JP4389340B2 - リチウムイオン二次電池の電極用バインダー組成物、スラリー、電極、および電池 - Google Patents

リチウムイオン二次電池の電極用バインダー組成物、スラリー、電極、および電池 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、リチウムイオン二次電池の電極の製造に用いるバインダー組成物、該バインダー組成物と活物質を含むスラリー、該スラリーから製造される電極、および該電極を具えたリチウムイオン二次電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、ノート型パソコンや携帯電話の普及が著しい。そしてこれ等の電源に用いられている二次電池には、リチウムイオン二次電池が多用されている。
ところで、こうしたノート型パソコンや携帯電話は、小型化、うす型化、軽量化、高性能化が急速に進んでいる。これに伴いリチウムイオン二次電池に対しても、一層の電池の小型化、うす型化、軽量化、高性能化が要求されており、さらに低コスト化が強く求められている。
このような状況から、リチウムイオン二次電池(以下、単に電池ということがある)の改良ニーズに対して、電池の材料、製造方法、構造の改良など、広い角度からの改良が進められている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の電極(以下、単に電極ということがある)は、通常、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、ステンレスなどの金属よりなる集電体に、粉末状の活物質、バインダー、液状物質、および必要に応じて導電性カーボンなどの各種の添加物を含有するスラリー(以下、単にスラリーということがある)を塗布し、液状物質を乾燥除去して活物質層を形成させることによって製造される。製造された電極はさらにセパレーターと組み合わされて、折り曲げられたり、細く緻密に捲回されたりした後、外装缶に挿入され、電解液が加えられて電池が製造される。電極(正極および負極)の性能は、電池性能上、最も重要な要素の1つであり、電池の小型化、うす型化、軽量化、高性能化および低コスト化に、大きく影響する。
【0004】
従って、従来より電極を構成する材料、例えば集電体、活物質、バインダー、または導電性カーボンなどのその他の添加物の開発や改良が活発に進められている。
ところで、電極の性能は、電極を構成する材料の開発や改良によって、大きく向上するが、電極を製造する工程で用いられるスラリーの性状によっても電極の性能は大きく影響する。
すなわち、スラリーの性状が悪いと集電体に活物質が均一に塗布されなかったり、活物質どうしの結着性(以下、単に結着性ということがある)や、集電体と活物質との接着性(以下、単に接着性ということがある)が悪かったり、または集電体にスラリーを塗布した後のスラリー中の液状物質を乾燥除去する工程での乾燥が不均一であったり、不充分であったり、または乾燥工程後にバインダーが電極表面に凝集したり、電極表面が平滑でなくなったりして、いずれの場合でも、電極の性能を非常に低下せしめる。
スラリーの性状が悪いとは、スラリー中の活物質の分散が不均一であったり、スラリーを数時間から数日間保存しておくと、二層分離したり、ゲル化したりして保存安定性が悪かったり、集電体にスラリーを塗布したときに均一に塗布できなかったり、または均一に塗布できても、乾燥工程で電極の活物質層が不均一となるような状態である。
【0005】
一方、優れた性状のスラリーとは、スラリー中の成分が均一に分散されており長期間の保存安定性に優れており、集電体へ均一に塗布することができ、さらに乾燥によって電極上に形成される活物質層が均一なスラリーである。
このように電極の性能向上のためには、電極を構成する物質の開発や改良と同時に、良好な性状のスラリーを開発することも重要である。従来より、電極の性能向上の検討は、主に電極を構成する物質の開発や改良が中心であり、保存性など実際の製造工程で求められる良好な性状のスラリーの開発に注目した発明は少かった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、リチウムイオン二次電池用電極の製造に用いられるスラリーについて鋭意検討した結果、特定の方法で製造されたある種のポリマーと特定の液状物質を用いると優れた分散性、混合性、保存安定性、塗布性を有するスラリーが得られ、電極および電池の性能を大きく向上させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
【課題を解決するための手段】
かくして本発明によれば、第一に、乳化剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムを用いて乳化重合されたゲル含量50%以上のポリマー、該ポリマー10重量部に対して1〜70重量部のエチレン−ビニルアルコール共重合体、および沸点が50℃〜350℃の液状物質を含有するリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物が提供される。第二に、乳化剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムを用いて乳化重合されたゲル含量50%以上のポリマー、該ポリマー10重量部に対して1〜70重量部のエチレン−ビニルアルコール共重合体、沸点が50℃〜350℃の液状物質、ならびに、炭素質物質および複合金属酸化物の中から選ばれた少なくとも一種の活物質を含有するリチウムイオン二次電池電極用スラリーが提供され、第三に、当該スラリーを用いて製造されたリチウムイオン二次電池用電極が提供され、第四に、当該電極を具えたリチウムイオン二次電池が提供される。
【0008】
【発明の実施の形態】
1.バインダー組成物
1−1.ポリマー
本発明のバインダー組成物中にバインダー成分として含まれるポリマーは、乳化剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウムを用いて乳化重合されたポリマーであって、ゲル含量が50%以上のものである。バインダー組成物中では、このポリマーは液状物質に膨潤していたり、膨潤していなかったりするが、その大部分または全部は、実質的に溶解することなく、球形または不定形な粒子状で分散している。
【0009】
バインダーであるポリマーの好ましい例としては、ジエン系ポリマー、オレフィン系ポリマー、スチレン系ポリマー、(メタ)アクリレート系ポリマー、ポリアミド系またはポリイミド系ポリマー、エステル系ポリマー、セルロース系ポリマーなどが挙げられる。具体的には、ポリブタジエン、ポリイソプレン、イソプレン−イソブチレン共重合体、スチレン−1,3−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、1,3−ブタジエン−イソプレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−1,3−ブタジエン−イソプレン共重合体、1,3−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−1,3−ブタジエン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−1,3−ブタジエン−イタコン酸共重合体、スチレン−アクリロニトリル−1,3−ブタジエン−メタクリル酸メチル−フマル酸共重合体、スチレン−1,3−ブタジエン−イタコン酸−メタクリル酸メチル−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−1,3−ブタジエン−メタクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−1,3−ブタジエン−イタコン酸−メタクリル酸メチル−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−1,3−ブタジエン−メタクリル酸メチル−フマル酸共重合体などのジエン系ポリマー;ポリビニルアルコール、酢酸ビニル重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、クロロスルホン化ポリエチレンなどのオレフィン系ポリマー;ポリスチレン、スチレン−アクリル酸n−ブチル−イタコン酸−メタクリル酸メチル−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリル酸n−ブチル−イタコン酸−メタクリル酸メチル−アクリロニトリル共重合体などのスチレン系ポリマー;ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート、アクリレート−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸−2−エチルヘキシル−アクリル酸メチル−アクリル酸−メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートなどの(メタ)アクリレート系ポリマー;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、芳香族ポリアミド、ポリイミドなどのポリアミド系またはポリイミド系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのエステル縮合系ポリマー;などが挙げられる。これらのポリマーは単独でも、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0010】
上述した具体例の中でも、共役ジエン系モノマー、(メタ)アクリル酸エステル系モノマーの単独重合体または共重合体、共役ジエン系モノマーおよび(メタ)アクリル酸エステル系モノマーと各種の共重合可能なモノマーとの共重合体が好ましい。
上記ポリマーは、単一のポリマーからなる粒子の他に、これらのポリマーの粒子の外層に、ジエン系ポリマー、スチレン系ポリマー、(メタ)アクリル酸系モノマーおよび/または(メタ)アクリル酸エステル系モノマーの単独重合体または共重合体、(メタ)アクリル酸系モノマーおよび/または(メタ)アクリル酸エステル系モノマーと共重合可能なモノマーとの共重合体などのポリマー層が形成されている複合ポリマー(コアシェル構造、複合構造、局在構造、だるま状構造、いいだこ状構造、ラズベリー状構造、多粒子複合構造などと言われる構造(「接着」34巻1号第13〜23頁記載、特に第17頁記載の図6)を有するもの)が好ましい例として挙げられる。
バインダーとして用いられるポリマーは、バインダー組成物中で大部分または全部が粒子状に分散しておりその平均粒径(分散媒乾燥後、電子顕微鏡で100個の粒子の長径と短径とを測定し、その平均値をとる)は、通常0.005〜100μm、好ましくは0.01〜50μm、さらに好ましくは0.05〜30μmである。粒径が大きすぎると該組成物から調製されるスラリーの性状が悪くなり、また製造される電極の内部抵抗が増加する。粒径が小さすぎるとスラリー性状は非常に良好となるが、必要なバインダーの量が多くなりすぎ、活物質の表面を被覆してしまう。
【0011】
バインダーとして用いられるポリマーのラテックスは、乳化剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムを用いる以外は、通常の乳化重合法によって製造することができる。例えば、「実験化学講座」第28巻、(発行元:丸善(株)、日本化学会編)に記載された方法、すなわち攪拌機および加熱装置付きの密閉容器に水、分散剤、乳化剤、架橋剤、開始剤およびモノマーを所定の組成になるように加え、攪拌してモノマーおよびその他の成分を水に分散または乳化させ、攪拌しながら温度を上昇させて重合を開始する方法によって、ポリマー粒子が水に分散したラテックスを得ることができる。
アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムとしては、通常、炭素数4〜30のアルキル基を有するものが用いられ、その具体例としては、ダウファックス2A1(ダウケミカル社製)、ペレックスSS−H(花王社製)、ペレックスSS−L(花王社製)などの市販品が挙げられる。
【0012】
バインダーであるポリマーの調製には、乳化剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムを用いる必要があるが、これに加えて、補助的にその他の乳化剤または分散剤を用いてもよい。これらの乳化剤および分散剤は、通常の乳化重合法に用いられるものならいずれでもよく、その具体例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウムなどのベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、テトラドデシル硫酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルムアルデヒド縮合物などのホルムアルデヒド縮合物;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウムなどのスルホコハク酸塩;ラウリン酸ナトリウムなどの脂肪酸塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテルサルフェートナトリウム塩、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルサルフェートナトリウム塩などのエトキシサルフェート塩;アルカンスルホン酸塩;アルキルエーテルリン酸エチレンナトリウム塩;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリルエステル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体などの非イオン性乳化剤が挙げられる。これらは単独で、または2種類以上を組合せて用いられる。本発明で用いられるアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムを含む乳化剤および分散剤の添加量は任意に設定できるが、通常、モノマー総量100重量部に対して0.01〜10重量部である。本発明で用いられるアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの使用量は、モノマー総量100重量部に対して0.01〜8重量部である。
【0013】
乳化重合に際しては、分子量調整剤などの添加剤を使用できる。分子量調整剤としては、例えば、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタンなどのメルカプタン類;四塩化炭素、四臭化炭素などのハロゲン化炭化水素類を挙げることができる。これらの分子量調整剤は、重合開始前または重合途中に添加することができる。分子量調整剤の量は、モノマー100重量部に対して、通常0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部である。
【0014】
重合開始剤は、通常の乳化重合で用いられるものでよく、具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩;過酸化水素;ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物などが挙げられる。これらは単独でまたは酸性亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸などのような還元剤と組合せたレドックス系重合開始剤として用いられる。また、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4′−アゾビス(4−シアノペンタノイック酸)などのアゾ化合物;2,2′−アゾビス(2−アミノジプロパン)ジヒドロクロライド、2,2′−アゾビス(N,N′−ジメチレンイソブチルアミジン)、2,2′−アゾビス(N,N′−ジメチレンイソブチルアミジン)ジヒドロクロライドなどのアミジン化合物を使用することもできる。これらは単独または2種以上を組合せて用いることができる。重合開始剤の使用量は、モノマー総量100重量部に対して、0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部である。
【0015】
重合温度および重合時間は、重合法および重合開始剤の種類などに依存して変るが、重合温度は通常約30〜200℃であり、重合時間は通常0.5〜30時間である。アミン類などの添加剤を重合助剤として用いることもできる。
乳化重合法によって得られるラテックスは、アルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs)水酸化物、アンモニア、無機アンモニウム化合物(NH4Clなど)、有機アミン化合物(エタノールアミン、ジエチルアミンなど)などが溶解している塩基性水溶液を加えてpH5〜10、好ましくは5〜9の範囲になるように調整をしてもよい。特に、アルカリ金属水酸化物を用いてpH調整をすると集電体と活物質との結着性(ピール強度)が一層向上するので好ましい。
【0016】
なお、ここでラテックスのpHは、次の条件で測定される。
装置:HM−12p(東亜電波工業社製)
測定温度:25℃
披検液量:100ml
pH計の電源を入れ、30分程度安定化させる。検出部は、純水で3回以上洗い、きれいな脱脂綿でぬぐっておく、標準液による校正は、1点校正によって行う。pH6.86の中性リン酸塩標準液に電極を浸し、2、3度振り動かして気泡を取り除く。10分間静置した後、測定値を読み取り、校正を行う。校正が終了したら、電極を純水で3回以上洗浄し、きれいな脱脂綿でぬぐっておく。この後、電極を被検液に浸し、2、3度振り動かして気泡を取り除く。10分間静置した後、pH表示値を読み取る。
【0017】
本発明で用いるポリマーのゲル含量は、50%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上である。なお、ゲル含量はバインダー組成物を構成する液状物質に対する不溶分として算出され、具体的には、1gのポリマーを100℃で24時間乾燥させ、乾燥ポリマー重量を測定後、このポリマーを25℃で、バインダー組成物を構成する液状物質の100gに24時間浸漬し、200メッシュのふるいにかけ、ふるいの上に残留した固形物を乾燥させ、重量を測定し、(ふるい上の乾燥残留固形物重量/乾燥ポリマー重量)×100の計算式から算出した値である。ゲル含量が50%より少ないと、スラリーの性状が悪くなる。
ゲル含量が50%未満のポリマーは、架橋することによってゲル含量を50%以上とすることができる。架橋は熱、光、放射線、電子線などによる自己架橋であってもよいし、架橋剤を用いて架橋構造を導入するものであってもよく、またこれらの組み合わせであってもよい。
【0018】
架橋剤の具体例としては、ベンゾイルペルオキシド、ジクロルベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ペルオキシドベンゾエート)ヘキシン−3、1,4−ビス(tert−ブチルペルオキシドジプロピル)ベンゼン、ラウロイルペルオキシド、tert−ブチルペルアセテート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、2,5−トリメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン、tert−ブチルペルベンゾエート、tert−ブチルペルフェニルアセテート、tert−ブチルペルイソブチレート、tert−ブチルペル−sec−オクトエート、tert−ブチルペルピバレート、クミルペルピバレート、tert−ブチルペルジエチルアセテートなどの過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、ジメチルアゾイソブチレートなどのアゾ化合物;エチレンジグリコールジメタクリレート、ジエチレンジグリコールジメタクリレートなどのジメタクリレート化合物;トリメチロールプロパントリメタクリレートなどのトリメタクリレート化合物;ポリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレートなどのジアクリレート化合物;トリメチロールプロパントリアクリレートなどのトリアクリレート化合物;ジビニルベンゼンなどのジビニル化合物;などの架橋性モノマーが挙げられる。これらの中でも、エチレンジグリコールジメタクリレートなどのジメタクリレート化合物およびジビニルベンゼンなどのジビニル化合物などの架橋性モノマーを用いるのが好ましい。
架橋構造をもった塊状のポリマーとなった場合は、冷却しジェットミルなどで粉砕して用いてもよい。
【0019】
本発明のバインダー組成物には、においてはゲル含量が50%以上のポリマーを単独でまたは二以上を組合せて使用してもよい。スラリーの塗料性の向上を目的として、水酸基、ニトリル基などの極性基を有する極性ポリマーを併用することができる。極性ポリマーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体を含有せしめる。、ビニルアルコール−ビニルブチラール−酢酸ビニル共重合体、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースおよびそのナトリウム塩など、ポリビニリデンフルオライド、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリアクリロニトリルなどが挙げられる。このほか、水系触媒を用いる場合は、セルロース類を添加すると塗料性が向上する。このような極性ポリマーを組合せ用いる場合、ゲル含量が50%以上のポリマー10重量部に対して、エチレン−ビニルアルコール共重合体を極性ポリマーは100重量部以下、好ましくは1〜70重量部用いると、スラリーの塗料性が向上する。
【0020】
1−2.液状物質
本発明のバインダー組成物に含まれる液状物質は、常圧での沸点が50〜350℃のものである。特に電極製造時の取扱性の観点から、水および常圧での沸点が100℃以上の有機化合物が好ましく、特に常圧での沸点が130℃〜250℃の有機化合物がより好ましい。
常圧での沸点が50〜350℃の液状物質の具体例としては、水(100);n−ドデカン(216)、テトラリン(207)などの炭化水素類;2−エチル−1−ヘキサノール(184)、1−ノナノール(214)などのアルコール類;ホロン(197)、アセトフェノン(202)、イソホロン(215)などのケトン類;酢酸ベンジル(213)、酪酸イソペンチル(184)、γ−ブチロラクトン(204)、乳酸メチル(143)、乳酸エチル(154)、乳酸ブチル(185)などのエステル類;o−トルイジン(200)、m−トルイジン(204)、p−トルイジン(201)などのアミン類;N−メチルピロリドン(204)、N,N−ジメチルアセトアミド(194)、ジメチルホルムアミド(153)などのアミド類;ジメチルスルホキシド(189)、スルホラン(287)などのスルホキシド・スルホン類などの有機化合物が挙げられる。なお、化合物名の後に記載された( )内の数字は常圧での沸点(単位は℃)であり、小数点以下は四捨五入または切り捨てされた値である。また、沸点に幅がある化合物については下限が50℃以上であることを確認して上限を記載した。
【0021】
1−3.バインダー組成物の調製
本発明のバインダー組成物では、上述した特定のポリマーが粒子の形状で液状物質、すなわち、水または特定の有機分散媒中に分散している。ポリマーの水中分散体を得る方法としては、前述のように乳化重合方法によってポリマー粒子が水に分散されたラテックスを製造すればよい。液状物質として非水系の有機液状物質を用いる場合は、乳化重合によって得られたラテックス中の水を上記の有機液状物質で置換する方法が好ましい方法として挙げられる。置換方法としては、例えば、ラテックスに有機液状物質を加えた後、水分を蒸留法、分別濾過法、分散媒相転換法などにより除去する方法が挙げられる。
【0022】
非水系有機液状物質を用いて均一な分散液を得る別法としては、塊状のポリマーをジェットミルなどの粉砕機で微粉砕し、これを液状物質に分散せしめる方法、塊状のポリマーを適当に砕断して液状物質に加えた後、液状物質中でポリマーを微粉砕し、均一分散せしめる方法、または塊状のポリマーを有機溶媒に溶解し、液状物質に溶媒置換して分散させる方法などを採ることもできる。ポリマーと液状物質との分散が充分でない場合には、さらにボールミル、サンドミルなどの分散機、超音波分散機、ホモジナイザーなどを用いて均一な分液液とすることが好ましい。
本発明のバインダー組成物中のポリマーの量は格別限定されることはなく、取扱に適当な粘度となるような量とすればよい。一般に、バインダー組成物中のポリマーの濃度は、重量基準で0.1〜70重量%、好ましくは0.2〜60重量%である。
【0023】
2.スラリー
本発明のスラリーは、乳化剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムを用いて乳化重合されたゲル含量が50%以上のポリマーおよび沸点が50℃〜350℃の液状物質の他に、炭素質物質および複合金属酸化物の中から選ばれた少なくも一種の活物質を含有し、さらに必要に応じて導電性カーボンなどのその他の添加物を含有する。
このような組成によって、優れた性状のスラリー、すなわち、スラリー中のポリマー、活物質およびその他の添加物が均一に分散されている、長期間の保存安定性に優れている、集電体に均一に塗布できる、乾燥後の電極の活物質層が均一であるといった優れた性状を有するスラリーとなる。
本発明のスラリー中に含まれるゲル含量50%以上のポリマーおよび沸点が50〜350℃の液状物質は、前記バインダー組成物の成分として説明したとおりである。
【0024】
2−1.活物質
本発明のスラリーに用いられる活物質は、リチウムイオンを吸蔵および放出することができる炭素質物質および複合金属酸化物から選ばれる。負極活物質としては各種の炭素質物質、金属複合酸化物などが挙げられ、正極活物質としては金属複合酸化物、特にリチウムおよび鉄、コバルト、ニッケル、マンガンの中から選ばれた少なくとも1種の金属を含有する金属複合酸化物が挙げられる。
【0025】
好ましい負極活物質の具体例としては、アモルファスカーボン、ハードカーボン、グラファイト、天然黒鉛、MCMB、ピッチ系炭素繊維などの炭素質材料;ポリアセンなどの導電性高分子;複合金属酸化物、例えば、LixMyOp(ただし、MはCo、Ni、Al、SnおよびMnから選択された少なくとも一種、Oは酸素原子を表し、x、y、zはそれぞれ1.10≧x≧0.05、4.00≧y≧0.85、5.00≧z≧1.5の範囲の数である。)で表される複合金属酸化物、およびその他の金属酸化物が挙げられる。
【0026】
好ましい正極活物質の例としては、LixMO2(ただし、Mは1種以上 の遷移金属、好ましくはCo、MnまたはNiの少なくとも一種を表し、1.10>x>0.05である)、または、LixM24(ただし、Mは1種以上の遷移金属、好ましくはMnを表し、1.10>x>0.05である)を含んだ活物質が挙げられる。具体例としてはLiCoO2、LiNiO2、LiNixCo(1-x)2(0<x<1)、LiMnO2、LiMn24で表される複合酸化物が挙げられる。また、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレンなどの導電性高分子が挙げられる。
【0027】
2−2.その他の添加物
本発明のスラリーには、必要に応じて、液状物質に溶解または膨潤するスラリー粘度調整剤、バインダー補助剤、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラック、導電性グラファイトなどの導電性カーボンおよび金属粉末などの導電材などの添加物を添加することができる。特に正極用スラリーには上記導電性カーボンを添加する場合が多い。
【0028】
2−3.スラリーの調製
本発明のスラリーの製造に際し、各成分の配合順序は問わない。例えば、活物質とバインダー組成物を混合した後に、必要に応じて液状物質を加えてもよく、または活物質と液状物質を混合した後に、バインダー組成物を加えてもよい。バインダー組成物と活物質を混合した後、さらに前述の液状物質を連続的にまたは間欠的に添加し、最終的に必要な任意の固形分濃度(通常20〜80重量%程度)まで濃度を下げながら攪拌すると、表面粗さの少ない平滑な電極を得るのに好適なスラリーとなる。
【0029】
本発明のスラリー中の活物質の量は特に制限されないが、通常、ポリマーに対して重量基準で1〜1,000倍、好ましくは2〜500倍、より好ましくは3〜300倍、とりわけ好ましくは5〜200倍である。活物質量が少なすぎると、集電体に形成された活物質層に不活性な部分が多くなり、電極としての機能が不十分になることがある。また、活物質量が多すぎると、スラリー性状が悪くなり、不満足な電極となる。
【0030】
スラリー中の液状物質の量も、特に制限されず最も集電体に塗布しやすい性状が得られるような量とすればよい。通常ポリマーに対して重量基準で1〜1,000倍、好ましくは2〜500倍、より好ましくは3〜300倍、とりわけ好ましくは5〜200倍である。
均一なスラリーは、上述したポリマーと液状物質とを混合することによって得られる。混合に際しては、ボールミル、サンドミル、顔料粉砕機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザーなどの分散機を用いると表面粗さの少ない平滑な電極を与えることのできるスラリーを短時間に得ることができる。
【0031】
3.リチウムイオン二次電池用電極
本発明の電極は、上記のように調製されたスラリーを集電体に塗布し、液状物質を乾燥・除去して、集電体表面に形成されたマトリックス中に活物質を固定することによって得られる。
集電体は、導電性材料からなるものであれば特に制限されないが、通常、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレスなどの金属製のものを用いる。形状も特に制限されないが、通常、厚さ0.001〜0.5mm程度のシート状のものを用いる。
【0032】
スラリーの集電体への塗布方法も特に制限されない。例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、浸漬、ハケ塗りなどによって塗布される。塗布する量も特に制限されないが、液状物質を乾燥除去した後に形成される活物質層の厚さが通常0.005〜1mm、好ましくは0.02〜0.5mmになる程度の量である。乾燥方法も特に制限されず、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥が挙げられる。乾燥条件は、通常は応力集中が起こって活物質層に亀裂が入ったり、活物質層が集電体から剥離しない程度の速度範囲の中で、できるだけ早く液状物質が揮発するように調整する。本発明のスラリーは、集電体上に容易かつ均一に塗布・乾燥ができるうえに、非常に均一な活物質層を形成する。また、活物質層は接着性や結着性に優れているため充放電サイクル特性が良好な電池を大量に生産する場合に著効を示す。
【0033】
4.リチウムイオン二次電池
本発明の電池は、上記のように製造された電極を正極および負極の少くとも一方に用いたリチウムイオン二次電池である。
リチウムイオン二次電池の電解液は通常用いられるものでよく、負極活物質、正極活物質の種類に応じて電池としての機能を発揮するものを選択すればよい。例えば、電解質としては、従来より公知のリチウム塩がいずれも使用でき、LiClO4、LiBF6、LiPF6などが挙げられる。
【0034】
電解液の溶媒は、通常用いられるものであれば特に限定されるものではなく、主に、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどのカーボネート類;γ−ブチルラクトンなどのラクトン類;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類などが用いられることが多い。これらの溶媒は単独で、または二種以上の混合溶媒として使用できる。
【0035】
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記電解液、本発明の電極、セパレーターなどの部品を用いて、常法に従って製造される。例えば、次の方法が挙げられる。すなわち、正極と負極とをセパレータを介して重ね合わせ、電池形状に応じて巻く、折るなどして、電池容器に入れ、電解液を注入して封口板または安全弁を用いて封口する。さらに必要に応じて、エキスバンドメタルおよびヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をすることもできる。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型などのいずれであってもよい。
【0036】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限るものではない。
実施例において、ポリマー、バインダー組成物、スラリー、電極および電池の特性の評価は以下の方法に従って行った。
<ゲル含量>
1gのポリマーを100℃で24時間乾燥し、乾燥ポリマー重量を測定した。ついで、このポリマーを25℃の室温中、液状物質100gに24時間浸漬し、200メッシュのふるいにかけ、ふるいの上に残留した固形物を乾燥し、重量を測定して、下記の計算式からゲル含量を算出した。
(ふるい上の残留固形物乾燥重量/乾燥ポリマー重量)×100
【0037】
<平均粒径>
ポリマー分散液から液状物質を乾燥除去後、透過型電子顕微鏡で100個の粒子の長径と短径を測定し、その平均値を求めた。
【0038】
<スラリーの性状の評価>
分散性:JIS K 5400に準拠して、50μmのつぶゲージを用いて分散度を測定し、測定値が20μm未満の時は良、測定値が20μm以上の時は不良と判定した。
混合性:JIS K 5400に準拠して評価した。容易に均等に混合するときは良、均等に混合しにくいときは不良と判定した。
保存安定性:JIS K 5400の塗料の常温貯蔵安定性に準拠して10日間の保存安定性を評価した。スラリーの状態に変化が認められなかったものは安定、スラリーの状態が変化しているときは変化の状態によりゲル化または二相分離と判定した(表1および表2中には、それぞれ、「ゲル」および「二相」と記載した)。
塗布性:正極スラリーを下記のアルミニウム箔に、また、負極スラリーを下記の銅箔に、それぞれ隙間200μmのフィルムアプリケータを用い、JIS K 5400に準拠して塗布し、均一に塗布できたかどうかを目視で評価した。均一に容易に塗布できたスラリーは良、均一に塗布することが困難であったものは不良と判定した。
【0039】
<電極の活物質層の耐折り曲げ性>
集電体の片面にスラリーを塗布、乾燥して製造された電極を、2軸のロールプレスで活物質層の密度が正極は3.4g/cm3、負極は1.6g/cm3となるように加圧して得られた電極を長さ100mm、幅20mmの20枚の試験片に切り、電極の活物質層を内側にして、直径2mmのステンレス棒を芯にして電極面同士が接するまで折り曲げ(内側折り曲げ)た後、同じ折り曲げ部分を、活物質層を外側にして同様に折り曲げ(外側折り曲げ)て、活物質層にヒビが入ったり、活物質層が集電体から剥離した試験片(電極)の枚数を数えた。枚数が大きいほど欠陥が多い試験片となる。
【0040】
<電極の活物質層の接着力>
集電体の片面にスラリーを塗布して製造された10枚の電極試験片についてJIS K 5400に規定された碁盤目試験法に準拠して、集電体と活物質層との接着力を測定した。結果は目視によって10段階評価した。値は10枚の試験片の平均値とし、小数点以下は四捨五入した。この値が8以上であれば実用上良好な結着性があると評価される。
【0041】
<電極の活物質層の表面粗さ>
上記の耐折り曲げ性試験においてロールプレスで加圧された電極を1.5cm角の正方形に切り取り、スライドグラスに固定して、光学非接触式ミクロトレーサ「フォコディン」(Dr.lng.Peerthen GmnH社製)を用いて、試験片表面形状を記録した。試験片固定時などに由来する撓みなどを補正したうえ、基準長さ2.5mm、評価長さ12.5mmにおける十点平均の表面粗さ(Rz)をJIS B 0601に準拠して測定した。Rz値(μm)が5以下であれば、その表面は均一と評価される。
【0042】
<電池の充放電容量保持率>
20セルの電池について、25℃雰囲気下、定電流法(電流密度0.1C)に従って、負極試験では0Vから1.2Vまでの、また正極試験では3Vから4.2Vまでの充放電を繰り返し、電気容量を測定した。5サイクル終了時と50サイクル終了時の活物質単位重量あたりの放電容量(単位=mAh/g)を測定し、5サイクル目の容量に対する50サイクル目の容量の比(%)で表される充放電容量保持率を求め、20セルの平均値を算出した。この値が高いほどサイクル特性に優れている。
【0043】
実施例および比較例で用いたポリマーは次の方法により製造した。以下、部および%は特に断らない限り重量基準である。
ポリマー粒子A
攪拌機付きのオートクレーブに水3400部、スチレン950部、1,3−ブタジエン850部、ジビニルベンゼン25部、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム(花王社製:ペレックスSS−H)50部、ボウ硝4部および過硫酸カリウム8部を入れ、50℃に加熱し、攪拌しながら10時間反応させて、乳白色のラテックスを得た。
このラテックス中に分散しているポリマー粒子Aの平均粒径は0.16μmであった。また、ポリマー粒子Aの水に対するゲル含量は99.9%であった。
【0044】
上記のラテックスの未反応残留モノマーを水蒸気蒸留によって除去し、水酸化リチウムでpH7に調製した。次いで、総重量の3倍量のN−メチルピロリドン(NMP)を加え、エバポレーターで水分を蒸発させ、固形分濃度が10%のポリマーAのNMP分散液を得た。このポリマー粒子AのNMP分散液の水分は315ppm、ポリマー粒子AのNMPに対するゲル含量は93%、ポリマー粒子Aの平均粒径は0.16μmであった。
【0045】
ポリマー粒子B
攪拌機付きのオートクレーブに、水2,200部、スチレン210部、メタクリル酸メチル520部、アクリル酸2−エチルヘキシル510部、ジビニルベンゼン50部、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム(ダウケミカル社製:ダウファックス 2A1;アルキル部分の炭素数12)15部および炭酸ナトリウム10部を挿入してモノマーエマルジョンを調製した。
次いで、水2,500部、エチレンジアミン四酢酸11部、ダウファックス 2A1 12部、過硫酸カリウム20部、および先に得られたモノマーエマルジョンの10容量%分とを混合し、80℃に加熱し、攪拌しながら1時間反応させた。引き続き過硫酸カリウム2部を水20部と共に、この反応液に加え、80℃に維持し、攪拌を続けながら、残りのモノマーエマルジョンをすべて加えた。80℃に維持したまま攪拌を続け、さらに8時間反応させて、乳白色のラテックスを得た。
このラテックス中に分散しているポリマー粒子Bの平均粒子径は0.12μmであった。また、ポリマー粒子Bの水に対するゲル含量は99.9%であった。
【0046】
上記のラテックスの未反応残留モノマーを水蒸気蒸留によって除去し、水酸化リチウムでpHを7に調製した。次いで、総重量の3倍量のNMPを加え、エバポレーターで水分を蒸発させ、固形分濃度が10%のポリマーBのNMP分散液を得た。このポリマーBのNMP分散液の水分は384ppm、ポリマー粒子BのNMPに対するゲル含量は96.6%、平均粒径は0.12μmであった。
【0047】
ポリマー粒子C
乳化剤をアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの代りに、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王社製:ペレックスOT−P)を用いた他は、ポリマー粒子Aと同様にしてポリマー粒子Cのラテックスを製造した。このラテックス中に分散しているポリマー粒子Cの平均粒径は、0.13μmであった。また、ポリマーCの水に対するゲル含量は99.8%であった。
ポリマー粒子Aと同様の方法で、ポリマー粒子CのNMP分散液を得た。このポリマーCのNMP分散液の水分は294ppm、ポリマー粒子CのNMPに対するゲル含量は91%、ポリマー粒子Cの平均粒径は、0.13μmであった。
【0048】
ポリマー粒子D
乳化剤をアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの代りに、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(花王社製:レベノール WX)を用いた他は、ポリマー粒子Bと同様にしてポリマー粒子Dのラテックスを製造した。このラテックス中に分散しているポリマー粒子Dの平均粒径は、0.16μmであった。また、ポリマーCの水に対するゲル含量は99.9%であった。
ポリマー粒子Bと同様の方法で、ポリマー粒子DのNMP分散液を得た。このポリマーDのNMP分散液の水分は411ppm、ポリマー粒子DのNMPに対するゲル含量は88%、ポリマー粒子Dの平均粒径は、0.16μmであった。
【0049】
実施例1〜4、比較例1〜4
正極スラリーの製造
LiCoO2(日本化学工業(株)社製;製品名「セルシードC−5」)90部、アセチレンブラック7部、ポリマー粒子A、B、CまたはDを2部含有するNMP分散液、エチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン含量44%)2部を混合し、さらにNMPを加えて固形分濃度60%のスラリーを調製し、らい潰機(石川工場社製、商品名「石川式攪拌らい潰機」型番18号)を用いて30分間混練した。得られたスラリーにNMPを加えて固形分濃度70%に調整して15分間混練した。
【0050】
負極スラリーの製造
カーボン(ロンザ社製;商品名「KS−15」)を95部、ポリマー粒子A、B、CまたはDを3部含有するNMP分散液にエチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン含量44%)2部を混合し、さらにNMPを加えて固形分濃度50%のスラリーを調製した。その後正極と同じ条件でスラリーを混練した。
得られた正極および負極のスラリーの性状を評価した。結果を表1に示す。
【0051】
正極スラリーをアルミニウム箔(厚さ20μm)集電体の片面に、また負極スラリーを銅箔(厚さ18μm)集電体の片面に、それぞれドクターブレード法によって塗布した。これを120℃、15分間乾燥機で乾燥した後、さらに真空乾燥機にて5mmHg、120℃で2時間減圧乾燥し、2軸のロールプレスによって、上記耐折り曲げ性試験に記載した密度となるように加圧して電極を製造した。こうして得られた正極および負極の特性を測定した。結果を表1に示す。
【0052】
電極を直径15mmの円形に切り抜き、直径18mm、厚さ25μmの円形ポリプロピレン製多孔膜からなるセパレーターを介在させて、互いに活物質が対向し、外装容器底面に正極のアルミニウム箔または金属リチウムが接触するように配置し、さらに負極の銅箔または金属リチウム上にエキスパンドメタルを入れ、ポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼厚さ0.25mm)中に収納した。なお、電極の組み合わせは、製造した正極の試験のためには負極としてリチウム金属を使用し、製造した負極の試験のためには正極としてリチウム金属を使用した。
この容器中に電解液を、空気が入らないように注入し、ポリプロピレン製パッキンを介させて外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約2mmのコイン型電池を製造した。電解液はプロピレンカーボネート/エチルカーボネート/ジエチルカーボネート/ジメチルカーボネート/メチルエチルカーボネート=20/20/20/20/20(20℃での体積比)にLiPF6が1モル/リットルの濃度で溶解した溶液を用いた。
こうして製造したコイン型電池を用いて、電池の性能(充放電容量保持率)の評価を行った。結果を表1に示す。
【0055】
【表2】
Figure 0004389340
【0056】
【発明の効果】
本発明のバインダー組成物およびスラリーは、ポリマーとその他の成分とが均一に分散されていて長期間の保存安定性に優れている。このスラリーを集電体上に塗布して得られる電極は、活物質層がきわめて均一で、かつ集電体と活物質との接着性や活物質どうしの結着性が優れている。このため正極および負極の少くとも一方にこの電極を具えたリチウムイオン二次電池は、良好な充放電サイクル特性を有し、また大量生産にも適している。

Claims (4)

  1. 乳化剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムを用いて乳化重合されたゲル含量50%以上のポリマー、該ポリマー10重量部に対して1〜70重量部のエチレン−ビニルアルコール共重合体、および沸点が50℃〜350℃の液状物質を含有するリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物。
  2. 乳化剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムを用いて乳化重合されたゲル含量50%以上のポリマー、該ポリマー10重量部に対して1〜70重量部のエチレン−ビニルアルコール共重合体、沸点が50℃〜350℃の液状物質、ならびに、炭素質物質および複合金属酸化物の中から選ばれた少なくとも一種の活物質を含有するリチウムイオン二次電池電極用スラリー。
  3. 請求項2記載のスラリーを用いて製造されたリチウムイオン二次電池用電極。
  4. 正極および負極の少くとも一方に請求項3記載の電極を具えたリチウムイオン二次電池。
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