近年、環境に優しく、しかも発電効率の高い燃料電池が注目され、様々な用途への利用が試みられている。例えば、そのような燃料電池を駆動源として利用する燃料電池車が、次世代の自動車として期待され、実用化へ向けた動きが本格化してきている。
ところで、よく知られているように、例えば、燃料電池車等に搭載される、純水素(以下、水素という)を燃料とした燃料電池システムにおいては、多くの場合、アノード電極側から排出された未使用の水素を含むガスを、再度、アノード電極側に供給する循環装置が設けられて、燃料水素の利用効率の向上が図られている。しかしながら、このアノード電極側からの排出ガスの循環装置による循環を長時間に亘って続けていると、窒素や発電時に生ずる生成水等の不純物が排出ガス中に増加してしまい、その結果、発電効率の低下が不可避的に惹起されることとなる。
そこで、そのような燃料電池システムでは、パージ操作が間欠的に実施されて、不純物が増加した排出ガスが大気中に定期的に排出されるようになっているのであるが、このアノード電極側から排出される排出ガス中には、高濃度の水素ガスが含まれているため、そのような排出ガスの大気中への排出に際しては、それに含まれる水素ガスを安全上問題のない程度にまで希釈する必要があった。
かかる状況下、アノード電極側から排出される水素ガスを、カソード電極側から排出される空気にて希釈して、大気中に排出するようにした燃料電池の排出ガス希釈装置(排出水素処理装置)が、下記特許文献1等において提案されている。この装置は、アノード電極側から排出される水素ガスの排出管が接続されて、かかる水素ガスを一時的に収容する収容器を有して、構成されている。また、この収容器には、カソード電極側から排出される空気の排出管の上流側部位から分岐した分岐管が接続され、更に、かかる空気の排出管における下流側部位に対して、収容器の排出口が接続されている。そして、このような収容器内に、アノード電極側から排出される水素ガスが導入されて、充満せしめられた状態下で、カソード電極側から排出される空気の一部が取り入れられることにより、この取り入れられた空気にて、水素ガスが、排出口を通じて、収容器内から空気の排出管内に押し出され、また、そこで、排出管内の空気にて希釈され、以て、大気中に安全に排出されるようになっているのである。
ところが、かくの如き従来の排出ガス希釈装置では、収容器内に、上下方向に延びる複数の仕切板が、互いに所定距離を隔てて互い違いに対向配置されて、アノード電極側から排出される水素ガスの流路が、細長い管状形態をもって上下方向に屈曲蛇行しながら延びるように形成されているところから、かかる水素ガスと共にアノード電極側から排出される生成水が収容器内に貯留されることが避けられなかった。そのため、寒冷地での使用等によって、収容器内に貯留された生成水が凍結してしまうことがあり、そうなると、水素ガスの流路が狭小化乃至は閉塞せしめられて、水素ガスの希釈性能が低下せしめられる恐れがあったのである。
一方、下記特許文献2には、水素ガスと共に、アノード電極側から排出される生成水の排出が可能とされた燃料電池の排出ガス希釈装置が、提案されている(特に、下記特許文献2における図6〜図9参照)。この希釈装置は、アノード電極側から排出される水素ガスを導入する導入口を備え、この導入口を通じて導入される水素ガスを滞留する滞留室を有している。また、この滞留室内には、カソード電極側から排出される空気の排出管が、貫通して延びるように配設されている。そして、かかる空気排出管にあっては、滞留室内への配置部分における空気流通方向の上流側に、滞留室内の水素ガスを吸い込むための貫通孔が形成されており、また、その下流側部分の一部が、他の部分よりも細くされた状態で下方に屈曲せしめられた屈曲部とされ、更に、かかる屈曲部に排水用孔が形成されて、構成されている。
かくの如き構造とされた従来の排出ガス希釈装置にあっては、導入口を通じて滞留室内に滞留せしめられた、アノード電極側からの排出水素ガスが、滞留室内に配置された空気の排出管部分に形成される貫通孔を通じて、空気の排出管内に吸い込まれ、そこで、内部を流通せしめられる空気と混合され、希釈されて、空気と共に大気中に排出されるようになっている。また、その一方で、水素ガスと共に、アノード電極側から排出されて、滞留室内に導入された生成水が、かかる滞留室の底部に一旦貯留される。そして、この滞留室内に貯留された生成水が、滞留室内に配置された空気の排出管部分に形成される屈曲部の排水用孔を通じて、空気の排出管内に吸い込まれて、空気と共に大気中に排出されるようになっている。更に、かかる従来装置では、屈曲部が他の部位よりも細くされて、内部を流通せしめられる空気の流速が増大せしめられていることにより、かかる屈曲部に設けられた排水用孔による生成水の吸引力が増大せしめられて、排水性能の向上が図られているのである。
ところが、このような生成水の排出構造が付与されてなる従来の排出ガス希釈装置にあっても、生成水を、水素ガスが滞留せしめられる滞留室内に一旦貯留した後、外部に排出するようになっているため、寒冷地等での使用により、滞留室内に貯留された生成水が凍結し、それが希釈装置の希釈性能に対して悪影響を及ぼす恐れが、何等払拭され得なかったのである。
しかも、かかる従来装置では、排水性能の向上を図る上で、空気の排出管の一部が細くされているため、排出管内を流通せしめられる空気の圧力損失が増大せしめられることが避けられなかった。それ故、それを補うために、大型のエアコンプレッサが必要となり、それによって、燃料電池システム全体でのコストが高騰するといった別の問題が惹起されていたのである。
特開2004−6183号公報
特開2004−127666号公報
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、アノード電極側から排出される水素ガスを希釈して、安全に排出し得るだけでなく、水素ガスと共にアノード電極側から排出される生成水を何等貯留することなく、逐次排出することが出来、以て、水素ガスの希釈性能に対して、生成水の凍結等によって及ぼされる悪影響を、より効果的に排除可能とした新規な構造が、経済的に有利に実現されてなる燃料電池の排出ガス希釈装置を提供することにある。
そして、かかる課題の解決のために、本発明の第一の態様とするところは、燃料電池のアノード電極側から排出される水素ガスを、カソード電極側から排出される空気にて希釈して、大気中に排出する燃料電池の排出ガス希釈装置であって、(a)内部に、前記水素ガスを収容可能な収容空間を有し、且つ該収容空間を取り囲む内面のうちの下部内面部分が平面とされた装置本体と、(b)該装置本体に設けられ、該装置本体の前記収容空間内に、前記水素ガスを導入せしめるガス導入口と、(c)前記装置本体の前記収容空間を大気中に連通せしめるように、該装置本体に設けられた孔部からなり、内周面のうちの下部内周面部分が、該装置本体の前記下部内面部分に対して面一に連続する連続面とされて、該収容空間内に収容された前記水素ガスを大気中に排出せしめるためのガス排出口と、(d)前記空気が内部に流通せしめられる管体からなり、先端部において前記装置本体の収容空間内部に突入して、その突入部位と前記ガス排出口とが同軸的に位置せしめられると共に、先端開口部が、該ガス排出口との間に所定の間隙を形成する位置において、該ガス排出口に向かって対向して開口し、且つ該ガス排出口に対して同軸的に位置するように、かかる突入部位の外周面の下部が該装置本体の下部内面に接触した形態において配置されて、該先端開口部を通じて、該空気を該ガス排出口に向かって吹き出す空気流通管体と、(e)該空気流通管体の前記先端開口部と前記装置本体の前記ガス排出口との間に形成される前記間隙からなり、該ガス排出口に向かって吹き出される前記空気内への前記収容空間内に収容された前記水素ガスの混入を許容する混入空間とを含み、前記水素ガスが、前記混入空間内での前記空気内への混入により希釈されて、該空気と共に、前記ガス排出口を通じて大気中に排出せしめられるように構成したことを特徴とする燃料電池の排出ガス希釈装置にある。
すなわち、この本態様にあっては、アノード電極側から排出される水素ガスが、例えばパージ操作等により、装置本体の収容空間内に間欠的に導入されて、収容されるようになっている。そして、そのようにして収容空間内に収容された水素ガスが、パージ圧等により混入空間内に押し込まれて、この混入空間内をガス排出口に向かって吹き出される、カソード電極側から排出される空気内に混入せしめられ、以て、かかる空気にて希釈されて、ガス排出口を通じて、空気と共に大気中に、確実に排出されるようになっているのである。
また、かかる本態様においては、アノード電極側から排出される生成水が、水素ガスと共に収容空間内に導入されて、収容空間(装置本体)の内側底面となる下部内面部分に付着しても、この下部内面部分に付着した生成水が、収容空間内での水素ガスの流れに押し流されるようにして、混入空間が形成される空気流通管体の先端開口部とガス排出口との間に位置する下部内面部分に向かって移動乃至は流動せしめられる。
そして、本態様では、特に、ガス排出口の内周面のうちの下部内周面が、収容空間の下部内面部分と面一に連続する連続面とされているため、混入空間側に移動せしめられた生成水の全量が、空気流通管体の先端開口部からガス排出口に向かって吹き出される空気により、収容空間の下部内面部分に留まることなく、ガス排出口に向かって確実に且つスムーズに押し流され、以て、空気や希釈された水素ガスと共に、ガス排出口を通じて大気中に、逐次排出され得る。そして、その結果として、アノード電極側から排出された生成水が、収容空間内に貯留して、凍結せしめられるようなことが、効果的に解消され得るといった特徴が発揮される。
その上、本態様では、従来装置とは異なって、生成水の排出性能を高めるために、空気流通管体の一部が細くされるようなことがなく、それ故に、そのような細径化部分の存在に起因して、空気流通管体内を流通せしめられる空気の圧力損失の増大が惹起されることが有利に皆無ならしめられ得る。そして、その結果、圧力損失の増大を補うために、エアコンプレッサを大型化する必要もなく、従って、かかるエアコンプレッサの大型化によるコストの高騰が惹起されることも、全くない。
また、本発明に従う燃料電池の排出ガス希釈装置の第二の態様では、前記装置本体の収容空間内への前記空気流通管体の突入部位のうち、前記先端開口部よりも前記空気の流通方向上流側部分の管壁に、該空気の一部の流出を許容する貫通孔が設けられることとなる。
本態様においては、空気流通管体の収容空間内への突入部位における空気流通方向上流側部分と先端開口部側部分との内圧差に基づいて、空気流通管体内の空気の一部が、内圧の高い上流側部分の管壁に設けられた貫通孔から収容空間内に流出せしめられた後、収容空間内を先端開口部側に向かって流動せしめられ、そして、混入空間を通じて、ガス排出口に流れ込むような空気の流れが生ぜしめられる。
これにより、かかる本態様では、収容空間内に収容された水素ガスが、上記の如く収容空間内を流れる空気にて、混入空間側に押し流されるようになる。そして、その結果として、例えばパージ圧が作用せしめられていない状態下でも、収容空間内の水素ガスが、混入空間において、ガス排出口に向かって吹き出される空気中に、よりスムーズに且つ確実に混入せしめられ得るといった特徴が発揮される。
さらに、本発明に従う燃料電池の排出ガス希釈装置における第三の態様にあっては、前記空気流通管体における前記上流側部分の管壁の内面に、該空気流通管体の内部を流通せしめられる前記空気の一部の流動方向を、該上流側部分に設けられた前記貫通孔に向かって流動せしめられるような方向に変更する変更部材が設けられることとなる。
更にまた、本発明に従う燃料電池の排出ガス希釈装置における第四の態様では、前記ガス排出口に対して排気管が接続されて、前記水素ガスが前記空気内に混入され、希釈されてなる排出ガスが、該排気管を通じて大気中に排出せしめられるように構成される。
また、本発明に従う燃料電池の排出ガス希釈装置の第五の態様においては、前記装置本体の収容空間内への前記空気流通管体の突入部位と前記ガス排出口とが、同軸的に位置せしめられる。
さらに、本発明に従う燃料電池の排出ガス希釈装置の第六の態様では、前記ガス導入口が、前記収容空間を取り囲む内面のうち、前記空気流通管体の該収容空間内への突入部位が挿通せしめられる挿通孔が設けられた内面部分において開口するように、設けられている。
そして、本発明に従う燃料電池の排出ガス希釈装置の第一の態様にあっては、前述せる如き特徴が発揮されることによって、単に、アノード電極側から排出される水素ガスが確実に希釈されて、排出され得るだけでなく、そのような水素ガスと共にアノード電極側から排出される生成水が、その凍結等により、水素ガスの希釈性能に対して悪影響を及ぼすようなことが、より確実に且つ経済的に有利に排除され得る。
従って、かくの如き本発明に従う燃料電池の排出ガス希釈装置の第一の態様によれば、アノード電極側から排出される水素ガスを、余分なコストを掛けることなく、より安全に、しかも使用環境に左右されることなく安定的に希釈して、大気中に排出することが出来るのである。
また、本発明に従う燃料電池の排出ガス希釈装置の第二の態様においては、前記せる特徴が発揮されることによって、アノード電極側から排出された水素ガスが、装置本体の収容空間内に無用に滞留せしめられることなく、収容空間内の水素ガスが、随時、カソード電極側から排出される空気にて確実に希釈されて、ガス排出口を通じて、大気中に、よりスムーズに且つ確実に排出され得ることとなる。
さらに、本発明に従う燃料電池の排出ガス希釈装置の第三の態様によれば、空気流通管体の上流側部分と先端開口側部分との間の内圧差が然程大きくなくとも、かかる上流側部分の管壁に設けられた貫通孔から収容空間を経てガス排出口に至る空気の流れが確実に発生せしめられ、それによって、前記第二の態様において奏される効果が、より確実に且つ有効に享受され得る。
更にまた、本発明に従う燃料電池の排出ガス希釈装置の第四の態様によれば、ガス排出口を通じて、空気と共に収容空間の外部に排出された水素ガスが、排気管内において、より十分に空気と混合され、希釈され得、以て、更に安全な状態で大気中に排出され得る。
また、本発明に従う燃料電池の排出ガス希釈装置の第五の態様によれば、空気流通管体の収容空間内への突入部位の先端開口部から吹き出される空気が混入空間から漏れ出すようなことが、可及的に解消乃至は抑制され得る。それによって、混入空間から漏れ出した空気の流れにより、水素ガスの混入空間内への流れが阻止されて、水素ガスの空気への混入が阻害されるようなことも、有利に解消乃至は抑制され得る。そして、その結果として、水素ガスの空気内への混入による希釈が安定的に確保され得て、優れた希釈性能が、更に効果的に確保され得るのである。
さらに、本発明に従う燃料電池の排出ガス希釈装置の第六の態様によれば、収容空間内に導入された水素ガスや生成水が、パージ圧等の導入圧力(流動圧)に基づいて、混入空間やガス排出口に向かって、よりスムーズに流動せしめられ得るといった利点が得られることとなる。
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
先ず、図1乃至図3には、本発明に従う構造を有する、燃料電池車に装着された燃料電池の排出ガス希釈装置の一実施形態が、その正面形態と横断面形態と縦断面形態とにおいて、それぞれ概略的に示されている。それらの図において、10は、金属製又は樹脂製の装置本体であって、全体として、両側有底の略角筒形状を呈している。
すなわち、この装置本体10は、燃料電池車への装着状態下で、車両の前後方向(図2における上下方向で、図3における左右方向)に延びる角筒状の筒壁部12と、かかる筒壁部12の前方側開口部(図2における下側で、図3における左側の開口部)と後方側開口部(図2における上側で、図3における右側の開口部)をそれぞれ閉塞する前側底部14と後側底部16とを一体的に有して、構成されている。なお、以下からは、本実施形態に係る排出ガス希釈装置の構造の理解を容易とするために、便宜上、前側底部14の側を前方側と言い、また、後側底部16の側を後方側と言うこととする。
そして、このような装置本体10にあっては、筒壁部12の内周面と前側及び後側底部14,16の互いに対向するそれぞれの内面とにて囲まれた内側空間が、外部から密閉された、十分に大きな容積を有する収容空間18とされており、また、かかる収容空間18を構成する装置本体10の内面のうち、筒壁部12の下側内周面部分が、凹凸のない平面からなる内側下底面20とされている。
さらに、装置本体10においては、前側底部14の上部における幅方向(図1と図2における左右方向)の一端側に偏寄した部位に、それを貫通するガス導入口22が、小径の円形状を有して設けられている。また、前側底部14の下部におけるガス導入口22の形成側とは反対側に偏寄した部位には、それを貫通する挿通孔24が、大径の円形状をもって形成されている。
一方、装置本体10の後側底部16には、前側底部14の挿通孔24の形成位置と前後方向において対応する位置に、挿通孔24と実質的に同じか若しくはそれよりも大きな径を有する円形状のガス排出口26が、挿通孔24と同軸上において、後側底部16を貫通して、前記収容空間18を大気中に連通するように形成されている。そして、ここでは、特に、そのようなガス排出口26が、後側底部16の内面の最も下側において、収容空間18内に開口する位置に配設されており、それによって、かかるガス排出口26の内周面のうち、最も下側に位置する下部内周面部分28が、装置本体10の前記平面からなる内側下底面20と面一とされている。つまり、ガス排出口26の下部内周面部分28と装置本体10の内側下底面20とが、段差のない連続面とされているのである。
そして、この装置本体10の後側底部16に設けられたガス排出口26に対して、排気管としてのガス排出管30が、接続されている。このガス排出管30は、ガス排出口26の径と同一の内径と所定の長さとを有する円筒状の管体にて構成されている。そして、そのようなガス排出管30が、ガス排出口26の同軸上において、軸方向一方側の端面を、後側底部16の外面に当接させた状態で、例えば接着や溶接等により一体的に接合され、或いは装置本体10が樹脂製である場合には一体成形されている。これによって、ガス排出管30の内周面とガス排出口26の内周面とが、全周に亘って段差のない連続面とされており、以て、ガス排出管30の内周面のうち、最も下側に位置する下部内周面部分32と装置本体10の内側下底面20も、ガス排出口26の下部内周面部分28を介した、段差のない連続面とされているのである。
一方、装置本体10の前側底部14に設けられたガス導入口22には、図示しない燃料電池のアノード電極側から延出し、そこからパージ操作により排出される水素ガスが間欠的に流通せしめられるアノード側排気管34が、接続されている。なお、ここでは、アノード側排気管34の先端部が、ガス導入口22に挿入されて、例えば接着や溶接等により装置本体10に接合されることによって、アノード側排気管34がガス導入口22に接続され、また、かかる接続状態下で、アノード側排気管34の外周面とガス導入口22の内周面との間の気密性が保持されるようになっている。これにより、燃料電池のアノード電極側からパージ操作にて間欠的に排出される水素ガスの全量が、ガス導入口22を通じて装置本体10の収容空間18内に導かれて、拡散し、アノード側排気管34内の流通時よりも流速や圧力が低下せしめられた状態で、収容空間18内に収容されるようになっている。
また、かかるガス導入口22と共に装置本体10の前側底部14に設けられた挿通孔24には、図示しない燃料電池のカソード電極側から延出し、そこから排出される空気が流通せしめられるカソード側排気管36が、挿通せしめられている。このカソード側排気管36は、アノード側排気管34よりも十分に大きな内径を有し、内部に、燃料電池のカソード電極側から排出される空気が、アノード電極側から排出される水素ガスよりも十分に大なる量において、常時、流通せしめられるようになっている。なお、カソード側排気管36は、挿通孔24への挿通状態下で、装置本体10の前側底部14に対して、例えば接着や溶接等により一体的に接合されており、それによって、それらカソード側排気管36の外周面と挿通孔24の内周面との間の気密性が確保されている。
そして、ここでは、そのようなカソード側排気管36が、挿通孔24を挿通せしめられた状態下で、所定長さにおいて、装置本体10の収容空間18内に突入せしめられている。また、このカソード側排気管36の収容空間18内への突入部位は、装置本体10の後側底部16に設けられたガス排出口26に向かって、その同軸上において真っ直ぐに延出せしめられている。これによって、かかるカソード側排気管36の先端開口部38が、ガス排出口26に向かって開口せしめられており、以て、カソード側排気管36内を流通せしめられた空気が、先端開口部38からガス排出口26に向かって、常時、真っ直ぐに吹き出されるようになっている。このことから明らかなように、ここでは、カソード側排気管36にて、空気流通管体が構成されているのである。
さらに、そのようなカソード側排気管36にあっては、収容空間18内への突入部位が、その外周面の下部部位を装置本体10の前記内側下底面20に接触させ、且つ先端面を、収容空間18内における後側底部16から前側底部14側に所定距離隔てた個所に位置させた状態で、配置されている。これによって、収容空間18内の下部側におけるカソード側排気管36の先端開口部38とガス排出口26との間に、かかる先端開口部38からガス排出口26に向かって吹き出される空気の流通路となる間隙が、所定長さをもって形成されている。そして、この間隙が、混入空間40とされているのである。
また、かかるカソード側排気管36においては、収容空間18内への突入部位のうち、その長さ方向中間部よりも前側底部14側に偏寄した部位の上部、つまり、先端開口部38側の部位よりも空気の流通方向上流側の上部に、所定の幅と略1/4周分の周方向長さとをもって軸方向に略U字状に延びる、貫通孔としてのスリット42が、かかる上部の管壁を貫通して、形成されている。
さらに、このカソード側排気管36におけるスリット42の形成部位には、変更部材44が、配設されている。この変更部材44は、取付板部46と風向板部48とを一体的に有している。取付板部46は、所定幅を有するU字状の板材がカソード側排気管36の対して略1/4周分だけ巻き付けられ得るように湾曲せしめられてなる如き湾曲板材からなっている。また、風向板部48は、取付板部46の幅方向一方側の辺縁部から、その幅方向に対して所定角度をもって斜めに、且つ該幅方向の一方側に向かって凹陥するように湾曲せしめられて延びる湾曲板材からなっている。
そして、このような風向板部48が、カソード側排気管36内に、空気の流通方向上流側に向かって斜めに延び出すように位置せしめられると共に、取付板部46が、カソード側排気管36の外周面におけるスリット42の開口周縁部に接着乃至は溶接等により一体的に接合されることで、変更部材44が、カソード側排気管36におけるスリット42の形成部位に取り付けられている。
これによって、ここでは、カソード側排気管36内を流通せしめられる空気の一部が、変更部材44の風向板部48と衝突し、この風向板部48にて、流動方向が、スリット42に向かって流れるような方向に確実に変更せしめられ得るようになっている。そして、そのようにして流動方向が変更せしめられた一部の空気が、スリット42から収容空間18内に流出せしめられる。このとき、カソード排気管36におけるスリット42形成部位の内圧が、先端開口部38側の部位よりも、カソード側排気管36内を流動することによって生ずる圧力損失の分だけ高くなっている。そのため、収容空間18内には、カソード側排気管36からスリット42を通じて管外に流出せしめられた空気が、装置本体10の前側底部14側から、先端開口部38とガス排出口26との間に形成される混入空間40に向かって流動せしめられ、以て、図3に矢印:アにて示される如き空気の流れが、常時、存在せしめられているのである。
かくして、かくの如き構造とされた本実施形態の排出ガス希釈装置においては、ガス排出口26が、カソード側排気管36の先端開口部38と実質的に同じかそれよりも大きな大きさをもって同軸的に位置せしめられていることで、カソード電極側から排出されて、カソード側排気管36内を流通せしめられた空気のうち、カソード側排気管36の先端開口部38から吹き出された空気の殆ど全量が、混入空間40を経て、ガス排出口26に流入せしめられ、更に、このガス排出口26に接続されたガス排出管30を通じて、大気中に排出されるようになっている。また、カソード側排気管36内を流れる空気のうち、スリット42から管外に流出せしめられた空気も、混入空間40を経て、ガス排出口26とガス排出管30とを通じて、大気中に排出されるようになっている。
また、その一方で、カソード側排気管36の挿通孔24とガス導入口22とが設けられる前側底部14と対向位置する後側底部16にガス排出口26が設けられていることで、パージ操作によりアノード電極側から排出され、アノード側排気管34内を流通せしめられて、ガス導入口22から収容空間18内に間欠的に導入される水素ガスが、パージ圧によって、図3に矢印:イにて示されるように、ガス排出口26及び混入空間40に向かってスムーズに流動せしめられ、そして、この混入空間40内で、ガス排出口26に向かって吹き出される空気に押し込まれるように流入せしめられて、混入(混合)せしめられるように構成されている。
さらに、混入空間40内が、空気の流動により、混入空間40以外の収容空間18部分よりも低圧とされているため、パージ圧がゼロとなった後においても、収容空間18内に存在する水素ガスが、混入空間40内に吸い込まれ、そこで空気と混合せしめられる。またそれに加えて、カソード側排気管36のスリット42から管外に流出せしめられた一部の空気が、装置本体10の前側底部14側から混入空間40側に向かって、図3の矢印:アのような流れで、収容空間18内を、常時、流動せしめられるようになっているところから、パージ圧がゼロとなった時点で、混入空間40内に流入されずに、収容空間18内に残存せしめられた水素ガスが、収容空間18内での図3の矢印:アに沿った空気の流れにて押し流されて、混入空間40側に流動せしめられる。
そして、それらの結果として、収容空間18内に導入される水素ガスの全量が、混入空間40内に確実に流入せしめられ、そこで、空気に混入され、希釈されて、空気と共にガス排出口26とガス排出管30とを通じて、大気中に排出され得るようになっているのである。
なお、ここにおいて、ガス排出管30から排出される水素ガスと空気の混合ガスを含む排出ガス中の水素ガスの濃度の経時変化は、図4に示されるように、混入空間40の大きさ、具体的には、カソード側排気管36の収容空間18内への突入部位の先端開口部38とガス排出口26との間の距離(図3において、Lにて示される寸法)の大小に大きく左右される。
すなわち、かかる距離:Lが小さい場合、パージ圧力が一定の条件下では、混入空間40内への水素ガスの流入量も不可避的に小さくなる。そのため、図4において破線で示されるように、ガス排出管30から排出される排出ガス中の水素ガス濃度、特に、パージ圧がピークとなったときの値、つまりピーク濃度が低い値となる。これは、水素ガスを安全に排出する上において極めて好ましい。しかしながら、パージ圧がピークを越えた後、更にはそれがゼロとなった後に、収容空間18内に未だ残存する水素ガスの混入空間40内への流入量が、より小さなものとなってしまうところから、パージ圧がピークを越えた後の排出ガス中の水素ガス濃度の落込みが著しいものとなる。その結果、単位時間当たりの水素ガスの排出量も小さなものとなって、水素ガスの希釈効率が低くなるといった不具合を生ずる懸念がある。
一方、カソード側排気管36の先端開口部38とガス排出口26との間の距離:Lが大きい場合には、それに応じて、混入空間40内への水素ガスの流入量も大きくなる。そうすると、図4において一点鎖線で示されるように、排出ガス中の水素ガスのピーク濃度が高くなり、場合によっては、安全基準を超えた値となる恐れがある。然るに、パージ圧がピークを越えた後、更にはそれがゼロとなった後にも、収容空間18内に未だ残存する水素ガスの混入空間40内への流入量が十分に確保されるため、単位時間当たりの水素ガスの排出量も十分に大きくされ、それによって、水素ガスの希釈効率の向上が望まれ得る。
従って、カソード側排気管36の先端開口部38とガス排出口26との間の距離:Lは、図4に実線で示される如く、排出ガス中の水素ガスのピーク濃度が、安全上問題のない程度に低くされると共に、かかるピーク濃度を超えた時点から、収容空間18内に残存する水素ガスの混入空間40内への流入量、ひいては単位時間当たりの水素ガスの排出量が十分な量において安定的に確保され得るような最適な範囲内の値とされていることが、望ましいのである。なお、そのような最適な範囲の距離:Lは、具体的には、例えば、パージ圧の大きさや収容空間18の容積等に応じて、適宜に決定されることとなる。
ところで、本実施形態の排出ガス希釈装置においては、燃料電池の発電時に生ずる生成水が、アノード電極側から水素ガスと共に排出され、アノード側排気管34内を流通せしめられて、ガス導入口22から収容空間18内に導入されるが、ここでは、かかる生成水が、図3に矢印イにて示される、収容空間18内での水素ガスの流れに乗るか、若しくは一旦、装置本体10の内側下底面20上に落下し、それから、内側下底面20上を水素ガスにより押し流される等して、混入空間40が形成されるカソード側排気管36の先端開口部38とガス排出口26との間の内側下底面20部分に向かって流動乃至は移動して、集められるようになっている。
そして、かかる部分に集められた生成水が、カソード側排気管36の先端開口部38からガス排出口26に向かって吹き出される空気にて、吹き飛ばされるようにして、ガス排出口26内に導かれた後、ガス排出管30を通じて、空気や水素ガスと共に大気中に排出されるようになっているのである。
そしてまた、かかる排出ガス希釈装置にあっては、特に、前述せる如く、装置本体10の内側下底面20が、凹凸のない平面とされていると共に、そのような内側下底面20とガス排出口26の下部内周面部分28とガス排出管30の下部内周面部分32とが、面一に連続する連続面とされている。そのため、内側下底面20上に落下し、付着した生成水が、カソード側排気管36の先端開口部38とガス排出口26との間の内側下底面20部分に向かって流動乃至は移動する際や、かかる内側下底面20部分からガス排出口26内に流れ込む際、更にはガス排出口26からガス排出管30内に流れ込む際に、凹凸部分や段部等にて堰き止められるようなことが、全くない。
それ故、このような排出ガス希釈装置においては、水素ガスと共に収容空間18内に導入された生成水が、収容空間18内に留まることなく、ガス排出口26とガス排気管30とを通じて大気中に、逐次排出され得るようになっている。そして、それによって、例えば寒冷地等で使用されても、かかる生成水が、収容空間18内に貯留して、凍結せしめられるようなことが、未然に防止され得るのである。
また、ここでは、カソード側排気管36のスリット42から管外に流出した空気が、常時、収容空間18内を混入空間40側に向かって流動せしめられている。それに加えて、カソード側排気管36の先端開口部38から、混入空間40を経て、ガス排出口26に吹き出される空気の一部も、混入空間40から、それ以外の収容空間18部分に漏出して、収容空間18内を流動せしめられるようになる。そして、このカソード側排気管36内を流通せしめられる空気は、燃料電池で80℃程度に加温されている。従って、このような加温された空気が、収容空間18内を流動せしめられていることによっても、収容空間18内で、生成水が凍結されないようになっているのである。
しかも、本実施形態では、収容空間18内に導入される生成水が、装置本体10の内側下底面20の一個所に集められた後、カソード側排気管36の先端開口部38から吹き出される空気にて、ガス排出口26内に吹き飛ばされるようになっているところから、例えば、生成水をカソード側排気管36内に吸い込む場合とは異なって、生成水の排水性能を高めるために、カソード側排気管36に対して、その一部を細くする等の加工を何等施す必要がない。従って、そのようなカソード側排気管36の細径化により、管内を流通する空気の圧力損失を補うために、カソード側排気管36に接続される図示しないエアコンプレッサを大型なものとする必要も、全くないのである。
このように、本実施形態に係る排出ガス希釈装置にあっては、アノード電極側から排出される水素ガスが、装置本体10の収容空間18内で、カソード電極側から排出される空気と混入せしめられ、希釈されて、大気中に安全に排出され得る。また、アノード電極側から水素ガスと共に排出されて、装置本体10の収容空間18内に導入される生成水が、収容空間18内から逐次排出され得るため、寒冷地等での使用時にも、収容空間18内で凍結せしめられるようなことが、効果的に防止され得る。しかも、例えばエアコンプレッサの大型化等のコスト増を招くことなく、収容空間18内からの生成水の排水性能が、十分に高いレベルで確保され得ている。
従って、かくの如き本実施形態の排出ガス希釈装置によれば、アノード電極側から排出される水素ガスを、余分なコストを掛けることなく、より安全に、しかも使用環境に左右されることなく安定的に希釈して、大気中に排出することが出来るのである。
また、かかる排出ガス希釈装置においては、ガス排出口26に所定長さを有するガス排出管30が接続されて、このガス排出管30を通じて、空気に水素ガスが混入された排出ガスが大気中に排出されるようになっているため、大気中への排出前において、空気と水素ガスとが、ガス排出管30内で十分に混合せしめられ、以て、水素ガスが、より安全に排出され得ることとなる。
さらに、本実施形態の排出ガス希釈装置にあっては、収容空間18内に導入された水素ガスが、十分に大きな容積を有する収容空間18内で拡散せしめられて、アノード側排気管34内の流通時よりも流速や圧力が低下せしめられるようになっている。そのため、アノード電極側から排出された水素ガスが、収容空間18内に、大きなパージ圧により大量に導入されることがあっても、そのような水素ガスの全量が、混入空間40内に一挙に流れ込むようなことが回避され、それによって、収容空間18内に導入される水素ガスの量に応じて、ガス排出管30から排出される空気と水素ガスの混合ガス中の水素ガスの濃度に大きなバラツキが生ずるようなことが可及的に抑制され得る。その結果として、水素ガスが、更に一層安全に排出され得るのである。
以上、本発明の具体的な構成について詳述してきたが、これはあくまでも例示に過ぎないのであって、本発明は、上記の記載によって、何等の制約を受けるものではない。
例えば、前記実施形態では、ガス導入口22と挿通孔24とに、アノード電極側から延出せしめられたアノード側排気管34と、カソード電極側から延出せしめられたカソード側排気管36とが、それぞれ挿入乃至は挿通せしめられていたが、それらガス導入口22や挿通孔24に、アノード側排気管34やカソード側排気管36とは別個の部材からなる水素ガス流通管体や空気流通管体等を取り付けて、それらの管体に対して、アノード側排気管34やカソード側排気管36と接続するようにしても良い。
また、ガス導入口22の装置本体10に対する形成位置や形成個数も、前記実施形態に示されるものに、何等限定されるものではない。
さらに、挿通孔24の形成位置も特に限定されるものではないものの、それに挿通せしめられる、空気流通管体としてのカソード側排気管36の先端開口部38が、ガス排出口26に向かって開口するように位置されている必要がある。従って、空気流通管体にあっても、先端開口部とガス排出口とのかくの如き配置関係が満たされ得るのであれば、収容空間内への突入部位が、屈曲乃至湾曲せしめられていても、或いは変形形状とされていても、何等差し支えないのである。
更にまた、ガス排出口26も、装置本体10に対する形成位置や形成個数が、特に限定されるものではない。
また、カソード側排気管36に設けられるスリット42、即ち、空気流通管体に設けられる貫通孔は、省略され得るものではあるが、かかる貫通孔を設ける場合、空気流通管体に対する形成位置や形成個数、更には形状や大きさ等も、適宜に決定されるものである。なお、そのような貫通孔に形成される変更部材も、その形成位置や形成個数、形状、大きさ等が、貫通孔の形態によって任意に変更され得るものであることは、言うまでもないところである。
加えて、本発明は、燃料電池車に装着された燃料電池の排出ガス希釈装置の他、各種の用途に使用される燃料電池の排出ガス希釈装置の何れに対しても、同様に適用可能であることは、勿論である。
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。