JP2013183711A - N−アセチルグルコサミン非資化性キチン分解菌及びその用途 - Google Patents

N−アセチルグルコサミン非資化性キチン分解菌及びその用途 Download PDF

Info

Publication number
JP2013183711A
JP2013183711A JP2012053008A JP2012053008A JP2013183711A JP 2013183711 A JP2013183711 A JP 2013183711A JP 2012053008 A JP2012053008 A JP 2012053008A JP 2012053008 A JP2012053008 A JP 2012053008A JP 2013183711 A JP2013183711 A JP 2013183711A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
chitin
acetylglucosamine
strain
culture
fpu7
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Granted
Application number
JP2012053008A
Other languages
English (en)
Other versions
JP5052702B1 (ja
Inventor
Kazue Naruhiro
和枝 成廣
Tapan Kumar Mazumdar
クマル マズムダル タパン
Kazuhiko Yamashita
和彦 山下
Hisashi Kimoto
久 木元
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Yaegaki Biotechnology Inc
Original Assignee
Yaegaki Biotechnology Inc
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Yaegaki Biotechnology Inc filed Critical Yaegaki Biotechnology Inc
Priority to JP2012053008A priority Critical patent/JP5052702B1/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP5052702B1 publication Critical patent/JP5052702B1/ja
Publication of JP2013183711A publication Critical patent/JP2013183711A/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Landscapes

  • Preparation Of Compounds By Using Micro-Organisms (AREA)
  • Micro-Organisms Or Cultivation Processes Thereof (AREA)
  • Agricultural Chemicals And Associated Chemicals (AREA)

Abstract

【課題】キチン分解酵素を単離することなく、安価な発酵法を用いて、キチン/キトサンからN−アセチルグルコサミン/グルコサミンを効率よく製造する方法の提供。
【解決手段】パエニバチルス属に属する細菌、そのN−アセチルグルコサミン非資化性変異株あるいはその培養上清を用いて、多糖又は多糖含有物に接触させることを含む、N−アセチルグルコサミン及び/又はキチンオリゴ糖、並びに/或いはグルコサミン及び/又はキトサンオリゴ糖の製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、N−アセチルグルコサミン非資化性キチン分解菌及びそれを用いたN−アセチルグルコサミンをはじめとするキチン/キトサン分解産物の製造方法に関する。
キチンはN−アセチルグルコサミンを構成単位とする多糖であり、主として、カニ・エビなどの甲殻類や昆虫の外皮、菌類の細胞壁に多く含まれている。一方、グルコサミンを構成単位とするキトサンは、接合菌類の細胞壁等に含有されている。特に、キチンは地球上での年間生産量がセルロースに次ぐ生物資源(バイオマス)であり、種々の生理活性を有することから注目されている。しかしながら、キチンは強固な結晶構造を有し不溶性であることから有効利用が難しく、そのほとんどが脱アセチル化処理により、より加工しやすいキトサンに変換され、利用されている。
近年、グルコサミンやN−アセチルグルコサミンには、変形性関節症の症状改善や軟骨の保護作用、抗炎症作用などの生理活性が確認され注目を集めている。また、グルコサミンやN−アセチルグルコサミンのオリゴ糖には、免疫賦活活性や抗腫瘍活性、抗菌活性なども報告されている。グルコサミンに関しては、既に欧州では医薬品としても使われており、日本でも食品素材としてN−アセチルグルコサミンと共に需要が急激に増加している。
現在、キチンオリゴ糖や、単糖であるN−アセチルグルコサミン及びグルコサミンをキチン・キトサンから製造する方法として、強酸による加水分解が利用されている(特許文献1及び2)。従来法では、強酸による加水分解に続いて強アルカリによる中和工程が必要であり、この処理により大量の塩が生成するため、環境に対する負荷が大きく、問題となっている。したがって、強酸を使うことなく、キチン/キトサンオリゴ糖及びN−アセチルグルコサミン/グルコサミンをキチン/キトサンから効率よく製造する方法の開発が求められている。
酸加水分解によらずに、キチン/キトサンからN−アセチルグルコサミン/グルコサミンを製造する方法として、キチン/キトサン分解酵素を産生する微生物を利用した方法が知られている。例えば、特許文献3には、海洋低温細菌であるビブリオ属に属するキチナーゼ生産菌を用いて、発酵法によりキチンからN−アセチルグルコサミンを生産する方法が記載されている(但し、実際には、培養液から粗酵素液を抽出してキチン分解能を評価している)。また、非特許文献1には、パエニバチルス・イリオイセンシス(Paenibacillus illioisensis)KJA-424由来のキチン分解酵素粗酵素液を用いて、キチンからN−アセチルグルコサミンやキチンオリゴ糖を製造する方法が記載されている。
木元らは、パエニバチルス属細菌NITE P-310株がαキチンに対しても高分解能を有することを見出し、該細菌が産生する4種のキチン分解酵素遺伝子を単離することに成功した(特許文献4)。しかしながら、該細菌を、発酵法によるN−アセチルグルコサミン/グルコサミンの製造に利用できるか否かについての検討はなされていなかった。
特開昭63−273493号公報 特開2000−281696号公報 特開2004−41035号公報 特開2007−61038号公報 特開2008−253252号公報
Carbohydrate Polymers 67 (2007) 256-259
本発明は、安価な発酵法を用いて、キチン/キトサンからN−アセチルグルコサミン/グルコサミンを製造し得る、キチン分解能を有する微生物を提供し、もって、安価、簡便かつ大量に、N−アセチルグルコサミン/グルコサミンを製造する方法を提供することを課題とする。
上記課題を解決すべく、本発明者らはまず、発明者の一人である木元が以前に分離した高キチン分解能を有するパエニバチルス属細菌NITE P-310株(本明細書においては、以下「FPU7株」と称する。)についてゲノム解析を行ったところ、本細菌には少なくとも7種のキチン分解酵素(キチナーゼ)遺伝子がゲノム上に存在し、それらのすべてがシグナル配列を有し、細胞外に分泌することが推定された。実際に、本菌株の培養上清からは強いキチナーゼ活性が確認された。しかしながら、キチンを主要炭素源として本菌株を培養しても、培養4−5日間で原料キチンはほぼ完全に分解してしまうにもかかわらず、培養上清中にはキチン分解物であるN−アセチルグルコサミンやキチンオリゴ糖(特にアセチルキトビオース)は殆ど蓄積していないことが明らかとなった。即ち、FPU7株は、キチン分解物を細胞内に取り込み、代謝してしまうため、発酵法によるN−アセチルグルコサミンの製造には利用できないことが示唆された。
そこで、本発明者らは、FPU7株の高キチン分解能を保持したまま、N−アセチルグルコサミンの代謝能(細胞内取り込み能)を欠損したN−アセチルグルコサミン非資化性変異株を作製すれば、培養上清からN−アセチルグルコサミンを効率よく回収しうると発想し、FPU7株に変異原処理を施すことにより、N−アセチルグルコサミン代謝能を欠損し、かつN−アセチルグルコサミン以外の炭素源により増殖可能なFPU-7変異株(6株)を得ることに成功した。このうちの1株(「FPU7-3株」と命名した。)について解析した結果、本菌株をキチン含有培地中で培養すると、培養上清中に高濃度のN−アセチルグルコサミンを蓄積することを確認して、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下を提供するものである。
[1]キチン分解能を有するパエニバチルス属に属する細菌であって、以下の(a)及び(b)の性質を有する細菌。
(a)N−アセチルグルコサミン代謝能を有しない。
(b)N−アセチルグルコサミン以外の炭素源により増殖可能である。
[2]パエニバチルス・エスピー(Paenibacillus sp.)FPU7株(NITE P-310)を変異原処理することにより得られる、上記[1]記載の細菌。
[3]パエニバチルス・エスピーFPU7-3株(受託番号FERM P-22220)もしくはその変異株である、上記[2]記載の細菌。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかに記載の細菌を、キチン並びに/或いはキトサンを含有する培地中で培養することを含む、N−アセチルグルコサミン及び/又はキチンオリゴ糖、並びに/或いはグルコサミン及び/又はキトサンオリゴ糖の製造方法。
[5]前記培養物の培養上清からN−アセチルグルコサミン及び/又はキチンオリゴ糖、並びに/或いはグルコサミン及び/又はキトサンオリゴ糖を回収することをさらに含む、上記[4]記載の方法。
[6]上記[1]〜[3]のいずれかの細菌と、キチン及び/又はキトサンとを組み合わせてなる、植物生長促進及び/又は耐病性向上剤。
[7]上記[4]で得られる培養物、又は上記[5]で得られる培養上清を含有してなる、植物生長促進及び/又は耐病性向上剤。
本発明の細菌は、安定で強固な結晶構造を有するキチン(例えば、カニ、エビ等の甲殻類に含まれるキチン)を効率よく分解することができ、なおかつその分解産物であるN−アセチルグルコサミンを資化しないため、キチン分解酵素を単離することなく、安価な発酵法を用いて、キチン/キトサンからN−アセチルグルコサミン/グルコサミン、或いはそれらを構成単位とするオリゴ糖を効率よく製造することができる。
FPU7株のジャーファーメンタ培養によるキチン分解及びN−アセチルグルコサミン(NAG)の生成を示す図である。 NAG培地でのFPU7株とFPU7-3株の増殖の様子を示す図である。 FPU7株及びFPU7-3株の培養前後のNAG濃度の変化を示す図である。 FPU7株及びFPU7-3株の培養におけるOD660の経時変化を示す図である。 FPU7株(図中、7-1又はFPU7-1)及びFPU7-3株の培養におけるOD660、残存NAG(%)の経時変化を示す図である。 FPU7株(図中、FPU7-1)及びFPU7-3株を培養した培地における、NAG及びアセチルキトビオースの残存率(%)を示した図である。 FPU7株(図中、FPU7-1)及びFPU7-3株のフラスコ培養における培養液中のNAG生成濃度(mg/L)の経時変化を示した図である。 FPU7-3株のジャーファーメンター培養における培養液中のNAG及び二糖の生成濃度の経時変化を示した図である。
本発明は、キチン分解能を有するパエニバチルス属に属する細菌であって、以下の(a)及び(b):
(a)N−アセチルグルコサミン代謝能を有しない
(b)N−アセチルグルコサミン以外の炭素源により増殖可能である
の性質を有する細菌(以下、「本発明の細菌」ともいう。)を提供する。
本発明の細菌は、パエニバチルス属に属する細菌(以下、「パエニバチルス属細菌」ともいう)であって、キチン(主としてN−アセチル−D−グルコサミン単位からなるアミノ多糖)、特に、非晶質のコロイダルキチンのみならず、安定で強固な結晶構造を有するαキチンをも効率よく分解し、単糖であるN−アセチルグルコサミンやオリゴ糖(例えば、二糖であるアセチルキトビオース、三糖であるアセチルキトトリオース等)を生成する。該細菌は、キチンだけでなく、キトサン(主としてD−グルコサミン単位からなるアミノ多糖)をも分解し、単糖であるグルコサミンやオリゴ糖(例えば、二糖であるキトビオース、三糖であるキトトリオース等)を産生する能力を有していてもよい。
キチン分解能を有するパエニバチルス属細菌は、例えば土壌、好ましくは、カニ殻農法の行われている畑地の土壌のような、キチンが存在する土壌などを、適当な水性液(例、水、リン酸緩衝液等)に懸濁し、該懸濁液をキチンを含有する培地中で培養して、培地中のキチン量が減少したサンプルを、キチンを含有する固形培地上に播種し、キチンの分解により培地上に形成されるハローを指標として、選択・分離することができる。選択された菌がパエニバチルス属に属することは、例えば、特開2008-253252号公報に記載される形態学的、生理学的並びに分子系統学的解析を行い、得られた表現形質を、文献(例えば、Bergey's Manual of Systematic Bacteriology, Vol. 2, Williams & Wilkins, Baltimore (1984)、Bergey's Manual of Determinative Bacteriology (9th ed.) , J. G. Holt, N. R. Krieg, P. H. A. Sneath, J. T. Staley, S. T. Williams (ed), Williams & Wilkins, Baltimore (1994) 等)を参考にして総合的に判断することにより、決定することができる。
一般に、キチン分解能を有する微生物は、その分解物であるN−アセチルグルコサミンやキチンオリゴ糖を細胞内に取り込み、炭素源として利用すべくキチン分解能を獲得したと推測されるので、キチンの分解により生成したN−アセチルグルコサミンやキチンオリゴ糖の少なくとも一部は、当該細菌自体により消費されて培養上清から失われる可能性が高い。また、N−アセチルグルコサミンの取り込み・代謝能力の低い微生物は淘汰されることが予測されるので、N−アセチルグルコサミン代謝能を有しないキチン分解菌を天然より分離することは容易ではないかもしれない。
従って、本発明の好ましい実施態様においては、キチン分解能を有し、かつN−アセチルグルコサミン代謝能を有するパエニバチルス属細菌を親株として、人工的に突然変異を導入することにより、キチン分解能を保持したまま、N−アセチルグルコサミン代謝能を欠損したパエニバチルス属細菌が作製される。ここで突然変異を導入する方法としては、例えば、変異原処理によるランダム変異導入、あるいは、部位特異的変異導入法が用いられ得る。部位特異的変異導入法の場合、例えば、N−アセチルグルコサミンの細胞内取り込みに関与する輸送担体の遺伝子や、N−アセチルグルコサミンを炭素源として利用するための代謝酵素の遺伝子に変異を導入し、それらの機能を欠損させることにより、N−アセチルグルコサミンを細胞外(培養上清)や細胞内に蓄積させることができる。しかしながら、キチン分解能を有するパエニバチルス属細菌におけるN−アセチルグルコサミンの細胞内取り込み及び代謝に関連する遺伝子群についての知見は必ずしも十分ではないので、より好ましい態様においては、突然変異導入法として変異原処理が用いられる。
ここで変異原としては、例えば、アルキル化剤(N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)、エチルメタンスルホン酸(EMS)等)、ヌクレオチド塩基類似体(ブロモウラシル等)、ニトロソ化合物、DNAインターカレーター、DNA架橋剤、放射線、紫外線等が挙げられるが、これらに限定されない。
変異原処理されたキチン分解菌からN−アセチルグルコサミン代謝能を有しない変異株をスクリーニングする方法として、例えば、酸性pHで変色する細胞毒性の低いpH指示薬(例えば、ブロモクレゾールパープル(BCP)等)を含む、中性ないし弱アルカリ性の、N−アセチルグルコサミンを単一の炭素源とする培地(NAG最少培地)上で変異原処理した菌を培養し、コロニー周辺の該pH指示薬の色の変化を指標に、NAG最少培地中で増殖能を有しないNAG非資化性変異株を選択する方法が挙げられる。本法によれば、NAG資化能を保持する菌株はエネルギー代謝により有機酸を生じるため、コロニー周辺のpH指示薬の色が酸性pH域の色(BCPの場合、黄色)に変化するが、NAG非資化性変異株では有機酸を生じず、pH低下が起こらないため、コロニー周辺は変色しない(BCPの場合、紫色)。尚、ここで「増殖能を有しない」とは、完全に増殖能力を欠くだけでなく、親株に対してNAG培地中での増殖能力(例えば、比増殖速度や平均分裂時間を指標とすることができる。)が50%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下にまで低下している場合も包含する意味で用いる。従って、コロニー周辺が全く変色しない菌株のみならず、親株のコロニー周辺に生じる変色プラークと比較して顕著に変色域が小さいコロニーを生じる菌株も、本発明におけるNAG非資化性変異株に包含される。
好ましい態様においては、有機酸の生成を指標とした上記スクリーニングに先立って、1次スクリーニングとして、NAG最少培地と、N−アセチルグルコサミンを資化して菌体が細胞分裂を起こすと菌が死滅するような薬剤(例えば、ペニシリン系抗生物質等の細胞壁合成阻害剤など)とを用いて、NAG最少培地中で増殖能を有しないNAG非資化性変異体を濃縮することができる。即ち、当該薬剤を含有するNAG最少培地中で変異原処理した菌を培養すると、NAG資化能を保持する菌株は細胞分裂を起こすが、浸透圧変化への対応に必要な細胞壁の生合成が当該薬剤により阻害されるため、菌は死滅する。これに対し、NAGを代謝できない変異株は細胞分裂しないため生存する。従って、一定期間培養後に生菌を回収することにより、NAG非資化性変異株を濃縮することができ、上記本スクリーニング(2次スクリーニング)における選択効率を改善することができる。
N−アセチルグルコサミン代謝能を欠損した変異株の中には、N−アセチルグルコサミン以外の炭素源をも利用できない、従って、グルコース、デキストリン、可溶性澱粉、ショ糖などの他の炭素源の存在下でも増殖能を有しないものも含まれている。このような変異株では、キチンを分解してN−アセチルグルコサミンやキチンオリゴ糖を培養上清中に生成することはできたとしても、菌体増殖に伴う処理能力の増大による生産効率の上昇という発酵法の利点を享受することができず、培養上清から酵素液を部分精製して使用する従来の方法と比較して大きなメリットはない。そこで、N−アセチルグルコサミン以外の炭素源を含有する培地を用いて、選択された変異株をさらに培養し、増殖能を有する菌株を選択する。ここで「増殖能を有する」とは、上記「増殖能を有しない」の定義から外れることを意味する。即ち、「増殖能を有する」とは、親株に対してN−アセチルグルコサミン以外の炭素源を含有する培地中での増殖能力(例えば、比増殖速度や平均分裂時間を指標とすることができる。)が50%超、好ましくは80%超、より好ましくは90%超で保持されている場合を意味し、必ずしも親株と同等もしくはそれ以上の増殖能を有する必要はない。
NAG最少培地による選択とN−アセチルグルコサミン以外の炭素源を含有する培地による選択とは、どちらを先に行ってもよいし、上記選択で得られた変異株すべてについて、2つの培地による選択を並行して実施してもよい。例えば、慣用のレプリカ法を用いて、当該変異株のコロニーを、NAGを単一炭素源としたNAG最少培地とN−アセチルグルコサミン以外の炭素源を含有する培地とにプレーティングし、N−アセチルグルコサミン以外の炭素源を含有する培地ではコロニーを形成しかつNAGを単一炭素源とした最小培地ではコロニーを形成しない菌株を、キチン分解能を有し、N−アセチルグルコサミン資化能を有さず、かつN−アセチルグルコサミン以外の炭素源により増殖可能なパエニバチルス属細菌、即ち、本発明の細菌として選択することができる。
ここで、突然変異を導入される対象である親株としての「キチン分解能を有するパエニバチルス属細菌」としては、特に限定されるものではないが、好ましくはパエニバチルス・エスピー(Paenibacillus sp.)FPU7株が挙げられる。FPU7株は、福井県内の土壌から、カニ殻由来粉末状キチンを含む培地を用いたスクリーニングにより分離・同定された、キチン高分解能を有するパエニバチルス属細菌である。FPU7株の菌学的特徴(形態学的・生理学的・分子系統学的性質)は特開2008-253252号公報に記載されている。また、FPU7株は、千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに、受託番号NITE P-310を付されて、2007年2月2日より寄託されている。
後述の実施例においては、FPU7株を親株としてエチルメタンスルホン酸(EMS)による変異原処理を行い、スクリーニングを実施した結果、約109細胞から最終的に6株の、N−アセチルグルコサミン資化能力を有さず、かつN−アセチルグルコサミン以外の炭素源により増殖可能なFPU7株の変異株を取得することに成功した。これらのうち、FPU7-3株と命名した変異株は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305-8566 茨城県つくば市東1-1-1 つくばセンター 中央第6)に、受託番号FERM P-22220を付されて、2012年2月10日付で受託された(尚、2012年4月より、業務移管により、本菌株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに引き続き寄託される)。
本発明の細菌は、上記のようにして得られるN−アセチルグルコサミン非資化性キチン分解菌に、さらに突然変異が導入された変異株であってもよい。ここで突然変異を導入する方法としては、例えば、変異原処理によるランダム変異導入、あるいは、部位特異的変異導入法が用いられ得る。部位特異的変異導入法の場合、例えば、キチン/キトサン分解酵素の活性をさらに向上させるように酵素遺伝子に変異導入したり、あるいは、キチンの分解により生成する主要なオリゴ糖であるアセチルキトビオースのトランスポーター遺伝子に変異を導入することにより、N−アセチルグルコサミン/グルコサミンだけでなく、アセチルキトビオース/キトビオースの細胞内取り込みも遮断し、アセチルキトビオース/キトビオースをも細胞外(培養上清)に蓄積させたりすることもできる。また、アセチルキトビオース/キトビオースを単糖に分解するアセチルグルコサミニダーゼ遺伝子に分泌シグナルを付加し、細胞外に該酵素を分泌させることにより、細胞外のアセチルキトビオース/キトビオースの、N−アセチルグルコサミン/グルコサミンへの分解を促進することもできる。さらに、リボソームを標的とする薬剤(例えば、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、ジェネティシン、パロモマイシン、リンコマイシン、フシジン酸、チオストレプトン等のタンパク質合成阻害剤)に対する耐性を付与する遺伝子変異(例えば、リボソームタンパク質S12(rspL)の88番目のLysがGluに変化したK88E変異、86番目のArgがHisに変化したR86H変異、101番目のLysがArgに変化したK101R変異、あるいはリボソーム小サブユニットメチル基転移酵素G(rsmG)遺伝子の欠損変異など)は、リボソーム改変により抗生物質や酵素等の有用物質の生産能を向上させることができるので、キチン/キトサン分解酵素の高生産株を取得するのに有利である。同様に、RNAポリメラーゼを標的とする薬剤(例えば、リファンピシン等の転写阻害剤)に対する耐性を付与する遺伝子変異(例えば、RNAポリメラーゼβサブユニットの437番目のHisがTyrに変化したH437Y変異、440番目のArgがCysに変化したR440C変異など)は、RNAポリメラーゼ改変により目的遺伝子(キチン/キトサン分解酵素遺伝子)の転写効率を向上させることができるので、キチン/キトサン分解酵素の高生産株を取得するのに有利である。
あるいは、上記と同様の変異原処理を行い、上記いずれかの変異が導入された菌株を選択することもできる。薬剤選択によるリボソーム(J. Bacteriol., 178: 7276-7284 (1996), バイオサイエンスとインダストリー、55: 863-864 (1997)等)又はRNAポリメラーゼ(Appl. Environ. Microbiol., 67: 1885-1892 (2001), J. Bacteriol., 184: 3984-3991 (2002)等)改変法を用いる場合、所定の薬剤(例えば、タンパク質合成阻害剤、転写阻害剤)とキチン又はキトサンを含有する培地上で変異原処理した菌を培養し、ストレプトマイシン耐性で、かつキチン又はキトサン溶解プラークが大きなコロニーを選択することができる。
上記のようにして得られる本発明の細菌やその他のN−アセチルグルコサミン非資化性キチン分解性菌は、自体公知の方法により適当な培地中で維持・増殖培養することができる。当該培地中にキチン/キトサンを添加すると、当該菌の細胞外に分泌されたキチン/キトサン分解酵素の作用によりキチン/キトサンは分解され、N−アセチルグルコサミン及び/又はキチンオリゴ糖(例えば、二糖であるアセチルキトビオースなど)、並びに/或いはグルコサミン及び/又はキトサンオリゴ糖(例えば、二糖であるキトビオース)が培地中に生成する。ここで本発明の細菌及び上記の本発明のスクリーニング方法により選択された微生物は、N−アセチルグルコサミン資化能を有しないので、培地中及び細胞内(特に、N−アセチルグルコサミン取り込み能を有しない場合はほぼ培地中のみ)に、これらのキチン/キトサン分解物が、微生物により消費されずに蓄積する。
従って、本発明はまた、本発明の細菌又は本発明のスクリーニング法により選択される微生物を、キチン並びに/或いはキトサンを含有する培地中で培養することを特徴とする、N−アセチルグルコサミン及び/又はキチンオリゴ糖、並びに/或いはグルコサミン及び/又はキトサンオリゴ糖の製造方法を提供する。
培養に使用される培地としては液体培地が好ましい。また、培地は、対象となる微生物の生育に必要な炭素源、窒素源、無機物などを含有することが好ましい。ここで、炭素源としては、例えば、グルコース、デキストリン、可溶性澱粉、ショ糖などが;窒素源としては、例えば、アンモニウム塩類、硝酸塩類、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、フィッシュミール、酵母エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などの無機又は有機物質が;無機物としては、例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウムなどがそれぞれ挙げられる。また、培地には、酵母エキス、ビタミン類、生長促進因子などを添加してもよい。培地のpHは、好ましくは約5〜約8である。より具体的には、パエニバチルス属細菌の培養に適した培地として、例えば、カゼイン消化物17.0g、大豆粕のパパイン消化物3.0g、デキストロース2.5g、塩化ナトリウム5.0g及びリン酸水素二カリウム2.5gを含有するTryptic Soy Broth (BECTON DICKINSON, カタログ番号211825)(pH 7.2±0.2) や、SBG-Y培地(0.2% 硫酸アンモニウム、0.7% リン酸水素二カリウム、0.3% リン酸二水素カリウム、0.1% クエン酸ナトリウム二水和物、0.02% 硫酸マグネシウム七水和物、0.1% D-グルコサミン塩酸塩、0.5% 酵母エキス)などが挙げられる。
培地に添加されるキチン/キトサンとしては、キチン及び/又はキトサンを成分として含有する任意の材料が使用可能であり、例えば、甲殻類の殻、キノコ(例、シイタケ、マンネンタケ、マイタケ、シメジ、コムラサキシメジ、ヒメマツタケ(アガリクスともいう));例えば、Bull. Agr. Shizuoka Univ., No.38, p29-35 (1988) 参照)、昆虫(例、ハエ、バッタ)、イカ由来成分(イカの中心にみられる硬い骨のような透き通った白い組織)、カビ(例、コウジカビ (Aspergillus)、ユミケカビ (Absidia))の細胞壁成分が挙げられる。甲殻類としては、例えば、カニ、エビが挙げられる。カニとしては、例えば、ズワイガニ(例、越前ガニ、松葉ガニ)、タラバガニが挙げられる。
培地へのキチン/キトサンの添加濃度は特に限定されないが、例えば、0.1〜30w/v%、好ましくは0.5〜20w/v%、より好ましくは1〜15w/v%の範囲で適宜設定することができる。
培養は、対象となる微生物において通常使用される条件下で行うことができる。例えば、パエニバチルス属細菌の培養は、試験管、培養フラスコ等の培養器に一定量の培地を入れ、パエニバチルス属細菌を接種し、試験管振とう機、レシプロカルシェーカー、ロータリーシェーカー等を用い、好気条件下で20〜50℃にて振とう培養により行うことができる。より大規模な培養は、数L規模のジャーファーメンタや数100 L〜数100 t規模の工業的タンク等の大規模培養槽を用いての通気攪拌培養にて行うことができる。培養時間は特に制限はないが、例えば、107〜109細胞/mlとなるまで培養することができる。
上記のようにして得られるN−アセチルグルコサミン非資化性キチン分解菌の培養物に含まれるキチン/キトサンの分解物としては、例えば、単糖(例、N−アセチルグルコサミン、グルコサミン)、オリゴ糖(例、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖)が挙げられる。N−アセチルグルコサミンは、ムコ多糖類生合成の促進による変形性関節症の改善や美肌効果、炎症抑制作用、ビフィズス菌増殖促進作用(整腸機能)、肌の色素沈着を減少させる美白効果等を有することが知られている。グルコサミンは、ムコ多糖類生合成の促進作用による変形性関節症の改善や美容効果、炎症抑制作用、腫瘍細胞の増殖抑制作用等を有することが知られている。キチンオリゴ糖は、免疫賦活効果、ビフィズス菌増殖促進作用(整腸機能)、ヒアルロン酸量増加作用、植物生体防御機構活性化作用(エリシター活性)等を有することが知られている。キトサンオリゴ糖は、抗菌作用、植物生体防御機構活性化作用(エリシター活性)、抗腫瘍活性、肝機能改善作用、等を有することが知られている。
従って、N−アセチルグルコサミン非資化性キチン分解菌の培養液は、そのままで、あるいは適当に処理した後、例えば、本発明の植物の生長促進及び/又は耐病性向上剤として任意の適切な剤形に調製され得る。剤形としては、液剤、乳剤、エマルジョン、懸濁剤、水和剤、粒剤、等の一般的な剤形が挙げられるが、これらに限定されない。培養液の処理方法としては、例えば、当該培養液を水もしくは適当な希釈液(例えば、等張緩衝液や培地等)で適切な菌体濃度となるまで希釈することができる。あるいは、培養液をろ過もしくは遠心分離して培養上清を回収し、そのままで、あるいは濃縮もしくは希釈して製剤化することもできる。
一方、N−アセチルグルコサミン非資化性キチン分解菌をキチン/キトサンを含む任意の適当な培地で培養した後、菌体を回収し、適当な分散媒(例えば、等張緩衝液や新鮮培地等)に再懸濁することもできる。さらに、回収した菌体を常法により凍結乾燥することもできる。あるいはまた、培養液に10-20%のグリセロールを添加して-80℃で凍結保存し、用時融解して培地等に再懸濁して用いることもできる。また、当該細菌は芽胞(内生胞子)を形成するが、芽胞は熱や乾燥などの環境変化に対して耐性を示し長期間安定に保存できるので、芽胞の形態で製品化し、用時発芽させ菌体を増殖させてもよい。当該菌体は、キチン及び/又はキトサンと組み合わせて用いられる。キチン及び/又はキトサンを併用することにより、当該菌体が存在する根圏土壌中にN−アセチルグルコサミン/グルコサミンやキチンオリゴ糖/キトサンオリゴ糖が生成して、肥料効果やエリシター活性を発揮することで、植物の生長が促進され、また、耐病性が向上する。キチン及び/又はキトサンとしては、例えばカニ殻の粉砕物のような通常廃棄物として処分されるものを有効利用することができる。キチン及び/又はキトサンは、N−アセチルグルコサミン非資化性キチン分解菌の菌体とともに製剤中に配合してもよいし、別途施用してもよい。
上記のようにして調製されるN−アセチルグルコサミン非資化性キチン分解菌の培養液、菌体もしくは培養上清又はその処理物には、農薬学的又は肥料学的に許容される添加物を配合することができる。
本発明の植物の生長促進及び/又は耐病性向上剤中のN−アセチルグルコサミン非資化性キチン分解菌の菌体濃度は、植物の生長促進及び/又は耐病性向上に有効な量の菌体が含有される限り特に制限されないが、例えば、約10細胞/ml以上、好ましくは約10細胞/ml以上、より好ましくは約10細胞/ml以上の範囲で適宜設定することができる。
本発明の植物の生長促進及び/又は耐病性向上剤は、例えば、培養液の形態で根圏土壌に施用する場合、1植物個体あたり約10細胞以上、好ましくは約10細胞以上、より好ましくは約1011細胞以上となるように施用することができる。
本発明の植物の生長促進及び/又は耐病性向上剤の施用時期は、植物の栽培前及び栽培中のいずれの時期であっても良い。施用回数も特に制限されないが、N−アセチルグルコサミン非資化性キチン分解菌(生菌)を含む剤形(例えば、培養液)の場合は1〜5回、好ましくは1〜3回程度であり、生菌を含まない剤形(例えば、培養上清)の場合には、1〜20回、好ましくは1〜10回程度が挙げられる。
本発明の植物の生長促進及び/又は耐病性向上剤は、植物の生長促進及び/又は耐病性向上効果を妨げない限り、キチン及びキトサン以外の他の肥料成分や農薬等と組み合わせて用いることができる。そのような肥料成分や農薬は、本発明の植物の生長促進及び/又は耐病性向上剤と配合して合剤として用いてもよいし、別個に植物に施用されてもよい。あるいはまた、本発明の植物の生長促進及び/又は耐病性向上剤は、腐葉土、バーミキュライト、鹿沼土、赤玉土等の自体公知の培土と混合して用いてもよい。
一方、上記のようにして得られるN−アセチルグルコサミン非資化性キチン分解菌の培養物に含まれるキチン/キトサンの分解物を、食品(機能性食品、サプリメント等)、化粧品、医薬品として利用する場合、培養上清及び/又は菌体からキチン/キトサンの分解物を単離・精製することが望ましい。培養上清からの回収は、培養物をろ過もしくは遠心分離して培養上清を回収した後、必要に応じて濃縮等を行った後、例えば、高速液体クロマトグラフィーなどにより、単糖(N−アセチルグルコサミン/グルコサミン)、オリゴ糖(アセチルキトビオース/キトビオース、アセチルキトトリオース/キトトリオース等)を分離し、それぞれのピークフラクションを回収することにより行うことができる。場合によって菌体内に一部蓄積し得るキチン/キトサン分解物の回収は、菌体を適当な緩衝液中で破砕し、遠心分離によりデブリスを除去し、得られる上清を上記と同様に処理することにより行うことができる。
このようにして単離・精製されたN−アセチルグルコサミン/グルコサミンやキチンオリゴ糖/キトサンオリゴ糖は、それぞれ自体公知の方法により、それらの用途に応じて、適切な剤形に製剤化することができる。
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、これらは単なる例示であって本発明の範囲を何ら制限するものではない。
(実験例1)
キチン分解菌FPU7株のキチン分解システムを解明する目的で、ゲノムのドラフト解析を行った。その結果、FPU7株には少なくとも7種類以上のキチン分解酵素(キチナーゼ)遺伝子がゲノム上に存在していた。これら全ての遺伝子には、キチナーゼを細胞外へ分泌させるためのシグナル配列が確認された。
FPU7株の培養上清中のキチナーゼ活性を測定したところ、強い酵素活性を確認した。キチンの分解産物は、主として単糖であるアセチルグルコサミン(GlcNAc)と二糖のキトビオース((GlcNAc))であるが、キチンを主炭素源としてFPU7株を培養すると、培養4〜5日で原料キチンをほぼ完全に分解するが、培養液中にキチン分解産物である単糖、二糖などをほとんど蓄積しない(微量である)ことが確認された(図1)。すなわち、キチンは培養6日間で5%から0.24%に減少した。キチン分解率は95.2%以上であるが、培養液中のNAG蓄積は0.2%しかなかった。同様に、二糖の蓄積も殆どなかった。
FPU7株は細胞外でキチンを単糖と二糖にまで分解してから細胞内へ取り込み、資化することが示唆された。
(実験例2)キチン分解菌変異処理の試みとスクリーニング
キチンの代謝欠損変異株を取得することができれば、単糖と二糖の収率を大きく向上させることができると考え、アルキル化剤であるエチルメタンスルホン酸(EMS)によるFPU7株の変異育種を以下のように行った。
新鮮なFPU7株のコロニーをかき取り、50mLスピッツ管において10mLのカツオ培地に懸濁し、30℃で振とう培養した。一時間ごとにOD660を測定し、対数増殖期であるOD=0.5まで培養した(10細胞/mL)。生存率が10〜50%となるように、培養液1mLに対して40μLのEMSを加え、室温で30分放置した。8000 rpmで3分間遠心分離し、PBSにより洗浄した。
このようにして変異処理を行ったFPU7株をスクリーニングすることにより、キチンは分解するがN-アセチルグルコサミンを資化せず、N-アセチルグルコサミン以外の炭素源で増殖可能な株(FPU7-3株)を得た。
FPU7-3株は二糖の代謝能力を保持していたことから、細胞内への単糖と二糖の取り込みはそれぞれ異なる経路であることが示唆された。
(実験例3)野生型(FPU7株)と変異株(FPU7-3株)のNAG資化性の確認
2%のNAGを単一炭素源とした培地を用い、FPU7株及びFPU7-3株を4日間培養し、培養液中の残存NAG量を測定した。その結果を図2(NAG培地での野生株と変異株の増殖)及び図3(培養前後のNAG濃度の変化)に示す。
FPU7株はNAGを細胞内に取り込み、資化して増殖し、培養液が濁っていた。一方、FPU7-3株はNAGを細胞内に取り込めず、増殖もできないため、培養液が濁らないことが確認された(図2)。
図3は各培養液中の残存NAG量を示す。FPU7株では培地に添加したNAGが殆ど消費されたが、FPU7-3株ではNAGが消費されず増殖もしないことから添加したNAGが殆ど残存していた。
以上の結果から、FPU7-3株は、NAGを細胞内に取り込むトランスポーターに何らかの変異が起こっていることが示唆された。
(実験例4)野生株と変異株の増殖特性の比較
(1)グルコース培地での増殖パターン
野生株(FPU7株)と変異株(FPU7-3株)の増殖特性を比較する目的で、グルコースを炭素源とした培養培地(グルコース 0.5%、酵母エキス 0.5%、ペプトン 0.5%(pH 6.5))で両菌株の好気培養を行った。培養条件は、5Lジャー容器(実用量3L)、培養温度30℃、通気量3L/min、撹拌速度300rpmであった。OD660の経時変化を図4に示す。
野生株および変異株の増殖の遅延時間(lag-time)はほぼ同じであるが、対数増殖期における増殖速度が異なることが分かった。図4より、両菌株の基本的なパラメーターである比増殖速度(μ/h)及び平均分裂時間(doubling time, dt)を算出したところ、両パラメーター共に1.5倍の違いがあることが分かった(表1)。すなわち、グルコースを炭素源にした培地では野生株の方が変異株よりも増殖が約1.5倍速いことが確認された。
(2)NAG培地における野生株と変異株の増殖特性
以下の条件で前培養及び本培養を行った。
<前培養>
培地:酵母エキス1.0% ペプトン1.0% グルコース 1.0%
50mL/300mLバッフル付三角フラスコ 30℃ 100rpm 16時間培養。
<本培養>
培地:NAG 0.5% 酵母エキス 0.5%
3L/5Lジャー容器 300rpm 1vvm 植菌率1.7%
結果を図5に示す。比増殖速度は、FPU7株が0.607μ/h、FPU7-3株が0.205μ/hと算出された。
(3)キチン培地におけるキチナーゼ活性の比較
4日間好気培養(培地:酵母エキス 0.5% キチン 3%を含む。培養は50mL/坂口フラスコ、30℃、140rpmで行い、培養液中のキチナーゼ活性を測定した。
キチナーゼ活性は、キトペントースを基質とし、40℃で1分間に1μgの基質を分解する活性を1U(単位)と表す。
FPU7株のキチナーゼ活性は37U/mL、FPU7-3株のキチナーゼ活性は70U/mLであり、変異株のキチナーゼ活性は野生株より1.8倍以上高かった。
これらの結果から、FPU7株及びFPU7-3株は、増殖特性、NAGの資化性、キチナーゼ活性において異なる結果を示し、これらは変異処理の影響であろうと考えられた。
(4)NAG及びキトビオースの代謝能の比較
NAG(単糖)及びアセチルキトビオース(二糖)を炭素源とした培地(NAG又は、アセチルキトビオース、0.2%;カツオエキス1%)を50ml/バッフル付き300mlの三角フラスコにて30℃、160rpmで野生株及び変異株を2日間好気的に培養し、各糖の残存率を調べた結果を図6に示す。単糖NAGの代謝に関して、野性株では培地に添加したNAGの90%以上が消費されたが、それに比べて、変異株の培養液中には95%のNAGが存在していた。一方、アセチルキトビオース(二糖)の代謝に関しては、野生株及び変異株共にほぼ完全に消費していた。
(5)野生株及び変異株のNAG生成能の比較
酵母エキス 0.5%及びキチン 1%を含む培地、50mL/バッフル付き300mL三角フラスコ、160rpm、30℃で3日間、両菌株を培養した。
結果を図7に示す。これにより、変異株は野生株よりも約5倍高いNAGを生成し、蓄積していることが確認された。したがって、FPU7株及びFPU7-3株は、増殖特性、NAGの資化性、キチナーゼ活性及びNAGの生成能(蓄積能)などにおいて明らかに異なる結果を示し、これらは上記変異処理の影響であろうと思われた。
(実施例1)NAGの高濃度生成の検討(10Lジャーファーメンター)
以下の条件でFPU7-3株の前培養及び本培養を行った。
<種培養>
培地:1.0%酵母エキス 1.0%ペプトン 1.0%グルコース(pH6.5)
50mL/300mLバッフル付三角フラスコにて30℃、160rpmで16時間培養。
<前培養>
培地:0.5%酵母エキス 3.0%キチン(pH6.8)
3L/5Lジャー 300rpm 通気1.0L/分 30℃ 4日間培養
<本培養>
培地:6%キチンを含む培地を調整した。(pH5.5〜6.0)
6L/10Lジャー 150rpm 通気なし 40℃ 13日間
結果を図8に示す。培養13日目にはNAG及び二糖の生成濃度は5.03%となった。よって、キチン360gよりNAGは302g蓄積された。よって、基質であるキチンの83%以上のNAGを生成された。
本発明の細菌によれば、キチン分解酵素を単離することなく、安価な発酵法を用いて、キチン/キトサンからN−アセチルグルコサミン/グルコサミンを効率よく製造することができるので、N−アセチルグルコサミン/グルコサミンの工業的製造への応用が可能である。

Claims (7)

  1. キチン分解能を有するパエニバチルス属に属する細菌であって、以下の(a)及び(b)の性質を有する細菌。
    (a)N−アセチルグルコサミン代謝能を有しない。
    (b)N−アセチルグルコサミン以外の炭素源により増殖可能である。
  2. パエニバチルス・エスピー(Paenibacillus sp.)FPU7株(NITE P-310)を変異原処理することにより得られる、請求項1記載の細菌。
  3. パエニバチルス・エスピーFPU7-3株(受託番号FERM P-22220)もしくはその変異株である、請求項2記載の細菌。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の細菌を、キチン並びに/或いはキトサンを含有する培地中で培養することを含む、N−アセチルグルコサミン及び/又はキチンオリゴ糖、並びに/或いはグルコサミン及び/又はキトサンオリゴ糖の製造方法。
  5. 前記培養物の培養上清からN−アセチルグルコサミン及び/又はキチンオリゴ糖、並びに/或いはグルコサミン及び/又はキトサンオリゴ糖を回収することをさらに含む、請求項4記載の方法。
  6. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の細菌と、キチン及び/又はキトサンとを組み合わせてなる、植物生長促進及び/又は耐病性向上剤。
  7. 請求項4で得られる培養物、又は請求項5で得られる培養上清を含有してなる、植物生長促進及び/又は耐病性向上剤。
JP2012053008A 2012-03-09 2012-03-09 N−アセチルグルコサミン非資化性キチン分解菌及びその用途 Active JP5052702B1 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2012053008A JP5052702B1 (ja) 2012-03-09 2012-03-09 N−アセチルグルコサミン非資化性キチン分解菌及びその用途

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2012053008A JP5052702B1 (ja) 2012-03-09 2012-03-09 N−アセチルグルコサミン非資化性キチン分解菌及びその用途

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP5052702B1 JP5052702B1 (ja) 2012-10-17
JP2013183711A true JP2013183711A (ja) 2013-09-19

Family

ID=47189500

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2012053008A Active JP5052702B1 (ja) 2012-03-09 2012-03-09 N−アセチルグルコサミン非資化性キチン分解菌及びその用途

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP5052702B1 (ja)

Cited By (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2015059071A (ja) * 2013-09-19 2015-03-30 秀夫 草桶 キチン及び/若しくはキトサン又はキチン及び/若しくはキトサン含有物、並びにキチン及び/若しくはキトサン分解能を有する微生物の培養物を含む肥料、並びにその製造方法等
JP2016166169A (ja) * 2015-03-06 2016-09-15 株式会社ファンケル ダイエット用の製剤
JP6163619B1 (ja) * 2016-03-29 2017-07-12 Umiウェルネス株式会社 腸内細菌叢のバランスを改善するための組成物及び方法

Family Cites Families (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP3725923B2 (ja) * 1995-11-20 2005-12-14 焼津水産化学工業株式会社 植物活力剤
JP4404332B2 (ja) * 2003-04-28 2010-01-27 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 植物病害防除剤及びそれを用いた植物の病害防除法
JP5447761B2 (ja) * 2007-03-14 2014-03-19 公立大学法人福井県立大学 キチン・キトサンを分解する新種の微生物及びその利用方法

Cited By (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2015059071A (ja) * 2013-09-19 2015-03-30 秀夫 草桶 キチン及び/若しくはキトサン又はキチン及び/若しくはキトサン含有物、並びにキチン及び/若しくはキトサン分解能を有する微生物の培養物を含む肥料、並びにその製造方法等
JP2016166169A (ja) * 2015-03-06 2016-09-15 株式会社ファンケル ダイエット用の製剤
JP6163619B1 (ja) * 2016-03-29 2017-07-12 Umiウェルネス株式会社 腸内細菌叢のバランスを改善するための組成物及び方法
JP2017178929A (ja) * 2016-03-29 2017-10-05 Umiウェルネス株式会社 腸内細菌叢のバランスを改善するための組成物及び方法

Also Published As

Publication number Publication date
JP5052702B1 (ja) 2012-10-17

Similar Documents

Publication Publication Date Title
Jahromi et al. Marine bacterial chitinase as sources of energy, eco-friendly agent, and industrial biocatalyst
Castro et al. Chitin extraction from Allopetrolisthes punctatus crab using lactic fermentation
CN112210513B (zh) 产褐藻胶裂解酶菌株及其应用
CN108929859B (zh) 一种类芽胞杆菌菌株hb172198及其应用
Francisco et al. Deproteination and demineralization of shrimp waste using lactic acid bacteria for the production of crude chitin and chitosan
JP5052702B1 (ja) N−アセチルグルコサミン非資化性キチン分解菌及びその用途
US8383368B2 (en) Method for fermentative production of N-acetyl-D-glucosamine by microorganism
Knezevic-Jugovic et al. Chitin and chitosan from microorganisms
US7927604B2 (en) Method of preparing a seaweed degradation product and a composition for preparing a seaweed degradation product
Gomare et al. Isolation of the polysaccharidase-producing bacteria from the gut of sea snail, Batillus cornutus
KR20120097841A (ko) 알긴산 분해 미생물 및 그의 용도
Wang et al. Response surface methodology based optimization for degradation of align in Laminaria japonica feedstuff via fermentation by Bacillus in Apostichopus japonicas farming
KR20130033635A (ko) 라미나린 및 알긴산 분해능을 가지는 마이크로박테리움 옥시단스
JP2008054580A (ja) デフェリフェリクリシン高生産変異株、シデロフォア生産用の液体培地、シデロフォアの製造方法
CN113930358B (zh) 一种可分解海带的菌株
KR101727251B1 (ko) 녹조류 유래 다당류 분해능을 갖는 슈도모나스 제니귤라타 균주 kctc12651bp
Mythili et al. Synthesis and characterization of chitosan from crab shells vs bacteriological biomass
KR20140119847A (ko) 갯지렁이 유래 바실러스 속 신규 균주를 이용한 바이오 플락 양식시스템의 수질 정화용 미생물 제재
KR100625299B1 (ko) 다시마 및 미역을 분해하는 미생물 및 이를 이용한 다시마 및 미역 분해 방법
Machineni Waste to wealth and health: bio-recovery and applications of chitin and its derivatives
Dhole et al. Screening of chitin degrading bacteria from the gut of Asian common toad Duttaphrynus melanostictus: Implication for valorization of chitin rich seafood waste
JP2004041035A (ja) N‐アセチルグルコサミンの製造方法
KR0140430B1 (ko) 아스퍼질러스 푸미가투스 돌연변이 균주와 생산효고 및 이를 이용한 키토산-올리고당의 제조방법
Polikovsky et al. Biorefinery of unique polysaccharides from Laminaria sp., Kappaphycus sp., and Ulva sp. Structure, enzymatic hydrolysis, and bioenergy from released monosaccharides
JPH06253830A (ja) 細胞の増殖促進組成物

Legal Events

Date Code Title Description
TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20120710

A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20120724

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 5052702

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20150803

Year of fee payment: 3

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250