近年、高電圧電源を用いた放電を利用してオゾン発生器、レーザ発振器などが製造されている。レーザは各種材料の加工、計測、光通信、手術、兵器などに使われ、また強い酸化力を持つオゾンは半導体関連の酸化処理工程などに利用されている。
オゾン発生器などの放電発生装置に使用される放電プラズマの因子としては、(1)電極の形状・構造、(2)印加電圧波形、(3)電子のエネルギー分布、(4)放電の形態などが挙げられる。従来の産業応用や環境応用で利用されている放電発生装置の放電形態は、弱電離プラズマの一つである熱的非平衡放電であり、高エネルギーの電子を生成しガス分子(中性粒子)との衝突解離を利用した化学反応や、分子およびイオンの脱励起に伴い発生する放電光の利用に用いられている。
オゾンは、上述した熱的非平衡放電によって生成した熱的非平衡プラズマ中に、乾燥空気や酸素などの酸素を含有するガスを通すことにより生成することができる。熱的非平衡プラズマは、プラズマのガス温度が低いために、放電の際に発生する熱によるオゾンの再分解を防ぐことができることから、オゾンの生成に好適に用いられる。
このような熱的非平衡プラズマは、コロナ放電に代表される無声放電、ストリーマ放電などにより生成される。これらの放電形態は、電極の形状や構造、および電極間に印加する電圧の種類により異なり、適用分野によって最適なものを選択することができる。
無声放電方式の放電発生装置においては、高電圧電極と接地電極の放電ギャップ間にアーク放電が発生すると、電極材料の一部が蒸発して気体となって電極が損傷する、蒸発した電極材料の一部が再凝縮して装置内部が汚染されるといった問題が生じる。そこで、これを防止するために、高電圧電極と接地電極間の放電ギャップ間に融点の高い誘電体磁器からなる放電用電極部材を介在させることが行われている。
従来のオゾン発生器の一例を図1に示す。高電圧電極10と接地電極11は放電ギャップ12が形成されるように並設され、このギャップ間に高圧交流電源14より発生させた例えば10数kVの高電圧を印加して微小放電柱15の集合体である無声放電を発生させ、酸素含有ガス16を分解しオゾン17を得る。ここで、誘電体磁器からなる放電電極用部材13を前記放電ギャップ12間に介在させることにより、アーク放電を防止する効果を持たせている。
しかし、無声放電方式は消費電力に対するガスの生成ならびに分解効率は理論値に比べて低く、残りの電力は前記誘電体磁器による誘電損失や放電熱などの熱放出により消費される。特に誘電損失の大きい、即ちQ値の小さい誘電体磁器からなる放電用電極部材では、電力が誘電損失による熱の発生に替わるために、前記分解効率が低い傾向がある。
また、ストリーマ放電方式を用いた放電発生装置の応用例として、特許文献1に記載されたオゾン発生装置がある。この装置は、放電ギャップを介して対向配設された高圧電極、および放電電流の集中を抑制しアーク放電への転移を防ぐために誘電体磁器からなる放電用電極部材で構成された接地電極間に、急峻でかつパルス全幅の短い、急峻・短パルス電圧を印加することにより、ストリーマ放電を生起させてオゾン生成を行うものである。さらに、特許文献2ならびに特許文献3に記載されたオゾン発生器では、急峻・短パルス発生電源に加えて種電子発生装置を組み合わせることにより、緻密なストリーマ放電を発生させている。
このストリーマ放電では、急峻・短パルス電圧の利用により、オゾン生成に寄与する電子のエネルギーのみを高くし、ガス分子やイオンに与えるエネルギーを低く抑えることが可能となる。これにより、オゾンの分解を抑え、無声放電方式に比べて効率のよいオゾン生成が可能となるとされている。
また、オゾン発生用電極の材料は、強い酸化力を持つオゾンに暴露されるので、耐酸化性を有する材料でなければならない。例えば、Ag、Ni、Mo等の金属またはこれらの合金からなる材料は酸化されてしまい、使用できない。また、オゾンで酸化されにくいPtは非常に高価であるという問題がある。このため、オゾン発生器の放電用電極部材としては、例えば、特許文献4では、金属電極上に溶射により耐オゾン性を有するAl2O3などの比誘電率が5以上の誘電体コーティング膜を形成したものが開示され、さらに、特許文献5には、無機質金属酸化物ゾルにチタン酸バリウムウィスカーを混入してゾルゲル法により金属電極表面に100μm以上の厚い絶縁皮膜を形成し、耐オゾン性を高めたものが開示されている。
また、特許文献6には、多孔質からなる電極基材と、白金族元素の酸化物および白金族元素を含む合金の内いずれか一つからなる複合組成物を含み、前記電極基材を被覆する電極触媒とを有するオゾン発生用電極が開示されている。
特開平11−209105号公報(第3−4頁、第1図)
特開昭62−123003号公報(第2頁、第1図、第3図)
特開昭62−275004号公報(第2頁、第1図、第3図)
特開2001−294406号公報(第12頁、第1図、符号1)
特開2002−167202号公報(第4−6頁)
特開2002−80986号公報(第9頁、第1図、符号1)
以下、本発明について詳述する。本発明の放電用電極部材はセラミックス多結晶体からなり、結晶相としてCaTiO3およびMgTiO3からなる結晶を含有し、粒界層の厚みが20nm以下であることが重要である。
本発明の放電用電極部材が結晶相としてCaTiO3およびMgTiO3からなる結晶を含有することが重要である理由は次の通りである。
一般にCaTiO3はMgTiO3とは固溶しにくい。そのため、焼結体中にCaTiO3からなる結晶とMgTiO3からなる結晶が混在する場合は、MgTiO3からなる結晶がCaTiO3からなる結晶に対して転位をピン止めする作用を奏し、耐絶縁耐破壊性、耐放電スパッタ性を向上させることができると考えられる。なお、ここで「ピン止め」とは、結晶中の転位の伝搬を抑制する作用のことをいう。
前記ピン止め効果は次のようなメカニズムによって起こると考えられる。
一般的に絶縁破壊はCaTiO3結晶の誘電現象の機構に起因する。即ち、絶縁性を有するCaTiO3結晶に電圧を印加して内部に電界を生じさせると、結晶内部で電界の向きに沿った分極が起こり電位差を持つ。これが誘電性を発現する仕組みであり、金属酸化物は通常、電界強度に対する分極の度合いが大きいため、一般に比誘電率の大きな材料となり得る。その一方で、結晶内部の分極は結晶の歪みを伴い、結晶界面に応力を誘発する。
結晶界面に発生する応力は、分極の度合いが大きいほど(=比誘電率が大きいほど)高い。結晶内部の分極によって生じた結晶歪み応力によって結晶粒界に亀裂が生じ、それが徐々に進展し、ついには絶縁破壊する。
前記亀裂を抑制するためには、比誘電率の高いCaTiO3結晶界面で発生する応力に伴って生じる転位をピン止めできる作用を有する結晶を前記結晶界面に存在させることが望ましい。この作用を有する結晶相がMgTiO3である。
本発明の放電用電極部材にMgTiO3からなる結晶相を含有させることにより、分極により生じたCaTiO3結晶粒界の亀裂はその進展を抑制され、絶縁破壊を起こしにくくなって機械的強度が向上する。
また、本発明の放電用電極部材に含まれる結晶は、ラメラ構造を有する結晶であることが耐絶縁性を向上させるために望ましい。特に前記CaTiO3からなる結晶がラメラ構造を有することが望ましい。ここで言うラメラ構造とは、高分子化合物において一般的に見られるような規則性を持った構造だけではなく、結晶内部の層構造が不規則性を持ってランダムに配向している構造をも含んでいる。この構造は後述する本発明の誘電体磁器の製造方法により得ることができる。
前記ピン止めの作用効果を発現させるためには、前記粒界層の厚みを20nm以下とすることが重要である。それは、粒界層の厚みが20nmを越えると、粒界が起点となって絶縁破壊が起こりやすくなるため、耐絶縁性が低下すること、また、耐オゾン性の低い粒界からの浸食により、オゾンに対する耐食性が低下すること、の2つの理由による。
前記粒界層の厚みは、平均の粒界層厚みを意味する。望ましくは前記粒界層の平均厚みが10nm以下、特に望ましくは3nm以下、最も望ましくは1nm以下である。また、実質的に粒界層が存在しない場合においても前記ピン止めの作用効果により、耐絶縁性を著しく向上させることができる。
また、粒界層の厚みを20nm以下とすることにより、オゾン発生器における電力利用効率を向上させることができるが、その理由は次のように考えられる。
高周波電源や直流電源から放電用電極部材を介して放電空間にプラズマを発生させる場合、電気エネルギーの一部が放電用電極部材の誘電損失によって熱エネルギーに変わるため、電力利用効率が低下する。電力利用効率を向上させるためには、放電用電極部材の誘電損失を小さくする必要がある。本発明の放電用電極部材においては、粒界層の厚みが20nm以下の場合に誘電損失を小さくすることができるため、電力利用効率を向上させることできる。
また、本発明の放電用電極部材の気孔率は5%以下とすることが望ましい。これは、気孔率が大きいと、特に結晶粒界に気孔が集中して存在し、その結果前記ピン止めの作用効果が低減し結晶界面を基点として絶縁破壊が起こりやすくなるからである。耐絶縁性を向上させるためには、前記気孔率は2%以下が望ましく、1%以下が特に望ましく、0.3%以下が最も望ましい。
また、本発明の放電用電極部材に含まれる粒界層は、非晶質であることが望ましい。粒界層が非晶質でない場合、結晶粒子間の接合強度が弱くなり、その結果絶縁破壊しやすくなるためである。
さらに、本発明の放電用電極部材は、MgをMgO換算で1〜15重量%含有することが望ましい。これにより、オゾン発生器の放電プラズマを安定させることができる。その理由は次のように考えられる。
オゾン発生器の高周波電源から放電用電極部材を介して放電空間にプラズマを発生させる場合、放電用電極部材の比誘電率をεrとすると、放電用電極部材の内部では電磁波の波長がおよそ1/εr1/2に短縮される。放電用電極部材のεrが大きいと、放電用電極部材を伝搬する電磁波の波長が短くなり、磁界エネルギーを放電用電極部材に集中させた後、放電することができるためプラズマの放電が安定する。したがって、放電プラズマを安定させるためには、放電用電極部材のεrは大きい方が好ましい。
本発明の放電用電極部材においては、Mg量が少ないほどεrが大きくなるため、放電プラズマを安定させるためには、Mg量が少ないほうが望ましい。しかし、Mg量がMgO換算で1重量%未満であると前記ピン止めの効果が小さくなり、耐絶縁破壊性の向上が抑えられる。また、逆に15重量%を越えるとMgを含む粒子のクラスター化によって亀裂進展の経路が増加し、耐絶縁破壊性の向上が著しくなくなる。よって、Mgの含有量は、MgO換算で3重量%〜12重量%がより望ましい。
本発明の放電用電極部材に含まれるCaTiO3結晶およびMgTiO3結晶の存在は、例えばX線回折法、または透過型電子顕微鏡による制限視野電子回折像解析、微小X線回折法などにより確認することができる。
また、本発明の放電用電極部材に含まれるMgの含有量は、ICP発光分光分析法により定量分析し、MgO量に換算する。
また、前記粒界相の厚みは例えば透過型電子顕微鏡を用いた格子像観察により測定する。具体的には、例えば、誘電体磁器をTechnoorg Linda製イオンシニング装置を用いて加工した後、JEOL社の透過型電子顕微鏡JEM2010FおよびNoran Instruments社のEDS分析装置VoyagerIVを用いて、本発明の放電用電極部材に含まれるCaTiO3、MgTiO3からなる結晶の存在、結晶の粒界層の厚みを測定、分析する。
前記粒界層の厚みは、10箇所以上無作為に粒界層を選びこれらの粒界層厚みの平均値として算出する。
また、本発明の放電用電極部材は、放電時における亀裂進展が進行して絶縁破壊に至ることを抑制するために、Si、Mn、Ni、CeおよびCrのうち少なくとも1種をそれぞれSiO2、MnO2、NiO、CeO2およびCr2O3換算で合計0.01〜5重量%含有することが望ましい。本発明の放電用電極部材中にSi、Mn、Ni、CeおよびCrのいずれかが含有される場合、その存在量はICP発光分光分析法により測定し、それぞれSiO2、MnO2、NiO、CeO2およびCr2O3の重量%に換算する。
これらを含有することにより、放電時に亀裂進展の進行を抑制することができる理由は、これらがMgTiO3からなる結晶粒子内に固溶し、前記ピン止めの作用を向上させるためである。これらの含有量は合計で0.01重量%〜5重量%にあるのが望ましい。0.1重量%以下では、亀裂進展を抑制する効果が乏しく、逆に、5重量%を超えるとこれらの元素がMiTiO3からなる結晶粒子に対する固溶できなくなり、これらの元素が粒界層に析出して、粒界層の厚みを20nmよりも厚くしてしまうという問題があるためである。
また、本発明の放電用電極部材は、小型でかつ耐絶縁破壊性を向上できるという観点から比誘電率が80〜190であることが望ましい。特に望ましくは比誘電率が110〜160である。
本発明の放電用電極部材の製造方法は具体的には、例えば以下の工程(1a)〜(5a)から成る。
(1a)出発原料として、高純度の炭酸マグネシウムおよび酸化チタンの各粉末を用いて、所望の割合となるように秤量後、純水を加え、混合原料のメジアン径が2.0μm以下、望ましくは0.6〜1.4μmとなるまで、ジルコニアボールなどを使用したボールミルにより湿式混合及び粉砕を行い混合物を得る。なお、メジアン径とは、粒子体の1つの集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、そのカーブが50%となる点の粒子径(累積粒子径)を指す。この混合物を乾燥後、900〜1100℃で1〜10時間仮焼する。この仮焼粉をメジアン径で0.6μm以下となるように粉砕し、粉砕粉Aを得る。
(2a)出発原料として、平均粒径2μm以下の高純度の炭酸カルシウム、および平均粒径2μm以下の酸化チタンの各粉末を用いて、所望の割合となるように秤量後、純水を加え、混合原料のメジアン径が1.0μm以下、望ましくは0.3〜0.8μmとなるまで、ジルコニアボールなどを使用したボールミルにより湿式混合及び粉砕を行い混合物を得る。この混合物を乾燥後、900〜1100℃で1〜10時間仮焼、仮焼物Bを得る。
(3a)得られた粉砕粉A、仮焼粉BおよびSiO2、MnO2、NiO、CeO2およびCr2O3のうち少なくとも1種を混合し、純水を加え、メジアン径が0.3〜0.6μmとなるまで、ジルコニアボールなどを使用したボールミルにより湿式混合及び粉砕を行う。
(4a)更に、3〜10重量%のバインダーを加えてから脱水し、その後公知の例えばスプレードライ法などにより造粒または整粒し、得られた造粒体又は整粒粉体などを公知の成型法、例えば金型プレス法、冷間静水圧プレス法、押し出し成形法などにより電極部材を得るための形状に成形する。なお、造粒体又は整粒粉体などの形態は粉体などの固体のみならず、スラリーなどの固体、液体混合物でも良い。この場合、液体は水以外の液体、例えばIPA(イソプロピルアルコール)、メタノ−ル、エタノ−ル、トルエン、アセトンなどでも良い。
(5a)得られた成形体を大気中1250℃〜1350℃で5〜10時間保持後、700℃までを降温速度5〜90℃/時間で降温して焼成する。望ましくは、前記降温速度が15〜30℃/時間である。
上述の製造方法において、特に出発原料、粉砕粉の粒径制御および焼成条件制御が重要であり、これによって粒界層が20nm以下の放電用電極部材を得ることができる。粒界層の厚みを20nm以下に制御するためには、特に、粉砕物Aのメジアン径を小さくすること、前記(3a)におけるメジアン径を制御すること、および前記降温速度を上述の範囲内で一定に降温することが重要である。
また、本発明の放電用電極部材の粒界層を非晶質とするためには、前記純水中のSiイオン濃度が1〜10ppmであることが望ましい。前記Siイオン濃度を1〜10ppmとすることにより、本発明の放電用電極部材の粒界層を少なくともSiを含有する非晶質粒界層とすることができる。この非晶質粒界層は非常に高い絶縁性および耐オゾン性を有するため、耐絶縁性および耐オゾン性が特に優れた放電用電極部材を得ることができる。
また、上述の製造方法において、得られる焼結体の気孔率を5%以下にするには、例えば前記成形体の密度を前記焼成体の密度に対して55%以上、望ましくは65%以上とすればよい。
次に、本発明の他の実施形態について説明する。
本発明の放電用電極部材はAlをAl2O3換算で99重量%以上含有する焼結体で形成することもできる。前記焼結体はAlの酸化物からなる。AlをAl2O3換算で99重量%以上含有するのは、99重量%未満であると、不純物がAl2O3からなる結晶粒子に固溶して結晶粒子自体の耐オゾン性が低下したり、不純物が結晶粒界に存在することによって結晶粒界のオゾンに対する耐食性が低下したりするからである。
例えば、Si、Ca、Mgなどの不純物が合計で1重量%よりも多く存在すると、これらは焼結中に結晶粒界に液相を形成して液相焼結しガラス相となる。この場合、ガラス相からなる粒界層がオゾンによって腐食される。Alの含有量はAl2O3換算で、好ましくは99.4重量%以上であり、特に好ましくは99.8重量%以上であり、最も好ましくは99.9重量%以上である。また、粒界層の厚みは20nm以下であることが、耐オゾン性を向上させるために望ましい。
粒界層の厚みは上述の方法と同様にして測定する。また、Al2O3以外の成分としては、例えばSiO2を0.03%、Fe2O3を0.01%、Na2Oを0.02%程度含んでいる。
また、この焼結体は次のような製造方法によって作製することができる。
原料として、Al量がAl2O3換算で99重量%以上の高純度の酸化アルミニウム粉末を用いる。この粉末に溶媒として純水を加え、メジアン径が0.5〜2μmとなるまで、ジルコニアボールなどを使用したボールミルにより湿式粉砕する。この粉砕物に有機バインダーを加えた後、公知の、例えば噴霧乾燥法より造粒する。この造粒物を公知の成型法、例えば金型プレス法、冷間静水圧プレス法、押し出し成型法などにより、電極部材を得るための形状に成形する。得られた成形体を、大気中400〜800℃で1〜20時間保持し、有機バインダーを除去した後、大気中1750〜1900℃で2〜30時間焼成する。
次に、上述した本発明の、CaTiO3およびMgTiO3を含有する放電用電極部材と、99重量%以上のAl2O3を含有する放電用電極部材の両方に共通する事項について説明する。
本発明の放電用電極部材に含まれるNa量はNa2O換算で0.5重量%以下であることが、耐オゾン性を特に向上させるために望ましい。Naが少ないと耐オゾン性が向上する理由は次の様に考えられる。すなわち、Naが0.5重量%よりも多いと粒界層にNaを含む化合物が析出し、この化合物がオゾンに腐食されることによって放電用電極部材にクラックが入ったり、破壊したりしやすくなる。Naが0.5重量%よりも少ないとNaを含む化合物が粒界層に析出しにくくなるため、耐オゾン性を向上させることができると考えられる。特に望ましくはNaがNa2O換算で0.1重量%以下であることが望ましい。
また、本発明の放電用電極部材が基板形状を有する場合、前記基板形の電極部材の厚さは1〜20mmであることが望ましい。基板形電極部材の厚さが1mm未満であると耐絶縁破壊性の向上が著しくなく、20mmを越えると放電時の亀裂の進展を抑制する効果が著しくないからである。
前記基板の辺長さ、または径に対する基板厚みの比率は、0.003〜0.15の範囲とすることが望ましい。その理由は前記比率が0.003未満であると絶縁破壊性の向上が著しくなく、またガスに対する気密性の向上が著しくないからである。逆に、比率が0.15よりも大きいと放電時の亀裂の進展を抑制する効果が十分ではない恐れがある。なお、前記辺長さまたは径とは、正方形の場合は一辺の長さ、長方形の場合は短辺の長さ、円の場合は直径、その他の形状の場合は基板の面積を円の面積に換算した時の直径を用いる。
また、前記基板形の電極部材は、コーナー部が曲率半径1〜50mmの円弧状(R)または辺長さが1〜50mmの面取り形状(C面)を有するのが望ましい。その理由は、前記コーナー部を曲率半径1〜50mmのRまたは1〜50mmのC面とすることにより、放電時にコーナー部への放電エネルギーの集中を緩和させて著しく耐絶縁性を向上させることができるからである。望ましくは前記曲率半径および前記C面の下限値は3mmが望ましく、上限値は25mmが望ましい。なお、前記曲率半径とはRの平均曲率半径を意味する。
本発明の放電用電極部材に電極を形成する場合は、前記放電用電極部材の上に例えばPt、Ag−Pd、Auなどの金属をメッキ、焼き付け、蒸着、スパッタリングなどにより形成する。放電する場合は、このようにして金属電極を取り付けた電極部材を一対形成し、電極間にガスを流した状態で電圧を印加すればよい。
本発明の放電用電極部材は、オゾン発生器用の放電用電極部材として特に好適に用いられる。また、本発明の放電用電極部材はオゾン発生器の放電電力値が1kV以上の場合に好適に用いられる。
次に本発明の電極部材がオゾン発生器用として好適な理由について例を挙げて説明する。
本発明のオゾン発生器は、一対の電極が互いに対向して配置されたオゾン発生器において、前記電極の少なくとも一方に前記放電用電極部材を取り付けられてなる。
図1は本発明の放電用電極部材を用いた無声放電によるオゾン発生器の概略図である。図1において、高電圧電極10と接地電極11は放電ギャップ12が形成されるように並設し、アーク放電を防止するための放電用電極部材13を前記放電ギャップ12間に介在させている。前記放電ギャップ12間に高圧交流電源14より発生させた、例えば10数kVの高電圧を印加することによって、微小放電柱15の集合体である無声放電を発生させて、前記放電ギャップ12中の酸素含有ガス16(空気など)をイオン化し、オゾン17を発生させることができる。
また、図2は本発明の放電用電極部材を用いたストリーマ放電方式のオゾン発生器の概略図である。まず、円筒状とした本発明の放電用電極部材26の内側の空隙部27に高電圧電極28を挿入する。また、放電用電極部材26を冷却するために、その周囲には冷却水20が存在している。この冷却水20は、放電用電極部材26と接触し接地側電極を兼用している。この高電圧電極28と冷却水20間にインパルス電源29が接続されている。
この空隙部27に原料ガス21(酸素または空気)が供給され、インパルス電源29より、急峻でかつパルス全幅の短い急峻・短パルス電圧が印加される。これにより、放電ギャップを介して対向配設された高電圧電極28と放電用電極部材26の間の放電空間23にストリーマ放電が形成され、原料ガス21が分解しオゾン22が生成する。ここで、放電用電極部材26に本発明の放電用電極部材が用いられているため、放電電流の集中を抑制し、アーク放電への転移を防ぐことができる。これにより、濃度の高いオゾン22を生成することが可能となる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更は何等差し支えない。
実施例1
以下の(1b)〜(5b)に示すように本発明の放電用電極部材を作製した。
(1b)出発原料として、高純度の炭酸マグネシウムおよび酸化チタンの各粉末を用いて、炭酸マグネシウムと酸化チタンを51.351対48.649の重量比で秤量後、純水を加え、混合原料のメジアン径が0.6〜1.4μmとなるまで、ジルコニアボールなどを使用したボールミルにより5〜30時間、湿式混合及び粉砕を行い混合物を得た。この混合物を乾燥後、1000℃で5時間仮焼した。この仮焼粉をメジアン径で0.5μmとなるようにジルコニアボールを用いて粉砕し、粉砕粉Aを得た。
(2b)出発原料として、平均粒径2μm以下の高純度の炭酸カルシウム、および平均粒径2μm以下の酸化チタンの各粉末を用いて、炭酸カルシウムと酸化チタンを55.615対44.385の重量比で秤量後、純水を加え、混合原料のメジアン径が1.0μm以下、望ましくは0.3〜0.8μmとなるまで、ジルコニアボールなどを使用したボールミルにより10〜40時間、湿式混合及び粉砕を行い混合物を得た。この混合物を乾燥後、900〜1100℃で1〜10時間仮焼、仮焼物Bを得た。
(3b)得られた粉砕粉A、仮焼粉Bを、MgTiO3およびCaTiO3換算で合計100重量部とした場合、MgTiO3が3〜12重量%となるような混合比率で混合し、さらに、SiO2、MnO2、NiO、CeO2およびCr2O3のうち少なくとも1種を前記粉砕粉A、仮焼粉Bの混合物に対して合計で1重量%添加した。これに、純水を加え、メジアン径が0.3〜0.5μmとなるまで、ジルコニアボールなどを使用したボールミルにより5〜40時間、湿式混合及び粉砕を行った。なお、純水中のSiイオン濃度は2〜5ppmであった。
(4b)更に、5重量%のバインダーを加えてから脱水し、スプレードライ法により造粒し、得られた造粒体を粉末プレス法により板形状に成形した。
(5b)得られた成形体を大気中1250℃〜1350℃で6時間保持後、700℃までを平均降温速度30℃/時間で降温して焼成し、図3に示す厚み2〜8mmの本発明の放電用電極部材30を得た。
この放電用電極部材をX線回折法により測定した結果、結晶相としてJCPDS No.6−0494のMgTiO3、JCPDS No.42−0423および/または22−0153のCaTiO3が検出された。また、本発明の放電用電極部材をTechnoorg Linda製イオンシニング装置を用いて加工した後、JEOL社の透過型電子顕微鏡JEM2010FおよびNoran Instruments社のEDS分析装置VoyagerIVを用いて、CaTiO3、MgTiO3からなる結晶の存在、結晶の粒界層の厚みを測定した。その結果、全ての試料においてCaTiO3、MgTiO3からなる結晶の存在が確認され、粒界層の平均厚みが5nm以下であることが明らかとなった。
なお、粒界層の厚みは、粒界層10箇所を無作為に選んで測定した。また、粒界層は非晶質で、結晶粒子内部よりもCa、Zr、Siの存在比率が高くなっていた。図4および5に本発明の放電用電極部材の結晶写真の模式図を示す。図4の41はラメラ構造を有するCaTiO3からなる結晶粒子を示す。また図5は図4中の結晶粒子41および別の結晶粒子42の境界部の拡大図であり、43は粒界層であり厚みは0.5nmとなっている。
さらに、Mg量およびCa量をICP発光分光分析法で測定し、Mg量をMgTiO3量に換算、CaをCaTiO3量に換算し、得られたMgTiO3量とCaTiO3量を合計で100重量%となるように重量%に換算したところ、全ての試料においてMgTiO3量が3〜12重量%であることが確認された。
また、本発明の放電用電極部材の閉気孔率をベックマン法により求めた真比重とアルキメデス法により求めた見掛け比重とから計算したところ全て3%以下であった。
また、本発明の放電用電極部材の比誘電率をブリッジ法により1MHzで測定したところ80〜180であった。
次にオゾン発生器用の陽極を次のように作製した。得られた基板形状の放電用電極部材の片面をテープによってマスキングし、他方の表面に白金の電気メッキを行なって、皮膜厚さ3μmの白金からなる中間層を形成して、白金下地処理を施した。次いで80℃、1.5A/dm2の電流密度の条件で前記中間層に電気メッキを施して、中間層の白金上に白金−クロムメッキ層を形成し、さらに550℃の温度で酸素30%−窒素70%雰囲気中、ガス流量200mL/minで熱処理を行った。
こうして得られた陽極と陰極であるPt電極とを用いて図1に示すオゾン発生器を作製した。誘電体基板の形状500×500×5mm、原料ガス圧0.253MPa、放電電力密度5W/cm2、電源周波数15kHz、放電空隙長0.1mmの運転条件で200時間オゾン発生試験を行った。その結果、発生したオゾン濃度は200〜300g/m3となった。オゾン発生試験後、電極部材として用いた誘電体基板を観察した結果、クラック、亀裂は観察されなかった。また、放電プラズマ中には、アーク放電が起こらず安定であった。
比較例として、以下の(1c)〜(5c)で示される方法により誘電体基板を作製した。この方法により形成された誘電体基板の結晶相間の粒界層の平均厚みは20nmよりも大きく、気孔率が5%を越えていた。この誘電体基板を用いて、実施例と同様に200時間オゾン発生試験を行った後、誘電体基板を観察したところ、すべての試料においてクラックやピンホールが観察された。このクラックは主に粒界層を起点として発生していることが確認された。また、このクラックが起点となって発生したアーク放電が観察された。
(1c)出発原料として、高純度の炭酸マグネシウムおよび酸化チタンの各粉末を用いて、所望の割合となるように秤量後、純水を加え、混合原料のメジアン径が1.5〜2.0μmとなるまで、ジルコニアボールなどを使用したボールミルにより湿式混合及び粉砕を行い混合物を得た。この混合物を乾燥後、1000℃で5時間仮焼した。この仮焼粉をメジアン径で1.0μmとなるように粉砕し、粉砕粉Cを得た。
(2c)出発原料として、平均粒径2μm以下の高純度の炭酸カルシウム、および平均粒径2μm以下の酸化チタンの各粉末を用いて、所望の割合となるように秤量後、純水を加え、混合原料のメジアン径が1.2〜1.5μmとなるまで、ジルコニアボールなどを使用したボールミルにより湿式混合及び粉砕を行い混合物を得た。この混合物を乾燥後、900〜1100℃で1〜10時間仮焼、仮焼物Dを得た。
(3c)得られた粉砕粉C、仮焼粉Dを20対80の重量比で混合し、さらに、NiOを前記粉砕粉C、仮焼粉Dの混合物に対して1の重量比で添加した。これに純水を加え、メジアン径が0.8〜1.0μmとなるまで、ジルコニアボールなどを使用したボールミルにより湿式混合及び粉砕を行った。
(4c)更に、5重量%のバインダーを加えてから脱水し、スプレードライ法により造粒し、得られた造粒体を粉末プレス法により板形状に成形した。
(5c)得られた成形体を大気中1250℃〜1350℃で6時間保持後、700℃までを平均降温速度200℃/時間で降温して焼成し、図3に示す厚み2〜8mmの放電用電極部材を得た。
実施例2
Na2O量が0.3重量%で、Al量がAl2O3換算で99%以上の高純度の酸化アルミニウム粉末を用い、ジルコニアボールを使用したボールミルによりメジアン径0.8〜1.2μmとなるよう湿式粉砕した。この粉砕物に有機バインダーを加えた後、噴霧乾燥法より造粒した。この造粒物を粉末プレス法により350×170×20mmの形状に成形し、有機バインダーを500℃で除去した後、1800℃で10時間焼成した。得られたAl2O3焼成体の両面を研磨し280×130×15mmの基板を得た。
この基板を用いて実施例1と同様にしてオゾン発生器用の陽極を作成した。この陽極と陰極であるPt電極とを用いて、実施例1と同様に200時間のオゾン発生試験を行った。
その結果、発生したオゾン濃度は200〜300g/m3となった。オゾン発生試験後、
電極部材として用いたAl2O3基板を観察した結果、クラック、亀裂は観察されなかっ
た。
比較例として、セラミック基板としてチタン酸バリウム、酸化チタン、ジルコニア、フォルステライトを用いて放電用電極を作製し、上記実施例と同様に200時間放電させると、放電終了後に全ての試料にクラックやピンホールが発生していた。