JP5040206B2 - 摩擦撹拌接合用の低合金構造用鋼 - Google Patents
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このため、溶接方向に対して実質的に無限に長い部材についてもその長手方向に連続的に固相接合できるという利点がある。また、回転ツールと接合部材との摩擦熱による金属の塑性流動を利用した固相接合であるため、接合部を溶融することなく接合することができるという利点がある。さらに、加熱温度が低いため、接合後の変形が少ないだけでなく、接合部が溶融されないため、欠陥が少ないなど、多くの利点がある。
すなわち、摩擦撹拌接合法においては、回転ツールの材質が加工物より実質的に硬いことが原則であるが、回転ツールの素材として、低融点金属材料の接合の場合には安価な工具鋼を用いることができるのに対し、低合金溶接構造用鋼の接合の場合には特許文献3および特許文献4に開示されているように、多結晶硼素窒化物(PCBN)や多結晶ダイヤモンドなどの高耐磨耗性材料を用いているのが現状であり、かかる高耐磨耗性材料の生産技術およびコストが摩擦撹拌接合法の普及に対し大きな影響を与えるからである。
さらに、この高耐磨耗性材料を素材とした回転ツールにかかる負荷が過大となるため、接合可能板厚や接合速度など能率にかかわる接合条件が大きく制限され、またツールの損耗、破損による交換作業により施工能率も良好ではない。
すなわち、特許文献5〜9には、大入熱のサブマージアーク溶接やエレクトロスラグ溶接に適用して好適な低合金溶接構造用鋼について開示されているが、これら特許文献5〜9では、大入熱溶接に供した場合の特性が検討されているだけで、本発明で対象とする摩擦撹拌接合法への適用に対しては何ら考慮が払われていない。
これにより、ツールの損耗、破損による交換作業の頻度は抑えられるものの、接合時間が長くなるので直接的に施工能率の改善にはつながらなかった。すなわち、施工性の改善は得られなかった。
すなわち、接合部の到達温度付近における、フェライト単相域およびオーステナイト相−フェライト2相域を拡げることが、接合部の到達温度域における鋼材の変形抵抗を低減するのに極めて有効であることを新たに見出したのである。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
(1)質量%で
C:0.01〜0.20%、
Mn:0.1〜3.0%、
P:0.050%以下および
S:0.0050%以下
を含み、かつ
Si:0.4〜4.0%、
Al:0.3〜3.0%および
Ti:0.3〜3.0%
のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成からなる低合金構造用鋼であって、600℃以上の平衡状態においてフェライト単相となる温度域幅とオーステナイト相とフェライト相の2相となる温度域幅の合計が200℃以上であることを特徴とする、摩擦撹拌接合用の低合金構造用鋼。
Cu:3.0%以下、
Ni:5.0%以下、
Cr:1.0%以下、
Mo:1.0%以下、
Nb:0.1%以下、
V:0.1%以下および
B:0.0040%以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する組成からなることを特徴とする、摩擦撹拌接合用の低合金構造用鋼。
また、これによりツールの損耗、破損による交換作業の頻度が抑えられ、接合時間が短縮されるので、施工能率が向上する。
従来の低合金溶接構造用鋼は、平衡状態において、730℃付近のA1点でオーステナイト相とフェライト相の2相となり、900℃付近のA3点から1450℃付近のA4点までオーステナイト単相となる。なお、A1、A3、A4点の温度は合金量により幾分変動する。
ここに、判断すべき平衡状態の基底温度を600℃としたのは、鉄鋼を摩擦撹拌接合した時、接合部の温度は概ね600℃以上になるためである。
その理由として、これらのフェライト安定化元素は、Feと各々の元素の状態図において、γループを形成することが挙げられる。
また、Alの他、Si,Tiなどのフェライト安定化元素も同様の傾向を持つことが知られている。
得られた結果を図2に示す。
それ故、本発明では、600℃以上の平衡状態においてフェライト単相となる温度域幅とオーステナイト相とフェライト相の2相となる温度域幅の合計について、200℃以上と規定したのである。
そこで、次に、かような要件を満足する成分組成範囲について検討した。
その結果、以下に述べる好適成分組成範囲を見出したのである。なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
Cは、母材の強度と靱性に非常に大きな影響を及ぼす元素であり、0.01%以上を必要とするが、0.20%を超えると靱性に悪影響を及ぼすため、0.01〜0.20%の範囲に限定した。
Mnは、母材の強度と靱性を同時に向上させるのに有用な元素であるが、含有量が0.1%に満たないとその添加効果に乏しく、一方3.0%を超えると偏析等により鋼材に悪影響を及ぼすため、0.1〜3.0%の範囲に限定した。
PおよびSはいずれも、中心偏析を助長する元素であり、極力低減することが望まれるが、Pは0.050%で、Sは0.0050%以下で許容される。
上記したSi,AlおよびTiはいずれも、γループを形成するフェライト安定化元素であり、600℃以上の平衡状態においてフェライト単相となる温度域幅とオーステナイト相とフェライト相の2相となる温度域幅の合計を200℃以上とするために重要な元素である。しかしながら、それぞれ含有量が下限に満たないとその添加効果に乏しく、一方上限を超えるとHAZ部の靱性が劣化するため、これらはそれぞれ上記の範囲で含有させるものとした。
なお、特に好ましい範囲は、Si:1.0〜4.0%、Al:1.2〜3.0%の範囲である。
Cu:3.0%以下
Cuは、母材の強度を確保するために有用な元素であるが、3.0%を超えて含有すると母材およびHAZ部が硬化するため、3.0%以下に限定した。
Niは、母材の強度と靱性を向上させる元素であるが、5.0%を超えて含有するとHAZ部が硬化するため、5.0%以下に限定した。
Crは、母材の強度を確保するために有用な元素であるが、1.0%を超えて含有するとHAZ部の靱性を劣化させるため、1.0%以下に限定した。
Moは、母材の強度向上に有用な元素であるが、1.0%を超えると靱性に悪影響を及ぼすので、1.0%以下に限定した。
Nbは、母材およびHAZ部の強度と靱性を確保するために有用な元素であるが、0.1%を超えると靱性に悪影響を及ぼすため、0.1%以下に限定した。
Vは、母材の強度を高めるのに有用な元素であるが、含有量が0.1%を超えると靱性を劣化させるので、0.1%以下に限定した。
Bは、圧延中にオーステナイト粒界に偏析して焼入性を上げる作用があるが、0.0040%を超えるとHAZ部の靱性を劣化させるため、0.0040%以下に限定した。
表1に示す種々の成分組成になる鋼板(板厚:12mm)を、同一の接合条件で摩擦撹拌接合した。表1中、No.1〜6は本発明の要件を満たす発明例、No.7〜11は本発明の要件を満たさない比較例である。
これらの鋼板を用い、継手突合せ面は角度をつけないいわゆるI型開先でフライス加工程度の表面状態とし、表2に示す接合条件で、片面1パスで接合を実施した。図3に、具体的な接合要領を模式で示す。なお、回転ツールとしては、多結晶硼素窒化物(PCBN)を素材としたツールを用い、接合時にはアルゴンガスにより接合部をシールドして表面の酸化を防止した。図4に、回転ツールの寸法・形状を示す。
そして、上記の接合時に回転ツールにかかる荷重を測定した。この荷重測定に際しては、図5に示すように、回転ツールに対して接合方向と同一方向にかかる荷重をX荷重、接合方向と直角方向にかかる荷重をY荷重、ツールの軸方向と同一方向にかかる荷重をZ荷重として、3方向の荷重を測定した。
得られた結果を表3に示す。
これにより、発明例は比較例に比べて、回転ツールにかかる荷重すなわち変形抵抗が低減されたことが分かる。
Fe−0.11%C−1.5%Mn−3.2%Si−0.009%P−0.002%Sを基本組成とし、さらに種々の添加元素を、表4に示す割合で添加した鋼材を、被加工物として、実施例1と同様にして摩擦撹拌接合を実施した。
この接合時に際し、実施例1と同様に、回転ツールにかかる荷重を測定した。また、接合部の強度および靱性についても調査した。
得られた結果を表5に示す。
なお、比較のため、表1にNo.7で示した比較例1についても、各種特性を測定した。
Claims (2)
- 質量%で
C:0.01〜0.20%、
Mn:0.1〜3.0%、
P:0.050%以下および
S:0.0050%以下
を含み、かつ
Si:0.4〜4.0%、
Al:0.3〜3.0%および
Ti:0.3〜3.0%
のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成からなる低合金構造用鋼であって、600℃以上の平衡状態においてフェライト単相となる温度域幅とオーステナイト相とフェライト相の2相となる温度域幅の合計が200℃以上であることを特徴とする、摩擦撹拌接合用の低合金構造用鋼。 - 請求項1において、鋼組成が、質量%でさらに、
Cu:3.0%以下、
Ni:5.0%以下、
Cr:1.0%以下、
Mo:1.0%以下、
Nb:0.1%以下、
V:0.1%以下および
B:0.0040%以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する組成からなることを特徴とする、摩擦撹拌接合用の低合金構造用鋼。
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