JP5088289B2 - 熱間圧延用ロールの評価方法 - Google Patents

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Description

本発明は、熱間圧延用ロールに係り、とくに熱間における耐疲労性の評価方法に関する。
近年、鋼板の熱間圧延技術の進歩は著しく、それに伴い、熱間圧延用ロールの使用環境は一段と苛酷化している。とくに最近では、高強度鋼板や薄肉製品など、熱間圧延負荷の大きな鋼板の生産量が増大している。このため、熱間圧延に使用される作業用ロールには、耐摩耗性や耐肌荒れ性、耐熱衝撃性等の向上が強く要求されてきた。このような要求に合致する熱間圧延用作業ロールの開発を促進する観点から、実操業状態を反映して、熱間圧延用ロールの耐摩耗性や耐肌荒れ性、耐熱衝撃性を簡便に評価する方法の確立が要望されていた。
従来、熱間圧延用作業ロールの耐摩耗性、耐肌荒れ性の検討は、図2に模式的に示す2円盤転がり滑り方式の熱間摩耗試験装置、あるいは図3に模式的に示す被圧延材を実際に圧延する小型ミル方式の熱間摩耗試験装置等が用いられていた。図2に示す方式の熱間摩耗試験装置では、試験片1に、加熱コイル14により加熱された相手片2を、油圧シリンダー17により荷重を負荷して押付けながら転動させて、試験片1の摩耗・肌荒れを測定する。一方、図3に示す方式の熱間摩耗試験装置では、加熱炉28で所定の温度に加熱された被圧延材26を、バックアップロール27,27と高圧接触した試験ロール25,25により圧延し、試験ロール25,25の摩耗・肌荒れを測定する。
図2に示す熱間摩耗試験装置では、試験片が軽量で取扱いが簡単で、試験材料も少量で済み、試験が容易であるという利点がある。しかし、相手片を高温に加熱するため、高負荷荷重下の試験では相手片が変形し、高いヘルツ応力下での試験ができないという問題があり、実操業における作業ロール(実機ロールともいう)の損耗挙動を推定することが困難となる。また、この試験装置では試験片に、実機ロールの表層に形成される疲労亀裂を発生させることが困難であるという問題があった。また、この試験装置では、試験片は相手片との転動のみで、実操業で常に発生するバックアップロールによる転動の影響を再現することができないという問題もある。
また、図3に示す熱間摩耗試験装置では、実際に被圧延材(鋼帯)を圧延し、またバックアップロールとの転動も有り、ある程度、実操業に近い状態で試験できるが、実操業における作業ロールの損耗状態を再現するためには、被圧延材(鋼帯)を多量に圧延する必要があり、簡便な試験とならないうえ、多量のスクラップが発生するという問題がある。また、被圧延材(鋼帯)を小さくしなければならないという制約から、試験条件の自由度も少ないという問題もある。
このような状況に鑑み、熱間圧延用作業ロールの開発を促進する観点から、実操業状態を反映して、熱間圧延用ロールの耐摩耗性や耐肌荒れ性を簡便に評価する方法の確立が要望されていた。
このような要望に対し、例えば特許文献1には、熱間ロール摩耗試験装置が記載されている。特許文献1に記載された熱間ロール摩耗試験装置は、図4に示すように、円盤状の試験片1と、該試験片1と円周面で接し転動可能に配設された円盤状の相手片2と、試験片1を挟んで該相手片2の反対側で該試験片1と円周面で接し転動可能に配設されたバックアップローラ3を有する3円盤方式の試験装置である。この試験装置では、試験片1と相手片2とバックアップローラ3とをそれぞれ円周面で接し、加熱コイル14で相手片2を加熱しながら、また冷却装置17で試験片1を冷却しながら、相手片2およびバックアップローラ3にそれぞれの荷重負荷装置を介して所定の荷重を負荷して転動させる。これにより試験片1に、熱間圧延ロールに発生する摩耗・肌荒れを再現よく発生させることが可能であるとしている。
特開2000−88728号公報
最近の熱延鋼板(圧延製品)には、更なる薄肉化、高強度化および高品質化が要望され、このため、熱間圧延における圧延負荷の増大は著しく、また生産性向上に伴う連続圧延量の増加など、熱間圧延条件は一層、厳しさを増し、熱間圧延用ロールの使用環境はますます苛酷化している。このような環境下で被圧延材を熱間圧延するに際し、熱間圧延用ロールの表面には、高温の被圧延材からの繰返し加熱、および、ロール転動方向に作用するすべり応力、ロール軸方向に作用するスラスト力とが繰返し作用し、さらにはバックアップロールからの繰返し転動応力が作用する。このような熱と応力の繰返し負荷により、ロール表面が疲労し、肌荒れ、さらには疲労亀裂発生・成長、表層の欠け落ちなど、疲労損傷が大きな問題となる。とくに、表層の欠け落ちが発生すると、疲労層を含めロール表面を余分に切削することを余儀なくされ、ロール寿命を大幅に低下させる原因となる。
しかし、上記したような既存の試験装置や試験方法では、このような疲労損傷を、再現よく発生させることができないため、実操業状態での熱間圧延用ロールの耐疲労性を再現よく評価できていないのが現状である。
この発明は、かかる従来技術の問題を有利に解決し、耐久性に優れた熱間圧延用ロールの開発を促進することができるように、実操業で多発する疲労損傷を、簡便に再現よく発生させることができ、実操業状態での熱間圧延用ロールの耐疲労性を再現よく評価できる、簡便な熱間圧延用ロールの評価方法を提案することを目的とする。
本発明者らは、上記した目的を達成するために、2円盤方式または3円盤方式の転動による摩耗試験で、実操業状態のロール表面に発生する疲労亀裂の発生・伝播(進展)をシミュレートする方法について鋭意検討した。その結果、2円盤方式または3円盤方式の転動による摩耗試験では、実操業におけるような被圧延材とロールとの面接触状態が再現できないため、ロール(円盤)表面に作用する応力、とくに亀裂の伝播(進展)に影響する応力が実操業状態とは大きく異なることになり、疲労亀裂を発生させることができないことに想到した。
本発明者らは、実操業状態の熱間圧延用ロール表面では、疲労亀裂は、大きな熱応力、摩擦力と剪断応力との作用で発生し、伝播(進展)していることを突き止めた。従来の2円盤方式または3円盤方式の転動による摩耗試験では、このような疲労亀裂を発生し伝播させるだけの大きな応力を印加することは困難であるという結論に達した。
そこで、本発明者らは、2円盤方式または3円盤方式の転動による熱間摩耗試験で使用する試験片を、試験片全厚にわたり、円周面に微小幅(0.2mm程度)で、深さ方向長さtmm,円周方向長さLmmの断面L字状を呈するスリットを、1個所以上に挿入した試験片とすることを思い付いた。このような試験片を用いることにより、転動時に、スリット先端に任意の大きな曲げ応力を繰返し作用させることができることを見出した。これにより、熱間摩耗試験で付加される熱サイクルによる熱応力やすべり摩擦力、転動疲労に加えて、大きな曲げ応力を摩耗面に加えることができ、さらに疲労亀裂の発生、さらには進展を容易にすることができることを知見した。
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
(1)円盤状の試験片に、少なくとも所定の温度に加熱された円盤状の相手片を、前記試験片の円周面に接して所定の荷重を負荷しながら押付け、かつ前記試験片を前記相手片との接触の入側および/または出側で冷却しながら、所定時間転動させて、前記試験片の損耗状態を調査するにあたり、前記試験片を、熱間圧延用ロール相当材製とし、かつ該試験片の全厚にわたり円周面に、深さ方向長さtmm,円周方向長さLmmの厚さ方向に垂直な断面でL字状を呈するスリットを少なくとも1つ挿入した試験片として、前記試験片のスリットが折損するまでの転動回転数を折損転動回転数として求め、前記熱間圧延用ロールの耐疲労性を評価することを特徴とする熱間圧延用ロールの評価方法。
(2)(1)において、前記スリットを、細線を用いた放電加工法で導入されたスリットとすることを特徴とする熱間圧延用ロールの評価方法。
本発明によれば、実操業中に熱間圧延用作業ロールに生じる、疲労亀裂の進展による損耗を再現良く発生させることができ、熱間圧延環境下での熱間圧延用作業ロールの耐疲労性の評価を簡便に行うことができ、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、耐疲労性に及ぼす組成、組織等の各種要因の影響を簡便に検討することができ、優れた耐疲労性を有する熱間圧延用作業ロールの開発が促進されるという効果もある。
本発明の熱間圧延用ロールの評価方法は、例えば、図2に示す2円盤方式の転動による摩耗試験装置を利用して行うことが望ましい。すなわち、本発明では、円盤状の試験片に、少なくとも所定の温度に加熱された円盤状の相手片を、試験片の円周面に接して所定の荷重を負荷しながら押付け、かつ試験片を相手片との接触の入側および/または出側で冷却しながら、所定時間転動させて、試験片の損耗状態を調査する。なお、使用する試験片は、熱間圧延用ロール相当材製とする。ここでいう熱間圧延用ロール相当材製とは、熱間圧延用ロール相当の組成を有し該熱間圧延用ロール製造工程相当の熱処理等を施されたもの、あるいは、熱間圧延用ロールから採取したもの等、が該当する。なお、「熱間圧延用ロール相当の組成を有し該熱間圧延用ロール製造工程相当の熱処理等を施す」には、熱間圧延用ロール相当の組成を有する溶湯を試験片形状に鋳込んだのち、該試験片に所望の熱処理等を施す場合も含むものとする。
本発明では、円盤状の試験片1と円盤状の相手片2とを用いて、円周面で接しながら転動させる。相手片2は、加熱手段(加熱コイル)14で所定の温度まで加熱されるとともに、所定の荷重で試験片1に押付けられる。なお、この際、試験片1は冷却装置17で、相手片2との接触の入り側および/または出側で冷却されている。加熱された相手片2との接触による加熱と冷却装置17による冷却とにより、熱間圧延時に作業ロールに負荷される熱履歴を再現可能にする。また、加熱された相手片2を所定の荷重で試験片1に押付けることにより、熱間圧延時に作業ロールに負荷される応力を再現可能にする。
そして、本発明で使用する試験片は、円周面に、少なくとも1つ、すなわち1つまたは複数の、スリットを有する試験片とする。スリットは、円周面で試験片の全厚に亘り導入される。試験片に導入されるスリットは、図1に示すように厚さ方向に垂直な断面(円盤面)で、深さ方向長さtmm,円周方向長さLmmの断面L字状を呈するものとする。なお、深さ方向長さtmm,円周方向長さLmmは、作業ロールの使用状況に応じて、適宜選択するものとする。60mmφ×10 mm厚の試験片を使用し、熱間圧延ミル後段用作業ロールを目的とした場合には、t:0.8〜2.0mm、L:0.5〜3.0mmとすることが好ましい。
また、異なった大きさの、断面L字状を呈するスリットを、円周面の複数箇所に導入することにより、1回で複数の条件の試験が可能となる。例えば、深さ方向長さtmmを一定にし、円周方向長さLmmを変化させることにより、熱的条件が同一で曲げ応力が異なる試験が可能となる。
なお、スリットの導入は、加工性の観点から、細線を用いた放電加工法で行うことが好ましい。ここで、細線とは、径が0.1〜0.5mmφのワイヤ(W線,Mo線、真鍮線、鋼線あるいは銅線)をいう。また、スリットの導入は、一般的な機械加工によっても可能であるが、ロール材は一般に硬く加工性に欠けるため、加工工数が多くなり、かえって加工コストが高騰するという問題がある。
本発明では、試験片に導入されたスリットと円周面に囲まれた領域が、スリットの先端部近傍の円周面表面から発生したき裂が進展し、折損するまでの転動回転数を折損転動回転数として、試験片損耗状態の評価基準とし、耐疲労性を評価する。折損するまでの転動回転数が多いほど耐疲労性が優れるとする。本発明で使用する試験片では、熱負荷や相手材とのすべり転動によりスリットの先端部近傍の円周面表面に最大の繰返し応力(繰返し曲げ応力)が作用する。このため、上記した試験片を使用して、2円盤方式または3円盤方式の転動による熱間摩耗試験を行うことにより、熱間圧延環境下で熱延作業ロールに作用する、熱サイクル、転動応力、すべり摩擦力等を再現でき、実操業状態(熱間圧延環境下)で、熱間圧延用作業ロールの耐疲労特性が調査可能となる。
なお、試験片の折損は、トルク変化等をモニターしたり、所定時間ごとに試験を中断して試験片外観の直接観察を利用することが好ましい。
熱間仕上圧延後段圧延機用として実際に使用されている熱間圧延用複合ロールのロール外層材相当組成の溶湯を、高周波炉で溶解したのち、肉厚:35mmのY型キールブロックに注湯し、試験用鋳物とした。得られた試験用鋳物に、さらに実機ロール相当の焼入れ焼戻処理を施し、試験材とした。なお、使用したロール外層材相当組成は、すでに実機ロールとして熱間仕上圧延後段圧延機で使用されて、ロール寿命の評価が確立されている、組成A、組成B、および組成Cの3種とした。実機ロールとして、組成Bのロールの寿命は、組成Aのロールに比べて約1.2倍程度、組成Cのロールの寿命は、組成Aのロールに比べて約1.5倍程度優れていることが確認されている。
得られた試験材から、疲労試験片(外径60mmφ×幅10mm)を採取して、図1に示す形状の断面L字状のスリットを複数(4個)導入し、熱間転動疲労試験を実施した。なお、導入したスリットは、0.2mmφのワイヤを用いた放電加工(ワイヤカット)法で、試験片の円周面で全厚に亘り、厚さ方向に垂直な断面で断面L字状を呈するように、深さ方向長さt:1.1mmとし、円周方向長さLを、0.8mm、1.1mm、1.4mm、1.8mmの4種に変化したスリットとした。このようにスリットの円周方向長さLを変化することにより、スリット先端部と円周面表面との間に作用する最大曲げ応力は、270MPa、371MPa、472MPa、607MPaとなる。なお、疲労試験片の転動面の端部にはスリット導入前に1cの面取り加工を施した。
図2に示す2円盤式熱間摩耗試験機を利用して、試験片(疲労試験片)を水冷しながら243rpmで回転させ、回転する該試験片に、800℃に加熱した相手片(材質:S45C、外径:190mmφ、幅:10mm、面取り有)を荷重980Nで圧接させながら、すべり率:9%で転動させた。なお、転動疲労試験は、疲労試験片に導入した4個のスリット導入部が全て折損するまで相手材を更新しながら転動させ、各スリットの折損時までの転動回数を求めた。なお、スリットを導入した部位の折損は、トルク変化で確認した。また、相手片を試験中20分ごとに更新し、その際、試験片外観を観察して折損の有無を確認した。折損が認められない場合には最大40分まで相手片の更新は行わなかった。
得られた結果を図5に示す。
図5から、本発明の評価方法で得られた耐疲労特性は、組成Cが最も優れ、次が組成Bで、組成Aがもっとも低下していることがわかる。これは、実機でのロール寿命の評価に対応しており、本発明の評価方法が実機における作業ロールの耐疲労特性を良く再現できていることを示していることになる。
本発明で使用する試験片に導入されるノッチの形状を、模式的に示す、厚さ方向に垂直な断面図である。 2円筒式方式の熱間摩耗試験装置の一例を模式的に示す説明図である。 熱間摩耗試験装置の一例を模式的に示す説明図である。 3円筒方式の熱間ロール摩耗試験装置の一例を模式的に示す説明図である。 実施例で得られた疲労試験結果を示すグラフである。
符号の説明
1 試験片
14 加熱コイル
15 温度計
16 冷却装置
17 油圧シリンダー
2 相手片
25 試験ロール
26 コイル(被圧延材)
27 バックアップロール
28 加熱炉
29 水槽
30 張力調整器
3 バックアップローラ

Claims (2)

  1. 円盤状の試験片に、少なくとも所定の温度に加熱された円盤状の相手片を、前記試験片の円周面に接して所定の荷重を負荷しながら押付け、かつ前記試験片を前記相手片との接触の入側および/または出側で冷却しながら、所定時間転動させて、前記試験片の損耗状態を調査するにあたり、前記試験片を、熱間圧延用ロール相当材製とし、かつ該試験片の全厚にわたり円周面に、深さ方向長さtmm,円周方向長さLmmの厚さ方向に垂直な断面でL字状を呈するスリットを少なくとも1つ挿入した試験片として、前記試験片のスリットが折損するまでの転動回転数を折損転動回転数として求め、前記熱間圧延用ロールの耐疲労性を評価することを特徴とする熱間圧延用ロールの評価方法。
  2. 前記スリットを、細線を用いた放電加工法で導入されたスリットとすることを特徴とする請求項1に記載の熱間圧延用ロールの評価方法。
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