JP2009293099A - 高耐食非晶質合金 - Google Patents
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Abstract
【課題】良好な耐食性と高い飽和磁束密度Bsとを有し、非晶質形成能に優れた安価な高耐食非晶質合金とそれを用いた粉末、薄帯及び圧粉磁芯、インダクタを提供すること。
【解決手段】Feを主成分元素とした高耐食非晶質合金であって、組成式Fe100−w−x−yPwBxAlyLzで表され、組成式の構成元素のうち、Lは、V、Ti、Cr、Y、Zr、Mo、Nb、Ta、Wのうちから1つ以上選択される元素であり、2原子%≦w≦16原子%、2原子%≦x≦16原子%、0.3原子%≦y≦12原子%、0原子%<z≦4原子%である組成比率を満たすようにしたこと。
【選択図】図1
【解決手段】Feを主成分元素とした高耐食非晶質合金であって、組成式Fe100−w−x−yPwBxAlyLzで表され、組成式の構成元素のうち、Lは、V、Ti、Cr、Y、Zr、Mo、Nb、Ta、Wのうちから1つ以上選択される元素であり、2原子%≦w≦16原子%、2原子%≦x≦16原子%、0.3原子%≦y≦12原子%、0原子%<z≦4原子%である組成比率を満たすようにしたこと。
【選択図】図1
Description
本発明は、高耐食軟磁性非晶質合金、それを用いた粉末、圧粉磁芯、インダクタ及び薄帯に関する。
非晶質軟磁性合金は、その無秩序な結晶構造のため結晶磁気異方性を有せず、優れた軟磁気特性を有する(特許文献1参照)。一方、非晶質合金は純鉄や鉄鋼などに比べ化学的に不安定であるため、一般に高い腐食速度を示す。しかし、非晶質軟磁性合金にCrを多量に添加することにより非常に高い耐食性を示すことが知られている(非特許文献1参照)。これは非晶質合金表面にCr元素が濃縮した状態で不導態皮膜が短時間に形成するからであると考えられているが、過剰なCr元素の添加は飽和磁束密度の著しい低下を招くため、磁性材料としては好ましくない。
本発明は、良好な耐食性と高い飽和磁束密度Bsとを有し、非晶質形成能に優れた安価な高耐食非晶質合金とそれを用いた粉末、薄帯及び圧粉磁芯、インダクタを提供することを目的する。
即ち、本発明によれば、第1の非晶質合金として、組成式Fe100−w−x−yPwBxAlyLzで表され、該組成式の構成元素のうち、Lは、V、Ti、Cr、Y、Zr、Mo、Nb、Ta、Wのうちから選択される一種類以上の元素であり、2原子%≦w≦16原子%、2原子%≦x≦16原子%、0.3原子%≦y≦12原子%、0原子%<z≦4原子%を満たす非晶質合金が得られる。
また、本発明によれば、第2の非晶質合金として、第1の非晶質合金において、前記組成式のうち、Feの40原子%以下をCo、Niから選択される一種類以上の元素で置換してなる非晶質合金が得られる。
また、本発明によれば、第3の非晶質合金として、第1又は第2の非晶質合金において、飽和磁束密度が1.2T以上である非晶質合金が得られる。
また、本発明によれば、第4の非晶質合金として、第1乃至第3のいずれかの非晶質合金において、結晶化開始温度(Tx)が550℃以下である非晶質合金が得られる。
また、本発明によれば、第5の非晶質合金として、第1乃至第4のいずれかの非晶質合金において、ΔTx=Tx−Tg(但し、Txは結晶化開始温度、Tgはガラス転移温度)で表される過冷却液体領域ΔTxが、20℃以上である非晶質合金が得られる。
また、本発明によれば、第1乃至第5のいずれかの非晶質合金からなり平均厚みが10μm以上、300μm以下になるように形成してなる非晶質薄帯が得られる。
また、本発明によれば、第1乃至第5のいずれかの非晶質合金からなり平均粒径が1μm以上、150μm以下である非晶質粉末が得られる。
また、本発明によれば、第1の圧粉磁芯として、前記非晶質粉末と結合材とを含む混合物を成形してなる圧粉磁芯が得られる。
また、本発明によれば、第2の圧粉磁芯として、第1の圧粉磁芯において、前記結合材は、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミドイミド、ポリイミドのうちかから1つ以上選択される圧紛磁芯が得られる。
また、本発明によれば、第1のインダクタとして、第1又は第2の圧粉磁芯をコイル近傍に配置してなるインダクタが得られる。
また、本発明によれば、第2のインダクタとして、第1又は第2の混合物中に、前記コイルの少なくとも一部を埋没させてなるインダクタが得られる。
また、本発明によれば、前記非晶質薄帯、前記非晶質粉末、前記圧粉磁芯又は前記インダクタのいずれかからなり、450℃以下の熱処理を施してなる、非晶質部材が得られる。
また、本発明によれば、前記非晶質薄帯、前記非晶質粉末、前記圧粉磁芯、前記インダクタ又は前記非晶質部材からなり、表面に厚さ2nm以上の酸化層を有する非晶質部材が得られる。
本発明によれば、Fe−P−B−Alを含むFe基合金に、V、Ti、Cr、Y、Zr、Mo、Nb、Ta、Wのうちから選択される1種類以上の元素を添加することとしたので、良好な耐食性と高い飽和磁束密度を両立し、かつ優れた非晶質形成能を作製することができる。また、良好な耐食性を有することから経年変化が小さく、防錆材なども不要な圧粉磁芯やインダクタを提供することが可能である。また、高い飽和磁束密度Bsを有し、非晶質形成能に優れ、且つその非晶質構造の均一性が高いことから結晶磁気異方性を持たず、鉄損が少なく高効率である。更に、例えば、特許文献1に記載の合金に含まれているGaのように高価な元素を組織内に含んでおらず、加えてCo、Niの含有量も低減することが可能であることから、低コストにて必要な組成の合金を製造することができ、粉末、薄帯などの様々な態様の非晶質部材を容易に作製することができる。
本発明による高耐食非晶質合金は、特定の組成Fe100−w−x−yPwBxAlyLzを有する。ここで、Lは、V、Ti、Cr、Y、Zr、Mo、Nb、Ta、Wのうちから選択される一種類以上の元素である。また、w、x、y、zはそれぞれ2原子%≦w≦16原子%、2原子%≦x≦16原子%、0.3原子%≦y≦12原子%、0原子%<z≦4原子%の条件を満たしている。
上記特定の組成において、主成分であるFeは磁性を担う元素であり、磁気特性を得るために必須である。
上記特定の組成において、Pも高耐食非晶質合金の作製に必須の元素である。本実施の形態において、Pの添加量を2原子%以上、16原子%以下と定めたのは、Pが2原子%未満又は16%より大きいと合金の非晶質形成能が低下するためである。
上記特定の組成において、Bも高耐食非晶質合金の作製に必須の元素である。本実施の形態において、Bの添加量を2原子%以上、16原子%以下と定めたのは、Bが2原子%未満又は16%より大きいと合金の非晶質形成能が低下するためである。
上記特定の組成において、Lは、Fe−P−B−Al合金の非晶質形成能と耐食性を向上させるために必須の元素である。ここでLは、V、Ti、Cr、Y、Zr、Mo、Nb、Ta、Wのうちから選択される1つ以上の元素である。本実施の形態において、Lの添加量を0.3原子%より大きく、4原子%以下と定めたのは、0.3原子%未満にすると耐食性への効果が低く、添加量が4原子%を超えると飽和磁束密度が低下するためである。
上記特定の組成において、Alも高耐食非晶質合金の作製に必須の元素である。本実施の形態において、Alの添加量を0.3原子%より大きく、12原子%以下と定めたのは、0.3原子%未満にすると耐食性への効果が低く、添加量が12原子%を超えると非晶質形成能が低下するためである。なお、Alは、合金の非晶質形成能の向上に寄与すると共に、Al表面に不導態層が形成されることにより合金の耐食性も向上させることができる。また、Cr、NbのようなL元素と複合して添加されることにより合金の耐食性の効果をより高めることができる。更に、特許文献1に開示されているようGaと比べ合金を低コストで作製することが可能となる。
なお、上記特定の組成のうち、Feの40原子%以下をCo、Niから選択される一種類以上の元素で置換することとしてもよい。ここで、置換量を40原子%以下と定めたのは、置換量が40原子%を超えると飽和磁束密度が低下するためである。
また、本実施の形態による高耐食非晶質合金の飽和磁束密度Bsは1.2T以上である。一般に、飽和磁束密度を高めると部品の小型化、大電流化に有用であるが、優れた耐食性を有する非晶質合金はFeの含有量が低い。加えて、耐食性を高めるCrなどの元素を添加するためFe含有量は更に低下するため、飽和磁束密度Bsは大幅に低下し飽和磁束密度Bsが1.2Tを超えることはない。一方、磁歪、結晶磁気異方性の小さいセンダストやPCパーマロイなどの結晶合金でも、やはり飽和磁束密度Bsが1.2Tを超えることはない。本実施の形態による高耐食非晶質合金において、飽和磁束密度Bsの条件をBs≧1.2Tと定めたのは、従来材料より優れ、工業化に適した高耐食非晶質合金を得るためである。
一般に、非晶質合金をArなどの不活性雰囲気中で昇温すると、まず特定の温度においてガラス遷移現象が発生し、次いで更に高温になると結晶化現象が起こる。本実施の形態においては、ガラス遷移現象の開始温度を前記のガラス遷移温度Tgと規定し、また結晶化の開始温度を結晶化開始温度Txと規定する。更に、このガラス遷移温度Tgと結晶化開始温度Txの間の温度範囲を過冷却液体領域(ΔTx=Tx−Tg)と規定する。
本実施の形態による高耐食非晶質合金の結晶化開始温度Txは550℃以下であり、過冷却液体領域ΔTxはΔTx≧20℃を満たしている。結晶化開始温度Txを550℃以下に定めたのは、低い温度での熱処理を可能とするためである。なお、過冷却液体領域ΔTxはアモルファス構造の安定化に関係しており、過冷却液体領域ΔTxが広いほどアモルファス形成能は高い。
なお、上述した熱処理は、非晶質が溶融状態から急冷・固化した時に蓄積された熱歪みや粉末などをプレス成形した時の応力歪を緩和するためのものである。ここで、熱処理温度は作製する高耐食非晶質合金の結晶化開始温度Tx以下の温度と、結晶化が開始しない時間の範囲で熱処理をすることが好ましく、一般には300℃〜500℃程度に設定される。また、過冷却液体領域ΔTxの温度範囲で熱処理を実施することにより、成型された圧粉磁芯の内部に粘性流動を生じさせることが可能であり、かかる性質を利用することにより、例えば高密度な圧粉磁芯を得ることができる。更に、内部応力を容易に緩和することが可能になるため、成型時の応力によって劣化した圧粉磁芯の軟磁気特性も改善することができる。
なお、熱処理のための昇温装置としては、雰囲気調整が可能な電気炉を用いることが可能である。かかる電気炉を用いることにより、高耐食非晶質合金の表面酸化を防ぐことができる。また、必要な熱処理時間については、昇温温度や高耐食非晶質合金の形状にも左右されるが、一般には数分から数時間程度であり、熱処理温度が高いほど処理時間は短時間で完了する。
また、上述した高耐食非晶質合金は、高耐食非晶質薄帯、高耐食非晶質粉末、圧粉磁芯、インダクタの材料として適用可能である。本発明の実施の形態による高耐食非晶質合金は、電磁軟鉄やパーマロイ、センダスト、珪素鋼板と比較して比抵抗が高い。このため、渦電流損失が低減され、高周波特性にも優れている圧粉磁芯、インダクタを作製することができる。
高耐食非晶質薄帯については、その平均厚みを10μm以上、300μm以下としている。平均厚みを10μm以上、300μm以下と定めたのは、薄帯の厚さが10μm未満では積層したときの充填密度が低下し、300μmを超えると非晶質単相の薄帯の作製が困難になると共に透磁率などの高周波特性が渦電流損失により劣化するためである。
また、高耐食非晶質粉末については、その平均粒径が1μm以上、150μm以下である。平均粒径を1μm以上、150μm以下に定めたのは、平均粒径を1μm未満にすると成型密度が低下し、平均粒径が150μmを超えると非晶質単相の粉末の作製が困難になると共に、渦電流損失により透磁率等の高周波特性が劣化するためである。
また、圧粉磁芯については、上記高耐食非晶質粉末と所定の結合材を含む混合物を成型することにより作製可能である。軟磁気特性の優れた高耐食非晶質粉末を用いることにより、従来の圧粉磁芯よりも大幅に鉄損を低減することができる。
なお、上記所定の結合材としては熱硬化性樹脂が好適であり、その樹脂の種類は圧粉磁芯の用途や必要な耐熱性によって適宜選択することができる。結合材の例としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミドイミド、ポリイミドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、結合材は、粉末間を絶縁する役割も担っている。このため、結合材の含有量が少なすぎる場合は、圧粉磁芯での絶縁抵抗が低くなると共に圧粉磁芯自体の強度保持が困難となる。一方、結合材量が多すぎる場合は、非晶質磁性粉末の含有量が減って磁気特性が低下する。従って、結合材として混合される絶縁材料の量は、圧粉磁芯の形成材料全体に対して、1重量%乃至5重量%の比率とすることが好ましい。更に、圧粉磁芯の成型性を向上させる目的で別途潤滑材等を添加してもよい。
また、インダクタについては、上記圧粉磁芯をコイル近傍に配置して形成することとしてもよい。このように大幅に鉄損を低減した磁芯を用いることで、インダクタのエネルギー効率の大幅な向上を図ることができる。なお、上記高耐食非晶質粉末と結合材とを含む混合物中にコイルを埋没させて成型することとしても同様の効果が得られる。
なお、上述の高耐食非晶質粉末、圧粉磁芯及びインダクタに対して、バインダーとしての上記結合材を硬化させるために、450℃以下で熱処理を施すこととしてもよい。熱処理温度を450℃以下に定めたのは、熱処理温度が450℃を超えると圧粉磁芯やインダクタにおいてコイルや樹脂の劣化が顕著となり、鉄損、透磁率などの磁気特性や強度、絶縁抵抗などの信頼性が低下するからである。
更に、上述の高耐食非晶質薄帯、高耐食非晶質粉末、圧粉磁芯、インダクタの部材表面に厚さ2nm以上の酸化層を形成することしてもよい。部材表面を酸化層で包むことにより腐食の進行を止めることができ、更に、圧粉磁芯やインダクタにおいては粉末間の絶縁を高め、渦電流損失を低減させることにより高周波特性を改善する効果がある。
本実施の形態による高耐食非晶質合金を作製する場合は、まず原料となる金属材料をそれぞれ秤量し、高周波加熱装置にて溶融し均一な母合金を作製する。さらに溶解冷却装置を用いて得られた母合金を再溶解し、結晶が析出することのない一定の以上の速度で冷却することで、高耐食非晶質粉末や薄帯を得ることができる。更に、高耐食非晶質粉末を結合材と混合し、プレス成形することによって、圧粉磁芯やインダクタを得ることができる。続いて高耐食非晶質薄帯を用いて巻磁芯や積層磁芯を得ることができる。
本実施の形態による高耐食非晶質合金は103℃/秒程度の冷却速度でも十分に製造可能であり、105℃/秒以上を必要とする従来の非晶質合金と比較すると、非常にゆっくりと冷却しても非晶質相を得ることができるため、粉末や薄帯など、様々な形状の高耐食非晶質合金を作製することができる。特に高耐食非品質粉末はバインダーと混合することで圧粉磁芯を形成可能であり、非常に有用である。また、薄帯を作製する場合も、冷却速度が遅いために従来方法による20μm程度の厚みだけではなく、厚み0.1mm程度以上の薄帯を作製可能であり、このため従来の高耐食非晶質合金と比べて広い用途に使用することができる。
なお、非晶質合金の作製にあたっては、従来の一般的な高周波加熱装置はもちろん溶解冷却装置、熱処理装置、プレス装置などをそのまま利用可能である。溶解冷却装置としては、溶解した母合金から結晶化することなく非晶質単相を得られるものであれば、どのようなものでも特に問題なく使用することができ、金型鋳造装置、水アトマイズ装置、単ロール装置もしくは双ロール装置などがある。また、熱処理工程としては、雰囲気調整が可能で、500℃近傍まで温度制御が可能な電気炉であれば、どのようなものでも特に問題なく使用することができる。更に、得られた各種形状の高耐食非晶質合金をさらに加工して、圧粉磁芯やそれを用いたインダクタなどを作製する場合においても、基本的に従来の一般的な製造装置をそのまま用いることが可能である。
以下、図及び表を参照しつつ本発明の実施例について説明する。なお、本実施例における耐食性の評価は、単ロール液体急冷法にて作製した幅約10mm、厚さ30μm、長さ約2mの幅広の連続薄帯を長さ約30mmに切断し、得られた試料を60℃−95%RHの条件にて恒温高湿試験を行い、200時間および1000時間経過後に恒温高湿槽から取り出し薄帯表面の腐食の有無(変色の有無)を目視で評価した。
また、本実施例において作製した合金が結晶質の状態(結晶相)であるか、非晶質の状態(非晶質相)であるかは、Cu−Kα線源のX線回折装置を用い、2θが30〜80°の範囲で測定したX線回折プロファイルにより判断した。
図1に単ロール液体急冷法にて作製したFe74P10B10Nb2Cr1Al3組成の厚み30μm、幅10mm、長さ約2mである薄帯の自由凝固面のX線回折プロファイルを示す。図1に示したように、ブロードなピークのみになる状態であり、「非晶質相」と判定されるものである。
ガラス遷移温度Tgや結晶化開始温度Txは、示差走査熱量分析装置(DSC:Differential Scanning Calorimeter)を用い、室温から700℃の温度範囲を約40℃/分(0.67℃/秒)の昇温速度で熱分析を行うことにより評価した。
図2に、図1で非晶質であることを確認したFe74P10B10Nb2Cr1Al3組成で1×1mm程度に切断し、10mgになるように秤量した薄帯のDSC測定結果を示す。図2に示されるように、結晶化に伴う発熱ピークの低温側に過冷却液体領域ΔTxと呼ばれる吸熱ピークが出現する。同一組成の非晶質単相部材ならば、薄帯や粉末などの試料形状によらずほぼ同一のDSC測定結果を得ることができる。
なお、本発明における高耐食非晶質合金の粉末を用いてなる圧粉磁芯は、上記高耐食非晶質合金の粉末と結合材とを混合、成型することにより作製した。
(実施例1乃至実施例30、比較例1乃至比較例12)
Fe、Fe75P25、B、Al、Nb、Cr、Ti、V、Y、Zr、Mo、Ta、Wの原料を表1乃至表4の合金組成となるように秤量し、アルミナ坩堝の中に入れて高周波誘導加熱装置の真空チャンバー内に配置して真空引きを行なった。その後、減圧Ar雰囲気中で高周波誘導加熱により溶解し、母合金を作製した。この母合金を単ロール液体急冷法にて処理することにより、幅約10mm、厚さ30μm、長さ約2mの幅広の連続薄帯を作製した。次に、これらの薄帯表面についてX線回折法により相の判定を行い、非晶質相であることを確認できた薄帯については、更に振動試料型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)により飽和磁束密度Bsの評価を行なった。続いて、長さ30mmに切断した薄帯を60℃−95%RHの条件にて恒温高湿試験を行い、200時間後及び1000時間後における薄帯表面の腐食の有無を評価した。
Fe、Fe75P25、B、Al、Nb、Cr、Ti、V、Y、Zr、Mo、Ta、Wの原料を表1乃至表4の合金組成となるように秤量し、アルミナ坩堝の中に入れて高周波誘導加熱装置の真空チャンバー内に配置して真空引きを行なった。その後、減圧Ar雰囲気中で高周波誘導加熱により溶解し、母合金を作製した。この母合金を単ロール液体急冷法にて処理することにより、幅約10mm、厚さ30μm、長さ約2mの幅広の連続薄帯を作製した。次に、これらの薄帯表面についてX線回折法により相の判定を行い、非晶質相であることを確認できた薄帯については、更に振動試料型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)により飽和磁束密度Bsの評価を行なった。続いて、長さ30mmに切断した薄帯を60℃−95%RHの条件にて恒温高湿試験を行い、200時間後及び1000時間後における薄帯表面の腐食の有無を評価した。
表1に示されるように、実施例1乃至実施例13、比較例1乃至比較例3に係る合金は、組成式Fe100−w−x−yPwBxAlyLzにおいて、Lの含有量zの値を0原子%から5原子%まで変化させたものである。表1から理解されるように、実施例1乃至13においては、非晶質単相の幅広薄帯を得ることができ、Bs≧1.20T、恒温高湿試験にて200時間以上変色しない条件を満たしている。一方、z=0である比較例1及び比較例2においては恒温高湿試験にて200時間以上経過すると変色し、z=5である比較例3においては飽和磁束密度Bsが1.20未満となっているため、これらは上記条件を満たしていない。従って、0<z≦4が本実施例におけるパラメータzの範囲となる。
表2に示されるように、実施例14乃至実施例20、比較例4乃至比較例7に係る合金は、組成式Fe100−w−x−yPwBxAlyLzにおいて、Alの含有量yの値を0原子%から14原子%まで変化させたものである。表2から理解されるように、実施例14乃至20においては、非晶質単相の幅広薄帯を得ることができ、Bs≧1.20T、恒温高湿試験にて200時間以上変色しない条件を満たしている。一方、y=0である比較例4乃至比較例6においては恒温高湿試験にて200時間以上経過すると変色し、y=14である比較例7においては非晶質形成能の低下により非晶質単相の薄帯を作製することができず、これらは上記条件を満たしていない。従って、0<y≦12が本実施例におけるパラメータyの範囲となる。
表3に示されるように、実施例21乃至実施例25、比較例8及び比較例9に係る合金は、組成式Fe100−w−x−yPwBxAlyLzにおいて、Pの含有量wの値を0原子%から18原子%まで変化させたものである。表3から理解されるように、実施例21乃至25においては、非晶質単相の幅広薄帯を得ることができ、Bs≧1.20T、恒温高湿試験にて200時間以上変色しない条件を満たしている。一方、w=0及びw=18である比較例8及び比較例9においては非晶質形成能の低下により非晶質単相の薄帯を作製することができないため、これらは上記条件を満たしていない。従って、2≦w≦16が本実施例におけるパラメータwの範囲となる。
表4に示されるように、実施例26乃至実施例30、比較例10及び比較例11に係る合金は、組成式Fe100−w−x−yPwBxAlyLzにおいて、Bの含有量xの値を0原子%から18原子%まで変化させたものである。表4から理解されるように、実施例26乃至30においては、非晶質単相の幅広薄帯を得ることができ、Bs≧1.20T、恒温高湿試験にて200時間以上変色しない条件を満たしている。一方、x=0及び18である比較例10及び11においては非晶質形成能の低下により非晶質単相の薄帯を作製することができない。従って、2≦x≦16が本実施例におけるパラメータxの範囲となる。なお、従来材料としての比較例12は、恒温高湿試験にて変色し上記条件を満たしていない。
(実施例31乃至実施例35、比較例13)
Fe、Co、Ni、Fe75P25、B、Al、Nb、Crの原料を表5の合金組成となるように秤量し、上述の実施例1乃至実施例30及び比較例1乃至比較例12と同様の製法で薄帯を作製し評価を行った。
Fe、Co、Ni、Fe75P25、B、Al、Nb、Crの原料を表5の合金組成となるように秤量し、上述の実施例1乃至実施例30及び比較例1乃至比較例12と同様の製法で薄帯を作製し評価を行った。
表5に示されるように、実施例31乃至35、比較例13に係る合金は、組成式Fe100−w−x−yPwBxAlyLzにおいて、Feの0原子%から50原子%をCo及びNiから1つ以上選択される元素で置換したものである。表5から理解されるように、実施例31乃至35においては、非晶質単相の幅広薄帯を得ることができ、Bs≧1.20T、恒温高湿試験にて200時間以上変色しない。一方、置換量が50原子%である比較例13においては、飽和磁束密度Bsが1.20未満となっているため上記条件を満たしていない。従って、置換量はFeの40原子%以下であることが条件となる。
(実施例36乃至実施例41、比較例14乃至比較例16)
次に、Fe、Fe75P25、B、Al、Nb、Crの原料を組成式Fe75P10B10Nb1Cr1Al3を満たすように秤量し、アルミナ坩堝の中に入れて高周波誘導加熱装置の真空チャンバー内に配置して真空引きを行なった。その後、減圧Ar雰囲気中で高周波誘導加熱により溶解し母合金を作製した。この母合金を水アトマイズ法にて処理した後、分級を行なうことにより平均粒径が1μm乃至230μmの高耐食粉末を作製した。そして、これらの粉末についてX線回折法により相の判定を行い、振動試料型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)により飽和磁束密度Bsの評価を行なった。次に、得られた高耐食粉末とシリコーン樹脂の固形分との比率が重量比で100/5となるように熱処理前の粉末とシリコーン樹脂の溶液を混合して造粒し、造流粉末を成型圧力1000MPaにてプレス成型し、外形18mm、内径12mm、厚さ3mmのトロイダル形状の成型体(圧粉磁芯)を作製した。作製された成型体の夫々に対しては、バインダーとしてのシリコーン樹脂を硬化させるために熱処理を施した。その後、更に350℃で60分間、熱処理を施した。また、従来材料として、上記と同様の方法で作製されたFe及び組成式Fe−3Si−8Cr(重量%)で表される粉末についても、同様の条件で成形を行い、Fe粉末については500℃、Fe−3Si−8Cr(重量%)については700℃で夫々60分間の熱処理を行い、比較例15及び比較例16とした。更に、BHアナライザーを用いて、100kHz−100mTの励磁条件で鉄損の測定を行った後、60℃−95%RHの条件にて恒温高湿試験を行い、200時間後及び1000時間後における薄帯表面の腐食の有無を評価した。
次に、Fe、Fe75P25、B、Al、Nb、Crの原料を組成式Fe75P10B10Nb1Cr1Al3を満たすように秤量し、アルミナ坩堝の中に入れて高周波誘導加熱装置の真空チャンバー内に配置して真空引きを行なった。その後、減圧Ar雰囲気中で高周波誘導加熱により溶解し母合金を作製した。この母合金を水アトマイズ法にて処理した後、分級を行なうことにより平均粒径が1μm乃至230μmの高耐食粉末を作製した。そして、これらの粉末についてX線回折法により相の判定を行い、振動試料型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)により飽和磁束密度Bsの評価を行なった。次に、得られた高耐食粉末とシリコーン樹脂の固形分との比率が重量比で100/5となるように熱処理前の粉末とシリコーン樹脂の溶液を混合して造粒し、造流粉末を成型圧力1000MPaにてプレス成型し、外形18mm、内径12mm、厚さ3mmのトロイダル形状の成型体(圧粉磁芯)を作製した。作製された成型体の夫々に対しては、バインダーとしてのシリコーン樹脂を硬化させるために熱処理を施した。その後、更に350℃で60分間、熱処理を施した。また、従来材料として、上記と同様の方法で作製されたFe及び組成式Fe−3Si−8Cr(重量%)で表される粉末についても、同様の条件で成形を行い、Fe粉末については500℃、Fe−3Si−8Cr(重量%)については700℃で夫々60分間の熱処理を行い、比較例15及び比較例16とした。更に、BHアナライザーを用いて、100kHz−100mTの励磁条件で鉄損の測定を行った後、60℃−95%RHの条件にて恒温高湿試験を行い、200時間後及び1000時間後における薄帯表面の腐食の有無を評価した。
表6に示されるように、実施例36乃至41においては、いずれも非晶質単相の粉末を容易に作製することが可能であり、飽和磁束密度Bs≧1.20T、鉄損Pcv≦4900mW/ccであり、恒温高湿試験にて200時間以上変色しない条件を満たしている。一方、比較例14(平均粒径230μm)においては、非晶質の粉末を得ることができず、鉄損Pcvが著しく劣化し上記条件を満たしていない。従って、平均粒径は、150μm以下であることが条件となる。
(実施例42、比較例17)
上述した実施例36乃至実施例41及び比較例14乃至比較例16と同様の製法を用いて高耐食粉末を結合材と共に成型し、得られた圧粉磁芯とコイルとを用いてインダクタを作製した。図3及び図4に示されるように、本実施例におけるインダクタは、圧粉磁芯1とコイル2と表面実装用端子3とで構成されている。圧粉磁芯1には、上述した実施例38(平均粒径10μm、合金組成Fe75P10B10Nb1Cr1Al3)に示される高耐食粉末を成型したものを用いた。コイル2としては、断面形状が2.0×0.6mmで表面に厚さが20μmのポリアミドイミドからなる絶縁層を有する平角導体をエッジワイズ巻きにしたもので、巻数は3.5ターンである。このコイル2を予め金型内に配置した状態で、金型のキャビティに実施例38と同一の組成を有する粉末を充填し、800MPaの圧力で成型を行なった。その後、成型体を金型から抜き出して、バインダーの硬化処理を行ない、コイル端末の成型体外部に露出している部分にフォーミング加工を施し、表面実装用端子3とした後、350℃で60分間の熱処理を施した。
上述した実施例36乃至実施例41及び比較例14乃至比較例16と同様の製法を用いて高耐食粉末を結合材と共に成型し、得られた圧粉磁芯とコイルとを用いてインダクタを作製した。図3及び図4に示されるように、本実施例におけるインダクタは、圧粉磁芯1とコイル2と表面実装用端子3とで構成されている。圧粉磁芯1には、上述した実施例38(平均粒径10μm、合金組成Fe75P10B10Nb1Cr1Al3)に示される高耐食粉末を成型したものを用いた。コイル2としては、断面形状が2.0×0.6mmで表面に厚さが20μmのポリアミドイミドからなる絶縁層を有する平角導体をエッジワイズ巻きにしたもので、巻数は3.5ターンである。このコイル2を予め金型内に配置した状態で、金型のキャビティに実施例38と同一の組成を有する粉末を充填し、800MPaの圧力で成型を行なった。その後、成型体を金型から抜き出して、バインダーの硬化処理を行ない、コイル端末の成型体外部に露出している部分にフォーミング加工を施し、表面実装用端子3とした後、350℃で60分間の熱処理を施した。
図5に、実施例42として、上記した実施例38の粉末からなるインダクタを実線(実施例)で、比較例17として組成式Fe−3Si−8Cr(重量%)からなる粉末からなるインダクタを破線(比較例)で示す。なお、本実施例においては、実施例及び比較例共にL=0.6μHとなるように成型圧力を調整した。図5から理解されるように、本発明によるインダクタの方が比較用インダクタに比べ優れた特性を示している。
(実施例43乃至実施例46、比較例18乃至比較例20)
更に、上述した実施例36乃至実施例41及び比較例14乃至比較例16と同様の製法を用いて、外形が18mm、内径12mm、厚さ3mmであるトロイダル形状の成型体(圧粉磁芯)を作製した。作製された成型体に対しては、第2の実施の形態と同様に、バインダーとしてのシリコーン樹脂を硬化させるために熱処理を施し、更に150℃乃至350℃で60分間、熱処理を施した。なお、高耐食粉末には第2の実施の形態で説明した実施例38(平均粒径10μm、組成式Fe75P10B10Nb1Cr1Al3)のものを用いた。更に、従来材料として、上記と同様の方法で作製されたFe及び組成式Fe−3Si−8Cr(重量%)で表される粉末についても、同様の条件で成形を行い、Fe粉末については500℃、Fe−3Si−8Cr(重量%)については700℃で夫々60分間の熱処理を行い、比較例19及び比較例20とした。
更に、上述した実施例36乃至実施例41及び比較例14乃至比較例16と同様の製法を用いて、外形が18mm、内径12mm、厚さ3mmであるトロイダル形状の成型体(圧粉磁芯)を作製した。作製された成型体に対しては、第2の実施の形態と同様に、バインダーとしてのシリコーン樹脂を硬化させるために熱処理を施し、更に150℃乃至350℃で60分間、熱処理を施した。なお、高耐食粉末には第2の実施の形態で説明した実施例38(平均粒径10μm、組成式Fe75P10B10Nb1Cr1Al3)のものを用いた。更に、従来材料として、上記と同様の方法で作製されたFe及び組成式Fe−3Si−8Cr(重量%)で表される粉末についても、同様の条件で成形を行い、Fe粉末については500℃、Fe−3Si−8Cr(重量%)については700℃で夫々60分間の熱処理を行い、比較例19及び比較例20とした。
表7に示されるように、実施例43乃至46においては、いずれも非晶質単相の粉末を容易に作製することが可能であり、飽和磁束密度Bs≧1.20T、鉄損Pcv≦4900mW/ccであり、恒温高湿試験にて200時間以上変色しない条件を満たしている。一方、比較例18(熱処理温度550度)においては、結晶化してしまったため、鉄損Pcvが著しく劣化し上記条件を満たしていない。従って、熱処理温度は450℃以下であることが条件となる。
(実施例47乃至実施例55、比較例21乃至比較例29)
次に、Fe、Fe75P25、B、Al、Nb、Crの原料を組成式Fe75P10B10Nb1Cr1Al3、Fe74P10B10Nb2Cr1Al3及びFe78Si9B13を満たすように秤量し、アルミナ坩堝の中に入れて高周波誘導加熱装置の真空チャンバー内に配置して真空引きを行なった。その後、減圧Ar雰囲気中で高周波誘導加熱により溶解し、母合金を作製した。この母合金を単ロール液体急冷法にて処理することにより、種々の厚さを持つ幅約3mm、長さ約5mの連続薄帯を作製した。急冷時において、これらの薄帯の冷却速度が最も遅くなるときに銅ロールと接触していない薄帯の面をX線回折法で評価することにより、夫々の薄帯について非晶質相が形成される最大の厚さtmaxを求めた。最大厚さtmaxが大きいほど、遅い冷却速度であっても非晶質構造が得られ、高い非晶質形成能を有することを意味している。
次に、Fe、Fe75P25、B、Al、Nb、Crの原料を組成式Fe75P10B10Nb1Cr1Al3、Fe74P10B10Nb2Cr1Al3及びFe78Si9B13を満たすように秤量し、アルミナ坩堝の中に入れて高周波誘導加熱装置の真空チャンバー内に配置して真空引きを行なった。その後、減圧Ar雰囲気中で高周波誘導加熱により溶解し、母合金を作製した。この母合金を単ロール液体急冷法にて処理することにより、種々の厚さを持つ幅約3mm、長さ約5mの連続薄帯を作製した。急冷時において、これらの薄帯の冷却速度が最も遅くなるときに銅ロールと接触していない薄帯の面をX線回折法で評価することにより、夫々の薄帯について非晶質相が形成される最大の厚さtmaxを求めた。最大厚さtmaxが大きいほど、遅い冷却速度であっても非晶質構造が得られ、高い非晶質形成能を有することを意味している。
表8に示されるように、実施例47乃至55においては、薄帯の厚さが10μm乃至300μmの範囲において、非晶質相の薄帯を得ることができ、恒温高湿試験にて200時間以上変色をしない条件を満たしている。また、非晶質相を形成できる最大の厚さtmaxは300μmであった(実施例55)。一方、比較例21乃至23においては非晶質形成能不足のため非晶質単相の薄帯を作製することができず、また、比較例24乃至29においては200時間以上の恒温高湿試験にて変色しており、上記条件を満たしていない。従って、本発明の薄帯の厚さは10μm以上300μm以下であることが条件となる。
また、従来材料を用いた比較例24乃至比較例29に示される薄帯に関しては、非晶質相を形成できる最大の厚さtmaxは30μmである(比較例25)。このことから、本実施例による薄帯の方が非晶質形成能、耐食性に優れていることがわかる。
(実施例56乃至実施例59、比較例30及び比較例31)
Fe、Fe75P25、B、Al、Nb、Crの原料を表9に示される合金組成となるように秤量し、上述した実施例1乃至実施例30及び比較例1乃至比較例12と同様の方法で幅約10mm、厚さ30μm、長さ約2mの幅広の連続薄帯を作製した。更に、得られた薄帯夫々を1×1mm程度に切断し、DSC測定をした後、DSC測定グラフからガラス遷移温度Tg、結晶化開始温度Tx、過冷却液体領域ΔTxを算出した(図2参照)。なお、恒温高湿試験には長さ30mmに切断した薄帯を用いた。
Fe、Fe75P25、B、Al、Nb、Crの原料を表9に示される合金組成となるように秤量し、上述した実施例1乃至実施例30及び比較例1乃至比較例12と同様の方法で幅約10mm、厚さ30μm、長さ約2mの幅広の連続薄帯を作製した。更に、得られた薄帯夫々を1×1mm程度に切断し、DSC測定をした後、DSC測定グラフからガラス遷移温度Tg、結晶化開始温度Tx、過冷却液体領域ΔTxを算出した(図2参照)。なお、恒温高湿試験には長さ30mmに切断した薄帯を用いた。
表9に示されるように、実施例56乃至59においては、いずれも200時間以上の恒温高湿試験にて変色しない条件を満たしている。一方、比較例30及び31は、共に200時間以上の恒温高湿試験にて変色し、特に、比較例31では、過冷却液体領域ΔTxが存在しないため上記条件を満たしていない。
(実施例60、比較例32)
次に、Fe、Fe75P25、B、Al、Nb、Crの原料を実施例60として組成式Fe74P10B10Nb2Cr1Al3、比較例32としてFe78Si9B13を満たすように秤量し、上述した実施例1乃至実施例30及び比較例1乃至比較例12と同様の製法で幅約10mm、厚さ30μm、長さ約2mの幅広の連続薄帯を作製した。続いて、得られた薄帯を30mmに切断し、大気中において350℃で60分間、熱処理を施した。こうして得られた薄帯をX線光電子分光(XPS:X-ray photoelectron spectroscopy)を用いて、表面近傍の酸素分布状態を観測した。図6に示されるように、実施例60には薄帯表面に2nmの厚さの酸化層が形成される一方、比較例32には薄帯表面に形成される酸化層の厚さは2nm未満となっている。本実施例においては、実施例60の方が比較例32よりも高耐食非晶質合金としては優れていることがわかる。
次に、Fe、Fe75P25、B、Al、Nb、Crの原料を実施例60として組成式Fe74P10B10Nb2Cr1Al3、比較例32としてFe78Si9B13を満たすように秤量し、上述した実施例1乃至実施例30及び比較例1乃至比較例12と同様の製法で幅約10mm、厚さ30μm、長さ約2mの幅広の連続薄帯を作製した。続いて、得られた薄帯を30mmに切断し、大気中において350℃で60分間、熱処理を施した。こうして得られた薄帯をX線光電子分光(XPS:X-ray photoelectron spectroscopy)を用いて、表面近傍の酸素分布状態を観測した。図6に示されるように、実施例60には薄帯表面に2nmの厚さの酸化層が形成される一方、比較例32には薄帯表面に形成される酸化層の厚さは2nm未満となっている。本実施例においては、実施例60の方が比較例32よりも高耐食非晶質合金としては優れていることがわかる。
以上、説明したように、本発明の実施の形態に基づく高耐食非晶質合金は、添加する元素の種類とその比率とを上気に示した範囲に規定するものである。それにより、良好な耐食性を有し、飽和磁束密度が高く、しかも鉄損の低い磁気特性に優れた高耐食性高耐食非晶質合金、それを用いた粉末、圧粉磁芯、インダクタ及び薄帯を作製することができる。なお、上述した実施の形態は、本発明の実施の形態に係る場合の効果について説明するためのものであって、これによって特許請求の範囲を限縮するものではない。また、本発明の構成各部は、上述実施の形態に限られず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
1 圧粉磁芯
2 コイル
3 表面実装用端子
2 コイル
3 表面実装用端子
Claims (13)
- 組成式Fe100−w−x−yPwBxAlyLzで表され、該組成式の構成元素のうち、Lは、V、Ti、Cr、Y、Zr、Mo、Nb、Ta、Wのうちから選択される一種類以上の元素であり、2原子%≦w≦16原子%、2原子%≦x≦16原子%、0.3原子%≦y≦12原子%、0原子%<z≦4原子%を満たす非晶質合金。
- 前記組成式のうち、Feの40原子%以下をCo、Niから選択される一種類以上の元素で置換してなる、
請求項1に記載の非晶質合金。 - 飽和磁束密度が1.2T以上である、
請求項1又は請求項2に記載の非晶質合金。 - 結晶化開始温度(Tx)が550℃以下である、
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の非晶質合金。 - ΔTx=Tx−Tg(但し、Txは結晶化開始温度、Tgはガラス転移温度)で表される過冷却液体領域ΔTxが、20℃以上である、
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の非晶質合金。 - 請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の非晶質合金からなり平均厚みが10μm以上、300μm以下になるように形成してなる、
非晶質薄帯。 - 請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の非晶質合金からなり、平均粒径が1μm以上、150μm以下である、
非晶質粉末。 - 請求項7に記載の非晶質粉末と結合材とを含む混合物を成形してなる、
圧粉磁芯。 - 前記結合材は、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミドイミド、ポリイミドのうちかから1つ以上選択される、
請求項8に記載の圧紛磁芯。 - 請求項8又は9に記載の圧粉磁芯をコイル近傍に配置してなる、
インダクタ。 - 請求項8又は請求項9に記載の混合物中に、前記コイルの少なくとも一部を埋没させてなる、
請求項10に記載のインダクタ。 - 請求項7乃至請求項11のいずれかに記載の非晶質薄帯、非晶質粉末、圧粉磁芯又はインダクタからなり、
450℃以下の熱処理を施してなる、
非晶質部材。 - 請求項6乃至請求項12のいずれかに記載の非晶質薄帯、非晶質粉末、圧粉磁芯、インダクタ又は非晶質部材からなり、
表面に厚さ2nm以上の酸化層を有する、
非晶質部材。
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