JP4002389B2 - 疲労強度に優れた軟鋼または490MPa級鋼の回し溶接継手およびその作製方法 - Google Patents

疲労強度に優れた軟鋼または490MPa級鋼の回し溶接継手およびその作製方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶接構造物の信頼性向上のために、疲労強度が高い回し溶接継手を提供する技術に関し、より詳しくは、母材として軟鋼または490MPa鋼材を用いた場合の疲労強度に優れた回し溶接継手およびその作製方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
溶接部に発生する疲労亀裂は、構造物全体の信頼性に重大な影響を与えるため、その疲労特性を向上させる手法は以前より試みられてきた。疲労亀裂が発生しやすい部分は溶接止端部であるが、その理由としては、溶接止端部には応力集中部が発生しやすく、引っ張りの残留応力が生じやすい、などの理由が挙げられる。これらの原因を解決することが疲労強度改善方法として有効である。そのため、従来技術における疲労強度改善方法として、(1)溶接止端部を研削により滑らかにする等の機械的な方法、あるいは、(2)TIG溶接により化粧溶接を施して応力集中を減らす方法、また、(3)ショットピーニングを用いて疲労が発生する部位に打撃を加えて圧縮残留応力を導入し同時に応力集中を減らす方法、などがあった。これらの疲労強度改善方法が施される溶接継手は、構造物作製コストを直接増大させるため、このような方法を用いずに溶接継手の疲労強度向上させることのできる方法が望まれていた。
【0003】
最近になり、溶接金属の変態膨張を利用し、残留応力を低減させ、これにより疲労強度を向上させる手法が注目されている。例えば特開平11−138290号公報では、溶接金属のマルテンサイト変態を利用し、該溶接金属が室温においてマルテンサイト変態開始時より膨張している状態とすることにより、溶接金属部の引張残留応力を緩和する技術が開示されている。さらには、「溶接学会論文集」第18巻平成12年第1号の141ページから145ページにおいて、太田らにより、CrおよびNiを重量%にてそれぞれ10%含有する溶接材料を用いて角回し溶接継手を作製すれば、疲労強度が改善するという研究報告もなされている。特にこれら発明および研究報告は、鋼材強度が高くなると鋼材の疲労強度は上昇するが、溶接金属部の疲労強度は高くならず、構造物の強度が疲労強度で支配されている場合には母材の高張力化の利点が得られない、という産業界が抱える問題点を指摘し、特に高張力鋼(例えば前記太田らの研究報告では780MPa級鋼材を用いて疲労強度改善効果を確認している)での疲労強度改善に重点を置いている。
【0004】
これら溶接金属の変態膨張を利用する技術も、必ずしも全ての溶接継手の疲労強度改善に有効であるというわけではない。例えば、特開平11−138290号公報で開示されている技術によると、疲労強度を改善するためには室温での溶接金属がマルテンサイト変態開始時より膨張していなければならない。確かに、この状態が実現すれば、溶接部には膨張による圧縮の残留応力が導入され、溶接金属の引張残留応力が緩和されるため疲労強度改善が期待できる。しかし、室温での溶接金属がマルテンサイト変態開始時より膨張していなければならないという条件は、実際の継手ではほとんど実現不可能である。その理由はきわめて単純である。すなわち、溶接部の温度分布は、アークの集中熱源により、溶接金属およびその近傍は融点またはそれに近い温度まで加熱されるが、それ以外のほとんどの部分は加熱されないため、溶接金属は加熱されていない部分から拘束を受け、たとえ変態膨張しても変態膨張量とほぼ同じ量の圧縮塑性ひずみが導入されてしまい、変態に伴う膨張を相殺してしまうためである。すなわち、溶接金属がマルテンサイト変態時より膨張していることは実質的に不可能である。そのため、実際の溶接継手で特開平11−138290号公報が開示している条件を達成することは、非常に特殊な継手に限った場合となり、実用的な観点からは問題が多い。太田らの溶接学会論文集の第18巻平成12年第1号の研究報告も、実用的な観点からはまだ問題がある。この研究報告では、母材として780MPa級鋼材を用いた場合で疲労強度改善を確認している。しかし、実際の構造物では、軟鋼または490MPa級鋼材が使用される場合がほとんどであり、このような鋼材を用いた溶接継手で太田らの疲労強度向上技術が適用できるかどうかは明確ではない。なぜなら、母材強度が高いほど溶接金属の変態膨張に対する拘束反力も大きく、結果的に圧縮弾性歪みも大きくなるため、変態終了後の熱収縮が発生しても圧縮応力状態にとどまっている可能性が大きいからである。例えば、軟鋼の場合、低強度であるが故に圧縮弾性歪みの最大値は780MPa級鋼材の1/3程度しかない。このことは、圧縮応力状態から引張り応力状態に変えてしまう熱収縮ひずみ量が、780MPa級鋼材は軟鋼の3倍程度必要であることを意味する。そのため、溶接金属が変態膨張した後の熱収縮が多少大きくても780MPa鋼材の場合は、圧縮応力状態のままであるため、軟鋼の場合よりも疲労強度を改善することが容易であった。このことは、逆に軟鋼などの低強度鋼材を用いた溶接継手の疲労強度を改善させることは、780MPa級鋼材の場合よりはるかに難しい技術であることを意味する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来技術の問題点に鑑みて、本発明は、高強度鋼に比べて溶接金属の変態膨張を利用した溶接止端部への圧縮応力の導入が困難である軟鋼または490MPa級鋼の回し溶接継手において、従来に比べて疲労強度に優れた軟鋼または490MPa級鋼の回し溶接継手およびその作製方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、以上のような事情を鑑み、軟鋼または490MPa級鋼材を用いた溶接部の残留応力を低減させ疲労強度を向上させる技術について種々検討し、これまで鋭意研究を重ねてきた結果、疲労亀裂発生部位の残留応力を低減するメカニズムを発見するに至り、さらに溶接継手疲労強度との関係に関し鋭意研究を重ね、軟鋼または490MPa級鋼材を用いた回し溶接継手の疲労強度を向上させる実用的な手法を発見し、本発明を完成させたもので、その要旨は、次の通りである。
【0007】
(1) 軟鋼または490MPa級鋼の回し溶接継手において、溶接止端部の溶接ビードの化学成分として、質量%で、C:0.02〜0.1%、Si:0.1〜0.7%、Mn:0.1〜1.5%、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Cr:11〜15%、Ni:9.5〜12%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、かつオーステナイトからマルテンサイトに変態を開始する温度が125〜195℃である溶接金属からなり、かつ前記溶接止端部の溶接ビードの溶接金属組織として、残留オーステナイトを20〜50%含有することを特徴とする疲労強度に優れた軟鋼または490MPa級鋼の溶接継手。
【0008】
(2) 前記溶接止端部の溶接ビードの化学成分として、さらに、質量%で、Mo:0.1〜1.5%、Ti:0.01〜1%、Nb:0.01〜1%、およびV:0.05〜0.5%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする上記(1)に記載の疲労強度に優れた軟鋼または490MPa級鋼の回し溶接継手。
【0009】
(3) 前記溶接止端部の溶接ビードの化学成分において、質量%で、TiおよびNbの合計量が0.8〜1.2%であることを特徴とする上記(2)に記載の疲労強度に優れた軟鋼または490MPa級鋼の回し溶接継手。
【0010】
(4) 軟鋼または490MPa級鋼を用いて回し溶接継手を作製する方法において、溶接材料の化学成分として、質量%で、C:0.02〜0.1%、Si:0.1〜0.7%、Mn:0.1〜1.5%、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Cr:13〜18%、Ni:10〜14%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、かつオーステナイトからマルテンサイトに変態を開始する温度が100〜170℃未満である溶接材料を用いて、溶接止端部に、溶接金属組織として、残留オーステナイトを20〜50%含有する溶接ビードを形成することを特徴とする疲労強度に優れた軟鋼または490MPa級鋼の回し溶接継手の作製方法。
【0011】
(5) 前記溶接材料の成分として、さらに、質量%で、Mo:0.1〜1.7%、Ti:0.01〜1.2%、Nb:0.01〜1.2%、およびV:0.05〜0.6%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする上記(4)に記載の疲労強度に優れた軟鋼または490MPa級鋼の回し溶接継手の作製方法。
【0012】
(6) 前記溶接材料の成分において、質量%で、TiおよびNbの合計量が0.9〜1.4%であることを特徴とする上記(5)に記載の疲労強度に優れた軟鋼または490MPa級鋼の回し溶接継手の作製方法。
【0013】
(7) 溶接ビード形成後、さらに、前記溶接材料を用いて、溶接止端部に付加溶接ビードを形成することを特徴とする上記(4)から(6)の内の何れか1項に記載の疲労強度に優れた軟鋼または490MPa級鋼の回し溶接継手の作製方法。
【0014】
(8) 荷重を受ける構造部材と面外ガセット、カバープレート、およびスタッドのうちの1種または2種以上とを回し溶接して溶接継手を作製することを特徴とする上記(4)から(7)の内の何れか1項に記載の疲労強度に優れた軟鋼または490MPa級鋼の回し溶接継手の作製方法。
【0015】
(9) スカラップを有する荷重を受ける構造部材と構造部材とを回し溶接して溶接継手を作製することを特徴とする上記(4)から(7)の内の何れか1項に記載の疲労強度に優れた軟鋼または490MPa級鋼の回し溶接継手の作製方法。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0017】
初めに、本発明の技術思想について述べる。
【0018】
本発明の技術思想は、大きく4つに分類することができ、そのうち3つは残留応力低減を利用した疲労強度改善に関するものであり、最後の1つは溶接割れ防止に関するものである。
【0019】
溶接部の疲労強度は、応力集中部である溶接止端部の疲労強度で決定される。疲労強度は、静的強度と異なり、応力集中部近傍の応力状態で決定されるため、ここの残留応力を低減させることができれば、外部応力が作用しているときでも、残留応力低減分だけ疲労強度が向上することが期待できる。特に、圧縮の残留応力を導入できればその効果が大きい。すなわち、本発明では溶接金属の変態膨張を利用し、圧縮残留応力を導入することにより疲労強度を改善するという第1の技術思想がある。しかし、本発明が目的とするところの軟鋼または490MPa級鋼材を用いた溶接継手では、強度が比較的低いため、弾性ひずみの範囲が、例えば780MPa級鋼材と比べて狭いため、せっかく変態膨張したときに導入された圧縮残留応力が引張り応力状態になりやすいという問題を抱える。このような問題を抱える溶接継手では、これまでの技術、例えば特開平11−138290号公報や、太田らの「溶接学会論文集」第18巻平成12年第1号の141ページから145ページに開示されている技術では疲労強度を向上させることが必ずしもできない。
【0020】
図1は、軟鋼を用いた角回し溶接継手の疲労試験結果を示した図である。角回し溶接継手の試験片形状は図2に示した。図1では、付加ビードとして、○で示す従来溶接材料と●で示す太田らが報告している低温変態溶接材料(Crが10%、Niが10%含有している溶接材料、マルテンサイト変態温度は230℃)を用いた場合の疲労試験結果を示している。図1から、従来溶接材料と低温変態溶接材料の疲労強度に格別の差異がなく、角回し溶接継手の疲労強度が改善していないことが理解できる。ちなみに、太田らのデータによれば、母材として780MPa級鋼材を用いており、この場合は角回し溶接部の疲労強度は改善できる。このように、同じ低温変態溶接材料を用いても、用いられている鋼材の強度により疲労強度が改善したりしなかったりするため、本発明には鋼材強度にあわせた低温変態溶接材料を用いなければならないという第2の技術思想がある。一方、比較的安価な方法で変態温度を下げることができるのは溶接金属である。もし鋼材の変態温度を下げようとすると鋼材に高価な元素を多量に添加する必要が生じるため、構造物全体の費用が高くなりすぎ経済的に問題が多い。しかし、溶接継手に生じる疲労亀裂は、必ずしも低温変態膨張する溶接金属に発生するわけではなく、多くの場合は溶接熱影響部(以下、HAZともいう。)、すなわち鋼材側に発生する。実際、図1の疲労試験結果は、全て角回し溶接部の止端部、すなわち鋼材の溶接熱影響部で発生していた。そのため、溶接金属の変態膨張が、鋼材の熱影響部の残留応力を低減する効果が期待できなければならない。本発明における第3の技術思想は、溶接継手形状を限定すれば溶接金属変態膨張に対する反力により鋼材側の溶接熱影響部の残留応力を低減することができ、疲労強度が改善できる、というものである。
【0021】
本発明における第4の技術思想は、疲労が問題となる溶接止端部を形成する低温変態溶接金属に、残留オーステナイトを意識的に含有させ、溶接割れを防ぐというものである。本発明では、溶接金属のマルテンサイト変態膨張を利用し疲労強度を向上させることを目的としている。しかし、マルテンサイト組織そのものは、硬くてもろい組織であり、残留応力を低減する目的では有効活用したいが、溶接継手の靱性や割れ感受性の観点からは、あまり導入したくないミクロ組織でもある。特に、水素が起因となる低温割れは、マルテンサイト組織で生じやすい。
【0022】
そこで、本発明では、溶接金属にオーステナイトがある程度残留するようにし、これら問題を解決することとした。オーステナイトは、水素の溶解度が大きく、水素割れすなわち低温割れを発生しないという特長があるため、少量のオーステナイトを溶接金属中に残留させるようにすれば溶接金属の低温割れを防ぐことが可能である。一方、溶接部に引張り残留応力が存在しなければ低温割れも発生しないため、溶接金属の変態膨張を利用し残留応力が圧縮になる技術なのであるから低温割れの問題は解決できると主張する意見もあるが、本発明ではこのような考えだけでは必ずしも低温割れを防ぐことができないと考えている。その理由は、溶接特有の移動熱源という特徴からくるものである。移動熱源のため、溶接ビード長さ方向において、溶接スタート側とそうでない部分とでは冷却のタイミングがずれてくる。そのため、先に冷却する溶接スタート側が変態膨張した後、他の溶接金属部分が変態膨張する場合もあり得る。この場合、溶接スタート側は、他の部分の変態膨張により、せっかく導入された圧縮残留応力が引張り応力状態に変化する場合もあり得る。このような引張り残留応力が存在する部分に水素が存在すれば溶接金属低温割れをおこす危険性も生じてくる。また、多層溶接を行う場合は、後続溶接ビードの変態膨張は先行溶接ビードを引張る、すなわち引張り残留応力を導入する働きもあり、この場合も低温割れの危険性が生じる。疲労強度向上の観点からは、疲労が問題となる部分の残留応力さえ低減するように溶接施工すればよいが、もし、問題としている部分以外のところに低温割れが発生してしまうと、そこから疲労亀裂が発生する危険性が生じてしまうため、溶接継手全体としては疲労強度向上は望めない。そのため、本発明では、残留オーステナイトの存在は必須であると考えている。
【0023】
本発明者らは、以上述べてきたような、疲労亀裂発生部位の残留応力を低減するメカニズムを発見するに至り、さらに溶接継手疲労強度との関係に関し鋭意研究を重ね、軟鋼または490MPa級鋼材を用いた回し溶接継手の疲労強度を向上させる実用的な手法を発見するに至った。
【0024】
次に、溶接金属のマルテンサイト変態温度(以降Ms温度)を限定した理由について述べる。
【0025】
本発明は、軟鋼または490MPa級鋼材を対象としているため、より小さな熱収縮で圧縮残留応力が相殺されてしまうという問題点を抱えている。そのためには、溶接金属のMs温度範囲を従来技術より狭い範囲でコントロールする必要がある。本発明では、Ms温度の上限を195℃とした。この理由は、これを上回るMs温度では、変態終了後の熱収縮により残留応力が充分低減されず、疲労強度が改善しないためである。Ms温度の下限を125℃と限定した理由は、Ms温度がこれより下回ると、溶接継手が室温に達した場合でも、まだ変態途中にあることとなり、溶接構造物使用中の温度変化により溶接部の材質が変化する危険性があるためである。
【0026】
次に、溶接金属成分を限定した理由について述べる。
【0027】
Cは、それを鉄に添加することによりMs温度を下げる働きをする。しかし、その一方で、過度の添加は、溶接割れの問題や靱性劣化の問題を引き起こすため、その上限を0.1%とした。しかし、Cが無添加の場合は、マルテンサイトが得られにくく、また他の高価な元素のみで残留応力低減を図らなければならず経済的とはいえない。Cが0.02%以上添加する場合に限定したのは、安価な元素であるCを利用し、その経済メリットが出る最低限の値として設定した。
【0028】
Siは、脱酸元素として知られる。Siは、溶接金属の酸素レベルを下げる効果がある。特に溶接施工において、溶接中に空気が混入する危険性があるため、Si量を適切な値にコントロールすることはきわめて重要である。まず、Siの下限についてであるが、溶接金属に添加するSi量として0.1%に満たない場合、脱酸効果が薄れ溶接金属中の酸素レベルが高くなりすぎ、機械的特性、特に靱性の劣化を引き起こす危険性がある。そのため、溶接金属については、その下限を0.1%とした。一方、過度のSi添加も靱性劣化を発生せしめるため、その上限を0.7%とした。
【0029】
Mnは、強度を上げる元素として知られる。そのため、本発明における第2の技術思想である変態膨張時の降伏強度確保という観点から有効利用すべき元素である。Mnの下限、0.1%は強度確保という効果が得られる最低限の値として設定した。一方、過度の添加は、溶接金属の靱性劣化を引き起こすためその上限を1.5%とした。
【0030】
PおよびSは、本発明では不純物である。しかし、これら元素は、溶接金属に多く存在すると、靱性が劣化するため、その上限をそれぞれ0.03%、0.02%とした。
【0031】
Niは、単体でオーステナイトすなわち面心構造を持つ金属である。鉄そのものは、高温域でオーステナイト構造になり、低温域でフェライトすなわち体心構造になる。Niは、それを添加することにより、鉄の高温域における面心構造をより安定な構造にするため、無添加の場合に比べ、より低温度域においても面心構造となる。このことは、体心構造に変態する温度が低くなることを意味する。また、Niはそれを添加することにより溶接金属の靱性を改善するという効果を持つ。Cr系溶接金属におけるNi添加量の下限9.5%は、残留応力低減効果が現れる最低限の添加量および靱性確保の観点から決定した。Ni添加量の上限12%は、次に述べるCr添加によりある程度Ms温度が低減されていることを前提に、これ以上添加すると、Ms温度が低くなりすぎ変態途中の段階で室温に達してしまい、構造物使用時に継手の特性変化を引き起こしてしまうため、また、これ以上添加するとNiが高価であるという経済的デメリットが生じてくるためこの値を設定した。
【0032】
Crは、Niと異なり、フェライトフォーマーである。しかし、Crは、それを鉄に添加すると、高温度域ではフェライトであるものの、中温度域ではオーステナイトを形成し、さらに温度が低くなると再びフェライトを形成する。ただし、溶接部の場合、溶接入熱によ熱履歴で、低い温度側のフェライトは一般的に得られず、マルテンサイトが得られることになるCrを添加することによるマルテンサイト変態は、焼入性が増加することによるフェライト変態が生じない点と、Ms温度そのものが低くなるという2つの点が存在する。これら両方の効果を満たしながら残留応力を低減するための変態膨張を有効利用するCr添加範囲として、下限11%を設定した。上限15%は、これを上回る量を添加してもその効果が大きくならない上、経済的にもデメリットが大きくなるため、この値を設定した。
【0033】
本発明では、以上の成分を必須成分としているが、必要に応じ、以下の成分も添加することができる。
【0034】
Nbは、溶接金属中においてCと結合し、炭化物を形成する。Nb炭化物は、少量で溶接金属の強度を上げる働きがあり、従って、有効利用することの経済メリットは大きい。しかし、一方で過度の炭化物形成は、靱性劣化が発生するため自ずと上限が設定される。Nbの下限は、炭化物を形成せしめ、強度増加効果が期待できる最低の値として0.01%を設定した。上限は、靱性劣化による溶接部の信頼性が損なわれない値として1%とした。
【0035】
VもNbと同様な働きをする元素である。しかし、Nbと異なり、同じ析出効果を期待するためには、Nbより添加量を多くする必要がある。V添加の下限0.05%は、添加することにより析出硬化が期待できる最低値として設定した。Vの上限は、これより多く添加すると析出硬化が顕著になりすぎ、靱性劣化を引き起こすために0.5%とした。
【0036】
Tiも、Nb、V同様、炭化物を形成し析出硬化を生じせしめる。しかし、Vの析出硬化がNbのそれと違っていたようにTiの析出硬化もまたNb、Vと異なる。そのため、Tiの添加量の範囲もNb、Vと異なった範囲が設定される。Ti添加量の下限0.01%は、その効果が期待できる最低量として、上限の1%は靱性劣化を考慮して決定した。
【0037】
Moも、Nb、V、Ti同様析出硬化が期待できる元素である。しかし、Moは、Nb、V、Tiと同等な効果を得るためには、Nb、V、Ti以上に添加する必要がある。Mo添加量の下限0.1%は、析出硬化による降伏強度増加が期待できる最低値として設定した。また、上限の1.5%は、Nb、V、Ti同様、靱性劣化を考慮して決定した。
【0038】
NbおよびTiは、上記のように強度を確保する効果の他、溶接金属の結晶粒を微細化する効果もある。結晶粒の微細化には、溶接金属の靱性改善に有効である。本発明は、疲労強度改善方法を提供することを目的としているが、靱性改善が期待できる成分範囲を限定することは有効なことと考えている。結晶粒の微細化には、NbやTi単独の値よりもその合計、すなわちNb+Tiの量が問題である。Nb+Tiの下限0.8%は、これを下回る量では、結晶粒の微細化が充分に達成されず、1.2%を超えると効果が飽和する。
【0039】
以上、溶接金属中の成分含有量の限定理由について述べてきたが、溶接金属中の成分含有量を制御する方法として、溶接に用いる溶接ワイヤ、充填フラックスおよび溶接棒(溶接心線および被覆フラックス)などの溶接材料の成分を調整する必要がある。
【0040】
一般に、溶接材料を用いて軟鋼または490MPa級鋼を溶接する場合、溶接により形成された溶接金属中の成分は、必ずしもその溶接材料の成分、すなわちオールデポ試験における成分にならず、母材の成分の溶け込み(母材希釈)によりその成分値が変わってしまう。特に、本発明で対象とする被溶接材である軟鋼または490MPa級鋼には、C、Si、Mnが基本成分として含有し、不純物元素としてP、Sが含有されており、これ以外の成分は通常添加されていない。
【0041】
一方、本発明の溶接金属中の成分として、特に、CrおよびNiは溶接金属のMs温度を制御するために重要な元素であるため、本発明で規定する溶接金属のMs温度にするためには、溶接材料中の成分、特に、CrおよびNiの含有量を母材希釈を考慮した成分含有量に規定しなければならない。また、溶接材料のMs温度についても同様に溶接時の母材希釈の影響を考慮して規定する必要がある。
【0042】
以上から本発明において、軟鋼または490MPa級鋼の溶接の際に用いる溶接材料のMs温度および成分を以下のように規定する。
【0043】
本発明における溶接材料のMs温度、すなわちオールデポ試験の溶接金属からフォーマスター試験片を採取して測定したMs温度は、軟鋼または490MPa級鋼の母材希釈を考慮して、目標とする溶接金属のMs温度よりも25℃低い値にする必要がある。したがって、本発明における溶接材料のMs温度を100〜170℃未満に規定する。
【0044】
本発明における溶接材料の成分について、それぞれの成分の作用効果については上述の通りであり、また、溶接材料の成分の内、C、Si、Mn、P、Sの各成分については、それぞれの成分含有量は上述の溶接金属の含有量と同じでよい。しかしながら、軟鋼または490MPa級鋼の母材成分としては、通常含有しない溶接材料中のNi、Cr、Nb、V、Ti、Mo、NbおよびTiの合計量については溶接時の母材希釈を考慮して、Ni:10〜14%、Cr:13〜18%、Nb:0.01〜1.2%、V:0.05〜0.6%、Ti:0.01〜1.2%、Mo:0.1〜1.7%(以上、Nb、V、TiおよびMoは、これら成分の内の1種または2種以上を添加)、NbおよびTiの合計量:0.9〜1.4%とそれぞれ規定する。
【0045】
次に、室温における溶接金属が含有する残留オーステナイトを限定した理由について述べる。
【0046】
残留オーステナイトは、疲労強度改善というよりも、溶接割れを防ぐことを目的として導入するものである。割れを防ぐことができれば、割れによる疲労強度低下を防止することができる。残留オーステナイトの下限20%は、これを下回る残留オーステナイト量では低温割れが発生する危険性が生じるためこの値を設定した。また、過度の残留オーステナイトは、溶接金属中に未変態部分が多く存在することを意味し残留応力が充分低減されない危険が生じてくる。さらに、多量の残留オーステナイトを含有することは、室温において変態途中段階であることを意味し、構造物使用中に外的要因例えば外からの衝撃により溶接金属が部分的に変態を開始し、残留応力分布を変化させる危険性を高めてしまう。残留オーステナイトの上限50%は、このような理由により設定した。
【0047】
次に、溶接継手の形状を限定した理由について述べる。
【0048】
本発明では、面外ガセット、カバープレート、スタッド、が疲労荷重を受ける構造部材に溶接されている継手、スカラップの回し溶接継手が疲労荷重を受ける構造部材に存在する場合などを考えている。本発明においては、既に述べているように、溶接金属における低Ms温度化を図り、この溶接金属の変態膨張に対する反力を利用して鋼材HAZの残留応力低減しようという技術思想である。この反力を利用する方法は、全ての溶接継手に適用できるものではないため、この方法が有効になる溶接継手に限定しなければならない。この技術思想は、図2に示すような継手形状で有効になる。しかも、このような継手は、溶接構造物でしばしば疲労が問題となる継手である。本発明における溶接継手、すなわち面外ガセット1やカバープレート、またはスタッドが矢印の荷重負荷方向2の疲労荷重を受ける構造部材3に回し溶接4が施されている継手、あるいは、スカラップを有する構造部材が回し溶接にて取り付けられている溶接継手である。このような継手は、図3に示すように、溶接金属の変態膨張に対する反力により鋼材側溶接熱影響部に圧縮残留応力が主として図中AおよびBに導入される継手である。すなわち、構造部材3の鋼材HAZの圧縮残留応力を溶接金属変態膨張に対する反力の作用で低減できる溶接継手であり、かつ、溶接構造物の疲労強度を決定する溶接継手であるため、本発明ではこれら溶接継手に最適である。
【0049】
溶接止端部を形成する溶接ビードに本発明における溶接金属を形成せしめれば高疲労強度溶接継手が実現するが、止端部溶接ビードが形成された後、さらに図2に示すように他の付加ビード5が形成されると残留応力の分布が変化する可能性がある。この付加ビード5が新たに溶接止端部を形成するビードになる場合は、この付加ビードに対し本発明が提示する溶接金属になるような材料選択を行った溶接継手を作製すればよい。しかし、そうではない場合は、残留応力分布が変化する可能性があるため、溶接止端部を形成する溶接ビードが、近傍の他の溶接ビードと比べ最終凝固する、すなわち最終ビードになるような溶接順序が選択された溶接継手にすることが望ましい。
【0050】
溶接止端部を形成するビードが、近傍の他の溶接ビードと比べ最終凝固するように溶接順序を設定すれば残留応力低減が実現でき、疲労強度改善が期待できる。そのため、本発明における溶接金属を角回し継手における付加ビードとして利用し、他の溶接ビードに対しては、通常の軟鋼または490MPa級鋼材用の溶接材料を用いても、疲労強度向上を達成することができる。このような溶接材料の組み合わせをすれば、実施工上いくつかの利点を得ることができる。まず、低温変態溶接材料は、合金元素を多く含むため、作業性の観点からは従来溶接材料より劣っているといわざるを得ない。そのため、このような溶接材料の組み合わせは、ほとんどの溶接金属を作業性が良好な従来溶材を使うことができるという利点を生む。また、低温変態溶材は、合金元素を多く含むが故に高価であるため、従来溶接材料との組み合わせは、材料費を抑えることに有効である。
【0051】
【実施例】
表1に、残留応力および疲労強度を調べるために用いた溶接金属の成分値を示す。なお、表1において、本発明例は本発明の規定範囲内の溶接材料を用いたもの、比較例は本発明で規定する範囲外の溶接材料を用いたものを示す。また、表1に、Ms温度(℃)を示しているが、これは各溶接金属より直接フォーマスター試験片を採取し、それによりMs温度を測定した結果である。
【0052】
図4は、ビード止端部の残留応力を測定するために作製した溶接継手であって、面外ガセット1を疲労荷重を受ける構造部材3に角回し溶接して溶接部6を形成した角回し溶接継手の図を示している。溶接部本ビード7は通常の溶接材料を用いているが、本溶接終了後、付加ビード5として表1にある、WA、WBの溶接金属を形成せしめた継手である。残留応力は、図4中の残留応力測定位置8に示すような溶接止端部にゲージ長さ2mmのひずみゲージを貼り付け、機械加工で応力を緩和させる、いわゆる切断法で測定した。図5に残留応力測定結果を示したが、図5より明らかなように、本発明例ではWBは圧縮残留応力になっているのに対し、比較例であるWAはNi添加不足のため残留応力は引っ張りである。なお、数値の単位はMPaである。
【0053】
図6は、軟鋼を用いたときの角回し溶接継手の疲労試験結果を示す図であり、図4に示す面外ガセットを角回し溶接で取り付けた溶接継手の疲労強度を示している。疲労荷重負荷方向は、図4にある矢印方向、すなわち、面外ガセット長手方向である。また、母材には軟鋼を用いた。付加ビード用いた溶接金属は表1のWB、WCおよびWDである。図6より、本発明例であるWB、WCは明らかに比較例であるWDより疲労寿命および疲労限が向上している。
【0054】
次に、角回し溶接部同様疲労がよく問題となる、カバープレートが疲労荷重を受ける構造部材に溶接されている継手における疲労強度を調べた。図7は、疲労強度を調べたカバープレートが取り付けられた溶接継手疲労試験片形状を示している。図中の付加ビード5は、カバープレート9を溶接で接合した後の溶接部6に形成されたビード、すなわち最終ビードである。疲労荷重を受ける構造部材3の荷重負荷方向は、図中矢印の方向である。また、この溶接継手では母材として490MPa級鋼材を用いた。この付加ビードに対し、表1に示す、WA、WB、WEの溶接金属を形成せしめ溶接継手を作製した。図8には、図7の溶接継手の疲労強度を示している。すなわち、カバープレートが取り付けられた490MPa級鋼材を用いた溶接継手疲労試験結果を示している。カバープレートを取り付けた溶接継手においても、図8から明らかなように、本発明例の継手は比較例と比べ疲労寿命、疲労限共に高いことが実証された。
【0055】
次に、カバープレートが疲労荷重を受ける部材に溶接されている継手において、表1にある比較例のWFの成分の溶接金属を形成せしめた場合の疲労強度を調べた。なお、WFの溶接金属を形成せしめた後、一部の試験片はそのまますなわち溶接ままの状態で疲労試験を実施した。図7と同じ形状の、490MPa級鋼材を用いた溶接継手に、図9に示すように矢印の衝撃を加えた部分10の範囲にわたって衝撃を加え、部分的に変態を促進させた。図10は、このように付加ビードを形成する溶接金属に衝撃を与えたときの疲労強度への影響を示した図である。図よりわかることは、溶接ままの方は、変態温度も低く残留応力も低減されていて、疲労強度向上が認められるが、部分的に衝撃を与えた試験片に対しては、疲労強度が落ちていることが理解できる。これは、衝撃を与えた部分が、変態が促進され、それに伴う膨張により、他の部分に引張り残留応力を導入させてしまったからである。これは、比較例のWFの溶接金属は、Ms温度が100℃にも達しておらず、残留オーステナイト量は60%であり、本発明の範囲外であるからで、室温において変態途中段階であるため、外的刺激により残留応力分布が変化してしまうからである。実際の継手において、わざとこのような外的刺激を与えることはないが、構造物の使用中にどの様な外的負荷が作用するかは、必ずしも予測できるものではない。例えば、地震などによる予想外の衝撃が作用することもあり得る。従って、このような外的負荷が作用しても疲労強度改善効果が変わらないことが望ましい。実際、図8の本発明例であるWB、WEに図9に示す範囲に衝撃を与えても疲労強度にほとんど影響を与えなかった。
【0056】
次に、前記角回し溶接継手およびカバープレート取り付け継手同様、疲労が問題となるスタッドが取り付けられた溶接継手が疲労荷重を受ける部材に溶接されている継手における疲労強度を調べた。図11は、スタッド11が疲労荷重を受ける構造部材3に溶接部6で溶接されている継手構造の疲労強度を調べた試験片形状を示している。図中のハッチングを施した部分が溶接ビードであり、この部分に表1に示している比較例WA、本発明例WBの溶接金属を形成せしめ溶接継手を作製した。母材に用いた鋼材は軟鋼である。図12には、図11の溶接継手の疲労試験結果を示している。図12で明らかなように、スタッドを取り付けた溶接継手においても本発明例WBの溶接継手は比較例WAと比べ疲労寿命、疲労限共に高い。
【0057】
図13は、スカラップ12を有する溶接継手形状を示している。すなわち、フランジ構造部材13とウエブ構造部材14とを回し溶接4により接合し、付加ビード5を形成した溶接継手である。図13中の付加ビード部分に、表1に示す比較例WA、WD、本発明例WB、WEの溶接金属を形成せしめ溶接継手を作製した。表1のWA、WD、WB、WEの溶接金属は、図13のように付加ビードとして形成せしめた。図14は、その疲労試験結果を示している。図14より、本発明例WB、WE溶接継手は、比較例WA、WD溶接継手より、疲労限、疲労寿命ともに高い。
【0058】
【表1】
Figure 0004002389
【0059】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、軟鋼または490MPa級鋼材を用いたときの回し溶接止端部の疲労強度向上が実現でき、実用的な施工方法のみで作製可能な疲労強度に優れた回し溶接継手およびその作製方法を提供することが可能である。従って、本発明は工業的価値のきわめて高い発明であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 軟鋼を用いた角回し溶接部に、付加ビードとして従来溶接材料とCr10%およびNi10%を含有する低温変態溶接材料を用いたときの疲労特性を示した図である。
【図2】 面外ガセットを有する角回し溶接継手の試験片形状を示した図である。
【図3】 溶接金属の変態膨張方向およびその反力により残留応力が低減される鋼材HAZ領域を説明した図である。
【図4】 面外ガセットを、疲労荷重を受ける構造部材に角回し溶接で取り付け、さらに付加ビードを形成させた回し溶接継手、およびその溶接継手における残留応力測定位置を説明した図である。
【図5】 図4の回し溶接継手において、付加ビードとして、表1に示す比較例WA、本発明例WBの溶接金属を形成せしめたときの残留応力測定結果を示した図である。
【図6】 図4の回し溶接継手において、付加ビードとして、表1に示す本発明例WB、WC、比較例WDの溶接金属を形成せしめたときの回し溶接継手における疲労強度を示した図である。
【図7】 疲労荷重を受ける構造部材にカバープレートを溶接にて取り付け、さらに付加ビードを形成させた溶接継手を説明した図である。
【図8】 図7の回し溶接継手において、付加ビードとして、表1に示す比較例WA、本発明例WB、WEの溶接金属を形成せしめたときの回し溶接継手における疲労強度を示した図である。
【図9】 疲労荷重を受ける構造部材にカバープレートを溶接にて取り付け、さらに付加ビードを形成させ、その付加ビードの一部に衝撃を加えた疲労試験片の形状を示した図である。
【図10】 図7および図9の回し溶接継手において、付加ビードとして表1の比較例WFを用い、溶接金属への衝撃の有無が与える疲労特性への影響を示した図である。
【図11】 疲労荷重を植える構造部材にスタッドを回し溶接して取り付けた回し溶接継手を説明した図である。
【図12】 図11の回し溶接継手において、溶接部として、表1に示す比較例WA、本発明例WBの溶接金属を形成せしめたときの回し溶接継手における疲労強度を示した図である。
【図13】 スカラップを有する構造部材を回し溶接にて取り付け、さらに角回し部に付加ビードを形成させた継手を説明した図である。
【図14】 図13の回し溶接継手において、付加ビードとして、表1に示す比較例WA、本発明例WB、比較例WD、本発明例WEの溶接金属を形成せしめたときの回し溶接継手における疲労強度を示した図である。
【符号の説明】
1 面外ガセット
2 荷重負荷方向
3 疲労荷重を受ける構造部材
4 回し溶接
5 付加ビード
6 溶接部
7 本ビード
8 残留応力測定位置
9 カバープレート
10 衝撃を加えた部分
11 スタッド
12 スカラップ
13 フランジ構造部材
14 ウエブ構造部材

Claims (9)

  1. 軟鋼または490MPa級鋼の回し溶接継手において、溶接止端部の溶接ビードの化学成分として、質量%で、C:0.02〜0.1%、Si:0.1〜0.7%、Mn:0.1〜1.5%、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Cr:11〜15%、Ni:9.5〜12%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、かつオーステナイトからマルテンサイトに変態を開始する温度が125〜195℃である溶接金属からなり、かつ前記溶接止端部の溶接ビードの溶接金属組織として、残留オーステナイトを20〜50%含有することを特徴とする疲労強度に優れた軟鋼または490MPa級鋼の回し溶接継手。
  2. 前記溶接止端部の溶接ビードの化学成分として、さらに、質量%で、Mo:0.1〜1.5%、Ti:0.01〜1%、Nb:0.01〜1%、およびV:0.05〜0.5%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の疲労強度に優れた軟鋼または490MPa級鋼の回し溶接継手。
  3. 前記溶接止端部の溶接ビードの化学成分において、質量%で、TiおよびNbの合計量が0.8〜1.2%であることを特徴とする請求項2に記載の疲労強度に優れた軟鋼または490MPa級鋼の回し溶接継手。
  4. 軟鋼または490MPa級鋼を用いて回し溶接継手を作製する方法において、溶接材料の化学成分として、質量%で、C:0.02〜0.1%、Si:0.1〜0.7%、Mn:0.1〜1.5%、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Cr:13〜18%、Ni:10〜14%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、かつオーステナイトからマルテンサイトに変態を開始する温度が100〜170℃未満である溶接材料を用いて、溶接止端部に、溶接金属組織として、残留オーステナイトを20〜50%含有する溶接ビードを形成することを特徴とする疲労強度に優れた軟鋼または490MPa級鋼の回し溶接継手の作製方法。
  5. 前記溶接材料の成分として、さらに、質量%で、Mo:0.1〜1.7%、Ti:0.01〜1.2%、Nb:0.01〜1.2%、およびV:0.05〜0.6%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項4に記載の疲労強度に優れた軟鋼または490MPa級鋼の回し溶接継手の作製方法。
  6. 前記溶接材料の成分において、質量%で、TiおよびNbの合計量が0.9〜1.4%であることを特徴とする請求項5に記載の疲労強度に優れた軟鋼または490MPa級鋼の回し溶接継手の作製方法。
  7. 溶接ビード形成後、さらに、前記溶接材料を用いて、溶接止端部に付加溶接ビードを形成することを特徴とする請求項4から請求項6の内の何れか1項に記載の疲労強度に優れた軟鋼または490MPa級鋼の回し溶接継手の作製方法。
  8. 荷重を受ける構造部材と面外ガセット、カバープレート、およびスタッドのうちの1種または2種以上とを回し溶接して溶接継手を作製することを特徴とする請求項4から請求項7の内の何れか1項に記載の疲労強度に優れた軟鋼または490MPa級鋼の回し溶接継手の作製方法。
  9. スカラップを有する荷重を受ける構造部材と構造部材とを回し溶接して溶接継手を作製することを特徴とする請求項4から請求項7の内の何れか1項に記載の疲労強度に優れた軟鋼または490MPa級鋼の回し溶接継手の作製方法。
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