構成されてもよく、あるいは、複数層で構成されてもよい。なお、図3(A)では、この音響整合層23の図示が省略されている。また、音響整合層23は、円弧状に膨出した形状とされ、被検体に向けて送信される超音波を収束する音響レンズの機能を兼用してもよく、また、このような音響レンズが音響整合層23上に積層されてもよい。
そして、超音波探触子2では、複数の第1圧電素子22のそれぞれが、複数の区域に分割され、これら複数の区域(区画、領域)のそれぞれに、共振周波数が互いに異なる複数の第2圧電素子を備えている。
例えば、図3(B)に示す例では、第1圧電素子22は、平面視にて第1圧電素子22の一辺に平行な第1および第2境界(図3(B)では紙面に垂直な方向に沿った境界)で第1ないし第3区域Ar−a〜Ar−cに分割されている。これら3個の第1ないし第3区域Ar−a〜Ar−cは、図3(B)に示す例では、平面視にて互いに同一形状の矩形となっている。この第1区域Ar−aには、圧電部221として第1厚さt1の圧電材料から成る圧電部221−aが信号電極層222と接地電極層223との間に形成され、第1共振周波数fc1を持つ第2圧電素子220−aが構成されている。第2区域Ar−bには、圧電部221として第2厚さt2の圧電材料から成る圧電部221−bが信号電極層222と接地電極層223との間に形成され、第2共振周波数fc2を持つ第2圧電素子220−bが構成されている。第3区域Ar−cには、圧電部221として第3厚さt3の圧電材料から成る圧電部221−cが信号電極層222と接地電極層223との間に形成され、第3共振周波数fc3を持つ第2圧電素子220−cが構成されている。そして、これら第1ないし第3厚さt1〜t3が互いに異なる厚さとされることで、第1ないし第3共振周波数fc1〜fc3は、互いに異なる周波数となっている。第2圧電素子220−a〜220−cの圧電材料と性能が同一である場合には共振周波数定数が一定であるので、例えば、第1厚さt1>第2厚さt2>第3厚さt3の関係にある場合では、第1共振周波数fc1<第2共振周波数fc2<第3共振周波数fc3となり、第1ないし第3区域Ar−a〜Ar−cには、共振周波数が低周波数から高周波数へ順に配列されるように第2圧電素子220−a〜220−cが配置されることになる。なお、共振周波数定数は、(共振周波数)×(圧電素子の振動方向の厚さ)で与えられる。例えば、圧電部221−a〜221−cの圧電材料として、共振周波数定数が約2000Hz・mのPZTが用いられる場合では、第1厚さt1が200μmに設計されると、第1区域Ar−aにおける第2圧電素子220−aの共振周波数は、10Mzとなり、第2厚さt2が100μmに設計されると、第2区域Ar−bにおける第2圧電素子220−bの共振周波数は、20Mzとなり、そして、第3厚さt3が50μmに設計されると、第3区域Ar−cにおける第2圧電素子220−cの共振周波数は、40Mzとなる。
ここで、このように各区域Ar−a〜Ar−cにおける各圧電部221−a〜221−cの厚さが異なるため、各圧電部221−a〜221−cにおける接地電極層223側の各面が面一とされると共に、圧電部221−aにおける信号電極層222側の面が信号電極層222に当接されると、圧電部221−bおよび圧電部221−cにおける信号電極層222側の各面と信号電極層222との間に、空隙が形成されることになる。このため、この空隙に誘電材料224が充填される。このように空隙に誘電材料224が充填されることによって、信号電極層222と接地電極層223との間に印加された電圧が圧電部221−b、221−cに作用し、圧電部221−b、221−cが圧電現象によって機械振動する一方で、誘電材料224が圧電部221−b、221−cの共振周波数に略作用しないので、圧電部221−b、221−cは、その厚さt1、t2に応じた共振周波数で共振することができる。このような作用により空隙に充填される誘電材料224の誘電率は、約2ないし約40であることが好ましい。
このような構成の超音波診断装置Sでは、例えば、操作入力部11から診断開始の指示が入力されると、制御部17の制御によって送信部12で電気信号の送信信号が生成される。この生成された電気信号の送信信号は、ケーブル3を介して超音波探触子2へ供給される。より具体的には、この電気信号の送信信号は、超音波探触子2における第1圧電素子22へ供給され、第1圧電素子22では、当該第1圧電素子22における複数の第2圧電素子220へそれぞれ供給される。第1圧電素子22では、その複数の第2圧電素子220のうちの、この電気信号に対応する共振周波数を持つ第2圧電素子220が、この電気信号の送信信号が供給されることによってその厚さ方向に伸縮し、この電気信号の送信信号に応じて超音波振動する。この超音波振動によって、第1圧電素子22は、第1超音波信号を放射する。第1圧電素子22から音響制動部材21方向へ放射された第1超音波信号は、音響制動部材21によって吸収される。また、第1圧電素子22から音響整合層23方向へ放射された第1超音波信号は、音響整合層23を介して放射される。超音波探触子2が被検体に例えば当接されていると、これによって超音波探触子2から被検体に対して第1超音波信号が送信される。
なお、超音波探触子2は、被検体の表面上に当接して用いられてもよいし、被検体の内部に挿入して、例えば、生体の体腔内に挿入して用いられてもよい。
この被検体に対して送信された超音波は、被検体内部における音響インピーダンスが異なる1または複数の境界面で反射され、超音波の反射波(第2超音波信号)となる。この第2超音波信号には、送信された第1超音波信号の周波数(基本波の基本周波数)成分だけでなく、基本周波数の整数倍の高調波の周波数成分も含まれる。例えば、基本周波数の2倍、3倍および4倍等の2次高調波成分(=2×1次高調波成分)、3次高調波成分(=(2×1+1)高調波成分)および4次高調波成分(=2×2次高調波成分)等も含まれる。この第2超音波信号は、超音波探触子2で受信される。より具体的には、この第2超音波信号は、音響整合層23を介して第1圧電素子22で受信される。すなわち、この第2超音波信号は、当該第1圧電素子22において、その複数の第2圧電素子220でそれぞれ受信され、複数の第2圧電素子220のそれぞれで機械的な振動が電気信号に変換されて受信信号として取り出される。
ここで、第2圧電素子220は、第2超音波信号に含まれる周波数成分のうちのその共振周波数にほぼ対応する周波数成分で機械的に振動し、その振動に応じた電気信号を出力する。そして、第1圧電素子22は、互いに共振周波数の異なる複数の第2圧電素子220を有するので、第2超音波信号に含まれる複数の周波数成分、すなわち、広い周波数帯域に亘って第2超音波信号を受信することができる。
そして、第1圧電素子22(複数の第2圧電素子220)で取り出されたこの電気信号の受信信号は、ケーブル3を介して制御部17で制御される受信部13で受信される。受信部13は、この入力された受信信号を受信処理し、より具体的には、例えば増幅した後に相関部14へ出力する。そして、相関部14で相関処理を行うことで所定次数の高調波成分が取得され、画像処理部15へ出力される。
ここで、上述において、各第1圧電素子22から順次に超音波が被検体に向けて送信され、被検体で反射した第2超音波信号が複数の第1圧電素子22で受信される。
そして、画像処理部15は、制御部17の制御によって、受信部13で受信され相関部14で相関処理された受信信号に基づいて、送信から受信までの時間や受信強度等から被検体の超音波画像を生成し、表示部16は、制御部17の制御によって、画像処理部15で生成された被検体の超音波画像を表示する。
次に、相関処理に関し、より具体的に説明する。
図4は、相関処理の説明に当たって、実施形態にかかる超音波診断装置のより具体的な構成を示す図である。図5は、相関演算を説明するための図である。図6は、アナログ積和演算を説明するための図である。
アナログ信号をデジタル変換してから相関処理を行ったのでは、高調波成分が受信信号全体に占めるエネルギー量が微弱であるため、良質な超音波画像の形成に必要なダイナミックレンジが取れない。そのため、本実施形態における相関部14では、相関処理自体をアナログで行うものである。
図4において、相関部14は、超音波探触子2の複数(n個)の第1圧電素子22ごとに複数の相関処理部50−1、50−2、50−3、・・・、50−nを備えて構成されており、各相関処理部50−1、50−2、50−3、・・・、50−nは、同様に構成されている。その一つについて説明すると、相関処理部50は、CCD原理に基づくアナログ積和演算を行うことによって受信部13の出力と参照信号との相関を演算する回路であり、例えば、サンプルホールド部51と、電荷転送部52と、重み付け設定部53と、デジタルアナログ乗算部54と、加算部55とを備えて構成される。
サンプルホールド部51は、タイミング発生部19からの動作タイミングに応じたサンプリング周期で、受信部13の出力を保持する回路である。サンプルホールド部51は、動作タイミングに応じたタイミングで、この保持した受信部13の出力に対応する電荷を電荷転送部52へ出力する。
電荷転送部52は、電荷を保持する複数の電荷保持部521−1、521−2、521−3、・・・、521−nを備えて構成されている。これら各電荷保持部521−1、521−2、521−3、・・・、521−nは、直列に接続されており、タイミング発生部19からの動作タイミングに応じたタイミングで自己の電荷保持部521で保持している電荷を順次に後段の電荷保持部521へ転送する。この点がCCD原理に基づいている。
デジタルアナログ乗算部54は、各電荷保持部521に対応して設けられた複数のデジタルアナログ乗算器(DA乗算器)541−1、541−2、541−3、・・・、541−nを備えて構成されている。DA乗算器541は、重み付け設定部53によって自機に設定されている重み付けで電荷保持部521からの出力値を乗算し、この乗算結果を加算部55へ出力する。
重み付け設定部53は、参照信号記憶部18に記憶されている参照信号に基づいてデジタルアナログ乗算部54の各DA乗算器541−1、541−2、541−3、・・・、541−nに対し、重み付け値を設定するものである。この重み付け値は、操作入力部11の補正値入力部111から補正値が入力された場合には、この入力された補正値で補正される。
加算部55は、デジタルアナログ乗算部54の各DA乗算器541−1、541−2、541−3、・・・、541−nから入力された乗算結果を加算し、この加算結果を画像処理部15へ出力する回路である。
このような構成の相関部14(相関処理部50)では、次のように動作する。
アナログ相関処理では、CCDに用いられる電荷移送技術を用いて、2つ以上の電荷を1つの容量素子にまとめあげることで加算を行い、1つの電荷を2分し、一方をさらに2分し、それを繰り返すことで、1/2、1/4、1/8、1/16、・・・の電荷を用意し、乗数の2進表現に従い、取捨し、再度ひとつの電荷にまとめることで乗算を行うアナログ電荷積和遅延が行われる。この点が、アナログ積和演算である。ここで言う相関処理とは、2つの波形がどの程度似ているかを判定する処理であり、例えば、2つの数列xnとynがあった場合、次の式1で示されるzが大きいほど、2つの数列が似通っていることになる(通常、信号を検出すると図5のグラフのような急峻なピークを示す)。
z=Σxkyk ・・・(1)
ただし、Σは、k=1からk=nまでの和を求める。
電荷転送部52の電荷保持部521の各ステージに蓄えられている電荷量Qkに参照信号(テンプレート)の対応する重み付け値を乗じ、和をとることで、ノイズの中に信号が存在するか否かを高いS/N比で計算することができる。
相関処理部50は、アナログ量である電荷量Qを用い、遅延、加算および乗算が可能なデバイスであり、これを用いることで、高分解能、高速かつ低消費電力に、相関処理などの演算処理が可能となる。実際のデバイスの構成としては、上述したようにCCD類似のデバイス形態となる。例えば、CCDでは、電荷移送を行う場合、ポテンシャル井戸の深さが転送方向に向かって深くなるように調節することによって行われる。図6(A)のように電荷を図上では左から右へ移動させていくことで信号の流れを制御する。加算を行う場合は、図6(B)に示すように、二つ以上のポテンシャル井戸が一つになるように、駆動電圧を制御する。乗算を行う場合は、例えば、一つのポテンシャル井戸を2分割するような駆動電圧を制御して(例えば上記加算器の逆)、電荷QをQ/2、Q/4、Q/8、Q/16、Q/32、Q/64、・・・というように分割し、それを乗数(デジタル値)のビットに応じて捨てたり残したりする。すなわち、ビットが0の場合には、捨て、ビットが1の場合には残す。その後に、残した電荷をすべて足すことで、乗数Mが0≦M<1の乗算を行う。例えば、Q×0.36827(10進数)は、Q×0.01011110(2進数)となって、Q×(0+0/2+1/4+0/8+1/16+1/32+1/64+1/128+0/256)となる。
これら絶対値電荷に加え、絶対値である電荷量の正負を表す符号ビットを用いて積和演算を実現する。
また、相関処理とは、2つの波形がどの程度似ているかを判定する処理であり、例えば、上述したように、2つの数列xnとynとがあった場合、上記式1で示されるzが判定基準となる。
送信信号をs(t)とし、送信信号s(t)に雑音を含ませたものをz(t)とし、上記の式1からなる判定基準をzとすると、図5に波線で示すように、参照信号と受信信号が重なる瞬間に急峻なピークが検出される。このピークが大きければ大きいほど、参照信号とよく類似した信号が受信されたことになる。ノイズ耐性を高めるためには、できるだけ冗長な、自然界に無い信号を送信信号(参照信号)s(t)に用いることが望ましい。実際には、図4のように、受信部13が受信する連続信号s(t)を時間τでサンプリングホールドし、離散量f(t)、f(t−τ)、f(t−2τ)、f(t−3τ)、f(t−4τ)、・・・とする。これらに各々相当する重み付け係数g(1)〜g(n)をかけて総和をとることによって得ることができる(式2)。
z=Σf(t−kτ)g(k) ・・・(2)
ただし、Σは、k=1からk=nまでの和を求める。
このzの値がある閾値より大きい場合に、第2超音波信号の高調波成分をzに比例する強度で受信したとして画像処理部15へ出力する。画像処理部15では、このzから遅延時間や信号強度を求めて超音波画像を生成する。
例えば、3MHz〜5MHzのチャープ波を用いた送信信号を以下のようにする。
s(t)=A・sin{2π[(fc-Bw/2)t+(Bw/(2Tw))t2]}・W(t) ・・・(3)
W(t)は、窓関数(本実施形態では例えばハミング窓を使用)であり、fcは、チャープ波の中心周波数であり、Bwは、チャープ波の掃引周波数であり、Twは、チャープ波の時間幅である。本実施形態においては、fc=4MHz、Bw=2MHzとし、Twは、診断領域の面積により設定される。
相関処理によって検出する高調波の次数をnとすると、nが偶数の場合の参照波形r(t)は、式4となる。
r(t)=f(d,n)・(s(t)/|s(t)|)・{s(t)}n ・・・(4)
一方、nが奇数の場合の参照波形r(t)は、式5となる。
r(t)=f(d,n)・{s(t)}n ・・・(5)
f(d、n)は、診断深度、診断対象および次数によって決定される項であり、フォーカルポイントごとに用意された補正値入力部111の重み付けスライダ等によって、ユーザが出力画像を見つつ最適な値を選択してもよい。この関数r(t)を規定のサンプリング周波数でデジタル化したものが参照信号のg(1)〜g(n)に書き込まれる値として、診断深度、診断対象および検出次数ごとに参照信号のデータとして参照信号記憶部18に記憶される。
制御部17がROIを基に指定するステアリング角度とフォーカルポイント深度からビームフォーマの遅延が送信ビームフォーマ回路122で設定され、駆動信号生成回路121でPCMによって形成した上記チャープ波が、超音波探触子2の第1圧電素子22に印加され、電気音響変換(圧電現象)によって第1超音波信号が発生される。フォーカルポイントにて収束された超音波信号は、被検体内の組織界面で反射されるとともに音圧強度に依存した高調波が発生される。組織界面で反射し、被検体内を伝播した第2超音波信号は、超音波探触子2の第1圧電素子22によって受信され、受信部13で受信処理される。受信部13からの出力は、その受信波形をサンプルホールドすべく、各第1圧電素子22ごとに、サンプルホールド部51によって時間方向に離散化される。それらは、一定の動作タイミングのタイミング(制御クロック)によって、電荷転送部52に入力される。電荷転送部52では、xa(1)〜xa(n)のn段の電荷保持部521−1、521−2、521−3、・・・、521−nを持ち、動作タイイングごとにそれぞれの値が次の段に移動する。電荷転送部52の各電荷保持部521−1、521−2、521−3、・・・、521−nの各段xa(1)〜xa(n)は、それぞれ、保持する値を出力するDA乗算器541−1、541−2、541−3、・・・、541−nを有し、それぞれが対応するDA乗算器541へと接続されている。各DA乗算器541−1、541−2、541−3、・・・、541−nには、それぞれ相関処理のための重み付け係数g(1)〜g(n)が重み付け設定部53の設定によって保持されており、また、これら重み付け係数は、制御部17に制御による重み付け設定部53によって、書き換え可能とされている。制御部17は、検出する高調波の次数、診断部位およびフォーカルポイント深度(診断深度)等によって、最適な参照信号(テンプレート)のデータを参照信号記憶部18から選択し、重み付け設定部53を介して各DA乗算器541−1、541−2、541−3、・・・、541−nが保持する重み付け係数g(1)〜g(n)を書き込む。各DA乗算器541−1、541−2、541−3、・・・、541−nは、重み付け係数g(k)のビット数に比例する遅延を経て、xa(k)×g(k)を出力し、これら出力が加算部55によって加算され、相関係数zaが得られる。なお、添え字aは、超音波探触子2の複数の第1圧電素子22のうちのa番目の第1圧電素子22に関連していることを表している。超音波探触子2のアレイ状に配列された第1圧電素子22それぞれに対して相関係数zaが得られ、また相関係数zaのピーク位置を基に遅延補正回路151で遅延補正を行った後、各第1圧電素子22の相関係数を整相加算回路152で整相加算することで、全体の相関係数z、すなわち相関処理された受信信号y(t)が得られ、これを基に超音波画像が形成される。
このように本実施形態の超音波診断装置Sでは、参照信号が、検出すべき高調波の次数、被検体の診断部位および記被検体の診断深度に応じて設定されてので、この参照信号を用いることによって相関処理を行うことができ、より高いSN比で高調波成分を取得することが可能となる。
また、上述の超音波診断装置Sでは、互いに異なる複数の参照信号が参照信号記憶部18に記憶され、相関部14が、検出すべき高調波の次数、被検体の診断部位および被検体の診断深度に応じてこれら複数の参照信号から1つの参照信号を選択して相関処理を行うので、診断領域全体に亘ってより適切な参照信号が選択され、相関処理が行われる。このため、診断領域全体に亘って、より高いSN比で高調波成分を取得することが可能となる。
また、上述の超音波診断装置Sでは、参照信号は、第1超音波信号に基づいて生成される関数である。より具体的には、参照信号は、第1超音波信号の周波数を基本周波数とした場合における検出すべき高調波の次数を2n(nは正の整数)とした場合に、第1超音波信号が正の値である場合には+1を乗算した第1超音波信号の2n乗であって、第1超音波信号が負の値である場合には−1を乗算した前記第1超音波信号の2n乗である。このため、2n次高調波成分を取得するための参照信号を生成することが可能となる。あるいは、参照信号は、第1超音波信号の周波数を基本周波数とした場合における検出すべき高調波の次数を(2n+1)(nは正の整数)とした場合に、第1超音波信号の(2n+1)乗である。このため、(2n+1)次高調波成分を取得するための参照信号を生成することが可能となる。
また、上述の超音波診断装置Sでは、第1超音波信号が自然界に通常存在しないチャープ波であるので、その高調波成分を検出する場合に、ノイズ成分と区別し易い。このため、より高いSN比で高調波成分を取得することが可能となる。
また、上述の超音波診断装置Sでは、相関部14は、CCD原理に基づくアナログ積和演算装置を備えて構成される。このため、微弱な信号レベルである高調波成分でもより適切に相関処理を行うことが可能となる。
次に、超音波探触子の製造方法について説明する。
(超音波探触子の製造方法)
図7は、実施形態における超音波探触子の製造に用いる治具の構成を示す図である。図7(A)は、治具の上面図を示し、図7(B)は、治具の断面図を示す。図8は、実施形態における超音波探触子の製造工程を示す図である。
本実施形態における上記構成の超音波探触子2は、例えば、図7に示す構成の治具Tを用いることによって製造することができる。
この治具Tは、図7に示すように、少なくとも周面部分に第2圧電素子220の圧電材料(第1圧電素子22の圧電材料)よりも硬い粒子32を含む互いに直径の異なる複数の円板31を中心軸を一致させて重ねた形状のものである。周面部分は、周面および/または周面内側近傍である。治具Tの厚さ、すなわち、治具Tにおける複数の円板31を積層した積層方向の厚さは、第1圧電素子22間のピッチ(第1圧電素子の大きさ(一辺の長さ))に対応した値である。治具Tにおける厚さは、第2圧電素子220の幅に対応した値である。また、治具Tにおける各円板31の段差は、各第2圧電素子の厚さtの差に対応した値である。このような治具Tは、例えばダイヤモンドやジルコニウム等の硬い微粒子32を樹脂に分散し、治具Tに対応する形状の金型を用いてこの微粒子32を分散させた樹脂を成形することによって、形成することができる。微粒子32は、例えば、平均粒径約10nm〜約10μmである。図4には、図3に示す3個の第2圧電素子220−a〜220−cにおける圧電部221−a〜221−cを形成すべく、3個の円板31−a〜31−cを重ねた形状の治具Tが示されている。治具Tの厚さは、第1圧電素子22間のピッチに対応した値とされ、円板31−a〜31−cの各厚さは、圧電部221−a〜221−cの各幅と等しくされ、円板31−aとこれに隣接する円板31−bとの段差は、圧電部221−aの第1厚さt1とこれに隣接する圧電部221−bの第2厚さt2との差と等しくされ、円板31−bとこれに隣接する円板31−cとの段差は、圧電部221−bの第2厚さt2とこれに隣接する圧電部221−cの第3厚さt3との差と等しくされる。
そして、本実施形態における上記構成の超音波探触子2は、例えば、図7に示す構成の治具Tを用いることによって、次の各工程で製造することができる。
図8において、まず、所定の大きさの圧電材料体Dが用意され(図8(A))、この圧電材料体Dに複数の第1圧電素子22を想定し、この想定した各第1圧電素子22における各区域Arに各圧電部221を形成するように、図4に示す治具Tを用いることによって圧電材料体Dが切削される(図8(B))。この圧電材料体Dの切削は、治具Tの周面を圧電材料体Dに当接しながら治具Tを回転させ、さらに第1圧電素子22の素子列方向に沿って治具Tを移動することによって行われる。次に、切削面に誘電材料224が塗布され、平坦面となるように誘電材料224が研磨される(図8(C))。次に、切削加工および研磨加工の施された誘電材料体Dの両面にそれぞれ信号電極層222および接地電極層223が例えば蒸着やスパッタ等の薄膜形成技術によって形成される(図8(D))。次に、信号電極層222上に音響制動部材21が形成される(図8(E))。次に、例えばダイシングソーを用いて溝切りすることによって複数の第1圧電素子22が形成される(図8(F))。そして、接地電極層223上に音響整合層23が形成され、これら各工程によって、例えば、図3に示す構成の超音波探触子2が製造される。
また、上述の超音波探触子2において、複数の第2圧電素子220における隣接する第2圧電素子220間には、それらの境界に沿って厚さ方向の溝(隙間、間隙、ギャップ)が形成されてもよい。このように互いに隣接する第2圧電素子220間に溝を形成することによって、複数の第2圧電素子220間におけるクロストーク等の相互干渉が低減される。
また、上述の超音波診断装置Sにおいて、その超音波探触子2は、好ましくは、圧電材料を備えて成り、圧電現象を利用することによって電気信号と超音波信号との間で相互に信号を変換することができる圧電素子を備え、この圧電素子は、送信用と受信用とに分離されている。送信用の圧電素子と受信用の圧電素子とは、超音波信号の送受信方向に積層されていてもよく、また、超音波信号の送受信方向に略垂直な平面において、並置され、2次元アレイ状に配列された複数の圧電素子が領域ごとに分割されたものであってもよい。
このような構成では、圧電素子が送信用と受信用とに分離されているので、圧電素子のうち送信用の部分には、送信に適した圧電素子とすることができ、そして、圧電素子のうち受信用の部分には、受信に適した圧電素子とすることができる。このため、よりに高調波成分を取得することが可能となる。
また、上述の超音波診断装置Sにおいて、超音波探触子2の受信用の前記圧電素子は、好ましくは、有機圧電材料を備えて成っていてもよい。このような構成では、比較的広帯域で超音波を受信することができる有機圧電素子が受信用の圧電素子に用いられているので、より適切に高周波成分を受信することが可能となる。
有機圧電材料は、例えば、フッ化ビニリデンの重合体を用いることができる。また例えば、有機圧電材料は、フッ化ビニリデン(VDF)系コポリマを用いることができる。このフッ化ビニリデン系コポリマは、フッ化ビニリデンと他の単量体との共重合体(コポリマ)であり、他の単量体としては、3フッ化エチレン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)、パーフルオロアルコキシエチレン(PAE)およびパーフルオロヘキサエチレン等を用いることができる。フッ化ビニリデン系コポリマは、その共重合比によって厚み方向の電気機械結合定数(圧電効果)が変化するので、例えば、超音波探触子の仕様等に応じて適宜な共重合比が採用される。例えば、フッ化ビニリデン/3フッ化エチレンのコポリマの場合では、フッ化ビニリデンの共重合比が60mol%〜99mol%が好ましく、有機圧電素子を無機圧電素子に積層する複合素子の場合では、フッ化ビニリデンの共重合比が85mol%〜99mol%がより好ましい。また、このような複合素子の場合では、他の単量体は、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)、パーフルオロアルコキシエチレン(PAE)およびパーフルオロヘキサエチレンが好ましい。また例えば、有機圧電材料は、ポリ尿素を用いることができる。このポリ尿素の場合では、蒸着重合法で圧電体を作成することが好ましい。ポリ尿素用のモノマとして、一般式、H2N−R−NH2構造を挙げることができる。ここで、Rは、任意の置換基で置換されてもよいアルキレン基、フェニレン基、2価のヘテロ環基、ヘテロ環基を含んでもよい。ポリ尿素は、尿素誘導体と他の単量体との共重合体であってもよい。好ましいポリ尿素として、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MDA)と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)を用いる芳香族ポリ尿素を挙げることができる。
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。