以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。図1はエンジンの制御装置の概略構成を、 図2は自動変速機31及びその制御装置の概略構成を示し、エンジン1と自動変速機31とは車両に搭載されている。
図1においてエンジン1の吸気コレクタ7の上流には、吸入空気量を制御するスロットル弁5が設置されている。スロットル弁5は、エンジンコントローラ15からの信号により作動するステップモータ10(スロットル開度調整手段)によりその開度が制御される。
エンジン1の燃焼室8aには、点火プラグ24と共に燃料噴射弁13が設置されている。燃料噴射弁13は、エンジンコントローラ15からエンジン回転に同期して所定のタイミングに出力される燃料噴射パルス信号によりソレノイドに通電されて開弁し、燃料ポンプ12により吐出され所定圧力に調圧された燃料タンク11からの燃料を噴射するようになっている。
エンジン1の排気通路19には、排気浄化用の触媒22が設けられている。
エンジンコントローラ15には、アクセルペダルセンサ(図示しない)により検出されるアクセル開度、クランク角センサ16により検出されるエンジン回転速度、エアフローメータ3により検出される吸入空気流量、スロットルセンサ18により検出されるスロットル開度、水温センサ25により検出されるエンジン冷却水温が入力されている。
エンジンコントローラ15は、これらの入力信号より検出されるエンジン運転条件に基づいて、燃焼方式(均質燃焼、成層燃焼)を設定し、これに合わせて、スロットル弁5の開度、燃料噴射弁13の燃料噴射時期及び燃料噴射弁13からの燃料噴射量、点火プラグ24の点火時期を制御する。
エンジン1と連結される自動変速機31は内部にトルクコンバータを備え、エンジン1の駆動力をトルクコンバータを介して内部の変速機構に伝達することで変速を実行して駆動輪側に出力している。自動変速機用コントローラ61は、自動変速機31を、車両の走行状態、エンジン1の運転状態及び運転者によるシフト操作に応じて要求される変速比とするために、内部のクラッチ、ブレーキの係合・開放の組合せを油圧制御回路55を介して調整している。
図2において、自動変速機31は、トルクコンバータ31aと、前進5段後進1段のドライブ機構部31bとを備えている。トルクコンバータ31aは、ポンプインペラ41、タービンランナ42、ステータ43及びロックアップ機構44を備えたものであり、エンジン1のクランク軸2の出力をポンプインペラ41からタービンランナ42へ流動体を介して伝達する。
トルクコンバータ31aから駆動力がインプットシャフト32を介して伝達されるドライブ機構部31bは、サンギヤ51a、52a、53a、インターナルギヤ51b、52b、53b及びキャリヤ51c、52c、53cからなる3列の遊星歯車装置51、52、53を備えている。この3列の遊星歯車装置51、52、53の回転状態は、クラッチC1、C2、C3、ブレーキB1、B2、B3、B4及びワンウェイクラッチF1、F2、F3によって調整されている。
ドライブ機構部31bから駆動力はアウトプットシャフト33、図示しないドライブシャフト、作動歯車装置を介して駆動輪に伝達される。
変速に際しては自動変速機用コントローラ61が油圧制御回路55を介して、前記クラッチC1〜C3、ブレーキB1〜B4を係合・開放している。このうち、ワンウェイクラッチF2(フォーワードワンウェイクラッチ)は、エンジン1から駆動輪への動力伝達径路を断接するクラッチであり、自動変速機31が前進レンジ(Dレンジ)にシフトされているときに係合されて動力伝達経路を接続するクラッチである。そして、油圧制御回路55はワンウェイクラッチF2の油圧をコントロールバルブにより任意に調節することが可能であり、自動変速機用コントローラ61は後述するニュートラル制御を行うことが可能となっている。
自動変速機用コントローラ61には、運転者によるシフトレバーの位置を検出するシフトポジションスイッチ71、自動変速機31のアウトプットシャフト33の回転速度から車速を検出する車速センサ72、タービンランナの回転速度(=自動変速機のインプットシャフト32の回転速度)を検出するタービンセンサ73、フットブレーキによる制動状態を検出するブレーキスイッチ74などからの信号が入力されている。
自動変速機用コントローラ61では上述した各種センサからの検出内容に基づいて、予め設定されたスロットル開度と車速とをパラメータとする変速点マップに従って、油圧制御回路55内のソレノイドバルブ等を駆動している。このことにより前述したごとく各クラッチC1〜C3、ブレーキB1〜B4の係合の組合せを行って変速制御を行っている。
また、自動変速機用コントローラ61はエンジンコントローラ15との間で通信を行い、互いに必要な情報をやりとりしている。
一層の燃費向上のため自動変速機31のシフトレバー位置がDレンジにあるアイドル状態(以下単に「Dレンジアイドル状態」という。)での車両停止時にニュートラル制御を行うものがある。ここで、「ニュートラル制御」とは、Dレンジアイドル状態での車両停止時に、自動変速機内のフォワードワンウェイクラッチF2を開放するかまたはスリップ状態とすることで自動変速機31をニュートラル状態やこれに近い状態とし、エンジンに作用する変速機負荷(エンジン負荷)を減らすようにするものである。アイドル時にエンジン回転速度を目標アイドル回転速度へと維持するフィードバック制御を行うにしても、エンジン負荷を減らせばその分燃料噴射量を少なくでき、これによって燃費を向上させることができるわけである。
一方、エンジンの排出ガス浄化用の触媒を早期に暖機するために点火時期を圧縮上死点後まで遅角させつつ成層燃焼を行わせるリタード成層燃焼が知られている(たとえば、特開2008−25535号公報参照)。このリタード成層燃焼について概説すると、触媒22が活性化していない場合に、点火時期を圧縮上死点後の例えば15〜30degに設定して点火を行う。また、燃料噴射時期(燃料噴射開始時期のこと。以下同じ。)を、圧縮上死点後でかつ点火時期の前、つまり膨張行程に設定して燃料噴射を行う。燃料噴射はさらに2回に分割し、2回目の燃料噴射を膨張行程での燃料噴射とし、これに先立つ1回目の燃料噴射として圧縮行程で燃料噴射を行う。また、燃料噴射による燃焼室内の空燃比(燃料噴射を2回に分割しているので2回の燃料噴射トータルによる燃焼室内の空燃比)は、理論空燃比から若干リーン側の空燃比(例えば16〜17)とする。このように2回目の燃料噴射に先立ち、1回目の燃料噴射として圧縮行程での燃料噴射を行うと、1回目の燃料噴射が吸気行程での燃料噴射である場合に比べて、圧縮行程での燃料噴射のほうがその燃料噴霧によるガス乱れの減衰が遅くなる分、1回目の燃料噴射によるガス乱れが燃焼室内に残るため、その状態で2回目の燃料噴射(膨張行程での燃料噴射)を行うことで、1回目の燃料噴射で生成したガス乱れを助長するようにガス乱れを強化でき、膨張行程においても燃焼室内ガス流動を十分に強化できることとなる。点火時期を圧縮上死点後に遅らせてのこうした燃焼も成層燃焼であるが、点火時期が圧縮上死点前にくる通常の成層燃焼と区別するため、点火時期を圧縮上死点後に遅らせているこのような燃焼形態を「リタード成層燃焼」と名付けている。
特開2008−25535号公報に記載のリタード成層燃焼はスプレーガイド方式といわれるものであるが、本実施形態で採用するリタード成層燃焼はこれに限らずウォールガイド方式のリタード成層燃焼でもかまわない。上記のスプレーガイド方式のリタード成層燃焼では、ピストン冠面は平面であるため、燃料噴射弁からの噴霧(特に2回目の燃料噴射による噴霧)を噴霧の貫徹力を利用して直接点火プラグ周りに到達させるようにしているが、ウォールガイド方式のリタード成層燃焼では、ピストン冠面にキャビティを形成し、燃料噴射弁からの噴霧(特に2回目の燃料噴射による噴霧)をこのキャビティに向かわせた後に、キャビティ内で反転させて点火プラグ周りに到達させるようにしている。このため、ウォールガイド方式のリタード成層燃焼では噴射時期がスプレーガイド方式のリタード成層燃焼と若干相違し、1回目の燃料噴射は圧縮行程前半での燃料噴射、2回目の燃料噴射は圧縮行程後半での燃料噴射となっている。
本実施形態は、これらリタード成層燃焼を2回の分割噴射により行うものに限定されるものでない。すなわち、リタード成層燃焼を1回のみの燃料噴射により行う場合(たとえば、リタード成層燃焼を2回の分割噴射により行うものにおいて1回目の燃料噴射を省略し、2回目の燃料噴射だけを行う場合)でもかまわない。また、リタード成層燃焼では、点火時期の遅角に伴うエンジン発生トルクの減少を補わせる目的で、スロットル開度をアイドル相当値よりも大きな所定値としている。
さて、ニュートラル制御中にブレーキスイッチがONからOFFへと切換わった(ニュートラル制御を行わせるための条件の一つが不成立となった)ときには運転者の車両発進に備えるため、ニュートラル制御を解除しなければならない。すなわち、自動変速機内のフォワードワンウェイクラッチF2を開放するかまたはスリップ状態としていたのを中止し、代わってフォワードワンウェイクラッチF2を締結し、エンジンに作用する変速機負荷を増すことで自動変速機31をニュートラル制御を行う前の状態(つまり車両にクリープが生じる状態)としなければならない。また、ニュートラル制御の解除中に触媒22が活性化したり運転者によりアクセルペダルが踏み込まれたときには、リタード成層燃焼から均質燃焼へと切換える必要がある。このようにニュートラル制御の解除と、リタード成層燃焼から均質燃焼へと切換える必要とが生じた場合に、ニュートラル制御の解除及びその解除に伴うショック(変速ショック)を回避するための第1の点火時期の遅角と、リタード成層燃焼から均質燃焼への切換及びその切換に伴うトルク増加を回避するための第2の点火時期の遅角とを重複して行わせたのでは、全体の点火時期の遅角量が過大となって遅角側の燃焼安定限界を超えてしまうことが考えられ、このとき失火が発生し、運転性や排気性能が悪化する。また、燃焼安定限界を考慮して遅角量に上限値を設けるなど制約をつけると、十分なトルクダウンを行うことができずにアイドル時のエンジン回転速度が上昇し、その回転上昇分だけ自動変速機31のクラッチ等に加わる負荷が大きくなり、自動変速機の耐久性が悪化したり、変速ショックが発生することが考えられる。
そこで本実施形態では、ニュートラル制御の解除と、リタード成層燃焼から均質燃焼へと切換える必要とが生じた場合に、ニュートラル制御の解除及びその解除に伴うショックを回避するための第1の点火時期の遅角を開始するタイミングと、リタード成層燃焼から前記均質燃焼への切換及びその切換に伴うトルク増加を回避するための第2の点火時期の遅角を開始するタイミングとがずれるようにリタード成層燃焼から均質燃焼へと切換える指令を出す(後述するように燃焼切換指令フラグをゼロから1へと切換え)。
この制御を図3を参照してさらに説明する。図3はDレンジアイドル状態でのニュートラル制御中かつリタード成層燃焼中にt1でブレーキスイッチがONからOFFへと切換わったためにニュートラル制御の解除を開始し、そのニュートラル制御解除中にt2で触媒22が活性化したためリタード成層燃焼から均質燃焼へと切換える場合に、燃焼切換条件、ブレーキスイッチ、ニュートラル制御フラグ、目標アイドル回転速度、スロットル開度、シリンダ(燃焼室8a)に流入するシリンダ吸入空気量(以下単に「シリンダ吸入空気量」という。)、フォワードワンウェイクラッチ、燃焼形態、点火時期がどのように変化するのかをモデルで示している。
さて、Dレンジアイドル状態での車両停止時に触媒22が活性化していなければ、ニュートラル制御とリタード成層燃焼とが行われている。ニュートラル制御フラグはニュートラル制御を行うか、それともニュートラル制御を解除するかを指示するフラグであり、ニュートラル制御中はニュートラル制御フラグ=1となっている(図3第3段目を参照)。このとき、フォワードワンウェイクラッチF2は開放されている(図3第7段目を参照)。
また、リタード成層燃焼では、スロットル開度をアイドル相当値TVOidlより上昇代ΔTVO(=ΔTVO1+ΔTVO2)だけ高い所定値TVO1(=TVOidl+ΔTVO)とし、点火時期を圧縮上死点後の値(例えばATDC20[deg])としている。ここで、スロットル開度をアイドル相当値TVOidlから上昇代ΔTVOだけステップ的に大きくするのは、リタード成層燃焼における、均質燃焼時の点火時期からの大きな点火時期リタード(遅角)によってエンジン発生トルクが低下するので、そのエンジン発生トルクの低下分を、スロットル開度を上昇代ΔTVOだけステップ的に大きくすることによってシリンダ吸入空気量を増やし、このシリンダ吸入空気量の増加分だけ燃料噴射弁13からの燃料噴射量を増やしエンジン発生トルクを増加させることで、相殺させ、リタード成層燃焼時にもエンジンを安定して回転させるためである。
さらに本実施形態では、目標アイドル回転速度をDレンジアイドル状態での目標アイドル回転速度(例えば800rpm)より一定値だけ高い所定値(例えば1000rpm)としている。このように、ニュートラル制御時かつリタード成層燃焼時に目標アイドル回転速度を一定値だけ高くするのは、燃料噴射量をさらに増やしてリタード成層燃焼での燃焼安定性をより確実にするためである。ただし、本発明はこの場合に限らず、ニュートラル制御時かつリタード成層燃焼時にDレンジアイドル時の目標アイドル回転速度(800rpm)のままとするものにも適用がある。
次に、Dレンジアイドル状態での車両停止時に運転者がブレーキペダルを離したことによりブレーキスイッチがt1のタイミングでONからOFFに切換わると、ニュートラル制御を解除するため、ニュートラル制御フラグがt1で1よりゼロに切換わる(図3第3段目を参照)。このニュートラル制御フラグのゼロへの切換を受けて、フォワードワンウェイクラッチF2を締結する信号をエンジンコントローラ15が出す。この信号はエンジンコントローラ15より自動変速機用コントローラ61に送信され、自動変速機用コントローラ61では油圧制御回路55を介してフォワードワンウェイクラッチF2を締結する。この場合、エンジンコントローラ15と自動変速機用コントローラ61との間の通信に所定の時間を要しないとしても、自動変速機用コントローラ61が締結指令を油圧制御回路55に出力するタイミングから実際にフォワードワンウェイクラッチF2が締結完了状態となるまでには機械的な応答遅れがあるので、t1より大きく遅れたt3のタイミングでフォワードワンウェイクラッチF2の締結が実際に完了している(図3第7段目参照)。すなわち、t1でニュートラル制御の解除を開始したとき、t3でニュートラル制御の解除が完了するのであり、t1よりt3までがニュートラル制御の解除中を表す期間となる。
このt1からt3までの期間では、フォワードワンウェイクラッチF2の締結に伴うショックが生じてしまう。このショックを抑制するためにはt1のタイミングより点火時期の遅角を行わせることである。このようなクラッチ締結に伴うショックを抑制するための点火時期の遅角(図3では「遅角A」で略記。)を、以下「第1の点火時期の遅角」という。第1の点火時期の遅角量は次のように与える。すなわち、クラッチ締結に伴うショックは実エンジン回転速度Neの上昇として現れるので、目標アイドル回転速度NSETと実エンジン回転速度Neの差ΔNe(=Ne−NSET)を算出し、その回転速度差ΔNeに比例させて第1の点火時期の遅角量を、つまり
第1の点火時期の遅角量=ΔNe×比例ゲイン …(補1)
の式により第1の点火時期の遅角量を算出する。この結果、第1の点火時期の遅角量は図3最下段に示したようにt1で最も大きく、その後、時間と共に小さくなる値となる。
また、フォワードワンウェイクラッチF2が締結し始めて変速機負荷がエンジンに作用した状態でもリタード燃焼を行わせると、燃焼振動が車両側に伝達されやすくなる。そこで、スロットル開度を所定値TVO1から、この所定値TVO1とアイドル相当値TVOidlの間の中間値TVO2(=TVO1−ΔTVO1)へとステップ的に小さくして、アイドル回転速度を1000rpmから800rpmへと落とす。これにより、アイドル回転速度の低下によって車両側に伝達される燃焼振動を抑制できる。
一方、ニュートラル制御の解除中であるt2のタイミングで触媒22が活性化したとすると、リタード成層燃焼から均質燃焼への燃焼切換条件が成立するため、リタード成層燃焼から均質燃焼へと切換える必要がある。図示していないが、t2のタイミングでスロットル開度を中間値TVO2よりアイドル相当値TVOidlへとステップ変化させる共に、リタード成層燃焼から均質燃焼へと切換えるときには、今度はt2からシリンダ吸入空気量の応答遅れに伴うトルク増加と燃焼形態の切換に伴うトルク増加とが合わせて生じる。このt2からのシリンダ吸入空気量の応答遅れに伴うトルク増加と燃焼形態の切換に伴うトルク増加とを抑制するため、t2より点火時期の遅角を行わなければならない。このようにシリンダ吸入空気量の応答遅れに伴うトルク増加とリタード成層燃焼から均質燃焼への切換えに伴うトルク増加とをともに回避するための点火時期の遅角を、以下「第2の点火時期の遅角」という。
しかしながら、上記第1の点火時期の遅角はt1で瞬時に終わるものでなく、図3最下段に示したように暫くは第1の点火時期の遅角が続いている。このため、第1の点火時期の遅角を行っている途中のt2のタイミングで第2の点火時期の遅角を行うとすれば、2つの点火時期の遅角が重複することとなり、制御の干渉が生じて好ましくない事態が生じ得る。
本実施形態ではこうした2つの点火時期の遅角が重複することによるこうした制御の干渉を避けるため、ニュートラル制御の解除が完了するタイミング、つまりフォワードワンウェイクラッチの締結が完了するt3のタイミングまでリタード成層燃焼から均質燃焼への切換及び第2の点火時期の遅角の開始を遅らせる。言い替えると、リタード成層燃焼から均質燃焼への切換及び第2の点火時期の遅角を開始するか否かは燃焼切換指令が出ているか否かに依存させているので、燃焼切換条件が成立するt2のタイミングで即座に燃焼切換指令を出すのではなく、ニュートラル制御の解除が完了するタイミング、つまりフォワードワンウェイクラッチの締結が完了するt3のタイミングまで待って燃焼切換指令を出す(燃焼切換指令フラグをゼロから1へと切換える)のである。この結果、図3においてt3のタイミングでは第1の点火時期の遅角量はかなり小さくなっており、従ってt3で第2の点火時期の遅角を開始しても問題ないレベルにあると考えられる。
さて、燃焼切換指令を出すt3タイミングでリタード成層燃焼から均質燃焼へと切換える、つまりスロットル開度を中間値TVO2からアイドル相当値TVOidlへとステップ的に小さくすると共に、リタード成層燃焼での点火時期及び噴射開時期から均質燃焼での点火時期及び噴射開始時期へと一気に切換えるときには、シリンダ吸入空気量の応答遅れに伴うトルク増加と燃焼形態の切換に伴うトルク増加とが生じDレンジアイドル状態でのエンジン回転速度がt3より目標アイドル回転速度(800rpm)を超えて一時的に大きくなるので(図3第4段目の一点鎖線参照)、このシリンダ吸入空気量の応答遅れに伴うトルク増加と燃焼形態の切換に伴うトルク増加とを抑制するため、第2の点火時期の遅角を行う。
さらに本実施形態では、スロットル開度を中間値TVO2からアイドル相当値TVOidlへとステップ的に小さくするタイミングと、リタード成層燃焼での点火時期及び噴射開時期から均質燃焼での点火時期及び噴射開始時期へと切換えるタイミングとを同じにするのではなく、スロットル開度を減少させるタイミングと燃焼形態を切換えるタイミングとを時間的にずらせている。すなわち、t3ではスロットル開度を中間値TVO2からアイドル相当値TVOidlへと減少させるのみとし、t3よりも遅れたt4のタイミングで燃焼形態をリタード成層燃焼から均質燃焼へと切換えるようにしている。このように燃焼形態の切換をt3よりt4へと遅らせるようにしたのは次の理由による。すなわち、リタード成層燃焼から均質燃焼へと切換えた当初の第2の点火時期の遅角量は、Dレンジアイドル状態での最適な点火時期、つまりMBTより若干遅角側の点火時期(図3では例えばBTDC15[deg])を基準として最大の遅角量となる。そして、この最大の遅角量を初期値としてその後の第2の点火時期の遅角量は、シリンダ吸入空気量の応答と同じ応答で小さくなり、やがてシリンダ吸入空気量が収束するt5のタイミングでゼロとなる。この場合に、リタード成層燃焼から均質燃焼へと切換えた当初の点火時期(つまりG点の点火時期)が均質燃焼での点火時期の遅角側の燃焼安定限界LMTrtdと仮に一致していれば、t4より早いタイミングでリタード成層燃焼から均質燃焼へと切換えることはできない。これは、t4より早いタイミングでリタード成層燃焼から均質燃焼へと切換えるとすれば、そのときの点火時期として均質燃焼での点火時期の遅角側の燃焼安定限界LMTrtdを超えてリタードする値を与えてしまうことになり、失火を生じる恐れがあるためである。言い替えると、リタード成層燃焼から均質燃焼へと切換えた当初の点火時期が均質燃焼での点火時期の遅角側の燃焼安定限界LMTrtdと一致するタイミング(図3でt4)まで待って燃焼形態をリタード成層燃焼から均質燃焼へと切換えなければならないのである。
このように本実施形態では、ニュートラル制御の解除が完了するt3のタイミングではなく、リタード成層燃焼から均質燃焼へと切換えた当初の点火時期が均質燃焼での点火時期の遅角側の燃焼安定限界LMTrtdと一致するt4のタイミングまで待って燃焼形態をリタード成層燃焼から均質燃焼へと切換え、このt4のタイミングより第2の点火時期の遅角(図3では「遅角B」で略記。)を開始する。第2の点火時期の遅角量は、リタード成層燃焼から均質燃焼へと切換えた当初の点火時期、つまり図3で最大の遅角量C(=LMTltdとBTDC15[deg]との差)を初期値として一次遅れで小さくなる値で与える。この第2の点火時期の遅角量の応答の時定数はシリンダ吸入空気量の応答の時定数と同じである。具体的には図4に示したように初期値と第2の点火時期の遅角量との差を中間処理値とすると、中間処理値は、
中間処理値=初期値×K+中間処理値(前回)×(1−K) …(補2)
ただし、中間処理値(前回);中間処理値の前回値、
K;加重平均係数、
の式により漸化式として求めることができる。そして、上記(補2)式により求まる中間処理値を用いれば、第2の点火時期の遅角量を、
第2点火時期遅角量=初期値−中間処理値値 …(補3)
の式により求めることができる。
ここで、上記(補2)式の初期値、つまり図3で最大の遅角量Cを定める均質燃焼での点火時期の遅角側の燃焼安定限界LMTltdと、Dレンジアイドル状態での最適な点火時期(BTDC15[deg])とはエンジンの仕様と使用燃料の素質とから定まるので、実験やシミュレーションにより適合値を予め求めておく。(補2)式の加重平均係数Kはシリンダ吸入空気量の応答の時定数と逆数の関係にあり、この値も実験やシミュレーションにより最適値を予め求めておく。
次に、図3においてt3での点火時期(E点の点火時期)からt4での点火時期(G点の点火時期)までの点火時期を与える方法を説明する。図5はエンジン回転速度とエンジントルクとを一定に保った状態でリタード成層燃焼から均質燃焼へと燃焼形態を切換えるときの、点火時期ADVとシリンダ吸入空気量Qcylとの関係がどうなるのかをまとめた実験結果を示している。図5には図3最下段に示したE点、F点、G点、H点に相当する点に同じE点、F点、G点、H点を書き入れている。図5においてF点よりG点までがリタード成層燃焼が成立する領域、H点から右側が均質燃焼の領域、そしてG点からH点までがリタード成層燃焼から均質燃焼への遷移領域である。また、E点はG点からF点までの曲線を左上方向に延長させた延長線の上にある。リタード成層燃焼と均質燃焼との燃焼効率差による定常的な空気量段差があるため、リタード成層燃焼が成立する領域内でも、リタード成層燃焼から均質燃焼への切換に際しては図示のF点からG点へと、シリンダ吸入空気量の減少につれて圧縮上死点後にある点火時期を進角させていかなければならない。同様にして図示のE点からF点へも、シリンダ吸入空気量の減少につれて圧縮上死点後にある点火時期を進角させていかなければならない。また、G点ではリタード燃焼を解除して遷移領域での制御へと切換える必要がある。従って、E点からG点までの点火時期を与えるには、図5を特性とするテーブルを記憶させておき、そのときのシリンダ吸入空気量Qcylからそのテーブルを検索させることによりE点からG点までの点火時期を求めればよいことがわかる。
自動変速機用コントローラ61と協動しつつエンジンコントローラ15で実行されるこの制御を図6から図8までのフローチャートに基づいて詳述する。ただし、自動変速機用コントローラ61ではエンジンコントローラ15からの指令を受けてフォワードワンウェイクラッチF2を締結状態から開放状態にすると共に、フォワードワンウェイクラッチF2の締結が完了したか否かの情報をエンジンコントローラ15に提供するだけであり、残りは全てエンジンコントローラ15が実行する。
まず、図6はニュートラル制御開始フラグを設定するためのもので、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
ステップ1〜6では
〈1〉Dレンジであること、
〈2〉アイドル状態であること(アクセルペダルが踏み込まれていないこと)、
〈3〉ブレーキスイッチ74がONであること、
〈4〉車速がゼロまたは所定値以下であること、
〈5〉冷却水温が所定範囲にあること、
〈6〉変速機の油温が所定範囲にあること
の各条件が成立するか否かをみて、いずれか一つでも成立しないときにはステップ9に進んでニュートラル制御開始フラグ=0とする。これに対して上記〈1〉〜〈6〉の全ての条件が成立するときにはニュートラル制御条件が成立したと判断しステップ7に進んでニュートラル制御開始フラグ=1とすると共に、ステップ8で自動変速機をニュートラル状態とするためフォワードワンウェイクラッチF2を開放することを自動変速機用コントローラ61に送信する。自動変速機用コントローラ61ではこの送信を受けてフォワードワンウェイクラッチF2を締結状態から開放状態へと切換える。
ここで、上記〈1〉のDレンジであるか否かはシフトポジションスイッチ71により検出される。上記〈2〉のアイドル状態であるか否かはアクセルペダルセンサ(図示しない)により検出される。上記〈4〉の車速がゼロまたは所定値以下であるか否かは車速センサ72により検出される。上記〈5〉の冷却水温が所定範囲にあるか否かは水温センサ25により検出される。上記〈6〉の変速機の油温が所定範囲にあるか否かは図示しない油温センサにより検出される。
図7は燃焼切換指令フラグを設定するためのもので、図6のフローに続けて一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
ステップ11〜14では
〈7〉Dレンジアイドル状態であること、
〈8〉ニュートラル制御フラグ(図6により設定済み)=0であること、
〈9〉触媒22は活性状態にあること、
〈10〉フォワードワンウェイクラッチの締結が完了していること
の各条件が成立するか否かをみて、いずれか一つでも成立しないときにはステップ16に進んで燃焼切換指令フラグ=0とする。これに対して上記〈7〉〜〈10〉の全ての条件が成立するときには燃焼形態をリタード成層燃焼から均質燃焼へと切換えるためステップ15に進んで燃焼切換指令フラグ=1とする。さらに述べると、ステップ13で触媒22が活性状態となっていてもステップ14でフォワードワンウェイクラッチの締結が完了していなければ燃焼切換指令フラグはゼロから1へと切換わらない。すなわち、燃焼切換指令フラグは触媒22が活性状態となるタイミングではなくて、それより遅れてフォワードワンウェイクラッチの締結が完了するタイミングでゼロから1へと切換わる。
ここで、上記〈9〉の触媒22が活性状態にあるか否かは触媒温度センサ(図示しない)により検出される。上記〈10〉のフォワードワンウェイクラッチF2の締結が完了しているか否かはフォワードワンウェイクラッチF2の前後に設けたセンサ(図示しない)により検出される回転速度差に基づいて自動変速機用コントローラ61により検出される。そして、その結果は自動変速機用コントローラ61よりエンジンコントローラ15に送信されているため、エンジンコントローラ15では、この送信結果を用いることとなる。
図8はDレンジアイドル状態での目標スロットル開度を算出するためのもので、図7のフローに続けて一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
ステップ21ではDレンジアイドル状態であるか否かをみる。Dレンジアイドル状態であるときにはステップ22、23、28に進み今回と前回のニュートラル制御フラグ(図6により設定済み)をみる。ステップ22、23で今回にニュートラル制御フラグ=0でありかつ前回にニュートラル制御フラグ=1であったとき、つまり今回にニュートラル制御フラグが1からゼロに切換わったときにはステップ24に進み、中間値TVO2をスロットル開度基本値TVObに入れる。中間値TVO2は適合により予め定めておく。
これに対してステップ22、23で今回にニュートラル制御フラグ=0でありかつ前回にニュートラル制御フラグ=0であったとき、つまりニュートラル制御フラグ=0が継続しているときにはステップ25に進み、燃焼切換指令フラグ(図7により設定済み)をみる。燃焼切換指令フラグ=0であるときにはステップ26に進み、スロットル開度基本値TVObを維持、つまり前回のスロットル開度基本値(=TVO2)をそのまま今回のロットル開度基本値TVObに移す。ステップ25で燃焼切換指令フラグ=1であるときにはステップ27に進み、アイドル相当値TVOidl(Dレンジアイドル状態でのスロットル開度)をスロットル開度基本値TVObに入れる。
一方、ステップ22、28で今回にニュートラル制御フラグ=1でありかつ前回にニュートラル制御フラグ=0であった、つまり今回にニュートラル制御フラグがゼロから1に切換わったときにはステップ29に進み、所定値TVO1(=TVOidl+ΔTVO)をスロットル開度基本値TVObに入れる。
これに対してステップ22、28で今回にニュートラル制御フラグ=1でありかつ前回にニュートラル制御フラグ=1であったとき、つまりニュートラル制御フラグ=1が継続しているときにはステップ26に進み、スロットル開度基本値TVObを維持、つまり前回のスロットル開度基本値(=TVO1)をそのまま今回のロットル開度基本値TVObに移す。
ステップ30〜36は実エンジン回転速度が目標アイドル回転速度と一致するようにスロットル開度のフィードバック制御を行う部分である。ステップ30では、目標アイドル回転速度NSETと実エンジン回転速度Neの偏差を、つまり
ΔN2=NSET−Ne …(1)
ただし、NSET;目標アイドル回転速度、
Ne;実エンジン回転速度、
の式により回転速度偏差ΔN2を算出し、ステップ31でこの回転速度偏差ΔN2の絶対値|ΔN2|と許容値を比較する。許容値はアイドル状態で実エンジン回転速度Neが目標アイドル回転速度NSETの付近に収まっているか否かを判定するための値で、例えば25rpmである。回転速度偏差絶対値|ΔN2|が許容値を超えているときには実エンジン回転速度Neが目標アイドル回転速度NSETの付近に収まっていないと判断しステップ32に進んで回転速度偏差ΔN2とゼロとを比較する。回転速度偏差ΔN2が正、つまり実エンジン回転速度Neが目標アイドル回転速度NSET−許容値を下回っているときには実回転速度Neを高くして目標アイドル回転速度NSETの付近に戻すためステップ33で前回のフィードバック量に所定値ZOUを加算した値を今回のフィードバック量として、つまり、
FB=FB(前回)+ZOU …(2)
ただし、FB(前回):前回のFB、
ZOU:所定値、
の式によりスロットル開度のフィードバック量FBを更新する。これに対して、ステップ32で回転速度偏差ΔN2が負、つまり実エンジン回転速度Neが目標アイドル回転速度NSET+許容値を上回っているときには実回転速度Neを低くして目標アイドル回転速度NSETの付近に戻すためステップ34進み前回のフィードバック量から所定値GENを減算した値を今回のフィードバック量として、つまり、
FB=FB(前回)−GEN …(3)
ただし、FB(前回):前回のFB、
GEN:所定値、
の式によりスロットル開度のフィードバック量FBを更新する。一方、ステップ31で回転速度偏差ΔN2の絶対値|ΔN2|が許容値以下であるときには実エンジン回転速度Neが目標アイドル回転速度NSETの付近に収まっていると判断しステップ35に進み、スロットル開度のフィードバック量を維持、つまり前回のフィードバック量を今回のフィードバック量に移す。
ステップ36では、このようにして得たスロットル開度のフィードバック量FBをスロットル開度基本値TVObに加算して、つまり
TVOm=TVOb+FB …(4)
の式によりDレンジアイドル状態での目標スロットル開度TVOmを算出する。
このようにして算出した目標スロットル開度TVOmは、図示しないフローにおいてステップモータ10へのステップ数に変換され、このステップ数がステップモータ10に出力される。これによりDレンジアイドル状態で実エンジン回転速度Neが目標アイドル回転速度NSETと一致するようにスロットル開度のフィードバック制御が行われる。
図9はDレンジアイドル状態での点火時期を算出すると共に燃焼形態に応じた噴射開始時期を設定するためのもので、図7のフローに続けて一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
ここで、均質燃焼での点火時期は圧縮上死点前にあり、リタード成層燃焼での点火時期は圧縮上死点後にある。このため、圧縮上死点を起点として進角側に計測するクランク角[degBTDC]を採用すると、リタード成層燃焼での点火時期は負の値となって扱いにくい。そこで、本実施形態では、例えば吸気下死点(BDC)を起点として遅角側に計測するクランク角[degABDC]を採用している。このように点火時期の起点を取り直すことで、均質燃焼時、リタード成層燃焼時のいずれも点火時期を正の値で扱うことができる。
ステップ51ではDレンジアイドル状態であるか否かをみる。Dレンジアイドル状態であるときにはステップ52、55に進んで触媒22が活性状態及びニュートラル制御フラグ(図6により設定済み)、燃焼切換指令フラグ(図7により設定済み)をみる。ステップ52で触媒22が未活性状態にありかつニュートラル制御フラグ=1であるときにはステップ53に進み、点火時期ADV[degABDC]に所定値ADV1[degABDC]を入れる。本実施形態では、Dレンジアイドル状態での車両停止時にニュートラル制御を行いつつつリタード成層燃焼を行って触媒22の早期暖機を行わせるので、所定値ADV1はこのリタード成層燃焼での最適な点火時期(図3ではATDC20[deg])である。
これに対してステップ52、55で触媒22の活性状態にあるか否かに拘わらず、ニュートラル制御フラグ=0かつ燃焼切換指令フラグ=0であるときには、フォワードワンウェイクラッチの締結に伴うショックが生じると判断し、ステップ56〜58でこのショックを回避するための点火時期の遅角、つまり第1の点火時期の遅角を行わせる。すなわち、ステップ56では実エンジン回転速度Neから目標アイドル回転速度NSETを差し引いて回転速度偏差を、つまり、
ΔN1=NSET−Ne …(5)
ただし、NSET;目標アイドル回転速度、
Ne;実エンジン回転速度、
の式により回転速度偏差ΔN1を算出し、その回転速度差ΔNeに比例させて第1の点火時期の遅角量RTD1を、つまり
RTD1=ΔNe×Gp …(6)
ただし、Gp;比例ゲイン、
の式により第1の点火時期の遅角量RTD1[deg]を算出する。この結果、第1の点火時期の遅角量RTD1は図3最下段に示したようにt1で最も大きく、その後は時間と共に小さくなる値となる。
ステップ58では、この第1の点火時期の遅角量RTD1を所定値ADV1に加算した値を点火時期ADV[degABDC]として算出する。上記のように点火時期ADVには吸気下死点(BDC)を起点として遅角側に計測するクランク角[degABDC]を採用しているので、(6)式において第1の点火時期の遅角量RTD1を加算することは、点火時期を遅角側に補正することを意味する。
ステップ54ではリタード成層燃焼での噴射開始時期を設定する。リタード成層燃焼での噴射開始時期はウォールガイド方式の場合、1回目は圧縮行程前半、2回目は圧縮行程後半にある。
一方、ステップ52、55でニュートラル制御フラグ=0かつ燃焼切換指令フラグ=1であるときにはニュートラル制御の解除が完了したと判断し、ステップ59以降に進む。ステップ59、60は図3最下段においてE点からG点直前までの点火時期を、これに対してステップ61〜65は図3最下段においてG点以降の点火時期、つまり均質燃焼での点火時期を算出する部分である。まず、ステップ59では、そのときのシリンダ吸入空気量Qcylから図5を内容とするテーブルを検索することにより、E点からG点直前までの点火時期ADV[degABDC]を算出する。ここで、シリンダ吸入空気量Qcylの算出方法は特開2001−50091号公報により公知である。ステップ60ではこの算出した点火時期ADVと均質燃焼での点火時期の遅角側燃焼安定限界LMTrtd[degABDC]とを比較する。ここで、均質燃焼での点火時期の遅角側燃焼安定限界LMTrtdは予め適合により求めておく。点火時期ADVが均質燃焼での点火時期の遅角側燃焼安定限界LMTrtdより大きいときにはまだ均質燃焼での点火時期の遅角側燃焼安定限界LMTrtdに到達していないと判断し、リタード成層燃焼を継続するためステップ54に進み、ステップ54の操作を実行する。
一定周期でステップ59での点火時期ADVの算出を繰り返すと、やがて点火時期ADVが均質燃焼での点火時期の遅角側燃焼安定限界LMTrtd以下となる。このときには、ステップ60よりステップ61に進み、中間処理値[deg]を、
中間処理値=C×K+中間処理値(前回)×(1−K) …(7)
ただし、中間処理値(前回);中間処理値の前回値、
C;最大の遅角量[deg]、
K;加重平均係数[無名数]、
の式により漸化式として算出し、ステップ62でこの中間処理値を用いて第2の点火時期の遅角量RTD2[deg]を、
RTD2=C−中間処理値 …(8)
の式により算出する。(7)式、(8)式の最大の遅角量Cは均質燃焼での点火時期の遅角側燃焼安定限界LMTrtdと後述する所定値ADV2との差の値であり、予め定まっている。
ステップ63ではこの第2の点火時期の遅角量RTD2と許容値[deg]を比較する。第2の点火時期の遅角量RTD2が許容値を超えているときにはステップ64に進み、この第2の点火時期の遅角量RTD2を所定値ADV2[degABDC]に加算した値を点火時期ADV[degABDC]として算出する。ここでも第2の点火時期の遅角量RTD2を加算することは、点火時期を遅角側に補正することを意味する。所定値ADV2はDレンジアイドル状態での最適な点火時期、つまりMBTより若干遅角側の点火時期である。
これに対してステップ63で第2の点火時期の遅角量RTD2が許容値以下であるときには第2の点火時期の遅角量RTD2が収束したと判断し、ステップ65に進んで所定値ADV2をそのまま点火時期ADVとする。
ステップ66では均質燃焼での噴射開始時期を設定する。均質燃焼での噴射開始時期は吸気行程前半にある。
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
ニュートラル制御の解除と、リタード成層燃焼から均質燃焼へと切換える必要とが生じた場合に、ニュートラル制御の解除及びその解除に伴うショックを回避するための第1の点火時期の遅角と、成層燃焼から均質燃焼への切換及びその切換に伴うトルク増加を回避するための第2の点火時期の遅角とを重複して行わせたのでは、点火時期の遅角量が過大となって遅角側の燃焼限界を超えてしまうことが考えられ、このとき失火が発生し、運転性や排気性能が悪化するのであるが、本実施形態(請求項1に記載の発明)によれば、エンジンに連結される自動変速機31と、エンジンの排出ガス浄化用の触媒22とを備え、自動変速機31のシフトレバー位置がDレンジにあるアイドル状態での車両停止時に所定の条件の成立によりニュートラル制御を行わせるニュートラル制御と、触媒が活性化していない場合に点火時期を圧縮上死点以降にリタードさせつつ成層燃焼を行わせるリタード成層燃焼と、が同時に実行されている場合(図9ステップ51、52、53、54参照)に、前記所定の条件の不成立によるニュートラル制御の解除と、リタード成層燃焼から均質燃焼へと切換える必要とが生じたか否かを判定し(図6ステップ1〜7、9及び図7ステップ11〜16参照)、この判定結果よりニュートラル制御の解除と、リタード成層燃焼から均質燃焼へと切換える必要とが生じた場合に(図6ステップ1〜6、9及び図7ステップ11〜14、16参照)、ニュートラル制御の解除及びその解除に伴うショックを回避するための第1の点火時期の遅角を開始するタイミングと、リタード成層燃焼から均質燃焼への切換及びその切換に伴うトルク増加を回避するための第2の点火時期の遅角を開始するタイミングとをずらせる(図7ステップ13、14、15参照)ので、第1と第2の2つの点火時期の遅角を重複して行わせることがなくなることから、点火時期の遅角量が過大とならず遅角側の燃焼安定限界を超えてしまうことがなく、これによって失火を防ぎ運転性や排気性能の悪化を抑制することができる。
ニュートラル制御の解除のため、エンジンコントローラ15が自動変速機用コントローラ61に指令信号を出力してから実際にフォワードワンウェイクラッチF2の締結が完了するまでには所要の時間を要する。このため、実際にフォワードワンウェイクラッチF2の締結が完了するタイミング(図3でt3)では第1の点火時期の遅角量はかなり小さくなっており、従ってこのタイミング(t3)で第2の点火時期の遅角を開始しても問題ないレベルにあると考えられる。この点を考慮し、本実施形態(請求項3に記載の発明)によれば、自動変速機31はトルクコンバータ31aとドライブ機構部31bとフォワードワンウェイクラッチF2とを有し、ニュートラル制御は、フォワードワンウェイクラッチF2を開放するかまたはスリップ状態とすることによりドライブ機構部31bがエンジンによりトルクコンバータ31aを介して駆動されるニュートラル状態とすることであり、ニュートラル制御の解除は、フォワードワンウェイクラッチF2を締結することであり、第2の点火時期の遅角を開始するタイミングは、フォワードワンウェイクラッチF2の締結が完了するタイミング(t3)であるので、第1の点火時期の遅角と第2の点火時期の遅角との重複を避けることができる。
本実施形態(請求項7に記載の発明)によれば、ニュートラル制御の解除と、リタード成層燃焼から均質燃焼へと切換える必要とが生じた場合はニュートラル制御の解除中にリタード成層燃焼から均質燃焼へと切換える必要が生じた場合であり、この場合に、ニュートラル制御の解除タイミング(図3でt1)で所定値TVO1から所定値TVO1とアイドル相当値TVOidlとの間の中間値TVO2へとスロットル開度を減少させ、リタード成層燃焼から均質燃焼への切換タイミング(図3でt3)で中間値TVO2からアイドル相当値TVOidlへとスロットル開度を減少させるので(図8ステップ22、23、24、ステップ22、23、25、27参照)、変速機負荷がエンジンに作用した状態でリタード成層燃焼を行わせても、アイドル回転速度の低下によって車両側に伝達される燃焼振動を抑制できる。
図10は第2実施形態で、第1実施形態の図3と置き換わるものである。
第1実施形態は、シフトレバー位置をDレンジとしたままアクセルペダルを踏み込まない(つまりアイドル状態を継続する)場合が対象であったが、第2実施形態は、ニュートラル制御の解除中にアクセルペダルが踏み込まれる場合を対象とするものである。このため、図10では最上段にアクセル開度(アクセルペダルの踏み込み量)の動きを追加して示している。すなわち、図10には、Dレンジアイドル状態でのニュートラル制御中かつリタード成層燃焼中にt1でブレーキスイッチがONからOFFへと切換わったためにニュートラル制御の解除を開始し、そのニュートラル制御の解除中にt2’で運転者がアクセルペダルを踏み込んで車両を発進させたためリタード成層燃焼から均質燃焼へと切換える場合に、アクセル開度、燃焼切換条件、ブレーキスイッチ、ニュートラル制御フラグ、エンジン回転速度、スロットル開度、シリンダ吸入空気量、フォワードワンウェイクラッチ、燃焼形態、点火時期がどのように変化するのかをモデルで示している。
ニュートラル制御の解除中にt2’でアクセルペダルが踏み込まれたからといって、即座にt2’でアクセル開度を中間値TVO2からアイドル相当値TVOidlへと切換えると共に、リタード成層燃焼より均質燃焼へと燃焼形態を切換えたのでは、シリンダ吸入空気量の応答遅れに伴うトルク増加と燃焼形態の切換に伴うトルク増加とが合わせて生じるため、これらのトルク増加を回避するための点火時期の遅角、つまり第2の点火時期の遅角を行う必要がある。この場合、ニュートラル制御の解除開始タイミングであるt1でアクセル開度を所定値TVO1から中間値TVO2へと減少させ、このときのショックを回避するための点火時期の遅角、つまり第1の点火時期の遅角(図示の遅角A)をt1で開始しているため、t2’のタイミングでは第1の点火時期の遅角継続中にある。従って、t2’からこの第1の点火時期の遅角に加えて第2の点火時期の遅角が重複して行われると制御の干渉が生じてしまう。
そこで、第2実施形態では、ニュートラル制御の解除中に、運転者がアクセルペダルを踏み込んだ場合に、アクセルペダルを踏み込んだt2’のタイミングではアクセル開度に応じてスロットル弁5を開くことはせずt1のタイミングからのスロットル開度、つまり中間値TVO2をそのまま維持する。また、t2’のタイミングで燃焼形態の切換を行うこともしない。そして、ニュートラル制御の解除が完了するタイミング、つまりフォワードワンウェイクラッチの締結が完了するt3のタイミングまで待って、均質燃焼への燃焼切換指令を出す(燃焼切換指令フラグをゼロから1へと切換える)と共に、このニュートラル制御の解除が完了するt3のタイミングよりアクセル開度に応じてスロットル弁5を開かせるようにする。
具体的に説明すると、図10においてt1でブレーキスイッチがONからOFFへと切換わったためにニュートラル制御の解除を開始している。すなわち、t1でフォワードワンウェイクラッチF2を締結する信号をエンジンコントローラ15が出している。この信号はエンジンコントローラ15より自動変速機用コントローラ61に送信され、自動変速機用コントローラ61では油圧制御回路55を介してフォワードワンウェイクラッチF2を締結する。また、t1で目標アイドル回転速度を1000rpmから800rpmに下げると共に、スロットル開度を所定値TVO1から中間値TVO2へと小さくし、t1よりショックを回避するための点火時期の遅角(第1の点火時期の遅角)を行っている。
このようなニュートラル制御の解除中にt2’で運転者がアクセルペダルを踏み込んだとすると、このt2’のタイミングからもt2’のタイミング直前のスロットル開度である中間値TVO2を保持し、フォワードワンウェイクラッチF2の締結が完了するt3のタイミングでスロットル開度を中間値TVO2からアイドル相当値TVOidlへと戻した後、アクセル開度に応じたスロットル開度を与えている。つまり、ニュートラル制御の解除中のアクセル開度の動きに対しては、時間差(t1〜t3の間)を付けてスロットル開度を動かすのである。
なお、図10ではt3よりアイドル状態を外れるため、t3以降の基本点火時期はMBTとなり、このMBTを第2の点火時期の遅角量で補正した値が点火時期となる。実際にはMBTは図3で示したBTDC15[deg]より若干進角側の値であるが、図10にはその差を無視して記載している。
第2実施形態(請求項5に記載の発明)によれば、リタード成層燃焼から均質燃焼へと切換える必要が生じた場合は運転者によりアクセルペダルが踏み込まれた場合である。つまり、ニュートラル制御の解除中にt2’でアクセルペダルが踏み込まれた場合であっても、ニュートラル制御の解除及びその解除に伴うショックを回避するための第1の点火時期の遅角を開始するタイミング(図10でt1)と、リタード成層燃焼から均質燃焼への切換及びその切換に伴うトルク増加を回避するための第2の点火時期の遅角を開始するタイミング(図10でt3)とをずらせるので、ニュートラル制御の解除中にアクセルペダルが踏み込まれた場合でも、点火時期の遅角の重複を防ぐことができる。
図11は第3実施形態で、第1実施形態の図3と置き換わるものである。
第1実施形態では、自動変速機用コントローラ61がニュートラル制御の解除が完了したか否か、つまりフォワードワンウェイクラッチの締結が完了したか否かを判定し、その判定結果を自動変速機用コントローラ61がエンジンコントローラ15に向けて送信するようにしており、エンジンコントローラ15がこの判定結果を用いてリタード成層燃焼から均質燃焼への燃焼切換指令を出す構成であった。第3実施形態は、自動変速機用コントローラ61からのこの判定結果の送信を受けることなく、エンジンコントローラ15のみでニュートラル制御の解除が完了したか否かを判定し、ニュートラル制御の解除が完了したと判定したタイミングでリタード成層燃焼から均質燃焼への燃焼切換指令を出す(燃焼切換指令フラグをゼロから1へ切換える)ものである。
エンジンコントローラ15と自動変速機用コントローラ61とに制御を分担させると共に、必要な信号(情報)を共用できるように2つのコントローラの間で双方向通信を行わせるようにしている。しかしながら、通信にはどうしても所定の時間を要するので、実際にフォワードワンウェイクラッチF2の締結が完了するタイミングよりエンジンコントローラ15がこのフォワードワンウェイクラッチF2の締結完了を認識するタイミングまでに所定の遅れが生じる。このように、エンジンコントローラ15で、ニュートラル制御の解除完了タイミングが実際よりも遅れて認識するのでは、その分、リタード成層燃焼から均質燃焼への切換が遅くなってしまう。
そこで、第3実施形態では、図11最下段に示したように、所定値を導入し、この所定値と第1の点火時期の遅角量RTD1とを比較させ、第1の点火時期の遅角量RTD1が所定値を下回ったことを判定したとき、フォワードワンウェイクラッチF2の締結が完了したと判断し、リタード成層燃焼から均質燃焼への燃焼切換指令を出す。つまり、所定値が、フォワードワンウェイクラッチF2の締結が完了したか否かを判定するためのしきい値として構成されている。言い替えると、第1の点火時期の遅角量RTD1が所定値を下回るタイミングと、実際にフォワードワンウェイクラッチF2の締結が完了するタイミングとが一致するように、所定値を実験やシミュレーションにより予め適合しておくのである。
第3実施形態(請求項8に記載の発明)によれば、第1実施形態と同じに、第1の点火時期の遅角を実行する手段は、リタード成層燃焼を行い得る点火時期(ADV1)を設定する点火時期設定手段(図9ステップ53参照)と、この設定点火時期(ADV1)からの遅角量(RTD1)を算出する遅角量算出手段(図9ステップ56、57、58参照)と、この算出した遅角量(RTD1)によって設定点火時期(ADV1)を補正する点火時期補正手段(図9ステップ58参照)とからなっている。この場合に、設定点火時期からの遅角量(RTD1)と所定値とを比較する比較手段を備え、第2の点火時期の遅角を開始するタイミングは、設定点火時期(ADV1)からの遅角量(RTD1)が所定値を下回ったタイミング(図11でt3’)であるので、エンジンコントローラ15は自動変速機用コントローラ61との間で通信を行うことなく、フォワードワンウェイクラッチF2の締結が完了したか否かを実質的に判定することが可能となると共に、リタード成層燃焼から均質燃焼への切換を、エンジンコントローラ15と自動変速機用コントローラ61との間で通信を行ってフォワードワンウェイクラッチF2の締結が完了したか否かの情報をやりとりする場合よりも早めることができる。
請求項1においてニュートラル制御実行手段の機能は図6のステップ1〜6、7、8により、リタード成層燃焼実行手段の機能は図9のステップ53、54により、解除・必要判定手段の機能は図6のステップ1〜7、9及び図7のステップ11〜16により、指令出力手段の機能は図7のステップ13、14、15により果たされている。