JP5093170B2 - エルハルト穿孔法、およびエルハルト穿孔用芯金 - Google Patents

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本発明は、コンテナ内に収容された鋼塊に芯金を圧入して底付き管を製造するエルハルト穿孔法に関する。具体的には、高Cr、高窒素鋼の鋼塊を素材として用いるエルハルト穿孔法に関する。また、本発明は、このエルハルト穿孔法に用いるエルハルト穿孔用芯金に関する。
別に記載がない限り、本明細書における用語の定義は次の通りである。
「穿孔比」:芯金の外径dとコンテナの内径Dとの比d/Dをいう。
大径厚肉のシームレスパイプは、エルハルト穿孔法により製造できる。エルハルト穿孔法では、コンテナ(壺)に加熱した鋼塊を挿入し、当該鋼塊を、芯金(マンドレル)を用いてプレスして、コップ状すなわち底付き管に塑性加工する。
エルハルト穿孔法には、鋼塊内部に存在する引け巣およびキャビティを圧着する効果が認められている。しかし、引け巣およびキャビティが大きい高Cr鋼、特に高窒素鋼の鋼塊を用いて厚肉管を製造する場合には、穿孔比が大きい穿孔を行うことができず、穿孔後も引け巣およびキャビティが完全には圧着されない状態で残存することがある。この残存した引け巣およびキャビティは、製品検査である超音波探傷試験によって、穿孔により得られた底付き管の肉中部において空隙性の内部欠陥、いわゆるザク欠陥として検出される。
高Cr鋼、高窒素鋼の鋼塊の内部欠陥の抑制についての従来技術は、下記のものがある。
特許文献1には、鋼Cr−Mo鋼において、鋳込み直後に押湯部溶鋼上面に導電性フラックスを添加し、通電加熱することによって鋼塊頭部の保温を促進し、ザク欠陥を軽減させる方法が開示されている。
特許文献2には、鍛造用鋼塊を鋳込み後の熱間状態において、その鋼塊頭部の中央にポンチを圧入してザク欠陥を圧着してから加熱炉に装入し、その後、鍛造する方法が開示されている。
特許文献3には、窒素含有合金鋼を加圧雰囲気下で製造するにあたり、所定の窒素含有量を達成する窒素分圧を有する混合ガス雰囲気中で合金鋼を溶解し、平衡状態になった溶鋼から鋼塊を造塊する際に、凝固時の固相率および窒素分圧に基づく液相中の窒素濃度が、凝固時の固相率および全圧に基づく液相中の許容窒素溶解度よりも小さくなるように、窒素分圧と全圧を調節して溶鋼を凝固させる方法が開示されている。
特許文献4には、鋳型内の、鋼塊にザク欠陥が発生しやすい部位に芯金を配置する方法が開示されている。この方法によると、鋳型内に溶鋼が注入充満されると当該芯金が溶鋼の熱によって溶融し、溶鋼の凝固時に生じる収縮孔部分を補いながら溶鋼とともに凝固するため、ザク欠陥の少ない鋼塊を製造できるとされている。
特許文献5には、鋳型頭部に鋼塊押湯枠を設置し鋼塊頭部の凝固を遅らせ、鋼塊が凝固した直後に鋼塊頭部から加圧ラムで加圧することによって、鋼塊内部のザク欠陥を低減する方法が開示されている。
特許文献6には、鋳型内に上り湯道を通じて溶鋼を注入する下注ぎ造塊による鋼塊の製造方法において、鋳型をジャッキで持ち上げて鋳型内の凝固未完了鋼塊底部に冷却水を噴射して、鋼塊底部を急速冷却し、ザク欠陥を低減する方法が開示されている。
しかし、これらの文献には、エルハルト穿孔法において鋼塊内部の欠陥を抑制する技術は開示されていない。
エルハルト穿孔法では、内部欠陥の他に、得られた底付き管に偏肉が生じやすいという問題がある。この偏肉を抑制する方法として、特許文献7では、円筒状の本体部と、当該本体部と一体に接続し、先端に近づくにしたがって漸次外径が小さくなりかつ先端がフラットな円形をなす頭部とからなり、当該頭部のフラットな先端の外径が当該本体部の外径の0.7〜0.9倍に等しい芯金を使用して穿孔を行うことを特徴とするエルハルト穿孔方法が開示されている。
しかし、特許文献7は高穿孔比の穿孔での偏肉防止しか検討しておらず、本発明で問題とする低穿孔比の穿孔で発生する引け巣およびキャビティに起因する内部欠陥の残存については検討されていない。
特開平1−180749号公報 特開昭58−103930号公報 特開2007−326150号公報 特開昭63−97334号公報 特開平1−180750号公報 特開昭59−206142号公報 特開昭60−187423号公報
本発明の目的は、高Cr鋼、高窒素鋼に対して低穿孔比の条件で、引け巣およびキャビティに起因する内部欠陥の残存を抑制した底付き管を製造できるエルハルト穿孔法を提供することである。本発明の他の目的は、本発明のエルハルト穿孔法に用いる芯金を提供することである。
本発明の要旨は、次の通りである:
(I)エルハルト穿孔法であって、
当該エルハルト穿孔法は、頭部を切断処理した鋼塊を準備し、コンテナ内に収容された当該鋼塊の上面から芯金を圧入して穿孔を行い、底付き管を製造する方法であり、
当該芯金が、円筒状の本体部と、当該本体部の端部に接続された縮径部とからなり、
当該芯金の本体部の外径dと当該コンテナの内径Dとの比d/Dが0.35〜0.45であり、
当該芯金の縮径部が、先端方向に移行するにしたがって外径が漸次小さくなり、且つ先端に直径がd1であるフラット部を有し、
当該フラット部の外径d1と当該芯金の外径dとの比d1/dが0.70〜0.82であり、
当該芯金の縮径部の長さLと当該芯金の本体部の外径dとの比L/dが0.09以上であることを特徴とするエルハルト穿孔法。
前記(I)記載のエルハルト穿孔法において、
当該鋼塊がCr:5〜18質量%、N:0.01〜0.15質量%を含有するフェライト鋼であること、
としてもよい。
(II)エルハルト穿孔用芯金であって、
当該エルハルト穿孔用芯金は、頭部が切断処理された状態でコンテナ内に収容された鋼塊の上面から圧入して底付き管を製造するエルハルト穿孔に用いられるものであり、
円筒状の本体部と、当該本体部の端部に接続された縮径部とからなり、
当該芯金の本体部の外径dと当該コンテナの内径Dとの比d/Dが0.35〜0.45であり、
当該芯金の縮径部が、先端方向に移行するにしたがって外径が漸次小さくなり、且つ先端に直径がd1であるフラット部を有し、
当該フラット部の外径d1と当該芯金の外径dとの比d1/dが0.70〜0.82であり、
当該芯金の縮径部の長さLと当該芯金の本体部の外径dとの比L/dが0.09以上であることを特徴とするエルハルト穿孔用芯金。
前記(II)記載のエルハルト穿孔用芯金において、
当該鋼塊がCr:5〜18質量%、N:0.01〜0.15質量%を含有するフェライト鋼であること、
としてもよい。
本発明のエルハルト穿孔法によると、高Cr鋼、特に高窒素鋼に対して低穿孔比の条件で作製された底付き管における、引け巣およびキャビティに起因する内部欠陥の残存を抑制することが可能である。
本発明のエルハルト穿孔法の優れた特性は、本発明のエルハルト穿孔用芯金を適用することによって十分に発揮することができる。
本発明のエルハルト穿孔用芯金およびコンテナの断面図である。 本発明のエルハルト穿孔用芯金の側面図である。 本発明のエルハルト穿孔用芯金の縮径部の他の形状を示す側面図であり、(a)はテーパ状、(b)は円弧とテーパの組み合わせ、(c)は2段のテーパの組み合わせである。
本発明者は、芯金の先端形状の変化により、鋼塊内部に加わる相当歪み分布が変化することを見出した。そして、引け巣およびキャビティ圧着効果を最大限に発揮できるよう、有限要素法(Finite Element Method、FEM)解析を用いて、鋼塊内部の引け巣およびキャビティ発生部に加わる相当歪みが最大となるように芯金の先端形状を最適化した。
本発明のエルハルト穿孔法およびエルハルト穿孔用芯金について説明する。
図1は、本発明のエルハルト穿孔用芯金およびコンテナの断面図である。図1に示すように、コンテナ1の内部に収容された鋼塊2の上面から芯金10を圧入し、穿孔を行う。これにより底付き管が製造される。コンテナ1の内部は円筒形であっても、底面の直径よりも開口部の直径が大きい円錐台(テーパ状)であってもよい。コンテナ1の内部がテーパ状である場合には、底面の法線と母線とのなす角度(テーパ角)は3°以下が好ましい。本明細書において、コンテナ1内部がテーパ状の場合には、コンテナ1の内径とは、底面の内径を意味する。
図2は、本発明のエルハルト穿孔用芯金の側面図である。本発明のエルハルト穿孔用芯金である芯金10は、本体部11と縮径部12とからなる。本体部11は、外径がdで一定の円筒形である。縮径部12は、本体部11の一端に本体部11と一体に接続されている。縮径部12の外径は、本体部11側の端部では本体部11と同じであり、先端側に移行するにしたがって小さくなる。縮径部12の先端は、外径がd1の円形のフラット部13を構成する。
図3は、本発明のエルハルト穿孔用芯金の縮径部の他の形状の側面図である。芯金10の縮径部12は、図2に示すように縁の断面が円弧または楕円弧をなす形状に限られず、図3に示す形状であってもよい。図3(a)は、円錐台(テーパ状)の縮径部12の側面図である。図3(b)は、本体部11側がテーパ状、先端側の縁の断面が円弧をなす形状の縮径部12の側面図である。(c)はテーパを2段に組み合わせた形状の縮径部12の側面図である。
芯金10の本体部11の外径dとコンテナ1の内径Dとの比d/D(穿孔比)は、0.35〜0.45である。芯金10のフラット部13の外径d1と本体部11の外径dとの比は、0.70〜0.82である。縮径部12の長さLと芯金10の本体部11の外径dとの比L/dは、0.09以上である。
本発明のエルハルト穿孔法は、上記構成を有するため、高Cr鋼、特に高窒素鋼に対して低穿孔比の条件において製造された底付き管における、引け巣およびキャビティに起因する内部欠陥の残存を抑制できる。本発明の芯金は上記形状を有するため、本発明のエルハルト穿孔法に適用することが可能である。
主として耐熱材料として用いられるCr含有量が5〜15質量%のフェライト鋼では、Nの溶解度が低く、鋼塊内部に発生する引け巣が大きい。Cr含有量が多いほど引け巣が発生しやすいため、本発明のエルハルト穿孔法は、Cr含有量が8質量%以上のCr含有量の多いフェライト鋼により好適に適用できる。また、鋼塊のN含有量が多いほど、引け巣が発生しやすいため、本発明のエルハルト穿孔法は、N含有量が0.01〜0.15質量%のフェライト鋼に好適に適用することができ、0.03質量%以上のフェライト鋼により好適に適用できる。
Cr含有量が5質量%未満の鋼材では、Nの溶解度が高く、鋼塊内部に発生する引け巣が小さい。そのため、本発明のエルハルト穿孔法を適用しなくても、底付き管の内部欠陥の残存を抑制できる。
以下、上記の効果を得るため、上記数値範囲を規定する理由について説明する。
(1)d/Dを0.35〜0.45に規定する理由
d/Dが0.35未満では、底付き管の内部欠陥の残存を抑制できない。なぜなら、芯金10の縮径部12の形状によらず、引け巣およびキャビティ圧着に必要な歪みを鋼塊に与えることができないからである。
d/Dが0.45を超えて大きいと、芯金10の縮径部12を本発明で規定する形状にしなくても、底付き管の内部欠陥の残存を抑制できる。なぜなら、芯金10の縮径部12の形状によらず、引け巣およびキャビティ圧着に必要な歪みを鋼塊に与えることができるからである。
(2)d1/dを0.70〜0.82に規定する理由
d1/dが0.70未満では、底付き管の内部欠陥の残存を抑制できない。なぜなら、引け巣およびキャビティ圧着に必要な内部歪みを鋼塊に与えることができないからである。
d1/dが0.82を超えて大きいと、底付き管の内面にせん断割れが発生し、実生産上、適用できない。この場合、引け巣およびキャビティ圧着は十分になされるため、底付き管の内部欠陥は抑制できる。
(3)L/dを0.09以上に規定する理由
L/dが0.09未満では、底付き管の内面にせん断割れが発生し、実生産上、適用できない。この場合、引け巣およびキャビティ圧着は十分になされるため、底付き管の内部欠陥を抑制することはできる。
L/dの上限は特に設けないが、0.50以下が好ましく、0.30以下がより好ましく、0.15以下がさらに好ましい。なぜなら、L/dが大きいと、引け巣およびキャビティ圧着に必要な歪みを鋼塊に与えることができない恐れがあるからである。
本発明の効果を確認するため、エルハルト穿孔試験を行い、底付き管を作製した。その条件は、下記の通りである。
(1)鋼塊の組成および寸法
試験に用いた鋼塊の代表組成は、0.12%C−0.3%Si−0.6%Mn−10.6%Cr−0.065%Nであり、残部はFeおよび不純物であった。鋼塊は、対角長が1095mm、高さが1500mmの八角柱形状であった。
(2)コンテナの寸法
コンテナは、各実施例とも底面の内径Dが1095mmで、底面の直径よりも開口部の直径が大きい円錐台(テーパ状)であり、テーパ角が1.0°のものを用いた。
(3)芯金の寸法
芯金は、No.1、2、4、5、7〜13については、前記図2に示す形状のものを用いた。No.3およびNo.6については、前記図3(b)に示す本体部側がテーパ状、先端側の縁の断面が円弧をなす形状の縮径部を有するものを用いた。本体部の外径d、フラット部の外径d1および縮径部の長さLは、表1に示す値とした。
Figure 0005093170
No.1〜13の各条件について、複数個の底付き管を作製した。No.4、5、7、8および10〜12は本発明例である。No.1、2、3、6、9および13は比較例である。No.1は、d/D(穿孔比)が本発明の規定範囲外である。No.2および6は、d1/dが本発明の規定範囲外である。No.3は、L/dが本発明の規定範囲外である。No.9は、d1/dおよびL/dが本発明の規定範囲外である。No.13は、d/Dおよびd1/dが本発明の規定範囲外である。
[試験結果]
作製した底付き管について、肉中欠陥異常発生率および内面の状態について評価した。その結果を表1に併せて示す。
底付き管の肉中における内部欠陥の発生の有無を、超音波探傷により調査した。肉中欠陥異常発生率は、内部欠陥が発生した底付き管の個数を作製した底付き管の個数で除することにより算出した。内面の状態は目視にて観察した。表1の「総合評価」欄の記号の意味は次の通りである:
○:良。肉中欠陥異常が発生せず、内面割れが発生していなかったことを示す。
×:不可。肉中欠陥異常または内面割れが発生していたことを示す。
本発明例ではいずれも肉中欠陥異常発生率が0%であり、且つ内面割れも発生しなかった。
比較例であるNo.1は、肉中欠陥異常発生率が20%と高かった。これは、穿孔比が本発明の規定範囲よりも小さく、引け巣およびキャビティ圧着に必要な歪みを与えることができなかったからである。
比較例であるNo.2および6は、肉中欠陥異常発生率が8%または6%と高かった。これは、d1/dが本発明の規定範囲よりも小さく、引け巣およびキャビティ圧着に必要な内部歪みを鋼塊に与えることができなかったからである。
比較例であるNo.3は、肉中欠陥異常発生率は0%であった。しかし、L/dが本発明の規定範囲よりも小さかったため、内面割れが発生した。
比較例であるNo.9は、肉中欠陥異常発生率は0%であった。しかし、内面割れが発生した。これは、d/d1が本発明の規定範囲よりも大きく且つL/dが本発明の規定範囲よりも小さかったためである。
比較例であるNo.13は、d/d1が本発明の規定範囲よりも大きいにも関わらず、肉中欠陥異常発生率が0%であり、且つ内面割れも発生しなかった。これは、穿孔比が本発明の規定範囲よりも大きく、引け巣およびキャビティ圧着に必要な歪みを鋼塊に与えることができたからである。
本発明は、エルハルト穿孔法による底付き管の製造に利用できる。
1:コンテナ、 2:鋼塊、 10:芯金、 11:本体部、 12:縮径部、
13:フラット部

Claims (4)

  1. エルハルト穿孔法であって、
    当該エルハルト穿孔法は、頭部を切断処理した鋼塊を準備し、コンテナ内に収容された当該鋼塊の上面から芯金を圧入して穿孔を行い、底付き管を製造する方法であり、
    当該芯金が、円筒状の本体部と、当該本体部の端部に接続された縮径部とからなり、
    当該芯金の本体部の外径dと当該コンテナの内径Dとの比d/Dが0.35〜0.45であり、
    当該芯金の縮径部が、先端方向に移行するにしたがって外径が漸次小さくなり、且つ先端に直径がd1であるフラット部を有し、
    当該フラット部の外径d1と当該芯金の外径dとの比d1/dが0.70〜0.82であり、
    当該芯金の縮径部の長さLと当該芯金の本体部の外径dとの比L/dが0.09以上であることを特徴とするエルハルト穿孔法。
  2. 当該鋼塊がCr:5〜18質量%、N:0.01〜0.15質量%を含有するフェライト鋼であることを特徴とする請求項1に記載のエルハルト穿孔法。
  3. エルハルト穿孔用芯金であって、
    当該エルハルト穿孔用芯金は、頭部が切断処理された状態でコンテナ内に収容された鋼塊の上面から圧入して底付き管を製造するエルハルト穿孔に用いられるものであり、
    円筒状の本体部と、当該本体部の端部に接続された縮径部とからなり、
    当該芯金の本体部の外径dと当該コンテナの内径Dとの比d/Dが0.35〜0.45であり、
    当該芯金の縮径部が、先端方向に移行するにしたがって外径が漸次小さくなり、且つ先端に直径がd1であるフラット部を有し、
    当該フラット部の外径d1と当該芯金の外径dとの比d1/dが0.70〜0.82であり、
    当該芯金の縮径部の長さLと当該芯金の本体部の外径dとの比L/dが0.09以上であることを特徴とするエルハルト穿孔用芯金。
  4. 当該鋼塊がCr:5〜18質量%、N:0.01〜0.15質量%を含有するフェライト鋼であることを特徴とする請求項3に記載のエルハルト穿孔用芯金。
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