JP5098124B2 - 活性エネルギー線硬化型インクジェット記録用水性インク組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェット記録用水性インク組成物に関し、更に詳しくは、付着性、耐摩耗性、耐水性、耐光性等に優れた、臭気、皮膚毒性の少ない活性エネルギー線硬化型インクジェット記録用水性インク組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録装置による印刷は、ノズルよりインクを噴射し被記録材に付着せしめる方式であり、該ノズルと被記録材が非接触状態にあるため、曲面や凹凸した不規則な形状を有する表面に対して、良好な印刷を行うことができる。このため、広範囲にわたる利用分野が期待されている印刷方式である。
【0003】
このようなインクジェット記録装置に使用されるインクには、主溶剤として水を用いる水性インクと、主溶剤として有機溶剤を用いる油性インクが一般に用いられている。油性インクに比較し、水性インクを用いた印刷画像は全般に耐水性に劣っているが、油性インクが安全性、臭気等に問題があるのに対し、水性インクは主溶剤が水であるため、安全性に優れている事から、インクジェット記録方式には水性インクが一般に使用されている。
【0004】
しかし、このような水性インクの問題点として、印刷画像の付着性、耐摩耗性、耐水性等の耐久性不良があり、これらを改善したインクとして、色材に顔料を用いる事により耐水性、耐光性を改善したインク、活性エネルギー線により硬化させる事により耐久性を改善したインクが数多く提案されている。
【0005】
活性エネルーギー線で硬化するインクジェット記録インクとして例えば、特開平3−216379号公報、特開平7−224241、特開平8−218016号公報には、着色材、水溶性樹脂、非水溶性活性エネルギー線硬化モノマー、もしくは水溶性活性エネルギー線硬化モノマー、水溶性有機溶剤、水を主成分とするインクが提案され、特開平8−48922号公報にはラジエーション硬化可能なマクロマーをエマルジョン状態で含有する水性インクが提案されている。
【0006】
しかしながら、特開平3−216379号公報等に記載されたインクは、いずれも活性エネルギー線硬化性化合物としてモノマーしか用いておらず、硬化性と付着性を両立させる事が困難である、すなわち官能基数の多いモノマーを使用した場合、体積収縮が大きくなり付着性が低下し、官能基数の少ないモノマーを使用した場合、付着性は改善されるが硬化性が低下するという問題を有する。また、低沸点モノマーの揮発による臭気や接触による皮膚毒性等の安全性、衛生性に問題を有する。
【0007】
また、特開平8−48922号公報に記載されたインクは、水分が蒸発するとエマルジョン粒子が破壊されノズル端面で造膜する。この場合、実質的に水に不溶なマクロマーを使用しているため、造膜したインク被膜の水による再溶解性が不十分であり、吐出口へ不溶解物が付着堆積して、吐出安定性が不十分となるという問題を有する。
【0008】
また、インクジェット記録方式は主に紙等のインク吸収性の被記録物に利用されており、インク吸収性のない被記録物に対し良好な付着性、耐摩耗性、耐水性等を有し、かつ吐出安定性の良好なインクジェット記録用水性インクは得られていないのが現状である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとしている課題は、従来のインクジェット用インクにおいて問題とされていた付着性、耐摩耗性、耐水性、耐光性等に優れ、臭気、皮膚刺激性がなく、かつ吐出安定性に優れたインクジェット記録用活性エネルギー線硬化型水性インクを提供することにある。特にインク吸収性のない被記録物に対し良好な付着性、耐摩耗性、耐水性を有する印字、画像形成が可能でかつ吐出安定性に優れるインクジェット記録用活性エネルギー線硬化型水性インクを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、不飽和二重結合を有する基を含有する親油性の活性エネルギー線硬化性化合物の分子中に極性基(カルボキシル基)を導入する方法により調製した水性化合物を、塩基性化合物とともに水中に溶解あるいは分散させ、かつ、該二重結合を有する基の含有量を特定の範囲としたインクジェット記録用インクの活性エネルギー線硬化性成分として用いる事により、再溶解性が良好で、硬化被膜の付着性、耐摩耗性、耐水性、耐光性等に優れ、臭気、皮膚刺激性が少なく、かつ吐出安定性に優れたインクジェット記録用水性インクが得られる事を見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち本発明は、色材、活性エネルギー線硬化性成分、水溶性有機溶剤及び水を主成分として含有するインクジェット記録用水性インク組成物において、活性エネルギー線硬化性成分として分子中に不飽和二重結合を有する基と塩基性化合物により中和されたカルボキシル基を有する水性化合物を含有する事を特徴とする活性エネルギー線硬化型インクジェット記録用水性インク組成物を提供するものであり、特に活性エネルギー線硬化性不飽和二重結合を有する基を含有するポリウレタン化合物、塩基性化合物、着色剤、水溶性有機溶剤及び水を含有する活性エネルギー線硬化型インクジェット記録用水性インク組成物において、該ポリウレタン化合物がカルボキシル基を有し、かつ該二重結合を有する基の和が1.0〜5.0当量/kgであることを特徴とする活性エネルギー線硬化型インクジェット記録用水性インク組成物を提供するものである。
本発明の活性エネルギー線硬化型インクジェット記録用水性インク組成物は、活性エネルギー線硬化モノマーを使用していないため、モノマーの揮発による臭気や皮膚への接触による危険性がない。
さらに本発明において活性エネルギー線硬化性成分として使用する水性ポリウレタン化合物は、活性エネルギー線硬化モノマーに比較して、皮膜の硬化性と付着性の両立が容易である。すなわち、活性エネルギー線硬化性不飽和二重結合を有する基を1.0〜5.0当量/kgとすることにより、硬化性に優れ、また体積収縮も少なく付着性にも優れたインクジェット記録用水性インク組成物とすることが出来る。
【0012】
次に、本発明を詳細に説明する。
本発明で使用する活性エネルギー線硬化性成分中の不飽和二重結合を有する基は、メタクリロイル基およびアクリロイル基からなり、十分な活性エネルギー線硬化性、優れた硬化被膜性能を得るためには、該不飽和二重結合を有する基の和が、1.0〜5.0当量/kgであることが必要であるが、より好ましくは、1.5〜3.5当量/kgに設定することが望ましい。このような範囲とすることにより、水性インク組成物中に皮膜の硬化促進のための活性エネルギー線硬化モノマーを含有させることなく、良好な皮膜硬化性を達成することができる。
1.0当量/kgより小さいと、硬化性が不十分となり、5.0当量/kgより大きいと硬化物の体積収縮が大きくなり、被印刷物に対する付着性が不十分となる。
【0013】
また、本発明に使用する活性エネルギー線硬化性成分としての、水性ポリウレタン化合物中の塩基性化合物で中和されたカルボキシル基は、該水性化合物の再溶解性と硬化被膜の耐水性を両立させるためには、酸価を20〜80KOHmg/g、好ましくは30〜60KOHmg/gにすることが望ましい。
【0014】
上述した通り、インクジェット記録用インクに用いる活性エネルギー線硬化性成分としては、再溶解性の良好なものが好ましい。一般的に再溶解性は分子量の低いほうが良好であるが、硬化被膜性能は低下する。活性エネルギー線硬化性水性化合物としては、ポリエステル、ポリエーテル、ポリウレタン化合物等があるが、ポリウレタン化合物は極性の高いウレタン結合をもっているため、比較的低分子でも水素結合によって高分子同様の分子の絡み合いが起こって優れた被膜性能を得る事ができる。従って、再溶解性が良好であり、かつ優れた被膜性能を有するインクを得ることができる。このため、水性ポリウレタン化合物を使用する事が好ましい。
【0015】
本発明で使用することができる分子中に不飽和二重結合を有する基と塩基性化合物で中和されたカルボキシル基を有する水性ポリウレタン化合物(以下、活性エネルギー線硬化性水性ポリウレタン化合物という)は、例えば、以下の手順で得ることができる。
【0016】
まず、活性水素を2個以上有する化合物(A)と、カルボキシル基を有する化合物(B)、ポリイソシアネート化合物(C)、とを反応して得られるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーと、分子中に水酸基1〜2個、メタクロイル基及至はアクリロイル基を1〜5個有するヒドロキシ(メタ)アクリレート(D)を反応させる。ここで、活性水素を2個以上有する化合物(A)の0〜80%をポリヒドロキシ(メタ)アクリレート(al)とする事ができる。なお、本発明の文中では、分子中にメタクリロイル基及至アクリロイル基を有する化合物については、以後(メタ)アクリレートのように記す。
【0017】
これらの反応はイソシアネートと反応しない溶媒を加えて20〜80℃で行う事ができ、公知の重合禁止剤、反応触媒を適当量任意に加える事ができる。この反応終了後の有機溶剤溶液のカルボキシル基を塩基性化合物で5〜50℃で中和し、5〜40℃で水を加え、50〜60℃で反応溶媒を減圧蒸留して回収する事によって活性エネルギー線硬化性水性ポリウレタン化合物が得られる。
【0018】
上記反応において、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーと、ヒドロキシ(メタ)アクリレート(D)とのモル比、即ちイソシアネート基と反応させる活性水素の当量は必要に応じて5/1〜1/1の間で任意に決める事ができる。
【0019】
本発明に使用することができる活性エネルギー線硬化性水性ポリウレタン化合物は、(A)、(B)、(C)を反応したイソシアネート末端ウレタンプレポリマーと、ヒドロキシ(メタ)アクリレートとの反応に於いてイソシアネート基過剰の配合に設定した時は、カルボキシル基を中和し、水を加えた後、そのイソシアネート基をポリアミン化合物、ケチミン化合物、または水によって架橋あるいは鎖延長する事ができる。
【0020】
活性水素を2個以上有する化合物(A)としては、数平均分子量300〜5000のポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリエーテルポリオール、ポリブタジエンポリオール等のポリオール樹脂からなる郡から選ばれた少なくとも1種のポリオール樹脂とその他のポリオールとからなるポリオール成分を挙げることができる。
【0021】
その他のポリオールの代表的な例としては、先ず、ジオール成分またはそれと同等な効果を持つ化合物として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、2−メチル−1.3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1.3−ブチレングリコール、1.4−ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1.6−ヘキサンジオール、3−メチル−1.5−ペンタンジオール、2−エチル−1.3−ヘキサンジオール、2−ブチル−2−エチル−1.3プロパンジオール、シクロヘキサン−1.4−ジメタノール、スピログリコール類を挙げる事ができる。
【0022】
次に3価以上のポリオール成分としては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ポリブタジエンポリオール、ポリペンタジエンポリオール等の多価アルコール類、または同等の効果を持つ化合物を挙げる事ができる。
【0023】
ポリヒドロキシ(メタ)アクリレート(al)としては、グリセリンモノ(メタ)アクリレート等のジヒドロキシモノ(メタ)アクリレート、およびこれらにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドラフランを付加重合した化合物が挙げられる。更に、2−メタクロイルオキシエチレンイソシアネート、メタクロイルイソシアネートとジアルカノールアミンとを反応して得られる生成物、或いは反応性の異なる二つのイソシアネート基を持つジイソシアネートとモノヒドロキシモノ(メタ)アクリレート、モノヒドロキシジ(メタ)アクリレート等との反応によって得られるハーフウレタン(メタ)アクリレートと、ジアルカノールアミンとを反応させて得られる生成物もその代表例として挙げる事ができる。
【0024】
反応性の異なる二つのイソシアネート基を持つジイソシアネートの代表としては、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0025】
アルカノールアミンの代表としては、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、ジブタノールアミン等を挙げる事ができる。
【0026】
前記、カルボキシル基を有する化合物(B)としては、ジオール類、およびアミン類が適する。具体例として、代表的なもののみ挙げると、ジアミノカルボン酸類例えばリシン、シスチンおよび3.5−ジアミノカルボン酸、2.6−ジヒドロキシ安息香酸並びに特にジヒドロキシアルカン酸、例えば2.2−ジヒドロキシプロピオン酸、2.2ジヒドロキシブタン酸および2.2−ジヒドロキシプロピオン酸とε−カプロラクトンとの反応で得られるカルボキシル基含有ポリカプロラクトンジオール等がある
【0027】
前記、ポリイソシアネート化合物(C)の具体的な例としては、エチレンジイソシアネート、1.6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2.2.4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2.4.4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートの如き脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4.4−ジイソシアネート、1.3−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、ノルボルナンジイソシアナートメチル、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4.4‘−ジイソシアネートの如き脂環式ジイソシアネート、または4.4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートの如き芳香族ジイソシアネート等のジイソシアネート類を挙げる事ができる。
【0028】
更には、上記したジイソシアネートの重合体、またはジイソシアネートとトリメチロールプロパンやエチレングリコール等のポリオール類とのアダクト、或いはジイソシアネートの尿素変性体、ビュレット変性体、カルボジイミド変性体、ウレトンイミン変性体、アロハネート変性体等が該当する。
【0029】
分子中に水酸基1〜2個、メタクロイル基及至アクリロイル基を1〜5個有するヒドロキシ(メタ)アクリレート(D)の代表としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のモノヒドロキシモノ(メタ)アクリレート、或いはグリセリンジ(メタ)アクリレート、ビスコート214HP(大阪有機(株)製)の如きモノヒドロキシメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート等のモノヒドロキシトリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、グリセリンモノ(メタ)等のジヒドロキシモノ(メタ)アクリレート、およびこれらにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフランを付加重合した化合物等が挙げられる。
【0030】
更に、多官能アクリレートとジアルカノールアミン或いはモノアルキルモノアルカノールアミンとをマイケル付加反応で反応した化合物、或いは反応性の異なる二つのイソシアネート基を持つジイソシアネートとモノヒドロキシモノアクリレート、モノヒドロキシジ(メタ)アクリレート等との反応によって得られるハーフウレタンと、或いはメタクリルイソシアネートをジアルカノールアミン或いはモノアルキルモノアルカノールアミンとを反応させて得られる生成物も(D)の代表例として挙げる事ができる。
【0031】
上記、多官能(メタ)アクリレートとしては、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等の多官能アクリレート、グリセリンモノアクリレートジメタクリレートのように分子内に1個以上のメタクロイル基と1個以上のアクリロイル基を持つ化合物が挙げられる。
【0032】
反応性の異なる二つのイソシアネート基を持つジイソシアネートの代表としては、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0033】
ジアルカノールアミンの代表としては、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、ジブタノールアミン等を挙げる事ができる。
【0034】
モノアルキルモノアルカノールアミンの代表としては、メチルエタノールアミン、エチルエタノールアミン、メチルプロパノールアミン等を挙げる事ができる。
【0035】
反応温度は、20〜80℃の範囲が好ましく、反応溶媒はイソシアネートと反応しない有機溶剤を反応に際し、或いは反応後用いる事ができる。これらの有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、酢酸エチル等が挙げられる。また、二重結合の重合防止のため、一般的に用いられるハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ターシャリブチルハイドロキノン、フェノチアジジン等の重合禁止剤を添加し、必要に応じて水酸基とイソシアネート基の反応を促進するジブチル錫ラウリレート、スタナスオクトエート、トリエチルアミン等の反応触媒を用いる事ができる。
【0036】
カルボキシル基を中和する塩基性化合物としては、トリエチルアミン、トリメチルアミン、ジメチルモノエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジエタノールモノメチルアミン、トリエタノールアミン等の三級アミンが挙げられる。
【0037】
活性エネルギー線硬化型インクジェット記録用水性インク組成物中の上記水性ウレタン化合物の含有量は、インクの粘度、印刷画像の耐久性の点から、3〜20質量%の範囲が好ましい。
【0038】
また、活性エネルギー線硬化性成分として、従来公知の活性エネルギー線硬化性モノマーを併用することが可能である。
しかし、モノマーによっては、臭気や皮膚への刺激性のあるものもあり使用しないことが望ましい。
【0039】
本発明の活性エネルギー線硬化型インクジェット記録用水性インク組成物は、色材、活性エネルギー硬化性成分、水溶性有機溶剤、水より成り、必要に応じて助剤を含有する。
【0040】
色材としては、インクジェット記録用インクに一般的に用いられている染料、顔料を用いる事ができる。染料としては、例えば直接染料としてのアゾ染料、フタロシアニン染料、酸性染料としてのアゾ染料、アントラキノン染料等が挙げられる。
【0041】
また、印刷画像に優れた耐水性、耐光性を与えるためには、顔料を用いる事が好ましく、従来公知な有機顔料、無機顔料を全て用いる事ができる。具体的には、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリン顔料等の有機顔料、酸化チタン、カーボンブラック等の無機顔料が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
これらの色材は単独または複数を組合せて使用する事ができる。色材のインク組成物中の含有量は、良好な被膜強度と着色性を得るため、0.1〜10質量%の範囲が好ましい。
【0043】
水溶性有機溶剤は、水分蒸発に伴うインクの固化を防いだり、固化した場合でも水やインクに対する再溶解性を確保するためや、インク吸収性の被記録材料へのインクの浸透時間短縮のために使用される。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンの如きグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコーモノフェニルエーテルの如きグリコールエーテル類、N−メチル−2−ピロリドンの如きピロリドン類、トリエタノールアミンの如きアルカノールアミン類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールの如きアルコール類、ジメチルスルフォキシド等が挙げられる。
【0044】
これらの水溶性有機溶剤は、溶媒の吸湿性、保湿性や、染料溶解性、顔料分散性、インクの粘度や被記録剤への浸透時間などを考慮して、適宜単独若しくは複数を組合せて使用できる。水溶性有機溶剤の含有量は、活性エネルギー線硬化性化合物の含有量に対して、30〜150重量%の範囲が好ましく、40〜80重量%の範囲がより好ましい。活性エネルギー線硬化化合物に対する水溶性有機溶剤の量が上記の範囲より少ないと、ノズル端面での水分蒸発による目詰まりが起こりやすくなり、多いと硬化被膜の強度、耐水性が低下する。インク組成物中の使用量は2〜30質量%の範囲が、目詰まり、被膜の強度、耐水性の面から好ましい。
【0045】
水としては、染料の溶解安定性、重金属イオンによるノズル目詰まりを防止するために、イオン交換水以上の純度のものを用いることが望ましい。インク組成物中の使用量は、40〜90質量%の範囲とすることが一般的である。
【0046】
助剤としては、アルカリ金属の水酸化物や、アルカノールアミンのようなpH調整剤、防菌、防黴剤、金属封鎖剤、顔料分散剤、水溶性樹脂等を使用してもよい。
【0047】
また、必要に応じて光重合開始剤を使用する事ができるが、活性エネルギー線として電子線のような高エネルギー線を使用する場合は光重合開始剤を特に使用しなくてもよい。活性エネルギー線としては、安全性、簡便性の点から紫外線を使用する事が好ましい。
【0048】
光重合開始剤としては、水、または本発明で使用する水溶性有機溶剤に可溶で、インク中で安定に存在し、紫外線により発生したラジカルが、活性エネルギー線硬化性水性ウレタン化合物中の不飽和二重結合と効率的に反応するものであれば全て使用できる。具体的には、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルの如きベンゾイン系化合物、2−ヒドロキシ−2メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトンの如きアセトフェノン系化合物、ベンゾフェノンの如きベンゾフェノン系化合物、チオキサンソン系化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、2種類以上併用する事もできる。これらの光重合開始剤の使用量は、活性エネルギー硬化性成分に対して、0.1〜20質量%とすることが通常である。また、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン等の光開始助剤も使用する事ができる。
【0049】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、以下の記述中の「部」は質量部を表す。
【0050】
(調製例1)
還流冷却管、および空気導入管、温度計を備えた攪拌機付き反応器に、プラクセルL205AL(分子量500、ダイセル化学工業(株)製ラクトンポリエステルジオール)35.9部、ジメチロールプロピオン酸20.4部、トリメチロールプロパン4.53部、ブチルエチルプロパンジオール10.1部、ポリエチレングリコールPEG#600を2.5部、1.3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン87.4部、N−メチルピロリドン24.1部、酢酸エチル136.7部、オクチル酸第一錫0.016部を入れて攪拌しながら70℃まで0.5時間で昇温し70〜75℃で5時間反応後、メトキノン0.14部、NKエステル−701(新中村化学(株)製)47.5部、オクチル酸第一錫0.07部。メチルエチルケトン95.7部、を加え、再び70〜75℃で6時間反応させて、ポリエステルウレタン樹脂骨格の溶液を得た。50℃に冷却して、この溶液にトリエチルアミン15.4部、純水518.5部を除々に加え、35〜40℃に30分間保ち、サーフィノールAK02(日信化学工業(株)製)0.2部を加えて50℃にて減圧蒸留し、酢酸エチル、メチルエチルケトンを除去して不揮発分:29.2質量%、ガードナー粘度:+X、外観透明の活性エネルギー線硬化性水性ウレタン化合物を有する組成物を調製した。このウレタン化合物の特性は以下の通りであった。
アクリロイル基濃度:0.0当量/kg
メタクリロイル基濃度:1.858当量/kg
アクリロイル基/メタアクリロイル基当量比:0/100
固形分酸価:41KOHmg/g
【0051】
(調製例2)
還流冷却管、および窒素導入管、温度計を備えた攪拌機付き反応器に、プラクセルL205AL(分子量500、ダイセル化学工業(株)製ラクトンポリエステルジオール)36.0部、ジメチロールプロピオン酸20.5部、トリメチロールプロパン4.54部、ブチルエチルプロパンジオール10.2部ポリエチレングリコールPEG#600を2.54部、ノルボルナンジイソシアナトメチル(三井東圧化学(株)製)96.1部、N−メチルピロリドン32.1部、酢酸エチル229.6部、を入れて攪拌しながら70℃まで0.5時間で昇温し、70〜75℃で5時間反応後、窒素導入管を空気導入管に切り替えて、メトキノン0.18部、ビスコート#214HP(大阪有機化学(株)製)44.3部、オクチル酸第一錫0.11部を加え、再び70〜75℃で6時間反応させて、ポリエステルウレタン樹脂骨格の溶液を得た。50℃に冷却して、この溶液にトリエチルアミン15.4部、純水508.6部を除々に加え、35〜40℃に30分間保ち、サーフィノールAK02(日信化学工業(株)製)0.45部、を加えて50℃にて減圧蒸留し、酢酸エチルを除去して不揮発分:29.6質量%、ガードナー粘度:Q−R、外観透明の活性エネルギー線硬化性水性ウレタン化合物を有する組成物を調製した。このウレタン化合物の特性は以下の通りであった。
アクリロイル基濃度:0.911当量/kg
メタクリロイル基濃度:0.911当量/kg
アクリロイル基/メタクリロイル基当量比:100/100
固形分酸価:40KOHmg/g
【0052】
(実施例1)
カーボンブラック#45L(三菱化学製)20部、分散剤ソルスパーズ27000(ゼネカ製)6部、ソルスパーズ12000(ゼネカ製)0.75部、精製水73.25部をメディアとして直径1.2μmのジルコニアビーズ450部を用いてペイントコンディショナーにより3時間分散し、カーボンブラックの水分散液を得た。この水分散液20部に調整例1の活性エネルギー線硬化性水性ポリウレタン組成物40部、精製グリセリン(花王製)5部、光重合開始剤としてダロキュア1173(チバ・スペチャリチィーケミカル製)1.2部、界面活性剤としてTSF4452(東芝シリコーン製)、精製水35部を加えて攪拌混合し、1.2μmのメンブランフィルターを用いて濾過を行い、紫外線硬化型水性ジェットインクを得た。
【0053】
得られたインクを、インクを抜いて洗浄、乾燥したエプソンプリンターPM−670Cカートリッジに充填し、同プリンターにより、ジェットプリンター用専用紙(花王製)、PETフィルムに印刷を行った結果、吐出安定性は良好であり、鮮明な印刷画像が得られた。得られた印刷物を窒素雰囲気中で120w/cm2のメタルハライドランプ(ウシオ電機製)を用いて紫外線照射を行い、1J/cm2のエネルギーで硬化させ、以下に示す付着性、耐摩耗性、耐水性試験を行った。
【0054】
「付着性試験」
PETフィルムへの印刷物に対し、「セロテープ」(ニチバン(株)製セロファン粘着テープ)による引き剥がし試験での印刷画像の剥離の有無を目視により評価した。
【0055】
「耐摩耗性試験」
ジェットプリンター用専用紙、PETフィルムに対し、ラビングテスターを用い、荷重0.5kg/cm2でフェルトにより印刷部分を100回こすり印刷画像の剥離の有無を目視により評価した。
【0056】
「耐水性」
ジェットプリンター用専用紙、PETフィルムに対し、印刷物を水道水に24時間後の印刷画像の剥離の有無、印刷画像濃度の低下を目視により評価した。
【0057】
上記試験を実施した結果、ジェットプリンター用専用紙に対する耐摩耗性、耐水性は良好であり、PETフィルムに対する付着性、耐摩耗性、耐水性も良好であった。
【0058】
(実施例2)
オリエント化学製「BONJET BLACK CW−1」(カーボンブラックの水分散液)20部、調整例2の活性エネルギー線硬化性水性ポリウレタン組成物40部、精製グリセリン7.5部、光重合開始剤としてダロキュア1173を1.2部、界面活性剤としてTSF4452を0.2部、精製水32.5部を攪拌混合し、1.2μmのメンブランフィルターを用いてろ過を行い、紫外線硬化性水性ジェットインクを得た。
【0059】
得られたインクを実施例1と同様な方法でエプソンプリウンターPM−670Cカートリッジに充填し、同プリンターにより、ジェットプリンター専用紙(花王製)、PETフィルムに印刷を行った結果、吐出安定性は良好であり、鮮明な印刷画像が得られた。
【0060】
印刷物を実施例1と同様な方法で紫外線により硬化させ、実施例1と同様な方法で印刷画像の付着性、耐摩耗性、耐水性試験を実施した結果、ジェットプリンター専用紙に対する耐摩耗性、耐水性は良好であり、PETフィルムに対する付着性、耐摩耗性、耐水性も良好であった。
【0061】
(比較調整例)
環流冷却管、および空気導入管、温度計を備えた攪拌機付き反応器に、プラクセルL205AL(分子量500、ダイセル化学工業(株)製ラクトンポリエステルジオール)50.3部、ジメチロールブタン酸20.8部、トリメチロールプロパン4.49部、ブチルエチルプロパンジオール10.7部、ポリエチレングリコールPEG#600を2.5部、1.3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン89.5部、メチルエチルケトン178.2部、オクチル酸第一錫0.01部をいれて攪拌しながら70℃まで0.5時間で昇温し、70℃〜75℃で5時間反応後、メトキノン0.14部、β−ヒドロキシエチルアクリレート20.4部、オクチル酸第一錫0.01部。メトキノン0.15部、メチルエチルケトン62.2部を加え、再び70〜75℃で6時間反応させて、ポリエステルウレタン骨格の溶液を得た。50℃に冷却して、この溶液にアセトニトリル24.3部、トリメチルアミン14.4部を加えて20分攪拌後、純水516.4部を徐々に加え、35〜40℃に30分間保ち、サーフィノールAK02(日信化学工業(株)製)0.5部を加えて50℃にて減圧蒸留し、酢酸エチル、メチルエチルケトンを除去して、不揮発分:29.4重量%、ガードナー粘度:+X、外観透明の活性エネルギー線硬化性水性ウレタン組成物を調整した。
アクリロイル基濃度:0.8当量/kg
メタアクリロイル基濃度:0kg
アクリロイル基/メタアクリロイル基当量比:0/100
固形分酸価:40KOHmg/g
【0062】
(比較例)
活性エネルギー線硬化性水性ポリウレタン組成物として比較調整例に記載の活性エネルギー線硬化性水性ポリウレタン組成物を用いる他は、実施例1と同様にして、紫外線硬化型水性ジェットインクを得た。
得られたインクを実施例1と同様な方法でエプソンプリンターPM−670Cカートリッジに充填し、同プリンターにより、ジェットプリンター専用紙(花王製)、PETフィルムに印刷を行った結果、吐出安定性は良好であり、鮮明な印刷画像が得られた。
しかし、印刷物を実施例1と同様な方法で紫外線により硬化させ、実施例1と同様な方法で印刷画像の付着性、耐摩耗性、耐水性試験を実施しようとしたところ、硬化不良でいずれも満足な特性が得られず、特にPETフィルムに対する特性は全く実用レベルに達しないものであった。
【発明の効果】
本発明によれば、分子中に不飽和二重結合を有する基と塩基性化合物で中和されたカルボキシル基を有する水性化合物をインク中の活性エネルギー線硬化性成分として用いる事により、付着性、耐摩耗性、耐水性等に優れ、臭気、皮膚刺激性が少なく、かつ吐出安定性に優れた活性エネルギー線硬化型インクジェット記録用水性インク組成物を調整した。
Claims (2)
- 活性水素を2個以上有する化合物(A)と、カルボキシル基を有する化合物(B)、ポリイソシアネート化合物(C)、とを反応して得られるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーと、分子中に水酸基1個及び、メタクロイル基及至はアクリロイル基を2個有するヒドロキシ(メタ)アクリレート(D)を反応させてなり、カルボキシル基を有し、かつ該二重結合を有する基の和が1.0〜5.0当量/kgであるポリウレタン化合物、塩基性化合物、着色剤、水溶性有機溶剤及び水を含有する活性エネルギー線硬化型インクジェット記録用水性インク組成物をインクジェットプリンターによりPETフィルムへ印刷を行った印刷物。
- 前記ポリウレタン化合物の酸価が20〜80である請求項1記載の印刷物。
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