JP5052702B1 - N−アセチルグルコサミン非資化性キチン分解菌及びその用途 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】パエニバチルス属に属する細菌、その変異株あるいはその培養上清を用いて、多糖又は多糖含有物に接触させることを含む、単糖およびオリゴ糖の製造方法。
【選択図】なし
Description
木元らは、パエニバチルス属細菌NITE P-310株がαキチンに対しても高分解能を有することを見出し、該細菌が産生する4種のキチン分解酵素遺伝子を単離することに成功した(特許文献4)。しかしながら、該細菌を、発酵法によるN−アセチルグルコサミン/グルコサミンの製造に利用できるか否かについての検討はなされていなかった。
そこで、本発明者らは、FPU7株の高キチン分解能を保持したまま、N−アセチルグルコサミンの代謝能(細胞内取り込み能)を欠損したN−アセチルグルコサミン非資化性変異株を作製すれば、培養上清からN−アセチルグルコサミンを効率よく回収しうると発想し、FPU7株に変異原処理を施すことにより、N−アセチルグルコサミン代謝能を欠損し、かつN−アセチルグルコサミン以外の炭素源により増殖可能なFPU-7変異株(6株)を得ることに成功した。このうちの1株(「FPU7-3株」と命名した。)について解析した結果、本菌株をキチン含有培地中で培養すると、培養上清中に高濃度のN−アセチルグルコサミンを蓄積することを確認して、本発明を完成するに至った。
[1]キチン分解能を有するパエニバチルス属に属する細菌であって、以下の(a)及び(b)の性質を有する細菌。
(a)N−アセチルグルコサミン代謝能を有しない。
(b)N−アセチルグルコサミン以外の炭素源により増殖可能である。
[2]パエニバチルス・エスピー(Paenibacillus sp.)FPU7株(NITE P-310)を変異原処理することにより得られる、上記[1]記載の細菌。
[3]パエニバチルス・エスピーFPU7-3株(受託番号FERM P-22220)もしくはその変異株である、上記[2]記載の細菌。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかに記載の細菌を、キチン並びに/或いはキトサンを含有する培地中で培養することを含む、N−アセチルグルコサミン及び/又はキチンオリゴ糖、並びに/或いはグルコサミン及び/又はキトサンオリゴ糖の製造方法。
[5]前記培養物の培養上清からN−アセチルグルコサミン及び/又はキチンオリゴ糖、並びに/或いはグルコサミン及び/又はキトサンオリゴ糖を回収することをさらに含む、上記[4]記載の方法。
[6]上記[1]〜[3]のいずれかの細菌と、キチン及び/又はキトサンとを組み合わせてなる、植物生長促進及び/又は耐病性向上剤。
[7]上記[4]で得られる培養物、又は上記[5]で得られる培養上清を含有してなる、植物生長促進及び/又は耐病性向上剤。
(a)N−アセチルグルコサミン代謝能を有しない
(b)N−アセチルグルコサミン以外の炭素源により増殖可能である
の性質を有する細菌(以下、「本発明の細菌」ともいう。)を提供する。
キチン分解能を有するパエニバチルス属細菌は、例えば土壌、好ましくは、カニ殻農法の行われている畑地の土壌のような、キチンが存在する土壌などを、適当な水性液(例、水、リン酸緩衝液等)に懸濁し、該懸濁液をキチンを含有する培地中で培養して、培地中のキチン量が減少したサンプルを、キチンを含有する固形培地上に播種し、キチンの分解により培地上に形成されるハローを指標として、選択・分離することができる。選択された菌がパエニバチルス属に属することは、例えば、特開2008-253252号公報に記載される形態学的、生理学的並びに分子系統学的解析を行い、得られた表現形質を、文献(例えば、Bergey's Manual of Systematic Bacteriology, Vol. 2, Williams & Wilkins, Baltimore (1984)、Bergey's Manual of Determinative Bacteriology (9th ed.) , J. G. Holt, N. R. Krieg, P. H. A. Sneath, J. T. Staley, S. T. Williams (ed), Williams & Wilkins, Baltimore (1994) 等)を参考にして総合的に判断することにより、決定することができる。
従って、本発明の好ましい実施態様においては、キチン分解能を有し、かつN−アセチルグルコサミン代謝能を有するパエニバチルス属細菌を親株として、人工的に突然変異を導入することにより、キチン分解能を保持したまま、N−アセチルグルコサミン代謝能を欠損したパエニバチルス属細菌が作製される。ここで突然変異を導入する方法としては、例えば、変異原処理によるランダム変異導入、あるいは、部位特異的変異導入法が用いられ得る。部位特異的変異導入法の場合、例えば、N−アセチルグルコサミンの細胞内取り込みに関与する輸送担体の遺伝子や、N−アセチルグルコサミンを炭素源として利用するための代謝酵素の遺伝子に変異を導入し、それらの機能を欠損させることにより、N−アセチルグルコサミンを細胞外(培養上清)や細胞内に蓄積させることができる。しかしながら、キチン分解能を有するパエニバチルス属細菌におけるN−アセチルグルコサミンの細胞内取り込み及び代謝に関連する遺伝子群についての知見は必ずしも十分ではないので、より好ましい態様においては、突然変異導入法として変異原処理が用いられる。
ここで変異原としては、例えば、アルキル化剤(N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)、エチルメタンスルホン酸(EMS)等)、ヌクレオチド塩基類似体(ブロモウラシル等)、ニトロソ化合物、DNAインターカレーター、DNA架橋剤、放射線、紫外線等が挙げられるが、これらに限定されない。
従って、本発明はまた、本発明の細菌又は本発明のスクリーニング法により選択される微生物を、キチン並びに/或いはキトサンを含有する培地中で培養することを特徴とする、N−アセチルグルコサミン及び/又はキチンオリゴ糖、並びに/或いはグルコサミン及び/又はキトサンオリゴ糖の製造方法を提供する。
培地へのキチン/キトサンの添加濃度は特に限定されないが、例えば、0.1〜30w/v%、好ましくは0.5〜20w/v%、より好ましくは1〜15w/v%の範囲で適宜設定することができる。
従って、N−アセチルグルコサミン非資化性キチン分解菌の培養液は、そのままで、あるいは適当に処理した後、例えば、本発明の植物の生長促進及び/又は耐病性向上剤として任意の適切な剤形に調製され得る。剤形としては、液剤、乳剤、エマルジョン、懸濁剤、水和剤、粒剤、等の一般的な剤形が挙げられるが、これらに限定されない。培養液の処理方法としては、例えば、当該培養液を水もしくは適当な希釈液(例えば、等張緩衝液や培地等)で適切な菌体濃度となるまで希釈することができる。あるいは、培養液をろ過もしくは遠心分離して培養上清を回収し、そのままで、あるいは濃縮もしくは希釈して製剤化することもできる。
一方、N−アセチルグルコサミン非資化性キチン分解菌をキチン/キトサンを含む任意の適当な培地で培養した後、菌体を回収し、適当な分散媒(例えば、等張緩衝液や新鮮培地等)に再懸濁することもできる。さらに、回収した菌体を常法により凍結乾燥することもできる。あるいはまた、培養液に10-20%のグリセロールを添加して-80℃で凍結保存し、用時融解して培地等に再懸濁して用いることもできる。また、当該細菌は芽胞(内生胞子)を形成するが、芽胞は熱や乾燥などの環境変化に対して耐性を示し長期間安定に保存できるので、芽胞の形態で製品化し、用時発芽させ菌体を増殖させてもよい。当該菌体は、キチン及び/又はキトサンと組み合わせて用いられる。キチン及び/又はキトサンを併用することにより、当該菌体が存在する根圏土壌中にN−アセチルグルコサミン/グルコサミンやキチンオリゴ糖/キトサンオリゴ糖が生成して、肥料効果やエリシター活性を発揮することで、植物の生長が促進され、また、耐病性が向上する。キチン及び/又はキトサンとしては、例えばカニ殻の粉砕物のような通常廃棄物として処分されるものを有効利用することができる。キチン及び/又はキトサンは、N−アセチルグルコサミン非資化性キチン分解菌の菌体とともに製剤中に配合してもよいし、別途施用してもよい。
本発明の植物の生長促進及び/又は耐病性向上剤の施用時期は、植物の栽培前及び栽培中のいずれの時期であっても良い。施用回数も特に制限されないが、N−アセチルグルコサミン非資化性キチン分解菌(生菌)を含む剤形(例えば、培養液)の場合は1〜5回、好ましくは1〜3回程度であり、生菌を含まない剤形(例えば、培養上清)の場合には、1〜20回、好ましくは1〜10回程度が挙げられる。
キチン分解菌FPU7株のキチン分解システムを解明する目的で、ゲノムのドラフト解析を行った。その結果、FPU7株には少なくとも7種類以上のキチン分解酵素(キチナーゼ)遺伝子がゲノム上に存在していた。これら全ての遺伝子には、キチナーゼを細胞外へ分泌させるためのシグナル配列が確認された。
FPU7株の培養上清中のキチナーゼ活性を測定したところ、強い酵素活性を確認した。キチンの分解産物は、主として単糖であるアセチルグルコサミン(GlcNAc)と二糖のキトビオース((GlcNAc)2)であるが、キチンを主炭素源としてFPU7株を培養すると、培養4〜5日で原料キチンをほぼ完全に分解するが、培養液中にキチン分解産物である単糖、二糖などをほとんど蓄積しない(微量である)ことが確認された(図1)。すなわち、キチンは培養6日間で5%から0.24%に減少した。キチン分解率は95.2%以上であるが、培養液中のNAG蓄積は0.2%しかなかった。同様に、二糖の蓄積も殆どなかった。
FPU7株は細胞外でキチンを単糖と二糖にまで分解してから細胞内へ取り込み、資化することが示唆された。
キチンの代謝欠損変異株を取得することができれば、単糖と二糖の収率を大きく向上させることができると考え、アルキル化剤であるエチルメタンスルホン酸(EMS)によるFPU7株の変異育種を以下のように行った。
新鮮なFPU7株のコロニーをかき取り、50mLスピッツ管において10mLのカツオ培地に懸濁し、30℃で振とう培養した。一時間ごとにOD660を測定し、対数増殖期であるOD=0.5まで培養した(108細胞/mL)。生存率が10〜50%となるように、培養液1mLに対して40μLのEMSを加え、室温で30分放置した。8000 rpmで3分間遠心分離し、PBSにより洗浄した。
このようにして変異処理を行ったFPU7株をスクリーニングすることにより、キチンは分解するがN-アセチルグルコサミンを資化せず、N-アセチルグルコサミン以外の炭素源で増殖可能な株(FPU7-3株)を得た。
2%のNAGを単一炭素源とした培地を用い、FPU7株及びFPU7-3株を4日間培養し、培養液中の残存NAG量を測定した。その結果を図2(NAG培地での野生株と変異株の増殖)及び図3(培養前後のNAG濃度の変化)に示す。
FPU7株はNAGを細胞内に取り込み、資化して増殖し、培養液が濁っていた。一方、FPU7-3株はNAGを細胞内に取り込めず、増殖もできないため、培養液が濁らないことが確認された(図2)。
図3は各培養液中の残存NAG量を示す。FPU7株では培地に添加したNAGが殆ど消費されたが、FPU7-3株ではNAGが消費されず増殖もしないことから添加したNAGが殆ど残存していた。
以上の結果から、FPU7-3株は、NAGを細胞内に取り込むトランスポーターに何らかの変異が起こっていることが示唆された。
(1)グルコース培地での増殖パターン
野生株(FPU7株)と変異株(FPU7-3株)の増殖特性を比較する目的で、グルコースを炭素源とした培養培地(グルコース 0.5%、酵母エキス 0.5%、ペプトン 0.5%(pH 6.5))で両菌株の好気培養を行った。培養条件は、5Lジャー容器(実用量3L)、培養温度30℃、通気量3L/min、撹拌速度300rpmであった。OD660の経時変化を図4に示す。
野生株および変異株の増殖の遅延時間(lag-time)はほぼ同じであるが、対数増殖期における増殖速度が異なることが分かった。図4より、両菌株の基本的なパラメーターである比増殖速度(μ/h)及び平均分裂時間(doubling time, dt)を算出したところ、両パラメーター共に1.5倍の違いがあることが分かった(表1)。すなわち、グルコースを炭素源にした培地では野生株の方が変異株よりも増殖が約1.5倍速いことが確認された。
以下の条件で前培養及び本培養を行った。
<前培養>
培地:酵母エキス1.0% ペプトン1.0% グルコース 1.0%
50mL/300mLバッフル付三角フラスコ 30℃ 100rpm 16時間培養。
<本培養>
培地:NAG 0.5% 酵母エキス 0.5%
3L/5Lジャー容器 300rpm 1vvm 植菌率1.7%
結果を図5に示す。比増殖速度は、FPU7株が0.607μ/h、FPU7-3株が0.205μ/hと算出された。
4日間好気培養(培地:酵母エキス 0.5% キチン 3%を含む。培養は50mL/坂口フラスコ、30℃、140rpmで行い、培養液中のキチナーゼ活性を測定した。
キチナーゼ活性は、キトペントースを基質とし、40℃で1分間に1μgの基質を分解する活性を1U(単位)と表す。
FPU7株のキチナーゼ活性は37U/mL、FPU7-3株のキチナーゼ活性は70U/mLであり、変異株のキチナーゼ活性は野生株より1.8倍以上高かった。
これらの結果から、FPU7株及びFPU7-3株は、増殖特性、NAGの資化性、キチナーゼ活性において異なる結果を示し、これらは変異処理の影響であろうと考えられた。
NAG(単糖)及びアセチルキトビオース(二糖)を炭素源とした培地(NAG又は、アセチルキトビオース、0.2%;カツオエキス1%)を50ml/バッフル付き300mlの三角フラスコにて30℃、160rpmで野生株及び変異株を2日間好気的に培養し、各糖の残存率を調べた結果を図6に示す。単糖NAGの代謝に関して、野性株では培地に添加したNAGの90%以上が消費されたが、それに比べて、変異株の培養液中には95%のNAGが存在していた。一方、アセチルキトビオース(二糖)の代謝に関しては、野生株及び変異株共にほぼ完全に消費していた。
酵母エキス 0.5%及びキチン 1%を含む培地、50mL/バッフル付き300mL三角フラスコ、160rpm、30℃で3日間、両菌株を培養した。
結果を図7に示す。これにより、変異株は野生株よりも約5倍高いNAGを生成し、蓄積していることが確認された。したがって、FPU7株及びFPU7-3株は、増殖特性、NAGの資化性、キチナーゼ活性及びNAGの生成能(蓄積能)などにおいて明らかに異なる結果を示し、これらは上記変異処理の影響であろうと思われた。
以下の条件でFPU7-3株の前培養及び本培養を行った。
<種培養>
培地:1.0%酵母エキス 1.0%ペプトン 1.0%グルコース(pH6.5)
50mL/300mLバッフル付三角フラスコにて30℃、160rpmで16時間培養。
<前培養>
培地:0.5%酵母エキス 3.0%キチン(pH6.8)
3L/5Lジャー 300rpm 通気1.0L/分 30℃ 4日間培養
<本培養>
培地:6%キチンを含む培地を調整した。(pH5.5〜6.0)
6L/10Lジャー 150rpm 通気なし 40℃ 13日間
結果を図8に示す。培養13日目にはNAG及び二糖の生成濃度は5.03%となった。よって、キチン360gよりNAGは302g蓄積された。よって、基質であるキチンの83%以上のNAGを生成された。
Claims (6)
- キチン分解能を有するパエニバチルス属に属する細菌であって、パエニバチルス・エスピー(Paenibacillus sp.)FPU7株(NITE P-310)を変異原処理することにより得られる、以下の(a)及び(b)、並びに(c)及び/又は(d)の性質を有する細菌。
(a)N−アセチルグルコサミン代謝能を有しない。
(b)N−アセチルグルコサミン以外の炭素源により増殖可能である。
(c)1%キチン含有培地50ml中、30℃、160rpmで3日間培養後に生成蓄積するN−アセチルグルコサミン量が野生株の5倍以上である。
(d)0.2% N−アセチルグルコサミン含有培地50ml中、30℃、160rpmで2日間培養後に95%以上のN−アセチルグルコサミンが残存する。 - パエニバチルス・エスピーFPU7-3株(受託番号FERM P-22220)もしくはその変異株である、請求項1記載の細菌。
- 請求項1又は2に記載の細菌を、キチン並びに/或いはキトサンを含有する培地中で培養することを含む、N−アセチルグルコサミン及び/又はキチンオリゴ糖、並びに/或いはグルコサミン及び/又はキトサンオリゴ糖の製造方法。
- 前記培養物の培養上清からN−アセチルグルコサミン及び/又はキチンオリゴ糖、並びに/或いはグルコサミン及び/又はキトサンオリゴ糖を回収することをさらに含む、請求項3記載の方法。
- 請求項1又は2に記載の細菌と、キチン及び/又はキトサンとを組み合わせてなる、植物生長促進及び/又は耐病性向上剤。
- 請求項3で得られる培養物、又は請求項4で得られる培養上清を含有してなる、植物生長促進及び/又は耐病性向上剤。
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