従来から、車両用シート(座席)、或いは事務用、家庭用のソファー類や座椅子などに用いられるシートカバーの表皮材内面に玉縁芯材を添設することにより、シート類の仕上がりを良くして高級感を付与することが行われている。この玉縁芯材として、古くは繊維材料から得られる剛直性の高い紐類が用いられていたものの、近年では、これら紐類に代わって合成樹脂製の玉縁芯材が多く使われるようになってきた。このような合成樹脂製の玉縁芯材は、通常、断面が矩形状の長尺な帯板部と、同帯板部の長手方向に沿った端縁に配される断面が略円形状又は略半円形状の玉部とを有している。
このような玉縁芯材の一例が、特開2005−40158号公報(特許文献1)に開示されている。例えば図10に示したように、特許文献1に記載されている玉縁芯材81は、ポリプロピレンなど合成樹脂材からなり、断面略長方形状の帯板部82と断面略円形状の玉部83とを有している。また、帯板部82の一方の面91には、図示しない複数のフック片が設けられている。
この特許文献1の玉縁芯材81は、シートカバー85に用いられる表皮材86,87の縫着部に沿って取着される。具体的には、先ずシートカバー85の第1及び第2表皮材86,87をその表面側が向かい合うように重合させ、その重合された第1及び第2表皮材86,87の側縁部に沿って、玉縁芯材81を第2表皮材87の裏面側から添設する。続いて、玉縁芯材81と第1及び第2表皮材86,87の重合部とを帯板部82及び玉部83の境界付近で縫合することにより、玉縁芯材81と第1及び第2表皮材86,87とが第1縫合線88によって縫合される。更に、前記特許文献1では、第1表皮材86と第2表皮材87とを玉縁芯材81の玉部先端付近の第2縫合線89に沿って互いに縫合し、その後、第2縫合線89を基点に第2表皮材87を折り返す。これによって、シートパッド90を被覆するシートカバー85が形成される。
このようにして得られたシートカバー85は、第1表皮材86と第2表皮材87とが第1及び第2縫合線88,89によって縫合されている。また、帯板部82は、その一面91に設けた複数のフック片を介して第2表皮材87の裏面と係合するため、第2表皮材87が玉縁芯材81から浮き上がることを抑制している。これにより、車両用シートやソファー類に着座すること等によりシートカバー85の第1及び第2表皮材86,87に引張力が作用したときに、第1表皮材86と第2表皮材87との縫い合わせ部分(縫着部)が露呈することを防いでシートカバー85の形状を安定させることが可能となる。
ところで、車両用シート等には見栄え等を向上させるために、多くの曲面が設けられている。このため、上述のような玉縁芯材が取着されたシートカバーを車両用シートに被覆する場合、そのシートパッドの曲面に沿って玉縁芯材を湾曲させる必要がある。このような場合において、前記特許文献1では、玉縁芯材81の成形材料として、ポリプロピレン等の合成樹脂材料が使用されることが記載されている。しかし、このようなポリプロピレン等の合成樹脂材料からなる玉縁芯材81は硬く柔軟性に乏しいため、シートカバーの被覆時にシートパッドの曲面等に適切に沿わせることができないという欠点があった。
そこで、このような欠点を解消するために、特開2007−29461号公報(特許文献2)には、玉縁芯材の帯板部及び玉部が熱可塑性エラストマーからなり、また、帯板部の一面に形成する複数のフック片が、帯板部及び玉部よりも高い硬度を有する熱可塑性樹脂からなる玉縁芯材が開示されている。
このような特許文献2の玉縁芯材であれば、帯板部及び玉部が熱可塑性エラストマーからなるため、玉縁芯材をシートパッドの曲面に沿って容易に湾曲させることができる。また、玉縁芯材を表皮材に縫合する際にミシン針を帯板部に容易に挿通させることができるため、ミシン針の折損を防ぐことができる。更に、特許文献2の玉縁芯材は、複数のフック片が熱可塑性樹脂からなるため、玉縁芯材の柔軟性を向上させても、フック片を介して係合する玉縁芯材と第2表皮材との間の係合力が低下することはなく、第2表皮材が玉縁芯材から浮き上がることを防ぐことができる。
その上、特許文献2の玉縁芯材では、柔軟性をより向上させるために、帯板部の玉部が配されている第1端縁とは反対側の第2端縁に山形状の切欠きが設けられて、帯板部の第2端縁がジグザグ状に形成されている。これにより、玉縁芯材を上下方向や左右方向へより容易に湾曲させることができるため、シートパッドが複雑な外観形状を有していても、玉縁芯材をシートパッドの外形に適切に沿わせることが可能となる。
特開2005−40158号公報
特開2007−29461号公報
前記特許文献2のような玉縁芯材は、シートカバーに縫製により取着された後、玉縁芯材の帯板部に形成したフック片を表皮材の裏面に係合させることにより、上述のように表皮材の浮き上がりが防止される。その後、玉縁芯材が取着されたシートカバーは、玉縁芯材のフック片を表皮材に係合させた状態で、例えば運搬、保管、シートパッドへの被覆作業などといった各種工程が順番に行われる。
しかしながら、前記特許文献2に記載の玉縁芯材は、上述のように帯板部の第2端縁に切欠きが設けられていることにより、同第2端縁側の端部にてフック片を設けた係合面の面積が小さくなるため、第2表皮材との係合力が切欠きを形成した分だけ低下する。このため、前記特許文献2の玉縁芯材を取着したシートカバーは、上述のような運搬や保管等の作業を行った際に、振動や衝撃等を受けて玉縁芯材帯板部と第2表皮材とが剥がれ易くなる。
そして、上記のように運搬時や保管時に第2表皮材が玉縁芯材の帯板部から剥がれてしまうと、第2表皮材に浮き上がった箇所や皺が形成される。このため、玉縁芯材が取着されたシートカバーをシートパッドに被覆する直前に、帯板部の係合面と第2表皮材とを再び手作業等で係合させる作業が必要となり、手間がかかっていた。
また、シートカバーの被覆前に帯板部の係合面と表皮材とを上述のように再度係合させた場合、或いは運搬や保管等の工程時に帯板部と表皮材とが剥がれなかった場合でも、玉縁芯材の帯板部と第2表皮材との係合力が低いことから、シートカバーをシートパッドに被覆する際に、表皮材が大きな引張り力を受けて帯板部から剥がれてしまい、シート類の仕上がりが悪くなる虞があった。
一方、このような玉縁芯材を取着したシートカバーを運搬・保管する際に玉縁芯材の帯板部と表皮材とが剥がれてしまうといった従来の問題を解決するために、例えば帯板部の係合面に配される全フック片のサイズを大きくすること等によって帯板部と表皮材との係合力を高めることが考えられる。しかしながら、係合面上の全てのフック片を大きく形成した場合、例えば同帯板部を表皮材裏面に係合させた状態で表皮材外表面側を触ったときに、大きなフック片の感触を受けて表皮材外表面の手触りがゴツゴツ(凸凹)したものとなり、ユーザーに違和感を与えてしまうという不具合がある。
更に、例えば玉縁芯材と表皮材とを縫合する際には、玉縁芯材の帯板部に縫製針(ミシン針)を突き刺して帯板部を表皮材に縫着するが、この場合に帯板部にサイズの大きなフック片が形成されていると、帯板部に縫製針を突き刺し難く、帯板部の縫着を安定して行うことができないという問題もある。その上、例えばシートカバーをシートパッドに被覆する作業のときに、作業者がシートカバーの位置合わせのために玉縁芯材を表皮材から引き剥がそうとしても玉縁芯材が表皮材から剥がれ難く、また、玉縁芯材を強引に引き剥がしてしまうと表皮材を傷めてしまう虞もあった。
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであって、その具体的な目的は、シートパッドの曲面に適切に沿うことが可能な柔軟性を有するとともに、シートカバー等の表皮材に取着したときに、フック片を有する係合面と表皮材の裏面とが適切な係合力で係合することが可能な玉縁芯材を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明により提供される玉縁芯材は、基本的な構成として、合成樹脂製の帯板部と同帯板部の長手方向に沿った第1端縁から外側に延設された玉部とを備え、少なくとも前記帯板部の一面に、フック片を有する係合面が設けられ、前記帯板部は、同帯板部の幅方向に形成され、前記第1端縁とは反対側の第2端縁に開口した少なくとも1つのスリットを有し、座席のシートカバー等において複数の表皮材が互いに縫着される縫着部に沿って添設される玉縁芯材であって、前記係合面は、前記表皮材に係合可能な第1係合領域と、同第1係合領域よりも強い係合力にて前記表皮材に係合可能な第2係合領域とを有し、且つ、前記帯板部から前記玉部の一面にかけて連続的に延在され、前記第1係合領域には、第1フック片が立設され、前記第2係合領域には、前記第1フック片よりもサイズが大きな第2フック片が立設されてなることを最も主要な特徴とするものである。
このような本発明の玉縁芯材において、前記第1フック片の高さが、0.4mm以上0.7mm以下に設定され、また、前記第2フック片の高さが、0.5mm以上1.7mm以下に設定されていることが好ましい。
また本発明の玉縁芯材において、前記帯板部、又は、前記帯板部及び玉部は、基部となる第1樹脂層と、同第1樹脂層の一方の面上に配され、前記係合面を構成する第2樹脂層とを有し、前記第1樹脂層は熱可塑性エラストマーからなり、前記第2樹脂層は熱可塑性樹脂からなることが好ましい。
更に本発明では、前記第2係合領域が、前記帯板部の前記第2端縁側の端部寄りに配されていること、或いは、前記帯板部の幅方向中央部に配されていることが好ましい。なお、本発明において第2係合領域の配設位置は特に限定されず、第2係合領域を例えば帯板部の第1端縁側の端部寄りに設けること、又は玉部の係合面に設けることも可能であり、更に、第2係合領域を係合面上の複数個所に設けることも可能である。
本発明に係る玉縁芯材は、合成樹脂製の帯板部と玉部とを備え、前記帯板部には、フック片を有する係合面と、帯板部の幅方向に延び、玉部が配されている第1端縁とは反対側の第2端縁に開口したスリットとが設けられている。また、帯板部の係合面には、座席のシートカバー等の表皮材に係合可能な第1係合領域と、同第1係合領域よりも強い係合力にて表皮材に係合可能な第2係合領域とが設けられている。
これにより、本発明の玉縁芯材は、適切な柔軟性を得ることができるため、例えば同玉縁芯材をシートカバーに取着し、更に同シートカバーをシートパッドに被覆する場合に、その柔軟性によりシートパッドの曲面に容易に沿わせることができる。
また、係合面の一部に係合力が強化された前記第2係合領域を設けたことにより、玉縁芯材とシートカバー表皮材との係合力を高めて表皮材に玉縁芯材を確実に固定することができる。これにより、例えば前記シートカバーの運搬時や保管時に同表皮材に浮き上がった箇所や皺が形成されることを防止できる。その結果、シートカバーの被覆作業等を容易に行うことができ、同シートカバーを被覆して得られるシート類を良好に仕上げることができる。
更に、本発明の玉縁芯材は、係合面に第2係合領域よりも係合力が弱い第1係合領域を設けたことにより、例えばシートカバーの被覆作業時にシートカバーの位置合わせのために玉縁芯材を表皮材から引き剥がす場合があっても、表皮材を傷めることなく玉縁芯材を表皮材から引き剥がすことが可能である。
このような本発明の玉縁芯材において、フック片を有する係合面は、帯板部から玉部の一面にかけて連続的に延在されている。これにより、玉縁芯材を表皮材に縫着した際に、玉縁芯材の玉部及び帯板部に表皮材を安定して係合させることができるため、表皮材の浮き上がりや皺の発生を一層効果的に防止することができる。
また本発明において、前記第1係合領域には、第1フック片が立設され、前記第2係合領域には、前記第1フック片よりもサイズが大きな第2フック片が立設されている。このように係合面にサイズが異なる2種類のフック片が設けられていれば、表皮材に係合する帯板部の係合力を確実に高め、且つ、玉縁芯材を表皮材から引き剥がす場合には、表皮材を傷めることなく玉縁芯材を引き剥がすことが可能である。
その一方、本発明の玉縁芯材と表皮材とを縫合する際には、縫製針が帯板部の第1係合領域に容易に突き刺さるため、帯板部の縫着を安定して行うことができる。更に、帯板部の係合面を表皮材裏面に係合させたときには、第2フック片が係合面の一部にしか形成されていないため、表皮材外表面の手触りに違和感が生じることを抑えることができる。なお、本発明においてフック片のサイズが大きいということとは、例えば、係合面からのフック片の立設高さが高いこと、フック片の湾曲している係合頭部の長さが長いこと、及びフック片(柱部)の太さが太いこと等を意味する。
この場合、第1フック片の高さが、0.4mm以上0.7mm以下に設定されており、第2フック片の高さが、第1フック片の高さよりも高く、且つ、0.5mm以上1.7mm以下に設定されている。即ち、第1フック片の高さが0.4mm以上であれば、第1係合領域を表皮材裏面に安定して係合させることができる。また、第1フック片の高さが0.7mm以下であれば、玉縁芯材と表皮材とを縫合する際に、縫製針を帯板部の第1係合領域に容易に突き刺すことができ、玉縁芯材と表皮材の縫合を安定して行うことができる。しかも、帯板部の係合面を表皮材裏面に係合させたときには、表皮材外表面を触っても第1フック片がゴツゴツした感じを与えることもない。
一方、第2フック片の高さが0.5mm以上であれば、帯板部にスリットが形成されていても、帯板部を安定して係合させることができる。
また、第2フック片の高さが1.7mm以下であれば、帯板部の係合面を表皮材裏面に係合させたときに、表皮材外表面の手触りに違和感が生じることを一層効果的に抑えることができる。
更に本発明において、帯板部、又は、帯板部及び玉部が、基部となる熱可塑性エラストマー製の第1樹脂層と、同第1樹脂層の一方の面上に配され、係合面を構成する熱可塑性樹脂製の第2樹脂層とを有している。これにより、玉縁芯材の柔軟性をより向上させると同時に、フック片が設けられている係合面の硬度を高く設定することができるため、表皮材との係合力を容易に高めることができる。
更にまた、本発明における前記第2係合領域は、帯板部の第2端縁側の端部寄りに配されている。例えば玉縁芯材をシートカバーに取着して、玉縁芯材の係合面を表皮材に係合させた場合、一般に帯板部と表皮材とは帯板部の第2端縁側から剥がれ易くなるが、本発明のように第2係合領域が帯板部の第2端縁側の端部寄りに配されていれば、帯板部の第2端縁側の端部が表皮材と強く係合するため、帯板部を表皮材から剥がれ難くすることができる。
また本発明では、前記第2係合領域が帯板部の幅方向中央部に配されていても、帯板部と表皮材との係合を強化して、帯板部を表皮材から剥がれ難くすることができる。
なお、本発明において、第2係合領域は、係合面内に第1係合領域よりも小さい範囲(面積)で形成することが好ましい。このように第2係合領域の範囲を第1係合領域よりも小さくすることにより、例えば玉縁芯材と表皮材とを縫合する際に、縫製針が容易に突き刺さる範囲を広く確保することができ、また、玉縁芯材の係合面と表皮材の裏面とを引き剥がす際には、その引き剥がし作業を容易に行うことができる。
図1〜図4は、本発明の実施例1に係る玉縁芯材を示している。ここで、図1は、同玉縁芯材の部分斜視図であり、図2は、同玉縁芯材の正面図である。また、図3は、同玉縁芯材に形成した第1フック部を示した図であり、図4は、同玉縁芯材に形成した第2フック部を示した図である。なお、図1や図2などにおいては、玉縁芯材の構成を判り易く図示するために、係合面に立設されているフック部の一部を省略して描かれている。
本実施例1の玉縁芯材1は、断面が矩形状の細長い帯板部2と、同帯板部2の長手方向に沿った一方の第1端縁6aから外側に延設された玉部3とを備えており、帯板部2及び玉部3の一面には、複数のフック部5を有する係合面4が設けられている。この玉縁芯材1は、押出成形等により成形された基部となる熱可塑性エラストマー製の第1樹脂層11と、同第1樹脂層11上に二色成形により成形一体化された熱可塑性樹脂製の第2樹脂層12とを有しており、係合面4に設けられた複数のフック部5は、第2樹脂層12を構成する熱可塑性樹脂により形成されている。即ち、本実施例1の玉縁芯材1における帯板部2と玉部3とは、第1及び第2樹脂層11,12の2つの樹脂層により形成されている。
本実施例1では、第1樹脂層11にポリオレフィン系の熱可塑性エラストマーが使用されており、第2樹脂層12にポリプロピレンが使用される。なお本発明において、第1樹脂層11を構成する熱可塑性エラストマーとしては、ポリオレフィン系に限らず、第2樹脂層12との親和性をも考慮して、スチレン−ブタジエン系、ポリエステル系、ポリ塩化ビニル系、ポリアミド系、ウレタン系の各種エラストマー樹脂を採用することが可能である。
玉縁芯材1において、前記帯板部2には、玉部3が配されている第1端縁6aとは反対側の第2端縁6bに開口した複数のスリット7が、帯板部2の幅方向(帯板部2の長手方向に対して垂直方向)に沿って形成されている。このように複数のスリット7を形成することにより、図2に示したように、玉縁芯材1を上下方向や左右方向に湾曲させ易く構成することができる。なお、帯板部2のスリット7は、例えば二色成形により帯板部2及び玉部3に複数のフック部5を形成した後に、パンチ等によって帯板部2を打ち抜くことによって容易に形成される。
また、スリット7は、帯板部2の幅方向に沿って形成されているため、帯板部2の第2端縁6b側の係合面領域が上面側から見たときに矩形状に形成されている。これにより、スリット7が形成されていても第2端縁6b側における係合面4の面積を十分に確保できるため、後述する第2表皮材35を係合面4に係合した際に、同第2表皮材35が剥がれ難く、その係合状態を安定して維持することが可能な帯板部2を構成することができる。しかし、本発明においてスリット7や係合面4の形状は特に限定されるものではなく、例えば前記特許文献2のように帯板部2の第2端縁6bに山形状にスリット(切欠き)を設けて、同第2端縁6bをジグザグ状に形成することも可能である。
前記玉部3は、断面が略半円形状を有している。また、玉部3に形成された平面は、帯板部2の一面に連続するように配されており、これらの連続的に延在する帯板部2の一面と玉部3の平面とにより、玉縁芯材1の係合面4が形成されている。この係合面4には、互いに係合力が異なる第1係合領域4aと第2係合領域4bとが形成されており、特に本実施例1では、第2係合領域4bが帯板部2の第2端縁6b側の端部に配されている。
本実施例1において、係合面4の第1係合領域4aには、比較的小さなサイズの複数の第1フック部5aが所定の間隔で整列して立設されている。各第1フック部5aは、図3に示したように、玉縁芯材1の長さ方向の前後に対称的に形成された一対の第1フック片21と、その一対の第1フック片21の左右両脇に密接して立設された山形状の第1リブ22とを備えている。本実施例1において、各第1フック片21は、係合面4から立ち上がるように形成された柱部23と、柱部23の上端から湾曲して連続的に形成された係合頭部24を有しており、側面視にて鉤状に形成されている。
また、各第1フック片21において、係合面4から係合頭部24の頂部までの立設高さは、0.4mm以上0.7mm以下、特に0.5mm以上0.6mm以下に設定されている。これにより、本実施例1の玉縁芯材1を用いて後述するようにシートカバー33を形成した際に、第1係合領域4aをシートカバー33の表皮材35の裏面に安定して係合させることができるとともに、同表皮材35を外表面から触った際に第1係合領域4a内でゴツゴツした感じを与えることがない。
一方、係合面4の第2係合領域4bには、第1フック部5aよりもサイズが大きな第2フック部5bが設けられている。各第2フック部5bは、図4に示したように、係合面4から立ち上がる柱部26、及び柱部26の上端から二股に分岐して玉縁芯材1の前後方向に湾曲した係合頭部27を有するアロータイプの第2フック片25と、その第2フック片25の左右両脇に密接して立設された第2リブ28とを備えている。なお、第2フック片25としてアロータイプのフック片を採用することにより、第2フック片25自体の強度をより高めることができる。
この場合、各第2フック片25において、係合面4から係合頭部24の頂部までの立設高さは、0.5mm以上1.7mm以下、特に0.8mm以上1.4mm以下に設定されている。これにより、本実施例1の玉縁芯材1を用いてシートカバー33を形成した際に、上述のように帯板部2に複数のスリット7が形成されていても、帯板部2を表皮材35の裏面に安定して係合させることができ、また、同表皮材35を外表面から触った際にゴツゴツした違和感が生じることを抑えることができる。
更に本実施例1では、各第2フック片25の柱部26における太さが、一対の第1フック片21の柱部23の太さよりも太く形成されている。このよう第2フック片25が第1フック片21よりも高く且つ太く形成されていることにより、第2係合領域4b内における第2フック部5bの形成密度が、第1係合領域4a内における第1フック部5aの形成密度よりも低い場合でも、第2係合領域4bとシートカバー33の表皮材35とが係合する係合力を、第1係合領域4aよりも強くすることができる。
以上のような構成を有する本実施例1の玉縁芯材1は、例えば図5に示すように、シート類31のシートパッド32を被覆するシートカバー33において、同シートカバー33の第1及び第2表皮材34,35同士が縫着される縫着部に沿って添設される。この場合、前記第1及び第2表皮材34,35は、図6に示すように、例えば繊維織編物、天然皮革、合成皮革などの表皮層41と、薄い軟質のウレタンフォームの中間層42と、細いナイロン系糸条を使った粗目で薄い経編物からなる裏面基布43とを有し、それらをラミネート加工などによって積層一体化して形成されている。
また、本実施例1にあっては、第1及び第2表皮材34,35の裏面基布43の一面には多数のパイルが積極的に形成され、玉縁芯材1の第1及び第2フック片21,25との係合力を高めている。このときのパイル糸は多数の細いフィラメントから構成されている。なお、第1及び第2表皮材34,35は、互いに同一材質及び構造であっても、異なる材質及び構造であってもよい。勿論、裏面基布43としては経編布に限定されず、織布であってもよい。
このような第1及び第2表皮材34,35に本実施例1の玉縁芯材1を縫着してシートカバー33を作製する場合、従来と同様の方法を用いることができる。具体的には、先ず、第1及び第2表皮材34,35をその表面側が向かい合うように互いに重合させ、その重合された第1及び第2表皮材34,35の側縁部に沿って、玉縁芯材1を第2表皮材35の裏面側から添設する。
このとき、第1及び第2表皮材34,35の重合させた側縁部は、シート類31の形状に沿うように湾曲しているが、本実施例1の玉縁芯材1は、上述のように帯板部2に複数のスリット7が設けられているため、第1及び第2表皮材34,35の湾曲した側縁部に適切に沿わせて容易に添設することができる。
次に、玉縁芯材1と第1及び第2表皮材35の重合部とを、帯板部2の玉部側との境界付近でミシン糸により縫合する。このとき、玉縁芯材1の第1係合領域4aに設けられる第1フック部5aのサイズが小さいため、縫製針を第1係合領域4aの第1縫合線37上に容易に突き刺すことができる。これにより、玉縁芯材1の第1係合領域4aと第1及び第2表皮材35とが第1縫合線37によって縫着される。
続いて、第1表皮材34と第2表皮材35とをミシン糸により玉縁芯材1の玉部先端付近の第2縫合線38に沿って縫合し、その後、第2縫合線38を基点に第2表皮材35を折り返し、同第2表皮材35の側縁部に沿って縫着された玉縁芯材1の第1及び第2フック部5a,5bを第2表皮材35の折り返し部内面(裏面)のパイル面に係着させる。これにより、シートカバー33が作製される。
このようにして得られたシートカバー33は、帯板部2のフック部5を有する係合面4が熱可塑性樹脂製の第2樹脂層12で形成されており、且つ、同帯板部2のスリット7により分割された第2端縁6b側の各端部寄りに、係合力の強い第2係合領域4bが配されているため、玉縁芯材1の帯板部2に複数のスリット7が設けられていても、玉縁芯材1の係合面4を第2表皮材35に強力に係合させることができる。
しかも、第2係合領域4bを除く係合面4(即ち、第1係合領域4a)には、第1フック部5aが密に配されている。このため、表皮材32を玉縁芯材1の玉部3及び帯板部2に沿って係合させることができるため、シートカバー33を作製したときに同シートカバー33の体裁を良くすることができる。更に、同シートカバー33に対して、その後、従来と同様に運搬や保管等の作業が行われたときには、帯板部2と第2表皮材35とが第1及び第2係合領域4a,4bの係合力により剥がれ難くなり、玉縁芯材1と第2表皮材35との係合状態を安定して維持することができる。
これにより、シートカバー33の運搬時や保管時にも、表皮材32に浮き上がった箇所や皺が形成されることを防止できる。このため、その後に前記シートカバー33をシートパッド32に被覆する際に、従来行われているような帯板部2と第2表皮材35とを再係合させるという作業を省略し、シートパッド32の被覆作業を手早く容易に行うことが可能となる。
また、このシートカバー33の被覆作業時に作業者がシートカバー33の位置合わせのために玉縁芯材1を表皮材32から剥がす場合があっても、係合面4に係合力が弱い第1係合領域4aが配されていることから、例えば表皮材32の裏面基布43が中間層42から剥がれて表皮材32を傷めるという不具合を発生させることなく、玉縁芯材1を表皮材32から引き剥がすことが可能である。
更に、本実施例1の玉縁芯材1は、基部となる第1樹脂層11が熱可塑性エラストマーにより形成されているとともに、帯板部2に複数のスリット7が設けられているため、柔軟性に優れている。従って、シートカバー33をシートパッド32に被覆する際に、図7に示すように、玉縁芯材1が縫着されているシートカバー33の縫着部をシートパッド32の曲面や曲線状の稜線部に適切に沿わせて、外観品質に優れた高級感のあるシート類31を安定して仕上げることができる。
また、このようにして得られたシート類31は、例えば同シート類31に着座したユーザーが、玉縁芯材1が配されている部位を表皮材32外表面側から触ったとしても、大きなサイズの第2フック片25が帯板部2の第2端縁6b側の端部にしか配されていないため、表皮材32外表面の手触りに違和感が生じることを抑えることができる。
更にこの場合、本実施例1の玉縁芯材1は、シート類31に着座すること等によりシート類31に多様な方向から引張り力が加えられても、玉縁芯材1と第1及び第2表皮材34,35との剥離を防止して、シート類31の外観品質を安定して維持することができる。
なお、実施例1の変形例として、例えば図8に示したように、玉縁芯材1’の帯板部2’の第2端縁側に、フック部5が設けられていない非係合面9を形成し、その非係合面9が形成されている部位を、例えば玉縁芯材1’をシートカバー33の第2表皮材35から引き剥がすときの持ち手として利用することが可能である。
この場合、係合力が強い第2係合領域4bは、非係合面9に沿うように設けられている。このように第2係合領域4bを設けることによっても、玉縁芯材1’のスリット7が形成された帯板部2’と第2表皮材35とを強く係合し、その係合状態を安定して維持することができる。
更に、この変形例における玉縁芯材1’は、玉部3’の係合面側の角部に面取り加工が施されて、面取り部10が形成されている。このような面取り部10が形成された玉部3’では、玉部3’側の第2樹脂層12の一部が排除されて第1樹脂層11が上面側に露出している。この面取り部10が形成されていることにより、同玉縁芯材1’を用いてシートカバーを形成した際に、同玉縁芯材1’によって折り返される表皮材35の折り返し部分の外表面を滑らかに、且つ柔軟に形成して体裁良く仕上げることができる。
次に、本発明の実施例2に係る玉縁芯材について説明する。ここで、図9は、本実施例2の玉縁芯材が表皮材に縫着された状態を示す断面図である。なお、本実施例2において、前記実施例1と同様の構成を有する部材については同じ符号を用いて表しており、それによって、その説明を省略することとする。
図9に示した本実施例2の玉縁芯材51は、幅方向に複数のスリット7が形成された帯板部52と、同帯板部52の長手方向に沿って配される玉部53とを備えており、帯板部52の一面及び玉部53の平面には、複数のフック部5を有する係合面4が設けられている。また、玉部53の係合面側の角部には面取り加工が施されて、面取り部10が形成されている。
この玉縁芯材51は、前記実施例1と同様に、基部となる熱可塑性エラストマー製の第1樹脂層11と、同第1樹脂層11上に成形一体化された熱可塑性樹脂製の第2樹脂層12とを有しており、係合面4に設けられた複数のフック部5は、第2樹脂層12を構成する熱可塑性樹脂により形成されている。
本実施例2において、帯板部52及び玉部53に形成された係合面4には、互いに係合力が異なる第1フック部5aを有する第1係合領域4aと第2フック部5bを有する第2係合領域4bとが配されている。特に本実施例2では、第2係合領域4bが帯板部52の幅方向中央部に配されており、この第2係合領域4bの左右両側に第1係合領域4aが形成されている。
このように第2係合領域4bを帯板部52の幅方向中央部に設けることにより、本実施例2の玉縁芯材51を第1及び第2表皮材34,35に縫着してシートカバー33を作製する際に、玉縁芯材51と第1及び第2表皮材34,35とを縫合する第1縫合線37を、図9に示したように、帯板部52の第2端縁側の端部及び第1及び第2表皮材の側縁部の位置に設けることが可能となる。
即ち、第1縫合線37を例えば大きなサイズの第2フック部5bを有する第2係合領域4b内に配する場合には縫製針を帯板部52に突き刺し難くなるが、本実施例2のように第1縫合線37を、サイズが小さい第1フック部5aを有する第1係合領域4a内に配することにより、縫製針を帯板部52に容易に突き刺すことができ、玉縁芯材51と第1及び第2表皮材34,35との縫合を安定して行うことができる。このように第1縫合線37の位置を変化させることが可能となることにより、シートカバー33のバリエーションを増やすことができる。
ここで、実施例1及び実施例2に示すように、第2フック部5bは、帯板部のみに形成されていることが好ましい。このような形態を採用して第2フック部5bを玉部(第2表皮材の折り返し部)から離し、且つ柔軟性を有する薄肉の帯板部上に形成しているため、例えば玉縁芯材に第2表皮材の裏面を係合させて第2表皮材外表面側から触っても、ゴツゴツした感じを抑えることができる。
そして、このような本実施例2の玉縁芯材51を用いてシートカバー33を構成することによっても、第2表皮材35を玉縁芯材51の玉部53及び帯板部52に確実に係合させることができる。しかも、玉縁芯材51と第2表皮材35との係合力が第2係合領域4bによって高められているため、それらの係合状態を安定して維持することができる。
これにより、シートカバー33の運搬時や保管時にも、第2表皮材35に浮き上がった箇所や皺が形成されることを防止できるため、その後のシートカバー33の被覆作業を手早く容易に行うことが可能となる。更に、シートカバー33の被覆作業時に、柔軟性に優れた玉縁芯材51をシートパッドの曲面や曲線状の稜線部に適切に沿わせることができるため、外観品質に優れた高級感のあるシート類を安定して製造することができる。