JP5114670B2 - すべり軸受機構 - Google Patents

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Description

本発明は、すべり軸受機構に関し、特に、溶融めっき鋼線製造時に溶融金属浴中に浸漬されて使用される回転式シンカーの軸受の振動低減に関するものである。
腐食環境下で使用される鋼線には、耐食性を付与するため、表面に例えば、溶融亜鉛等のめっきが施される。鋼線をめっきするために、製造ライン上で溶融金属浴13に、図1の如く鋼線を浸漬する必要がある。この機構は一般にシンカーと呼ばれるが、シンカーの機構は大別して、溶融シリカ等の硬質材料製で、通線溝を有する部材の下を擦過させて鋼線を通過させる固定シンカー方式と、軸と軸受を有し、浴中で円筒状面が回転して鋼線との擦過なしで鋼線を案内する回転シンカー方式がある。
固定式シンカーは、構造が単純で、可動部がないことから、鋼線の案内が安定しており、線のぶれが少ないことが長所であるが、反面、鋼線とシンカー部材が擦過するため、繰り出し側の通材抵抗が大きく、その結果、面圧が高くなると、線表面に疵が付いたり、シンカー案内面が削れるという現象が発生することがある。
回転式シンカーの長所は、鋼線とシンカー部材の擦過がないため、表面に疵を付けずに通材することができることであるが、短所としては、案内される線張力の変動により、特にラインスピードを上げた場合、固定軸受内でジャーナルのぶれが起こり、そのぶれが線に伝達されるため、線に振動が生じ、表面品質が不安定になることである。
固定軸受内でのジャーナルのぶれが起こり易い理由は、回転式シンカーのすべり軸受機構内には、常温、大気中で用いられるような軸受と比較して、ジャーナルと固定軸受との間に極めて大きなクリアランスを設けているためである。
本発明において、すべり軸受機構は溶融金属浴内に浸漬されるため、稼働中にジャーナルと固定軸受の間に溶融金属が入り込む。通常のすべり軸受機構のようにジャーナルと固定軸受の間隔が狭いと、メンテナンス時に回転シンカーを溶融金属から引き揚げる際、ジャーナルと固定軸受の間に入り込んだ溶融金属が表面張力により隙間全周に残存し、温度低下により凝固した固体金属と、ジャーナルと固定軸受の収縮率の相違により、その後の冷却により、ジャーナル又は固定軸受の部材に応力が発生し、破損してしまう。溶融金属内に浸漬するすべり軸受機構において、固定軸受とジャーナルとの間に大きなクリアランスを設ける必要のある理由は、溶融金属から引き揚げた際、ジャーナルと固定軸受の隙間の大きな空間から、容易に溶融金属を自然流出させる必要があるためである。
したがって、鉄線の表面に疵を付けずに品質の良いめっき線を生産するためには、線との擦過が起こらない回転シンカーが必須であるにも関わらず、上記のような理由で、線ぶれを起こさずに安定的に操業するのは非常に困難であった。
すべり軸受機構の軸ぶれの低減に関連する既存の技術として、特許文献1に開示されているように、スキャナモーターの軸受構造について、複数の板状のすべり軸受に板バネ又は弾性体により予圧を加えることにより、回転体の傾きを低減する技術が提案されている。
しかし、上記の機構の場合、板バネ又は弾性体で予圧を加えることは、本発明で提案しようとしている溶融金属中での機構の場合、高温により、板バネ又は弾性体の剛性が徐々に失われたり、材質が変性したりするため、適用が困難である。
また、固定の摺動部材と予圧を付勢する部材の少なくとも3方から隙間なく押さえつける必要があるため、上述のようにメンテナンス時にジャーナルと固定軸受の間に残存した溶融金属の凝固収縮率と部材の収縮率の相違により、部材に無理な応力が発生して破損するため、本発明が想定しているような状況下では適用できない。
また、特許文献2に開示されているように、軸受孔の形状を略三角形として軸との接触を3箇所とすることにより熱の発生を大幅に軽減する技術が提案されている。
しかし、この場合も、本発明で提案しようとしている溶融金属中で使用する機構の場合、3方から隙間なく拘束されているため、メンテナンス時の凝固金属の凝固収縮率と部材の熱収縮率の相違により応力が発生して部材が破損するため、適用することができない。
特開平5−180217号公報 実開平7−1721号公報
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、回転式シンカーの特徴である鉄線に疵が付き難い点を活かし、かつ、ジャーナル−固定軸受間のクリアランスの大きさ故に発生する振動を低減させるすべり軸受機構を提供することを目的とするものである。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、その趣旨とするところは次の通りである。
(1)軸に垂直な断面が円形であるジャーナル1と、ジャーナル1を組み込む空間7を有する固定軸受2から構成される溶融金属浴内に浸漬するすべり軸受機構であって、固定軸受2の内周面の少なくとも50%において、対峙するジャーナル1との間隔が2mm〜20mmであり、固定軸受2の内周8形状が、内周8とジャーナル1との接触箇所(接点5)が軸に垂直な断面で2箇所となる形状であり、該2箇所の接触部(接点5)におけるジャーナル1外周との接線6のなす角度θが、30〜170°であり、さらに、固定軸受2の空間7の軸に垂直な断面形状が、多角形、楕円形、又は、これらを組み合わせた形状であることを特徴とするすべり軸受機構
(2)固定軸受2とジャーナル1が、何れも△T:500℃〜1200℃の耐熱衝撃性を有する上記(1)に記載のすべり軸受機構。
)固定軸受2とジャーナル1のうち、少なくともいずれか一方が、ビッカース硬さ:9.8×103MPa以上の硬度を有し、かつ、両方がビッカース硬さ34.3×103MPa以下である上記(1)又は(2)に記載のすべり軸受機構。
本発明によるすべり軸受機構によれば、例えば、溶融金属めっき線の製造ライン上で溶融金属浴中に鋼線を浸潰しつつ通過させる必要がある工程で、回転式シンカーの特徴である鋼線に疵が付き難い特徴を活かしつつ、かつ、ジャーナルと固定軸受の間で生ずる振動が解消し、表面性状の極めて安定した溶融めっき線を、安定的に生産することができ、かつメンテナンス時のトラブルも防げるため、産業上の貢献が極めて顕著である。
本発明のすべり軸受機構の構造について述べる。本発明のすべり軸受機構は、図2に例示するような固定軸受2とジャーナル1の組合せである。本発明で固定軸受2の空間7とは、固定軸受2の内周より内側の空間であって、ジャーナル1が貫通する空間をいう。また固定軸受2の内周8とは、固定軸受2と上記空間7との境界を形成する内周をいう。
すべり軸受機構のジャーナル1は、回転軸に垂直な断面が同心の円形をなしているが、断面位置により必ずしも径は同一である必要はなく、樽型、糸巻型又はそれらの組合せであっても差し支えない。
固定軸受2は、溶融金属浴内に浸漬されて固定されている。固定軸受2はジャーナル1が貫通する空間7を有する。本発明において、固定軸受2と空間7を隔てる内周8の形状については、溶融金属浴内ですべり軸受機構として使用する際、図7に示すように、固定軸受2の内周8とジャーナル1との間の接触箇所が軸に垂直な断面で2箇所(5a、5b)となる形状とする。
以下に、本発明の基本作動について説明する。本発明が使用を想定している溶融金属中で、鋼線を案内する回転シンカーのすべり軸受機構では、図1(b)に示すように、ジャーナル1と同心の胴部9に対し鋼線10の線張力4aと4bがかかっている。その線張力4の合力4cによって、ジャーナル1が固定軸受2の内周8に押し付けられる方向は操業時には概ね決まった位置となるのが特徴である。そこで図7に示すように、固定軸受2とジャーナル1との2つの接触点(5a、5b)の中点近傍に入線側と出線側の線張力の合力4cの方向が概一致するように固定軸受の設置方向を調節する。
図4に示す従来使用されていたジャーナル1と固定軸受2の接触点5が1点の溶融金属浴中のすべり軸受においては、通常、図5に示すように、ジャーナル1にかかる力は、固定軸受2の接点5から受ける抗力3と、鋼線から受ける張力4a、4bの合力4cとが釣り合って静止している。しかし、操業中に張力4aと4bのベクトルの大きさが変化すると、それらの合力4cの方向が変化し、それに応じた力の釣り合いが得られるのは図6の接点5であるから、ジャーナル1は固定軸受2上を移動せざるを得ず、ジャーナルのぶれが生ずる。
ジャーナルのぶれが生じることにより、通材している線のパスラインが変動し、鉄線表面が振動することによって、その上を覆う未凝固の溶融金属に乱れや垂れが生ずるため、めっき線表面が荒れ易くなるという品質上の問題が発生する。
一方、本発明のように、固定軸受2の空間内面(内周8)をジャーナル1と2箇所(5a、5b)で接触するような構造とした場合、通常は図7に示すように、ジャーナル1は、固定軸受2の2箇所(5a、5b)から抗力3a、3bを受け、鋼線からは張力4a、4bを受けて釣り合いの状態にある。
仮に、操業中、図8のように、線張力4a、4bの大きさが変化した場合でも、ジャーナル1が固定軸受の2箇所(5a、5b)から受ける抗力3a、3bが線張力の変動に応じて変化し、線張力4a、4bの調整範囲を超えない限り、即ち、4a、4bのいずれかが0(ゼロ)に成らない限りにおいては、ジャーナル1は位置を変えることなく、力の釣り合いの状態を保つことができるので、ジャーナルのぶれを起こすことなく、安定した位置で回転を続けることができる。
次に、本発明での固定軸受の接触箇所の位置関係について説明する。図9に、接触箇所(5a、5b)における2本の接線(6a、6b)のなす角度θについて定義を示した。ジャーナル1と固定軸受2が接触する点(5a、5b)での接線(6a、6b)のなす角度θが170°を越える場合、ジャーナルが固定軸受の2箇所から受ける力のベクトルの方向の差異が小さくなるため、線張力の変動の大きさが抗力の変動による調整の範囲を超え易くなり、張力4a、4bの内どちらかが0となり、2箇所の接点(5a、5b)のうちのいずれかが固定軸受との接触を失う現象が起こり、軸の位置がぶれてしまう可能性が高くなる。このため、本発明では、ジャーナル1と固定軸受2が接触する点(5a、5b)での接線(6a、6b)のなす角度θを170°以下にすることが好ましい。軸位置をより安定化するためには角度θは150°以下であると更に好ましい。
また、ジャーナル1と固定軸受2が接触するそれぞれの点(5a、5b)で引いた接線(6a、6b)の互いになす角度θが30°より小さい場合、摩擦力によって、ジャーナル1が固定軸受2の方向に押し付けられる力が大きくなり、場合によってはカジリを生じて引っ掛かる等して、回転速度がむしろ不均一となる現象が発生する可能性が高くなる。このため、本発明では、ジャーナル1と固定軸受2が接触する点での接線のなす角度θを30°以上にすることが好ましい。
次に、固定軸受2の空間7形状について述べる。本発明における固定軸受2の空間7の軸に垂直な断面形状は、上記のように、内周8の2箇所(5a、5b)でジャーナル1と接することができる形状であればどのような形状であっても構わないのであるが、図3に示すような形状が例示できる。その空間形状を、円弧、多角形、楕円の全部又はその一部、又は、それらの組合せとすることで、確実に接触箇所を2箇所とすることができる。図3(g)に示すように、突起部材14を2個埋め込んだものとしてもよい。
また、特に図3の(a)〜(e)に示すような固定軸受2の空間7が閉じた多角形又は楕円形状であれば、接触箇所が磨耗して損傷を受けたとしても、固定軸受の角度を変更することにより、他の健全な2箇所でジャーナルを支持することができるので、すべり軸受機構の寿命延長も図れる。もちろん、図3(f)に示すように、空間7が閉じていなくても良い。この場合でも、ジャーナル1は鋼線の線張力の合力4cによって軸受2の内周8に押し付けられ、2箇所の接点(5a、5b)でジャーナル1と固定軸受の内周8とが接触することとなる。
次に、ジャーナルと固定軸受の間の間隔について説明する。固定軸受の内周面の少なくとも50%において、対峙するジャーナルとの間隔が2mm以上であることが好ましい。これは、メンテナンス時にすべり軸受機構を溶融金属浴から取り出した際に、稼働中にジャーナルと固定軸受の間に入り込んだ溶融金属が表面張力により、ジャーナルと固定軸受の間に残存しないように、間隔を2mm以上として容易にすべり軸受機構内から排出されるようにするものである。
但し、図3の(a)〜(e)に示すような固定軸受の空間7が閉じた形状の固定軸受の場合、固定軸受の内周面の少なくとも50%において、対峙するジャーナルとの間隔が20mm以下であることが望ましい。これは20mm程度の間隔で、メンテナンス時の溶融金属排出効果が飽和すると共に、間隔が20mmを超えた大きな間隔となると、固定軸受が大きくなり、すべり軸受機構を設置するための無駄なスペースが必要となる可能性があるためである。
次に、ジャーナルと固定軸受の耐熱衝撃性について述べる。耐熱衝撃性は、ある材質を加熱し、それを温度差△Tの氷水中に落下して急冷した亀裂が入らない最大の温度差で定義される。本発明での固定軸受とジャーナルは、何れも△T≧500℃の耐熱衝撃性を有することが好ましい。
この理由は、ジャーナル及び固定軸受の耐熱衝撃性△Tが500℃未満である場合、メンテナンス等で溶融金属から引き揚げた際、又は、再度溶融金属に浸漬する際の熱偏差により、ジャーナル及び固定軸受の部材自体に内部残留応力が発生し、破損してしまう可能性があるためである。
また、耐熱衝撃性△Tが1200℃を越える材質であっても、通常のめっきに用いる溶融金属浴程度で使用するにあたってはクラック発生抑制効果が飽和しているため、ジャーナル及び固定軸受の耐熱衝撃性△Tが1200℃以下で十分である。
ジャーナル、固定軸受けの材質として、サイアロン(SiAlON)を含む窒化ケイ素(Si34)系ファインセラミックス群、またはSUS316等のステンレス材の表面に、Co−Cr系のメタル系溶射材を1〜2mm程度コーティングしたものを採用することにより、耐熱衝撃性ΔTを500〜1200℃の範囲とすることができる。
また、少なくとも固定軸受かジャーナルのどちらか一方が、ビッカース硬さ9.8×103MPa以上の硬度を有することが好ましい。固定軸受とジャーナルのいずれもが9.8×103MPa未満の場合、固定軸受とジャーナルの擦過によって、互いに凝着又はむしれの現象を生じ易くなり、摩耗面の凹凸が大きくなることがあり、比較的短時間で摩耗が進行することもあるために、長期間の安定的な操業を継続することが困難になる可能性がある。このため、固定軸受かジャーナルのどちらか一方が、ビッカース硬さ9.8×103MPa以上であることが好ましい。
また、固定軸受とジャーナルのいずれもが、ビッカース硬さ34.3×103MPa以下の硬度であることが好ましい。この理由は固定軸受かジャーナルのどちらか一方でも34.3×103MPaを越えると、破壊靭性が低下する傾向があるため、メンテナンス等の取り扱いの際、ぶつけて破損する可能性が高くなるからである。
ビッカース硬さを9.8×103MPa以上とするためには、Si34系または炭化ケイ素(SiC)系ファインセラミックス群、またはCo−Cr等のメタル系溶射材を1〜2mm程度コーティングしたものより選択することで達成されるが、SiC系の場合逆に硬度が高すぎて破壊靱性と耐熱衝撃性が低下することからSi34系セラミックス、またはCo−Cr系メタル系溶射材を選択することで、ビッカース硬さ9.8〜34.3×103MPaの範囲とすることができる。
以下に実施例を示す。なお、この実施例は例に沿って具体的に説明するものであり、本発明の請求項の内容を限定するものではない。
めっき用線はJIS SWRM6−5.5mmφの熱間圧延材を用い、4.0mmφまで冷間伸線加工した鉄線を使用した。伸縮材繰り出し後、750℃流動床で約45秒の焼鈍を行い、15%、60℃の塩酸で酸洗後、水洗、塩化アンモニウム水溶液のフラックス中を経て、ブロワ乾燥後450℃の溶融純亜鉛槽へ浸漬させた。ラインスピードは30m/min、溶融亜鉛浴中への浸漬時間を10秒とし、めっき線引き上げ部分の浴面を窒素断気によりシールを行った。
回転シンカーの構造としては、図2のような鉄線を案内する胴部9と、その両端に一体となった同心円状のジャーナル1と、それを受ける2個の固定軸受2からなる装置で行った。
ジャーナル1の材質はSUS316で、表面にCo−Cr系の溶射を行い、2mmの厚みに仕上げた。固定軸受2は、耐熱衝撃性△T=600℃、ビッカース硬さ13.6×103MPaの汎用サイアロンで作成した。ただし、表1の比較例No.3については、ジャーナルの材質をコーティングなしのSUS316とした。また、本発明例のNo.7の軸受はAl23系ファインセラミックス、No.8の軸受、ジャーナルはいずれもコーティングなしのSUS316、No.9の軸受にはSiC系のファインセラミックスをそれぞれ用いている。
ジャーナル1と鉄線10を案内する胴部9とは同心円状で一体であり、ジャーナル直径は溶射厚みを含めて45mm、胴部の胴径は180mmで、鉄線を案内する溝は10mmの深さを持つ。
固定軸受2のジャーナル1が貫通する空間7の軸に垂直な断面の形状は、本発明例では、図3(a)(b)(c)(d)(f)に示す各形状及び六角形、八角形を用いた。四角形の場合、一辺47mmの概正方形で、正方形のコーナー部分はR13である。比較例では空間7の形状を図4に示す円形とした。固定軸受の厚みを30mmとした。外周は82mm径の円形で、4箇所に切り欠きを設けた。この固定軸受を19mm厚のSUS304製サポートに嵌め込み、SUS小片で4箇所の外周を押さえ、ジャーナルとの共回りを抑制した。図3に示すように、溶融金属浴内ですべり軸受機構として使用する際、固定軸受2の内周8とジャーナル1との間の接触箇所が軸に垂直な断面で2箇所(5a、5b)となるよう、空間7の形状の方向を調整した。
実施例のめっき線製造時の製造条件及び評価結果を表1に示す。
まず、はじめに、評価方法について説明する。
表1の『振動』の評価は、操業中の線の振れ、めっき線表面の乱れの目視、及び回転式シンカーの台座に直接振れることによって判断した。シンカーの胴部の回転周期に一致した線の振れと、台座から手のひらに感じられる程度の継続的な振動が発生し、めっき線表面の未凝固の溶融亜鉛が垂れたり、乱れたりする場合を×とした。また、振動の発生は感じられるものの、めっき線表面が美麗である場合を△、振動の発生が感じられない場合を○とした。
『摩耗状況』の評価は、上述の条件で約100tのめっき線を生産した後、回転シンカーを溶融亜鉛浴から引き揚げて、すべり軸受機構を分解し、固定軸受とジャーナルの擦過面を目視で観察して行った。擦過面に周方向の筋が確認できないものを○とした。いずれかの擦過面に周方向の筋が明確に確認できるものの、操業中にめっき線に振動は発生せず、表面品質上では問題ない場合を△とした。擦過面に周方向の筋が明確に確認できると共に、操業中にめっき線に振動が発生し、表面外観に問題が生じる場合を×とした。
『耐破損性』の評価は、メンテナンス終了した回転シンカーを急速に溶融亜鉛浴中に浸漬し、操業後に急速に引き揚げ、目視でクラック、チッピング等を目視観察することによって行った。クラック、チッピング等が認められない場合を○、クラック、チッピング等が目視で観察できるものの、操業中にめっき線に振動は発生せず、表面品質上では問題なかった場合を△、クラック、チッピング等が確認できると共に、操業中にめっき線に振動が発生し、表面外観に問題が生じる場合を×とした。
『軸位置安定性』の評価は、操業中にシンカー入り側の溶融亜鉛浴浸入前の矯直ローラーを故意に押しこみ、直後に戻して、線張力を変動させ、その前後で、線のブレが発生するかどうかを目視で判断した。このとき、めっき線がぶれない場合を○、めっき線が一時的にぶれるものの、その時だけの表面品質の乱れにとどまり、全体的な品質低下につながらない場合を△、めっき線がぶれると共に、表面外観に問題が生じる場合を×とした。
『回転安定性』の評価は、操業中にシンカー入り側の溶融亜鉛浴浸入前の矯直ローラーを故意に押しこみ、線張力を定常的に増加して、線張力の大きさで、通線速度が変化するかどうかで判断した。このとき、通線速度に変化がない場合を○、ジャーナルが固定軸受に強くはまり込むことで、めっき線の速度が変動するものの、表面品質上では問題なかった場合を△、通線速度が変動し、めっき線表面外観に問題が生じる場合を×とした。
『メンテ時溶融金属残存性』の評価は、メンテナンス時に溶融金属浴から回転シンカーを引き揚げた時、ジャーナルと固定軸受の間の隙間の溶融金属の残存状況によって判断した。この時、溶融金属が残存しない場合を○、溶融亜鉛が残存するものの、金属ブラシ等により掻き出すことができ、表面品質上では問題なかった場合を△、金属ブラシ等で掻き出すことができず、溶融亜鉛が残存した場合を×とした。
Figure 0005114670
比較例1〜3は、固定軸受の空間7の形状が円形であり、固定軸受2とジャーナル1の接触箇所が、すべり軸受機構1個につき1箇所であるために、軸の位置が周期的に変動し、操業中常にめっき線に振動が発生して振動評価が×となり、表面の品質を悪化させる例である。
本発明例4は、固定軸受とジャーナルとの間の間隔が1mmと狭いために、メンテナンス時に溶融亜鉛から引き揚げた際、溶融亜鉛を何らかの方法で強制的に除去しない限り残存し、その後の熱収縮差により部材が変形又は破損する可能性があり、メンテ時溶融金属残存性の評価が△であった例である。
本発明例5は、固定軸受とジャーナルとの接線のなす角θが25°と小さいために、固定軸受とジャーナルとの間にカジリが生じ易くなり、回転が不安定となる可能性があり、回転安定性評価が△であった例である。
本発明例6は、固定軸受とジャーナルとの2箇所の接点から引いた接線のなす角θが175°と大きいために、ジャーナルが固定軸受の2点から受ける抗力のベクトルの方向の差異が小さくなり、鉄線の張力が変動した際の変動を吸収する範囲が狭く、軸がぶれてしまう可能性があり、軸位置安定性の評価が△であった例である。
本発明例7は、固定軸受の耐熱衝撃性が300℃と低いために、溶融亜鉛浴に浸漬する際、または溶融亜鉛から引き揚げる際、部材内部に応力が発生し易くなり、破損する可能性があり、耐破損性の評価が△であった例である。
本発明例8は、固定軸受とジャーナルのいずれもがビッカース硬さが3.5×103MPaと低いために、使用開始から短時間の内に摺動面に不均一な凹凸状の摩耗が発生し、長期間の安定的な操業がし難くなり、摩耗状況と回転安定性の評価が△であった例である。
本発明例9は、固定軸受のビッカース硬さが45×103MPaと高すぎるために、破壊靱性や耐熱衝撃性が低く、操業開始時またはメンテナンス時に溶融亜鉛に出し入れする際、ぶつけたり、熱衝撃によって破損し易いため、耐破損性の評価が△であった例である。
本発明例の10〜16は、本発明で好ましいとされる全ての条件を満たしているために、溶融亜鉛めっき線に疵を付けることなく、かつ操業中の振動等が極めて少ない状態で、安定的な品質のめっき線を長時間にわたって製造することができ、メンテナンスも問題なくできる例である。
鋼線の溶融めっき浴の模式図であり、(a)は固定式シンカー、(b)は回転式シンカーを表す。 本発明のすべり軸受機構の一例である。 本発明のすべり軸受機構の固定軸受の空間形状の具体例であり、(a)は四角形、(b)は三角形、(c)は内側に凸の曲線と組み合わせた四角形、(d)は外側に凸の曲線と組み合わせた四角形、(e)は楕円形、(f)は(a)の軸受を半割にしたもの、(g)は突起部材を2個埋め込んだものを示している。 従来のすべり軸受機構の形状である。 従来のすべり軸受機構の定常時の応力状態を示す図である。 従来のすべり軸受機構の応力変動時の状態を示す図である。 本発明のすべり軸受機構の定常時の応力状態を示す図である。 本発明のすべり軸受機構の応力変動時の状態を示す図である。 本発明のすべり軸受機構の接触部における接線のなす角度を示す図である。
符号の説明
1 ジャーナル
2 固定軸受
3、3a、3b 抗力
3c 抗力の合力
4a、4b 張力
4c 張力の合力
5a、5b ジャーナルと固定軸受の接点
6a、6b 接点における接線
7 空間
8 内周
9 胴部
10 鋼線
11 回転式シンカー
12 固定式シンカー
13 溶融金属浴
14 突起部材
θ 2本の接線のなす角度

Claims (3)

  1. 軸に垂直な断面が円形であるジャーナルと、該ジャーナルを組み込む空間を有する固定軸受から構成される溶融金属浴内に浸漬するすべり軸受機構であって、前記固定軸受の内周面の少なくとも50%において、対峙するジャーナルとの間隔が2mm〜20mmであり、前記固定軸受の内周形状が、該内周と前記ジャーナルとの接触箇所が軸に垂直な断面で2箇所となる形状であり、該2箇所の接触部における前記ジャーナル外周との接線のなす角度が、30〜170°であり、さらに、前記固定軸受の空間の軸に垂直な断面形状が、多角形、楕円形、又は、これらを組み合わせた形状であることを特徴とするすべり軸受機構。
  2. 前記固定軸受と前記ジャーナルが、何れも△T:500℃〜1200℃の耐熱衝撃性を有する請求項1に記載のすべり軸受機構。
  3. 前記固定軸受と前記ジャーナルのうち、少なくともいずれか一方が、ビッカース硬さ:9.8×103MPa以上の硬度を有し、かつ、両方がビッカース硬さ34.3×103MPa以下である請求項1又は2に記載のすべり軸受機構。
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