図1〜22を参照して、本発明による車室内温度制御装置の一実施の形態について説明する。本実施の形態の車室内温度制御装置は、1つの温度制御装置(空調ユニット1A)が乗員の快適性に影響を及ぼす2つの要素(車室内温度とシート表面温度)を同時に制御するものである。すなわち空調ユニット1Aを室温制御装置およびシート温度制御装置として用いる。なお、制御対象としての要素は、インストルメントパネルやドアトリム等の部材の表面温度(放射温度と呼ぶ)であってもよい。
図1は、本実施の形態に係る車室内温度制御装置の概略構成を示す図である。ブロアモータ2Aの駆動によりブロアファン3が回転すると内外気切換ドア4を介して空調ユニット1A内に内気または外気が吸い込まれ、吸い込まれた空気はエバポレータ5を通過して冷却される。エバポレータ通過後の空気はエアミックスドア6の開度に応じた割合でヒータコア7を通過して加熱され、または冷却空気のままヒータコア7をバイパスする。
ヒータコア7を通過またはバイパスした空気はヒータコア7の下流のエアミックスチャンバで混合されて空調風が生成される。この空調風は、吹出口モードに応じて開閉するベントドア8,デフロストドア9,フットドア10を介し、図示しないベント吹出口,デフロスト吹出口,フット吹出口からそれぞれ送風される。すなわち、ベントモード時にはベントドア8が開放し、ベント吹出口から乗員の上半身に向けて空調風が送風される。デフロストモード時にはデフロストドア9が開放し、デフロスト吹出口からウインドの表面に向けて空調風が送風される。フットモード時にはフットドア10が開放し、フット吹出口から乗員に足下に向けて空調風が送風される。
空調ユニット1Aからの空調風は各吹出口から送風されるだけでなくシート表面からも送風される。すなわち、シート15の内部には送風通路16が形成され、送風通路16はダクト17を介して空調ユニット1Aのエアミックスチャンバに接続されている。これにより空調ユニット1Aからの空調風は開閉ドア11を介して送風通路16内に導かれ、シートから吹き出される。
図2は本実施の形態に係る温度制御装置の制御構成を示すブロック図である。コントローラ20には空調制御用のセンサ群30と、乗員が空調指令を入力する操作パネル40と、ナビゲーション装置50とが接続されている。コントローラ20は、各種演算を行うCPU20aと、CPU20aで行われる演算のプログラムや各種設定値、後述する車両の各部の形状に関する情報などを格納するROM20bと、CPU20aの作業エリアのRAM20cとを有する。センサ群30は、内気温センサ31,外気温センサ32,日射センサ33,吸込温度センサ34,シート温センサ35、シート位置センサ36等の各種センサを含む。内気温センサ31は車室内の温度Taを検出し、外気温センサ32は外気温度を検出し、日射センサ33は日射量を検出し、吸込温度センサ34はエバポレータ通過後の空気温度を検出し、シート温センサ35はシート表面の温度Tsを検出する。シート位置センサ36は、前後方向へスライド可能なシート15の前後位置、上下方向に移動可能な座面の上方へのリフト量、傾斜可能な背もたれ(シートバック)の傾斜角度など、シート15の可動部分がどの位置に設定されているのかを検出する。
操作パネル40にはオートエアコン運転を指令するオートスイッチ41,吹出口モードを手動設定するモード設定スイッチ42,ファン風量を手動設定するファンスイッチ43,車室内の目標温度を入力する温度調節スイッチ44等を含む。ナビゲーション装置50は、GPS受信機と地図データベース等を備えており、自車両の現在位置や自車両が走行する道路の道路情報等を演算する。ナビゲーション装置50で得られた情報は、コントローラ20へ適宜出力される。
コントローラ20はこれらからの入力信号に基づき所定の処理を実行し、ブロアモータ2Aと、エアミックスドア6を駆動するためのエアミックスドア駆動用アクチュエータ21Aと、吹出口ドア(ベントドア8,デフロストドア9,フットドア10,開閉ドア11)を駆動するための吹出口ドア駆動用アクチュエータ22Aにそれぞれ制御信号を出力する。
図3はコントローラ20で実行される処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートはたとえばオートスイッチ41の操作によりオートエアコン運転が指令されるとスタートし、オートエアコン運転以外が指令されると終了する。このオートエアコン運転により車室内温度Taとシート表面温度Tsが以下のように制御される。
まず、ステップS1でセンサ群30および操作部40からの信号を読み込み、ステップS2で目標エアミックスドア開度を演算する。目標エアミックスドア開度は、内気温センサ31,外気温センサ32,日射センサ33,吸込温度センサ34,および温度調節スイッチ44からの信号に基づき周知の演算式により求めることができる。
ステップS2が実行されると、ステップS100で快適温度Ta*,Ts*の補正処理を行う。快適温度Ta*,Ts*、および、ステップS100における処理内容については後述する。
ステップS3では、目標エアミックスドア開度に基づき冷房運転を行うか暖房運転を行うかを判定する。なお、外気温に応じて冷房運転と暖房運転の有無を判定するようにしてもよい。冷房運転を行うと判定されるとステップS4に進み、車室内温度Tinについての温冷感の悪化代ΔTSaとシート表面温度Tsについての温冷感の悪化代ΔTSsをともに0にできるか否かを判定する。
ここで、「温冷感の悪化代」ΔTSについて説明する。本実施の形態では、予め、空調ユニット1Aからの送風により温度制御される室温Taとシート温度Ts、および空調ユニット1Aからの送風により冷却または加熱される車室内の部材の温度(放射温度Tr)をさまざまに組み合わせた空間に被験者を暴露し、被験者が感じる全身の温冷感(全身温冷感)の申告実験を行った。
この申告実験は図5に示すように、被験者が快適状態と感じると申告値を0,暑いと感じれば申告値をプラス,寒いと感じれば申告値をマイナスとし、暑さまたは寒さの不快感が大きいほど申告値をプラス側またはマイナス側に大きくするものである。この実験データを用いて、室温Taとシート温度Tsと放射温度Trを説明変数(独立変数)とし、全身温冷感を目的変数(従属変数)とした重回帰分析を行うと、次式(I)のような全身温冷感予測式を作成することができる。
全身温冷感=αTa+βTs+γTr+δ (I)
同様の温冷感の申告実験は、全身についてだけでなく体の各部位(例えば背中と胸)についても行うことができ、これにより全身だけでなく、各部位についても上式(I)と同様の温冷感予測式を作成することができる。そして、上式(I)と2つの部位の温冷感予測式を連立方程式として解くことにより、全身温冷感に加え、各部位の温冷感がいずれも中立となる温度、すなわち全身が一様に快適となる温度Ta*,Ts*,Tr*(これらを快適温度と呼ぶ)を求めることができる。この値を用いると上式(I)を次式(II)のように変形することができる。
全身温冷感=α(Ta−Ta*)+β(Ts−Ts*)+γ(Tr−Tr*) (II)
上式(II)の各項を、室温Ta,シート温度Ts,放射温度Trの各要素についての「温冷感の悪化代」としてそれぞれ次式(III)〜(V)で定義する。
ΔTSa=α(Ta−Ta*) (III)
ΔTSs=β(Ts−Ts*) (IV)
ΔTSr=γ(Tr−Tr*) (V)
ここで、各要素の温冷感の悪化代の和ΣΔTS(=ΔTSa+ΔTSs+ΔTSr)が0であることは、全身温冷感が中立(快適)であることを意味し、各要素の温冷感の悪化代ΔTSa,ΔTSs,ΔTSrが全て0であることは全身一様に快適であることを意味する。
図4に、ΣΔTS=0となる関数のグラフ「快適平面」の例を示し、図5に、予め行った乗員の快適性評価実験の結果を示す。なお、本実施の形態では室温Taとシート温度Tsを検出することにより2つの要素(室温Taとシート温度Ts)を制御する場合を説明するが、これに加えて部材の放射温度Trを検出することで図4の「快適平面」上に乗るように3つの要素(室温Tsとシート温度Tsと放射温度Tr)を制御することもできる。
このようにして求められたα,β,Ta*,Ts*は、温冷感の悪化代ΔTSa,ΔTSsを求めるための設定値として予めROM20bに記憶されている。ステップS4では、ステップS100で補正処理をしたこれら設定値と、温度検出値Ta,Tsを用いて上式(III),(IV)から2つの要素Ta,Tsについての温冷感の悪化代ΔTSa,ΔTSsを算出する。そして、空調ユニット1Aからの空調風によりこれら温冷感の悪化代ΔTSa,ΔTSsをともに0にできるか否かを予測する。すなわち各要素についての熱負荷が大きい場合には、空調ユニット1Aを最大出力で運転しても、いずれか一方または双方の要素の温冷感の悪化代を0とすることができない場合があるので、ステップS4では全ての悪化代ΔTSa,ΔTSsを0にできるか否かを判定する。
ここで、空調装置を最大出力で運転した場合に単位時間当たりに改善可能な各要素の悪化代の量をEa,Esと定義する。Eaは、ある悪化代ΔTSaの下での室温Ta0を測定し、さらに測定開始から一分後の室温Ta1を測定し、その測定値Ta0,Ta1を次式(VI)に代入することで求めることができる。また、Esは、ある悪化代ΔTSsの下でのシート温度Ts0を測定し、さらに測定開始から一分後のシート温度Ts1を測定し、その測定値Ts0,Ts1を次式(VII)に代入することで求めることができる。
Ea=α(Ta1−Ta0) (VI)
Es=α(Ts1−Ts0) (VII)
このようにして求められたEaとEsの特性は予め要素Ta,Ts毎にROM20bに記憶されている。特性Eaの一例を図6に示す。図6は種々の負荷レベルの下でTa0とTa1を測定して得られた特性であり、コントローラ20は図6の特性に基づき悪化代ΔTSaを0にできるか否かを判定する。
ステップS4で全ての悪化代ΔTSa,ΔTSsを0にできると判定されるとステップS5に進み、ΔTSaとΔTSsのいずれか一つが0以下か否か、すなわち室温Taとシート温度Tsのいずれかが快適温度Ta*,Ts*よりも低いか否かを判定する。室温TaがTa*より高く、かつシート温度TsがTs*よりも高い場合、ステップS5が否定されてステップS6に進む。ステップS6では、以下のような選択冷房運転モードで空調運転を実行する。
−−−選択冷房運転モード−−−
選択冷房運転モードの処理の一例を図8に示す。選択冷房運転モードでは、まず、ステップS6Aで室温Taの低下を目的として空調ユニット1Aを最大出力で冷房運転する場合(Taに対する最大出力運転)と、シート温度Tsの低下を目的として最大出力で冷房運転する場合(Tsに対する最大出力運転)とで、どちらの方がより効率的に(短時間で)全身温冷感の悪化ΣΔTS(=ΔTSa+ΔTSs)を改善できるか否かを判定する。この判定は予め定めたEaの特性(図6)とEsの特性に基づき行う。
Taに対する最大出力運転の方が効率的と判定されるとステップS6Bに進み、Taに対して最大出力運転を行う。この状態では、要素Taについての悪化代ΔTSaを改善するために空調ユニット1Aからのエネルギを出力する。たとえばファン3を最大回転数で回転させ、エアミックスドア6をフルクール位置に回動し、デフロストドア9とフットドア10と開閉ドア11を閉鎖し、ベントドア8を開放する。これによりベント吹出口から車室内に最大風量の冷却空気が送風され、車室内が急速に冷却される。
一方、ステップS6AでTsに対する最大出力運転の方が効率的と判定されるとステップS6Cに進み、Tsに対して最大出力運転を行う。この状態では、要素Tsについての悪化代ΔTSsを改善するために空調ユニット1Aからのエネルギを出力する。たとえばファン3を最大回転数で回転させ、エアミックスドア6をフルクール位置に回動し、ベントドア8とデフロストドア9とフットドア10を閉鎖し、開閉ドア11を開放する。これによりシート表面から最大風量の冷却空気が送風され、シート表面が急速に冷却される。
図3のステップS5で、Ta,Tsのいずれかが快適温度Ta*,Ts*以下になった、すなわち悪化代ΔTSa,ΔTSsのいずれかが0以下になったと判定されるとステップS7に進む。ステップS7では以下のような配分調節冷房運転モードで空調運転を実行する。配分調節冷房運転モードでは、2つの要素Ta,Tsについての悪化代ΔTSa,ΔTSsを同時に改善するために、空調ユニット1Aからのエネルギを各要素に対して分配して出力する。
−−−配分調節冷房運転モード−−−
配分調節冷房運転モードの処理の一例を図9に示す。配分調節冷房運転モードでは、まず、ステップS7Aで要素Tsについての悪化代ΔTSsが0以下か否かを判定し、否定されるとステップS7Cに進む。この場合、要素Taについての悪化代ΔTSaのみが0以下ということであり、ステップS7Cでは、空調ユニット1Aからのエネルギのうち、一部をΔTSa=0を維持するような必要最小限のエネルギとして要素Taについて出力し、残りをシート温度Tsを低下するために要素Tsについて出力する。
具体的にはファン3を最大回転数で回転させ、エアミックスドア6をフルクール位置に回動した状態で、ドア8〜11の回動を制御して、吹出口とシート表面からの配風比を調整する。すなわちドア8〜10の回動を制御することで要素Taについての出力(吹出口からの送風量)を調整し、ドア11の回動を制御することで要素Tsについての出力(シート表面からの送風量)を調整する。これにより車室内にΔTSa=0を維持するような必要最小限の風量のみが送風され、残りがシート表面から送風される。なお、ファン3の回転数を最大回転数よりも低くし、エアミックスドア6をフルクール位置以外とした状態で配風比を調整してもよい。
ここで、ΔTSa=0を維持するのに必要な出力(Ea=0とするのに必要な出力)はたとえば図7に示すようになり、負荷レベルに応じて異なったものとなる。この特性は各要素毎に予め記憶されており、この特性に基づきコントローラ20はΔTSa=0を維持するためにどの程度の出力が必要か(配風比をどのように制御すればよいのか)を推定する。
ステップS7AでΔTSsが0以下と判定されるとステップS7Bに進み、ΔTSaが0以下か否かを判定する。ステップS7Bが否定されるとステップS7Dに進む。この場合、要素Tsについての悪化代ΔTSsのみが0以下ということであり、ステップS7Dでは、空調ユニット1Aからのエネルギのうち、一部をΔTSs=0を維持するような必要最小限のエネルギとして要素Tsについて出力し、残りを室温Taを低下するために要素Tsについて出力する。
たとえばファン3を最大回転数で回転させ、エアミックスドア6をフルクール位置に回動した状態で、ドア8〜11の回動を制御して、吹出口とシート表面からの配風比を調整する。これによりシート表面からΔTSs=0を維持するような必要最小限の風量のみが送風され、残りが吹出口から車室内に送風される。なお、ファン3の回転数を最大回転数よりも低くし、エアミックスドア6をフルクール位置以外とした状態で配風比を調整してもよい。
ステップS7Bが肯定されるとステップS7Eに進む。この場合、温冷感の悪化代ΔTSaとΔTSsがともに0ということであり、ステップS7Eでは、要素TaについてΔTSaを維持するような必要最小限のエネルギを出力し、要素TsについてΔTSsを維持するような必要最小限のエネルギを出力する。たとえばエネルギ消費量が最も少なくなるようにファン風量(ファン回転数)と空調風温度(エアミックスドア6の開度)と吹出口およびシート表面からの配風比(ドア8〜11の回動)とをそれぞれ制御する。これにより各要素を快適温度Ta*,Ts*に制御することができ、乗員の全身温冷感と各部位の温冷感が快適となるだけでなく、燃費も向上する。なお、目標エアミックスドア開度に応じてファン風量(ファン回転数)と空調風温度(エアミックスドア6の開度)と吹出口モード(ドア8〜10の回動)を制御した上で、ΔTSaとΔTSsがともに0となるように配風比(ドア8〜11の回動)を調整してもよい。
図3のステップS4で悪化代ΔTSaとΔTSsのいずれか一方または両方を0にできないと判定されるとステップS8に進む。ステップS8では以下のような修正冷房運転モードで空調運転を実行する。
−−−修正冷房運転モード−−−
修正冷房運転モードの処理の一例を図10に示す。修正冷房運転モードでは、まず、ステップS8Aでシート温度Tsについての悪化代ΔTSsを0とすることが可能か否かを判定する。ステップS8Aが肯定されると、つまり室温Taについての悪化代ΔTSaのみ0とすることが不可能と判定されるとステップS8Bに進む。ステップS8BではΔTSsが0になったか否かを判定し、否定されるとステップS8Cに進み、上述したステップS6Cの処理と同様、Tsにつき最大出力運転を行う。これにより要素Tsについての悪化代ΔTSsが0に近づく。一方、ステップS8Bが肯定されるとステップS8Dに進み、各要素の悪化代の和ΣΔTS(=ΔTSa+ΔTSs)が0となるように空調ユニット1Aの出力(配風比等)を調節する。この場合、ΔTSaが0より大きいので、ΔTSsをマイナスにしてΣΔTSを0にする。これにより乗員の全身温冷感が快適になる。
一方、ステップS8Aが否定されるとステップS8Eに進み、要素Taについての悪化代ΔTSaを0とすることが可能か否かを判定する。ステップS8Eが肯定されると、つまりシート温度Tsについての悪化代ΔTSsのみ0とすることが不可能と判定されるとステップS8Fに進む。ステップS8FではΔTSaが0になったか否かを判定し、否定されるとステップS8Gに進み、上述した処理(ステップS6B)と同様、Taにつき最大出力運転を行なう。これにより要素Taについての悪化代ΔTSaが0に近づく。一方、ステップS8Fが肯定されるとステップS8Hに進み、各要素の悪化代の和ΣΔTSが0となるように空調ユニット1Aの出力を調節する。この場合、ΔTSsが0より大きいので、ΔTSaをマイナスにしてΣΔTSを0にする。これにより乗員の全身温冷感が快適になる。
ステップS8Eが否定されると、つまり温冷感の悪化代ΔTSsとΔTSaを両方とも0とすることができないと判定されるとステップS8Iに進む。ステップS8Iでは各要素の悪化代の和ΣΔTSが最小となるように空調ユニット1Aの出力を調節して運転する。これにより乗員の全身温冷感が最大限に改善される。
以上では、ステップS3で空調運転が冷房と判断された場合の処理について説明した。これに対し空調運転が暖房と判断されると、温冷感の悪化代がマイナスとなる(寒く感じる)。このため、図3のステップS10ではΔTSa,ΔTSsが0以上か否かを判定し、ステップS9〜ステップS13ではそれぞれステップS4〜ステップS8に対応した処理が行われる。この場合、エアミックスドア6をホット側に回動させるとともに、吹出口モードを暖房に適したモード(例えばフットモード)に変更する点で冷房運転時の制御とは異なるが、他の基本的な制御は上述したものと同様であるため、ここではステップS9〜ステップS13についての説明は省略する。
−−−快適温度Ta*,Ts*の補正処理−−−
本実施の形態の車室内温度制御装置では、上述したように、乗員の温冷感に基づいて空調制御を行うように構成した。乗員が感じる温冷感は、上述したように、周囲の様々な要素の温度の影響を受けるほか、乗員の心理的な影響も受ける。たとえば、乗員の視野に入る周囲の明るさが乗員に心理的な影響を与え、乗員が感じる温冷感が変化する。そこで、本実施の形態の車室内温度制御装置では、上述した図3のステップS100の補正処理において、太陽光の直接光や建物等からの反射光が乗員の目にどのように映るのかを推定して、乗員の感じる周囲の照度(明るさ)に応じて、上述した快適温度Ta*,Ts*の補正値を算出する。そして、算出した補正値で快適温度Ta*,Ts*を補正することで、乗員が感じる温冷感を補正する。以下、詳述する。
図3のステップS2が実行されると、ステップS100の快適温度Ta*,Ts*の補正処理が行われる。図11は、ステップS100における、快適温度Ta*,Ts*の補正処理を示すフローチャートである。まず、ステップS110において、車室内での乗員の目の位置(アイポイント位置)を推定する。アイポイント位置は、シート位置センサ36で検出したシート15の状態に基づいて推定する。具体的には、図12(a)に示すように、シート位置センサ36で検出したシート15の前後位置(後方スライド量Sb)に基づいて、シート15に着座する乗員の身長Ptを推定する。そして、推定した乗員の身長Ptと、シート位置センサ36で検出したシートバックの傾斜角度とに基づいて、車室内における乗員の目の高さ方向の位置および前後方向の位置を推定する。車室内における乗員の目の左右方向の位置は、シート15の左右方向の設置位置から推定する。
なお、乗員の身長Ptを後方スライド量Sbから推定しているが、座面の上方向への移動量(上方リフト量Lf)が多くなれば、アイポイント位置が上昇する。すなわち、乗員の身長Ptが高くなったのと同じことになる。そこで、図12(b)に示すように、座面の上方リフト量Lfに応じた身長補正量△Ptを乗員の身長Ptに加算して、アイポイント位置を推定することとしている。
ステップS110でアイポイント位置を推定するとステップS120へ進み、太陽から直接乗員に照射される光(直接光)によって、乗員が認識する明るさ(乗員認識照度)を推定する。以下の説明では、乗員が認識する外界(車外)の明るさを乗員認識照度と呼ぶ。なお、乗員認識照度の大小に応じて乗員に心理的な影響を与えて快適温度Ta*,Ts*を変化させるので、乗員認識照度を照度影響値と呼ぶこともできる。ステップS120では、太陽からの直接光に由来する乗員認識照度を算出する。図13は、ステップS120における処理を示すフローチャートである。
ステップS121において、ナビゲーション装置50から、車両の現在位置、進行方位、現在の日時、現在位置周辺の建物等の構造物についての情報を取得する。そして、ステップS122において、ステップS121で取得した現在位置および現在の日時の情報に基づいて、太陽が観察される方位および仰角(太陽高度)を算出してステップS123へ進む。ステップS123において、ステップS121で取得した車両の進行方位の情報と、ステップS122で算出した太陽の方位に基づいて、太陽が車両の前方に位置しているか否か、すなわち、太陽が前を向いている乗員の視界に入るか否かを判断する。太陽が直接乗員の視界に入る位置でなければ、太陽からの直接光による温冷感への影響を考慮しなくても良いからである。
太陽が車両の前方に位置している場合(ステップS123肯定判断)、ステップS124において、たとえば車両のルーフやピラーなどによって太陽がけられるか否かを判断する。ステップS123の場合と同様に、ルーフやピラーなど、車両のボディの一部によって乗員から見たときに太陽が隠れてしまうのであれば、太陽からの直接光による温冷感への影響を考慮しなくても良いからである。具体的には、たとえばアイポイント位置と太陽が観察される位置とを結ぶ直線を算出し、コントローラ20のROM20bに予め格納されている車両のボディ形状の情報を読み込んで、アイポイント位置と太陽が観察される位置とを結ぶ直線が、車両のボディと干渉するか否かを判断する。
太陽が車両のボディによってけられないのであれば(ステップS124否定判断)、ステップS125において、ステップS121で取得した現在位置、現在位置周辺の建物等の構造物についての情報、および、ステップS122で算出した太陽の観察される方位と仰角に基づいて、現在位置周辺の建物等の構造物で太陽がけられるか否かを判断する。ステップS123,S124の場合と同様に、乗員から見たときに太陽が車両の周囲の建物等の構造物に隠れてしまうのであれば、太陽からの直接光による温冷感への影響を考慮しなくても良いからである。具体的には、たとえばアイポイント位置と太陽が観察される位置とを結ぶ直線を算出し、現在位置周辺の建物等の構造物が存在する空間の位置を算出して、アイポイント位置と太陽が観察される位置とを結ぶ直線が、現在位置周辺のいずれかの建物等の構造物と干渉するか否かを判断する。
現在位置周辺の建物等の構造物で太陽がけられないのであれば(ステップS125否定判断)、日射センサ33で検出した日射量を読み込んでステップS127へ進む。ステップS127において、次のようにして太陽からの直接光に由来する乗員認識照度を算出する。たとえば、図14に示すように、太陽高度が高くなるほど乗員が太陽からの直接光を明るく感じるため、太陽高度が高いほど乗員認識照度が高くなるように算出する。また、図15(a),(b)に示すように、車両の進行方向(すなわち乗員の視線の方向)と太陽の方位との角度のズレθが少ないほど乗員が太陽からの直接光を明るく感じるため、ズレθが少ないほど乗員認識照度が高くなるように算出する。
また、太陽の位置は上述したように算出されるが、たとえば晴天時と薄曇り時では太陽からの直接光の明るさ感が異なるように、天候によって太陽からの直接光の明るさ感が異なる。そこで、ステップS126で読み込んだ日射センサ33の検出値に応じて、乗員認識照度を増減させる。
なお、太陽が車両の前方に位置していない場合(ステップS123否定判断)や、太陽が車両のボディや周囲の建物等の構造物によってけられる場合(ステップS124肯定判断またはステップS125肯定判断)には、太陽からの直接光に由来する乗員認識照度をたとえばゼロと推定する。以上のようにして、太陽からの直接光に由来する乗員認識照度を推定すると(ステップS127またはステップS128)、図11のステップS130へ進む。
車両(車室内)に照射される光には、太陽からの直接光だけではなく、車両のボディや車両の周囲の構造物からの反射光も含まれる。そこで、ステップS130では、太陽光が車両の外部(ボディ)に反射する光(反射光)によって、乗員が認識する明るさ(乗員認識照度)を推定する。すなわち、ステップS130では、車両のボディからの反射光に由来する乗員認識照度を算出する。なお、ステップS130では、車両のボディからの拡散反射(乱反射)のみ考慮するが、鏡面反射について考慮しても良い。図16は、ステップS130における処理を示すフローチャートである。ステップS131において、太陽光に照らされた車両の外部の明るさを算出する。なお、以下の説明では、説明の便宜上、車両は一般的な乗用車であって、ボンネット部分のみが乗員の視野に入るものとして説明する。したがって、ステップS131で算出する車両の外部の明るさとは、車両のボンネット部分の拡散反射による明るさ(以下、単に車両のボンネット部分の明るさと呼ぶ)のことをいう。
車両のボンネット部分の明るさは、ボンネットに対する太陽光の照射角度が90度(π/2)に近いほど明るくなる。そこで、図13のステップS122で算出した太陽高度および太陽の方位と、コントローラ20のROM20bに予め格納されている車両のボンネットの形状の情報からボンネットに対する太陽光の照射角度を算出する。また、車両のボンネット部分の明るさは、たとえばボンネットの塗装色によって異なる。そこで、コントローラ20のROM20bに予め格納されている車両のボンネットの塗装色など、車両の塗装に関する情報を読み込む。なお、車両のボンネット部分の明るさは、実際の天候によって異なる。そこで、図13のステップS126で読み込んだ日射センサ33の検出値に応じて車両のボンネット部分の明るさを変更する。このように、ステップS131では、ボンネットに対する太陽光の照射角度、ボンネットの塗装に関する情報、および、実際の日射量などから車両のボンネット部分の明るさを算出する。
次いで、ステップS132において、図11のステップS110で算出したアイポイント位置と、コントローラ20のROM20bに予め格納されている車両のフロントガラス部分の開口部やボンネットの形状の情報から、乗員の視野の中で、ボンネット部分が占める割合を算出してステップS133へ進む。ステップS133において、次のようにして、ボンネットからの反射光に由来する乗員認識照度を算出する。たとば、ステップS131で算出したボンネット部分の明るさが明るいほど、乗員認識照度が高くなるように算出する。また、ステップS132で算出した、乗員の視野の中で、ボンネット部分が占める割合が高いほど、乗員認識照度が高くなるように算出する。
なお、ボンネット部分は、乗員の視野の左右方向にわたって延在している。そのため、図15で説明した、乗員の視線の方向と太陽の方位との角度のズレθが明るさ感に影響を及ぼすのと同様に、乗員の正面に位置するボンネット部分については、乗員の正面から左右にそれた部分よりも明るさ感が高くなる。そこで、ステップS131で算出したボンネット部分の明るさを、アイポイント位置からのボンネット部分の左右方向の位置に応じて変更した上で乗員認識照度を算出する。以上のようにして、車両のボディからの反射光に由来する乗員認識照度を推定すると(ステップS133)、図11のステップS140へ進む。
ステップS140では、太陽光が車両の周囲の建物等の構造物に反射する光(反射光)によって、乗員が認識する明るさ(乗員認識照度)を推定する。すなわち、ステップS140では、車両の周囲の建物等の構造物からの反射光に由来する乗員認識照度を算出する。なお、ステップS140では、構造物からの拡散反射(乱反射)のみ考慮するが、たとえば窓の部分に関しては鏡面反射について考慮しても良い。図17は、ステップS140における処理を示すフローチャートである。ステップS141において、図13のステップS121で取得した、車両の現在位置、進行方位、現在位置周辺の建物等の構造物についての情報から、建物等の構造物の壁面が乗員の視野に入るか否かを判断する。
たとえば、図18に示す状態では、建物等の構造物A〜Dの壁面が乗員の視野に入ることとなる。具体的には、たとえば、道路地図上の現在地周辺の上空に置かれた視点から所定の見下ろし角度および見開き角度で道路地図を見下ろした鳥瞰図を表示するための公知の視点変換の技術により、視点の高さをアイポイント位置に設定して周囲の構造物の見え方を算出してもよい。また、この際には、コントローラ20のROM20bに予め格納されている車両のフロントガラス部分の開口部やルーフ、ピラー等の形状の情報を考慮して、周囲の構造物の見え方を算出する。ステップS141では、このように周囲の構造物の見え方を算出した上で、構造物の壁面が乗員の視野に入るか否かを判断する。
ステップS141が肯定判断されるとステップS142に進み、ステップS141で算出した周囲の構造物の見え方の結果に基づいて、乗員の視野に入る任意の一の壁面を選択してステップS143へ進む。ステップS143において、ステップS142で選択した壁面に対する太陽光の入射角度θsを算出する(図19参照)。具体的には、図13のステップS121で取得した、現在位置周辺の建物等の構造物についての情報(特に壁面の位置、範囲、延在方向)と、ステップS122で算出した太陽が観察される方位および太陽高度とに基づいて、入射角度θsを算出する。
ステッS143が実行されるとステップS144へ進み、ステップS142で選択した壁面の照度を算出する。すなわち、図13のステップS121で取得した、現在位置周辺の建物等の構造物についての情報と、ステップS143で算出した入射角度θsとに基づいて壁面の照度を算出する。ここで、壁面の照度は、太陽光が壁面に垂直に入射しているときが最も高く、太陽光が壁面に水平に入射しているときが最も低い。そのため、壁面の照度と入射角度θsとの関係は、図20に示すようなものとなる。また、図13のステップS121で取得した、現在位置周辺の建物等の構造物についての情報の中に、構造物の色や反射率、壁面と窓との面積の比率など、壁面の照度に関係する情報、すなわち、車両の周囲の構造物に関して太陽光の反射に影響を及ぼす因子の情報があればこれを参照して照度を算出する。
上述したように任意の一の壁面の照度を算出するとステップS145へ進み、車両の進行方向に対してステップS144で照度を算出した壁面がどの角度位置にあるのかを算出する。すなわち、ステップS145では、ステップS141で算出した周囲の構造物の見え方についての情報から、車両の進行方向(すなわち乗員の視線の方向)と壁面の存在する方向との角度のズレθdを取得する。これは、図15(a),(b)を参照して説明した、乗員の視線の方向と太陽の方位との角度のズレθが少ないほど乗員が太陽からの直接光を明るく感じることと同様に、乗員の視線の方向と壁面の存在する方向との角度のズレθdが少ないほど、その壁面からの反射光による乗員認識照度が高くなるからである。ステップS145で算出する乗員の視線の方向と壁面の存在する方向との角度のズレθdは、後述するステップS146において乗員認識照度を算出する際に参照される。
ステップS145が実行されるとステップS146へ進み、ステップS144で算出した壁面の照度や、ステップS145で算出した乗員の視線の方向と壁面の存在する方向との角度のズレθd、乗員の視野の中で壁面が占める割合などに基づいて、ステップS142で選択した壁面からの反射光による乗員認識照度を算出する。なお、乗員の視野の中で壁面が占める割合については、ステップS141で算出した周囲の構造物の見え方についての情報から推定する。なお、自明のことではあるが、走行に伴って建物との距離が近くなるほど乗員の視野の中で壁面が占める割合が大きくなる。
ステップS146が実行されるとステップS147へ進み、乗員の視野に入る壁面の全てについて、反射光による乗員認識照度を算出したか否かを判断する。ステップS147が否定判断されるとステップS142へ戻る。ステップS147が肯定判断されるとステップS148へ進み、乗員の視野に入る全ての壁面からの反射光による乗員認識照度を算出して、図11のステップS150へ進む。
なお、ステップS141において、建物等の構造物の壁面が乗員の視野に入らないと判断されるとステップS149へ進み、壁面からの反射光に由来する乗員認識照度をたとえばゼロと推定して、図11のステップS150へ進む。
ステップS150では、ステップS120,S130,S140でそれぞれ算出した乗員認識照度に基づいて、上述した快適温度Ta*,Ts*の補正値を算出する。図21は、ステップS150における処理を示すフローチャートである。ステップS151において、ステップS120,S130,S140でそれぞれ算出した乗員認識照度の合計値(照度影響値の合計値)を算出してステップS152へ進む。ステップS152において、図13のステップS121で取得した現在の日時の情報から、現在の季節を判断する。ここで、現在の季節を判定するのは、同じ乗員認識照度合計値であっても季節によって乗員の感じる温冷感に影響を与える度合いが異なるため、季節に応じた補正値を算出するためである。一般的に、同じ乗員認識照度合計値であっても季節が夏であれば、春や秋よりも乗員の視野に入る周囲の明るさによる影響を受け易い。また、同じ乗員認識照度の合計値であっても季節が冬であれば、春や秋よりも乗員の視野に入る周囲の明るさによる影響を受け難い。
ステップS152では、たとえば、現在の月日が4月1から6月30日までの間であれば、現在の季節が春であると判断し、たとえば、現在の月日が7月1から9月30日までの間であれば、現在の季節が夏であると判断する。また、ステップS152では、たとえば、現在の月日が10月1から12月31日までの間であれば、現在の季節が秋であると判断し、たとえば、現在の月日が1月1から3月31日までの間であれば、現在の季節が秋であると判断する。
ステップS152において、現在の季節が夏であると判断されるとステップS153へ進み、ステップS151で算出した乗員認識照度の合計値に予め定められた係数a1を乗じて快適温度Ta*,Ts*の補正値を算出し、図11のステップS160へ進む。ステップS152において、現在の季節が春または秋であると判断されるとステップS154へ進み、ステップS151で算出した乗員認識照度の合計値に予め定められた係数a2を乗じて快適温度Ta*,Ts*の補正値を算出し、図11のステップS160へ進む。ステップS152において、現在の季節が冬であると判断されるとステップS155へ進み、ステップS151で算出した乗員認識照度の合計値に予め定められた係数a3を乗じて快適温度Ta*,Ts*の補正値を算出し、図11のステップS160へ進む。なお、ここで、係数a1〜a3の大小関係は、a3<a2<a1となっている。
ステップS160では、温冷感の悪化代ΔTSa,ΔTSsのそれぞれについての絶対値の合計を算出する。なお、ステップS160では、補正前の快適温度Ta*,Ts*に基づいて、温冷感の悪化代ΔTSa,ΔTSsを算出して、それぞれの絶対値の合計値を算出する。ステップS160で温冷感悪化代の絶対値を算出する理由については、後述する。
ステップS160が実行されるとステップS170へ進み、ステップS160で算出した温冷感悪化代の絶対値に基づいてステップS150で算出した快適温度Ta*,Ts*の補正値を補正する。一般的に、乗員が感じる温冷感は、乗員が熱的に不快であると感じる度合い(すなわち温冷感悪化代の絶対値)が大きいほど、乗員の視野に入る周囲の明るさによる影響を受け難く、温冷感悪化代の絶対値が小さいほど、乗員の視野に入る周囲の明るさによる影響を受け易い。そのため、図22に示すような、温冷感悪化代の絶対値が大きくなるほど、値が小さくなるような補正係数bをステップS150で算出した補正値に乗じることで、ステップS150で算出した補正値を補正する。
ステップS170が実行されるとステップS180へ進み、ステップS170で補正した後の快適温度Ta*,Ts*の補正値によって、快適温度Ta*,Ts*を補正して図3のステップS3へ進む。
本実施の形態の車室内温度制御装置では、次の作用効果を奏する。
(1) 乗員の感じる周囲の照度(明るさ)に応じて、乗員が感じる温冷感を補正することで、車室内の空調制御が行われるように構成した。これにより、日射に起因する車両の周囲の照度が乗員に与える心理的な影響を考慮した空調制御ができるので、乗員の快適感を向上できる。
(2) ナビゲーション装置50から取得する車両の現在位置、進行方位、現在の日時、現在位置周辺の建物等の構造物についての情報などを利用して、太陽からの直接入射する光、および、構造部に当たって反射した反射光による乗員認識照度を推定するように構成した。これにより、車両の周囲に背の高い建物などの構造物があっても、乗員の感じる周囲の照度を正確に推定できるので、車両の走行する場所を問わず、車両の周囲の照度が乗員に与える心理的な影響を考慮した空調制御ができる。
(3) コントローラ20のROM20bに予め格納されている車両のフロントガラス部分の開口部やボンネットの形状の情報から、ボンネット部分が乗員にどのように見えているのかを推定して、車両のボディからの反射光に由来する乗員認識照度を推定するように構成した。これにより、乗員の視界の中で占める割合が比較的多くなる車両のボディ(特に前席乗員にとってのボンネット)からの反射光を考慮して、乗員の感じる周囲の照度を正確に推定できるので、車両の周囲の照度が乗員に与える心理的な影響を空調制御に正確に反映でき、乗員の快適感を向上できる。
(4) ナビゲーション装置50から取得した現在の日時の情報に基づいて現在の季節を判断して、季節に応じた快適温度Ta*,Ts*の補正値を算出するように構成した。これにより、季節によって異なる、乗員の感じる周囲の照度の影響度合いを空調制御に反映できるので、四季を通じて乗員の快適感を向上できる。
(5) 温冷感悪化代の絶対値が大きくなるほど、快適温度Ta*,Ts*の補正値が小さくなるように構成した。これにより、乗員が熱的に不快であると感じる度合い(すなわち温冷感悪化代の絶対値)が大きいほど、乗員の視野に入る周囲の明るさによる影響を受け難くなるという、乗員が感じる温冷感の感覚特性に合わせて快適温度Ta*,Ts*を補正でき、乗員の快適感を向上できる。
(6) シート位置センサ36で検出したシート15の状態に基づいてアイポイント位置を算出して、乗員認識照度を算出するように構成した。これにより、簡単な構成で、乗員の体格の違いを検出できるので、乗員の体格の違いにかかわらず、車両の周囲の照度が乗員に与える心理的な影響を考慮した空調制御を低コストで実現できる。
(7) 車両の周囲の構造物に関する太陽光反射に影響を及ぼす因子の情報があればこれを参照して構造物の壁面の照度を算出するように構成した。これにより、構造物の壁面の照度算出精度を向上できるので、車両の周囲の照度が乗員に与える心理的な影響を空調制御に正確に反映でき、乗員の快適感を向上できる。
−−−変形例−−−
(1) 上述の説明では、図16のステップS130の説明において、車両が一般的な乗用車であって、ボンネット部分のみが乗員の視野に入るものとして説明したが、本発明はこれに限定されない。ボンネット部分は例示であって、たとえば車両のドア部分で車幅方向にふくらんでいる部分が乗員の視界に入るのであれば、この部分からの反射光を考慮するようにしても良い。すなわち、ボンネット部分に限らず、乗員の視界に入る車両のボディからの反射光を考慮するようにしても良い。
(2) 上述の説明では、道路からの反射光や、周囲の構造物の壁面以外(たとえば屋上などの水平な面)からの反射光については特に言及していないが、これらの部分からの反射光を考慮して乗員認識照度を算出するようにしてもよい。
(3) 上述の説明では、快適温度Ta*,Ts*の補正値の補正要素として季節を考慮しているが、本発明はこれに限定されない。たとえば、季節以外にも、外気温度や時刻を考慮するように構成しても良い。たとえば外気温が高いほど乗員の視野に入る周囲の明るさによる影響を受け易くなるものとして、補正係数を快適温度Ta*,Ts*の補正値に乗じるようにしても良い。また、昼の時間帯が朝夕の時間帯よりも乗員の視野に入る周囲の明るさによる影響を受け易くなるものとして、補正係数を快適温度Ta*,Ts*の補正値に乗じるようにしても良い。
(4) 上述した各実施の形態および変形例は、それぞれ組み合わせてもよい。
上述の実施の形態およびその変形例において、たとえば、車両構成記憶手段はROM20bに対応する。照射光演算手段、認識照度推定手段、温冷感算出手段、温冷感補正手段、空調装置制御手段、季節判断手段、およびアイポイント推定手段は、CPU20aと、CPU20aで実行されるプログラムとによって実現される。なお、以上の説明はあくまで一例であり、発明を解釈する際、上記の実施形態の記載事項と特許請求の範囲の記載事項の対応関係になんら限定も拘束もされない。