JP5046605B2 - 潤滑油組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、潤滑油組成物に関する。本発明は、特に工作機械等のすべり案内面(摺動面)の潤滑に好適な潤滑油組成物に関するものである。
近年、技術の高度化に対応するため、加工精度が極めて高い金属加工部品や金属加工器材が各分野から要求され、マイクロメーター(ミクロン)以下の単位の寸法加工精度を問題にする精密金属加工が行われつつある。
精密金属加工は、通常NC工作機械(Numerical Control Machine Tools)、すなわち数値制御工作機械によって行われる。したがって、高い精度の精密金属加工を実現するためには、以下のことが要求される。
(1)加工工具と被加工物を目標の位置に正確に制御し続ける位置決め精度が高いこと。
(2)加工工具と被加工物が加工中に安定して作動し、いわゆるスティックスリップ現象を起こさないこと。
ところで、工作機械は、通常被加工物は、すべり案内面、すなわち摺動面を有する加工テーブルに固定して設置され、その加工テーブルを案内面を介して案内レール上を移動させることによって被加工物を移動させる構造を有している。そのため、加工工具と被加工物との位置決め精度の良否やスティックスリップ現象の発生の有無などは、移動する加工テーブルのすべり案内面に使用される潤滑油(以下「摺動面用潤滑油」と称することがある)の性質や性能に大きく左右されることになる。
したがって、摺動面用潤滑油には、加工テーブルが迅速に移動でき、良好な位置決め精度が得られるために、摩擦係数が極めて低いことが要求される。また、加工中に加工テーブルが振動し、その振動が被加工物に転写されて加工精度が低下することを回避するために、スティックスリップ現象を起こさない性質を有することなどが要求される。
しかしながら、精密金属加工においては、加工テーブルの案内面のすべり速度は極めて遅い場合が多く、例えば0.1mm/min又はそれ以下の超低速すべり速度の領域も含まれる。ところが、このような超低速すべり速度領域における潤滑は、境界潤滑領域といわれ、潤滑油にとって極めて苛酷な条件である。そのため摺動面用潤滑油の超低速すべり領域における摩擦係数を低くすること、及びスティックスリップ現象を防止することは極めて困難な状況にある。
さらに、工作機械では、上記摺動面用潤滑油以外に金属加工液を使用するが、工作機械の構造上摺動面用潤滑油が金属加工液に混入することがある。特に、金属加工液が水溶性金属加工液である場合、摺動面用潤滑油が混入すると、水溶性金属加工液が劣化し、水溶性金属加工液の加工性能が低下すると共に、腐敗も進む。従って、摺動面用潤滑油が水溶性金属加工液に混入した場合に、摺動面用潤滑油が分離しやすい性質であることが要求される。
一方、従来公知の摺動面用潤滑油としては、例えば(1)基油に、酸性リン酸エステル類、亜酸性リン酸エステル及び脂肪酸等の摩擦低減剤と共に直鎖アルキルアミンを配合した潤滑油(例えば、特許文献1参照)、(2)基油に、酸性リン酸エステル等とポリアルキレングリコール誘導体を配合した潤滑油(例えば、特許文献2参照)、(3)基油に、グリセロールエーテル化合物とリン酸エステル等を配合した潤滑油(例えば、特許文献3参照)、(4)基油に、酸性リン酸エステル等と飽和脂肪酸を配合した潤滑油(例えば、特許文献4参照)などが知られている。
しかしながら、これら(1)〜(4)に記載される摺動面用潤滑油は、いずれも酸性リン酸エステルや飽和脂肪酸など活性が強い化合物を含有するため、すべり案内面や給油系の金属材料を腐食させる問題があり、また、これらの摺動面用潤滑油が水溶性金属加工液に混入した場合、水溶性金属加工液の加工性能を低下させ、腐敗を促進させる恐れが高い。さらに摩擦係数の低減と位置決め性能についても改良の余地があった。
したがって、超低速すべり速度において低摩擦係数であり、かつ位置決め精度が高いこと、スティックスリップを生じないこと、水溶性金属加工液と混合した場合の分離性が良好であること、及びすべり案内面等を腐食させない性質を有することなどを備えた摺動面用潤滑油が求められている。
特開平8−134488号公報 特開平10−53783号公報 特開平11−209775号公報 特開2005−187646号公報
本発明は、このような状況下で、超低速すべり速度においても低摩擦係数であると共に、スティックスリップの発生を防止し、水溶性金属加工液と混合した場合の分離性が良好であり、かつすべり案内面等の金属を腐食させない潤滑油組成物であって、工作機械等のすべり案内面(摺動面)に使用される摺動面用潤滑油として好適に用いられる潤滑油組成物を提供することを目的とするものである。
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、基油に特定のリン化合物と酸アミド化合物との反応生成物及び/又は混合物を配合することにより、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
1.基油に、下記の化合物(A)と化合物(B)との反応生成物及び/又は化合物(A)と化合物(B)の混合物を配合してなる潤滑油組成物、
化合物(A):炭素数2〜24の炭化水素基を有するリン酸エステル系化合物及び/又は亜リン酸エステル系化合物
化合物(B):炭素数4〜50のカルボン酸と炭素数2〜20のポリアミンとの反応生成物
2.化合物(A)のリン酸エステル系化合物が、下記の一般式(I)
(R1O)mP(=O)(OH)3-m ・・・(I)
(式中、R1は、炭素数2〜24の炭化水素基を示し、mは1又は2の整数である。mが2の場合、複数のR1Oは同一であっても異なってもよい。)
で表される酸性リン酸エステルである前記1に記載の潤滑油組成物、
3.化合物(B)のカルボン酸が、下記の一般式(III)
3−COOH ・・・(III)
(式中、R3は、炭素数3〜29の一価の炭化水素基を示す。)
で表されるカルボン酸である前記1又は2に記載の潤滑油組成物、
4.化合物(B)のポリアミンが、下記の一般式(IV)
2N(R4NH)nH ・・・(IV)
(式中、R4は、炭素数2〜4のアルキレン基を示し、nは、平均値が1〜6の数である。)
で表されるポリアルキレンポリアミンである前記1〜3のいずれかに記載の潤滑油組成物、及び
5.工作機械の案内面に用いられる前記1〜4のいずれかに記載の潤滑油組成物、
を提供するものである。
本発明によれば、超低速すべり速度においても低摩擦係数であると共に、スティックスリップを防止し、水溶性金属加工液と混合した場合の分離性が良好であり、かつすべり案内面等の金属を腐食させない潤滑油組成物であって、工作機械等のすべり案内面(摺動面)に使用される摺動面用潤滑油として好適に用いられる潤滑油組成物を提供することができる。
本発明の潤滑油組成物は、基油に、化合物(A)と化合物(B)との反応生成物及び/又は化合物(A)と化合物(B)の混合物を配合してなる潤滑油組成物である。
本発明における基油は、特に制限はなく通常の潤滑油に使用される鉱油、合成油及び油脂から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
鉱油としては、例えば原油を常圧蒸留、あるいは常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製等を1以上行って得られたパラフィン系又はナフテン系鉱油が挙げられる。
一方、合成油としては、例えばポリブテン又はその水素化物、1−デセンオリゴマー等のポリα−オレフィン又はその水素化物、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル、トリメチロールプロパンカプリレート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート等のポリオールエステル、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の芳香族系合成油、ポリアルキレングリコール又はこれらの混合物等が例示できる。
また、油脂としては、菜種油、大豆油、米ぬか油、椰子油などの植物油脂の他、牛脂、豚油などの動物油脂も挙げられる。
本発明においては、基油として、上記鉱油、合成油及び油脂の中から選ばれる1種又は2種以上を混合して使用することができる。
本発明の用いる基油は、40℃における動粘度が10〜220mm2/s(ISO VG10〜220)であることが好ましい。40℃における動粘度が10mm2/s以上であれば、超低速すべり速度における摩擦係数の低減とスティックスリップの発生を防止する上で有利であり、40℃における動粘度が220mm2/s以下であれば中又は高すべり速度における摩擦係数の上昇を防止できる。
また、本発明の用いる基油の芳香族分(%CA)は、3以下が好ましく、2以下、さらには1以下であることがより好ましい。また、硫黄分は、100質量ppm以下であることが好ましく、50質量ppm以下であることがより好ましい。芳香族分が3以下であり、硫黄分が100質量ppm以下であれば、組成物の酸化安定性を良好に保つことができる。
本発明の潤滑油組成物においては、前記基油に、化合物(A)と化合物(B)との反応生成物及び/又は化合物(A)と化合物(B)の混合物を配合することを要する。
本発明においては、化合物(A)は、分子内に炭素数2〜24の炭化水素基を有するリン酸エステル系化合物及び/又は亜リン酸エステル系化合物である。
前記リン酸エステル系化合物は、例えば一般式(I)
(R1O)mP(=O)(OH)3-m ・・・(I)
(式中、R1は、炭素数2〜24の炭化水素基を示し、mは、1又は2の整数である。mが2の場合、R1Oは、同一であっても異なってもよい。)
で表される化合物を用いることができる。
前記一般式(I)において、R1で示される炭素数2〜24の炭化水素基としては、炭素数2〜24のアルキル基及びアルケニル基、炭素数6〜24のアリール基、炭素数7〜24のアラルキル基などを挙げることができる。
前記アルキル基及びアルケニル基は直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、その例としては、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基,sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種オクチル基、各種デシル基、各種ドデシル基、各種テトラデシル基、各種ヘキサデシル基、各種オクタデシル基、各種ノナデシル基、各種イコシル基、各種ヘンイコシル基、各種ドコシル基、各種トリコシル基、各種テトラコシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アリル基、プロペニル基、各種ブテニル基、各種ヘキセニル基、各種オクテニル基、各種デセニル基、各種ドデセニル基、各種テトラデセニル基、各種ヘキサデセニル基、各種オクタデセニル基、各種ノナデセニル基、各種イコセニル基、各種ヘンイコセニル基、各種ドコセニル基、各種トリコセニル基、各種テトラコセニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基などが挙げられる。
炭素数6〜24のアリール基としては、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などが挙げられ、炭素数7〜24のアラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、メチルベンジル基、メチルフェネチル基、メチルナフチルメチル基などが挙げられる。
前記一般式(I)で表されるリン酸エステル系化合物としては、炭素数2〜18のものが好ましく、具体的には、m=1の酸性リン酸モノエステル、例えばモノエチルアシッドホスフェート、モノn−プロピルアシッドホスフェート、モノ−n−ブチルアシッドホスフェート、モノ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、モノドデシルアシッドホスフェート(モノラウリルアシッドホスフェート)、モノテトラデシルアシッドホスフェート(モノミリスチルアシッドホスフェート)、モノパルミチルアシッドホスフェート、モノオクタデシルアシッドホスフェート(モノステアリルアシッドホスフェート)、モノ−9−オクタデセニルアシッドホスフェート(モノオレイルアシッドホスフェート)、m=2の酸性リン酸ジエステル、例えばジ−n−ブチルアシッドホスフェート、ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジデシルアシッドホスフェート、ジドデシルアシッドホスフェート(ジラウリルアシッドホスフェート)、ジ(トリデシル)アシッドホスフェート、ジオクタデシルアシッドホスフェート(ジステアリルアシッドホスフェート)、ジ−9−オクタデセニルアシッドホスフェート(ジオレイルアシッドホスフェート)などが挙げられる。
一方、前記亜リン酸エステル系化合物は、例えば一般式(II)
(R2O)2P−OH ・・・(II)
(式中、R2は、炭素数2〜24の炭化水素基を示し、複数のR2Oは、同一であっても異なってもよい。)
で表される化合物を用いることができる。
前記一般式(II)において、R2で示される炭素数2〜24の炭化水素基としては、前記一般式(I)において、R1で示されものと同じものを挙げることができる。
前記一般式(II)で表される亜リン酸エステル系化合物としては、炭素数2〜18のものが好ましく、具体的には、例えばジ−n−ブチルハイドロジェンホスファイト、ジ−2−エチルヘキシルハイドロジェンホスファイト、ジデシルハイドロジェンホスファイト、ジドデシルハイドロジェンホスファイト(ジラウリルハイドロジェンホスファイト)、ジオクタデシルハイドロジェンホスファイト(ジステアリルハイドロジェンホスファイト)、ジ−9−オクタデセニルハイドロジェンホスファイト(ジオレイルハイドロジェンホスファイト)、ジフェニルハイドロジェンホスファイトなどが挙げられる。
本発明の潤滑油組成物においては,化合物(A)として、前記リン酸エステル系化合物を1種以上用いてもよいし、前記亜リン酸エステル系化合物を1種以上用いてもよく、あるいは該リン酸エステル系化合物1種以上と、該亜リン酸エステル系化合物1種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、性能の面で、リン酸エステル系化合物が好ましい。
一方、上記化合物(A)と反応及び又は混合して基油に配合する化合物(B)は、総炭素数4〜50、好ましくは、4〜30、さらに好ましくは12〜18のカルボン酸と炭素数2〜20のポリアミンとの反応生成物である。
該カルボン酸としては、種々のものが使用できるが、例えば一価及び二価のカルボン酸が好ましく、中でも下記の一般式(III)
3−COOH ・・・(III)
で表される一価のカルボン酸が、入手及び取り扱いが容易である点で好ましい。
式中、R3は、炭素数3〜29、好ましくは、7〜23、さらに好ましくは11〜17のアルキル基及びアルケニル基を示し、これらは直鎖状であっても分岐鎖を有していてもよい。
一般式(III)の一価のカルボン酸としては、例えば、プロパン酸、ブタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸)、ヒドロキシオクタデカン酸、イコサン酸、ヘンイコサン酸、ドコサン酸、トリコサン酸、テトラコサン酸、オクテン酸、デセン酸、ドデセン酸、テトラデセン酸、ヘキサデセン酸、オクタデセン酸(オレイン酸)、ノナデセン酸、イコセン酸、ヘンイコセン酸、ドコセン酸、トリコセン酸、テトラコセン酸、及びこれらに対応する分岐状カルボン酸などが挙げられる。
これらの中で、総炭素数18の分岐状カルボン酸であるイソステアリン酸が好ましい。
本発明の潤滑油組成物においては、化合物(B)のカルボン酸として、前記カルボン酸を1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
一方、化合物(B)の炭素数2〜20のポリアミンとしては、例えば、下記の一般式(IV)
2N(R4NH)nH ・・・(IV)
(式中、R4は、炭素数2〜4のアルキレン基を示し、nは平均値が1〜7の数である。)
で表されるポリアルキレンポリアミンが挙げられ、中でも、入手が容易である観点から、一般式(4)のR4がエチレン基である、下記の一般式(V)
2N(CH2CH2NH)nH ・・・(V)
で表されるポリエチレンポリアミンが好適である。
一般式(IV)及び(V)におけるnは、平均値が2〜6であることが好ましい。
ポリアルキレンポリアミンの具体例としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン、ヘプタエチレンオクタミン、テトラプロピレンペンタアミン、ヘキサブチレンヘプタアミンなどが挙げられる。
本発明の潤滑油組成物においては、化合物(B)のポリアミンとして、前記ポリアミンを1種用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明の化合物(B)は、上記カルボン酸とポリアミンとを反応原料とする反応生成物である。
この反応生成物は、カルボン酸とポリアミンとをアミド反応として公知の方法で縮合反応させれば良い。例えば、反応温度100〜150℃、反応時間1〜5時間で反応させる。この場合、反応原料である、カルボン酸とポリアミンとの割合は、任意であるが、アミン基が残るように、ポリアミンをやや過剰に添加することが残存酸性成分少なくなる点で好ましい。
上記のようにして得られた化合物(B)は、通常アミド結合を有する酸アミド化合物である。
本発明においては、上記化合物(A)と化合物(B)との反応生成物及び/又は化合物(A)と化合物(B)の混合物を配合する。
前記化合物(A)と化合物(B)との反応生成物は、化合物(A)と化合物(B)とが反応し得る温度での加温下で反応させて得られるものであればよく、その他の反応条件については特に制限はない。
ここで、原料である化合物(A)と化合物(B)との割合は、広い範囲から選択でき、例えば、化合物(A)に対する化合物(B)の比、すなわち〔化合物(B)/化合物(A)〕(質量比)が0.1〜10であればよい。この〔化合物(B)/化合物(A)〕の質量比は、反応生成物の収率を高めるためには、0.2〜5が好ましく、0.3〜2がさらに好ましく、0.5〜1.8が特に好ましい。
反応温度については、40〜100℃であることが好ましく、50〜90℃であることがより好ましい。また、反応時間については、およそ30〜100分である。
化合物(A)と化合物(B)との反応生成物は、通常、酸価が10〜200mgKOH/gであり、塩基価が10〜100mgKOH/gである。酸価及び塩基価は、JIS K2501に規定する方法によって測定される値である。
一方、前記化合物(A)と化合物(B)の混合物については、化合物(A)と化合物(B)とをそれぞれ別々に基油に配合して、その後一般に潤滑油組成物の製造における混合工程を経て調整してもよく、また、化合物(A)と化合物(B)とが反応し得る温度以下の温度、例えば80℃以下で攪拌混合して、その混合物を基油に配合して、さらに一般に潤滑油組成物の製造における混合工程を経て調整してもよい。
本発明の潤滑油組成物においては、上記化合物(A)と化合物(B)との反応生成物及び/又は化合物(A)と化合物(B)の混合物の配合割合は、組成物基準で0.01〜10質量%であることが好ましく、0.05〜8質量%がより好ましく、0.1〜4質量%であることがさらに好ましい。化合物(A)と化合物(B)との反応生成物及び/又は化合物(A)と化合物(B)の混合物の配合割合が0.01質量%未満では、有効な効果が得られず、一方、10質量%を超えても更なる効果の向上が認められない。
本発明の潤滑剤組成物は、すべり案内面用として好適に用いられる。この潤滑油組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、各種添加剤、例えば油性剤、極圧剤、摩耗防止剤、防錆剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、腐食防止剤、抗乳化剤、消泡剤などを適宜含有させることができる。これらは一種を単独で又はこれら二種以上を組合わせて用いることができる。
前記油性剤としては、例えばアルコール類、脂肪酸類及び脂肪酸エステル類などを挙げることができる。
アルコール類としては、炭素数8〜18の一価の脂肪族飽和若しくは不飽和アルコールを好ましく挙げることができる。このアルコールは直鎖状のものであってもよいし、分岐鎖状のものであってもよく、その具体例としては、直鎖状又は分岐鎖状である、オクタノール、デカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール、オクテノール、デセノール、ドデセノール、テトラデセノール、ヘキサデセノール、オクタデセノールなどが挙げられる。
また、脂肪酸類としては、例えばパルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、ダイマー酸、オレイン酸、イコサン酸などの高級飽和若しくは不飽和脂肪酸を挙げることができる。
さらに脂肪酸エステル類としては、炭素数6〜22の脂肪族カルボン酸と炭素数1〜18の脂肪族アルコールとからなるエステルを挙げることができる。ここで、炭素数6〜22の脂肪族カルボン酸は、一塩基酸であってもよいし、二塩基酸以上の多塩基酸であってもよく、また、飽和、不飽和のいずれであってもよい。さらに、直鎖状のものであってもよく、分岐鎖状のものであってもよい。このような脂肪族カルボン酸の例としては、直鎖状又は分岐鎖状である、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸、ヒドロキシオクタデカン酸、イコサン酸、オクテン酸、デセン酸、ドデセン酸、テトラデセン酸、ヘキサデセン酸、オクタデセン酸、ヒドロキシオクタデセン酸、イコセン酸、オクタン二酸、デカン二酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、イコサン二酸、オクテン二酸、デセン二酸、ドデセン二酸、テトラデセン二酸、ヘキサデセン二酸、オクタデセン二酸、イコセン二酸などが挙げられる。
また、炭素数1〜18の脂肪族アルコールは、一価アルコールであってもよいし、多価アルコールであってもよく、また、飽和、不飽和のいずれであってもよい。さらに直鎖状のものであってもよく、分岐鎖状のものであってもよいが、通常一価のアルコールが用いられる。このようなアルコールの例としては、メタノール、エタノール、アリルアルコール、あるいは直鎖状又は分岐鎖状である、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール、ブテノール、ペンテノール、ヘキセノール、オクテノール、デセノール、ドデセノール、テトラデセノール、ヘキサデセノール、オクタデセノールなどが挙げられる。これらの中で、炭素数6〜18のものが好ましく、8〜18のものがより好ましい。
これら油性剤の配合量は、組成物基準で、通常0.1〜30質量%程度であり、好ましくは、0.5〜10質量%である。
極圧剤及び耐摩耗剤としては、例えば硫化オレフィン、ジアルキルポリスルフィド、ジアリールアルキルポリスルフィド、ジアリールポリスルフィドなどの硫黄系化合物、リン酸エステル、チオリン酸エステル、亜リン酸エステル、アルキルハイドロゲンホスファイト、リン酸エステルアミン塩、亜リン酸エステルアミン塩などのリン系化合物等が挙げられる。
これら極圧剤の配合量は、組成物基準で、通常0.05〜10質量%程度であり、好ましくは、0.1〜5質量%である。
防錆剤としては、例えば金属系スルホネート、コハク酸エステル及びリン酸エステルアミン塩などを挙げることができる。
これら防錆剤の配合量は、組成物基準で、通常0.01〜20質量%程度であり、好ましくは、0.05〜10質量%である。
酸化防止剤としては、例えばアルキル化ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキル化−α−ナフチルアミンなどのアミン系、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾールなどのフェノール系、及び2,6−ジ−t−ブチル−4−[4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ]フェノール、ジラウリルチオジプロピオネートなどの硫黄系等が挙げられる。
これら酸化防止剤の配合量は、組成物基準で、通常0.01〜10質量%程度であり、好ましくは、0.05〜3質量%である。
金属不活性化剤や腐食防止剤としては、例えばベンゾトリアゾール系、ベンズイミダゾール系、ベンゾチアゾール系、チアジアゾール系などが挙げられる。これらの配合量は、組成物基準で、通常0.005〜5質量%程度であり、好ましくは、0.01〜3質量%である。
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン−プロピレン共重合体など)などが挙げられる。
これら粘度指数向上剤は、組成物基準で、通常0.05〜20質量%程度であり、好ましくは、0.1〜10質量%である。
抗乳化剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤等、各種界面活性剤を用いることができる。
これら抗乳化剤の配合量は、組成物基準で、通常0.005〜0.5質量%程度である。
消泡剤としては、シリコーン油、フルオロシリコーン油、ポリアクリレートなどを用いることができる。
これら消泡剤の配合量は、組成物基準で、通常0.0005〜0.01質量%程度である。
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、潤滑油組成物の性能は、次の方法によって評価した。
(1)摩擦係数
第1表に示す仕様のNC制御式摺動面試験装置を用い、下記の条件における動摩擦係数(μ)を測定した。
面圧 :261kPa
送り速度 :0.1、10、50mm/min.
室温 :20±2℃
Figure 0005046605
(2)ロストモーション値
(1)の実験装置を用い、下記の条件におけるロストモーション値を測定した。
ロストモーション値は、テーブルを基準点からプラス方向に最大300mm数値制御指令で移動させた後、マイナス方向に最大300mm同様にして移動させる指令をしたときのテーブルの基準点からのずれの大きさ(μm)として評価した。ロストモーション値は小さい程、位置決め精度が優れており、ロストモーション値「0μm」は、指令値と実際の移動量に差がないことを示す。測定結果は、実験数n=7の平均値である。
面圧 :261kPa
送り速度 :0.1、10、100mm/min.
室温 :20±2℃
(3)1パルス追従性
(1)1の実験装置を用い、面圧44〜261kPa下で、サドルを基準点からプラス方向に10秒毎、1μm/1パルスで30パルス微小送りをする数値制御指令をし、続いて、その後マイナス方向に同様の微小送りをする指令をした。その後、実際の移動量をリニアスケールで測定し、マイナス方向へ送る指令に対し、サドルが実際に動いた指令単位数(μm)を読取り、指令値に対する応答遅れ(バックラッシュ量)を求めた。バックラッシュ量が小さいほど、1パルス追従性に優れ、位置決め精度が良好であることを示す。測定結果は実験数n=3の平均値である。
(4)スティックスリップ
トライボロジスト、Vol.36、No.12、p68の図2及び表1に記載される小型摩擦試験装置を用い、以下の条件におけるスティックスリップの発生を確認した。スティックスリップの発生は、テーブルに連結したロードセルからの信号をペンレコーダで読み取り、びびり現象の有無により判断した。なお、テーブルの材質は鋳鉄(FC25)を使用した。
面圧 :221kPa
送り速度 :10,50、100mm/min.
室温 :20±2℃
(5)水溶性金属加工液の分離性
JIS K2520に準拠し、水の変わりに水溶性切削油〔出光興産(株)製、商品名「ダフニーアルファークールオイルEW(原液)」を純水で20倍希釈したもの〕を用いた。
(6)貯蔵安定性
以下の条件に貯蔵した後のスラッジの生成の有無を見た。
貯蔵条件:
温度を25℃から60℃、湿度を40%から80%に5時間で変化させ、温度、湿度が一定になった後18時間保持した。次いで温度を60℃から−5℃、湿度を80%から20%に5時間で変化させ、温度、湿度が一定になった後18時間保持した。さらに温度を−5℃から25℃、湿度を20%から40%に2時間で変化させた。以上のサイクルを15回繰り返した。
(7)スタック試験
2枚の鋳鉄(FC25)のテストピース間に試料油を挟んだ状態で、テストピースを60℃の恒温槽に7日間保持した後、錆やスラッジの有無を評価した。
製造例1(酸アミド化合物)
イソステアリン酸を213gとテトラエチレンペンタミンを47.3g(モル比3.0:1.0)及び鉱油260gを1リットルの反応容器に採り、130℃で3時間攪拌して反応(縮合)させ、反応生成物を得た。反応生成物の赤外線スペクトルから、アミド結合に由来する1650cm-1の吸収が認められた。反応生成物の酸価は、8.28mgKOH/g、塩基価は73.7mgKOH/gであった。
実施例1
オレイルアシッドフォスフェート(モノオレイルアシッドフォスフェートとジオレイルアシッドフォスフェートとの混合物:P含有量6.30質量%)と製造例1で得た酸アミド化合物を質量比1.0:0.49の割合で混合し、80℃で、30分間攪拌して反応させた。その後室温に冷却して反応生成物1を得た。反応生成物1の酸価は、108mgKOH/g、塩基価は24.5mgKOH/g、リンの含有量4.2質量%であった。
次いで、下記(i)に記載する基油に、反応生成物1を組成物基準で1.19質量%、下記(ii)のその他の添加剤を組成物基準で1.52質量%を加え、60℃で30分攪拌し混合し、その後室温まで冷却して実施例1の潤滑油組成物を得た。
この潤滑油組成物について、上記(1)〜(7)の性能評価を行った。結果を第2表に示す。
(i)基油:
パラフィン系鉱油[40℃動粘度68mm2/s(ISO VG68),硫黄分5質量ppm以下、酸価0.01mgKOH/g以下]
(ii)その他の添加剤
下記の添加剤の混合物(配合量:組成物基準)
(a)酸化防止剤:2,6‐ジ‐tert‐ブチル‐4‐メチルフェノール(0.30質量%)
(b)錆止め剤:オクチルリン酸エステルアミン塩(0.10質量%)
(c)極圧剤:硫化ラード、硫黄分含有量14.5質量%(1.0質量%)
(d) 金属不活性化剤:ベンゾトリアゾール系金属不活性化剤(0.10質量%)
(e)抗乳化剤:ポリオキシエチレンアルキルエーテル(0.01質量%)
(f)消泡剤:シリコン系消泡剤(0.01質量%)
実施例2
実施例1の反応生成物1の代わりに、実施例1で用いたオレイルアシッドフォスフェートと製造例1で得た酸アミド化合物の質量比を1.0:1.0に変更して得た反応生成物2を用い、かつ反応生成物2の配合量を組成物基準で0.7質量%にしたこと以外は、実施例1と同様にして実施例2の潤滑油組成物を得た。この潤滑油組成物について、上記(1)〜(6)の性能評価を行った。結果を第2表に示す。
実施例3
実施例1で用いたオレイルアシッドフォスフェートと製造例1で得た酸アミド化合物を質量比1.0:0.49の割合となるように、組成物基準で合計1.19質量%なる量を採取し、これに実施例1で用いた基油(1)の一部を加えて60℃で、30分攪拌混合した。次いで、残りの基油と、その他の添加剤(2)を1.52質量%添加し、再度60℃で攪拌混合し、実施例3の潤滑油組成物を得た。この潤滑油組成物について、上記(1)〜(6)の性能評価を行った。結果を第2表に示す。
比較例1
実施例1の反応生成物1を1.19質量%含有する代わりに、2−エチルヘキシルアシッドフォスフェートオレイルアミン塩を組成物基準で0.85質量%配合し、その他の添加剤のうち、(b)の防錆剤(リン酸エステルアミン塩)を配合しなかったこと以外は、実施例1と同様にして比較例1の潤滑油組成物を得た。この潤滑油組成物について、上記(1)〜(6)の性能評価を行った。結果を第2表に示す。
比較例2
実施例1の反応生成物1を1.19質量%含有する代わりに、オレイルリン酸エステルを組成物基準で0.78質量%配合した以外は、実施例1と同様にして比較例2の潤滑油組成物を得た。この潤滑油組成物について、上記(1)〜(6)の性能評価を行った。結果を第2表に示す。
Figure 0005046605
第2表より、オレイルアシッドフォスフェートと酸アミド化合物の反応生成物を配合した実施例1,2及び、オレイルアシッドフォスフェートと酸アミド化合物の混合物を配合した実施例3の潤滑油組成物は、いずれも低速送り速度における摩擦係数が低く、ロストモーション値及び1パルス追従性における応答遅れ
小さく、スティックスリップの発生がなく、摺動面特性が優れている。また、これらは、水分離性、貯蔵安定性も良好であることが分る。これに対し、オレイルアシッドフォスフェートと酸アミド化合物の反応生成物等を含有しない、比較例1,2の潤滑油組成物は、低速送り速度における摩擦係数が高く、ロストモーション値及び1パルス追従性における応答遅れが大きい。また、オレイルリン酸エステルを含有する比較例2の潤滑油組成物は、スティックスリップが発生し、水分離性、貯蔵安定性についても好ましくない。
本発明の潤滑剤組成物は、超低速すべり速度において低摩擦係数であって、位置決め精度が高く、ロストモーションや1パルス追従性が良好であると共に、スティックスリップの発生を防止し、しかも水溶性金属加工液と混合した場合の分離性が良好であり、かつすべり案内面等の金属の腐食を抑制する。したがって、多くの潤滑油、特に工作機械等のすべり案内面(摺動面)に使用される摺動面用潤滑油等として好適に利用される潤滑油組成物である。

Claims (4)

  1. 基油に、下記の化合物(A)と化合物(B)とを下記反応条件で反応して得られる反応生成物を、潤滑油組成物全質量基準で、0.01〜10質量%配合してなる潤滑油組成物。
    化合物(A):下記の一般式(I)で表される酸性リン酸エステル、
    (R 1 O) m P(=O)(OH) 3-m ・・・(I)
    (式中、R 1 は、炭素数2〜24の炭化水素基を示し、mは1又は2の整数である。mが2の場合、複数のR 1 Oは同一であっても異なってもよい)
    化合物(B):炭素数4〜50のカルボン酸と炭素数2〜20のポリアミンとの反応生成物である酸アミド化合物、
    反応条件:質量比で化合物(B)/化合物(A)=0.1〜10、反応温度が40〜100℃、及び反応時間が30〜100分。
  2. 化合物(B)のカルボン酸が、下記の一般式(III)
    3−COOH ・・・(III)
    (式中、R3は、炭素数3〜29の一価の炭化水素基を示す。)
    で表されるカルボン酸である請求項1に記載の潤滑油組成物。
  3. 化合物(B)のポリアミンが、下記の一般式(IV)
    2N(R4NH)nH ・・・(IV)
    (式中、R4は、炭素数2〜4のアルキレン基を示し、nは、平均値が1〜7の数である。)
    で表されるポリアルキレンポリアミンである請求項1又は2のいずれかに記載の潤滑油組成物。
  4. 工作機械の案内面に用いられる請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油組成物。
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