以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
[実施の形態1]
(車両の構成)
図1は、本発明の実施の形態1に従う電源システム1を備える車両100の要部を示す概略構成図である。
図1を参照して、本実施の形態1においては、車両100の駆動力を発生する駆動力発生部3を負荷装置とする場合について例示する。そして、車両100は、電源システム1から駆動力発生部3へ供給される電力により生じる駆動力を駆動輪38に伝達することで走行する。また、車両100は、回生時において、駆動力発生部3によって運動エネルギーから電力を生じさせて電源システム1に回収する。
また、本実施の形態1においては、複数の蓄電部の一例として、2つの蓄電部を備える電源システム1について説明する。電源システム1は、主正母線MPLおよび主負母線MNLを介して、駆動力発生部3との間で直流電力の授受を行なう。なお、以下の説明においては、電源システム1から駆動力発生部3へ供給される電力を「駆動電力」とも称し、駆動力発生部3から電源システム1へ供給される電力を「回生電力」とも称する。
駆動力発生部3は、第1インバータ(INV1)30−1と、第2インバータ(INV2)と、第1モータジェネレータMG1と、第2モータジェネレータMG2と、駆動ECU(Electronic Control Unit)32と、エンジン(ENG)34と、動力分割機構36と、駆動輪38とを備える。
インバータ30−1,30−2は、主正母線MPLおよび主負母線MNLに並列接続され、それぞれ電源システム1との間で電力の授受を行なう。すなわち、インバータ30−1,30−2は、それぞれ主正母線MPLおよび主負母線MNLを介して受ける駆動電力(直流電力)を交流電力に変換してモータジェネレータMG1,MG2へ供給する一方、モータジェネレータMG1,MG2が発電する交流電力を直流電力に変換して回生電力として電源システム1へ供給する。なお、インバータ30−1,30−2は、一例として、三相分のスイッチング素子を含むブリッジ回路で構成され、それぞれ駆動ECU32から受けたスイッチング指令PWM1,PWM2に応じて、スイッチング(回路開閉)動作を行なうことで、三相交流電力を発生する。
モータジェネレータMG1,MG2は、それぞれインバータ30−1,30−2から供給される交流電力を受けて回転駆動力を発生可能であるとともに、外部からの回転駆動力を受けて発電可能に構成される。一例として、モータジェネレータMG1,MG2は、永久磁石が埋設されたロータを備える三相交流回転電機である。そして、モータジェネレータMG1,MG2は、それぞれ動力分割機構36と連結され、発生した駆動力を駆動軸によって駆動輪38へ伝達する。
本実施の形態1に従う車両100は、代表的にハイブリッド車両であり、エンジン34と、第1モータジェネレータMG1と、第2モータジェネレータMG2とを駆動力源として備え、これらは動力分割機構36を介して機械的に連結される。そして、車両100の走行状況に応じて、動力分割機構36を介して上記3者の間で駆動力の分配および結合が行なわれ、その結果として、駆動輪38が駆動される。
車両100の走行時において、動力分割機構36は、エンジン34の作動によって発生する駆動力を二分割し、その一方を第1モータジェネレータMG1側へ配分するとともに、残部を第2モータジェネレータMG2へ配分する。動力分割機構36から第1モータジェネレータMG1側へ配分された駆動力は発電動作に用いられる一方、第2モータジェネレータMG2側へ配分された駆動力は、第2モータジェネレータMG2で発生した駆動力と合成されて、駆動輪38の駆動に使用される。
駆動ECU32は、予め格納されたプログラムを実行することで、図示しない各センサから送信された信号、走行状況、アクセル開度の変化率、および格納しているマップなどに基づいて、モータジェネレータMG1,MG2のトルク目標値TR1,TR2および回転数目標値MRN1,MRN2を算出する。そして、駆動ECU32は、モータジェネレータMG1,MG2の発生トルクおよび回転数がそれぞれトルク目標値TR1,TR2および回転数目標値MRN1,MRN2となるように、スイッチング指令PWM1,PWM2を生成してインバータ30−1,30−2を制御する。また、駆動ECU32は、算出したトルク目標値TR1,TR2および回転数目標値MRN1,MRN2を電源システム1へ出力する。
(電源システムの構成)
電源システム1は、平滑コンデンサCと、第1コンバータ(CONV1)8−1と、第2コンバータ(CONV2)8−2と、第1蓄電部(BAT1)6−1と、第2蓄電部(BAT2)6−2と、電流検出部10−1,10−2,16と、電圧検出部12−1,12−2,18と、温度検出部14−1,14−2と、電池ECU4と、コンバータECU2とを備える。
平滑コンデンサCは、主正母線MPLと主負母線MNLとの間に接続され、コンバータ8−1,8−2から出力される駆動電力および駆動力発生部3から出力される回生電力に含まれる変動成分を低減する。
電圧検出部18は、主正母線MPLと主負母線MNLとの線間に接続され、電源システム1と駆動力発生部3との間で授受される電力の電圧値である母線電圧値VHを検出し、その検出結果をコンバータECU2へ出力する。また、電流検出部16は、主正母線MPLに介挿され、電源システム1と駆動力発生部3との間で授受される電力の母線電流値IHを検出し、その検出結果をコンバータECU2へ出力する。
コンバータ8−1,8−2は、主正母線MPL,主負母線MNLに対して並列接続されるとともに、それぞれ対応する蓄電部6−1,6−2と主正母線MPLおよび主負母線MNLとの間で電力変換動作を行なうように構成された電圧変換部である。具体的には、コンバータ8−1,8−2は、蓄電部6−1,6−2からの放電電力を所定の電圧に昇圧して駆動電力として供給する一方、駆動力発生部3から供給される回生電力を所定の電圧に降圧して蓄電部6−1,6−2を充電する。一例として、コンバータ8−1,8−2は、いずれも昇降圧チョッパ回路により構成される。
蓄電部6−1,6−2は、それぞれ、コンバータ8−1,8−2を介して、主正母線MPLおよび主負母線MNLに並列接続される。蓄電部6−1,6−2は、例えば、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの充放電可能に構成された二次電池、もしくは電気二重層キャパシタからなる。
電流検出部10−1,10−2は、それぞれ、蓄電部6−1,6−2とコンバータ8−1,8−2とを接続する一方の電力線に介挿され、蓄電部6−1,6−2の充放電に係る電流値IL1,IL2を検出し、その検出結果を電池ECU4およびコンバータECU2へ出力する。
電圧検出部12−1,12−2は、それぞれ、蓄電部6−1,6−2とコンバータ8−1,8−2とを接続する電力線間に接続され、蓄電部6−1,6−2の入出力に係る電圧値VL1,VL2を検出し、その検出結果を電池ECU4およびコンバータECU2へ出力する。
温度検出部14−1,14−2は、それぞれ、蓄電部6−1,6−2を構成する電池セルなどに近接して配置され、蓄電部6−1,6−2の温度Tb1,Tb2を検出し、その検出結果を電池ECU4へ出力する。なお、温度検出部14−1,14−2は、それぞれ、蓄電部6−1,6−2を構成する複数の電池セルに対応付けて配置された複数の検出素子の検出結果に基づいて、平均化処理などにより代表値を出力するように構成してもよい。
車両100を構成する各部位は、コンバータECU2、電池ECU4および駆動ECU32の連携制御によって実現される。コンバータECU2、電池ECU4および駆動ECU32は、互いに通信線を介して接続され、各種情報や信号の授受が可能となっている。
電池ECU4は、蓄電部6−1,6−2の充電状態の管理や異常検出を司る制御装置であり、一例として、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などの記憶部と、入出力インターフェイスとを含むマイクロコンピュータを主体として構成される。具体的には、電池ECU4は、電流検出部10−1,10−2で検出される電流値IL1,IL2、電圧検出部12−1,12−2で検出される電圧値VL1,VL2および温度検出部14−1,14−2で検出される温度Tb1,Tb2に基づいて、蓄電部6−1,6−2のそれぞれについての充電状態値(SOC:State Of Charge;以下、「SOC」と記す)SOC1,SOC2を算出する。充電状態値(SOC)とは、蓄電部の満充電状態を基準にしたときの充電量(残存電荷量)を示すものであり、一例として、満充電容量に対する現在の充電量の比率(0〜100%)で表わされる。なお、蓄電部6−1,6−2のSOCを算出する構成については、様々な周知技術を用いることができる。
さらに、電池ECU4は、算出したそれぞれ蓄電部6−1,6−2のSOC1,SOC2に基づいて、許容電力(許容充電電力Win1,Win2および許容放電電力Wout1,Wout2)を導出する。許容充電電力Win1,Win2および許容放電電力Wout1,Wout2は、その化学反応的な限界で規定される、各時点における充電電力および放電電力の短時間の制限値である。
そのため、電池ECU4は、予め実験的に取得された蓄電部6−1,6−2のSOCおよび温度Tbをパラメータとして規定された許容電力のマップを格納しておき、算出されるSOC1,SOC2および温度Tb1,Tb2に基づいて、各時点の許容電力を導出する。なお、許容電力を規定するマップには、SOCおよび蓄電部の温度以外のパラメータ、たとえば蓄電部の劣化度などを含ませることもできる。
コンバータECU2は、電池ECU4および駆動ECU32と連携して、駆動力発生部3が要求する電力値を蓄電部6−1,6−2が所定の比率で分担できるように、それぞれコンバータ8−1,8−2における電圧変換動作を制御する。具体的には、コンバータECU2は、コンバータ8−1,8−2のそれぞれについて、後述する複数の制御モードのうち予め選択される制御モードに従ってスイッチング指令PWC1,PWC2を生成する。
特に、本実施の形態に従う電源システム1においては、蓄電部6−1,6−2のいずれも正常であるときには、コンバータ8−1,8−2のうち第1コンバータ8−1が「マスター」として作動するとともに、第2コンバータ8−2が「スレーブ」として作動する。「マスター」として作動する第1コンバータ8−1は、電源システム1から駆動力発生部3へ供給される電力の電圧値(主正母線MPLと主負母線MNLとの間の母線電圧値VH)を所定の電圧目標値とするための「電圧制御モード」に従って制御される。一方、「スレーブ」として作動する第2コンバータ8−2は、電源システム1から駆動力発生部3へ供給される電力のうち、対応の蓄電部が分担する電力(当該蓄電部と主正母線MPL,主負母線MNLとの間で授受される電力)を所定の電力目標値となるように、該蓄電部の充放電に係る電流値を所定の電流目標値とするための「電流制御モード」に従って制御される。
本実施の形態1においては、駆動力発生部3が「負荷装置」に相当し、主正母線MPLおよび主負母線MNLが「電力線対」に相当し、コンバータ8−1,8−2が「複数の電圧変換部」に相当する。そして、コンバータECU2が「制御部」に相当する。
(コンバータの構成)
図2は、本発明の実施の形態1に従うコンバータ8−1,8−2の概略構成図である。
図2を参照して、第1コンバータ8−1は、チョッパ回路40−1と、平滑コンデンサC1とからなる。
チョッパ回路40−1は、コンバータECU2(図1)からのスイッチング指令PWC1に応じて、放電時には第1蓄電部6−1から受けた直流電力を昇圧する一方、充電時には主正母線MPLおよび主負母線MNLから受けた直流電力を降圧する。そして、チョッパ回路40−1は、それぞれ正母線LN1Aと、負母線LN1Cと、配線LN1Bと、スイッチング素子であるトランジスタQ1A,Q1Bと、ダイオードD1A,D1Bと、インダクタL1とを含む。
正母線LN1Aは、その一方端がトランジスタQ1Bのコレクタに接続され、他方端が主正母線MPLに接続される。また、負母線LN1Cは、その一方端が第1蓄電部6−1の負極側に接続され、他方端が主負母線MNLに接続される。
トランジスタQ1A,Q1Bは、負母線LN1Cと正母線LN1Aとの間に直列に接続される。そして、トランジスタQ1Aのエミッタは負母線LN1Cに接続され、トランジスタQ1Bのコレクタは正母線LN1Aに接続される。また、各トランジスタQ1A,Q1Bのコレクタ−エミッタ間には、エミッタ側からコレクタ側へ電流を流すダイオードD1A,D1Bがそれぞれ接続されている。さらに、インダクタL1は、トランジスタQ1AとトランジスタQ1Bとの接続点に接続される。
配線LN1Bは、一方端が第1蓄電部6−1の正極側に接続され、他方端がインダクタL1に接続される。
平滑コンデンサC1は、配線LN1Bと負母線LN1Cとの間に接続され、配線LN1Bと負母線LN1Cとの間の直流電圧に含まれる交流成分を低減する。
以下、第1コンバータ8−1の電圧変換動作(昇圧動作および降圧動作)について説明する。
昇圧動作時において、コンバータECU2は、トランジスタQ1A,Q1Bを所定のデューティー比でオン/オフさせる。トランジスタQ1Aのオン期間においては、第1蓄電部6−1から配線LN1B、インダクタL1、ダイオードD1B、および正母線LN1Aを順に介して、放電電流が主正母線MPLへ流れる。同時に、第1蓄電部6−1から配線LN1B、インダクタL1、トランジスタQ1Aおよび負母線LN1Cを順に介して、ポンプ電流が流れる。インダクタL1は、このポンプ電流により電磁エネルギーを蓄積する。続いて、トランジスタQ1Aがオン状態からオフ状態に遷移すると、インダクタL1は、蓄積した電磁エネルギーを放電電流に重畳する。その結果、第1コンバータ8−1から主正母線MPLおよび主負母線MNLへ供給される直流電力の平均電圧は、デューティー比に応じてインダクタL1に蓄積される電磁エネルギーに相当する電圧だけ昇圧される。
一方、降圧動作時において、コンバータECU2は、トランジスタQ1A,Q1Bを所定のデューティー比でオン/オフさせる。トランジスタQ1Bのオン期間においては、主正母線MPLから正母線LN1A、トランジスタQ1B、インダクタL1、および配線LN1Bを順に介して、充電電流が第1蓄電部6−1へ流れる。続いて、トランジスタQ1Bがオン状態からオフ状態に遷移すると、インダクタL1の電流変化を妨げるように磁束が発生するので、充電電流は、ダイオードD1A、インダクタL1、および配線LN1Bを順に介して流れ続ける。一方で、電気エネルギー的に見ると、主正母線MPLおよび主負母線MNLを介して直流電力が供給されるのはトランジスタQ1Bのオン期間だけであるので、充電電流が一定に保たれるとすると(インダクタL1のインダクタンスが十分に大きいとすると)、第1コンバータ8−1から第1蓄電部6−1へ供給される直流電力の平均電圧は、主正母線MPL−主負母線MNL間の直流電圧にデューティー比を乗じた値となる。
このような第1コンバータ8−1の電圧変換動作を制御するため、コンバータECU2は、トランジスタQ1Aのオン/オフを制御するスイッチング指令PWC1A、およびトランジスタQ1Bのオン/オフを制御するスイッチング指令PWC1Bからなるスイッチング指令PWC1を生成する。
第2コンバータ8−2についても上述した第1コンバータ8−1と同様の構成および動作であるため、詳細な説明は繰り返さない。
(コンバータECUの制御構造)
以下、コンバータECU2におけるスイッチング指令の生成を実現するための制御構造について説明する。最初に、図3に、コンバータECU2の一般的な制御構造を示すとともに、図3の制御構造における問題点について図4〜図6を用いて説明する。なお、コンバータECU2は、駆動電力および回生電力のいずれに対しても同様の制御を実行するが、理解を容易にするため、本実施の形態1においては、駆動電力についての制御構造を例示して説明する。
上述したように、本実施の形態1においては、第1コンバータ8−1が「マスター」として作動するとともに、第2コンバータ8−2が「スレーブ」として作動する。
具体的には、駆動力発生部3へ供給される電力の電圧値、すなわち、主正母線MPLと主負母線MNLとの間の電圧値(母線電圧値VH)を安定化するために、「マスター」として作動する第1コンバータ8−1は、電圧制御モードに従って電圧変換動作を行なう。すなわち、第1コンバータ8−1は、母線電圧値VHが所定の電圧目標値VH*となるように制御される。
一方、「スレーブ」として作動する第2コンバータ8−2は、蓄電部6−1および6−2での電力配分を実現するために、電流制御モードに従って電圧変換動作を行なう。すなわち、第2コンバータ8−2は、対応の第2蓄電部6−2からの電流値IL2が所定の電流目標値IL2*となるように制御される。これにより、第2蓄電部6−2からの放電電力P2を任意に調整できるため、間接的に第1蓄電部6−1からの放電電力P1についても制御できる。
図3は、コンバータECU2におけるスイッチング指令の生成を実現するの制御構造の一般的な例を示すブロック図である。
図3を参照して、コンバータECU2は、目標値決定部200と、第1コンバータ制御部210と、第2コンバータ制御部230とを含む。
目標値決定部200は、許容放電電力Wout1,Wout2、トルク目標値TR1,TR2および回転数目標値MRN1,MRN2に基づいて、駆動力発生部3(図1)の要求電圧を算出し、電圧目標値VH*を決定する。また、目標値決定部200は、許容放電電力Wout2の範囲内において、第2コンバータ8−2が分担すべき電力目標値P2*を決定する。目標値決定部200が決定した電圧目標値VH*および電力目標値P2*は、それぞれ第1コンバータ制御部210および第2コンバータ制御部230へ出力される。
第1コンバータ制御部210は、第1コンバータ8−1を電圧制御モードに従って制御するための構成として、減算部212,218と、PI制御部214と、上下限値制限部216と、変調部(MOD)220とを含む。
減算部212は、電圧目標値VH*と母線電圧値VHとの差から電圧偏差ΔVHを演算し、PI制御部214へ出力する。PI制御部214は、所定の比例ゲインおよび積分ゲインに従って、電圧偏差ΔVHに応じたPI出力を生成し、上下限値制限部216へ出力する。
具体的には、PI制御部214は、比例要素(P:proportional element)と、積分要素(I:integral element)と、加算部とを含む。比例要素は、電圧偏差ΔVHに所定の比例ゲインKpを乗じて加算部へ出力し、積分要素は、所定の積分ゲインKi(積分時間:1/Ki)で電圧偏差ΔVHを積分して加算部へ出力する。そして、加算部は、比例要素および積分要素からの出力を加算してPI出力を生成する。このPI出力は、電圧制御モードを実現するためのフィードバック成分に相当する。
上下限値制限部216は、予め定められたPI出力の上下限値範囲内となるようにPI出力を制限して、減算部218へ出力する。この上下限値範囲は、電圧検出部12−2の検出値にセンサ誤差が含まれている場合を考慮して、電圧フィードバック制御の安定性を確保するために設けられている。ここで、減算部212、PI制御部214および上下限値制限部216は、電圧フィードバック制御要素を構成する。
減算部218は、第1蓄電部6−1の電圧値VL1を電圧目標値VH*で割り算して算出された第1コンバータ8−1での昇圧比に相当する理論デューティー比(=VL1/VH*)に対して、PI出力を減じて、デューティー比指令Duty_mとして変調部220へ与える。減算部218は、電圧フィードフォワード制御要素を構成する。また、理論デューティー比は、電圧制御モードを実現するためのフィードフォワード成分に相当する。ここで、デューティー比指令Duty_mは、電圧制御モードにおける第1コンバータ8−1のトランジスタQ1A(図2)のオン・デューティーを規定する制御指令である。
変調部220は、図示しない発振部から与えられる搬送波(キャリア波)とデューティー比指令Duty_mとを比較して、第1コンバータ8−1のトランジスタQ1A(図2)を駆動するための第1スイッチング指令PWC1Aを生成して、第1コンバータ8−1を制御する。
第2コンバータ制御部230は、第2コンバータ8−2を電流制御モードに従って制御するための構成として、除算部232と、減算部234,240と、PI制御部236と、上下限値制限部238と、下限値制限部242と、変調部(MOD)244とを含む。
除算部232は、電力目標値P2*を第2蓄電部6−2の電圧値VL2で割り算し、第2蓄電部6−2の電流目標値IL2*を算出し、減算部234へ出力する。
減算部234は、電流目標値IL2*と電流値IL2との差から電流偏差ΔIL2を演算し、PI制御部236へ出力する。PI制御部236は、上述したPI制御部214と同様に、所定の比例ゲインおよび積分ゲインに従って、電流偏差ΔIL2に応じたPI出力を生成し、上下限値制限部238へ出力する。
具体的には、PI制御部236は、比例要素と、積分要素と、加算部とを含む。比例要素は、電流偏差ΔIL2に所定の比例ゲインKpを乗じて加算部へ出力し、積分要素は、所定の積分ゲインKi(積分時間:1/Ki)で電流偏差ΔIL2を積分して加算部へ出力する。そして、加算部は、比例要素および積分要素からの出力を加算してPI出力を生成する。このPI出力は、電流制御モードを実現するためのフィードバック成分に相当する。
上下限値制限部238は、予め定められたPI出力の上下限値範囲内となるようにPI出力を制限して、減算部240へ出力する。この上下限値範囲は、電流検出部10−2および電圧検出部12−2の検出値にセンサ誤差が含まれている場合を考慮して、電流フィードバック制御の安定性を確保するために設けられている。ここで、減算部234、PI制御部236および上下限値制限部238は、電流フィードバック制御要素を構成する。
減算部240は、第2蓄電部6−1の電圧値VL2を母線電圧値VHで割り算して算出された第2コンバータ8−2での昇圧比に相当する理論デューティー比(=VL2/VH)に対して、PI出力を減じて、デューティー比指令Duty_sとして下限値制限部242へ与える。減算部240は、電流フィードフォワード制御要素を構成する。また、理論デューティー比は、電流制御モードを実現するためのフィードフォワード成分に相当する。ここで、デューティー比指令Duty_sは、電流制御モードにおける第2コンバータ8−2のトランジスタQ2A(図2)のオン・デューティーを規定する制御指令である。
下限値制限部242は、減算部240から受けたデューティー比指令Duty_sが予め定められた下限値を下回らないように制限して、制限後の値を変調部244へ出力する。この下限値は、第2蓄電部6−2から第2コンバータ8−2を介して主正母線MPLおよび主負母線MNLの間で授受される電力(以下、「コンバータ通過電力」とも称す)Pが最大電力Pmaxとなるときのデューティー比に設定されている。
変調部244は、図示しない発振部から与えられる搬送波(キャリア波)と下限値制限部242から与えられる制限後のデューティー比指令Duty_sとを比較して、第2コンバータ8−2のトランジスタQ2A(図2)を駆動するための第1スイッチング指令PWC2Aを生成して、第2コンバータ8−2を制御する。
上述したように、第1コンバータ8−1を制御するためのスイッチング指令PWC1は、電圧フィードバック制御要素および電圧フィードフォワード制御要素を含む制御演算により生成され、第2コンバータ8−2を制御するためのスイッチング指令PWC2は、電流フィードバック制御要素および電流フィードフォワード制御要素を含む制御演算により生成される。
(一般的な制御構造における問題点)
ここで、第2蓄電部6−2の電流値IL2を検出する電流検出部10−2に異常が発生した場合には、電流フィードバック制御要素を含む制御演算が破綻する。同じく、第2蓄電部6−2の電圧値VL2を検出する電圧検出部12−2に異常が発生した場合には、電流フィードフォワード制御要素を含む制御演算が破綻する。その結果、第2コンバータ8−2における電圧変換動作の制御が不安定となるため、第1蓄電部6−1および第2蓄電部6−2の間において過大な電流が流れてしまう可能性がある。
図4には、電流検出部10−2に異常が発生した場合におけるコンバータ8−1,8−2の一態様が示される。図5には、電流検出部10−2に異常が発生したことによって蓄電部間に過電流が流れる仕組みの概要が示される。
図4および図5を参照して、たとえば、電流検出部10−2に接地レベルと短絡する短絡故障が発生した場合には、電流検出部10−2により検出される電流値IL2は、実際の電流値とは一致せず、電流検出部10−2の出力範囲の下限値(−I1[A])に固着される場合が起こり得る。
このような場合に、電流フィードバック制御要素を構成するPI制御部236が電流目標値IL2*と電流値IL2との電流偏差ΔIL2(=IL2*−IL2)に応じたPI出力(=PI(IL2*−IL2))を生成すると、生成されたPI出力が極端に大きくなり、上下限値制限部238の制限を受けて上限値に張り付いてしまうことになる。これにより、電流フィードフォワード制御要素を構成する減算部240から出力されるデューティー比指令Duty_sは、所望のデューティー比指令に対して極端に小さくなってしまうため、第2蓄電部6−2から主正母線MPLおよび主負母線MNLへ供給される電力を受けて母線電圧値VHが電圧目標値VH*を超えて昇圧される。
そして、このような母線電圧値VHの過昇圧に対して、第1コンバータ8−1では、母線電圧値VHを電圧目標値VH*に一致させるための電圧制御モードに従って電圧変換動作(降圧動作)が制御される。その結果、第2蓄電部6−2から主正母線MPLおよび主負母線MNLへ供給された電力は、第1コンバータ8−1を通過して第1蓄電部6−1へ供給される。これにより、第1蓄電部6−1および第2蓄電部6−2の間には過大な電流が流れることとなり、蓄電部6−1,6−2を劣化させる可能性が生じる。
図6には、電流検出部10−2に短絡故障が発生した場合におけるデューティー比指令Duty_m,Duty_sおよび第2蓄電部6−2の放電電流Ib2の時間的変化の一態様が示される。この短絡故障によって、電流検出部10−2により検出される電流値IL2は、電流検出部10−2の出力範囲の下限値に固着されているものとする。
図6を参照して、時刻t0から電流検出部10−2に短絡故障が発生する時刻t1までの期間においては、デューティー比指令Duty_mは略一定であり、デューティー比指令Duty_sは、このデューティー比指令Duty_mを前後するように変化しているが、デューティー比指令Duty_mとの偏差は比較的小さい値に抑えられている。
これに対して、電流検出部10−2に短絡故障が発生する時刻t1以降においては、図5で述べたように、フィードバック成分であるPI出力が上限値に張り付くことによってデューティー比指令Duty_sが減少する。すなわち、デューティー比指令Duty_sは、母線電圧値VHを昇圧させる方向(昇圧方向)へと変化する。そのため、第2蓄電部6−2からの放電電流Ib2は、時刻t1以降において増大することとなる。
そして、母線電圧値VHの過昇圧を受けて第1コンバータ8−1では、母線電圧値VHを電圧目標値VH*に一致させるために電圧制御モードに従って電圧変換動作(降圧動作)が制御されることにより、デューティー比指令Duty_mが増加する。すなわち、デューティー比指令Duty_mは、母線電圧値VHを降圧させる方向(降圧方向)へと変化する。この結果、デューティー比指令Duty_mおよびDuty_sの間の偏差は、第2蓄電部6−2からの放電電流Ib2の増加に伴なって増大する。そして、この増大した放電電流Ib2は、第1コンバータ8−1を介して第1蓄電部6−1へと流れ込む。
(本実施の形態1によるコンバータECUの制御構造)
以上のように、電流検出部10−2の異常発生に起因して蓄電部間に過電流が流れるのを未然に回避するために、本発明の実施の形態1による電源システムでは、図7に示すようにコンバータECU2Aを構成する。
図7を参照して、コンバータECU2Aは、図3に比較例として示したコンバータECU2と比較して、減算部240と下限値制限部242との間にさらに上下限値制限部250Aを含む点で異なる。
上下限値制限部250Aは、第1コンバータ制御部210の減算部218からデューティー比指令Duty_mを受けると、デューティー比指令Duty_mに応じて、デューティー比指令Duty_sの上下限値(以下、「デューティー比上下限値」とも称す)を設定する。そして、減算部240から受けたデューティー比指令Duty_sが予め定められたデューティー比上下限値範囲内となるように制限する。
図8は、上下限値制限部250Aにより設定されるデューティー比上下限値を示す図である。
図8を参照して、デューティー比上限値およびデューティー比下限値は、それぞれ、デューティー比指令Duty_mに対して予め定められた偏差x%(x>0)を持つように設定される。すなわち、デューティー比指令Duty_sは、Duty_m+x%をデューティー比上限値とし、かつDuty_m−x%をデューティー比下限値とする上下限値範囲内となるように制限される。
図9には、本発明の実施の形態1に従う電流検出部10−2に短絡故障が発生した場合におけるデューティー比指令Duty_m,Duty_sの時間的変化の一態様が示される。この短絡故障によって、電流検出部10−2により検出される電流値IL2は、電流検出部10−2の出力範囲の下限値に固着されているものとする。
図9を参照して、電流検出部10−2に短絡故障が発生する時刻t1以降においては、デューティー比指令Duty_sは、デューティー比指令Duty_mとの偏差が所定値x%を超えないように制限されることから、昇圧方向への変化に歯止めがかけられる。これにより、母線電圧値VHの過昇圧が抑えられるため、蓄電部間に過電流が流れるのを回避することができる。
図10には、本発明の実施の形態1に従う電流検出部10−2に短絡故障が発生した場合におけるデューティー比指令Duty_m,Duty_sおよび第2蓄電部6−2の放電電流Ib2の時間的変化の一態様が示される。
図10を参照して、時刻t0から電流検出部10−2に短絡故障が発生する時刻t1までの期間においては、デューティー比指令Duty_mは略一定であり、デューティー比指令Duty_sは、このデューティー比指令Duty_mを前後するように変化している。
これに対して、電流検出部10−2に短絡故障が発生する時刻t1以降においては、図5で述べたように、フィードバック成分であるPI出力が上限値に張り付くことによってデューティー比指令Duty_sが昇圧方向へ変化する。しかしながら、デューティー比指令Duty_sは、上下限値制限部250Aによってデューティー比指令Duty_mとの差が所定値x%を超えないように制限されるため、昇圧方向への変化に歯止めがかかる。これにより、時刻t1以降においては、第2蓄電部6−2の放電電流Ib2の増大が抑制され、結果として、増大した放電電流Ib2が第1コンバータ8−1を介して第1蓄電部6−1へ流れ込むのを回避することができる。
[変更例]
図11は、本発明の実施の形態1の変更例に従うコンバータECU2Bにおけるスイッチング指令の生成を実現するための制御構造を示すブロック図である。
図11を参照して、コンバータECU2Bは、図7に示すコンバータECU2Aと比較して、減算部240と下限値制限部242との間に設けられている上下限値制限部250Aに代えて、PI制御部236と減算部240との間に上下限値制限部250Bを含む点で異なる。コンバータECU2Bのその他の構成は、図7に示したコンバータECU2Aと同様である。
本構成において、上下限値制限部250Bは、第1コンバータ制御部210のPI制御部214からPI出力(=PI(VH*−VH))Dutypi_mを受けると、PI出力Dutypi_mに応じて、PI出力(=PI(IL2*−IL2))Dutypi_sの上下限値(以下、「PI出力上下限値」とも称す)を設定する。そして、PI制御部236から受けたPI出力Dutypi_sが予め定められたPI出力上下限値範囲内となるように制限する。
このPI出力上下限値は、上限値および下限値が、それぞれ、PI出力Dutypi_mに対して所定値x%の偏差を持つように設定される。すなわち、PI出力Dutypi_sは、PI出力Dutypi_m±x%で規定される範囲内となるように制限される。
このようにフィードバック成分であるPI出力Dutypi_sを、PI出力Dutypi_mに基づいて予め定められた上下限値範囲内となるように制限する構成とすることにより、電流フィードフォワード制御要素を構成する減算部240から出力されるデューティー比指令Duty_sは、デューティー比指令Duty_mとの偏差が所定値を超えないように制限される。したがって、先述の実施の形態1と同様に、第2蓄電部6−2の放電電流Ib2の増大が抑制されるため、増大した放電電流Ib2が第1コンバータ8−1を介して第1蓄電部6−1へ流れ込むのを回避することができる。
以上のように、この発明の実施の形態1によれば、電流制御モードに従って制御される第2コンバータ8−2におけるデューティー比の上下限値を、電圧制御モードに従って制御される第1コンバータ8−1におけるデューティー比に応じて設定する構成としたことにより、2つのデューティー比の偏差を所望の制限値以下に制限することができる。これにより、第2コンバータ8−1の電流検出部10−2または電圧検出部12−2に異常が生じた場合であっても、母線電圧値VHの過昇圧が抑えられるため、蓄電部間に過大な電流が流れるのを回避することができる。
[実施の形態2]
上述した実施の形態1は、デューティー比指令Duty_s(または、PI出力Dutypi_s)の上下限値を、デューティー比指令Duty_m(または、PI出力Dutypi_m)に対して一定の偏差x%を有するように設定することで、デューティー比指令Duty_sが昇圧方向へ変化するのを制限するものであった。
ところが、このようにデューティー比指令Duty_mおよびDuty_sの間の偏差一定値x%に固定する構成では、第1蓄電部6−1および第2蓄電部6−2の間で、電圧値VL1,VL2そのものに電圧差があるときには、電流検出部10−2が正常な場合であっても、デューティー比指令Duty_mおよびDuty_sの間には、この電圧差に応じた偏差が初期的に生じているため、デューティー比指令Duty_sをデューティー比上下限値範囲内に制限することによっても、蓄電部間の過電流を回避できないという不具合が生じてしまう。
詳細には、図12を参照して、電流検出部10−2が正常である時刻t0において、デューティー比指令Duty_mがデューティー比指令Duty_sよりも高く、かつ、これらのデューティー比指令の間には、A%(A>0)の偏差が生じているものとする。
なお、このデューティー比指令の偏差A%は、第1蓄電部6−1の開回路電圧値VL1_ocv,第2蓄電部6−2の開回路電圧値VL2_ocvを用いて、下記(1)式のように近似することができる。
A=Duty_m−Duty_s
=VL1_ocv/VH−VL2_ocv/VH ・・・(1)
そして、時刻t1において、電流検出部10−2に異常が発生すると、上述した仕組みによって、デューティー比指令Duty_sが昇圧方向へ変化する。これにより、デューティー比指令Duty_mは降圧方向へ変化する。そのため、デューティー比指令Duty_mおよびDuty_sの偏差は、初期値A%から増加する。
しかしながら、一方で、デューティー比指令Duty_sは、デューティー比下限値Duty_m−x%を下回らないように制限される。これにより、時刻t1前後におけるデューティー比指令Duty_mおよびDuty−sの間の偏差の変化量は、(x−A)%に抑えられている。
これに対して、図13に示すように、時刻t0において、デューティー比指令Duty_sがデューティー比指令Duty_mよりも高く、かつ、これらのデューティー比指令の間にA%の偏差が生じている場合には、電流検出部10−2に異常が発生する時刻t1以降において、デューティー比指令Duty_sがデューティー比下限値Duty_m−x%を下回らないように制限することによっても、時刻t1前後におけるデューティー比指令Duty_mとデューティー比指令Duty_sとの偏差の変化量は(x+A)%となり、初期値A%の分だけ変化量が増大することとなる。これにより、母線電圧値VHの過昇圧が促されるため、蓄電部間に過大な電流が流れるのを回避できない可能性がある。
このような問題点を解決するため、本実施の形態2に従う電源システムでは、上下限値制限部250A(図7)は、デューティー比上下限値のデューティー比指令Duty_mに対する偏差を、蓄電部間の開回路電圧値の電圧差に応じて可変に設定する構成とする。
図14は、本発明の実施の形態2に従う上下限値制限部250Aにより設定されるデューティー比上下限値を説明するための図である。
図14を参照して、図12および図13で示すように、デューティー比指令Duty_mおよびデューティー比指令Duty_sの間に初期値A%の偏差が生じている場合には、デューティー比上下限値は、デューティー比指令Duty_mに対して(x−A)%の偏差を持つように設定される。すなわち、デューティー比指令Duty_sは、デューティー比指令Duty_m±(x−A)%に規定された上下限値範囲内となるように制限される。
これにより、図13のように、時刻t1前後でデューティー比指令間の大小関係が反転する場合であっても、デューティー比指令Duty_mとデューティー比指令Duty_sとの偏差が増大するのを抑制できるため、蓄電部間に過電流が流れるを回避することができる。
以上のように、この発明の実施の形態2によれば、電流制御モードに従って制御される第2コンバータ8−2におけるデューティー比の上下限値を、電圧制御モードに従って制御される第1コンバータ8−1におけるデューティー比との偏差が、蓄電部間の電圧差に応じて可変となるように設定する構成としたことにより、蓄電部間の電圧差に拘わらず、2つのデューティー比の偏差を所望の制限値以下に制限することができる。これにより、第2コンバータ8−1の電流検出部10−2または電圧検出部12−2に異常が生じた場合であっても、母線電圧値VHの過昇圧が抑えられるため、蓄電部間に過大な電流が流れるのを回避することができる。
[実施の形態3]
上述した実施の形態1および2では、電流制御モードに従って制御される第2コンバータ8−2におけるデューティー比上下限値を、電圧制御モードに従って制御される第1コンバータ8−1におけるデューティー比に応じて設定することにより、2つのデューティー比指令の偏差が増大するのを抑制して蓄電部間に過大な電流が流れるのを回避する構成について説明した。
ここで、第1コンバータ8−1を制御するためのスイッチング指令PWC1においては、搬送波(キャリア波)とデューティー比指令Duty_mとの比較結果に対して、トランジスタQ1A,Q1B間での短絡電流を防止するために、トランジスタのオン・オフ切替(スイッチング)時には、トランジスタQ1A,Q1Bの両方をオフさせるデッドタイムを付加することが実用上不可欠である。同様に、第2コンバータ8−2を制御するためのスイッチング指令PWC2においても、搬送波とデューティー比指令Duty_mとの比較結果に対して、トランジスタQ2A,Q2Bの両方をオフさせるデッドタイムを付加することが実用上不可欠となる。
そのため、各コンバータ8−1,8−2においては、デューティー比指令と、実際にトランジスタのスイッチング動作が行なわれるときのデューティー比(以下、実デューティー比とも称す)との間には偏差が生じる。この偏差は、デッドタイムの影響の大きさに応じて変化することから、第1コンバータ8−1での実デューティー比♯Duty_mと、第2コンバータ8−2での実デューティー比♯Duty_sとの偏差は、デッドタイムの影響の大きさに応じて変化する。すなわち、デューティー比指令Duty_mとデューティー比指令Duty_sとの偏差が一定であっても、実デューティー比間の偏差には、デッドタイムの影響の大小に起因した違いが生じる。この結果、蓄電部間の流れる過電流の大きさにも、この実デューティー比指令間の違いが反映されることとなる。
図15は、実デューティー比に与えるデッドタイムの影響と蓄電部間を流れる過電流との関係を説明するための図である。図15(a)には、搬送波(キャリア波)の周波数(キャリア周波数)が相対的に高い場合におけるデッドタイムの影響と過電流と関係が示される。また、図15(b)には、キャリア周波数が相対的に低い場合におけるデッドタイムの影響と過電流との関係が示される。
図15(a)を参照して、キャリア周波数が相対的に高い場合には、1制御周期に占めるデッドタイムの割合が相対的に高くなる、すなわち、デッドタイムの影響が相対的に大きくなる。そのため、デューティー比指令と実デューティー比との偏差も相対的に大きくなる。
なお、コンバータ8−1,8−2の各々において、実デューティー比は、対応の蓄電部の電流値が正の場合、すなわち、コンバータが対応の蓄電部からの電圧値を昇圧して主正母線MPLおよび主負母線MNLへ供給する放電時である場合には、デューティー比指令に対してデッドタイム分だけ減少する。その一方で、対応の蓄電部の電流値が負である場合、すなわち、コンバータが母線電圧値VHを降圧して対応の蓄電部に供給する充電時である場合には、デューティー比指令に対してデッドタイム分だけ増加する。
したがって、たとえば、第1コンバータ8−1が昇圧動作(放電)を行ない、かつ、第2コンバータ8−2が降圧動作(充電)を行なっているような場合では、実デューティー比♯Duty_mがデューティー比指令Duty_mから減少する一方で、実デューティー比♯Duty_sがデューティー比指令Duty_sから増加する。そのため、実デューティー比♯Duty_mと実デューティー比♯Duty_sとの偏差は、当初のデューティー比指令間の偏差x%を下回るa%(a>0)に変化する。したがって、蓄電部間を流れる電流は、相対的に小さい電流値に抑えられる。
これに対して、図15(b)を参照して、キャリア周波数が相対的に低い場合には、1制御周期に占めるデッドタイムの割合が相対的に低くなる、すなわち、デッドタイムの影響が相対的に小さくなるため、デューティー比指令と実デューティー比との偏差も相対的に小さくなる。その結果、実デューティー比♯Duty_mと実デューティー比♯Duty_sとの偏差は、当初のデューティー比指令間の偏差x%からb%(b>0)に減少するものの、図15(a)での実デューティー比間の差a%よりも大きな値となっている。そのため、蓄電部間を流れる電流は、相対的に大きい電流値となる。
このように、デッドタイムの影響の大きさに応じて実デューティー比間の偏差が変化することに起因して、蓄電部間を流れる電流も変化する。特に、デッドタイムの影響が小さくなるに従って実デューティー比間の偏差が大きくなるため、蓄電部間を流れる電流が増えることになる。
そこで、本実施の形態3に従うコンバータECU2Cは、本来のデューティー比指令間の偏差を、デッドタイムの影響に応じて可変に設定する構成とする。なお、上述したように、デッドタイムの影響の大きさはキャリア周波数に応じて変化することから、本構成において、コンバータECU2Cは、キャリア周波数に応じて当該偏差を設定するものとする。
図16は、本発明の実施の形態3に従うコンバータECU2Cにおけるスイッチング指令の生成を実現するための制御構造を示すブロック図である。
図16を参照して、コンバータECU2Cは、図7に示すコンバータECU2Aと比較して、上下限値制限部250に代えて、上下限値制限部250Cを含む点で異なる。コンバータECU2Cのその他の構成は、図7に示したコンバータECU2Aと同様である。
上下限値制限部250Cは、変調部244から搬送波(キャリア波)の周波数(キャリア周波数)fcを受けると、キャリア周波数fcに応じてデューティー比指令間の偏差を設定する。そして、上下限値制限部250は、第1コンバータ制御部210から与えられるデューティー比指令Duty_mに対して当該偏差を持つように、デューティー比上下限値を設定する。
図17に、キャリア周波数fcおよびデューティー比指令間の偏差の関係を示す。
図17を参照して、デューティー比指令間の偏差は、キャリア周波数が低くなるほど、すなわち、デッドタイムの影響が小さくなるほど、高くなるように設定される。これにより、図15(b)のようにデッドタイムの影響が相対的に小さいために、実デューティー比の差が相対的に大きくなる場合では、デューティー比指令間の偏差自体が小さい値に設定されるため、蓄電部間に過電流が流れるのを効果的に抑制することができる。
なお、上下限値制限部250Cは、予め実験的に取得されたキャリア周波数fcをパラメータとして規定された偏差をマップ形式で格納しておき、変調部244から与えられるキャリア周波数fcに基づいて、ディーティー比指令の偏差を設定する。
以上のように、この発明の実施の形態3によれば、電流制御モードに従って制御される第2コンバータ8−2におけるデューティー比の上下限値を、電圧制御モードに従って制御される第1コンバータ8−1におけるデューティー比との偏差が、デッドタイムの影響の大きさに応じて可変となるように設定する構成としたことにより、デッドタイムの影響の大小に拘わらず、2つのデューティー比の偏差を所望の制限値以下に制限することができる。これにより、第2コンバータ8−1の電流検出部10−2または電圧検出部12−2に異常が生じた場合であっても、母線電圧値VHの過昇圧が抑えられるため、蓄電部間に過大な電流が流れるのを回避することができる。
[実施の形態4]
図18は、本発明の実施の形態4に従うコンバータECU2Dにおけるスイッチング指令の生成を実現するための制御構造を示すブロック図である。
図18を参照して、コンバータECU2Dは、図7に示すコンバータECU2Aと比較して、上下限値制限部250に代えて、上下限値制限部250Dを含む点で異なる。コンバータECU2Dのその他の構成は、図7に示したコンバータECU2Aと同様である。
上下限値制限部250Dは、第1コンバータ制御部210からデューティー比指令Duty_mを受け、電池ECU4(図1)から第2蓄電部6−2のSOC2および温度Tb2を受ける。なお、第2蓄電部6−2のSOC2は、上述したように、第2蓄電部6−2の電流値IL2、電圧値VL2および温度Tb2に基づいて電池ECU4が算出したものが与えられる。
そして、上下限値制限部250Dは、第2蓄電部6−2のSOC2および温度Tb2に基づいて、第2蓄電部6−2の内部抵抗値Rb2を算出する。ここで、第2蓄電部6−2のSOC2および温度Tb2と内部抵抗値Rb2とは、図19に示すような関係にある。したがって、上下限値制限部250Dは、入力された第2蓄電部6−2のSOC2および温度Tb2から第2蓄電部6−2の内部抵抗値Rb2を検出することができる。
詳細には、図19において、ラインk1は、第2蓄電部6−2が高温時の内部抵抗値Rb2およびSOC2の関係を示し、ラインk2は、第2蓄電部6−2が低温時の内部抵抗値Rb2およびSOC2の関係を示す。これらの関係からは、SOC2が高くなるに従って内部抵抗値Rb2が低くなることが分かる。また、第2蓄電部6−2が高温になるほど、内部抵抗値Rb2が低くなっている。したがって、図19に示す関係によれば、第2蓄電部6−2のSOC2が高く、かつ、高温である場合には、内部抵抗値Rb2が低いことに起因して第2蓄電部6−2の電流値IL2が相対的に高くなる。これにより、第2蓄電部6−2のSOC2が低い場合、または低温である場合と比較して、電流検出部10−2等に異常が生じたときに蓄電部間に過大な電流が流れる可能性が高いことが予想される。
そこで、上下限値制限部250Dは、第2蓄電部6−2の内部抵抗値Rb2に応じて、デューティー比指令間の偏差を可変に設定する。このとき、上下限値制限部250Dは、内部抵抗値Rb2が低くなるほど、デューティー比指令間の偏差に対する制限を強化する。図20には、第2蓄電部6−2のSOC2および温度Tb2とデューティー比指令間の偏差との関係が示される。なお、上下限値制限部250Dは、予め実験的に取得された第2蓄電部6−2のSOC2および温度Tb2をパラメータとして規定された偏差をマップ形式で格納しておき、電池ECU4から与えられるSOC2および温度Tb2に基づいて、ディーティー比指令の偏差を設定する。
これにより、デューティー比指令間の偏差は、第2蓄電部6−2の温度Tb2が高くなるほど、すなわち、内部抵抗値Rb2が低くなるほど、小さくなるように設定される。さらに、デューティー比指令間の偏差は、第2蓄電部6−2のSOC2が高くなるほど、すなわち、内部抵抗値Rb2が低くなるほど、小さくなるように設定される。この結果、第2蓄電部6−2の内部抵抗値Rb2の変化に拘わらず、第2蓄電部6−2からの放電電流の増大が抑制されるため、蓄電部間に過大な電流が流れるのを回避することができる。
以上のように、この発明の実施の形態4によれば、電流制御モードに従って制御される第2コンバータ8−2におけるデューティー比の上下限値を、電圧制御モードに従って制御される第1コンバータ8−1におけるデューティー比との偏差が、第2蓄電部6−2の内部抵抗値Rb2に応じて可変となるように設定する構成としたことにより、内部抵抗値Rb2の変化に拘わらず、2つのデューティー比の差を所望の制限値以下に制限することができる。これにより、第2コンバータ8−1の電流検出部10−2または電圧検出部12−2に異常が生じた場合であっても、母線電圧値VHの過昇圧が抑えられるため、蓄電部間に過大な電流が流れるのを回避することができる。
[実施の形態5]
上述の実施の形態4では、第2蓄電部6−2の内部抵抗値Rb2が、第2蓄電部6−2のSOC2および温度Tb2によって変化することに基づいて、第2蓄電部6−2のSOC2および温度Tb2に応じてデューティー比指令間の偏差を設定する構成について説明した。
しかしながら、第2蓄電部6−2の内部抵抗値Rb2は、第2蓄電部6−2のSOC2および温度Tb2以外にも、第2蓄電部6−2の劣化度合いによっても変化する。具体的には、第2蓄電部6−2の劣化度合いが大きくなるほど、内部抵抗値Rb2が増大する。
したがって、本実施の形態5に従うコンバータECU250Eは、以下に述べるように、第2蓄電部6−2の劣化度合いに応じてデューティー比指令間の偏差を設定する構成とする。これにより、内部抵抗値Rb2の変化に拘わらず、第2蓄電部6−2からの放電電流の増大が抑制されるため、蓄電部間に過大な電流が流れるのを回避することができる。
図21は、本発明の実施の形態5に従うコンバータECU2Eにおけるスイッチング指令の生成を実現するための制御構造を示すブロック図である。
図21を参照して、コンバータECU2Eは、図7に示すコンバータECU2Aと比較して、上下限値制限部250に代えて、上下限値制限部250Eを含む点で異なる。コンバータECU2Eのその他の構成は、図7に示したコンバータECU2Aと同様である。
上下限値制限部250Eは、第1コンバータ制御部210からデューティー比指令Duty_mを受け、車両100(図1)を統括制御する上位ECU(図示せず)から車両100の走行距離および第2蓄電部6−2の使用年数を受ける。
なお、車両100の走行距離および第2蓄電部6−2の使用年数は、第2蓄電部6−2の劣化度合いを示す指標の一例である。このうち、車両走行距離については、上記ECUにおいて、トリップごとの走行距離を累積することによって算出される。車両走行距離は、車両100の動作時期に対応しており、ひいては、第2蓄電部6−2の使用時期に対応している。したがって、車両走行距離が長くなるほど第2蓄電部6−2の使用時期が長くなるため、第2蓄電部6−2の劣化度合いが大きくなる。同様に、第2蓄電部6−2の使用年数が長くなるほど、第2蓄電部6−2の劣化度合いが大きくなる。
このように第2蓄電部6−2の劣化度合いが大きくなると、第2蓄電部6−2の内部抵抗値Rb2が高くなることから、第2蓄電部6−2の電流値IL2が相対的に低くなる。その一方で、第2蓄電部6−2の劣化度合いが小さいときには、内部抵抗値Rb2が低いため、第2蓄電部6−2の電流値IL2が相対的に高くなる。これにより、第2蓄電部6−2の劣化度合いが大きい場合と比較して、電流検出部10−2等に異常が生じたときに蓄電部間に過大な電流が流れる可能性が高いことが予想される。
そこで、上下限値制限部250Eは、車両100の走行距離および第2蓄電部6−2の使用年数に基づいて、第2蓄電部6−2の劣化度合いを推定し、その推定した劣化度合いに応じてデューティー比指令間の偏差を可変に設定する。このとき、第2蓄電部6−2の劣化度合いが大きいほど、第2蓄電部6−2の内部抵抗値Rb2が大きくなることから、上下限値制限部250Eは、デューティー比指令間の偏差に対する制限を緩和する。
図22には、車両走行距離および第2蓄電部6−2の使用年数とデューティー比指令間の偏差との関係が示される。なお、上下限値制限部250Eは、予め実験的に取得された車両走行距離および第2蓄電部6−2の使用年数をパラメータとして規定された偏差をマップ形式で格納しておき、上記ECUから与えられる車両走行距離および第2蓄電部6−2の使用年数に基づいて、ディーティー比指令の偏差を設定する。
これによれば、デューティー比指令間の偏差は、車両走行距離が長くなるほど、すなわち、第2蓄電部6−2の劣化度合いが大きくなるほど、小さくなるように設定される。さらに、デューティー比指令間の偏差は、第2蓄電部6−2の使用年数が長くなるほど、すなわち、第2蓄電部6−2の劣化度合いが大きくなるほど、小さくなるように設定される。この結果、第2蓄電部6−2の劣化度合いに拘わらず、第2蓄電部6−2からの放電電流の増大が抑制されるため、蓄電部間に過大な電流が流れるのを回避することができる。
以上のように、この発明の実施の形態5によれば、電流制御モードに従って制御される第2コンバータ8−2におけるデューティー比の上下限値を、電圧制御モードに従って制御される第1コンバータ8−1におけるデューティー比との偏差が、第2蓄電部6−2の劣化度合いに応じて可変となるように設定する構成としたことにより、劣化度合い、すなわち、内部抵抗値Rb2の変化に拘わらず、2つのデューティー比の差を所望の制限値以下に制限することができる。これにより、第2コンバータ8−1の電流検出部10−2または電圧検出部12−2に異常が生じた場合であっても、母線電圧値VHの過昇圧が抑えられるため、蓄電部間に過大な電流が流れるのを回避することができる。
なお、上述の実施の形態3〜5においては、それぞれ、キャリア周波数、第2蓄電部6−2の内部抵抗値Rb2および第2蓄電部6−2の劣化度合いに応じて、第2コンバータ8−2におけるデューティー比上下限値と第1コンバータ8−1におけるデューティー比との偏差を設定する構成について説明したが、これらの実施の形態のうちの2以上の組合せによって、該偏差を設定するように構成してもよい。
また、上述の実施の形態1〜5においては、複数の蓄電部を備える電源システムの代表例として、2個の蓄電部6−1,6−2を備える電源システムについて例示したが、本願発明は、3個以上の蓄電部を備える電源システムについても適用できることは自明である。
また、上述の実施の形態1〜5においては、負荷装置の一例として、2つのモータジェネレータを含む駆動力発生部を用いる構成について説明したが、モータジェネレータの数は限定されない。さらに、負荷装置としては、車両の駆動力を発生する駆動力発生部に限られず、電力消費の実を行なう装置および電力消費および発電の両方が可能な装置のいずれにも適用することができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 電源システム、2,2A〜2E コンバータECU、3 駆動力発生部、4 電池ECU、6−1 第1蓄電部、6−2 第2蓄電部、8−1 第1コンバータ、8−2 第2コンバータ、10−1,10−2,16 電流検出部、12−1,12−2,18 電圧検出部、14−1,14−2 温度検出部、30−1 第1インバータ、30−2 第2インバータ、32 駆動ECU、34 エンジン、36 動力分割機構、38 駆動輪、40−1,40−2 チョッパ回路、100 車両、200 目標値決定部、210 第1コンバータ制御部、212,218,234,240 減算部、214,236 PI制御部、216,238 上下限値制限部、220,244 変調部、230 第2コンバータ制御部、232 除算部、242 下限値制限部、250A〜250E 上下限値制限部、C,C1,C2 平滑コンデンサ、D1A,D1B,D2A,D2B ダイオード、L1,L2 インダクタ、LN1A,LN2A 正母線、LN1B,LN2B 配線、LN1C,LN2C 負母線、MG1 第1モータジェネレータ、MG2 第2モータジェネレータ、MNL 主負母線、MPL 主正母線、Q1A,Q1B,Q2A,Q2B トランジスタ。