ところで、周知の空燃比センサは、例えば図2の(A)に示したように、少なくとも「固体電解質層(671)、排ガス側電極層(672)、大気側電極層(673)及び拡散抵抗層(674)」を含む空燃比検出部を備える。排ガス側電極層(672)は固体電解質層(671)の一面に形成されている。排ガス側電極層(672)は拡散抵抗層(674)により覆われている。排気通路内の排ガスは、拡散抵抗層(674)の外側表面に到達し、拡散抵抗層(674)を通過して排ガス側電極層(672)に到達する。大気側電極層(673)は固体電解質層(671)の他面に形成されている。大気側電極層(673)は大気が導入される大気室(678)に露呈している。
図2の(B)及び(C)に示したように、排ガス側電極層(672)と大気側電極層(673)との間には「排ガスの空燃比に応じて変化する限界電流」を発生させるための電圧(Vp)が印加されている。この電圧は、一般に、大気側電極層(673)の電位が排ガス側電極層(672)の電位よりも高くなるように印加される。
図2の(B)に示したように、拡散抵抗層(674)を通過して排ガス側電極層(672)に到達した排ガスに過剰な酸素が含まれているとき(即ち、排ガス側電極層に到達した排ガスの空燃比が理論空燃比よりもリーンであるとき)、その酸素は前記電圧と固体電解質層(671)の酸素ポンプ特性とにより酸素イオンとして排ガス側電極層(672)から大気側電極層(673)へと導かれる。
これに対し、図2の(C)に示したように、拡散抵抗層(674)を通過して排ガス側電極層(672)に到達した排ガスに過剰な未燃物が含まれているとき(即ち、排ガス側電極層に到達した排ガスの空燃比が理論空燃比よりもリッチであるとき)、大気室(678)内の酸素は固体電解質層(671)の酸素電池特性により酸素イオンとして大気側電極層(673)から排ガス側電極層(672)へと導かれ、排ガス側電極層(672)の未燃物と反応する。
このような酸素イオンの移動量は、拡散抵抗層(674)の存在により、「拡散抵抗層(674)の外側表面に到達した排ガスの空燃比」に応じた値に制限される。換言すると、酸素イオンの移動により生じる電流は排ガスの空燃比(A/F)に応じた値(即ち、限界電流Ip)となる(図3を参照。)。
空燃比センサは、この限界電流(排ガス側電極層と大気側電極層との間に電圧が印加されることにより固体電解質層を流れる電流)に基いて「空燃比センサが配設された部位を通過する排ガスの空燃比」に応じた出力値Vabyfsを出力する。この出力値Vabyfsは、一般には、予め求められている「出力値Vabyfsと空燃比との図4に示した関係」に基いて検出空燃比abyfsに変換される。図4から理解されるように、出力値Vabyfsと検出空燃比abyfsとは実質的に比例する。
一方、「インバランス判定用パラメータの基礎となるデータ」である空燃比変動指標量は、「空燃比センサの出力値Vabyfs又は検出空燃比abyfs」の軌跡長に限られず、空燃比センサが配設された部位を通過する排ガスの空燃比の変動の状態(例えば、所定期間における変動の幅)を反映した値であればよい。以下、この点について説明を加える。
空燃比センサには、各気筒からの排ガスが点火順(従って、排気順)に到達する。空燃比気筒間インバランス状態が発生していない場合、各気筒から排出される排ガスの空燃比は互いに略同一である。従って、空燃比気筒間インバランス状態が発生していない場合、図5の(B)において破線C1により示したように、空燃比センサの出力値Vabyfsの波形(図5の(B)においては検出空燃比abyfsの波形)は略平坦である。
これに対し、「特定気筒(例えば、第1気筒)の空燃比のみが理論空燃比よりもリッチ側に偏移した空燃比気筒間インバランス状態(特定気筒リッチずれインバランス状態)」が発生している場合、その特定気筒の排ガスの空燃比と、その特定気筒以外の気筒(残りの気筒)の排ガスの空燃比と、は大きく相違する。
従って、例えば図5の(B)において実線C2により示したように、特定気筒リッチずれインバランス状態が発生している場合の空燃比センサの出力値Vabyfsの波形(図5の(B)においては検出空燃比abyfsの波形)は、4気筒・4サイクル・エンジンの場合に720°クランク角(一つの空燃比センサに到達する排ガスを排出している総ての気筒において各一回の燃焼行程が終了するのに要するクランク角)毎に大きく変動する。なお、「一つの空燃比センサに到達する排ガスを排出している総ての気筒において各一回の燃焼行程が終了するのに要するクランク角が経過する期間」は、本明細書において「単位燃焼サイクル期間」とも称呼される。
更に、インバランス気筒の空燃比が正常気筒の空燃比から乖離するほど、空燃比センサの出力値Vabyfs及び検出空燃比abyfsの振幅は大きくなり、これらの値はより大きく変動する。例えば、インバランス気筒の空燃比と非インバランス気筒の空燃比との差の大きさが第1の値であるときの検出空燃比abyfsが図5(B)の実線C2のように変化するとすれば、インバランス気筒の空燃比と非インバランス気筒の空燃比との差の大きさが「第1の値の値よりも大きい第2の値」であるときの検出空燃比abyfsは図5(B)の一点鎖線C2aのように変化する。
そのため、「空燃比センサの出力値Vabyfs又は検出空燃比abyfs」の単位時間あたりの変化量(即ち、「空燃比センサの出力値Vabyfs又は検出空燃比abyfs」の時間についての一階微分値、図5の(B)の角度α1,α2を参照。)は、気筒別空燃比差が小さいときには図5の(C)の破線C3により示したように小さく変動し、気筒別空燃比差が大きいときには図5の(C)の実線C4により示したように大きく変動する。即ち、微分値d(Vabyfs)/dt及び微分値d(abyfs)/dtは、空燃比気筒間インバランス状態の程度が大きくなる(気筒別空燃比差が大きくなる)につれてその絶対値が大きくなる。
従って、例えば、単位燃焼サイクル期間において複数個取得される「微分値d(Vabyfs)/dt又は微分値d(abyfs)/dt」の絶対値の「最大値又は平均値」は、空燃比変動指標量として採用することができる。更に、そのような空燃比変動指標量そのもの、又は、複数の単位燃焼サイクル期間についてのそのような空燃比変動指標量の平均値は、インバランス判定用パラメータとして採用され得る。
更に、図5の(D)に示したように、「空燃比センサの出力値Vabyfs又は検出空燃比abyfs」の単位時間あたりの変化量の変化量(二階微分値d2(Vabyfs)/dt2又は二階微分値d2(abyfs)/dt2」は、気筒別空燃比差が小さい場合には破線C5により示したように殆ど変動しないが、気筒別空燃比差が大きくなると実線C6により示したように大きく変動する。
従って、例えば、単位燃焼サイクル期間において複数個取得される「二階微分値d2(Vabyfs)/dt2及び二階微分値d2(abyfs)/dt2」の絶対値の「最大値又は平均値」は、空燃比変動指標量として採用することができる。更に、そのような空燃比変動指標量そのもの、又は、複数の単位燃焼サイクル期間についてのそのような空燃比変動指標量の平均値は、インバランス判定用パラメータとして採用され得る。
そして、空燃比気筒間インバランス判定装置は、上記のようにして求められるインバランス判定用パラメータが所定の閾値(インバランス判定用閾値)よりも大きいか否かを判定することにより、空燃比気筒間インバランス状態が発生しているか否かを判定する。
しかしながら、本発明者は、排ガスの空燃比が理論空燃比に非常に近い空燃比領域において変動している場合、空燃比センサの出力値Vabyfsが「その排ガスの変動に対して十分に良好な応答性をもって変化しない状態(空燃比センサの応答性が低下する状態)」が発生し、そのために空燃比変動指標量に応じて取得されるインバランス判定用パラメータが「空燃比気筒間インバランス状態の程度」を十分な精度にて表さなくなり、その結果、空燃比気筒間インバランス判定を精度良く行えない場合があるとの知見を得た。なお、上記「理論空燃比に非常に近い空燃比領域」は、理論空燃比を含む所定範囲の空燃比領域であり、「理論空燃比領域」とも称呼される。更に、上記「空燃比気筒間インバランス状態の程度」は、気筒別空燃比差、即ち、インバランス気筒の空燃比と正常気筒の空燃比との差、を意味する。
図6はこのような現象を説明するためのグラフである。図6の縦軸は、微分値d(abyfs)/dtに基いて取得されたインバランス判定用パラメータである。図6の横軸は、そのインバランス判定用パラメータ(より正確には、インバランス判定用パラメータの基礎となる空燃比変動指標量)が取得された期間において「空燃比センサが配設された部位を通過した排ガスの空燃比」の平均値である。この排ガスの空燃比の平均値は、「パラメータ取得期間平均空燃比」とも称呼される。
図6の曲線C1は気筒別空燃比差が極めて小さく、従って、空燃比気筒間インバランス状態が発生したとは判定する必要がない場合のインバランス判定用パラメータを示している。
図6の曲線C2は気筒別空燃比差が曲線C1に示した場合よりも大きいが、空燃比気筒間インバランス状態が発生したとは判定する必要がない場合のインバランス判定用パラメータを示している。
図6の曲線C3は気筒別空燃比差が曲線C2に示した場合よりも大きく且つ空燃比気筒間インバランス状態が発生したと判定する必要がある場合のインバランス判定用パラメータを示している。
図6の曲線C4は気筒別空燃比差が極めて大きく(曲線C3に示した場合よりも大きく)、従って、空燃比気筒間インバランス状態が発生したと判定する必要がある場合のインバランス判定用パラメータを示している。
図6からも明らかなように、パラメータ取得期間平均空燃比が例えば14.2〜15.0程度の「理論空燃比領域」内にあるときに得られたインバランス判定用パラメータは、パラメータ取得期間平均空燃比が「リッチ領域(空燃比が例えば14.2以下である領域)」内にあるときに得られたインバランス判定用パラメータ、及び、パラメータ取得期間平均空燃比が「リーン領域(空燃比が例えば15.0以上である領域)」内にあるときに得られたインバランス判定用パラメータ、の何れよりも小さくなる。
従って、インバランス判定用パラメータがインバランス判定用閾値(図6の線L1を参照。)よりも大きいときに空燃比気筒間インバランス状態が発生したと判定すると、空燃比気筒間インバランス状態が発生したと判定すべきときに空燃比気筒間インバランス状態が発生していないとの判定がなされ(曲線C3の理論空燃比近傍の値を参照。)、或いは、空燃比気筒間インバランス状態が発生したと判定すべきではないときに空燃比気筒間インバランス状態が発生したとの判定がなされる虞がある(曲線C2のリッチ領域又はリーン領域における値を参照。)。
なお、排ガスの空燃比が理論空燃比領域において変動している場合(パラメータ取得期間平均空燃比が理論空燃比領域内にある場合)に空燃比センサの応答性が低下するのは、排ガスの空燃比が「理論空燃比よりもリッチな空燃比」から「理論空燃比よりもリーンな空燃比」へと又はその逆へと変化した際、排ガス側電極層における反応の方向が逆の方向に変化しなければならず、その結果、固体電解質層を通過する酸素イオンの向きが逆転するためにはある程度の時間が必要だからである、と推定される。
従って、本発明の目的の一つは、空燃比気筒間インバランス判定を精度良く行うことが可能な空燃比気筒間インバランス判定装置(以下、単に「本発明装置」とも称呼する。)を提供することにある。
本発明装置は、インバランス判定用パラメータ取得する期間において、目標空燃比を「理論空燃比以外の空燃比である非理論空燃比」に設定する。これにより、空燃比センサの応答性が低下していない状態において、インバランス判定用パラメータを取得することができる。
より具体的に述べると、本発明装置の一態様は、複数の気筒を有する多気筒内燃機関に適用され、空燃比センサと、複数の燃料噴射弁と、指示燃料噴射量制御手段と、インバランス判定手段と、を備える。
前記空燃比センサは、前記複数の気筒のうちの少なくとも2以上の気筒から排出された排ガスが集合する前記機関の排気通路の排気集合部、又は、前記排気通路の前記排気集合部よりも下流側の部位、に配設される。
更に、前記空燃比センサは、固体電解質層と、同固体電解質層の一面に形成された排ガス側電極層と、同排ガス側電極層を覆うとともに前記排ガスが到達する拡散抵抗層と、同固体電解質層の他面に形成されるとともに大気室内に露呈された大気側電極層と、を有する空燃比検出部を含む。前記空燃比センサは、「前記排ガス側電極層と前記大気側電極層との間に所定の電圧が印加されることにより前記固体電解質層に流れる限界電流」に基いて前記空燃比センサが配設された部位を通過する排ガスの空燃比に応じた出力値を出力する。
前記複数の燃料噴射弁のそれぞれは、前記少なくとも2以上の気筒のそれぞれに対応して配設されるとともに同2以上の気筒のそれぞれの燃焼室に供給される混合気に含まれる燃料を噴射する。即ち、燃料噴射弁は、一つの気筒に対して一つ以上設けられている。各燃料噴射弁は、その燃料噴射弁に対応する気筒に対して燃料を噴射する。
前記指示燃料噴射量制御手段は、前記2以上の気筒の燃焼室に供給される混合気の空燃比が目標空燃比となるように前記指示燃料噴射量を制御する。この指示燃料噴射量制御手段は、前記空燃比センサの出力値により表される空燃比と前記目標空燃比とに基いて、それらが一致するように空燃比フィードバック量を算出し、その空燃比フィードバック量に基いて前記指示燃料噴射量を決定(調整・制御)する空燃比フィードバック制御手段を含んでもよい。また、指示燃料噴射量制御手段は、係る空燃比フィードバック制御手段を含むことなく、例えば、吸入空気流量と機関回転速度とから定まる筒内吸入空気量(一回の吸気行程において一つの気筒に吸入される空気量)を前記目標空燃比によって除した値を前記指示燃料噴射量として決定(制御)するフィードフォワード制御手段であってもよい。
前記インバランス判定手段は、
(1)前記空燃比センサが配設された部位を通過する排ガスの空燃比の変動が大きくなるほど大きくなるインバランス判定用パラメータを前記空燃比センサの出力値に基づいて取得し、
(2)その取得されたインバランス判定用パラメータが所定のインバランス判定用閾値よりも大きいとき空燃比気筒間インバランス状態が発生したと判定し、且つ、
(3)その取得されたインバランス判定用パラメータが同インバランス判定用閾値よりも小さいとき空燃比気筒間インバランス状態が発生していないと判定する。
前記インバランス判定用パラメータは、例えば、前述した「微分値d(Vabyfs)/dt又は微分値d(abyfs)/dt」の絶対値の所定期間(例えば、前記単位燃焼サイクル期間)における「最大値又は平均値」、「二階微分値d2(Vabyfs)/dt2又は二階微分値d2(abyfs)/dt2」の絶対値の所定期間(例えば、前記単位燃焼サイクル期間)における「最大値又は平均値」、及び、所定期間(例えば、前記単位燃焼サイクル期間)における「出力値Vabyfs又は検出空燃比abyfs」の軌跡長等、或いは、これらに基く値であってよく、これらに限定されない。
更に、前記インバランス判定手段は、
所定のインバランス判定用パラメータ取得条件が成立している期間において、前記目標空燃比を「理論空燃比以外の空燃比である非理論空燃比」に設定するとともに前記インバランス判定用パラメータを取得し、且つ、
前記インバランス判定用パラメータ取得条件が成立していない期間において、前記目標空燃比を理論空燃比に設定するように構成されている。
但し、前記インバランス判定用パラメータ取得条件が成立していない期間において、前記目標空燃比が常に理論空燃比に設定されている必要はない。換言すると、前記インバランス判定用パラメータ取得条件が成立していない期間において、例えば、始動直後又はフューエルカット制御の終了直後のような特殊な場合に前記目標空燃比は理論空燃比以外の空燃比に設定され、そのような特殊な場合を除き、前記目標空燃比は理論空燃比に設定され得る。
これによれば、インバランス判定用パラメータは、目標空燃比が非理論空燃比に設定されることにより機関の排ガスの空燃比が非理論空燃比の近傍にて変動している場合において、即ち、空燃比センサの出力値が排ガスの空燃比の変動に大きな遅れなく追従できる場合において、その空燃比センサの出力値に基いて取得される。
従って、本発明装置の一態様によれば、インバランス判定用パラメータが空燃比気筒間インバランス状態の程度(即ち、気筒別空燃比差)を精度良く表す値になるので、空燃比気筒間インバランス状態が発生しているか否かを精度良く判定することができる。
なお、インバランス判定用パラメータ取得条件は、例えば、今回の機関の始動後においてインバランス判定が一度もなされていないこと、吸入空気流量が一定値以上(又は所定範囲内)であること、機関回転速度が所定範囲内であること、冷却水温が閾値冷却水温以上であること、及び、スロットル弁開度又はアクセルペダル操作量の変化量が所定値以下となってから所定時間以上が経過していること等のうちの一つ以上の条件を含む。もちろん、インバランス判定用パラメータ取得条件はこれらに限定されない。
更に、目標空燃比に設定される非理論空燃比は、排ガスの空燃比が非理論空燃比及びその近傍の空燃比であるとき、空燃比センサの出力値が排ガスの空燃比の変動に十分追従できるような空燃比(理論空燃比から所定空燃比だけ乖離した空燃比)である。
ところで、気筒別空燃比差が非常に大きければ、排ガスの空燃比の変動は極めて大きくなる。従って、排ガスの空燃比が理論空燃比の近傍で変動していて空燃比センサの応答性が比較的低い場合であっても、その状況において得られるインバランス判定用パラメータは極めて大きな値となる(図6の曲線C4を参照。)。従って、目標空燃比が理論空燃比に設定されている状況においてインバランス判定用パラメータを取得し、そのインバランス判定用パラメータが「所定の閾値(高側閾値とも称呼される閾値。図6の線L2を参照。)」よりも大きければ、明らかに「空燃比気筒間インバランス状態が発生している」と判定することができる。
これに対し、気筒別空燃比差が非常に小さければ、排ガスの空燃比の変動は極めて小さい。従って、インバランス判定用パラメータが、排ガスの空燃比が理論空燃比の近傍で変動していて空燃比センサの応答性が比較的低い場合において得られた値であったとしても、そのインバランス判定用パラメータが極めて小さければ、明らかに「空燃比気筒間インバランス状態は発生していない」と判定することができる。換言すると、排ガスの空燃比が理論空燃比の近傍で変動している際に得られたインバランス判定用パラメータが「前記高側閾値よりも所定値だけ小さい閾値(低側閾値とも称呼される閾値。図6の線L3を参照。)」よりも小さければ、明らかに「空燃比気筒間インバランス状態は発生していない」と判定することができる(図6の曲線C1を参照。)。
従って、前記インバランス判定手段は、
(4)前記インバランス判定用パラメータ取得条件が成立している期間において前記目標空燃比を前記非理論空燃比に設定する前に前記目標空燃比を理論空燃比に維持するとともに、前記空燃比センサの出力値に基いて前記インバランス判定用パラメータを暫定パラメータとして取得し、
(5)前記取得された暫定パラメータが「所定の高側閾値」よりも大きいとき「空燃比気筒間インバランス状態が発生した」と判定し、
(6)前記取得された暫定パラメータが「前記高側閾値よりも所定値だけ小さい低側閾値」よりも小さいとき「空燃比気筒間インバランス状態は発生していない」と判定するように、構成され得る。
この場合、前記高側閾値は前記インバランス判定用閾値以上の値であり、前記低側閾値は前記インバランス判定用閾値よりも小さい値であることが好適である。
一方、排ガスの空燃比が理論空燃比の近傍で変動していて空燃比センサの応答性が比較的低い場合に得られたインバランス判定用パラメータが、上記高側閾値と上記低側閾値との間にある場合、空燃比気筒間インバランス状態が発生したか否かを明確に判定することはできない。
よって、前記インバランス判定手段は、
(7)前記取得された暫定パラメータが前記高側閾値よりも小さく且つ前記低側閾値よりも大きいとき空燃比気筒間インバランス状態が発生したか否かについての判定を保留し、
(8)前記空燃比気筒間インバランス状態が発生したか否かについての判定が保留された状態にある場合、前記インバランス判定用パラメータ取得条件が成立している期間において前記目標空燃比を前記非理論空燃比に設定するとともに、前記空燃比センサの出力値に基いて前記インバランス判定用パラメータを最終パラメータとして取得し、
(9)前記取得された最終パラメータが前記インバランス判定用閾値よりも大きいとき空燃比気筒間インバランス状態が発生したと判定し、且つ、同取得された最終パラメータが同インバランス判定用閾値よりも小さいとき空燃比気筒間インバランス状態が発生していないと判定するように構成され得る。
これによれば、空燃比センサの応答性が高い状態にてインバランス判定用パラメータ(最終パラメータ)を取得することができる。従って、暫定パラメータによっては空燃比気筒間インバランス状態が発生したか否かについて明確に判定することができない場合であっても、最終パラメータを用いることによってインバランス判定を精度良く行うことができる。
加えて、この態様の判定装置によれば、空燃比センサの応答性が比較的低い場合において得られたインバランス判定用パラメータ(暫定パラメータ)に基いて「空燃比気筒間インバランス状態が発生したか否か」について明確な判定を行うことができる場合には、目標空燃比を非理論空燃比に設定する必要がない。その結果、エミッションが悪化する頻度を低減することができる。
本発明装置において、
前記空燃比センサの前記空燃比検出部は、酸化還元反応を促進するとともに酸素吸蔵機能を有する触媒部を有し、
前記空燃比センサは、前記排気通路を通過する排ガスを前記触媒部を通して前記拡散抵抗層に到達させるように構成され得る。
例えば、リッチずれインバランス状態が発生すると、排ガスの空燃比の平均値は所定のリッチ空燃比へと変化する。この場合、総ての気筒の空燃比が一律にその所定のリッチ空燃比へと変化したときに比べ、水素を含む未燃物がより多く発生する。水素は粒子径が小さいので空燃比検出部の拡散抵抗層を他の未燃物よりも通過し易い。その結果、空燃比センサの出力値は、所定のリッチ空燃比よりも更にリッチ側の空燃比に応じた値へと移行してしまう。その結果、空燃比センサの出力値に基く空燃比フィードバック制御が正常に行われなくなる虞がある。
これに対し、空燃比センサに上記触媒部を設ければ、その触媒部において過剰な水素を酸化させることができるので、排ガス側電極層に到達する排ガスに含まれる過剰な水素を低減することができる。その結果、空燃比センサの出力値は排ガスの空燃比を精度良く表す値に近づく。
ところが、この触媒部における酸化還元反応及び酸素吸蔵機能に起因して「排ガスの空燃比の変化に対する空燃比センサの出力値の変化」が遅れる。その結果、空燃比センサの応答性は、触媒部を設けていない空燃比センサの応答性よりも低下する。特に、排ガスが理論空燃比を横切るように変動している場合、酸素吸蔵機能に起因する空燃比センサの出力値の遅れは顕著になる。従って、排ガスの空燃比が理論空燃比の近傍で変動している場合(即ち、パラメータ取得期間平均空燃比が理論空燃比に近い場合)、インバランス判定用パラメータはより一層小さくなる。それ故、このような触媒部を有する空燃比センサを備えた内燃機関において、その空燃比センサの出力値に基いて得られるインバランス判定用パラメータを用いてインバランス判定を行う場合、本発明装置はより優れた効果を奏することができる。
更に、前記空燃比センサは、前記空燃比検出部を覆うように同空燃比検出部をその内部に収容し且つ前記排気通路を通過する排ガスを同内部に流入させる流入孔及び同内部に流入した排ガスを前記排気通路に流出させる流出孔を有する保護カバーを更に備えることが多い。
この場合、前記インバランス判定用パラメータ取得手段は、
「前記空燃比センサの出力値、又は、同出力値により表される空燃比である検出空燃比」の時間についての微分値を基本指標量として取得するとともに、同取得した基本指標量に基いて前記インバランス判定用パラメータを取得するように構成されることが好適である。
空燃比センサの出力値Vabyfsは気筒別空燃比差が「0」でない限り、単位燃焼サイクル期間を一周期として変動する。従って、出力値Vabyfsの軌跡長は機関回転速度の影響を強く受ける。そのため、インバランス判定用閾値を機関回転速度に応じて精度良く設定する必要が生じる。
これに対し、空燃比センサが上記保護カバーを備えている場合、その保護カバーの内部における排ガスの流速は機関回転速度に依存せず、排気通路を流れる排ガスの流速(従って、吸入空気流量)に依存する。これは、保護カバーの流出孔近傍を流れる排ガスによって生じる負圧により、排ガスが保護カバーの流入孔から保護カバーの内部へと流入するからである。
従って、吸入空気流量が一定であれば、「前記空燃比センサの出力値の時間についての微分値d(Vabyfs)/dt、又は、前記空燃比センサの出力値により表される空燃比である検出空燃比の時間についての微分値d(abyfs)/dt」は、機関回転速度に依らず、排ガスの空燃比の変動を精度良く表す。従って、これらの微分値を基本指標量として取得するとともに、同取得した基本指標量に基いて前記インバランス判定用パラメータを取得することにより、インバランス判定用パラメータを、機関回転速度の高低に関わらず気筒別空燃比差を精度良く表す値として取得することができる。
代替として、前記インバランス判定用パラメータ取得手段は、
前記空燃比センサの出力値又は同出力値により表される空燃比である検出空燃比の時間についての二階微分値を基本指標量として取得するとともに、同取得した基本指標量に基いて前記インバランス判定用パラメータを取得するように構成されることが好適である。
前記空燃比センサの出力値又は同出力値により表される空燃比である検出空燃比の時間についての二階微分値(d2(Vabyfs)/dt2又はd2(abyfs)/dt2)は、排ガスの空燃比の平均値の緩やかな変化の影響を受け難い。従って、これらの二階微分値を基本指標量として取得するとともに、同取得した基本指標量に基いて前記インバランス判定用パラメータを取得することにより、排ガスの空燃比の中心が比較的穏やかに変化しているときであっても、インバランス判定用パラメータを「気筒別空燃比差を精度良く表す値」として取得することができる。
以下、本発明の各実施形態に係る内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置(以下、単に「判定装置」とも称呼する。)について図面を参照しながら説明する。この判定装置は、内燃機関に供給される混合気の空燃比(機関の空燃比)を制御する空燃比制御装置の一部であり、更に、燃料噴射量を制御する燃料噴射量制御装置の一部でもある。
<第1実施形態>
(構成)
図7は、第1実施形態に係る判定装置(以下、「第1判定装置」とも称呼する。)を、4サイクル・火花点火式・多気筒(直列4気筒)・内燃機関10に適用したシステムの概略構成を示している。なお、図7は、特定気筒の断面のみを示しているが、他の気筒も同様な構成を備えている。
この内燃機関10は、シリンダブロック、シリンダブロックロワーケース及びオイルパン等を含むシリンダブロック部20と、シリンダブロック部20の上に固定されるシリンダヘッド部30と、シリンダブロック部20にガソリン混合気を供給するための吸気系統40と、シリンダブロック部20からの排ガスを外部に放出するための排気系統50と、を含んでいる。
シリンダブロック部20は、シリンダ21、ピストン22、コンロッド23及びクランク軸24を含んでいる。ピストン22はシリンダ21内を往復動し、ピストン22の往復動がコンロッド23を介してクランク軸24に伝達され、これにより同クランク軸24が回転するようになっている。シリンダ21の壁面及びピストン22の上面は、シリンダヘッド部30の下面とともに燃焼室25を形成している。
シリンダヘッド部30は、燃焼室25に連通した吸気ポート31、吸気ポート31を開閉する吸気弁32、吸気弁32を駆動するインテークカムシャフトを含むとともに同インテークカムシャフトの位相角を連続的に変更する可変吸気タイミング制御装置33、可変吸気タイミング制御装置33のアクチュエータ33a、燃焼室25に連通した排気ポート34、排気ポート34を開閉する排気弁35、排気弁35を駆動するエキゾーストカムシャフトを含むとともに同エキゾーストカムシャフトの位相角を連続的に変更する可変排気タイミング制御装置36、可変排気タイミング制御装置36のアクチュエータ36a、点火プラグ37、点火プラグ37に与える高電圧を発生するイグニッションコイルを含むイグナイタ38及び燃料噴射弁(燃料噴射手段、燃料供給手段)39を備えている。
燃料噴射弁39は、一つの燃焼室25に対して一つずつ配設されている。燃料噴射弁39は吸気ポート31に設けられている。燃料噴射弁39は、噴射指示信号に応答し、正常である場合に「その噴射指示信号に含まれる指示燃料噴射量の燃料」を対応する吸気ポート31内に噴射するようになっている。このように、複数の気筒のそれぞれは、他の気筒とは独立して燃料供給を行う燃料噴射弁39を備えている。
吸気系統40は、インテークマニホールド41、吸気管42、エアフィルタ43、及び、スロットル弁44を備えている。
インテークマニホールド41は、図1に示したように、複数の枝部41aとサージタンク41bとからなる。複数の枝部41aのそれぞれの一端は、図7に示したように、複数の吸気ポート31のそれぞれに接続されている。複数の枝部41aの他端はサージタンク41bに接続されている。吸気管42の一端はサージタンク41bに接続されている。エアフィルタ43は吸気管42の他端に配設されている。スロットル弁44は、吸気管42内にあって吸気通路の開口断面積を可変とするようになっている。スロットル弁44は、DCモータからなるスロットル弁アクチュエータ44a(スロットル弁駆動手段の一部)により吸気管42内で回転駆動されるようになっている。
排気系統50は、エキゾーストマニホールド51、エキゾーストパイプ52、エキゾーストパイプ52に配設された上流側触媒53、及び、上流側触媒53よりも下流のエキゾーストパイプ52に配設された図示しない下流側触媒を備えている。
エキゾーストマニホールド51は、図1に示したように、それぞれの一端が排気ポートに接続された複数の枝部51aと、その複数の枝部51aのそれぞれの他端であって総ての枝部51aが集合している集合部51bとを備えている。この集合部51bは、複数(2以上であり、本例では4つ)の気筒から排出された排ガスが集合するから、排気集合部HKとも称呼される。エキゾーストパイプ52は集合部51bに接続されている。図7に示したように、排気ポート34、エキゾーストマニホールド51及びエキゾーストパイプ52は、排気通路を構成している。
上流側触媒53及び下流側触媒のそれぞれは、所謂、白金、ロジウム及びパラジウム等の貴金属(触媒物質)からなる活性成分を担持する三元触媒装置(排気浄化触媒)である。各触媒は、各触媒に流入するガスの空燃比が理論空燃比であるとき、HC,CO,H2などの未燃成分を酸化するとともに窒素酸化物(NOx)を還元する機能を有する。この機能は触媒機能とも称呼される。更に、各触媒は、酸素を吸蔵(貯蔵)する酸素吸蔵機能を有し、この酸素吸蔵機能により空燃比が理論空燃比から偏移したとしても未燃成分及び窒素酸化物を浄化することができる。この酸素吸蔵機能は、触媒に担持されているセリア(CeO2)等の酸素吸蔵材によってもたらされる。
図7に示したように、このシステムは、熱線式エアフローメータ61、スロットルポジションセンサ62、水温センサ63、クランクポジションセンサ64、インテークカムポジションセンサ65、エキゾーストカムポジションセンサ66、上流側空燃比センサ67、下流側空燃比センサ68、及び、アクセル開度センサ69を備えている。
エアフローメータ61は、吸気管42内を流れる吸入空気の質量流量(吸入空気流量)Gaに応じた信号を出力するようになっている。即ち、吸入空気流量Gaは、単位時間あたりに機関10に吸入される空気量を表す。
スロットルポジションセンサ62は、スロットル弁44の開度(スロットル弁開度)を検出し、スロットル弁開度TAを表す信号を出力するようになっている。
水温センサ63は、内燃機関10の冷却水の温度を検出し、冷却水温THWを表す信号を出力するようになっている。
クランクポジションセンサ64は、クランク軸24が10°回転する毎に幅狭のパルスを有するとともに同クランク軸24が360°回転する毎に幅広のパルスを有する信号を出力するようになっている。この信号は、後述する電気制御装置70によって機関回転速度NEに変換される。
インテークカムポジションセンサ65は、インテークカムシャフトが所定角度から90度、次いで90度、更に180度回転する毎に一つのパルスを出力するようになっている。後述する電気制御装置70は、クランクポジションセンサ64及びインテークカムポジションセンサ65からの信号に基づいて、基準気筒(例えば第1気筒)の圧縮上死点を基準とした絶対クランク角CAを取得するようになっている。この絶対クランク角CAは、基準気筒の圧縮上死点において「0°クランク角」に設定され、クランク角の回転角度に応じて720°クランク角まで増大し、その時点にて再び0°クランク角に設定される。
エキゾーストカムポジションセンサ66は、エキゾーストカムシャフトが所定角度から90度、次いで90度、更に180度回転する毎に一つのパルスを出力するようになっている。
上流側空燃比センサ67(本発明における空燃比センサ)は、図1にも示したように、エキゾーストマニホールド51の集合部51b(排気集合部HK)と上流側触媒53との間の位置において「エキゾーストマニホールド51及びエキゾーストパイプ52の何れか(即ち、排気通路)」に配設されている。上流側空燃比センサ67は、例えば、特開平11−72473号公報、特開2000−65782号公報及び特開2004−69547号公報等に開示された「拡散抵抗層を備える限界電流式広域空燃比センサ」である。
上流側空燃比センサ67は、図8及び図9に示したように、空燃比検出部67aと、外側保護カバー67bと、内側保護カバー67cと、を有している。
外側保護カバー67bは金属からなる中空円筒体である。外側保護カバー67bは内側保護カバー67cを覆うように、内側保護カバー67cを内部に収容している。外側保護カバー67bは、流入孔67b1をその側面に複数備えている。流入孔67b1は、排気通路を流れる排ガス(外側保護カバー67bの外部の排ガス)EXを外側保護カバー67bの内部に流入させるための貫通孔である。更に、外側保護カバー67bは、外側保護カバー67bの内部の排ガスを外部(排気通路)に流出させるための流出孔67b2をその底面に有している。
内側保護カバー67cは、金属からなり、外側保護カバー67bの直径よりも小さい直径を有する中空円筒体である。内側保護カバー67cは、空燃比検出部67aを覆うように空燃比検出部67aを内部に収容している。内側保護カバー67cは流入孔67c1をその側面に複数備えている。この流入孔67c1は、外側保護カバー67bの流入孔67b1を通して「外側保護カバー67bと内側保護カバー67cとの間の空間」に流入した排ガスを、内側保護カバー67cの内部に流入させるための貫通孔である。更に、内側保護カバー67cは、内側保護カバー67cの内部の排ガスを外部に流出させるための流出孔67c2をその底面に有している。
図2の(A)〜(C)に示したように、空燃比検出部67aは、固体電解質層671と、排ガス側電極層672と、大気側電極層673と、拡散抵抗層674と、第一壁部675と、触媒部676と、第二壁部677と、を含んでいる。
固体電解質層671は酸素イオン導電性酸化物焼結体である。本例において、固体電解質層671は、ZrO2(ジルコニア)にCaOを安定剤として固溶させた「安定化ジルコニア素子」である。固体電解質層671は、その温度が活性温度以上であるとき、周知の「酸素電池特性」及び「酸素ポンプ特性」を発揮する。
排ガス側電極層672は、白金(Pt)等の触媒活性の高い貴金属からなる。排ガス側電極層672は、固体電解質層671の一つの面上に形成されている。排ガス側電極層672は、化学メッキ等により浸透性を十分に有するように(即ち、多孔質状に)形成されている。
大気側電極層673は、白金(Pt)等の触媒活性の高い貴金属からなる。大気側電極層673は、固体電解質層671の他の面上であって、固体電解質層671を挟んで排ガス側電極層672に対向するように形成されている。大気側電極層673は、化学メッキ等により浸透性を十分に有するように(即ち、多孔質状に)形成されている。
拡散抵抗層(拡散律速層)674は、多孔質セラミック(耐熱性無機物質)からなる。拡散抵抗層674は、排ガス側電極層672の外側表面を覆うように、例えば、プラズマ溶射法等により形成されている。
第一壁部675は、緻密であってガスを透過させないアルミナセラミックスからなる。第一壁部675は拡散抵抗層674の角部(一部)を除いて拡散抵抗層674を覆うように形成されている。即ち、第一壁部675は拡散抵抗層674の一部を外部に露呈させる貫通部を備えている。
触媒部676は、第一壁部675の貫通部を閉じるように貫通部に形成されている。触媒部676は、上流側触媒53と同様、酸化還元反応を促進する触媒物質及び酸素吸蔵機能を発揮する酸素吸蔵材を含んでいる。触媒部676は多孔質体である。従って、図2の(B)及び図2の(C)に白抜きの矢印により示したように、排ガス(前述した内側保護カバー67cの内部に流入した排ガス)は、触媒部676を通過して拡散抵抗層674に到達し、その排ガスは更に拡散抵抗層674を通過して排ガス側電極層672に到達する。
第二壁部677は、緻密であってガスを透過させないアルミナセラミックスからなる。第二壁部677は大気側電極層673を収容する空間である「大気室678」を形成するように構成されている。大気室678には大気が導入されている。
上流側空燃比センサ67には電源679が接続されている。電源679は、大気側電極層673側が高電位となり、排ガス側電極層672が低電位となるように、電圧V(=Vp)を印加する。
このような構造を有する上流側空燃比センサ67は、図2の(B)に示したように、排ガスの空燃比が理論空燃比よりもリーン側の空燃比であるとき、拡散抵抗層674を通って排ガス側電極層672に到達した酸素をイオン化して大気側電極層673へと通過させる。この結果、電源679の正極から負極へと電流Iが流れる。この電流Iの大きさは、図3に示したように、電圧Vを所定値Vp以上に設定すると、排ガス側電極層672に到達した酸素の濃度(酸素分圧、排ガスの空燃比)に比例した一定値となる。上流側空燃比センサ67は、この電流(即ち、限界電流Ip)を電圧に変換した値を出力値Vabyfsとして出力する。
これに対し、図2の(C)に示したように、排ガスの空燃比が理論空燃比よりもリッチ側の空燃比であるとき、上流側空燃比センサ67は、大気室678に存在する酸素をイオン化して排ガス側電極層672へと導き、拡散抵抗層674を通って排ガス側電極層672に到達する未燃物(HC,CO及びH2等)を酸化する。この結果、電源679の負極から正極へと電流Iが流れる。この電流Iの大きさも、図3に示したように、電圧Vを所定値Vp以上に設定すると、排ガス側電極層672に到達した未燃物の濃度(即ち、排ガスの空燃比)に比例した一定値となる。上流側空燃比センサ67は、この電流(即ち、限界電流Ip)を電圧に変換した値を出力値Vabyfsとして出力する。
即ち、空燃比検出部67aは、図4に示したように、上流側空燃比センサ67の配設位置を流れ、且つ、外側保護カバー67bの流入孔67b1及び内側保護カバー67cの流入孔67c1を通って空燃比検出部67aに到達しているガスの空燃比(上流側空燃比abyfs、検出空燃比abyfs)に応じた出力値Vabyfsを「空燃比センサ出力」として出力する。出力値Vabyfsは、空燃比検出部67aに到達しているガスの空燃比が大きくなるほど(リーンとなるほど)増大する。即ち、出力値Vabyfsは、空燃比検出部67aに到達している排ガスの空燃比に実質的に比例する。なお、出力値Vabyfsは、検出空燃比abyfsが理論空燃比であるとき、理論空燃比相当値Vstoichに一致する。
電気制御装置70は、図4に示した空燃比変換テーブル(マップ)Mapabyfsを記憶していて、空燃比センサ67の出力値Vabyfsを空燃比変換テーブルMapabyfsに適用することにより、実際の上流側空燃比abyfsを検出する(即ち、検出空燃比abyfsを取得する)。
ところで、上流側空燃比センサ67は、エキゾーストマニホールド51の排気集合部HKと上流側触媒53との間の位置においてエキゾーストマニホールド51及びエキゾーストパイプ52の何れかに外側保護カバー67bが露呈するように配設される。
より具体的には、空燃比センサ67は、図8及び図9に示したように、保護カバー(67b、67c)の底面が排ガスEXの流れと平行であり、保護カバー(67b、67c)の中心軸線CCが排ガスEXの流れと直交するように排気通路内に配設される。これにより、外側保護カバー67bの流入孔67b1に到達した排気通路内の排ガスEXは、外側保護カバー67bの流出孔67b2近傍を流れる排気通路内の排ガスEXの流れにより、外側保護カバー67b及び内側保護カバー67cの内部へと吸い込まれる。
従って、排気通路を流れる排ガスEXは、図8及び図9において矢印Ar1により示したように外側の保護カバー67bの流入孔67b1を通って外側の保護カバー67bと内側の保護カバー67cとの間に流入する。次いで、その排ガスは、矢印Ar2に示したように「内側の保護カバー67cの流入孔67c1」を通って「内側の保護カバー67cの内部」に流入した後に、空燃比検出部67aに到達する。その後、その排ガスは、矢印Ar3に示したように「内側の保護カバー67cの流出孔67c2及び外側の保護カバー67bの流出孔67b2」を通って排気通路に流出する。
このため、「外側保護カバー67b及び内側保護カバー67c」の内部における排ガスの流速は、外側保護カバー67bの流出孔67b2近傍を流れる排ガスEXの流速(従って、単位時間あたりの吸入空気量である吸入空気流量Ga)に応じて変化する。換言すると、「ある空燃比の排ガス(第1排ガス)が流入孔67b1に到達した時点」から「その第1排ガスが空燃比検出部67aに到達する時点」までの時間は、吸入空気流量Gaに依存するが機関回転速度NEには依存しない。従って、空燃比センサ67の「排気通路を流れる排ガスの空燃比」に対する出力応答性(応答性)は、空燃比センサ67の外側保護カバー67bの近傍を流れる排ガスの流量(流速)が大きいほど良好になる。このことは、上流側空燃比センサ67が内側保護カバー67cのみを有する場合にも成立する。
再び、図7を参照すると、下流側空燃比センサ68は、エキゾーストパイプ52であって上流側触媒53よりも下流側であり且つ下流側触媒よりも上流側(即ち、上流側触媒53と下流側触媒との間の排気通路)に配設されている。下流側空燃比センサ68は、周知の起電力式の酸素濃度センサ(安定化ジルコニアを用いた周知の濃淡電池型の酸素濃度センサ)である。下流側空燃比センサ68は、排気通路であって下流側空燃比センサ68が配設されている部位を通過するガスである被検出ガスの空燃比(即ち、上流側触媒53から流出し且つ下流側触媒に流入するガスの空燃比、従って、機関に供給される混合気の空燃比の時間的平均値)に応じた出力値Voxsを発生するようになっている。
この出力値Voxsは、図10に示したように、被検出ガスの空燃比が理論空燃比よりもリッチのとき最大出力値max(例えば、約0.9V)となり、被検出ガスの空燃比が理論空燃比よりもリーンのとき最小出力値min(例えば、約0.1V)となり、被検出ガスの空燃比が理論空燃比であるとき最大出力値maxと最小出力値minの略中間の電圧Vst(中間電圧Vst、例えば、約0.5V)となる。更に、この出力値Voxsは、被検出ガスの空燃比が理論空燃比よりもリッチな空燃比からリーンな空燃比へと変化する際に最大出力値maxから最小出力値minへと急変し、被検出ガスの空燃比が理論空燃比よりもリーンな空燃比からリッチな空燃比へと変化する際に最小出力値minから最大出力値maxへと急変する。
図7に示したアクセル開度センサ69は、運転者によって操作されるアクセルペダル81の操作量Accp(アクセルペダル操作量Accp)を表す信号を出力するようになっている。アクセルペダル操作量Accpは、アクセルペダル81の開度(アクセルペダル操作量)が大きくなるとともに大きくなる。
電気制御装置70は、互いにバスで接続された「CPU71、CPU71が実行するプログラム、テーブル(マップ、関数)及び定数等を予め記憶したROM72、CPU71が必要に応じてデータを一時的に格納するRAM73、及び、バックアップRAM74並びにADコンバータを含むインターフェース75等」からなる周知のマイクロコンピュータである。
バックアップRAM74は、機関10を搭載した車両の図示しないイグニッション・キー・スイッチの位置(オフ位置、始動位置及びオン位置等の何れか)に関わらず、車両に搭載されたバッテリから電力の供給を受けるようになっている。バックアップRAM74は、バッテリから電力の供給を受けている場合、CPU71の指示に応じてデータを格納する(データが書き込まれる)とともに、そのデータを読み出し可能となるように保持(記憶)する。バックアップRAM74は、バッテリが車両から取り外される等によりバッテリからの電力供給が遮断されると、データを保持することができない。そこで、CPU71は、バックアップRAM74への電力供給が再開されたとき、バックアップRAM74に保持されるべきデータを初期化(デフォルト値に設定)するようになっている。
インターフェース75は、センサ61〜69と接続され、CPU71にそれらのセンサからの信号を供給するようになっている。更に、インターフェース75は、CPU71の指示に応じて可変吸気タイミング制御装置33のアクチュエータ33a、可変排気タイミング制御装置36のアクチュエータ36a、各気筒のイグナイタ38、各気筒に対応して設けられた燃料噴射弁39、及び、スロットル弁アクチュエータ44a等に駆動信号(指示信号)を送出するようになっている。
なお、電気制御装置70は、取得されたアクセルペダルの操作量Accpが大きくなるほどスロットル弁開度TAが大きくなるように、スロットル弁アクチュエータ44aに指示信号を送出するようになっている。即ち、電気制御装置70は、運転者により変更される機関10の加速操作量(アクセルペダル操作量Accp)に応じて「機関10の吸気通路に配設されたスロットル弁44」の開度を変更するスロットル弁駆動手段を備えている。
(空燃比気筒間インバランス判定の概要)
次に、第1判定装置が採用した空燃比気筒間インバランス判定方法の概要について説明する。空燃比気筒間インバランス判定は、燃料噴射弁39の特性が変化すること等に起因して気筒間における空燃比の不均一性が警告必要値以上となったか否かを判定するための判定である。換言すると、第1判定装置は、インバランス気筒の空燃比と非インバランス気筒の空燃比との差の大きさ(気筒別空燃比差)が「エミッション上許容できない程度」以上となっている場合、空燃比気筒間インバランス状態が発生したと判定する。
第1判定装置は、空燃比気筒間インバランス判定を行うために、「空燃比センサ67の出力値Vabyfsにより表される空燃比(即ち、出力値Vabyfsを図4に示した空燃比変換テーブルMapabyfsに適用することにより得られる検出空燃比abyfs)」の「単位時間(一定のサンプリング時間ts)当たりの変化量」を取得する。この「検出空燃比abyfsの単位時間当たりの変化量」は、その単位時間が例えば4m秒程度の極めて短い時間であるとき、検出空燃比abyfsの時間微分値d(abyfs)/dtであると言うこともできる。従って、「検出空燃比abyfsの単位時間当たりの変化量」は「検出空燃比変化率ΔAF」とも称呼される。
空燃比センサ67には、各気筒からの排ガスが点火順(故に、排気順)に到達する。空燃比気筒間インバランス状態が発生していない場合、各気筒から排出され且つ空燃比センサ67に到達する排ガスの空燃比は互いに略同一である。従って、空燃比気筒間インバランス状態が発生していない場合の検出空燃比abyfsは、例えば、図5の(B)において破線C1により示したように変化する。即ち、空燃比気筒間インバランス状態が発生していない場合、空燃比センサ67の出力値Vabyfsの波形は略平坦である。このため、図5の(C)において破線C3により示したように、空燃比気筒間インバランス状態が発生していない場合、検出空燃比変化率ΔAFの絶対値は小さい。
一方、「特定気筒(例えば、第1気筒)に対して燃料を噴射する燃料噴射弁39」の特性が「指示燃料噴射量よりも多いか又は少ない燃料を噴射する特性」となって空燃比気筒間インバランス状態が発生すると、その特定気筒の排ガスの空燃比(インバランス気筒の空燃比)と、その特定気筒以外の気筒の排ガスの空燃比(非インバランス気筒の空燃比)と、は大きく相違する。
従って、空燃比気筒間インバランス状態が発生している場合の検出空燃比abyfsは、例えば図5の(B)の実線C2により示したように、単位燃焼サイクル期間毎に大きく変動する。このため、図5の(C)において実線C4により示したように、空燃比気筒間インバランス状態が発生している場合、検出空燃比変化率ΔAFの絶対値は大きくなる。なお、4気筒・4サイクル・エンジンの場合における単位燃焼サイクル期間は、720°クランク角が経過する期間、即ち、一つの空燃比センサ67に到達する排ガスを排出している総ての気筒である第1〜第4気筒において各一回の燃焼行程が終了するのに要するクランク角が経過する期間である。
しかも、検出空燃比変化率ΔAFの絶対値|ΔAF|は、インバランス気筒の空燃比が非インバランス気筒の空燃比から乖離するほど大きく変動する。例えば、インバランス気筒の空燃比と非インバランス気筒の空燃比との差の大きさが第1の値であるときの検出空燃比abyfsが図5(B)の実線C2のように変化するとすれば、インバランス気筒の空燃比と非インバランス気筒の空燃比との差の大きさが「第1の値の値よりも大きい第2の値」であるときの検出空燃比abyfsは図5(B)の一点鎖線C2aのように変化する。従って、検出空燃比変化率ΔAFの絶対値は、インバランス気筒の空燃比が非インバランス気筒の空燃比から乖離するほど大きくなる。
そこで、第1判定装置は、一つの単位燃焼サイクル期間においてサンプリング時間tsが経過する毎に、検出空燃比変化率ΔAF(一階微分値d(abyfs)/dt)を基本指標量として取得する。第1判定装置は、一つの単位燃焼サイクル期間において取得された複数の検出空燃比変化率ΔAFの絶対値|ΔAF|の平均値を求める。そして、第1判定装置は、複数の単位燃焼サイクル期間のそれぞれに対して求めた「検出空燃比変化率ΔAFの絶対値|ΔAF|の平均値」の平均値を求め、その値を空燃比変動指標量AFDとして採用するとともに、その空燃比変動指標量AFDをインバランス判定用パラメータXとして採用する。但し、インバランス判定用パラメータXはこれに限定されることはなく、後述する種々の方法により取得され得る。
但し、第1判定装置は、空燃比変動指標量AFD(インバランス判定用パラメータX)の基本となるデータである検出空燃比変化率ΔAFを求める期間において、機関の空燃比の目標値である目標空燃比abyfrを「理論空燃比以外の空燃比である目標リッチ空燃比AFrich」に設定する。この目標リッチ空燃比AFrichは、理論空燃比(例えば、14.6)よりもリッチ側の空燃比である。即ち、目標リッチ空燃比AFrichは、理論空燃比よりも正の所定量だけ小さい空燃比であり、例えば、14.0である。目標リッチ空燃比AFrichは「目標空燃比abyfrとして設定される非理論空燃比」の一つである。なお、第1判定装置は、非理論空燃比として「理論空燃比よりもリーン側の目標リーン空燃比AFlean(理論空燃比よりも正の所定量だけ大きい空燃比であり、例えば、15.2)」を採用してもよい。
このように、目標空燃比abyfrが目標リッチ空燃比AFrichに設定されると、機関の空燃比は目標リッチ空燃比AFrichの近傍において変動する。従って、空燃比センサ67の排ガス側電極層672において酸化反応が継続する。換言すると、排ガス側電極層672における反応は、目標空燃比abyfrが理論空燃比に設定されているときのように「酸化反応から還元反応へ又はその逆へ」と頻繁に変化しない。そのため、空燃比センサ67の応答性は良好である。この結果、第1判定装置は、空燃比センサの応答性が低下しない状態においてインバランス判定用パラメータXを取得することができる。よって、第1判定装置により取得されるインバランス判定用パラメータXは「空燃比気筒間インバランス状態の程度(気筒別空燃比差)」を精度よく表す。
第1判定装置は、インバランス判定用パラメータXを取得すると、そのインバランス判定用パラメータXとインバランス判定用閾値Xthとを比較する。第1判定装置は、インバランス判定用パラメータXがインバランス判定用閾値Xthよりも大きいとき、空燃比気筒間インバランス状態が発生したと判定する。これに対し、第1判定装置は、インバランス判定用パラメータXがインバランス判定用閾値Xthよりも小さいとき、空燃比気筒間インバランス状態が発生していないと判定する。以上が、第1判定装置が採用した空燃比気筒間インバランス判定の原理である。
(実際の作動)
<燃料噴射量制御>
第1判定装置のCPU71は、図11に示した「指示燃料噴射量Fiの計算及び燃料噴射の指示を行うルーチン」を、任意の気筒のクランク角が吸気上死点前の所定クランク角度(例えば、BTDC90°CA)となる毎に、その気筒(以下、「燃料噴射気筒」とも称呼する。)に対して繰り返し実行するようになっている。従って、所定のタイミングになると、CPU71はステップ1100から処理を開始し、ステップ1110にてフューエルカット条件(以下、「FC条件」と表記する。)が成立しているか否かを判定する。
いま、FC条件が成立してないと仮定する。この場合、CPU71は、ステップ1110にて「No」と判定してステップ1120に進み、「エアフローメータ61により計測された吸入空気流量Ga、クランクポジションセンサ64の信号に基いて取得された機関回転速度NE、及び、ルックアップテーブルMapMc」に基いて「燃料噴射気筒に吸入される空気量」である「筒内吸入空気量Mc(k)」を取得する。筒内吸入空気量Mc(k)は、各吸気行程に対応されながらRAM内に記憶される。筒内吸入空気量Mc(k)は、周知の空気モデル(吸気通路における空気の挙動を模した物理法則に従って構築されたモデル)により算出されてもよい。
次に、CPU71は強制空燃比移行フラグXyoseの値が「0」であるか否かを判定する。この強制空燃比移行フラグXyoseの値は、イニシャルルーチンにおいて「0」に設定される。イニシャルルーチンは、機関10が搭載された車両のイグニッション・キー・スイッチがオフからオンに変更されたときにCPU71により実行されるルーチンである。強制空燃比移行フラグXyoseの値は、後述する図14に示したルーチンにおいて所定の条件が成立したと判定されたとき(強制空燃比移行制御を実行すべきであると判定されたとき)に「1」に設定される。
ここで、強制空燃比移行フラグXyoseの値は「0」であると仮定する。この場合、CPU71はステップ1130にて「Yes」と判定し、以下に述べるステップ1140乃至ステップ1170の処理を順に行う。その後、CPU71は、ステップ1195に進んで本ルーチンを一旦終了する。
ステップ1140:CPU71は、目標空燃比abyfr(上流側目標空燃比abyfr)を理論空燃比stoich(例えば、14.6)に設定する。
ステップ1150:CPU71は、筒内吸入空気量Mc(k)を目標空燃比abyfrで除することにより基本燃料噴射量Fbaseを求める。従って、基本燃料噴射量Fbaseは、目標空燃比abyfrを得るために必要な燃料噴射量のフィードフォワード量である。このステップ1150は、機関に供給される混合気の空燃比を目標空燃比abyfrに一致させるためのフィードフォワード制御手段(空燃比制御手段)を構成している。
ステップ1160:CPU71は、基本燃料噴射量Fbaseをメインフィードバック量DFiにより補正する。より具体的には、CPU71は、基本燃料噴射量Fbaseにメインフィードバック量DFiを加えることにより、指示燃料噴射量(最終燃料噴射量)Fiを算出する。メインフィードバック量DFiは、機関の空燃比を目標空燃比abyfrに一致させるための空燃比フィードバック量である。メインフィードバック量DFiの算出方法については後述する。
ステップ1170:CPU71は、「指示燃料噴射量Fiの燃料」を「燃料噴射気筒に対応して設けられている燃料噴射弁39」から噴射させるための噴射指示信号を、その燃料噴射弁39に送出する。
この結果、機関の空燃比を理論空燃比に一致させるために必要な量の燃料が燃料噴射気筒の燃料噴射弁39から噴射させられる。即ち、ステップ1150乃至ステップ1170は、「空燃比センサ67に到達する排ガスを排出している2以上の気筒(本例においては総ての気筒)の燃焼室25に供給される混合気の空燃比」が目標空燃比abyfrとなるように指示燃料噴射量Fiを制御する指示燃料噴射量制御手段を構成している。
一方、CPU71がステップ1130の処理を行う時点において、強制空燃比移行フラグXyoseの値が「1」であるとき、CPU71はそのステップ1130にて「No」と判定してステップ1180に進み、目標空燃比abyfrを前述した目標リッチ空燃比AFrichに設定する。目標リッチ空燃比AFrichは、例えば、14.0であり、上述した「非理論空燃比」の一つである。
なお、ステップ1180において、CPU71は、目標空燃比abyfrを理論空燃比よりもリーン側の目標リーン空燃比AFlean(理論空燃比よりも正の所定量だけ大きい空燃比であり、例えば、15.2)に設定してもよい。目標リーン空燃比AFleanは、上述した「非理論空燃比」の他の一つである。
その後、CPU71は上述したステップ1150乃至ステップ1170の処理を実行する。この結果、燃料噴射弁39の特性が正常であるとき、機関の空燃比を「目標リッチ空燃比AFrich(又は目標リーン空燃比AFlean)である非理論空燃比」に一致させるために必要な量(指示燃料噴射量Fi)の燃料が、燃料噴射気筒の燃料噴射弁39から噴射させられる。
なお、CPU71がステップ1110の処理を実行する時点において、FC条件が成立していると、CPU71はそのステップ1110にて「Yes」と判定し、ステップ1195に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。この場合、ステップ1170の処理による燃料噴射が実行されないので、フューエルカット制御(燃料供給停止制御)が実行される。
<メインフィードバック量の算出>
CPU71は図12にフローチャートにより示した「メインフィードバック量算出ルーチン」を所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU71はステップ1200から処理を開始し、ステップ1205に進んで「メインフィードバック制御条件(上流側空燃比フィードバック制御条件)」が成立しているか否かを判定する。
メインフィードバック制御条件は以下の総ての条件が成立したときに成立する。
(A1)空燃比センサ67が活性化している。
(A2)機関の負荷(負荷率)KLが閾値KLth以下である。
(A3)フューエルカット制御中でない。
なお、負荷率KLは、ここでは下記の(1)式により求められる。この負荷率KLに代え、アクセルペダル操作量Accpが用いられても良い。(1)式において、Mcは筒内吸入空気量であり、ρは空気密度(単位は(g/l))、Lは機関10の排気量(単位は(l))、「4」は機関10の気筒数である。
KL=(Mc/(ρ・L/4))・100% …(1)
いま、メインフィードバック制御条件が成立しているものとして説明を続ける。この場合、CPU71はステップ1205にて「Yes」と判定して以下に述べるステップ1210乃至ステップ1240の処理を順に行い、ステップ1295に進んで本ルーチンを一旦終了する。
ステップ1210:CPU71は、下記(2)式に従ってフィードバック制御用出力値Vabyfcを取得する。(2)式において、Vabyfsは空燃比センサ67の出力値、Vafsfbは下流側空燃比センサ68の出力値Voxsに基づいて算出されるサブフィードバック量である。サブフィードバック量Vafsfbの算出方法は周知である。サブフィードバック量Vafsfbは、例えば、下流側空燃比センサ68の出力値Voxsが理論空燃比に相当する値Vstよりもリッチ側の空燃比を示す値であるとき減少させられ、下流側空燃比センサ68の出力値Voxsが理論空燃比に相当する値Vstよりもリーン側の空燃比を示す値であるとき増大させられる。第1判定装置は、サブフィードバック量Vafsfbを「0」に設定することにより、サブフィードバック制御を実行しなくてもよい。
Vabyfc=Vabyfs+Vafsfb …(2)
ステップ1215:CPU71は、下記(3)式に示したように、上記フィードバック制御用出力値Vabyfcを図4に示したテーブルMapabyfsに適用することにより、フィードバック制御用空燃比abyfscを得る。
abyfsc=Mapabyfs(Vabyfc) …(3)
ステップ1220:CPU71は、下記(4)式に従って、「現時点よりもNサイクル前の時点において燃焼室25に実際に供給された燃料の量」である「筒内燃料供給量Fc(k−N)」を求める。即ち、CPU71は、「現時点よりもNサイクル(即ち、N・720°クランク角)前の時点における筒内吸入空気量Mc(k−N)」を「上記フィードバック制御用空燃比abyfsc」により除すことにより、筒内燃料供給量Fc(k−N)を求める。
Fc(k−N)=Mc(k−N)/abyfsc …(4)
このように、筒内燃料供給量Fc(k−N)を求めるために、現時点からNストローク前の筒内吸入空気量Mc(k−N)をフィードバック制御用空燃比abyfscで除すのは、「燃焼室25内での混合気の燃焼により生成された排ガス」が空燃比センサ67に到達するまでに「Nストロークに相当する時間」を要しているからである。
ステップ1225:CPU71は、下記(5)式に従って、「現時点よりもNサイクル前の時点において燃焼室25に供給されるべきであった燃料の量」である「目標筒内燃料供給量Fcr(k−N)」を求める。即ち、CPU71は、現時点からNストローク前の筒内吸入空気量Mc(k−N)を目標空燃比abyfr(=stoich又はAFrich)で除すことにより、目標筒内燃料供給量Fcr(k−N)を求める。
Fcr=Mc(k−N)/abyfr …(5)
ステップ1230:CPU71は、上記(6)式に従って、筒内燃料供給量偏差DFcを取得する。即ち、CPU71は、目標筒内燃料供給量Fcr(k−N)から筒内燃料供給量Fc(k−N)を減じることにより、筒内燃料供給量偏差DFcを求める。この筒内燃料供給量偏差DFcは、Nストローク前の時点で筒内に供給された燃料の過不足分を表す量となる。
DFc=Fcr(k−N)−Fc(k−N) …(6)
ステップ1235:CPU71は、上記(7)式に従って、メインフィードバック量DFiを求める。この(7)式において、Gpは予め設定された比例ゲイン、Giは予め設定された積分ゲインである。更に、(7)式の「値SDFc」は「筒内燃料供給量偏差DFcの積分値」である。つまり、CPU71は、フィードバック制御用空燃比abyfscを目標空燃比abyfrに一致させるための比例積分制御により「メインフィードバック量DFi」を算出する。
DFi=Gp・DFc+Gi・SDFc …(7)
ステップ1240:CPU71は、その時点における筒内燃料供給量偏差DFcの積分値SDFcに上記ステップ1230にて求められた筒内燃料供給量偏差DFcを加えることにより、新たな筒内燃料供給量偏差の積分値SDFcを取得する。
以上により、メインフィードバック量DFiが比例積分制御により求められ、このメインフィードバック量DFiが前述した図11のステップ1160の処理により指示燃料噴射量Fiに反映される。
一方、図12のステップ1205の判定時において、メインフィードバック制御条件が不成立であると、CPU71はそのステップ1205にて「No」と判定してステップ1245に進み、メインフィードバック量DFiの値を「0」に設定する。次いで、CPU71は、ステップ1250にて筒内燃料供給量偏差の積分値SDFcに「0」を格納する。その後、CPU71は、ステップ1295に進んで本ルーチンを一旦終了する。このように、メインフィードバック制御条件が不成立であるとき、メインフィードバック量DFiは「0」に設定される。従って、基本燃料噴射量Fbaseのメインフィードバック量DFiによる補正は行わない。
<空燃比気筒間インバランス判定>
次に、「空燃比気筒間インバランス判定」を実行するための処理について説明する。CPU71は、4ms(所定の一定サンプリング時間ts)が経過する毎に、図13にフローチャートにより示した「空燃比気筒間インバランス判定ルーチン」を実行するようになっている。
従って、所定のタイミングになると、CPU71はステップ1300から処理を開始してステップ1305に進み、パラメータ取得許可フラグXkyokaの値が「1」であるか否かを判定する。
このパラメータ取得許可フラグXkyokaの値は、絶対クランク角CAが0°クランク角になった時点において「インバランス判定用パラメータ取得条件」が成立しているときに「1」に設定され、インバランス判定用パラメータ取得条件が不成立になった時点において直ちに「0」に設定される。インバランス判定用パラメータ取得条件は、単に「パラメータ取得許可条件」とも称呼される。
パラメータ取得許可条件は、以下の総ての条件(条件C1乃至条件C6)が成立したときに成立する。従って、パラメータ取得許可条件は、以下の総ての条件(条件C1乃至条件C6)のうちの少なくとも一つが不成立であるとき、成立しない。勿論、パラメータ取得許可条件を構成する条件は、以下の条件C1乃至条件C6に限定されることはない。
(条件C1)今回の機関10の始動後、空燃比気筒間インバランス判定の最終的な結果が得られていない。この条件C1は、インバランス判定実施要求条件とも称呼される。条件C1は、前回のインバランス判定からの「機関10の運転時間の積算値、又は、吸入空気流量Gaの積算値、が所定値以上である。」ことに置換されてもよい。
(条件C2)エアフローメータ61により取得される吸入空気流量Gaが、所定範囲内である。
(条件C3)機関回転速度NEが所定範囲内である。即ち、機関回転速度NEが、低側閾値回転速度NELoth以上であり且つ高側閾値回転速度NEHith以下である。
(条件C4)冷却水温THWが閾値冷却水温THWth以上である。
(条件C5)メインフィードバック制御条件が成立している。
(条件C6)フューエルカット制御中でない。
いま、機関10の始動後から未だインバランス判定がなされていない状態にてパラメータ取得許可条件が成立することにより、パラメータ取得許可フラグXkyokaの値が「1」に設定されたと仮定する。この場合、CPU71はステップ1305にて「Yes」と判定してステップ1310に進み、強制空燃比移行フラグXyoseの値を「1」に設定する。
このようにステップ1310にて強制空燃比移行フラグXyoseの値が「1」に設定されると、図11のステップ1180にて目標空燃比abyfrの値が目標リッチ空燃比AFrich(非理論空燃比)に設定される。この結果、機関の空燃比は目標リッチ空燃比AFrichに一致するように制御される。即ち、強制空燃比移行制御が開始され、機関の空燃比(従って、排ガスの空燃比)は、目標リッチ空燃比AFrichを中心に目標リッチ空燃比AFrichの近傍において変動するようになる。
次に、CPU71はステップ1315に進み、「その時点の空燃比センサ67の出力値Vabyfs」をAD変換することにより取得する。
次に、CPU71はステップ1320に進み、ステップ1315にて取得した出力値Vabyfsを図4に示した空燃比変換テーブルMapabyfsに適用することにより、今回の検出空燃比abyfsを取得する。なお、CPU71は、ステップ1320の処理の前に、本ルーチンを前回実行したときに取得した検出空燃比abyfsを前回の検出空燃比abyfsoldとして記憶する。即ち、前回の検出空燃比abyfsoldは、現時点から4ms(サンプリング時間ts)前の時点における検出空燃比abyfsである。前回の検出空燃比abyfsoldの初期値は、上述したイニシャルルーチンにおいて理論空燃比に相当する値に設定されている。
次に、CPU71はステップ1325に進んで、
(A)検出空燃比変化率ΔAFを取得し、
(B)検出空燃比変化率ΔAFの絶対値|ΔAF|の積算値SAFDを更新し、且つ、
(C)検出空燃比変化率ΔAFの絶対値|ΔAF|の、積算値SAFDへの積算回数カウンタCnを更新する。
以下、これらの更新方法について具体的に説明する。
(A)検出空燃比変化率ΔAFの取得。
検出空燃比変化率ΔAFは、インバランス判定用パラメータの元データとなるデータ(基本指標量)である。CPU71は、この検出空燃比変化率ΔAFを、今回の検出空燃比abyfsから前回の検出空燃比abyfsoldを減じることによって取得する。即ち、今回の検出空燃比abyfsをabyfs(n)、前回の検出空燃比abyfsoldをabyfs(n−1)と表記すると、CPU71はステップ1325にて「今回の検出空燃比変化率ΔAF(n)」を下記の(8)式に従って求める。
ΔAF(n)=abyfs(n)−abyfs(n−1) …(8)
(B)検出空燃比変化率ΔAFの絶対値|ΔAF|の積算値SAFDの更新。
CPU71は今回の積算値SAFD(n)を下記の(9)式に従って求める。即ち、CPU71は、ステップ1325に進んだ時点における前回の積算値SAFD(n−1)に上記算出した今回の検出空燃比変化率ΔAF(n)の絶対値|ΔAF(n)|を加えることにより、積算値SAFDを更新する。
SAFD(n)=SAFD(n−1)+|ΔAF(n)|…(9)
積算値SAFDに「今回の検出空燃比変化率の絶対値|ΔAF(n)|」を積算する理由は、図5の(B)及び(C)からも理解されるように、検出空燃比変化率ΔAF(n)は正の値にも負の値にもなるからである。なお、積算値SAFDも、イニシャルルーチンにおいて「0」に設定されるようになっている。
(C)検出空燃比変化率ΔAFの絶対値|ΔAF|の、積算値SAFDへの積算回数カウンタCnの更新。
CPU71は、下記の(10)式に従って、カウンタCnの値を「1」だけ増大する。Cn(n)は更新後のカウンタCnであり、Cn(n−1)は更新前のカウンタCnである。このカウンタCnの値は上述したイニシャルルーチンにおいて「0」に設定されるとともに、後述するステップ1370にても「0」に設定される。従って、カウンタCnの値は、積算値SAFDに積算された検出空燃比変化率ΔAFの絶対値|ΔAF|のデータ数を示す。
Cn(n)=Cn(n−1)+1 …(10)
次に、CPU71はステップ1330に進み、基準気筒(本例では第1気筒)の圧縮上死点を基準としたクランク角CA(絶対クランク角CA)が720°クランク角になっているか否かを判定する。このとき、絶対クランク角CAが720°クランク角未満であると、CPU71はステップ1330にて「No」と判定してステップ1395に直接進み、本ルーチンを一旦終了する。
なお、ステップ1330は、検出空燃比変化率ΔAFの絶対値|ΔAF|の平均値を求めるための最小単位の期間(単位燃焼サイクル期間)を定めるステップであり、ここでは720°クランク角がその最小期間に相当する。勿論、この最小期間は720°クランク角よりも短くてもよいが、サンプリング時間tsの複数倍の長さ以上の期間であることが望ましい。即ち、最小単位の期間内に複数個の検出空燃比変化率ΔAFが取得されるように、その最小単位の期間が定められていることが望ましい。
一方、CPU71がステップ1330の処理を行う時点において、絶対クランク角CAが720°クランク角になっていると、CPU71はそのステップ1330にて「Yes」と判定し、ステップ1335に進む。
CPU71は、ステップ1335にて、
(D)検出空燃比変化率ΔAFの絶対値|ΔAF|の平均値AveΔAFを算出し、
(E)平均値AveΔAFの積算値Saveを更新し、且つ、
(F)積算回数カウンタCsを更新する。
以下、これらの更新方法について具体的に説明する。
(D)検出空燃比変化率ΔAFの絶対値|ΔAF|の平均値AveΔAFの算出。
CPU71は、積算値SAFDをカウンタCnの値により除することにより、検出空燃比変化率ΔAFの絶対値|ΔAF|の平均値AveΔAF(=SAFD/Cn)を算出する。この後、CPU71は積算値SAFDを「0」に設定する。
(E)平均値AveΔAFの積算値Saveの更新。
CPU71は今回の積算値Save(n)を下記の(11)式に従って求める。即ち、CPU71は、ステップ1335に進んだ時点における前回の積算値Save(n−1)に上記算出した今回の平均値AveΔAFを加えることにより、積算値Saveを更新する。この積算値Save(n)の値は上述したイニシャルルーチンにおいて「0」に設定される。
Save(n)=Save(n−1)+AveΔAF …(11)
(F)積算回数カウンタCsの更新。
CPU71は、下記の(12)式に従って、カウンタCsの値を「1」だけ増大する。Cs(n)は更新後のカウンタCsであり、Cs(n−1)は更新前のカウンタCsである。このカウンタCsの値は上述したイニシャルルーチンにおいて「0」に設定される。従って、カウンタCsの値は、積算値Saveに積算された平均値AveΔAFのデータ数のデータ数を示す。
Cs(n)=Cs(n−1)+1 …(12)
次に、CPU71はステップ1340に進み、カウンタCsの値が閾値Csth以上であるか否かを判定する。このとき、カウンタCsの値が閾値Csth未満であると、CPU71はそのステップ1340にて「No」と判定し、ステップ1395に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。なお、閾値Csthは自然数であり、2以上であることが望ましい。
一方、CPU71がステップ1340の処理を行う時点において、カウンタCsの値が閾値Csth以上であると、CPU71はそのステップ1340にて「Yes」と判定してステップ1345に進み、下記(13)式に従って積算値SaveをカウンタCsの値(=Csth)によって除することにより、空燃比変動指標量AFDであるインバランス判定用パラメータXを取得する。即ち、第1判定装置は、空燃比変動指標量AFD(=Save/Csth)をインバランス判定用パラメータXとして採用する。このインバランス判定用パラメータXは、検出空燃比変化率ΔAFの絶対値|ΔAF|の各単位燃焼サイクル期間における平均値を、複数(Csth分)の単位燃焼サイクル期間について平均した値である。
X=Save/Csth …(13)
次に、CPU71はステップ1350に進み、インバランス判定用パラメータXが「インバランス判定用閾値Xth」よりも大きいか否かを判定する。この場合におけるインバランス判定用閾値Xthは、例えば、図6の線L2により示した閾値XHithに等しい。即ち、インバランス判定用閾値Xthは、リッチ領域(又はリーン領域)において取得されたインバランス判定用パラメータXが、インバランス判定用閾値Xthよりも大きければ空燃比気筒間インバランス状態が必ず発生しており、その取得されたインバランス判定用パラメータXがインバランス判定用閾値Xthよりも小さければ空燃比気筒間インバランス状態が必ず発生していない値に予め設定されている。
インバランス判定用パラメータXは、強制空燃比移行制御中に取得されている。従って、空燃比センサ67の応答性は十分に高いので、インバランス判定用パラメータXがインバランス判定用閾値Xthよりも大きければ空燃比気筒間インバランス状態が発生していると判定することができ、インバランス判定用パラメータXがインバランス判定用閾値Xthよりも小さければ空燃比気筒間インバランス状態が発生していないと判定することができる。
従って、インバランス判定用パラメータXがインバランス判定用閾値Xthよりも大きいと、CPU71はステップ1350にて「Yes」と判定してステップ1355に進み、インバランス発生フラグXINBの値を「1」に設定する。即ち、CPU71は空燃比気筒間インバランス状態が発生していると判定する。更に、このとき、CPU71は図示しない警告ランプを点灯してもよい。なお、インバランス発生フラグXINBの値はバックアップRAM74に格納される。
次に、CPU71はステップ1365に進み、強制空燃比移行フラグXyoseの値を「0」に設定する。この結果、目標空燃比abyfrが理論空燃比stoichへと戻されるので、強制空燃比移行制御が終了される。即ち、機関の空燃比を理論空燃比へと一致させる通常の空燃比フィードバック制御が再開する。
これに対し、CPU71がステップ1350の処理を行う時点において、インバランス判定用パラメータXがインバランス判定用閾値Xth以下であると、CPU71はステップ1350にて「No」と判定してステップ1360に進み、インバランス発生フラグXINBの値を「2」に設定する。即ち、CPU71は、「空燃比気筒間インバランス判定の結果、空燃比気筒間インバランス状態が発生していないと判定された旨」を記憶する。その後、CPU71はステップ1365及びステップ1395に進んで本ルーチンを一旦終了する。以上のようにして、空燃比気筒間インバランス判定が実行される。
なお、CPU71がステップ1305に進んだ際にパラメータ取得許可フラグXkyokaの値が「1」でなければ、CPU71はそのステップ1305にて「No」と判定してステップ1370に進む。そして、CPU71はステップ1370にて各値(例えば、ΔAF,SAFD,及びCn等)を「0」に設定(クリア)する。次いで、CPU71はステップ1375に進み、強制空燃比移行フラグXyoseの値を「0」に設定し、その後、ステップ1395に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。即ち、パラメータ取得条件が成立していないとき、強制空燃比移行フラグXyoseの値は「0」に設定されるので、強制空燃比移行制御は実行されず、機関の空燃比は理論空燃比に一致するように制御される。
以上、説明したように、第1判定装置は、複数の気筒を有する多気筒内燃機関10に適用される。
更に、第1判定装置は、空燃比センサ67と、複数の燃料噴射弁39と、空燃比センサ67に到達する排ガスを排出している2以上の気筒(本例においては総ての気筒)の燃焼室25に供給される混合気の空燃比が目標空燃比abyfrとなるように指示燃料噴射量Fiを制御する指示燃料噴射量制御手段(図11のルーチン及び図12のルーチン)と、を備える。
更に、第1判定装置は、空燃比センサ67が配設された部位を通過する排ガスの空燃比の変動が大きくなるほど大きくなるインバランス判定用パラメータXを「空燃比センサ67の出力値Vabyfs」に基づいて取得し、その取得されたインバランス判定用パラメータXが所定のインバランス判定用閾値Xthよりも大きいとき「空燃比気筒間インバランス状態が発生した」と判定し、且つ、その取得されたインバランス判定用パラメータXがインバランス判定用閾値Xthよりも小さいとき「空燃比気筒間インバランス状態が発生していない」と判定する、インバランス判定手段を備える(図13のルーチン)。
加えて、第1判定装置のインバランス判定手段は、
所定のインバランス判定用パラメータ取得条件が成立している期間において目標空燃比abyfrを「理論空燃比以外の空燃比である非理論空燃比(目標リッチ空燃比AFrich又は目標リーン空燃比AFlean)」に設定するとともに(図13のステップ1310、図11のステップ1130及びステップ1180)、その状態においてインバランス判定用パラメータXを取得する(図13のステップ1315乃至ステップ1345)。
更に、そのインバランス判定手段は、
インバランス判定用パラメータ取得条件が成立していない期間において目標空燃比abyfrを理論空燃比stoichに設定するように構成されている(図13のステップ1365、ステップ1375、図示しない上述したイニシャルルーチン、図11のステップ1130及びステップ1140)。
これによれば、インバランス判定用パラメータXは、目標空燃比abyfrが非理論空燃比に設定されることにより「機関の排ガスの空燃比が非理論空燃比の近傍にて変動している場合(強制空燃比移行制御中)」において取得される。即ち、インバランス判定用パラメータXは、空燃比センサ67の出力値Vabyfsが「排ガスの空燃比の変動に大きな遅れなく追従できる場合」において、その空燃比センサ67の出力値Vabyfsに基いて取得される。
従って、第1判定装置によれば、インバランス判定用パラメータXが空燃比気筒間インバランス状態の程度(即ち、気筒別空燃比差)を精度良く表す値になるので、空燃比気筒間インバランス状態が発生しているか否かを精度良く判定することができる。なお、CPU71は、図11のステップ1140において特殊な条件が成立した場合に目標空燃比abyfrを理論空燃比以外の空燃比に設定し、特殊な条件が成立していない場合に目標空燃比abyfrを理論空燃比に設定してもよい。
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る判定装置(以下、単に「第2判定装置」と称呼する。)について説明する。
第2判定装置は、先ず、目標空燃比abyfrを理論空燃比stoichに設定する。より具体的には、第2判定装置は、インバランス判定用パラメータ取得条件が成立していない期間において、機関始動後等の特殊な場合を除き、目標空燃比abyfrを理論空燃比stoichに設定する。
そして、第2判定装置は、インバランス判定用パラメータ取得条件が成立すると、目標空燃比abyfrを理論空燃比stoichに維持したまま、第1判定装置と同様の手法に従ってインバランス判定用パラメータX(空燃比変動指標量AFD)を取得する。このように、目標空燃比abyfrが理論空燃比stoichに設定されている状態において取得されるインバランス判定用パラメータXは、便宜上、「暫定パラメータX」とも称呼される。
第2判定装置は、暫定パラメータXが取得されると、その暫定パラメータXと所定のインバランス判定用閾値XHith(図6の線L2を参照。)とを比較し、暫定パラメータXがインバランス判定用閾値XHithよりも大きいとき、空燃比気筒間インバランス状態が発生したと判定する。
このインバランス判定用閾値XHithは、空燃比センサ67の応答性が比較的低い状態において得られた暫定パラメータXがインバランス判定用閾値XHithよりも大きいとき、気筒別空燃比差が十分に大きく、従って、空燃比気筒間インバランス状態が発生したと明らかに判定することができる比較的大きな値に設定されている。それ故、インバランス判定用閾値XHithは、高側閾値XHithとも称呼される。
一方、暫定パラメータXが高側閾値XHithよりも小さいとき、第2判定装置は暫定パラメータXと低側閾値XLoth(図6の線L3を参照。)とを比較する。低側閾値XLothは、高側閾値XHithよりも所定値だけ小さい。低側閾値XLothは、暫定パラメータXが低側閾値XLothよりも小さい場合、「空燃比気筒間インバランス状態が発生していない」と明らかに判定することができる比較的小さい値に設定されている。そして、第2判定装置は、暫定パラメータXが低側閾値XLothよりも小さいとき、空燃比気筒間インバランス状態が発生していないと判定する。その後、今回の機関10の運転が停止されるまで、第2判定装置は、「理論空燃比を非理論空燃比に設定する強制空燃比移行制御」を実行することなく、インバランス判定を終了する。
他方、第2判定装置は、暫定パラメータXが「高側閾値XHithよりも小さく、且つ、低側閾値XLothよりも大きい」とき、空燃比気筒間インバランス状態が発生したか否かについての判定を保留し、目標空燃比abyfrを非理論空燃比(目標リッチ空燃比AFrich又は目標リーン空燃比AFlean)に設定する。前述したように、この非理論空燃比は、空燃比センサ67の応答性が排ガスの空燃比の変動に対して十分に高くなるような空燃比(例えば、14.2以下の空燃比、又は、15以上の空燃比)に設定されている。
そして、第2判定装置は、目標空燃比abyfrを非理論空燃比に維持した状態にて、上述した手法に基いてインバランス判定用パラメータXを再度取得する。目標空燃比abyfrが非理論空燃比に設定されている状態において取得されるインバランス判定用パラメータXは、便宜上、最終パラメータXとも称呼される。
最終パラメータXが取得されると、第2判定装置は、その最終パラメータXとインバランス判定用閾値Xth(第2判定装置において、インバランス判定用閾値Xthは高側閾値XHithと等しい。)と、を比較し、最終パラメータXがインバランス判定用閾値Xthよりも大きいとき、空燃比気筒間インバランス状態が発生したと判定する。これに対し、最終パラメータXがインバランス判定用閾値Xthよりも小さいとき、第2判定装置は空燃比気筒間インバランス状態が発生していないと判定する。以上が、第2判定装置が採用した空燃比気筒間インバランス判定の原理である。なお、インバランス判定用閾値Xthは、高側閾値XHithと低側閾値XLothとの間の適値に設定されればよい。換言すると、高側閾値XHithはインバランス判定用閾値Xth以上であり、低側閾値XLothはインバランス判定用閾値Xthよりも小さい。
(実際の作動)
第2判定装置のCPU71は、図11及び図12に示したルーチンを第1判定装置のCPU71と同様に実行する。更に、第2判定装置のCPU71は、図13に代わる「図14乃至図16」にフローチャートにより示したルーチンを実行するようになっている。図11及び図12に示したルーチンについては説明済みである。従って、以下、図14乃至図16に示したルーチンについて説明する。なお、図14乃至図16において図13に示したステップと同一の処理を行うためのステップには、図13のそのようなステップに付された符号と同一の符合が付されている。
いま、機関10の始動後から未だインバランス判定がなされていない状態にてパラメータ取得許可条件が成立することにより、パラメータ取得許可フラグXkyokaの値が「1」に設定されたと仮定する。この場合、CPU71は図14のステップ1305にて「Yes」と判定してステップ1410に進み、強制空燃比移行要求フラグXyosereqの値が「1」であるか否かを判定する。
強制空燃比移行要求フラグXyosereqの値は上述したイニシャルルーチンにおいて「0」に設定されるとともに、暫定パラメータXが取得され且つその暫定パラメータXに基いたインバランス判定が行われた後(且つインバランス判定が保留された後)に「1」に設定されるようになっている(後述する図15のステップ1580を参照。)。
従って、現時点において強制空燃比移行要求フラグXyosereqの値は「0」である。このため、CPU71はステップ1410にて「No」と判定してステップ1420に進み、強制空燃比移行フラグXyoseの値を「0」に設定する。この結果、目標空燃比abyfrは理論空燃比stoichに維持される。なお、前述したように強制空燃比移行フラグXyoseの値は上述したイニシャルルーチンにおいて「0」に設定されている。従って、現段階におけるステップ1420の処理は強制空燃比移行フラグXyoseの値を実質的に変更しない。
その後、CPU71はステップ1315乃至ステップ1345の処理によりインバランス判定用パラメータXを「暫定パラメータX」として取得する。つまり、機関の空燃比を理論空燃比に一致させるための通常の空燃比フィードバック制御中においてインバランス判定用パラメータXが取得され、そのインバランス判定用パラメータXが暫定パラメータXとして採用される。
ステップ1345にて暫定パラメータXが取得されると、CPU71はステップ1440に進み、パラメータ取得完了フラグXobtainの値を「1」に設定する。このパラメータ取得完了フラグXobtainも上述したイニシャルルーチンにおいて「0」に設定されるようになっている。その後、CPU71はステップ1495に進み、本ルーチンを一旦終了する。
一方、CPU71は図15に示したルーチンをステップ1500から所定のタイミングにて開始し、ステップ1510にて「現時点が、パラメータ取得完了フラグXobtainの値が「0」から「1」へと変化した直後の時点であるか否か」を判定する。CPU71は、ステップ1510における判定条件が成立しないとき、ステップ1510にて「No」と判定し、ステップ1595に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。
同様に、CPU71は図16に示したルーチンをステップ1600から所定のタイミングにて開始し、ステップ1610にて「現時点が、パラメータ取得完了フラグXobtainの値が「0」から「1」へと変化した直後の時点であるか否か」を判定する。CPU71は、ステップ1610における判定条件が成立しないとき、ステップ1610にて「No」と判定し、ステップ1695に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。
従って、図14のステップ1440の処理により、パラメータ取得完了フラグXobtainの値が「1」に変更されると、CPU71は図15のステップ1510に進んだとき、そのステップ1510にて「Yes」と判定してステップ1520に進み、強制空燃比移行フラグXyoseの値が「0」であるか否かを判定する。
現時点において、強制空燃比移行フラグXyoseの値は「0」である。従って、CPU71はステップ1520にて「Yes」と判定してステップ1530に進み、暫定パラメータXの値が「図6に線L2により示した高側閾値XHith」よりも大きいか否かを判定する。
このとき、暫定パラメータXが高側閾値XHithよりも大きいと、CPU71はステップ1530にて「Yes」と判定してステップ1540に進み、インバランス発生フラグXINBの値を「1」に設定する。即ち、CPU71は空燃比気筒間インバランス状態が発生していると判定する。更に、このとき、CPU71は図示しない警告ランプを点灯してもよい。その後、CPU71はステップ1595に進んで本ルーチンを一旦終了する。
これに対し、CPU71がステップ1530の処理を行う時点において、暫定パラメータXが高側閾値XHith以下であると、CPU71はステップ1530にて「No」と判定してステップ1550に進み、暫定パラメータXが「図6に線L3により示した低側閾値XLoth」よりも小さいか否かを判定する。
このとき、暫定パラメータXが低側閾値XLothよりも小さいと、CPU71はステップ1550にて「Yes」と判定してステップ1560に進み、インバランス発生フラグXINBの値を「2」に設定する。即ち、CPU71は、「空燃比気筒間インバランス判定の結果、空燃比気筒間インバランス状態が発生していないと判定された旨」を記憶する。その後、CPU71はステップ1595に進んで本ルーチンを一旦終了する。
一方、CPUがステップ1550の処理を実行する時点において、暫定パラメータXが低側閾値XLoth以上であると、CPU71はインバランス判定を保留する。即ち、CPU71は、空燃比気筒間インバランス状態が発生したか否かについての判定の結論を出すことを保留する。そして、CPU71は、強制空燃比移行制御を開始し且つインバランス判定用パラメータXの取得及びインバランス判定を再び行う。
より具体的に述べると、暫定パラメータXが低側閾値XLoth以上であると、CPU71はステップ1550にて「No」と判定してステップ1570に進み、パラメータ取得完了フラグXobtainの値を「0」に設定する。次に、CPU71はステップ1580に進み、強制空燃比移行要求フラグXyosereqの値を「1」に設定する。そして、CPU71はステップ1590に進み、インバランス判定用パラメータXを取得する際に使用する各値(例えば、ΔAF、SAFD、Cn、AveΔAF、Save、Cs等)を「0」に設定(クリア)し、その後、ステップ1595に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。
以降、CPU71が再び図14のルーチンの処理を開始し、ステップ1410に進むと、この時点においては強制空燃比移行要求フラグXyosereqの値が「1」に設定されているから、CPU71はそのステップ1410にて「Yes」と判定してステップ1430に進み、強制空燃比移行フラグXyoseの値を「1」に設定する。
このようにステップ1430にて強制空燃比移行フラグXyoseの値が「1」に設定されると、図11のステップ1180にて目標空燃比abyfrの値が目標リッチ空燃比AFrich(非理論空燃比)に設定される。この結果、機関の空燃比は目標リッチ空燃比AFrichに一致するように制御される。即ち、強制空燃比移行制御が開始され、機関の空燃比は目標リッチ空燃比AFrichを中心にして変動するようになる。
更に、CPU71はステップ1315乃至ステップ1340の処理を実行する。従って、CPU71は、カウンタCsが閾値Csth以上となったとき、ステップ1340からステップ1345に進んでインバランス判定用パラメータXを再び取得する。このインバランス判定用パラメータXは、インバランス判定用パラメータ取得条件が成立している期間において目標空燃比abyfrが「理論空燃比以外の空燃比(即ち、目標リッチ空燃比AFrich)である非理論空燃比」に維持された状態において取得されたパラメータである。即ち、このインバランス判定用パラメータXは「最終パラメータX」である。次いで、CPU71はステップ1440にてパラメータ取得完了フラグXobtainの値を「1」に設定し、ステップ1495に進んで本ルーチンを一旦終了する。
この結果、パラメータ取得完了フラグXobtainの値は「0」から「1」へと変更される。従って、CPU71が図15のステップ1510に進むと、CPU71はそのステップ1510にて「Yes」と判定してステップ1520に進む。このとき、強制空燃比移行フラグXyoseは「1」である。従って、CPU71はステップ1520にて「No」と判定し、ステップ1595に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。
一方、CPU71が図16のステップ1610に進むと、CPU71はそのステップ1610にて「Yes」と判定してステップ1620に進む。CPU71は、そのステップ1620にて強制空燃比移行フラグXyoseの値が「1」であるか否かを判定する。このとき、強制空燃比移行フラグXyoseは「1」である。従って、CPU71はステップ1620にて「Yes」と判定し、ステップ1630に進んで最終パラメータXがインバランス判定用閾値Xth(本例においては、高側閾値XHithと等しい。)よりも大きいか否かを判定する。
この場合、最終パラメータXがインバランス判定用閾値Xthよりも大きいと、CPU71はステップ1630にて「Yes」と判定してステップ1640に進み、インバランス発生フラグXINBの値を「1」に設定する。即ち、CPU71は空燃比気筒間インバランス状態が発生していると判定する。その後、CPU71はステップ1660へと進む。
これに対し、CPU71がステップ1630の処理を行う時点において、最終パラメータXがインバランス判定用閾値Xth以下であると、CPU71はステップ1630にて「No」と判定してステップ1650に進み、インバランス発生フラグXINBの値を「2」に設定する。即ち、CPU71は、「空燃比気筒間インバランス判定の結果、空燃比気筒間インバランス状態が発生していないと判定された旨」を記憶する。その後、CPU71はステップ1660へと進む。
CPU71はステップ1660にて強制空燃比移行フラグXyoseの値を「0」に設定するとともに、ステップ1670にて強制空燃比移行要求フラグXyosereqの値を「0」に設定し、ステップ1695に進んで本ルーチンを終了する。この結果、目標空燃比abyfrが理論空燃比stoichへと戻されるので、強制空燃比移行制御が終了される。即ち、機関の空燃比を理論空燃比へと一致させる通常の空燃比フィードバック制御が再開する。
なお、CPU71は図16のステップ1620に進んだとき、強制空燃比移行フラグXyoseの値が「0」であれば、そのステップ1620にて「No」と判定し、ステップ1695に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。
以上、説明したように、第2判定装置は、
インバランス判定用パラメータ取得条件が成立している期間において目標空燃比abyfrを非理論空燃比に設定する前に、目標空燃比abyfrを理論空燃比stoichに維持するとともに、空燃比センサ67の出力値Vabyfsに基いてインバランス判定用パラメータXを暫定パラメータXとして取得する(図14のルーチン、特に、ステップ1410及びステップ1420を参照。)、インバランス判定手段を備える。
更に、このインバランス判定手段は、
取得された暫定パラメータXが「高側閾値XHith」よりも大きいとき空燃比気筒間インバランス状態が発生したと判定し(図15のステップ1530及びステップ1540)、
取得された暫定パラメータXが「高側閾値XHithよりも所定値だけ小さい低側閾値XLoth」よりも小さいとき空燃比気筒間インバランス状態は発生していないと判定し(図15のステップ1550及びステップ1560)、
前記取得された暫定パラメータが前記高側閾値XHithよりも小さく且つ前記低側閾値XLothよりも大きいとき空燃比気筒間インバランス状態が発生したか否かについての判定を保留する(図15のステップ1550における「No」との判定を参照。)。
加えて、このインバランス判定手段は、
前記空燃比気筒間インバランス状態が発生したか否かについての判定が保留された状態にある場合、前記インバランス判定用パラメータ取得条件が成立している期間において目標空燃比abyfrを非理論空燃比(目標リッチ空燃比AFrich又は目標リーン空燃比AFlean)に設定するとともに、空燃比センサ67の出力値Vabyfsに基いてインバランス判定用パラメータXを最終パラメータXとして取得し(図15のステップ1580、図14のステップ1410、ステップ1430、及び、ステップ1315−ステップ1345を参照。)、
その取得された最終パラメータXが「インバランス判定用閾値Xth」よりも大きいとき空燃比気筒間インバランス状態が発生したと判定し(図16のステップ1630及びステップ1640)、且つ、その取得された最終パラメータXがインバランス判定用閾値Xthよりも小さいとき空燃比気筒間インバランス状態が発生していないと判定する(図16のステップ1630及びステップ1650)。
この第2判定装置によれば、目標空燃比abyfrを理論空燃比に維持した状態において取得されるインバランス判定用パラメータX(暫定パラメータX)により、明らかにインバランス判定の結果を得ることができる場合、目標空燃比abyfrを非理論空燃比に設定する必要がない。従って、エミッションを良好に維持しながら空燃比気筒間インバランス判定を行うことができる。
更に、暫定パラメータXによっては、空燃比気筒間インバランス状態が発生しているか否かが明らかでない場合、目標空燃比abyfrを非理論空燃比に設定した状態にてインバランス判定用パラメータX(最終パラメータX)を取得し、その最終パラメータXに基づいてインバランス判定が行われる。従って、誤ったインバランス判定を行うことを回避することができる。
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係る判定装置(以下、単に「第3判定装置」と称呼する。)について説明する。
第3判定装置は、第2判定装置と同様、暫定パラメータと最終パラメータとを取得する。以下、両者を明瞭に区別するため、暫定パラメータXを暫定パラメータXzと表記し、最終パラメータXを最終パラメータXsと表記する。
第3判定装置は、暫定パラメータXzと最終パラメータXsとの差ΔXを求め、その差ΔXの絶対値|ΔX|が閾値ΔXthよりも大きいとき、空燃比気筒間インバランス状態が発生したと判定する。これに対し、第3判定装置は、その差ΔXの絶対値|ΔX|が閾値ΔXthよりも小さいとき、空燃比気筒間インバランス状態が発生していないと判定する。
図17の実線D1に示したように、空燃比気筒間インバランス状態が発生している場合、暫定パラメータXz(点P1を参照。)と最終パラメータXs(点P2を参照。)との差ΔXの絶対値|ΔX|は比較的大きくなる。これに対し、図17の破線D2に示したように、空燃比気筒間インバランス状態が発生していない場合、暫定パラメータXz(点P3を参照。)と最終パラメータXs(点P4を参照。)との差ΔXの絶対値|ΔX|は比較的小さくなる。
従って、第3判定装置は、差ΔXの絶対値|ΔX|が閾値ΔXthよりも大きいとき、空燃比気筒間インバランス状態が発生したと判定し、差ΔXの絶対値|ΔX|が閾値ΔXthよりも小さいとき、空燃比気筒間インバランス状態が発生していないと判定する。
なお、第3判定装置は、差ΔXの絶対値|ΔX|の代わりに、暫定パラメータXzに対する最終パラメータXsの比(Xs/Xz)を求め、その比(Xs/Xz)が閾値Rthよりも大きいとき空燃比気筒間インバランス状態が発生したと判定し、その比(Xs/Xz)が閾値Rthよりも小さいとき空燃比気筒間インバランス状態が発生していないと判定してもよい。
また、差ΔXの絶対値|ΔX|が「空燃比気筒間インバランス状態が発生しているか否か」に応じて大きく変化するように、暫定パラメータXzは、排ガスの空燃比が「理論空燃比領域よりも狭く且つ理論空燃比を含む領域(図17における領域A)」において変動している際に取得されることが望ましい。
更に、第3判定装置は、インバランス判定用パラメータを取得した際のパラメータ取得期間平均空燃比を取得しておき、パラメータ取得期間平均空燃比が理論空燃比領域(又は領域A)にあるときにインバランス判定用パラメータが得られ、パラメータ取得期間平均空燃比がリーン領域又はリッチ領域にあるときにインバランス判定用パラメータが得られていない場合、上述した強制空燃比移行制御を実行するように構成されてもよい。
以上、説明したように、各判定装置は、空燃比気筒間インバランス状態が発生したか否かを精度良く判定することができる。
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、インバランス判定用パラメータX(暫定パラメータXz又は最終パラメータXs)として取得される空燃比変動指標量AFDは、以下に述べるパラメータであってもよい。
(P1)空燃比変動指標量AFDは、空燃比センサ67の出力値Vabyfsの軌跡長(基本指標量)又は検出空燃比abyfsの軌跡長(基本指標量)に応じた値であってもよい。例えば、検出空燃比abyfsの軌跡長は、一定サンプリング時間tsが経過する毎に出力値Vabyfsを取得するとともに、その出力値Vabyfsを検出空燃比abyfsへと変換し、その検出空燃比abyfsと、一定サンプリング時間ts前に取得した検出空燃比abyfsと、の差の絶対値を積算することによって求めることができる。
この軌跡長は、単位燃焼サイクル期間毎に求められることが望ましい。複数の単位燃焼サイクル期間についての軌跡長の平均値(即ち、軌跡長に応じた値)を空燃比変動指標量AFDとして採用してもよい。なお、出力値Vabyfsの軌跡長及び検出空燃比abyfsの軌跡長は、機関回転速度NEが大きいほど大きくなる傾向を有するので、この軌跡長に基くインバランス判定用パラメータをインバランス判定に使用する場合、機関回転速度NEが大きいほどインバランス判定用閾値Xthを大きくすることが好ましい。
(P2)空燃比変動指標量AFDは、「空燃比センサ67の出力値Vabyfs又は検出空燃比abyfs」の変化率の変化率(即ち、これらの値の時間に関する二階微分値)を基本指標量として求め、その基本指標量に応じた値として求められてもよい。例えば、空燃比変動指標量AFDは、「空燃比センサ67の出力値Vabyfsの時間に関する二階微分値d2(Vabyfs)/dt2」の絶対値の単位燃焼サイクル期間における最大値、又は、「上流側空燃比センサ67の出力値Vabyfsにより表される検出空燃比abyfsの時間に関する二階微分値d2(abyfs)/dt2)」の絶対値の単位燃焼サイクル期間における最大値であってもよい。
例えば、検出空燃比abyfsの変化率の変化率は次のようにして取得することができる。
・一定サンプリング時間tsが経過する毎に出力値Vabyfsを取得する。
・その出力値Vabyfsを検出空燃比abyfsへと変換する。
・その検出空燃比abyfsと、一定サンプリング時間ts前に取得した検出空燃比abyfsと、の差を検出空燃比abyfsの変化率として取得する。
・その検出空燃比abyfsの変化率と、一定サンプリング時間ts前に取得した検出空燃比abyfsの変化率と、の差を検出空燃比abyfsの変化率の変化率(二階微分値d2(abyfs)/dt2)として取得する。
この場合、「単位燃焼サイクル期間内において複数得られた検出空燃比abyfsの変化率の変化率」の中から「その絶対値が最大である値」を代表値として選択し、そのような代表値を複数の単位燃焼サイクル期間に対して求め、得られた複数の代表値の絶対値の平均値を空燃比変動指標量AFDとして採用してもよい。
更に、上記各判定装置は、微分値d(abyfs)/dt(検出空燃比変化率ΔAF)を基本指標量として採用し、その基本指標量の単位燃焼サイクル期間における平均値に基く値を空燃比変動指標量AFDとして採用していた。
これに対し、上記各判定装置は、微分値d(abyfs)/dt(検出空燃比変化率ΔAF)を基本指標量として取得し、単位燃焼サイクル期間において得られた微分値d(abyfs)/dtのうち正の値を有するデータ中からその絶対値が最大の値P1を取得するとともに、同じ単位燃焼サイクル期間において得られた微分値dVabyfs/dtのうち負の値を有するデータ中からその絶対値が最大の値P2を取得し、値P1の絶対値及び値P2の絶対値のうちの大きい方を基本指標量として採用してもよい。そして、上記各判定装置は、複数の単位燃焼サイクル期間に対して得られた基本指標量の平均値を、空燃比変動指標量AFDとして採用してもよい。
更に、上記各判定装置は、例えば、V型エンジンにも適用することができる。その場合、V型エンジンは右バンクに属する2以上の気筒の排気集合部よりも下流に右バンク上流側触媒(前記機関の排気通路であって前記複数の気筒のうちの少なくとも2以上の気筒の燃焼室から排出された排ガスが集合する排気集合部よりも下流側の部位に配設された触媒)を備え、左バンクに属する2以上の気筒の排気集合部よりも下流に左バンク上流側触媒(前記機関の排気通路であって前記複数の気筒のうちの少なくとも2以上の気筒以外の残りの2以上の気筒の燃焼室から排出された排ガスが集合する排気集合部よりも下流側の部位に配設された触媒)、を備えることができる。
更に、V型エンジンは、右バンク上流側触媒の上流及び下流に右バンク用の上流側空燃比センサ及び下流側空燃比センサを備え、左バンク上流側触媒の上流及び下流に左バンク用の上流側空燃比センサ及び下流側空燃比センサを備えることができる。各上流側空燃比センサは、上記空燃比センサ67と同様、各バンクの排気集合部と各バンクの上流側触媒との間に配設される。この場合、右バンク用のメインフィードバック制御及びサブフィードバック制御が実行され、それとは独立して左バンク用のメインフィードバック制御及びサブフィードバック制御が実行される。
この場合、判定装置は、右バンク用の上流側空燃比センサの出力値に基いて右バンク用の「空燃比変動指標量AFD(インバランス判定用パラメータX)」を求め、それらを用いて右バンクに属する気筒間において空燃比気筒間インバランス状態が発生しているか否かを判定することができる。
同様に、判定装置は、左バンク用の上流側空燃比センサの出力値に基いて左バンク用の「空燃比変動指標量AFD(インバランス判定用パラメータX)」を求め、それらを用いて左バンクに属する気筒間において空燃比気筒間インバランス状態が発生しているか否かを判定することができる。
加えて、上記各判定装置は、インバランス判定用閾値Xth(高側閾値XHith及び低側閾値XLothを含む。)を、吸入空気流量Gaが大きいほど大きくなるように変更してもよい。これは、保護カバー67b及び67cの存在により、吸入空気流量Gaが小さいほど、空燃比センサ67の応答性が低くなるからである。
更に、前記高側閾値XHithは前記インバランス判定用閾値Xth以上の値であり、前記低側閾値XLothは前記インバランス判定用閾値Xthよりも小さい値であることが好適である。但し、高側閾値XHithは、暫定パラメータXzが高側閾値XHithよりも大きいとき、明らかに空燃比気筒間インバランス状態が発生していると断定できる値であれば、前記インバランス判定用閾値Xthよりも小さい値であってもよい。同様に、低側閾値XLothは、暫定パラメータXzが低側閾値XLothよりも小さいとき、明らかに空燃比気筒間インバランス状態が発生していないと断定できる値であればよい。