以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1(A)〜(G)は、本発明の塗膜の補修方法の実施形態を示す図であって、左に塗膜の断面図、右に工程図をそれぞれ対応させて示している。補修工程順に(A)→(G)となる。以下の説明では、同図(A)に示すように積層塗膜の中に異物10が混入した塗装欠陥を補修する場合の例を挙げて本発明を説明する。
本実施形態において補修の対象となる積層塗膜は、その上層側に鱗片状の光輝顔料を含有するメタリックベース塗膜を有し、この塗膜層に含まれる光輝性顔料の面状部分が塗装面に沿うように配向している。特に限定されないが、本実施形態において補修の対象となる積層塗膜は、第1光輝性顔料を含有する第1メタリックベース塗膜と、この第1メタリックベース塗膜の上層側に形成され、第2光輝性顔料を含有する第2メタリックベース塗膜とを有し、前記第2光輝性顔料の面状部分が塗装面に沿うように配向している。
図1(A)は、通常の塗装工程を終了した状態の塗膜断面を示す断面図であって、自動車ボディの外板となる鋼板1上には、電着塗膜2、中塗り塗膜3、第1メタリックベース塗膜4,第1クリヤー塗膜5,第2メタリックベース塗膜6および第2クリヤー塗膜7が積層されている。本実施形態の補修前塗膜(被補修塗膜)は、異なる2層のメタリックベース塗膜を備える点を特徴とする。つまり、本実施形態のメタリックベース塗膜は、下地である中塗りを粒形状アルミで隠蔽するとともに、超金属調の(鱗片状の顔料による)第2メタリックベース塗膜6の意匠性発現を補助して下地メタリック塗装として機能する第1メタリックベース塗膜4と、この第1メタリックベース塗膜の上層に形成された第2メタリックベース塗膜6とを有する。
以下、鋼板1上の塗膜形成について説明する。
電着塗膜2は、電気泳動作用を利用して鋼板表面に電着塗料を付着させ、これをたとえば170℃×30分の条件で焼き付けることにより形成される。また、中塗り塗膜3は、静電塗装ガンなどを用いて中塗り塗料を吹き付け、これをたとえば140℃×20分の条件で焼き付けることにより形成される。ただし、本発明の塗膜の補修方法は、下塗り塗膜や中塗り塗膜の種類等に何ら限定されるものではないのでこれ以外の電着塗膜2や中塗り塗膜3であっても適用できる。なお、被塗物は自動車ボディなどの鋼板1にのみ限定されず、バンパー等の樹脂部材にも適用することができる。
次いで、焼き付けられた中塗り塗膜3の上層側(表面側)に、メタリックベース塗膜を形成する。本実施形態のメタリックベース塗膜は、少なくとも、第2メタリックベース塗膜6を含む。具体的に、本実施形態のメタリックベース塗膜は、第1メタリックベース塗膜4と第2メタリックベース塗膜6の異なる2層の塗膜を含む。第1メタリックベース塗膜4は中塗り塗膜3の上に形成され、第2メタリックベース塗膜6は第1メタリックベース塗膜4の上層側に第1クリヤー塗膜5を介在させて形成される。本実施形態の第1メタリックベース塗膜4は略球形乃至楕球形の粒形状の第1光輝性顔料を含む。本実施形態の第2メタリックベース塗膜6は多角形乃至円形の鱗片状の第2光輝性顔料を含む。この第2光輝性顔料は蒸着金属膜を粉砕して薄い金属片としたものである。第1メタリックベース塗膜(メタリックベース塗膜)4は、静電塗装ガンなどを用いて粒形状の金属顔料を含有する金属調ベース塗料を吹き付け、数分のセットタイムをおいて、ウェットオンウェットで、クリヤー塗料を吹き付けて形成する。第1メタリックベース塗膜4と第1クリヤー塗膜5とを、たとえば140℃×20分の条件で焼き付ける。同じく第2メタリックベース塗膜6は、静電塗装ガンなどを用いて鱗片状の金属顔料を含有する金属調ベース塗料を吹き付け、所定時間のセットタイムをおいて、ウェットオンウェットで、クリヤー塗料を吹き付けて形成する。第2メタリックベース塗膜6と第2クリヤー塗膜7とを、たとえば140℃×20分の条件で焼き付けることにより、塗装が完了する。
本実施形態のように超金属調の意匠を発現させる第2メタリックベース塗膜6の厚さは1.5〜3.0μmであり、通常のメタリックベース塗膜の厚さである10〜15μmよりもはるかに薄い。これは第2メタリックベース塗膜6に含まれる第2光輝性顔料の光輝材料である蒸着アルミを薄膜でフラットに寝かせて(鋼板の主面に沿って配向させて)緻密感のある超金属調(従来の金属調の塗装よりもより金属光沢に近似した状態)の意匠性を発現させるためである。本実施形態の金属調ベース塗料は、蒸着金属膜を粉砕して金属片とした鱗片状の光輝性顔料を含む塗料、粒形状の光輝性顔料を含む塗料のほか、着色顔料を含んでもよい。
続いて、補修部の塗膜の研ぎ出しを行う。第2クリヤー塗膜7の表面にゴミが付着しているときは、当該第2クリヤー塗膜7の表面をポリッシングすることで補修できるが、図1(A)に示すように、第1クリヤー塗膜5と第1メタリックベース塗膜4の間、又は第1メタリックベース塗膜4の中にゴミなどの異物10があると、ポリッシングのみでは除去できない。 そこで、同図(B)に示すように、ナイフやサンドペーパなどを用いてゴミ10が除去できる深さまで第2クリヤー塗膜7、第2メタリックベース塗膜6、第1クリヤー塗膜5および第1メタリックベース塗膜4を研ぎ、ゴミ10を除去する。このとき、平面視においてゴミ10が入っていた部位を中心にして研ぎ出す。なお、ゴミ10が中塗り塗膜3に存在しているときには、中塗り塗膜3の一部まで研ぎ出してゴミ10を除去する。
本実施形態における補修部の塗膜を研ぎ出す工程、つまりゴミ10を除去する工程では、ペーパーによる研ぎ工程と、研磨剤による磨き工程と、清浄水による拭き取り工程と、乾拭きによる拭き取り工程とを一連で行う。本実施形態の研磨後の拭き取り工程では、上水レベルに浄化された清浄水を用いる。図1(A)に示す超金属調の積層塗膜では、塗膜が薄く金属顔料の配向性が高いため、通常の塗装では問題にならないようなわずかな塗装欠陥が目立つ。例えば、ゴミを除去するための研ぎ又は拭き取り作業において、不可視の微小ゴミが除去されず拭き後に沿って塗膜上に残留した場合、その後に塗布した鱗片状の光輝性顔料が拭き跡に沿って配列し、この部分がスジとなって視認されてしまう。本実施形態では、水による拭き取り工程において工水を使用せず、上水程度まで浄化された清浄水を用いることにより、このような拭き取り跡の発生を防止する。ここで、上水とは、少なくとも工水ではなく、工水よりも浄化された水をいい、好ましくは、水道により供給される水、または水道水と同等に処理された水をいう。水道により供給される水は、水道法に定められる水道水基準を満たす。水道水質基準は、水道水が備えなければならない水質上の要件であり、「水道法第4条」、「水質基準に関する省令」で規定されている。本実施形態で用いる上水は、水道水そのものである必要はないが、水道水と同等の濾過処理がなされ、不純物の含有率が水道水程度に低いものであることが好ましい。一方、工水(工業用水)は、土砂などの沈殿処理が主体の浄水処理が行われているものの、塩素処理まで行われていない水をいう。本実施形態では上水を用いることにより、補修後、補修部分に拭き取り跡が発生することを防止することができる。
次に、補修塗膜の形成について説明する。
同図(C)に示すように、研ぎ出された部分を中心にして、補修用塗料を吹き付け、ウェット状態の補修塗膜11(最下層)を形成する。この補修用塗料としては、粒形状の第1光輝性顔料と、蒸着金属膜を粉砕して金属片とした鱗片状の第2光輝性顔料と含有する補修用塗料を用いる。
図2(A)に第1光輝性顔料の一形態例を示した。図2(A)に示すように、第1光輝性顔料は、特に限定されないが、平均粒径d1が3μm以上10μm以下の略球形乃至略楕円形その他の粒形状である。本例の第1光輝性顔料は、金属粉や金属箔をボールミル等で粉砕して得られるものである。これらの金属フレークは比較的厚みが厚く、また表面に凹凸を有しているので、面状に配向させても表面がフラットにならず、塗装に用いた場合は第2光輝性顔料よりも金属光沢感が低い。
第2光輝性顔料は、一般に基材フィルム上に金属膜を蒸着させ、基材フィルムを剥離した後、蒸着金属膜を粉砕して金属片とすることにより得られる。蒸着金属膜の厚み、すなわち粉砕して得られる金属片の厚みとしては、一般に0.01μm〜0.2μm程度が好ましく、粉砕の程度としては、平均粒径が約5μm〜約100μm程度,好ましくは約10μm〜約30μm程度となるように粉砕されることが好ましい。蒸着金属膜の材質としては、特に限定されるものではないが、たとえばアルミニウム、金、銀、銅、チタン、クロム、ニッケル、ステンレス等の金属膜を使用できる。第2光輝性顔料は、厚みが非常に薄い金属片であるため、面状に配向する傾向がある。このため、金属面光沢を有するメタリックベース塗膜層を形成することができるとともに、第1光輝性顔料と比較すると下地の隠蔽性に優れる。
図2(B)に本実施形態の第2光輝性顔料の一形態例を示した。図2(B)に示すように、第2光輝性顔料は、特に限定されないが、厚さtが0.01μm以上0.2μm以下、直径d2が10μm以上30μm以下の円板形状その他の形状の鱗片状の金属材料である。
補修用塗料は、第1光輝性顔料を含む塗料と第2光輝性顔料を含む塗料とを混合して得る。本実施形態では、補修対象となる積層塗膜の第1メタリックベース塗膜4の塗装に用いられた第1塗料と、補修対象となる第2メタリックベース塗膜6の塗装に用いられた第2塗料とを混合して得る。つまり、補修用塗料に含まれる第1光輝性顔料は、補修対象塗膜の第1メタリックベース塗膜4の塗装に用いられた第1塗料に含まれる金属顔料と共通することが好ましく、補修用塗料に含まれる鱗片状の第2光輝性顔料は、補修対象塗膜の第2メタリックベース塗膜6の塗装に用いられた第2塗料に含まれる金属顔料と共通することが好ましい。
この場合、第1メタリックベース塗膜4を形成する第1塗料(粒形状の金属顔料を含む)と第2メタリックベース塗膜6を形成する第2塗料(鱗片状の金属顔料を含む)とが、生塗料の状態(販売された状態)で第1塗料:第2塗料=10:100〜30:100の混合比、特に第1塗料:第2塗料=20:100の比で混合された混合塗料を用いることが好ましい。また、補修用塗料は、第1光輝性顔料と第2光輝性顔料を、(重量比で)第1光輝性顔料:第2光輝性顔料=11:100〜34:100の比で含むことが好ましい。
第1塗料の含有率(粒形状の金属塗料の含有率)が上記混合比の下限よりも低いと中塗りの隠蔽が不十分となり、黒+方向に発色し、非補修部と色味をそろえることができない。他方、第1塗料の含有率(粒形状の金属塗料の含有率)が上記混合比の上限よりも高いと表面に粒状感が出てしまい、金属調の意匠を実現することができない。このため、上記範囲で第1塗料と第2塗料とを混合することが好ましい。
また、第1塗料と第2塗料を混合した混合塗料は、シンナーその他の通常塗料の希釈に用いられる溶剤で300%〜400%、好ましくは350%に希釈することが好ましい。本発明において、通常の希釈率よりも高い350%で希釈することにより、薄い塗膜を形成するとともに、セットタイムを設けた場合に鱗片状の金属塗料の配向性を揃いやすくすることができる。
このような補修用塗料を用いることにより、鱗片状の金属顔料の平坦面が塗面に沿うように配向するとともに、粒形状の金属塗料が鱗片状の金属塗料の間を埋める補修塗膜を形成することができる。
補修塗膜は、補修用塗料を複数回塗り重ね、全体の厚さが1.5μm以上3.0μm以下となるように形成することが好ましい。本実施形態では、一度の塗布で目標膜厚となるようにするのではなく、3回以上の塗布工程を経て補修塗膜を形成する。つまり、一層の厚みが0.5〜1.0μmとなるように塗布し、これを3回以上繰り返して、3層以上重ねて全体の厚さが1.5μm以上3.0μm以下となるように補修塗膜を形成する。補修用塗料を吹き付ける際は、周囲の非補修部分との色及び光輝感を合わせるように目視で確認しながら、段階的にぼかしながら塗装する。薄層を複数層塗り重ねることにより、フラット感と中塗り塗装の隠蔽性を向上させることができ、金属調の意匠性を実現することができる。
同図(C)に示すように、本実施形態では塗膜厚が約0.5〜1.0μm程度となるように塗布する。第1補修塗膜11を形成後、所定時間のセットタイム(自然乾燥時間)が経過するまで静置する。セットタイムの長さは、30秒以上とすることが好ましい。特に、本実施形態の補修用塗料を3回重ね塗り、補修塗膜の厚さを1.5μm以上3.0μm以下とする場合のセットタイムは、約30秒〜60秒程度とすることが好ましい。このように複層塗装を行う際に、塗膜形成と塗膜形成との間に自然乾燥時間(セットタイム)を設けると、このセットタイム中に第2光輝性顔料と第1輝顔料が乾燥で粘度が上昇する補修塗膜中を流動し、第2光輝性顔料はその平坦部分を塗面に沿わせるように配向し、第1光輝性顔料は第2光輝性顔料の隙間を埋めるように分散する。その結果、中塗りを高度に隠蔽し、金属調の意匠性を実現する。
続いて、同図(D)に示すように、第1補修塗膜11の上に、ウェット状態にて、先に使用した補修用塗料と同じ塗料を吹き付け、ウェット状態の第2補修塗膜12を形成する。この第2補修塗膜を形成するための補修用塗料を吹き付ける際は、周囲の非補修部分と光輝感を合わせるように目視で確認しながら、段階的にぼかしながら塗装する。
さらに、同図(E)に示すように、第2補修塗膜12の上に、先の補修用塗料と同じ塗料を吹き付け、第3補修塗膜13を形成する。このように、補修用塗料を塗布する工程と、補修用塗料を塗布した後に工程とを2〜6回、好ましくは3回〜5回繰り返すことにより補修塗膜を形成する。
次に、同図(F)に示すように、今吹き付けた第3補修塗膜13を焼き付けることなくウェットオンウェットで、その補修部Bを中心にしてクリヤー塗膜5,7と同じクリヤー塗料を吹き付け、ウェット状態のクリヤー塗膜14を形成する。この補修用のクリヤー塗料を吹き付ける際は、周囲の色相に合わせるように目視で確認しながら塗装し、これらをたとえば140℃×20分の条件で焼き付ける。スポット補修をライン外で実施する場合は、赤外線ランプなどを用いて焼き付けることができる。
このように、本実施形態の方法によれば、1回の焼付けで補修塗膜を形成することができ、作業効率を向上させることができる。具体的に、メタリックベース塗膜が、粒形状の第1光輝性顔料を含有する第1メタリックベース塗膜と、鱗片状の2光輝顔料を含有する第2メタリックベース塗膜とを有する場合、正規の工程と同じ工程、つまり、粒形状の第1光輝性顔料を含有する第1メタリックベース塗膜(補修用)を形成し、クリヤー塗装を行い、焼付け、その後鱗片状の第2光輝性顔料を含有する第2メタリックベース塗膜(補修用)を形成し、クリヤー塗層を行い、再度焼き付けを行う必要があるが、この場合、一箇所の補修に30分程度の時間がかかってしまう。これに対し、本実施形態の方法によれば、1回の焼付けで補修塗膜を形成することができる。また、工程を簡略化することにより、補修工程中におけるゴミの付着や拭き取り跡などの二次不具合の発生を防止することができる。
最後に、同図(G)に示すように、補修部Bと非補修部Aとの境界部を中心にしながらサンドペーパなどを用いて研ぎ、表面に付着したゴミの除去とミスト部分の平滑化を行った後、補修部Bおよびその周囲全体を、バフなどを用いてポリッシングし、つや出しを行う。以上により、スポット補修が完了する。
図3は、上記補修方法により形成された補修塗膜20を含む補修部Bの断面を示す図である。図3に示すように、補修部には第1補修塗膜11、第2補修塗膜12及び第3補修塗膜13が積層された補修塗膜20が形成され、さらにその上層にクリヤー塗膜14が形成される。
本補修手法を採用することにより、補修用塗料に含まれる鱗片状の第2光輝性顔料の面状の部位が補修部位全体に渡り塗面に沿うように面状に配向するとともに、補修用塗料に含まれる粒形状の第1光輝性顔料が面状に配向した鱗片状の第2光輝性顔料同士の隙間を埋めるため、中塗り塗膜を高度に隠蔽し、超金属調の塗装外観を実現することができる。
図4は、本実施形態の補修塗膜の構造を模式的に説明するための図である。図4(A)は、鱗片状の第2光輝性顔料を含有する補修用塗料のみを用いた塗膜のモデルである。第2光輝性顔料の配向性を制御し、金属調の外観を実現する観点から補修塗膜を薄く(1.5μm〜3.0μm)形成すると、中塗り塗膜を十分に隠蔽することができない。図4(A)に示すように、第2光輝性顔料を塗面に沿って配向させた第2光輝性顔料Xの隙間から中塗り塗膜が透けて見えてしまい、補修部分と非補修部分との色差が生じてしまう。このように、一種類の塗料により補修ができれば作業性を向上させることができるが、中塗り塗膜の隠蔽性に問題が生じる。
図4(B)は中塗り塗膜の隠蔽を図るため、補修塗膜を厚塗りした場合の塗膜モデルである。補修塗膜を厚く(10〜15μm)形成すると、中塗り塗膜の隠蔽は可能であるものの、第2光輝顔料Xを塗面に沿って配向させることができず、入射光が乱反射するため、非補修部と同じ超金属調の意匠性を実現することができない。このように、補修塗膜を厚くすることにより、中塗り塗膜の隠蔽性は向上させることができるものの金属光沢性に問題が生じる。
これらに対し、図4(C)に塗膜モデルを示した本実施形態では、粒形状の第1光輝性顔料Yと、鱗片状の第2光輝性顔料Xとを含む補修用塗料を補修部に塗布することにより、鱗片状の第2光輝性顔料の平坦面が塗面に沿うように面状に配向するとともに、この鱗片状の第2光輝性顔料Xの隙間を粒形状の第1光輝性顔料Yが埋める。これにより、中塗りを高度に隠蔽するため、非補修部との色差のない超金属調の意匠を実現する補修塗膜を形成することができる。
蒸着金属を粉砕して金属片とした光輝性顔料を含有した金属調ベース塗料は、顔料の面状部位が塗面に沿うようにほぼ面状に配向しているため、補修用塗料の金属顔料の配向の乱れや、中塗り塗料の透過は容易に視認されてしまうが、本実施形態の補修方法によれば、中塗り塗料の色の透過を遮蔽し、被補修部分と同様の金属調の意匠を実現することができる。
以下、本実施形態の実施例1〜3について説明する。
<実施例1>
本発明の塗膜の補修方法を用いて車両ボディの上塗り塗膜の欠陥部分を補修し、補修塗膜を評価した。表1に実験例1〜9の補修条件及び評価結果を示した。
[積層塗膜が形成された補修用テストピース(金属)の準備]
平板状ブリキ板に、中塗り塗料としてのポリエステル−メラミン塗料(BASFコーティングスジャパン株式会社製,商品名ハイエピコNo.560 N6,顔料重量濃度が23重量%,明度N=6)を15μmの膜厚で塗装し、140℃で20分焼き付けた。
この中塗り塗膜上に、金属調ベース塗料(第1塗料)として、一液アクリルメラミン塗料(BASFコーティングスジャパン株式会社製,商品名 ベルコートNo.7000 BK23、アルミニウム粉含有量5.0重量%を、希釈シンナー(BASFコーティングスジャパン株式会社製,商品名TR−15)を用い固形分が3%となるように希釈し、本例の第1塗料(生塗料)を得た。この第1塗料を12μmの膜厚で上記テストピースに塗装した。この第1光輝性顔料としてのアルミニウム粉は、粒形状であり、平均粒径d1は3μm以上10μm以下であった。
この金属調ベース塗料(第1塗料)を塗装後、2分間、室内にて放置し、BASFコーティングスジャパン株式会社製の商品名ベルコートNo.6200(アクリル−メラミン塗料)を用いエアスプレーガンにて30μm厚のクリヤー塗装を実施し、140℃で20分間の焼付乾燥を行った。
このクリヤー塗膜上に、金属調ベース塗料(第2塗料)として、一液アクリルメラミン塗料(BASFコーティングスジャパン株式会社製,商品名ベルコートNo.6010 BKAB,アルミニウム粉含有量4.3重量%)を、希釈シンナーを用い固形分が1.1%となるように希釈し、本例の第2塗料(生塗料)を得た。この第2塗料を1.5μmの膜厚で上記テストピースに塗装した。この第2光輝性顔料としてのアルミニウムペースト中のアルミニウム粉は、円板形状乃至多角板形状の鱗片状であり、厚さtは0.01μm以上0.2μm以下、直径d2は10μm以上30μm以下であった。
この金属調ベース塗料(第2塗料)を塗装後、2分間、室内にて放置し、BASFコーティングスジャパン株式会社製の商品名ベルコートNo.6200(アクリル−メラミン塗料)を用いエアスプレーガンにて30μm厚のクリヤー塗装を実施し、140℃で20分間の焼付乾燥を行った。
塗膜形成後のテストピースの一部を補修部として、(#2500〜3000)のサンドペーパで水研ぎし、さらに補修部の周囲を研磨剤No.852コンパウンド(日本アールエム社製)で研磨して、第1メタリックベース塗膜まで研ぎ出した。その後、水拭きを行い、空拭きを行った。 こうして補修部分を有するテストピースを得た。
[補修用塗料の準備]
上述したテストピースの塗装において使用した、粒形状の第1光輝性顔料を含む第1塗料と、鱗片状の第2光輝性顔料を含む第2塗料を準備した。補修塗膜の評価を行うため、表1に示す混合比率(生塗料)で第1塗料と第2塗料と混合し、これらを塗料希釈用シンナーでそれぞれ350%に希釈して実験例1〜9の補修用塗料を準備した。本実施例において、塗料希釈用シンナーは、BASFコーティングス株式会社製のSTD(スタンダード)と同社の3505を用い、周囲の温度に応じて下掲の表2に示す比率となるように、第1塗料と第2塗料の混合塗料を希釈した。STD(スタンダード)と3505は、BASFコーティングス株式会社製の超金属調ベース塗料用の希釈シンナーの名称である。
[補修・補修塗膜の形成]
低圧スプレーガン(イワタ製LPH−50又はこれに相当する機種)を使用し、ノズル口径φ=0.4mm、吐出量40±10cc、エアー流量140±10NLの条件下で、表1に示す工法でテストピースの欠陥部分を補修した。重ね塗りの回数と、重ね塗り間のセットタイムは表1の「工法」に示すとおりである。セットタイムを設ける場合、塗装と塗装との間には所定時間のセットタイムを設定し、所定時間のセットタイム時間をおいて自然乾燥させ、塗り重ね回数だけ塗装を繰り返した。実験例4〜6においては所定のセットタイム時間を置いて3回の重ね塗りを行った。特に限定されないが、1回の塗装により形成される塗膜の厚さは0.5〜1.0μmであることが好ましい。3回以上塗り重ねられることにより、3層以上の塗膜が形成され、全体で1.5μm〜5.0μmの厚さ、好ましくは全体で1.5μm〜3.0μmの厚さとする。
この金属調の補修塗膜の上にウェットオンウェットで、上述したクリヤー塗料を塗装し、これら補修塗膜およびクリヤー塗膜を140℃で20分焼き付けた。
[評価]
上記補修作業の作業性評価、補修塗膜の意匠性評価(色差計による色味及びX−Rite社のFI値による金属感)、補修塗膜の目視評価(色味、周囲とのマッチング、ムラ)を行い、これらの評価結果に基づいて総合評価を行った。
「作業性評価」は、補修作業について困難性があるか否かを評価した。なお、実施例8の作業性評価にある「シブき塗り」とは、スプレーガンで塗装した後に、色味及びマッチングの微調整を行うため非補修部分と補修部分との色を目視で比較しながら塗料を再度塗布する作業である。
「意匠性評価における色味」については非補修部分に対する補修部分の色差に基づいて評価した。本実施例ではミノルタ社製の色差計であるNIC計(NISSAN COLOR ANALYZER)を用いて、非補修部分に対する補修部分とのΔL値、Δa値、Δb値を求めた。L値の色差は±1.10以内であることが好ましく、a値の色差は±0.25であることが好ましく、b値の色差は±0.50であることが好ましい。
「意匠性評価における金属感」についてはFI値を求めて評価した。このFI値とは、X-Rite社のメタリック感指標である。具体的には、次式(A)FI=2.69×{(L15゜−L110゜)1.11/(L45゜)0.86}…(A)(式中のL15゜、L45゜及びL110゜は、JISに規定される標準光源D65を光源とし、平板状の塗膜表面にそれぞれ15゜、45゜及び110゜の角度で入射させた際の反射光の強度を示す)で表される。FI値が21.5以上であるとき目標とする金属調の反射(非補修部分と同等の金属反射)を得ることができると評価し、FI値が19未満であるとき目標とする金属調の反射を得ることができないと評価した。
「目視評価における色味」については、非補修部分を基準とする色差スケールに基づいて、非補修部分と補修部分との色差を定量的に評価した。本実施例では非補修部分と補修部分の色味の差が−0.5〜+1.0の範囲にある場合、色差が微小乃至無いと評価した。
「目視評価における周囲とのマッチング」については、非補修部分を基準とするマッチングスケールに基づいて、非補修部分と補修部分との調和性を評価した。本実施例では非補修部分と補修部分との差が0〜1.5以内である場合、調和性があると評価した。
「目視評価におけるムラ」については補修により斑(ムラ)の有無を評価した。斑(ムラ)が無い場合、良好と評価した。
評価結果を表1に示した。上記に説明した各評価とともに総合評価を行った。「○」は良好、「△」はやや良好、「×」は不良を示す。
実験例1は、第1塗料(第1光輝性顔料)を含まない補修用塗料を用いて補修塗装を行った。つまり、第2塗料(第2光輝性顔料)のみを用いて補修塗装を行った。また、所定のセットタイムをおいて重ね塗りを行わなかった。目視評価は良好であったが、色差計で測定した色味の差が目標限度値に近かった。また、セットタイムをおいて重ね塗りを行わなかったため、中塗りを隠蔽するために必要な重ね塗り回数が増え、作業性において困難性が認められたため、総合的に「やや良好」と評価した。
実験例2は、第2塗料100に対して第1塗料10の割合で混合した塗料を用いて補修塗装を行った。また、所定のセットタイムをおいて重ね塗りを行わなかった。意匠性評価値及び目視評価値ともに目標値範囲となった。また、実験例1と同様に、塗り重ね回数が増えてしまったものの作業は可能であり、総合的に「良好」と評価した。補修塗膜の膜厚は1.5〜3.0μmであった。
実験例3は、第2塗料100に対して第1塗料20の割合で混合した塗料を用いて補修塗装を行った。また、30秒のセットタイムをおいて1回の重ね塗りを行なった。FI値を除いて意匠性評価値及び目視評価値ともに目標値範囲となり、総合的に「やや良好」と評価した。
実験例4は、実験例3と同様に、第2塗料100に対して第1塗料20の割合で混合した塗料を用いて補修塗装を行った。また、10秒のセットタイムをおいて3回の重ね塗りを行なった。FI値がやや低めである点を除いて意匠性評価値及び目視評価値ともに目標値範囲となり、総合的に「やや良好」と評価した。
実験例5は、実験例3と同様に、第2塗料100に対して第1塗料20の割合で混合した塗料を用いて補修塗装を行った。また、30秒のセットタイムをおいて3回の重ね塗りを行なった。すべての意匠性評価値及び目視評価値が目標値範囲となった。特に、3回の重ね塗りで補修が完了する点で作業性が良好であり、総合的に「良好」と評価した。補修塗膜の膜厚は1.5〜3.0μmであった。
実験例6は、実験例3と同様に、第2塗料100に対して第1塗料20の割合で混合した塗料を用いて補修塗装を行った。また、60秒のセットタイムをおいて3回の重ね塗りを行なった。すべての意匠性評価値及び目視評価値が目標値範囲となった。セットタイムが長いため、若干の工数増加があるものの、総合的に「良好」と評価した。補修塗膜の膜厚は1.5〜3.0μmであった。
実験例7は、実験例3と同様に、第2塗料100に対して第1塗料20の割合で混合した塗料を用いて補修塗装を行った。また、30秒のセットタイムをおいて5回の重ね塗りを行なった。すべての意匠性評価値及び目視評価値が目標値範囲となった。重ね塗り回数が多いため、若干の工数増加があるものの、総合的に「良好」と評価した。補修塗膜の膜厚は1.5〜3.0μmであった。
実験例8は、第2塗料100に対して第1塗料30の割合で混合した塗料を用いて補修塗装を行った。また、所定のセットタイムをおいて重ね塗りを行わなかった。意匠性評価値及び目視評価値ともに目標値範囲となった。目視しながら色合わせのために塗料を再度塗る(シブき塗り)作業が必要であるものの、作業は可能であり、総合的に「良好」と評価した。補修塗膜の膜厚は1.5〜3.0μmであった。
実験例9は、第2塗料100に対して第1塗料66の割合で混合した塗料を用いて補修塗装を行った。また、所定のセットタイムをおいて重ね塗りを行わなかった。意匠性評価値及び目視評価値ともに目標値範囲とならなかったとなった。特に色味は黄味感が強く、金属感も目標値にならず、色合わせができず、総合的に「不良」と評価した。
以上のように、第2光輝性顔料を含有する第2メタリックベース塗膜を有する積層塗膜が形成されたボディ(金属)の塗膜を補修する場合、特に、第1光輝性顔料を含有する第1メタリックベース塗膜と、第1メタリックベース塗膜の上層側に形成され、第2光輝性顔料を含有する第2メタリックベース塗膜とを有し、第2光輝性顔料の面状部分が塗装面に沿うように配向するメタリックベース塗膜を有する積層塗膜が形成されたボディ(金属)の塗膜を補修する場合、第1塗料のみからなる補修用塗料を用いて補修した場合よりも、第1塗料と第2塗料とを含む補修用塗料、特に、平均粒径d1が3μm以上10μm以下の粒形状の金属材料である第1光輝性顔料と、厚さtが0.01μm以上0.2μm以下、直径d2が10μm以上30μm以下の鱗片状の金属材料である第2光輝性顔料とを含む補修用塗料を用いて補修した場合の方が意匠性評価及び目視評価において優れることが判った。
意匠性評価及び目視評価を重視する観点から、第1塗料と第2塗料との混合比は第2塗料:第1塗料=100:10〜100:50とすることが適切であり、第2塗料:第1塗料=100:10〜100:30とすることがより適切であり、第2塗料:第1塗料=100:20とすることが特に適切であることが判った。
作業性評価を重視する観点から、セットタイムを設定し、補修用塗料を塗布する工程と補修用塗料を塗布した後に所定時間のセットタイムが経過するまで静置する工程とを複数回繰り返すことが好ましいことが判った。これにより、目標とする補修塗膜を形成させるために必要な工程数を削減することができ、作業性を向上させることができた。
また、セットタイムの時間は30秒以上60秒以下とすることが好ましく、作業効率を重視する観点から30秒とすることが好ましいことが判った。また、重ね塗りの回数は3か回〜5回とすることが好ましく、作業効率を重視する観点から3回とすることが好ましいことが判った。
意匠性評価、目視評価、作業性評価をバランス良く満たす観点から、セットタイムを30秒とし、塗り重ね回数を3回とすることが適切であることが判った。本実施形態では、1回の塗装により0.5〜1.0μmの補修塗膜が形成され、3回の塗装により1.5〜3.0μmの補修塗膜が形成された。
<実施例2>
本発明の塗膜の補修方法を用いてバンパーの上塗り塗膜の欠陥部分を補修し、補修塗膜を評価した。表3に実験例11〜19の補修条件及び評価結果を示した。
[積層塗膜が形成されたテストピース(樹脂)の準備]
平板状ポリプロピレン製樹脂板に、実施例1と同じ中塗り塗料を焼き付けた。この中塗り塗膜上に、実施例1と同様に、第1塗料の塗装、クリヤー塗装、焼付乾燥を行った。このクリヤー塗膜上に、第2塗料の塗装、クリヤー塗装、を実施した。実施例1と同様に補修部分を有するテストピースを得た。
[補修用塗料の準備]
テストピースの塗装において使用した粒形状の第1光輝性顔料を含む第1塗料と、鱗片状の第2光輝性顔料を含む第2塗料を準備した。補修塗膜の評価を行うため、上掲の表3に示す混合比率(生塗料)で第1塗料と第2塗料と混合し、これらを、実施例1と同じく上掲の表2に示す割合で混合した塗料希釈用シンナーでそれぞれ350%に希釈して実験例11〜19の補修用塗料を準備した。
[補修・補修塗膜の形成]
実施例1と同様の塗装条件下で、表3に示す工法でテストピースの欠陥部分を補修した。実施例1と同様に、補修塗膜の上にクリヤー塗料を塗装し、焼付けを行った。
[評価]
実施例1と同様の評価指標に基づいて、補修作業の作業性評価、補修塗膜の意匠性評価(色差計による色味及びX−Rite社のFI値による金属感)、補修塗膜の目視評価(色味、周囲とのマッチング、ムラ)、及び総合評価を行った。
実験例11は、第1塗料を含まない補修用塗料を用いて補修塗装を行った。つまり、第2塗料のみを用いて補修塗装を行った。また、所定のセットタイムをおいて重ね塗りを行わなかった。目視評価は良好であったが、色差計で測定した色味の差が目標限度値に近かった。また、セットタイムをおいて重ね塗りを行わなかったため、中塗りを隠蔽するために必要な重ね塗り回数が増えてしまい、作業性において困難性が認められ、総合的に「やや良好」と評価した。
実験例12は、第2塗料100に対して第1塗料10の割合で混合した塗料を用いて補修塗装を行った。また、所定のセットタイムをおいて重ね塗りを行わなかった。意匠性評価値及び目視評価値ともに目標値範囲となった。また、実験例11と同様に、塗り重ね回数が増えてしまったものの作業は可能であり、総合的に「良好」と評価した。補修塗膜の膜厚は1.5〜3.0μmであった。
実験例13は、第2塗料100に対して第1塗料20の割合で混合した塗料を用いて補修塗装を行った。また、30秒のセットタイムをおいて1回の重ね塗りを行なった。FI値を除いて意匠性評価値及び目視評価値ともに目標値範囲となり、総合的に「やや良好」と評価した。
実験例14は、実験例13と同様に、第2塗料100に対して第1塗料20の割合で混合した塗料を用いて補修塗装を行った。また、10秒のセットタイムをおいて3回の重ね塗りを行なった。FI値がやや低めである点を除いて意匠性評価値及び目視評価値ともに目標値範囲となり、総合的に「やや良好」と評価した。
実験例15は、実験例13と同様に、第2塗料100に対して第1塗料20の割合で混合した塗料を用いて補修塗装を行った。また、30秒のセットタイムをおいて3回の重ね塗りを行なった。すべての意匠性評価値及び目視評価値が目標値範囲となった。特に、3回の重ね塗りで補修が完了する点で作業性が良好であり、総合的に「良好」と評価した。補修塗膜の膜厚は1.5〜3.0μmであった。
実験例16は、実験例13と同様に、第2塗料100に対して第1塗料20の割合で混合した塗料を用いて補修塗装を行った。また、60秒のセットタイムをおいて3回の重ね塗りを行なった。すべての意匠性評価値及び目視評価値が目標値範囲となった。セットタイムが長いため、若干の工数増加があるものの、総合的に「良好」と評価した。補修塗膜の膜厚は1.5〜3.0μmであった。
実験例17は、実験例13と同様に、第2塗料100に対して第1塗料20の割合で混合した塗料を用いて補修塗装を行った。また、30秒のセットタイムをおいて5回の重ね塗りを行なった。すべての意匠性評価値及び目視評価値が目標値範囲となった。重ね塗り回数が多いため、若干の工数増加があるものの、総合的に「良好」と評価した。補修塗膜の膜厚は1.5〜3.0μmであった。
実験例18は、第2塗料100に対して第1塗料30の割合で混合した塗料を用いて補修塗装を行った。また、所定のセットタイムをおいて重ね塗りを行わなかった。意匠性評価値及び目視評価値ともに目標値範囲となった。目視しながら色合わせのために塗料を再度塗る(シブき塗り)作業が必要であるものの、作業は可能であり、総合的に「良好」と評価した。補修塗膜の膜厚は1.5〜3.0μmであった。
実験例19は、第2塗料100に対して第1塗料66の割合で混合した塗料を用いて補修塗装を行った。また、所定のセットタイムをおいて重ね塗りを行わなかった。意匠性評価値及び目視評価値ともに目標値範囲とならなかったとなった。特に色味は黄味感が強く、金属感も目標値にならず、色合わせができず、総合的に「不良」と評価した。
以上のように、第2光輝性顔料を含有する第2メタリックベース塗膜を有する積層塗膜が形成されたバンパー(樹脂)の塗膜を補修する場合、特に、第1光輝性顔料を含有する第1メタリックベース塗膜と、第1メタリックベース塗膜の上層側に形成され、第2光輝性顔料を含有する第2メタリックベース塗膜とを有し、第2光輝性顔料の面状部分が塗装面に沿うように配向するメタリックベース塗膜を有する積層塗膜が形成されたバンパー(樹脂)の塗膜を補修する場合、第1塗料のみからなる補修用塗料を用いて補修した場合よりも、第1塗料と第2塗料とを含む補修用塗料、すなわち、平均粒径d1が3μm以上10μm以下の粒形状の金属材料である第1光輝性顔料と、厚さtが0.01μm以上0.2μm以下、直径d2が10μm以上30μm以下の鱗片状の金属材料である第2光輝性顔料とを含む補修用塗料を用いて補修した場合の方が意匠性評価及び目視評価において優れることが判った。
意匠性評価及び目視評価を重視する観点から、第1塗料と第2塗料との混合比は第2塗料:第1塗料=100:10〜100:50とすることが好ましく、第2塗料:第1塗料=100:10〜100:30とすることがより好ましく、第2塗料:第1塗料=100:20とすることが特に好ましいことが判った。
作業性評価を重視する観点から、セットタイムを設定し、補修用塗料を塗布する工程と補修用塗料を塗布した後に所定時間のセットタイムが経過するまで静置する工程とを複数回繰り返すことが好ましいことが判った。これにより、目標とする補修塗膜を形成させるために必要な工程数を削減し、作業性を向上させることができた。
また、セットタイムは30秒以上60秒以下とすることが好ましく、作業効率を重視する観点から30秒とすることが好ましいことが判った。また、重ね塗りの回数は3か回〜5回とすることが好ましく、作業効率を重視する観点から3回とすることが好ましいことが判った。
意匠性評価、目視評価、作業性評価をバランス良く満たす観点から、セットタイムを30秒とし、塗り重ね回数を3回とすることが好ましいことが判った。本実施形態では、1回の塗装により0.5〜1.0μmの補修塗膜が形成され、3回の塗装により1.5〜3.0μmの補修塗膜が形成された。
<実施例3>
補修塗装を行う前段階に行われる補修部分の研ぎ出し・拭き取りが行われる。超金属調の塗装においては、その高い金属光沢ゆえに、この拭き取り跡が塗装欠陥となる場合がある。実施例3では、拭き取り跡が生じない補修部分の前処理条件について検討するため、車両ボディの上塗り塗膜の欠陥部分を研ぎ出し、拭き取り、補修し、補修塗膜の拭き取り跡の有無を評価した。表4に実験例21〜30及び実験例41〜50の拭き取り条件及び評価結果を示した。
以下、実験例21〜30及び実験例41〜50について説明する。
[テストピースの準備]
平板状ブリキ板に、実施例1と同じ中塗り塗料を焼き付けた。この中塗り塗膜上に、実施例1と同様に、第1塗料の塗装、クリヤー塗装、焼付乾燥を行った。このクリヤー塗膜上に、第2塗料の塗装、クリヤー塗装、を実施した。
塗膜形成後のテストピースの一部を補修部として、#2500〜3000のサンドペーパで水研ぎし(作業1)、補修部の周囲を研磨剤(住友スリーエム社製;商品名フィネスイット)で研磨し(作業2)、さらに研磨剤(住友スリーエム 社製;商品名ウルトラフィニッシュ)で研磨した(作業3)。その後、実験例21〜30までは上水を用いて水拭きを行い、実験例41〜50までは工水を用いて水拭きを行った(作業4)。続いて、空拭きを行った。上水で水拭きを行った実験例21〜30のうち実験例21〜25は清浄ワイプで空拭きを行い、実験例26〜30は汚染ワイプで空拭きを行った。実験例41〜50のうち実験例41〜45は清浄ワイプで空拭きを行い、実験例46〜50は汚染ワイプで空拭きを行った。
空拭き後、実験例21〜24及び26〜29並びに実験例41〜44及び実験例46〜49は、表4に示すようにIPA(イソプロピルアルコール)、白ガス(ホワイトガソリン)、エタノール、W)脱脂剤(IPA(イソプロピルアルコール)を含む脱脂剤(日本化成株式会社製,商品名ソルミックスAP−7))で拭きとり(溶剤ワイプ)を行った(作業6)。実験例25、30及び実験例45及び50は溶剤による拭き取りを行わなかった。通常行う除電ブロー(作業7)は行わずに、表面電位を測定してから、実施例1と同様の条件で補修塗装を行い、補修塗膜を形成した(作業8)。補修用塗料は実施例1と同じように準備した。ちなみに表面電位を測定したところ、作業による帯電はなかった。
[評価]
目視により拭き取り跡の有無を検査した。拭き取り跡が視認できなかったものについてはOKと判定し、拭き取り跡が視認できたものについてはNGと判定した。
表4に示すように、空拭きワイプが清浄であるか汚染されているか否か、溶剤拭き取りを行うか否か、及び/又は溶剤拭き取りにおける溶剤の種類にかかわらず、水拭きに上水を使用した実験例21〜30は拭き取り跡が視認されなかった。本結果によれば、超金属調塗膜の補修において、工水で水拭きを行うと拭き取り跡が視認されてしまうが、実験例21〜30のように、水拭き工程において上水を用いることにより、拭き取り跡による二次的な不具合を無くすことができることを確認できた。
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。