以下、本発明を実施するための最良の形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体噴射装置として、インクジェット式記録装置(以下、プリンタ)を例に挙げて説明する。
図1は、プリンタの電気的な構成を説明するブロック図である。例示したプリンタは、プリンタコントローラ1とプリントエンジン2とから構成されている。プリンタコントローラ1は、図示しないホストコンピュータ等の外部装置との間でデータの送受信を行う外部インタフェース(外部I/F)3と、各種データの記憶等を行うRAM4と、各種データ処理のための制御プログラム等を記憶したROM5と、CPU等からなる制御部6と、クロック信号を発生する発振回路7と、記録ヘッド8へ供給する駆動信号(COM1,COM2)を発生する駆動信号発生回路9と、記録データ及び駆動信号等をプリントエンジン2に送信するための内部インタフェース10(内部I/F10)とを備えている。
外部I/F3は、例えばイメージデータ等の印刷データをホストコンピュータ等から受信する。また、外部I/F3からは、外部装置に対してビジー信号やアクノレッジ信号等の状態信号が出力される。RAM4は、受信バッファ、中間バッファ、出力バッファ及びワークメモリ等として利用されるものである。また、ROM5は、制御部6によって実行される各種制御プログラム、フォントデータ及びグラフィック関数、各種手続き等を記憶している。
駆動信号発生回路9は、第1駆動信号COM1を発生可能な第1駆動信号発生部9Aと、第2駆動信号COM2を発生可能な第2駆動信号発生部9Bとを備えている。そして、図2に示すように、第1駆動信号COM1は、第1ミドルドット吐出パルスDPM1(本発明における第3吐出パルスに相当)、及び、第2ミドルドット吐出パルスDPM2(本発明における第1吐出パルスに相当)を記録周期(吐出周期)T内に有する一連の信号であり、記録周期T毎に繰り返し発生される。本実施形態において、第1駆動信号COM1の一記録周期Tは、2つの期間(パルス発生期間)T11,T12に区分されている。そして、第1駆動信号COM1では、期間T11で第1ミドルドット吐出パルスDPM1が発生し、期間T12で第2ミドルドット吐出パルスDPM2が発生する。
一方、第2駆動信号COM2は、スモール吐出パルスDPS(本発明における第4吐出パルスに相当)、及び、ラージドット吐出パルスDPL(本発明における第2吐出パルスに相当)を記録周期T内に有する一連の信号である。この第2駆動信号COM2の一記録周期Tは、T21,T22の2つのパルス発生期間に区分されており、期間T21でスモール吐出パルスDPSが発生し、期間T22でラージドット吐出パルスDPLが発生する。なお、これらの駆動信号COM1,COM2については、後で詳しく説明する。
制御部6は、ROM5に記憶されている制御プログラム等に従ってプリンタの各部を制御したり、外部装置からの印刷データを記録ヘッド8に送信するための記録データに展開したりする。そして、記録データへの展開時において、制御部6は、まずRAM4内に格納された印刷データを読み出して中間コードに変換し、この中間コードデータをRAM4に設けられた中間バッファに記憶する。次に、制御部6は、中間バッファから読み出した中間コードデータを解析し、ROM5内のフォントデータ及びグラフィック関数等を参照して中間コードデータをドット毎の記録データ(ドットパターンデータ)に展開する。また、制御部6は、内部I/F10を通じて記録ヘッド8に対してラッチ信号やチャンネル信号等を供給する。これらのラッチ信号やチャンネル信号に含まれるラッチパルスやチャンネルパルスは、駆動信号COM1,COM2を構成する各パルスの供給タイミングを規定する。
次に、プリントエンジン2について説明する。このプリントエンジン2は、図1に示すように、記録ヘッド8、キャリッジ機構11、紙送り機構12、及び、リニアエンコーダ13等を備えている。キャリッジ機構11は、液体噴射ヘッドの一種である記録ヘッド8が取り付けられたキャリッジと、このキャリッジをタイミングベルト等を介して走行させる駆動モータ(例えば、DCモータ)等からなり(何れも図示せず)、キャリッジに搭載された記録ヘッド8を主走査方向に移動させる。紙送り機構12は、紙送りモータ及び紙送りローラ等からなり、記録紙(吐出対象物の一種)をプラテン上に順次送り出して副走査を行う。また、リニアエンコーダ13は、キャリッジに搭載された記録ヘッド8の走査位置に応じたエンコーダパルスを、主走査方向における位置情報として内部I/F10を通じて制御部6に出力する。制御部6は、リニアエンコーダ13側から受信したエンコーダパルスに基づいて記録ヘッド8の走査位置(現在位置)を把握することができる。
図3は上記の記録ヘッド8の要部断面図である。本実施形態における記録ヘッド8は、圧電振動子群12、固定板13、及び、フレキシブルケーブル14等をユニット化した振動子ユニット15と、この振動子ユニット15を収納可能なヘッドケース16と、共通インク室(共通液体室)から圧力室を通りノズル開口に至る一連のインク流路(液体流路)を形成する流路ユニット17とを備えて構成される。
まず、振動子ユニット15について説明する。圧電振動子群12を構成する圧電振動子20(本発明における圧力発生手段の一種)は、縦方向に細長い櫛歯状に形成されており、数十μm程度の極めて細い幅に切り分けられている。そして、この圧電振動子20は縦方向に伸縮可能な縦振動型の圧電振動子として構成されている。各圧電振動子20は、固定端部を固定板13上に接合することにより、自由端部を固定板13の先端縁よりも外側に突出させて所謂片持ち梁の状態で固定されている。そして、各圧電振動子20における自由端部の先端は、後述するように、それぞれ流路ユニット17におけるダイヤフラム部32を構成する島部34に接合される。フレキシブルケーブル14は、固定板13とは反対側となる固定端部の側面で圧電振動子20と電気的に接続されている。また、各圧電振動子20を支持する固定板13は、圧電振動子20からの反力を受け止め得る剛性を備えた金属製の板材によって構成される。本実施形態では、厚さが1mm程度のステンレス鋼板によって作製されている。
次に、流路ユニット17について説明する。流路ユニット17は、ノズルプレート22、流路形成基板23、及び振動板24から構成され、ノズルプレート22を流路形成基板23の一方の表面に、振動板24をノズルプレート22とは反対側となる流路形成基板23の他方の表面にそれぞれ配置して積層し、接着等により一体化することで構成されている。
ノズルプレート22は、ドット形成密度に対応したピッチで複数のノズル開口25を列状に開設したステンレス鋼製の薄いプレートである。本実施形態では、例えば、180個のノズル開口25を列状に開設し、これらのノズル開口25によってノズル列を構成している。そして、このノズル列を横並びに2列設けている。
流路形成基板23は、リザーバ26、インク供給口27、及び圧力室28からなる一連のインク流路(液体流路の一種)を形成する板状部材である。具体的には、この流路形成基板23は、各ノズル開口25に対応させて圧力室28となる空部を隔壁で区画した状態で複数形成すると共に、インク供給口27およびリザーバ26となる空部を形成した板状の部材である。そして、本実施形態の流路形成基板23は、シリコンウェハーをエッチング処理することで作製されている。上記の圧力室28は、ノズル開口25の列設方向(ノズル列方向)に対して直交する方向に細長い室として形成され、インク供給口27は、圧力室28とリザーバ26との間を連通する流路幅の狭い狭窄部として形成されている。また、リザーバ26は、インクカートリッジ(図示せず)に貯留されたインクを各圧力室28に供給するための室であり、インク供給口27を通じて対応する各圧力室28に連通している。
振動板24は、ステンレス鋼等の金属製の支持板30上にPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の樹脂フィルム31をラミネート加工した二重構造の複合板材であり、圧力室28の一方の開口面を封止してこの圧力室28の容積を変動させるためのダイヤフラム部32を有すると共に、リザーバ26の一方の開口面を封止するコンプライアンス部33が形成された部材である。そして、ダイヤフラム部32は、圧力室28に対応した部分の支持板30にエッチング加工を施し、当該部分を環状に除去して圧電振動子20の自由端部の先端を接合するための島部34を形成することで構成されている。この島部34は、圧力室28の平面形状と同様に、ノズル開口25の列設方向と直交する方向に細長いブロック状であり、この島部34の周りの樹脂フィルム31が弾性体膜として機能する。また、コンプライアンス部33として機能する部分、すなわちリザーバ26に対応する部分は、このリザーバ26の開口形状に倣って支持板30がエッチング加工で除去されて樹脂フィルム31のみとなっている。
次に、この記録ヘッド8の電気的構成について説明する。この記録ヘッド8は、図1に示すように、第1シフトレジスタ41及び第2シフトレジスタ42からなるシフトレジスタ回路と、第1ラッチ回路43及び第2ラッチ回路44からなるラッチ回路と、デコーダ45と、制御ロジック46と、第1レベルシフタ47及び第2レベルシフタ48からなるレベルシフタ回路と、第1スイッチ49及び第2スイッチ50からなるスイッチ回路と、圧電振動子20とを備えている。そして、各シフトレジスタ41,42、各ラッチ回路43,44、各レベルシフタ47,48、各スイッチ49,50、及び、圧電振動子20は、それぞれノズル開口25毎に対応した数だけ設けられる。
この記録ヘッド8は、プリンタコントローラ1からの記録データに基づいてインク滴を吐出させる。本実施形態では、2ビットで構成された記録データの上位ビット群、記録データの下位ビット群の順に記録ヘッド8へ送られてくるので、まず、記録データの上位ビット群が第2シフトレジスタ42にセットされる。全てのノズル開口25について記録データの上位ビット群が第2シフトレジスタ42にセットされると、これらの上位ビット群が第1シフトレジスタ41にシフトする。これと同時に、記録データの下位ビット群が第2シフトレジスタ42にセットされる。
第1シフトレジスタ41の後段には、第1ラッチ回路43が電気的に接続され、第2シフトレジスタ42の後段には、第2ラッチ回路44が電気的に接続されている。そして、プリンタコントローラ1側からのラッチパルスが各ラッチ回路43,44に入力されると、第1ラッチ回路43は記録データの上位ビット群をラッチし、第2ラッチ回路44は記録データの下位ビット群をラッチする。各ラッチ回路43,44でラッチされた記録データ(上位ビット群,下位ビット群)はそれぞれ、デコーダ45へ出力される。このデコーダ45は、記録データの上位ビット群及び下位ビット群に基づいて、駆動信号COM1,COM2を構成する各パルスを選択するためのパルス選択データを生成する。
本実施形態においてパルス選択データは、各駆動信号COM1,COM2毎に生成される。即ち、第1駆動信号COM1に対応する第1パルス選択データは、第1ミドルドット吐出パルスDPM1(期間T11)、第2ミドルドット吐出パルスDPM2(期間T12)に対応する合計2ビットのデータによって構成されている。また、第2駆動信号COM2に対応する第2パルス選択データは、スモールドット吐出パルスDPS(期間T21)、ラージドット吐出パルスDPL(期間T22)に対応する合計2ビットのデータによって構成されている。
また、デコーダ45には、制御ロジック46からのタイミング信号も入力されている。この制御ロジック46は、ラッチ信号やチャンネル信号の入力に同期してタイミング信号を発生する。このタイミング信号も駆動信号COM1,COM2毎に生成される。デコーダ45によって生成された各パルス選択データは、タイミング信号によって規定されるタイミングで上位ビット側から順次各レベルシフタ47,48に入力される。これらのレベルシフタ47,48は、電圧増幅器として機能し、パルス選択データが[1]の場合には、対応するスイッチ49,50を駆動できる電圧、例えば数十ボルト程度の電圧に昇圧された電気信号を出力する。即ち、第1パルス選択データが[1]の場合には第1スイッチ49に電気信号が出力され、第2パルス選択データが[1]の場合には第2スイッチ50に電気信号が出力される。
第1スイッチ49の入力側には第1駆動信号発生部9Aからの第1駆動信号COM1が供給されており、第2スイッチ50の入力側には第2駆動信号発生部9Bからの第2駆動信号COM2が供給されている。また、各スイッチ49,50の出力側には、圧電振動子20が接続されている。即ち、第1スイッチ49は、圧電振動子20への第1駆動信号COM1の供給・非供給の切り替えを行い、第2スイッチ50は、圧電振動子20への第2駆動信号COM2の供給・非供給の切り替えを行うように構成されている。そして、このような動作をする第1スイッチ49及び第2スイッチ50は、選択供給手段として機能する。
上記のパルス選択データは、各スイッチ49,50の作動を制御する。即ち、第1スイッチ49に入力されたパルス選択データが[1]である期間中は、この第1スイッチ49が導通状態になり、第1駆動信号COM1が圧電振動子20に供給される。同様に、第2スイッチ50に入力されたパルス選択データが[1]である期間中は、第2駆動信号COM2が圧電振動子20に供給される。一方、各スイッチ49,50に入力されたパルス選択データが共に[0]の期間中は、各スイッチ49,50が切断状態となり、圧電振動子20へは駆動信号が供給されない。要するに、パルス選択データとして[1]が設定された期間のパルスが選択的に圧電振動子20に供給される。
次に、駆動信号発生回路9が発生する各駆動信号COM1,COM2に含まれる吐出パルスについて説明する。
図2に示すように、第1駆動信号COM1において期間T11で発生する第1ミドルドット吐出パルスDPM1と、期間T12で発生する第2ミドルドット吐出パルスDPM2とは、同一形状の波形であり、第1膨張要素P11(圧力室膨張要素)と、第1膨張ホールド要素P12(膨張維持要素)と、第1収縮要素P13(吐出要素)と、第1制振ホールド要素P14と、第1膨張制振要素P15とからなる。第1膨張要素P11は、中間電位VHB(基準電位)から第1膨張電位VH1までインク滴を吐出させない程度の比較的緩やかな一定勾配で電位を上昇させる波形要素であり、第1膨張ホールド要素P12は、第1膨張電位VH1で一定な波形要素である。第1収縮要素P13は、第1膨張電位VH1から第1収縮電位VL1まで急勾配で電位を下降させる波形要素であり、第1制振ホールド要素P14は、第1収縮電位VL1を所定期間維持する波形要素である。また、第1膨張制振要素P15は第1収縮電位VL1から中間電位VHBまでインク滴を吐出させない程度の一定勾配で電位を復帰させる波形要素である。
このように構成された第1ミドルドット吐出パルスDPM1又は第2ミドルドット吐出パルスDPM2が圧電振動子20に供給されると、まず、第1膨張要素P11によって圧電振動子20は素子長手方向に収縮し、圧力室28が中間電位VHBに対応する基準容積から第1膨張電位VH1に対応する膨張容積まで膨張する。この膨張により、メニスカスが圧力室28側に大きく引き込まれると共に、圧力室28内にはリザーバ26側からインク供給口27を通じてインクが供給される。そして、この圧力室28の膨張状態は、第1膨張ホールド要素P12の供給期間中に亘って維持される。その後、第1収縮要素P13が供給されて圧電振動子20が伸長する。この圧電振動子20の伸長により、圧力室28は、膨張容積から第1収縮電位VL1に対応する収縮容積まで急激に収縮される。この圧力室28の急激な収縮により圧力室28内のインクが加圧され、ノズル開口25からミドルドットに対応する量のインク滴が吐出される。圧力室28の収縮状態は、第1制振ホールド要素P14の供給期間に亘って維持され、この間に、インク滴の吐出によって減少した圧力室28内のインク圧力は、その固有振動によって再び上昇する。この上昇タイミングにあわせて第1膨張制振要素P15が供給される。この第1膨張制振要素P15の供給により、圧力室28が基準容積まで膨張復帰し、圧力室28内のインクの圧力変動が吸収される。
上記第2駆動信号COM2において期間T21で発生するスモールドット吐出パルスDPSは、第2膨張要素P21と、第2膨張ホールド要素P22と、第2収縮要素P23と、収縮ホールド要素P24と、第3膨張要素P25と、第3膨張ホールド要素P26と、第3収縮要素P27と、第2制振ホールド要素P28と、第2膨張制振要素P29とから構成されている。第2膨張要素P21は、中間電位VHBから第2膨張電位VH2まで電位を上昇させる波形要素であり、第2膨張ホールド要素P22は、第2膨張電位VH2で一定な波形要素である。また、第2収縮要素P23は第2膨張電位VH2から第1中間電位VM1まで急激に電位を下降させる波形要素、収縮ホールド要素P24は第1中間電位VM1で一定な波形要素、第3膨張要素P25は第1中間電位VM1から第2中間電位VM2まで電位を上昇せる波形要素、第3膨張ホールド要素P26は第2中間電位VM2で一定な波形要素である。そして、第3収縮要素P27は第2中間電位VM2から第2収縮電位VL2まで急勾配で電位を下降させる波形要素、第2制振ホールド要素P28は第2収縮電位VL2で一定な波形要素、第2膨張制振要素P29は第2収縮電位VL2から中間電位VHBまでインク滴を吐出させない程度の一定勾配で電位を復帰させる波形要素である。
このように構成されたスモールドット吐出パルスDPSが圧電振動子20に供給されると、まず、第2膨張要素P21によって圧電振動子20は素子長手方向に急速に収縮し、これに伴い島部34が圧力室28から離隔する方向に変位する。この島部34の変位により、圧力室28が基準容積から第2膨張電位VH2に対応する膨張容積まで急速に膨張する。この圧力室28の膨張により、圧力室28内には比較的強い負圧が発生し、メニスカスが圧力室28側に引き込まれると共に、リザーバ26側から圧力室28にインクが供給される。そして、この圧力室28の膨張状態は、第2膨張ホールド要素P22の供給期間中に亘って維持される。この間にメニスカスの中心部分の移動方向が吐出方向に反転し、この中心部分が柱状に盛り上がった状態になる(以下、この部分を柱状部分という)。
その後、第2収縮要素P23が供給されて圧電振動子20が伸長する。この圧電振動子20の伸長により、島部34が圧力室28に近接する方向に急激に変位する。この島部34の変位により、圧力室28は、膨張容積から第1中間電位VM1に対応する吐出容積まで急激に収縮される。そして、この圧力室28の急激な収縮により圧力室28内のインクが加圧されてメニスカスの柱状部分が吐出側に押し出される。続いて、収縮ホールド要素P24が供給され、吐出容積が僅かの間維持される。続いて、第3膨張要素P25により圧電振動子20が収縮することにより圧力室28の容積が再度僅かに膨張し、第3膨張ホールド要素P26を経て、第3収縮要素P27によって圧電振動子20が伸長し、圧力室28の容積が再度急激に収縮する。これらの収縮ホールド要素P24から第3収縮要素P27の供給期間中に、メニスカス中央の柱状部分が途中でちぎれ、この部分がスモールドットに対応する量のインク滴として吐出される。その後、第2制振ホールド要素P28及び第2膨張制振要素P29が供給されることにより、圧力室28が基準容積まで膨張復帰し、圧力室28内のインクの圧力変動が吸収される。
第2駆動信号COM2において期間T22で発生するラージドット吐出パルスDPLは、第4膨張要素P31(圧力室膨張要素)と、第4膨張ホールド要素P32(膨張維持要素)と、第4収縮要素P33(吐出要素)と、第3制振ホールド要素P34と、第3膨張制振要素P35とからなる。第4膨張要素P31は、中間電位VHBから第3膨張電位VH3までインク滴を吐出させない程度の比較的緩やかな一定勾配で電位を上昇させる波形要素であり、第4膨張ホールド要素P32は、第3膨張電位VH3で一定な波形要素である。第4収縮要素P33は、第3膨張電位VH3から第3収縮電位VL3まで急勾配で電位を下降させる波形要素であり、第3制振ホールド要素P34は、第3収縮電位VL3を短い期間維持する波形要素である。また、第3膨張制振要素P35は第3収縮電位VL3から中間電位VHBまで電位を復帰させる波形要素である。
このように構成されたラージドット吐出パルスDPLが圧電振動子20に供給されると、まず、第4膨張要素P31によって圧電振動子20は素子長手方向に収縮し、圧力室28が中間電位VHBに対応する基準容積から第3膨張電位VH3に対応する膨張容積まで膨張する。この膨張により、メニスカスが圧力室28側に大きく引き込まれると共に、圧力室28内にはリザーバ26側からインク供給口27を通じてインクが供給される。そして、この圧力室28の膨張状態は、第4膨張ホールド要素P32の発生期間中に亘って維持される。その後、第4収縮要素P33が供給されて圧電振動子20が伸長する。この圧電振動子20の伸長により、圧力室28は、膨張容積から第3収縮電位VL3に対応する収縮容積まで急激に収縮される。この圧力室28の急激な収縮により圧力室28内のインクが加圧され、ノズル開口25からラージドットに対応する量のインク滴が吐出される。その後、第3制振ホールド要素P34及び第3膨張制振要素P35が供給されることにより、圧力室28が基準容積まで膨張復帰し、圧力室28内のインクの圧力変動が吸収される。
ところで、本実施形態においては、第1駆動信号COM1における第1ミドルドット吐出パルスDPM1の発生タイミング(吐出パルスの始端)と、第2駆動信号COM2におけるスモールドット吐出パルスDPSの発生タイミングとが一致している一方、第1駆動信号COM1における第2ミドルドット吐出パルスDPM2の発生タイミングtm1と、第2駆動信号COM2におけるラージドット吐出パルスDPLの発生タイミングtm2とが一致していない。即ち、図2に示すように、本実施形態では、ラージドット吐出パルスDPLが第2ミドルドット吐出パルスDPM2よりもΔtだけ遅延して発生する構成となっている。
また、上記の記録ヘッド8は、軽量化や省スペース化の観点から小型化が図られている。これに伴い、隣り合う圧力室28同士を区画する隔壁の壁厚が薄くなっている。このため、図4に示すように、圧電振動子20を駆動することで圧力室28内のインクに生じる圧力振動が、隔壁を通じて隣の圧力室28に伝わり易くなっている。この圧力振動に関し、例えば、隣り合うノズル開口25から同時にインク滴を吐出する場合には、両者での圧力振動の位相が揃うので、この圧力振動の影響は考慮しなくても良い。しかしながら、本実施形態のように、隣り合うノズル開口25同士の吐出タイミングが異なる場合、この圧力振動が隣のノズルでの吐出動作に悪影響を及ぼすことがある。
例えば、ある記録周期において、隣り合うノズル開口25のうちの一方のノズル開口25(図4において左側のノズル開口25。以下、適宜ノズルAという。)に対応する圧電振動子20を第2ミドルドット吐出パルスDPM2によって駆動し、他方のノズル開口25(図4において右側のノズル開口25。以下、適宜ノズルBという。)に対応する圧電振動子20をラージドット吐出パルスDPLによって駆動する場合、ノズルBにおける吐出タイミングが、ノズルAにおける吐出タイミングよりも遅れる。この場合、ノズルAに対応する圧力室28内で生じた圧力振動が、隔壁を通じてノズルB側の圧力室28に伝わり、この圧力振動の位相によっては、ノズルB側で吐出されたインク滴の飛翔速度Vmが、本来得られるべきインク滴の飛翔速度(以下、目標飛翔速度Vaという)よりも低下することがある。そして、インク滴の飛翔速度が低下すると、飛翔中にインク滴がミスト化して記録紙等の吐出対象物に着弾できなかったり、飛翔方向が曲がることにより着弾位置がずれたりして、記録画像の画質の低下を招くことになる。
このため、本発明に係るプリンタ1では、第1駆動信号COM1における第2ミドルドット吐出パルスDPM2の発生タイミングtm1と、第2駆動信号COM2におけるラージドット吐出パルスDPLの発生タイミングtm2との時間軸上のずれ量(遅延時間)Δtを最適化することにより、隣り合うノズル開口25のうちの一方に対して第2ミドルドット吐出パルスDPM2を用い、他方に対してラージドット吐出パルスDPLを用いて、同一記録周期内で各ノズル開口25からインク滴を吐出する場合においても、両ノズル開口25から吐出されたインク滴の飛翔速度が目標飛翔速度Vaに揃うようにしている。具体的には、図5に示すように、第2ミドルドット吐出パルスDPM2の吐出要素である第1収縮要素P13の始端(又は第1膨張ホールド要素P12の終端)と、ラージドット吐出パルスDPLの吐出要素である第4収縮要素P33の終端との時間軸上のずれ量Δtsが、圧力室28内のインクの固有振動周期Tcに揃うように、第2ミドルドット吐出パルスDPM2の発生タイミングtm1に対するラージドット吐出パルスDPLの発生タイミングtm2の遅延時間Δt(即ち、第2ミドルドット吐出パルスDPM2の第1膨張要素P11の始端から、ラージドット吐出パルスDPLの第4膨張要素P31の始端までの時間)を設定している。以下、この点について説明する。
図6は、ノズルAに対して第2ミドルドット吐出パルスDPM2を用い、ノズルBに対してラージドット吐出パルスDPLを用いて同一記録周期内で各ノズルからインク滴を吐出する場合において、第2ミドルドット吐出パルスDPM2に対するラージドット吐出パルスDPLの発生タイミングの遅延時間Δt(μs)を変化させたときの、ノズルB側でのインク滴の飛翔速度Vm(m/s)の変化を示すグラフである。なお、同図において、飛翔速度Vmについては、上記の目標飛翔速度Vaとの比率(%)で示している。また、遅延時間Δtに関し、この値が0のときは、第2ミドルドット吐出パルスDPM2とラージドット吐出パルスDPLとが同時に発生する状態であり、これよりもマイナス側の値を採ると、ラージドット吐出パルスDPLの方が第2ミドルドット吐出パルスDPM2よりも先に発生する状態となる。
図6に示すように、境界点Pmを境として、これ以降(プラス側)の遅延時間Δtではインク滴の飛翔速度Vmが周期的に変動するのに対し、このPmよりさらにマイナス側の遅延時間Δtに設定した場合では、ほぼ目標飛翔速度Va(100%)の飛翔速度Vmが得られている。ここで、ラージドット吐出パルスDPLの第4膨張要素P31の始端から第4収縮要素P33の終端までの発生期間tx(図5参照)が、第2ミドルドット吐出パルスDPM2の発生期間に重なる前(マイナス側)ではノズルB側でノズルA側の吐出による影響が生じないのに対し、上記発生時間txと第2ミドルドット吐出パルスDPM2の発生期間とが重なると、ノズルB側でノズルA側の吐出による圧力振動の影響が生じる。したがって、Pmに対応する遅延時間Δtは、第2ミドルドット吐出パルスDPM2の第4膨張要素P31の始端から第4収縮要素P33の終端(厳密には、インク滴が吐出されるタイミングであるが、この点については後述する。)までの発生期間txだけマイナス側の値とほぼ一致している。なお、txは、第4膨張要素P31の発生期間をtc2、第4膨張ホールド要素P32の発生期間をth2、第4収縮要素P33の発生期間をtd2とすると、tx=tc2+th2+td2と表せる。
そして、境界点Pmよりもプラス側の遅延時間に設定した場合、第2ミドルドット吐出パルスDPM2によってノズルA側の圧電振動子20を駆動したときに圧力室28内に圧力振動が励起されるため、この圧力振動の振幅に応じてインク滴の飛翔速度Vmが目標飛翔速度Vaに対して増減する。即ち、圧力振動が吐出方向とは反対方向に変位しているタイミングでノズルB側でインク滴を吐出すると、このインク滴の飛翔速度は低下し、逆に、圧力振動が吐出方向に変位しているタイミングでノズルB側でインク滴を吐出するとインク滴の飛翔速度は高まる。この飛翔速度Vmの変動曲線は、圧力室28内のインクに生じる圧力振動の波形とほぼ一致している。
図6に示す飛翔速度Vmの変動曲線を、圧力室28内のインクに生じる圧力振動に置き換えて説明すると、時点Pmから時点Poまでの間(即ち、第1膨張要素P11の発生期間tc1と第1膨張ホールド要素P12の発生期間th1)では、第1膨張要素P11によって圧力室28が膨張されることにより圧力室28内のインクに固有振動周期Tcの振動が励起される。また、時点Po以降では、第1収縮要素P13によって圧力室内のインクが吐出方向に加圧されることで発生した固有振動周期Tcの振動が、時点Poまでの振動に重畳して現れる。
ここで、上記圧力振動の位相は、第2ミドルドット吐出パルスDPM2の第1膨張要素P11の発生期間tc1及び第1膨張ホールド要素P12の発生期間th1に依存することが判っている。図7〜9は、第2ミドルドット吐出パルスDPM2の波形要素の発生期間を変化させたときの飛翔速度Vmの変化を示す図(圧力室内のインクに生じる圧力振動の波形図とも言える)であり、図7は第1膨張要素P11の発生期間tc1を変化させた場合、図8は第1膨張ホールド要素P12の発生期間th1を変化させた場合、図9は第1収縮要素P13の発生期間td1を変化させた場合、をそれぞれ示している。また、各図において(a)、(b)、(c)の順に段階的に各要素の発生期間を長くしている。
各図における特定の極大値epに注目すると、第1膨張要素P11の発生期間tc1と第1膨張ホールド要素P12の発生期間th1を変化させたときには、この極大値epの発生位置が変動することが判る(図7,8)。具体的には、tc1,th1の値を大きくするほど、極大値epの発生が遅くなる。即ち、tc1,th1の値が大きいほど変動曲線の位相が遅れる。これに対し、第1収縮要素P13の発生期間td1を変えた場合には、変動曲線の振幅が変化するのに対し、位相は殆ど変わらない(図9)。
以上の点に着目し、目標飛翔速度Vaが得られるような遅延時間Δtを検討したところ、図6に示すように、境界点Pmから、第2ミドルドット吐出パルスDPM2の第1膨張要素P11の発生期間tc1、第1膨張ホールド要素P12の発生期間th1、及び固有振動周期Tc後の時点Ppにおいて、ほぼ目標飛翔速度Va(100%)の飛翔速度Vmが得られることが判った。即ち、この時点Ppでは、圧力振動の振幅が0となっている。したがって、本発明に係るプリンタ1では、上記の遅延時間Δtを、以下の式(a)によって定めている。
Δt=tc1+th1+Tc−(tc2+th2+td2)…(a)
上記式(a)を換言すると、第2ミドルドット吐出パルスDPM2の第1収縮要素P13の始端と、ラージドット吐出パルスDPLの吐出要素である第4収縮要素P33の終端との時間軸上のずれ量Δts(図5)が、固有振動周期Tcに揃うような遅延時間Δt、となる。
このようにして第1吐出パルスとしての第2ミドルドット吐出パルスDPM2の発生タイミングに対する第2吐出パルスとしてのラージドット吐出パルスDPLの発生タイミングの遅延時間Δtを設定することにより、隣り合うノズル開口25の一方(ノズルA)に対して第2ミドルドット吐出パルスDPM2を用い、他方(ノズルB)に対してラージドット吐出パルスDPLを用いて同一記録周期内で各ノズルからインク滴を吐出する場合においても、一方のノズルAでの吐出によって生じた圧力振動の振幅がほぼ0となるタイミングで他方のノズルBでの吐出が行われる。これにより、圧力振動の影響を抑制することができる。その結果、ノズルB側のインク滴の飛翔速度を、単独(隣り合うノズルで吐出を行わない状態)でインク滴を吐出した場合のインク滴の飛翔速度、即ち、目標飛翔速度Vaに揃えることができる。その結果、インク滴のミスト化や飛翔曲がりを抑えてインク滴を吐出対象物である記録紙上に精度良く着弾させることができる。
また、液量が少ないインク滴ほど、隣のノズル開口25での吐出による圧力振動の影響を受けて飛翔曲がり等が生じ易いため、本実施形態のように、第2吐出パルスに対応するラージドット吐出パルスDPLが、第1吐出パルスに対応する第2ミドルドット吐出パルスDPM2よりも吐出されるインク滴の液量が多い構成、即ち、相対的に液量の少ない第2ミドルドット吐出パルスDPM2が、液量の多いラージドット吐出パルスDPLよりも先に発生する構成とすることで、液量が少ないインク滴を吐出する際に、隣のノズル開口25の吐出による圧力振動の影響を防止することができる。
ところで、インク滴がノズル開口25から吐出されるタイミングに関し、必ずしも吐出要素(ラージドット吐出パルスDPLの場合、第4収縮要素P33)の終端に一致せず、実際には、吐出要素の発生期間の途中になると考えられる。この点に鑑み、上記遅延時間Δtを、以下の式(b)、(c)を用いて定めることがより望ましい。
Δt=tc1+th1+Tc−(tc2+th2+td2−α)…(b)
0≦α≦td2…(c)
即ち、この変形例では、αによって、第4収縮要素P33の発生時間td2分だけ遅延時間Δtに幅を持たせている。このαを最適化することにより、インク滴の吐出タイミングを、圧力振動の振幅がほぼ0となるタイミングに可及的に合わせることができ、当該圧力振動の影響をより確実に低減することが可能となる。
ところで、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。
各駆動信号COM1,COM2の波形構成に関し、上記実施形態で例示したものには限られず、本発明は、種々の構成の駆動信号に対して適用することができる。例えば、第1駆動信号COM1が、第1吐出パルス(例えば、スモールドット吐出パルス)とこの第1吐出パルスよりも吐出されるインク滴の液量が多い第3吐出パルス(例えば、ミドルドット吐出パルス)とを含んで構成され、第2駆動信号COM2が、第2吐出パルス(例えば、ラージドット吐出パルス)とこの第2吐出パルスよりも吐出される液滴の液量が少ない第4吐出パルス(例えば、スモールドット吐出パルス)とを含んで構成される場合には、第1駆動信号COM1では第1吐出パルスが第3吐出パルスよりも後で発生し、第2駆動信号COM2では第2吐出パルスが第4吐出パルスよりも後で発生するような構成とし、且つ、第1駆動信号COM1の第3吐出パルスと第2駆動信号COM2の第4吐出パルスとが同じタイミングで発生するように構成すると効率的である。
即ち、この構成では、隣り合うノズル開口25の一方に対して第3吐出パルスを用い、他方に対して第4吐出パルスを用いて同一記録周期内で各ノズル開口25からインク滴を吐出する場合においては両ノズルにおける吐出タイミングがほぼ揃い、また、隣り合うノズル開口25の一方に対して第1吐出パルスを用い、他方に対して第2吐出パルスを用いて同一記録周期内で各ノズル開口25からインク滴を吐出する場合においては、上述のように他方のノズルにおけるインク滴の吐出タイミングを、一方のノズル側からの圧力振動の振幅がほぼ0となるタイミングに合わせることができるので、第1吐出パルスや第4吐出パルスを用いて比較的液量が少ないインク滴を吐出する際に、隣のノズルからの圧力振動の影響を防止することができ、好適である。
また、1つの駆動信号に3つ以上の吐出パルスが含まれる構成においても、本発明を適用することができる。
なお、本発明は、複数の駆動信号を用いて吐出制御が可能な液体噴射装置であれば、プリンタに限らず、プロッタ、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置や、記録装置以外の液体噴射装置、例えば、ディスプレイ製造装置、電極製造装置、チップ製造装置等にも適用することができる。
1…プリンタコントローラ、2…プリントエンジン、6…制御部、8…記録ヘッド、9…駆動信号発生回路、17…流路ユニット、20…圧電振動子、16…ヘッドケース、22…ノズルプレート、23…流路形成基板、24…振動板、25…ノズル開口、28…圧力室、34…島部。