JP5116603B2 - 解体建物の振動制御方法 - Google Patents

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本発明は、解体中の解体建物に発生しこの解体建物の周辺に建てられた近隣建物へ伝達される振動を低減する解体建物の振動制御方法に関する。
建物の解体工事では、重機などを用いて行う解体作業や解体ガラの搬出作業等により発生する振動がこの解体建物の周辺に建てられた近隣建物へ伝達された場合、近隣建物の居住者に不快感を与えてしまうことが問題となる。
建物に作用する振動を低減する方法としては、アクティブマスダンパーを用いた制振技術が提案されている。
例えば、図12に示すように、特許文献1のアクティブマスダンパー300では、両端が構造物302に固定されたネジ軸304にナット306がネジ結合されている。このナット306は中空モータ308により直接回転駆動される。
また、中空モータ308は、ネジ軸304の軸方向に移動自在に設置されたマス310に一体的に取り付けられている。そして、構造物302に発生する振動を振動センサー312によって計測し、この計測した値(検出信号)に基づき中空モータ308を駆動制御してマス310を移動させる。
これにより、構造物302に作用する風や中小地震等の振動を打ち消す制御力を構造物302に付与し、構造物302に発生する振動を低減する。
また、例えば、図13に示すように、特許文献2の構造物の振動制御方法では、構造物314にアクティブ制振装置316を設置し、このアクティブ制振装置316と同じ場所に設置したセンサーにより計測した振動情報に基づいてアクティブ制振装置316の駆動制御を行う。
これにより、構造物314に近隣するプレス工場318のプレス機械320から発生し構造物314に伝達される振動を打ち消す制御力をアクティブ制振装置316から発生させて制振効果を発揮する。
ここで、解体建物の周辺に建てられた近隣建物に、特許文献1のアクティブマスダンパー300や特許文献2のアクティブ制振装置316(以下、アクティブマスダンパー300及びアクティブ制振装置316を「制振装置」とする)を設置して、解体建物から近隣建物へ伝達される振動の低減を試みる場合、解体工事の期間中ずっと制振装置を近隣建物に設置しておくと制振装置の運用コストが掛かり過ぎてしまう。
また、全ての解体工事において解体時の振動問題が必ず起こるわけではなく、さらに、必要とする振動低減対策の規模によってコストが大きく異なるので、振動低減対策費用を工事計画の段階で十分に確保しておくことは難しい。よって、制振装置の運用コストを低く抑えることが望まれている。
また、解体工事に直接関係のない近隣建物に制振装置を長期間設置しておくのは好ましくない。
特開2004−232700号公報 特開平8−53954号公報
本発明は係る事実を考慮し、解体中の解体建物から近隣建物へ伝達される振動を低減すると共に振動低減に掛かるコストを低く抑えることが可能な解体建物の振動制御方法を提供することを課題とする。
請求項1に記載の発明は、上方の階から下方の階へ解体される解体建物の周辺に建てられた近隣建物にアクティブマスダンパーを設置するアクティブマスダンパー設置工程と、前記解体建物の解体時に前記アクティブマスダンパーを駆動して前記解体建物から前記近隣建物へ伝達される振動を制御する振動制御工程と、前記解体建物の所定の階まで解体した後に前記アクティブマスダンパーを撤去するアクティブマスダンパー撤去工程と、を有する。
請求項1に記載の発明では、解体建物の振動制御方法は、アクティブマスダンパー設置工程と、振動制御工程と、アクティブマスダンパー撤去工程とを有している。
アクティブマスダンパー設置工程では、上方の階から下方の階へ解体される解体建物の周辺に建てられた近隣建物にアクティブマスダンパーを設置する。
振動制御工程では、解体建物の解体時にアクティブマスダンパーを駆動して解体建物から近隣建物へ伝達される振動を制御する。
アクティブマスダンパー撤去工程では、解体建物の所定の階まで解体した後にアクティブマスダンパーを撤去する。
よって、解体建物の解体作業時にこの解体建物に発生し近隣建物へ伝達される振動をアクティブマスダンパーにより制御する。これにより、近隣建物に発生する振動を低減することができる。
また、解体建物の所定の階まで解体した後にアクティブマスダンパーを撤去することにより、振動低減に掛かるコストを低く抑えることができる。
また、アクティブマスダンパーは、解体作業が行われない近隣建物に設置されているので、解体工事の期間中にアクティブマスダンパーを盛り替える必要がない。
また、解体作業が行われない近隣建物の建物特性は変化しない。よって、アクティブマスダンパーから近隣建物へ作用させる制御力を求めるために必要な近隣建物の建物特性の同定(測定)を、解体工事が行われる工期の前に一度だけ行えばよい。
また、解体作業が行われない近隣建物にアクティブマスダンパーが設置されるので、解体建物の解体作業を行いながらアクティブマスダンパーの撤去を行うことができる。よって、解体作業の工期を短縮することができる。
請求項2に記載の発明は、前記アクティブマスダンパーは、前記近隣建物の最上階に設置される。
請求項2に記載の発明では、近隣建物の最上階にアクティブマスダンパーが設置される。
アクティブマスダンパーにより作用させる制御力は、近隣建物の変位の大きい最上階近くの階で作用させた方が、近隣建物へ伝達される振動を効率よく低減することができる。
よって、アクティブマスダンパーを近隣建物の最上階に設置することにより、近隣建物へ伝達される振動をより効果的に低減することができる。
請求項3に記載の発明は、前記アクティブマスダンパーは、錘と、前記錘を移動させて前記近隣建物へ制御力を作用させる駆動手段と、前記近隣建物に発生した振動を計測するセンサーと、前記センサーで計測した振動と前記近隣建物の建物特性とに基づいて、前記近隣建物に発生した振動を打ち消す制御力を前記駆動手段により作用させる制御手段と、を個別に備える複数のユニットによって構成される。
請求項3に記載の発明では、アクティブマスダンパーは、錘と駆動手段とセンサーと制御手段とを個別に備える複数のユニットによって構成される。
駆動手段は、錘を移動させて近隣建物へ制御力を作用させる。センサーは、近隣建物に発生した振動を計測する。制御手段は、センサーで計測した振動と近隣建物の建物特性とに基づいて、近隣建物に発生した振動を打ち消す制御力を駆動手段により作用させる。
よって、近隣建物に発生する振動を打ち消す制御力を駆動手段により近隣建物へ作用させて、解体建物から近隣建物へ伝達される振動を低減することができる。
また、アクティブマスダンパーを複数のユニットに分けて運ぶことができるので、アクティブマスダンパーの移動、設置及び撤去を容易に行うことができる。例えば、近隣建物に装備されているエレベータを利用してアクティブマスダンパーの移動を行うことができる。
また、アクティブマスダンパーが故障した場合、不具合を生じているユニットのみを交換することができる。また、アクティブマスダンパーを修理したり、メンテナンスしたりする場合、修理やメンテナンスの対象となるユニットのみをメーカーの修理工場等へ送ることができる。
請求項4に記載の発明は、前記所定の階は、前記解体建物の固有周期が前記近隣建物の固有周期の1/2になったときの前記解体建物の高さ以下の階である。
請求項4に記載の発明では、解体建物の固有周期が近隣建物の固有周期の1/2になったときの解体建物の高さ以下の階を所定の階としている。
解体建物と近隣建物との固有周期が近似している場合、解体建物を解体する際に、重機などを用いて行う解体作業や解体ガラの搬出作業等によって解体建物の固有振動数と等しい振動数の振動(以下、「解体振動」とする)が解体建物に発生すると、この解体振動は地盤を介して解体建物から近隣建物へ伝達され近隣建物にて共振を起こす。
しかし、解体建物の固有周期が、近隣建物の固有周期の1/2になったときには、解体建物の解体作業により発生する解体振動の振動数と近隣建物の固有振動数とは異なるので、解体建物から伝達される解体振動が近隣建物にて共振しなくなる。
また、建物の固有周期は、建物の高さに概ね比例するので、解体作業と共に低くなっていく解体建物から発生する解体振動の振動数と近隣建物の固有振動数とがこれ以降近似することはない。
そこで、請求項4では、解体建物の固有周期が近隣建物の固有周期の1/2になったときの解体建物の高さ以下の階まで解体した後にアクティブマスダンパーの使用をやめて撤去するので、アクティブマスダンパーの撤去後においても解体建物から伝達される解体振動が近隣建物にて共振することはなく、また、アクティブマスダンパーの設置(使用)期間が短くなるので、振動低減対策費を低く抑えることができる。
請求項5に記載の発明は、前記所定の階は、前記解体建物の固有周期が前記近隣建物の固有周期の2/3になったときの前記解体建物の高さ以下の階である。
請求項5に記載の発明では、解体建物の固有周期が近隣建物の固有周期の2/3になったときの解体建物の高さ以下の階まで解体した後にアクティブマスダンパーの使用をやめて撤去するので、請求項4と同様に、アクティブマスダンパーの撤去後においても解体建物から伝達される解体振動が近隣建物にて共振することはなく、また、アクティブマスダンパーの設置(使用)期間が短くなるので、振動低減対策費を低く抑えることができる。
また、請求項4よりも早い時期にアクティブマスダンパーの使用をやめて撤去することができるので、振動低減対策費をより低く抑えることができる。
請求項6に記載の発明は、前記所定の階は、前記近隣建物の1/2の高さ以下に位置する階である。
請求項6に記載の発明では、近隣建物の1/2の高さ以下に位置する階を所定の階としている。
解体建物と近隣建物との固有周期が近似し、解体建物と近隣建物との高さがほぼ等しい場合、解体建物を解体する際に、重機などを用いて行う解体作業や解体ガラの搬出作業等によって解体建物の固有振動数と等しい振動数の解体振動が解体建物に発生すると、この解体振動は地盤を介して解体建物から近隣建物へ伝達され近隣建物にて共振を起こす。
ここで、建物の固有周期は、建物の高さに概ね比例するので、解体建物の高さが近隣建物の高さの1/2になったときに、解体建物の固有周期は、近隣建物の固有周期の約1/2になる。よって、解体建物の解体作業により発生する解体振動の振動数と近隣建物の固有振動数とは異なるので、解体建物から伝達される解体振動が近隣建物にて共振しなくなる。
また、解体作業と共に低くなっていく解体建物から発生する解体振動の振動数と近隣建物の固有振動数とがこれ以降近似することはない。
そこで、請求項6では、近隣建物の1/2の高さ以下に位置する階まで解体した後にアクティブマスダンパーの使用を止めて撤去するので、アクティブマスダンパーの撤去後においても解体建物から伝達される解体振動が近隣建物にて共振することはなく、また、アクティブマスダンパーの設置(使用)期間が短くなるので、振動低減対策費を低く抑えることができる。
また、解体工事の期間中、アクティブマスダンパーの撤去のタイミングを決めるために解体建物の固有周期を常に確認していなくてよい。
請求項7に記載の発明は、前記所定の階は、前記近隣建物の2/3の高さ以下に位置する階である。
請求項7に記載の発明では、近隣建物の2/3の高さ以下に位置する階まで解体した後にアクティブマスダンパーの使用を止めて撤去するので、請求項6と同様に、アクティブマスダンパーの撤去後においても解体建物から伝達される解体振動が近隣建物にて共振することはなく、また、アクティブマスダンパーの設置(使用)期間が短くなるので、振動低減対策費を低く抑えることができる。
また、請求項6よりも早い時期にアクティブマスダンパーの使用をやめて撤去することができるので、振動低減対策費をより低く抑えることができる。
本発明は上記構成としたので、解体中の解体建物から近隣建物へ伝達される振動を低減すると共に振動低減に掛かるコストを低く抑えることが可能な解体建物の振動制御方法を提供することができる。
図面を参照しながら、本発明の解体建物の振動制御方法を説明する。
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
図1(a)〜(d)の立面図に示すように、地盤12上にRC造の解体建物10が建てられている。解体建物10は、重機20などを用いた解体作業によって、上方の階から下方の階へ解体される。
解体建物10周辺の地盤12上には、近隣建物14が建てられている。そして、この近隣建物14の最上階となる屋上階16には、アクティブマスダンパー18が設置されている。すなわち、近隣建物14の屋上階16を形成するスラブ42上にアクティブマスダンパー18が載置されている(図2(a)を参照のこと)。
図2(a)の正面図に示すように、アクティブマスダンパー18は、マスユニット22、駆動ユニット24、センサーユニット26及び制御ユニット28によって構成されている。
マスユニット22には、複数の錘30からなるマス34が備えられている。錘30は、後に説明する移動台32上に積層されており、錘30の増減によってマス34の重量を調整することができる。
図2(b)の正面図に示すように、各錘30には貫通孔36が形成されており、錘30が移動台32上に配置された状態で、移動台32に立てて設けられた軸部材38が貫通孔36に挿入される。さらに、軸部材38に設けられたナット62と、移動台32とで、複数の錘30を挟み込み、ナット62の締め付けによって複数の錘30を移動台32に固定する。
これにより、移動台32の水平方向への移動に対して、マス34(複数の錘30)が移動台32から脱落することなく、移動台32の移動にマス34を確実に追従させることができる。
駆動ユニット24では、スラブ42上に固定された架台44A、44Bに、距離をおいて対向するフレーム部材46A、46Bがそれぞれ支持されている。また、フレーム部材46A、46Bには、ネジ軸48の両端部が固定されている。
ネジ軸48には、ナット40がネジ結合されている。そして、ネジ軸48が貫通された中空構造の中空モータ50によってナット40が直接回転駆動される。
また、中空モータ50は、移動台32の下部に一体的に取り付けられている。フレーム部材46A、46B間にはレール52が架設されており、このレール52上を移動台32が移動する。
このようにして、ネジ軸48、ナット40、中空モータ50、移動台32及びレール52により駆動手段54を構成し、中空モータ50によるナット40の回転により中空モータ50をネジ軸48の軸方向に移動させる。そして、これに伴ってマス34をネジ軸48の軸方向に移動させて、近隣建物14(スラブ42)へ制御力を作用させる。
センサーユニット26は、スラブ42上に載置されている。そして、センサーユニット26には、センサー56が備えられている。センサー56は、近隣建物14(スラブ42)に発生した振動を計測する。
なお、センサーユニット26は、制御力の発生源である駆動ユニット24の近くに配置するのが好ましい。また、センサーユニット26はスラブ42上に固定してもよいし、スラブ42に発生した振動をセンサー56によって計測できれば、スラブ42上に置くだけでもよい。
センサーユニット26をアンカーボルトや接着剤等でスラブ42上に固定したり、センサーユニット26に重量を付加するようにすれば、センサーユニット26の底面をスラブ42上面にしっかり接触させることができる。
また、センサーユニット26をスラブ42上に置くだけにすれば、解体建物10のオーナーとは別のオーナーが所有する近隣建物14に施されるセンサーユニット26固定用の孔やアンカー等を極力減らすことができる。
制御ユニット28は、スラブ42上に載置されている。そして、制御ユニット28には、同定手段58及び制御手段60が備えられている。
同定手段58は、センサー56で計測した振動に基づいて近隣建物14の建物特性を同定する。なお、建物特性とは、近隣建物14の質量、固有周期及び減衰定数のことを意味する。
制御手段60は、センサー56で計測した振動と近隣建物14の建物特性とに基づいて、近隣建物14に発生した振動を打ち消す制御力を駆動手段54により作用させる。
図3(a)のブロック図には、同定手段58によって建物特性(近隣建物14の質量M、固有周期T、及び減衰定数h)を求めるフロー、及び制御手段60によって制御力uを求めるフローが示されている。
また、図3(a)に示された外乱は、近隣建物14に作用する風荷重や、重機などを用いて行う解体作業や解体ガラの搬出作業等により解体建物10に発生し近隣建物14に伝達される振動等を意味し、Wは、近隣建物14に発生しセンサー56で計測された振動波形を示す。
次に、解体建物の振動制御方法について説明する。
解体建物の振動制御方法は、アクティブマスダンパー設置工程、建物特性同定工程、振動制御工程、及びアクティブマスダンパー撤去工程を有している。
まず、図1(a)に示すように、近隣建物14の屋上階16上にアクティブマスダンパー18を設置する(アクティブマスダンパー設置工程)。なお、第1の実施形態における近隣建物14とは、解体建物10の周辺に建てられている建物の中で振動低減対策を施す対象とした(振動障害が懸念される)建物を意味する。
図2(a)で示したアクティブマスダンパー18は、ネジ軸48の軸方向に発生する1方向の振動に対して振動低減効果を発揮する装置なので、低減対象となる振動の方向とネジ軸48の軸方向とが同じになるようにアクティブマスダンパー18を設置する。
次に、図3(a)で示した同定手段58によって、センサー56で計測した振動に基づいて近隣建物14の建物特性(近隣建物14の質量、固有周期及び減衰定数)を同定する(建物特性同定工程)。
次に、解体作業時(例えば、図1(b)の解体作業時)に、図3(a)で示した制御手段60によって、センサー56で計測した振動と近隣建物14の建物特性とに基づいて、近隣建物14に発生した振動を打ち消す制御力を駆動手段54により作用させる。駆動手段54による制御力は、中空モータ50によるナット40の回転によりマス34(中空モータ50)をネジ軸48の軸方向に移動させて作用させる。
すなわち、解体建物10の解体時にアクティブマスダンパー18を駆動し、解体建物10の解体作業時に発生し近隣建物14へ伝達される振動を制御する(振動制御工程)。これによって、近隣建物14に発生する振動を低減することができる。
そして、解体建物10の所定の階を解体するまでの各階における解体作業時(例えば、図1(c)の解体作業時)にこの振動制御工程を行い、解体建物10の所定の階まで解体した後にアクティブマスダンパー18の駆動を止めて撤去する(アクティブマスダンパー撤去工程)。
ここで、所定の階とは、解体建物10の固有周期が近隣建物14の固有周期の1/2になったときの解体建物10の高さ以下に位置する解体建物10の階(図1(d)の状態)のことである。
なお、近隣建物14の建物特性は、同定手段58以外の方法で求めてもよい。例えば、近隣建物14の建物特性を、他のアクティブマスダンパーによって同定した値としてもよいし、近隣建物14の構造設計及び設備設計等の設計データから計算した値としてもよいし、模擬実験から推測した値としてもよい。
また、建物特性同定工程において同定手段58により求める建物特性は、一般的に用いられている建物特性の同定方法を用いて求めればよい。例えば、日本建築学会大会学術講演梗概集、B−2分冊、1999年9月、山田聖治、西谷章「制御時の応答情報を利用した制御システムの再構築」、p.881−882に開示されている同定手法を用いて建物特性を求めてもよい。その他、より簡便な同定手法として、以下に説明する近隣建物14の建物特性を同定する方法を用いてもよい。
近隣建物14の建物特性を同定する場合には、図3(a)に示したブロック図の中の同定フロー(図3(b)の実線で示した部分)が機能する。
まず、図1(a)の状態(近隣建物14に外乱がほとんど作用していない状態)において、図3(b)に示すように、アクティブマスダンパー18によって近隣建物14に制御力uを作用させる。
次に、アクティブマスダンパー18によって近隣建物14へ制御力uを作用させた後に近隣建物14から発生する振動波形Wをセンサー56で計測する。
これにより、図4に示すような振動波形Wが得られる。図4では、横軸をセンサー56による振動波形Wの計測時間tとしている。振動波形Wの値(図4の縦軸)は、加速度、速度及び変位の何れの値としてもよい。
次に、近隣建物14へ制御力uを加えるのをやめた時間t以降、振動波形Wは自由振動となるので、この自由振動となった振動波形Wから近隣建物14の固有周期Tを求め、さらに、振動波形Wの減衰特性(図4の二点鎖線)から減衰定数hを求める。なお、固有周期Tは、振動波形Wをフーリエ変換してピーク値から読み取ってもよい。
次に、運動方程式により近隣建物14の質量Mを求める。近隣建物14の振動モデルを図5に示すような質量Mの近隣建物14に加振力Fが加えられた1質点系モデルと仮定し、近隣建物14の変位量をx、円振動数をω(=2π/T)、及びセンサー56による計測時間をtとした場合、運動方程式は式(1)となる。
Figure 0005116603
次に、振動波形Wから求めた固有周期T及び減衰定数hを式(1)に代入し、近隣建物14へ作用させた制御力uを加振力Fとすると、図4に一点鎖線で示したような応答波形Wが得られる。
そして、この応答波形Wが振動波形Wに近似するような質量Mをシミュレーション解析によって求め、この値を近隣建物14の建物特性としての質量とする。なお、減衰定数hは、振動波形Wから概略値を求めて、同様のシミュレーション解析によって詳細な値を求めるようにしてもよい。
このようにして、図3(b)に示した同定手段58により、センサー56で計測した振動波形Wから近隣建物14の建物特性(近隣建物14の質量M、固有周期T及び減衰定数h)を同定する。
なお、図5では、近隣建物14の振動モデルを1質点系モデルと仮定したが、多質点系モデルと仮定してもよい。
また、振動制御工程において駆動手段54により作用させる制御力は、一般的に用いられている制御パラメータの演算手法を用いて求めればよい。例えば、日本建築学会構造系論文集、第514号、1998年12月、山本雅史、鈴木祥之「アクティブマスダンパーのストローク制約を考慮した極配置アルゴリズムによる実大構造物の制震に関する実験的研究」、p.127−132に開示されている制御パラメータの演算手法を用いてもよい。この制御パラメータの演算手法を用いて、近隣建物14に発生した振動を打ち消す制御力を作用させる方法を以下に説明する。
近隣建物14に発生した振動を打ち消す制御力uを求める場合には、図3(a)に示したブロック図の中の制御フロー(図3(c)の実線で示した部分)が機能する。
まず、図1(b)の状態(重機などを用いて行う解体作業や解体ガラの搬出作業等によって、解体建物10に外乱としての解体振動が発生している状態)において、図3(c)に示すように、アクティブマスダンパー18によって近隣建物14に制御力uを作用させる。
次に、アクティブマスダンパー18によって近隣建物14へ制御力uを作用させた後に近隣建物14から発生する振動波形Wをセンサー56で計測する。
次に、建物特性同定工程により求めた近隣建物14の建物特性(近隣建物14の質量M、固有周期T及び減衰定数h)に基づき、運動方程式によって制御力uを求める。
近隣建物14の振動モデルを図6に示すような、解体振動による加振力Fと質量mのマス34による制御力uとが質量Mの近隣建物14に加えられた2質点系モデルと仮定し、マス34の変位量をδ、近隣建物14の変位量をx、質量マトリックスをN、減衰マトリックスをC、及び剛性マトリックスをKとし、式(2)、(3)のように定めると、運動方程式は式(4)となる。なお、変位量δは、駆動手段54により移動するマス34のストロークに相当し、変位量xは、センサー56で計測した振動波形Wから知ることができる。
Figure 0005116603
Figure 0005116603
Figure 0005116603
ここで、係数をf〜fとすると、制御力uは式(5)となる。そして、式(5)を式(4)に代入して得られる特性方程式が、望ましい1次固有周期、1次減衰定数、2次固有周期、及び2次減衰定数となる振動系の特性方程式と一致するように係数f〜fを求めると、式(6)が得られる。
Figure 0005116603
Figure 0005116603
よって、式(6)より係数f〜fを求め、この係数f〜fを式(5)に代入して制御力uを求める。
なお、式(6)のiは固有振動数の次数を表しており、i次の円振動数をω、i次のモード質量をM、i次の減衰定数をh、質量mとi次のモード質量Mの比(=m/M)をμ、任意に設定するi次の減衰定数をH、アクティブマスダンパー18全体の減衰係数をCとし、α=1+(I/(m・L ))としている。
例えば、図2(a)で示したアクティブマスダンパー18では、ネジ軸48とナット40とが多数の小さなボールを介して低摩擦で運動するボールネジ機構が用いられているので、Iは、このボールネジと中空モータ50との回転慣性の和となり、Lは、ボールネジの回転運動に対するマス34の直線運動の割合(=ボールネジのリード/2π)となる。
このようにして、図3(c)に示した制御手段60により、センサー56で計測した振動と近隣建物14の建物特性とに基づいて、近隣建物14に発生した振動を打ち消す制御力uを作用させる。
そして、解体建物10の所定の階を解体するまでの各階における解体作業時(例えば、図1(c)の解体作業時)にこの振動制御工程を行う。
なお、図6では、近隣建物14の振動モデルを2質点系モデルと仮定したが、多質点系モデルとしてもよい。
次に、本発明の第1の実施形態の作用及び効果について説明する。
第1の実施形態では、図3(c)に示すように、解体建物10の解体作業時にこの解体建物10に発生し近隣建物14へ伝達される振動を打ち消す制御力uをアクティブマスダンパー18から近隣建物14へ作用させる(制御手段60によって求めた制御力uを駆動手段54により発生させる)。これにより、近隣建物14に発生する振動を制御し、解体建物10から近隣建物14へ伝達される振動を低減することができる。
また、解体建物10の所定の階まで解体した後にアクティブマスダンパー18の使用を止めてアクティブマスダンパー18を撤去することにより、振動低減に掛かるコストを低く抑えることができる。
解体建物10と近隣建物14との固有周期が近似している場合、アクティブマスダンパー18を駆動させない状態においては、解体建物10を解体する際に重機などを用いて行う解体作業や解体ガラの搬出作業等によって解体建物10の固有振動数と等しい振動数の解体振動が解体建物10に発生すると、この解体振動は地盤12を介して解体建物10から近隣建物14へ伝達され近隣建物14にて共振を起こす。
しかし、解体建物10の固有周期が、近隣建物14の固有周期の1/2になったときには、解体建物10の解体作業により発生する解体振動の振動数と近隣建物14の固有振動数とは異なるので、解体建物10から伝達される解体振動が近隣建物14にて共振しなくなる。
また、建物の固有周期は、建物の高さに概ね比例するので、解体作業と共に低くなっていく解体建物10から発生する解体振動の振動数と近隣建物14の固有振動数とがこれ以降近似することはない。
そこで、第1の実施形態では、解体建物10の固有周期が近隣建物14の固有周期の1/2になった後(解体建物10の固有周期が近隣建物14の固有周期の1/2になったときの解体建物10の高さ以下の解体建物10の階で解体作業が行われるようになった後)の図1(d)の状態でアクティブマスダンパー18の使用を止めて撤去するので、アクティブマスダンパー18を撤去した後においても解体建物10から伝達される解体振動が近隣建物14にて共振することはなく、また、アクティブマスダンパー18の設置(使用)期間が短くなるので、振動低減対策費を低く抑えることができる。
また、アクティブマスダンパー18は、解体作業が行われない近隣建物14に設置されているので、解体工事の期間中にアクティブマスダンパー18を盛り替える必要がない。
また、解体作業が行われない近隣建物14の建物特性は変化しない。よって、アクティブマスダンパー18から近隣建物14へ作用させる制御力uを求めるために必要な近隣建物14の建物特性の同定(測定)を、解体工事が行われる工期の前に一度だけ行えばよい。
また、解体作業が行われない近隣建物14にアクティブマスダンパー18が設置されるので、解体建物10の解体作業を行いながらアクティブマスダンパー18の撤去を行うことができる。よって、解体作業の工期を短縮することができる。
また、アクティブマスダンパー18により作用させる制御力uは、近隣建物14の変位の大きい最上階16近くの階で作用させた方が、近隣建物14へ伝達される振動を効率よく低減することができる。
よって、図1(a)に示すように、アクティブマスダンパー18は、近隣建物14の最上階に設置されているので、近隣建物14へ伝達される振動をより効果的に低減することができる。
また、アクティブマスダンパー18を複数のユニット(マスユニット22、駆動ユニット24、センサーユニット26及び制御ユニット28)に分けて運ぶことができるので、アクティブマスダンパー18の移動、設置及び撤去を容易に行うことができる。例えば、近隣建物14に装備されているエレベータを利用してアクティブマスダンパー18の移動を行うことができる。
また、アクティブマスダンパー18が故障した場合、不具合を生じているユニットのみを交換することができる。また、アクティブマスダンパー18を修理したり、メンテナンスしたりする場合、修理やメンテナンスの対象となるユニットのみをメーカーの修理工場等へ送ることができる。
また、図2(a)で示したアクティブマスダンパー18は、ナット62を外して錘30の増減を行うだけで容易にマス34の重量を変更することができる。
なお、第1の実施形態では、解体建物10の固有周期が近隣建物14の固有周期の1/2になったときの解体建物10の高さ以下の階を解体建物10の所定の階とした例を示したが、解体建物10の固有周期が近隣建物14の固有周期に対してどの程度になったときの解体建物10の高さ以下の階を所定の階とするかは、近隣建物14に求められる振動低減性能や振動低減対策に費やすことが可能な費用等を考慮して適宜決めればよい。
すなわち、解体工事の工期の早い段階でアクティブマスダンパー18を撤去するようにすれば運用コストを低く抑えることができ、遅い段階でアクティブマスダンパー18を撤去するようにすればより確実に近隣建物14に発生する振動を低減することができる。
例えば、解体建物10の所定の階を、解体建物10の固有周期が近隣建物14の固有周期の2/3になったときの解体建物10の高さ以下の階とすれば、早い時期にアクティブマスダンパー18の使用をやめて撤去することができるので、振動低減対策費をより低く抑えることができる。
ここで、解体建物10の固有周期が近隣建物14の固有周期の1/2になったときに、アクティブマスダンパー18を駆動させない状態で近隣建物14に発生する振動がどの程度低減されるかを説明する。
図5で示した1質点系の振動モデルにおいて、応答振幅をA、静的振幅をδ、外力Fの振動数をp、円振動数をωとすると、図7に示すような共振曲線64が得られる。図7の横軸には、振動数比p/ωが示され、縦軸には、動的応答倍率A/δが示されている。また、共振曲線64は、減衰定数hを0.05としたときの値であり、式(7)の関係を満たす。
Figure 0005116603
解体建物10の振動数をp、近隣建物14の円振動数をωと考え、近隣建物14の減衰定数hを0.05と仮定すると、図1(a)で示した解体建物10を解体する前の状態で、解体建物10と近隣建物14との固有周期が等しい場合、振動数比p/ωは1になるので、式(7)より動的応答倍率A/δは10となる。
これに対して、解体建物10の固有周期が近隣建物14の固有周期の1/2になったとき(すなわち、pがωの2倍になったとき)には、振動数比p/ωは2になるので、式(7)より動的応答倍率A/δは0.33となる。
すなわち、解体建物10の固有周期が近隣建物14の固有周期の1/2になったときに、アクティブマスダンパー18を駆動させない状態で、近隣建物14に発生する振動は解体工事開始直後(図1(b)の状態のとき)に近隣建物14に発生していた振動の、理論値として約3%程度に低減されることが予測できる。実際の建物においては、外力の不均一性、周期や減衰定数などの建物特性のばらつき、1質点系のモデルと実建物の挙動の違いによって、理論値ほど低減は期待できないが、解体建物と近隣建物周期が1/2になれば、共振時に比べて大きく振動低減が図れることが予測される。
このように、解体建物10の固有周期が近隣建物14の固有周期の1/2になれば、アクティブマスダンパー18を用いる必要はなくなるので、解体建物10の固有周期が近隣建物14の固有周期の1/2になったときの解体建物10の高さ以下の階を解体建物10の所定の階とするのが好ましい。
なお、同様の方法で、解体建物10の固有周期が近隣建物14の固有周期の2/3になったときの動的応答倍率A/δを求めると0.79になる。よって、この場合には、アクティブマスダンパー18を駆動させない状態で、近隣建物14に発生する振動は解体工事開始直後(図1(b)の状態のとき)に近隣建物14に発生していた振動の、理論値として約8%程度に低減されることが予測できる。実際の建物においては、外力の不均一性、周期や減衰定数などの建物特性のばらつき、1質点系のモデルと実建物の挙動の違いによって、理論値ほど低減は期待できないが、解体建物と近隣建物周期が2/3になれば、共振時に比べて大きく振動低減が図れることが予測される。
これにより、必要とする振動低減性能によっては、解体建物10の所定の階を、解体建物10の固有周期が近隣建物14の固有周期の2/3になったときの解体建物10の高さ以下の階としても十分な効果を発揮することができる。
また、動的応答倍率A/δの試算の際に仮定したように、解体建物10と近隣建物14との固有周期が近似している場合、解体建物10を解体する際に重機などを用いて行う解体作業や解体ガラの搬出作業等によって解体建物10の固有振動数と等しい振動数の解体振動が解体建物10に発生すると、振動低減対策が施されていない場合にはこの解体振動は地盤を経由して解体建物10から近隣建物14へ伝達され、近隣建物14にて共振を起こすことが考えられる。
そして、近隣建物14に共振が起こった場合、近隣建物14の居住者に不快感を与えてしまうことが問題となる。よって、第1の実施形態は、このような解体建物10と近隣建物14との固有周期が近似している場合に特に有効となる。
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
第2の実施形態は、第1の実施形態で説明した解体建物10の所定の階を近隣建物の1/2の高さ以下に位置する階としたものである。したがって、第2の実施形態の説明において第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に適宜省略して説明する。
第2の実施形態では、図8に示すように、近隣建物14の高さVの1/2の高さV/2以下に位置する解体建物10の階を所定の階とし、この階まで解体建物10を解体した後にアクティブマスダンパー18を撤去する(アクティブマスダンパー撤去工程)。
次に、本発明の第2の実施形態の作用及び効果について説明する。
解体建物10と近隣建物14との固有周期が近似し、解体建物10と近隣建物14との高さがほぼ等しい場合、アクティブマスダンパー18を駆動させない状態においては、解体建物10を解体する際に重機などを用いて行う解体作業や解体ガラの搬出作業等によって解体建物10の固有振動数と等しい振動数の解体振動が解体建物10に発生すると、この解体振動は地盤12を介して解体建物10から近隣建物14へ伝達され近隣建物14にて共振を起こす。
ここで、建物の固有周期は、建物の高さに概ね比例するので、解体建物10の高さが近隣建物14の高さの1/2になったときに、解体建物10の固有周期は、近隣建物14の固有周期の約1/2になる。
よって、解体建物10の解体作業により発生する解体振動の振動数と近隣建物14の固有振動数とは異なるので、解体建物10から伝達される解体振動が近隣建物14にて共振しなくなる。
また、解体作業と共に低くなっていく解体建物10から発生する解体振動の振動数と近隣建物10の固有振動数とがこれ以降近似することはない。
そこで、第2の実施形態では、近隣建物14の1/2の高さ以下に位置する解体建物10の階まで解体建物10を解体した後にアクティブマスダンパー18の使用をやめて撤去するので、アクティブマスダンパー18を撤去した後においても解体建物10から伝達される解体振動が近隣建物14にて共振することはなく、また、アクティブマスダンパー18の設置(使用)期間が短くなるので、振動低減対策費を低く抑えることができる。
また、解体工事の期間中、アクティブマスダンパー18の撤去のタイミングを決めるために解体建物10の固有周期を常に確認していなくてよい。
なお、第2の実施形態では、解体建物10の所定の階を近隣建物の1/2の高さ以下に位置する階とした例を示したが、解体建物10の解体作業により解体建物10に発生する解体振動の振動数と近隣建物14の固有振動数とが異なる状況が得られる解体建物10の階を所定の階とすればよい。
例えば、解体建物10の所定の階を近隣建物の2/3の高さ以下に位置する階とすれば、早い時期にアクティブマスダンパー18の使用をやめて撤去することができるので、振動低減対策費をより低く抑えることができる。
解体建物10の所定の階を近隣建物14の1/2の高さ以下に位置する階とすれば、解体建物10の固有周期は近隣建物14の固有周期の1/2程度になることが予測され、第1の実施形態で示したように、アクティブマスダンパー18を駆動させない状態においても、近隣建物14に発生する振動は解体工事直後(図1(b)の状態のとき)に近隣建物14に発生していた振動の、理論値として約3%程度に低減されるので、解体建物10の所定の階を近隣建物の1/2の高さ以下に位置する階とするのが好ましい。
また、解体建物10の所定の階を近隣建物14の2/3の高さ以下に位置する階とすれば、解体建物10の固有周期は近隣建物14の固有周期の2/3程度になることが予測され、第1の実施形態で示したように、アクティブマスダンパー18を駆動させない状態においても、近隣建物14に発生する振動は解体工事直後(図1(b)の状態のとき)に近隣建物14に発生していた振動の、理論値として約8%程度に低減されるので、必要とする振動低減性能によっては、解体建物10の所定の階を近隣建物14の2/3の高さ以下に位置する階としても十分な効果を発揮することができる。
以上、本発明の第1及び第2の実施形態について説明した。
なお、第1及び第2の実施形態では、中空モータ50によりマス34を移動させる機構のアクティブマスダンパー18(図2(a)を参照のこと)の例を示したが、アクティブマスダンパーは、マスを移動させることにより制御力を発生させる装置であればよい。例えば、油圧やギヤードモータによりマスを移動させる機構のアクティブマスダンパーを用いてもよい。
また、第1及び第2の実施形態で説明したように、アクティブマスダンパー18は、低減対象となる振動の方向とネジ軸48の軸方向とが同じになるように設置する必要があるので、低減対象とする振動がXとYの2方向(XとYは共に水平方向)に発生する場合には、2基のアクティブマスダンパー18を設置する。
また、XとYとZの3方向(XとYは共に水平方向、Zは鉛直方向)に発生する場合には、XとYの2方向に発生する振動に対して2基のアクティブマスダンパー18を設置し、Zの1方向に発生する振動に対しては、例えば、図9に示すような、マスを鉛直方向に移動させるアクティブマスダンパー66を1基設置する。
また、低減対象とする振動が2方向又は3方向の場合には、1基で2方向又は3方向の振動を低減するタイプのアクティブマスダンパーを用いてもよい。
アクティブマスダンパー66は、図9に示すように、可動マス68が、この可動マス68を貫通するセンターポール70に沿って上下方向に移動する。さらに、箱体84の底部86に固定されて可動マス68の外周部に配置された励磁マグネット72へ供給する電流の向きと大きさを調整し、この電磁力によって可動マス68を上下方向に移動させる。
そして、可動マス68を下降させて加振版74へ衝突させ、これによって、アクティブマスダンパー66から鉛直方向の制御力を発生させる。
また、第1及び第2の実施形態では、アクティブマスダンパー18を近隣建物14の最上階(屋上階16)に設置した例を示したが、アクティブマスダンパー18は、近隣建物14における最上階以外の階に設置してもよい。
また、第1及び第2の実施形態で示したアクティブマスダンパー18は、マスユニット22、駆動ユニット24、センサーユニット26及び制御ユニット28によって構成されているが、別の単位のユニットとしてもよい。
例えば、駆動ユニット24と制御ユニット28とを1つのユニットとしてもよいし、制御ユニット28を同定手段58を有するユニットと制御手段60を有するユニットとに分けてもよい。
また、ユニットを構成せずに、マス34、駆動手段54、センサー56、同定手段58及び制御手段60等の全ての要素が一体化されたアクティブマスダンパー18としてもよい。
また、例えば、遠隔操作でアクティブマスダンパー18の駆動スイッチのオン・オフができるようにして、解体作業時のみアクティブマスダンパー18を駆動するようにしてもよいし、解体建物10に振動を検知するセンサーを設けておき、このセンサーにより検知された振動が一定値以上になったときにアクティブマスダンパー18の駆動スイッチが自動的にオンになるようにしてもよいし、近隣建物14に設置したアクティブマスダンパー18のセンサー56により計測した振動の大きさが一定値以上になったときにアクティブマスダンパー18の駆動スイッチが自動的にオンになるようにしてもよい。
このようにすれば、解体作業休止中にアクティブマスダンパー18を駆動させずに済むので電気代を節約でき、振動低減に掛かる運用コストをさらに低く抑えることができる。
また、第1及び第2の実施形態では、解体建物10をRC造の建物とした例を示したが、解体建物10はSRC造、S造等の建物であってもよい。
RC造やSRC造の建物は、解体時に発生する振動が他の工法よりも大きくなる傾向があるので、第1及び第2の実施形態は、RC造やSRC造の建物の解体工事に適用するのが効果的である。
また、解体工事においては、振動と共に騒音も発生するが、騒音については建物を覆う防音シート等で対処できるので、近隣建物の居住者が感じる体感振動を低減する第1及び第2の実施形態は、居住の快適性を確保する上で有効な技術である。
以上、本発明の第1及び第2の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものでなく、第1及び第2の実施形態を組み合わせて用いてもよいし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
(実施例)
本実施例では、実際の建物の解体工事において、第1の実施形態で示した解体建物の振動制御方法の振動制御工程によって近隣建物に伝達される振動を低減し、本発明の有効性を検証した結果を示す。
図10(a)の平面図、及び図10(b)の立面図に示すように、解体建物としてのビル76は、地下2階、地上9階建て、延床面積約7,000mのSRC造建物であり、また、近隣建物としてのビル78は、地上10階建て、延床面積約1,000mのSRC造建物である。
そして、アクティブマスダンパー18は、ビル78(近隣建物)の屋上階(R階床88)上に設置した。
図11には、センサー56による測定結果が示されている。図11の横軸にはビル76(解体建物)の解体日数が示され、左の縦軸にはビル76(解体建物)の床の位置が示され、右の縦軸にはビル78(近隣建物)に発生した(センサー56によって測定された)振動の振動レベルが示されている。
ビル78(近隣建物)の振動レベルの測定は、アクティブマスダンパー18のセンサー56によって28日間行った。アクティブマスダンパー18は、3日目から18日目まで駆動させている(棒グラフの斜線部分の期間)。
図11の棒グラフ(棒グラフの棒の上端辺)は、解体作業を行っている床の位置を示している。例えば、3日目にはR階床の解体作業が行われており、13日目には8階床の解体作業が行われている。
図11の値80は、その日に測定された振動レベルの最大値であり、値82は、その日に測定された振動レベルの最多値である。
図11の測定結果より、以下に示す(1)〜(3)の効果が確認できた。
(1)振動レベルの最大値及び最多値は、共に2日目の値に比べて3日目の値は大きく低減されている。これによって、3日目から駆動したアクティブマスダンパー18の振動低減効果が有効に発揮されていることがわかる。
なお、振動レベルの最大値は、6dB(=72dB−66dB)低減され、振動レベルの最多値は、6dB(=70dB−64dB)低減されている。
(2)解体日数の経過と共に、振動レベルの最多値は徐々に低減されている。このことから、解体作業と共に低くなっていくビル76(解体建物)から発生する解体振動の振動数とビル78(近隣建物)との固有振動数とが徐々に離れていくことにより、ビル78(近隣建物)に伝達される振動が小さくなっていくのがわかる。
(3)表1には、図11の測定結果に基づいて作成した、(ビル76の高さ)/(ビル78の高さ)に対する、ビル78(近隣建物)に発生する振動の振動レベル(最大値、最多値)との関係が示されている。
Figure 0005116603
表1からわかるように、ビル78(近隣建物)の高さに対するビル76(解体建物)の高さの割合が約2/3以下では、振動レベルの最大値及び最多値は60dB以下になり、ビル78(近隣建物)の高さに対するビル76(解体建物)の高さの割合が約1/3〜約2/3では、アクティブマスダンパー18の駆動の有無に関係なく、振動レベルの最大値及び最多値はほとんど同じ値になっている。
これにより、ビル78(近隣建物)の高さに対するビル76(解体建物)の高さの割合が約2/3となった18日目以降は、アクティブマスダンパー18の駆動を止めて撤去してもビル78(近隣建物)の居住性に問題が生じないことがわかる。
なお、アクティブマスダンパー18が駆動していない20日目には、振動レベルの最大値が64dBとなっているが(図11を参照のこと)、発生頻度は低く且つ65dBに満たない値であるのでビル78(近隣建物)の居住性に問題が生じることはない。
本発明の第1の実施形態に係る解体建物の振動制御方法を示す説明図である。 本発明の第1の実施形態に係るアクティブマスダンパーを示す正面図である。 本発明の第1の実施形態に係る同定手段及び制御手段を示すブロック図である。 本発明の第1の実施形態に係る同定方法を示す線図である。 本発明の第1の実施形態に係る近隣建物の振動モデルを示す説明図である。 本発明の第1の実施形態に係る近隣建物の振動モデルを示す説明図である。 本発明の第1の実施形態に係る振動低減効果を示す線図である。 本発明の第2の実施形態に係る解体建物の振動制御方法を示す説明図である。 本発明の実施形態に係るアクティブマスダンパーの変形例を示す正面図である。 本発明の実施例に係る解体建物及び近隣建物の配置を示す説明図である。 本発明の実施例に係る測定結果を示す線図である。 従来のアクティブマスダンパーを示す正面図である。 従来の構造物の振動制御方法を示す説明図である。
符号の説明
10 解体建物
14 近隣建物
16 屋上階(最上階)
18、66 アクティブマスダンパー
30 錘
54 駆動手段
56 センサー
60 制御手段
68 可動マス(錘)
h 減衰定数(建物特性)
M 質量(建物特性)
T 固有周期(建物特性)
u 制御力
W 振動波形(振動)

Claims (7)

  1. 上方の階から下方の階へ解体される解体建物の周辺に建てられた近隣建物にアクティブマスダンパーを設置するアクティブマスダンパー設置工程と、
    前記解体建物の解体時に前記アクティブマスダンパーを駆動して前記解体建物から前記近隣建物へ伝達される振動を制御する振動制御工程と、
    前記解体建物の所定の階まで解体した後に前記アクティブマスダンパーを撤去するアクティブマスダンパー撤去工程と、
    を有する解体建物の振動制御方法。
  2. 前記アクティブマスダンパーは、前記近隣建物の最上階に設置される請求項1に記載の解体建物の振動制御方法。
  3. 前記アクティブマスダンパーは、錘と、前記錘を移動させて前記近隣建物へ制御力を作用させる駆動手段と、前記近隣建物に発生した振動を計測するセンサーと、前記センサーで計測した振動と前記近隣建物の建物特性とに基づいて、前記近隣建物に発生した振動を打ち消す制御力を前記駆動手段により作用させる制御手段と、を個別に備える複数のユニットによって構成される請求項1又は2に記載の解体建物の振動制御方法。
  4. 前記所定の階は、前記解体建物の固有周期が前記近隣建物の固有周期の1/2になったときの前記解体建物の高さ以下の階である請求項1〜3の何れか1項に記載の解体建物の振動制御方法。
  5. 前記所定の階は、前記解体建物の固有周期が前記近隣建物の固有周期の2/3になったときの前記解体建物の高さ以下の階である請求項1〜3の何れか1項に記載の解体建物の振動制御方法。
  6. 前記所定の階は、前記近隣建物の1/2の高さ以下に位置する階である請求項1〜3の何れか1項に記載の解体建物の振動制御方法。
  7. 前記所定の階は、前記近隣建物の2/3の高さ以下に位置する階である請求項1〜3の何れか1項に記載の解体建物の振動制御方法。
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