実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1における電力変換装置の構成を示すブロック図である。
この実施の形態1の電力変換装置1は、電力変換器(インバータ)2、第1、第2の各電圧検出手段3a,3b、およびマイコン5を主体に構成されている。そして、直流電源6による直流電圧が電力変換器2に入力され、電力変換器2は、マイコン5からの制御信号に基づいて交流電圧を出力して負荷としての交流回転機(ここでは永久磁石モータ)7を制御、駆動する。
この場合の電力変換器2は、例えば、マイコン5からの指令に基づくゲート信号をスイッチング素子に出力して当該素子をPWM制御する制御部(いずれも図示省略)などを備えている。この電力変換器2のPWM制御に関しては既存の技術なので詳しい説明は省略する。また、交流回転機としては、本例では回転子に取り付けられた永久磁石により界磁を作る永久磁石モータ7が適用されるが、本発明はこれに限定されるものではない。
第1、第2の各電圧検出手段3a,3bは、例えば計器用変圧器(PT)等が適用され、電力変換器2と永久磁石モータ7間を結ぶ三相交流の電力配線間に接続されている。そして、第1電圧検出手段3aは、永久磁石モータ7の端子電圧であるuv相の線間電圧を検出し、また、第2電圧検出手段3bは、永久磁石モータ7の端子電圧であるvw相の線間電圧を検出する。そして、第1、第2電圧検出手段3a,3bにより検出された各線間電圧はマイコン5に入力される。
マイコン5は、所定の制御プログラムをインストールすることにより、電圧位相推定演算手段10および位相制御手段20が構成されている。電圧位相推定演算手段10は、第1、第2電圧検出手段3a,3bにより検出された各検出電圧を所定のサンプリング周期Tで取り込み、これらの各検出電圧に基づいて次回の位相制御指令時刻に対応する永久磁石モータ7の端子電圧の位相θn+1を推定する。また、位相制御手段20は、この電圧位相推定演算手段10により推定された位相θn+1を電力変換器2の再起動時における電圧位相指令値として入力して電力変換器2の制御を行う。なお、上記の電圧位相推定演算手段10および位相制御手段20は、マイコン5で構成されているものとしているが、これに限定されず、同等の機能を有するものであってもよい。
次に、上記構成を有する電力変換装置1のさらに詳しい構成、ならびにその動作、作用について、図2ないし図7を参照して説明する。
第1電圧検出手段3aは、uv相の線間電圧の電圧検出値Vuv(n)を検出する。第2電圧検出手段3bは、vw相の線間電圧の電圧検出値Vvw(n)を検出する。第1、第2電圧検出手段3a,3bにより検出された各電圧検出値Vuv(n),Vvw(n)は、マイコン5に電圧検出値として所定のサンプリング周期Tで取り込まれる。このように、マイコン5は、第1、第2電圧検出手段3a,3bで各端子電圧を所定のサンプリング周期Tで取り込んでから演算を行うので、位相制御手段20から電力変換器2を制御するために出力される制御信号は、1サンプリング周期T分だけ遅れることになる。
このため、この実施の形態1では、電圧位相推定演算手段10において、第1、第2電圧検出手段3a,3bにより検出された検出電圧を所定のサンプリング周期Tごとに取り込み、これらの検出電圧に基づいて、現在のサンプリング時刻から1サンプリング周期T分だけ時間経過した時刻を次回の位相制御指令時刻とし、その指令時刻に対応する永久磁石モータ7の端子電圧を推定する第1、第2電圧推定手段11,12を設けている。
この場合の第1、第2電圧推定手段11,12による電圧推定処理の原理は、端子電圧波形を2次関数の時系列データと見なし、tnを現在時刻、Tをサンプリング周期としたとき、今回サンプリング時の電圧検出値Vuv(n),Vvw(n)と、その1回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−1),Vvw(n−1)と、さらに2回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−2),Vvw(n−2)とから、次回の位相制御指令時刻tn+1(=tn+T)に対応する電圧推定値Vuv(n+1),Vvw(n+1)を推定するものである。
ここで、いま、一方の第1の電圧推定手段11に着目することとし、Vuv(n−2)からVuv(n+1)までを結ぶ曲線を2次関数とした場合について考える。このとき、次回の位相制御指令時刻tn+1における電圧推定値Vuv(n+1)は、今回のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n)と、その1回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−1)と、さらにその2回前のサンプリング時の端子電圧検出値Vuv(n−2)とを用いて、次の式(1)で表すことができる。
上記式(1)より、a、b、c、tn−2、Tを消去し、次回の次回の位相制御指令時刻tn+1(=tn+T)における端子電圧の電圧推定値Vuv(n+1)を求めると、次の式(2)のようになる。
式(2)に基づいて構成される処理ブロック図を示したものが図2における第1電圧推定手段11である。なお、上記の説明は、一方の第1電圧推定手段11に着目した場合であるが、同様に次回の位相制御指令時刻tn+1における他方の電圧推定値Vvw(n+1)を求める処理ブロック図を示したものが図2における第2電圧推定手段12である。
したがって、第1、第2電圧推定手段11,12は、1回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−1),Vvw(n−1)を記憶する第1の記憶素子11a,12aと、2回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−2),Vvw(n−2)を記憶する第2の記憶素子11b,12bとを備え、第1の記憶素子11a,12aに記憶された1回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−1),Vvw(n−1)と、第2の記憶素子11b,12bに記憶された2回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−2),Vvw(n−2)と、今回のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n),Vvw(n)とに基づいて、次回の位相制御指令時刻tn+1(=tn+T)における電圧推定値Vuv(n+1),Vvw(n+1))を求める。
そして、第1、第2電圧推定手段11,12により推定された次回の位相制御指令時刻における端子電圧推定値Vuv(n+1),Vvw(n+1)は、共にαβ変換手段15に入力される。αβ変換手段15は、入力された電圧推定値Vuv(n+1),Vvw(n+1)を、次の式(3)に基づいて、3相交流電圧Vuv,Vvw(もしくは、Vu,Vv,Vw)を2相交流電圧Vα,Vβに変換する。
この式(3)は、図3に示す関係によって、3相交流座標(u−v−w)系から2相交流座標(α−β)の座標変換を行うことを意味する。こうして演算された電圧推定値Vα(n+1)、Vβ(n+1)は次段の位相演算手段16に入力される。
位相演算手段16は、図4に示すように、αβ変換手段15で得られた電圧推定値Vα(n+1)、Vβ(n+1)に基づいて、次回の位相制御指令時刻における電圧位相θn+1を推定する。すなわち、位相演算手段16は、まず、除算器16aおよびアークタンジェント演算器16bによって、次の式(4)を用いて位相θ1を算出する。つまり、除算器16aによりVβ(n+1)÷Vα(n+1)を行い、続いて、アークタンジェント演算器16bにより、Vβ(n+1)とVα(n+1)の位相θ1を算出する。
この式(4)で演算したθ1は、アークタンジェントにより算出しているため、−π/2≦θ1≦π/2の範囲である。ここでは、位相θを正数で扱いたいので、π/2分かさ上げを行うために、第1加算器16cによりθ1にπ/2を加算する。これにより、第1加算器16cの出力θ2は、0≦θ2≦πの範囲となる。
また、U相電圧Vuの方向とα軸電圧Vαの方向とが図3に示すように同軸上に取っていることから、α軸電圧Vα<0の時に電圧位相θは、π≦θ≦2πの範囲にあると考えられる。そのため、比較器16fでα軸電圧VαがVα<0の領域を判断し、比較器16fはVα<0のときに“1”を出力するようになっている。そして、この比較器16fから出力“1”が出力されると、第1切換器16gは、その出力を“0”から“π”に切り替えて、第2加算器16dに“π”を加算する。このように、Vαの正負の条件によって第1切換器16gの出力が“0”または“π”となるので、第2加算器16dの出力θ3は、0≦θ2≦πの範囲となる。続いて第2加算器16dの出力θ3は、次段の第3加算器16eに与えられる。
このとき、モータが正転方向(もしくは、前進方向)のときには、後述のように、第2切換器16iは“0”を出力しているので、正転方向(前進方向)のときの第3加算器16eの出力θn+1は、0≦θn+1≦2πの範囲となる。
一方、逆転方向(もしくは、後進方向とも言う)のときには、α軸電圧Vαとβ軸電圧Vβの関係より回転方向検出手段16hによって逆転方向を検出する。回転方向検出手段16hは逆転方向(後進方向)を検出した場合には、“1”を出力し、その出力信号により第2切換器16iは、その出力を“0”から“π/2”に切り替えて第3加算器16eに与える。このため、第3加算器16eは位相θ3に“π/2”を加算する。したがって、逆転方向(後進方向)のときの第3加算器16eの出力θn+1は、正転時の範囲に“π/2”だけ加算した範囲、すなわちπ/2≦θn+1≦5π/2の範囲となる。このようにして、第3加算器16eの出力が次回の位相制御指令時刻における電圧位相θn+1として推定され、この推定された電圧位相θn+1は、次段の位相制御手段20に入力される。
なお、回転方向検出手段16hによる回転方向検出については、図3に示す3相交流座標とい2相交流座標の関係から表1に示すように、α軸電圧Vαが「−」から「+」へ符号反転をするときにβ軸電圧Vβが「−」である場合、もしくは、α軸電圧Vαが「+」から「−」へ符号反転をするときにβ軸電圧Vβが「+」である場合に正転方向(前進方向)と推定する。また、α軸電圧Vαが「−」から「+」へ符号反転をするときにβ軸電圧Vβが「−」である場合、もしくは、α軸電圧Vαが「+」から「−」へ符号反転をするときにβ軸電圧Vβが「+」である場合に逆転方向(後進方向)と推定する。
上記の回転方向検出手段16hの回転方向の検出方法は、α軸電圧Vαの符号が反転する時のβ軸電圧Vβの符号により回転方向を検出していたが、これに限らず、例えば表2に示すように、β軸電圧Vβの符号が反転する時のα軸電圧Vαの符号により回転方向を検出することも可能である。
位相制御手段20は、例えば、図5に示すような構成を備えており、電圧位相推定演算手段10により推定された次回の位相制御指令時刻における電圧位相θn+1を永久磁石モータ7の再起動時における電圧位相指令値として取り込んで電力変換器2の制御を行う。
すなわち、位相制御手段20は、まず、周波数指令設定手段21によって予め設定された周波数指令に応じて周波数指令/電圧変換手段22によって電圧指令の振幅Vを求める。また、周波数指令設定手段21によって設定された周波数指令f*に掛算器23により“2π”を掛け合わせて周波数指令f*[Hz]を角周波数ω*(=2πf*)[rad/sec]に単位変換を行う。次いで積分器24は、この角周波数ω*[rad/sec]を積分することにより位相θを求める。
引き続いて、次段の三相電圧正弦波発生器25は、積分器24により算出した位相θ、ならびに前述の位相演算手段16で演算された次回の位相制御指令時刻における電圧位相θn+1に基づいて、次の式(5)によって互いに(2/3)πずれた各電圧指令を生成する。続いて、式(5)で得られた各値に周波数指令/電圧変換手段22によって得られた電圧指令の振幅Vを掛算器26により掛け合わせることにより、式(6)に示すように互いに(2/3)πずれた三相の電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を求め、これらの電圧指令値を再起動時における制御信号として電力変換器2に出力する。
このように、位相制御手段20で得られた式(6)に示す各三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を再起動時における制御信号として電力変換器2に出力すれば、電力変換器2の出力電圧と交流回転機の誘起電圧との関係は、図6(a)に示すようになる。つまり、電力変換器2の再起動時の電圧位相は、永久磁石モータ7の実際の電圧位相と略一致するようになるため、不要な電流やトルクショックを発生することが無い。これに対して、従来技術の電力変換器2の出力電圧と交流回転機の電圧との関係は、図6(b)に示すようになる。つまり、サンプリング周期による電圧の位相遅れが発生し、そのため、電力変換器2の出力電圧と永久磁石モータ7との電圧に位相のズレが生じるので、電圧差により不要な電流およびトルクが発生する。
なお、この実施の形態1では、位相制御手段20の一例として、図5に示した構成を示したが、ベクトル制御など高性能な他の方法による位相制御手段20を用いても同様の効果が得られることは勿論である。
電圧推定値を推定した電鉄用のモータを用いたシミュレーション結果および実端子電圧波形を図7に示す。なお、ここでのシミュレーション条件は、線間電圧の周波数は350Hz、サンプリング周期Tは125μsec、サンプリング周期Tによる電圧の位相遅れは350Hz×125μsec×360°=15.75°としている。なお、同図(b)は同図(a)の実線間電圧(実線)と線間電圧検出値(太点線)を取り出して部分拡大したもの、同図(c)は同図(a)の実線間電圧(実線)と電圧推定値(細点線)を取り出して部分拡大したものである。
図7から分かるように、電圧位相推定演算手段10の第1電圧推定手段11によって推定した電圧推定値V(細点線)は、実端子電圧値(実線)とほぼ一致し、この推定した電圧値を用いることによりサンプリング遅れなしで端子電圧の電圧位相を推定できることが理解される。
以上のように、この実施の形態1では、永久磁石モータ7に加わる端子電圧を第1、第2電圧検出手段3a,3bで検出し、この検出電圧を所定のサンプリング周期でマイコン5に取り込み、電圧位相演算手段10でこの検出電圧に基づいて次回の位相制御指令時刻tn+1における永久磁石モータ7の端子電圧の位相θn+1を推定し、次いで位相制御手段20がこの推定した位相θn+1を再起動時における位相制御指令値として入力して電力変換器2を制御するので、端子電圧の検出遅れ分が存在するときには電圧位相を進めるように補正される。これにより、永久磁石モータ7の電圧位相と電力変換器2の出力電圧の位相とが常に一致するようになり、安価なマイコン5を適用した場合でも、モータ7が高速回転している惰行(空転)時から電力変換器2を再起動させる際に、起動時のトルクショックや大きな電流の発生を抑制することが可能となる。
実施の形態2.
図8は本発明の実施の形態2における電力変換装置の電圧位相推定演算手段の構成を示すブロック図であり、上記の実施の形態1と対応する構成部分には同一符号を付す。
この実施の形態2では、電圧位相推定演算手段10を構成する第1、第2電圧推定手段11,12の構成が実施の形態1の場合と異なっている。その他の構成は、実施の形態1の場合と同様であるので説明は省略し、ここでは、第1、第2電圧推定手段11,12についてのみ説明する。
この実施の形態2の第1、第2電圧推定手段11,12による電圧推定処理の原理は、端子電圧波形を3次関数の時系列データと見なし、tnを現在時刻、Tをサンプリング周期としたとき、今回のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n),Vvw(n)と、その1回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−1),Vvw(n−1)と、2回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−2),Vvw(n−2)と、さらに3回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−3),Vvw(n−3)に基づいて、次回の位相制御指令時刻tn+1(=tn+T)における電圧推定値Vuv(n+1),Vvw(n+1)を推定することである。
ここで、いま一方の第1の電圧推定手段11に着目することとし、このときのVuv(n−3)〜Vuv(n+1)を結ぶ曲線を3次関数とした場合について考える。このとき、次回の位相制御指令時刻tn+1(=tn+T)における電圧推定値Vuv(n+1)は、今回サンプリング時の直流電圧検出値Vuv(n)と、1回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−1)と、2回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−2)と、3回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−3)とを用いて、次の式(7)で表すことができる。
上記式(7)より、a、b、c、d、tn−3、Tを消去し、次回の位相制御指令時刻tn+1における電圧推定値Vuv(n+1)を求めると、式(8)のようになる。
式(8)に基づいて構成される処理ブロック図を示したものが図8における第1電圧推定手段11である。なお、上記の説明は、一方の第1電圧推定手段11に着目した場合であるが、同様に次回の位相制御指令時刻tn+1における他方の電圧推定値Vvw(n+1)を求める処理ブロック図を示したものが図8における第2電圧推定手段12である。
したがって、第1、第2の電圧推定手段11,12は、1回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−1),Vvw(n−1)を記憶する第1の記憶素子11a,12aと、2回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−2),Vvw(n−2)を記憶する第2の記憶素子11b,12bと、3回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−3),Vvw(n−3)を記憶する第3の記憶素子11c,12cとを有する。
そして、第1の記憶素子11a,12aに記憶された1回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−1),Vvw(n−1)と、第2の記憶素子11b,12bに記憶された2回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−2),Vvw(n−2)と、第3の記憶素子11c,12cに記憶された3回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−3),Vvw(n−3)と、今回のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n),Vvw(n)と基づいて、次回の位相制御指令時刻tn+1(=tn+T)における電圧推定値Vuv(n+1),Vvw(n+1)を求める。
以降の処理は実施の形態1の場合と同様であるから、ここでは説明を省略する。
以上のように、この実施の形態2では、実施の形態1と同様に、永久磁石モータ7の電圧位相と電力変換器2の出力電圧の位相が常に一致することになるので、再起動時のトルクショックや大きな電流を抑制する効果が得られることに加えて、3回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−3),Vvw(n−3)を追加することによって、実施の形態1よりもさらに精度の良い推定結果を得ることができる。
実施の形態3.
図9は本発明の実施の形態3における電力変換装置の電圧位相推定演算手段の構成を示すブロック図であり、実施の形態1と対応する構成部分には同一符号を付す。
この実施の形態3では、電圧位相推定演算手段10を構成する第1、第2電圧推定手段11,12の構成が実施の形態1の場合と異なっている。その他の構成は、実施の形態1の場合と同様であるので説明は省略し、ここでは、第1、第2電圧推定手段11,12についてのみ説明する。
この実施の形態3の第1、第2電圧推定手段11,12による電圧推定処理の原理は、直流電圧波形を4次関数の時系列データと見なし、tnを現在時刻、Tをサンプリング周期としたとき、今回のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n),Vvw(n)と、1回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−1),Vvw(n−1)と、2回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−2),Vvw(n−2)と、3回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−3),Vvw(n−3)と、4回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−4),Vvw(n−4)とに基づいて、次回の位相制御指令時刻tn+1(=tn+T)における電圧推定値Vuv(n+1),Vvw(n+1)を推定することである。
ここで、いま一方の第1電圧推定手段11に着目することとし、Vuv(n−4)〜Vuv(n+1)を結ぶ曲線を4次関数とした場合について考える。このとき、次回の位相制御指令時刻tn+1における電圧推定値Vuv(n+1)は、今回のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n)と、1回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−1)と、2回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−2)と、3回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−3)と、4回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−4)とを用いて、次の式(9)で表すことができる。
上記式(9)より、a、b、c、d、e、tn−4、Tを消去し、次回の位相制御指令時刻tn+1における電圧推定値Vuv(n+1)を求めると、式(10)のようになる。
式(10)に基づいて構成される処理ブロック図を示したものが図9における第1電圧推定手段11である。なお、上記の説明は、一方の第1電圧推定手段11に着目した場合であるが、同様に次回の位相制御指令時刻tn+1における他方の電圧推定値Vvw(n+1)を求める処理ブロック図を示したものが図9における第2電圧推定手段12である。
したがって、第1、第2電圧推定手段11,12は、1回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−1),Vvw(n−1)を記憶する第1の記憶素子11a,12aと、2回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−2),Vvw(n−2)を記憶する第2の記憶素子11b,12bと、3回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−3),Vvw(n−3)を記憶する第3の記憶素子11c,12cと、4回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−4),Vvw(n−4)を記憶する第4の記憶素子11d,12dとを有する。
そして、第1の記憶素子11a,12aに記憶された1回前のサンプリング時の端子電圧検出値Vuv(n−1),Vvw(n−1)と、第2の記憶素子11b,12bに記憶された2回前のサンプリング時の端子電圧検出値Vuv(n−2),Vvw(n−2)と、第3の記憶素子11c,12cに記憶された3回前のサンプリング時の端子電圧検出値Vuv(n−3),Vvw(n−3)と、第4の記憶素子11d,12dに記憶された4回前のサンプリング時の端子電圧検出値Vuv(n−4),Vvw(n−4)と、今回のサンプリング時の端子電圧検出値Vuv(n),Vvw(n)とに基づいて、次回の位相制御指令時刻tn+1(=tn+T)における電圧推定値Vuv(n+1),Vvw(n+1)を求める。
以降の処理は実施の形態1の場合と同様であるから、ここでは説明を省略する。
以上のように、この実施の形態3では、実施の形態1,2と同様に、永久磁石モータ7の電圧位相と電力変換器2の出力電圧の位相が常に一致することになるので、再起動時のトルクショックや大きな電流を抑制する効果が得られることに加えて、4回前のサンプリング時刻の端子電圧検出値Vuv(n−4),Vvw(n−4)を追加することによって、実施の形態2の場合よりもさらに一層精度の良い推定結果を得ることができる。
実施の形態4.
図10は本発明の実施の形態4における電力変換装置の構成を示すブロック図、図11は同装置の電圧位相推定演算手段の構成を示すブロック図、図12は同電圧位相推定演算手段を構成する位相演算手段の構成を示すブロック図である。なお、実施の形態1と対応する構成部分には同一符号を付す。
この実施の形態4では、電圧位相推定演算手段10がαβ変換手段15および位相演算手段16で構成されており、実施の形態1〜3のように第1、第2の電圧推定手段11,12が省略されている点で構成が大きく異っている。
すなわち、前述の実施の形態1では、次回の位相制御指令時刻における電圧推定値Vuv(n+1),Vvw(n+1)を第1、第2電圧推定手段11,12によって算出し、それらの電圧推定値から端子電圧の位相θn+1を算出している。これに対して、この実施の形態4では、第1、第2電圧検出手段3a,3bによって検出された今回のサンプリング時の検出電圧Vuv(n),Vvw(n)をそのまま利用して今回の電圧位相θnを演算するとともに、今回の電圧検出値Vuv(n),Vvw(n)に基づいて速度演算を行ってサンプリング周期Tの長さに起因した回転速度に応じた位相遅れ分θdを求め、今回の電圧位相θnをこの位相遅れ分θdによって補正することで、次回の位相制御指令時刻における端子電圧の位相θn+1を算出するものである。
具体的には、電圧位相推定演算手段10のαβ変換手段15には、今回のサンプリング時において第1、第2電圧検出手段3a,3bによって検出された電圧検出値Vuv(n),Vvw(n)が直接に入力され、αβ変換手段15は、実施の形態1と同様に、(3)式に基づいてα軸電圧Vα(n)およびβ軸電圧Vβ(n)を算出し、その結果を次段の位相演算手段16に与える。
位相演算手段16は、図12に示すように、実施の形態1(図4)の構成に対してさらに速度演算手段16j、位相進み演算手段16k、および第4加算器16mが追加されている。まず、速度演算手段16jは、α軸電圧Vα(n)、β軸電圧Vβ(n)から永久磁石モータ7の現在の速度(回転角周波数)ωを以下の(11)式によって算出する。なお、(11)式のΦは、永久磁石モータ7の磁石磁束を示し、予め判っている所定の定数である。
続いて、位相進み演算手段16kは、(11)式より演算された回転角周波数ωを用いて、サンプリング周期Tの長さに起因した位相遅れを補償するために、以下の(12)式によって位相遅れ補償位相θdを算出する。
第3加算器16eからは、今回のサンプリング時において得られた電圧検出値Vuv(n),Vvw(n)に基づく回転方向を考慮した現時点での電圧位相θnが出力されるので、次段の第4加算器16mにより、第3加算器16eの出力位相θnに対して位相進み演算手段16kにより演算された位相遅れ補償位相θdを加算することにより、次回の位相制御指令時刻tn+1における電圧位相θn+1(=θn+θd)が得られる。
以上のように、この実施の形態4では、実施の形態1〜3と同様に、永久磁石モータ7の電圧位相と電力変換器2の出力電圧の位相が常に一致することになるので、再起動時のトルクショックや大きな電流を抑制する効果が得られるだけでなく、これに加えて、実施の形態1〜3のような第1、第2の電圧推定手段11,12を設ける必要がなく、位相演算手段16に速度演算手段16j、位相進み演算手段16k、および第4加算器16mを追加するだけでよいので、マイコン全体として演算処理量を削減することができ、演算負荷を軽減することが可能となる。
実施の形態5.
図13は、本発明の実施の形態5における電力変換装置の構成を示すブロック図であり、実施の形態1と対応する構成部分には同一の符号を付す。
この実施の形態5の特徴は、交流回転機として、上記の各実施の形態1〜4における永久磁石モータ7の代わりに誘導モータ8で構成されていることである。誘導モータ8の場合、永久磁石モータ7と異なり、回転子に磁石は無いが、ほとんどの場合が回転子のインダクタンスに残留電圧が残っているので、その残留電圧を第1、第2電圧検出手段3a,3bで検出することにより、永久磁石モータ7を用いた実施の形態1と同様の処理が可能である。
なお、マイコン5で構成される電圧位相推定演算手段10や位相制御手段20としては、実施の形態1〜4の何れの構成のものを用いても同様の効果が期待できることは言うまでもない。
以上のように、この実施の形態5では、誘導モータ8が高速回転している際に、第1、第2電圧検出手段3a,3bによって端子電圧を所定のサンプリング周期で検出し、検出した端子電圧に基づいて次回の位相制御指令時刻における位相θn+1を推定し、推定した位相θn+1に基づいて電力変換器2を起動することにより、誘導モータ8の起動時のトルクショックや大きな電流発生を有効に抑制することができる。
実施の形態6.
図14は本発明の実施の形態6における電力変換装置の構成を示すブロック図、図15は同装置の電圧位相推定演算手段の構成を示すブロック図、図16は位相演算手段の構成を示すブロック図であり、図1ないし図5に示した実施の形態1と対応する構成部分には同一の符号を付す。
この実施の形態6の特徴は、U相電圧と永久磁石モータ72の中性点N間に単一の電圧検出手段3cが取り付けられており、この電圧検出手段3cによってU相の端子電圧Vun(n)を検出するようにしている。そして、この電圧検出手段3cにより検出されたU相の電圧検出値Vun(n)が電圧位相推定演算手段10に入力されるようになっている。なお、ここでは、電圧検出手段3cによってU相の端子電圧Vun(n)を検出しているが、これに限らず、V相あるいはW相の端子電圧Vvn(n),Vwn(n)を検出してもよい。
また、電圧位相推定演算手段10は、図15に示すように、単一の電圧推定手段13と位相演算手段16とで構成されており、実施の形態1〜4のようなαβ変換手段15が省略されている。そして、この実施の形態6の電圧推定手段13は、U相電圧検出値Vun(n)を用いて、既述の(2)式に準じて次回の位相制御指令時刻tn+1(=tn+T)における電圧推定値Vun(n+1)を推定し、この電圧推定値Vun(n+1)を次段の位相演算手段16に与える。なお、この場合の電圧推定手段13の動作については、実施の形態1の場合と同様であるので、ここでは詳しい説明は省略する。
位相演算手段16は、図16に示すような構成を備えており、電圧推定手段13で得られた電圧推定値Vun(n+1)に基づいて次回の位相制御指令時刻tn+1(=tn+T)における端子電圧の位相θn+1を算出する。この場合の端子電圧の位相θn+1を算出する原理について、次に説明する。
電圧推定手段13で得られる電圧推定値Vun(n+1)は、振幅をA、交流電圧の回転角周波数をω[rad]とすると、次の式(13)で表すことができる。
式(13)で表されたVun(n+1)を1回微分した(Vun(n+1))’は、次の式(14)で表すことができる。
さらに式(14)で表された(Vun(n+1))’を1回微分した(Vun(n+1))”は、次の式(15)で表すことができる。すなわち、式(15)は、Vun(n+1)を2回微分したものであり、これが2回微分手段16pの出力値となる。
除算手段16qは、式(15)を式(13)により除算するので、式(16)に示すように“−ω2”が演算でき、これが除算手段16qの出力となる。
そして、次段の乗算手段16rにより除算手段16qの出力値“−ω2”に“−1”を掛けることによりω2となり、さらに、次段の平方根手段16sにより乗算手段16rの出力値ω2の平方根を求めることで、電圧推定値Vun(n+1)に対応した速度を示す回転角周波数ω[rad]が算出される。続いて、その算出したω値を積分器16tで積分することにより次回の位相制御指令時刻tn+1(=tn+T)における端子電圧の位相θn+1が算出される。
次に、この位相θn+1を実施の形態1の場合と同様、例えば図5に示した構成を有する位相制御手段20に次回の位相制御指令時刻における位相制御指令値として入力することにより、位相制御手段20が、この位相θn+1に基づいて電力変換器2を起動する。
以上のように、この実施の形態6では、実施の形態1〜4と同様に、永久磁石モータ7の電圧位相と電力変換器2の出力電圧の位相が常に一致することになるので、再起動時のトルクショックや大きな電流発生を抑制する効果が得られることに加えて、単一の電圧検出手段3cを設ければ良く、またαβ変換手段15も省略できる。これに伴い、コスト削減が図れるとともに、電圧位相推定演算処理を行うマイコン5の負荷を全体として削減することが可能となる。
実施の形態7.
この実施の形態7における電力変換装置の特徴は、マイコン5によるサンプリング周期の制御遅れに加えて、電力変換器2の動作遅れを考慮することにより、実施の形態1よりもさらに永久磁石モータ7の電圧位相と電力変換器2の出力電圧の位相とが一致するように構成したものである。なお、この実施の形態7では、実施の形態1に比べて電圧推定手段11,12の処理内容が異なるのみで、その他の構成、作用は同じであるので、ここでは、この電圧推定手段11,12の処理内容について詳しく説明する。
この実施の形態7の電圧推定手段11,12による電圧推定処理の原理は、端子電圧波形を2次関数の時系列データと見なし、tnを現在時刻、Tをサンプリング周期としたとき、今回サンプリング時の電圧検出値Vuv(n),Vvw(n)と、その1回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−1),Vvw(n−1)と、さらに2回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−2),Vvw(n−2)とから、次回の位相制御指令時刻tn+1を現在時刻tnからサンプリング周期Tの1.5倍の時間が経過した時刻と見なして、この時刻tn+1.5Tにおける電圧推定値Vuv(n+1.5),Vvw(n+1.5)を推定するものである。
すなわち、この実施の形態7では、図17に示すように、電力変換器2の動作遅れを考慮し、次回のサンプリング時刻tn+Tに0.5T分だけ進ました時刻tn+1.5Tを次回の位相制御指令時刻tn+1として、その時刻の電圧推定値Vuv(n+1.5),Vvw(n+1.5)を求めるようにしたものである。
したがって、いま、一方の第1の電圧推定手段11に着目することとし、端子電圧波形を2次関数とした場合について考える。このとき、次回のサンプリング時刻tn+Tに0.5T分だけ進ました時の電圧推定値Vuv(n+1.5)は、今回のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n)と、その1回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−1)と、さらに2回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−2)とを用いて、次の式(17)で表すことができる。
上記式(17)より、a、b、c、tn−2、Tを消去し、次回のサンプリング時刻tn+Tからさらに0.5T分だけ進ました時刻の電圧推定値Vuv(n+1.5)を求めると、式(18)のようになる。
式(18)により第1電圧推定手段11を構成することより、電力変換器2の遅れを考慮して、次回のサンプリング時刻tn+Tにさらに0.5T分だけ進ました時刻tn+1.5Tを次回の位相制御指令時刻tn+1として、そのときの電圧推定値Vuv(n+1.5)が得られる。第2電圧推定手段12についても、同様にして電圧推定値Vvw(n+1.5)が得られるので、これらの電圧推定値Vuv(n+1.5),Vvw(n+1.5)を用いることにより、実施の形態1の場合よりさらに精度良く永久磁石モータ7の電圧位相と電力変換器2の出力電圧の位相を一致させることができる。
なお、上記の説明では、実施の形態1と同様に端子電圧波形を2次関数の時系列データと見なして電圧推定値Vuv(n+1.5),Vvw(n+1.5)を求めたが、先の実施の形態2のように、3次関数の時系列データと見なして電圧推定値Vuv(n+1.5),Vvw(n+1.5)を求めることも可能である。
すなわち、いま、一方の第1の電圧推定手段11に着目することとし、端子電圧波形を3次関数とした場合について考える。このとき、次回のサンプリング時刻tn+Tに0.5T分だけ進ました時の電圧推定値Vuv(n+1.5)は、今回サンプリング時の電圧検出値Vuv(n)と、その1回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−1)と、2回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−2)と、さらに3回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−3)とを用いて、次の式(19)で表すことができる。
上記式(19)より、a、b、c、d、tn−3、Tを消去し、次回のサンプリング時刻tn+Tからさらに0.5T分だけ進ました時刻の電圧推定値Vuv(n+1.5)を求めると、次の式(20)のようになる。
また、先の実施の形態3のように、4次関数の時系列データと見なして電圧推定値Vuv(n+1.5),Vvw(n+1.5)を求めることも可能である。すなわち、いま、一方の第1の電圧推定手段11に着目することとし、端子電圧波形を4次関数とした場合について考える。このとき、次回のサンプリング時刻tn+Tに0.5T分だけ進ました時の電圧推定値Vuv(n+1.5)は、今回サンプリング時の電圧検出値Vuv(n)と、その1回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−1)と、2回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−2)と、さらに3回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−3)と、4回前のサンプリング時の電圧検出値Vuv(n−4)とを用いて、次の式(21)で表すことができる。
上記式(21)より、a、b、c、d、e、tn−4を消去し、次回のサンプリング時刻tn+Tからさらに0.5T分だけ進ました時刻の電圧推定値Vuv(n+1.5)を求めると、式(22)のようになる。
以上のように、この実施の形態7では、次回のサンプリング時刻tn+Tにさらに0.5T分だけ進ました時刻tn+1.5Tを次回の位相制御指令時刻tn+1としたとき、その時刻における電圧推定値Vuv(n+1.5),Vvw(n+1.5)が得られるので、マイコン5によるサンプリング周期に起因した制御遅れだけでなく、電力変換器2の動作遅れの影響も同時に解消することができる。このため、実施の形態1〜3の場合よりもさらに永久磁石モータ7の電圧位相と電力変換器2の出力電圧の位相を一致させることができ、再起動時のトルクショックや大きな電流の発生を抑制する効果が得られる。
実施の形態8.
上記の実施の形態7では、電力変換器2の動作遅れを考慮し、第1、第2の電圧推定手段11,12によって次回のサンプリング時刻に0.5T分だけ進ました時刻tn+1.5Tに対応する電圧推定値Vuv(n+1.5),Vvw(n+1.5)を推定するようにしたが、この実施の形態8では、さらにこれを一般化して、図18に示すように、次回のサンプリング時刻tn+TにkT分だけ進ました(あるいは遅らせた)時刻を次回の位相制御指令時刻tn+1とし、この時刻における電圧推定値Vuv(n+1+k),Vvw(n+1+k)を推定するようにしたものである。
ここで、係数kは、−1<k<1の範囲の値であり、電力変換器2のスイッチング素子の動作遅れやデットタイムによる遅れ要素など、電力変換器2の性能や構成を考慮して具体的な数値が決定される。なお、上記の実施の形態7は、k=0.5に設定した場合である。
ここで、端子電圧波形を2次関数の時系列データと見なすと、上記の実施の形態7の式(17)を、次の式(23)のように変形することができる。
上記の式(23)より、a、b、c、tn−2、Tを消去し、次回のサンプリング時刻tn+TにkT時間分だけ進ました(あるいは遅らせた)時刻tn+T+kTに対応する電圧推定値Vuv(n+1+k)を求めると、式(24)のようになる。
以上のように、この実施の形態8では、次回のサンプリング時刻tn+TにさらにkT分だけ進ました(あるいは遅らせた)時刻tn+T+kTを次回の位相制御指令時刻tn+1としたとき、その時刻における電圧推定値Vuv(n+1+k),Vvw(n+1+k)が得られ、しかも、係数kは固定された値ではなくて電力変換器2の性能や構成を考慮して具体的な数値が決定されるため、実施の形態7の場合よりもさらに柔軟に対応することができ、マイコン5によるサンプリング周期に起因した制御遅れ、および電力変換器2の動作遅れの影響を同時に解消することができる。
なお、上記の説明では、端子電圧波形を2次関数の時系列データと見なしたが、3次関数の時系列データと見なして電圧推定値Vuv(n+1+k),Vvw(n+1+k)を求めることもできる。この場合には、上記の実施の形態7の式(19)を、次の式(25)のように変形することができる。
上記の式(25)より、a、b、c、d、tn−3、Tを消去し、次回のサンプリング時刻にkT時間分だけ進ました(あるいは遅らせた)時刻tn+T+kTに対応する電圧推定値Vuv(n+1+k)を求めると、式(26)のようになる。
また、端子電圧波形を4次関数の時系列データと見なして電圧推定値Vuv(n+1+k),Vvw(n+1+k)を求めることもできる。この場合には、上記の実施の形態7の式(21)を、次の式(27)のように変形することができる。
上記の式(27)より、a、b、c、d、e、tn−4、Tを消去し、次回のサンプリング時刻にkT時間分だけ進ました(あるいは遅らせた)時刻tn+T+kTに対応する電圧推定値Vuv(n+1+k)を求めると、式(28)のようになる。
このように、端子電圧波形を3次関数、あるいは4次関数の時系列データと見なして電圧推定値Vuv(n+1+k),Vvw(n+1+k)を求めることもでき、これによりさらに精度良くマイコン5によるサンプリング周期に起因する制御遅れや電力変換器2の動作遅れの影響を解消することが可能となる。
なお、上記の各実施の形態1〜8では、電力変換器2に接続された負荷として交流回転機(永久磁石モータ7や誘導モータ8)の場合を示したが、交流回転機としては同期機や誘導機に限定されるものではない。また、交流回転機に限定されず、その他の負荷、例えばリニアインダクションモータ、リニア同期モータやソレノイド等の電磁アクチュエータを制御するものに適用した場合も同様の効果が期待できる。