JP5051590B2 - 慣性質量ダンパー - Google Patents
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Description
この慣性質量ダンパーでは、構造体A,B間に生じる相対振動によりボールナット3がボールねじ軸2に対して軸方向に相対変位し、それに伴ってボールねじ軸2が回転(自転)せしめられて回転錘4が回転し、それにより生じる慣性質量ψによる反力Pが構造体A、B間に作用して優れた制振効果が得られるものである。
また、本発明の慣性質量ダンパーを用いて建物等の構造物を対象とする応答低減システムを構成すれば、応答低減効果を損なうことなく反力を有効に低減させることができる。
トルク制限機構11は、フランジプレート12と回転錘10の双方に跨る大きさの2枚の環状の支圧プレート14をそれらフランジプレート12と回転錘10の両面側に配置し、支圧プレート14の外周部を回転錘10に対してトルク調整ボルト15によって締結するとともにその締結部には皿ばね16を介装し、かつ支圧プレート14の内周部とフランジプレート12との間には環状の滑り材17を介装することにより、両側の支圧プレート14によってフランジプレート12を滑り材17を介して押圧状態で挟持する構成とされている。
すなわち、滑り始めるときのトルクT0は、トルク調整ボルト15により滑り材17に導入される圧縮応力N、滑り材17の摩擦係数μ、滑り材17の径寸法(内径寸法と外径寸法の平均値の1/2。図3に示す回転中心からの距離a)によって次式で定まる(2倍となっているのは摩擦面が2面であるためである)。
T0=2μNa
この場合、反力Pは、ボールねじ機構1に作用するトルクT、ボールねじ軸2のリード(ねじ山ピッチ)Ldとすると
P=(2π/Ld)T
となるから、頭打ちとなる反力P0は、上記の滑り始めるときのトルクT0、つまりトルク伝達を制限するべき制限値から
P0=(2π/Ld)T0
となる。
いずれにしても、本実施形態の慣性質量ダンパーは反力が一定の制限値に達した以降は実質的にそれを保持するものであり、したがって反力がゼロになってダンパー機能を失うものではないばかりか、後述するように反力が頭打ちとなった以降は摩擦ダンパーとしても機能し得るものである。
(1)ダンパー反力を所定の制限値で頭打ちにできる(実質的に制限値に保持するか、もしくはその後の増分を充分に小さくできる)から、想定外の過大な加速度が作用した場合でも、ダンパーや接合部の破損を防止することができる。
なお、本発明の慣性質量ダンパーのように相対加速度に比例した反力をもつものではない他の形式のダンパーにおいては、反力を頭打ちにすること自体は既知の技術である。たとえば、反力が相対速度に比例する粘性ダンパー(オイルダンパー等)においては、逃がし弁によるリリーフ機構によりピストン内圧を調整して過大な反力が生じないように制限する機構が知られている。また、反力が相対変位に比例する履歴ダンパー(鋼材ダンパー等)においては、弾性範囲内ではバネ剛性が線形で変位に比例した反力となるが、降伏後には変位増分による耐力増加はわずかになって自ずとダンパーに過大な反力が生じないものとなる。
なお、摩擦ダンパーとして挙動すると滑り材17の周辺部では発熱が生じるので、必要に応じて周辺部材の耐熱性能や放熱性能を考慮すれば良いが、本実施形態では滑り材17に接するフランジプレート12や支圧プレート14等の部材としていずれも鋼材を採用可能であるので、摩擦による温度上昇が生じても耐熱性や放熱性に特に問題は生じない。
このことは、従来一般の線形特性の慣性質量ダンパーを用いる応答低減システムの制振効果を劣化させずに反力だけを有効に低減させ得ることを意味し、その結果、ダンパー自体のみならず構造体への負荷も低減でき、接合部や構造躯体も含めた総コストの軽減を図ることができる(この点については後述する)。
上記実施形態ではトルク制限機構11における支圧プレート14を回転錘10に対して連結して、伝達トルクが制限値を超えた際にはトルク制限機構11を回転錘10とともにフランジプレート12に対して相対回転させるようにしたが、図5に示すように支圧プレート14をフランジプレート12に対して連結して滑り材17を支圧プレート14と回転錘10との間に介装することにより、トルク制限機構11をフランジプレート12とともに回転させて回転錘10のみをそれらに対して相対回転させるようにしても良い。
なお、その場合には、トルク制限機構11がフランジプレート12とともに回転することから、反力Pが頭打ちとなった以降の慣性質量ψ1はその分だけ大きくなり、図2に示す特性図における第2勾配は上記の場合に比べてやや大きくなる。
そのトルク保持装置20は、ハブ21に対してフランジ22を滑り軸受け23を介して相対回転可能に装着し、ハブ21に固定した調節ナット24に調節ボルト25を螺着してパイロットプレート26、皿ばね27を介してプレート28をフランジ22に押圧する構成としたものであり、所定トルクまではハブ21とフランジ22とが一体に回転するが、それを超えるとフランジ22がハブ21に対してスリップして相対回転を生じるものである。
このトルク保持装置20をボールねじ軸2に対して一体に回転可能に固定し、フランジ22に対して回転錘10を連結すると、ボールねじ機構1からの伝達トルクが所定の制限値を超えるまではトルク保持装置20と回転錘10の全体が一体に回転するが、制限値を超えるとフランジ22および回転錘10のみがハブ21に対してスリップ回転を生じてそれ以上のトルク伝達が制限される。
図8はその場合の構成例であって、ボールナット3をダンパーケーシング29に対してベアリング30により回転自在で支持してそのボールナット3に上記のトルク保持装置20を連結し、ボールねじ軸2をそれらボールナット3とトルク保持装置20に挿通させて軸方向に変位させることによって、トルク保持装置20(つまりトルク制限機構11)をボールナット3とともに一体に回転させるようにしたものであり、この場合も上記と同様に機能するものとなる。
図9に示すように、固定端に対して構造体バネと構造体減衰により支持された1質点系の構造体を対象として慣性質量ダンパーを設置してTMD機構として機能させる場合において、その慣性質量ダンパーとして、図1に示したような本発明のトルク制限機構付きの慣性質量ダンパーを用いるケースと、図33に示したようなトルク制限機構のない従来の単なる慣性質量ダンパーを用いるケースについて、比較検討を行う。
構造体質量M=100ton、構造体バネ剛性K=39.5kN/cm、構造体減衰C=0.25kN/kine、構造体の固有振動数f=1.0Hz、構造体の減衰定数h=0.02とする。
付加質量を構造体の0.1倍の質量をもつTMDとして設計し、したがって付加質量としての慣性質量ψ=10ton、付加バネ剛性k0=3.36kN/cm、付加減衰c0=0.25kN/kine、付加振動系の固有振動数f=0.92Hz、付加振動系の減衰定数h0=0.216とする。
トルク制限機構を設けるケースでは、図10に示すように、ダンパー両端の相対加速度1.0m/s2(100gal)で滑り始める設計とし、したがって頭打ちとなる反力をP0=10kNに設定する。滑り後の慣性質量ψ1は初期の1/10として、ψ1=0.1ψ=1tonとする。
図13〜図17に応答解析結果としての質点変位、質点加速度、ダンパー変位、ダンパー加速度、ダンパー反力を示す。いずれも太線が本発明の慣性質量ダンパー(トルク制限機構を有する非線形特性のもの)による場合であり、細線が従来の慣性質量ダンパー(トルク制限機構のない線形特性のもの)による場合である。
これらの結果から、本発明の場合には質点変位、質点加速度は殆ど変わらないもののダンパー反力を大きく低減できることが分かる。特に、図16(b)および図17(b)から、4秒付近で滑り始めた以降は慣性質量効果による周期延長効果が低減して位相が進み、ダンパー加速度が増すものの反力が60%程度に大幅に低減することが分かる。なお、ダンパー加速度は若干増えるが問題にならない程度である。
以上により、トルク制限機構のない従来の慣性質量ダンパーを用いる場合であっても充分な応答低減効果が得られるが、本発明のトルク制限機構付きの慣性質量ダンパーを用いることにより(従来の慣性質量ダンパーにトルク制限機構を付加することにより)、さらなる改善効果が得られることが分かる。
図22に示すように、固定端に対して構造体バネと構造体減衰により支持された1質点系の構造体を対象として慣性質量ダンパーを構造体バネと並列に設置する場合において、その慣性質量ダンパーとして、図1に示したような本発明のトルク制限機構付きの慣性質量ダンパーを用いるケースと、図33に示したようなトルク制限機構のない従来の慣性質量ダンパーを用いるケースについて比較検討を行う。
上記(I)の場合と同様に、構造体質量M=100ton、構造体バネ剛性K=39.5kN/cm、構造体減衰C=0.25kN/kine、構造体の固有振動数f=1.0Hz、構造体の減衰定数h=0.02とする。
付加質量としての慣性質量ψを構造体の1.0倍としてψ=100tonとし、それに付加減衰を並列に設置し、付加減衰c0=1.26kN/kine(構造体減衰の約5倍)とする。
トルク制限機構を設けるケースでは、図23に示すように、ダンパー両端の相対加速度0.4m/s2(40gal)で滑り始める設計とし、したがって頭打ちとなる反力をP0=40kNに設定する。滑り後の慣性質量ψ1は初期の1/10として、ψ1=0.1ψ=10tonとする。
入力地震動は(I)の場合と同様(図12)とし、図25〜図28に応答解析結果としての質点変位、質点加速度、ダンパー加速度、ダンパー反力を示す。
これらの結果から、質点変位、質点加速度は殆ど変わらず、ダンパー反力を大きく低減できることが分かる。特に、図27(b)および図28(b)から、3.7秒付近で滑り始めた以降はダンパー加速度が増すもののダンパー反力が50%程度に大幅に低減することが分かる。なお、この場合もダンパー加速度は若干増えるが問題にならない程度である。
以上により、トルク制限機構のない従来の慣性質量ダンパーを用いる場合であっても充分な応答低減効果が得られるが、本発明のトルク制限機構付きの慣性質量ダンパーを用いることにより(従来の慣性質量ダンパーにトルク制限機構を付加することにより)、反力を頭打ちしながらさらなる改善効果が得られことが分かる。
1 ボールねじ機構(振動伝達機構)
2 ボールねじ軸
3 ボールナット
10 回転錘(フライホイール)
11 トルク制限機構
12 フランジプレート
13 ロックナット
14 支圧プレート
15 トルク調整ボルト
16 皿ばね
17 滑り材
20 トルク保持装置(トルク制限機構)
21 ハブ
22 フランジ
23 滑り軸受け
24 調節ナット
25 調節ボルト
26 パイロットプレート
27 皿ばね
28 プレート
29 ダンパーケーシング
30 ベアリング
Claims (3)
- 互いに離接する方向に相対振動する構造体間に設置され、それら構造体間に生じる相対振動を振動伝達機構により回転運動に変換して回転錘に伝達して該回転錘を回転させることにより、該回転錘の慣性質量による反力を前記構造体に作用せしめて前記相対振動に対する制振効果を得る構成の慣性質量ダンパーであって、
前記振動伝達機構と前記回転錘との間に、該回転錘を該振動伝達機構に対してトルク伝達可能に連結するとともにそれらの間で伝達されるトルクが所定の制限値を超えた時点で回転錘を振動伝達機構に対して相対回転させてトルク伝達を制限するトルク制限機構を介装してなることを特徴とする慣性質量ダンパー。 - 請求項1記載の慣性質量ダンパーであって、
前記振動伝達機構をボールねじ軸とボールナットによるボールねじ機構により構成するとともに、前記ボールねじ軸にフランジプレートを固定して、該フランジプレートに対して前記回転錘を前記トルク制限機構を介して一体回転可能かつ前記制限値を超えるトルクで相対回転可能に連結してなり、
前記トルク制限機構を、前記フランジプレートと前記回転錘の双方に跨るように支圧プレートを装着して、該支圧プレートをトルク調整ボルトにより前記回転錘または前記フランジプレートに対して締結することによって該支圧プレートにより前記フランジプレートまたは前記回転錘を所定の押圧力で挟持するとともに、前記支圧プレートと前記フランジプレートまたは前記回転錘との間に前記制限値を超えるトルクで滑りを生じる滑り材を介装してなることを特徴とする慣性質量ダンパー。 - 請求項1記載の慣性質量ダンパーであって、
前記振動伝達機構をボールねじ軸とボールナットによるボールねじ機構により構成して、該ボールねじ機構における前記ボールねじ軸または前記ボールナットに対して前記回転錘を前記トルク制限機構を介して一体回転可能かつ前記制限値を超えるトルクで相対回転可能に連結してなり、
前記トルク制限機構を、前記ボールねじ軸または前記ボールナットに対して一体回転可能に連結されるハブと、該ハブに対して一体回転可能かつ前記制限値を超えるトルクで滑りを生じて相対回転可能に装着されたフランジを有するトルク保持装置により構成して、該トルク保持装置における前記フランジに対して前記回転錘を一体回転可能に連結してなることを特徴とする慣性質量ダンパー。
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