JP5053564B2 - 導電性酸化物焼結体、これを用いたサーミスタ素子、及びこれを用いた温度センサ - Google Patents
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Description
このうち、特許文献1には、300℃から1000℃の範囲にわたって温度検知ができるサーミスタ素子として、Sr,Y,Mn,Al,Fe及びOを含有し、ペロブスカイト型酸化物及びガーネット型酸化物の各結晶相を含有し、Sr−Al系酸化物及びSr−Fe系酸化物の少なくとも一方の結晶相を含有するサーミスタ素子用焼結体が開示されている。
さらに、特許文献2には、室温から1000℃の範囲にわたって適切な比抵抗値を有する導電性酸化物焼結体として、M1aM2bM3cM4dO3で表され、a,b,c,dが所定の条件式を満足する導電性酸化物焼結体が開示されている。
その一方、OBDシステム(On-Board Diagnostic systems)などにおける温度センサの故障(断線)検知のため、エンジンの始動時やキーオン時など低温下でもその温度を検知可能とすることが望まれている。この場合、特に寒冷地では、始動時の温度が氷点下となる場合もあるため、−40℃でも測温可能なサーミスタ素子が望まれている。
このため、これらの焼結体を用いたサーミスタ素子あるいはサーミスタ素子では、温度勾配定数(B定数)が大きく、−40℃の低温下では、サーミスタ素子の抵抗値が高くなりすぎて、その抵抗値測定が困難となるために温度計測が困難となる。
しかし、この特許文献3に記載のサーミスタ素子では、複合ペロブスカイト酸化物(MM’)O3を構成する金属元素MあるいはM’と、金属酸化物AOxを構成する金属元素Aとの関係についての考察はなされていない。このため、金属元素MあるいはM’と金属元素Aとの組み合わせや配合比によっては、複合ペロブスカイト酸化物(MM’)O3と金属酸化物AOxとが反応して、予期しない副生成物が生成されたり、金属元素Aが複合ペロブスカイト酸化物(MM’)O3中に固溶して組成変動を生じたりして、高温下での組成安定性(耐熱性)など、サーミスタ素子(導電性酸化物焼結体)の諸特性を損なう虞がある。
0.600≦a≦1.000
0≦b≦0.400
0.150≦c<0.600
0.40≦d≦0.80
0.005≦e≦0.050
0<e/(c+e)≦0.18
2.80≦f≦3.30
また、金属元素Meがペロブスカイト相をなす金属元素でない場合には、この金属元素Meがペロブスカイト相中に固溶することで、固溶前とは異なる元素からなるペロブスカイト相が生成される虞があるが、本発明の焼結体では、このような組成変動も生じにくく、安定した組成を維持でき、焼結体の諸特性の変動も抑制される。
このような結晶構造を有する場合、Aサイトを占める元素M1,M2はイオン半径が近接しており、元素同士で互いに容易に置換できるものであり、これらの元素からなる副生成物の生成が少なく、置換された組成で安定に存在する。同様に、Bサイトを占める元素M3,Al,Crはイオン半径が近接しており、元素同士で互いに容易に置換できるものであり、これらの元素からなる副生成物の生成が少なく、置換された組成で安定に存在する。このため、広い組成範囲で連続的に組成比を変えて、導電性酸化物焼結体の比抵抗値やその温度勾配定数(B定数)を調整することができる。
そして、この導電性酸化物焼結体では、元素M1をY,Nd,Ybから選ばれる1種またはそれ以上の元素とし、元素M2をMg,Ca,Srから選ばれる1種またはそれ以上の元素とし、元素M3をMn,Feから選ばれる1種またはそれ以上の元素としている。これらの元素を選択することにより、上記した範囲のB定数が安定して得られるものとし易い。
0.600≦a<1.000
0<b≦0.400
0.820≦a≦0.950
0.050≦b≦0.180
0.181≦c≦0.585
0.410≦d≦0.790
0.005≦e≦0.050
0<e/(c+e)≦0.18
2.91≦f≦3.27
またa〜fが上述の条件式を満たすこの導電性酸化物焼結体では、a〜fをある数値に特定した導電性焼結体(これを用いたサーミスタ素子)を複数製造する場合にも、各導電性焼結体(サーミスタ素子)の個体間の特性ばらつき、焼成ロット間の特性ばらつきを一層小さくすることができる。
0.850≦b≦0.940
0.060≦b≦0.150
0.181≦c≦0.545
0.450≦d≦0.780
0.005≦e≦0.050
0<e/(c+e)≦0.18
2.92≦f≦3.25
0.20≦SP/S≦0.80
具体的には、焼結体の断面積S中に占めるペロブスカイト相の総断面積SPの割合の下限を0.20(20%)とした。
金属酸化物相に対して相対的に高い導電性を示すペロブスカイト相の総断面積が20%を下回る場合には、焼結体の導電性が低下して比抵抗が上昇するため、標準的な形態のサーミスタ素子においては、このような比抵抗値を有する焼結体を使用しにくくなるからである。
なお、焼結体の断面積S中に占めるペロブスカイト相の総断面積SPの割合は、焼結体に含まれるペロブスカイト相の体積分率とも等しい値となる。
焼結体の焼成時あるいは900℃などの高温環境下において、複酸化物をなす2つの元素のうち、一方の元素のみが、複酸化物から、ペロブスカイト相へ移動し、これに固溶することは、単元素の酸化物から、これをなす金属元素(M1あるいはM2)が、ペロブスカイト相へ移動し固溶する場合に比して、生じにくいと考えられる。従って、金属酸化物相に複酸化物を含めることにより、高温環境下でのペロブスカイト相の組成のズレを抑制し、耐熱性を高めることができると考えられる。
0.600≦a<1.000
0<b≦0.400
前記金属酸化物相に、前記元素M1及び元素M2からなる複酸化物を含む導電性酸化物焼結体とすると良い。
焼結体の焼成時あるいは900℃などの高温環境下において、複酸化物をなす2つの元素M1,M2のうち、一方の元素のみが、複酸化物から、ペロブスカイト相のAサイトへ移動し固溶することは、単元素の酸化物から、これをなす金属元素(M1あるいはM2)が、ペロブスカイト相のAサイトへ移動し固溶する場合に比して、生じにくいと考えられる。従って、金属酸化物相に、元素M1及びM2からなる複酸化物を含めることにより、さらに高温環境下でのペロブスカイト相の組成のズレを抑制し、耐熱性を高めることができる。
なお、このような複酸化物としては、例えば、ペロブスカイト相が、(Y,Sr)(Mn,Al,Cr)O3で表される場合において、SrY2O4,SrY4O7などが挙げられる。
なお、このような複酸化物としては、ペロブスカイト相が(Y,Sr)(Mn,Al,Cr)O3である場合において、SrAl2O4、YAlO3,Y3Al5O12などが挙げられる。
まず、ペロブスカイト相用の仮焼粉末を以下のようにして得る。即ち、原料粉末として、Y2O3,Nd2O3,Yb2O3,SrCO3,MgO,CaCO3,MnO2,Fe2O3,Al2O3,Cr2O3(全て純度99%以上の市販品を用いた。)を用いて、化学式(組成式)M1aM2bM3cAldCreO3としたときの、元素M1,M2,M3が、表1に示す組み合わせとなり、しかも、a,b,c,d,eが、表1に示すモル数となるように、それぞれ秤量する。さらに、これらの原料粉末を湿式混合して乾燥することにより、ペロブスカイト相用の原料粉末混合物を調整した。次いで、この原料粉末混合物を大気雰囲気下1400℃で2Hr仮焼し、平均粒径1〜2μmのペロブスカイト相用の仮焼粉末を得た。
なお、実施例17の耐還元性被膜形成のため、このSrAl2O4の仮焼粉末にバインダ及び分散媒を添加して混練して、ディップコーティング用のスラリーを別途、作成した。
なお、使用しうるバインダーとしては、上述のポリビニルブチラールに特に限定されず、例えばポリビニルアルコール、アクリル系バインダー等が挙げられる。バインダーの配合量は上述の仮焼粉末全量に対し、通常5〜20重量部、好ましくは10〜20重量部とする。
また、バインダーと混合するにあたり、サーミスタ合成粉末の平均粒子径は2.0μm以下としておくのが好ましく、これによって均一に混合することができる。
サーミスタ素子2の各寸法は、一辺1.15mmの六角形状で、厚み1.00mm、電極線2a,2bの径φ0.3mm、電極中心間距離0.74mm(ギャップ0.44mm)、電極挿入量1.10mmである。
B(-40〜900)=ln[Rs(900)/Rs(-40)]/[1/T(900)−1/T(-40)] …(1)
なお、Rs(-40):−40℃におけるサーミスタ素子の初期抵抗値(kΩ)、Rs(900):900℃におけるサーミスタ素子の初期抵抗値(kΩ)である。
CT(-40)=[(B(-40〜900)×T(-40))/[ln(Rt'(-40)/Rt(-40))×T(-40)+B(-40〜900)]]−T(-40) …(2)
CT(900)=[(B(-40〜900)×T(900))/[ln(Rt'(900)/Rt(900))×T(900)+B(-40〜900)]]−T(900) …(3)
なお、温度センサ100のうち、金属チューブ3の内周面及びシース部材8を構成する金属製の外筒には、予め酸化皮膜が形成されている。これにより、この温度センサ100のサーミスタ素子2近傍を高温とした場合でも、金属チューブ3やシース部材8の外筒の酸化が抑制され、この金属チューブ3内の雰囲気が還元雰囲気となることが防止されている。従って、サーミスタ素子2が還元されて、その抵抗値が変化することが防止されている。
その上で、−40℃における抵抗値R1(-40)と抵抗値R2(-40)との比較から、繰り返し温度変化による抵抗変化の温度変化換算値DT(-40)(単位:deg)を、下記式(4)により算出した。また、900℃における抵抗値R1(900)と抵抗値R2(900)との比較からも、同様の式(5)により温度変化換算値DT(900)を算出した。その上で、温度変化換算値DT(-40)とDT(900)のうち大きい方を、温度変化換算値DT(deg)として表1に示した。
DT(-40)=[(B(-40〜900)×T(-40))/[ln(R2(-40)/R1(-40))×T(-40)+B(-40〜900)]]−T
(-40) …(4)
DT(900)=[(B(-40〜900)×T(900))/[ln(R2(900)/R1(900))×T(900)+B(-40〜900)]]−T
(900) …(5)
これらの結果を、表1に示す。
まず、焼結体1を樹脂に埋め込み、3μmのダイヤペーストを用いたバフ研磨処理を行って断面を研磨した試料を作成した。その後、走査型電子顕微鏡(JEOL社製 商品名:JSM-6460LA)により、断面を倍率3000倍で写真撮影する。図3に実施例6に係る焼結体1の断面写真を示す。なお、EDSによる組成分析から白色部分がペロブスカイト相、暗灰色の部分が金属酸化物相(具体的には、SrAl2O4)である。また、黒色部分は気孔である。撮影した組織写真のうち、40μm×30μmの視野を画像解析装置にて解析し、視野(断面積S)に対するペロブスカイト相の相面積SPの占める割合(面積分率)SP/Sを求めた。
0.600≦a≦1.000
0≦b≦0.400
0.150≦c<0.600
0.400≦d≦0.800
0<e≦0.050
0<e/(c+e)≦0.18
2.80≦f≦3.30
また、元素M3にMnを用いた実施例1〜7に対し、元素M3としてFeを用いた実施例15についても、同様である。
即ち、実施例1〜17に示すように、a<1.000,b>0とするのが好ましい。Sr等(2A族の元素M2)を含まない(b=0)ペロブスカイト相を有する実施例18にかかる焼結体1では、この焼結体1(サーミスタ素子2)を多数製造すると、各個体間の特性バラツキや焼成ロット間の特性ばらつきが大きくなり易い傾向がある。これに比して、Y等(3A族の元素M1)のほかにSr等(2A族の元素M2)を含む、例えば実施例1〜17の焼結体1では、相対的に、個体間の特性バラツキや焼成ロット間の特性ばらつきが小さくできる。
なお、他の実施例4,5,7〜16,18の焼結体については、温度変化換算値CTの測定結果を明示していない。
この温度変化換算値DTついても、当該焼結体1(サーミスタ素子2)が熱履歴に対する抵抗変化が少ない特性を有するものか否かを判断する目安が、温度変化換算値DTが±10degであると考えられる。各実施例1〜18の焼結体1(サーミスタ素子2)は、いずれもこの目安の範囲に含まれていることから、本実施例1〜18のサーミスタ素子2は、いずれも熱履歴に対する抵抗変化が小さく、実用上問題なく使用可能な焼結体(サーミスタ素子)であることが判る。
金属チューブ3の内部においてシース部材8の外筒の先端から(図中下方に)突出する芯線7には、サーミスタ素子2の電極線2a,2bがレーザ溶接により接続されている。
一方、シース部材8から後端側に突き出した芯線7は、加締め端子11を介して一対のリード線12に接続されている。芯線7同士及び加締め端子11同士は、絶縁チューブ15により互いに絶縁されている。
導電性酸化物焼結体(サーミスタ素子)の製造において、原料粉末としては、実施例において例示した各元素を含む化合物の粉末を使用することができる。そのほか、酸化物、炭酸塩、水酸化物、硝酸塩等の化合物を用いることができる。なお、特に酸化物、炭酸塩を用いるのが好ましい。
また、導電性酸化物焼結体の焼結性、B定数、温度特性の高温耐久性など、導電性酸化物焼結体、サーミスタ素子、あるいは温度センサに要求されると特性を損なわない範囲で、導電性酸化物焼結体に、Na,K,Ga,Si,C,Cl,S等の他の成分を含有していてもよい。
1b 耐還元性被膜
2 サーミスタ素子
2a,2b 電極線
100 温度センサ
Claims (12)
- Y,Nd,Ybから選ばれる1種またはそれ以上の元素をM1とし、
Mg,Ca,Srから選ばれる1種またはそれ以上の元素をM2とし、
Mn,Feから選ばれる1種またはそれ以上の元素をM3としたとき、
組成式M1aM2bM3cAldCreOfで表記され、
a,b,c,d,e,fが下記条件式を満たし、
ペロブスカイト型結晶構造を有する導電性のペロブスカイト相と、
上記ペロブスカイト相よりも導電性が低く、
上記ペロブスカイト相を構成する金属元素から選択された少なくとも1種の金属元素をMeとしたとき、
組成式MeOxで表記される結晶構造を有する少なくとも1種の金属酸化物相と、を含む
導電性酸化物焼結体。
0.600≦a≦1.000
0≦b≦0.400
0.150≦c<0.600
0.400≦d≦0.800
0.005≦e≦0.050
0<e/(c+e)≦0.18
2.80≦f≦3.30 - 請求項1に記載の導電性酸化物焼結体であって、
前記a,bが下記条件式を満たす
導電性酸化物焼結体。
0.600≦a<1.000
0<b≦0.400 - 請求項1または請求項2に記載の導電性酸化物焼結体であって、
前記元素M1がYであり、
前記元素M2がSrであり、
前記M3がMnである
導電性酸化物焼結体。 - 請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の導電性酸化物焼結体であって、
上記導電性酸化物焼結体の断面(断面積S)に現れた上記ペロブスカイト相の総断面積をSPとしたとき、
S及びSPが下記式を満たす
導電性酸化物焼結体。
0.20≦SP/S≦0.80 - 請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の導電性酸化物焼結体であって、
前記金属酸化物相に複酸化物を含む
導電性酸化物焼結体。 - 請求項5に記載の導電性酸化物焼結体であって、
前記a,bが下記条件式を満たし、
0.600≦a<1.000
0<b≦0.400
前記金属酸化物相に、前記元素M1及び元素M2からなる複酸化物を含む
導電性酸化物焼結体。 - 請求項6に記載の導電性酸化物焼結体であって、
前記元素M1はYを含み、
前記元素M2はSrを含み、
前記金属酸化物相は、組成式SrY2O4で表記される複酸化物を含む
導電性酸化物焼結体。 - 請求項5に記載の導電性酸化物焼結体であって、
前記a,bが下記条件式を満たし、
0.600≦a<1.000
0<b≦0.400
前記金属酸化物相に、前記元素M1及びM2の少なくともいずれかと、前記元素M3,Al及びCrの少なくともいずれかとの複酸化物を含む
導電性酸化物焼結体。 - 請求項8に記載の導電性酸化物焼結体であって、
前記元素M2は、Srを含み、
前記金属酸化物相は、組成式SrAl2O4で表記される複酸化物を含む
導電性酸化物焼結体。 - 請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の導電性酸化物焼結体を用いてなる
サーミスタ素子。 - 請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の導電性酸化物焼結体と、
上記導電性酸化物焼結体を被覆する耐還元性の耐還元性被膜と、を備える
サーミスタ素子。 - 請求項10または請求項11に記載のサーミスタ素子を用いてなる
温度センサ。
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