上記した特許文献1に記載されている車両用ステアリング装置では、乗員がリング部の下方部分に衝突することによってシェアピンを破断させ、リング部の下方部分を車両前方へ移動させることが可能であるものの、ステアリングハンドルに車両衝突時にて膨張展開するエアバッグが組付けられておらず、乗員とエアバッグとリング部の関係が考慮されていない。
このため、上記したステアリングハンドルにエアバッグを組付けた場合には、エアバッグの膨張展開時に、シェアピンが破断せず、リング部の下方部分が車両前方へ移動しない状態で、エアバッグが膨張展開することとなる。したがって、リング部の下方部分と乗員間にて必要十分な間隔が確保されていない場合には、エアバッグがリング部の下方部分と乗員間にて的確に膨張展開できないおそれがある。
本発明は、上記した問題に対処すべくなされたものであり、ステアリングメインシャフトに固着されるハブと、回動操作可能で車両の直進状態にて少なくとも下方に操作部を備えるグリップと、前記ハブに連結されて前記グリップを支持するスポークを有するステアリングハンドルを備えるとともに、このステアリングハンドルに設けられて車両衝突時に前記ステアリングハンドルと乗員間にて膨張展開するエアバッグを備えた車両用ステアリング装置において、前記ハブに設けられて車両の直進状態における縦断面形状が円弧形状の摺動面を有するハブ側ポストと、前記スポークに設けられて前記ハブ側ポストの摺動面に摺動可能に係合する摺動面を有し前記ハブ側ポストに回動可能に組付けられるスポーク側ポストと、前記スポーク側ポストにおける摺動面の前記ハブ側ポストにおける摺動面に対する摺動を解除可能に規制するロック手段と、車両衝突時における前記エアバッグの膨張展開前に前記ロック手段による前記スポーク側ポストにおける摺動面の前記ハブ側ポストにおける摺動面に対する摺動規制を解除するアクチュエータを設けたものである。また、前記ロック手段が、前記スポーク側ポストにおける摺動面の前記ハブ側ポストにおける摺動面に対する摺動を、前記スポーク側ポストにおける摺動面の前記ハブ側ポストにおける摺動面に対する圧接による摩擦係合力によって規制するロック手段であり、前記ハブ側ポストの摺動面から離反する方向への移動を規制された状態で前記スポーク側ポストに対して移動可能に設けられて前記アクチュエータの作動によって原位置から移動位置に移動するロックプレートと、このロックプレートと前記スポーク側ポスト間に介装され、前記ロックプレートが原位置にあるとき前記ロックプレートにより前記ハブ側ポストの摺動面から離反する方向への移動を規制されて前記スポーク側ポストの摺動面を前記ハブ側ポストの摺動面に向けて押圧し、前記ロックプレートが移動位置にあるとき前記ハブ側ポストの摺動面から離反する方向への移動を許容されて前記スポーク側ポストにおける摺動面の前記ハブ側ポストにおける摺動面に対する押圧を解除するカラーを備えていることに特徴がある。
本発明による車両用ステアリング装置においては、スポークに設けられてハブ側ポストの摺動面に摺動可能に係合する摺動面を有するスポーク側ポストが、ハブに設けられて車両の直進状態における縦断面形状が円弧形状の摺動面を有するハブ側ポストに回動可能に組付けられていて、ロック手段がスポーク側ポストにおける摺動面のハブ側ポストにおける摺動面に対する摺動を解除可能に規制している。これにより、車両が衝突しない常態においては、乗員がグリップにてステアリングハンドルを普通に回動操作可能である。一方、車両衝突時においては、エアバッグがステアリングハンドルと乗員間にて膨張展開して、乗員が車両前方へ移動しようとする衝撃エネルギを吸収可能である。
ところで、車両衝突時におけるエアバッグの膨張展開前には、アクチュエータがロック手段によるスポーク側ポストにおける摺動面のハブ側ポストにおける摺動面に対する摺動規制を解除する。このため、車両の直進状態にて車両が衝突し、エアバッグが膨張展開するときには、スポーク側ポストの摺動面がハブ側ポストの摺動面に対して上方へ摺動可能となっており、エアバッグの膨張展開に伴って、スポーク側ポストがハブ側ポストに対して上方へ回動し、スポーク側ポストにスポークを介して連結されたグリップが、下方の操作部を車両前方へ移動させるように傾動する。
したがって、車両の直進状態にて車両が衝突する前においてグリップの下方の操作部と乗員間にて必要十分な間隔が確保されていない場合においても、車両が衝突した際のエアバッグの膨張展開時に同部位(グリップの下方の操作部と乗員間)の間隔を車両衝突前に比して大きくすることができて、同部位の間隔を確保することができ、同部位へのエアバッグの膨張展開性能を向上させることが可能である。
また、本発明による車両用ステアリング装置においては、スポークに設けられているスポーク側ポストが、ハブに設けられているハブ側ポストに回動可能に組付けられていて、ステアリングハンドルの構成部品にてエアバッグの膨張展開時にグリップの下方の操作部と乗員間の間隔を車両衝突前に比して大きくすることができる。このため、ステアリングハンドルを支持するステアリングコラムまたはインストルメントパネルリインフォースメント等を設計変更する必要がなくて、少ない部品点数かつ単純な構成で本発明を実施することが可能である。
また、前記ロック手段は、前記スポーク側ポストにおける摺動面の前記ハブ側ポストにおける摺動面に対する摺動を、前記スポーク側ポストにおける摺動面の前記ハブ側ポストにおける摺動面に対する圧接による摩擦係合力によって規制するロック手段であり、前記ハブ側ポストの摺動面から離反する方向への移動を規制された状態で前記スポーク側ポストに対して移動可能に設けられて前記アクチュエータの作動によって原位置から移動位置に移動するロックプレートと、このロックプレートと前記スポーク側ポスト間に介装され、前記ロックプレートが原位置にあるとき前記ロックプレートにより前記ハブ側ポストの摺動面から離反する方向への移動を規制されて前記スポーク側ポストの摺動面を前記ハブ側ポストの摺動面に向けて押圧し、前記ロックプレートが移動位置にあるとき前記ハブ側ポストの摺動面から離反する方向への移動を許容されて前記スポーク側ポストにおける摺動面の前記ハブ側ポストにおける摺動面に対する押圧を解除するカラーを備えている。
これにより、ロック手段が、スポーク側ポストにおける摺動面のハブ側ポストにおける摺動面に対する摺動を、スポーク側ポストにおける摺動面のハブ側ポストにおける摺動面に対する圧接による摩擦係合力によって規制する。このため、車両が衝突しない常態において、ハブ側ポストに対するスポーク側ポストのガタつきを防止することが可能である。したがって、ステアリングハンドルにて生じる振動または異音を低減させることができて、上記振動または異音による操舵フィーリングの悪化を抑制することが可能である。
また、本発明の実施に際して、前記スポーク側ポストにおける摺動面の前記ハブ側ポストにおける摺動面に対する摺動の摺動方向を車両の直進状態における上下方向に規定するガイド手段が設けられていることも可能である。この場合には、ガイド手段が、スポーク側ポストにおける摺動面のハブ側ポストにおける摺動面に対する摺動の摺動方向を車両の直進状態における上下方向に規定する。このため、車両の直進状態にて車両が衝突する際のエアバッグの膨張展開時に、スポーク側ポストの摺動面をハブ側ポストの摺動面に対して上下方向に安定して摺動させることができて、グリップを乗員の胴部等と正しく対向(正対)させることができ、エアバッグの所期の機能を発揮させることが可能である。
以下に、本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。図1〜図11は本発明による車両用ステアリング装置の第1実施形態を示していて、この第1実施形態のステアリング装置は、乗員にて回動操作可能なステアリングハンドル10と、このステアリングハンドル10に設けられているエアバッグ20を備えるとともに、ステアリングハンドル10に設けられているロック手段30およびパイロアクチュエータ40を備えている。
ステアリングハンドル10は、図1〜図3に示したように、ステアリングメインシャフト50に固着されているハブ11と、このハブ11に連結されている四個のスポーク12と、これらスポーク12に支持されている環状のグリップ13と、ハブ11に設けられているハブ側ポスト14と、スポーク12に設けられているスポーク側ポスト15を備えている。
ハブ11は、図3に示したように、ステアリングメインシャフト50にトルク伝達可能に連結するための連結孔11aを有していて、この連結孔11aにてステアリングメインシャフト50の上端部(車両後端部)にトルク伝達可能に嵌合されている。なお、ハブ11は、ステアリングメインシャフト50の上端ネジ部51に螺着したナット52にて抜け止めされている。これにより、ハブ11は、ステアリングメインシャフト50とともに、ステアリングメインシャフト50の軸心、すなわち回動中心O1回りに回動可能である。
各スポーク12は、図2に示したように、車両の直進状態にて左右と左斜め下方と右斜め下方に延びるように形成されていて、径内方端(グリップ13の径方向における径中心側)にてスポーク側ポスト15およびハブ側ポスト14を介してハブ11に連結されており、径外方端(グリップ13の径方向における径外方側)にてグリップ13を支持している。
グリップ13は、図1および図2に示したように、ハブ11を中心として同心的に配置されていて、車両の直進状態にて下方の操作部13aが乗員と近接している状態で各スポーク12に支持されており、車両が衝突しない常態において、乗員にて回動中心O1回りに回動操作可能である。
ハブ側ポスト14は、図1〜図3に示したように、車両前方側の端面にてハブ11に溶接によって固着されていて、車両後方側に係合穴14aを有している。この係合穴14aは、スポーク側ポスト15を回動可能に組付けるためのものであり、車両後方に向けて開口していて、車両前方端(底面)に図1の紙面に直交する中心線O2を中心とする円筒形状の摺動面14a1を有している。
また、ハブ側ポスト14は、中央部に収容穴14bを有するとともに、車両の直進状態にて左方部および右方部に一対の挿通孔14cを有している。収容穴14bは、ステアリングメインシャフト50の上端ネジ部51とこの上端ネジ部51に螺着したナット52を収容している。各挿通孔14cは、ロック手段30のフランジ付ボルト31およびスリーブ32を挿通するためのものであり、車両の前後方向に貫通するように形成されている。
スポーク側ポスト15は、図2に示したように、各スポーク12を介してグリップ13に連結されていて、ハブ側ポスト14の係合穴14aに車両の直進状態における上下方向へ回動可能に組付けられている。また、スポーク側ポスト15は、車両前方側の端面にてハブ側ポスト14の摺動面14a1に摺動可能に係合する図1の中心線O2を中心とする円筒形状の摺動面15aを有していて、車両の直進状態における左方部および右方部に上下方向に延びるガイド手段としての一対の長孔15bを有している。
各長孔15bは、スポーク側ポスト15における摺動面15aのハブ側ポスト14における摺動面14a1に対する摺動の摺動方向を車両の直進状態における上下方向に規定するためのものであり、車両の直進状態における上端部には、ロック手段30のフランジ付ボルト31およびスリーブ32が挿通されている。これにより、スポーク側ポスト15の摺動面15aがハブ側ポスト14の摺動面14a1に対して上方へ摺動すると、スポーク側ポスト15がハブ側ポスト14に対して上方へ回動し、スポーク側ポスト15に各スポーク12を介して連結されたグリップ13が、下方の操作部13aを車両前方へ移動させるように傾動する。
エアバッグ20は、車両衝突時にステアリングハンドル10と乗員間にて膨張展開して、乗員が車両前方へ移動しようとする衝撃エネルギを吸収するためのものである。また、エアバッグ20は、図1の仮想線で示したように、グリップ13の中央(グリップ13の径方向における径中心)に折り畳まれた状態で配置されるようにブラケット(図示省略)を介してハブ側ポスト14に組付けられていて、周知のようにインフレータ21から供給される膨張用ガスによって膨張展開可能である。なお、インフレータ21は、図1の仮想線で示したように、ブラケット(図示省略)を介してハブ側ポスト14に組付けられていて、電気制御装置60によって作動を制御されており、通電によってエアバッグ20内に膨張用ガスを供給可能である。
ロック手段30は、図4および図5に示したように、スポーク側ポスト15における摺動面15aのハブ側ポスト14における摺動面14a1に対する摺動を解除可能に規制するためのものであり、ハブ側ポスト14の挿通孔14cとスポーク側ポスト15の長孔15bに挿通されているフランジ付ボルト31およびスリーブ32と、フランジ付ボルト31のフランジ部とスポーク側ポスト15の車両後方側の端面の間に介装されているロックプレート33および樹脂製のカラー34と、ハブ側ポスト14に設けられているウェルドナット35を備えている。
フランジ付ボルト31は、車両の直進状態にて左右一対に設けられていて、図4に車両の直進状態における左方側を例として示したように、ハブ側ポスト14の挿通孔14cとスポーク側ポスト15の長孔15bに挿通されて、ハブ側ポスト14の車両前方側の端面に溶接されたウェルドナット35に車両後方側(図4の右側)から螺着することによって抜け止めされている。
スリーブ32は、フランジ付ボルト31のネジ部がウェルドナット35に車両後方側から螺着する締付量を規定するためのものであり、車両の直進状態にて左右一対に設けられている。また、スリーブ32は、図4に車両の直進状態における左方側を例として示したように、円筒状に形成されていて、フランジ付ボルト付31のネジ部を覆うようにして設けられている。これにより、スポーク側ポスト15における摺動面15aのハブ側ポスト14における摺動面14a1に対する圧接による摩擦係合力が、各スリーブ32の軸方向長さによって調整されている。
ロックプレート33は、図2に示したように、コ字状に形成されて車両の直進状態にて左右対称に配置されおり、図4および図5に車両の直進状態における左方部側を例として示したように、左方部および右方部に車両の前後方向に延びる四個の矩形孔33aと、下方を開口させてフランジ付ボルト31のネジ部およびスリーブ32に対して図示上方へ移動可能とするためのスリット33bを有している。
また、ロックプレート33は、フランジ付ボルト31のフランジ部とカラー34の間に介装されていて、フランジ付ボルト31のフランジ部によってハブ側ポスト14の摺動面14a1から離反する方向(図4の右方向)への移動を規制された状態でスポーク側ポスト15に対して移動可能、すなわち、ハブ側ポスト14の摺動面14a1から離反する方向と直交する方向(図4の上下方向)に移動可能に設けられており、パイロアクチュエータ40の作動によって原位置(図4および図5に示した位置)から図示上方の移動位置(図8および図9に示した位置)に移動可能である。
カラー34は、車両の直進状態にて左右一対に設けられていて、図4および図5に車両の直進状態における左方側を例として示したように、コ字形状に形成されてロックプレート33とスポーク側ポスト15間に介装されており、上端部にてスポーク側ポスト15の段部15c(図4参照)に固定されている。また、カラー34は、車両後方側に突出しロックプレート33の四個の矩形孔33aと嵌合可能な四個の円柱形状の突起34aと、下方を開口させてフランジ付ボルト31のネジ部およびスリーブ32に対して図示上方へ移動可能とするためのスリット34bを有している。
各突起34aは、ロックプレート33が原位置(図4および図5に示した位置)にあるとき、ロックプレート33の車両前方側の端面と係合している。これにより、カラー34は、ロックプレート33によってハブ側ポスト14の摺動面14a1から離反する方向への移動を規制されてスポーク側ポスト15の摺動面15aをハブ側ポスト14の摺動面14a1に向けて押圧(圧接)する。
また、各突起34aは、ロックプレート33が移動位置(図8および図9に示した位置)にあるとき、カラー34の各突起34aがロックプレート33の各矩形孔33aに嵌合可能な状態となる。これにより、カラー34は、ハブ側ポスト14の摺動面14a1から離反する方向への移動を許容されて、スポーク側ポスト15における摺動面15aのハブ側ポスト14における摺動面14a1に対する押圧を解除する。
パイロアクチュエータ40は、図2および図5に示したように、車両衝突時におけるエアバッグ20の膨張展開前に、ロック手段30によるスポーク側ポスト15における摺動面15aのハブ側ポスト14における摺動面14aに対する摺動規制を解除するためのものであり、電気制御装置60によって作動を制御されている。また、パイロアクチュエータ40は、スポーク側ポスト15の車両後方側の端面中央に組付けられているシリンダ41と、このシリンダ41内にて進退可能に組付けられているピストン(図示省略)と、このピストンに固着されているピストンロッド42と、通電によってガス発生剤(図示省略)に着火してガスを発生させるスクイブ(図示省略)を備えている。
ピストンロッド42は、車両の直進状態にて上下方向に延びていて、一端部にてピストンに固着されていて、シリンダ41外に突出する他端部に保持部材42aを有している。保持部材42aは、凹形状に形成されていて、ロックプレート33の図示中央下端部を所定量車両前後方向へ移動可能に支持している。これにより、ピストンロッド42は、スクイブが通電されると、シリンダ41とピストンによって区画された空間に発生したガスによって、図示上方へ進出して、ロックプレート33を原位置(図2および図5に示した位置)から図示上方の移動位置(図7および図9に示した位置)へ移動させることが可能である。
電気制御装置60は、図1に示したように、車両衝突時(車両が衝突すると同時)に車両衝突を検出可能なセンサ70からの出力信号に基づいてインフレータ21に通電するとともに、車両衝突時におけるインフレータ21の作動によってエアバッグ20が膨張展開する前に、具体的にはインフレータ21への通電と同時に、ロックプレート33を原位置から移動位置へ移動させるべくパイロアクチュエータ40のスクイブに通電する。
上記のように構成した第1実施形態においては、車両が衝突しない常態において、電気制御装置60がインフレータ21に通電しなくて、エアバッグ20は作動しない。また、電気制御装置60がパイロアクチュエータ40のスクイブに通電しなくて、図1、図2、図4および図5に示したように、ロックプレート33が原位置にあり、カラー34が、スポーク側ポスト15の摺動面15aをハブ側ポスト14の摺動面14a1に向けて押圧(圧接)する。これにより、スポーク側ポスト15の摺動面15aは、ハブ側ポスト14の摺動面14aに対して圧接による摩擦係合力によって摺動を規制されている。したがって、車両が衝突しない常態においては、乗員がグリップ13にてステアリングハンドル10を普通に回動操作可能である。
一方、車両衝突時においては、電気制御装置60がインフレータ21に通電して、インフレータ21がエアバッグ20内に膨張用ガスを供給する。これにより、車両衝突時においては、エアバッグ20がステアリングハンドル10と乗員間にて膨張展開して、乗員が車両前方へ移動しようとする衝撃エネルギを、膨張展開したエアバッグ20が吸収可能である。
ところで、車両衝突時におけるエアバッグ20の膨張展開前には、電気制御装置60が、インフレータ21への通電と同時に、パイロアクチュエータ40のスクイブに通電し、パイロアクチュエータ40が、図6〜図9に示したように、ロックプレート33を原位置から移動位置へ移動させる。これにより、カラー34は、ハブ側ポスト14の摺動面14a1から離反する方向への移動を許容されて、スポーク側ポスト15の摺動面15aが、ハブ側ポスト14の摺動面14a1に対する圧接による摺動規制を解除される。
このため、車両の直進状態にて車両が衝突し、エアバッグ20が膨張展開するときには、図10および図11に示したように、エアバッグ20の膨張展開に伴って、すなわち、エアバッグ20がグリップ13の下方の操作部13aと乗員(乗員の胴部等)に当接しながら膨張展開するのに伴って、スポーク側ポスト15の摺動面15aが、ハブ側ポスト14の摺動面14a1に対して車両の直進状態における上方へ摺動し、フランジ付ボルト31のネジ部が、スポーク側ポスト15の長孔15bの図示下端部に当接する。
また、このときには、各カラー34の各突起34aがロックプレート33の各矩形孔33aに嵌合し、各カラー34とロックプレート33とスポーク側ポスト15が一体となってハブ側ポスト14に対して上方へ回動し、スポーク側ポスト15に各スポーク12を介して連結されたグリップ13が、下方の操作部13aを車両前方へ移動させるように傾動する。なお、グリップ13の下方の操作部13aは、自重によってもスポーク側ポスト15の摺動面15aをハブ側ポスト14の摺動面14a1に対して車両の直進状態における上方へ摺動させて、車両前方へ移動する。
したがって、車両の直進状態にて車両が衝突する前においてグリップ13の下方の操作部13aと乗員間にて必要十分な間隔が確保されていない場合においても、車両が衝突した際のエアバッグ20の膨張展開時に同部位(グリップ13の下方の操作部13aと乗員間)の間隔を常態に比して大きくすることができて、同部位の間隔を確保することができ、同部位へのエアバッグ20の膨張展開性能を向上させることが可能である。
また、この第1実施形態においては、各スポーク12に設けられているスポーク側ポスト15が、ハブ11に設けられているハブ側ポスト14に回動可能に組付けられていて、ステアリングハンドル10の構成部品にてエアバッグ20の膨張展開時にグリップ13の下方の操作部13aと乗員間の間隔を車両衝突前に比して大きくすることができる。このため、ステアリングハンドル10を支持するステアリングコラムまたはインストルメントパネルリインフォースメント等を設計変更する必要がなくて、少ない部品点数かつ単純な構成で本発明を実施することが可能である。
また、この第1実施形態においては、ロック手段30が、スポーク側ポスト15における摺動面15aのハブ側ポスト14における摺動面14a1に対する摺動を、スポーク側ポスト15における摺動面15aのハブ側ポスト14における摺動面14a1に対する圧接による摩擦係合力によって規制する。このため、車両が衝突しない常態において、ハブ側ポスト14に対するスポーク側ポスト15のガタつきを防止することが可能である。したがって、ステアリングハンドル10にて生じる振動または異音を低減させることができて、上記振動または異音による操舵フィーリングの悪化を抑制することが可能である。
また、この第1実施形態においては、スポーク側ポスト15の長孔15bが、スポーク側ポスト15における摺動面15aのハブ側ポスト14における摺動面14a1に対する摺動の摺動方向を車両の直進状態における上下方向に規定(ガイド)する。このため、車両の直進状態にて車両が衝突する際のエアバッグ20の膨張展開時に、スポーク側ポスト15の摺動面15aをハブ側ポスト14の摺動面14a1に対して上下方向に安定して摺動させることができて、グリップ13を乗員の胴部等と正しく対向(正対)させることができ、エアバッグ20の所期の機能を発揮させることが可能である。
上記した第1実施形態においては、エアバッグ20をグリップ13の中央(グリップ13の径方向における径中心、すなわち回動中心O1)に配置されるようにブラケット(図示省略)を介してハブ側ポスト14に組付けて実施したが、図12に示した第1実施形態の変形実施形態のように、エアバッグ120をグリップ13の中央からグリップ13の下方の操作部13a寄りに偏位してブラケット(図示省略)を介してハブ側ポスト14に組付けて実施することも可能である。この場合には、インフレータ121も車両の直進状態にてグリップ13の下方の操作部13a寄りに偏位してブラケット(図示省略)を介してスポーク側ポスト14に組付けて実施する。
上記のように構成した図12の変形実施形態においては、エアバッグ120がグリップ13の回動中心O1からグリップ13の下方の操作部13a寄りに偏位してハブ側ポスト14に組付けられているため、上記した第1実施形態(エアバッグ20がグリップ13の中央に配置されるようにハブ側ポスト14に組付けられている場合)に比して、エアバッグ120がグリップ13の下方の操作部13aと乗員間に近くなる。このため、エアバッグ120の膨張展開時に、上記した第1実施形態に比して、グリップ13の下方の操作部13aと乗員間にてエアバッグ120を素早く膨張展開させることができて、グリップ13の下方の操作部13aを素早く車両前方へ移動させることができ、グリップ13の下方の操作部13aと乗員間にエアバッグ120を確実に入り込ませることが可能である。
上記した第1実施形態においては、ロック手段30が、ロックプレート33とカラー34を備えていて、スポーク側ポスト15における摺動面15aのハブ側ポスト14における摺動面14a1に対する摺動を、スポーク側ポスト15における摺動面15aのハブ側ポスト14における摺動面14a1に対する圧接による摩擦係合力によって、規制するように構成して実施したが、図13に示した第2実施形態のように、ロック手段230が、ロックピン233を備えていて、スポーク側ポスト215における摺動面215aのハブ側ポスト214における摺動面214a1に対する摺動を、スポーク側ポスト215の挿通孔215dに嵌合しハブ側ポスト214の挿通孔214dを貫通するロックピン233によって、規制するように構成して実施することも可能である。
図13に示した第2実施形態においては、スポーク側ポスト215が、車両の前方側の端面にてハブ側ポスト214における円筒形状の摺動面214a1に摺動可能に係合する円筒形状の摺動面215aを有するとともに、車両の直進状態にて上下方向に延びる長孔215bを有している。また、スポーク側ポスト215は、車両後方側の端面に図13の中心線O2を中心とする円筒形状の摺動面215eを有していて、フランジ付ボルト231および座金234を用いてハブ側ポスト214の係合穴214aに車両の直進状態における上下方向へ回動可能に組付けられている。
ロックピン233は、ソレノイド240に一端を組付けられていて、ソレノイド240の作動によって車両前後方向に移動可能である。また、ロックピン233は、車両が衝突しない常態において、ハブ側ポスト214の挿通孔214dを貫通し、スポーク側ポスト215の挿通孔215dに嵌合している。これにより、車両が衝突しない常態においては、スポーク側ポスト215の摺動面215aが、ハブ側ポスト214の摺動面14a1に対して、摺動を規制されている。
座金234は、スポーク側ポスト215とフランジ付ボルト231のフランジ部の間に介装されていて、車両後方側の端面にてスポーク側ポスト215の摺動面215eに係合するための図13の中心線O2を中心とする円筒形状の摺動面234aを有している。また、座金234は、フランジ付ボルト231のネジ部とスリーブ232を貫通させるための挿通孔234bを有している。
ソレノイド240は、車両衝突時におけるエアバッグ220の膨張展開前に、電気制御装置260によって通電されて作動する。これにより、ロックピン233は、ソレノイド240の作動によって、車両前方側へ移動してスポーク側ポスト215の挿通孔215dに嵌合しない状態となる。このため、車両衝突時におけるエアバッグ220の膨張展開前に、スポーク側ポスト215の摺動面215aが、ハブ側ポスト214の摺動面214a1に対する摺動規制を解除される。なお、その他の構成は、上記した第1実施形態の構成と同じであるため、その説明は省略する。
したがって、この第2実施形態においても、上記した第1実施形態と同様に、車両の直進状態にて車両が衝突する前においてグリップ213の下方の操作部213aと乗員間にて必要十分な間隔が確保されていない場合においても、車両が衝突した際のエアバッグ220の膨張展開時に同部位(グリップ213の下方の操作部213aと乗員間)の間隔を常態に比して大きくすることができて、同部位の間隔を確保することができ、同部位へのエアバッグ220の膨張展開性能を向上させることが可能である。
上記した第1実施形態においては、エアバッグ20の膨張展開に伴って、スポーク側ポスト15の摺動面15aをハブ側ポスト14の摺動面14a1に対して車両の直進状態における上方へ摺動するように構成して実施したが、スポーク側ポスト15に組付けられているパイロアクチュエータ40およびロック手段30をそれぞれ上下逆に配置して、パイロアクチュエータ(40)のピストンロッド(42)により、ロックプレート(33)を下方へ押動可能とし、パイロアクチュエータ(40)がピストンロッド(42)を車両の直進状態における下方へ進出させる反力に伴って、スポーク側ポスト(15)の摺動面(15a)をハブ側ポスト(14)の摺動面(14a1)に対して車両の直進状態における上方へ摺動するように構成して実施することも可能である。
また、上記した各実施形態においては、インフレータへの通電と同時に、アクチュエータ(パイロアクチュエータ40のスクイブ、ソレノイド240)への通電がなされて、ロック手段によるスポーク側ポストにおける摺動面のハブ側ポストにおける摺動面に対する摺動規制が解除されるように構成して実施したが、スポーク側ポストにおける摺動面のハブ側ポストにおける摺動面に対する摺動規制が解除されるタイミングは、車両衝突時におけるエアバッグの膨張展開前であればよく、例えば、車両が衝突すると同時に、スポーク側ポストにおける摺動面のハブ側ポストにおける摺動面に対する摺動規制が解除されるように構成して実施することも可能である。
また、上記した各実施形態においては、ハブ側ポストが、円筒形状の摺動面を有していて、スポーク側ポストが、ハブ側ポストの摺動面に摺動可能に係合する円筒形状の摺動面を有しハブ側ポストに回動可能に組付けられるように構成して実施したが、ハブ側ポストが、球面形状(車両の直進状態における縦断面形状が円弧形状)の摺動面を有していて、スポーク側ポストが、ハブ側ポストの摺動面に摺動可能に係合する球面形状の摺動面を有しハブ側ポストに摺動可能に組付けられるように構成して実施することも可能である。また、上記した各実施形態において、スポーク側ポストの摺動面は、ハブ側ポストの摺動面と同一形状である必要はなく適宜変更可能であり、例えば、スポーク側ポストが、ハブ側ポストの円筒形状の摺動面に摺動可能に係合する球面形状の摺動面を有しハブ側ポストに回動可能に組付けられるように構成して実施することも可能である。
また、上記した各実施形態においては、円形のグリップを採用して実施したが、グリップは車両の直進状態にて少なくとも下方に操作部を備えていればよく、例えば、車両の直進状態にて上方に非グリップ空間(乗員がグリップを回動操作することができない空間)を有する略U字状に形成されたグリップを採用して実施することも可能である。
10…ステアリングハンドル、11…ハブ、12…スポーク、13…グリップ、13a…下方の操作部、14…ハブ側ポスト、14a1…摺動面、15…スポーク側ポスト、15a…摺動面、15b…長孔、20…エアバッグ、21…インフレータ、30…ロック手段、31…フランジ付ボルト、32…スリーブ、33…ロックプレート、34…カラー、35…ウェルドナット、40…パイロアクチュエータ、50…ステアリングメインシャフト、60…電気制御装置、70…センサ