JP5119021B2 - シートプラズマ成膜装置、及びシートプラズマ調整方法 - Google Patents

シートプラズマ成膜装置、及びシートプラズマ調整方法 Download PDF

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Description

本発明は、シート状のプラズマを利用して成膜を行うシートプラズマ成膜装置に関し、また、シート状のプラズマの形状を調整するシートプラズマ調整方法に関する。
プラズマをプラズマガンによって生成すると、その形状は通常円柱状となる。そして、この円柱状のプラズマを、同じ磁極を向い合わせた永久磁石対で挟むと、永久磁石対の間で生じる反発磁界により、プラズマがシート状に変形することが知られている。シートプラズマ成膜装置は、このシート状に形成されたプラズマ(以下、「シートプラズマ」という)を利用して、成膜を行う装置である。なお、このシートプラズマ成膜装置で行う成膜法は、真空成膜法の一種である。
シートプラズマ成膜装置では、プラズマをシートプラズマ形成室でシート状に形成し、このシートプラズマを成膜室に輸送する。成膜室にはターゲットと基板が対向するように配置されており、シートプラズマはこれらの間を進行する。このとき、シートプラズマ内の荷電粒子が、ターゲットに印加されたバイアス電圧によって引き付けられてターゲットをスパッタし(叩き出し)、叩き出されたスパッタ粒子は、シートプラズマを通過する際にイオン化され、基板に印加されたバイアス電圧によって引き付けられて基板に堆積する。これによって基板上に膜が形成されるのである。
この原理からわかるように、プラズマをシート状に形成する理由の1つは、プラズマの厚みを一定にして、ターゲットを偏りなくスパッタし、基板を均一に成膜することにある。ただし、基板を均一に成膜するには、プラズマをシート状にするだけでは足りず、シートプラズマからターゲットまでの距離を、シートプラズマ全体において、同じ程度にする必要がある。例えば、シートプラズマのうち輸送方向右側がターゲットに近く、輸送方向左側がターゲットから遠いような場合には、基板の進行方向右側が厚く成膜されてしまう。一方、シートプラズマが移動すると、アンペールの法則によってシートプラズマの周辺に磁場が発生する。そして、シートプラズマの移動量を増やすと(放電電流を増やすと)、この磁場の磁力が大きくなり、シートプラズマは、プラズマガン側から見て、輸送軸を中心として反時計回りに傾いてしまうという現象が発生する。この現象により、シートプラズマが傾くと、シートプラズマとターゲットとの距離にばらつきが生じ、基板を均一の厚さで成膜できなくなってしまう。
これに対し、シートプラズマの近傍に永久磁石を配置し、永久磁石の磁場を利用して、シートプラズマの放電電流によって生じる磁場を相殺する方法が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
特開平3−61364号公報 特開平2−73965号公報 特開平2−73962号公報
ところが、上記の方法によれば、50〜100ガウス程度のいわゆる弱磁場である成膜室の内部あるいはその近傍に永久磁石を配置することになるため、成膜室内の磁場が大きく歪んでしまう。その結果、シートプラズマは、拡散してしまい、シート形状を維持することができなくなってしてしまう。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、シートプラズマのシート形状を維持しつつ、シートプラズマの形状を調整できるシートプラズマ成膜装置、及び、シートプラズマ調整方法を提供することを目的としている。
上記課題を解決するため、本発明に係るシートプラズマ成膜装置は、カソードを有するとともに円柱状のプラズマを出射するプラズマガンと、前記円柱状のプラズマを挟んでシートプラズマを形成する永久磁石対と、前記シートプラズマが導入され該シートプラズマをその厚み方向に挟むようにターゲットと基板とが対向して配置される成膜室と、前記シートプラズマが収束するアノードと、前記成膜室に電流磁界を形成して前記シートプラズマを前記カソード側から前記アノード側へ輸送する電磁コイルと、前記電流磁界が形成されると磁化されて前記成膜室内に磁場を形成する磁性部材と、を備える。かかる構成によれば、磁性部材により成膜室内に弱磁場を形成することができるため、シートプラズマのシート形状を維持しつつ、シートプラズマの形状を調整することができる。
また、上記のシートプラズマ成膜装置において、前記磁性部材は、前記ターゲットの前記基板に対向する面と平行な面内で延在するように設けられるようにしてもよい。かかる構成によれば、磁性部材によって成膜室内により安定した磁場を形成することができる。
また、上記のシートプラズマ成膜装置において、前記磁性部材は、前記ターゲットの背面またはそれよりも外側の領域で、かつ、前記カソード側から見たとき前記円柱状のプラズマの中心軸を中心として反時計回り方向側に配置されるようにしてもよい。かかる構成によれば、シートプラズマの反時計方向の傾きによって生じる膜厚分布のばらつきを抑えることができる。
また、上記のシートプラズマ成膜装置において、前記磁性部材はプラズマの輸送方向を長軸とする直方体の形状を有するようにしてもよい。かかる構成によれば、磁性部材を容易に加工することができる。
さらに、上記課題を解決するため、本発明に係るシートプラズマ調整方法は、カソードを有するとともに円柱状のプラズマを出射するプラズマガンと、前記円柱状のプラズマを挟んでシートプラズマを形成する永久磁石対と、前記シートプラズマが導入され該シートプラズマをその厚み方向に挟むようにターゲットと基板とが対向して配置される成膜室と、前記シートプラズマが収束するアノードと、前記成膜室に電流磁界を形成して前記シートプラズマをカソード側からアノード側へ輸送する電磁コイルと、を備えたシートプラズマ成膜装置において、前記電流磁界によって磁化されるような位置に磁性部材を配置し、前記成膜室内に前記磁性部材による磁場を形成することで、プラズマの形状を調整する。かかる構成によれば、磁性部材により成膜室内に弱磁場を形成することができるため、シートプラズマのシート形状を維持しつつ、シートプラズマの形状を調整することができる。
本発明によれば、シートプラズマのシート形状を維持しつつ、シートプラズマの形状を調整できるシートプラズマ成膜装置、及び、シートプラズマ調整方法を提供することができる。
以下、本発明に係る実施形態について図を参照して説明する。以下では、全ての図面を通じて同一又は相当する要素には同じ符号を付して、その重複する説明を省略する。
まず、本実施形態に係るシートプラズマ成膜装置1の構成について説明する。図1は、本実施形態に係るシートプラズマ成膜装置1の概略図である。以下では、プラズマPの輸送方向である図1紙面における左右方向をZ方向とし、このZ方向に直交する図1紙面における上下方向をY方向とし、Z方向に直交する図1紙面における貫通方向をX方向として説明を行う。
シートプラズマ成膜装置1は、図1に示すように、プラズマガン2と、シートプラズマ形成室3と、第1〜3電磁コイル4〜6と、永久磁石対7と、成膜室8と、磁性部材9と、終端部10とを備えている。プラズマガン2(カソード11)から放出されたプラズマPは、シートプラズマ形成室3及び成膜室8を通過して、終端部10(アノード12)で収束する。また、プラズマガン2、シートプラズマ形成室3、及び成膜室8は、互いに気密を保った状態で連通している。なお、プラズマガン2、成膜室8、アノード12、ターゲット13、及び、基板14は、それぞれセラミック、樹脂等を介して電気的に絶縁されている。
プラズマガン2は、プラズマPを生成する構成部品である。プラズマガン2はカソード(陰極)11を有しており、カソード11はプラズマガン2の端部に設けられたフランジ(カソードマウント)15によって支えられている。また、フランジ15には、本実施形態の放電ガスであるアルゴン(Ar)ガスをプラズマガン2の内部に導くガス導入構造(図示せず)が形成されている。プラズマガン2の内部には放電空間(図示せず)が形成されており、この放電空間内でカソード11は熱電子を放出する。カソード11から放出された熱電子はプラズマ放電を誘発し、誘発されたプラズマ放電によってアルゴンガスが電離される。これにより、放電空間には、荷電粒子(Arと電子)の集合体であるプラズマPが生成される。なお、プラズマ放電を維持するため、直流電圧V1と抵抗Rv、R1、R2の組合せにより所定のプラス電圧が印加された一対のグリッド電極(中間電極)G1、G2が放電空間の適所に配置されている。
シートプラズマ形成室3は、プラズマガン2のプラズマ輸送方向側(終端部10側)に配設されている。プラズマPは、プラズマガン2から放出された段階では円柱状であるが、シートプラズマ成形室3の内部でシート状に形成される。シートプラズマ形成室3は、非磁性の材料(例えばステンレスやガラス)で形成された筒状の外壁を有しており、内部にはプラズマPが通過する輸送空間16が形成されている。
第1電磁コイル4は、環状の空心コイルであって、シートプラズマ形成室3を囲むように外側に配設されている。第1電磁コイル4に電流を通電すると、シートプラズマ形成室3にはプラズマガン2(カソード11)側から終端部10(アノード12)側に向かう磁界が形成される構成となっている。プラズマPを構成する荷電粒子は、磁力線に沿って(厳密には磁力線に巻き付きながら)進行するという特性を有しているため、第1電磁コイル4に電流を通電すると、プラズマPはプラズマガン2(カソード11)から終端部10(アノード12)に向かう方向に輸送される。すなわち、第1電磁コイル4は、プラズマPを終端部10(アノード12)側へ輸送する推進源としての機能を有している。同様に、第2電磁コイル5は成膜室8を囲むように成膜室8とシートプラズマ形成室3との境界付近に配置され、第3電磁コイル6は成膜室8を囲むように成膜室8と終端部10との境界付近に配置されている。第2電磁コイル5及び第3電磁コイル6は、第1電磁コイル4と同様、いずれも環状の空心コイルであって、電流を通電したときにプラズマガン2(カソード11)側から終端部10(アノード12)側に向かう磁界が形成される。つまり、第2電磁コイル5及び第3電磁コイル6は、成膜室8内のプラズマPを終端部10(アノード12)側へ輸送する推進源としての機能を有している。
永久磁石対7は、X方向に伸延する2つの(一対の)棒磁石(永久磁石)7A、7Bによって構成されている。永久磁石対7は、シートプラズマ形成室3の外側であって、第1電磁コイル4よりもプラズマPの輸送方向側(終端部10側)に配設されている。永久磁石対7を構成する2つの棒磁石7A、7Bは、Y方向においてN極の磁極面同士が対向し、かつ、シートプラズマ成膜室3を挟むように配置されている。また、2つの棒磁石7A、7Bの対向する面は、平面状でかつ互いに平行となっている。この2つの棒磁石7A、7Bによって、シートプラズマ成膜室3の輸送空間16に反発磁界が発生し、円柱状のプラズマPがこの反発磁界を通過することでシート状に形成される。なお、棒磁石7A、7Bの材料には、ネオジウム、フェライト、サマリウム、及びコバルト等が用いられる。
成膜室8は、シートプラズマ形成室3のプラズマ輸送方向側(終端部10側)に配設されている。成膜室8の外壁部分は、非磁性の材料(例えばステンレス)で形成されている。成膜室8のうちシートプラズマ形成室3との境界部分、及び、終端部10との境界部分には、プラズマPの輸送軸Tに垂直な面(XY断面)の断面積が小さいボトルネック部17、18が形成されている。さらに、2つのボトルネック部17、18の間には、成膜空間19が形成されている。成膜空間19は、図示しない真空ポンプ(例えばターボポンプ)に接続されている。この真空ポンプは、成膜空間19をスパッタリングプロセス可能なレベルの真空度にまで速やかに減圧できると共に、プラズマ形成室3の輸送空間16を円柱状のプラズマPが輸送可能なレベルの真空度まで速やかに減圧することができる。
また、成膜室8には、ターゲット13を保持するためのターゲットホルダ22と、基板14を保持するための基板ホルダ23とが、Y方向に離間し、かつ、対向するように設けられている。ターゲット13、ターゲットホルダ22、基板14、及びホルダ23は、実質的にXZ平面に平行に配置されている。本実施形態ではターゲット13として銅板がターゲットホルダ22に保持され、基板14として半導体ウエハが基板ホルダ23に保持される。ただし、ターゲット13とターゲットホルダ22が拡散接合やポッティング等によって一体形状になっていてもよい。また、ターゲット13には、ターゲットホルダ22を介して直流電源V3により数百ボルトの範囲内で変更可能な可変バイアス電圧(マイナス電圧)を印加することができる。同様に、基板14には、基板ホルダ23を介して直流電源V2により数百ボルトの範囲内で変更可能な直流の可変バイアス電圧を印加することができる。なお、ターゲットホルダ22と成膜室8の本体(チャンバ)との間、及び、基板ホルダ23と成膜室8の本体(チャンバ)との間には図示しない絶縁板が設けられており、それぞれが電気的に絶縁されている。
成膜室8は上記の構成を有していることから、ターゲット13と基板14にバイアス電圧をかけた状態で、成膜室8にシートプラズマPが輸送されると、シートプラズマPの中のArはバイアス電圧がかかったターゲット13に引き付けられる。その結果、Arとターゲット13との間の衝突エネルギによりターゲット13のスパッタ粒子(本実施形態ではCu粒子)が叩き出される。そして、シートプラズマを通過する際に、電子を剥ぎ取られて電離されたスパッタ粒子(本実施形態ではCuイオン)が、基板14に堆積する。これによって、基板14に銅が成膜されるのである。
磁性部材9は、鉄、ニッケル、フェライト系ステンレス、マルテンサイト系ステンレス等の磁性体又は強磁性体の材料で形成された部材である。上記の材料は、汎用磁性金属であるため、シートプラズマ成膜装置1の製造コストを抑えることができる。ただし、磁性部材9の材料は、透磁率は1000以上である鉄、ニッケル等の強磁性体を用いるのがより好ましい。図2は、本実施形態に係る磁性部材9とターゲット13との位置関係を示した概略図である。このうち図2(a)は、図1の紙面上方から見た図であって、紙面上方がアノード12側であり、紙面下方がカソード11側となっている。また、図2(b)は、カソード11側から見た図であって、紙面上方が図1の紙面上方にあたり、紙面下方が図1の紙面下方にあたる。図2に示すように、本実施形態に係る磁性部材9は、ターゲット13(ターゲットホルダ22)の背面で、かつ、カソード11側から見たときプラズマPの輸送軸Tを中心として反時計回り方向側(左側)に配置されている。つまり、図2(b)に示すように、カソード11側から見たとき、プラズマPの輸送軸Tを紙面右向きに通りターゲット13の前記基板に対向する面に平行な軸をX軸とし、プラズマPの輸送軸Tを紙面鉛直上向きに通りX軸に直交する軸をY軸とすると、磁性部材9は、X軸及びY軸によって定まる座標系の第2象限側であって、かつ、ターゲット13の背面に配置されている。このとき、磁性部材9は、ターゲット13の基板14に対向する面と平行な面内で延在するように設けられている。さらに、磁性部材9は、プラズマPの輸送方向(Z方向)を長軸とする直方体の形状を有している。なお、上記の輸送軸Tとは、カソード11の中心と後述のアノード12の中心をつなぐ軸、つまり円柱状のプラズマの中心軸をいう。
図1に戻って、終端部10は、成膜室8のプラズマ輸送方向側に配設されている。終端部10は、アノード(陽極)12と永久磁石24とから主に構成されている。アノード12は、カソード11との間で電位差(例えば100V)が与えられ、プラズマPを構成する荷電粒子(特に電子)を回収する機能を有している。また、永久磁石(収束用磁石)24は、アノード12側がS極となるように、かつ、大気側がN極となるように配置されている。永久磁石24は、N極から出てS極に入る磁力線からなる磁界を形成するため、アノード12に向かうシートプラズマPは幅方向に収束される。これにより、シートプラズマPの荷電粒子をアノード12に適切に回収することができる。以上が本実施形態に係るシートプラズマ成膜装置1の構成である。
次に、本実施形態に係るシートプラズマ成膜装置1の作用効果について、従来のシートプラズマ成膜装置の場合と対比して説明する。図3は、以下で説明するシミュレーションの解析モデルを示した図である。本シミュレーションでは、プラズマPの進行方向(紙面において左から右)に向かって、カソード11、第1電磁コイル4、永久磁石対7、第2電磁コイル5、及び第3電磁コイル6を順に配置した。
図4は、従来の(磁性部材9を有しない)シートプラズマ成膜装置について、シートプラズマPの周辺における磁場のシミュレーション結果を示した図である。図4は、第2電磁コイル5と第3電磁コイル6の間におけるXY断面を表わしており、紙面奥側がアノード12側である。つまり、実際のシートプラズマ成膜装置に置換えると、図4は、カソード11側から見た成膜室内8のXY断面を表わしている。また、中央付近に位置する白抜きの太線は、シートプラズマPを示している。なお、以下では、図4の紙面における上下左右を単に上下左右として説明する(後述の図5〜7についても同様とする)。
シートプラズマPは、アンペールの法則によって形成された磁界によって、プラズマガン2側(カソード11側)から見て輸送軸Tを中心として反時計回りに傾いてしまうことは上述したとおりである。図4に示すシミュレーション結果においても、シートプラズマPの右端が上方に伸びており、シートプラズマPの左端が下方に伸びていることがわかる。図4に示すように従来のシートプラズマ成膜装置では、シートプラズマPが右上がり(反時計回り)に傾くと、ターゲット13のうち右側の部分が左側の部分に比べてスパッタリング量が増え、基板14の膜厚分布に偏りが生じてしまう。
これに対して図5は、本実施形態に係るシートプラズマ成膜装置1における磁場のシミュレーション結果を示した図である。ここでは、図3に示す解析モデルの構成に加え、第2磁界コイル5と第3磁界コイル6の間に磁性部材9を配置した場合について磁場解析を行った。図5は、第2磁界コイル5と第3磁界コイル6の間におけるXY断面のうち、磁性部材9のカソード11側の部分を含んだ断面を示している。つまり、この断面は、図2(a)でいえば、磁性部材9のうち中央に描かれたX軸よりもカソード側の部分でのXY断面に相当する。図5中、中央付近に位置する白抜きの太線は、シートプラズマPを示している。また、シートプラズマPの左上方に位置し、左右方向に伸延する直線は磁性部材9を示している。さらに、図中の符号Bを付した灰色の薄い部分は、上向き成分の磁力が高い領域を示しており、符号Aを付したやや灰色が濃い部分は、下向き成分の磁力が高い領域を示している。なお、図中のシートプラズマPと一部重複する2点鎖線は、従来のシートプラズマ成膜装置におけるプラズマPの形状(図4参照)を示している。
図5に示すように、磁性部材9をシートプラズマPの左上方に(実際のシートプラズマ成膜装置1に置換えると、ターゲット13の背面で(または、背面よりも外側の領域)、かつ、カソード11側から見たときプラズマPの輸送軸Tを中心として反時計回り方向側に)配置すると、磁性部材9の下面付近に上方向の磁場が形成され、この磁場の磁力線に沿ってシートプラズマPを構成する荷電粒子が上方向に移動する。そのため、図5に示すように、シートプラズマPの左端周辺が上方向に引き上げられるというシミュレーション結果が得られたのである。このように、シートプラズマPの左端周辺が上方向に引き上げられれば、シートプラズマPの両端におけるターゲット13までの距離がほぼ同じになる。そのため、本実施形態によれば、磁性部材9を有しない従来の場合に比べると、膜厚分布のばらつきを抑えることができる。
なお、図5に示す磁性部材9の下面付近に上方向の磁場が形成されたのは、磁性部材9が磁化したためである。図6は、磁性部材9を含むYZ断面におけるシミュレーション結果を示した図である。図6に示すシミュレーションの条件は、図5の場合と同じである。図6の紙面左側はカソード11側であって、紙面右側はアノード12側である。中央付近に位置する白抜きの太線は、シートプラズマPを示している。また、中央のやや上方に位置するとともに左右に伸延する線は、磁性部材9を示している。さらに、図5と同様、符号Bを付した灰色の薄い部分は、上向き成分の磁力が高い領域を示しており、符号Aを付したやや灰色が濃い部分は、下向き成分の磁力が高い領域を示している。図6によれば、磁性部材9の上面左側と下面右側(符号Aが付された部分)は下方向の磁力が大きくなっており、磁性部材9の下面左側と上面右側(符号Bが付された部分)は上方向の磁力が大きくなっている。つまり、磁性部材9は、YZ断面において、図7に示すような左側(カソード11側)がS極で右側(アノード12側)がN極となるように磁化されて、右側(アノード12側)から左側(カソード11側)に磁力線が向かうような磁界が形成されている。そのため、磁性部材9の特にカソード側の下方面付近に上方向の磁場が形成されたのである。
さらに、上記のように磁性部材9が磁化されるのは、第2電磁コイル5及び第3電磁コイル6が、カソード11側からアノード12側に向う磁界を形成しているためである。つまり、第2電磁コイル5や第3電磁コイル6の内側周辺では、カソード11側がS極でアノード12側がN極である磁界が形成されている。これにより、磁性部材9は、カソード11側が第2電磁コイル5のN極側にあたるためS極に、アノード12側が第3電磁コイル6のS極側にあたるためN極になるよう磁化されたのである。
以上のように、本実施形態に係るシートプラズマ成膜装置1によれば、磁性部材9を第2電磁コイル5及び第3電磁コイル6によって磁化させて成膜室8内に新たな磁場を形成することで、シートプラズマPの形状を調整することができる。また、第2電磁コイル5及び第3電磁コイル6によって磁化された磁性部材9は、永久磁石ほど大きな磁界を形成することもないためシートプラズマPのシート形状を維持することができる。
さらに、通常、シートプラズマPは、輸送軸T付近では厚みが大きく、輸送軸TからX方向に離れた端部では厚みが小さい傾向にある。そのため、このような場合には、本実施形態のようにシートプラズマPのX正方向側端部(図5の右側端部)のみならず、X負方向側端部(図5の左側端部)もターゲット13に近づくことで、ターゲット13のX方向両端部におけるスパッタ量の減少を抑えることができる。
以上では、ターゲット13が成膜室8に固定されている場合について説明したが、ターゲット13が成膜室8の内部でY方向に上下し、シートプラズマPとの距離を調整できる構成であっても良い。ただし、この場合は、磁性部材9をターゲット13の背面に固定するのではなく、成膜室8内の所定の位置に固定し、ターゲット13の移動にかかわらずシートプラズマPとの距離を一定にするのが望ましい。なお、ターゲット13が成膜室8に固定されている場合であっても、磁化された磁性部材9が成膜室8の内部に磁界を形成することができれば、磁性部材9をターゲット13(ターゲットホルダ22)から離間して外側に配置するようにしてもよい。
また、磁性部材9の形状や設置位置は、上記の本実施形態で説明したものに限られることはない。つまり、シートプラズマ成膜装置の仕様や運転条件によって磁性部材9の形状や設置位置を調整し、膜厚分布が均一になるように、シートプラズマPの形状を調整できればよい。
本発明によれば、シートプラズマのシート形状を維持しつつ、シートプラズマの形状を調整できるシートプラズマ成膜装置、及び、シートプラズマ調整方法を提供することができる。よって、本発明は、シートプラズマ成膜装置の技術分野において有益である。
本発明の第1実施形態に係るシートプラズマ成膜装置の概略図である。 本発明の第1実施形態に係る磁性部材とターゲットとの位置関係を示した図である。 シミュレーション解析モデルを示した図である。 従来のシートプラズマ成膜装置におけるシミュレーション結果を示した図である。 本発明の第1実施形態に係るシミュレーション結果(XY断面)を示した図である。 本発明の第1実施形態に係るシミュレーション結果(YZ断面)を示した図である。 本発明の第1実施形態に係る磁性部材によって形成された磁界の磁力線を示した図である。
符号の説明
1 シートプラズマ成膜装置
2 プラズマガン
5 第2電磁コイル
6 第3電磁コイル
7 永久磁石対
8 成膜室
9 磁性部材
11 カソード
12 アノード
13 ターゲット
14 基板
P プラズマ
T 輸送軸

Claims (4)

  1. カソードを有するとともに円柱状のプラズマを出射するプラズマガンと、前記円柱状のプラズマを挟んでシートプラズマを形成する永久磁石対と、前記シートプラズマが導入され該シートプラズマをその厚み方向に挟むようにターゲットと基板とが対向して配置される成膜室と、前記シートプラズマが収束するアノードと、前記成膜室にカソード側からアノード側に向かう磁界を形成して前記シートプラズマを前記カソード側から前記アノード側へ輸送する電磁コイルと、前記電磁コイルによる磁界が形成されると磁化されて前記成膜室内に磁場を形成する磁性部材と、を備え、
    前記カソード側から見たとき、前記円柱状のプラズマの中心軸を右向きに通り前記ターゲットの前記基板に対向する面に平行な軸をX軸とし、前記円柱状のプラズマの中心軸を鉛直上向きに通り前記X軸に直交する軸をY軸とすると、前記磁性部材は、前記X軸及び前記Y軸によって定まる座標系の第2象限側であって、かつ、前記ターゲットの背面またはそれよりも外側の領域に位置する、シートプラズマ成膜装置。
  2. 前記磁性部材は、前記ターゲットの前記基板に対向する面と平行な面内で延在するように設けられている、請求項1に記載のシートプラズマ成膜装置。
  3. 前記磁性部材はプラズマの輸送方向を長軸とする直方体の形状を有している、請求項2に記載のシートプラズマ成膜装置。
  4. カソードを有するとともに円柱状のプラズマを出射するプラズマガンと、前記円柱状のプラズマを挟んでシートプラズマを形成する永久磁石対と、前記シートプラズマが導入され該シートプラズマをその厚み方向に挟むようにターゲットと基板とが対向して配置される成膜室と、前記シートプラズマが収束するアノードと、前記成膜室にカソード側からアノード側に向かう磁界を形成して前記シートプラズマをカソード側からアノード側へ輸送する電磁コイルと、を備えたシートプラズマ成膜装置において、前記電磁コイルによる磁界によって磁化されるような位置であって、前記カソード側から見たとき、前記円柱状のプラズマの中心軸を右向きに通り前記ターゲットの前記基板に対向する面に平行な軸をX軸とし、前記円柱状のプラズマの中心軸を鉛直上向きに通り前記X軸に直交する軸をY軸としたとき、前記X軸及び前記Y軸によって定まる座標系の第2象限側であって、かつ、前記ターゲットの背面またはそれよりも外側の領域に磁性部材を配置し、前記成膜室内に前記磁性部材による磁場を形成することで、プラズマの形状を調整するシートプラズマ調整方法。
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