以下、本発明の沈胴式レンズ鏡筒について、図1〜図13を用いて説明する。
図1は本発明の一実施形態における沈胴式レンズ鏡筒の分解斜視図、図2は本発明の一実施形態における沈胴式レンズ鏡筒のガイドポール支持部を説明する分解斜視図、図3(A)は理想的な沈胴式レンズ鏡筒におけるレンズの傾きを示した図、図3(B)は従来の沈胴式レンズ鏡筒におけるレンズの傾きを示した図、図3(C)は本発明の一実施形態における沈胴式レンズ鏡筒におけるレンズの傾きを示した図、図4は本発明の一実施形態における沈胴式レンズ鏡筒におけるカム溝の展開図、図5(A),(B),(C)は本発明の一実施形態における沈胴式レンズ鏡筒におけるカム溝とカムピンとの関係を示す断面図、図6は本発明の一実施形態における沈胴式レンズ鏡筒におけるカム枠の分解斜視図、図7は本発明の一実施形態における沈胴式レンズ鏡筒の沈胴時での断面図、図8は本発明の一実施形態における沈胴式レンズ鏡筒の望遠端使用時での断面図、図9は本発明の一実施形態における沈胴式レンズ鏡筒の広角端使用時での断面図、図10は本発明の一実施形態における沈胴式レンズ鏡筒が繰り出された時のカメラ本体との関係を示す断面図、図11は本発明の一実施形態における沈胴式レンズ鏡筒において繰り出し時に外力が加わった時のカムピンの脱落防止作用を説明する断面図、図12は本発明の一実施形態における沈胴式レンズ鏡筒が沈胴時のカメラ本体との関係を示す断面図、図13は本発明の一実施形態における沈胴式レンズ鏡筒において沈胴時に外力が加わった時のカムピンの脱落防止作用を説明する断面図である。
沈胴式のレンズ鏡筒1について、図1から図6を用いて説明する。図1に示したように、沈胴式レンズ鏡筒の光軸をZ軸(物体側を正とする)とするXYZ3次元直交座標系を設定する。L1は1群レンズ、L2は光軸(Z軸)上を移動して変倍を行う2群レンズ、L3は像ぶれ補正用の3群レンズ、L4は変倍に伴う像面変動の補正及び合焦のために光軸上を移動する4群レンズである。
1群保持枠2は1群レンズL1を保持しており、1群レンズL1の中心軸が光軸と平行となるように、筒状の1群移動枠3に対してネジ等で固定されている。この1群移動枠3には、光軸と平行な2本のガイドポール(ガイド部材)4a,4bの一端が固定されている。
2群移動枠5は2群レンズL2を保持し、先述の2本のガイドポール4a,4bによって支持されることにより、光軸方向に摺動可能となっている。また2群移動枠5は、ステッピングモータなどの2群レンズ駆動アクチュエータ6の送りネジ6aと、2群移動枠5に設けたラック7のネジ部とが噛合することにより、2群レンズ駆動アクチュエータ6の駆動力にて、光軸方向に移動して変倍を行う。
3群枠8は、像ぶれ補正用レンズ群L3(3群レンズ)を保持し、像ぶれ補正装置31を構成している。
4群移動枠9は、3群枠8とマスターフランジ10との間に挟まれた、光軸と平行な2本のガイドポール11a,11bにて支持されることにより、光軸方向に摺動可能となっている。また4群移動枠9は、ステッピングモータなどの4群レンズ駆動アクチュエータ12の送りネジ12aと、4群移動枠9に設けたラック13のネジ部とが噛合することにより、4群レンズ駆動アクチュエータ12の駆動力にて、光軸方向に移動し、変倍に伴う像面変動の補正と合焦とを行う。
撮像素子(CCD)14は、マスターフランジ10に取り付けられている。
次に、ガイドポール4a,4bの支持方法について、図2を用いて説明する。
3群枠8には支持部8a(主軸側),8b(廻り止め側)が設けられている。ガイドポール4a,4bが支持部8a,8bを貫入することにより、ガイドポール4a,4bは光軸と平行に保持される。この2つの支持部8a,8bに対してガイドポール4a,4bが光軸方向に摺動するため、ガイドポール4a,4bの一端に固定された1群移動枠3に保持された1群レンズL1は、3群枠8に設けられた像ぶれ補正用レンズL3に対して精度が保たれる。さらに、ガイドポール4a,4bが、2群移動枠5に設けられた支持部5a(廻り止め側),5b(主軸側)を摺動可能に貫入することにより、2群移動枠5はガイドポール4a,4bに光軸方向に摺動自在に支持されるため、2群移動枠5に保持された2群レンズL2は、3群枠8に設けられた像ぶれ補正用レンズL3に対して精度が保たれる。
ここで、上記に説明した1群レンズL1,2群レンズL2,3群レンズL3の関係を、図3(A)〜図3(C)を用いて説明する。図中、矢印L1a,L2aは、それぞれ1群レンズL1,2群レンズL2の中心軸の向きを示している。
図3(A)は3つのレンズ群L1,L2,L3の理想状態を示しており、Z軸(レンズ鏡筒の光軸であり、これは3群レンズL3の中心軸と一致する)に対して1群レンズL1の中心軸L1a及び2群レンズL2の中心軸L2aが平行になっている。
図3(B)は従来のレンズ鏡筒と同様の方式により、1群レンズL1及び2群レンズ群L2を支持した場合を示しており、1群レンズL1の中心軸L1a及び2群レンズL2の中心軸L2aは、相互に平行ではなく、且つZ軸とも平行とはならないので、光学性能が悪化する可能性が大きい。
図3(C)は本実施形態の場合を示している。1群レンズL1及び2群レンズL2は、同一のガイドポール4a,4bに支持されているため、1群レンズL1の中心軸L1a及び2群レンズL2の中心軸L2aがZ軸に対して仮に傾いたとしても、両中心軸L1a,L2aの向きは常に一致する。すなわち、光学性能に対する影響度が最も高い像ぶれ補正用レンズ群L3に対して1群レンズL1及び2群レンズL2は常に同一方向に傾くため、光学性能の悪化量を最小限に抑えることができる。
次に、1群レンズL1を光軸方向に移動させる構成について説明する。
図1に示すように、略中空円筒状の駆動枠15の撮像素子14側の内周面の一部にギア部15aが形成されている。また、その物体側(Z軸の正の側)の内周面に略120°間隔に3つの突起部15bが形成されている。突起部15bが1群移動枠3の撮像素子14側の外周面に設けられた周方向の3つの溝部3aと係合することにより、駆動枠15は1群移動枠3に対して光軸を中心として相対的に回転可能であり、光軸方向には駆動枠15と1群移動枠3とは一体で移動する。さらに駆動枠15の内周面には、3本のカムピン16a,16b,16c(これら3本のカムピン16a,16b,16cを総称してカムピン16と呼ぶ)が120°間隔に圧入固定されている。このカムピン16a、16b、16cは、それぞれ先端に形成されたテーパ部16eとこれより駆動枠15の内周面側の円筒部16fとを備える。さらにこのカムピン16a,16b,16cの撮像素子14側(Z軸の負の側)には、カムピン16a,16b,16cが後述するカム溝18a,18b,18cから脱落するのを防止するための脱落防止用ピン35a,35b,35c(これら3本の脱落防止用ピン35a,35b,35cを総称して脱落防止用ピン35と呼ぶ)が120゜間隔に圧入固定されている。この脱落防止用ピン35a,35b,35cは、カムピン16a,16b,16cと同様に、先端のテーパ部35eとこれより駆動枠15の内周面側の円筒部35fとを備える。カムピン16a、16b、16cと脱落防止用ピン35a、35b、35cとは同一形状であり、同一部品を使用できる。
筒状のカム枠17の外表面には、略120゜間隔にて3本のカム溝18a,18b,18c(これら3本のカム溝18a,18b,18cを総称してカム溝18と呼ぶ)が形成されている。この3本のカム溝18a,18b,18cの撮像素子14側(Z軸の負の側)には、略120゜間隔にて3本の脱落防止用溝36a,36b,36c(これら3本の脱落防止用溝36a,36b,36cを総称して脱落防止用溝36と呼ぶ)が形成されている。カム溝18a,18b,18cと脱落防止用溝36a,36b,36cとは、それぞれ互いに平行であり、且つ近接している。
図4に、カム枠17の外周面の展開図を示す。カム枠17のカム溝18a,18b,18cに、駆動枠15に設けられたカムピン16a,16b,16cがそれぞれ係合する。各カム溝18a,18b,18cは、撮像素子14側(Z軸の負の側)にカム枠17の周方向とほぼ平行な部分19aと、物体側(Z軸の正の側)にカム枠17の周方向とほぼ平行な部分19cと、部分19aと部分19cとを螺旋状に繋ぐ部分19bとを有する。カムピン16a,16b,16cが、部分19aにあるとき、1群レンズL1は撮像素子14側に繰り込まれた状態(沈胴状態)である。この状態から、駆動枠15が光軸回りに回転することにより、カムピン16a,16b,16cは部分19bを経て、部分19cに至る。カムピン16a,16b,16cが部分19cにあるとき、1群レンズL1は物体側に繰り出された状態である。
脱落防止用ピン35a,35b,35cは、脱落防止用溝36a,36b,36cにそれぞれ係合する。脱落防止用溝36a,36b,36cもカム溝18a、18b、18cの部分19a、19b、19cに対してそれぞれ平行な部分55a、55b、55cを有する。1群レンズL1が沈胴状態のとき脱落防止用ピン35a,35b,35cは部分19aにあり、1群レンズL1が物体側に繰り出さる過程で脱落防止用ピン35a,35b,35cは部分19bを通過し、1群レンズL1が物体側に繰り出された状態のとき、脱落防止用ピン35a,35b,35cは部分19cにある。
図5(A)は1群レンズL1が沈胴状態、図5(B)は1群レンズL1が沈胴状態から物体側に繰り出される過程にある状態、図5(C)は1群レンズL1が物体側に完全に繰り出された状態において、カムピン16とカム溝18、脱落防止用ピン35と脱落防止用溝36との係合状態を示したZ軸に平行な面に沿った断面図である。
図5(A)〜図5(C)に示されているように、カム溝18の断面形状は、部分19a,19b,19cのいずれにおいてもほぼ同様であり、カムピン16の先端のテーパ部16eのテーパ角度と略同一のテーパ角度を有する逆台形状を有している。
一方、脱落防止用溝36の断面形状は、その両端の部分55a,55cでは、対向する一対の側壁が光軸に対して略直交するような長方形状を有しており、部分55a,55cの間の部分55bでは、部分19bと同様に、脱落防止用ピン35の先端のテーパ部35eのテーパ角度と略同一のテーパ角度を有する逆台形状を有している。なお、部分55bでの脱落防止用溝36の断面形状は、部分55a,55cでの断面形状と同様の長方形状であってもよい。
1群レンズL1の位置にかかわらず、レンズ鏡筒に外力が加えられていない通常状態では、カムピン16のテーパ部16eとカム溝18とが接触している。これに対して、脱落防止用溝36の部分55bでの光軸方向(Z軸方向)の幅は脱落防止用ピン35のテーパ部35eの幅よりも約0.2mm広く、また、脱落防止用溝36の部分55a,55cでの光軸方向の幅は脱落防止用ピン35の円筒部35fの外径よりも約0.2mm広く、また、脱落防止用溝36の深さはその全長にわたってカム溝18の深さより約0.1mm深いので、脱落防止用ピン35は脱落防止用溝36に対して約0.1mmの隙間を有して非接触状態にある。したがって通常状態での1群レンズL1の駆動時には、脱落防止用ピン35と脱落防止用溝36とが接触することによる負荷(摩擦抵抗)が発生しない。
図5(C)に示すように、脱落防止用溝36aの部分55cでは、脱落防止用溝36aの撮像素子14側(Z軸の負の側)の壁面が外方に延長されて、脱落防止用ピン35の円筒部35fと対向する突起(第1突起)37が形成されている。また、図5(A)に示すように、脱落防止用溝36の部分55aでは、脱落防止用溝36の物体側(Z軸の正の側)の壁面が外方に延長されて、脱落防止用ピン35の円筒部35fと対向する突起(第2突起)38が形成されている。
カム枠17の外周面であって、カム溝18bとカム溝18cとの間には、スプライン状の駆動ギア19の両端に突出した駆動ギア軸20を回転可能に保持する軸受け部17dと、駆動ギア19との干渉を避けるために半円筒面状に窪ませた駆動ギア取り付け部(凹部)17aとが形成されており、これにより駆動ギア19はカム枠17の外周面上に回転自在に保持されている。駆動ギア19は、後述するマスターフランジ10に取り付けられた駆動ユニット21の駆動力を駆動枠15に設けられたギア部15aに伝達する。したがって、駆動ギア19が回転することにより、駆動枠15が光軸の回りに回転し、この際、駆動枠15に設けられたカムピン16a,16b,16cが、カム枠17のカム溝18a,18b,18c内を移動することにより、駆動枠15は光軸方向にも移動する。このとき、1群移動枠3は、これに固定された2本のガイドポール4a,4bが3群枠8の支持部8a,8bに貫入されていることにより、光軸回りの回転が制限されるから、駆動枠15が光軸方向に移動するに従って、1群移動枠3は光軸方向に直進移動する。
2群移動枠5の駆動アクチュエータ6は、カム枠17の取り付け部17bに固定される。また、4群移動枠9の駆動アクチュエータ12は、マスターフランジ10の取り付け部10aに固定される。駆動ギア19に駆動力を伝達する駆動ユニット21は、駆動アクチュエータ22と複数のギアからなる減速ギアユニット23とからなり、マスターフランジ10の取り付け部10bに固定される。
シャッターユニット24は、撮像素子14の露光量及び露光時間を制御するため、一定の開口径を形成する絞り羽根とシャッター羽根とから構成されている。
2群移動枠5用の原点検出センサ25は、発光素子および受光素子からなる光検出センサであり、2群移動枠5の光軸方向の位置、つまり2群レンズL2の原点位置を検出する。4群移動枠9用の原点検出センサ26は、4群移動枠9の光軸方向の位置、つまり4群レンズL4の原点位置を検出する。駆動枠15用の原点検出センサ27は、駆動枠15の回転方向の位置、つまり駆動枠15と一体で移動する1群移動枠3及び1群レンズL1の原点位置を検出する。
像ぶれ補正装置31は、撮影時に像ぶれを補正するための像ぶれ補正用レンズ群L3を、第1の方向(Y方向)であるピッチング方向と、第2の方向(X方向)であるヨーイング方向とに移動させる。第1の電磁アクチュエータ41yはY方向の駆動力を発生し、第2の電磁アクチュエータ41xはX方向の駆動力を発生することにより、像ぶれ補正用レンズ群L3は光軸Zにほぼ垂直なX,Yの2方向に駆動される。
図6に示すように、2群レンズ駆動アクチュエータ6は、カム枠17の取り付け部17bに取り付けられる。2群レンズL2の原点検出センサ25は、カム枠17の取り付け部17cに取り付けられ、2群移動枠5に設けられた羽根5cが原点検出センサ25の正面を通り、光を遮ることにより原点位置を検出する。そして、駆動ギア19は、先述したように、カム枠17の軸受け部17dと駆動ギア取り付け部(凹部)17aとに取り付けられる。
3本のカム溝18a,18b,18c、3本の脱落防止用溝36a,36b,36c、及び3つの取り付け部17a,17b,17cを展開すると、図4のような関係となる。つまり、取り付け部17aはカム溝18b,18cの間に、取り付け部17bはカム溝18a,18bの間に、取り付け部17cはカム溝18c,18aの間にそれぞれ設けられる。このように、取り付け部17a,17b,17cをカム溝の間に設けたことにより、取り付け部17a,17b,17cがカム溝18a,18b,18cと干渉することなく、駆動ギア19、2群レンズ駆動アクチュエータ6、及び原点検出センサ25をカム枠17に設けることが可能となる。
このように構成された沈胴式レンズ鏡筒1について、その動作を以下に述べる。
最初に、この沈胴式のレンズ鏡筒1の動作について、まず図7に示す非撮影時(未使用時)の状態から、図8に示す状態(望遠端)を経て、図9に示す撮影時(広角端)の状態に移行する際の動作について説明する。
図7の非撮影時の状態より、カメラ本体の電源スイッチ等がオンとなると撮影準備状態になる。最初に1群レンズL1を駆動する1群レンズ駆動アクチュエータ22が回転し、減速ギアユニット23を介して駆動ギア19を回転させる。駆動ギア19が回転することにより、駆動ギア19と噛合している駆動枠15が、光軸を中心として回転するとともに、カム溝18a,18b,18cに沿って光軸方向に移動する。そして原点検出センサ27を初期化した後、駆動枠15が物体方向(Z軸方向)に移動することにより、1群移動枠3も物体方向に移動する。そして、1群レンズ駆動アクチュエータ22が所定の回転量だけ回転したのを図示せぬ回転量検出センサが検出すると、1群移動枠3が所定の位置まで移動した後、1群レンズ駆動アクチュエータ22の回転が停止する。この停止位置では、図4のカム溝の展開図において、カムピン16a,16b,16cは、カム溝18a,18b,18cのカム枠17の周方向とほぼ平行な部分19cの位置に到達している。また、脱落防止用ピン35a,35b,35cは脱落防止用溝36a,36b,36cの部分55cの位置に到達している。図8はこのときの状態を示している。
次に、2群レンズ駆動アクチュエータ6が回転し、送りネジ6aを介してラック7を駆動することにより、2群移動枠5がZ軸に沿って動き出す。そして、2群移動枠5は、原点検出センサ25を初期化した後、物体方向に移動し、図9に示す広角端の位置にて停止し、カメラ本体は撮影可能状態となる。
ここで、1群移動枠3および2群移動枠5は、3群枠8の支持部8a,8bに保持された同一のガイドポール4a,4bにて支えられながら所定位置まで移動する。したがって、1群レンズL1および2群レンズL2が光軸に対して傾いたとしても、それらの傾き方向は像ぶれ補正用レンズ群L3に対して同一であるため、所定の光学性能を確保することができる。
実際の撮影時には、2群レンズ駆動アクチュエータ6と4群レンズ駆動アクチュエータ12により、それぞれ変倍動作と変倍に伴う像面変動の補正及び合焦の動作とを行う。変倍を行う際、広角端の状態では、図9に示す状態にて撮影を行い、望遠端の状態では、2群レンズL2を撮像素子14側端(Z軸の負の側)に移動させて図8に示す状態にて撮影を行う。よって、広角端から望遠端まで、任意の位置にて撮影することが可能となる。
この図8および図9に示す撮影状態にて、1群駆動枠3に外力が加わった場合の状況について説明する。この1群枠3に外力が加わる状況とは、例えば撮影中、即ち、図10に示す沈胴式レンズ鏡筒1がカメラ本体の外装50の前面50aから突出した状態にて、撮影者がカメラを落とし、1群レンズL1を下側にして、地面に衝突した場合が相当する。1群レンズL1を下側にしてカメラが落下した場合には、1群駆動枠3の物体側(Z軸の正の側)の面に対して、撮像素子14(Z軸の負の側)の向きの力が作用するため、1群駆動枠3及びこれと光軸周りに回転自在に連結された駆動枠15が、撮像素子14側に押される。即ち、図5(C)において、駆動枠15にZ軸の負の方向の力が作用する。
図11を用いて、このときの現象を説明する。駆動枠15にZ軸の負の方向の力F1が作用することにより、駆動枠15に設けられたカムピン16および脱落防止用ピン35はカム溝18および脱落防止用溝36に対してZ軸の負の方向に相対的に移動する。カムピン16とカム溝18との間の隙間は、脱落防止用ピン35と脱落防止用溝36との間の隙間よりも小さいから、カムピン16の先端のテーパ部16eとカム溝18の側壁のテーパ面とが衝突する。その結果、カムピン16は、カム溝18から矢印F11方向の反力を受けてカム溝18から脱落しそうになる。ところが、次の瞬間、脱落防止用ピン35の円筒部35fが脱落防止用溝36の縁に形成された突起37の側面と衝突する。円筒部35f及び突起37の互いに衝突する面はZ軸に垂直であるから、円筒部35fと突起37との衝突が、駆動枠15のカム枠17に対するZ軸の負の方向へのこれ以上の相対的移動を阻止する。従って、カムピン16のカム溝18からの脱落が阻止される。よって、カメラを落下させたときの衝撃によってカムピン16がカム溝18から脱落して沈胴機構が機能不全になるのを防止できる。
次に図9に示す撮影時の状態から、図8に示す状態を経て、図7に示す非撮影時の状態に移行する際の動作について説明する。
任意のズーム位置にてカメラの電源スイッチ等がオフされると撮影が終了し、最初に2群移動枠5が2群レンズ駆動アクチュエータ6により撮像素子14側に移動して、図8に示す状態となる。次に1群レンズ駆動アクチュエータ22が回転し、減速ギアユニット23を介して駆動ギア19を上記とは逆方向に回転させる。駆動ギア19が回転することにより、駆動ギア19と噛合している駆動枠15が光軸を中心として回転し、同時に、カム溝18a,18b,18cによって撮像素子14方向に移動することにより、1群移動枠3も移動する。そして原点検出センサ27により駆動枠15の回転を検出すると、1群移動枠3が所定の位置まで移動した後、1群レンズ駆動アクチュエータ22の回転が停止する。この停止位置では、図4のカム溝の展開図において、カムピン16a,16b,16cは、カム溝18a,18b,18cのカム枠17の周方向とほぼ平行な部分19aに到達している。また、脱落防止用ピン脱落防止用ピン35a,35b,35cは脱落防止用溝36a,36b,36cの部分55aの位置に到達している。これが図7に示す状態であり、撮影時の状態に比べて長さCだけ短くなった沈胴状態となる。
この図7に示す沈胴状態にて、1群駆動枠3に外力が加わった場合の状況について説明する。沈胴状態では、図12に示すように、沈胴式レンズ鏡筒1がカメラ本体の外装50の前面50aよりも内側に後退している。この状態で、撮影者が、1群レンズL1を下側にしてカメラを落とした場合には、カメラ本体の外装50の前面50aが地面に衝突する。この衝突の瞬間、外装50には地面から重力方向と反対方向の衝撃力が作用し、同時に、沈胴式レンズ鏡筒1には重力方向の慣性力が作用し、沈胴式レンズ鏡筒1はカメラ本体から物体側(Z軸の正の側)に飛び出そうとする。よって、沈胴式レンズ鏡筒1の1群駆動枠3及びこれと光軸周りに回転自在に連結された駆動枠15がカム枠17から物体側(Z軸の正の側)に引き出される方向の力が作用する。即ち、図5(A)において、駆動枠15にZ軸の正の方向の力が作用する。
図13を用いて、このときの現象を説明する。駆動枠15にZ軸の正の方向の力F2が作用することにより、駆動枠15に設けられたカムピン16および脱落防止用ピン35はカム溝18および脱落防止用溝36に対してZ軸の正の方向に相対的に移動する。カムピン16とカム溝18との間の隙間は、脱落防止用ピン35と脱落防止用溝36との間の隙間よりも小さいから、カムピン16の先端のテーパ部16eとカム溝18の側壁のテーパ面とが衝突する。その結果、カムピン16は、カム溝18から矢印F21方向の反力を受けてカム溝18から脱落しそうになる。ところが、次の瞬間、脱落防止用ピン35の円筒部35fが脱落防止用溝36の縁に形成された突起38の側面と衝突する。円筒部35f及び突起38の互いに衝突する面はZ軸に垂直であるから、円筒部35fと突起38との衝突が、駆動枠15のカム枠17に対するZ軸の正の方向へのこれ以上の相対的移動を阻止する。従って、カムピン16のカム溝18からの脱落が阻止される。よって、カメラを落下させたときの衝撃によってカムピン16がカム溝18から脱落して沈胴機構が機能不全になるのを防止できる。
本実施形態の沈胴式レンズ鏡筒1の光軸方向の長さを変える沈胴動作においては、1群レンズL1を駆動する1群レンズ駆動アクチュエータ22を用い、ズーミング動作については2群レンズ駆動アクチュエータ6を単独で使用している。そのため、実際の撮影でのズーミング動作は、1群レンズL1を繰り出した状態で行うため、1群レンズ駆動アクチュエータ22を動作させる必要はなく、2群レンズ駆動アクチュエータ6のみを駆動して図8と図9との間の所定位置に2群レンズL2を移動させてズーミングを行うことができる。したがって、ズーミング動作を行うなどの撮影を行う際には、従来方式の沈胴式レンズ鏡筒とは異なり、ズーム倍率に応じて、鏡筒の繰り出し動作及び繰り込み動作を行う必要がない。従来の沈胴式のレンズ鏡筒においては、ズーミング動作時に、カム筒を回転させてレンズを駆動していたため、ズーミング速度が遅く、駆動音が大きい。本発明の沈胴式のレンズ鏡筒1は、2群レンズ駆動アクチュエータ6としてステッピングモータを使用し、そのステッピングモータに取り付けられた送りネジ6aを介して、2群移動枠5を直接駆動するため、送り速度も速く、動作音も小さい。このように、沈胴式のレンズ鏡筒であっても、ズーム速度の高速化、ズーム音の低騒音化を実現できる。
また、撮影時には、ズーム倍率にかかわらず、カムピン16a,16b,16cは、カム溝18a,18b,18cの部分19cの位置にあり、脱落防止用ピン35a,35b,35cは脱落防止用溝36a,36b,36cの部分55cにある。また、沈胴時(非撮影時)には、カムピン16a,16b,16cはカム溝18a,18b,18cの部分19aにあり、脱落防止用ピン脱落防止用ピン35a,35b,35cは脱落防止用溝36a,36b,36cの部分55aにある。従って、脱落防止用溝36a,36b,36cの部分55cに設けた第1突起37により撮影時の落下等に対する耐衝撃性を向上でき、脱落防止用溝36a,36b,36cの部分55aに設けた第2突起38により沈胴時の落下等に対する耐衝撃性を向上できる。即ち、脱落防止用溝36a,36b,36cの両端に第1突起37及び第2突起38を設けるだけで、カメラ本体の電源がオン及びオフされた時の1群レンズL1が駆動されるわずかな時間を除くほとんどの状況において、カムピン16a,16b,16cのカム溝18a,18b,18cからの脱落を防止できる。
以上のように本実施の形態によれば、沈胴式レンズ鏡筒を繰り出し時に脱落防止用ピン35が位置する脱落防止用溝36の部分55cの撮像素子14側に突起37を設けたことにより、沈胴式レンズ鏡筒を繰り出し時に1群駆動枠3に撮像素子14側に向かう力が作用した場合に、カムピン16がカム溝18から外れるのを防止できる。したがって、例えば撮影中に、撮影者がカメラを落とした場合でも、十分な強度を保つことが可能となる。
また、沈胴式レンズ鏡筒を沈胴時に脱落防止用ピン35が位置する脱落防止用溝36の部分55aの物体側に突起38を設けたことにより、沈胴式レンズ鏡筒を沈胴時に1群駆動枠3に物体側に向かう力が作用した場合に、カムピン16がカム溝18から外れるのを防止できる。したがって、例えば未使用時に、撮影者がカメラを落とした場合でも、十分な強度を保つことが可能となる。
しかも、カムピン16及び脱落防止用ピン35として同一部品を用いるので、部品点数の削減を図ることができる。さらに、カムピン16及び脱落防止用ピン35を駆動枠15に組み付ける際に、取り付け位置を逆にするような間違いを防止できるので、組み立て性が改善される。
また、1群レンズL1と2群レンズL2を別々に駆動することが可能となり、ズーミングを行う2群レンズL2駆動時には、1群レンズL1を駆動する必要がなくなるので、沈胴式のレンズ鏡筒であっても、ズーム速度の高速化、ズーム音の低騒音化を実現できる。したがって、撮影者は瞬時に画角を変更することが可能となり、被写体を追いかける、動画を撮影するなど、従来のDSCでは不向きであった使用を簡単に行うことができる。
さらに、1群レンズL1及び2群レンズL2が、像ぶれ補正用レンズL3に対し、少なくとも同一方向に傾くように構成したことにより、光学性能の低下量を最小限に抑えつつ、未使用時の全長を短くすることが可能となる。
なお、上記の実施形態においては、脱落防止用溝36の両端に突起37及び突起38を設けた例を示したが、本発明はこれに限定されず、いずれか一方のみを設けてもよい。その場合には、一般にカメラを落下させる確率は使用時の方が多いことから、突起37のみを設けるのが好ましい。
また、上記の実施形態においては、カメラの未使用時に沈胴式レンズ鏡筒1が外装50内に後退する例を示したが、カメラの未使用時においても沈胴式レンズ鏡筒1の先端が外装50より突出するようなカメラに沈胴式レンズ鏡筒1を使用することができる。このようなカメラにおいては、未使用時(沈胴時)にカメラを1群レンズL1を下側にして落下すると、1群駆動枠3に撮像素子14側に向かう外力が加わる。このときの衝撃によってカムピン16がカム溝18から外れるのを防止するために、脱落防止用溝36の部分55aの撮像素子14側に、図5(C)の突起37と同様の突起(第2突起)を形成してもよい。また、この脱落防止用溝36の部分55aの撮像素子14側の第2突起は、カメラの未使用時に沈胴式レンズ鏡筒1が外装50内に後退するカメラであっても、未使用時(沈胴時)にカメラを1群レンズL1を上側にして落下したときの衝撃によってカムピン16がカム溝18から外れるのを防止するのにも有効である。
また、脱落防止用溝36の部分55cの物体側に、図5(A)の突起38と同様の突起(第1突起)を形成してもよい。この第1突起により、沈胴式レンズ鏡筒1の繰り出し時に1群駆動枠3に物体側に向かう力が万一作用したとしても、カムピン16がカム溝18から外れるのを防止することができる。
このように、本発明の沈胴式レンズ鏡等においては、脱落防止用溝36の部分55aのZ軸方向の両縁及び部分55cのZ軸方向の両縁の合計4カ所のうち、任意に選択した1カ所以上に突起が形成される。いずれの位置に突起を形成するかは、カメラ及びこれに搭載される沈胴式レンズ鏡筒に作用すると考えられる外力に応じて決定すればよい。上記の4カ所の全てに突起(合計4つ)を設けることにより、カメラ落下時等の安全性を一層高めることができる。
さらに、上記の実施形態では、カムピン16がカム溝18から外れるのを防止するために、脱落防止用ピン35及び脱落防止用溝36を設けたが、本発明はこれに限定されない。例えば、カム溝18の部分19aのZ軸方向の両縁及び部分19cのZ軸方向の両縁の合計4カ所のうち任意に選択した1カ所以上に、上記の突起37,38と同様の突起を形成しても良い。この構成では、外力によりカムピン16がカム溝18に対してZ軸方向に相対的に移動すると、最初にカムピン16の先端のテーパ部16eとカム溝18の側壁のテーパ面とが衝突するが、その後、カムピン16の円筒部16fが突起に衝突するので、カムピン16のカム溝18からの脱落が阻止される。従って、この構成によれば、脱落防止用ピン35が不要になるので、部品点数と組立工数を削減できる。また、カム枠17に脱落防止用溝36を形成する必要がないので、カム枠17の小型化などに貢献する。カム溝18の部分19aのZ軸方向の両縁及び部分19cのZ軸方向の両縁の合計4カ所のうちいずれの位置に突起を形成するかは、カメラ及びこれに搭載される沈胴式レンズ鏡筒に作用すると考えられる外力に応じて決定すればよい。
なお、上記実施形態においては、脱落防止用溝36a,36b,36cをカム溝18a,18b,18cに対して撮像素子14側に設けたが、両溝の位置を入れ替えても、同様の効果が得られる。
また、上記実施形態においては、1群レンズL1を設けた1群枠2と1群移動枠3とを別々の構成としたが、一体の構成とし、その一体部分にガイドポール4a,4bを固定する構成としてもよい。
また、3群レンズL3については、像ぶれ補正装置31を用いて光軸と直交する方向に移動可能としたが、3群レンズL3が3群枠8に固定された、像ぶれ補正装置を搭載しない一般のレンズ鏡筒であっても、同様の効果が得られる。