JP5053564B2 - 導電性酸化物焼結体、これを用いたサーミスタ素子、及びこれを用いた温度センサ - Google Patents

導電性酸化物焼結体、これを用いたサーミスタ素子、及びこれを用いた温度センサ Download PDF

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Description

本発明は、導電性を有し、その抵抗値が温度によって変化する導電性酸化物焼結体、これを用いたサーミスタ素子、さらには、これを用いた温度センサに関する。
従来より、導電性を有し、その抵抗値(比抵抗)が温度によって変化する導電性酸化物焼結体、これを用いて温度測定を行うサーミスタ素子、さらには、このサーミスタ素子を用いた温度センサが知られている(特許文献1,2,3)。
このうち、特許文献1には、300℃から1000℃の範囲にわたって温度検知ができるサーミスタ素子として、Sr,Y,Mn,Al,Fe及びOを含有し、ペロブスカイト型酸化物及びガーネット型酸化物の各結晶相を含有し、Sr−Al系酸化物及びSr−Fe系酸化物の少なくとも一方の結晶相を含有するサーミスタ素子用焼結体が開示されている。
さらに、特許文献2には、室温から1000℃の範囲にわたって適切な比抵抗値を有する導電性酸化物焼結体として、M1aM2bM3cM4d3で表され、a,b,c,dが所定の条件式を満足する導電性酸化物焼結体が開示されている。
さらに、特許文献3においては、(MM’)O3で表される複合ペロブスカイト酸化物と、AOxで表される金属酸化物との混合焼結体(MM’)O3・AOxからなるサーミスタ素子が開示されている。
特開2004−221519号公報 特開2003−183075号公報 特開2001−143907号公報
ところで、サーミスタ素子、温度センサの用途として、自動車エンジンなどの内燃機関からの排ガス温度測定がある。これらの用途では、近年、DPFやNOx還元触媒の保護等のため、サーミスタ素子に対し、900℃付近の高温域における温度検知が要求される。
その一方、OBDシステム(On-Board Diagnostic systems)などにおける温度センサの故障(断線)検知のため、エンジンの始動時やキーオン時など低温下でもその温度を検知可能とすることが望まれている。この場合、特に寒冷地では、始動時の温度が氷点下となる場合もあるため、−40℃でも測温可能なサーミスタ素子が望まれている。
しかしながら、前述の特許文献1,2には、常温あるいは300℃以上から1000℃の範囲で測温可能とするサーミスタ素子あるいは焼結体が開示されており、この温度範囲で、適切な抵抗変化をするように、温度勾配定数(B定数)を4000K程度あるいはそれ以上としている(例えば特許文献2の表4参照)。
このため、これらの焼結体を用いたサーミスタ素子あるいはサーミスタ素子では、温度勾配定数(B定数)が大きく、−40℃の低温下では、サーミスタ素子の抵抗値が高くなりすぎて、その抵抗値測定が困難となるために温度計測が困難となる。
一方、特許文献3には、例えばその表1に示されているものでは、室温から1000℃の温度範囲において、抵抗値が110Ω〜100kΩの範囲にあり、この範囲での抵抗温度係数βが2200〜2480Kと望ましい範囲にあることが開示されている。なお、算出式からみて、βは本件におけるB定数と同様の算出式を用いて算出したものである。
しかし、この特許文献3に記載のサーミスタ素子では、複合ペロブスカイト酸化物(MM’)O3を構成する金属元素MあるいはM’と、金属酸化物AOxを構成する金属元素Aとの関係についての考察はなされていない。このため、金属元素MあるいはM’と金属元素Aとの組み合わせや配合比によっては、複合ペロブスカイト酸化物(MM’)O3と金属酸化物AOxとが反応して、予期しない副生成物が生成されたり、金属元素Aが複合ペロブスカイト酸化物(MM’)O3中に固溶して組成変動を生じたりして、高温下での組成安定性(耐熱性)など、サーミスタ素子(導電性酸化物焼結体)の諸特性を損なう虞がある。
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、−40℃の低温下から900℃以上の高温域までの温度範囲において、適切に温度検知ができる導電性酸化物焼結体、これを用いたサーミスタ素子、及び、このサーミスタ素子を用いた温度センサを提供することを目的とする。
その解決手段は、Y,Nd,Ybから選ばれる1種またはそれ以上の元素をM1とし、Mg,Ca,Srから選ばれる1種またはそれ以上の元素をM2とし、Mn,Feから選ばれる1種またはそれ以上の元素をM3としたとき、組成式M1aM2bM3cAldCreOfで表記され、a,b,c,d,e,fが下記条件式を満たし、ペロブスカイト型結晶構造を有する導電性のペロブスカイト相と、上記ペロブスカイト相よりも導電性が低く、上記ペロブスカイト相を構成する金属元素から選択された少なくとも1種の金属元素をMeとしたとき、組成式MeOxで表記される結晶構造を有する少なくとも1種の金属酸化物相と、を含む導電性酸化物焼結体である。
0.600≦a≦1.000
0≦b≦0.400
0.150≦c<0.600
0.40≦d≦0.80
0.005≦e≦0.050
0<e/(c+e)≦0.18
2.80≦f≦3.30
本発明の導電性酸化物焼結体(以下、単に焼結体ともいう)のうち、a,b,c,d,e,fが上述の条件式を満たす導電性のペロブスカイト相は、−40℃〜+900℃の温度範囲における温度勾配定数(B定数:B(-40〜900))が、2000〜3000Kとなる。さらに、本発明の導電性酸化物焼結体には、このペロブスカイト相よりも導電性が低い(絶縁性の高い、比抵抗の大きい)金属酸化物相も含まれている。このため、導電性酸化物焼結体において金属酸化物相の占める割合を適宜変化させることで、B定数を維持しつつ、導電性酸化物焼結体全体の比抵抗の値をシフトさせることができる。従って、この導電性酸化物焼結体を用いたサーミスタ素子では、所望の形態を有しながらも、−40℃〜+900℃の温度範囲において、適切な抵抗値となるように調整することができる。かくして、この導電性酸化物焼結体を用いたサーミスタ素子では、このような広い温度範囲において、適切に温度を測定することができる。また、抵抗値計測(温度計測)のための回路構成を簡単にし、あるいは精度良好な抵抗値測定を可能とすることができる。
しかも本発明の導電性酸化物焼結体では、金属酸化物相MeOxをなす金属元素Meは、ペロブスカイト相を構成する金属元素から選択されたものである。従って、このペロブスカイト相と金属酸化物相とが共存する本発明の焼結体中に、予期しない副生成物が生成されるおそれが無く、副生成物の生成による特性の変動が生じる虞もない。
また、金属元素Meがペロブスカイト相をなす金属元素でない場合には、この金属元素Meがペロブスカイト相中に固溶することで、固溶前とは異なる元素からなるペロブスカイト相が生成される虞があるが、本発明の焼結体では、このような組成変動も生じにくく、安定した組成を維持でき、焼結体の諸特性の変動も抑制される。
なお、本発明の導電性酸化物焼結体のうち、ペロブスカイト相は、ペロブスカイト型(ABO3)の結晶構造を有しており、通常Aサイトが(M1aM2b)、Bサイトが(M3cAldCre)である(M1aM2b)(M3cAldCre)O3で示される組成となる。ただし、a,b,c,d,eは上述の条件を満たす。
このような結晶構造を有する場合、Aサイトを占める元素M1,M2はイオン半径が近接しており、元素同士で互いに容易に置換できるものであり、これらの元素からなる副生成物の生成が少なく、置換された組成で安定に存在する。同様に、Bサイトを占める元素M3,Al,Crはイオン半径が近接しており、元素同士で互いに容易に置換できるものであり、これらの元素からなる副生成物の生成が少なく、置換された組成で安定に存在する。このため、広い組成範囲で連続的に組成比を変えて、導電性酸化物焼結体の比抵抗値やその温度勾配定数(B定数)を調整することができる。
そして、この導電性酸化物焼結体では、元素M1をY,Nd,Ybから選ばれる1種またはそれ以上の元素とし、元素M2をMg,Ca,Srから選ばれる1種またはそれ以上の元素とし、元素M3をMn,Feから選ばれる1種またはそれ以上の元素としている。これらの元素を選択することにより、上記した範囲のB定数が安定して得られるものとし易い。
なお、本発明の導電性酸化物焼結体を作製する際の焼成条件(酸化、還元等の焼成雰囲気、及び焼成温度など)や、ペロブスカイト相のAサイト及びBサイトにおける元素同士の置換の量比により、酸素の過剰或いは欠損を生じることがあるので、fは3前後の値を取る。このように、上述の組成式における酸素原子と(M1aM2b)とのモル比、及び酸素原子と(M3cAldCre)とのモル比は、それぞれ正確に3:1となっていなくても、ペロブスカイト型の結晶構造が維持されていればよい。
また、金属酸化物相としては、ペロブスカイト相よりも導電率が低く、ペロブスカイト相を構成する金属元素から選択された少なくとも1種の金属元素をMeとしたときに、MeOxで表される結晶構造を有するものであればよい。具体的には、単一金属元素の酸化物、例えば、Y23,SrO,CaO,MnO2,Al23,Cr23などが挙げられる。また、複数の金属元素からなる複酸化物、例えば、Y−Al系酸化物(YAlO3,Y3Al512等)、Sr−Al系酸化物(SrAl24)なども挙げられる。さらにはこれらの酸化物が複数種類混在していても良い。
なお、導電性酸化物焼結体を構成する結晶粒子の大きさを示す平均粒径は、好ましくは7μm以下、より好ましくは0.1〜7μm、更に好ましくは0.1〜3μmである。結晶粒子の平均粒子径が大きくなりすぎると、この焼結体あるいはこれを用いたサーミスタ素子の特性の不安定化を招く傾向があるためである。
さらに、上記の導電性酸化物焼結体であって、前記a,bが下記条件式を満たす導電性酸化物焼結体とすると良い。
0.600≦a<1.000
0<b≦0.400
本発明の導電性酸化物焼結体では、0.600≦a<1.000,及び0<b≦0.400、つまり、a<1.000,b>0としている。即ち、この焼結体では、そのペロブスカイト相は、Laを除く3A族元素のうち少なくとも1種の元素M1のほか、2A族のうち少なくとも1種の元素M2を必須成分として含みつつ、a及びbが上述の条件式を満たす組成を有する。この導電性酸化物焼結体(あるいはこれを用いたサーミスタ素子)では、ペロブスカイト相に、元素M2を含まない(b=0)のものに比して、これを多数製造する場合にも、各々の導電性酸化物焼結体(サーミスタ素子)の個体間の特性バラツキ、焼成ロット間の特性バラツキを小さくすることができる利点がある。
さらに、上記導電性酸化物焼結体であって、a,b,c,d,e,fが下記の条件式を満たす導電性酸化物焼結体とするのが好ましい。
0.820≦a≦0.950
0.050≦b≦0.180
0.181≦c≦0.585
0.410≦d≦0.790
0.005≦e≦0.050
0<e/(c+e)≦0.18
2.91≦f≦3.27
a〜fが上述の条件式を満たす本発明の導電性酸化物焼結体では、より確実に−40℃〜900℃の温度範囲におけるB定数を2000〜3000Kの範囲内に調整することができる。
またa〜fが上述の条件式を満たすこの導電性酸化物焼結体では、a〜fをある数値に特定した導電性焼結体(これを用いたサーミスタ素子)を複数製造する場合にも、各導電性焼結体(サーミスタ素子)の個体間の特性ばらつき、焼成ロット間の特性ばらつきを一層小さくすることができる。
さらに、a,b,c,d,e,fが下記の条件式を満たす導電性酸化物焼結体とするのが好ましい。
0.850≦b≦0.940
0.060≦b≦0.150
0.181≦c≦0.545
0.450≦d≦0.780
0.005≦e≦0.050
0<e/(c+e)≦0.18
2.92≦f≦3.25
あるいは、前記いずれかに記載の導電性酸化物焼結体であって、前記元素M1がYであり、前記元素M2がSrであり、前記M3がMnである導電性酸化物焼結体とすると良い。
特にこの導電性酸化物焼結体では、元素M1をYとし、元素M2をSrとし、元素M3をMnとしている。これにより、上記した範囲のB定数が安定して得られるものとし易い。
さらに、上述の導電性酸化物焼結体であって、上記導電性酸化物焼結体の断面(断面積S)に現れた上記ペロブスカイト相の総断面積をSPとしたとき、S及びSPが下記式を満たす導電性酸化物焼結体とすると良い。
0.20≦SP/S≦0.80
焼結体にはペロブスカイト相と金属酸化物相とが含まれているので、その断面にも、ペロブスカイト相及び金属酸化物相が現れる。本発明の焼結体では、焼結体の断面(断面積S)とこれに現れたペロブスカイト相の総断面積SPとを上述の式を満たす関係とした。
具体的には、焼結体の断面積S中に占めるペロブスカイト相の総断面積SPの割合の下限を0.20(20%)とした。
金属酸化物相に対して相対的に高い導電性を示すペロブスカイト相の総断面積が20%を下回る場合には、焼結体の導電性が低下して比抵抗が上昇するため、標準的な形態のサーミスタ素子においては、このような比抵抗値を有する焼結体を使用しにくくなるからである。
また、同様に、焼結体の断面積S中に占めるペロブスカイト相の総断面積SPの割合の上限を0.80(80%)以下とした。ペロブスカイト相の総断面積が80%を超える場合には、焼結体の導電性の低下がわずかで比抵抗の上昇が少ない。このため、ペロブスカイト相よりも比抵抗が大きい金属酸化物相を加えたことによる利点が少ないからである。
なお、焼結体の断面積S中に占めるペロブスカイト相の総断面積SPの割合は、焼結体に含まれるペロブスカイト相の体積分率とも等しい値となる。
さらに、上述のいずれかに記載の導電性酸化物焼結体であって、前記金属酸化物相に複酸化物を含む導電性酸化物焼結体とすると良い。
本発明の焼結体は、金属酸化物相が複酸化物を含んでいる。複酸化物は、2種以上の金属元素からなる酸化物である。
焼結体の焼成時あるいは900℃などの高温環境下において、複酸化物をなす2つの元素のうち、一方の元素のみが、複酸化物から、ペロブスカイト相へ移動し、これに固溶することは、単元素の酸化物から、これをなす金属元素(M1あるいはM2)が、ペロブスカイト相へ移動し固溶する場合に比して、生じにくいと考えられる。従って、金属酸化物相に複酸化物を含めることにより、高温環境下でのペロブスカイト相の組成のズレを抑制し、耐熱性を高めることができると考えられる。
さらに、上述の導電性酸化物焼結体であって、前記a,bが下記条件式を満たし、
0.600≦a<1.000
0<b≦0.400
前記金属酸化物相に、前記元素M1及び元素M2からなる複酸化物を含む導電性酸化物焼結体とすると良い。
本発明の焼結体では、0.600≦a<1・000,及び0<b≦0.400、つまり、a<1・000,b>0としている。即ち、この焼結体では、そのペロブスカイト相は、3A族の元素M1のほか、2A族の元素M2を必須成分として含む組成を有する。その上、金属酸化物相が、複酸化物として、元素M1及びM2からなる複酸化物を含む。この元素M1及びM2はいずれも、ペロブスカイト相におけるAサイトに配置される元素である。
焼結体の焼成時あるいは900℃などの高温環境下において、複酸化物をなす2つの元素M1,M2のうち、一方の元素のみが、複酸化物から、ペロブスカイト相のAサイトへ移動し固溶することは、単元素の酸化物から、これをなす金属元素(M1あるいはM2)が、ペロブスカイト相のAサイトへ移動し固溶する場合に比して、生じにくいと考えられる。従って、金属酸化物相に、元素M1及びM2からなる複酸化物を含めることにより、さらに高温環境下でのペロブスカイト相の組成のズレを抑制し、耐熱性を高めることができる。
なお、このような複酸化物としては、例えば、ペロブスカイト相が、(Y,Sr)(Mn,Al,Cr)O3で表される場合において、SrY24,SrY47などが挙げられる。
さらに、上述の導電性酸化物焼結体であって、前記元素M1はYを含み、前記元素M2はSrを含み、前記金属酸化物相は、組成式SrY24で表記される複酸化物を含む導電性酸化物焼結体とすると良い。
本発明の焼結体では、金属酸化物相に、複酸化物として、SrY24を含んでいる。このようにすることで、焼結体の耐熱性、高温安定性を高めることができる。
さらに、前記請求項6に記載の導電性酸化物焼結体であって、前記金属酸化物相に、前記元素M1及びM2の少なくともいずれかと、前記元素M3,Al及びCrの少なくともいずれかとの複酸化物を含む導電性酸化物焼結体とすると良い。
本発明の焼結体は、金属酸化物相が、ペロブスカイト相のAサイトをなす元素(M1,M2)と、Bサイトをなす元素(M3,Al,Cr)とからなる複酸化物を含んでいる。このように、ペロブスカイト相のAサイト及びBサイトをなす元素からそれぞれ選択した元素からなる複酸化物を用いることにより、高温環境下でのペロブスカイト相の組成のズレをさらに抑制することができると考えられる。
なお、このような複酸化物としては、ペロブスカイト相が(Y,Sr)(Mn,Al,Cr)O3である場合において、SrAl24、YAlO3,Y3Al512などが挙げられる。
さらに、上述の導電性酸化物焼結体であって、前記元素M2は、Srを含み、前記金属酸化物相は、組成式SrAl24で表記される複酸化物を含む導電性酸化物焼結体とすると良い。
本発明の焼結体では、ペロブスカイト相にSrを含んでおり、金属酸化物相には、SrAl24を含んでいる。このようにすることで、耐熱性が向上する利点がある。
さらに、上記いずれか1項に記載の導電性酸化物焼結体を用いてなるサーミスタ素子とすると良い。
本発明のサーミスタ素子は、前述の導電性酸化物焼結体を用いているので、−40〜900℃の広い温度範囲にわたって温度測定が可能な、適切なB定数(B(-40〜900))を有し、また、この温度範囲において、50Ω〜500kΩの範囲内など適切な抵抗値となるサーミスタ素子となし得る。
さらに、上述のいずれか1項に記載の導電性酸化物焼結体と、上記導電性酸化物焼結体を被覆する耐還元性の耐還元性被膜と、を備えるサーミスタ素子とすると良い。
本発明のサーミスタ素子は、導電性酸化物焼結体とこれを被覆する耐還元性被膜とを有している。このため、サーミスタ素子が還元性雰囲気に晒された場合でも、耐還元性被膜により焼結体が保護され、この焼結体が還元されることが防止されるので、サーミスタ素子(焼結体)の示す抵抗値を維持することができる。
さらに、上記のサーミスタ素子を用いてなる温度センサとすると良い。
本発明の温度センサでは、前述の導電性酸化物焼結体を用いたサーミスタ素子を用いてなるので、−40〜900℃の広い温度範囲にわたって温度測定が可能な温度センサとなる。また、抵抗値計測(温度計測)のための回路構成を簡単にし、あるいは精度良好な抵抗値測定を可能とすることができる温度センサとなる。
本発明に係る導電性酸化物焼結体1を用いたサーミスタ素子2の実施例を、比較例と対比して説明する。
まず、実施例1〜18及び比較例1,2にかかる導電性酸化物焼結体1及びサーミスタ素子2の製造について説明する。
まず、ペロブスカイト相用の仮焼粉末を以下のようにして得る。即ち、原料粉末として、Y23,Nd23,Yb23,SrCO3,MgO,CaCO3,MnO2,Fe23,Al23,Cr23(全て純度99%以上の市販品を用いた。)を用いて、化学式(組成式)M1aM2bM3cAldCre3としたときの、元素M1,M2,M3が、表1に示す組み合わせとなり、しかも、a,b,c,d,eが、表1に示すモル数となるように、それぞれ秤量する。さらに、これらの原料粉末を湿式混合して乾燥することにより、ペロブスカイト相用の原料粉末混合物を調整した。次いで、この原料粉末混合物を大気雰囲気下1400℃で2Hr仮焼し、平均粒径1〜2μmのペロブスカイト相用の仮焼粉末を得た。
一方、実施例1〜15,17,18及び比較例1にかかる金属酸化物相用の仮焼粉末を、以下のようにして得る。即ち、原料粉末として、SrCO3,Al23(全て純度99%以上の市販品を用いた。)を用いて、化学式(組成式)SrAl24となるように、それぞれ秤量し、これらの原料粉末を湿式混合して乾燥することにより、金属酸化物相用の原料粉末混合物を調整した。次いで、この原料粉末混合物を大気雰囲気下1200℃で2Hr仮焼し、平均粒径1〜2μmの金属酸化物相用の仮焼粉末を得た。
なお、実施例17の耐還元性被膜形成のため、このSrAl24の仮焼粉末にバインダ及び分散媒を添加して混練して、ディップコーティング用のスラリーを別途、作成した。
また、実施例16にかかる金属酸化物相用の仮焼粉末を、以下のようにして得る。即ち、原料粉末として、Y23,SrCO3(全て純度99%以上の市販品を用いた。)を用いて、化学式(組成式)SrY24となるように、それぞれ秤量し、これらの原料粉末を湿式混合して乾燥することにより、金属酸化物相用の原料粉末混合物を調整した。次いで、この原料粉末混合物を大気雰囲気下1200℃で2Hr仮焼し、平均粒径1〜2μmの金属酸化物相用の仮焼粉末を得た。
ついで、ペロブスカイト相用の仮焼粉末と金属酸化物相用の仮焼粉末とを秤量し、これらの仮焼粉末を樹脂ポットと高純度Al23玉石とを用い、エタノールを分散媒として、湿式混合粉砕を行った。
次いで得られたスラリーを80℃で2Hr乾燥し、サーミスタ合成粉末を得た。その後、このサーミスタ合成粉末100重量部に対し、ポリビニルブチラールを主成分とするバインダーを20重量部添加して混合、乾燥する。さらに、250μmメッシュの篩を通して造粒し、造粒粉末を得た。
なお、使用しうるバインダーとしては、上述のポリビニルブチラールに特に限定されず、例えばポリビニルアルコール、アクリル系バインダー等が挙げられる。バインダーの配合量は上述の仮焼粉末全量に対し、通常5〜20重量部、好ましくは10〜20重量部とする。
また、バインダーと混合するにあたり、サーミスタ合成粉末の平均粒子径は2.0μm以下としておくのが好ましく、これによって均一に混合することができる。
ついで上述の造粒粉末を用いて、金型成型法にてプレス成形(プレス圧:4500kg/cm2)して、図1に示すように、Pt−Rh合金製の一対の電極線2a,2bの一端側が埋設された六角形板状(厚さ1.24mm)の未焼成成形体を得る。その後、大気中1500℃で2Hr焼成し、実施例1〜16,18のサーミスタ素子2を製造した。なお、比較例1,2に係るサーミスタ素子も、同様にして製造した。
サーミスタ素子2の各寸法は、一辺1.15mmの六角形状で、厚み1.00mm、電極線2a,2bの径φ0.3mm、電極中心間距離0.74mm(ギャップ0.44mm)、電極挿入量1.10mmである。
なお、実施例17のサーミスタ素子については、上述の未焼成成形体を前述のディップコーティング用のスラリーに浸した後、引き上げて乾燥させ、この未焼成成形体の表面に被膜を形成した。ついで、被膜付きの未焼成成形体を大気中1500℃で2Hr焼成して、図4にその構造を示すように、焼結体1と、この表面を緻密に覆う、SrAl24からなる耐還元性の耐還元性被膜1bを備える実施例17のサーミスタ素子2を製造した。
ついで、本実施例1〜18及び比較例1,2のサーミスタ素子について、以下のようにしてB定数(温度勾配定数)を測定した。即ち、まず、サーミスタ素子2を、絶対温度T(-40)=233K(=-40℃)の環境下に放置し、その状態でのサーミスタ素子2の初期抵抗値Rs(-40)を測定した。ついで、サーミスタ素子2を、絶対温度T(900)=1173K(=900℃)の環境下に放置し、その状態でのサーミスタ素子2の初期抵抗値Rs(900)を測定した。そして、B定数:B(-40〜900)を、以下の式(1)に従って算出した。
B(-40〜900)=ln[Rs(900)/Rs(-40)]/[1/T(900)−1/T(-40)] …(1)
なお、Rs(-40):−40℃におけるサーミスタ素子の初期抵抗値(kΩ)、Rs(900):900℃におけるサーミスタ素子の初期抵抗値(kΩ)である。
さらに、実施例1,2,3,6,17に係るサーミスタ素子2について、後述するようにして温度センサ100に組み込み、この温度センサ100の状態でのサーミスタ素子2の初期抵抗値Rt(-40)及びRt(900)を測定した。ついで、大気中で1050℃×50Hr保持し、その後、上述と同様にして、−40℃及び900℃における温度センサ100の状態におけるサーミスタ素子2の熱処理後抵抗値Rt'(-40)、Rt'(900)をそれぞれ測定した。その上で、−40℃における初期抵抗値Rt(-40)と熱処理後抵抗値Rt'(-40)との比較から、熱処理による抵抗変化の温度変化換算値CT(-40)(単位:deg)を、下記式(2)により算出した。900℃における初期抵抗値Rt(900)と熱処理後抵抗値Rt'(900)との比較からも、同様の式(3)により温度変化換算値CT(900)を算出した。その上で、温度変化換算値CT(-40)とCT(900)のうち大きい方を、温度変化換算値CT(deg)として表1に示した。
CT(-40)=[(B(-40〜900)×T(-40))/[ln(Rt'(-40)/Rt(-40))×T(-40)+B(-40〜900)]]−T(-40) …(2)
CT(900)=[(B(-40〜900)×T(900))/[ln(Rt'(900)/Rt(900))×T(900)+B(-40〜900)]]−T(900) …(3)
なお、温度センサ100のうち、金属チューブ3の内周面及びシース部材8を構成する金属製の外筒には、予め酸化皮膜が形成されている。これにより、この温度センサ100のサーミスタ素子2近傍を高温とした場合でも、金属チューブ3やシース部材8の外筒の酸化が抑制され、この金属チューブ3内の雰囲気が還元雰囲気となることが防止されている。従って、サーミスタ素子2が還元されて、その抵抗値が変化することが防止されている。
さらに、各実施例及び比較例に係るサーミスタ素子2(単体)について、大気中で繰り返し温度変化を与えた場合の抵抗変化を評価した。具体的には、室温(25℃)から−40℃まで、-80deg/Hrの降温速度で冷却し、−40℃環境下に2.5Hr放置後、サーミスタ素子の抵抗値R1(-40)を測定する。その後、900℃まで+300deg/Hrの昇温速度で昇温させ、900℃環境下に2Hr保持し、抵抗値R1(900)を測定する。ついで再び、−40℃まで-80deg/Hrの降温速度で冷却し、−40℃環境下に2.5Hr保持し、サーミスタ素子の抵抗値R2(-40)を測定する。その後さらに、900℃まで+300deg/Hrの昇温速度で昇温させ、900℃環境下に2Hr保持し、抵抗値R2(900)を測定する。
その上で、−40℃における抵抗値R1(-40)と抵抗値R2(-40)との比較から、繰り返し温度変化による抵抗変化の温度変化換算値DT(-40)(単位:deg)を、下記式(4)により算出した。また、900℃における抵抗値R1(900)と抵抗値R2(900)との比較からも、同様の式(5)により温度変化換算値DT(900)を算出した。その上で、温度変化換算値DT(-40)とDT(900)のうち大きい方を、温度変化換算値DT(deg)として表1に示した。
DT(-40)=[(B(-40〜900)×T(-40))/[ln(R2(-40)/R1(-40))×T(-40)+B(-40〜900)]]−T
(-40) …(4)
DT(900)=[(B(-40〜900)×T(900))/[ln(R2(900)/R1(900))×T(900)+B(-40〜900)]]−T
(900) …(5)
これらの結果を、表1に示す。
また、以下のようにして、焼結体1の断面組織写真を撮影し、面積分率SP/Sを算出した。
まず、焼結体1を樹脂に埋め込み、3μmのダイヤペーストを用いたバフ研磨処理を行って断面を研磨した試料を作成した。その後、走査型電子顕微鏡(JEOL社製 商品名:JSM-6460LA)により、断面を倍率3000倍で写真撮影する。図3に実施例6に係る焼結体1の断面写真を示す。なお、EDSによる組成分析から白色部分がペロブスカイト相、暗灰色の部分が金属酸化物相(具体的には、SrAl24)である。また、黒色部分は気孔である。撮影した組織写真のうち、40μm×30μmの視野を画像解析装置にて解析し、視野(断面積S)に対するペロブスカイト相の相面積SPの占める割合(面積分率)SP/Sを求めた。
なお、複合相からなる焼結体において、任意の断面において、特定の相が占める面積分率は、当該特定相が焼結体内で占める体積分率に等しくなる。つまり、この面積分率SP/Sは、焼結体1に占めるペロブスカイト相の体積分率とも等しい。さらに、図3を参照すると判るように、本実施例の焼結体1は、ペロブスカイト相と金属酸化物相の2相からなっているので、気孔分を除けば、面積分率SP/Sは、ほぼ、ペロブスカイト相と金属酸化物相との面積割合や体積割合を示すことになる。
まず、実施例1〜7,18について説明する。この表1によれば、M1=Y,M2=Sr,M3=Mnである。組成式YaSrbMncAldCrefの値a,b,c,d,e,fが、下記の条件式を満たす導電性のペロブスカイト相と、このペロブスカイト相よりも導電性の低い金属酸化物相(本実施例では、SrAl24)とからなる、実施例1〜7,18の導電性酸化物焼結体1を用いたサーミスタ素子2では、B定数:B(-40〜900)が、B(-40〜900)=2000〜3000Kという、従来に比して相対的に低い値の導電性酸化物焼結体1(サーミスタ素子2)となる。
0.600≦a≦1.000
0≦b≦0.400
0.150≦c<0.600
0.400≦d≦0.800
0<e≦0.050
0<e/(c+e)≦0.18
2.80≦f≦3.30
なお、値fについては、表1に記載していないが、蛍光X線分析を用いたY,Sr,Mn,Al,Cr,Oの各元素の組成比と、前述の方法で算出した面積分率、または、粉末X線回折分析により同定した結晶相の存否及び存在比から、f=2.80〜3.30の範囲内であることを確認している。本実施例では具体的には、ペロブスカイト相と金属酸化物相(SrAl24)の存在比とを特定し、各金属元素の量をペロブスカイト相と金属酸化物相に振り分ける。ついで、金属酸化物相(SrAl24)に含まれるOの数が4であると定めた上で(つまり、SrAl24については、酸素の欠損はないとして)、金属酸化物相に用いられているOの量を算出することで、ペロブスカイト相におけるOの数fを算出する。
しかも、焼結体1には、ペロブスカイト相の他に、ペロブスカイト相よりも導電性の低い金属酸化物相(SrAl24)も混在しているので、ペロブスカイト相のみからなる焼結体(例えば、比較例2)に比して、B定数を維持しつつ初期抵抗値Rs(-40),Rs(900)など、サーミスタ素子2が示す抵抗値を増加させることができており、ペロブスカイト相と金属酸化物相の量比によって、抵抗値を適宜の値に調整することができる。
具体的に説明する。金属酸化物相(SrAl24)の存在しない比較例2の焼結体では、B定数(B(-40〜900)=2553K)は適切であるが、本実施例の形態のサーミスタ素子2とした場合には、焼結体が相対的に導電性の高いペロブスカイト相のみで構成されることになるので、初期抵抗値Rs(-40)=39kΩ、Rs(900)=0.006kΩ(=6Ω)となり、サーミスタ素子2の示す抵抗値が低く、抵抗値測定が困難となりがちである。
これに対し、ペロブスカイト相の組成(a〜eの値)は比較例2と同じであるが、相対的に導電性の低い金属酸化物相を生成させ、ペロブスカイト相の面積分率を30〜40%程度とした実施例1,2,3の焼結体1においては、金属酸化物相を増やした分(従って、ペロブスカイト相が減った分)、比較例2のものより抵抗値が高くできる。例えば、実施例1の焼結体1では、初期抵抗値Rs(-40)=423kΩ、Rs(900)=0.088kΩとなり、抵抗値測定が容易な抵抗値に設定できることが判る。
なお、さらに導電性の低い多量の金属酸化物相を生成させ、ペロブスカイト相の面積分率を16%程度とした実施例7では、さらに抵抗値が高くなる。具体的には、初期抵抗値Rs(-40)=41400kΩ、Rs(900)=5.92kΩとなる。このことから、焼結体1において金属酸化物相の占める割合の多寡、従って、ペロブスカイト相の面積分率を適宜調整することで、比抵抗の値をシフトさせ、サーミスタ素子2の抵抗値を抵抗値測定が容易な抵抗値に設定できることが判る。
その一方、実施例1,2,3及び実施例7の焼結体1においても、B定数は2500K前後の値となっており、比較例2のB定数とほぼ同じである。つまり、金属酸化物相を生成させても、B定数は変動しないことが判る。
また表1によれば、元素M1にYを用いた実施例1〜7,18に対し、元素M1としてNdを使用した実施例8,9、及び、元素M1としてY及びYbを用いた実施例10,11も、同様に、B定数が、B(-40〜900)=2000〜3000Kという、従来に比して相対的に低い値の導電性酸化物焼結体1(サーミスタ素子2)とすることができることが判る。さらに、これらについても実施例1〜7,18と同様、ペロブスカイト相と金属酸化物相(本例ではSrAl24)との量比を変化させることで、サーミスタ素子2の抵抗値を適宜の値に調整することができている。
さらに表1によれば、元素M2にSrを用いた実施例1〜7に対し、元素M2としてSr及びMgを、あるいは、Sr及びCaを用いた実施例12,13,14も、同様に、B定数を、B(-40〜900)=2000〜3000Kという、従来に比して相対的に低い値の導電性酸化物焼結体1(サーミスタ素子2)とすることができることが判る。さらに、これらについても実施例1〜7と同様、ペロブスカイト相と金属酸化物相(本例ではSrAl24)との量比を変化させることで、サーミスタ素子2の抵抗値を適宜の値に調整することができている。
また、元素M3にMnを用いた実施例1〜7に対し、元素M3としてFeを用いた実施例15についても、同様である。
さらに、金属酸化物相としてSrAl24を用いた実施例1〜7に対して、SrY24を用いた実施例16でも、同様に、ペロブスカイト相と金属酸化物相(本例ではSrY24)との量比を変化させることで、サーミスタ素子2の抵抗値を適宜の値にすることができている。
また、実施例18では、Srを含まない(b=0)としたペロブスカイト相を有する導電性酸化物焼結体1(サーミスタ素子2)を示したが、Yのほか、Srを含む導電性酸化物焼結体1(サーミスタ素子2)を用いるのが好ましい。
即ち、実施例1〜17に示すように、a<1.000,b>0とするのが好ましい。Sr等(2A族の元素M2)を含まない(b=0)ペロブスカイト相を有する実施例18にかかる焼結体1では、この焼結体1(サーミスタ素子2)を多数製造すると、各個体間の特性バラツキや焼成ロット間の特性ばらつきが大きくなり易い傾向がある。これに比して、Y等(3A族の元素M1)のほかにSr等(2A族の元素M2)を含む、例えば実施例1〜17の焼結体1では、相対的に、個体間の特性バラツキや焼成ロット間の特性ばらつきが小さくできる。
またさらに、耐還元性被膜1bを有する実施例17に係るサーミスタ素子2でも、実施例1〜7と同様、同様に適切な範囲のB定数及び抵抗値を有するサーミスタ素子2とすることができる。さらにこの実施例17に係るサーミスタ素子2では、耐還元性被膜1bを有する。このため、例えば、後述する温度センサ100にこの実施例17に係るサーミスタ素子2を組み付けた場合、金属チューブ3やシース部材8の外筒に形成した酸化皮膜の一部が何等かの原因で破損したり、酸化皮膜に欠損があるために、金属チューブ3やシース部材8の外筒が酸化することにより、サーミスタ素子2の周囲が還元性雰囲気となった場合でも、内部の焼結体1が還元されることが防止されるので、さらに抵抗値を安定して維持することができる。
なお、比較例1の焼結体は、d=0、即ち、ペロブスカイト相にAlを含んでいないものとした。この比較例1に係る焼結体(サーミスタ素子)は、B定数は適当な値となる(B(-40〜900)=2137K)が、多量の金属酸化物相を生成させ、ペロブスカイト相の面積分率を17%程度としているにも拘わらず、初期抵抗値Rs(-40)=14kΩ、Rs(900)=0.009kΩとなる。ペロブスカイト相の導電性が高く(比抵抗が低く)、多量の金属酸化物相の存在によっても、サーミスタ素子の抵抗値が十分に高くできないためである。このように、a〜fが前述の条件式の範囲を外れているペロブスカイト相を有する焼結体においては、比抵抗(従ってサーミスタ素子の抵抗値)やB定数が適切でなくなる。
かくして、本実施例の各組成を有する導電性酸化物焼結体1を用いたサーミスタ素子2は、−40℃の低温下から900℃の高温までの広い範囲にわたって抵抗測定を行うのに適する、2000〜3000KのB定数を有するものとすることができる。さらに、このサーミスタ素子2は、その形状、電極線の間隔等に応じて、焼結体1における金属酸化物相の多寡、つまりペロブスカイト相の面積分率を適宜調整することで、抵抗値の大きさを調整することができ、−40℃の低温下から900℃の高温までの広い範囲にわたって適切な抵抗値となるものにできる。これにより、本実施例のサーミスタ素子2によれば、−40℃の低温下から900℃の高温までの広い範囲にわたって適切に温度測定が可能となる。
なお、B定数の範囲は、好ましくは、B(-40〜900)=2000〜2900Kとなるようにすると良く、さらに好ましくは、B(-40〜900)=2000〜2800Kとなるようにすると良い。
さらに、表1において、実施例1,2,3,6,17の欄に示す導電性酸化物焼結体1を用いたサーミスタ素子2を組み付けた温度センサ100では、温度変化換算値CT(deg)が±10deg以内の良好な値となった。当該焼結体1(サーミスタ素子2、温度センサ100)が熱履歴に対する抵抗変化が少ない特性を有するものであるか否かを判断する目安が、温度変化換算値CTが±10degであると考えられる。各実施例の焼結体1(サーミスタ素子2)は、この目安の範囲に含まれているからである。特に、実施例2,3,6,17の焼結体1(サーミスタ素子2、温度センサ100)においては、CTが±3deg以内の値となり、特に良好な温度特性の高温耐久性を示し、熱履歴に対する抵抗変化が小さい焼結体(サーミスタ素子)となることが判る。
なお、他の実施例4,5,7〜16,18の焼結体については、温度変化換算値CTの測定結果を明示していない。
但し、前述の方法で測定した温度変化換算値DTについては、いずれの実施例及び比較例についても測定してある。いずれの実施例でも、この温度変化換算値DTは±10deg以内となった。
この温度変化換算値DTついても、当該焼結体1(サーミスタ素子2)が熱履歴に対する抵抗変化が少ない特性を有するものか否かを判断する目安が、温度変化換算値DTが±10degであると考えられる。各実施例1〜18の焼結体1(サーミスタ素子2)は、いずれもこの目安の範囲に含まれていることから、本実施例1〜18のサーミスタ素子2は、いずれも熱履歴に対する抵抗変化が小さく、実用上問題なく使用可能な焼結体(サーミスタ素子)であることが判る。
ついで、本実施例に係るサーミスタ素子2を用いた温度センサ100の構成について、図2を参照して説明する。この温度センサ100は、サーミスタ素子2を感温素子として用いるものであり、この温度センサ100を自動車の排気管の取付部に装着して、サーミスタ素子2を排気ガスが流れる排気管内に配置させて、排気ガスの温度検出に使用するものである。
温度センサ100のうち、軸線に沿う方向(以下、軸線方向ともいう)に延びる金属チューブ3は、先端部31側(図2中、下方)が閉塞した有底筒状をなしており、この先端部31の内側に本実施例のサーミスタ素子2を収納してなる。この金属チューブ3は、予め熱処理が施されており、その外側面及び内側面が酸化されて酸化皮膜に覆われている。金属チューブ3の内側でサーミスタ素子2の周囲には、セメント10が充填されて、サーミスタ素子2を固定している。金属チューブ3の後端32は開放されており、この後端32部分は、フランジ部材4の内側に圧入、挿通されている。
フランジ部材4は、軸線方向に延びる筒状の鞘部42と、この鞘部42の先端側(図2中、下方)に位置し、この鞘部42よりも大きい外径を有して径方向外側に突出するフランジ部41とを備えている。フランジ部41の先端側には、排気管の取付部とシールを行うテーパ状の座面45を有しいる。また、鞘部42は、先端側に位置する先端側鞘部44とこれよりも径小の後端側鞘部43とからなる二段形状をなしている。
そして、フランジ部材4内に圧入された金属チューブ3は、その外周面が後端側鞘部43と周方向全周に亘り部位L1でレーザー溶接されることで、フランジ4に強固に固定されている。また、フランジ部材4の先端側鞘部44には、概略円筒形状の金属カバー部材6が圧入され、周方向全周に亘り部位L2でレーザ溶接されて、気密状態で接合されている。
また、フランジ部材4及び金属カバー部材6の周囲には、六角ナット部51およびネジ部52を有する取り付け部材5が回動自在に嵌挿されている。本実施例の温度センサ100は、排気管(図示しない)の取付部にフランジ部材4のフランジ部41の座面45を当接させ、ナット5を取付部に螺合させることにより、排気管に固定する。
金属チューブ3、フランジ部材4および金属カバー部材6の内側には、一対の芯線7を内包するシース部材8が配置されている。このシース部材8は、金属製の外筒と、導電性の一対の芯線7と、外筒内に充填され外筒と各芯線7のと間を絶縁しつつ芯線7を保持する絶縁粉末とから構成されている。なお、このシース部材8の外筒にも熱処理により、予め酸化皮膜が形成されている。
金属チューブ3の内部においてシース部材8の外筒の先端から(図中下方に)突出する芯線7には、サーミスタ素子2の電極線2a,2bがレーザ溶接により接続されている。
一方、シース部材8から後端側に突き出した芯線7は、加締め端子11を介して一対のリード線12に接続されている。芯線7同士及び加締め端子11同士は、絶縁チューブ15により互いに絶縁されている。
この一対のリード線12は、金属カバー部材6の後端部内側に挿入された弾性シール部材13のリード線挿通孔を通って、金属カバー部材6の内側から外部に向かって引き出され、外部回路(図示しない。例えば、ECU)と接続するためのコネクタ21の端子部材に接続されている。これにより、サーミスタ素子2の出力は、シース部材8の芯線7からリード線12、コネクタ21を介して図示しない外部回路に取り出され、排気ガスの温度が検出される。リード線12には、飛石等の外力から保護するためのガラス編組チューブ20が被せられており、このガラス編組チューブ20は、自身の先端部が弾性シール部材13と共に金属カバー部材6に加締め固定されている。
このような構造を有する温度センサ100では、前述の導電性酸化物焼結体1からなるサーミスタ素子2を用いているので、自動車のエンジンの排気ガスの温度について、−40℃の低温下から900℃の高温までの広い領域に亘り、適切に温度を測定することができる温度センサとなる。
以上において、本発明を実施例に即して説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
導電性酸化物焼結体(サーミスタ素子)の製造において、原料粉末としては、実施例において例示した各元素を含む化合物の粉末を使用することができる。そのほか、酸化物、炭酸塩、水酸化物、硝酸塩等の化合物を用いることができる。なお、特に酸化物、炭酸塩を用いるのが好ましい。
また、導電性酸化物焼結体の焼結性、B定数、温度特性の高温耐久性など、導電性酸化物焼結体、サーミスタ素子、あるいは温度センサに要求されると特性を損なわない範囲で、導電性酸化物焼結体に、Na,K,Ga,Si,C,Cl,S等の他の成分を含有していてもよい。
本実施例1〜16,18に係るサーミスタ素子の形状を示す説明図である。 図1のサーミスタ素子を用いた温度センサの構造を示す部分破断断面図である。 導電性酸化物焼結体の断面における組織の状態例(実施例6)を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。 本実施例17に係るサーミスタ素子の構造を示す部分破断断面図である。
符号の説明
1 導電性酸化物焼結体
1b 耐還元性被膜
2 サーミスタ素子
2a,2b 電極線
100 温度センサ

Claims (12)

  1. Y,Nd,Ybから選ばれる1種またはそれ以上の元素をM1とし、
    Mg,Ca,Srから選ばれる1種またはそれ以上の元素をM2とし、
    Mn,Feから選ばれる1種またはそれ以上の元素をM3としたとき、
    組成式M1aM2bM3cAldCrefで表記され、
    a,b,c,d,e,fが下記条件式を満たし、
    ペロブスカイト型結晶構造を有する導電性のペロブスカイト相と、
    上記ペロブスカイト相よりも導電性が低く、
    上記ペロブスカイト相を構成する金属元素から選択された少なくとも1種の金属元素をMeとしたとき、
    組成式MeOxで表記される結晶構造を有する少なくとも1種の金属酸化物相と、を含む
    導電性酸化物焼結体。
    0.600≦a≦1.000
    0≦b≦0.400
    0.150≦c<0.600
    0.400≦d≦0.800
    0.005≦e≦0.050
    0<e/(c+e)≦0.18
    2.80≦f≦3.30
  2. 請求項1に記載の導電性酸化物焼結体であって、
    前記a,bが下記条件式を満たす
    導電性酸化物焼結体。
    0.600≦a<1.000
    0<b≦0.400
  3. 請求項1または請求項2に記載の導電性酸化物焼結体であって、
    前記元素M1がYであり、
    前記元素M2がSrであり、
    前記M3がMnである
    導電性酸化物焼結体。
  4. 請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の導電性酸化物焼結体であって、
    上記導電性酸化物焼結体の断面(断面積S)に現れた上記ペロブスカイト相の総断面積をSPとしたとき、
    S及びSPが下記式を満たす
    導電性酸化物焼結体。
    0.20≦SP/S≦0.80
  5. 請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の導電性酸化物焼結体であって、
    前記金属酸化物相に複酸化物を含む
    導電性酸化物焼結体。
  6. 請求項5に記載の導電性酸化物焼結体であって、
    前記a,bが下記条件式を満たし、
    0.600≦a<1.000
    0<b≦0.400
    前記金属酸化物相に、前記元素M1及び元素M2からなる複酸化物を含む
    導電性酸化物焼結体。
  7. 請求項6に記載の導電性酸化物焼結体であって、
    前記元素M1はYを含み、
    前記元素M2はSrを含み、
    前記金属酸化物相は、組成式SrY24で表記される複酸化物を含む
    導電性酸化物焼結体。
  8. 請求項5に記載の導電性酸化物焼結体であって、
    前記a,bが下記条件式を満たし、
    0.600≦a<1.000
    0<b≦0.400
    前記金属酸化物相に、前記元素M1及びM2の少なくともいずれかと、前記元素M3,Al及びCrの少なくともいずれかとの複酸化物を含む
    導電性酸化物焼結体。
  9. 請求項8に記載の導電性酸化物焼結体であって、
    前記元素M2は、Srを含み、
    前記金属酸化物相は、組成式SrAl24で表記される複酸化物を含む
    導電性酸化物焼結体。
  10. 請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の導電性酸化物焼結体を用いてなる
    サーミスタ素子。
  11. 請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の導電性酸化物焼結体と、
    上記導電性酸化物焼結体を被覆する耐還元性の耐還元性被膜と、を備える
    サーミスタ素子。
  12. 請求項10または請求項11に記載のサーミスタ素子を用いてなる
    温度センサ。
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