図1は、実施例1にかかる可変伝達比操舵装置の概略構成例を示す図である。図2は、ステアリングホイール近傍の構成例を示す図である。図3は、図2のA−A断面図である。図4は、伝達比マップの一例を示す図である。図5は、補正係数マップの一例を示す図である。図1に示すように、実施例1にかかる可変伝達比操舵装置1−1は、図示しない車両に搭載されるものであり、ステアリングホイール2と、回転軸3と、揺動軸4と、揺動角センサ5と、操舵角センサ6と、ステアリングアーム7と、アーム移動機構8と、シャフト9と、伝達比変更装置10と、操舵輪舵角センサ11と、アシストアクチュエータ12と、伝達比反力発生装置13と、車速センサ14と、加速度センサ15と、制御装置16とにより構成されている。
なお、200Rは、操舵輪である右前輪である。また、200Lは、操舵輪である左前輪である。右前輪200Rは、揺動中心201Rを中心に揺動自在に支持されている。また、左前輪200Lは、揺動中心201Lを中心に揺動自在に支持されている。なお、左右前輪200R,200Lは、回転自在に支持された図示しないドライブシャフトに連結されており、ドライブシャフトまわりに転動運動可能に支持されている。ここで、右前輪200Rの揺動角、すなわち操舵輪舵角をθHRとし、左前輪200Lの揺動角、すなわち操舵輪舵角をθHLとする。操舵輪舵角θHR,θHLは、車両の直進状態が0度であり、車両の右旋回方向がプラス、車両の左旋回方向がマイナスである。
ステアリングホイール2は、操作対象物である。実施例1では、ステアリングホイール2は、可変伝達比操舵装置1−1が搭載される図示しない車両に搭乗する運転者が操作するものである。ステアリングホイール2には、回転軸3の後述する支持部31が摺動自在に支持される支持空間部21が形成されている。
回転軸3は、ステアリングホイール2に連結されるものである。回転軸3は、軸方向における一方の端部に支持部31が形成され、他方の端部が伝達比変更装置10の後述する第1回転部材101に接続されている。この支持部31は円柱形状であり、中央部に支持穴31aが形成されている。支持部31は、上記支持空間部21に挿入される。従って、回転軸3は、揺動軸4を介して、ステアリングホイール2に固定される。また、回転軸3は、支持部材32により回転自在に支持されている。支持部材32は、図示しない車両内部に固定されている。従って、ステアリングホイール2は、回転軸3まわりに回転運動可能に支持され、回転軸3まわりに回転運動することができる。これにより、運転者がステアリングホイール2を回転操作することで回転軸3が回転する。
ここで、ステアリングホイール2の回転角、すなわち回転軸3の回転角を操舵角θrとする。操舵角θrは、車両が直進状態の際にステアリングホイール2が位置する回転操作ニュートラル位置が0度であり、ステアリングホイール2の右回転操作方向がプラス、左回転操作方向がマイナスである。また、回転軸3の回転は、最大回転角で規制されるため、ステアリングホイール2の回転運動が最大操舵角θrmaxで規制される。つまり、ステアリングホイール2は、最大操舵角θrmaxの際に、ステアリングホイール2が位置する回転操作エンド位置からさらに運転者により回転操作、ここでは回転操作のうち切り込み操作が行われても、回転運動しないように規制されている。最大操舵角θrmaxとは、運転者がステアリングホイール2を持ち替えなくてもステアリングホイール2を回転操作することができる角度に設定されている。例えば、最大操舵角θrmaxは、±120度程度に設定されている。
揺動軸4は、ステアリングホイール2を回転軸3に連結するものである。揺動軸4は、上記支持穴31aに挿入され、両端部がステアリングホイール2に固定されている。つまり、揺動軸4は、回転軸3に回転自在に支持される。従って、ステアリングホイール2は、揺動軸4まわりに揺動運動可能に支持され、揺動軸4まわりに揺動運動、すなわち補助運動可能に支持され揺動軸4まわりに補助運動することができる。これにより、ステアリングホイール2は、ステアリングホイール2の回転運動時に回転運動とは異なる補助運動、すなわち揺動運動可能に支持されている。つまり、運転者は、回転操作時に揺動操作、すなわち補助操作を行うことができる。ここで、実施例1では、揺動軸4は、ステアリングホイール2が回転操作ニュートラル位置の際に、ステアリングホイール2の鉛直方向(図2では、上下方向)と平行となるように、回転軸3に回転自在に支持されている。つまり、ステアリングホイール2は、回転操作ニュートラル位置におけるステアリングホイール2の鉛直方向廻りに揺動運動可能に支持されている。
ここで、ステアリングホイール2の揺動角、すなわち揺動軸4の回転角を揺動角θsとする。揺動角θsは、ステアリングホイール2の揺動運動時、すなわち補助運動時において変化する物理量である変位量である。揺動角θsは、ステアリングホイール2に伝達比反力発生装置13が発生する後述する伝達比反力FTのみが作用している際に、ステアリングホイール2が位置する揺動操作ニュートラル位置を0度とし、ステアリングホイール2の右揺動操作方向をプラス、左揺動操作方向をマイナスとする。また、ステアリングホイール2の揺動は、最大揺動角θsmaxで規制される。つまり、ステアリングホイール2は、最大揺動角θsmaxの際にステアリングホイール2が位置する揺動操作エンド位置からさらに運転者により揺動操作、ここでは揺動操作のうち押し込み操作を行うことができないように規制されている。最大揺動角θsmaxは、例えば±30度程度に設定されている。
揺動角センサ5は、補助運動状態検出手段である。揺動角センサ5は、操作対象物であるステアリングホイール2の補助運動状態、すなわち補助運動時の変位量である揺動角θsを検出するものである。揺動角センサ5は、制御装置16に接続されており、検出された揺動角θsが制御装置16に出力される。揺動角センサ5は、ステアリングホイール2の揺動軸4まわりの変位量を光学的あるいは力学的に検出するものである。
操舵角センサ6は、回転運動状態検出手段である。操舵角センサ6は、操作対象物であるステアリングホイール2の回転運動状態、すなわち回転運動時の変位量である操舵角θrを検出するものである。操舵角センサ6は、制御装置16に接続されており、検出された操舵角θrが制御装置16に出力される。ここで、操舵角センサ6は、ステアリングホイール2、すなわちステアリングホイール2が連結された回転軸3の軸周りの変位量を光学的あるいは力学的に検出するものである。
ステアリングアーム7は、両端部が左右前輪200R,200Lのそれぞれに揺動自在に連結されている。
アーム移動機構8は、シャフト9の回転力によりステアリングアーム7をアーム移動機構8に対して移動させることで、左右前輪200R,200Lの操舵輪舵角θHR,θHLを変更するものである。アーム移動機構8は、回転運動を直動運動に変換する変換機構、例えばラックギヤとピニオンギヤとのギヤ機構により構成されている。アーム移動機構8は、図示しない変速機構の回転運動側にアシストアクチュエータ12を介して回転運動するシャフト9が連結され、直動運動側に直動運動するステアリングアーム7が連結されている。従って、アーム移動機構8は、シャフト9が回転運動することで、ステアリングアーム7を直動運動させる。これにより、操舵輪舵角θHR,θHLは、シャフト9の後述する回転角θHの変化に応じて変化することとなる。なお、アーム移動機構8は、シャフト9の回転角θHに対して、操舵輪舵角θHR,θHLを同一角度としても良いし、図示しない車両の旋回状態に応じて異なる角度としても良い。
シャフト9は、軸方向における一方の端部が伝達比変更装置10の後述する第2回転部材102に接続され、他方の端部がアシストアクチュエータ12を介してアーム移動機構8に連結されている。ここで、シャフト9の回転角を回転角θHとする。回転角θHは、車両が直進状態の際にシャフト9が位置する操舵輪ニュートラル位置が0度であり、車両の右旋回方向がプラス、左旋回方向がマイナスである。また、シャフト9の回転は、最大回転角θHmaxで規制される。ここで、最大回転角は、左右前輪200R,200Lの最大操舵輪舵角θHR,θHL時におけるシャフト9の回転角である。なお、最大操舵輪舵角θHR,θHLは、車両の種類によって異なるが、例えば±40°〜50°程度に設定されている。
伝達比変更装置10は、操舵輪舵角制御手段の一部を構成するものであり、回転軸3の回転角、すなわちステアリングホイール2の操舵角θrと、左右前輪200R,200Lの操舵輪舵角θHR,θHLとの比である伝達比を変更するものである。実施例1では、伝達比変更装置10は、ステアリングホイール2の操舵角θrと、操舵輪舵角θHR,θHLに応じて変化するシャフト9の回転角θHとの比を伝達比として変更するものである。
伝達比変更装置10は、例えばハーモニックドライブ(登録商標)機構やモータ機構などにより構成されている。例えば、図1に示すように、伝達比変更装置10は、第1回転部材101と第2回転部材102とが相対回転可能に支持されており、第1回転部材101の回転角と第2回転部材102の回転角との回転角比を変更することができるものである。伝達比変更装置10は、制御装置16に接続され、制御装置16の後述する操舵輪舵角制御部166により駆動制御が行われる。伝達比変更装置10は、制御装置16の後述する伝達比補正部165により補正された伝達比Tに基づいて、第1回転部材101が連結されているステアリングホイール2の操舵角θrに対する第2回転部材102が連結されているシャフト9の回転角θHを変更する。例えば、伝達比変更装置10は、伝達比Tが0.75であり、ステアリングホイール2の操舵角θrが+40度である場合、シャフト9の回転角θHを+30度とすることができる回転力をシャフト9に作用させる。また、伝達比変更装置10は、シャフト9が+30度となると、伝達比Tが変更、あるいはステアリングホイール2の操舵角θrが変化しなければ、その状態を維持することができる回転力を少なくともシャフト9に作用させる。
操舵輪舵角センサ11は、シャフト9の回転角θHを検出するものである。つまり、操舵輪舵角センサ11は、シャフト9の回転角θHに応じて変化する操舵輪舵角θHR,θHLを検出するものである。操舵輪舵角センサ11は、制御装置16に接続されており、検出された回転角θHが制御装置16に出力される。操舵輪舵角センサ11は、シャフト9の軸周りの変位量を光学的あるいは力学的に検出するものである。なお、操舵輪舵角センサ11は、伝達比変更装置10と左右前輪200R,200Lとの間であれば、いずれに設けられていても良い。
アシストアクチュエータ12は、運転者によるステアリングホイール2の回転操作をアシストするものである。アシストアクチュエータ12は、運転者がステアリングホイール2の回転操作することで発生した回転力を増幅してアーム移動機構8に伝達するものである。実施例1では、アシストアクチュエータ12は、モータであり、シャフト9と、アーム移動機構8との間に設けられている。アシストアクチュエータ12は、制御装置16に接続されており、制御装置16により駆動制御が行われる。アシストアクチュエータ12は、制御装置16の図示しないアシスト力算出部により算出されたアシスト力に基づいて、運転者がステアリングホイール2の回転操作することで発生した回転力を増幅してアーム移動機構8に伝達する。なお、図示しないアシスト力算出部は、例えば制御装置16に出力されたステアリングホイール2の操舵角θrと、操舵輪舵角θHR,θHLに応じて変化するシャフト9の回転角θHと、制御装置16の伝達比補正部165により算出された伝達比Tとに基づいて、アシスト力を算出する。
伝達比反力発生装置13は、伝達比反力発生手段の一部を構成するものである。伝達比反力発生装置13は、操作対象物であるステアリングホイール2に制御装置16の伝達比補正部165により補正された伝達比Tに基づいた伝達比反力FTを発生させるものである。つまり、伝達比反力発生装置13は、運転者によるステアリングホイール2の揺動操作方向と反対方向、すなわち補助運動の運動方向と反対方向に、ステアリングホイール2に伝達比反力FTを作用させるものである。伝達比反力発生装置13は、図3に示すように、駆動源131と、押圧部材132と、弾性部材133とにより構成されている。
駆動部131は、押圧部材132をステアリングホイール側あるいは伝達比変更装置側のいずれかに移動させるものである。実施例1では、駆動部131は、例えばモータなどであり、回転力を押圧部材132に伝達し、押圧部材132を回転運動させるものである。駆動部131は、制御装置16に接続されており、制御装置16の後述する伝達比反力制御部167により駆動制御が行われる。駆動部131は、伝達比反力発生装置13、すなわち押圧部材132および弾性部材133により制御装置16の伝達比補正部165により補正された伝達比Tに基づいた伝達比反力FTを発生し、ステアリングホイール2に作用させることができるように駆動する。
押圧部材132は、ステアリングホイール2と押圧部材132と間に配置された弾性部材133をステアリングホイール側に押圧するものである。押圧部材132は、内周面に形成されたネジ溝が、支持部材32の外周面に形成されたネジ溝と螺合する。これにより、押圧部材132は、支持部材32に回転自在でかつ支持部材32の軸方向に移動自在に支持されている。従って、押圧部材132は、駆動部131から伝達された回転力により回転運動することで、同図の矢印Bに示すように、支持部材32の軸方向に直動運動することとなる。
弾性部材133は、ステアリングホイール2が揺動軸4まわりに揺動運動する方向である揺動操作方向のいずれの方向にも、発生した付勢力、すなわち伝達比反力FTがステアリングホイール2に作用するように、ステアリングホイール2と押圧部材132との間に配置されている。従って、弾性部材133は、運転者によるステアリングホイール2の揺動操作方向に拘わらず、揺動操作方向と反対方向の伝達比反力FTを発生させ、ステアリングホイール2に作用させることができる。なお、弾性部材133は、押圧部材132の支持部材32の軸方向に対する位置に拘わらず、常に付勢された状態で配置されている。従って、ステアリングホイール2は、発生した伝達比反力FTにより、運転者によるステアリングホイール2の揺動操作が行われなければ、揺動操作ニュートラル位置に位置し、その位置を保持することができる。また、弾性部材133は、押圧部材132が支持部材32の軸方向に直動運動することにより伸縮するため、発生する付勢力、すなわち伝達比反力FTが増減する。従って、伝達比反力発生装置13は、制御装置16の伝達比補正部165により補正された伝達比Tに基づいた伝達比反力FTを発生させることができる。
車速センサ14は、速度検出手段である。車速センサ14は、可変伝達比操舵装置1−1が搭載された図示しない車両の速度Vを検出するものである。車速センサ14は、制御装置16に接続されており、検出された車速Vが制御装置16に出力される。
加速度センサ15は、加速度検出手段である。加速度センサ15は、可変伝達比操舵装置1−1が搭載された図示しない車両の加速度Gを検出するものである。つまり、加速度センサ15は、車両に搭乗し、操舵対象物であるステアリングホイール2を操作する運転者に作用する加速度Gを検出するものである。加速度センサ15は、制御装置16に接続されており、検出された加速度Gが制御装置16に出力される。ここで、加速度センサ15は、車両が加速状態における加速度をプラスの加速度として検出し、車両が減速状態における加速度をマイナスの加速度として検出するものである。
制御装置16は、可変伝達比操舵装置1−1を制御するものであり、特に伝達比変更装置10、アシストアクチュエータ12、伝達比反力発生装置13を制御するものである。この制御装置16は、図1に示すように、可変伝達比操舵装置1−1が搭載された車両の各所に取り付けられたセンサから、各種入力信号が入力される。入力信号としては、例えば、揺動角センサ5により検出されたステアリングホイール2の揺動角θs、操舵角センサ6により検出されたステアリングホイール2の操舵角θr、操舵輪舵角センサ11により検出されたシャフト9の回転角θH、車速センサ14により検出された車速V、加速度センサ15により検出された加速度Gなどがある。
制御装置16は、これら入力信号と、記憶部163に予め格納されている操舵角θrと、車速Vおよび伝達比に基づいた伝達比マップ、揺動角θsおよび補正係数Kに基づいた補正係数マップなどの各種マップとに基づいて各種出力信号を出力する。出力信号としては、例えば、伝達比Tに基づいて操舵角θrに対する操舵輪舵角θHR,θHL、すなわち回転角θHを変更する伝達比変更装置10の駆動制御を行う信号、アシスト力を発生するアシストアクチュエータ12の駆動制御を行う信号、伝達比反力FTを発生させる伝達比反力発生装置13の駆動制御を行う信号などがある。
また、制御装置16は、上記入力信号や出力信号の入出力を行う入出力部(I/O)161と、処理部162と、伝達比マップや補正係数マップなどの各種マップなどを格納する記憶部163とにより構成されている。処理部162は、メモリおよびCPU(Central Processing Unit)により構成されている。処理部162は、少なくとも伝達比算出部164と、伝達比補正部165と、操舵輪舵角制御部166と、伝達比反力制御部167とを有している。処理部162は、可変伝達比操舵装置1−1の制御方法に基づくプログラムをメモリにロードして実行することにより、可変伝達比操舵装置1−1の制御方法を実現させるものであっても良い。また、記憶部163は、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ、ROM(Read Only Memory)のような読み出しのみが可能なメモリ、あるいはRAM(Random Access Memory)のような読み書きが可能なメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。
処理部162の伝達比算出部164は、伝達比算出手段であり、回転運動状態検出手段により検出された回転運動状態、すなわち操舵角センサ6により検出されたステアリングホイール2の操舵角θrに基づいて伝達比Tを算出するものである。実施例1では、伝達比算出部164は、検出された操舵角θrおよび速度検出手段である車速センサ14により検出された車速Vに基づいて伝達比Tを算出するものである。伝達比算出部164は、伝達比Tをステアリングホイール2の操舵角θrと、図示しない車両の車速Vと、予め記憶部163に格納されている伝達比マップとに基づいて算出する。ここで、伝達比マップは、図4に示すように、操舵角θrの増加に伴い、伝達比Tが増加して算出されるように設定されている。例えば、同図に示すように、所定の操舵角θr未満まで、操舵角θrの増加に伴い急に増加し、所定の操舵角θr以上から、操舵角θrの増加に伴い緩やかに増加するように設定する。また、伝達比マップは、操舵角θrが一定でも、車速Vの増加に伴い伝達比Tが減少して算出されるように設定されている。例えば、同図に示すように、操舵角θrが一定の場合に、車速VCにおいて算出される伝達比Tよりも、車速VCよりも速い車速VBにおいて算出される伝達比Tが小さくなり、車速VBにおいて算出される伝達比Tよりも、車速VBよりも速い車速VAにおいて算出される伝達比Tが小さくなるように設定する。なお、同図に示すVA,VB,VCは、一定値の車速Vではなく、互いに重なり合わない車速域であっても良い。つまり、伝達比算出部164は、検出された車速Vが車速域VA、車速域VB、車速域VCのいずれに該当するかによって、伝達比Tを算出しても良い。
処理部162の伝達比補正部165は、伝達比補正手段であり、補助運動状態検出手段により検出された補助運動状態、すなわち揺動角センサ5により検出された補助運動時における変位量であるステアリングホイール2の揺動角θsに基づいて補正係数Kを算出するものである。また、伝達比補正部165は、算出された補正係数Kにより上記伝達比算出部164により算出された伝達比Tを補正するものでもある。伝達比補正部165は、補正係数Kをステアリングホイール2の揺動角θsと、予め記憶部163に格納されている補正係数マップとに基づいて算出する。ここで、補正係数マップは、図5に示すように、補助運動時の変位量、すなわち揺動角θsの増加に伴い、補正係数Kを増加して算出されるように設定されている。例えば、同図に示すように、所定の揺動角θs未満まで、揺動角θsの増加に伴い急に増加し、所定の揺動角θs以上から、揺動角θsの増加に伴い緩やかに増加するように設定する。
処理部162の操舵輪舵角制御部166は、操舵輪舵角制御手段の一部を構成するものであり、上記伝達比算出部164により算出され、伝達比補正部165により補正された伝達比Tに基づいて伝達比変更装置10を制御するものである。伝達比変更装置10は、伝達比算出部164により駆動制御されることで、補正された伝達比Tに基づいて、操舵角θrに対する操舵輪操舵角θHR,θHL、すなわち回転角θHを変更する。これにより、操舵輪である左右前輪200R,200Lの操舵輪舵角は、操舵輪舵角制御手段により制御される。
処理部162の伝達比反力制御部167は、伝達比反力発生手段の一部を構成するものであり、上記伝達比算出部164により算出され、伝達比補正部165により補正された伝達比Tに基づいて伝達比反力発生装置13を制御するものである。伝達比反力発生装置13は、伝達比反力制御部167により駆動制御されることで、補正された伝達比Tに基づいた伝達比反力FTを発生し、ステアリングホイール2に作用させる。これにより、伝達比反力発生手段は、補助運動の運動方向と反対方向、すなわち運転者によるステアリングホイール2の揺動操作方向と反対方向に、補正された伝達比Tに基づいた伝達比反力FTを発生させ、操舵対象物であるステアリングホイール2に作用させる。
次に、実施例1にかかる可変伝達比操舵装置1−1の制御方法について説明する。図6は、実施例1にかかる可変伝達比操舵装置の制御方法フローを示す図である。なお、可変伝達比操舵装置1−1の制御方法は、可変伝達比操舵装置1−1の制御周期ごとに行われる。
まず、制御装置16の処理部162は、図6に示すように、実施例1にかかる可変伝達比操舵装置1−1の制御方法において用いられる値の初期化を行う(ステップST101)。ここでは、例えば、解除速度V1、伝達比T、補正係数K、加速度フラグFG、伝達比反力FTなどをクリア、すなわちV1=0、T=0、K=0、FG=0、FT=0とする。
次に、処理部162は、イグニッション(IG)がOFFであるか否かを判定する(ステップST102)。ここでは、処理部162は、図示しない車両の各装置が通電状態であるか否かを判断する。なお、処理部162は、イグニッションがOFFであると判定されると(ステップST102肯定)、次の制御周期に移行する。
次に、処理部162は、上記イグニッションがONであると判定されると(ステップST102否定)、車速V、操舵角θr、揺動角θs、加速度Gを取得する(ステップST103)。ここでは、処理部は、車速センサ14により検出された可変伝達比操舵装置1−1が搭載された図示しない車両の車速V、操舵角センサ6により検出されたステアリングホイール2の操舵角θr、揺動角センサ5により検出されたステアリングホイール2の揺動角θs、加速度センサ15により検出された図示しない車両の加速度、すなわち車両に搭乗する運転者に作用する加速度Gを取得する。
次に、処理部162の伝達比算出部164は、取得された車速Vと、取得された操舵角θrとに基づいて伝達比Tを算出する(ステップST104)。ここでは、伝達比算出部164は、取得された車速Vと、取得された操舵角θrと、予め記憶部163に格納されている伝達比マップ(図4参照)とに基づいて、伝達比Tを算出する。このとき、伝達比Tは、同図に示すように、取得された操舵角θr、すなわち検出された操舵角θrの増加に伴い、増加して算出される。また、伝達比Tは、取得された車速V、すなわち検出された車速Vの増加に伴い、減少して算出される。これにより、可変伝達比操舵装置1−1は、可変伝達比操舵装置1−1が搭載されている図示しない車両の車速Vの増加に伴い、ステアリングホイール2の操舵角θrの変化に対して操舵輪舵角θHR,θHLの変化を小さくすることができる。つまり、車両の低速時に、ステアリングホイール2の操舵角θrの変化に対して操舵輪舵角θHR,θHLを大きく変化させることができ、車両の高速時に、ステアリングホイール2の操舵角θrの変化に対して操舵輪舵角θHR,θHLを小さく変化させることができる。これにより、操舵輪舵角θHR,θHLを車両の車速に応じて適切に変化させることができるため、操作性を向上することができる。
次に、処理部162の伝達比補正部165は、取得された揺動角θsに基づいて補正係数Kを算出する(ステップST105)。ここでは、伝達比補正部165は、取得された揺動角θsと、予め記憶部163に格納されている補正係数マップ(図5参照)とに基づいて、補正係数Kを算出する。このとき、補正係数K、同図に示すように、取得された揺動角θs、すなわち検出された揺動角θsの増加に伴い、増加して算出される。
次に、伝達比補正部165は、操舵角速度ωrが0deg/sであるか否かを判定する(ステップST106)。ここでは、伝達比補正部165は、すなわち操舵対象物であるステアリングホイール2が回転操作方向に回転操作が行われているか否かを判定する。つまり、伝達比補正部165は、ステアリングホイール2が操作回転方向において保舵されているか否かを判定する。なお、操舵角速度ωrは、上記取得された操舵角θrに基づいて算出しても良いし、操舵角速度ωrを検出する操舵角速度センサをさらに備えても良い。
次に、伝達比補正部165は、操舵角速度ωrが0deg/sでない、すなわちステアリングホイール2が保舵されていないと判定されると(ステップST106否定)、取得された加速度Gの絶対値(|G|)が所定加速度G2以上であるか否かを判断する(ステップST107)。ここで、所定加速度G2とは、運転者が搭乗する可変伝達比操舵装置が搭載されている車両に、運転者の意図していない挙動が発生した際など、車両に搭乗している運転者に作用することで、運転者が意図せずにステアリングホイール2の揺動操作を行ってしまう加速度である。所定加速度G2は、例えば、ステアリングホイール2に配置されているエアバック装置が作動するマイナスの加速度である。
次に、伝達比補正部165は、取得された加速度Gの絶対値(|G|)が所定加速度G2未満であると判定されると(ステップST107否定)、解除速度V1をクリア、すなわちV1=0とする(ステップST108)。ここで、解除速度V1は、取得された車速Vが解除速度V1となると、補正された伝達比Tを一定に維持する、すなわちステアリングホイール2の揺動操作に応じた伝達比Tの補正の規制を解除する速度である。
次に、伝達比補正部165は、加速度フラグFGをクリア、すなわちFG=0とする(ステップST109)。ここで、加速度フラグFGは、取得された加速度Gの絶対値(|G|)が所定加速度G1あるいはG2以上となると、1が加えられるものである。
次に、伝達比補正部165は、上記算出された補正係数Kにより伝達比Tを補正する(ステップST110)。つまり、伝達比補正部165は、検出された操舵角θrに基づいて算出された伝達比Tを検出された揺動角θsに基づいて算出された補正係数Kにより補正する。ここでは、伝達比補正部165は、伝達比算出部164により算出された伝達比Tに、算出された補正係数Kを乗算し(T=T×K)、補正された伝達比Tを算出する。
ここで、処理部162の操舵輪舵角制御部166は、上記伝達比補正部165により補正された伝達比Tに基づいて伝達比変更装置10の駆動制御を行う。ここでは、操舵輪舵角制御部166は、上記取得された操舵角θrと補正された伝達比Tとに基づいて、操舵輪舵角θHR,θHL、すなわちシャフト9の回転角θHを算出する。操舵輪舵角制御部166は、上記シャフト9の回転角が算出された回転角θHとなるように、伝達比変更装置10を駆動制御する。なお、操舵輪舵角制御部166は、検出された回転角θHを取得して、取得された回転角θHに基づくフィードバック制御を行っても良い。
操舵輪舵角制御部166により駆動制御が行われる伝達比変更装置10は、シャフト9の回転角θHをステアリングホイール2の操舵角θrに対して、補正された伝達比Tに基づいた回転角に変更するために、回転力を発生し、シャフト9に伝達する。シャフト9に伝達された回転力は、アシストアクチュエータ12、アーム移動機構8およびステアリングアーム7を介して、操舵輪である左右前輪200R,200Lに伝達される。これにより、操舵輪舵角θHR,θHLは、ステアリングホイール2の操舵角θrおよび揺動角θsに基づいた伝達比Tによってシャフト9の回転角θHが変更されることで、ステアリングホイール2の操舵角θrに対して変更される。
次に、処理部162の伝達比反力制御部167は、上記伝達比補正部165により算出された伝達比T(補正された伝達比)に基づいて伝達比反力FTを算出する(ステップST111)。ここでは、伝達比反力制御部167は、算出された伝達比Tと、例えば予め記憶部163に格納されている伝達比反力マップとに基づいて、伝達比反力FTを算出する。ここで、伝達比反力マップは、算出された伝達比Tの増加に伴い、伝達比反力FTが増加するように設定さされている。従って、伝達比反力FTは、算出された伝達比Tの増加に伴い、増加して算出される。
次に、伝達比反力制御部167は、上記算出された伝達比反力FTを伝達比反力FTに基づいて伝達比反力発生装置13の駆動制御を行う(ステップST112)。ここでは、伝達比反力制御部167は、ステアリングホイール2の揺動操作方向に算出された伝達比反力FTが発生するように、伝達比反力発生装置13の駆動部131を駆動制御する。なお、可変伝達比操舵装置1−1が伝達比反力FTを検出する伝達比反力検出手段を備え、伝達比反力制御部167は、伝達比反力検出手段により検出された伝達比反力FTを取得して、取得された伝達比反力FTに基づくフィードバック制御を行っても良い。
伝達比反力制御部167により駆動制御が行われる伝達比反力発生装置13は、ステアリングホイール2の揺動操作方向に算出された伝達比反力FTを作用させる。従って、補正された伝達比Tに応じた伝達比反力FTは、操作対象物であるステアリングホイール2の回転運動方向、すなわち回転操作方向ではなく補助運動の運動方向と反対方向、すなわち運転者による揺動操作方向と反対方向に発生し、ステアリングホイール2に作用する。これにより、運転者は、伝達比の変化のみを伝達比反力の変化、すなわち揺動操作方向における反力として認知することができる。
次に、伝達比補正部165は、上記算出された補正係数KをK1として設定する(ステップST113)。なお、可変伝達比操舵装置1−1の制御方法では、ステップST113においてK1=Kとすると、再びステップST102において、イグニッションがOFFであるか否かを判定する。
また、伝達比補正部165は、操舵角速度ωrが0deg/sである、すなわちステアリングホイール2が保舵されていると判定されると(ステップST106肯定)、取得された加速度Gの絶対値(|G|)が所定加速度G1以上であるか否かを判断する(ステップST114)。ここで、所定加速度G1とは、図示しない車両が加速(プラスの加速度)、あるいは減速(マイナスの加速度)した際など、車両に搭乗している運転者に作用することで、運転者が意図せずにステアリングホイール2の揺動操作を行ってしまう加速度である。所定加速度G1は、例えば、0.3G程度である。
次に、伝達比補正部165は、取得された加速度Gの絶対値(|G|)が所定加速度G1以上であると判定されると(ステップST114肯定)、あるいは加速度Gの絶対値(|G|)が所定加速度G2以上であると判定されると(ステップST107肯定)、加速度フラグFGに1を加える(ステップST115)。ここでは、伝達比補正部165は、運転者が意図せずにステアリングホイール2の補助操作を行ってしまうと判定されると、加速度フラグFG=FG+1とする。
次に、伝達比補正部165は、加速度フラグFGが1であるか否かを判定する(ステップST116)。
次に、伝達比補正部165は、加速度フラグFGが1(FG=1)であると判定すると(ステップST116肯定)、上記取得された車速Vを解除速度V1として設定する(ステップST117)。ここでは、伝達比補正部165は、ステアリングホイール2が回転操作方向において保舵され、車両に搭乗している運転者に作用する加速度が運転者が意図せずにステアリングホイール2の揺動操作を行ってしまう加速度以上となった際の車両の車速Vを解除車速V1に設定する。なお、ステアリングホイール2の回転操作方向における保舵が維持され、運転者に作用する加速度が運転者が意図せずにステアリングホイール2の揺動操作を行ってしまう加速度以上を維持する場合は、ステップST115において加速度フラグFGに1がさらに加えられ、加速度フラグFGが1を超えることとなる。この場合は、ステップST116において加速度フラグFGが1でないと判定されるため(ステップST116否定)、ステップST117において、車両の車速Vが解除車速V1に設定されない。つまり、解除車速V1は、ステアリングホイール2が回転操作方向において保舵され、最初に、車両に搭乗している運転者に作用する加速度が運転者が意図せずにステアリングホイール2の揺動操作を行ってしまう加速度以上となった際の車両の車速Vとなる。
次に、伝達比補正部165は、K1に設定された補正係数Kを補正係数Kとして設定する(ステップST118)。ここでは、伝達比補正部165は、今回、ステップST103において取得された揺動角θsにより、ステップST105において算出された補正係数Kではなく、前回算出され、ステップST113においてK1として設定された補正係数Kを今回の補正係数Kとして設定する。つまり、伝達比補正部165は、前回算出され、ステップST113においてK1として設定された補正係数Kにより算出された伝達比Tを補正する。従って、伝達比補正部165は、ステップST113において設定された前回の算出された補正係数Kにより伝達比Tを補正し(ステップST110)、補正された伝達比Tに基づいて伝達比変更装置10の駆動制御を行うことで、ステアリングホイール2の操舵角θrおよび揺動角θsに基づいた伝達比Tによってシャフト9の回転角θHが変更され、操舵輪舵角θHR,θHLをステアリングホイール2の操舵角θrに対して変更される。
上述のように、伝達比補正部165は、ステアリングホイール2の回転操作が行われていない際、すなわちステアリングホイール2の回転操作方向における保舵を継続し、操作対象物であるステアリングホイール2の回転角、すなわち操舵角θrを一定に維持している際、特に運転者に作用する加速度が所定加速度G1以上、すなわち運転者が意図せずにステアリングホイール2の揺動操作を行ってしまう加速度以上である際には、補正された伝達比Tを一定に維持する。また、ステアリングホイール2の回転操作が行われている、すなわちステアリングホイール2の回転操作方向における保舵が行われておらず、操作対象物であるステアリングホイール2の回転角、すなわち操舵角θrが変化している際であっても、運転者に作用する加速度が所定加速度G2以上、すなわち運転者が意図せずにステアリングホイール2の揺動操作を行ってしまう加速度以上である場合は、補正された伝達比Tを一定に維持する。従って、これらの状況において、伝達比補正部165は、補助操作により検出された補助運動状態、すなわち運転者によるステアリングホイール2の揺動操作により検出された揺動角θsに基づいて伝達比Tを補正しない。これにより、運転者により操作対象物であるステアリングホイール2を保持した後に、運転者によりステアリングホイール2の回転操作が行われた場合に、操舵輪である左右前輪200R,200Lの操舵輪舵角θHR,θHLが大きく変化することを抑制ができ、運転者の違和感を抑制することができる。
また、伝達比補正部165は、取得された加速度Gの絶対値(|G|)が所定加速度G1未満であると判定されると(ステップST114否定)、加速度フラグFGが0であるか否かを判定する(ステップST119)。ここでは、伝達比補正部165は、今回までに、運転者に作用する加速度が所定加速度G1以上、すなわち運転者が意図せずにステアリングホイール2の揺動操作を行ってしまう加速度以上と1度でもなっているか否かを判定する。なお、伝達比補正部165は、加速度フラグFGが0であると判定されると(ステップST119肯定)、ステップST105において算出された補正係数Kにより伝達比Tが補正され(ステップST110)、補正された伝達比Tに基づいて伝達比変更装置10の駆動制御を行うことで、ステアリングホイール2の操舵角θrおよび揺動角θsに基づいた伝達比Tによってシャフト9の回転角θHが変更され、操舵輪舵角θHR,θHLをステアリングホイール2の操舵角θrに対して変更する。つまり、ステアリングホイール2の回転操作方向における保舵が継続されていても、一度も運転者に作用する加速度が所定加速度G1以上となっていなければ、今回算出された補正係数Kに基づいて算出された伝達比Tを補正する。
次に、伝達比補正部165は、加速度フラグFGが0でないと判定されると(ステップST119否定)、取得された車速Vが解除速度V1未満であるか否かを判定する(ステップST120)。ここでは、伝達比補正部165は、ステアリングホイール2の回転操作方向における保舵が継続され、一度運転者に作用する加速度が所定加速度G1以上、すなわち運転者が意図せずにステアリングホイール2の揺動操作を行ってしまう加速度以上となった後に、運転者に作用する加速度が所定加速度G1未満となった際に、取得された車速Vがステアリングホイール2の回転操作方向における保舵が継続され、一度運転者に作用する加速度が所定加速度G1以上となった際の車速である解除速度V1未満となったか否かを判定する。
次に、伝達比補正部165は、取得された車速Vが解除速度V1未満でないと判定すると(ステップST120否定)、前回算出され、ステップST113においてK1として設定された補正係数Kにより算出された伝達比Tを補正する(ステップST118、ステップST110)。一方、伝達比補正部165は、取得された車速Vが解除速度V1未満であると判定すると(ステップST120肯定)、ステップST105において算出された今回の補正係数Kに基づいて算出された伝達比Tを補正する(ステップST110)。
なお、可変伝達比操舵装置1−1の制御方法では、ステップST102においてイグニッションがOFFと判定されるまで、すなわち運転者によるステアリングホイール2の操作が行われた際に、行われた操作に応じて、操作輪である左右前輪200R,200Lの操舵輪舵角θHR,θHLを制御しなくてもよいと判定されるまで、ステップST102からST113までが繰り返される。
以上のように、この発明にかかる可変伝達比操舵装置1−1は、操作対象物であるステアリングホイール2が回転運動時に回転運動とは異なる補助運動、実施例1では揺動軸4まわりに揺動運動可能に支持されている。従って、運転者は、ステアリングホイール2の回転操作時に、ステアリングホイール2に回転操作とは異なる揺動操作(補助操作)を行うことができ、2つの動作、すなわち運転者による2つの操作に基づいて算出された伝達比T(補正された伝達比)により操舵輪である左右前輪200R,200Lの操舵輪舵角θHR,θHLを制御することができる。これにより、運転者は、2つの操作を1つのステアリングホイール2により同時に行うことができるので、操作性を向上することができる。従って、運転者が容易に車両の旋回動作を行うことができる。
また、この発明にかかる可変伝達比操舵装置1−1は、操舵輪である左右前輪200R,200Lの操舵輪舵角θHR,θHLが、回転運動状態に基づいて変化する伝達比T、すなわちステアリングホイール2の操舵角θrに基づいて算出された伝達比Tを補助運動状態、実施例1ではステアリングホイール2の揺動角θs(揺動運動時における変位量)に基づいた補正係数Kにより補正した値である補正された伝達比Tに基づいて制御される。従って、運転者は、ステアリングホイール2により2つの操作を同時に行うことで、ステアリングホイール2の運転者による操作に対する操舵輪である左右前輪200R,200Lの操舵輪舵角θHR,θHLをより細かく制御することができる。これにより、運転者が目標とする旋回動作を車両に容易に行わせることができる。
次に、実施例2にかかる可変伝達比操舵装置1−2について説明する。図7は、実施例2にかかる可変伝達比操舵装置の概略構成例を示す図である。同図に示す実施例2にかかる可変伝達比操舵装置1−2が、図1に示す実施例1にかかる可変伝達比操舵装置1−1と異なる点は、運転者に作用する加速度の代わりに、運転者に作用する加速度状態を予測し、予測された加速度状態に応じて補正された伝達比を一定に維持する点である。ここで、図7に示す実施例2にかかる可変伝達比操舵装置1−2の基本的構成は、図1に示す実施例1にかかる可変伝達比操舵装置1−1の基本的構成と同一部分は、その説明を省略する。
実施例2にかかる可変伝達比操舵装置1−2は、図7に示すように、加速度センサ15の代わりに、アクセルセンサ17と、ブレーキセンサ18と、エアバックセンサ19とを備える。
アクセルセンサ17は、加速度状態予測手段である。アクセルセンサ17は、運転者が操作することで、図示しないアクセルペダルの踏み込み量、すなわちアクセル踏み込み量を検出するものである。アクセルセンサ17は、制御装置16に接続されており、検出されたアクセル踏み込み量が制御装置16に出力される。ここで、図示しない車両は、このアクセル踏み込み量の増加に伴い加速し、加速度が増加する。つまり、制御装置16は、アクセルセンサ17により検出されたアクセル踏み込み量に応じて、車両に搭乗し、ステアリングホイール2を操作する運転者に作用する加速度状態を予測することができる。なお、制御装置16は、アクセルペダルの踏み込み速度などアクセル踏み込み状態に応じて運転者に作用する加速度状態を予測しても良い。
ブレーキセンサ18は、加速度状態予測手段である。ブレーキセンサ18は、運転者が操作することで、図示しないブレーキペダルの踏み込み量、すなわちブレーキ踏み込み量を検出するものである。ブレーキセンサ18は、制御装置16に接続されており、検出されたブレーキ踏み込み量が制御装置16に出力される。ここで、図示しない車両は、このブレーキ踏み込み量の増加に伴い加速し、加速度が減少(減速度が増加)する。つまり、制御装置16は、ブレーキセンサ18により検出されたブレーキ踏み込み量に応じて、車両に搭乗し、ステアリングホイール2を操作する運転者に作用する加速度状態を予測することができる。
エアバックセンサ19は、加速度状態予測手段である。エアバックセンサ19は、ステアリングホイール2に配置されている図示しないエアバック装置の作動、すなわちエアバックの展開を検出するものである。エアバックセンサ19は、制御装置16に接続されており、検出されたエアバック展開が制御装置16に出力される。ここで、エアバック装置は、図示しない車両が上述した障害物に衝突した際の衝撃力、すなわち車両に作用するマイナスの加速度(減速度)に応じて作動する。つまり、制御装置16は、エアバックセンサ19によりエアバックが展開されたことを検出することで、車両に搭乗し、ステアリングホイール2を操作する運転者に作用する加速度状態を予測することができる。
次に、実施例2にかかる可変伝達比操舵装置1−2の制御方法について説明する。図8は、実施例2にかかる可変伝達比操舵装置の制御方法フローを示す図である。なお、図8に示す実施例2にかかる可変伝達比操舵装置1−2の制御方法のうち、図6に示す実施例1にかかる可変伝達比操舵装置1−1の制御方法と同一箇所は、一部省略あるいは簡略化して説明する。
まず、制御装置16の処理部162は、図8に示すように、実施例1にかかる可変伝達比操舵装置1−2の制御方法において用いられる値の初期化を行う(ステップST201)。次に、処理部162は、イグニッション(IG)がOFFであるか否かを判定する(ステップST202)。次に、処理部162は、上記イグニッションがONであると判定されると(ステップST202否定)、車速V、操舵角θr、揺動角θs、加速度Gを取得する(ステップST203)。
次に、処理部162の伝達比算出部164は、取得された車速Vと、取得された操舵角θrとに基づいて伝達比Tを算出する(ステップST204)。ここでは、伝達比算出部164は、取得された車速Vと、取得された操舵角θrと、予め記憶部163に格納されている伝達比マップ(図4参照)とに基づいて、伝達比Tを算出する。可変伝達比操舵装置1−2は、可変伝達比操舵装置1−2が搭載されている図示しない車両の車速Vの増加に伴い、ステアリングホイール2の操舵角θrの変化に対して操舵輪舵角θHR,θHLの変化を小さくすることができる。これにより、操舵輪舵角θHR,θHLを車両の車速に応じて適切に変化させることができるため、操作性を向上することができる。
次に、処理部162の伝達比補正部165は、取得された揺動角θsに基づいて補正係数Kを算出する(ステップST205)。ここでは、伝達比補正部165は、取得された揺動角θsと、予め記憶部163に格納されている補正係数マップ(図5参照)とに基づいて、補正係数Kを算出する。次に、伝達比補正部165は、操舵角速度ωrが0deg/sであるか否かを判定する(ステップST206)。
次に、伝達比補正部165は、操舵角速度ωrが0deg/sでない、すなわちステアリングホイール2が保舵されていないと判定されると(ステップST206否定)、図示しないエアバックが展開されているか否かを判断する(ステップST207)。ここでは、伝達比補正部165は、エアバックセンサ19により、図示しないエアバック装置が作動しているか否かを検出することで、運転者に作用する加速度状態を予測し、予測された加速度状態により運転者が意図せずに操作対象物であるステアリングホイール2の揺動操作が行われるか否かを判定する。
次に、伝達比補正部165は、エアバックが展開していないと判定されると(ステップST207否定)、解除速度V1をクリア、すなわちV1=0とする(ステップST208)。次に、伝達比補正部165は、加速度フラグFGをクリア、すなわちFG=0とする(ステップST209)。
次に、伝達比補正部165は、上記算出された補正係数Kにより伝達比Tを補正する(ステップST210)。つまり、伝達比補正部165は、検出された操舵角θrに基づいて算出された伝達比Tを検出された揺動角θsに基づいて算出された補正係数Kにより補正する。処理部162の操舵輪舵角制御部166は、上記伝達比補正部165により補正された伝達比Tに基づいて伝達比変更装置10の駆動制御を行う。これにより、操舵輪である左右前輪200R,200Lの操舵輪舵角θHR,θHLは、ステアリングホイール2の操舵角θrおよび揺動角θsに基づいた伝達比Tによってシャフト9の回転角θHが変更されることで、ステアリングホイール2の操舵角θrに対して変更される。
次に、処理部162の伝達比反力制御部167は、上記伝達比補正部165により算出された伝達比T(補正された伝達比)に基づいて伝達比反力FTを算出する(ステップST211)。ここでは、伝達比反力制御部167は、算出された伝達比Tと、例えば予め記憶部163に格納されている伝達比反力マップとに基づいて、伝達比反力FTを算出する。次に、伝達比反力制御部167は、上記算出された伝達比反力FTを伝達比反力FTに基づいて伝達比反力発生装置13の駆動制御を行う(ステップST212)。ここでは、伝達比反力制御部167は、ステアリングホイール2の揺動操作方向に算出された伝達比反力FTが発生するように、伝達比反力発生装置13の駆動部131を駆動制御する。これにより、伝達比反力発生装置13がステアリングホイール2の揺動操作方向に算出された伝達比反力FTを作用させるので、運転者は、伝達比の変化のみを伝達比反力の変化、すなわち揺動操作方向における反力として認知することができる。
次に、伝達比補正部165は、上記算出された補正係数KをK1として設定する(ステップST213)。なお、可変伝達比操舵装置1−2の制御方法では、ステップST213においてK1=Kとすると、再びステップST202において、イグニッションがOFFであるか否かを判定する。
また、伝達比補正部165は、操舵角速度ωrが0deg/sである、すなわちステアリングホイール2が保舵されていると判定されると(ステップST206肯定)、アクセルが全開あるいはブレーキが全開であるか否かを判断する(ステップST214)。ここでは、伝達比補正部165は、アクセルセンサ17により検出されたアクセル踏み込み量、あるいはブレーキセンサ18により検出されたブレーキ踏み込み量から運転者に作用する加速度状態を予測し、予測された加速度状態(加速状態)により、運転者が意図せずに操作対象物であるステアリングホイール2の揺動操作が行われるか否かを判定する。実施例2では、伝達比補正部165は、アクセルセンサ17により検出されるアクセル踏み込み量から図示しないアクセルペダルが全て踏み込まれるアクセル全開、すなわち運転者に最もプラスの加速度が作用する加速度状態であるか否か判定することで、運転者の操作により運転者が意図せずに操作対象物であるステアリングホイール2の揺動操作が行われるか否かを判定する。あるいは、伝達比補正部165は、ブレーキセンサ18により検出されるブレーキ踏み込み量から図示しないブレーキペダルが全て踏み込まれるブレーキ全開、すなわち運転者の操作により運転者に最もマイナスの加速度が作用する加速度状態であるか否か判定することで、運転者が意図せずに操作対象物であるステアリングホイール2の揺動操作が行われるか否かを判定する。
次に、伝達比補正部165は、アクセルが全開あるいはブレーキが全開であると判定されると(ステップST214肯定)、あるいはエアバックが展開されていると判定されると(ステップST207肯定)、加速度フラグFGに1を加える(ステップST215)。次に、伝達比補正部165は、加速度フラグFGが1であるか否かを判定する(ステップST216)。次に、伝達比補正部165は、加速度フラグFGが1(FG=1)であると判定すると(ステップST216肯定)、上記取得された車速Vを解除速度V1として設定する(ステップST217)。ここでは、伝達比補正部165は、ステアリングホイール2が回転操作方向において保舵され、予測された運転者に作用する加速度状態により運転者が意図せずにステアリングホイール2の揺動操作が行われると判断された際の車両の車速Vを解除車速V1に設定する。
次に、伝達比補正部165は、K1に設定された補正係数Kを補正係数Kとして設定する(ステップST218)。ここでは、伝達比補正部165は、前回算出され、ステップST213においてK1として設定された補正係数Kにより算出された伝達比Tを補正する。従って、伝達比補正部165は、ステップST213において設定された前回の算出された補正係数Kにより伝達比Tを補正し(ステップST210)、補正された伝達比Tに基づいて伝達比変更装置10の駆動制御を行うことで、ステアリングホイール2の操舵角θrおよび揺動角θsに基づいた伝達比Tによってシャフト9の回転角θHが変更され、操舵輪舵角θHR,θHLをステアリングホイール2の操舵角θrに対して変更される。
上述のように、伝達比補正部165は、ステアリングホイール2の回転操作が行われていない際、すなわちステアリングホイール2の回転操作方向における保舵を継続し、操作対象物であるステアリングホイール2の回転角、すなわち操舵角θrを一定に維持している際、特に運転者に作用する加速度状態を予測し、予測された加速度状態により運転者が意図せずに操作対象物であるステアリングホイール2の揺動操作が行われると判断される際には、補正された伝達比Tを一定に維持する。また、ステアリングホイール2の回転操作が行われている、すなわちステアリングホイール2の回転操作方向における保舵が行われていなくても、運転者に作用する加速度状態を予測し、予測された加速度状態により運転者が意図せずに操作対象物であるステアリングホイール2の揺動操作が行われる場合は、補正された伝達比Tを一定に維持する。従って、これらの状況において、伝達比補正部165は、補助操作により検出された補助運動状態、すなわち運転者によるステアリングホイール2の揺動操作により検出された揺動角θsに基づいて伝達比Tを補正しない。これにより、運転者により操作対象物であるステアリングホイール2を保持した後に、運転者によりステアリングホイール2の回転操作が行われた場合に、操舵輪である左右前輪200R,200Lの操舵輪舵角θHR,θHLが大きく変化することを抑制ができ、運転者の違和感を抑制することができる。
また、伝達比補正部165は、アクセルが全開あるいはブレーキが全開でないと判定されると(ステップST214否定)、加速度フラグFGが0であるか否かを判定する(ステップST219)。次に、伝達比補正部165は、加速度フラグFGが0でないと判定されると(ステップST219否定)、取得された車速Vが解除速度V1未満であるか否かを判定する(ステップST220)。次に、伝達比補正部165は、取得された車速Vが解除速度V1未満でないと判定すると(ステップST220否定)、前回算出され、ステップST213においてK1として設定された補正係数Kにより算出された伝達比Tを補正する(ステップST218、ステップST210)。一方、伝達比補正部165は、取得された車速Vが解除速度V1未満であると判定すると(ステップST220肯定)、ステップST205において算出された今回の補正係数Kに基づいて算出された伝達比Tを補正する(ステップST210)。
以上のように、実施例1にかかる可変伝達比操舵装置1−2は、操作対象物であるステアリングホイール2が回転運動時に回転運動とは異なる補助運動、実施例1では揺動軸4まわりに揺動運動可能に支持されている。これにより、上記実施例1と同様に、運転者は、2つの操作を1つのステアリングホイール2により同時に行うことができるので、操作性を向上することができる。従って、運転者が容易に車両の旋回動作を行うことができる。
また、実施例2にかかる可変伝達比操舵装置1−2は、操舵輪である左右前輪200R,200Lの操舵輪舵角θHR,θHLが、回転運動状態に基づいて変化する伝達比T、すなわちステアリングホイール2の操舵角θrに基づいて算出された伝達比Tを補助運動状態、実施例2ではステアリングホイール2の揺動角θs(揺動運動時における変位量)に基づいた補正係数Kにより補正した値である補正された伝達比Tに基づいて制御される。これにより、上記実施例1と同様に、運転者は、左右前輪200R,200Lの操舵輪舵角θHR,θHLをより細かく制御することができ、運転者が目標とする旋回動作を車両に容易に行わせることができる。
なお、上記実施例1,2では、運転者により操作対象物であるステアリングホイール2が回転操作方向において保持された後の回転操作状態に拘わらず、ステアリングホイール2の揺動角θsに基づいて補正係数Kを算出するがこの発明はこれに限定されるものでない。例えば、運転者によりステアリングホイール2が回転操作方向において保持された後の回転操作状態が、ステアリングホイール2を回転操作ニュートラル位置に戻す切り戻しの場合は、伝達比補正部165により算出される補正係数を減少しても良い。つまり、運転者によりステアリングホイール2が回転操作方向において保持された後の回転操作状態が切り戻しの際には、切り込みの際よりも伝達比Tを減少して算出しても良い。従って、切り戻し時における操舵輪である左右前輪200R,200Lの操舵輪舵角θHR,θHLを切り込み時における左右前輪200R,200Lの操舵輪舵角θHR,θHLよりも小さくすることができる。これにより、旋回状態の図示しない車両を素早く通常の状態、すなわち直進状態に復帰させることができる。
また、上記実施例1,2では、運転者によりステアリングホイール2が回転操作方向において保持され、最初に、運転者が意図せずに操作対象物であるステアリングホイール2の揺動操作が行われる虞があると判断された際の車速Vを解除速度V1とするがこの発明はこれに限定されるものではない。例えば、所定速度(30km/h程度)を解除速度V1としても良い。この場合は、解除速度V1を予め記憶部163に格納しておく。