JP5088807B2 - リチウムイオン二次電池およびその製造法 - Google Patents

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Description

本発明は、リチウムイオン二次電池およびその製造法に関し、主として寿命特性に優れたリチウムイオン二次電池の容易な製造法に関する。
リチウムイオン二次電池は、一般に正極芯材およびそれに担持された正極合剤層を含む正極、負極芯材およびそれに担持された負極合剤層を含む負極、セパレータおよび非水電解液を具備する。電極合剤層は、活物質と電極結着剤を含み、電極結着剤としては、熱可塑性樹脂、変性ゴム材料等が一般的に用いられている。すなわち、活物質と、電極結着剤と、活物質の分散媒とを混合し、まず、電極合剤スラリーの調製が行われる。電極合剤スラリーは、電極芯材に塗布された後、130℃以下の熱風で乾燥され、ロールプレスで圧延され、電極合剤層となる(特許文献1参照)。
正極と負極との間に介在するセパレータは、極板間を電子的に絶縁し、さらに電解液を保持する役目をもつ。セパレータには、主にポリエチレン樹脂を含む微多孔性シートが使われている。しかし、微多孔性シートなどのシート状セパレータは、概して150℃以下の温度でも収縮しやすく、電池の短絡を導きやすい。また、釘のような鋭利な形状の突起物が電池を貫いた時(例えば釘刺し試験時)、瞬時に短絡反応熱が発生し、微多孔性シートが収縮して、短絡部が拡大する。
そこで、近年、品質向上の観点から、電極表面にフィラー粒子と膜結着剤からなる多孔膜を接着し、多孔膜と一体化された電極を用いることが提案されている。その場合、フィラー粒子と、膜結着剤と、フィラー粒子の分散媒とを混合し、まず、多孔膜ペーストの調製が行われる。多孔膜ペーストは、電極表面に塗布された後、熱風で乾燥される(特許文献2参照)。
従来の膜結着剤には、上記の分散媒に溶解もしくは分散する樹脂が用いられている。そして、多孔膜ペーストの塗膜を熱風で乾燥し、分散媒を揮散させることにより、多孔膜が形成されている。しかし、このような方法で得られる多孔膜は、強度が弱く、電解液による膨潤や、膜結着剤の電解液への溶出が起こり易い。また、電極活物質の膨張および収縮による応力を受けて、多孔膜が電極表面から剥離することもある。これらの現象は、リチウムイオン二次電池の寿命特性を低下させる原因の一つになると考えられている。
特開平10−334877号公報 特開平7−220759号公報
電解液による多孔膜の膨潤や、膜結着剤の電解液への溶出を抑制するためには、電解液との親和性の低い膜結着剤を用いることが有効と考えられる。しかし、そのような膜結着剤は、多孔膜ペーストの調製に用いる分散媒に均一に分散もしくは溶解しにくい。よって、均質なペーストが得られず、良好な多孔膜を形成することが困難になる。
多孔膜は、電極表面に薄く形成されるものであり、通常2〜10μmの厚さしか有さず、本来的に強度が弱い。よって、多孔膜ペーストの均一性が多孔膜の強度に与える影響は大きく、電解液との親和性の低い膜結着剤を用いた場合には、電極表面に形成した直後から安定して一定の強度を確保することは困難である。
すなわち、多孔膜ペーストを調製する段階において、膜結着剤と分散媒との親和性を確保することと、電池内において、多孔膜の電解液による膨潤や膜結着剤の電解液への溶出を抑制することとは、互いに相反関係にある。本発明は、このような相反関係にある効果を両立させることを目的とする。
本発明は、正極芯材に正極合剤層を担持させて正極を得る工程、負極芯材に負極合剤層を担持させて負極を得る工程、前記正極および前記負極の少なくとも一方の表面に接着された電子絶縁性を有する多孔膜を形成する工程、前記正極と前記負極との間にセパレータを介在させて極板群を構成する工程、ならびに前記極板群に非水電解液を含浸させる工程、を有するリチウムイオン二次電池の製造法であって、前記多孔膜を形成する工程は、熱架橋型樹脂を含む膜結着剤と、フィラー粒子とを含む多孔膜ペーストを調製する工程、および前記多孔膜ペーストを前記正極および前記負極の少なくとも一方の表面に塗布し、得られた塗膜を加熱する工程を有する製造法に関する。
前記熱架橋型樹脂は、マスクされた架橋点を有する一液型樹脂である。
前記熱架橋型樹脂には、例えばアクリロニトリル単位を含む共重合体、ポリアクリロニトリル鎖を含む共重合体もしくはポリアクリロニトリル誘導体を用いることができる。
前記マスクされた架橋点は、150℃以上で活性化することが要求される。ここで、活性化とは、例えば95%を超える架橋反応が進行する状態となることを言う。
架橋を進行させるために前記塗膜を加熱する温度条件は、例えば150℃以上、更には190℃以上の温度で1時間以上の加熱時間であることが望ましい。なお、多孔膜ペーストには、分散媒が含まれているため、架橋を進行させるために塗膜を加熱する前に、130℃以下で数分程度の短時間、多孔膜ペーストの塗膜を乾燥させることが望ましい。
前記塗膜を加熱する工程は、不活性ガス中で行うことが要求される
本発明は、また、正極芯材およびそれに担持された正極合剤層を含む正極、負極芯材およびそれに担持された負極合剤層を含む負極、前記正極および前記負極の少なくとも一方の表面に接着された電子絶縁性を有する多孔膜、ならびに非水電解液を具備するリチウムイオン二次電池であって、前記多孔膜が、フィラー粒子および膜結着剤を含み、前記膜結着剤が、熱架橋型樹脂の硬化物を含む、上記の製造法で得られたリチウムイオン二次電池に関する。
前記硬化物を前記非水電解液に60℃で72時間浸漬した場合、前記硬化物の前記非水電解液による膨潤度は、700%以下であることが好ましい。
前記非水電解液は、非水溶媒および前記非水溶媒に溶解するリチウム塩を含み、前記非水溶媒が、炭酸エステルを含むことが好ましい。
熱架橋型樹脂を含む膜結着剤は、架橋が進行する前は、多孔膜ペーストの分散媒に均一に溶解もしくは分散させることができるが、架橋を進行させた後には、電解液に対する耐性が大きく向上し、多孔膜が電解液で膨潤したり、膜結着剤が電解液に溶出したりしにくくなる。すなわち、多孔膜ペーストを調製する段階において、膜結着剤と分散媒との親和性を確保することと、電池内において、多孔膜の電解液による膨潤や膜結着剤の電解液への溶出を抑制することとを両立させることができる。このような多孔膜を具備するリチウムイオン二次電池は、優れた寿命特性を有する。
また、多孔膜の膜結着剤として、自らが一定以上の温度において架橋反応を起こす熱架橋型樹脂を用いることにより、架橋剤を用いる場合などに多発する多孔膜ペーストの物性の変化を抑制することができる。すなわち、熱架橋型樹脂によれば、目的とする架橋反応の制御が容易になる。熱架橋型樹脂は、所定温度に加熱しない限り安定であるため、多孔膜ペーストを常温付近で保存する場合には、ペーストの粘度変化が起こりにくい。従って、従来の膜結着剤を用いる場合と同様に多孔膜ペーストを取り扱うことができる。
本発明に係るリチウムイオン二次電池の形態は、特に限定されず、円筒型、角型、積層型など、様々なタイプを包含するが、特に、正極と負極とを、セパレータを介して捲回した極板群を含む円筒型や角型の電池において特に有効である。
図1は、一般的な円筒型リチウムイオン二次電池の一例の縦断面図である。正極5および負極6は、セパレータ7を介して捲回された状態であって、柱状の極板群を構成している。正極5には、正極リード5aの一端が接続されており、負極6には、負極リード6aの一端が接続されている。非水電解液を含浸させた極板群は、上部絶縁リング8aおよび下部絶縁リング8bで挟まれた状態で、電池缶1の内空間に収容されている。極板群と電池缶1の内面との間には、セパレータを介装させてある。正極リード5aの他端は、電池蓋2の裏面に溶接されており、負極リード6aの他端は、電池缶1の内底面に溶接されている。電池缶1の開口は、周縁に絶縁パッキン3が配された電池蓋2で塞がれている。
図1には図示されないが、正極および負極の少なくとも一方の表面には、電子絶縁性を有する多孔膜が接着されている。多孔膜は、フィラー粒子および膜結着剤を含んでいる。多孔膜は、内部短絡部が発生し、多量の発熱が起こり、セパレータが収縮した場合において、セパレータの代わりに極板間を絶縁する役割を果たす。なお、図1は、本発明に係るリチウムイオン二次電池の一形態に過ぎず、本発明の適用範囲が図1の場合に限定されるわけではない。
正極は、正極芯材およびそれに担持された正極合剤層を含む。正極芯材としては、アルミニウム箔などが好ましく用いられる。正極合剤層は、一般に、正極活物質と、正極結着剤と、導電剤とを含んでいる。負極は、負極芯材およびそれに担持された負極合剤層を含む。負極芯材としては、銅箔やニッケル箔などが好ましく用いられる。負極合剤層は、一般に、負極活物質と、負極結着剤とを含んでいる。
本発明においては、多孔膜の膜結着剤が、熱架橋型樹脂もしくはその硬化物を含む。ここで、熱架橋型樹脂とは、架橋剤を用いなくても、加熱により架橋反応が進行し得る樹脂を意味する。ここで言う架橋剤とは、例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、尿素ホルマリン樹脂、メチロールメラミン樹脂、グリオキザール、タンニン酸などである。
熱架橋型樹脂は、加熱前には、分散媒中に実質的に溶解可能であり、加熱後には、架橋反応が進行するため、分散媒や電解液中への溶解が困難となる。なお、本明細書において、熱架橋型樹脂は、硬化性樹脂と称することもできる。また、硬化とは、架橋を進行させることを言い、架橋を進行させた熱架橋型樹脂は、硬化物とも称される。加熱により架橋を進行させた熱架橋型樹脂(硬化物)の電解液への溶解度(硬化物のうち、電解液に溶解する重量割合)は、5重量%以下であることが好ましい。
上記のような特性を熱架橋型樹脂に付与する観点から、熱架橋型樹脂は、加熱により架橋構造を形成し得る架橋性基を有することが好ましい。架橋性基としてはエポキシ基、ヒドロキシル基、N−メチロールアミド基(N−オキシメチルアミド基)、オキサゾリン基(oxazolyl group)などが挙げられる。
本発明は、膜結着剤が、熱架橋型樹脂もしくはその硬化物のみからなる場合と、熱架橋型樹脂もしくはその硬化物以外の他の樹脂成分を含む場合を包含する。ただし、膜結着剤全体に占める熱架橋型樹脂もしくはその硬化物の割合は50%以上であることが望ましい。膜結着剤に含ませる他の樹脂成分としては、例えばスチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリル酸単位もしくはアクリレート単位を含むSBRの変性体、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリアクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル誘導体などを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうちでは、特にポリアクリル酸誘導体やポリアクリロニトリル誘導体が好ましい。これらの誘導体は、アクリル酸単位または/およびアクリロニトリル単位の他に、アクリル酸メチル単位、アクリル酸エチル単位、メタクリル酸メチル単位およびメタクリル酸エチル単位よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
リチウムイオン二次電池は、一般に正極芯材に正極合剤層を担持させて正極を得る工程、負極芯材に負極合剤層を担持させて負極を得る工程、正極と負極との間にセパレータを介在させて極板群を構成する工程、ならびに極板群に非水電解液を含浸させる工程を含む製造法により得ることができる。本発明の場合、さらに、正極および負極の少なくとも一方の表面に接着された電子絶縁性を有する多孔膜を形成する工程を行う。
正極および負極の少なくとも一方の表面に接着された電子絶縁性を有する多孔膜を形成する工程は、例えば、以下の要領で行う。
まず、多孔膜ペーストを調製する。多孔膜ペーストは、熱架橋型樹脂を含む膜結着剤と、フィラー粒子とを、フィラー粒子の分散媒と混合することにより調製できる。フィラー粒子の分散媒には、熱架橋型樹脂を溶解するものを用いる。多孔膜ペーストに含ませる熱架橋型樹脂は、フィラー粒子100重量部あたり1〜10重量部が好ましく、3.5〜10重量部が更に好ましく、3.5〜5重量部が特に好ましい。熱架橋型樹脂の割合が多すぎると、電池性能が低下する傾向があり、熱架橋型樹脂の割合が少なすぎると、多孔膜の強度が不十分になることがある。
次に、多孔膜ペーストを正極および負極の少なくとも一方の表面に塗布し、得られた塗膜を加熱する。加熱により、まず、フィラー粒子の分散媒が揮散する。次いで、より高温で加熱することより、熱架橋型樹脂の架橋反応が進行する。こうして得られた多孔膜は、熱架橋型樹脂が硬化物を形成しているため、強度に優れている。分散媒の揮散は、膜結着剤の架橋反応がほとんど進行しない温度および時間で行い、その後に膜結着剤の架橋反応を行うことが好ましい。
電極芯材およびそれに担持された電極合剤層を含む電極の作製は、例えば、以下の要領で行う。
まず、電極合剤スラリーを調製する。電極合剤スラリーは、少なくとも活物質および電極結着剤を、活物質の分散媒と混合し、更に必要に応じて導電材などの任意成分を添加することにより調製できる。電極合剤スラリーに含ませる電極結着剤は、活物質100重量部あたり、例えば1〜6重量部が好適である。
次に、電極合剤スラリーを電極芯材に塗布し、得られた塗膜を加熱する。加熱により、活物質の分散媒が揮散して電極合剤層が形成される。乾燥後の電極合剤の塗膜は、ロールプレスで圧延して、電極合剤層の密度調整を行うことが好ましい。
極板群に非水電解液を含浸させると、一般に、膜結着剤は、電解液で膨潤する。ただし、熱架橋型樹脂の硬化物を含む膜結着剤は、架橋構造を有することから、高温の過酷な使用条件下でも電解液中への溶出を起こしにくい。また、熱架橋型樹脂の硬化物を非水電解液に60℃で72時間浸漬した場合でも、硬化物の非水電解液による膨潤度を700%以下に抑制することができる。硬化物の非水電解液による膨潤度が700%以下である場合、極めて良好な寿命特性を有するリチウムイオン二次電池を得ることが可能である。一方、膨潤度が700%を超えると、イオンの移動に有効な細孔体積が減少して、イオンの移動が阻害される傾向があると考えられる。イオンの移動に有効な細孔体積を十分に確保する観点からは、膨潤度が600%以下であることが更に好ましい。
ここで、熱架橋型樹脂の硬化物の非水電解液による膨潤度は、以下の要領で求めることができる。まず、熱架橋型樹脂の単独からなるシート状硬化物を形成する。そして、得られたシート状硬化物の見かけ体積V1を、その寸法から求めておく。次いで、シート状硬化物を、所定の非水電解液に浸漬し、60℃で72時間保持する。その後、電解液で膨潤したシート状硬化物を取り出し、その体積V2を測定する。膨潤度(X)は、次式:
X(%)={(V2−V1)/V1}×100
により、求めることができる。
なお、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)は、架橋構造を有さないが、電解液中への溶出を起こしにくい。しかし、PVdF自体が硬いため、PVdFを膜結着剤として用いると、多孔膜の柔軟性が不足する傾向がある。特に、正極および負極を、セパレータを介して捲回する場合には、多孔膜に、ひび割れが発生することがある。
フィラー粒子と、膜結着剤と、分散媒との混合や、活物質と、電極結着剤と、分散媒との混合は、例えば一般的なミキサー、ニーダ等により行うことができる。混合工程は、熱架橋型樹脂が不安定にならないように、熱架橋型樹脂の架橋反応が開始する温度よりも十分に低い温度、例えば60℃以下で行うことが好ましい。
なお、塗膜を加熱する温度は、150℃以上であることが好ましい。加熱温度が低すぎると、架橋反応が迅速に進行せず、リチウムイオン二次電池の生産性が低下する。また、電極特性の安定性を確保する観点から、塗膜を加熱する工程を、窒素、アルゴンなどの不活性ガス中で行う。
多孔膜ペーストを調製する際に用いるフィラー粒子の分散媒は、特に限定されないが、例えばN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、アセトン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどを挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
膜結着剤としての熱架橋型樹脂は、マスクされた架橋点を有する一液型樹脂であることが、取り扱いが容易であり、かつ架橋反応の制御が容易である点で好ましい。なお、「マスクされた架橋点」とは、分子鎖による遮蔽など、何らかの方法で一時的に不活性化された活性点、もしくは分子構造の変化によって新たに生成する活性点を言う。マスクされた架橋点を有する樹脂は、所定の温度に達すると、マスクされた架橋点が活性化し、架橋反応を開始する。このような一液型樹脂を用いる場合には、架橋剤を用いる場合のように、多孔膜ペーストの調製工程において、混合中の材料が過剰に増粘することもなく、保存中の粘度や分散状態も極めて安定化する。また、多孔膜ペーストの塗布工程も安定に行うことができる。
ここで、一液型樹脂とは、所定温度で一定時間放置しても、液状を維持する硬化性樹脂をいう。本発明で用いる一液型樹脂としては、分散媒と混合された状態であっても、例えば40℃で72時間放置しても、5%以下の架橋反応しか進行しない安定なものを用いることが望ましい。架橋反応の進行の度合いは、例えば示差走査熱量測定(DSC:differential scanning calorimetry)により求めることができる。
熱架橋型樹脂、特に一液型の熱架橋型樹脂は、重量平均分子量が3000以上300000以下であることが好ましい。重量平均分子量が3000未満では、フィラー粒子を分散させた多孔膜ペーストにおいて、フィラー粒子の沈降が発生しやすくなることがある。また、重量平均分子量が300000を超えると、多孔膜ペーストの粘度が高くなり過ぎる場合がある。
熱架橋型樹脂、特に一液型の熱架橋型樹脂は、分子鎖中に、高解離度の親水性基を含むことが、加熱時の架橋特性と、多孔膜ペーストにおけるフィラー粒子の分散状態の安定性とのバランスが優れる点で好ましい。高解離度の親水性基としては、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基、酸性リン酸エステル基、ホスホン酸基などのように、硫黄またはリンを含む基(強酸の塩の基)や、四級アンモニウム基などの強電解質基が好ましい。
高解離度の親水性基を含む樹脂は、例えば、高解離度の親水性基を含む単量体と、これと共重合可能な単量体とを、共重合させることにより、得ることができる。高解離度の親水性基を含む単量体としては、不飽和有機スルホン酸塩、不飽和有機硫酸塩などのような硫黄を含む強酸塩の基を含有する単量体、不飽和有機リン酸塩、不飽和有機ホスホン酸塩などのようなリンを含む強酸塩の基を含有する単量体、四級アンモニウム塩の基を含む不飽和単量体などが挙げられる。
高解離度の親水性基を含む単量体と共重合可能な単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−t−ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ラウリルなどのアクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸−n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−t−ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ラウリルなどのメタクリル酸アルキルエステル;フマール酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ブチルベンジルなどの不飽和多価カルボン酸のアルキルエステル;アクリル酸−2−メトキシエチル、メタクリル酸−2−メトキシエチルなどのアルコキシ基を含む不飽和カルボン酸エステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのα,β−不飽和ニトリル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル;塩化ビニル、フッ化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、三フッ化エチレン、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレンなどのハロゲン化オレフィン;メチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、セチルビニルエーテルなどのビニルエーテル;マレイン酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの不飽和カルボン酸無水物、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドなどの不飽和カルボン酸アミド;エチレン、プロピレンなどのα−オレフィン;シアン化ビニリデン;などが挙げられる。特に、アクリロニトリル単位を含む共重合体は、柔軟性と強度とのバランスに優れる点で好ましい。
高解離度の親水性基を含む単量体と、これと共重合可能な単量体とを、共重合させる方法は、特に限定されないが、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などを用いることができる。重合に用いられる重合開始剤としては、例えば過酸化ラウロイル、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキシドなどの有機過酸化物;α,α’−アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物;過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩などが挙げられる。
膜結着剤としての熱架橋型樹脂は、150℃以上で迅速に架橋反応が進行するものであることが好ましい。従って、マスクされた架橋点が活性化する温度は、150℃以上である。架橋点が活性化する温度が150℃未満では、安定な多孔膜ペーストを得ることが困難になることがある。また、架橋反応が進行する温度が高すぎると、架橋反応の際に、活物質等の電極構成材料が劣化することがあるため、架橋点が活性化する温度は220℃以下であることが好ましい。架橋点が活性化する温度は、例えば示差走査熱量測定(DSC:differential scanning calorimetry)において得られる吸熱ピークの頂点温度として定義することができる。
熱架橋型樹脂は、ポリアクリロニトリル鎖を含むことが望ましい。ポリアクリロニトリル鎖を含む樹脂は、柔軟性と強度とのバランスに優れるからである。例えば、柱状の極板群の中心付近では、極板が形成する円筒の半径は非常に小さくなっており、一般に0.5〜1.5mm程度である。従って、極板表面に接着した多孔膜も、同様に屈曲することになる。そこで、このように屈曲しても損傷しない、柔軟性に優れた多孔膜を極板上に形成することが望まれる。
多孔膜に用いられるフィラー粒子は、リチウムイオン二次電池の使用環境下で、電気化学的にも安定であることが望まれる。また、フィラー粒子は、多孔膜ペーストを調製するのに適した材料であることが望まれる。
フィラー粒子のBET比表面積は、例えば0.9m/g以上、さらには1.5m/g以上であることが好ましい。また、フィラー粒子の凝集を抑制し、多孔膜ペーストの流動性を好適化する観点から、BET比表面積は大き過ぎず、例えば150m/g以下であることが好ましい。また、フィラー粒子の平均粒径(個数基準のメディアン径)は、0.1〜5μmであることが好ましい。
以上のような観点から、フィラー粒子としては、無機酸化物が好ましく、例えばアルミナ(酸化アルミニウム)、チタニア(酸化チタン)、ジルコニア(酸化ジルコニウム)、タルク、珪石、マグネシア(酸化マグネシウム)等を好ましく用いることができる。特に、α−アルミナ、マグネシアを用いることが好ましい。
正極活物質としては、複合リチウム酸化物が好ましく用いられる。複合リチウム酸化物としては、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、コバルト酸リチウムの変性体、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、ニッケル酸リチウムの変性体、マンガン酸リチウム(LiMn24)、マンガン酸リチウムの変性体、これらの酸化物のCo、MnもしくはNiの一部を他の遷移金属元素で置換したものなどが好ましい。各変性体は、アルミニウム、マグネシウムなどの元素を含むものが好ましい。また、コバルト、ニッケルおよびマンガンの少なくとも2種を含むものもある。LiMn24などのMn系リチウム含有遷移金属酸化物は、特に、地球上に豊富に存在し、低価格である点で有望である。
負極活物質としては、各種天然黒鉛、各種人造黒鉛、石油コークス、炭素繊維、有機高分子焼成物などの炭素材料、酸化物、シリサイドなどのシリコン含有複合材料、各種金属もしくは合金材料を用いることができる。
正極合剤層や負極合剤層には、導電剤を含めることができる。このような導電剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、各種黒鉛などを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
電極結着剤には、種々の樹脂材料を用いることができる。
正極結着剤としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸誘導体系ゴム粒子(日本ゼオン(株)製の「BM−500B(商品名)」など)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)などを用いることができる。PTFEやBM−500Bは、正極合剤層の原料ペーストの増粘剤となるカルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレンオキシド(PEO)、変性アクリロニトリルゴム(日本ゼオン(株)製の「BM−720H(商品名)」など)などと組み合わせて用いることが好ましい。PVdFは、単一でも正極結着剤としての機能と、増粘剤としての機能とを有する。
負極結着剤としては、正極結着剤と同様のものも用いられるが、ゴム性状高分子が好ましく用いられる。ゴム性状高分子としては、スチレン単位およびブタジエン単位含むものが好ましく用いられる。例えばスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、SBRの変性体などを用いることができるが、これらに限定されない。これらのゴム性状高分子は、粒子状を呈することが好ましい。粒子状を呈するゴム性状高分子は、活物質粒子同士を点接着することができる。従って、空隙率が高くてリチウムイオン受入れ性に優れた負極合剤層が得られる。負極結着剤と負極増粘剤とを併用する場合、負極増粘剤としては、水溶性高分子が好ましく用いられる。水溶性高分子の中では、セルロース系樹脂が好ましく、特にカルボキシメチルセルロース(CMC)が好ましい。
非水電解液には、リチウム塩を溶質として溶解する非水溶媒を用いることが好ましい。リチウム塩は、特に限定されないが、6フッ化リン酸リチウム(LiPF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、ホウフッ化リチウム(LiBF)などを用いることが好ましい。また、非水溶媒は、特に限定されないが、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)などを用いることが好ましい。非水溶媒は、1種を単独で用いることもできるが、2種以上を組み合わせて用いることが好ましく、少なくとも炭酸エステルを含むことが好ましい。非水溶媒に溶解する溶質濃度は、一般に0.5〜2mol/Lである。
電池の過充電時の安定性を向上させるために、極板上に良好な皮膜を形成させる添加剤を非水電解液と混合することが好ましい。このような添加剤としては、ビニレンカーボネート(VC)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)、VCやCHBの変性体などを用いることができる。
セパレータは、リチウムイオン二次電池の使用環境に耐え得る材料からなるものであれば、特に限定されない。ポリオレフィン樹脂をベースとする微多孔性シートをセパレータとして用いることが一般的である。ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。微多孔性シートは、1種のポリオレフィン樹脂を含む単層膜であってもよく、2種以上のポリオレフィン樹脂を含む多層膜であってもよい。セパレータの厚さは8〜30μmであることが好ましい。
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
まず、以下の実施例および比較例で行った評価方法について説明する。
(短絡不良率)
所定の柱状の極板群について、正極と負極との間の電気抵抗を抵抗計(テスター)で測定した。抵抗値が30MΩ以上の極板群を良品と判定し、30MΩ未満の極板群を不良品と判定した。同じ種類の極板群をそれぞれ100個ずつ作製し、不良品数nを求め、個数で示した。
(多孔膜の柔軟性)
電極合剤層の表面に多孔膜が接着した電極を、多孔膜を外側にして、半径1.5mm(3mmφ)の固定された丸棒に一重に巻き付け、電極の両端を一点で固定した。そして、固定された電極両端部に対して、鉛直下方に300gの荷重を印加した。この状態で、多孔膜の屈曲部の表面を、倍率100倍の顕微鏡で観察した。多孔膜にひび割れが無い場合には“○”、微小なひび割れが有る場合には“NG”を示した。
(多孔膜ペースト粘度変化率)
調製直後の多孔膜ペーストを、25℃で2時間静置し、その後、多孔膜ペーストの25℃における粘度をB型回転粘度計(回転数:30rpm、コーン:4)で測定した。2時間静置後における粘度を測定した後の多孔膜ペーストを、続いて、25℃で3日間静置し、その後、多孔膜ペーストの25℃における粘度を上記と同様に測定した。前者の粘度に対する後者の粘度の変化率を求めた。
(500サイクル後容量維持率)
完成した電池に対し、2度の予備充放電を行い、45℃環境下で7日間保存した。その後、20℃環境下で、以下のパターンの充放電を500回繰り返した。初回の放電容量に対する500サイクル目の放電容量の割合を、容量維持率として求めた。
定電流充電:1400mA(終止電圧4.2V)
定電圧充電:4.2V(終止電流100mA)
定電流放電:400mA(終止電圧3V)
(膨潤度)
所定の結着剤の単独からなる厚さ50μmのシート(架橋型の結着剤の場合はシート状の硬化物)を形成し、得られたシートもしくはシート状の硬化物の見かけ体積V1を求めた。次いで、シートもしくはシート状の硬化物を、電池の作製に用いた下記の非水電解液(ECとDMCとMECとを、体積比2:3:3で含む混合溶媒に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解し、さらにビニレンカーボネート(VC)を3重量%添加した非水電解液)に浸漬し、60℃で72時間保持した。その後、電解液で膨潤したシートもしくはシート状の硬化物を取り出し、その体積V2を測定した。そして、膨潤度(X)を、次式:
X(%)={(V2−V1)/V1}×100
により求めた。所定の結着剤の単独からなるシートもしくはシート状の硬化物は、結着剤を溶解させたN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液を用いて、キャスト法により作製した。架橋型の結着剤の場合は、キャスト法で得られたシートを加熱して硬化させた。
(熱架橋型樹脂の分子量の測定)
膜結着剤に用いた熱架橋型樹脂の重量平均分子量は、N−メチル−2−ピロリドンを溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより、ポリスチレン換算値として求めた。
(架橋点の活性化温度)
膜結着剤に用いた熱架橋型樹脂を、様々な温度で24時間加熱し、加熱後の熱架橋型樹脂を電解液(ECとDMCとMECとを、体積比2:3:3で含む混合溶媒に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解し、さらにビニレンカーボネート(VC)を3重量%添加した非水電解液)中に60℃で、24時間浸漬し、その後、電解液から引き上げて乾燥させた。そして、電解液に浸漬する前の重量W1と、電解液に浸漬してから乾燥後の重量W2より、溶解度:S(%)=100(W1−W2)/W1を求めた。溶解度Sが5%以下となる温度を活性化温度とした。
《実施例1》
(a)正極の作製
コバルト酸リチウム3kgと、正極結着剤としての呉羽化学(株)製のPVdF「#1320(商品名)」(PVdFを12重量%含むN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液)1kgと、アセチレンブラック90gと、適量のNMPとを、双腕式練合機にて攪拌し、正極合剤スラリーを調製した。このスラリーを正極芯材である15μm厚のアルミニウム箔の両面に塗布し、乾燥後、ロールプレスして、密度が3.3g/cmの正極合剤層を形成した。この際、アルミニウム箔および正極合剤層からなる極板の厚みを160μmに制御した。その後、円筒型電池(品番18650)の缶状電池ケースに挿入可能な幅に極板をスリットし、正極のフープを得た。
(b)負極の作製
人造黒鉛3kgと、負極結着剤としての日本ゼオン(株)製のBM−400B(スチレン−ブタジエンゴム粒子を40重量%含む水性分散液)150gと、増粘剤としてのCMC30gと、適量の水とを、双腕式練合機にて攪拌し、負極合剤スラリーを調製した。このスラリーを負極芯材である10μm厚の銅箔の両面に塗布し、乾燥後、ロールプレスして、密度が1.4g/cmの負極合剤層を形成した。この際、銅箔および負極合剤層からなる極板の厚みを180μmに制御した。その後、円筒型電池(品番18650)の缶状電池ケースに挿入可能な幅に極板をスリットし、負極のフープを得た。
(c)多孔膜ペーストの調製
フィラー粒子としての住友化学工業(株)製のメディアン径0.3μmのα−アルミナ「AKP50(商品名)」を970gと、膜結着剤として一液型の熱架橋型アクリロニトリル共重合体を8重量%含むNMP溶液774gと、適量のNMPとを、予備攪拌機であるディゾルバで30分間攪拌した。得られた予備攪拌物を、さらに内容積2リットルのビーズミル((株)シンマルエンタープライズ製のKDC−PAILOT−A型)で滞留時間を10分間に設定して攪拌し、不揮発成分40重量%の多孔膜ペーストを調製した。ビーズミルには、円盤状のディスクが内蔵されており、ディスクの回転により、ミルの内容物が攪拌される仕組である。なお、滞留時間とは、ミルの内容積を、ミル内に送り込まれる予備攪拌物の流速で除した値で定義され、分散処理時間に相当する。
熱架橋型アクリロニトリル共重合体には、マスクされた架橋点を有し、アクリロニトリル単位(unit)、アクリル酸ドデシル単位、およびブタジエンモノオキサイド単位を含み、高解離度の親水性基としてスルホン酸基を含むアクリロニトリル共重合体を用いた。
ここで用いたアクリロニトリル共重合体の重量平均分子量は239000であり、40℃で72時間放置しても、5重量%以下しか架橋反応が進行しなかった。また、アクリロニトリル共重合体を170℃で24時間加熱して得られた硬化物の電解液への溶解度Sは5重量%以下であった。加熱前のアクリロニトリル共重合体は、分散媒に完全溶解した。
(d)多孔膜の形成
得られた多孔膜ペーストを、負極合剤層の表面に塗布し、120℃で乾燥させ、厚さ10μmの乾燥塗膜を得た。その後、乾燥塗膜を有する負極を窒素ガス雰囲気中で、170℃で24時間加熱し、一液型熱架橋型アクリロニトリル共重合体を架橋させ、多孔膜を完成させた。
(e)非水電解液の調製
エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、メチルエチルカーボネート(MEC)とを、体積比2:3:3で含む混合溶媒に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解し、さらにビニレンカーボネート(VC)を3重量%添加して、非水電解液とした。
(f)電池の作製
上述の正極、負極および非水電解液を用いて、品番18650の円筒型電池を作製した。まず、正極と負極を、それぞれ所定の長さで切断した。正極芯材には、正極リードの一端を接続した。また、負極芯材には、負極リードの一端を接続した。その後、正極と負極とを、厚さ10μmのポリエチレン樹脂製微多孔性シートからなるセパレータを介して、捲回し、柱状の極板群を構成した。極板群の外面はセパレータで介装した。この極板群を、上部絶縁リングおよび下部絶縁リングで挟まれた状態で、電池缶の内空間に収容した。次いで、上記の非水電解液を5g秤量して、電池缶内に注液し、133Paの減圧雰囲気中で非水電解液を極板群に含浸させた。正極リードの他端は電池蓋の裏面に溶接した。また、負極リードの他端は電池缶の内底面に溶接した。最後に電池缶の開口を、周縁に絶縁パッキンが配された電池蓋で塞いだ。こうして、円筒型のリチウムイオン二次電池を完成した。
《実施例2》
負極合剤層の表面に多孔膜を形成する代わりに、正極合剤層の表面に、実施例1と同様の多孔膜を形成した。以上の他は、実施例1と同様にして、円筒型のリチウムイオン二次電池を完成した。
《比較例1》
膜結着剤として、一液型熱架橋型アクリロニトリル共重合体の代わりに、アクリロニトリル単位とアクリル酸ドデシル単位とを含み、架橋点を有さない、非架橋型アクリロニトリル共重合体を用いて、多孔膜ペーストを調製した。この多孔膜ペーストを用いたこと以外、実施例1と同様にして、円筒型のリチウムイオン二次電池を完成した。
《比較例2》
膜結着剤として、一液型熱架橋型アクリロニトリル共重合体の代わりに、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いて、多孔膜ペーストを調製した。この多孔膜ペーストを用いたこと以外、実施例1と同様にして、円筒型のリチウムイオン二次電池を完成した。
《比較例3》
膜結着剤として、一液型熱架橋型アクリロニトリル共重合体の代わりに、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF―HFP)を用いて、多孔膜ペーストを調製した。この多孔膜ペーストを用いたこと以外、実施例1と同様にして、円筒型のリチウムイオン二次電池を完成した。
《比較例4》
膜結着剤として、一液型熱架橋型アクリロニトリル共重合体の代わりに、マスクされていない水酸基を含有するポリアクリロニトリル誘導体を用いて、多孔膜ペーストを調製した。多孔膜ペーストには、架橋剤として、末端にイソシアネート基を有するポリイソシアネートを、マスクされていない水酸基を含有するポリアクリロニトリル誘導体100重量部あたり20重量部添加した。この多孔膜ペーストを用いたこと以外、実施例1と同様にして、円筒型のリチウムイオン二次電池を完成した。
なお、マスクされていない水酸基を含有するポリアクリロニトリル誘導体100重量部と、末端にイソシアネート基を有するポリイソシアネート20重量部との混合物を、40℃で72時間放置したところ、混合物の5重量%を超える量の架橋反応が進行した。
実施例1、2および比較例1〜4に係る多孔膜ペーストの粘度変化率、多孔膜の柔軟性、電池の短絡不良率、および充放電500サイクル後の容量維持率を、上記の方法で評価した。結果を表1に示す。
Figure 0005088807
表1において、実施例1、2の短絡不良率と、多孔膜ペーストの粘度変化率は、特に問題のない水準であり、かつ良好な容量維持率(寿命特性)を示している。一方、比較例1、3では、短絡不良率と、多孔膜ペーストの粘度変化率は、特に問題のないレベルであるが、容量維持率は、満足なレベルに達していない。
PVdFを用いた比較例2では、膜結着剤が硬く、多孔膜の柔軟性が不十分であり、短絡不良率も比較的高くなっている。架橋剤を別に添加した比較例4では、短絡不良率は特に問題なく、容量維持率も比較的良好であるが、多孔膜ペーストの粘度変化率が高く、製造工程上、実用的ではないと考えられる。
《実施例3》
膜結着剤として、架橋点の活性化温度が170℃以上である一液型熱架橋型アクリロニトリル共重合体の代わりに、表2に示すような架橋点の活性化温度を有する一液型熱架橋型アクリロニトリル共重合体を用いて、多孔膜ペーストを調製した。この多孔膜ペーストを用いたこと以外、実施例1と同様にして、円筒型のリチウムイオン二次電池を完成した。
なお、架橋点の活性化温度は、例えば架橋点をマスクするマスキング剤の分子構造や分子の大きさ、共重合体の分子量、単量体の組成比などのうち、少なくともいずれかを変化させるとことにより行った。
各々の一液型熱架橋型アクリロニトリル共重合体を用いた場合について、粘度変化率、多孔膜の柔軟性、電池の短絡不良率、および充放電500サイクル後の容量維持率を、上記の方法で評価した。結果を表2に示す。なお、架橋点の活性化温度が140℃、120℃の場合、および加熱雰囲気が空気の場合は、参考例である。
Figure 0005088807
表2において、架橋点の活性化温度が150℃以上の場合について、多孔膜ペーストの粘度変化率が小さくなっている。このことから、架橋点の活性化温度は、150℃以上であることが望ましいと考えられる。
なお、架橋のための加熱を空気雰囲気中で行うこと以外、実施例1と同様にして作製した電池においては、電極芯材の酸化が進行していた。電極芯材が酸化すると、電池間における寿命特性のバラツキが大きくなると考えられる。従って、架橋のための加熱は、不活性雰囲気で行うことが好ましい。
《実施例4》
膜結着剤として用いる一液型熱架橋型アクリロニトリル共重合体の膨潤度を表3に示すように変化させたこと以外、実施例1と同じ多孔膜ペーストを調製した。この多孔膜ペーストを用いたこと以外、実施例1と同様にして、円筒型のリチウムイオン二次電池を完成した。
なお、一液型熱架橋型アクリロニトリル共重合体の膨潤度の変更は、アクリロニトリル共重合体に導入する官能基の構造もしくは大きさまたは官能基数を変化させることにより行った。
各々の一液型熱架橋型アクリロニトリル共重合体の単独からなるシート状硬化物の膨潤度、それらを用いた多孔膜を具備する電池の充放電500サイクル後の容量維持率を、上記の方法で評価した。結果を表3に示す。
また、膜結着剤として、一液型熱架橋型アクリロニトリル共重合体の代わりに、比較例1で用いたのと同じ架橋点を有さない非架橋型アクリロニトリル共重合体を用いたこと以外、実施例1と同じ多孔膜ペーストを調製した。この多孔膜ペーストを用いたこと以外、実施例1と同様にして、円筒型のリチウムイオン二次電池を完成した。架橋点を有さない非架橋型アクリロニトリル誘導体の単独からなるシートの膨潤度、それを用いた多孔膜を具備する電池の充放電500サイクル後の容量維持率を、上記の方法で評価した。結果を表3に示す。
さらに、膜結着剤として、一液型熱架橋型アクリロニトリル共重合体の代わりに、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF―HFP)を用いたこと以外、実施例1と同じ多孔膜ペーストを調製した。この多孔膜ペーストを用いたこと以外、実施例1と同様にして、円筒型のリチウムイオン二次電池を完成した。PVdF―HFPの単独からなるシートの膨潤度、それを用いた多孔膜を具備する電池の充放電500サイクル後の容量維持率を、上記の方法で評価した。結果を表3に示す。
Figure 0005088807
表3において、膨潤度が700%以下の場合において、良好な寿命特性が得られている。膨潤度が900%の場合には、容量維持率がやや低下している。一方、マスクされていない水酸基を含有するアクリロニトリル共重合体とポリイソシアネートとの組み合わせや、PVdF―HFPは、非水電解液に溶解したため、膨潤度を測定することができなかった。
以上のように、本発明によれば、優れた寿命特性を有するリチウムイオン二次電池を、生産性良く、安定して提供することができる。
円筒型のリチウムイオン二次電池の一例の縦断面図である。
符号の説明
1 電池缶
2 電池蓋
3 絶縁パッキン
5 正極
5a 正極リード
6 負極
6a 負極リード
7 セパレータ
8a 上部絶縁リング
8b 下部絶縁リング

Claims (5)

  1. 正極芯材に正極合剤層を担持させて正極を得る工程、
    負極芯材に負極合剤層を担持させて負極を得る工程、
    前記正極および前記負極の少なくとも一方の表面に接着された電子絶縁性を有する多孔膜を形成する工程、
    前記正極と前記負極との間にセパレータを介在させて極板群を構成する工程、ならびに
    前記極板群に非水電解液を含浸させる工程、を有するリチウムイオン二次電池の製造法であって、
    前記多孔膜を形成する工程は、熱架橋型樹脂を含む膜結着剤と、フィラー粒子とを含む多孔膜ペーストを調製する工程、および前記多孔膜ペーストを前記正極および前記負極の少なくとも一方の表面に塗布し、得られた塗膜を不活性ガス中で加熱する工程を有し、
    前記熱架橋型樹脂が、150℃以上で活性化するマスクされた架橋点を有する一液型樹脂である、製造法。
  2. 前記熱架橋型樹脂が、ポリアクリロニトリル鎖を含む、請求項1記載のリチウムイオン二次電池の製造法。
  3. 正極芯材およびそれに担持された正極合剤層を含む正極、負極芯材およびそれに担持された負極合剤層を含む負極、前記正極および前記負極の少なくとも一方の表面に接着された電子絶縁性を有する多孔膜、ならびに非水電解液を具備するリチウムイオン二次電池であって、前記多孔膜が、フィラー粒子および膜結着剤を含み、前記膜結着剤が、熱架橋型樹脂の硬化物を含み、前記熱架橋型樹脂が、マスクされた架橋点を有する一液型樹脂である、請求項1記載の製造法で得られたリチウムイオン二次電池。
  4. 前記硬化物を前記非水電解液に60℃で72時間浸漬した場合、前記硬化物の前記非水電解液による膨潤度が、700%以下である、請求項記載のリチウムイオン二次電池。
  5. 前記非水電解液が、非水溶媒および前記非水溶媒に溶解するリチウム塩を含み、前記非水溶媒が、炭酸エステルを含む、請求項記載のリチウムイオン二次電池。
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