JP5051537B2 - マンノシルエリスリトールリピッド誘導体 - Google Patents
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Description
そこで、本発明の課題は、MELの構造を改変して、今までにない有用な基礎物性、自己集合特性を有する新規MEL誘導体を提供しようとするものである。
これらの構造改変は一般的な化学合成法でも可能であるが、さらに酵素化学的手法を用いることで、位置選択的な官能基の導入が可能となる。自己集合体の形成には分子構造の違いが大きく影響するため、特定の構造の化合物を選択的に調製できることは、これらの自己集合特性を利用した用途開拓にとっても極めて有効な手段と成り得る。
〔1〕次の式(1)で表されるマンノシルエリスリトールリピッド誘導体。
〔2〕上記式中、R1で示される置換基が、炭素数4〜24の飽和又は不飽和脂肪族アシル基からなることを特徴とする、上記〔1〕に記載のマンノシルエリスリトールリピッド誘導体。
〔3〕上記式中、R3で示される置換基が、炭素数2〜16の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素からなることを特徴とする、上記〔1〕に記載のマンノシルエリスリトールリピッド誘導体。
〔4〕上記〔1〕に記載のマンノシルエリスリトールリピッド誘導体からなるpH応答性自己集合体。
〔5〕以下の式(2)で表されるマンノシルエリスリトールリピッドと以下の式(7)で表されるジカルボン酸ハロゲン化物を塩基の存在下反応させることを特徴とする、上記〔1〕に記載のマンノシルエリスリトールリピド誘導体の製造方法。
〔6〕以下の式(2)で表されるマンノシルエリスリトールリピドと、以下の式(8)で表されるジカルボン酸エステルまたは以下の式(9)で表されるジカルボン酸無水物とを、リパーゼを作用させて反応させることを特徴とする、上記〔1〕に記載のマンノシルエリスリトールリピドの製造方法。
すなわち、本発明のMEL誘導体は、低pH条件では、水溶液中で自己集合体(液晶)を形成し、水に不溶性であり、中性〜弱アルカリ性条件で集合体の構造が大きく変化・崩壊することから、低pH環境である胃の内部では溶解せず、中性環境である腸内で溶解して薬剤を放出できる。したがって、これらを導入したリポソーム試薬等を用いたドラッグデリバリーシステム(DDS)の高機能化に大きく貢献することができる。また、弱アルカリ性で肌の角質に類似な構造であるラメラ相の形成が促進されることから、化粧品、洗浄剤用途等への有効利用できる。一方、本発明のMEL誘導体は、糖骨格構造の変化によって生理活性が大きく変わることから、従来のMELで得られなかった生体機能の発現も期待されるほか、生体内での分子認識能にも特徴が現れると予想される
また、本発明のMEL誘導体を、単独あるいは従来型MELと混合することで、その界面物性、自己集合特性を容易に調節することも可能である。
したがって、本発明のMEL誘導体はバイオサーファクタントの構造・機能バリエーションの拡張をもたらすほか、高い水溶性、pH応答性を有することで飛躍的な用途の拡大が見込まれるほか、本発明のMEL誘導体は、本来糖型バイオサーファクタントの有する特性である分解性の高さや低毒性、環境適合性、高生理活性等も保持しており、これらを最大限に利用することにより、食品工業、化粧品工業、医薬品工業、化学工業、環境分野等に幅広く利用できる。
〈糖脂質〉
本発明のMEL誘導体を得るための出発物質として用いるMELは、MEL生産菌の培養によって得られ、その化学構造の代表例は以下の式(2)に示され、4−O−β−D−マンノピラノシル−meso−エリスリトールをその基本構造とするものである。
MELの代表例としてMEL−A、MEL−B、MEL−C、MEL−Dの化学構造を以下に示す。
なお、上記式中の置換基R1は、直鎖あるいは分岐アシル基であっても同不飽和脂肪族アシル基であってもよく、また置換基R3は、直鎖あるいは分岐飽和脂肪族炭化水素であっても同不飽和脂肪族炭化水素であってもよい。
マンノシルエリスリトールリピッドのエリスリトール末端へのカルボン酸の導入方法については、ジカルボン酸誘導体の一方のカルボン酸をエリスリトール末端へエステル結合によって導入する方法が挙げられる。
上記合成法としては、例えば以下(1)〜(3)の方法が好ましい。
(1)上記式(2)で表されるMELと以下の式(7)で表されるジカルボン酸ハロゲン化物を直接反応させる方法。
(2)リパーゼ触媒によって、上記式(2)で表されるMELと、以下の式(8)で表されるジカルボン酸エステルとのエステル交換反応を行う方法。
(3)リパーゼ触媒によって、上記式(2)で表されるMELと、以下の式(9)で表されるジカルボン酸無水物を直接反応させる方法。
これらの方法中、特に上記(2)、(3)の方法は、リパーゼ触媒を使用しており、これにより、エリスリトール末端への位置選択的導入を促進することができる。
(1)マンノシルエリスリトールリピッドとジカルボン酸クロリドの反応
上記化学式(3)のMEL−A(ジアセチル型)に対して、過剰量のジカルボン酸ハロゲン化物(例えばクロリド、ブロミド)を加え、反応中に加水分解が起こらないように非アルコール系の有機溶媒(例えばテトラヒドロフラン、ジクロロメタン、アセトン等)中で、塩基(例えばトリエチルアミン等)存在下、室温で1〜3日間撹拌する(反応式(A))。
MEL−Aに対して、過剰量のジカルボン酸エステルと任意量の固定化リパーゼを加え、反応中に加水分解が起こらないように非アルコール系の有機溶媒(例えばテトラヒドロフラン、アセトン等)中、40〜50℃で1〜数日間撹拌する(反応式(B))。
MEL−Aに対して、過剰量のジカルボン酸無水物を加え、反応中に加水分解が起こらないように非アルコール系の有機溶媒(例えばテトラヒドロフラン、アセトン等)中、40〜50℃で1〜数日間撹拌する(反応式(C))。任意量の固定化リパーゼを加えるとなお良い。
上記においてはMEL−Aを原料化合物とする場合の合成例を示したが、MEL−B、MEL−C、及びMEL−Dを原料化合物として用いる場合も基本的には同様の方法で、本発明のマンノシルエリスリトールリピド誘導体を合成しうる。ただし、例えばMEL−C、MEL−Dにおいては、マンノース6位に反応性の高い一級水酸基が残存することから、反応によってここにジカルボン酸が結合した異性体も得られる。本発明のエリスリトール末端にカルボキシル基を有する誘導体を得るには、生成した複数の異性体からシリカゲルカラムクロマトグラフィー等を利用して分離精製を行う必要がある。
上記により得られたMEL誘導体の構造は、以下のようにして確認する。
1)カルボン酸導入の有無の確認
単離したMEL誘導体は、TLCプレート上で、アンスロン硫酸試薬で青緑色に呈色することにより糖脂質成分であると判断できる。この時、展開溶媒にアンモニア水を入れると、カルボキシル基を有する化合物はカルボン酸塩となるため、スポットはあまり上に上がらずRf値が大きく低下する。したがって、スポットの位置変化を見ることでMEL誘導体中にカルボン酸が導入されたことが確認できる。
得られたMEL誘導体について、1H、13C、二次元NMR解析を行い、得られたスペクトルと、構造既知である従来型のマンノシルエリスリトールリピッド(MEL−A〜D)(式2)のスペクトルとを比較することで、構造解析を行う。特に、MELのエリスリトール末端水酸基にエステルが導入される場合、1H NMRスペクトルの4.1〜4.3 ppm付近、及び13C NMRスペクトルの170〜175 ppm付近に新たなピークが出現することから、これらを確認することで本発明のMEL誘導体が得られたことが示される。
本発明のMEL誘導体は、糖骨格末端に存在するカルボキシル基の電離状態によって水溶性が変化する。したがって、異なるpHの緩衝溶液を作成し、これにMEL誘導体を添加して溶解性を調査することで、本発明のMEL誘導体のpH応答性が確認される。
以下に、本発明について実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
(MEL−Aとコハク酸クロリドの反応)
MEL−A 350 mg(約0.5 mmol)、トリエチルアミン 60 mg(約0.6 mmol)をテトラヒドロフラン(THF) 10 mLに溶解させ、氷浴中で撹拌しながらコハク酸クロリド 155 mg(約1 mmol)を少しずつ添加した。室温で24時間撹拌した後、析出した沈殿をろ別し、ろ液をエバポレーターにかけて溶媒を除去した。得られた反応混合物のTLC分析を行った結果、TLCプレート上で出発物よりも下に糖脂質を示す青緑色のスポットが検出された。さらに、アンモニア水を加えた展開溶媒中でTLC分析を行ったところ、スポットが大きく下に移動した(図1)。このことから生成物中にはカルボキシル基が存在することが確認された。クロロホルム/アセトン混合溶媒(濃度勾配100:0→0:100)を溶離液とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって生成物を分離した結果、最終的に、黒紫色油状の生成物が収率約50 %で得られた。
(MEL−Aとセバシン酸クロリドの反応)
MEL−A 350 mg(約0.5 mmol)、トリエチルアミン 60 mg(約0.6 mmol)をテトラヒドロフラン(THF) 10 mLに溶解させ、氷浴中で撹拌しながらセバシン酸クロリド
240 mg(約1 mmol)を少しずつ添加した。室温で24時間撹拌した後、析出した沈殿をろ別し、ろ液をエバポレーターにかけて溶媒を除去した。得られた反応混合物のTLC分析を行った結果、TLCプレート上で出発物よりも下に糖脂質を示す青緑色のスポットが検出された。さらに、アンモニア水を加えた展開溶媒中でTLC分析を行ったところ、スポットが大きく下に移動した(図2)。このことから生成物中にはカルボキシル基が存在することが確認された。クロロホルム/アセトン混合溶媒(濃度勾配100:0→0:100)を溶離液とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって生成物を分離した結果、最終的に白色の生成物が、収量30 %で得られた。
(リパーゼ触媒によるMEL−Aとドデカン二酸ジメチルエステルのエステル交換反応)
MEL−A 350 mg(約0.5 mmol)、ドデカン二酸ジメチルエステル 260 mg(約1 mmol)をアセトン 1 mLに溶解させ、そこに固定化リパーゼ(Novozyme 435) 300 mgを加え40℃で72時間撹拌した。反応後、リパーゼをろ別し、ろ液をエバポレーターにかけて溶媒を除去した。得られた反応混合物のTLC分析を行った結果、TLCプレート上で出発物よりも上に糖脂質を示す青緑色の2つのスポット(A)、(B)が検出された(図3a)。さらに、アンモニア水を加えた展開溶媒中でTLC分析を行ったところ、下(B)のスポットが大きく下に移動した(図3b)。このことから生成物中にはカルボキシル基が存在することが確認された。クロロホルム/アセトン混合溶媒(濃度勾配100:0→0:100)を溶離液とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって、化合物(A)(B)の混合物として黄色油状の生成物が収量80 %で得られた。
(リパーゼ触媒によるMEL−Aと無水コハク酸のエステル化反応)
MEL−A 685 mg(約1 mmol)、無水コハク酸 300 mg(約3 mmol)をアセトン 20 mLに溶解させ、そこに固定化リパーゼ(Novozyme 435) 1 gを加え40℃で3日間撹拌した。反応後、リパーゼをろ別し、ろ液をエバポレーターにかけて溶媒を除去した。得られた反応混合物のTLC分析を行った結果、TLCプレート上で出発物よりも下に糖脂質を示す青緑色のスポットが検出された。さらに、アンモニア水を加えた展開溶媒中でTLC分析を行ったところ、スポットが大きく下に移動した(図4)。このことから生成物中にはカルボキシル基が存在することが確認された。クロロホルム/アセトン混合溶媒(濃度勾配100:0→0:100)を溶離液とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって生成物を分離した結果、最終的に、薄黄色油状の生成物が収率約65 %で得られた。
(リパーゼ触媒によるMEL−Aと無水コハク酸の高効率エステル化反応)
実施例4の方法では反応が定量的に進まず、カラム精製による生成物の単離が必要であったことから、反応率100 %の最適反応条件を検討した。MEL−A 3.4 g(約5 mmol)、無水コハク酸 1.5 g(約15 mmol)をアセトン 30 mLに溶解させ、そこに固定化リパーゼ(Novozyme 435) 1 gを加え40℃で5日間撹拌した。反応後、リパーゼをろ別し、ろ液をエバポレーターにかけて溶媒を除去した。得られた反応混合物のTLC分析を行った結果、TLCプレート上で出発物よりも下に糖脂質を示す青緑色のスポットが検出された(図5a)。また、出発物は完全に消失しており、生成物が収率100 %で得られた。さらに、アンモニア水を加えた展開溶媒中でTLC分析を行ったところ、スポットが大きく下に移動した(図5b)。このことから生成物中にはカルボキシル基が存在することが確認された。
実施例6
(MEL−Aドデカン二酸エステルの構造解析)
実施例3で得られた糖脂質について、重クロロホルム(CDCl3)を溶媒とするNMR解析により構造の同定を行った。1H、13C、1H-1H COSY、HMQC(Heteronuclear Multiple Quantum Coherence)、HMBC(Heteronuclear Multiple Bond Coherence)の各NMRスペクトル解析を行うことで、本糖脂質の構造を完全帰属した。本糖脂質の1H-NMRスペクトルを図6に示す。これによれば、本糖脂質は出発物質のMEL-Aに対して、エリスリトール末端1位に脂肪酸エステルが結合していることが確認できる(4.2〜4.4 ppm)。また、1位に結合したエステルのカルボニル炭素(C=O)の隣のプロトン(2.3 ppm)の積分値が約4あることから、反応に用いたジカルボン酸がエステル結合によって分子内に導入されたことが示唆される。一方、脂肪酸末端メチル基由来のプロトンの積分値が6のまま変化していないため、単純に脂肪酸がエステル結合したわけではないことが分かり、ジカルボン酸が導入され、末端にカルボキシル基が含まれることの証拠となった。さらに、メトキシ基由来のピーク(3.67 ppm)も確認されており、本化合物中にメチルエステルが含まれることが示された。以上の結果から、本糖脂質の主成分はMEL-Aのエリスリトール末端にドデカン二酸がエステル結合し、その末端にはメチルエステルが残存した構造であることが示された。
(MEL−Aコハク酸エステルの構造解析)
実施例5で得られた糖脂質について、実施例6と同様にして構造解析を行った。本糖脂質の1H−NMRスペクトルを図8に示す。これによれば、本糖脂質は出発物質であるMEL-Aに対して、エリスリトール末端1位にエステルが導入されたことを示す1位プロトンの低磁場シフトが見られ(4.2〜4.4 ppm)、さらにコハク酸のb位プロトンも確認された(2.6〜2.7 ppm)。一方、脂肪酸末端メチル基由来のプロトンの積分値が6のまま変化しておらず、その他のスペクトルにも変化は見られなかった。以上のことから、本糖脂質はMEL-Aのエリスリトール末端1位にコハク酸がエステル結合した式(15)に示すMEL-Aコハク酸エステルであることが確認された。
(MEL−Aコハク酸エステルの水溶性評価)
実施例5で得られたMEL-Aコハク酸エステルの水溶性を調べた。出発物であるMEL-Aについても調査を行い、水溶性を比較した。試験管に糖脂質を1 mg秤取し、各pHの緩衝液0.5 mLを添加して(0.2 wt%)ボルテックスミキサーで1分間撹拌した。その後、目視で溶解性を調査した。MEL-Aは0.2 wt%の濃度では水に不溶であり、水溶液は白濁するが、本発明で得られたコハク酸エステルは中性(pH 7)から弱アルカリ性(pH 8)では水に完全に溶解し、また酸性(pH 3)では透明の液滴の状態で試験管の底に付着したままであった(図9)。本発明で得られるMEL誘導体は明らかに出発物であるMELとは異なる溶解性を示し、pH変化によって異なる相を形成することが示唆された。
(MEL−Aコハク酸エステルが形成する液晶の観察)
従来のMEL-A、及び実施例5で得られたMEL誘導体(MEL-Aコハク酸エステル)のpH変化に伴う液晶形成能を簡易に比較するために、水侵入法を利用して顕微鏡観察を行った。実験は、スライドガラス上に各MELを塗布し、上下辺を両面テープで塞ぐ形でカバーガラスをかぶせ、側辺から各pHの水溶液を滴下することでMELに水を浸透させ、簡易に濃度勾配を付けることで液晶の形成挙動を観察した(図10)。
Claims (6)
- 次の式(1)で表されるマンノシルエリスリトールリピッド誘導体。
- 上記式中、R1で示される置換基が、炭素数4〜24の飽和又は不飽和脂肪族アシル基からなることを特徴とする、請求項1に記載のマンノシルエリスリトールリピッド誘導体。
- 上記式中、R3で示される置換基が、炭素数2〜16の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素からなることを特徴とする、請求項1に記載のマンノシルエリスリトールリピッド誘導体。
- 請求項1に記載のマンノシルエリスリトールリピッド誘導体からなるpH応答性自己集合体。
- 以下の式(2)で表されるマンノシルエリスリトールリピッドと以下の式(7)で表されるジカルボン酸ハロゲン化物を塩基の存在下反応させることを特徴とする、請求項1に記載のマンノシルエリスリトールリピド誘導体の製造方法。
- 以下の式(2)で表されるマンノシルエリスリトールリピドと、以下の式(8)で表されるジカルボン酸エステルまたは以下の式(9)で表されるジカルボン酸無水物とを、リパーゼを作用させて反応させることを特徴とする、請求項1に記載のマンノシルエリスリトールリピドの製造方法。
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