JP5096920B2 - ウイルス物質の製造方法 - Google Patents

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Description

技術分野
本発明は、ウイルス懸濁液の製造方法に関する。本発明は、特に、細胞培養物中での高力価のウイルス懸濁液の製造方法に関する。好ましい方法には、ウイルス物質による感染の前に細胞培養物の体積を増やすこと、および、その体積を感染前の最大培養体積より明確に大きい最終体積に拡大させる後続のさらなる段階が含まれる。
先行技術
先行技術は、ウイルス物質を製造するための様々な方法、特に、ウイルス物質を動物細胞培養物から製造する方法を開示してきた。
当業者は、接着して増殖する細胞株、即ち、好ましくは固体表面上で増殖する細胞株を、好ましくは懸濁液中で増殖する細胞株と区別する。接着して増殖する細胞株は、使用する培養容器の表面上で直接培養されるか、または、固体粒子上で(例えばマイクロキャリア上で)増殖し、それらは栄養培地中に懸濁され得る。
懸濁液中で増殖する細胞株または接着して増殖する細胞株を使用するウイルス物質の製造方法が知られている。
培地の組成は、細胞培養を使用するウイルス懸濁液の製造において非常に重要である。多くの場合、ウシ胎児血清(FCS)および動物または植物起源の増殖因子を添加しなければならない。バッチの揺らぎおよび下流の加工処理において妨害するタンパク質成分に加えて、血清の使用は、生物学的安全性のリスクとなる(BSE/TSE、マイコプラズマ、プリオンなど)。従って、好ましいのは、無血清の、可能であれば合成の培地ということになる[METERMEN ET AL. 1994]。
例えばマイクロキャリア培養における接着性細胞の使用は、特に、例えば、十分な酸素供給の維持、COの除去、剪断ストレスを最小にしての発酵槽培養の適切な均質化などの、スケールアップの典型的な技術上の障壁に加えて、特に、次のより大きい操作規模の播種に伴う問題を引き起こす[GLACKEN ET AL. 1990, J.B.GRIFFITHS ET AL. 1985, AMERSHAM 2001]。
これに関して、純粋に接着して増殖する細胞のキャリアからキャリアへの「直接移動」は、ある操作のために細胞が少なくとも部分的にそれらの接着を失うように、処理を操作することによってのみ起こる。接着して増殖する細胞の接着を除去する戦略およびこのために使用し得る酵素は、当業者に知られており[E. LINDNER ET AL. 1987, AMERSHAM 2001, DUERRSCHMID ET AL. 2003]、使用した酵素の除去または不活性化に関する該処理の開発において考慮しなければならない。1970年代および1980年代に、回転ビン、ペトリ皿およびT型フラスコにおいて、容器表面からマイクロキャリアへの直接細胞移動に関する好結果の実験が、小さいスケールで実施された。接着して増殖する細胞のキャリアからキャリアへの好結果の移動は、固定床リアクターにおいてのみ当業者に知られているが、この記述は、これらは、懸濁液中でも、接着しても増殖する細胞株であるという事実により限定されなければならない[AMERSHAM 2001, DUERRSCHMID ET AL. 2003]。
特に重要なのは、処理を実行するやり方である。文献は、例えば、バッチまたは灌流培養などの様々な方法を記載している。ここでは、灌流培養は、特定の増殖速度から停滞時間(dwell time)を切り離すために、そして培養培地に由来する阻害または限定を避けて生産性を高めるために使用され、数ヶ月にわたる「高密度細胞培養(HDCC)」様式で頻繁に実行される。しかしながら、複雑な周辺設備(セパレーター、スピンフィルター、超音波細胞貯留槽(ultrasound cell retention)など)に加えて、これらのシステムは、冗長かつ複雑な立ち上げ期間を必要とする [M. REITER ET AL. 1989, GLACKEN ET AL. 1990, J.B. GRIFFITHS ET AL. 1985, AMERSHAM 2001, DUERRSCHMID ET AL. 2003A].
高度に濃縮した物質溶液を細胞培養物に与えることにより、十分な栄養分を供給することも可能である。供給物に起因する阻害、例えばアンモニウムおよび/または乳酸塩は、特にHDCC様式で、収量および生産性の低下を引き起こす。現在まで、阻害濃度を避けるために、灌流または透析システムが推奨されてきた。
処理制御の問題は、動物細胞培養を利用するウイルス物質の製造において、特にマイクロキャリア細胞培養を使用するときに生じ得、それは、細胞およびウイルスの複雑な組み合わされた反応速度の観察を必要とする。
例えば、CPE(細胞変性効果)を引き起こすウイルスを複雑な灌流により増殖させることの有用性は、該ウイルスが通常短時間(時には感染後3ないし7日間より短い)で細胞を破壊または溶解するので、疑わしい。
文献は、予備および製造スケール(50ないし1000l)でのウイルス増殖用のバッチ処理を記載している。ウイルス増殖は、記載された全てのマイクロキャリア処理において、比較的低い細胞密度で実施される。増殖させようとするウイルスの感染後、該感染を後の製造スケールの最終体積で回収するまで継続する[B. MONTAGNON ET AL. 1984, B. BAIJOT ET AL. 1987]。いくつかの場合では、低速溶解性または非溶解性のウイルス用の実験室スケールでの灌流培養が記載された。ある場合では、当初体積への培地の交換が記載されている[AMERSHAM 2001]。
US6,455,298−B1およびUS6,656,720−B2は、懸濁液中で増殖する細胞株を使用する、インフルエンザウイルス物質の製造方法を記載している。開示された方法には、細胞材料を懸濁培養で増殖させる第1の培養期間、感染段階、および後続のウイルスが産生される第2の培養期間が含まれる。この期間中に、培地の添加により培養をさらに希釈しても、灌流培養のように行ってもよい。この方法の利点は、該方法の処理能力が、培養容器の内表面のサイズが限定されることによって限定されないという事実である。しかしながら、不都合なことに、懸濁培養は、ウイルスの産生のためにマイクロキャリアをベースとする方法を使用することにより可能であるものほど、高い細胞濃度を達成できない。さらに、栄養培地からの細胞材料の除去は、懸濁培養では、マイクロキャリアをベースとする方法よりかなり複雑である。これらの欠点は、本発明による方法で回避される。なぜなら、これらは、マイクロキャリア上に接着して増殖する細胞株をウイルス物質の製造に利用するからである。
US6,726,907およびWO95/24468は、細胞材料を増殖させる第1の培養期間、感染段階、および後続のウイルス物質が産生される第2の培養期間を含む、ウイルス物質の製造方法を記載している。本発明の方法と対照的に、第2の培養期間中にさらなる培地は添加されず、従って、第2の培養期間中に培養体積はそれ以上増加しない。これは、比較的少ない体積の回収をもたらし、さらに、その培養は、本発明の方法と比較して低いウイルス力価でもある。
US5,994,134、US5,719,051およびUS6,194,210は、ウイルス物質の製造のための、マイクロキャリアをベースとする方法を開示している。それは、同様に、第1の培養期間、感染段階および第2の培養期間を含む。本発明による方法と対照的に、この第2の培養期間は、いかなる培養体積の増加も伴わず、灌流培養として実施される。新鮮な培地の継続的な流れが供給され、同時に等量の培養培地の流れが除去され、従って培養体積は一定のままである。この方法は、懸濁された細胞株を使用する上記の方法よりも、第1に、より高い細胞密度を達成でき、そして、第2に、より長い期間にわたり大量のウイルス含有培養培地を回収できる点で、利点を有する。しかしながら、ウイルス物質を製造するためのこのマイクロキャリアをベースとする方法は、本発明の方法と比較して、得られるウイルスを含有する培養培地が低ウイルス力価(ウイルス粒子/単位体積)であるという欠点を有する。このことは、ウイルス物質の単離をより困難にし、それにより製造コストを高める。さらに、新鮮な培地の供給および同時のウイルス含有培養ブロスの除去は、滅菌技法への要求を高め、汚染のリスクを高める。産生しようとするウイルスが産生細胞の溶解を、従って細胞変性効果(CPE)を引き起こす場合、灌流様式の第2の培養期間でウイルス物質を製造する方法を使用することは不可能である。
このことは、特定の分子量カットオフを有する半透膜を介する物質移動を伴う、複雑な外部または内部透析の方法にも適用される。この目的で、向流または並流処理で外部に適用された膜を介して新鮮な培地で透析する前に、消耗した培地は細胞から分離されなければならない。問題には、モジュール内での細胞残骸による膜の封鎖などに加えて、特に複雑な装置およびスケールアップが含まれる。
発明の要旨
上記の先行技術に鑑み、本発明の根底にある技術上の課題は、高密度のウイルス物質を含有する大量のウイルス懸濁液を比較的短時間で産生できる、ウイルス物質の製造方法を提供することである。
本発明によると、該技術上の課題は、(a)培地およびマイクロキャリア物質の添加による細胞培養体積の拡大を含み、ここで第1最大細胞培養体積が得られる、第1培養期間;(b)該第1培養期間の後に実施され、感染性ウイルス物質を該マイクロキャリア細胞培養に添加することを含む、感染段階;(c)該感染段階の後に実施され、細胞培養体積を第2最大細胞培養体積までさらに拡大することを含み、この間にウイルス物質が生成されるものである、第2培養期間;および、(d)ウイルス物質をマイクロキャリア細胞培養から得るための回収段階、を含み、該第2最大培養体積が、明確に該第1最大培養体積より明確に大きいことを特徴とする、マイクロキャリア細胞培養でのウイルス物質の製造方法により解決される。本発明の好ましい実施態様では、該第2最大培養体積は、該第1最大培養体積より少なくとも2倍大きい。
本発明の方法の利点は、特に、感染段階の後に培地を供給することにより、培養ブロスのウイルス力価をバッチのプロセスより10倍に高めることができるという事実である。詳細な利点は、濃縮されていない培地を感染段階の後に供給する場合でも該ウイルス力価の上昇を達成でき、その結果第2培養期間中に培養体積を再度実質的に増加させられるという事実である。従って、産生されるウイルス物質の総量は、濃縮物を供給する本発明の方法よりもさらに相当に増加できる。
本発明のさらなる実施態様は、下記に列挙する実施例および例示説明を研究することにより、当業者に明かされる。
図面
図1:体積が10lから50lおよび200lを経て800lに変化する、本発明の方法の例示的代表例。感染は、200lスケールで実施する(略号:pre、培養前;inf、感染;H/DP、回収/下流の加工処理)。
発明の詳細な説明
本発明は、ウイルス懸濁液の製造方法に関する。本発明による方法は、少なくとも2つの培養期間を有する。第1の培養期間(感染段階の前)の間に、培養体積を、数倍または継続的に増加させる。本発明の方法では、感染段階の後でさえ、数段階で、または継続的に、培養体積をさらに増加させる。その結果、回収される最終体積は、感染前の最大培養体積よりも明確に大きい。
本発明は、以下に関する:
1.マイクロキャリア細胞培養でのウイルス物質の製造方法であって、
(a)培地およびマイクロキャリア物質の添加による細胞培養体積の拡大を含み、ここで第1最大細胞培養体積が得られる、第1培養期間;
(b)該第1培養期間の後に実施され、感染性ウイルス物質を該マイクロキャリア細胞培養に添加することを含む、感染段階;
(c)該感染段階の後に実施され、細胞培養体積を第2最大細胞培養体積までさらに拡大することを含み、この間にウイルス物質が生成されるものである、第2培養期間;および、
(d)ウイルス物質をマイクロキャリア細胞培養から得るための回収段階、
を含み、該第2最大培養体積が、該第1最大培養体積より大きいことを特徴とする、方法。
2.該第2最大培養体積が、該第1最大培養体積より2倍ないし7倍大きい、第1項に記載の方法。
3.該第2最大培養体積が、該第1最大培養体積より3倍ないし4倍大きい、第2項に記載の方法。
4.該細胞培養体積の拡大が、濃縮されていない培養培地の添加により達成される、第1項ないし第3項のいずれかに記載の方法。
5.無血清培地を使用する、第1項ないし第4項のいずれかに記載の方法。
6.感染段階で感染倍率(MOI)0.001ないし2が適用される、第1項ないし第5項のいずれかに記載の方法。
7.第1項ないし第6項に記載の方法により製造される、ウイルス物質。
8.第1項ないし第6項に記載の方法により製造される、精製されたウイルス物質。
9.第1項ないし第6項に記載の方法により製造される、精製および製剤化されたウイルス物質。
本発明の核心は、好ましくは、同種の培地による、または類似種の培地による、産生体積の有意な連続的または継続的な増加である。古典的な方法と比較した効率の上昇は、パラポックスウイルス・オビス(Parapoxvirus ovis)の増殖の実施例で下記に記載する。
実施例
実施例1
最初に、既知の接着性ウシ腎臓細胞株を、静置培養(積み重ねた浅皿、回転ビン)で、またはバッチのマイクロキャリア細胞培養で、培養した。このために、1ないし8g/l、好ましくは3ないし7g/lのマイクロキャリア濃度を使用した。リアクターに1ないし610細胞/mlで播種した。栄養物が消費された後、この細胞増殖期間中に、マイクロキャリアの沈降による培地交換を実施した。0.2ないし210細胞/ml、好ましくは0.3ないし0.710細胞/mlの最大細胞数に達した後、添加物含有培地を使用する培養は、例えばFCS、成長ホルモンなどの添加物の濃度を下げるために、複数回の沈降および、添加物を含まないかまたは明確に添加物濃度の低い培地と上清との交換による洗浄段階を実施することからなった。これに続き、感染倍率(MOI)0.001ないし2、好ましくは0.005ないし0.1で感染させた。
該感染は、発酵槽体積の10ないし100%の培養体積で実施した。バッチ様式にさらなる操作をせずに、約3日ないし15日間、好ましくは7ないし11日間、感染を継続させた。40ないし100%、好ましくは40−90%の感染細胞の細胞変性効果(CPE)を達成したら、培養物を回収した。
例えば、無気泡の低剪断膜による気体供給により、気体を供給する。pOは、15ないし65%、好ましくは25ないし55%に調節する。
炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウムおよび/またはCO気体でpH6.6ないしpH7.6、好ましくはpH6.9ないしpH7.5にpHを調節する。温度は32℃ないし37℃である。パラメーターの調節は、細胞増殖期間とウイルス増殖期間で異なってもよい。
さらなるウイルス収量の最適化は、ウイルス増殖期間中に培地濃縮物または個々の物質の濃縮物を供給することにより達成し得る。この種の処理の制御は、様々なシステムについて確立され、記載されてきた。しかしながら、特にマイクロキャリア培養におけるウイルス増殖のために接着性細胞株を使用するとき、専門家に知られる細胞数の決定に伴う問題とある程度相関して、本質的に必要とされる特異的消費速度の決定は極度に困難である。たとえ個々の物質の消費速度がわかっても、培養阻害のさらなる疑問がある。文献は、アンモニウムまたは乳酸塩による限定を特に記載している。一般的に確実な閾値はなく、従って使用する生物学的システムについて特異的に決定しなければならない。
限定/阻害が検出されたら、高い生成物の力価を達成するために、それを回避しなければならない。故に、近年、特にHDCCの分野で、灌流または透析培養の使用が行われており、CPEの原因となるウイルスの増殖に関するその欠点は、上記で議論した。
実施例2
以下は、本発明による体積拡大供給バッチ(volume-expanded fed batch)(VEF)法と、先行技術で開示された方法との比較である。
培養を新鮮な培地で感染後に希釈するやり方による上述の連続的体積拡大(例えば処理を1回スケールアップするために、1:2−1:7、好ましくは1:3−1:5)は、驚くべきことに、予想されたウイルス力価の低下を示さず、希釈にも関わらず、意外なことに平均8ないし13倍の力価の上昇を示した。これは、記載されたバッチのプロセスと比較して、体積が有意に2ないし7倍、好ましくは3ないし4倍に増加しても、達成された。このことは、劇的に改善されたウイルスの収量をもたらす。
例えば、透析、濃縮物の供給、灌流および/または簡潔な細胞数の減少などの記載する比較方法(全て数回実施した)を使用すると、該収量を達成または増加することは不可能であった(表1)。
表1:既知方法と、例として3.5lのリアクターで開始する体積拡大供給バッチ法との比較。接着性BK細胞株の利用によるPPVO増殖のために、同等の実行時間および同等の細胞数での実行を、例として示す。培養条件は、バッチ処理の説明で上記されたものであり、他の方法にも適用された。透析のために、分子量20kDのカットオフのモジュールを使用し、前培養は灌流様式で実施した。該透析は、向流プロセスで実施した。バッチ培養をベースとする相対値を示す。
Figure 0005096920
明確に増加したウイルス収量に加えて、肯定的な結果は、下流の加工処理でも特に認識できる。これらは、宿主細胞タンパク質などの細胞の混入の少なさ、単位用量当たりのタンパク質およびDNA(ワクチン様のヒトの治療に適用するとき、特に重要である)、並びに小さい濾過後の収量の損失の形で、特に明白である。20μmの濾過は、例えば、バッチ様式で平均して〜0.6−1log TCID50の損失に達する。それに比べて、VEFバッチでは、損失は0.1−0.4log TCID50のみである。
体積拡大は、同様に、上記のスケールアップの技術上の障壁にも好都合に影響する。例えば低剪断であり気泡形成を回避する膜気体供給の方法による酸素供給の場合、希釈による体積拡大の成功は、希釈およびウイルスによる溶解の結果として細胞数が減少するために、システムに酸素をあまり導入しなくてもよいので、スケールの有意な増加を達成できる(リアクターの物理的パラメーターに起因する)。より良好な理解を得るために、図1は、例として、製造に直結するスケールでの方法を示す。図解された各段階は、特にBK細胞を次の発酵槽スケールに移すときの直接的移動の頻度と効率に関して、実験的に確認された。生産性に対する影響は見られなかった。
この実施例は、10lのリアクターの播種で始まる。この処理は、バッチ様式について上記した通りに制御する。コンフルエンスに達したら、10lスケールと同じかまたは匹敵する培地に対する比で、新鮮なマイクロキャリアを培地に添加して、50lスケールへの直接の1:5希釈を実施する。再びコンフルエンスに達したら、同じ方法を使用して200lのリアクターに播種する。内部の撹拌を伴うかまたは伴わない短時間の沈降は、有利であり得る。
血清含有/タンパク質性培地を増殖期間中に使用するならば、血清およびタンパク質を含まない培地での洗浄段階を実施して添加物の濃度を低下させる。バッチのプロセスと同様に、記載したMOIで感染を実施する。
次いで、VEFバッチを感染の10−36時間後に開始する。これには、新鮮な培養培地による確実かつ大量な懸濁液の希釈が含まれ、これは、同じリアクターまたはより大きいリアクター中で実施し得る。これには、わずかな努力しか要しない。200lのウイルス−細胞懸濁液を、例えば、400lに、次いで600lに、最終的に800lに、適当な時間間隔をもって段階的に、および/または継続的に、増加させる。驚くべきことに、これは、上記で説明し、表1で例示説明した通り、ウイルス生産性の悪化をもたらさなかった。
ここでは、血清含有、タンパク質性および合成の培地で培養した細胞の間に、差異は見られなかった。キャリアからキャリアへの移動、細胞数および生産性に関する差異は、無血清および合成の条件に適合させたウシ腎臓細胞株の実施例で見られなかった。このことは、血清含有、タンパク質性および合成の培養培地で、本方法を使用できることを意味する。
表2:様々な方法によるPPVOウイルスの増殖についての、標準化(ここでは、血清含有による)した力価に基づく、血清含有、無血清および合成条件に適合させたBK細胞株のTCID50の例示的比較
Figure 0005096920
本発明によると、記載した体積拡大供給バッチの、確立された既知方法に対する利点は、以下の通りに要約し得る:(1)それは、ウイルス増殖のための安全、大量かつ効率的な方法である。(2)高いウイルス収量が達成される。(3)複雑な器具の必要性が増えることがない。(3)処理の制御が比較的容易である。(4)処理を監督するのに必要な人数が少ない。(5)特に下流の加工処理に関して、製品の品質が改善される。(6)より大きい発酵槽を使用し得る。(7)本方法は容易にスケール変更できる。(8)本方法は、様々な血清含有、無血清、タンパク質性および合成培養培地に適用できる。
実施例3
タンパク質性培地を使用するマイクロキャリア細胞培養をバッチ様式で利用する、10lの撹拌タンクにおけるPPVOの増殖
無血清であるがタンパク質性の条件に適合させたウシ腎臓細胞株を、細胞バンクから開始して、最初にT型フラスコで、次いで回転ビンで培養した。培養は、37℃、pH7.2+/−0.2で、COインキュベーター中で実施した。細胞材料をトリプシン処理により回収した。
供給業者の指示に従い調製した Cytodex 3 マイクロキャリア(Amersham, Sweden)の濃度は、3g/lであった。播種は、10lの体積で、細胞数2E05細胞/mlで実施した。細胞培養期間中、グルコース濃度c<0.5g/lでの沈降を利用して、培地を交換した。アンカースターラー(anchor stirrer)を利用して、リアクターを30rpmで撹拌した。pOは40%+/−10%に調節した。pHは7.2+/−0.2であった。
10日後、3.1E06細胞/mlの細胞数に達し、細胞は定常増殖期にあった。添加物を含まない培地による3回の洗浄段階の後、最終体積をPPVO(MOI=0.01)で感染させた。
続くウイルス増殖の間は、操作を実施しなかった。8日後、CPE90%が達成された。20μmの濾過による沈降で発酵を停止した。表3は、回収時および回収後のTCID50を示す。
表3:例として記載するバッチ発酵におけるTCID50
Figure 0005096920
実施例4
タンパク質性培地を使用するマイクロキャリア細胞培養を体積拡大供給バッチ(15lのリアクターに移す)で利用する、3.5lの撹拌タンクにおけるPPVOの増殖
無血清であるがタンパク質性の条件に適合させたウシ腎臓細胞株を、細胞バンクから開始して、最初にT型フラスコで、次いで回転ビンで培養した。培養は、37℃、pH7.2+/−0.2で、COインキュベーター中で実施した。細胞材料をトリプシン処理により回収した。
供給業者の指示に従い調製した Cytodex 3 マイクロキャリア(Amersham, Sweden)の濃度は、5g/lであった。播種は、3.5lの体積で、細胞数3x10E5細胞/mlで実施した。細胞培養期間中、グルコース濃度c<0.5g/lでの沈降を利用して、培地を交換した。アンカースターラーを利用して、リアクターを45rpmで撹拌した。pOは40%+/−10%に調節した。pHは7.2+/−0.2であった。
10日後に、7.1×10^6細胞/mlの細胞数に達し、細胞は定常増殖期にあった。添加物を含まない培地による3回の洗浄段階の後、1.7lの体積をPPVO(MOI=0.01)、n=14rpmで2時間感染させ、次いで3.5lに増やし、撹拌の回転をn=45rpmに高めた。
感染の16時間後、全培養物を15lのリアクターに移し、7lを添加した(1:2希釈)。同じパラメーターを、15lのリアクター中で調節した。
感染の46時間後、培養物を10.5lに希釈した(3.5lをベースとして、1:3希釈)。3.5lのリアクターにおける細胞数をベースとして、希釈を考慮して、CPEは約30%であった。
感染の70時間後、体積を12.5lに増やし、最終的に感染の94時間後、13.8l(1:3.9希釈)に増やした。
感染の7日後(最後の希釈の2.5日後)、沈降および続く培養物の20μmの濾過により、発酵を停止した(CPE=93%)。
表4は、回収時の、および回収物における、TCID50を示す。
表4:本発明のVEFバッチにおけるTCID50
Figure 0005096920
実施例5
無タンパク質かつ無血清の培地を使用するマイクロキャリア細胞培養を体積拡大供給バッチ(15lのリアクターに移す)で利用する、3.5lの撹拌タンクにおけるPPVOの増殖
合成条件に適合させたウシ腎臓細胞株を、細胞バンクから開始して、最初にT型フラスコで、次いで回転ビンで培養した。培養は、37℃、pH7.2+/−0.2で、COインキュベーター中で実施した。細胞材料をトリプシン処理により回収した。
供給業者の指示に従い調製した Cytodex 3 マイクロキャリア(Amersham, Sweden)の濃度は、5g/lであった。播種は、3.5lの体積で、細胞数3.8×10^5細胞/mlで実施した。細胞培養期間中、グルコース濃度c<0.5g/lでの沈降を利用して、培地を交換した。アンカースターラーを利用して、リアクターを45rpmで撹拌した。pOは40%+/−10%に調節した。pHは7.2+/−0.2であった。
13日後に、5.6E06細胞/mlの細胞数に達し、細胞は定常増殖期にあった。同じ培地による3回の洗浄段階の後、3.5lの体積をPPVO(MOI=0.01)、n=40rpmで感染させた。
感染の20時間後、全培養物を15lのリアクターに移し、7lを添加した(1:2希釈)。同じパラメーターを、15lのリアクター中で調節した。
感染の49時間後、培養物を11lに希釈した(3.5lをベースとして、1:3希釈)。3.5lのリアクターにおける細胞数をベースとして、希釈を考慮して、CPEは約30%であった。
感染の69時間後、体積を12.5lに増やし、最終的に感染の86時間後、13.5l(1:3.9希釈)に増やした。
感染の7日後、沈降および続く培養物の20μmの濾過により、発酵を停止した(CPE=93%)。
表5は、回収時および回収後のTCID50を示す。
表5:実施例に記載の通りに合成細胞株を使用するVEFバッチ発酵で達成されるTCID50の代表例
Figure 0005096920
実施例6
高度に精製されたウイルス調製物を得るために、マイクロキャリアを含まないウイルスの回収物を使用した。例えば実施例1ないし5に記載の通り、ウイルス増殖を実施した。第1に、ウイルス回収物で穏やかな精密濾過法を実施した。このために、例えば、Sartorius (Germany)の膜カートリッジを有する Sartorius (Germany)のカートリッジホルダーを用いることができる。あるいは、Minntech (USA) または Pall (USA)の中空繊維モジュールを使用することも可能である。好ましいのは、孔サイズ0.1μmの精密濾過膜または中空繊維を使用することである。精密濾過段階を使用して体積を5ないし20倍減らし、pHを調節し(好ましくはpH7.5ないし9.0)、低分子量の発酵共存成分を希釈する。かくして得られたウイルス濃縮物を、ウイルスの不活性化のためにエチレンイミン濃度3ないし20mMを使用して、pH8.6のエチレンイミンで化学的に不活性化した。該不活性化は、2段階で実施した。最初に反応混合物をpH制御して37℃で3ないし6時間インキュベートし、次いで、さらなる反応容器中、37℃で終夜、ウイルスの不活性化を終えた。不活性化したウイルス懸濁液を、1.5ないし3.0モル濃度過剰のチオ硫酸ナトリウムの添加により中和した。中和に続き、4000ないし8000gで2ないし4時間の低回転の遠心分離を行った。この最初の精製段階は、中和された不活性化溶液からウイルス粒子を除去するのに役立った。この最初の精製段階の後、不活性化されたウイルス粒子を2−8℃または<−65℃で、さらなる加工処理まで保存し得る。例えば、20%ショ糖クッションを使用する低回転の遠心分離により、第2の精製段階を実施し得る。しかしながら、代替的に、Sartorius (Germany) または Pall (USA)の膜吸収体を使用することも可能である。第2の遠心分離段階を4000ないし8000gで終夜実施した。非対称流動場流動分画法(asymmetric flow-field-flow fractionation)(AF4分析)および屈折率測定並びに定量的電子顕微鏡観察を利用して、この精製処理を分析した。表6および7は、典型的な収量プロフィールを示す。
表6:非対称流動場流動分画法(AF4分析)および屈折率測定を利用する、上記の精製プロセスの分析
Figure 0005096920
表7:定量的電子顕微鏡観察を利用する、上記の精製プロセスの分析
Figure 0005096920
選択された処理段階における宿主細胞タンパク質含有量を、特異的宿主細胞タンパク質アッセイを使用して測定し、希釈率の決定に使用した。典型的な希釈結果を、表8に示す。
表8:ウイルス精製中の宿主細胞タンパク質の希釈
Figure 0005096920
常套の標準的方法を使用して、微生物の純度を確認した。無菌条件下で上記の精製処理を実施できることが示された。
表9:微生物純度の評価
Figure 0005096920
第2の精製段階に続き、高純度のウイルス調製物を、精密濾過を使用して製剤化した。この製剤化段階に、Sartorius (Germany) または Pall (USA) の膜および Minntech (USA) または Amersham Biosciences (USA) の中空繊維を用い得る。好ましい孔サイズは、0.1μmである。この製剤化段階の目的は、ウイルス懸濁液をpH、浸透圧および粒子含有量に関して調整することからなる。適する安定化剤の添加後(1−5%ポリゲリン(polygeline))、かくして産生されたウイルス調製物を、長期保存用に凍結乾燥してもよい。それを医薬として使用する前に、開始体積に応じて、凍結乾燥物を無菌のパイロジェンを含まないWFI(注射用水)と混合しなければならない。上記の手順を利用して製造されたウイルス組成物は、非経腸投与に適する。
表10は、凍結乾燥前の製剤化されたウイルス調製物の特徴解析の典型的な結果をまとめたものである。
表10:凍結乾燥前の製剤化されたウイルス懸濁液の分析
Figure 0005096920
*:使用したウイルス安定化剤は、既に平均エンドトキシン含有量2ないし8EU/mlを有する。
特許
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US6,656,720
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図1は、体積が10lから50lおよび200lを経て800lに変化する、本発明の方法の例示的代表例である。感染は、200lスケールで実施する(略号:pre、培養前;inf、感染;H/DP、回収/下流の加工処理)。

Claims (7)

  1. マイクロキャリア細胞培養でのウイルス物質の製造方法であって、
    (a)培地およびマイクロキャリア物質の添加による細胞培養体積の拡大を含み、ここで第1最大細胞培養体積が得られる、第1培養期間;
    (b)該第1培養期間の後に実施され、感染性ウイルス物質を該マイクロキャリア細胞培養に添加することを含む、感染段階;
    (c)該感染段階の後に実施され、細胞培養体積を第2最大細胞培養体積までさらに拡大することを含み、この間にウイルス物質が生成されるものである、第2培養期間;および、
    (d)ウイルス物質をマイクロキャリア細胞培養から得るための回収段階、
    を含み、該第2最大培養体積が、該第1最大培養体積より2倍ないし7倍大きいことを特徴とする、方法。
  2. 該第2最大培養体積が、該第1最大培養体積より3倍ないし4倍大きい、請求項に記載の方法。
  3. 該細胞培養体積の拡大が、濃縮されていない培養培地の添加により達成される、請求項1または請求項に記載の方法。
  4. 無血清培地を使用する、請求項1ないし請求項のいずれかに記載の方法。
  5. 感染段階で感染倍率(MOI)0.001ないし2が適用される、請求項1ないし請求項のいずれかに記載の方法。
  6. 得られたウイルス物質を精製する段階をさらに含む、請求項1ないし請求項のいずれかに記載の方法。
  7. 得られたウイルス物質を製剤化する段階をさらに含む、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の方法。
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