JP6508667B2 - 異性体マンノシルアルジトールリピッド、その製造方法、および界面活性剤 - Google Patents

異性体マンノシルアルジトールリピッド、その製造方法、および界面活性剤 Download PDF

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Description

本発明は、炭素数5または6のL−アルジトールを含有する培地で所定の微生物を培養して製造される、新規異性体マンノシルアルジトールリピッド、その製造方法、および界面活性剤に関する。
バイオサーファクタントは微生物が生産する天然の界面活性剤であり、生分解性が高く、低毒性で環境に優しく、新規な生理機能も有する。食品工業、化粧品工業、医薬品工業、化学工業、環境分野等で使用すれば、環境調和型の社会を実現する上で有意義である。このようなバイオサーファクタントとして、従来から、脂肪酸がエステル結合されたマンノース誘導体に、アルジトールがβグリコシド結合されたマンノシルアルジトールリピッドが存在する。アルジトールがエリスリトールである化合物は、マンノシルエリスリトールリピッド(以下、MELとも称す。)と称されている(特許文献1)。特許文献1では、大豆油やグルコースなどを添加した培地でシュードザイマ・ヒュベイエンシスKM−59株を培養し、MELを得ている。
MELの生成経路は、以下のように推定される。例えば、特許文献1に記載されるように、培地にトリグリセライド(TG)などの油脂を添加してシュードザイマ・ヒュベイエンシスKM−59株を培養して生産すると、培地に添加されたTGがグリセリンと脂肪酸とに分解され、グリセリンが糖新生によってグルコースに変換され、さらにマンノースおよびエリスリトールに変換される。マンノースとエリスリトールとはマンノシルトランスフェラーゼによりマンノシルエリスリトールに結合される。脂肪酸は、β酸化によって最終的にはアセチルCoAに分解されるが、その中間体がマンノースの2位および3位に導入される。同時に、アセチルトランスフェラーゼによってアセチル基がマンノースの4位または6位に導入される。こうして合成されたMELは、菌体外へ放出される。
マンノシルエリスリトールリピッドは、構成する糖アルコールとしてエリスリトールを含むが、培地にエリスリトールを添加することなく合成される。微生物は、TGを資化して栄養源として生育し、その際に副生されたエリスリトールを利用してマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)を生産するものと理解される。
ここで、アルジトールは、アルドースのアルデヒド基が還元されてヒドロキシメチル基になった糖アルコールであり、炭素鎖の両端にCHOH基を有している。図16(a)にエリスリトールを示し、アルドース由来のアルデヒド基に★を付した。図16(b)に結合手の向きを含めた構造式を示し、アルドース由来のアルデヒド基の配置を反転した構造を図16(c)に示す。DL表記法によれば、エリスリトールはDL同一構造である。ただし、マンノース誘導体と結合するエリスリトールのヒドロキシメチル基が1位の炭素に由来するか、4位の炭素に由来するかによって、得られるマンノシルエリスリトールリピッドの構造は、図16(d)、(e)に示すように相違する。図16(d)、(e)において、βグリコシド結合に最も近いアルジトール部の不斉炭素に*を付記した。前記特許公報1に記載されるシュードザイマ・ヒュベイエンシスKM−59株は、同図(d)に示される、4−O−β−D−mannopyranosyl−erythritolを糖骨格とする化合物を生成する。以下、この化合物を4−O−β−MELと称する。
上記した4−O−β−MELに対し、図16(e)に示すように、1−O−β−D−mannopyranosyl−erythritolを糖骨格とするMELを製造する微生物もある(特許文献2)。便宜のため、この化合物を1−O−β−MELと称する。シュードザイマ・ツクバエンシスを、オリーブ油を添加した培養培地で培養したところ、1−O−β−MELが生成されたという。この1−O−β−MELは、4−O−β−MELと比べて水和性が向上し、ベシクル形成能も高く、スキンケア剤などとして有望なバイオ素材となるという。
更に、培地にマンニトール、リビトール、アラビトールなどを添加し、マンノシルマンニトールリピッド、マンノシルリビトールリピッド、マンノシルアラビトールリピッド(以下、それぞれMML、MRL、MALとも称する。)などを製造する方法もある(特許文献3)。マンノシルアルジトールリピッドの機能は、アルジトール骨格の構造に依存すると考えられ、アルジトール部の異なるマンノシルアルジトールリピッドやそれらの製造技術の開発は、新機能開拓および応用分野の拡大に貢献しうるという。
特許第4978908号公報 特開2011−182740号公報 特許第5145540号公報
1−O−β−MELが4−O−β−MELよりも親和性に優れることは、アルジトールに由来するアルジトールの立体構造によって機能が相違することを意味する。更に、マンノース誘導体にβグリコシド結合するアルジトールの鎖長が伸長すると、水酸基数が増加するため、得られる化合物の更なる水和性の向上も期待することができる。従って、前記した4−O−β−MELと1−O−β−MELとの関係のように、アルジトール部分の立体構造の相違する異性体マンノシルアルジトールリピッドが製造できれば、更なる新機能開拓および応用分野の拡大に貢献することができる。しかしながら、これら化合物の製造方法は存在せず、効率的な異性体マンノシルアルジトールリピッドの製造方法の開発が望まれる。
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、新規マンノシルアルジトールリピッド、その製造方法および界面活性剤を提供することを目的とする。
本発明者等は、マンノシルアルジトールリピッドを生産しうる微生物について詳細に検討したところ、L−アルジトールのみを、またはL−アルジトールをD−アルジトールよりも優位に資化しうる微生物が存在すること、この微生物の培養培地にL−アルジトールを添加すると、D−アルジトール由来の立体異性と異なる新規な異性体マンノシルアルジトールリピッドを製造しうることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明は、油脂を2〜10質量%、炭素数5または6のL−アルジトールを1〜10質量%含有する培地で、シュードザイマ(Pseudozyma)属に属する微生物を培養して製造される、下記式(1)で示される異性体マンノシルアルジトールリピッドを提供するものである。

(式中、RとRは同一でも異なっていてもよい炭素数6〜20の脂肪族アシル基であり、RとRは水素またはアセチル基を示し、nは3または4を示す。)
また、本発明は、下記式(2)または(3)で表される、前記異性体マンノシルアルジトールリピッドを提供するものである。

(式(2)、(3)において、RとRは同一でも異なっていてもよい炭素数6〜20の脂肪族アシル基であり、RとRは水素またはアセチル基を示す。)
また、本発明は、油脂を2〜10質量%、炭素数5または6のL−アルジトール(ただし、リビトール、キシリトール、アリトールおよびガラクチトールを除く)を1〜10質量%含有する培地でシュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)に属する微生物を培養することを特徴とする、上記式(1)で示される異性体マンノシルアルジトールリピッドの製造方法を提供するものである。
更に本発明は、前記微生物が、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)NBRC1940株、またはシュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)JCM16987株である、前記異性体マンノシルアルジトールリピッドの製造方法を提供するものである。
更に本発明は、前記異性体マンノシルアルジトールリピッドを含む、界面活性剤を提供するものである。
本発明によれば、従来のマンノシルアルジトールリピッドのアルジトール部分の立体構造と立体異性の関係にある、新規異性体マンノシルアルジトールリピッド、その製造方法および界面活性剤を提供することができる。
実施例1で得た培養液のTLCの結果を示す図である。JCM11752株、NBRC1940株、JCM16987株を、オリーブ油含有培地、オリーブ油+D−アラビトール含有培地、オリーブ油+L−アラビトール含有培地で培養すると、微生物によってD−アラビトールとL−アラビトールとを識別し、生産物が相違する結果が示されている。 実施例1で得た培養液のHPLCの結果を示す図である。JCM11752株を、オリーブ油含有培地、オリーブ油+D−アラビトール含有培地、オリーブ油+L−アラビトール含有培地で培養した際の生成物の相違を示す。 実施例1で得た培養液のHPLCの結果を示す図である。NBRC1940株、JCM16987株を、オリーブ油含有培地、オリーブ油+D−アラビトール含有培地、オリーブ油+L−アラビトール含有培地で培養した際の生成物の相違を示す。 実施例1で得たJCM16987株の培養物に含まれるMALについて、13C−NMR、H−NMRで解析した結果を示す図である。なお、比較のため、オリーブ油でJCM16987株を培養して得た1−O−β−MELの解析結果を併記している。 実施例1のJCM16987株の培養物に含まれるMALについて、含まれる糖を分析したHPLCの結果を示す図である。糖標品およびMELの結果を併記している。 比較例1および実施例2で得たMALおよびMAの糖分析の結果を示す図である。 比較例1および実施例2で得たMAの13C−NMR、H−NMR解析値を示す図である。 比較例1および実施例2で得たMAのH−NMR分析のチャートを示す図である。 比較例1および実施例2で得たMAの13C−NMR分析のチャートを示す図である。 実施例3で得た培養液のTLCの結果を示す図である。培地に添加するオリーブ油量、およびL−アラビトール量を変化させた場合の生成物をTLCで検出したものである。 実施例4の水侵入法による液晶形成能を評価した結果を示す図である。実施例1のJCM16987株のオリーブ油培養液から単離した1−O−β−MEL−B、およびオリーブ油+L−アラビトール含有培地で培養して得た異性体MALの偏光および位相差顕微鏡の観察像を示す。 実施例4の水侵入法による液晶形成能を評価した結果を示す図である。実施例1においてJCM11752株のオリーブ油培養液から得た4−O−β−MEL−A、およびオリーブ油+D−アラビトール含有培地で培養して得た基準MALの偏光および位相差顕微鏡の観察像を示す。 実施例5の結果を示す図である。実施例1のJCM16987株のオリーブ油培養液から単離した1−O−β−MEL−B、およびオリーブ油+L−アラビトール含有培地で培養して得た異性体MALについて水とのなじみやすさを経時的に評価した。 L−アラビトールの構造と、L−アラビトールのアルドース由来のCHOHの炭素原子を1位とした場合に、1位のCHOH基、または5位のCHOH基とマンノース誘導体とがβグリコシド結合した場合に、立体構造が異なることを説明する図である。 D−アラビトールの構造と、D−アラビトールのアルドース由来のCHOHの炭素原子を1位とした場合に、1位のCHOH基、または5位のCHOH基とマンノース誘導体とがβグリコシド結合した場合に、立体構造が異なることを説明する図である。 エリスリトールの構造と、エリスリトールのアルドース由来のCHOHの炭素原子を1位とした場合に、1位のCHOH基、または4位のCHOH基とマンノースとがβグリコシド結合した場合に、立体構造が異なることを説明する図である。
本発明の第一は、油脂を2〜10質量%、炭素数5または6のL−アルジトールを1〜10質量%含有する培地で、シュードザイマ(Pseudozyma)属に属する微生物を培養して製造される、下記式(1)で示される異性体マンノシルアルジトールリピッドである。以下、本発明を詳細に説明する。

(式中、RとRは同一でも異なっていてもよい炭素数6〜20の脂肪族アシル基であり、RとRは水素またはアセチル基を示し、nは3または4を示す。)
(1)異性体マンノシルアルジトールリピッド
本発明の異性体マンノシルアルジトールリピッドは、マンノースにアルジトールがβグリコシド結合したマンノシルアルジトールに脂肪酸がエステル結合してなる化合物である。上記式(1)において、アルジトール部の炭素数nは3または4である。従って式(1)の化合物は、アルジトール部が、アラビトール、グルシトール、マンニトール、イジトール、タリトールに由来するマンノシルアルジトールリピッドとなる。
本発明において、「異性体マンノシルアルジトールリピッド」とは、基準マンノシルアルジトールリピッドとアルジトール部分の立体構造が異なるマンノシルアルジトールリピッドとし、「基準マンノシルアルジトールリピッド」とは、炭素数5または6のD−アルジトールを添加した培地に、シュードザイマ・パラアンタクティカ(Pseudozyma parantarctica)JCM11752株(以下、単にJCM11752株と称する。)を培養して生産される、マンノシルアルジトールリピッドとする。
アルジトールは、炭素鎖の両端に共にCHOH基を有するため、何れのCHOH基とマンノシル基とがβ結合するかによって生産されるマンノシルアルジトールリピッドの構造が相違する。D−アラビトールがマンノース誘導体とβグリコシド結合する態様を図15を用いて説明する。図15(a)にD−アラビトールをDL表示法で示し、アルドース由来のアルデヒド基に★を付した。図15(b)に結合手の向きを含めた構造式を示し、アルドース由来のアルデヒド基の配置を反転させた構造を図15(c)に示す。アルドース由来のアルデヒド基の炭素原子を1位とした場合に5位のCHOH基とマンノース誘導体とがβグリコシド結合した化合物を図15(d)に、1位のヒドロキシメチル基とマンノース誘導体とがβグリコシド結合した化合物を図15(e)に示す。図15(d)および図15(e)で示す化合物は、それぞれ糖骨格が5−O−β−D−マンノピラノシル−D−アラビトール、および1−O−β−D−マンノピラノシル−D−アラビトールである。本発明では、アルジトールがアラビトールである場合は、これら2化合物がそれぞれ基準マンノシルアラビトールリピッド(以下、単に基準MALと称する。)となり、この基準MALのアルジトール部分の構造が鏡像の関係にあるマンノシルアラビトールリピッドを、異性体マンノシルアラビトールリピッド(以下、単に異性体MALと称する。)となる。
本発明の異性体マンノシルアルジトールリピッドについて、L−アラビトールがマンノース誘導体とβグリコシド結合する態様を図14を用いて説明する。図14(a)にL−アラビトールをDL表示法で示し、アルドース由来のアルデヒド基に★を付した。図14(b)に結合手の向きを含めた構造式を示し、アルドース由来のアルデヒド基の配置を反転した構造を図14(c)に示す。アルドース由来のアルデヒド基の炭素原子を1位とした場合に5位のヒドロキシメチル基とマンノース誘導体とがβグリコシド結合した化合物を図14(d)に、1位のヒドロキシメチル基とマンノース誘導体とがβグリコシド結合した化合物を図14(e)に示す。図14(d)および図14(e)で示す化合物は、それぞれ糖骨格が5−O−β−D−mannopyranosyl−L−arabinitol、および1−O−β−D−mannopyranosyl−L−arabinitolの化合物であり、本発明の異性体マンノシルアルジトールリピッドである。
本発明の異性体マンノシルアルジトールリピッドとして、好ましくは、下記式(2)、(3)で表される異性体マンノシルアルジトールリピッドである。

(式(2)、(3)において、RとRは同一でも異なっていてもよい炭素数6〜20の脂肪族アシル基であり、RとRは水素またはアセチル基を示す。)
本発明の異性体マンノシルアルジトールリピッドは、後記する実施例に示すように、親水性に優れ、水溶液中で透明分散でき、界面活性作用に優れる。
(2)異性体マンノシルアルジトールリピッドの製造方法
式(1)で示す異性体マンノシルアルジトールリピッドは、L−アルジトールを含む培地でシュードザイマ属に属する微生物を培養して生産される。
MELは、培地にTGを添加してシュードザイマ属に属する微生物で培養すれば、エリスリトールを添加することなくMELを製造することができる。これは、微生物が培地成分を利用してエリスリトールを合成するからである。しかしながら、炭素数5〜6のアルジトールを新生する必要が少なく、微生物中にこれら炭素数5〜6のアルジトールを新生させることは容易でない。しかしながら、少なくともシュードザイマ属に属する微生物は、L−アルジトールを前駆体物質として生体内に取り込むことができることが判明し、これにより効率的に異性体マンノシルアルジトールリピッドを生産することができる。なお、「L−アルジトール」とは、DL表記法で示した場合にL体となる化合物を意味する。アルジトールには、リビトール、キシリトール、アリトール、ガラクチトールなどのD体とL体とが同一構造の化合物も存在する。本発明で使用する「L−アルジトール」としては、これら、D体とL体とが同一構造のmeso−アルジトールは含まない。
L−アルジトールの添加量は、1〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは2〜8質量%、特に好ましくは3〜7質量%である。培養の経過に伴い濃度が低下する場合は、培養の途中で添加して上記濃度を維持してもよい。
本発明では、シュードザイマ属(Pseudozyma sp.)に属する微生物を好適に使用する。より好ましくは、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)に属する微生物である。培地にD−アルジトールとL−アルジトールとを添加した場合に、L−アルジトールをD−アルジトールより優先的に資化して、式(1)で示す異性体マンノシルアルジトールリピッドを生成することができるからである。特に、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)NBRC1940株や、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)JCM16987株が好適である。後記する実施例に示すように、培地にD−アルジトールを添加した場合には、これを利用してマンノシルアルジトールリピッドを生産できないか、または極めて少量の生産量に限定されるが、培地にL−アルジトールを添加すると、これを利用してL−アルジトールを含むマンノシルアルジトールリピッドを生産することができる。また、シュードザイマ・パラアンタクティカ(Pseudozyma parantarctica)JCM11752株であってもよい。後記する実施例に示すように、培地にD−アラビトールを添加すれば、図15(d)に示す基準MALを生産するが、培地にL−アラビトールを添加すれば、図14(d)に示す異性体MALを生産することができるからである。
上記微生物を使用する培地としては、酵母に対して一般に用いられる培地を使用できる。例えば、YPD培地、YPDA培地などを挙げることができる。
培地には、油脂を添加してもよい。油脂は、式(1)で示す化合物のRやRで示される脂肪族アシル基となりうるものであれば、植物性油脂および動物性油脂のいずれでもよい。植物性油脂としては、大豆油、菜種油、コーン油、ピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ごま油、オリーブ油、パーム油等があり、オリーブ油が好ましい。動物性油脂としては、牛脂、豚脂、魚脂等がある。なお本発明において「油脂」には、TG、脂肪族炭化水素、脂肪酸を含むものとする。TGとしては、グリセリンに炭素数6〜20の直鎖脂肪酸エステルが結合したものが好ましい。また、脂肪族炭化水素としては、炭素数6〜20の脂肪族炭化水素が好ましく、1〜3の不飽和結合を含むものであってもよい。このような脂肪族炭化水素として、ドデカン、ヘキサデカン、オクタデカン等の飽和炭化水素、1−ぺンタデセン、1−ヘプタデセン等の不飽和炭化水素がある。さらに、脂肪酸としては、炭素数は6〜20の脂肪酸が好ましく、1〜3の不飽和結合を含むものであってよい。例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸、あるいはミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の不飽和脂肪酸がある。
上記した油脂は炭素源として使用される。培地への添加量は、培地の2〜10質量%であり、好ましくは3〜8質量%である。培養の経過に伴い濃度が低下する場合は、培養の途中で添加して上記濃度を維持してもよい。
培地には、酵母エキスを添加してもよい。添加濃度は、0.01〜0.5質量%であり、好ましくは0.1〜0.3質量%である。
培地には、通常の酵母の培養において栄養源なる炭素源、たとえば、グルコース、マンノース、グリセロール、マンニトール等の単糖、ショ糖、麦芽糖、乳糖等のオリゴ糖、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸等の有機酸を添加してもよい。
培地には、当該技術分野で通常用いられる無機塩類、窒素源や必要な栄養源等を添加することができる。無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリワム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸鋼、炭酸カルシウム等がある。窒素源や栄養源としては、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸や有機酸のアンモニウム塩、ペプトン、麦芽エキス、肉エキス、コーンスチープリカー等の含窒素化合物がある。
培養温度は、使用する微生物によって適宜選択しうるが、一般には20〜36℃、好ましくは22〜34℃である。培養日数は、式(1)で示す化合物の生産量に応じて適宜設定すればよいが、一般には3〜20日間である。なお、培養方法は、振盪培養や、通気撹拌培養等の一般的な微生物の培養方法を適用することができる。本発明においては、好気条件で培養することが好ましい。従って、ジャー・ファーメンターを用いる場合には、空気を通気しながら撹拌するか振盪培養を行えばよい。
収率を高めるには、増殖能の高い微生物を使用する。予め前培養によって菌体を活性化させ、本培養の培地に接種して培養することが好ましい。具体的には、種培養、本培養、化合物(1)の生産用培養の順にスケールアップさせる。
種培養としては、グルコース5〜40g/L、好ましくは20g/L、酵母エキス0.5〜2g/L、好ましくは1g/L、硝酸ナトリウム1〜5g/L、好ましくは3g/L、リン酸2水素カリウム0.1〜1g/L、好ましくは0.3g/L、及び硫酸マグネシウム0.1〜1g/L、好ましくは0.3g/Lの組成の液体培地2mLが入った試験管に、保存菌株を1白金耳接種し、20〜36℃で1〜3日振とう培養を行う方法がある。
本培養としては、20〜300g/L、好ましくは20〜100g/L、より好ましくは40〜100g/Lの植物油脂等の油脂、40〜200g/L、好ましくは80〜160g/LのL−アルジトールを加えた以外は種培養と同じ組成の液体培地30mLの入った坂口フラスコに、上記の種培養を行った培養液を接種して、20〜36℃、好ましくは25℃で1〜7日間振とう培養を行う方法がある。
生産培養としては、上記本培養と同じ組成の液体培地0.5Lが入ったジャー・ファーメンターに上記本培養を行った培養液を接種して、20〜36℃、好ましくは22〜34℃で1〜2L/分の通気速度と600〜1000rpmの撹拌速度で3〜20日間培養する方法がある。なお、微生物菌株の培地への使用量は、菌体を接種する場合は、培地1Lあたり10〜200mL、好ましくは50〜100mLの種培養液あるいは本培養液となる。
なお、微生物は固定化して使用してもよい。固定化法としては、従来公知の担体結合法、架橋化法、包括法などの方法を例示することができる。担体結合法では、担体に微生物を固定化させるが、固定化は物理的吸着、イオン結合、共有結合のいずれであってもよい。担体としては多糖(アセチルセノレロース、アガロース)、無機物質(多孔質ガラス、金属酸化物)、合成高分子(ポリアクリルアミド、ポリスチレン)等を用いることができる。架橋化法では、グルタルアルデヒド等の二官能性試薬を用いて微生物同士を架橋、結合させることによって固定化することができる。また、包括法では、多糖(アルギン酸、カラギーナン)、ポリアクリルアミド、コラーゲン、ポリウレタン等の高分子ゲルの格子や半透膜カプセルに微生物を包み込むことによって固定化することができる。
培養の終了は、目的化合物が所定量生産された時点である。培養液の組成を経時的にガスクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフー、薄層クロマトグラフィーなどで測定し、終了時を決定する。式(1)で示される化合物は培養液中に蓄積されるため、培養終了後に培養液から目的物を抽出すればよい。抽出は、酢酸エチル等の有機溶媒を用いて行うことができる。例えば、培養液1Lあたり0.5〜1.5L程度の酢酸エチルなどの有機溶媒を用いて1〜数回抽出し、有機溶媒層から溶媒を留去する。抽出物を更に、高速液体クロマトグラフーや薄層クロマトグラフィー、その他の方法で精製してもよい。
前記特許文献3の実施例3には、培地にD−アラビトールを添加し、JCM11752株で培養してマンノシルアラビトールリピッドを製造する方法が記載されている。しかしながら、L−アルジトールを添加した例は記載されておらず、培地に添加した炭素数5または6のL−アルジトールを材料として利用し、異性体マンノシルアルジトールリピッドを生産することは従来全く知られていなかった。しかしながら、本発明によれば、培地に添加したL−アルジトールが栄養源として使用されるか否かを問わず、実質的にマンノシルアルジトールリピッドの原料の一部として利用され、対応するマンノシルアルジトールリピッドを生産される。しかも、得られたマンノシルアルジトールリピッドは、親水性および水溶液中での澄明性に優れる。
(3)構造決定
得られた化合物は、例えば薄層クロマトグラフィーを実施し、アンスロン硫酸などの糖検出試薬にて呈色して糖含有化合物であることを確認し、当該化合物について、13C−NMRとH−NMR解析とを行い、得られたスペクトルと、たとえば下記式(4)で示される構造既知の1−O−β−MELのスペクトルとを比較し、立体構造を決定することができる。

(式(4)において、RとRは同一でも異なっていてもよい炭素数6〜20の脂肪族アシル基であり、RとRは水素またはアセチル基を示す。)
また、得られた化合物の脂質成分を3M塩酸中、80℃で分解した後に、水溶性成分を高速液体クロマトグラフィーで分離し、薄層クロマトグラフィーなどで糖含有化合物であることを確認し、当該化合物について13C−NMRとH−NMR解析とを行い、得られたスペクトルと、下記式(5)で示すマンノシルエリスリトールのスペクトルと比較してもよい。これにより、アルジトール部に由来する立体構造を決定することができる。
または、予め構造の決定された基準マンノシルアルジトールリピッドや、当該化合物を加水分解して脂肪酸やアセチル基を除去したマンノシルアルジトールを得て、それぞれ13C−NMRとH−NMR解析とを行い、両者を比較して異性体マンノシルアルジトールリピッドの構造を決定してもよい。
(3)異性体マンノシルアルジトールリピッドの用途
臨界ミセル濃度を超えて界面活性剤を溶解させるとミセルを形成し、更に界面活性剤の濃度を上昇させると棒状ミセルなどのヘキサゴナル液晶、両連続キュービック液晶、ラメラ液晶を形成することが知られている。本発明の異性体マンノシルアルジトールリピッドについて、水侵入法によって位相差像および偏光像を観察して液晶形成を評価したところ、低濃度側から高濃度側に向かってミエリン像とそれに隣接するラメラ相とが観察された。ラメラ相の厚さはミエリン像の2〜5倍であった。なお、ミエリン像は一般に、両親媒性分子の二分子層の間に媒質層が侵入して膨潤し、例えば、前記二分子層の2本鎖が互いに捻れあう形態や、1本鎖がループ状やコイル状等に巻いた形態など様々な形態を呈する。異性体MALは、ラメラ相の水相側表面に、無数の両親媒性分子の二分子層からなる1本鎖をループ状に積層するミエリン像であった。厚いラメラ相は、親和性に優れる。よって、界面活性剤として好適に使用することができ、医薬品、化粧品、食品などにおける水系用途に対して適している。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
シュードザイマ・パラアンタクティカ(Pseudozyma parantarctica)JCM11752株、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)NBRC1940株(以下、単にNBRC1940株と称する。)、およびシュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)JCM16987株(以下、単にJCM16987株と称する。)を用いて以下の培養を行った。
(1)培養
(a)保存培地(麦芽エキス3g/L、酵母エキス3g/L、ペプトン5g/Lグルコース10g/L、寒天30g/L)で保存したJCM11752株、NBRC1940株、およびJCM16987株とを、グルコース20g/L、酵母エキス1g/L、硝酸ナトリウム3g/L、リン酸2水素カリウム0.3g/L、及び硫酸マグネシウム0.3g/Lの組成の液体培地2mLが入った試験管にそれぞれ1白金耳接種し、25℃で1日間振とう培養を行った。
(b)得られた菌体培養液を、オリーブ油1.5gと、酵母エキス1g/L、硝酸ナトリウム3g/L、リン酸2水素カリウム0.3g/L、及び硫酸マグネシウム0.3g/Lの組成の液体培地30mL(オリーブ油含有培地)の入った坂口フラスコ、前記オリーブ油含有培地に更に、L−アラビトール3gが添加された液体培地30mL(オリーブ油+L−アラビトール含有培地)の入った坂口フラスコ、および前記オリーブ油含有培地にD−アラビトール3gが添加された液体培地30mL(オリーブ油+D−アラビトール含有培地)の入った坂口フラスコに接種して、25℃で7日間培養を行った。
(2)薄層クロマトグラフィー分析
上記(1)の培養液を採取し、TLCにて糖含有化合物の存在を確認した。結果を図1に示す。なお、図中、両端のMELスタンダードは、下記式(6)に示す4−O−β−MELの標品であり、MEL−Aは、式中、R、R=炭素原子数1〜14の脂肪酸残基、R、R=アセチル基であり、MEL−Bは、式中R、R=炭素原子数1〜14の脂肪酸残基、R=水素原子、R=アセチル基であり、MEL−Cは、式中、R、R=炭素原子数1〜14の脂肪酸残基、R=アセチル基、R=水素原子で表される化合物を示す。
図1に示すように、JCM11752株、NBRC1940株、およびJCM16987株のいずれもオリーブ油含有培地を使用してMELを生産した。NBRC1940株およびJCM16987株は、オリーブ油含有培地およびオリーブ油+L−アラビトール含有培地の場合は、MEL−Bを生成したが、オリーブ油+D−アラビトール含有培地の場合は、MEL−AもMEL−Bも生成しなかった。なお、JCM11752株はオリーブ油+L−アラビトール含有培地の場合はMEL−Bを、オリーブ油+D−アラビトール含有培地の場合は、MEL−AとMEL−Bとを生成した。更に、オリーブ油+L−アラビトール含有培地を用いてNBRC1940株およびJCM16987株を培養した場合は、MEL−Bの下方に、マンノシルアラビトールリピッド(MAL)と推定される糖含有化合物のスポットが検出された。
(3)高速液体クロマトグラフィー分析
上記(1)で得た培養液を採取し、酢酸エチルで抽出し、酢酸エチル可溶分に含まれる成分を高速液体クロマトグラフィーにて分離した。結果を図2および図3に示す。オリーブ油含有培地を使用した場合に、JCM11752株はMEL−Aを、NBRC1940株およびJCM16987株はMEL−Bを主生成物とする点、オリーブ油+L−アラビトール含有培地の場合、NBRC1940株およびJCM16987株のいずれもMEL−BおよびMALを生成する点、オリーブ油+D−アラビトール含有培地を使用してNBRC1940株、NBRC1940株を培養した場合は、どちらもMALを産生しない点は、図1の薄層クロマトグラフィーの結果と同じであった。なお、HPLC分析によると、オリーブ油+L−アラビトール含有培地を用いてJCM11752株、NBRC1940株、およびJCM16987株を培養した培養液には、MEL−Bの後方に、MALと推定されるピークが検出された。
液体培地(30mL)にはオリーブ油1.5gとL−アラビトール3gとが含まれている。NBRC1940株およびJCM16987株のHPLCの結果に基づき、MEL−Bの検量線を用いてMEL−BとMALの生産量を求めたところ、生産量は、それぞれMEL−B0.9g、MAL0.3gと算出された。
(4)13C−NMRとH−NMR分析
上記(1)のオリーブ油+L−アラビトール含有培地を用いた培養液を採取し、酢酸エチルで抽出し、酢酸エチル可溶分に含まれるMALについて、13C−NMRと1H−NMRとにより構造解析を行った。JCM16987株からの抽出物の分析結果を図4(A)に示す。なお、図4(B)に、実施例1のJCM16987株のオリーブ油培養液から単離した下記式(4)に示す1−O−β−MELの分析結果を対照として示す。図4(A)の13C−NMRの結果に示すように、JCM16987株由来のMALは、糖骨格の炭素数が5であり、アルジトール部分はアラビトールに由来する化合物であることが確認された。

(式(4)において、RとRは同一でも異なっていてもよい炭素数6〜20の脂肪族アシル基であり、RとRは水素またはアセチル基を示す。)
(5)アルジトールの解析
上記(1)のオリーブ油+L−アラビトール含有培地を用いた培養液を酢酸エチルで抽出し、酢酸エチル可溶分に含まれるMALをシリカカラムで精製した。精製画分を3M塩酸中、80℃で3時間分解処理後、ヘキサンにて脂溶性成分を抽出除去し、水溶性画分をアンバーライトカラムで中和し、HPLCでMALに由来する糖成分の解析を行った。図5(A)に糖標品(マンノシルエリスリトール(ME)、マンノース(Mannnose)、リビトール(Ribitol)、エリスリトール(Erythritol)、L−アラビトール(L−Arabitol)含有)の分析結果を、図5(B)にJCM16987株由来のMALを分析した結果を、また、図5(C)に、MELとして、式(4)で示す4−O−β−MELの分析結果を示す。図5(B)に示すように、JCM16987株の培養液抽出物には、マンノースとアラビトールとが含まれていた。なお、前記培養液抽出物にはシリカカラム精製の工程でMELが混入してくるため、図5(C)のピークと重複する少量のマンノシルエリスリトールが検出された。
(6)立体構造
JCM16987株由来のMALには、図5からL−アラビトールが含まれることが確認され、図4(A)と(B)とに示すH−NMRの結果から、図14(d)または図14(e)に示す異性体MALと決定された。
NBRC1940株由来のMALについて、JCM16987株に由来するMALと同様に分析したところ、図14(d)に示す異性体MALであることが確認された。
JCM11752株をオリーブ油+L−アラビトール含有培地で培養して得たMALも異性体MALと推定される。
(比較例1)
実施例1のオリーブ油+D−アラビトール培地でJCM11752株を培養して得たMALを分取し、その一部を酸加水分解して脂肪酸およびアセチル基を除去してマンノシルアラビトール(MA)を得た。このMAを高速液体クロマトグラフィー(カラム:CHIRALPAK IF、溶離液:アセトニトリル:水=95:5、検出方法:示差屈折)でカイラルセパレーションを行い、分析した。これらの結果を図6に示す。図6の結果から、JCM11752株にオリーブ油+D−アラビトール含有培地を培養して生産されたMALは、アルジトールとしてD−アラビトールを含む構造であることが明らかとなった。なお、オリーブ油+D−アラビトール培地でJCM11752株を培養して得たMALは、特許文献3から、図15(d)に示す基準MALであることが判明しているが、比較例1においてもD−アラビトールを含むこと立証された。
(実施例2)
実施例1のオリーブ油+L−アラビトール培地でJCM16987株を用いた培養物を高速液体クロマトグラフィー分析を行い、異性体MALを分取した。異性体MALの一部を酸加水分解して脂肪酸およびアセチル基を除去してマンノシルアラビトール(MA)を得た。比較例1と同様にして、このMAを高速液体クロマトグラフィー(カラム:CHIRALPAK IF、溶離液:アセトニトリル:水=95:5、検出方法:示差屈折)でカイラルセパレーションを行い、分析した。結果を併せて図6に記載する。図6の結果から、オリーブ油+L−アラビトール培地でJCM16987株を用いて生産された異性体MALは、アルジトールとしてL−アラビトールを含む構造であることが確認された。
比較例1で得た基準MALおよび実施例2で得た異性体MALの約250mgをそれぞれ秤取し、2mg/mLナトリウムメトキシド/メタノール溶液4mLを添加して一晩撹拌した。反応後、メタノールを除去し、水1mLを加え残渣を分散させた後、酢酸エチル3mLで3回抽出操作を行い、脂質部を除去して、マンノシルアラビトール(MA)を得た。水相を乾燥後、得られたシロップ状の透明固体についてNMR測定を行った。化学シフトのまとめを図7に、糖骨格部を拡大したH−NMRおよび13C−NMRのチャートを図8、9にそれぞれ示す。基準MAL由来のMA(以下、基準MAとも称する。)に対して異性体MAL由来のMA(以下、異性体MAとも称する。)は、アラビトール部の立体配置が異なり、これに対応してピークが異なる位置に出ていることが確認された。具体的には、H−NMRチャート(図8)において、マンノースに近い5位炭素に結合する2つの水素のピーク(H−5a、5b)の幅が大きく異なり、基準MAでは2つが離れているのに対して異性体MAでは2つが近づいていた。これは公知の4−O−β−MEL(式(6))と1−O−β−MEL(式(4))の場合と同様の傾向である。さらに、13C−NMRチャート(図9)においても、アラビトールの4位、5位炭素のピーク位置が大きく異なっていた。以上の結果から、オリーブ油+L−アラビトール培地でJCM16987株を用いて培養した異性体MALは、少なくとも図15(d)に示す基準MALのアラビトール部の4位、5位炭素の配位が異なることが確認され、L−アラビトールを含む結果を総合し、実施例1と同様に、図14(d)または(e)に示す構造であることが確認された。
(実施例3)
培養液に添加するオリーブ油を1質量%、2質量%、4質量%、8質量%に変化させ、かつL−アラビトールの添加量を2質量%、4質量%、8質量%、10質量%に変化させた培地を使用し、JCM16987株を25℃、7日間、振とう培養した。培養後に培養液から酢酸エチルでマンノシルアルジトールリピッドを抽出し、薄層クロマトグラフィーによりMELおよびMALを検出した。結果を図10に示す。
図10の結果から、オリーブ油およびアルジトールは、それぞれ培地に4質量%以上を添加した場合に、マンノシルアルジトールリピッドを効率的に生成することが判明した。
(実施例4)
実施例1のJCM16987株のオリーブ油培養液から単離した1−O−β−MEL−B、およびオリーブ油+L−アラビトール含有培地で培養して得た異性体MALについて、水侵入法による液晶形成能の比較を行った。その結果を図11に示す。なお、比較のため、実施例1においてJCM11752株のオリーブ油培養液から得た4−O−β−MEL−A、およびオリーブ油+D−アラビトール含有培地で培養して得た基準MALについて、同様に操作した。結果を図12に示す。図11に示すように、異性体MALは、1−O−β−MEL−Bと比較してラメラ相が厚く、かつ二分子膜による一本鎖がループ状に密集するミエリン像を呈するものであった。このことは、アルジトール部の炭素数がミエリン像およびラメラ相の形成に影響を与えることを意味する。本発明の式(1)で示される化合物は、非常に広い濃度領域でラメラ相を形成する能力を有し、液晶形成能に極めて優れたバイオサーファクタントであることが示された。
更に、図11と図12とを比較すると、異性体MALは、基準MALよりもミエリンを形成するループが長い傾向にあった。ミエリンは、両親媒性分子の二分子層の間に媒質層が侵入して膨潤して種々の形状となるが、多くの水が侵入して膨潤したことを意味し、親水性に優れることが示された。
(実施例5)
実施例1のJCM16987株のオリーブ油培養液から単離した1−O−β−MEL−B、およびオリーブ油+L−アラビトール含有培地で培養して得た異性体MALについて、臨界ミセル濃度およびウィルヘルミー法による表面張力を測定した。結果を表1に示す。また、比較のため、実施例1においてJCM11752株のオリーブ油+D−アラビトール含有培地を使用して得た基準MAL、従来の界面活性剤であるショ糖脂肪酸エステル(C10)およびドデシル硫酸ナトリウム(C12)についても同様に操作した。結果を表1に示す。なお、表面張力の測定に際し、溶液として超純水を用い、溶液をシャーレに入れ1日間静置した後、高機能表面張力計(協和科学株式会社製、DY−500)を用いて測定した。
(実施例6)
実施例4で使用した1−O−β−MEL−B、異性体MAL、4−O−β−MEL−A、および基準MALについて、下記方法による濁度評価を行った。
上記各試料を10mg/mlとなるように10%エタノールに懸濁し、室温に3日間静置した。1日目および3日目の外観を図13に示す。また、3日目のサンプルについて、得られた10%エタノール懸濁液を水で10倍希釈し、それぞれの濁度(OD660)を測定した。結果を表2に示す。
図13に示すように、1日目の基準MALおよび異性体MALは、4−O−β−MELおよび1−O−β−MELよりも濁度が低く、アルジトール部の炭素数が増加すると、水とのなじみやすさが増強されることが示された。
また、図13に示すように、4−O−β−MELと1−O−β−MELとの比較、基準MALと異性体MALとの比較から、βグリコシド結合に隣接するアルジトール部の炭素の立体構造の相違により親水性に差が生じることが観察された。特に、異性体MALは、時間の経過に伴い濁度が低下する傾向が観察された。このような濁度の低下は、より小さなベシクルが形成されたためと推定される。異性体MALは、基準MALと比較して、より親水性に優れると考えられる。
なお、表1に示す臨界ミセル濃度は、異性体MALが1.2×10−5であり、基準MALが1.5×10−6であるから、異性体MALの方が高値であり親水性に優れ、これらの結果は図13の結果とも符合する。更に、図11と図12に示すように、異性体MALは、二分子膜による一本鎖がループ状に密集するミエリン像を呈するものであり、ミエリン像の相違が親水性と強く関連することが確認された。本発明の式(1)で示される化合物は、非常に広い濃度領域でラメラ相を形成する能力を有し、澄明性に優れ、従来の化合物を超える特性を有している。
本発明のマンノシルアルジトールリピッドは、界面活性効果や親水性に優れ、医薬、環境その他の産業に使用でき有用である。

Claims (4)

  1. 下記式(2)または(3)で表される、異性体マンノシルアルジトールリピッド。
    (式(2)、(3)において、RとRは同一でも異なっていてもよい炭素数6〜20の脂肪族アシル基であり、RとRは水素またはアセチル基を示す。)
  2. 油脂を2〜10質量%、炭素数5または6のL−アルジトール(ただし、リビトール、キシリトール、アリトールおよびガラクチトールを除く)を1〜10質量%含有する培地でシュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)に属する微生物を培養することを特徴とする、下記式(1)で示される異性体マンノシルアルジトールリピッドの製造方法。
    (式中、RとRは同一でも異なっていてもよい炭素数6〜20の脂肪族アシル基であり、RとRは水素またはアセチル基を示し、nは3または4を示す。)
  3. 前記微生物が、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)NBRC1940株、またはシュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)JCM16987株である、請求項2記載の異性体マンノシルアルジトールリピッドの製造方法。
  4. 請求項1記載の異性体マンノシルアルジトールリピッドを含む、界面活性剤。
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