電解質膜をアノードとカソードとで挟持した電極−電解質膜接合体(Membrane and Electrode Assembly。以下、MEAという。)を有する燃料電池システムが知られている。液体燃料を直接アノードに供給するタイプの燃料電池は、直接型燃料電池と呼ばれる。
その発電メカニズムを以下に示す。まず、供給された液体燃料がアノードに担持された触媒上で分解してプロトン、電子および中間生成物を生成する。生成したプロトンは電解質膜を透過してカソード側に移動する。一方、生成した電子は外部負荷を経てカソード側に移動する。そしてプロトンと電子がカソードで空気中の酸素と反応反応生成物を生成する。このような反応により発電するというものである。
例えば、液体燃料としてメタノール水溶液をそのまま使用するダイレクトメタノール型燃料電池(以下、DMFCという。)では、アノードにおいて下式1で表されるように、メタノールと水が反応し、カソードにおいて下式2で表されるように、プロトンと酸素が反応して水が生成する。
(反応式1);CH3OH + H2O →CO2 + 6H+ + 6e、
(反応式2);6H+ + 6e− + 3/2O2 → 3H2O
反応式2が示すように、発電に関わる反応において、カソードでは酸素が酸化剤として消費される。燃料電池の起電力を十分に確保するためには、カソードに対して十分に酸化剤が供給される必要がある。
一方、液体燃料を使用した燃料電池システムは、携帯機器をはじめとした種々の電子機器用電源としての研究開発が活発に進められている。このような燃料電池システムに要求される特性としては、(1)電源として用いるのに必要な電力が確保できること、(2)携帯用機器のフットプリントに収まるような小型化、軽量化されていること、等が挙げられる。
例えば、PCのような電子機器電源として用いるためには、単一のMEAでは出力が小さいため、複数の燃料電池セルが連結して用いられる。複数の燃料電池セルを連結することで、高い電圧および出力を得ることができる。複数の燃料電池セルを連結した場合には、各複数の燃料電池セルの発電は均等に行われることが好ましい。よって、複数の燃料電池セルに均等に酸化剤が供給されることが望まれる。
複数の燃料電池セルを有する燃料電池スタックに酸化剤を供給する方法として、特許文献1は、遠心式のファンで吸引した空気を、下流に向かって拡径するマニホールドを介して燃料電池に供給する燃料電池の空気供給装置において、そのマニホールドに複数枚の整流板を設け、その整流板をそれらの離間距離がそのマニホールドの下流に向かって大きくなるように配置するとともに、その整流板より下流にパンチングプレートおよびスポンジの少なくともいずれかからなる整流器を設けるように構成した燃料電池の空気供給装置、を開示している。
また、特許文献2では、単一のファンを用いて複数の燃料電池セルに空気を供給する方法を提案している。即ち、特許文献2は、電解質板を燃料極および酸化剤極で挟んで形成される起電部と、酸化剤極表面に設けられ両端を有する酸化剤ガス流通路と、この酸化剤ガス流通路の一方の単部で連通したマニホールドと、このマニホールド内部を減圧する減圧手段とを有する燃料電池、を開示している。また、マニホールド内に整流板が形成されることを開示している。更に、酸化剤ガス流通路の他方の端部にはプレフィルターが形成されることをを開示している。
また、特許文献3は、燃料電池スタックへ空気を供給する遠心送風機と、燃料電池単位ユニットの空気極に接する空気流路の導入口側に設けられ、遠心送風機から送られてくる空気を各導入口へ分配する空気分配手段と、横断面形状が矩形の管状体であって、一端の空気流入口が遠心送風機の空気排出口に、他端の空気流出口が空気分配手段の空気取入口に接続された導風路とを備えた燃料電池の空気供給装置、を開示している。
ところで、燃料電池スタックを構成する複数の燃料電池セルの配置方法としては、複数の燃料電池セルが厚み方向に積層されたバイポーラ型と、複数の燃料電池セルが同一平面上に並んだ平面スタック型とが知られている。
バイポーラ型の燃料電池スタックにおいては、各燃料電池セルのカソードに均等に酸化剤を供給するために、隣接する燃料電池セルを区切るセパレータに流路を設ける方法が知られている。
上記と関連して、特許文献4は、直接メタノール形の燃料電池を燃料タンク内に設置し、セパレータ表面を上下に貫通する流路を介して、対流で燃料極に液体燃料を供給し、空気はブロワからセパレータに設けた空気流路へ供給する燃料電池システム、を開示している。
また、特許文献5は、複数層の単電池を積層してなり、燃料の流入口から流入した燃料を複数の単電池の各々に分配する分配流路を備えた燃料電池であって、分配流路内に、流入口との間に隙間を設けて配置され、燃料を透過する多孔質体により所定の厚みに形成された燃料整流部材を備えた燃料電池、を開示している。
また、特許文献6は、一方の面の燃料ガス流路を有するとともに、他方の面に酸化剤ガス流路を有し、酸化剤ガス流路は、酸化剤ガスの入口において流路断面積が拡大され流路抵抗が低減されていることを特徴とする燃料電池用セパレータ、を開示している。
これらの技術では、高出力の燃料電池の発電に十分なだけの酸化剤ガスを、セパレータに設けられた小さな溝に供給するために、高出力の送風機器によって圧縮して送っていた。
上記文献のようなバイポーラ型に対して、ノート型PCなどのように携帯することを念頭に置いた機器においては、平面スタック型の方が向いている。携帯することを念頭に置いた機器では厚さに対する制約があるためである。平面スタック型においては、複数の燃料電池セルが平面上に複数列で配置され、集電体などによって、各々の燃料電池セルが直列に接続される。また、携帯用機器に用いる場合、通常、燃料電池システムは筺体に包まれる。
平面スタック型においても、複数列の燃料電池セルのカソード面に安定して、かつ、均一に酸化剤ガスを供給することが必要となる。
しかしながら、送風機の気流発生部分の大きさが、複数列の燃料電池セルのカソード面に対して小さい場合には、カソード面上において気流の偏りが生じることになる。即ち、送風機の送風又は吸引方向上に位置する燃料電池セルでは酸化剤ガスが十分に流れるものの、送風方向又は吸引方向から外れた位置の燃料電池セルでは気流が滞留して、十分に酸化剤ガスが供給されないことがあった。
このような滞留を防ぐために、複数の送風機や、大型の送風機を配置される。また、吐出力の高い送風機を用いて、複雑な空気流路を設けた上で、複雑な空気流路を形成し、各燃料電池セルに酸化剤ガスを供給する方法も知られている。
携帯用機器では、消費電力を抑えるために、カソードへ酸化剤ガスを送風するための送風機の消費電力が極力小さいことが望まれる。また、携帯機器に燃料電池システムを納めようとする場合、燃料電池システム自体が携帯機器のフットプリント以下の大きさである必要がある。即ち、省スペース化が求められる。平面スタック型においてカソード面に安定させて酸化剤ガスを供給する上記の方法は、このような携帯用機器に求められる要求と両立させることができなかった。
上記と関連して、特許文献7は、電解質層を挟んで空気極と燃料極を対峙させた複数個の単セルを、同じ極が同じ面に並ぶように平面に並べ、互いに隣接する一方の単セルの燃料極の背面と他方の単セルの空気極の背面とを導電性のZ字状接続板で電気的に接続することにより前記各単セルを直列接続するとともに、Z字状接続板の燃料極および空気極に対峙する部分にそれぞれ貫通孔を設け、各極の背面からZ字状接続板の貫通穴を介してそれぞれ燃料および空気を供給する平面型燃料電池、を開示している。
また、特許文献8は、カソード面を大気開放する自然吸気型の燃料電池を開示している。即ち、特許文献8は、開口部が一部に設けられた略平板状の筐体と、該筐体内に配置され燃料側電極と酸素側電極の間に電解質膜を介在させた略平板状の発電体と、その開口部のその筐体内側に配設され空気流動手段の周囲の空気を流動させる空気流動手段と、を有することを特徴とする燃料電池、を開示している。
また、特許文献9は、カソード側に空気室を設け、ブロアで空気を供給する燃料電池システムが提案している。
特開2005−42639号 公報
特開2001−93562号 公報
特開2003−36878号 公報
特開2005−44585号 公報
特開平8−213044号 公報
特開2004−192985号 公報
特開2002−56855号 公報
特開2003−86207号 公報
特開2005−129261号 公報
しかし、上述の何れの技術によっても、平面スタック型において、携帯用機器に求められる要求を満足した上で、各燃料電池セルに均等、且つ、十分な酸化剤ガスを供給するには、未だ不十分であった。
(第1の実施形態)
図5は本実施の形態に係る燃料電池システム1の上面図及びCC’の断面図である。燃料電池システム1は、燃料電池スタック部18と、一対の整流板17と、ファンユニット16と、筐体14と、燃料を貯めておくための燃料容器(図示せず)と、燃料を流すためのポンプ(図示せず)と、電気エネルギーを取り出すための配線(図示せず)と、を有している。尚、図5において、燃料電池スタック15の構造は、実際には筐体14に覆われていて見えないが、説明の便宜上、透視させて示している。以下の説明において、燃料電池スタック部18に平行な平面をXY平面、これに垂直な方向をZ方向とする。
燃料電池システム1を携帯機器に搭載する場合、燃料電池スタック部18は筐体14に入れられる。燃料電池スタック部18、整流板17、及びファンユニット16は、筐体14の内部の一面上に配置されている。燃料電池スタック部18、整流板17、及びファンユニットの±Z方向側には、筐体の一面が存在している。尚、図5中では、燃料電池スタック部の+Z方向側に存在する筐体14のみ図示している。
燃料電池スタック部18は、複数の燃料電池スタック15を有している。尚、一の燃料電池スタック15は、後述するフレーム10単位で、複数の燃料電池セル10がまとめられたものである。本実施の形態においては、燃料電池スタック部18は2つの燃料電池スタック15を有している。2つの燃料電池スタック15は、同一平面上に並べられている。一の燃料電池スタック15は、矩形状である。2つの燃料電池スタック15は、一の辺で隣接し、燃料電池スタック部18としても矩形状となるように並んでいる。各燃料電池スタック15は複数の燃料電池セル11を有している。本実施の形態では、3行×3列で燃料電池セル11が配置され、一の燃料電池スタック15を形成している。また、本実施の形態において、全ての燃料電池セル11は、カソード31側を上向き(+Z側)にして配置されているものとして説明する。但し、本発明は全ての燃料電池セル11のカソード31が上向きに限定されているものではなく、少なくとも一のカソード31が上向きになっていればよい。この場合、上向きのカソード31に対して、後述する本発明の作用・効果が与えられる。
ファンユニット16は、燃料電池スタック部18に対して平面方向側となるY方向側に配置されている。一対の整流板17は、燃料電池スタック部18の一の辺(Y方向側の辺)と、ファンユニット16とで、平面方向に閉じた空間が形成されるように配置されている。一対の整流板17の上下(±Z方向側)には筐体14が配置されている。このような配置により、ファンユニット16と燃料電池スタック部18との間には、一対の整流板17、燃料電池スタック部18、ファンユニット16、及び筐体14で囲まれた空間(整流空間28)が設けられている。
筐体14は、燃料電池スタック部18と、整流空間28の上下(±Z方向側)に設けられている。燃料電池スタック部18の上面(カソード31側の面)と筐体14との間には空隙が存在し、空気流空間29を形成している。筐体14は、燃料電池スタック部18の±X方向側の端部において燃料電池スタック部18と密接している。一方、燃料電池スタック部18の±Y方向側の端部と筐体14との間は空隙を有してしており、Y方向側でスタック排気開放部25、−Y方向側でスタック吸気開放部24が形成されている。このように、空気流空間29は、燃料電池スタック部18上で±X方向側が閉じ、±Y方向側が開放された空間となっている。即ち、空気流空間29は、スタック排気開放部25で整流空間28に連通し、スタック吸気開放部24で外部に連通している。
整流空間28はファンユニット16の気体吸込み口に連通している。ファンユニット16によって整流空間28内の気体が吸気可能になっている。
ファンユニット16の構成について以下に詳述する。ファンユニット16は、ファンカバー52と、ファン51とを有している。ファンユニット16のX方向側の幅は、スタック排気開放部25の幅よりも狭くなっている。
ファン51としては、薄型径流ファンが用いられる。ファン51は、燃料電池スタック部18平面(図中、XY平面)に平行に配置され、上側(図中Z方向側)から気流を吸込むように配置されている。尚、ファン51としては、送風することができればよく、シロッコファン、軸流ファン、クロスフローファンおよびターボファンなどを用いることもできる。ただし、携帯機器に搭載することを考慮した場合、薄型径流ファンなどの消費電力の小さなものを用いることが好ましい。
ファンユニット16によって整流空間28内の気体が吸引される。整流空間28は、空気流空間29と連通しているので、空気流空間29内の気体も吸引される。ファンユニット16により、空気流空間29内では、スタック吸気開放部24からスタック排気開放部25へ流れる気流が発生する。
図4は、ファン51の形状を示す図であり、(a)は上面図、(b)は側面図、(c)は排気方向側から見た斜視図、(d)は吸気方向側から見た斜視図である。図中、矢印の方向は気流の方向を示している。
ファン51は、直方体状のファン筐体511と、ファン筐体511の内部に設けられた羽部(図示せず)とを有している。
羽部は、図示しない支持部材を介してファン筐体511に固定されている。羽部が回転することで気流が発生する。羽部は、気流の吸込み側を上側(+Z方向側)にして配置されている。
ファン筐体511には、ファン吸気口55と、ファン排気口56と、が設けられている。
ファン吸気口55は、ファン筐体511の上面(Z方向側の面)に設けられたドーナツ状の開口である。ファン排気口56は、Y方向側の側面に設けられた開口である。
このような構造のファン51は、ファン吸気口55は比較的多くの方向から吸気し、ファン排気口56は、特定の方向性はあるが広がった排気流を形成させる。また、気流の吸込み面と排出面とが非平行な構造であり、ファン51を燃料電池スタック部平面(XY平面)に平行に配置することで、ファン51の厚み方向(Z方向)に占めるスペースを抑制することができる。平面スタック型構造の燃料電池スタック15の厚みよりも低くすることも可能である。厚み方向に対する省スペース化により、特に携帯機器に搭載するこをと考慮した場合に、吸込み面と排出面とが平行であるファンを用いるよりも有利である。
本発明で用いることができるファン51としては、図4の形状・構造が好ましいが、これに限定されるものではない。ファン51としては、例えば、上方(図中、Z方向側)に設けられた一面から空気を吸い込んで反対面から排出する構造や、一面から吸い込み、囲いなどで形成された排気経路を介して吸い込み面と非平行方向に排出する構造などが挙げられる。
本発明で用いるファン51、特に薄型径流ファンとしては、カソード31を通過した湿った空気に耐えられるように、防湿もしくは防水処理をほどこしてあることが望ましい。
ファンカバー52は、ファン筐体511を覆うように配置されている。図6は、ファン筐体511をファンカバー52で覆った状態を示す図である。(a)は上面図、(b)は側面図、(c)は排気方向側から見た斜視図、(d)は吸気方向側から見た斜視図である。図中、矢印の方向は気流の流れる方向を示している。また、ファン筐体511は実際には見えないが、透視させて示している。
ファンカバー52の形状は、下面が開いた直方体状である。ファンカバー52には、吸気口53と、排気口54と、が設けられている。吸気口53は、−Y方向側側面に設けられた開口である。一方、排気口54は、Y方向側側面に設けられた開口である。
ファン51のみでは吸気する気流が一方向に限定されないが、吸気口53及び排気口54が設けられたファンカバー52を有することによって、気流を一定方向に限定することができる。この場合、−Y方向側から吸気し、+Y方向側へ排気することになる。従って、カソード31上面を流れる気流にも、+Y方向側へ向かう方向性を持たせることが可能となる。
ファンカバー52の素材としては、ステンレスなどの金属や、アクリルなどのプラスチックが適当である。特に、金属を用いる場合は、ファン51に送り込まれる湿った空気が結露することも予測されるため、表面を塗装やプラスチックシートなどの保護皮膜で被覆させることが望ましい。ただし、ファンカバー52の素材に関しては、このようなものに限定されるわけではない。
上述のような構成により、ファン51が上面側から吸気すると、外部から空気流空間29、整流空間28、および吸気口53を介してファン51へ流れる気流が発生する。空気流空間29に供給された気流の一部は、酸化剤ガスとしてカソード31に供給される。一方、ファン51が吸込んだ気流は、Y方向側に設けられたファン排気口56から外部へ排出される。ここで、ファンカバー52に設けられた吸気口53が−Y方向側に設けられているので、気流の方向が+Y方向側へ限定されている。気流の方向が限定されているので、燃料電池スタック部18からの排気が効率良くファンユニット16へ導かれる。
続いて、燃料電池スタック部18の構成について詳述する。燃料電池スタック部18は2つの燃料電池スタック15を有している。2つの燃料電池スタック15は、電気的に並列又は直列に接続される。燃料電池スタック15を、単一ではなくて複数用いることで、必要となる電圧および出力を発生させることができる。PCなどの比較的大きい電力を必要とする携帯機器に用いることを念頭に置いた場合に、このように複数の燃料電池スタック15が必要となる。
図1は、燃料電池スタック15の構成を示す上面図である。燃料電池スタック15は、フレーム10上に9個の燃料電池セル11が3行×3列に配置されて形成されている。全ての燃料電池セル11は、カソード31側を上向き(図中、+Z方向側)にして配置されている。
フレーム10には、複数の燃料タンク部12、燃料経路23、スタック燃料インレット21、およびスタック燃料アウトレット22が設けられている。尚、図1において、燃料経路23などのフレーム10に設けられた構造は実際には見えないが、説明の便宜上、透視させて示している。
複数の燃料タンク部12の各々は、複数の燃料電池セル11の各々の位置に対応して設けられている。燃料タンク部12には、対応する燃料電池セル11に供給される燃料が蓄えられる。燃料経路23は、各燃料タンク部12同士を接続するように設けられている。一の燃料タンク部12にはスタック燃料インレット21が設けられている。他の2つの燃料タンク部12には、スタック燃料アウトレット21が設けられている。
燃料タンク部12には、燃料を取り込むためのインレットと、排出するためのアウトレットが設けられている。これらのインレットおよびアウトレットは、隣接したセルのアウトレットもしくはインレットと接続するように、燃料経路23でつながれている。このように、燃料経路23で隣接する燃料タンク部12を連結させることで、燃料タンク部12を含めて、燃料電池スタック15の燃料流路が形成されている。
図1中、矢印は燃料が流れる方向を示している。燃料は、スタック燃料インレット21を介して、一の燃料タンク部12に供給される。燃料は、一の燃料タンク部12から、燃料経路23を介して、隣接する別の燃料タンク部12へと、順次供給されていく。燃料は、最も下流に相当する燃料タンク部12から、スタック燃料アウトレット22を介して燃料容器へと戻る。このようにして、燃料循環系統が形成される。図1では、3列ある燃料電池セル11の中央列の燃料タンク部12に燃料を供給し、その後左右の列に分配されていく様子が示されている。
図2は、図1のAA’断面を示す図である。燃料タンク部12内部には、ウィッキング材60と呼ばれる燃料保持材が挿入されている。ウィッキング材60は、主に毛細管現象によりメタノール水溶液(液体燃料)を吸収し、かつ保持することを目的としている。ウィッキング材60としては、例えば、織布、不織布、繊維マット、繊維ウェブ、発泡プラスチック等を用いることができ、特に、親水性ウレタン発泡材や親水性ガラス繊維等の親水性材料を用いることが好ましい。燃料タンク部12に供給された液体燃料は、ウィッキング材60に一次的に吸収される分もあるが、その多くはMEA13のアノード32に供給され、電池反応によって発電が起こる。燃料タンク部12に供給されながら、発電に使われなかった燃料は、再び燃料容器に戻ったり、一時的にウィッキング材60に吸収されたりする。ただし、燃料経路の下流部に相当する位置にある燃料電池セル11でも十分に発電が可能となる燃料濃度で燃料供給が可能な場合、ウィッキング材60は、必ずしも必須の構成ではなく、省略される場合もある。
尚、燃料としては、流体の燃料を用いることができる。その燃料としては、メタノールが一般的である。但し、メタノールに限らず、エタノールやイソプロパノール等のアルコール系、エーテル系、ポリエーテル系等の液体燃料や、水素などの気体燃料を用いることもできる。また、燃料の供給の仕方としては、このような燃料供給方式は一例であり、本発明の方法は、この燃料供給方式に限定されるではない。
燃料電池セル11は、燃料タンク部12の上に配置されている。燃料電池セル11は、電解質膜33と、電解質膜33の一方の面上にその面に接して配されたカソード31と、他方の面上にその面に接して配されたアノード32と、カソード31およびアノード32にそれぞれ接して配されたカソード集電体41およびアノード集電体42と、電解質膜33の周縁に配されてその電解質膜33とアノード集電体42とで挟持されたシール部材43と、を有している。即ち、電解質膜33、カソード31およびアノード32は、MEA13を構成している。MEA13の上下面には、カソード集電体41とアノード集電体42がシール部材43をそれぞれ挟んで構成されている。
電解質膜33とアノード集電体42とで挟持されたシール部材43は、枠状に集電体周縁部に配置されている。本発明の燃料電池セル11は、こうした構成からなるセル構造を有し、そのセル構造の周縁部を貫通するように複数のネジでフレーム10に固定されている。燃料電池セル11をフレーム10に止める手段としては、ネジ止めに限らず、接着などの方法も用いることができ、燃料電池セル11から液体燃料が漏れないような構造であればよい。また、MEA13やシール部材43の構成に関しても、本実施の形態に記載されるものに限定されるものではなく、燃料が漏れないような構造であればよい。
本発明の燃料電池セル11としては、液体燃料としてメタノール水溶液をそのまま使用するダイレクトメタノール型燃料電池が挙げられる。図2のような構造の場合には、燃料タンク部12に蓄えられた液体燃料がアノード32に供給されることによって発電が起こる。ただし、燃料タンク部12とアノード32との間に、PTFEなどの気液分離膜が配置される場合もある。この場合、燃料の気体成分のみが気液分離膜を透過して、アノード32に供給される。
MEA13は、電解質膜33をカソード31とアノード32とで挟持した構造からなるものである。電解質膜33としては、プロトンの伝導性が高く、かつ、電子伝導性をもたない高分子膜が好適に使用される。固体高分子電解質膜33の構成材料としては、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン基、ホスフィン基等の強酸基や、カルボキシル基等の弱酸基等の極性基を有するイオン交換樹脂が好ましく、その具体例としては、パーフルオロスルホン酸系樹脂、スルホン化ポリエーテルスルホン酸系樹脂、スルホン化ポリイミド系樹脂等が挙げられる。より具体的には、例えば、スルホン化ポリ(4−フェノキシベンゾイル−1,4−フェニレン)、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリイミド、アルキルスルホン化ポリベンゾイミダゾール等の芳香族系高分子からなる固体高分子電解質膜を挙げることができる。膜厚は、その材質や燃料電池の用途等に応じて、10〜300μm程度の範囲内で適宜選定可能である。
カソード31は、上記式2に示すように、酸素を還元して水にする電極であり、例えば、触媒をカーボン等の担体に担持させた粒子(粉末を含む)又は担体を有さない触媒単体と、プロトン伝導体との触媒層をカーボンペーパー等の基材上に塗布等で形成することにより得ることができる。触媒としては、白金、ロジウム、パラジウム、イリジウム、オスミウム、ルテニウム、レニウム、金、銀、ニッケル、コバルト、モリブデン、ランタン、ストロンチウム、イットリウム等が挙げられる。触媒は、1種のみでも、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。触媒を担持する粒子としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等の炭素系材料が例示される。粒子の大きさは、例えば炭素系材料が粒状物であるときには、0.01〜0.1μm程度の範囲内、好ましくは0.02〜0.06μm程度の範囲内で適宜選定される。粒子に触媒を担持させるには、例えば含浸法を適用することができる。
触媒層が形成される基材としては、固体高分子電解質膜を用いることもできるし、カーボンペーパー、カーボンの成形体、カーボンの焼結体、焼結金属、発泡金属等、導電性を有する多孔性物質を用いることもできる。カーボンペーパー等の基材を用いた場合には、基材上に触媒層を形成してカソード31を得た後に、ホットプレス等の方法によって、触媒層が固体高分子電解質膜33と接する向きでカソード31を固体高分子電解質膜33に接合することが好ましい。カソード31の単位面積当たりの触媒量は、触媒の種類や大きさ等に応じて、0.1mg/cm2 〜20mg/cm2 程度の範囲内で適宜選定可能である。
アノード32は、上記式1に示すように、メタノール水溶液と水から水素イオンとCO2と電子を生成する電極であり、上記のカソード31と同様にして構成される。アノード32を構成する触媒層や基材は、カソード31を構成する触媒層や基材と同じであってもよいし異なっていてもよい。アノード32の単位面積当たりの触媒量も、カソードの場合と同様、触媒の種類や大きさ等に応じて、0.1mg/cm2 〜20mg/cm2 程度の範囲内で適宜選定可能である。
カソード集電体41およびアノード集電体42は、カソード31およびアノード32上にそれぞれ接して配され、電子の取出効率及び電子の供給効率を高めるように作用する。これらの集電体41,42は、図2に示すように、MEAの周縁部に接する枠形状のものであってもよいし、MEAの全面に接する平板状又はメッシュ状等のものであってもよい。平板状の場合、燃料および空気が入り込めるような貫通孔を規則的もしくは不規則的に設け、貫通孔をあけていない部分で電極と接触させ、集電を行う。これらの集電体41,42の材料としては、例えば、ステンレス鋼、焼結金属、発泡金属等、又はこれらの金属に高導電性金属材料をメッキ処理したものやカーボン材料などの導電体等を用いることができる。尚、図2において、カソード集電体41は、カソード31の上側を覆うように描かれているが、実際には枠状である。よって、カソード41の上面は中央部で開放されている。
シール部材43は、一の燃料電池セル11に複数設けられている。シール部材43は、シール機能を有している。例えば、図2に示すように、(1)電解質膜33とカソード集電体41との間には、カソード31の厚さとほぼ同じ厚さからなるシール部材43がセル構造の周縁に枠状に設けられている。また、(2)電解質膜33とアノード集電体42との間には、アノード32の厚さとほぼ同じ厚さからなるシール部材43がセル構造の周縁に枠状に設けられている。また、(3)アノード集電体42とフレーム10との間には、任意の厚みをもつシール部材43が設けられている。なお、これらの各シール部材は、シール性、絶縁性および弾性を有するものが好ましく、通常はシール機能を有するゴムやプラスチックで形成されている。具体的には、PTFE、PET、PEEK、塩化ビニル等のプラスチック素材や、フッ素樹脂、シリコンゴム、ブチルゴム等のゴム素材を用いることが好ましい。但し、シール部材43の形状、構成及び位置などは、ここに記述した通りでなく、少なくともシール機能を有していればよい。
続いて、カソード31に供給される気体の流れを説明する。図3は、ファンカバー52を用いない場合の気流の流れを説明する図である。図中、矢印は気流の方向を示している。尚、ファンカバー52によってファン51が被覆されていない点以外は、本実施形態に係る燃料電池システム1と同様の構成である。ファンカバー52を用いず、ファン51のファン吸気口55の上部を開放させた場合、ファン51に対してXY平面方向の略全方向から気体が吸込まれる。
これに対し、図5に示される本実施の形態によれば、吸気口53および排気口53を有するファンカバー52を用いることによって、気流の流れを限定することができる。吸気口53を−Y方向側に設けることによって、燃料電池スタック部18側(整流空間28)から選択的に吸気を行うことができる。これにより、カソード31面上の空気流空間29での気流も+Y方向側に限定される。カソード31面上において、気流を一方向とすることができるので、部分的な滞留等が生じることがない。よって、複数の送風機や、大型の送風機を用いる必要がない。燃料電池スタック部18の大きさに対して、小さな大きさのファンを用いたとしても、燃料電池スタック部18の隅々まで均等に酸化剤ガスを供給することができる。
また、気流の方向を限定することで、ファン51の吸気を効率良く行うことができるので、ファンユニット16として小型であり消費電力の少ないものを選択することができる。
燃料電池セルは、低温状態では十分な発電が得られない傾向にある。ファンを小型化させて、燃料電池スタック部18に均一に気流を発生させることで、燃料電池セルの過冷却を防ぐことができる。また、ファンによる過度の送風により、カソードの乾燥が起こることがあるが、これも同様に防ぐことができる。
更に、ファンを燃料電池スタック部18の平面方向に、その平面方向と平行となるように配置することで、厚み方向に占めるスペースが抑制される。よって、燃料電池システムを薄型化することができる。
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。図7は、本実施の形態に係る燃料電池システム1の上面図およびそのDD’面における断面図である。本実施の形態に係る燃料電池システム1は、第1の実施の形態に対して、仕切り26が追加されている。仕切り26以外の構成に関しては、第1の実施形態と同じであるので、説明は省略される。
仕切り26は、空気流空間29を複数の領域に区切るように設けられている。本実施の形態においては、6列の燃料電池セル11が配置されているが、仕切り26は隣り合う列の間に設けられている。仕切26は、厚み方向で、筐体14と燃料電池スタック15に密着して設けられている。仕切り26によって、外部からスタック吸気開放部24を介して空気流空間29へ導入される気流は、燃料電池セル11の各列に分別される。
ここで、仕切り26は、必ずしも隣接する燃料電池セル11の列間に設ける必要はない。単一の燃料電池セル11のカソード面31上を区切るように設けることも可能である。この場合、ある空気流空間29で十分な量の酸化剤ガスが供給されない状況が発現したとしても、隣接した別の空気流空間29から供給されるため、局部的に発電停止になるような状況を防止することができる。
仕切26の素材としては、導電性のないプラスチック素材がよい。特に、気密性を保つために、ウレタンやゴムなどの弾性素材を用いることが好ましい。また、吸水性素材を用いた場合には、筐体14内部に結露した水分を一時的に吸水することもできるため、フラッディングによる発電停止を防止することにもつながる。尚、仕切26の材質は、2つ以上の異なる素材を組み合わせることも可能である。
仕切26は、燃料電池セル11が形成する各列の間に、1本ないしは2本程度用いることもできる。2本以上の仕切を用いる際には、仕切26の間に空間が形成され、仕切26を通じる部分を設けることによって、空気流空間29の余分な水分を排出させることも可能となる。その場合は、仕切26の素材として、PTFEやPVAなどの多孔質体や、その他の繊維質素材を用いることで機能化できる。
燃料電池スタック部18において、スタック排気開放部25側(+Y方向側)で、且つ、ファン51と離れた部位(±X方向側)の両隅部分には、酸化剤ガスは供給されにくい。本実施の形態に依れば、仕切26を設けることによって、両隅のカソード31に対しても、十分な酸化剤ガスを供給することが可能となる。第1の実施形態と比較して、燃料電池スタック部18のカソード31面に対して、更に均等に酸化剤ガスが供給される。
(第3の実施形態)
第3の実施形態について説明する。図8は、本実施の形態に係る燃料電池システム1の上面図およびそのEE’における断面図である。本実施の形態に係る燃料電池システム1は、第2の実施の形態に対して、ガイド板27が追加されている。ガイド板27以外の構成は、第2の実施形態と同じであるので、説明は省略される。
第2の実施形態のように、仕切26のみで十分な気流を形成させようとするには、整流空間におけるファン51とスタック15の距離を十分にあけ、両脇に位置する燃料電池セル11にも、十分な気流を形成させる必要がある。そこで、本実施の形態ではガイド板27が追加されている。
ガイド板27は、整流空間28内に4枚、設けられている。各ガイド板27は、一端で吸気口53に連結され、他端でスタック排気開放部25に連結されている。ガイド板27と吸気口53との連結部分では、ガイド板27の端部が吸気口53の開口面内に配置されるようになっている。このようにして、吸気口53の開口面は、4枚のガイド板27の端部によって5つに分割されている。2枚のガイド板は、スタック排気開放部25との連結部分において、±X方向側の最も外側の列と外側から2番目の列との間に設けられた仕切り26の端部と連結している。また、他の2枚のガイド板27は、スタック排気開放部25との連結部分において、±X方向側の外側から2番目の列と外側から3番目の列との間に設けられた仕切り26の端部に連結している。
整流空間28は、ガイド板27によって区切られた複数の空間を有している。複数の空間のうちで外側の空間28Aは、空気流空間29が分割された複数の領域のうちの外側の領域29Aに対応して連通している。同様に、外側から2番目の空間28Bは、外側から2番目の領域29Bに、中央の空間28Cは、中央部に位置する2つの領域29Cに、夫々対応して連通している。
ガイド板27の上下(±Z方向側)は筐体14と密着している。ただし、整流効果を出すためには必ずしも密閉する必要はなく、概密閉していればよい。
このように、整流空間28をガイド板27で複数の空間に区切ることによって、スタック排気開放部25から排気された気体は、複数の空間のいずれかに導入される。各空間では、スタック排気開放部25からファン吸気口53への一方向の気流が発生しており、整流空間28内での滞留が抑制される。
また、ガイド板27としては、熱伝導性の高いものが好ましい。熱伝導性の高いものを用いることで、燃料電池スタック部18から排気された気体の熱を分散させることができる。よって、燃料電池スタック部18への畜熱が防止される。
整流空間には、燃料電池スタック部18のカソード面を通過した高温、高湿度の排気が流れ込む。その排気をそのままファン51が吸込むと、ファン内部で結露したり、ファンから排気された水分が機器の内部で結露することがある。
また、ガイド板27としては、吸水性素材を用いる事がこのましい。整流空間28で結露した水分を一時的に吸水することもできる。また、燃料電池システム1からの水漏れ防止にもつながる。
ガイド板27の素材としては、金属そのものやその表面をビニルシートなどで被覆したものを用いることができ、導電性のないプラスチック素材なども用いることができる。このようなものとしては、Cu、Al、Au、Ag等の熱伝導性の高い金属、Mg、Tiなどの軽金属、SUSなどの耐腐食性の高い金属素材が挙げられる。但し、金属をそのまま露出させていると腐食しやすくなるため、金属の表面はPP(ポリプロピレン)やビニル等のプラスチック素材で被覆させることが望ましい。
また、ガイド板27に吸水性を付与する場合には、発泡ウレタン素材、PVA系素材、布や紙などの繊維素材が挙げられる。
ガイド板27の材質は、2つ以上の異なる素材を組み合わせることも可能であり、ガイド板自体を2枚以上の部材で形成することもよい。上述のように、金属素材と吸水性素材を組み合わせる場合には、両面テープや熱伝導性のある糊(高熱伝導性シリコングリース等)で接着する方法や、吸水性素材に切れ目を入れて金属素材を挟み込む方法などが挙げられる。
本実施の形態によれば、ファン51の吸気力は、整流空間28が分割された各空間に分配される。よって、空気流空間のうち、外側に位置する領域においても均等に気体が吸気される。すなわち、より均等に燃料電池セル11に対して酸化剤ガスが供給される。
第2の実施形態では、空気流空間29内でY方向側への気流を発生させるためには、ファン51と燃料電池スタック15の距離をある程度あけて気流の流れを整える必要がある。一方、本実施の形態に依れば、吸気口53と燃料電池セル11の各列とを気流的につなぐことで、燃料電池スタック部18とファン51との距離に関係なく、空気流空間29内の気流を+Y方向へ限定することができる。よって、ファンユニット16と燃料電池スタック15との距離を近づけることができる。即ち整流空間28の占有する面積を低減することが可能となる。
さらに、燃料電池セルの各列から吸気する量は、吸気口53とガイド板27の端部との連結位置を調整することで最適化することができる。このようにすることで、仕切り26を設けない場合には気流が発生しにくい両端の列の燃料電池セルに対しても、中央部の列の燃料電池セルと同等の量の酸化剤ガスを供給することができる。
(第4の実施形態)
第4の実施形態について説明する。図9は、本実施の形態に係る燃料電池システム1の上面図およびそのDD’面における断面図である。図中、矢印は気流の方向を示している。
本実施の形態に係る燃料電池システム1は、第3の実施の形態に対して、吸気口53の位置が変更されている。また、ファンユニット16のレイアウトが変更されている。また、ガイド板27と吸気口53との連結位置が変更されている。その他は第3の実施形態と同じ構成であり、説明は省略される。
図10は、ファン筐体511をファンカバー52で覆った状態を示す図である。(A)は上面図、(B)は側面図、(C)は排気方向側から見た斜視図、(D)は吸気方向側から見た斜視図である。図中、矢印の方向は気流の流れる方向を示している。また、ファン筐体511は実際には見えないが、透視させて示している。
吸気口53は、ファンカバー52の−Y方向側側面の端部と、±X方向側側面の−Y方向側に設けられた開口である。即ち、−Y方向側の±X方向側にあたる角部が切り欠いた形状となっている。−Y方向側の面の中央部は遮蔽板57によって閉じられている。
図9を参照する。ファンユニット16は、燃料電池スタック部18の排気開放部25に接触するように配置されている。ガイド板27は、一端で、ファンカバー52の±X方向側の側面の吸気口53に連結している。また、ガイド板27は、多端で、仕切り26に連結している。
排気口54に対して平行なファン吸気口53の中央部は遮蔽板57によって、閉じられているので、複数の燃料電池セル11のうちで中央部の列29Cから排気される気流の量が制限される。遮蔽板57を設けていない場合は、中央部の列29Cからは両端部の列29Aと比較して気流の量が多くなる傾向にあるが、遮蔽板57により中央部の列29Cからの気流を制限させることで、各列の気流の量を均等にすることができる。
本実施の形態に依れば、第3の実施形態における作用に加え、吸気口53と排気口54とを非平行な部分にも設けることにより、ファン51と燃料電池スタック15との距離を実質上なくすことができる。よって、より省スペース化となる。
(第5の実施形態)
第5の実施形態について説明する。図11は、本実施の形態に係る燃料電池システム1の上面図およびそのFF’面における断面図である。図中、矢印は気流の方向を示している。第1の実施形態と同じ構成については、説明が省略される。
燃料電池スタック部18は、−Y方向側に凹となる凹部を有するように配置されている。即ち、複数の燃料電池セル11がL字状に並んだ一の燃料電池スタック15と、逆L字状に並んだ別の燃料電池スタック15が向かい合うことで、凹部が形成されている。
筐体14は、第1の実施形態と同様に、燃料電池スタック部18の上に空気流空間29を設けて配置されている。
空気流空間29は、燃料電池スタック部18の±X方向側の外側端部および−Y方向側端部で開放され、スタック吸気口24を形成している。また、凹部に面する端部でも開放され、スタック排気口25を形成している。一方、凹部の外側のY方向側端部では閉じられている。
仕切り26は複数枚設けられている。2枚の仕切り26は、それぞれが一端で凹部の内側角部に連結し、他端で燃料電池スタック部18の−Y方向側端部に連結するように設けられている。また、他の2枚の仕切り26は、燃料電池スタック15同士が面している部分を分割するように設けられている。
ファンユニット16は、その凹部に内蔵されるように配置されている。図12は、ファンユニットの形状を示す図である。(A)は上面図、(B)は側面図、(C)は排気方向側から見た斜視図、(D)は吸気方向側から見た斜視図である。図中、矢印の方向は気流の流れる方向を示している。また、ファン筐体511は実際には見えないが、透視させて示している。
ファンユニット16において、ファンカバー52に設けられた吸気口53の位置が工夫されている。ファンカバー52の±X方向側側面は開放されており、吸気口531となっている。また、ファンカバー52の−Y方向側側面の両端も開放されており、吸気口531となっている。
再び図11を参照する。一対の整流板17は、夫々、一端で燃料電池スタック部18の凹部のY方向側角部に接続し、他端でファンカバー52のY方向側角部に接続している。
ガイド板27は4枚設けられている。2枚のガイド板27は、夫々、一端でファンカバー52の−Y方向側角部に接続され、他端で燃料電池スタック部18の凹部−Y方向側角部に接続されている。また、他の2枚のガイド板27は、各々が、一端でファンカバー52の−Y方向側の側面中央部に接続され、他端で2つの燃料電池スタック15が面する部分に設けられた2枚の仕切り26の端部に夫々接続されている。このようにして、いずれのガイド板27も一端で仕切り26に接続されている。
本実施の形態に依れば、第1の実施形態における効果に加え、次の効果を奏する。このようなファン内蔵型とする場合、同一面積となる燃料電池スタック15の外形を保つ限り、搭載できる燃料電池セル11の数を少なくする必要が生じるものの、ファンユニット16が外部に飛び出した構造ではなくなり、かつ整流空間28をも燃料電池スタック部18内部に閉じ込めることができるので、全体的に構造を簡略化することができる。
また、整流空間28を通過することによるファン51の風量ロスや空気流空間29自体を短縮することもできる。消費電力がより小さくても、発電に十分な気流を形成することができる。その場合、燃料電池セル11と同程度の大きさのファン51を設置すれば、燃料電池セル11密度を向上させることも可能である。
以上説明したように、本発明の燃料電池システム1のように、上面および側面を筐体14によって閉ざされ、スタック吸気開放部24からスタック排気開放部25へ向かう気流を、低消費電力の薄型径流ファンなどのファン51などを用いてカソード31に供給する構造において、ファン51をファンカバー52で囲い、ファンカバー52に平行もしくは非平行に吸気口53と排気口54を設け、吸気口53を、仕切26によって仕切った空気流空間28と整流板27を介して連結することで、燃料電池スタック15を構成する全ての燃料電池セル11に、発電に十分な空気を供給することが可能となる。
また、ファンカバー52の開口部分の位置を工夫することによって、ファン51と燃料電池スタック15の間に設ける必要がある整流空間28を最小化することができる。さらには、仕切26やガイド板27を組み合わせることによって、燃料電池スタック部18にファンを内蔵することも可能となる。
本発明によって、PCなどの携帯機器に搭載可能な高出力の薄型燃料電池システムを実現することができ、燃料電池スタック15の形状も従来のものとは異なる様式に変容することも可能となる。
尚、既述の第1〜5の実施形態においては、ファン51が燃料電池スタック部18から吸気を行うように配置されているが、ファン51を、吸気方向および排気方向の位置を反対にして配置することで、ファン51が燃料電池スタック部18側に対して気体を送り出すようにしてもよい。このように、ファン51から燃料電池スタック部18側へ気流を吐出させるように配置したとしても、第1〜5の実施形態と同様の作用・効果が得られることは自明的であろう。
以下、実施例を示すことにより、本発明の燃料電池システムを具体的に説明する。
(実施例1)
実施例1で用いた燃料電池セルの構造について以下に説明する。先ず、炭素粒子(ライオン社製のケッチェンブラックEC600JD)に粒子径が3〜5nmの範囲内にある白金微粒子を重量比で50%担持させた触媒担持炭素微粒子を用意し、この触媒担持炭素微粒子1gにデュポン社製の5重量%ナフィオン溶液(商品名;DE521、「ナフィオン」はデュポン社の登録商標)を加え、攪拌して、カソード形成用の触媒ペーストを得た。この触媒ペーストを基材としてのカーボンペーパー(東レ社製のTGP−H−120)上に1〜8mg/cm2の塗工量で塗布し、乾燥させて、4cm×4cmのカソード31を作製した。一方、白金微粒子に代えて粒子径が3〜5nmの範囲内にある白金(Pt)−ルテニウム(Ru)合金微粒子(Ruの割合は50at%)を用いた以外は上記カソード形成用の触媒ペーストを得る条件と同じにしてアノード形成用の触媒ペーストを得た。この触媒ペーストを用いた以外は上記カソードの作製条件と同じ条件で、アノード32を作製した。
次に、デュポン社製のナフィオン117(数平均分子量は250000)からなる8cm×8cm×厚さ180μmの膜を固体高分子電解質膜33として用い、この膜の厚さ方向の片面に上記カソード31をカーボンペーパーが外側となる向きで配置し、他の面に上記アノード32をカーボンペーパーが外側となる向きで配置して、各カーボンペーパーの外側からホットプレスした。これによりカソード31およびアノード32が固体高分子電解質膜33に接合して、MEA(電極−電解質膜接合体)13が得られた。
次に、カソード31とアノード32の上に、ステンレス鋼(SUS316)からなる外寸法6×6cm2、厚さ1mm、幅11mmの矩形枠状の枠板からなる集電体41,42を配置した。なお、固体高分子電解質膜33とアノード集電体42との間に、シリコンゴム製の外寸法6×6cm2、厚さ0.3mm、幅10mmの矩形枠状の枠板からなるシール部材43を配置した。また、固体高分子電解質33とカソード集電体41との間、その他のシール部材としても、シリコンゴム製の外寸法6×6cm2、厚さ0.3mm、幅10mmの矩形枠状の枠板からなるシール部材43を配置した。集電体の外にはみ出した固体高分子電解質膜33は切断した。
燃料電池システム1を構成するフレーム10としては、外寸19cm×19cm×厚さ1cmのPP(ポリプロピレン)製のものを用い、そのフレーム10内部には、燃料電池セル11を3列×3行でならべられるように、9個の燃料タンク部12を形成させた(図1)。燃料は、スタック燃料インレット21から供給し、燃料経路23で連結させた燃料電池セル11間を図1に示したように流し、スタック燃料アウトレット22から排出させるような流路構造とした。燃料タンク部12は、内寸法4×4cm、深さ5mmの容器であり、その内部には、燃料保持材として、ウレタン素材からなるウィッキング材60が入っている。
MEA13、カソード集電体41、アノード集電体42、シール部材43を所定数のネジによりネジ止めして一体化し、実施例1に係る燃料電池セル11を得た。
こうして作製した燃料電池セル11を9個準備し、図1に示す燃料流路構造をもつフレーム10に並べて固定し、燃料電池スタック15を作製した。電気的には、隣接する燃料電池セル11の集電体を介して直列接続した。図1において、左下に位置する燃料電池セルからマイナスの端子、右下に位置する燃料電池セルからプラスの端子を取り出した。さらに、この燃料電池スタック15を2つ用意し、図5のように並べて置き、一方のプラス端子を他方のマイナス端子と接続させ、18個の燃料電池セル11を直列接続させた。
上記のように形成させた2つの燃料電池スタック15を、厚さ2cm×奥行き30cm×幅40cmのアクリル板に載せ、燃料電池スタック15の上面には、両端に3mmの凸部をもち、厚さ1cm×奥行き19cm×幅38cmのアクリル製部材に載せ、図5の断面に示したような空気流空間29を形成させた。スタック吸気開放部24およびスタック排気開放部25には、配線などの障害物が空気流空間29を妨げることがないように開放させた。スタック排気開放部25の背面には、図5に示したような奥行きが最大5cmとなるような整流空間28ができるように、アクリル素材を加工した高さ1.5cmの一対の整流板17を設置し、燃料電池スタック15の底に敷いた部材と接合させた。整流空間28の背面を形成する整流壁17の一部を切断し、高さ1.3cm×奥行き5.5cm×幅5.2cmの内寸法であり、吸気口53および排気口54を平行に設けたファンカバー52で囲ったファン51を、図5のように設置させた。ファンカバー51はアクリル樹脂で作製した。ファン51としては、消費電力1Wの小型モーターファンを用いた。ファン51と、燃料電池スタック15との距離は、最短で5cmになるように設置した。
(実施例2)
実施例2で用いた燃料電池セルの構造について以下に説明する。MEAの作製方法および構造は実施例1と同様である。また、燃料流路構造に関しても、実施例1と同一の構造である(図1)。さらに、ファン51およびファンカバー52に関しても実施例1と同様である。その他の条件も、後述で触れない限り同様である。
実施例2に関しては、幅3mm×長さ19cmに切断した厚さ3mmの吸水性のないウレタン素材を、8本作製し、その両面に防水性両面テープを貼り、図7に示したように筐体14と燃料電池スタック15との間に貼り付け、仕切26とした。
(実施例3)
実施例3で用いた燃料電池セルの構造について以下に説明する。MEAの作製方法および構造は実施例1と同様である。また、燃料流路構造に関しても、実施例1と同一の構造である(図1)。さらに、ファン51およびファンカバー52に関しても実施例1と同様である。仕切26の構成は実施例2と同じである。その他の条件も、後述で触れない限り同様である。
実施例3に関しては、ファン51と燃料電池スタック15の距離を2cmに縮め、厚さ0.5mm、高さ1.3cmの吸水性のないウレタン素材をガイド板27として用いた。ガイド板の末端の一方は、図8に示したように、仕切26と連結させ、他方は吸気口53につなげた。吸気口53に関しては、ガイド板27の末端部によって5つに割り当てられるが、その5つの割り当ては、左から順に、0.75cm、0.5cm、1.0cm、0.5cm、0.75cmとした。
(実施例4)
実施例4で用いた燃料電池セルの構造について以下に説明する。MEAの作製方法および構造は実施例1と同様である。また、燃料流路構造に関しても、実施例1と同一の構造である(図1)。仕切26の構成は実施例2と同じである。その他の条件も、後述で触れない限り同様である。
実施例4に関しては、ファンカバー52の開放部分をファンカバー52の側面部にも設け、吸気口53の一部は塞いだ。具体的には、図10に示したように、奥行き2cmのファン側面開放部531を設け、吸気口53の中央2cmの部分を塞いだ。ガイド板27は、図9に示したように、ファン側面開放部531に連結させた。ファン側面開放部531に関しては、ガイド板27の末端部によって、両端の列には1cm、端から2列目には0.75cm、中央列には0.25cmの開放部分が、各列に分割されて割り当てられる。ただし、中央列に関しては、吸気口53の開放部分1.5cmずつ割り当てた。
(比較例1)
比較例1で用いた燃料電池セルの構造について以下に説明する。MEAの作製方法および構造は実施例1と同様である。また、燃料流路構造に関しても、実施例1と同一の構造である(図1)。その他の条件も、後述で触れない限り同様である。比較例1では、ファン51にファンカバー52を設けなかった。その他の構造は実施例1と同様である。
(実験結果)
実施例1〜4および比較例1について、以下のような発電試験を行った。10vol%メタノール水溶液1000mLを10mL/minの流速で各燃料電池スタック15に循環供給させ、環境温度25℃、湿度50%の大気環境にて、100mA/cm2の電流密度に相当する電流値で3時間発電試験を行った。3時間経過しなくても、全体の電圧が5V以下になったら発電を停止させた。
図13は発電結果を示している。比較例1では、1時間後の電圧は5.1Vであった。比較例1では、均一性のよい空気供給ができないため、燃料電池セル間の特性に不均一が発生し、初期から電圧が低く、1時間を越えてしばらくしてから5V以下となったため、発電を停止させた。空気流自体には、カソード31およびMEA13を冷却する効果もあるが、比較例1では、空気流が十分に届かないMEA13で温度が上昇したため、初期の電圧は見かけ上高くなったが、長時間発電させることによって電圧は低下した。
実施例1では、空気流空間29を流れる空気流に方向性が持たされるため、2時間後の電圧が5.3Vと、比較例1よりかは安定した発電ができたが、2時間を越えたところで5V以下となったため、発電を停止させた。やはり、空気が十分に供給されない部分で、MEA13温度が高くなったために、電圧は高めであったが、カソード31で生成した水が空気流に乗って放出される効果が小さいため、フラッディングによって電圧が低下していった。
実施例2では、2時間後の電圧が5.1Vであった。即ち、比較例1と比較して長時間電圧を維持することができた。但し、両端の列で空気供給が相対的に少なくなり、温度上昇にいたったため、0.5時間では電圧が高かったものの、やがてその両端の列でフラッディングが起こり、むしろ実施例1よりも早い段階で電圧低下にいたった。
実施例3では、3時間後の電圧が6.3Vであった。即ち、比較例1、実施例1、2と比較して安定した発電が継続できた。ガイド板27があるため、両端の列でも空気供給が十分であり、フラッディングも起こらなかった。
実施例4では、3時間後の電圧が6.2Vであった。即ち、実施例3とほぼ同様の結果であり、比較例1、実施例1、2と比較して安定した発電が継続できた。即ち、ファン51と燃料電池スタック15との距離を最小化できたにもかかわらず、安定した発電が継続できた。
このように、実施例1〜4、特に実施例3および4に示した本発明の方法を用いると、複数列からなる平面スタック型燃料電池の、各燃料電池セル11に対し、発電に十分な空気供給が行われ、長時間安定した発電が可能となる。とりわけ、実施例4のように整流空間28を最小化することもできるため、PCなどの比較的高出力を必要とする携帯機器への燃料電池搭載で有利となる。