JP5069408B2 - 非晶質磁性合金 - Google Patents

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Description

本発明は、軟磁性非晶質合金、それを用いた薄帯、粉末、部材、部品およびそれらの製造方法に関する。
磁性アモルファス合金はFe−P−Cに始まり、低ロス材であるFe−Si−Bや高Bs組成であるFe−B−Cなどが開発されてきた。これらは損失が低いことからトランス材料として期待されているが珪素鋼板などの従来材と比較しコストやBsが低いことからまだ普及には至っていない。またこれらのアモルファス合金では10以上の冷却速度を必要とすることから、最大で200μm程度の薄帯しか作製することができない。そのため使用方法は薄帯を積層するか、巻き磁心にする必要があり、アモルファスの用途を著しく狭めている。
1980年代後半から従来のアモルファスとは異なり結晶化温度の低温側にガラス遷移が観測され、過冷却液体領域が出現する金属ガラスと呼ばれる合金系が開発され始めた。過冷却液体領域はガラス構造の安定に関係していると考えられ、従来にはない非晶質形成能の優れている合金系である。例えば、Ln−Al−TMやZr−Al−Ni、Pd−Cu−Ni−P系合金が発見されており、厚さ数mm程度の金属ガラスバルク材が作製できる。Fe基金属ガラスにおいても1990年代半ばから発見されており、厚さ1mm程度が作製可能な金属ガラスバルク材の組成が報告されている。たとえばFe−(Al,Ga)−(P,C,B,Si)(非特許文献1、参照)やFe−(Co,Ni)−(Zr,Hf,Nb)−B (非特許文献2、及び特許文献1、参照)、Fe−(Cr,Mo)−Ga−P−C−B(特許文献2、参照)、Fe−Co−RE−B(特許文献3、参照)などである。
しかしながらこれらの合金は従来合金に比べ非晶質形成能は向上するもののまだ1mm程度のバルク材しかできていない。
Fe−Si−BやFe−P−Cといった従来から知られている非晶質合金は高透磁率かつ低損失の材料として知られおり、トランスコアや磁気ヘッドなどに有望である。
しかしながら非晶質形成能に乏しいため、20μm程度の薄帯や100μm程度の線材しか市販されておらず、積層、巻磁心にする必要があり、形状の自由度が著しく小さい。
また、軟磁気特性に優れ、損失の低い非晶質粉末を圧粉磁心とすることで3次元的に成形できるため有望だと考えられるが、これらの組成では非晶質形成能が不足しているため水アトマイズなどで粉末を作製するのは困難である。また不純物などを含む低価格のフェロアロイ原料などを用いると非晶質形成能が低下し、さらに非晶質の均一性が低減し、軟磁気特性の低下が予想される。またFe基金属ガラスにおいても非晶質形成能と磁気特性の両立は困難であり、例えば、Fe−Co−RE−B (特許文献3、参照)においては100から200μmの薄帯も完全に非晶質化できていない。
Mater.Trans.,JIM,36(1995),1180. Mater.Trans.,JIM,38(1997),359. 特開2000−204452号公報 特開2001−316782号公報 特開2002−105607号公報
本発明の技術的課題は、前述した従来の問題点を解消するために、合金組成を選択、最適化することにより、過冷却液体領域を持ち、優れた非晶質形成能と軟磁気特性を有する軟磁性非晶質合金を提供することにある。
本発明者らは、上述の課題を解決するために、種々の合金組成について鋭意検討した結果、Fe−B系の合金にY若しくはランタノイドから選択される一種以上の元素とMo、Nbなどから選択される一種以上の元素を添加し、その組成成分を限定することにより急激に非晶質形成能が向上し、明瞭な過冷却液体領域が出現することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の第1の発明は下記の組成式で表され、非晶質形成能および軟磁気特性に優れ、過冷却液体領域を有し、前記過冷却液体領域が20℃以上であることを特徴とする。
組成式:Fe100−w−x
ただし、不可避不純物が含有されても良く、LはY、およびランタノイド(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)のうちから選ばれる1種類の元素であり、1原子%≦w≦8原子%、14原子%≦x≦26原子%である。
また、本発明の第2の発明は下記の組成式で表され、非晶質形成能および軟磁気特性に優れ、過冷却液体領域を有し、前記過冷却液体領域が20℃以上であることを特徴とする。
組成式:(Fe1−aTM100−w−x
ただし、不可避不純物が含有されても良く、TMはCo、Niのうちから選ばれる1種類の元素であり、0<a≦0.98、1原子%≦w≦8原子%、14原子%≦x≦26原子%である。
また、本発明の第3の発明は下記の組成式で表され、非晶質形成能および軟磁気特性に優れ、過冷却液体領域を有し、前記過冷却液体領域が20℃以上であることを特徴とする。
組成式:Fe100−w−x−y
ただし、不可避不純物が含有されても良く、MはAl、V、Cr、Mo、Nb、Ta、Wのうちから選ばれる1種類の元素であり、1原子%≦w≦8原子%、14原子%≦x≦26原子%、2原子%≦y≦8原子%である。
さらに、本発明の第4の発明は下記の組成式で表され、非晶質形成能および軟磁気特性に優れ、過冷却液体領域を有し、前記過冷却液体領域が20℃以上であることを特徴とする。
組成式:(Fe1−aTM100−w−x−y Nb
ただし、不可避不純物が含有されても良く、TMはCo、Niのうちから選ばれる1種類の元素であり、0<a≦0.98、1原子%≦w≦8原子%、14原子%≦x≦26原子%、2原子%≦y≦8原子%である。
本発明の第の発明は、第1、第2、第3,第4の発明のいずれか1つの非晶質磁性合金において、飽和磁束密度が1.2T以上であることを特徴とする。
本発明の第の発明は第1、第2、第3,第4,第5の発明いずれか1つの非晶質磁性合金からなり、1kHzの初透磁率が5000を超える非晶質磁性薄帯であることを特徴とする。
本発明の第の発明は第1、第2、第3,第4,第5の発明のいずれか1つの非晶質磁性合金からなり、直径150μm以下の非晶質磁性粉末であることを特徴とする。
本発明の第の発明は第7の発明の非晶質磁性粉末を用いて作製した圧粉磁心であることを特徴とする。
本発明の第の発明は第1、第2、第3,第4,第5の発明いずれか1つの非晶質磁性合金からなり、任意の厚みが1mm以上かつ断面が0.75mm以上を持つ非晶質バルク磁性部材である。
本発明によれば、合金組成を選択、最適化することにより、過冷却液体領域を持ち、優れた非晶質形成能と軟磁気特性を有する軟磁性非晶質合金を提供することができる。
本発明について更に詳しく説明する。
本発明の第1の発明は下記の組成式で表され、非晶質形成能および軟磁気特性に優れ、過冷却液体領域を有する非晶質磁性合金である。
組成式:Fe100−w−x
(ただし、Feが主成分であり不可避不純物が含有されても良く、LはY、ランタノイド(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)およびミッシュメタル(MM)のうちから選ばれる1種類以上の元素であり、1原子%≦w≦8原子%、14原子%≦x≦26原子%である)。
ここで、本発明において、主たる成分であるFeは磁性を担う元素であり、磁気特性を有するために必須である。
また、本発明において、L元素は、Fe−B合金の非晶質形成能を飛躍的に向上させる元素であり、その含有量は、1原子%以上、8原子%以下である。
ここで、本発明でL元素を1原子%以上、8原子%以下に定めたのは、L元素が1原子%未満だと過冷却液体領域がなく、また8原子%を超えると非晶質形成能が低下し、非晶質化が困難になるためである。また、L元素含有量が増加すると飽和磁束密度が低下するためLは6原子%以下が望ましい。
また、本発明において、BはFe基金属非晶質には必須の元素であり、14原子%以上、26原子%以下である。この発明によりB元素を14原子%以上、26原子%以下に定めたのは、B元素が14原子%未満、26原子%を超えると非晶質形成能が低下し、非晶質化が困難になるためである。なお過冷却液体領域の範囲や原料費の高いB量を考慮すると16原子%以上、22原子%以下が望ましい。
また、本発明の第2の発明は、下記の組成式で表され、非晶質形成能および軟磁気特性に優れ、過冷却液体領域を有する非晶質磁性合金である。
組成式:(Fe1−aTM100−w−x
(ただし、Feが主成分であり不可避不純物が含有されても良く、TMはCo、Niのうちから選ばれる1種類以上の元素であり、LはY、ランタノイド(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)およびミッシュメタル(MM)のうちから選ばれる1種類以上の元素であり、TMがCoの場合0<a≦0.98、Niの場合0<a≦0.30、1原子%≦w≦8原子%、14原子%≦x≦26原子%である)。
ここで、本発明において、主たる成分であるFeは磁性を担う元素であり、磁気特性を有するために必須である。
本発明において、TMはFeとともに磁性を担う元素であり、磁気モーメントや磁気異方性などを調整することにより軟磁気特性や飽和磁束密度を向上させることが可能となる。本発明でTMの割合を限定したのは良好な非晶質形成能、軟磁気特性を維持したままFeとの置換が可能であるためである。TMがCoの場合0.98以下であり、高飽和磁束密度を求めるなら0.05以上、0.4以下が望ましく、軟磁気特性の優れた磁歪の低い組成を求めるならば、0.85以上、0.98以下が望ましい。また、TMがNiの場合は0.98以下であり、0.2以下が望ましい。
また、本発明において、L元素は、Fe−B合金の非晶質形成能を飛躍的に向上させる元素であり、1原子%以上、8原子%以下である。
本発明でL元素を1原子%以上、8原子%以下に定めたのは、L元素が1原子%未満だと過冷却液体領域がなく、また8原子%を超えると非晶質形成能が低下し、非晶質化が困難になるためである。またL元素含有量が増加すると飽和磁束密度が低下するためLは6原子%以下が望ましい。
また、本発明において、BはFe基金属ガラスには必須の元素であり、14原子%以上、26原子%以下である。この発明によりB元素を14原子%以上、26原子%以下に定めたのは、B元素が14原子%未満、26原子%を超えると非晶質形成能が低下し、非晶質化が困難になるためである。なお過冷却液体領域の範囲や原料費の高いB量を考慮すると16原子%以上、22原子%以下が望ましい。
また、本発明の第3の発明は下記の組成式で表され、非晶質形成能および軟磁気特性に優れ、過冷却液体領域を有する非晶質磁性合金である。
組成式:Fe100−w−x−y
(ただし、Feが主成分であり不可避不純物が含有されても良く、LはY、ランタノイド(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)およびミッシュメタル(MM)のうちから選ばれる1種類以上の元素であり、MはAl,V,Cr,Mo,Nb,Ta,Wのうちから選ばれる1種類以上の元素であり、1原子%≦w≦8原子%、14原子%≦x≦26原子%、2原子%≦y≦8原子%である)。
ここで、本発明において、主たる成分であるFeは磁性を担う元素であり、磁気特性を有するために必須である。
本発明において、L元素は、Fe−B合金の非晶質形成能を飛躍的に向上させる元素であり、1原子%以上、8原子%以下である。本発明でL元素を1原子%以上、8原子%以下に定めたのは、L元素が1原子%未満だと過冷却液体領域がなく、また8原子%を超えると非晶質形成能が低下し、非晶質化が困難になるためである。またL元素含有量が増加すると飽和磁束密度が低下するためLは6原子%以下が望ましい。
BはFe基金属ガラスには必須の元素であり、14原子%以上、26原子%以下である。この発明によりB元素を14原子%以上、26原子%以下に定めたのは、B元素が14原子%未満、26原子%を超えると非晶質形成能が低下し、非晶質化が困難になるためである。なお過冷却液体領域の範囲や原料費の高いB量を考慮すると16原子%以上、22原子%以下が望ましい。
また、M元素は、L元素とともに含有することによりFe−B合金の非晶質形成能を飛躍的に向上させる元素であり、2原子%以上、8原子%以下である。本発明でM元素を2原子%以上、8原子%以下に定めたのは、M元素が2原子%未満だと非晶質形成能向上の効果が薄く、8原子%を超えると非晶質形成能が低下し、非晶質化が困難になるためである。またM元素含有量が増加すると飽和磁束密度が低下するためMは6原子%以下が望ましい。
さらに、本発明の第4の発明は下記の組成式で表され、非晶質形成能および軟磁気特性に優れ、過冷却液体領域を有する非晶質磁性合金であることを特徴とする。
組成式:(Fe1−aTM100−w−x−y
(ただし、Feが主成分であり不可避不純物が含有されても良く、TMはCo、Niのうちから選ばれる1種類以上の元素であり、LはY、ランタノイド(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)およびミッシュメタル(MM)のうちから選ばれる1種類以上の元素であり、MはAl,V,Cr,Mo,Nb,Ta,Wのうちから選ばれる1種類以上の元素であり、0<a≦0.98、1原子%≦w≦8原子%、14原子%≦x≦26原子%、2原子%≦y≦8原子%である)。
ここで、本発明において、主たる成分であるFeは磁性を担う元素であり、磁気特性を有するために必須である。
即ち、TMはFeとともに磁性を担う元素であり、磁気モーメントや磁気異方性などを調整することにより軟磁気特性や飽和磁束密度を向上させることが可能となる。
本発明でTMの割合を0.98以下としたのは良好な非晶質形成能、軟磁気特性を維持したままFeとの置換が可能であるためである。TMがCoの場合0.98以下であり、高飽和磁束密度を求めるなら0.05以上、0.4以下が望ましく、軟磁気特性の優れた磁歪の低い組成を求めるならば、0.85以上、0.98以下が望ましい。またTMがNiの場合は0.98以下であり、0.2以下が望ましい。
また、L元素は、Fe−B合金の非晶質形成能を飛躍的に向上させる元素であり、1原子%以上、8原子%以下である。本発明でL元素を1原子%以上、8原子%以下に定めたのは、L元素が1原子%未満だと過冷却液体領域がなく、また8原子%を超えると非晶質形成能が低下し、非晶質化が困難になるためである。またL元素含有量が増加すると飽和磁束密度が低下するためLは6原子%以下が望ましい。
また、BはFe基金属非晶質には必須の元素であり、14原子%以上、26原子%以下である。この発明によりB元素を14原子%以上、26原子%以下に定めたのは、B元素が14原子%未満、26原子%を超えると非晶質形成能が低下し、非晶質化が困難になるためである。なお過冷却液体領域の範囲や原料費の高いB量を考慮すると16原子%以上、22原子%以下が望ましい。
さらに、M元素は、L元素とともに含有することによりFe−B合金の非晶質形成能を飛躍的に向上させる元素であり、2原子%以上、8原子%以下である。本発明でM元素を2原子%以上、8原子%以下に定めたのは、M元素が2原子%未満だと非晶質形成能向上の効果が薄く、8原子%を超えると非晶質形成能が低下し、非晶質化が困難になるためである。またM元素含有量が増加すると飽和磁束密度が低下するためMは6原子%以下が望ましい。
また、本発明の第5の発明は、前述したいずれか1つの非晶質磁性合金において、過冷却液体領域が20℃以上であり、良好な軟磁気特性を備えた非晶質軟磁性合金である。
組成を限定し過冷却液体領域を有することにより、軟磁気特性および非晶質形成能が向上するが、本発明では過冷却液体領域が20℃を超えるとさらに良好な軟磁気特性および非晶質形成能を示す。また、過冷却液体領域においては粘性が急激に低下し、粘性流動変形を利用した加工が可能になるという特徴を持ち合わせることになる。
また、本発明の第6の発明は、前述したいずれか1つの非晶質磁性合金において、L元素とM元素の和が0原子%<w+y≦6原子%であり、飽和磁束密度が1.2T以上であり、良好な軟磁気特性を備えた非晶質軟磁性合金である。
磁性材料では飽和磁束密度が大きいほうが望ましい。L元素およびM元素を混入すると過冷却液体領域が出現し、非晶質形成能および軟磁気特性が向上するが、キュリー点および飽和磁束密度が低下する。L元素とM元素の和を6原子%以下に定めたのは、6原子%を超えると飽和磁束密度が低下するためである。
また、本発明の第7の発明は、前記いずれか1つの非晶質磁性合金からなり、1kHzの初透磁率が5000を超える非晶質磁性薄帯である。
本発明の非晶質磁性薄帯はMETGLASなどとして知られている市販の非晶質薄帯と比較し初透磁率が高い。このような高い初透磁率が得られるのは前述のように非晶質構造の不均一性が上昇し、結晶磁気異方性の観点から軟磁気特性の向上が見込まれると同時に、また過冷却液体領域では粘性が低下するため、熱処理において応力緩和が容易になり、一層の軟磁気特性の向上が可能となるためである。
本発明の第8の発明は、前記いずれか1つの非晶質磁性合金からなり、直径150μm以下の非晶質磁性粉末である。
ここで、本発明の非晶質磁性粉末はガスアトマイズや水アトマイズなどの粉末作製装置を用いることにより作製可能である。現在非晶質磁性粉末はほとんど市場に出ておらず、あっても結晶が混在しているか、非常に小さい粉末に分級している状態である。そのため軟磁気特性が悪いか、収率が悪いためのコスト高になるなど弊害がある。
本発明において直径150μm以下の非晶質磁性粉末としたのは、汎用のアトマイズ装置でも分級を必要とせず容易に150μm以下の非晶質磁性粉末を得ることができるためである。また直径150μmを超えると高周波領域の渦電流損失の影響が顕著になり、軟磁気特性の劣化が考えられるからである。
本発明の第9の発明は、前記第8の発明の非晶質磁性粉末を用いて作製した圧粉磁心である。ここで、本発明の圧粉磁心は非晶質磁性粉末を絶縁材が混合し、所定形状に成形されていることを特徴としており、従来より知られている種々の圧粉磁心と比較し、大幅に損失の低い。これは非晶質磁性粉末を用いた圧粉磁心の作製が可能となったと同時に、前述した非晶質磁性粉末の持っている良好な軟磁気特性の特徴のためである。
また、本発明の圧粉磁心では一般に知られている電磁軟鉄やパーマロイ、センダスト、珪素鋼板と比較し比抵抗が高く、高周波特性に優れているという特徴も持っている。用いる絶縁材料の量は少ないと絶縁抵抗が低くなると同時に強度が保てなくなり、また多いと非晶質磁性粉末の含有量が減り磁気特性が低下する。そのため混合する絶縁材料は1重量%〜5重量%が望ましい。また成形性をあげるため潤滑材を利用することも可能である。また過冷却液体領域にて成形することにより非晶質磁性粉末が粘性流動変形を行い、著しく密度を上げることもできる。これにより圧粉磁心としての磁束密度が向上すると同時に、さらなる透磁率の向上が可能になる。また熱処理において成形時に発生した応力の緩和が容易になり、一層の軟磁気特性の向上が可能となるためである。
また、本発明の第10の発明は、前記いずれか1つの非晶質磁性合金からなり、任意の厚みが1mm以上かつ断面が0.75mm以上を持つ非晶質バルク磁性部材である。
ここで、本発明の非晶質バルク磁性部材は、前述のように組成を選択し最適化することにより、従来の非晶質薄帯と比較し格段に高い、またFe基金属ガラスの中でも高い非晶質形成能を有する。金型鋳造法により最大直径4mmのバルク材の作製でき、薄帯の積層や粉末の固化成形とは別に磁性コアバルク材の一体成形が可能となる。
ここで、本発明において、非晶質とは薄帯や粉末表面を通常のX線回折法により測定を行うことにより、X線回折プロファイルを得た時にブロードなピークのみになる状態である。また鋭い結晶相に起因するピークが存在する場合を「結晶相」と判断した。
また、本発明では非晶質状態の薄帯や粉末をAr等の不活性雰囲気中で昇温すると昇温時にガラス遷移現象が出現したのち結晶化現象が起こる。このガラス遷移現象の開始温度をガラス遷移温度(Tg)とし、このガラス遷移温度と結晶化温度(Tx)の間の温度を過冷却液体領域(Tx−Tg)とする。また昇温速度はすべて40℃/分とし、この条件でガラス遷移温度、結晶化温度、過冷却液体領域について評価を行った。
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。
(実施例1〜24および比較例1〜5)
下記表1に示す合金組成となるように、Fe、B、Y、La、Ce、Pr、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、MMの純金属材料をそれぞれ秤量し、チャンバー内で真空引きした後、減圧Ar雰囲気中、アーク溶解にて溶解し母合金を作製した。その後作製した母合金を用い単ロール法により厚さ20μmおよび200μmの薄帯を作製した(実施例1から24及び比較例1から4)。
また、比較のために、従来材として市販であるMETGLAS 2605−S2を用いた。また200μmの薄帯は、同一組成の母合金を高周波加熱にて作製し、単ロール法にて作製した(比較例5)。
厚さ200μmの薄帯は銅ロールに接触していなく一番冷却速度の遅い自由凝固面についてX線回折法を用いて測定を行い、X線回折プロファイルを得た時にブロードなピークのみになる状態であるものを「非晶質相」。それ以外の場合を「結晶相」と判断した。さらに厚さ20μmの薄帯を用いDSCから熱的性質について評価を行った。これよりガラス遷移温度および結晶化温度を測定し、また過冷却液体領域について算出をした。また磁気特性については厚さ20μmの薄帯を用い、巻き磁心としインピーダンスアナライザーにより初透磁率を、また直流BHトレーサーで保磁力を測定した。このときそれぞれの試料についてAr雰囲気中、ガラス遷移温度で5分熱処理を行う。ガラス遷移温度がでないものは結晶化温度より30℃低い温度で5分熱処理を行う。夫々の試料を特性評価結果を表1に示した。
上記表1に示すように、実施例1〜24の合金組成は本発明の範囲内の組成であるため、過冷却液体領域を有し、優れた非晶質形成能および軟磁気特性を有している。これに対して比較例1、2、3、4、5は非晶質形成能が低く200μm以上の薄帯を作製することができず、透磁率も低い。
(実施例25〜36および比較例6、7)
下記表2に示す合金組成となるように、Fe、Co、Ni、B、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、LuおよびAl、V、Cr、Mo、Nb、Ta、Wの純金属材料をそれぞれ秤量し、チャンバー内で真空引きした後、減圧Ar雰囲気中、アーク溶解にて溶解し母合金を作製した。その後作製した母合金を用い単ロール法により厚さ20μmおよび200μmの薄帯を作製した(実施例25から36,比較例6)。
また、比較のために、従来材として市販であるMETGLAS 2605−S2を用いた。また200μmの薄帯は同一組成の母合金を高周波加熱にて作製し、単ロール法にて作製した(比較例7)。
厚さ200μmの薄帯は銅ロールに接触していなく一番冷却速度の遅い自由凝固面についてX線回折法を用いて測定を行い、X線回折プロファイルを得た時にブロードなピークのみになる状態であるものを「非晶質相」。それ以外の場合を「結晶相」と判断した。さらに厚さ20μmの薄帯を用いDSCから熱的性質について評価をいった。これよりガラス遷移温度および結晶化温度を測定し、また過冷却液体領域について算出をした。また磁気特性については厚さ20μmの薄帯を用い、巻き磁心としインピーダンスアナライザーにより初透磁率を、また直流BHトレーサーで保磁力を測定した。このときそれぞれの試料についてAr雰囲気中、ガラス遷移温度で5分熱処理を行う。ガラス遷移温度がでないものは結晶化温度より30℃低い温度で5分熱処理を行う。夫々の試料の特性評価結果を下記表2に示した。
上記表2に示すように、実施例25〜36の合金組成は本発明の範囲内の組成であるため、過冷却液体領域を有し、優れた非晶質形成能および軟磁気特性を有している。これに対して比較例6、7は非晶質形成能が低く200μm以上の薄帯を作製することができず、透磁率も低い。
(実施例37,38および比較例8)
下記表3に示すように、Fe、B、Y、Nb、MMの金属材料をそれぞれ秤量し、チャンバー内で真空引きした後、減圧Ar雰囲気中、アーク溶解にて溶解し母合金を作製した。その後作製した母合金を用い水アトマイズ法により非晶質軟磁性粉末を作製した(実施例37,38)。
比較材として市販されているMETGLAS 2605−S2と同等の組成を同様に高周波溶解で作製し、その後水アトマイズ法により非晶質軟磁性粉末を作製した(比較例8)。
得られた非晶質軟磁性粉末を150μm以下に分級し、X線回折法を用いて測定を行い、X線回折プロファイルを得た時にブロードなピークのみになる状態であるものを「非晶質相」。それ以外の場合を「結晶相」と判断した。夫々の試料の特性評価結果を下記表3に示す。
上記表3に示すように、実施例36、37の合金組成は本発明の範囲内の組成であるため、水アトマイズにより非晶質軟磁性粉末を作製することができる。これに対して比較例8は非晶質形成能がなく得られる粉末は結晶相となり非晶質軟磁性粉末を得ることができなかった。
(実施例39、40および比較例9、10)
下記表4に示すように、Fe、B、Y、Nb、MMの金属材料をそれぞれ秤量し、チャンバー内で真空引きした後、減圧Ar雰囲気中、アーク溶解にて溶解し母合金を作製した。その後作製した母合金を用い水アトマイズ法により非晶質軟磁性粉末を作製した。その粉末を溶媒に溶かした5wt%のSiO系樹脂と混合、造粒したのち、外径18mm内径12mm厚さ3mmになるように10トンでプレス成形した(実施例39,40)。
比較例9,10として水アトマイズで作製されたFe粉末およびセンダストも同様に溶媒に溶かした5wt%のSiO系樹脂と混合、造粒したのち、外径18mm内径12mm厚さ3mmになるように10トンでプレス成形した後アニールを施し、インピーダンスアナライザーにより初透磁率の測定を、また交流BHアナライザーによりFe損を、また密度の測定を行った。このときそれぞれの試料についてAr雰囲気中、ガラス遷移温度で5分熱処理を行う。またFeについては550℃、60分、センダストは700℃、60分Ar雰囲気中で熱処理を行う。夫々の試料の特性評価結果を下記表4に示す。
上記表4に示すように、実施例39、40の非晶質軟磁性粉末で作製した圧粉磁心は本発明の範囲であるため、非常に低い損失であることが分かる。これに対して比較例9はFe粉末で作製した圧粉磁心であり、密度は高いものの高周波の初透磁率および損失が格段に悪い。また比較例10も高周波の初透磁率および損失が格段に悪い。
(実施例41および比較例11)
本発明材の実施例41としてFe、B、Y、Nb、の金属材料をそれぞれ秤量し、チャンバー内で真空引きした後、減圧Ar雰囲気中、アーク溶解にて溶解し母合金を作製した。その後作製した母合金を銅製金型鋳造法にて、図1に示すように、外径13mm×内径8mm×厚み1mmのリング形状試料を作製し、試料のバリなどを研削した後測定試料とした。
比較例11としてFeの外径13mm×内径8mm×厚み1mmのリング材を作製した。リング形状試料を切断しそのの断面をX線回折法を用いて測定を行い、X線回折プロファイルを得た時にブロードなピークのみになる状態であるものを「非晶質相」、それ以外の場合を「結晶相」とし、板材が非晶質相であることを確認した。非晶質リング材は直流BHアナライザーにより保磁力を測定した。このときそれぞれの試料についてAr雰囲気中、ガラス遷移温度で5分熱処理を行う。またFeについては550℃、60分Ar雰囲気中で熱処理を行う。夫々の特性評価結果を下記表5に示す。
上記表5に示すように、実施例41の非晶質バルク磁性部材は本発明の範囲であるため、非常に低い損失であることが分かる。これに対して比較例11は結晶磁性材料であり、保磁力および最大透磁率が格段に悪い。
(実施例42および比較例12、13)
下記表6の組成となるように、Fe、B、Y、Nb、の金属材料をそれぞれ秤量し、チャンバー内で真空引きした後、減圧Ar雰囲気中、アーク溶解にて溶解し母合金を作製した。その後作製した母合金を銅製金型鋳造法にて直径1および4mm×長さ50mmの棒材を作製した(実施例42)。
比較例12,13として、下記表6の組成となるように、Fe、B、Y、Nb、の金属材料をそれぞれ秤量し、チャンバー内で真空引きした後、減圧Ar雰囲気中、アーク溶解にて溶解し母合金を作製した。その後作製した母合金を銅製金型鋳造法にて直径1および4mm×長さ50mmの棒材を作製した。棒材の断面をX線回折法を用いて測定を行い、X線回折プロファイルを得た時にブロードなピークのみになる状態であるものを「非晶質相」、それ以外の場合を「結晶相」と判断した。夫々の試料の特性評価結果を下記表6に示した。
上記表6に示すように、実施例42の非晶質バルク磁性部材は本発明の範囲であるため、1mm、4mmとも非晶質相であり、非晶質形成能が高くそのため部材も鋳造で直接作製することができ、また粉末の作製に際しても高い収率を得ることができる。これに対して比較例12および13は1mm、4mmともに結晶相であり、非晶質形成能が低い。
以上のように、本発明のFe非晶質合金の組成を選択することにより、過冷却液体領域が出現し、非晶質形成能および軟磁気特性に優れた合金を得ることができた。
以上の説明の通り、本発明の非晶質磁性合金は、インダクタ用の圧粉磁心等の電子部品や素子などに適用される。
Fe7022Nb組成の外径13mm、内径8mm、厚み1mmのリング形状非晶質バルク磁性部材の外部形態を示す写真である。

Claims (9)

  1. 組成式:Fe100−w−x(ただし、不可避不純物が含有されても良く、LはY、およびランタノイド(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)のうちから選ばれる1種類の元素であり、1原子%≦w≦8原子%、14原子%≦x≦26原子%。)で表され、非晶質形成能および軟磁気特性に優れ、過冷却液体領域を有し、前記過冷却液体領域が20℃以上あることを特徴とする非晶質磁性合金。
  2. 組成式:(Fe1−aTM100−w−x (ただし、不可避不純物が含有されても良く、TMはCo、Niのうちから選ばれる1種類の元素であり、0<a≦0.98、1原子%≦w≦8原子%、14原子%≦x≦26原子%。)で表され、非晶質形成能および軟磁気特性に優れ、過冷却液体領域を有し、前記過冷却液体領域が20℃以上あることを特徴とする非晶質磁性合金。
  3. 組成式:Fe100−w−x−y (ただし、不可避不純物が含有されても良く、MはAl、V、Cr、Mo、Nb、Ta、Wのうちから選ばれる1種類の元素であり、1原子%≦w≦8原子%、14原子%≦x≦26原子%、2原子%≦y≦8原子%。)で表され、非晶質形成能および軟磁気特性に優れ、過冷却液体領域を有し、前記過冷却液体領域が20℃以上あることを特徴とする非晶質磁性合金。
  4. 組成式:(Fe1−aTM100−w−x−y Nb (ただし、不可避不純物が含有されても良く、TMはCo、Niのうちから選ばれる1種類の元素であり、0<a≦0.98、1原子%≦w≦8原子%、14原子%≦x≦26原子%、2原子%≦y≦8原子%。)で表され、非晶質形成能および軟磁気特性に優れ、過冷却液体領域を有し、前記過冷却液体領域が20℃以上あることを特徴とする非晶質磁性合金。
  5. 請求項1乃至4の内のいずれか一項に記載された合金において、飽和磁束密度が1.2T以上であることを特徴とする非晶質磁性合金。
  6. 請求項1から5の内のいずれか一項に記載の非晶質磁性合金からなる非晶質磁性薄帯であって、1kHzの初透磁率が5000を超えることを特徴とする非晶質磁性薄帯。
  7. 請求項1から5の内のいずれか一項に記載の非晶質磁性合金からなる粉末であって、直径150μm以下であることを特徴とする非晶質磁性粉末。
  8. 請求項7の非晶質磁性粉末を用いて作製したことを特徴とする圧粉磁心。
  9. 請求項1から5の内のいずれか一項に記載の非晶質軟磁性合金からなる非晶質バルク磁性部材であって、任意の厚みが1mm以上かつ断面が0.75mm以上を持つ非晶質バルク磁性部材。
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