本発明の第1の実施形態に係る車両用空力装置10について、図1〜図5に基づいて説明する。なお、各図に適宜記す矢印FR、矢印RE、矢印UP、矢印LO、矢印IN、及び矢印OUTは、それぞれ車両用空力装置10が適用された自動車11の前方向(進行方向)、後方向、上方向、下方向、車幅方向内側、及び車幅方向外側を示しており、以下単に上下前後及び車幅方向の内外を示す場合は上記各矢印方向に対応している。
また、図1(A)には車両用空力装置10の側面図が、図1(B)には車両用空力装置10の正面図が、図1(C)には車両用空力装置10の平面図がそれぞれ模式的に示されている。また、図2(A)には車両用空力装置10が適用された自動車11の一部が車幅方向及び上下方向に沿う断面図にて示されており、図2(B)には、車両用空力装置10の要部が側断面図にて示されている。なお、この実施形態では、車両用空力装置10は、左右の前輪Wfにぞれぞれ適用されるが、左右の車両用空力装置10は基本的に対称に構成されるので、図1及び図2では車幅方向一方側の車両用空力装置10のみを図示しており、以下の説明においても一方の車両用空力装置10について説明することとする。
図1及び図2に示される如く、自動車11は、車体Bを構成するフロントフェンダパネル12を備えており、フロントフェンダパネル12には前輪Wfの転舵を許容するために側面視円弧状のホイールアーチ12Aが形成されている。このフロントフェンダパネル12の内側にはホイールエプロン14が結合(図示省略)されており、ホイールエプロン14にはホイールハウスインナ16及びサスペンションタワー18が形成されている。ホイールハウスインナ16は、その車幅方向外側に前輪Wfが配設されるホイールハウスHを形成している。前輪Wfは、サスペンションタワー18に支持された懸架装置としてのフロントサスペンション20によって、車体Bに対し上下方向の相対変位(接離)可能に支持されている。
具体的には、フロントサスペンション20は、上下方向に長手とされたロッド22Aの上端がサスペンションタワー18の頂部18Aに固定されると共にシリンダ22Bの下端がアッパアーム24を介して前輪Wfに連結されたショックアブソーバ22と、ロッド22Aの上端部に固定された上ばね受け26とシリンダ22Bの上端部に固定された下ばね受け28との間に圧縮状態で配設された圧縮コイルスプリング30とを有し、ストラット式のサスペンションとして構成とされている。
アッパアーム24は、前輪Wfの転舵を許容するようにシリンダ22Bと前輪Wfとを連結している。また、前輪Wfには、ステアリング装置を構成するタイロッド32が連結されており、このタイロッド32が図示しないステアリングホイールの操作(操舵)によって矢印OUT方向に移動すると前輪Wfが外向きに転舵され、タイロッド32が矢印IN方向に移動すると前輪Wfが内向きに転舵されるようになっている。さらに、図1(B)に示される如く、前輪Wfは、ロアアーム33を介して車体B(サスペンションメンバ等)に上下動可能に支持されている。
そして、車両用空力装置10は、内壁部材としてのフェンダライナ34を備えて構成されている。フェンダライナ34は、薄肉の樹脂材にて側面視で下方に開口する略円弧状に形成されており(図1(A)参照)、ホイールハウスHの上部に位置して前輪Wfを上側から覆う構成とされている(図1(C)参照)。フェンダライナ34は、ホイールエプロン14に固定的に取り付けられている。これにより、車体Bでは、泥や小石などがホイールエプロン14等に当たることが防止されるようになっている。
このフェンダライナ34は、図1(C)及び図2(A)に示される如く、その前後方向の略中央部の内側部分に形成された切欠部34Aにフロントサスペンション20を貫通させることで、該フェンダライナ34の可動部(前輪Wf側の部分)との干渉が防止される構成とされている。この実施形態では、切欠部34A(とフロントサスペンション20との隙間)は極力小さく設定されている。
この実施形態では、以上説明したフェンダライナ34がホイールハウスHの上縁を規定しているものと捉えられる。換言すれば、フェンダライナ34は、その下側に形成されたホイールハウスHと、その上部の外部空間Sとを仕切る(区画する)仕切り部材として把握される。
そして、車両用空力装置10では、図1(C)及び図2(A)に示される如く、ホイールハウスHの内外を連通する連通部としての連通孔35がフェンダライナ34に形成されている。この実施形態では、連通孔35は、フロントサスペンション20(前輪Wfの回転軸)に対する前後両側に、それぞれフェンダライナ34の周方向に並列して複数形成されている。
また、車両用空力装置10は、各連通孔35の開度(ホイールハウスHから外部空間Sへ向けての空気の通過しやすさ)を変化させるための開閉部材として開閉ベーン36を備えている。開閉ベーン36は、連通孔35を開閉することで該連通孔35の開度を変化させる構成とされており、この実施形態では、各連通孔35を個別に開閉させるべく複数の開閉ベーン36が設けられている。
具体的には、図2(B)に示される如く、各開閉ベーン36は、フェンダライナ34の周方向における一端が、連通孔35における上記周方向の一端近傍に車幅方向に沿って設けられた支軸38を介して、フェンダライナ34に回動可能に支持されている。この支軸38回りの回動によって開閉ベーン36は、支軸38側と反対側の自由端36Aをフェンダライナ34の外面34Bにおける連通孔35の縁部近傍に係合させて該連通孔35を閉止する閉止姿勢(図2(B)の想像線参照)と、自由端36Aをフェンダライナ34の外面34Bから上方に離間させて連通孔35を開放する開放姿勢(図2(B)の実線参照)とをとり得る構成とされている。
すなわち、車両用空力装置10では、フェンダライナ34における自由端36Aが係合する連通孔35の縁部がストッパとして機能する構成とされており、開閉ベーン36は、ホイールハウスH内に開動作(進入)せず、連通孔35の開放姿勢で外部空間S側にのみ位置する構成とされている。この実施形態では、各開閉ベーン36は、重力又は図示しない付勢部材(例えば、ねじりコイルばね等)によって閉止姿勢に偏倚され、ホイールハウスH内に流入した空気の圧力(流れ)によって閉止姿勢から開放姿勢に変位されるようになっている。したがって、開閉ベーン36の開放姿勢(連通孔35の開度)は、ホイールハウスH内の空気圧力に応じて調整される(変化する)構成とされている。
次に、第1の実施形態の作用を説明する。
上記構成の車両用空力装置10が適用された自動車11では、その定常走行(車体Bに対する前輪Wfの上下動が殆ど生じない走行状態)においては、ホイールハウスH内に空気が流入すると、開閉ベーン36は、ホイールハウスH内の空気圧に応じて開放姿勢に変位し、連通孔35を比較的小さい開度で開放する。これにより、図5(A)に示される如く、ホイールハウスHに流入した空気の一部は連通孔35を通じて外部空間Sに流出され(図5(A)の矢印A参照)、外部空間Sを経由して車外に排出され、矢印Bにて示す如くホイールアーチ12Aを経由して車体側方に吹き出す流れが抑制される。
そして、車両用空力装置10では、図3(A)に示される如く、前輪Wfが車体Bに対し車両上下方向に離間しようとする動きが生じた場合、図3(B)に示される如く、各開閉ベーン36が閉止姿勢で連通孔35を閉止する。このため、前輪Wfは、ホイールハウスH内の空気を広げながら車体Bに対し変位することになるので、該車体Bと前輪Wfとの相対変位が抑制される(相対変位に対する抵抗が生じる)。すなわち、車両用空力装置10では、路面Rに対する車体Bの上昇が抑制される(車体Bが路面Rに対し上昇し難い)。また、ホイールハウスHが広がることで、図5(C)に示される如くホイールハウスHの下向き開口部、ホイールアーチ12Aを経由した該ホイールハウスHへの空気の流入は生じるが、ホイールアーチ12Aを経由した空気の吹き出しは殆ど生じない。
一方、車両用空力装置10では、図4(A)に示される如く、前輪Wfが車体Bに対し車両上下方向に近接しようとする動きが生じた場合、ホイールハウスH内の空気が前輪Wfにて上方に押されるので、図4(B)に示される如く、各開閉ベーン36が開放姿勢に変位される。すると、各連通孔35が開放され、図5(B)に矢印Cにて示される如く、ホイールハウスH内の空気が連通孔35を経由して外部空間Sに流出される。このため、車両用空力装置10では、前輪WfがホイールハウスH内で空気を圧縮することが抑制されるので、該ホイールハウスH内の空気が車体Bに対する前輪Wfの近接を阻害することが効果的に抑制される。すなわち、車両用空力装置10では、路面Rに対し車体Bが下降し易い。また、図5(B)に示される如くホイールハウスH内の空気が外部空間Sを経由して車外に流出されるため、ホイールアーチ12Aを経由して車体側方に吹き出す流れが少ない。
以上により、車両用空力装置10が適用された自動車11では、前輪Wfの車体Bに対する上下動に伴いホイールアーチ12Aを経由した車体側方への空気吹き出しが抑制されるので、空気抵抗(抗力係数、CD値)が低減される。また、車両用空力装置10が適用された自動車11では、車体Bが路面Rから離間し難く路面Rに近接し易いため、車体Bが路面Rに対し低く維持され易く(車高が低く抑えられ)、運動性能が向上する。さらに、車高が低く抑えられることは、空気抵抗のさらなる低減にも寄与する。
しかも、車両用空力装置10が適用された自動車11では、定常走行の際にも上記の通り連通孔35を経由してホイールハウスH内の空気を外部空間Sに流出させるため、ホイールアーチ12Aを経由した車体側方への空気吹き出しが抑制されるので、空気抵抗(抗力係数、CD値)が低減される。
このように、第1の実施形態に係る車両用空力装置10では、空気のホイールハウスHに対する出入りをコントロールすることができ、その結果、適用された自動車の空気抵抗の低減、運動性能の向上を図ることができた。また、車両用空力装置10では、フェンダライナ34に設けた連通孔35と該連通孔35を開閉する開閉ベーン36とで、空気のホイールハウスHに対する出入りをコントロールするため、例えばフェンダライナ34を変形させて空気のホイールハウスHに対する出入りをコントロールする構成と比較して、自動車11への適用に対する制約が少ない。
次に本発明の他の実施形態を説明する。なお、上記第1の実施形態又は前出の構成と基本的に同一の部品・部分については上記第1の実施形態又は前出の構成と同一の符号を付してその説明(図示)を省略する。
(第2の実施形態)
図6(A)には、本発明の第2の実施形態に係る車両用空力装置40が模式的な側面図にて示されている。この図に示される如く、車両用空力装置40は、フェンダライナ34に代えて、内壁部材としてのフェンダライナ42を備えて構成されている点で、第1の実施形態に係る10とは異なる。フェンダライナ42は、側面視で、その(前輪Wfの)周方向を向くように形成された段部44を有する段付形状に形成されている。この実施形態では、フェンダライナ42は、フロントサスペンション20(前輪Wfの回転軸)に対する前後両側に、それぞれ複数の段部44が形成されて構成されている。
そして、車両用空力装置40では、フェンダライナ42の各段部44に、それぞれ図6(B)に示される如き連通孔35が形成されている。連通孔35は、該連通孔35における車両上下方向の上側の縁部近傍で支軸38を介して回動可能に支持された開閉ベーン36によって、開閉されるようになっている。すなわち、開閉ベーン36は、支軸38回りの回動によって、図6(B)に想像線にて示す閉止位置と、図6(B)に実線にて示す開放位置とをとり得る構成とされている。
この実施形態では、通常は開閉ベーン36を閉止位置に位置させる図示しない付勢部材(ねじりコイルばね等)が設けられており、開閉ベーン36は、ホイールハウスH内の空気から受ける力が付勢部材の付勢力を超えると、開放位置に変位される構成である。車両用空力装置40の他の構成は、車両用空力装置10の対応する構成と同じである。
したがって、第2の実施形態に係る車両用空力装置40によっても、基本的に第1の実施形態に係る車両用空力装置10と同様の作用によって同様の効果を得ることができる。また、車両用空力装置40では、フェンダライナ42の周方向を向く段部44に連通孔35が形成されているため、図6(A)に矢印Dにて示される如く車体Bに対する前輪Wfの近接に伴いホイールハウスH内中央から前後に流れる空気の圧力が、連通孔35を閉止している開閉ベーン36に作用し易い。また、この空気圧により開閉ベーン36が開放姿勢に変位されると、フェンダライナ42に沿って周方向に流れる空気がスムースに連通孔35を通過する。以上により、車両用空力装置40では、車両用空力装置10と比較しても、車体Bが路面Rに近接しやすく、運動性能の向上により寄与する。
(第3の実施形態)
図7(A)には、本発明の第3の実施形態に係る車両用空力装置50が模式的な側面図にて示されており、図7(B)には、車両用空力装置50が模式的な平面図にて示されている。これらの図に示される如く、車両用空力装置50は、外部空間Sと車体外部とを連通する排風部としての空気排出口52を備える点で、第1の実施形態に係る車両用空力装置10とは異なる。
空気排出口52は、フロントフェンダパネル12におけるホイールハウスH(ホイールアーチ12Aの後下縁部)に対する後側に配置されており、車体側方に開口されている。これにより、ホイールハウスHから外部空間Sに流入された空気は、該外部空間S内を通過して空気排出口52から車体外部に流出されるようになっている。車両用空力装置50の他の構成は、車両用空力装置10の対応する構成と同じである。
したがって、第2の実施形態に係る車両用空力装置50によっても、基本的に第1の実施形態に係る車両用空力装置10と同様の作用によって同様の効果を得ることができる。また、車両用空力装置50では、ホイールハウスHから外部空間Sに流入した空気が図7に矢印Aにて示される如く空気排出口52からスムースに車外に排出される。これにより、フェンダライナ34の前後から車体内部を通して空気を排出する車両用空力装置10と比較してもホイールハウスHから車体外までの空気流れの抵抗が一層低減され、前輪Wfの車体Bに対する(車体Bの路面Rに対する)近接が一層行われやすくなる。特に、車体外側部における空気流が速く負圧が発生するホイールアーチ12Aの後方に空気排出口52が配置されているので、外部空間S(ホイールハウスH)内の空気が一層効果的に排出される。
(第4の実施形態)
図8(A)には、本発明の第4の実施形態に係る車両用空力装置55が模式的な側面図にて示されており、図8(B)には、車両用空力装置55が模式的な平面図にて示されている。これらの図に示される如く、車両用空力装置55は、ホイールハウスインナ16の車幅方向外面側に沿って立設された内壁部材としての縦壁56を有し、該縦壁56に連通孔35が形成されている点で、フェンダライナ34に連通孔35が形成された第1の実施形態に係る車両用空力装置10とは異なる。
縦壁56は、図示しないエンジンアンダカバーの一部を構成しており、図示しないエンジンコンパートメントとホイールハウスHとを隔てる隔壁として機能する構成である。すなわち、縦壁56は、ホイールハウスインナ16と前輪Wfとの間で、ホイールハウスHの車幅方向内縁を規定するように配置されている。したがって、この実施形態では、縦壁56に対する車幅方向内側は、ホイールハウスHとは隔てられた外部空間Sとされている。
連通孔35は、フロントサスペンション20(前輪Wfの回転軸)に対する前後両側に、それぞれ車両前後方向に並列されて複数形成されている。各連通孔35は、図8(C)に示される如く、縦壁56における連通孔35の前又は後の縁部近傍で車両上下方向に沿って配置された支軸38に回動可能に支持された開閉ベーン36によって、開閉されるようになっている。
この実施形態では、通常は開閉ベーン36を閉止位置に位置させる図示しない付勢部材(ねじりコイルばね等)が設けられており、開閉ベーン36は、ホイールハウスH内の空気から受ける力が付勢部材の付勢力を超えると、開放位置に変位される構成である。車両用空力装置55の他の構成は、車両用空力装置10の対応する構成と同じである。
したがって、第2の実施形態に係る車両用空力装置55によっても、基本的に第1の実施形態に係る車両用空力装置10と同様の作用によって同様の効果を得ることができる。
(第5の実施形態)
図9(A)には、本発明の第5の実施形態に係る車両用空力装置60が模式的な側面図にて示されている。この図に示される如く、車両用空力装置60は、縦壁56に代えて、内壁部材としての縦壁62を備えて構成されている点で、第4の実施形態に係る55とは異なる。縦壁62は、平面視で、その前後方向を向くように形成された段部64を有する段付形状に形成されている。この実施形態では、段部64は、フロントサスペンション20(前輪Wfの回転軸)に対する前後両側に、それぞれ複数の段部64が形成されている。
そして、車両用空力装置60では、縦壁62の各段部64に、それぞれ図9(B)に示される如き連通孔35が形成されている。連通孔35は、該連通孔35における車幅方向の内側の縁部近傍で支軸38を介して回動可能に支持された開閉ベーン36によって、開閉されるようになっている。すなわち、開閉ベーン36は、支軸38回りの回動によって、図9(B)に想像線にて示す閉止位置と、図9(B)に実線にて示す開放位置とをとり得る構成とされている。車両用空力装置60の他の構成は、車両用空力装置55の対応する構成と同じである。
したがって、第5の実施形態に係る車両用空力装置60によっても、基本的に第4の実施形態に係る車両用空力装置55(第1の実施形態に係る10)と同様の作用によって同様の効果を得ることができる。また、車両用空力装置60では、車両前後方向を向く段部64に連通孔35が形成されているため、車体Bに対する前輪Wfの近接に伴いホイールハウスH内中央から前後に流れる空気の圧力が、連通孔35を閉止している開閉ベーン36に作用し易い。また、この空気圧により開閉ベーン36が開放姿勢に変位されると、縦壁62に沿って周方向に流れる空気がスムースに連通孔35を通過する。以上により、車両用空力装置60では、車両用空力装置10と比較しても、車体Bが路面Rに近接しやすく、運動性能の向上により寄与する。
(第6の実施形態)
本発明の第6の実施形態に係る車両用空力装置70について、図10〜図14に基づいて説明する。図10(A)には、車両用空力装置70が模式的な側面図にて、図10(B)には、車両用空力装置70が模式的な正面図にて、図10(C)には、車両用空力装置70が模式的な平面図にてそれぞれ示されている。これらの図に示される如く、車両用空力装置70は、開閉ベーン36を駆動するアクチュエータ72を備える点で、第1の実施形態に係る車両用空力装置10とは異なる。
この実施形態では、開閉ベーン36は、フェンダライナ34におけるフロントサスペンション20(切欠部34A)に対する前後に1つずつ設けられており、それぞれ独立してアクチュエータ72にて駆動されるようになっている。各開閉ベーン36が開閉する連通孔35は、車両用空力装置10と同様にフェンダライナ34の周方向に並列された複数のものでも良いが、この実施形態では、前後一対の開閉ベーン36にて開閉し得る前後一対の連通孔35(車両用空力装置10における連通孔35よりも周方向に大きな連通孔35)が形成されている。
各アクチュエータ72は、車体Bに固定された本体72Aに対し上下方向に沿って伸縮(進退)するロッド72Bを有しており、ロッド72Bの下端が開閉ベーン36における支軸38から離間した位置(自由端36A側)に固定されている。各アクチュエータ72は、本体72Aからのロッド72Bの突出量を減少する(短縮する)ことで、図13(A)に示される開閉ベーン36の閉止姿勢と、図13(B)に示される開閉ベーン36の全開姿勢と、図13(C)に示される開閉ベーン36の小開姿勢とを切り替えるように構成されている。
また、車両用空力装置70は、図11に示される如く、制御装置としての空力ECU74を備えている。空力ECU74には、各アクチュエータ72が電気的に接続されており、アクチュエータ72は、空力ECU74に制御されて開閉ベーン36を駆動することで連通孔35を開閉(小開を含む)するように構成されている。また、空力ECU74は、走行状態検出装置としての各種センサと電気的に接続されており、これらのセンサの出力情報に基づいて各アクチュエータ72を制御するようになっている。
具体的には、空力ECU74には、車高センサ76の出力信号が入力されるようになっている。車高センサ76は、車体Bと各前輪Wfとの間にそれぞれ設けられ、車体Bと各前輪Wfとの上下方向(フロントサスペンション20のストローク方向)の相対変位(接離量)に応じた信号を空力ECU74に出力するようになっている。そして、車両用空力装置70では、空力ECU74は、車高センサ76からの信号に基づいて、本実施形態の作用と共に後述する如くアクチュエータ72を制御するようになっている。
さらに、この実施形態では、空力ECU74は、アクセルペダルの操作量(燃料噴射量)に応じた信号を出力するアクセルセンサ78、ブレーキペダルの操作量(踏力)に応じた信号を出力するブレーキセンサ80、ステアリングホイール86の操舵量又は操舵力に応じた信号を出力する操舵センサ84、車体Bの上下軸回りの旋回加速度に応じた信号を出力するヨーレートセンサ88、車体Bの前後方向に作用する加速度に応じた信号を出力する前後Gセンサ90、車体Bの車幅方向に作用する加速度に応じた信号を出力する横Gセンサ92等が電気的に接続されており、各種センサの信号が車両走行情報として入力されるようになっている。
次に、第6の実施形態の作用を、図12に示すフローチャートを参照しつつ説明する。なお、以下の説明では左右何れか一方の車両用空力装置10の作用を説明する。
上記構成の車両用空力装置70が適用された自動車11では、空力ECU74は、ステップS10で、車高センサ76の出力信号に基づいて、自動車11の車高変化がなかったか否かを判断する。この判断は、時刻t1における車高h(t1)と、時刻t1+Δtにおける車高h(t1+Δt)との差ΔHの絶対値(|ΔH|)が所定の閾値tを下回ったか否かにより行われる。
ステップS10で|ΔH|<T、すなわち車高変化がなかったと判断された場合、空力ECU74はステップS12に進み、図13(C)に示される如く開閉ベーン36が小開姿勢となるようにアクチュエータ72を制御する。すると、車両用空力装置70が適用された自動車11では、その定常走行(車体Bに対する前輪Wfの上下動が殆ど生じない走行状態)においては、ホイールハウスH内に空気が流入すると、この空気の一部は連通孔35を通じて外部空間Sに流出され、該外部空間Sを経由して車外に排出される。これにより、車両用空力装置70が適用された自動車11では、ホイールアーチ12Aを経由して車体側方に吹き出す流れが抑制される。
一方、ステップS10で|ΔH|<T、すなわち車高変化があったと判断された場合、空力ECU74はステップS14へ進み、車高が減少したか否かを判断する。この判断は、時刻t1における車高h(t1)と、時刻t1+Δtにおける車高h(t1+Δt)との差ΔHが0を下回るか否かにより行われる。
ステップS10でΔH<0、すなわち車高が減少した(車体Bが路面Rに近づいた)と判断された場合、空力ECU74はステップS16に進み、図13(B)に示される如く開閉ベーン36が全開姿勢となるようにアクチュエータ72を制御する。これにより、前輪Wfの車体Bへの近接に伴い押された空気は連通孔35を通じて外部空間Sに流出されるので、ホイールハウスH内の空気によって前輪Wfの変位が抑制されることがない。
また、ステップS10でΔH>0、すなわち車高が増加したと判断された場合、空力ECU74はステップS18に進み、図13(A)に示される如く開閉ベーン36が閉止姿勢となるようにアクチュエータ72を制御する。すると、前輪Wfの車体Bからの離間に伴いホイールハウスH内の空気が広げられることで、該前輪Wfの車体Bからの離間が妨げられる。
以上により、車両用空力装置70では、第1の実施形態に係る車両用空力装置10と同様に、開閉ベーン36による連通孔35の開閉が行われるので、該車両用空力装置10と同様の効果を得ることができる。すなわち、車両用空力装置70では、車体Bが路面Rに近接する際には連通孔35を開放することでこの動きを妨げないようにすると共にホイールアーチ12Aを経由した空気の車体側への吹き出しを抑制し、車体Bが路面Rから離間する際には連通孔35を閉止することでこの動きを妨げ、吹き出し抑制による空気抵抗の低減と、車高低下による運動性能の向上とを図ることができる。
この点につき図14(A)〜図14(C)に示す線図を参照しつつ補足する。図14(A)〜図14(C)に示す実線は、車両用空力装置70の車高変化、開閉ベーン36の姿勢、ホイールアーチ12Aを経由した車体側方への空気吹き出しを示しており、破線は、比較例200の対応する線図を必要に応じて示している。図14(A)及び図14(B)から、車体Bが路面Rに近接する際に連通孔35を全開することで、車体Bが短時間で下降することがわかる。これにより、自動車11は、時間平均の車高が低く抑えられる。
また、図14(B)及び図14(C)から、比較例200ではホイールアーチ12Aを経由した車体側方への吹き出し流れが多く生じてしまう車体Bの路面Rへの近接時に、車両用空力装置70では、連通孔35から外部空間SにホイールハウスH内の空気が逃がされることで、ホイールアーチ12Aを経由した車体側方への吹き出し流れが著しく抑制されることがわかる。さらに、連通孔35が開閉ベーン36にて小開される定常走行時においても、車両用空力装置70では、ホイールアーチ12Aを経由した車体側方への吹き出し流れが著しく抑制されることがわかる。図14(C)から、車両用空力装置70では、路面Rに対する車体Bの姿勢変化の有無、方向に拘わらず、ホイールアーチ12Aを経由した車体側方への吹き出し流れが殆どないことがわかる。
(第7の実施形態)
図15には、本発明の第7の実施形態に係る車両用空力装置100が適用された自動車11が模式的な平面図にて示されている。車両用空力装置100は、開閉ベーン36の全開姿勢、小開姿勢、閉止姿勢をとり得、機械的には車両用空力装置70と同様に構成されている。この車両用空力装置100は、空力ECU74に代えて設けられた空力ECU102が、図12のフローチャートに示す制御に代えて又は該制御に加えて、操舵状態に対応して開閉ベーン36による連通孔35の開度を変化させる制御を行う点で、車両用空力装置70とは異なる。
空力ECU102は、操舵センサ84の出力信号に基づいて前輪Wfの転舵方向を検知するようになっている。この実施形態では、操舵センサ84は、ステアリングホイール86の操舵角に応じた信号を出力する操舵角センサ、又は操舵トルク(及びトルクの作用方向)に応じた信号を出力するトルクセンサとされている。なお、操舵センサ84に代えて、ヨーセンサを用いて操舵(移動させたい)方向を検知するようにしても良い。空力ECU102は、例えば操舵センサ84が操舵角センサである場合、該操舵センサ84の出力信号がステアリングホイール86の中立位置(操舵角0)から所定角(遊び範囲)を超えて一方側に角変位している(例えば、正の信号が出力されている)場合には、前輪Wfが一方側に転舵されていることを検知することができる。
空力ECU102は、中立位置に対する転舵方向すなわち自動車11の旋回方向を検知すると、内輪となる前輪Wfi(図15参照)側の車両用空力装置100の開閉ベーン36が閉止姿勢とされ、外輪となる前輪Wfo(図15参照)側の車両用空力装置100のフェンダライナ34の開閉ベーン36が全開姿勢とされるように、左右の車両用空力装置100のアクチュエータ72の作動、停止を制御する構成とされている。この実施形態では、ステアリングホイール86の中立位置の遊び範囲を超えた操舵角が検出されている(中立位置に戻るまでの)全期間に亘り、前輪Wfi側で開閉ベーン36が閉止姿勢とされると共に前輪Wfo側で開閉ベーン36が全開姿勢とされる構成とされている。
また、空力ECU102は、ステアリングホイール86が中立位置(遊び範囲を含む)に位置する場合には、開閉ベーン36が小開姿勢となる(維持する)ようにアクチュエータ72の作動、停止を制御するようになっている。
この実施形態では、共通の空力ECU102にて制御される左右の車両用空力装置100で、本発明における車両用空力装置が構成されていると把握することとなる。
次に、第7の実施形態の作用を、図16に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
上記構成の車両用空力装置100が左右の前輪Wfにそれぞれ適用された自動車11では、空力ECU102は、ステップS20で、操舵センサ84の出力信号に基づいて、操舵の有無を判断する。操舵されていない、すなわち各前輪Wfが転舵していないと判断した場合、空力ECU102は、ステップS22に進み、左右の前輪Wfに対応する各開閉ベーン36が小開姿勢をとるように各アクチュエータ72の作動、停止を制御する。
すると、図17(B)、図17(E)に示される如く、左右の前輪Wfに対応する左右のフェンダライナ34の連通孔35は小開度で開放される。これにより、ホイールハウスH内に流入した空気の一部は連通孔35を通じて外部空間Sに流入し、ホイールアーチ12Aを経由した車体側方への空気の吹き出しが抑制される。したがって、車両用空力装置100が適用された自動車11では、定常走行の際の空気抵抗の低減が図られる。
ステップS20で操舵されている(遊び範囲を超える操舵角が検知された)、すなわち各前輪Wfが転舵していると判断した場合、空力ECU102は、ステップS24に進み、操舵によって前輪Wfが転舵している方向が右であるか否であるか(例えば、中立の操舵角0に対し操舵角が正であるか否か)を判断する。転舵方向が右であると判断した場合、空力ECU102は、ステップS26に進み、内輪となる右側の前輪Wfi用の開閉ベーン36が閉止姿勢をとると共に、外輪となる左側の前輪Wfo用の開閉ベーン36が全開姿勢をとるように、各アクチュエータ72を作動、停止させる。
すると、図17(A)、図17(D)に示される如く、右側の前輪Wfiは連通孔35が閉止されることで車体Bに対する離間(路面Rに対する車体Bの離間)が抑制されると共に、左側の前輪Wfoは連通孔35の開度が最大とされることで、車体Bに対する近接(路面Rに対する車体Bの近接)がホイールハウスH内の空気によって妨げられることが抑制される。
ステップS24で転舵方向が右ではない、すなわち左であると判断した場合、空力ECU102は、ステップS28に進む。このステップS28で空力ECU102は、内輪となる左側の前輪Wfi用の開閉ベーン36が閉止姿勢をとると共に、外輪となる右側の前輪Wfo用の開閉ベーン36が全開姿勢をとるように、各アクチュエータ72を作動、停止させる。すると、図17(C)、図17(F)に示される如く、左側の前輪Wfiは連通孔35が閉止されることで車体Bに対する離間(路面Rに対する車体Bの離間)が抑制されると共に、右側の連通孔35の開度が最大とされることで、車体Bに対する近接(路面Rに対する車体Bの近接)がホイールハウスH内の空気によって妨げられることが抑制される。
以上により、車両用空力装置100が適用された自動車11では、左右何れに旋回する場合でも、内輪の車体Bに対する離間がホイールハウスH内の空気にて抑制される一方、外輪の車体Bに対する近接がホイールハウスH内の空気に妨げられることがないので、旋回に伴う車体Bのロールが発生しやすくなる。すなわち、本自動車11では、操舵開始から短時間でロール変位がほぼ終了し、回頭性が向上する。
具体的には、図18(A)に示される如く操舵(転舵)した場合、図18(B)に示される如く左右の連通孔35の開度を調整することで、空力ECU102による制御なし(連通孔35を常時閉止)の場合と比較して、図18(C)に示される如く、自動車11の横加速度(横G)、ロール共に発生タイミングが速くなることが確かめられている。このため、車両用空力装置100が適用された自動車11では、操舵に対する応答が良好になり、操舵角に対するロール応答、横運動(横G)のゲインも向上するので、スムースな運転が可能になる。
このように、第7の実施形態に係る車両用空力装置100では、空気のホイールハウスHに対する出入りをコントロールすることができ、その結果、自動車11の運動性能を向上することができる。
なお、第7の実施形態では、前輪Wfが中立位置に対し左右何れに転舵されているかに応じて開閉ベーン36の姿勢を切り替える例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、操舵トルクの作用方向や操舵速度等に応じて開閉ベーン36の姿勢を切り替える制御を行うようにしても良い。
(第8の実施形態)
図19には、本発明の第8の実施形態に係る車両用空力装置110が適用された自動車11が模式的な平面図にて示されている。この図に示される如く、車両用空力装置110は、自動車11の4つの車輪、すなわち左右の前輪Wf、後輪Wrのそれぞれに適用されている。個別の車輪に対する車両用空力装置110の構成は、機械的には、車両用空力装置70、100の対応する構成と同じである。すなわち、車両用空力装置110を構成する各開閉ベーン36は、アクチュエータ72によって、閉止姿勢、小開姿勢、全開姿勢の少なくとも3姿勢をとり得る構成とされている。なお、後輪Wrは、懸架装置としてのリヤサスペンション114を介して、車体Bに対し車両上下方向に相対変位可能に支持されている。
左右の前輪Wf、後輪Wrに対応する各アクチュエータ72は、共通の空力ECU112にて制御されるようになっている。この車両用空力装置110の空力ECU112は、図12、図16のフローチャートに示す制御に代えて又はこれらの制御に加えて、自動車11の加減速に対応して開閉ベーン36による連通孔35の開度を変化させる制御を行う点で、車両用空力装置70、102とは異なる。
空力ECU112は、前後Gセンサ90からの信号に基づいて、各前輪Wf、後輪Wrの開閉ベーン36の姿勢(アクチュエータ72の作動、停止)を制御するようになっている。具体的には、空力ECU112は、自動車11の加速を検知すると、各前輪Wf(図19参照)側の車両用空力装置110の開閉ベーン36が閉止姿勢とされ、各後輪Wr(図19参照)側の車両用空力装置110のフェンダライナ34の開閉ベーン36が全開姿勢とされるように、前後の車両用空力装置110のアクチュエータ72の作動、停止を制御する構成とされている。この実施形態では、加速が検出されている全期間に亘り、前輪Wf側で開閉ベーン36が閉止姿勢とされると共に後輪Wr側で開閉ベーン36が全開姿勢とされる構成とされている。
一方、空力ECU112は、自動車11の減速を検知すると、各前輪Wf側の車両用空力装置110の開閉ベーン36が全開姿勢とされ、各後輪Wr側の車両用空力装置110のフェンダライナ34の開閉ベーン36が閉止姿勢とされるように、前後の車両用空力装置110のアクチュエータ72の作動、停止を制御する構成とされている。この実施形態では、減速が検出されている全期間に亘り、前輪Wf側で開閉ベーン36が全開姿勢とされると共に後輪Wr側で開閉ベーン36が閉止姿勢とされる構成とされている。
また、空力ECU112は、自動車11が略一定の車速で走行している(閾値を超える加減速が検出されない)定常走行時には、開閉ベーン36が小開姿勢となる(維持する)ようにアクチュエータ72の作動、停止を制御するようになっている。
この実施形態では、共通の空力ECU112にて制御される前後左右の車両用空力装置110で、本発明における車両用空力装置が構成されていると把握することとなる。
次に、第8の実施形態の作用を、図20に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
上記構成の車両用空力装置110が左右の前輪Wfにそれぞれ適用された自動車11では、空力ECU112は、ステップS30で、前後Gセンサ90の出力信号に基づいて、自動車11の加減速の有無を判断する。加減速されていない、すなわち自動車11が定速走行中であると判断した場合、空力ECU112は、ステップS32に進み、左右の前輪Wfに対応する各開閉ベーン36が小開姿勢をとるように各アクチュエータ72の作動、停止を制御する。
すると、図21(B)、図21(E)に示される如く、各前輪Wf、後輪Wrに対応する各フェンダライナ34の連通孔35は小開度で開放される。これにより、ホイールハウスH内に流入した空気の一部は連通孔35を通じて外部空間Sに流入し、ホイールアーチ12Aを経由した車体側方への空気の吹き出しが抑制される。したがって、車両用空力装置110が適用された自動車11では、定常走行の際の空気抵抗の低減が図られる。
ステップS30で加減速されている、すなわち自動車11の車速が変化していると判断した場合、空力ECU112は、ステップS34に進み、自動車11の加減速が加速であるか否かを判断する。加速であると判断した場合、空力ECU112は、ステップS36に進み、各前輪Wf用の開閉ベーン36が閉止姿勢をとると共に、各後輪Wr用の開閉ベーン36が全開姿勢をとるように、各アクチュエータ72を作動、停止させる。
すると、図21(A)、図21(D)に示される如く、各前輪Wfは連通孔35が閉止されることで車体Bに対する前輪Wf(路面Rに対する車体B)の離間が抑制されると共に、各後輪Wrは連通孔35の開度が最大とされることで、車体Bに対する前輪Wf(路面Rに対する車体B)の近接がホイールハウスH内の空気によって妨げられることが抑制される。
これにより、自動車11では、車体Bの前部の路面Rに対する離間が抑制されると共に、車体Bの後部の路面Rへの近接はしやすくなり、加速に伴う車体Bの姿勢変化(駆動輪に駆動力が掛かりやすい姿勢への移行)が短時間で収束する。具体的には、図21(A)に示される如く自動車11が加速する場合、図21(B)に示される如く各前輪Wfの開閉ベーン36を閉止姿勢にすると共に各後輪Wrの開閉ベーン36を全開姿勢にすることで、図21(C)に示される如く、制御なし(連通孔35を常時閉止)の場合と比較して、加速時の車体Bの姿勢(ピッチ角)変化が短時間で収束することが確かめられている。自動車11では、その運転者は、上記の通り加速に伴う姿勢変化が収束すると安心して強くアクセルを踏むことができ、操縦性の向上に寄与する。
一方、ステップS34で加速ではない、すなわち自動車11が減速されていると判断した場合、空力ECU112は、ステップS38に進む。このステップS38で空力ECU112は、各前輪Wf用の開閉ベーン36が全開姿勢をとると共に、各後輪Wr用の開閉ベーン36が閉止姿勢をとるように、各アクチュエータ72を作動、停止させる。すると、図21(C)、図21(F)に示される如く、各前輪Wfは連通孔35が閉止されることで車体Bに対する離間(路面Rに対する車体Bの離間)が抑制されると共に、各後輪Wrは連通孔35の開度が最大とされることで、車体Bに対する近接(路面Rに対する車体Bの近接)がホイールハウスH内の空気によって妨げられることが抑制される。
これにより、自動車11では、車体Bの前部が路面Rに対し近接しやすくなる一方、車体Bの後部が路面Rから離間することが抑制され、減速に伴う車体Bの姿勢変化(安定したブレーキ姿勢への移行)が短時間で収束する。具体的には、図21(A)に示される如く自動車11が減速する場合、図21(B)に示される如く各前輪Wfの開閉ベーン36を全開姿勢にすると共に各後輪Wrの開閉ベーン36を閉止姿勢にすることで、図21(C)に示される如く、制御なし(連通孔35を常時閉止)の場合と比較して、加速時の車体Bの姿勢(ピッチ角)変化が短時間で収束することが確かめられている。自動車11では、その運転者は、上記の通り減速に伴う姿勢変化が収束すると安心して強くブレーキを踏むことができ、制動性の向上に寄与する。
このように、第8の実施形態に係る車両用空力装置110では、空気のホイールハウスHに対する出入りをコントロールすることができ、その結果、自動車11の操縦性、制動性を向上することができる。
なお、第8の実施形態では、前後Gセンサ90からの信号に基づいて空力ECU112が各アクチュエータ72の作動、停止を制御する例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、前後Gセンサ90に代えて又は前後Gセンサ90と共に、アクセルセンサ78、ブレーキセンサ80からの信号に基づいて空力ECU112が各アクチュエータ72の作動、停止を制御するようにしても良い。
また、上記した第7、第8の実施形態では、左右又は前後の何れか一方の開閉ベーン36を閉止姿勢とすると共に他方を全開姿勢とすることで、自動車11(車体B)の姿勢変化を促し又は短時間で収束させる例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、左右の開閉ベーン36による連通孔35の開度を異ならせることで、車体Bの左右で車体側方への空気吹き出し量(空気流の乱れ)を異ならせ、この結果、自動車11(車体B)に横方向の空気力を作用させるようにしても良い。この制御の考え方では、例えば横方向の空気力によって自動車11の旋回(転舵)をアシストしたり、また例えば横風に対し車体Bの姿勢を安定させたりすることが可能になる。
さらに、上記した各実施形態では、開閉ベーン36が支軸38回りに回動して連通孔35を開閉する例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、フェンダライナ34、42、縦壁56、62等に沿ってスライドすることで連通孔35を開閉する開閉部材を設けた構成としても良い。
またさらに、上記した各実施形態では、フェンダライナ34、42、縦壁56、62に連通部としての連通孔35が形成された例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、フェンダライナ34の幅方向の一端に開口された切欠部などを連通部としても良く、複数の部材で構成されたフェンダライナ34等の隙間を連通部としても良い。
さらに、上記した各実施形態の特徴的な構成は、適宜組み合わせて実施可能であることは言うまでもない。したがって、第2の実施形態に係る車両用空力装置40におけるフェンダライナ42を第6〜第8の実施形態に適用しても良く、第3の実施形態に係る車両用空力装置50における空気排出口52を他の実施形態に適用しても良く、第4、第5の実施形態に係る車両用空力装置55、60の縦壁56、縦壁62を第6〜第8の実施形態に適用しても良い。また、第1〜第6の実施形態に係る10、40、50、55、60、70を前輪Wfに代えて又は前輪Wfと共に後輪Wrに適用するようにしても良い。