JP3686931B2 - 熱環境の予測方法、およびプログラム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱環境の予測方法に関し、さらにこの熱環境の予測方法に用いるプログラムに関する。
【0002】
【従来の技術】
夏季における都市熱環境の悪化が深刻化している。マクロにみるとエネルギー消費量の増大や熱帯夜発生頻度の増加などを社会的背景に、都心部の気温が郊外と比べ相対的に上昇するヒートアイランド現象が問題視され、またミクロにみると人々の生活空間となる建築の外部空間において、熱ストレスの増大に伴う熱中症の発生などが問題化している。
【0003】
このような問題に対し、熱環境に配慮した都市や建築の実現化が求められているが、そのためには計画・設計段階で熱環境の予測シミュレーションを行い、事前に熱環境を予測・評価できることが重要である。
【0004】
ここで、ヒートアイランド現象はその形成要因として、都市を構成する建物や地表面などが人工化したことに伴い、各面の表面温度が上昇し、多大な顕熱を大気に向け放出していることが主因の一つとして挙げられる。また、生活空間の熱的ストレスや快適性について、そのように表面温度が上昇した面からの熱放射が大きく影響している。すなわち、都市の熱環境にとって、建物や地面など、建築の外部空間の表面温度が重要なキーワードなのである。
【0005】
開発地となる街区や敷地の計画・設計段階で熱環境の予測・評価を行う必要性が認識され始めているが、上記の理由により、都市熱環境の観点から、また生活空間の熱的快適性の観点から、設計段階において街区の全表面温度を予測することは重要である。
【0006】
街区内における建築外部空間のデザインをみると、建物は庇やベランダといった凹凸が存在する複雑な形状をもち、また樹木の形状も多種多様である。そして、それら建築外部空間のデザインが全表面温度を直接的に規定している。つまり、街区の全表面温度を予測するには、これら建築外部空間のデザインを考慮できなければならない。
【0007】
ここで、設計支援手法と熱環境予測手法の二つのカテゴリにおける既往の手法を振り返り、それぞれの特徴を簡潔に述べ、問題点を明確化する。
【0008】
最初に、設計支援手法について説明する。熱環境の分野では、森川らは外部空間から内部空間と扱う空間スケールを徐々に狭め、熱環境の予測・評価を行う対話型のRapid Prototype Methodを提案しているが、現状では屋外空間の評価における適用範囲が広域(数km〜数10km)から市街地(数100m)レベルに限定されており、空間を構成する各デザイン要素の影響分析が十分考慮されるまでには至っていない(2)。
【0009】
また村上らにおいても、直達日射、長波長放射、対流、湿気などの各物理現象を総合的に組み合わせた計算を行っているが、一時刻のみにおいて各物理量を、定常計算により総合的に求めているだけで、詳細なデザインを評価・支援するには十分でとはいえず、また計算負荷も大きい(3〜5)。現状においては、他を見ても熱環境についてデザインを考慮に入れた評価法、支援手法は存在しない。
【0010】
つぎに、熱環境予測手法について説明する。ここでは、建築外部空間に限定せず、広く熱環境予測を目的として開発された手法を取り上げていく。
【0011】
都市レベルの熱環境評価を目的としている石野らの一次元熱収支モデルは、樹木、庇等のキャノピー内の部材は全て粗度として統括されているため垂直面の影響は考慮できず、デザインの評価に用いることはできない(6)。
【0012】
森山らも石野らと同様な一次元熱収支モデルに蒸発効率、人工排熱を加え都市レベルで都市気温を算出しているが、地表を平坦な面として扱っており、デザイン的な側面が非常に弱い(7)。
【0013】
一方、西岡らは、都市キャノピー層の伝熱を扱うモデルを提案し、垂直方向の熱収支を計算に組み込んだモデルを提案している(8,9)。この都市キャノピーモデルはHASP(10)をもとに開発されたため、換気、空調、室内負荷といった生活行動に伴う影響を考慮できる反面、HASP自体が本来室内向けにつくられているため、壁面などからの貫流熱量の分布は考慮していない。また、窓面などは壁面に占める割合としか扱えず、建物の形も直方体としてしか扱っていないという問題がある。
【0014】
谷本らのモデルも、西岡らのモデルと同様、都市キャノピーにおいて建築−都市−土壌を連成させ、都市〜外部空間レベルの全表面を計算している(11,12)。しかし、壁は一枚の面として扱っている、窓などの面は割合を与えるにしか過ぎない、形態は容積率・建蔽率・高さの3パラメータのみで規定されるなど、デザインの視点からの評価を行うことは厳しい状況にある。
【0015】
村上らは Mellor-Yamadaモデルを用い、大気乱流モデルによる精度の高い予測手法している(13)。しかし、予測の対象が都市〜地域レベルの評価であるため、100mメッシュで計算をしており、スケール的に合致しない。またこのモデルではCPUに高い処理能力が要求されるという問題点もある。
【0016】
吉田らの改良型k−εモデルをもとにして開発された放射・対流・湿気モデルは、外部空間スケールで、各物理現象を総合的に解析する精緻なモデルであるが、1時刻の現象のみが対象であり、 Mellor-Yamadaモデル同様、CPU能力に高い処理能力が要求され、簡易とは言い難い(14)。
【0017】
発明者らが既に開発した1/2500 GIS(地理情報システム)データを基にした都市の顕熱流量算出を目的として開発された熱収支モデルは、樹木を含めた全表面を1m(50cm)メッシュでの質点系として計算しており、一次元熱収支モデルと比べ、デザイン的な要素を反映させやすいという利点をもつ(1)。また、この手法は非定常計算を行い、時系列で表面温度を算出できるという長所もある。ただし、このモデルも、基本的に都市レベルを対象としているため、数棟で囲まれた建築外部空間レベルをターゲットにした場合、そのまま適用することはできない。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
上記で挙げた手法は、高精度に熱環境を予測できる、広域の熱環境を予測できるなどそれぞれの利点を持つ。しかしながら、建築外部空間のデザインを手法に取り込む際には、これらのように屋根・庇・ベランダ等の建物の凹凸物や樹木の枝振りなどを極端に簡略化、あるいはある一定のパターンとすることでデザインとすることはできない。
【0019】
形式化されたデザインでしか評価が行えない原因として、大きく二つの理由が考えられる。先ず、総合的に熱環境を評価するという流れより放射と気流の連成により計算を行うために、負荷の大きい気流の計算をする際に建物や樹木の形状を簡略化しなければならず、結果的に詳細な形状を再現し得ないということが挙げられる。第二に、熱収支計算を壁面・屋上面といった面で行うことが多く、窓などはその面積比率から重み付けをされるためデザイン的な要素の検討には不向きであり、ましてや庇やベランダ・樹木などの複雑な形状などは全く検討の対象外となっている。
【0020】
これらの状況を整理して考えると、気流と放射の連成を行うことで計算負荷は増大し、詳細なデザインが考慮できなくなる、および、壁面、地面等を面として扱うことでデザイン的要素が欠落する、という2点に辿り着く。この2点を解決するには、気流と放射の連成を行わない、および、壁面、地面等を面として扱わない、という結論に帰着する。また、建築外部空間の詳細なデザインの相違は熱放射環境には直接的に影響を及ぼすが、気流分布にはそれ程影響を及ぼさない。すなわち、設計支援を目的とした熱環境の予測手法として、建築外部空間デザインの熱的評価を設計段階で実施できることの重要性を鑑み、全表面温度の詳細な予測ができることは有用であろうと考える。そして、必要に応じて気流との連成が行えればよいと考える。また同時に、設計支援のためのシミュレーション手法として、設計とのデータの共有を容易にすることが求められる。
【0021】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、建物や樹木などのデザインを再現し、表面温度の予測ができる熱環境の予測方法、およびこの熱環境の予測方法に用いるプログラムを提供することを目的とする。
【0022】
【課題を解決するための手段】
本発明の熱環境の予測方法は、建物または地面の、いずれかまたは双方を対象に含み、建物については、三次元空間上に、建物の外形を面で表し、地面については、二次元平面上に、土地被覆が異なる部分を頂点の集合体の図形で表し、建物については、所定の高さで前記建物の外形面を切断し、生成された線分の集合として表される平面図形を取得し、地面については、線分の集合として表される平面図形を取得し、建物については、メッシュ平面に前記建物の平面図形を重ね、前記線分をメッシュサイズに分割し、地面については、メッシュ平面に前記地面の平面図形を重ね、前記線分により囲まれた領域をメッシュに分割し、太陽位置に対し、メッシュから障害物がない場合、気象条件の水平面全天日射量から直散分離により法線面直達日射量を求め、それにこのメッシュに対する直達日射の入射角の余弦成分及びこのメッシュの実測値に基づく日射吸収率を乗じた値を直達日射による受熱日射量とし、前記直達日射が与えられたメッシュが鏡面反射面の場合、面の法線ベクトルから直達日射の照射方向に対する反射角を算出し、その反射方向に存在する他のメッシュに鏡面反射日射量(反射面の直達日射量に実測値に基づく日射反射率を乗じた値)を与え、この鏡面反射日射量に前記他のメッシュの実測値に基づく日射吸収率を乗じた値を、鏡面反射日射による受熱日射量とし、前記直達日射が与えられたメッシュが拡散反射面の場合、その面に対する半球の全方向を等形態係数となるように分割し、この分割された各方向に存在する他のメッシュに拡散反射日射量(反射面の直達日射量に実測値に基づく日射反射率を乗じ、分割数で除した値)を与え、この拡散反射日射量に前記他のメッシュの実測値に基づく日射吸収率を乗じた値を、拡散反射日射による受熱日射量とし、前記水平面全天日射量から直散分離により水平面天空日射量を求め、この水平面天空日射量にメッシュにおける天空率(このメッシュから天空が見える範囲の形態係数を算出した値)を乗じた値を、このメッシュが受ける天空日射量とし、この天空日射量にこのメッシュの実測値に基づく日射吸収率を乗じた値を、天空日射による受熱日射量とし、実験・実測に基づく式から得られる大気放射量に、メッシュにおける前記天空率を乗じ、さらに実測値に基づく大気の長波長放射率と、このメッシュにおける実測値に基づく長波長放射率を乗じた値を大気放射量とし、実験・実測に基づく式を用いて、気象条件の風速から対流熱伝達率を求め、さらに気象条件の気温から、非定常計算の一時刻前におけるメッシュの表面温度を引いた値に、前記対流熱伝達率を乗じた値を顕熱流量とし、メッシュの内部の伝熱は一次元の熱伝導とし、非定常計算の一時刻前の内部の温度勾配に実測値に基づく熱伝導率を乗じた値を、熱伝導による熱流量とし、別の計算により得られたメッシュの表面温度の値、または非定常計算の一時刻前の表面温度の値を利用し、長波長放射を受けるメッシュの面に対する半球の全方向を等形態係数となるように分割し、この分割された各方向に存在する他のメッシュについて、前記表面温度の4乗の値にステファンボルツマン定数、前記他のメッシュの形態係数、および前記他のメッシュの実測値に基づく長波長放射率を乗じた値をすべて合計し、その合計値に長波長放射を受けるメッシュの実測値に基づく長波長放射率を乗じた値をメッシュが受ける長波長放射量とし、メッシュの表面温度の4乗の値にステファンボルツマン定数およびこのメッシュの実測値に基づく長波長放射率を乗じた値を、このメッシュが放射する長波長放射量とし、各メッシュについて、前記受熱日射量、前記大気放射量、前記顕熱流量、前記熱伝導による熱流量、および前記受ける長波長放射量を合計し、さらにこの合計値から前記放射する長波長放射量を差し引いて得られた熱量から、メッシュの材料の蓄熱を考慮した非定常計算を行うことにより、メッシュの表面温度を算出する方法である。
【0023】
本発明のプログラムは、建物または地面の、いずれかまたは双方を対象に含む、熱環境を予測するためにコンピュータを、建物については、三次元空間上に、建物の外形を面で表し、地面については、二次元平面上に、土地被覆が異なる部分を頂点の集合体の図形で表す手段、建物については、所定の高さで前記建物の外形面を切断し、生成された線分の集合として表される平面図形を取得し、地面については、線分の集合として表される平面図形を取得する手段、建物については、メッシュ平面に前記建物の平面図形を重ね、前記線分をメッシュサイズに分割し、地面については、メッシュ平面に前記地面の平面図形を重ね、前記線分により囲まれた領域をメッシュに分割する手段、太陽位置に対し、メッシュから障害物がない場合、気象条件の水平面全天日射量から直散分離により法線面直達日射量を求め、それにこのメッシュに対する直達日射の入射角の余弦成分及びこのメッシュの実測値に基づく日射吸収率を乗じた値を直達日射による受熱日射量とし、前記直達日射が与えられたメッシュが鏡面反射面の場合、面の法線ベクトルから直達日射の照射方向に対する反射角を算出し、その反射方向に存在する他のメッシュに鏡面反射日射量(反射面の直達日射量に実測値に基づく日射反射率を乗じた値)を与え、この鏡面反射日射量に前記他のメッシュの実測値に基づく日射吸収率を乗じた値を、鏡面反射日射による受熱日射量とし、前記直達日射が与えられたメッシュが拡散反射面の場合、その面に対する半球の全方向を等形態係数となるように分割し、この分割された各方向に存在する他のメッシュに拡散反射日射量(反射面の直達日射量に実測値に基づく日射反射率を乗じ、分割数で除した値)を与え、この拡散反射日射量に前記他のメッシュの実測値に基づく日射吸収率を乗じた値を、拡散反射日射による受熱日射量とし、前記水平面全天日射量から直散分離により水平面天空日射量を求め、この水平面天空日射量にメッシュにおける天空率(このメッシュから天空が見える範囲の形態係数を算出した値)を乗じた値を、このメッシュが受ける天空日射量とし、この天空日射量にこのメッシュの実測値に基づく日射吸収率を乗じた値を、天空日射による受熱日射量とし、実験・実測に基づく式から得られる大気放射量に、メッシュにおける前記天空率を乗じ、さらに実測値に基づく大気の長波長放射率と、このメッシュにおける実測値に基づく長波長放射率を乗じた値を大気放射量とし、実験・実測に基づく式を用いて、気象条件の風速から対流熱伝達率を求め、さらに気象条件の気温から、非定常計算の一時刻前におけるメッシュの表面温度を引いた値に、前記対流熱伝達率を乗じた値を顕熱流量とし、メッシュの内部の伝熱は一次元の熱伝導とし、非定常計算の一時刻前の内部の温度勾配に実測値に基づく熱伝導率を乗じた値を、熱伝導による熱流量とし、別の計算により得られたメッシュの表面温度の値、または非定常計算の一時刻前の表面温度の値を利用し、長波長放射を受けるメッシュの面に対する半球の全方向を等形態係数となるように分割し、この分割された各方向に存在する他のメッシュについて、前記表面温度の4乗の値にステファンボルツマン定数、前記他のメッシュの形態係数、および前記他のメッシュの実測値に基づく長波長放射率を乗じた値をすべて合計し、その合計値に長波長放射を受けるメッシュの実測値に基づく長波長放射率を乗じた値をメッシュが受ける長波長放射量とし、メッシュの表面温度の4乗の値にステファンボルツマン定数およびこのメッシュの実測値に基づく長波長放射率を乗じた値を、このメッシュが放射する長波長放射量とし、各メッシュについて、前記受熱日射量、前記大気放射量、前記顕熱流量、前記熱伝導による熱流量、および前記受ける長波長放射量を合計し、さらにこの合計値から前記放射する長波長放射量を差し引いて得られた熱量から、メッシュの材料の蓄熱を考慮した非定常計算を行うことにより、メッシュの表面温度を算出する手段、として機能させるためのプログラムである。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
まず、熱環境の予測方法について説明する。図1は、熱環境の予測方法の流れを示したものである。
【0027】
この流れに沿って、最初に3D-CAD(Computer Aided Design )について説明する。本予測方法では、建物や樹木など空間構成要素の3次元形状の形成を、設計とのデータの共有を容易にすべく、設計で利用されることが多い3D-CADを用いて行う。
【0028】
図2が3D-CADで描かれたモデルである。具体的な作成方法について説明する。
建物について、パーソナルコンピュータ等で動作する3D-CADソフトを使用し、3次元空間上に図面を描く。原則として、通常の CAD入力の方法に従い、建物を再現する。
【0029】
その際以下の点に留意が必要である。壁や屋根等の空間を構成する部材は全て厚さの無い面として描く。これは、計算上必要な外部空間に面した面を正確に認識させるためであり、計算上は、それぞれの面をメッシュ分割した際に与えられる質点において、部材の内部方向の断面情報(材料、材料の厚さ)が考慮されるので不要なのである。
【0030】
また、建物内の間仕切り等は再現せず、建物の外形のみを忠実に面で再現する。つまり、屋内の条件である室温は、時間変化は考慮するが空間内の分布は考慮せず、一定として与えられる。さらに、壁・屋根・ベランダ・窓など一つの建物内に存在する異なる部位は、後のデータ取得の際、部位毎にデータを取得するため、別々のファイルにデータを保存しておくことが重要である。
【0031】
樹木についても同様に、パーソナルコンピュータ等で動作する3D-CADソフトを使用し、3次元空間上に図面を描く。原則として、通常の CAD入力の方法に従い、樹冠形、樹種、樹高、樹冠下高さ等の情報から、樹冠と樹幹の両方を幾何形状として再現する。また、樹種毎の詳細な形状を再現できるソフト「Tree Pro. 」で作成されるデータを DXF形式で出力し、使用することもできる。樹木の形状再現について留意する点としては、樹木の外形のみを再現し、その外形を覆う面を建物と同様に作成することである。「Tree Pro. 」のソフトで出力する際は、樹木の外形を面で型どるエンベロープモードでの出力を行う。
【0032】
地面については、パーソナルコンピュータ等で動作する3D-CADソフトを使用し、2次元平面上に図面を描く。原則として、通常の CAD入力の方法に従い、土地被覆が異なる部分を2次元平面上に任意の形状の面として描く。土地の大規模な起伏は再現しない。ただし、建物と同程度の大きさの起伏であれば、建物と同様の方法によりその三次元形状を再現する。そして、以下の計算は建物と仮定して行う。留意する点として、2次元平面上に描かれた図形は、後の作業でその頂点が取得できるよう、円や楕円などでなく多角形など頂点の集合体の図形で描かれる必要がある。
【0033】
つぎに、図1に示す、三次元空間座標情報の取得について説明する。
近年、3D-CADが設計に使用される機会はますます増えている。また、3D-CADは建物や樹木などの複雑なデザインを再現し得る。つまり、入力の際に3D-CADを用いる利点は多く、設計支援を目的とした予測方法を構築する上ではその役割は非常に大きい。
【0034】
そこで、本予測方法では、3D-CADデータを入力データとすべく、3D-CADからのデータ取得法を確立している。ただし、データの取得も、建物や樹木などの空間構成をメッシュ化して質点系で計算を行うことを前提としているために、これに対応したデータ取得法となる。
【0035】
発明者らが既に開発した方法では、地表の2次元平面上に表現される GISデータを取得し、計算上は2次元平面上に垂直に高さ方向分だけメッシュがあることを仮定し、三次元の形状を再現していた。つまり、建物の平面形状と高さが考慮されていた。本予測方法では、その2次元平面上のデータを地面において取得するだけにとどまらず、建物を輪切りにするように高さ方向に引き続きデータを取得することで3次元化に対応したデータ取得を行う。
【0036】
その3D-CAD上でのデータ取得法を図3に示す。図3の概要を説明する。
建物については、地面と水平に3D-CADを切断し、2次元の切断図形を作り、生成された平面図形の各頂点の座標を自動的に取得する。具体的には、 CADソフト「Vector Works」を使用する。「Vector Works」で建物の CADモデルを作成後(別の CADソフトでもよい)、「Vector Works」において、モデルメニューの「図形を切断」コマンドを使用することにより、建物をある高さにおいて切断し、その2次元の切断図形を得ることができる。 CADソフト「Vector Works」は、Pascal言語によるプログラミングの開発環境が整っているため、この「図形を切断」コマンドの実行から、切断面の各頂点の座標値取得(切断面は線分の集合として表されるため、その両端の座標値を取得する)までをプログラムにより自動的に実行することができる。
【0037】
これを接地面から高さ方向にメッシュサイズ毎に行うことで、全ての高さにおける切断面から座標を取得する。ただし、「Vector Works」を使用しなくても、独自にプログラムを開発し、 CADから同様の方法によって図形情報を取得することもできる。
【0038】
建物の形状を CADでモデル化した際、壁や屋根、ベランダといった異なる部位を別々のファイルに保存してある。上記の切断〜座標値取得の工程はそれらファイルごとに行うことにより、部位毎、別々に座標値を取得する。これにより、部位を判別し、後に示すように部位番号や表面材料等を生成されるメッシュに与える際に、それぞれに固有の値を入力することができる。ただし、全ての部位が合成された CADモデルに対し、上記の切断〜座標取得の作業を行うこともできる。これに関しては、後の固有パラメータの入力を説明するところで説明する。
【0039】
樹木についても、建物と同様に高さ毎切断を行い、切断面の各頂点の座標値を取得することにより、その外形の情報を取得する。
【0040】
地面については、 CADの2次元平面上に被覆ごと作成された任意形状の面について、各頂点の座標値を取得する。座標の取得方法は、建物で任意の高さで行われるのと同様である。
【0041】
以上の方法では、3次元図形を全ての高さにおいて2次元化して表すことで、樹木の複雑な形状や屋根・庇などの細かな部位を3次元形状によらずに容易に取得できるという利点がある。これにより、今まで直方体や球など簡易な形状で与えてきた樹木形状も、現実に即した形で取得できることになる。
【0042】
つぎに、図1に示す、空間形状のメッシュデータ化について説明する。
最初に、メッシュの作成方法について説明する。3D-CADのモデルをある高さで切断した図形は、全て線分の集合で表される。そこで取得される線分の両端の座標値をもとに、線分を所定のサイズのメッシュに分割し、メッシュデータ化する。すなわち、所定のメッシュサイズで均等に分割されたメッシュ平面(マス目)に対し、その線分が重なるメッシュにのみ、ある情報(法線ベクトル)を与えるのである。このとき、最終的にはデータを格納しない建物の内側のメッシュに一時的に仮の情報を格納し、建物の内側にあるメッシュと外側にあるメッシュを別々に認識させることにより、壁のメッシュに、その壁がどの方向を向いているのかを示すメッシュの法線ベクトル(向き、基準となる座標軸に対する角度)を与える。
【0043】
この作業を高さ方向に切断された全ての図形に対して行うことにより、三次元のメッシュデータが完成する。図4に三次元のメッシュデータ化されたモデルを示す。
【0044】
また、この作業と同時に各メッシュに番号・構造など部位固有の情報を入力するが、上記の作業は部位ごとに分けられた別々のファイルで行われるため、各メッシュに部位固有のパラメータ(材料、部位番号)を与えることができる。そして、それら部位固有のパラメータがメッシュに格納されたファイルを一つのファイルに合成し、建物のメッシュデータファイルが完成する。
【0045】
尚、建物の CADモデルから取得された座標値情報が部位ごと分かれておらず一つのファイルで作成された場合は、レイヤー毎に情報を分けて保存した部位より直接それぞれの座標情報を取得し、それを上記の方法で3次元メッシュ化がされた各メッシュに重ね合わせ、固有パラメータを与える方法が可能である。
【0046】
樹木についても同様の作業によりメッシュ化が可能となる。ただし、建物では外周(外壁)のメッシュ以外、つまり建物内部にデータは保存しないのに対し、樹木は日射透過量の計算に必要なため、樹木内部のメッシュにも日射透過率等の必要なデータを保存する。データは2次元メッシュデータとなる。
【0047】
地面については、上記と同様の方法を一つの高さ(=0)において行えばよい。樹木と同様、分類すべき被覆上のすべてのメッシュに表面材料などの必要な情報を入力する。
【0048】
また、勾配屋根のように鉛直方向の傾斜を考える必要がある部位に関しては、部位ごと各メッシュに「部位番号」を与え、後の計算で三次元の傾きを考慮した計算が行えるようにしている。
【0049】
このような方法を用いることで、同一面においても、壁、窓等の部位の違いを、それらの面積が占める割合で示すことなく、本来その部位が存在する場所にメッシュとして情報を与えることができる。
【0050】
実際の計算領域内には隙間なく建物や樹木が存在しているわけではなく、道路上や空き地など上方空間に何も存在しない領域も多く存在する。そこで、データ量の削減、及び後に記述する計算負荷低減のため、領域内にあるそれぞれの建物と樹木を内接する最小の仮想直方体を配置し、この直方体領域内にのみ三次元のメッシュデータを作成することで、計算領域のすべてに対してデータを保存しないこととした。この仮想直方体の座標値等の情報はファイルに格納しておく必要があり、その情報は以下の通りである。
仮想直方体の各頂点の(X,Y)座標値の最小、最大
仮想直方体の高さ
仮想直方体が含む建物(樹木)の番号
【0051】
ここで、各メッシュに格納する情報について説明する。各メッシュに格納する情報は以下に示すとおりである。
【0052】
下表に示す、3D-CAD上で図形に与えるパラメータの内容について説明する。
最初に、建物について説明する。まず、メッシュの法線ベクトルであり、そのメッシュが向く方向を示す。これは、入力条件として値を入力するのではなく、メッシュ化の際に自動的に取得するものである。つぎに、建物番号である。また、建物の構造であり、具体的には木造、S造、RC造などである。また、表面材料であり、具体的には、屋根についてモルタル、アスファルト、トタン、瓦、スレートなどがある。壁面については、モルタル、木、コンクリート、タイル、ガラスなどがある。また、部位であり、具体的には壁面、ウッドデッキ、ガラス、屋根、パーゴラ、ベランダなどがある。また、表面仕上げ材の色であり、具体的には白、灰、黒、赤、黄、緑、青などがある。
【0053】
つぎに、樹木について説明する。まず、メッシュの法線ベクトルであり、そのメッシュが向く方向を示す。つぎに、樹木番号がある。また、樹種があり、具体的には落葉樹、常緑樹などがある。また、日射透過率がある。これについては、後に詳しく説明する。また、樹高がある。そして、樹高に占める樹冠部高さの割合であり、計算上、光線が透過する樹冠部と透過しない樹幹部を高さの割合で区別する。
【0054】
つぎに、地面について説明する。まず、建物・樹木の有無である。また、土地被覆材料であり、具体的には舗装面(アスファルト、コンクリートなど)、裸地(湿潤、乾燥)、芝地などである。
【0055】
建物
メッシュ位置:各メッシュの位置情報(X,Y,Z)
法線ベクトル:各メッシュが向く方向
図1では、空間形状のメッシュデータ化と同時に計算され、メッシュに格納される。
建物番号 :他の建物との区別に使用
建物構造 :RC造・木造など、構造を入力
壁や屋根等の表面材料を除く断面構造を決定
表面材料 :壁や屋根等の表面仕上げ材の断面構造を決定
部位 :壁・屋根・ベランダ等、部位の区別に使用
表面仕上げ材の色:日射吸収率の決定に使用
【0056】
樹木
メッシュ位置:各メッシュの位置情報(X,Y,Z)
法線ベクトル:各メッシュが向く方向
図1では、空間形状のメッシュデータ化と同時に計算され、メッシュに格納される。
樹木番号 :他の樹木との区別に使用
樹種 :樹種の区別に使用
日射透過率 :各メッシュにおける日射透過率
樹高 :各樹木の高さ
樹高に占める樹冠部高さの割合:樹冠部と樹幹部の区別に使用
【0057】
地面
建物・樹木の有無:そのメッシュ上に建物や樹木が存在するかを示す
土地被覆材料:土地被覆材料の決定
【0058】
つぎに、本方法で適用するメッシュサイズの検討結果について説明する。設計支援を目的として全表面温度を予測する場合、その予測する空間のメッシュサイズは非常に重要な要素となる。メッシュサイズは、予測対象となる場所のスケールにより、それぞれに適したメッシュサイズが必要となる。
【0059】
本予測方法は、対象を建築外部空間と定めているため、この建築外部空間の構成要素を表現し得るメッシュサイズでなければならない。しかし、当然の如く、メッシュサイズが小さくなればなるほど、計算時間は指数関数的に長くなり、設計に反映させることが難しくなる。これらの総合的な観点から、本予測方法で用いるメッシュサイズとしては、0.1〜1.0mの範囲であることが望ましい。
【0060】
つぎに、計算空間領域内における建物・樹木領域の導入による計算負荷軽減法について説明する。本予測手法では、三次元のメッシュデータを構成しているため、高さ方向の分だけ計算負荷は増えてしまう。そこで、高さ方向の計算負荷を減少させることで、大幅な計算時間の増加が起こらないような計算方法を導入している。
【0061】
本予測方法では、建物構造、表面材料といったデータを3D-CADから一括して入手して3次元化した計算に組み込んでいる。しかし、実際の計算領域内全域に隙間なく建物や樹木が存在しているわけではなく、何も存在しないメッシュの計算は、ただいたずらに計算負荷を増やす要因になってしまう。そこで、本方法では、このような高さ方向に何もない空間を3次元で扱わない方法を検討した。
【0062】
そのための方法として、領域内にあるそれぞれの建物と樹木を内接する最小の仮想直方体を領域内に配置し、この領域内に入った場合にのみ3次元の計算を行い、その他の領域については2次元として扱うこととした。
【0063】
この計算方法を用いることで、全領域を基本的に2次元平面上のトレースとして解くことになり、必要に応じて3次元の計算を行うため、計算負荷の低減が可能である。このとき2次元平面上のトレースの際にも高さの情報は逐一考慮されているため、仮想の3次元計算が成り立つ。
【0064】
つぎに、図1に示す、構成要素詳細データベースについて説明する。
構成要素詳細データベースは、建物については、入力情報である表面材料・構造に対して、部材の断面構造を整備したものである。つまり、シミュレーションの入力である表面材料と構造、部位が選択されれば、このデータベースとの対応により断面構造が決定するのである。ここで、部材の断面構造とは、部材を構成する層ごとの材料とその厚さのことである。また、地面については、入力情報である土地被覆材料に対して、その断面構造を整備したものである。建物と同様、土地被覆材料が選択されれば、このデータベースとの対応により断面構造が決定する。
【0065】
つぎに、図1に示す、物性値データベースについて説明する。
物性値データベースは、建物や地面など、水分移動を伴わない主に人工物の熱収支計算を行う際に必要な熱物性値を、構成要素詳細データベースに記載される材料に関して整備したものである。具体的には、記載される材料は地面ならアスファルト、コンクリート、土などであり、建物であればモルタル、コンクリート、木材、各種断熱材、ガラス材などである。また、記載される熱物性値は、熱伝導率(熱抵抗)、容積比熱、日射吸収率、日射反射率、長波長放射率(長波長吸収率と等しい)である。
【0066】
つぎに、図1に示す、気象条件について説明する。
気象条件は、地域のアメダスデータなどをもとに入力を行う。必要な項目は、水平面全天日射量(もしくは法線面直達日射量及び水平面天空日射量)、気温、相対湿度(もしくは絶対湿度)、風速、雲量である。時系列のデータを入力する。
【0067】
つぎに、図1に示す、室温、室内側対流熱伝達率について説明する。
室内側の境界条件としては、室温及び室内側の対流熱伝達率を考慮する。室温について、具体的には、上記の気象条件を入力条件とし、熱回路網法を用いた動的熱負荷計算手法(後退差分法)により時系列で値を求め、それを熱収支計算の際に与条件として与える。ただし、実測データなどの値を入力しても良い。室内側対流熱伝達率については、屋内空間一定として設定している。
【0068】
つぎに、図1に示す、各メッシュにおける熱収支計算について説明する。
ここで、各メッシュの熱収支計算における表面温度算出のための基本方程式を数1に示す。
【0069】
【数1】
【0070】
方程式の左辺は、部材表面における熱流を示す。右辺第一項は受熱日射量の項である。直達日射量、天空日射量、および周辺地物からの反射日射量が考慮され、天空日射量には天空率が乗ぜられる。周辺地物からの反射日射量については、鏡面反射成分、拡散反射成分が考慮されている。右辺第二項は大気放射量の項であり、 Bruntの式により構成される。右辺第三項は、周辺地物との長波長放射の授受の式であり、左は周辺地物から受ける長波長放射量の積算で、右はそのメッシュが周囲に放射する長波長放射量である。右辺第四項は顕熱項であり、表面と空気の対流熱伝達による顕熱の移動を計算している。
【0071】
つぎに、各メッシュにおける熱収支計算について具体的に説明する。
最初に、図1に示す、受熱日射量の計算について説明する。ここで、受熱日射量は、直達日射量、鏡面反射日射量、拡散反射日射量、および天空日射量からなっている。
【0072】
まず、直達日射量の計算について説明する。
日時・緯度・経度・時刻から決定される太陽位置(太陽高度、太陽方位)に対し、建物や地面の各メッシュから仮想の(短波長)放射線を射出し、ある決められた計算領域内に障害物がなく放射線が領域外に出た場合には、そのメッシュに直達日射量を与えるといった計算を、全メッシュに対し行う。
【0073】
このとき、水平面・鉛直面・三次元の傾斜面に対し、それぞれの法線ベクトル(向き)に応じた受熱日射量の算出が行われる。
また、放射線が建物や樹木の樹幹部に当たった場合は、直達日射量が0となるが、樹木の樹冠部に進入した場合は、後に述べる樹木による日射減衰効果に従い、直達日射量を減衰させる。
【0074】
以上より、法線面直達日射量を1としたとき、微小面である各メッシュに対する直達日射の入射角の余弦成分が、メッシュが受ける直達日射量の単位成分となる。そして、後の表面温度算出の熱収支計算の際に、気象条件の水平面全天日射量から直散分離(宇田川の式)により法線面直達日射量を求め、それにこの単位成分及びメッシュの日射吸収率を乗じた値を直達日射によるメッシュの受熱日射量とする。計算は、一日を通した時系列での計算である。
【0075】
つぎに、図1に示す鏡面反射日射量の計算について説明する。
直達日射の計算において、直達日射量が与えられたメッシュに対し行う。そのメッシュが鏡面反射面の場合、面の法線ベクトルから直達日射の照射方向に対する反射角を算出する。そして、その反射方向に(短波長)放射線を射出し、到達したメッシュに鏡面反射日射量(反射面の直達日射量に日射反射率を乗じたもの)を与える。直達日射量と同様、表面温度算出の熱収支計算の際に、この鏡面反射日射量にメッシュの日射吸収率を乗じた値を、鏡面反射日射による受熱日射量とする。直達日射量の計算同様、放射線が樹木の樹冠部に進入した場合は、後に述べる樹木による日射減衰効果に従い、鏡面反射日射量を減衰させる。また、鏡面反射日射量が樹冠部での減衰によりある値以下になった場合は、その時点で放射線の追跡を打ち切る。直達日射量と同様、一日を通した時系列での計算を行う。
【0076】
つぎに、図1に示す拡散反射日射量の計算について説明する。
直達日射量の計算において、直達日射量が与えられたメッシュに対し行う。そのメッシュが拡散反射面の場合、完全等方拡散とし、その面に対し水平方向360度・鉛直方向90度の半球状の全方向を等形態係数となるように、一定間隔で分割し、その全方向に拡散反射を想定した(短波長)放射線を射出し、到達したメッシュに拡散反射日射量(反射面の直達日射量に日射反射率を乗じ、放射線の全射出数で除したもの)を与える。直達日射量と同様、表面温度算出の熱収支計算の際に、この拡散反射日射量にメッシュの日射吸収率を乗じた値を、拡散反射日射による受熱日射量とする。直達日射量・鏡面反射日射量の計算同様、放射線が樹木の樹冠部に進入した場合は、後に述べる樹木による日射減衰効果に従い、拡散反射日射量を減衰させる。また、拡散反射日射量が樹冠部での減衰によりある値以下になった場合は、その時点で放射線の追跡を打ち切る。直達日射量と同様、一日を通した時系列での計算を行う。
【0077】
なお、本予測方法では、その指向特性より正反射性の強い材料については全て鏡面反射と仮定し、それ以外の部材については全てが拡散反射をすると仮定して計算を行った(15)。
【0078】
つぎに、図1に示す、天空日射量の計算について説明する。
水平面全天日射量から直散分離(宇田川の式)により水平面天空日射量を求める。表面温度算出の熱収支計算を行う際に、後に説明する各メッシュにおける天空率に、この水平面天空日射量を乗じた値を、メッシュが受ける天空日射量とする。この天空日射量にメッシュの日射吸収率を乗じた値を天空日射によるメッシュの受熱日射量とする。
【0079】
ここで、天空率の計算について説明する。天空率はその地点から天空が見える割合を示す値であり、高層の建物に囲まれた空間等では必然的に小さくなる。具体的には、各メッシュから水平方向に仮想の放射線を射出し、建物や樹木等の物体に到達した場合には、その高さと水平面上での到達距離から、鉛直方向の仰角を算出し、空が見える割合を求める。これを水平方向360度に一定間隔で行うことにより、天空率を算出する。なお、樹冠部については、天空が透過して見える隙間の部分の影響を考慮する。具体的には、樹種、樹高、樹冠幅、樹冠下高さから樹冠部の空隙率(天空が見える割合)を算出したものを入力条件とし、樹冠部の天空率を計算する際にその値を一定値として与え、樹冠部ではその割合で天空が見えるものとして計算をする。垂直面では、壁に対して屋内側の計算は行う必要が無いため、水平方向は壁の法線ベクトル(向き)に対して±90度で、同様に放射線の追跡を行い、天空率を算出する。傾斜面では、水平面と同様に、水平方向360 度に放射線の追跡を行う。すなわち、自身の傾斜面に対して、上部方向にあたる向きへ射出される放射線は、最低限その傾斜角が前述の仰角となるため、 その分だけ天空率は減少する。
【0080】
つぎに、図1に示す、大気放射量の計算について説明する。
各メッシュが受ける実質的な大気放射量は、 Bruntの式(24)から得られる大気放射量(全天)に、各メッシュにおける天空率を乗じ、さらに大気の長波長放射率とそのメッシュにおける長波長放射率(長波長吸収率と等しい)を乗じることにより算出される。また、気象条件の雲量により、大気放射量を変化させる(A.Angstrom, H.Philippsの式による)。
【0081】
つぎに、図1に示す、顕熱項の計算について説明する。顕熱項はつぎのようにして計算する。
与条件として与えられる風速から、Jurgesの式(25)に基づき、対流熱伝達率を求める。表面温度算出の熱収支計算の際に、非定常計算の一時刻前のそのメッシュにおける表面温度と気温、及び求まった対流熱伝達率から、顕熱流量を算出する。
【0082】
つぎに、特殊な対象における熱収支計算として、焼け込みと、樹木による日射減衰効果について説明する。
最初に、焼け込みの導入に関する検討結果について説明する。建築外部空間において、屋根や庇の下やパーゴラの下は直達日射を防ぐ格好の場所となる。しかしながら、一概に日射遮蔽をすれば良いというものではなく、その遮蔽物が金属であるのか、また木材であるのかなど材料の伝熱性能によってその熱放射環境は著しく違ってくる。
【0083】
熱伝導率が大きい部材において日射遮蔽をした場合、人が集まるその場の熱放射環境が劣悪になり、使い勝手が悪くなる可能性がある。そのためにも熱放射環境を悪化させる要因となる焼け込みの影響を考慮し、設計の際にそれを生かすことが必要となる。
そこで、本予測方法では焼けこみの再現を行っている。
【0084】
焼け込み面の表面温度を求める方法として、一次元熱伝導方程式を用いて算出した。ただし、メッシュサイズを20cmとしているため、庇など焼けこみが問題となる部材は1メッシュで与えられてしまうため、メッシュ下部にも情報を与えられるようにし、部材裏面において算出される反射日射量、長波長放射量をそこに格納する。そして、表面温度算出の際にそれらメッシュ下面と上面の熱流をそれぞれ算出し、部材断面において一次元熱伝導を計算することによりこの伝熱現象を再現した。
【0085】
つぎに、樹木による日射減衰効果の検討結果について説明する。建築外部空間をデザインする上で、樹木は重要な要素になると同時に、有効に配置することで、その熱放射環境を良好に導く手段となる。しかしながら、樹木による日射減衰効果、そして樹木の形状が十分に再現されていなければ、有効な配置を提案することはできない。そこで、本予測方法では樹木による日射減衰効果を検討した上で、方法に組み込んだ。
【0086】
樹木による日射減衰効果モデルの概要を説明する。山田らの研究によると、樹冠の透過の経路により、樹幹下の日射量は大幅に変わることが明らかになっている(16)。この方法を再現するものとして、平岡の提案するROSSの植生群落内放射輸送方程式の拡散近似解法が現状では最も高精度であるが、入力パラメータが多く非常に複雑であり、本予測方法に組み込むことは困難を極める(17〜19)。また、西川らは空隙率を用いた日射遮蔽効果の簡易推定法を提案しているが、まだ十分に樹冠内における日射の減衰が考慮できるまでのデータが整備されていないという問題を抱えている(20)。
【0087】
そこで本方法は、メッシュ化により高い再現性で形状を再現できる利点を生かし、簡易型の日射透過方法を提案した。その概念を図5に示す。まず、デジタルカメラ等により、樹冠中央部の真下から樹木を撮影し、樹冠中央部における空隙率(天空が見える割合)から理論上の日射透過率X%を算出する。次に、その際に透過するメッシュ数をYとして、メッシュを通る毎の透過率τを数2としメッシュを通る毎に直達日射量を透過させる方法を組み込んだ。
【0088】
【数2】
【0089】
つぎに、図1に示す、表面温度の計算と周辺地物の長波長放射の計算について説明する。
【0090】
表面温度の算出に用いる熱伝導の計算について説明する。上述の数1を表面における熱収支の条件とし、部材内部の伝熱は一次元の熱伝導を考慮し、後退差分法により非定常計算を行う。部材内部方向の境界条件としては、建物に関しては内壁の対流熱伝達率と室温を与え、地面については地中1mの温度不易層までの計算を行う。このとき部材内部については、構成要素詳細データベースで整備される断面構造に対し、断面を構成する材料各層の厚さより微細な間隔でメッシュ分割を行っている。
【0091】
表面温度の算出には、材料の蓄熱の影響を考慮した非定常計算を行うことが必要である。差分の時間刻みは計算量を考慮できるよう、30秒〜5分まで選択可能としている。全計算期間は、4日間の助走期間の後、5日目に周期定常解を得ている。
【0092】
つぎに長波長放射の計算をもとに表面温度を求める方法について、詳細に説明する。任意形状の三次元空間における計算を広域にわたって行う場合には、きわめて大きなメモリ空間が必要とされるため、大型計算機等を用いた場合でも容易に処理することができない。このようなことから、ワークステーションレベルで計算が可能となる実用的な長波長放射授受の計算方法として、以下のアルゴリズムを採用している。
(1)周辺地物の表面温度を気温とみなして第一次の熱収支計算を行い、表面温度の近似値の時系列変化を得る。天空以外は全て周辺地物であることから、実際の計算では(1−天空率)に気温の絶対温度の4乗と大気の長波長放射率、メッシュの長波長放射率(吸収率に等しい)を乗じたものが、そのメッシュが受ける長波長放射量となる。
(2)得られた表面温度の近似値を利用し、メッシュ毎、その面に対し水平方向360度・鉛直方向90度の半球上の全方向を等形態係数となるように分割し、その全方向に仮想の(長波長)放射線を射出し、到達したメッシュの表面温度、長波長放射率を取得することにより、そのメッシュが受ける長波長放射量の時系列変化を求める。
(3)(2)に基づいて、熱収支計算を行い、各メッシュの表面温度の時系列変化を求める。
なお、そのメッシュが放射する長波長放射量は、表面温度算出の際、表面における熱収支条件として、そのメッシュの表面温度(絶対温度)の4乗に比例した熱量を部材内部方向への熱流から減少させている。
(4)(2),(3)を繰り返すことにより、表面温度の時系列変化の計算結果を収束させる。
特に、計算時間、計算精度のバランスから、現実的な反復回数は2回である。
【0093】
つぎに、潜熱の移動を伴う空間構成要素の表面温度の扱いについて説明する。すなわち、樹木・芝生・湿潤裸地面の扱いについて説明する。潜熱の移動を伴う空間構成要素については、熱水分同時移動方程式を用いると計算量が膨大になり、設計支援ツールとして実用的な計算が行えない。そこで、樹木・芝生・湿潤裸地面等については、既往研究より得られる回帰式を用い表面温度を算出している。具体的には、樹木については、気温と日射量による回帰式(21)である。芝生についても気温と日射量による回帰式(22)である。湿潤裸地面については、気温、日射量、風速による回帰式(22)である。
ただし、潜熱の扱いとして、熱水分同時移動方程式、及びその簡易モデル(23)を組み込むことは可能である。
【0094】
つぎに、顕熱項の計算に必要となる風速・気温の、空間分布の扱いについて説明する。本シミュレーションでは、ヒートアイランドが顕著となる弱風条件下における全地表面の熱収支を予測する。このため、都市キャノピー内の大気の分布については考慮せず、都市キャノピー層の上空の風速・気温で代表させる。
ただし、気流数値シミュレーションなどによりそれらの分布が与えられれば、各メッシュでその風速・気温を考慮した表面温度算出も可能である。
【0095】
つぎに、熱環境評価指標(MRT、HIP)について説明する。
最初に、図1に示す、MRTについて説明する。
MRT(Mean Radiant Temperature;平均放射温度)は人間が周辺の地物から受ける熱放射による放射温度の全方位の平均として定義され、熱放射環境を評価するのに有効な指標である。
【0096】
算出式は微小球を仮定し、数3に示す通りである。MRTの計算結果より、街区内の全領域において地表面から1.2m高さにおけるMRTを分布画像として出力し、各空間における熱放射環境を評価する。
【0097】
【数3】
【0098】
MRTは、高さ1.2mの水平面上において地表面と同様のメッシュサイズでメッシュを仮定し、建物など地物を除くすべてのメッシュにおいて算出を行う。メッシュは微小球と仮定しMRTを計算する。具体的には、メッシュ毎、その面に対し水平方向360度・鉛直方向±90度の全球上の全方向を等形態係数となるように分割し、その全方向に仮想の(長波長)放射線を射出し、到達したメッシュの表面温度、長波長放射率を取得する。そして、数3に応じ、MRTを求める計算は等形態係数となるように行っていることから、数3のFmnは一定値(1/放射線の全射出数)となる。
【0099】
つぎに、図1に示す、HIPについて説明する。
HIP(Heat Island Potential ;ヒートアイランドポテンシャル)は、開発等の対象となる敷地や街区が、周囲に及ぼす環境影響の指標、すなわち都市熱環境の評価指標として、ヒートアイランドを起こし得る度合いを評価するために、発明者らが提案したものであり、建物や地面など全ての表面から発生する顕熱の敷地または街区の面積に対する割合として定義される。HIPは対象地の全表面温度から求まり、数4に算出式を示す。都市キャノピー層では、その上部の気温と内部の気温とでは差が生じ、また同じ街区内でも気温分布が生じることが分かっている。このとき、数℃の気温分布が生じる場合もあるが、表面温度の分布が数十℃にも及ぶことから、HIPでは第1近似として上述の気温分布はないものとして扱う。すなわち、数4のTaは一定値として設定される。
【0100】
【数4】
【0101】
HIPは、算出された各メッシュにおける表面温度と、入力条件である気温との差を、全表面において積算し、街区の水平面投影面積で除することにより算出される。
【0102】
つぎに、図1に示す、3D-CADについて説明する。
表面温度、MRT分布を算出しても、熱環境の専門家にしか伝わらないのであれば、それは設計支援手法として用いる際に片手落ちとなってしまう。そのためにも、評価者が簡単に扱え、そして視覚的に分かりやすい出力が必要となる。
【0103】
その方法として、入力の際に用いた3D-CAD(ソフトVector Works)を再び用いることとした。まず、計算がメッシュで行われているため、それを活かし、プログラムでそれぞれのメッシュが持つX−Y−Z座標の情報どおりに3D-CAD上に単位立方体を配し、それによりメッシュ形状を再現した。このメッシュに対し、表面温度計算の結果を自動的に入力し、温度情報をRGB情報に変換し、青から赤(0000ff〜00ffff〜00ff00〜ffff00〜ff0000)の256色を割り当てた。つまり、表面温度情報をもった単位立方体が積み重なることにより、解析街区における3次元での表面温度の出力を行っている。
また、入力に用いた CADの形状モデルに出力結果を直接貼り付ける方法も行った。
【0104】
また、焼け込みのある部材に関しては、立方体底面に伝熱計算を組み込んだ結果を別途それに対応した色を与えることで、出力上、焼け込みを表現した。
【0105】
3D-CAD上に出力結果を表現することで、普通に3D-CADを用いる場合と同じく自由な視点から評価を行えるために、ある特定のポイントを拡大して見る場合や評価対象地の熱放射環境全体を見渡す場合、また2次元でMRT分布を出力し、全体の分布を捉える場合と、あらゆる角度から評価を行うことが可能となった。
【0106】
つぎに、本予測方法を用いた適用例について説明する。
現状みられる予測方法では、複雑な形状を有する住宅地の熱環境を把握することができなかった。そこで、今回開発を行った予測方法を実際に建築数棟で囲まれた住宅地に適用することで、これらの手法との明確な差異化を図る。
【0107】
そのために、まず、複雑な形状を持つ住宅地を設定する。そして、本予測方法を適用することで、その評価地の全表面温度、MRT分布、HIPを算出し、その評価地の熱的特性を把握する。これより、詳細なデザインが全表面温度分布及び熱放射環境に影響を与えていることを確認し、本予測方法の有効性を確認する。
【0108】
本予測方法適用地の設定について説明する。本予測方法の適用地として、建築数棟で囲まれ、樹木を多く有する住宅地を選定した。住宅地を選定した理由は、日射の遮蔽効果がみられる樹木や屋根などの遮蔽物が多い場所であること、本予測方法の適用地を建物周り〜街区としたために、その際もっとも適用事例が多いと思われる戸建住宅群であること、建物の形状が複雑で、既往のモデルを用いては計算することが不可能な場所であること、の3つの観点によるものである。
【0109】
この条件に合致するものとして、2階建て戸建住宅5棟、高木4本、中低木15本を有する住宅地を想定し、計算を行った。使用材料は以下のようにした。
地面:コンクリート舗装
壁面:木造モルタル仕上げ
屋根面:木造モルタル仕上げ
ガラス面:普通ガラス
ウッドデッキ:木材
樹木:落葉樹(南中時の樹冠下中央部透過率20%)
【0110】
また、計算領域は東京都内の住宅密集地に見られる1街区50m×50m(250メッシュ×250メッシュ)とし、メッシュサイズは20cmとした。
なお、この住宅地の場所は関東地方(35°41´N 139°46´E )で時期は夏季(8月16日)を設定し、4日間の助走期間を置いた後、表面温度を算出した。気温、日射量、絶対湿度は建築設計資料集成の冷房設計用外界条件を利用した。また、住宅に囲まれた空間を評価の主眼に置いているため、計算領域外の周辺地物はすべて空気とし、また地面は平坦として扱った。
【0111】
本予測方法の適用結果を図6〜9に示す。本シミュレーション方法の特徴は、建築の外部空間において詳細なデザインの影響を考慮した表面温度の予測ができる点にある。
【0112】
図6は12時の1.2m高さにおけるMRT分布である。建物や樹木のデザインにより、空間内においてMRTに大きく差が生じており、熱放射環境が悪化した空間と良好な空間が一目で把握できる。
【0113】
図7は、住宅地の表面温度分布を上空からの俯瞰により出力したものである。住宅地上空からの俯瞰で結果を出力することにより、住宅地全体の表面温度分布の傾向が確認できる。特に、本解析対象地では樹木の効果が表面温度に十分に現れていることが分かるなど、住宅地の表面温度分布を特徴付けるデザイン要素が確認できる。
【0114】
図8は敷地内の通路上の表面温度分布を出力したものである。屋根形状、庇、樹木形状等のデザインの影響が表面温度に見てとれる。
【0115】
これらの図より、屋根形状、樹木形状、庇、ベランダ等のデザインの影響が表面温度に見てとれ、その有効性が確認できる。
【0116】
図9はHIPの時間変化をグラフ化したものである。図中の「現状」は現状のHIPを示したものであり、「樹木なし」は「現状」から樹木をなくしたモデルで算出したHIPである。この図では、両者のHIPに明確な差が生じていることから、樹木の熱環境調整効果がHIPという指標により定量的に確認できる。また、熱環境は一時刻のみの評価では不十分であるが、本シミュレーション方法では一日を通した時系列での計算を行っているため、図9のように時間変化を考慮した熱環境を評価することができる。
【0117】
ここでは、本予測方法を建築数棟と樹木で囲まれる住宅地に適用した結果を表面温度分布、MRT分布としてそれぞれ示した。図より、屋根による建築壁面、地面への日射遮蔽や、樹木の形状による日射減衰効果の違いなどより、本予測方法がこれらデザインの影響を踏まえて全表面温度分布及び熱放射環境を評価できることを確認した。また、HIPの指標を用いることにより、これらデザインの影響を定量的に評価することができた。
【0118】
以上のことから、本予測方法によれば、建物や樹木などの詳細なデザインを再現し、全表面温度の予測ができる。
また、設計で使用されることも多い3D-CADを建物や樹木形状等の三次元幾何情報の入力媒体として使用しているため、設計とのデータの共有が容易である。
また、樹木のモデル化に関して、まず3D-CADを使用しているため、樹木形状の再現が容易に行える。さらに、樹冠内における日射減衰過程の再現が従来の方法より高精度に、且つ膨大な計算負荷をかけることなく行える。
また、3D-CADを出力媒体として使用しているため、計算結果の表面温度分布を評価者の自由な視点から出力することができ、第三者による評価を容易にしている。これは、設計支援を目的とした手法としては非常に重要な要素である。
MRTとHIPの指標を使用することにより、建築外部空間のデザインが熱放射環境及び都市熱環境に与える影響を定量的に評価することができる。
【0119】
なお、本予測方法は上述した内容に限定されるものではない。
本予測方法で説明した個々の計算以外に、以下のものを追加して、全体の計算の精度をより向上させることができる。
【0120】
まず、表面温度算出の顕熱項の計算に必要となる気温・風速のデータを、今回は空間分布を考慮せず空間内一定として与えていたが、より高精度の予測を行う上では気流数値シミュレーションの結果を入力条件とし、各メッシュにその近傍の算出値を与えることも可能である。また、気流数値シミュレーションに限らず、空間内の気流・気温の分布が与えられれば、それを入力することも可能である。
【0121】
また、本予測手法による全表面温度の算出結果を境界条件とし、気流数値シミュレーションを行うことができ、それにより高精度の気流・気温分布の予測が可能である。上記の方法と併せて、本予測手法と気流数値シミュレーションとの連成が行える。ただし、既往研究に見られる連成手法(村上らの研究)と比べ、表面温度予測シミュレーションと気流数値シミュレーションを別々のプログラムとして独立できるため、気流数値シミュレーションでは計算負荷増大の主因となってしまう建物形状の再現を、各シミュレーションで別々に行える利点があり、ひいては膨大な計算負荷をかけずに連成が行える。つまり、表面温度の予測は本手法を用い詳細な形状を再現して行い、気流数値シミュレーションは簡略化した形状で行えばよいのである。このとき、形状モデルの異なる両シミュレーションにおけるデータの受け渡しを行い、連成を設立させる。
【0122】
また、本予測手法では、日射反射の多重反射の計算について、計算時間と予測精度のバランスを鑑みて、鏡面・拡散ともに一次反射までを導入している。ただし、2次以降の多重反射を導入し、より一層の予測精度の向上を図ることも可能である。また、拡散多重反射について、高精度の反射過程の再現法であるラジオシティ法を導入することもできる。
【0123】
また、本予測手法では、室温条件を与条件として入力した。ただし、建物の表面温度についてさらなる高精度の予測を行うために、室温の計算が行える建物熱負荷計算等との連成を行うことも可能である。すなわち、まず表面温度算出の際に求められる表面熱流を建物負荷計算の外部境界条件として入力し、室温の予測を行う。つぎに、その結果をもとに外表面の熱収支計算を行い、より忠実な室温条件を用いた表面温度予測を行うことが可能である。また、この方法を用いることにより、詳細な建物の外表面熱流の分布を考慮した熱負荷計算が行えるため、ヒートアイランドに寄与する要因として全表面から発生する顕熱に加え、空調負荷量の算出に基づく空調分の人工発生熱が考慮でき、街区から発生する顕熱流量がより詳細に求まり、都市熱環境へのインパクトを多面的に予測することができる。
【0124】
また、本予測方法で説明した個々の計算を、以下のものに変更することもできる。
まず、長波長放射授受の計算について、確率的な現象予測の方法であるモンテカルロ法を導入することも可能である。
【0125】
また、本予測手法は計算ステップに応じ、幾つかのプログラムから構成されている。そのため、任意の三次元形状の街区について、必要に応じて受熱日射量、天空率、周辺地物からの長波長放射量等の分布を画像として出力することができ、設計段階で地区の熱環境を規定する要因を詳細に検討し、フィードバックできるところに特徴がある。ただし、すべてのプログラムを一体化し、入力から出力までを一連の計算で行えるようにすることも可能であり、計算にかかる人的負荷を減らすこともできる。
【0126】
また、樹冠の日射透過過程の再現について、より高精度の方法(例えば平岡の提案する方法)や簡易推定法(例えば西川らの空隙率を用いた方法)などを導入することも可能である。
また、植生や土壌、透水性舗装面など、水分の移動を伴う要素の表面温度算出について、高精度の熱水分同時移動方程式や簡易推定法(例えば谷本らの提案するモデル)の導入も可能である。
また、本予測手法では、室温条件を部屋ごと分けずに、建物内一定として与えていた。ただし、部屋ごとに室温条件を与えることも可能である。
【0127】
また、本発明は上述の実施の形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【0128】
つぎに、熱環境の予測方法に用いるプログラムについて説明する。
熱環境の予測方法に用いるプログラムは、図10に示すとおりである。本シミュレーション方法は、計算のステップに応じ、幾つかのプログラムから構成されている。そのため、任意の三次元形状の街区について、必要に応じて受熱日射量、天空率、周辺地物からの長波長放射量等の分布を画像として出力することができ、設計段階で地区の熱環境を規定する要因を詳細に検討し、フィードバックできるところに特徴がある。
【0129】
本プログラムの流れを、図10に沿って具体的に説明する。なお、本プログラムは、最初の「熱環境の予測方法」のところで説明した方法に基づくものである。
【0130】
まず、3D-CAD三次元幾何情報の入力では、 CADソフト「Vector Works」を用い、建物や樹木形状の再現やモデル化といった、シミュレーションに必要な三次元幾何情報の入力を行う。
【0131】
建物・樹木切断プログラムは、3D-CADで作成された建物・樹木のモデルを、メッシュサイズの間隔で高さ毎切断し、それぞれの高さにおける断面の線分座標値を取得するプログラムである。プログラミングの開発環境が備わった CADソフト「Vector Works」において作成されたプログラム(Pascal言語、発明者が作成)を使用し、その「Vector Works」上で切断の作業及び、座標値取得の作業を実行する。
【0132】
各高さにおける断面の線分座標値は、上記のプログラムで高さ毎切断された建物や樹木の断面形状における、各頂点の座標値情報である。
【0133】
以下は Fortran言語で作成されたプログラム(発明者が作成)を使用する。
メッシュデータ化プログラムは、高さ毎に取得された図形断面の線分座標値をもとに、メッシュサイズに応じたメッシュ化を行うプログラムである。すべての高さで行うことにより、三次元のメッシュデータを作成し、同時に各メッシュに対し、構造・表面材料等の情報を入力する。地面については2次元メッシュデータが作成される。
【0134】
三次元メッシュデータは、上記プログラムで作成された建物や樹木の三次元のメッシュデータである。情報としては、(X,Y,Z)座標値や建物(樹木)番号、建物構造(樹種)などが格納されている。地面は2次元メッシュデータとなり、土地被覆材料などが格納される。
構成要素詳細データベースは建物については建物構造や表面材料、地面については土地被覆材料毎にその断面構造が整備されたものである。また、物性値データベースは、構成要素詳細データベース内に記載される材料の物性値を整備したものである。いずれも表面温度計算プログラム内で表面温度を算出する際に使用される。
【0135】
気象条件の水平面全天日射量は直散分離により法線面直達日射量と水平面天空日射量に分けられる。法線面直達日射量は表面温度算出の際、直達日射量の気象データとして使用され、水平面天空日射量は天空日射量の気象データとして使用される。気温、風速は表面温度計算の際、顕熱項の算出に使用される。相対湿度(絶対湿度)は大気放射量算出の際、Brunt の式で使用される。雲量は、大気放射量算出の際使用される。
【0136】
直達日射量計算プログラムは、日時・緯度・経度等の情報をもとに、各メッシュが受ける直達日射量を算出するプログラムである。一日を通しての時系列計算を行う。
【0137】
直達日射量データは、直達日射量計算プログラムで計算された直達日射量の情報がメッシュ毎に保存されたものである。
【0138】
鏡面反射日射量計算プログラムは、各メッシュにおける直達日射量データ及び日時・緯度・経度・日射反射率等の情報をもとに、その一次鏡面反射成分を算出し、正反射により到達したメッシュに反射日射量を与えるプログラムである。一日を通しての時系列計算を行う。
【0139】
鏡面反射日射量データは、鏡面反射日射量計算プログラムで計算された各メッシュが受ける鏡面反射日射量の情報がメッシュ毎に保存されたものである。
【0140】
拡散反射日射量計算プログラムは、各メッシュにおける直達日射量データ及び日時・緯度・経度・日射反射率等の情報をもとに、その一次拡散反射成分を算出し、完全等方拡散により到達した各メッシュに反射日射量を与えるプログラムである。一日を通しての時系列計算を行う。
【0141】
拡散反射日射量データは、拡散反射日射量計算プログラムで計算された各メッシュが受ける拡散反射日射量の情報がメッシュ毎に保存されたものである。
【0142】
天空率計算プログラムは、天空日射量・大気放射量の見積に必要となる天空率を算出するプログラムである。時系列の計算ではない。ここで得られる天空率をもとに、天空日射量、大気放射量は算出される。
【0143】
天空率データは、天空率計算プログラムで計算された天空率の情報がメッシュ毎に保存されたものである。
【0144】
長波長放射量計算プログラムは、各メッシュが周辺の地物から受ける長波長放射量を算出するプログラムである。長波長放射量計算の入力データとしては全メッシュにおける表面温度の情報が必要なため、表面温度が算出された後にプログラムは実行される。具体的には、第一回目の表面温度を、周辺地物の表面温度を気温と仮定し長波長放射量の項を算出し、計算する。つぎの段階でこの長波長放射量算出プログラムは使用され、その表面温度の計算結果をもとに、各メッシュが受ける長波長放射量を算出する。そして、このような表面温度算出→長波長放射量の計算→表面温度算出の反復を2回行い、表面温度を収束させる。
【0145】
長波長放射量データは、長波長放射量計算プログラムで計算された各メッシュが受ける長波長放射量の情報がメッシュ毎に保存されたものである。
【0146】
表面温度計算プログラムは、算出された直達日射量・天空率などのデータに加え、与条件として与えられる材料物性値データ・気象データ・室温データ等から各メッシュにおける表面温度を、部材断面方向への一次元熱伝導を考慮し非定常計算により算出するプログラムである。部材断面構造と部材を構成する各層の物性値は、断面構造詳細データベース及び物性値データベースより決定される。
【0147】
図1の天空日射量はこの計算内において考慮され、気象データである水平面全天日射量から直散分離により求まる水平面天空日射量に、プログラム計算により算出された天空率と日射吸収率を乗ずることにより求まる。図1の大気放射量はこの計算内において考慮され、Brunt の式から求まる大気放射量に天空率と大気の長波長放射率、各メッシュの長波長放射率(吸収率に等しい)を乗ずることにより求まる。図1の顕熱項はこの計算内において考慮され、非定常計算の一時刻前のそのメッシュにおける表面温度と気温、及び対流熱伝達率から算出される。潜熱移動を伴う空間構成要素については、実験から求まった回帰式により、表面温度を回帰する。周期定常解として、4日間の助走期間の後、5日目に得られる表面温度を最終解としている。
【0148】
全表面温度データは、表面温度計算プログラムで計算された表面温度の情報がメッシュ毎に保存されたものである。
【0149】
3D-CADに出力では、プログラミングの開発環境が備わった CADソフト「Vector Works」において作成されたプログラム(Pascal言語、発明者が作成)を使用し、その「Vector Works」上で CADに街区の全表面温度の算出結果を出力する。また、MRTを2次元平面上に出力する。
【0150】
HIP算出では、HIPの算出式に基づき、全表面温度の算出結果からHIPの算出を行う。算出には、Fortran 言語で作成されたプログラム(発明者が作成)を使用する。
【0151】
MRT算出では、MRTの算出式に基づき、全表面温度の算出結果からMRTの算出を行う。算出には、 Fortran言語で作成されたプログラム(発明者が作成)を使用する。
【0152】
以上のことから、熱環境の予測方法に用いる本プログラムによれば、建物や樹木などの詳細なデザインを再現し、全表面温度の予測ができる。
また、設計で使用されることも多い3D-CADを建物や樹木形状等の三次元幾何情報の入力媒体として使用しているため、設計とのデータの共有が容易である。
また、樹木のモデル化に関して、まず3D-CADを使用しているため、樹木形状の再現が容易に行える。さらに、樹冠内における日射減衰過程の再現が従来の方法より高精度に、且つ膨大な計算負荷をかけることなく行える。
また、3D-CADを出力媒体として使用しているため、計算結果の表面温度分布を評価者の自由な視点から出力することができ、第三者による評価を容易にしている。これは、設計支援を目的とした手法としては非常に重要な要素である。
MRTとHIPの指標を使用することにより、建築外部空間のデザインが熱放射環境及び都市熱環境に与える影響を定量的に評価することができる。
【0153】
なお、本予測方法は上述した内容に限定されるものではない。
本予測方法で説明した個々の計算以外に、以下のものを追加して、全体の計算の精度をより向上させることができる。
【0154】
まず、表面温度算出の顕熱項の計算に必要となる気温・風速のデータを、今回は空間分布を考慮せず空間内一定として与えていたが、より高精度の予測を行う上では気流数値シミュレーションの結果を入力条件とし、各メッシュにその近傍の算出値を与えることも可能である。また、気流数値シミュレーションに限らず、空間内の気流・気温の分布が与えられれば、それを入力することも可能である。
【0155】
また、本予測手法による全表面温度の算出結果を境界条件とし、気流数値シミュレーションを行うことができ、それにより高精度の気流・気温分布の予測が可能である。上記の方法と併せて、本予測手法と気流数値シミュレーションとの連成が行える。ただし、既往研究に見られる連成手法(村上らの研究)と比べ、表面温度予測シミュレーションと気流数値シミュレーションを別々のプログラムとして独立できるため、気流数値シミュレーションでは計算負荷増大の主因となってしまう建物形状の再現を、各シミュレーションで別々に行える利点があり、ひいては膨大な計算負荷をかけずに連成が行える。つまり、表面温度の予測は本手法を用い詳細な形状を再現して行い、気流数値シミュレーションは簡略化した形状で行えばよいのである。このとき、形状モデルの異なる両シミュレーションにおけるデータの受け渡しを行い、連成を設立させる。
【0156】
また、本予測手法では、日射反射の多重反射の計算について、計算時間と予測精度のバランスを鑑みて、鏡面・拡散ともに一次反射までを導入している。ただし、2次以降の多重反射を導入し、より一層の予測精度の向上を図ることも可能である。また、拡散多重反射について、高精度の反射過程の再現法であるラジオシティ法を導入することもできる。
【0157】
また、本予測手法では、室温条件を与条件として入力した。ただし、建物の表面温度についてさらなる高精度の予測を行うために、室温の計算が行える建物熱負荷計算等との連成を行うことも可能である。すなわち、まず表面温度算出の際に求められる表面熱流を建物負荷計算の外部境界条件として入力し、室温の予測を行う。つぎに、その結果をもとに外表面の熱収支計算を行い、より忠実な室温条件を用いた表面温度予測を行うことが可能である。また、この方法を用いることにより、詳細な建物の外表面熱流を考慮した熱負荷計算が行えるため、ヒートアイランドに寄与する要因として全表面から発生する顕熱に加え、空調負荷量の算出に基づく空調分の人工発生熱が考慮でき、街区から発生する顕熱流量がより詳細に求まり、都市熱環境へのインパクトを多面的に予測することができる。
【0158】
また、本予測方法で説明した個々の計算を、以下のものに変更することもできる。
まず、長波長放射授受の計算について、確率的な現象予測の方法であるモンテカルロ法を導入することも可能である。
【0159】
また、本予測手法は計算ステップに応じ、幾つかのプログラムから構成されている。そのため、任意の三次元形状の街区について、必要に応じて受熱日射量、天空率、周辺地物からの長波長放射量等の分布を画像として出力することができ、設計段階で地区の熱環境を規定する要因を詳細に検討し、フィードバックできるところに特徴がある。ただし、すべてのプログラムを一体化し、入力から出力までを一連の計算で行えるようにすることも可能であり、計算にかかる人的負荷を減らすこともできる。
【0160】
また、樹冠の日射透過過程の再現について、より高精度の方法(例えば平岡の提案する方法)や簡易推定法(例えば西川らの空隙率を用いた方法)などを導入することも可能である。
また、植生や土壌、透水性舗装面など、水分の移動を伴う要素の表面温度算出について、高精度の熱水分同時移動方程式や簡易推定法(例えば谷本らの提案するモデル)の導入も可能である。
また、本予測手法では、室温条件を部屋ごと分けずに、建物内一定として与えていた。ただし、部屋ごとに室温条件を与えることも可能である。
【0161】
また、本発明は上述の実施の形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【0162】
参考文献
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(15)日本建築学会編:建築設計資料集成1 環境、丸善、pp80、1978.6
(16)山田宏之、丸田頼一:樹木の日射軽減作用に関する研究、造園雑誌、51号、pp84-94 、1987.2
(17)平岡久司、中村泰人: Ross,J.の植物群落内放射輸送モデルに関する研究(その 1) Szeicz,G.の測定データとの比較、日本建築学会計画系論文集、第416号、pp17-24 、1990.10
(18)平岡久司: Ross J.の植生群落内放射伝達モデルに関する研究 その2Ranson,K.J. の測定データとの比較、日本建築学会計画系論文集、第 443号、pp1-6 、1993.1
(19)平岡久司:ROSSの植生群落内放射輸送方程式の拡散近似解法に関する研究、日本建築学会計画系論文集、 495号、pp31-36 、1997.5
(20)西川竜二、宿谷昌則:樹木の日射遮蔽効果の簡易推定法の開発、日本建築学会計画系論文集、第 527号、pp29-35 、2000.1
(21)下川宰司、片山忠久、林徹夫、谷本潤、何平、池沢紀幸;樹木のある街路の熱環境予測、その 5、日本建築学会学術講演会梗概集,pp.131-132,1996年
(22)梅干野晁他;屋上の芝生植栽による照り返し防止・焼き込み防止効果、日本建築学会建築環境工学論文集,pp.133-140,1995年
(23)例えば谷本潤他;都市熱環境評価のための地表面からの蒸発量の簡易計算手法に関する研究、日本建築学会計画系論文集No.534,pp.63-68,2000.8
(24)(渡辺要編;建築計画原論 II 、丸善、 p.49-50 、 1979.2 )
(25)( W.H.McAdams: Heat Transmission, Third Edition, McGraw-Hill Kogakusha, Ltd., Tokyo, p.249, 1954 )
【0163】
【発明の効果】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
所定間隔ごとの高さについて空間構成要素を切断し、生成された平面図形の座標を取得し、平面図形を所定のメッシュに分割し、各メッシュについて熱収支計算を行うことにより、または、コンピュータに、所定間隔ごとの高さについて空間構成要素を切断し生成された平面図形の座標を取得する手順、平面図形を所定のメッシュに分割し各メッシュについて熱収支計算を行う手順を実行させることにより、建物や樹木などのデザインを再現し、表面温度の予測ができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】熱環境の予測方法の流れを示す図である。
【図2】解析対象地のCADモデルを示す図である。
【図3】3D−CAD上でのデータの取得方法を示す図である。
【図4】解析対象地の三次元メッシュデータを示す図である。
【図5】本予測手法で用いる樹木の日射遮蔽効果の概念を示す図である。
【図6】1.2m高さにおけるMRT分布を示す図である。
【図7】表面温度分布(住宅地俯瞰)を示す図である。
【図8】表面温度分布(敷地内通路)を示す図である。
【図9】HIPの日変化を示す図である。
【図10】プログラムフローを示す図である。
Claims (8)
- 建物または地面の、いずれかまたは双方を対象に含み、
建物については、三次元空間上に、建物の外形を面で表し、
地面については、二次元平面上に、土地被覆が異なる部分を頂点の集合体の図形で表し、
建物については、所定の高さで前記建物の外形面を切断し、生成された線分の集合として表される平面図形を取得し、
地面については、線分の集合として表される平面図形を取得し、
建物については、メッシュ平面に前記建物の平面図形を重ね、前記線分をメッシュサイズに分割し、
地面については、メッシュ平面に前記地面の平面図形を重ね、前記線分により囲まれた領域をメッシュに分割し、
太陽位置に対し、メッシュから障害物がない場合、気象条件の水平面全天日射量から直散分離により法線面直達日射量を求め、それにこのメッシュに対する直達日射の入射角の余弦成分及びこのメッシュの実測値に基づく日射吸収率を乗じた値を直達日射による受熱日射量とし、
前記直達日射が与えられたメッシュが鏡面反射面の場合、面の法線ベクトルから直達日射の照射方向に対する反射角を算出し、その反射方向に存在する他のメッシュに鏡面反射日射量(反射面の直達日射量に実測値に基づく日射反射率を乗じた値)を与え、この鏡面反射日射量に前記他のメッシュの実測値に基づく日射吸収率を乗じた値を、鏡面反射日射による受熱日射量とし、
前記直達日射が与えられたメッシュが拡散反射面の場合、その面に対する半球の全方向を等形態係数となるように分割し、この分割された各方向に存在する他のメッシュに拡散反射日射量(反射面の直達日射量に実測値に基づく日射反射率を乗じ、分割数で除した値)を与え、この拡散反射日射量に前記他のメッシュの実測値に基づく日射吸収率を乗じた値を、拡散反射日射による受熱日射量とし、
前記水平面全天日射量から直散分離により水平面天空日射量を求め、この水平面天空日射量にメッシュにおける天空率(このメッシュから天空が見える範囲の形態係数を算出した値)を乗じた値を、このメッシュが受ける天空日射量とし、この天空日射量にこのメッシュの実測値に基づく日射吸収率を乗じた値を、天空日射による受熱日射量とし、
実験・実測に基づく式から得られる大気放射量に、メッシュにおける前記天空率を乗じ、さらに実測値に基づく大気の長波長放射率と、このメッシュにおける実測値に基づく長波長放射率を乗じた値を大気放射量とし、
実験・実測に基づく式を用いて、気象条件の風速から対流熱伝達率を求め、さらに気象条件の気温から、非定常計算の一時刻前におけるメッシュの表面温度を引いた値に、前記対流熱伝達率を乗じた値を顕熱流量とし、
メッシュの内部の伝熱は一次元の熱伝導とし、非定常計算の一時刻前の内部の温度勾配に実測値に基づく熱伝導率を乗じた値を、熱伝導による熱流量とし、
別の計算により得られたメッシュの表面温度の値、または非定常計算の一時刻前の表面温度の値を利用し、長波長放射を受けるメッシュの面に対する半球の全方向を等形態係数となるように分割し、この分割された各方向に存在する他のメッシュについて、前記表面温度の4乗の値にステファンボルツマン定数、前記他のメッシュの形態係数、および前記他のメッシュの実測値に基づく長波長放射率を乗じた値をすべて合計し、その合計値に長波長放射を受けるメッシュの実測値に基づく長波長放射率を乗じた値をメッシュが受ける長波長放射量とし、
メッシュの表面温度の4乗の値にステファンボルツマン定数およびこのメッシュの実測値に基づく長波長放射率を乗じた値を、このメッシュが放射する長波長放射量とし、
各メッシュについて、前記受熱日射量、前記大気放射量、前記顕熱流量、前記熱伝導による熱流量、および前記受ける長波長放射量を合計し、さらにこの合計値から前記放射する長波長放射量を差し引いて得られた熱量から、メッシュの材料の蓄熱を考慮した非定常計算を行うことにより、メッシュの表面温度を算出する熱環境の予測方法。 - 建物、樹木、または地面のうちから選ばれる、1つまたはいずれかの組み合わせを対象に含み、
樹木については、
三次元空間上に、樹木の外形を面で表し、
所定の高さで前記樹木の外形面を切断し、生成された線分の集合として表される平面図形を取得し、
メッシュ平面に前記樹木の平面図形を重ね、前記線分により囲まれた領域をメッシュに分割し、
実験・実測に基づく式を用いて、前記樹木の表面のメッシュの温度を算出する請求項1記載の熱環境の予測方法。 - 直達日射、鏡面反射日射、または拡散反射日射が樹木の樹冠部を透過する場合、透過後の直達日射量、鏡面反射日射量、または拡散反射日射量は、透過前の直達日射量、鏡面反射日射量、または拡散反射日射量に、実測値に基づく透過率を乗じた値とする請求項2記載の熱環境の予測方法。
- 地面については、
三次元空間上に、地面の外形を面で表し、かつ土地被覆が異なる部分を頂点の集合体の図形で表し、
所定の高さで前記地面の外形面を切断し、生成された線分の集合として表される平面図形を取得し、
メッシュ平面に前記地面の平面図形を重ね、前記線分をメッシュサイズに分割する請求項1記載の熱環境の予測方法。 - 建物または地面の、いずれかまたは双方を対象に含む、熱環境を予測するためにコンピュータを、
建物については、三次元空間上に、建物の外形を面で表し、地面については、二次元平面上に、土地被覆が異なる部分を頂点の集合体の図形で表す手段、
建物については、所定の高さで前記建物の外形面を切断し、生成された線分の集合として表される平面図形を取得し、地面については、線分の集合として表される平面図形を取得する手段、
建物については、メッシュ平面に前記建物の平面図形を重ね、前記線分をメッシュサイズに分割し、地面については、メッシュ平面に前記地面の平面図形を重ね、前記線分により囲まれた領域をメッシュに分割する手段、
太陽位置に対し、メッシュから障害物がない場合、気象条件の水平面全天日射量から直散分離により法線面直達日射量を求め、それにこのメッシュに対する直達日射の入射角の余弦成分及びこのメッシュの実測値に基づく日射吸収率を乗じた値を直達日射による受熱日射量とし、
前記直達日射が与えられたメッシュが鏡面反射面の場合、面の法線ベクトルから直達日射の照射方向に対する反射角を算出し、その反射方向に存在する他のメッシュに鏡面反射日射量(反射面の直達日射量に実測値に基づく日射反射率を乗じた値)を与え、この鏡面反射日射量に前記他のメッシュの実測値に基づく日射吸収率を乗じた値を、鏡面反射日射による受熱日射量とし、
前記直達日射が与えられたメッシュが拡散反射面の場合、その面に対する半球の全方向を等形態係数となるように分割し、この分割された各方向に存在する他のメッシュに拡散反射日射量(反射面の直達日射量に実測値に基づく日射反射率を乗じ、分割数で除した値)を与え、この拡散反射日射量に前記他のメッシュの実測値に基づく日射吸収率を乗じた値を、拡散反射日射による受熱日射量とし、
前記水平面全天日射量から直散分離により水平面天空日射量を求め、この水平面天空日射量にメッシュにおける天空率(このメッシュから天空が見える範囲の形態係数を算出した値)を乗じた値を、このメッシュが受ける天空日射量とし、この天空日射量にこのメッシュの実測値に基づく日射吸収率を乗じた値を、天空日射による受熱日射量とし、
実験・実測に基づく式から得られる大気放射量に、メッシュにおける前記天空率を乗じ、さらに実測値に基づく大気の長波長放射率と、このメッシュにおける実測値に基づく長波長放射率を乗じた値を大気放射量とし、
実験・実測に基づく式を用いて、気象条件の風速から対流熱伝達率を求め、さらに気象条件の気温から、非定常計算の一時刻前におけるメッシュの表面温度を引いた値に、前記対流熱伝達率を乗じた値を顕熱流量とし、
メッシュの内部の伝熱は一次元の熱伝導とし、非定常計算の一時刻前の内部の温度勾配に実測値に基づく熱伝導率を乗じた値を、熱伝導による熱流量とし、
別の計算により得られたメッシュの表面温度の値、または非定常計算の一時刻前の表面温度の値を利用し、長波長放射を受けるメッシュの面に対する半球の全方向を等形態係数となるように分割し、この分割された各方向に存在する他のメッシュについて、前記表面温度の4乗の値にステファンボルツマン定数、前記他のメッシュの形態係数、および前記他のメッシュの実測値に基づく長波長放射率を乗じた値をすべて合計し、その合計値に長波長放射を受けるメッシュの実測値に基づく長波長放射率を乗じた値をメッシュが受ける長波長放射量とし、
メッシュの表面温度の4乗の値にステファンボルツマン定数およびこのメッシュの実測値に基づく長波長放射率を乗じた値を、このメッシュが放射する長波長放射量とし、
各メッシュについて、前記受熱日射量、前記大気放射量、前記顕熱流量、前記熱伝導による熱流量、および前記受ける長波長放射量を合計し、さらにこの合計値から前記放射する長波長放射量を差し引いて得られた熱量から、メッシュの材料の蓄熱を考慮した非定常計算を行うことにより、メッシュの表面温度を算出する手段、として機能させるためのプログラム。 - 建物、樹木、または地面のうちから選ばれる、1つまたはいずれかの組み合わせを対象に含み、樹木については、
三次元空間上に、樹木の外形を面で表す手段、
所定の高さで前記樹木の外形面を切断し、生成された線分の集合として表される平面図形を取得する手段、
メッシュ平面に前記樹木の平面図形を重ね、前記線分により囲まれた領域をメッシュに分割する手段、
実験・実測に基づく式を用いて、前記樹木の表面のメッシュの温度を算出する手段、として機能させるための請求項5記載のプログラム。 - 直達日射、鏡面反射日射、または拡散反射日射が樹木の樹冠部を透過する場合、透過後の直達日射量、鏡面反射日射量、または拡散反射日射量は、透過前の直達日射量、鏡面反射日射量、または拡散反射日射量に、実測値に基づく透過率を乗じて算出する手段、として機能させるための請求項6記載のプログラム。
- 地面については、
三次元空間上に、地面の外形を面で表し、かつ土地被覆が異なる部分を頂点の集合体の図形で表す手段、
所定の高さで前記地面の外形面を切断し、生成された線分の集合として表される平面図形を取得する手段、
メッシュ平面に前記地面の平面図形を重ね、前記線分をメッシュサイズに分割する手段、として機能させるための請求項5記載のプログラム。
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