JP5106963B2 - 乗員保護装置 - Google Patents

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Description

本発明は、車両の座席に着座した乗員を保護する乗員保護装置に関する。
従来の乗員保護装置として、車両の前面衝突を事前に検知したときに、シート全体を後方に回転させて後傾させることで、衝突前の乗員とステアリングホイールとの間隔が広くなって、衝突後のシートベルトの繰り出し量を多くし、衝突エネルギの吸収量を増大するものが知られている(例えば、下記特許文献1参照)。
特開2006−175901号公報
ところで、上記した従来の乗員保護装置では、シートの後傾状態を保持しておく機能を特に備えていないので、前面衝突時には後傾状態が解除される恐れがあり、衝突エネルギの吸収量の増大を維持できない場合が発生する。また、シートの後傾状態を保持しておくロック機構などを別途設ける場合には、構造の複雑化や装置の大型化を招くものとなる。
なお、上記した特許文献1には、シートを後傾させるためのアクチュエータとしてモータを使用し、モータの駆動力をピニオンからラックに伝達する例が記載されているので、モータ停止によって、シートの後傾状態をピニオンとラックとの噛み合いによって保持することも期待できる。
しかしながら、モータ軸(ピニオン)の回転停止力(制動力)は、衝突荷重に比較して格段に小さく、また、乗員の慣性移動によるラックを介しての荷重入力方向が、モータ軸の回転方向に一致するため、この入力荷重によってモータ軸を強制的に回転させることになり、シートの戻りが生じる恐れがある。
また、上記した特許文献1には、座席と床面との間に設けたエアバックを膨張させることにより、座席を後傾させる例も記載されているが、エアバックだけでは座席の後傾状態を維持するのは難しく、別途保持機構が必要となる。
そこで、本発明は、構造の複雑化や装置の大型化を招くことなく、座席の揺動位置を所定に維持して乗員の保護性能を高めることを目的としている。
本発明は、車両の座席の全体を、車体フロアに対し支持部を中心として車体前後方向に揺動させる揺動機構と、前記車両の前面衝突を事前に検知する衝突検知手段と、この衝突検知手段により前面衝突を事前に検知したときに、前記揺動機構を作動させて座席の全体を所定位置に揺動させて後傾させる動力伝達駆動機構とを備えた乗員保護装置において、前記動力伝達駆動機構は、前記揺動機構に設けたハイポサイクロイド機構と、このハイポサイクロイド機構を駆動する駆動源と、この駆動源を駆動制御する制御回路と、を備え、前記ハイポサイクロイド機構は、前記座席の全体が後傾した状態で、アウタギアがインナギアをその中心軸に対して直交する方向に押し付ける衝突荷重を受けて前記座席の後傾状態を保持する保持機構を構成することを最も主要な特徴とする。
本発明によれば、揺動機構を作動させて座席を所定位置に揺動させる動力伝達駆動機構がハイポサイクロイド機構を備えているので、衝突荷重の入力方向が、ハイポサイクロイド機構を駆動する駆動源の回転方向と一致しないので、座席が所定の揺動位置で衝突荷重を受けても、その荷重入力によって駆動源の駆動軸側が直接的に回転動力を受けることがない。つまり、動力伝達駆動機構自体が座席の所定の揺動位置を保持する保持機構を構成することになり、したがって、保持機構を別途設けることなく座席の所定の揺動位置を維持して乗員の保護性能を高めることができる。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態を示す乗員保護装置を備えた車両の座席であるシート1の簡略化した側面図であり、(a)が車両の前面衝突を検知する前の状態を示し、(b)が車両の前面衝突を事前に検知した後にシート1を後方に回転させて後傾させた状態を示す。なお、図中の矢印FRで示す方向が車両前方、矢印UPで示す方向が車両上方である。
シート1は、シートクッション3,シートバック5及びヘッドレスト7を備えて車体フロア9上に設置してあり、このシート1に乗員11が着座している。シートクッション3の下面には揺動部としての可動台13を装着し、一方車体フロア9上にはベース部材15を装着し、このベース部材15上に設置してあるシーソヒンジ17の上部にヒンジピン19を介して可動台13をシート1とともに車両前後方向に揺動可能に取り付ける。
なお、符号20はシートベルト、22はステアリングホイール、24はシートバック5に設置したベルトアンカである。また、シート1には、シートベルト20を巻き取るためのリトラクタ(不図示)を設置しており、このリトラクタは後述するシートベルトフォースリミッタ機構を備えている。
また、ベース部材15の車両前端部及び後端部には、前部ブラケット21及び後部ブラケット23をそれぞれ設け、前部ブラケット21と可動台13の前端部との間に前部リンク機構25を、後部ブラケット23と可動台13の後端部との間に後部リンク機構27をそれぞれ介装する。
前部リンク機構25は、車体フロア9側の前部ブラケット21に第1リンク29の一端を回転支持ピン31を介して回転可能に連結するとともに、可動台13側に第2のリンク33の一端を回転支持ピン35を介して回転可能に連結し、第1リンク29と第2リンク33のそれぞれの他端同士をリンクピン37を介して回転可能に連結する構成とする。
同様にして、後部リンク機構27は、車体フロア9側の後部ブラケット23に第1リンク39の一端を回転支持ピン41を介して回転可能に連結するとともに、可動台13側に第2のリンク43の一端を回転支持ピン45を介して回転可能に連結し、第1リンク39と第2リンク43のそれぞれの他端同士をリンクピン47を介して回転可能に連結する構成とする。
上記したシーソヒンジ17に揺動可能に支持してある可動台13と、前,後部リンク機構25,27とにより揺動機構を構成している。
そして、本実施形態では、図2に示す車両49の前面衝突を事前に検知するのであるが、その際、例えばフロントグリル51等の車両前部に設けた衝突検知手段としての障害物センサ53によって車両前方の障害物を検知することで、前面衝突を事前に検知し、シート1を例えば図1(a)の状態から図1(b)の状態となるよう後傾させる。なお、障害物センサ53としては、例えば車両49と前方の障害物との距離をレーザ光などによって測定するものでよい。
シート1を後傾させる際には、本実施形態の具体的な構造を示す斜視図である図3(シート1は省略している)に示す前後一対のモータ55,57を駆動源としている。
なお、図3において、前記図1で説明した各構成要素に対応する部分には同一の符号を付してあり、モータ55,57や後述する減速機構については、車幅方向左側の機構部分にのみ設定しており、これらモータ55,57や減速機構は図1では省略している。
図3に示すように、左右のベース部材15は、シートスライド機構59に支持されている。すなわち、このシートスライド機構59は、車体フロア9上に固定される固定レール61に対し、ベース部材15の下部に固定される可動レール63が車両前後方向にスライド移動可能である。
上記図3の具体的な構造を適用して示す図4,図5は、前記図1(a),(b)にそれぞれ対応しており、この図4,図5において、回転支持ピン35,45としている部分は、図3に示すように左右の機構部分相互を連結する連結ロッド65,67に対応している。但し、図4,図5では、図1に示す乗員11や、図3に示すモータ55,57及び減速機構等を省略している。
また、第2リンク33,43には、回転支持ピン35,45を中心としてそれぞれリンクピン37,47と反対側の端部に円弧状のガイド溝33a,43aを設け、これら各ガイド溝33a,43aに、可動台13側に設けてあるガイドピン69,71をそれぞれ移動可能に挿入している。すなわち、シート1が図4の状態と図5の状態との間を移動変位する際に、ガイドピン69,71がガイド溝33a,43a内をそれぞれ移動する。
図6は、図3における車両後方側のモータ57周辺を可動台13とともに車両後方の下方から見上げるようにして見た斜視図である。なお、以下の説明では、図6に示してある一方のモータ57に関連する機構について説明するが、他方のモータ55に関連する機構も同等である。
モータ57の車幅方向端部の取付部73は、連結機構75の側面に取り付けている。連結ロッド67は、連結機構75及び第2リンク33を貫通し、さらに動力伝達駆動機構となるハイポサイクロイド機構77を貫通して可動台13に回転可能に連結している。このハイポサイクロイド機構77と連結機構75によって減速機構を構成している。
連結機構75は、モータ57側に設けた図示しない駆動ギアの回転動力を、連結ロッド67側に設けた図示しない従動ギアに伝達することで、連結ロッド67が回転する。
ハイポサイクロイド機構77は、図7に示すように、アウタギア79の内歯にインナギア81の外歯が噛み合い、インナギア81の中心の連結孔81aに、連結ロッド67をスプライン結合によって連結固定する。すなわち、前記したモータ57の駆動によって連結ロッド67が回転し、これに伴いインナギア81が回転してその回転動力をアウタギア79に伝達する。
ここでアウタギア79は、第2リンク43の側面に固定、もしくは第2リンク43の内部に一体化してあり、このためモータ57の回動動力はインナギア81,アウタギア79を介して第2リンク43に伝達されることになる。したがって、ハイポサイクロイド機構77としては第2リンク33に設けていることになる。
以上の構成により、前後一対のモータ55,57が駆動することで、シーソヒンジ17に支持された可動台13が、前部リンク機構25及び後部リンク機構27によって前後が連結された状態で、図4,図1(a)の通常の状態と図5,図1(b)のシート後傾状態との間をシート1とともに揺動変位可能となる。
ここで、本実施形態では、前述した障害物センサ53が車両前方の障害物を検知したときに、モータ55,57を駆動して、例えば図4,図1(a)の通常の状態から図5,図1(b)の後傾状態に変位させる。
また、シート1は、リクライニング機構83を備え、このリクライニング機構83によるシートバック5の傾斜角度及び、前記したシートスライド機構59によるシート1の前後スライド位置に応じて前記したモータ55,57の回転駆動量を変更する。なお、シートバック5の傾斜角度は、例えばエンコーダで検出する。
すなわち、本実施形態では、図8の制御ブロック図に示すように、障害物センサ53の検出信号入力を受ける制御手段としての制御回路85が、シートスライド位置センサ87及びリクライニング角度センサ89の検出信号の入力を受けて、モータ(シート後傾モータ)55,57を駆動制御する。
また、制御回路85は、リクライニング角度センサ89の検出信号の入力を受け、シートバック5の傾斜角度が規定の傾斜角度から外れているときに、前記規定角度となるように、リクライニング機構83に設けた図示しない駆動部であるリクライナモータを制御する。すなわち、制御回路85はリクライナ制御手段を含んでいる。
さらに、制御回路85は、シート1に着座する乗員11の体格を検出する乗員体格検出手段としての乗員体格センサ93からの体重計測値の入力を受け、この入力信号に基づいて、車両49に装備するシートベルトフォースリミッタ機構95を駆動制御し、シートベルト20の乗員11に対する締付荷重であるシートベルトフォースリミッタ荷重を制御する。すなわち、制御回路85は、シートベルトフォースリミッタのフォースリミッタ荷重を制御するフォースリミッタ制御手段を含んでいる。
この際、制御回路85は、リクライニング角度センサ89の検出信号に基づくシートバック5の傾斜角度に応じて、上記したシートベルトフォースリミッタ機構95のフォースリミッタ荷重を制御する。
また、上記した制御回路85は、障害物センサ53の検出信号入力を受けた状態で、シートベルト巻取機構97を駆動制御してシートベルト20を巻き取り、乗員11をシート1に拘束する。
次に、図8に示す制御回路85の制御動作を示すフローチャートに基づき乗員保護装置の作用を説明する。まず、障害物センサ53が車両前方の障害物を検出すると、この検出信号を取り込み(ステップ101)、取り込んだ検出信号によって車両49が前面衝突するかどうかを判断する(ステップ102)。
ここで、車両49が前面衝突すると判断した場合、つまり車両49の前面衝突を事前に検知した場合には、シートベルト巻取機構97を駆動制御してシートベルトを巻き取り(ステップ103)、乗員11をシート1に拘束する。
これと同時に、シートスライド機構59によるシート1の前後スライド位置をシートスライド位置センサ87により、またリクライニング機構83によるシートバック5の傾斜角度をエンコーダなどによりそれぞれ検出するとともに、乗員体格センサ93が乗員11の体重を計測し、これらの検出値を取り込んだ後(ステップ105)、解析・信号処理する(ステップ106)。
ここで、本実施形態では、車両49の衝突を事前に検知したときに、図1(a)に示す乗員11とステアリングホイール22との間隔S1について、図1(b)に示すように上記の間隔S1よりも広い間隔S2となるようにするとともに、シートバック5の傾斜角度については、鉛直線に対して後方に角度α(例えば41°)傾斜した状態となるようにしている。
このような点を踏まえて、車両49の前面衝突を事前に検知したときのシート1に対する揺動位置(シート1全体の傾斜角度)の制御を、以下のようにして実施する。
すなわち、前記したようにシート1の前後スライド位置、シートバック5の傾斜角度及び、乗員11の体重の各検出値を取り込み、解析・信号処理した後は、シートバック5の傾斜角度(リクライナ角度)を補正する必要があるかどうかを判断する(ステップ107)。
シートバック5の傾斜角度を補正するかどうかの判断は、傾斜角度が図1(b)における角度αに対して所定角度以上異なっているかどうかで判断する。ここで、傾斜角度が角度αに対して所定角度以上異なっている場合には、シート1の全体を揺動させて角度αとするには、シート後傾用のモータ55,57からリンク機構25,27などを介してシート1の全体を傾斜させる際の応答性が充分ではないので、リクライニングモータ(リクライナモータ)91を駆動してシートバック5を角度αに対してある程度近い角度となるよう補正する(ステップ110)。
例えばシートバック5が直立に近い状態のときには、この状態から角度αとするには衝突までの時間内に収まらない恐れがあるので、角度αにより近い状態となるようシートバック5を後方に所定角度傾斜させるよう補正する。
すなわち、シートバック5の傾斜角度があらかじめ設定してある規定の傾斜角度から外れている(角度αに対して所定角度以上異なる角度)ときに、前記規定角度内となるように、リクライニング機構83に設けた駆動部であるリクライニングモータ91を駆動制御する。
一方、前記ステップ107で、シートバック5の傾斜角度(リクライナ角度)を補正する必要がないと判断した場合、つまりシートバック5の傾斜角度が角度αに対して所定角度以上異なっていない場合(角度αに比較的近い状態)では、シートバック5の傾斜角度に対する補正は実施せずそのままとする。
その後、シート後傾用のモータ55,57を作動制御し、シート1の全体を例えば図1(a)の状態から図1(b)の状態となるように揺動変位させて後傾させる(ステップ108)。すなわち、図3に示すモータ55,57の作動により、連結機構75を介して連結ロッド65,67が回転し、連結ロッド65,67から、図7に示すハイポサイクロイド機構77及びリンク機構25,27を介して可動台13がシート1とともにシーソヒンジ17を中心として回転する。
なお、モータ55,57を作動制御する際には、シートバック5の傾斜角度及びシート1の前後スライド位置に応じて回転量を調整し、乗員11とステアリングホイール22との間隔が図1(b)に示すS2となるようにするとともに、シートバック5の傾斜角度がαとなるようにする。
このように、本実施形態によれば、車両の前面衝突を事前に検知したときに、シート1を図1(b)のように後方に回転させて後傾させるので、乗員11とステアリングホイール22との間隔S2が後傾前の図1(a)の状態の間隔S1に比較して大きくなる。
この結果、その後の車両衝突時でのシートベルト20の繰り出し量を多くすることができ、また繰り出し速度もより緩やかにすることができ、衝突エネルギの吸収量を増大させることができる。
この際、本実施形態では、モータ55,57の駆動によりシート1を後方に揺動させて後傾させる動力伝達駆動機構としてハイポサイクロイド機構77を使用しているので、衝突荷重の入力方向が、ハイポサイクロイド機構77を駆動するモータ55,57の回転方向と一致せず、図7に示すアウタギア79がインナギア81を単に連結ロッド67に対して直交する方向(図7中で紙面に平行な方向)に押し付けるだけとなるので、シート1が後傾状態で衝突荷重を受けても、その荷重入力によってモータ軸に連結される回転支持ピン35,45(連結ロッド65,67)が直接的に回転動力を受けることがない。
つまり、ハイポサイクロイド機構77自体が、シート1の所定の揺動位置である図1(b)の後傾状態を保持する保持機構を構成することになり、したがって、保持機構としては別途専用のものを設けることなく、シート1の後傾状態を維持して乗員11の保護性能を高めることができる。
なお、シート1の前後スライド位置が後方端もしくは後方端に近い状態で、かつシートバック5が直立に近い状態のときには、シートバック5の傾斜角度はそのままで、シート1の全体もそのままとして後傾させず、何も作動させないものとする。すなわち、この状態では乗員11とステアリングホイール22との間隔が充分確保されているので、シート1の後傾制御が不要である。
また、シート1の前後スライド位置が後方端もしくは後方端に近い状態であっても、シートバック5の傾斜角度が大きく、例えば角度αより大きく傾斜している場合(より水平に近い状態)には、リクライニング機構83によりシートバック5を角度α程度まで起こして乗員11に対するシートベルト20による拘束状態を確保する。
前記ステップ108でのシート1の後傾動作の際には、シートバック5の傾斜角度に応じてシートベルトフォースリミッタ機構95によるシートベルト20の締付荷重を調整制御する(ステップ109)。
この締付荷重の調整制御は、シートバック5の傾斜角度が前述した角度αよりも直立に近い状態では、前面衝突時でのシートベルト20による乗員11に対する拘束力が充分なため、徐々にもしくは段階的に弱くしていき、衝突後のシートベルト20の繰り出し動作をスムーズにさせる。一方、シートバック5の傾斜角度が角度αより水平に近い状態では、前面衝突時でのシートベルト20による乗員11に対する拘束力が不充分となるので、徐々にもしくは段階的に強くしていく。
また、前記したステップ109でのフォースリミッタ荷重の調整制御の際には、乗員11の体格も考慮する。すなわち、乗員体格センサ93で検知した乗員11の体格が大きくあらかじめ設定した体重より重いときには、フォースリミッタ荷重を強くして体重の重い乗員11に対する拘束力を確保する。一方、乗員11の体格が小さくあらかじめ設定した体重以下のときには、前面衝突時での乗員11の前方へ移動する際の慣性力が、体重の重い乗員11に比較して小さいので弱くする。これによって、衝突時のシートベルト20の引き出し量を適切なものとすることができ、乗員への衝撃を抑制することができる。
また、本実施形態においては、揺動機構は、シート1が取り付けられ、シーソヒンジ17に対して車両前後方向に延びかつ揺動可能な可動台13と、この可動台13のシーソヒンジ17から車体前後方向に離れた端部と車体フロア9とを連結する前部,後部リンク機構25,27とをそれぞれ備えているので、シート1を後傾させるべく回転させる際の機構として簡素化することができる。
さらに、前部,後部リンク機構25,27は、車体フロア9側に第1リンク29,39の一端を回転可能に連結するとともに、可動台13側に第2のリンク33,43の一端を回転可能に連結し、第1リンク29,39と第2リンク33,43のそれぞれの他端同士を回転可能に連結する構成とし、第2リンク33,43の他端と可動台13との間にハイポサイクロイド機構77を設けたので、装置全体の大型化を抑えることができる。
また、シート1が後方に揺動して後傾したときに、図1(b)で示すように、第2リンク33,43と第1リンク19,39とがなす角度θをほぼ直角状態とすることで、図1(a)のように鋭角的となっている場合に比較して、可動台13に作用する前面衝突時の荷重Fを、第2リンク33,43から第1リンク29,39を介して車体フロア9側に直接的かつ効率的に逃がすことができ、荷重の偏りに起因するハイポサイクロイド機構77や連結機構75における各ギア部の変形などを抑制することができる。
そして、上記したように前面衝突時に荷重Fを車体フロア9側へ効率的に逃がすことで、シート1の後傾状態からの戻り現象を抑えることができ、乗員保護性能がさらに向上する。
また、本実施形態によれば、可動台13をシーソヒンジ17に対して車両前後方向両側に向けて延長し、この延長した両端部に前部,後部リンク機構25,27をそれぞれ設け、これら各リンク機構25,27に対応して駆動源であるモータ55,57をそれぞれ設けたので、一方のみに駆動源を設ける場合に比較して、モータ55,57のトルクを低減させることができ、動力伝達駆動機構としての剛性もその分低く抑えることができる。
また、乗員11がシート1に着座したときに、乗員11の自重(体重)によりシート1を後傾させる方向に荷重が付与されるように、シーソヒンジ17のシート1に対する車両前後方向位置を設定することで、乗員の11の重心位置がシーソヒンジ17よりも車両後方に位置することになり、シート1を後方に回転させる際のモータ55,57のトルクをさらに抑えることが可能となる。
また、シート1は、可動台13とともに車両前後方向にスライド移動するシートスライド機構59を備えるとともに、シートバック5が車両前後方向の傾斜角度が可変となるリクライニング機構83を備え、シートスライド機構59によるシート1の前後スライド位置及びリクライニング機構83によるシートバック5の傾斜角度に応じて、シート1の揺動位置を制御するようにしたので、シート1を後傾させたときの乗員11の姿勢をより安定したものとすることができ、乗員11の保護性能を高めることができる。
さらに、シート1は、シートバック5がシートクッション3に対して車両前後方向の傾斜角度を可変とするリクライニング機構83を備え、このリクライニング機構83によるシートバック5の傾斜角度が規定の傾斜角度から外れているときに、前記規定角度となるように、リクライニング機構83に設けた駆動部であるリクライニングモータ91を制御してシートバック5の傾斜角度を規定角度の範囲内とするように補正するので、その後の後傾用のモータ55,57の駆動によるシート1の角度αへの変化を速やかに実施することができる。
また、本実施形態では、シート1は、シートバック5がシートクッション3に対して車両前後方向の傾斜角度を可変とするリクライニング機構83を備えるとともに、車両49に装備するシートベルトフォースリミッタ機構95を制御するフォースリミッタ制御手段を含む制御回路85を設け、シートバック5の傾斜角度に応じて、制御回路85によりフォースリミッタ荷重を制御するようにしたので、前面衝突時でのシートベルト20による乗員11に対する拘束力をシートバック5の傾斜角度に拘わらず所望に確保することができる。
さらに、シート1に着座する乗員11の体格を検出する乗員体格センサ93と、車両49に装備するシートベルトフォースリミッタ機構95を制御するフォースリミッタ制御手段を含む制御回路85とをそれぞれ設け、乗員体格センサ93が検出した乗員11の体格に応じて、制御回路85によりフォースリミッタ荷重を制御するようにしたので、乗員11の体格に応じた保護性能を確保することができる。
図10は、本発明の第2の実施形態を示す、前記図3に対応する斜視図である。この実施形態は、車両後方の連結ロッド67を回転させる駆動源として、モータ57のほかに車幅方向右側の機構部分にもモータ57Aを設け、2つのモータ57,57Aによって連結ロッド67を回転駆動させるようにしている。なお、車両前方の連結ロッド65を回転させる駆動源は設けていない。その他の構成は、前記した第1の実施形態と同様である。
この第2の実施形態においても、モータ57,57Aの駆動によりシート1を後方に揺動させて後傾させる動力伝達駆動機構としてハイポサイクロイド機構77を使用しているので、衝突荷重の入力方向が、ハイポサイクロイド機構77を駆動するモータ57,57Aの回転方向と一致せず、シート1が後傾状態で衝突荷重を受けても、その荷重入力によってモータ軸に連結される回転支持ピン45が直接的に回転動力を受けることがない。
このため、ハイポサイクロイド機構77自体が、シート1の所定の揺動位置である図1(b)の後傾状態を保持する保持機構を構成することになり、したがって、保持機構としては別途専用のものを設けることなく、シート1の後傾状態を維持して乗員11の保護性能を高めることができる。
このように上記した第2の実施形態においては、ハイポサイクロイド機構77は、障害物センサ53により前面衝突を事前に検知したときに、可動台13を備える揺動機構の作動によりシート1を車両後方に向けて揺動させて後傾させ、前部リンク25機構及び後部リンク機構27のうち後部リンク機構27に対応して駆動源であるモータ57Aを設け、前部リンク機構25側には駆動源を設けない構造とすることで、シーソヒンジ17よりも車体後方側の重量がより同前方側より重くなり、シート1を後方に回転させる際のモータ57,57Aのトルクを低減させることが可能となる。
本発明の第1の実施形態を示す乗員保護装置を備えた車両用シートの簡略化した側面図であり、(a)は車両の前面衝突を検知する前の状態を示し、(b)は車両の前面衝突を事前に検知した後にシートを後傾させた状態を示す。 図1の乗員保護装置を備えた車両の斜視図である。 図1の乗員保護装置の具体的な構造を示す斜視図である。 図1(a)に対応するより具体的な構造の車両用シートの側面図である。 図1(b)に対応するより具体的な構造の車両用シートの側面図である。 図3における車両後方側のモータ周辺を後方下方から見上げるようにして見た斜視図である。 図1の乗員保護装置に使用するハイポサイクロイド機構の断面図である。 図1の乗員保護装置の制御ブロック図である。 図1の乗員保護装置における制御回路の制御動作を示すフローチャートである。 本発明の第2の実施形態を示す、図3に対応する斜視図である。
符号の説明
1 シート(座席)
5 シートバック
9 車体フロア
13 可動台(揺動部,揺動機構)
17 シーソヒンジ(支持部)
25 前部リンク機構(リンク機構,揺動機構)
27 後部リンク機構(リンク機構,揺動機構)
29,39 第1リンク
33,43 第2リンク
49 車両
53 障害物センサ(衝突検知手段)
55,57,57A モータ(駆動源)
59 シートスライド機構
77 ハイポサイクロイド機構(動力伝達駆動機構)
83 リクライニング機構
85 制御回路(リクライナ制御手段,フォースリミッタ制御手段,制御手段)
93 体重計測器(乗員体格検出手段)

Claims (11)

  1. 車両の座席の全体を、車体フロアに対し支持部を中心として車体前後方向に揺動させる揺動機構と、前記車両の前面衝突を事前に検知する衝突検知手段と、この衝突検知手段により前面衝突を事前に検知したときに、前記揺動機構を作動させて座席の全体を所定位置に揺動させて後傾させる動力伝達駆動機構とを備えた乗員保護装置において、前記動力伝達駆動機構は、前記揺動機構に設けたハイポサイクロイド機構と、このハイポサイクロイド機構を駆動する駆動源と、この駆動源を駆動制御する制御回路と、を備え、前記ハイポサイクロイド機構は、前記座席の全体が後傾した状態で、アウタギアがインナギアをその中心軸に対して直交する方向に押し付ける衝突荷重を受けて前記座席の後傾状態を保持する保持機構を構成することを特徴とする乗員保護装置。
  2. 前記揺動機構は、前記座席が取り付けられ、前記支持部に対して車両前後方向に延びかつ揺動可能な揺動部と、この揺動部の前記支持部から車体前後方向に離れた端部と前記車体フロアとを連結するリンク機構とをそれぞれ備えていることを特徴とする請求項1に記載の乗員保護装置。
  3. 前記リンク機構は、前記車体フロア側に第1リンクの一端を回転可能に連結するとともに、前記揺動部側に第2リンクの一端を回転可能に連結し、前記第1リンクと第2リンクのそれぞれの他端同士を回転可能に連結する構成とし、前記第2リンクの他端と前記揺動部との間に前記ハイポサイクロイド機構を設けたことを特徴とする請求項2に記載の乗員保護装置。
  4. 前記座席を所定位置に揺動させたときに、前記第1リンクと第2リンクとがほぼ直角状態となることを特徴とする請求項3に記載の乗員保護装置。
  5. 前記揺動部の前記支持部から車体前後方向に離れた端部と前記車体フロアとを連結する各リンク機構に、前記揺動部を揺動させる駆動源をそれぞれ設けたことを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1項に記載の乗員保護装置。
  6. 前記動力伝達駆動機構は、前記衝突検知手段により前面衝突を事前に検知したときに、前記揺動機構の作動により座席を車両後方に向けて揺動させて後傾させ、前記揺動部の前記支持部から車体前後方向に離れた端部と前記車体フロアとを連結する各リンク機構のうち、車両後方向側のリンク機構に前記揺動部を揺動させる駆動源を設けたことを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1項に記載の乗員保護装置。
  7. 乗員が座席に着座したときに、乗員の自重により座席を後傾させる方向に荷重が付与されるように、前記支持部の前記座席に対する車両前後方向位置を設定したことを特徴とする請求項6に記載の乗員保護装置。
  8. 前記座席は、前記揺動部とともに車両前後方向にスライド移動するシートスライド機構を備えるとともに、シートバックが車両前後方向の傾斜角度を可変とするリクライニング機構を備え、前記シートスライド機構による座席のシートスライド位置及び前記リクライニング機構によるシートバックの傾斜角度に応じて、前記座席の揺動位置を制御する制御手段を設けたことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の乗員保護装置。
  9. 前記座席は、シートバックがシートクッションに対して車両前後方向の傾斜角度を可変とするリクライニング機構を備え、このリクライニング機構によるシートバックの傾斜角度が規定の傾斜角度から外れているときに、前記規定角度となるように、前記リクライニング機構に設けた駆動部を制御するリクライナ制御手段を設けたことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の乗員保護装置。
  10. 前記座席は、シートバックがシートクッションに対して車両前後方向の傾斜角度を可変とするリクライニング機構を備えるとともに、前記車両に装備するシートベルトフォースリミッタを制御するフォースリミッタ制御手段を設け、前記シートバックの傾斜角度に応じて、前記フォースリミッタ制御手段によるシートベルトフォースリミッタのフォースリミッタ荷重を制御することを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の乗員保護装置。
  11. 前記座席に着座する乗員の体格を検出する乗員体格検出手段と、前記車両に装備するシートベルトフォースリミッタを制御するフォースリミッタ制御手段とをそれぞれ設け、前記乗員体格検出手段が検出した乗員の体格に応じて、前記フォースリミッタ制御手段によるシートベルトフォースリミッタのフォースリミッタ荷重を制御することを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載の乗員保護装置。
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