JP5029081B2 - 光学物品の表面修復方法、表面修復用組成物、表面修復用部材および表面修復用部材の製造方法 - Google Patents
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Description
従来では、反射防止層には、特許文献1に記載されているような無機物質が用いられるのが主流であるが、近年では、特許文献2に記載の有機物によって反射防止層の一部を構成する有機膜層を形成する技術も開発されている。
しかしながら、無機反射防止層を剥がす作業は煩雑であり、特に、剥がす作業において基材に傷をつけないようにするために慎重な作業が求められている。
これに対して、有機系の反射防止層は、アルカリで溶解することで有機膜層を剥がすことができるが、それでも、プラスチックレンズの有機膜層を剥がし、再度、成膜しなければならず、傷を修復するために煩雑な作業が必要とされている。
従って、本発明では、光学物品の表面に生じた傷の修復を、有機膜層自体を剥離することなく、傷に修復用組成物を埋め込むという簡単な作業によって行うことができる。
この構成の本発明では、表面修復用部材を所定の力で光学物品に押し付けた状態で、光学物品の表面に沿って往復させたり、円軌跡に沿って移動させたりするから、傷の開口端縁が修復用組成物に含まれる微粒子で確実に摩耗されることになり、しかも、表面修復用部材に付着される修復用組成物が傷の奥深く埋め込まれることになり、より簡単な作業で傷の修復を効率的に行うことができる。
この構成の本発明では、液状のコーティング液を傷に滴下するので、傷の奥深くまでコーティング液が行き渡る。そして、表面を擦るだけでよいので、より簡単な作業で傷の修復を確実に行うことができる。
さらに、本発明は、前記光学物品の表面の傷に、前記修復用組成物を含むコーティング液を滴下し、乾燥させた後、前記光学物品の表面を擦ることが好ましい。
この構成の本発明では、液状のコーティング液を傷に滴下するので、傷の奥深くまでコーティング液が行き渡る。コーティング液が乾燥した後、表面を擦るだけでよいので、より簡単な作業で傷の修復を確実に行うことができる。
この構成の本発明では、眼鏡レンズの傷を容易に効率的に修復することができる。
「A2成分」;分子中に1個以上のエポキシ基を含有するエポキシ基含有有機化合物
「A3成分」;平均粒径1〜150nmのシリカ系微粒子
この構成の本発明では、繊維に修復用組成物が含浸あるいは付着されることで、修復用組成物が表面修復用部材から脱漏することがないので、表面修復用部材の取扱が容易となる。
この構成の本発明では、修復用組成物を含浸・付着させる繊維が布であり、この布は比較的入手が容易な部材であるため、表面修復用部材を安価に提供することができる。その上、同じ繊維からなる紙に比べて布は丈夫であるため、取扱性もよい。さらに、布の繊維を極細のものを用いることで、極細繊維の間に修復用組成物を入り込ませ、多量の修復用組成物を脱漏させることなく繊維に含浸・付着させることができる。
微粒子が布に対して0.01質量%未満であると、微粒子の研磨剤としての機能が十分に達成できなくなる。微粒子が布に対して10質量%を越えると、微粒子の研磨剤としての機能が大きくなり過ぎ、かえって、光学物品の表面自体に引っ掻き傷を形成することになるので、好ましくない。
この構成の本発明では、布が乾燥した状態で表面修復用部材を取り扱うことができるから、取扱が容易となる。
以下、本発明の第一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態で傷が修復される光学物品としての眼鏡レンズの断面図である。
図1に示される通り、眼鏡レンズ1は、レンズ基材10の表面に、耐衝撃性向上のためのプライマー層11、耐擦傷性向上のためのハードコート層12、有機膜層13が、内側から外側に向かって順に積層される。ハードコート層12と有機膜層13とで本実施形態の反射防止層が形成される。
レンズ基材10の材質としては、プラスチック樹脂であれば特に限定されないが、レンズ基材10表面の上層に形成される有機膜層13との屈折率差を得るために、屈折率が1.6以上のレンズ素材を使用することが好ましい。屈折率が1.6以上のレンズ素材としては、イソシアネート基またはイソチオシアネート基を持つ化合物と、メルカプト基を持つ化合物を反応させることによって製造されるポリチオウレタン系プラスチック、あるいはエピスルフィド基を持つ化合物を含む原料モノマーを重合硬化して製造される、エピスルフィド系プラスチック等が挙げられる。
エピスルフィド系プラスチックの原料モノマーとして用いられる、エピスルフィド基を持つ化合物の具体例としては、公知のエピスルフィド基を持つ化合物が何ら制限なく使用できる。例えば、既存のエポキシ化合物のエポキシ基の一部あるいは全部の酸素を硫黄で置き換えることによって得られるエピスルフィド化合物が挙げられる。
また、プラスチックレンズの高屈折率化のためには、エピスルフィド基以外にも硫黄原子を含有する化合物がより好ましく用いることができる。具体例としては、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、ビス−(β−エピチオプロピル)スルフィド、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−1,4−ジチアン、ビス−(β−エピチオプロピル)ジスルフィド等が挙げられる。
また、イソシアネート基またはイソチオシアネート基を持つ化合物と、メルカプト基を持つ化合物を反応させることによって製造されるポリチオウレタン系プラスチックを用いる場合には、イソシアネート基またはイソチオシアネート基を持つ化合物と、メルカプト基を持つ化合物を混合した後、ウレタン樹脂用の硬化触媒を添加、混合し、加熱硬化することによって製造できる。硬化触媒の具体例としては、エチルアミン、エチレンジアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等のアミン化合物、ジブチル錫ジクロライド、ジメチル錫ジクロライド等が挙げられる。
さらに、素材としてエピスルフィド基を有する化合物を含む原料モノマーを重合させることによって得られる、エピスルフィド系のプラスチックをレンズ基材に用いる場合には、エピスルフィド基を持つ化合物を単独で、またはエピスルフィド基と共重合可能な他のモノマーと混合した後、エポキシ樹脂用の硬化触媒を添加、混合し、加熱により重合硬化を行うことによって製造できる。
水酸基を持つ化合物の具体例としては、イソプロピルアルコール、n−ヘキシルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート等の多価アルコール類が挙げられる。メルカプト基を持つ化合物の具体例としては、チオフェノール、エチルチオグリコレート、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、2,5−ジメルカプトメチル−1,4−ジチアン等が挙げられる。
プライマー層11は、レンズ基材10の表面に形成される。プライマー層11は、硫黄原子を含むレンズ基材10と後述するハードコート層12との双方の界面に存在して、不活性な硫黄原子を含むレンズ基材10とハードコート層12との双方への密着性を両立する性質を有し、表面処理膜の耐久性を向上させる役割を担う。加えて外部からの衝撃吸収層としての性質も併せ持ち、耐衝撃性を向上させる性質も有する。また、プライマー層は、少なくとも下記「B1成分」および「B2成分」とを含有したコーティング組成物を用いて形成される。
「B1成分」;極性基を有する有機樹脂ポリマー
「B2成分」;酸化チタンを含有する金属酸化物微粒子
「B1成分」としては、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂等の各種樹脂を使用することが可能である。この内、硫黄原子を含むレンズ基材に対する密着性とフィラーとなる金属酸化物微粒子の分散性の点から、ポリエステル樹脂を好ましく用いることができる。
ポリエステル樹脂としては、特開2000−144048号公報に記載されているポリエステル系熱可塑性エラストマーを例示することができる。ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントにポリエステル、ソフトセグメントにポリエーテルまたはポリエステルを使用したマルチブロック共重合体である。ハードセグメント(H)とソフトセグメント(S)との重量比率は、H/S=30/70〜90/10、好ましくは40/60〜80/20である。
また、「B2成分」は分散媒、例えば水、アルコール、もしくはその他の有機溶媒に分散させたものを用いるのが好ましい。この場合には、金属酸化物微粒子の分散安定性を高めるために、無機酸化物粒子の表面を有機ケイ素化合物、アミン系化合物で処理してもよい。この処理の際に使用される有機ケイ素化合物としては、単官能性シラン、二官能性シラン、三官能性シラン、四官能性シラン等が例示できる。
さらに、酸化チタン以外の無機酸化物微粒子として、酸化スズを使用することも可能である。例えば、酸化スズもしくは酸化スズ粒子と酸化ジルコニウム粒子、または酸化スズ粒子と酸化ジルコニウム粒子と酸化ケイ素粒子等の複合微粒子を核として、その表面を酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、五酸化アンチモン、酸化アルミニウム等の1種もしくは2種以上からなる複合コロイド粒子で被覆された無機酸化物微粒子を用いることが好ましい。酸化スズは酸化チタンに比べて屈折率は低く、高屈折率のプライマー層を得るためには使用量を多くする必要があるものの、酸化チタンのような光活性作用は少ないと考えられ、プライマー層およびハードコート層自体の耐久性が要求される場合において好ましい組み合わせである。
このようにして得られるプライマー層形成用のコーティング組成物は、必要に応じ、溶剤に希釈して用いることができる。溶剤としては、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、芳香族類等の溶剤が用いられる。コーティング組成物は、上記成分の他に、必要に応じて、少量の金属キレート化合物、界面活性剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、分散染料、油溶染料、顔料、フォトクロミック化合物、ヒンダードアミン、ヒンダードフェノール系等の耐光耐熱安定剤等を添加し、コーティング液の塗布性、硬化速度および硬化後の被膜性能を改良することもできる。
さらに、コーティング用組成物(コーティング液)の塗布にあたっては、レンズ基材10とプライマー層11との密着性の向上を目的として、レンズ基材10の表面を予めアルカリ処理、酸処理、界面活性剤処理、無機あるいは有機の微粒子による剥離/研磨処理、プラズマ処理を行うことが効果的である。また、コーティング用組成物の塗布/硬化方法としては、ディッピング法、スピンコート法、スプレーコート法、ロールコート法、あるいは、フローコート法等によりコーティング用組成物を塗布した後、40〜200℃の温度で数時間加熱/乾燥することにより、プライマー層を形成できる。
また、プライマー層の膜厚は、0.01〜50μm、特に0.1〜30μmの範囲が好ましい。プライマー層が薄すぎると耐水性や耐衝撃性などの基本性能が実現できず、逆に厚すぎると、表面の平滑性が損なわれたり、光学的歪や白濁、曇りなどの外観欠点を発生したりする場合がある。
ハードコート層12は、レンズ基材10の表面に形成されたプライマー層11の上に形成される。 ハードコート層12は、少なくとも以下の「C1成分」と、「C2成分」とを有する。
「C1成分」;ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを含有する金属酸化物粒子
「C2成分」;一般式:R1SiX1 3で示される有機ケイ素化合物(式中、R1は重合可能な反応基を有する炭素数が2以上の有機基、X1は、加水分解性基を表す)
さらに具体的には、少なくとも下記「C1成分」及び「C2成分」を含有するコーティング用組成物から形成されたコーティング膜である。「C1成分」としては、例えば、酸化チタン及び酸化スズ、又は酸化チタン、酸化スズ及び酸化ケイ素からなるルチル型の結晶構造を有する複合酸化物を含む平均粒径1〜200nmの無機酸化物微粒子を挙げることができ、「C2成分」は、一般式:R1SiX1 3で表される有機ケイ素化合物(式中、R1は重合可能な反応基を有する炭素数が2以上の有機基、X1は加水分解性基を表す)が挙げられる。
しかしながら、酸化チタンを含有する無機酸化物微粒子をハードコート層用の金属酸化物として用いた場合には次のような問題があった。酸化チタンは、光(紫外線)エネルギーを受けると活性を帯び、強い酸化分解力により、有機物を分解するという特性を有する(以降、光活性と表す)。その結果、酸化チタンがハードコート膜の構成成分として含有されている場合、光活性によりもう一つの主構成成分であるシランカップリング剤等の有機物を分解して、ハードコート膜のクラックや膜ハガレを発生させ、耐久品質が低下する傾向にある。
ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンは、アナターゼ型の酸化チタンが光(紫外線)エネルギーを受けると活性を帯び、強い酸化分解力により、有機物を分解するという特性を有するのと異なり、このような光活性が低い。これは、光(紫外線)を照射すると酸化チタンの価電子帯の電子が励起されて、OHフリーラジカルとHO2フリーラジカルがで
き、この強力な酸化力により有機物を分解するが、アナターゼ型酸化チタンよりルチル型酸化チタンの方が熱エネルギー的に安定であるため、フリーラジカルの生成量が極めて少ないためである。よって、ルチル型の結晶構造の酸化チタンを配合したハードコート層12が耐候性や耐光性に優れているため、有機膜層13がハードコート層12によって変質されるおそれが無く、耐候性や耐光性に優れたプラスチックレンズが得られる。
nO2の重量比が1/3〜20/1、好ましくは1.5/1〜13/1の範囲にあること
が望ましい。
SnO2の量を上記重量比の範囲よりも少なくしていくと、結晶構造がルチル型からア
ナターゼ型にシフトしていき、ルチル型の結晶とアナターゼ型の結晶を含む混晶になる、あるいはアナターゼ型の結晶となる。また、SnO2の量を上記重量比の範囲よりも多く
していくと、酸化チタンのルチル型結晶と酸化スズのルチル型結晶の中間にあるルチル型の結晶構造となり、いわゆる酸化チタンのルチル型結晶とは異なる結晶構造を示すようになり、しかも得られる無機酸化物微粒子の屈折率も低下する。
き、TiO2/SnO2の重量比が1/3〜20/1、好ましくは1.5/1〜13/1の範囲にあり、かつ(TiO2+SnO2)/SiO2の重量比が55/45〜99/1、好
ましくは70/30〜98/2の範囲にあることが望ましい。
SnO2の含有量については、酸化スズとの複合酸化物を加えた場合と同様であるが、これに酸化ケイ素を含ませることにより、得られる無機酸化物微粒子の安定性と分散性を向上させることができる。ここで、SiO2の量を上記重量比の範囲よりも少なくしてい
くと、安定性と分散性が低下する。また、SiO2の量を上記重量比の範囲よりも多くし
ていくと、この安定性と分散性はより向上するが、得られる無機酸化物微粒子の屈折率が低下するので好ましくない。しかし、このルチル型酸化チタンにおいてもフリーラジカルは生成される。これについては、酸化チタンを含有する無機酸化物微粒子として、酸化チタンを含有する2種以上の複合酸化物を含む無機酸化物微粒子を使用した場合も同様である。
するが、アナターゼ型酸化チタンよりルチル型酸化チタンの方が熱エネルギー的に安定であるため、フリーラジカルの生成量が極めて少ない。しかし、このルチル型酸化チタンにおいてもフリーラジカルは生成されるため、複合酸化物からなる核粒子の表面を、酸化ケイ素と酸化ジルコニウム及び/又は酸化アルミニウムからなる複合酸化物の被覆層で被覆したものを使用することが望ましい。これは、核粒子で生成されたフリーラジカルは、同様に強力な酸化力を有しているものの不安定であるため、被覆層を通過する間に被覆層の触媒作用により消滅するからである。
(a)被覆層が酸化ケイ素と酸化ジルコニウムの複合酸化物で形成される場合、被覆層に含まれる酸化ケイ素と酸化ジルコニウムの量は、酸化ケイ素をSiO2に換算し、酸化ジルコニウムをZrO2に換算したとき、SiO2/ZrO2の重量比が50/50〜99/1、好ましくは65/35〜90/10の範囲にあることが望ましい。
ZrO2の量が上記重量比の範囲より多くなると、フリーラジカルをトラップすることのできるZr原子は増加するが、被覆層にひずみが生じて緻密な被覆層が形成されないため、核粒子で生成したフリーラジカルが無機酸化物微粒子の表面に出てきて、有機物の酸化を招くことになる。また、ZrO2の量が上記重量比の範囲より少なくなると、緻密な被覆層はでき易くなるが、フリーラジカルをトラップするためのZr原子が少ないため、核粒子で生成したフリーラジカルが無機酸化物微粒子の表面に出てきて、有機物の酸化を招くことになる。
ここで、Al2O3の量が上記範囲より多くなると、フリーラジカルをトラップすることのできるAl原子は増加するが、緻密な被覆層ができないため、核粒子で生成したフリーラジカルが無機酸化物微粒子の表面に出てきて、有機物の酸化を招くことになる。また、Al2O3の量が上記範囲より少なくなると、緻密な被覆層はでき易くなるが、フリーラジカルをトラップするためのAl原子が少ないため、核粒子で生成したフリーラジカルが無機酸化物微粒子の表面に出てきて、有機物の酸化を招くことになる。
ZrO2とAl2O3の合計量が上記重量比の範囲より多くなると、フリーラジカルをトラップすることのできるZr原子とAl原子の合計量は増加するが、緻密な被覆層ができないため、核粒子で生成したフリーラジカルが無機酸化物微粒子の表面に出てきて、有機物の酸化を招くことになる。また、ZrO2とAl2O3の合計量が上記重量比の範囲より少なくなると、緻密な被覆層はでき易くなるが、フリーラジカルをトラップするためのZr原子とAl原子の合計量が少ないため、核粒子で生成したフリーラジカルが無機酸化物微粒子の表面に出てきて、有機物の酸化を招くことになる。また、被覆層の厚さは、核粒子で生成したフリーラジカルが無機酸化物微粒子の表面に出てきて、有機物の酸化を招くことを防ぐ観点から、0.02〜2.27nm、好ましくは0.16〜1.14nmの範囲にあることが望ましい。
なお、ここでいう核粒子を構成する複合酸化物は、酸化チタン及び酸化スズからなる複合固溶体酸化物(ドープされた複合酸化物を含む)及び/又は複合酸化物クラスター、或いは酸化チタン、酸化スズ及び酸化ケイ素からなる複合固溶体酸化物(ドープされた複合酸化物を含む)及び/又は複合酸化物クラスターを意味する。また、核粒子及び/又は被覆層を構成する複合酸化物は、末端にOH基を有する複合含水酸化物であってもよく、さらに複合含水酸化物を一部含むものであってもよい。
また、ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを含有する無機酸化物微粒子は単独で用いても良く、あるいは他の無機酸化物粒子と併用してもよい。他の無機酸化物粒子としては、Si,Al,Sn,Sb,Ta,CE,La,FE,Zn,W,Zr,Inから選ばれる1種又は2種以上の金属の酸化物(これらの混合物を含む)、及び/又は2種以上の金属を含む複合酸化物からなる無機酸化物微粒子を例示することができる。
さらに、コーティング用組成物での分散安定性を高めるために、これらの無機酸化物微粒子表面を有機ケイ素化合物またはアミン系化合物、さらには酒石酸、リンゴ酸等のカルボン酸で処理したものを使用することも可能である。この際に用いられる有機ケイ素化合物としては、単官能性シラン、二官能性シラン、三官能性シラン、四官能性シラン等が挙げられる。また、処理に際しては加水分解性基を未処理で行う、あるいは加水分解して行ってもよい。さらに加水分解処理後は、加水分解性基が微粒子の−OH基と反応した状態が好ましいが、一部残存した状態でも安定性には何ら問題がない。
無機酸化物微粒子の種類や配合量は、目的とする硬度や屈折率等により決定されるものであるが、配合量はハードコート組成物中の固形分の5〜80重量%、特に10〜50重量%の範囲であることが望ましい。配合量が少なすぎると、コーティング膜の耐摩耗性が不十分となる場合がある。一方、配合量が多すぎると、コーティング膜にクラックが生じ、染色性も不十分となる場合がある。
「C2成分」は、ハードコート層のバインダー剤としての役割を果たす。「C2成分」の一般式中、R1は、重合可能な反応基を有する有機基であり、炭素数は2以上である。R1はビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、1−メチルビニル基、エポキシ基、メルカプト基、シアノ基、イソシアノ基、アミノ基等の重合可能な反応基を有する。また、X1は、加水分解可能な官能基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基、ブロモ基等のハロゲン基、アシルオキシ基等があげられる。
「C2成分」の有機ケイ素化合物としては、例えば、ビニルトリアルコキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、アリルトリアルコキシシラン、アクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリアルコキシシラン、メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、γ−アミノプロピルトリアルコキシシラン等があげられる。この「C2成分」の有機ケイ素化合物は、2種類以上を混合して用いてもよい。
さらに、ハードコート層12は、「C1成分」、「C2成分」だけでなく、多官能性エポキシ化合物を含有することが非常に有用である。多官能性エポキシ化合物は、プライマー層に対するハードコート層12の密着性を向上させるとともに、ハードコート層12の耐水性およびプラスチックレンズとしての耐衝撃性を向上させることができる。また、多官能性エポキシ化合物の分子中にヒドロキシル基が存在すると、プライマー層11との密着性が向上することが認められる。従って、一分子中に一個以上のヒドロキシル基を含む多官能性エポキシ化合物を用いることによって、この多官能性エポキシ化合物の配合量を減らすことが可能であるため、耐擦傷性を向上させることができる。特に、ハードコート層12の上面に後述する有機膜層13を形成した場合には、有機膜層13の膜厚が非常に薄くなることが多く、さらに、有機膜層13に内部空洞を有するシリカ系微粒子を使用する場合には、水分を通しやすくなるために、ハードコート層12に耐水性が必要となる。よって多官能性エポキシ化合物は非常に有用である。
さらに、ハードコート層12に硬化触媒を添加してもよい。硬化触媒としては、例えば、過塩素酸、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸マグネシウム等の過塩素酸類、Cu(II)、Zn(II)、Co(II)、Ni(II)、BE(II)、CE(III)、Ta(III)、Ti(III)、Mn(III)、La(III)、Cr(III)、V(III)、Co(III)、FE(III)、Al(III)、CE(IV)、Zr(IV)、V(IV)等を中心金属原子とするアセチルアセトナート、アミン、グリシン等のアミノ酸、ルイス酸、有機酸金属塩等が挙げられる。
このうち好ましい硬化触媒としては、過塩素酸マグネシウム、Al(III),FE(III)を中心金属原子とするアセチルアセトナートが挙げられる。特に、FE(III)を中心金属原子とするアセチルアセナートを使用することが最も好ましい。 硬化触媒の添加量は、ハードコート液の固形分濃度の0.01〜5.0重量%の範囲内が望ましい。
また、コーティング用組成物の塗布・硬化方法としては、ディッピング法、スピンコート法、スプレーコート法、ロールコート法、あるいは、フローコート法によりコーティング用組成物を塗布した後、40〜200℃の温度で数時間加熱乾燥することにより、ハードコート被膜を形成する。なお、ハードコート層の膜厚は、0.05〜30μmであることが好ましい。膜厚が0.05μm未満では、基本性能が実現できない。また、膜厚が30μmを越えると表面の平滑性が損なわれたり、光学歪みが発生したりする場合がある。
有機膜層13は、ハードコート層12の屈折率よりも0.10以上低い屈折率を有し、かつ50nm〜150nmの膜厚の薄膜であり、少なくとも「A1成分」;一般式、XmR2 3−mSi−Y−SiR2 3−mXmで表される有機ケイ素化合物(R2は炭素数1〜6の一価炭化水素基。Yはフッ素原子を1個以上含有する二価有機基。Xは加水分解性基。mは1〜3の整数である。)、「A2成分」;分子中に1個以上のエポキシ基を含有するエポキシ基含有有機化合物、および「A3成分」;平均粒径1〜150nmのシリカ系微粒子を有する。
有機膜層13としては、ハードコート層12の屈折率よりも0.10以上低い屈折率を有し、かつ50nm〜150nmの膜厚で、必須成分A1,A2,A3を含有しておれば特に制限は無く、シリコーン系、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系、メラミン系などの樹脂と2種以上併用して成膜した有機薄膜を用いてもよい。このうち特に、プラスチックレンズとしての耐熱性、耐薬品性、耐擦傷性、などの諸特性を考慮した場合は、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂を含む低屈折率層とすることが好ましく、この際に、表面硬度の向上や、屈折率の調整のため、A成分以外の微粒子状無機物などを添加することも可能である。添加する微粒子状無機物としては、コロイド状に分散したゾルなどが挙げられ、低屈折率という観点から、フッ化マグネシウムゾル、フッ化カルシウムゾルなどが挙げられる。
−CH2CH2(CF2)nCH2CH2−
−C2H4−CF(CF3)−(CF2)n−CF(CF3)−C2H4−
〔nは2〜20の整数〕
上記構造中のnとしては2〜20の値を満たす必要があるが、より好ましくは2〜12、特に好ましくは4〜10の範囲を満たすのがよい。これより少ないと、反射防止性、防汚性、撥水性等の諸機能、及び耐薬品性を十分に得ることができない場合があり、多すぎると、架橋密度が低下するため十分な耐擦傷性が得られない場合が生ずる。
R2は、炭素数1〜6の一価炭化水素基を表すが、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等のアルキル基、フェニル基等を例示することができる。良好な耐擦傷性を得るには、メチル基が好ましい。
mは1〜3の整数であるが、好ましくは2又は3とするものであり、特に高硬度な被膜にするにはm=3とするのが好ましい。
Xは、加水分解性基を表す。具体例としては、Clなどのハロゲン原子、ORX(RXは炭素数1〜6の一価炭化水素基)で示されるオルガノオキシ基、特にメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、イソプロペノキシ基などのアルケノキシ基、アセトキシ基等のアシルオキシ基、メチルエチルケトキシム基等のケトオキシム基、メトキシエトキシ基等のアルコキシアルコキシ基などを挙げることができる。これらの中でアルコキシ基が好ましく、特にメトキシ基、エトキシ基のシラン化合物が取り扱い易く、加水分解時の反応の制御もし易いため、好ましい。
このような「A1成分」の具体例としては、例えば下記のものが挙げられる。
また、「A2成分」である分子中に1個以上のエポキシ基を含有するエポキシ基含有有機化合物としては、適宜のものを用いることができる。組成物中において樹脂成分全量に対して5〜20重量%の範囲で含有させることが好ましく、この範囲よりも少ないと被膜の耐クラック性及びハードコート層との密着性を十分に向上することができず、またこの範囲より多いと、また被膜の耐摩耗性が低下するおそれがある。
このエポキシ基含有有機化合物としては、好ましくは一般式R3nR4pSiZ4−〔n+p〕〔R3,R4は炭素数1〜16の有機基であり、少なくとも一方はエポキシ基を含む。Zは加水分解性基。n,pは0〜2の整数であって1≦n+p≦3である。〕で表される化合物と、下記一般式(1)で示される化合物とから選ばれるものを用いるものであり、このような化合物から一種又は複数種を用いることができる。この場合、被膜の耐薬品性及び耐摩耗性を低下させることなく、耐クラック性を更に向上することができる。これらの化合物の合計の含有量は、樹脂成分全量に対して1〜20重量%の範囲であることが好ましく、この含有量が過小であると耐クラック性の向上を十分になすことができないおそれがあり、またこの含有量が過剰であると耐薬品性及び耐摩耗性を低下させるおそれがある。
また、上記一般式(1)で示される化合物では、式中のR5〜R16はメチル基等の適宜の炭化水素基などの有機基を挙げることができる。また、このR5〜R16のうち少なくとも一つはエポキシ基を含むものであり、例えば下記構造を有するものを挙げることができる。
内部に空洞を有するシリカ系微粒子は、特開2001−233611号公報に記載されている方法等で製造することができるが、本発明では、平均粒径が20〜150nmの範囲にあり、かつ屈折率が1.16〜1.39の範囲にあるものを使用することが望ましい。粒子の平均粒径が20nm未満になると、粒子内部の空隙率が小さくなって、所望の低屈折率が得られなくなる。また、平均粒径が150nmを超えると、有機薄膜のヘーズが増加するので好ましくない。このように内部空洞を有するシリカ系微粒子としては、平均粒径20〜150nm、屈折率1.16〜1.39の中空シリカ微粒子を含む分散ゾル(触媒化成工業(株)製、スルーリア、及びレキューム)等が挙げられる。
上記成分のほかに有機膜層13の組成物中に併用可能な有機ケイ素化合物としては、テトラエトキシシラン等のシリケート類、メチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン等のアルキルシラン類、フェニルトリメトキシシラン等のフェニルシラン類、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤類等の各種化合物を挙げることができる。
これらの有機ケイ素化合物は、樹脂成分全量に対して20重量%以下とすることが好ましい。この含有量が過剰であると被膜の耐クラック性が低下したり親水性が高くなり耐薬品性が低下したりするおそれがある。
一般式RF−SiX3において、RFにおけるフッ素原子の数は3〜25個、特に3〜17個であることが好ましい。中でも、下記のような構造単位は、極性部分を含んでいないため特に好ましい。
CF3C2H4−
CF3(CF2)3C2H4−
CF3(CF2)7C2H4−
このような一般式RF−SiX3に示すフッ化アルキル基含有アルコキシシランとして
は、例えば下記に示すものが挙げられる。
CF3C2H4−Si(OCH3)3
CF3(CF2)3C2H4−Si(OCH3)3
CF3(CF2)7C2H4−Si(OCH3)3
この一般式RF−SiX3で示されるフッ化アルキル基含有アルコキシシランとその加水分解物(部分加水分解物)の含有量は適宜調整されるが、添加量が多くなると被膜の耐擦傷性が低下することから、組成物中の樹脂成分全量に対して1〜30重量%の範囲とすることが好ましく、特に10重量%以下が好ましい。
また、他の有機ケイ素化合物としては、下記一般式に示すジアルキルシロキシ系の加水分解性オルガノシランを挙げることができる。
このような有機膜層13は、上述する「A1成分」「A2成分」および「A3成分」を含有するコーティング用組成物を用いて、湿式法によりハードコート層上に低屈折率の有機薄膜として好適に形成することができる。蒸着法やスパッタリング法などの乾式法で形成される無機膜は、下層の有機被膜からなるハードコート層との大きな熱膨張率差により耐熱性が低いのに対して、湿式法により形成される有機薄膜からなる反射防止層は、ハードコート層との熱膨張率差が小さいことから加熱によるクラックの発生が起こり難くなり、耐熱性に優れる。また、湿式法により形成することができるため、真空装置や大型の設備は不要となり、簡便に作製することが可能となる。
得られる有機膜層13の膜厚は50〜150nmの範囲である必要がある。この範囲より厚すぎても薄すぎても十分な反射防止効果が得られない。また、有機膜層13の屈折率は、反射防止層として機能するためには、下層のハードコート層12との屈折率差が0.10以上、好ましくは0.15以上、さらに好ましくは0.20以上とする必要がある。具体的な屈折率は、1.30〜1.45の範囲とすることが好ましい。
図2(A)は、表面修復用部材20で眼鏡レンズ1の表面に生じた傷30を修復する状態を示す正面図であり、図2(B)は、その断面図である。なお、図2において、傷30は大きく図示されている。
図2において、表面修復用部材20は修復用組成物が繊維に含浸または付着された布である。
布は、木綿、絹、麻等天然繊維や、ポリアミド(ナイロン)系、ポリエステル系、アクリル、ポリビニルアルコール系、ポリウレタン系、ポリ塩化ビニリデン系、ポリ塩化ビニル系、ポリフルオロエチレン系、ポリプロピレン系、ポリエチレン系等の合成繊維から形成される。さらに、織布でも不織布でも表面修復用部材20として利用可能である。
本実施形態では、長繊維や短繊維でも利用可能であり、その太さも限定されないが、好ましくは、極細の長繊維から形成される布、例えば、トレシー(商品名)が好ましい。
微粒子が布に対して0.01質量%未満であると、微粒子の研磨剤としての機能が十分に達成できなくなる。微粒子が布に対して10質量%を越えると、微粒子の研磨剤としての機能が大きくなり過ぎ、かえって、眼鏡レンズ1の表面自体に引っ掻き傷を形成することになる。
その後、布を所定温度、例えば、80℃で乾燥させる。乾燥時間は、例えば、8時間である。乾燥温度および乾燥時間は、使用する布の大きさなどにより決定される。
すると、図3(A)に示される通り、修復用組成物40が断面略V字形に形成された傷30に入り込み、この傷30を埋めることになる。さらに、修復用組成物40の中には微粒子41も含まれているため、この微粒子41が研磨剤の働きをして、傷の角を滑らかにする。例えば、図3(B)に示される通り、傷30の開口側端部が摩耗されてなだらかな傾斜面とされる。
なお、表面修復用部材20で眼鏡レンズ1の表面を擦るにあたり、本実施形態では、作業員の手で行うものであり、表面修復用部材20を眼鏡レンズ1の表面で往復させたり、円軌跡に沿って運動させたりする。
(1)有機膜層13が表面に形成された眼鏡レンズ1の表面の傷30を修復するにあたり、有機膜層13を構成し微粒子41を含む組成物と同じ屈折率の組成物を含む修復用組成物40を傷30に埋めた。この修復用組成物40を傷30に埋める際に、修復用組成物40に含まれる微粒子41が傷30の開口側端縁を研磨することになり、傷30の開口側端縁が摩耗されて鈍角になる。さらに、傷30に埋め込まれる修復用組成物40は有機膜層13を構成する組成物と同じ屈折率であるから、傷30の表面の内側と外側とで光学的な特性に相違がないので、傷30が目立たない。
従って、本実施形態では、眼鏡レンズ1の表面に生じた傷30の修復を、傷30に修復用組成物40を埋め込むという簡単な作業によって行うことができる。そのため、傷30の修復のために眼鏡レンズ1の有機膜層13自体を剥離するという大掛かりな作業をする必要がないので、修復のための時間やコストを低減することができる。
「A1成分」;一般式、XmR2 3−mSi−Y−SiR2 3−mXmで表される有機ケイ素化合物〔R2は炭素数1〜6の一価炭化水素基。Yはフッ素原子を1個以上含有する二価有機基。Xは加水分解性基。mは1〜3の整数である。〕
「A2成分」;分子中に1個以上のエポキシ基を含有するエポキシ基含有有機化合物
「A3成分」;平均粒径1〜150nmのシリカ系微粒子
そのため、本実施形態の眼鏡レンズ1は、「A1成分」によりフッ素樹脂が本来有しているような低屈折率及び耐薬品性を発現し、「A2成分」に含まれるエポキシ基の効果により高い柔軟性を発現することができ、「A3成分」により、粒子内部の空隙率を大きくして所望の低屈折率を得ることができるとともに有機膜層13のヘーズが増加することがない、という効果を奏することができる。
(4)本実施形態の修復用組成物は、「A1成分」「A2成分」および「A3成分」を組成として含む構成であるため、前述の好適な眼鏡レンズ1に対して、その表面に生じた傷30の修復を簡単な作業によって行うことができる。
(6)表面修復用部材20は布から形成され、布の繊維に修復用組成物40を含浸または付着させた。布は丈夫であるため、取扱性もよい。さらに、布の繊維を極細のものを用いることで、極細繊維の間に修復用組成物40を入り込ませることで、多くの修復用組成物40を脱漏させることなく含浸・付着させることができる。
次に、本発明の第二実施形態を図4に基づいて説明する。図4は、眼鏡レンズ1の表面に生じた傷30を修復する様子を示した模式図である。
眼鏡レンズ1の構成は第一実施形態と同様であるので説明は省略する。
第二実施形態で眼鏡レンズ1の表面に生じた傷30を修復するには、図4に示すように、修復用組成物を含むコーティング液を眼鏡レンズ1の表面の傷30に滴下する。このとき、液状の修復用組成物40は断面略V字形に形成された傷30の奥深くまで入り込み、傷30を埋める。そして、眼鏡レンズ1の表面を布などで擦るが、傷30に滴下したコーティング液が乾燥した後に擦ってもよい。擦ることにより、眼鏡レンズ1の表面に残った成分が拭き取られる。すると、図4に示すように、眼鏡レンズ1の表面が滑らかになり、傷の修復を行うことができる。
以上のような構成であれば、第一実施形態の(1)(3)(4)と同等の作用効果および以下の作用効果を奏することができる。
また、布などで擦るだけでよいので、特別な部材を必要としない。したがって、より簡単な作業とより安価なコストで傷30の修復を効率よく行うことができる。
例えば、前記第一実施形態では、表面修復用部材20を布から形成したが、本発明では、布に代えて紙を用いてもよい。
さらに、布に修復用組成物40を浸した後、乾燥させることなく表面修復用部材20をそのまま使用するものでもよい。
さらに、表面修復用部材20を眼鏡レンズ1の表面に擦る構成に限定されるものではなく、押圧する構成としてもよい。
また、基材10はプラスチック製に限定されるものではなく、ガラス製であってもよい。
[実施例1]
[低屈折率層用コーティング液の調製]
特開2006−146131号公報で記載されたコーティング液の調整を行う。つまり、プロピレングリコールモノメチルエーテル(以下PGME)18.8g、γ−グリシドキシトリメトキシシラン8.1gを混合した後、0.1規定塩酸水溶液2.2gを撹拌しながら滴下し、5時間撹拌した。この液に、内部に空洞を有する平均粒径60nmのシリカ系微粒子(中空シリカ微粒子)をイソプロパノールに分散させた固形分濃度20wt%のシリカゾル(触媒化成工業(株)製、商品名「スルーリア1420」)20.7gを加えて十分に混合した後、重合触媒としてAl(C5H7O2)3を0.04g、シリコン系界面活性剤(日本ユニカー製 L7604)を0.015g添加して撹拌、溶解することにより、固形分濃度が20%のコーティング原液を得た。このコーティング液を希釈するために、300ppm濃度のシリコン系界面活性剤(日本ユニカー製 L7604)入りPGME溶液を準備し、コーティング原液を35.3g、希釈用界面活性剤入りPGME溶液114.7gを混合して十分に撹拌し、固形分濃度が約4.7%の低屈折率層用のコーティング液を作製した。ここで得られた低屈折率層用のコーティング液をXと略す。
上記コーティング液100gを水で希釈し1000gとした(10倍希釈)。その液に布として眼鏡拭き(商品名「トレシー」)を入れ、しみ込ませた後、この眼鏡拭きを80℃で6時間乾燥させた。これにより、表面にコーティング剤の成分が付着した眼鏡拭きから表面修復用部材20が作製される。ここで、乾燥重量が0.5%増加していたため、この表面修復用部材20には約0.5%のコーティング成分を含んでいることを確認した。
なお、実施例1では、コーティング液の希釈倍率を調節して、コーティング成分を0.01%含有した表面修復用部材20を作製した。
実施例1と同様にして表面修復用部材20を作製した。但し、実施例2では実施例1と異なり、コーティング成分を0.1%とした。
実施例1と同様にして表面修復用部材20を作製した。但し、実施例3では実施例1と異なり、コーティング成分を1%とした。
実施例1と同様にして表面修復用部材20を作製した。但し、実施例4では実施例1と異なり、コーティング成分を10%とした。
実施例1の低屈折率層用コーティング液Xを調整した。
比較例1はコーティング液Xからなる成分を全く含まない眼鏡拭きを表面修復用部材とした。
比較例2は実施例5、6に対する比較例である。低屈折率層用コーティング液Xは用いない。
試験用の眼鏡レンズ1としてセイコーオーガテックAZ(セイコーオプティカルプロダクト株式会社製)にスチールウール(日本スチールウール(株)製 #0000番)を用いて、1kgの荷重、20往復でレンズ表面を擦り、レンズ表面に傷をつけた。
実施例1〜4および比較例1は、この眼鏡レンズ1を実施例で作製した表面修復用部材20でよく拭き、傷30の程度を目視で確認した。同様に、比較例1としてコーティング成分を含まない眼鏡拭きで眼鏡レンズ1の表面を実施例と同様に擦った。
実施例5は、眼鏡レンズ1の表面の傷30にコーティング液Xをスポイトで数滴たらした後、眼鏡レンズ1の表面を布で擦った。
実施例6は、眼鏡レンズ1の表面の傷30にコーティング液Xをスポイトで数滴たらし、室温で5分間放置して乾燥させた。その後、眼鏡レンズ1の表面を布で擦った。
比較例2は、眼鏡レンズ1の表面の傷30にコーティング液Xを滴下せずに、眼鏡レンズ1の表面を布で拭く操作を行った。
傷の程度は ◎:ほとんど傷が見えない。 ○:少し傷が見える。 ×:傷が見える。の3段階で評価した。試験結果を次の表1に示す。
Claims (10)
- 反射防止層の一部を構成する有機膜層が表面に形成された光学物品の表面の傷を修復する方法であって、
前記有機膜層を構成する組成物と同じ屈折率を有し、平均粒径1〜150nmのシリカ系微粒子を含む組成物を含む修復用組成物を前記傷に埋めることを特徴とする光学物品の表面修復方法。 - 請求項1に記載された光学物品の表面修復方法において、
前記修復用組成物を含むコーティング液を表面修復用部材に染み込ませ、この表面修復用部材で前記光学物品の表面を擦ることを特徴とする光学物品の表面修復方法。 - 請求項1に記載された光学物品の表面修復方法において、
前記光学物品の表面の傷に、前記修復用組成物を含むコーティング液を滴下し、前記光学物品の表面を擦ることを特徴とする光学物品の表面修復方法。 - 請求項1に記載された光学物品の表面修復方法において、
前記光学物品の表面の傷に、前記修復用組成物を含むコーティング液を滴下し、乾燥させた後、前記光学物品の表面を擦ることを特徴とする光学物品の表面修復方法。 - 請求項1から請求項4のいずれかに記載された光学物品の表面修復方法において、
前記光学物品は眼鏡レンズであることを特徴とする光学物品の表面修復方法。 - 請求項1から請求項5のいずれかに記載された光学物品の表面修復方法で用いられる光学物品の表面修復用組成物であって、
前記反射防止層は、前記有機膜層と、この有機膜層と基材との間に形成されたハードコート層とを備え、前記有機膜層が前記ハードコート層の屈折率よりも0.10以上低い屈折率を有するコーティング膜であり、前記有機膜層は、少なくとも下記「A2成分」および「A3成分」を含有するものであり、
これらの「A2成分」および「A3成分」を組成として含むことを特徴とする光学物品の表面修復用組成物。
「A2成分」;分子中に1個以上のエポキシ基を含有するエポキシ基含有有機化合物
「A3成分」;平均粒径1〜150nmのシリカ系微粒子 - 請求項6に記載された修復用組成物が繊維に含浸または付着されたことを特徴とする光学物品の表面修復用部材。
- 請求項7に記載された光学物品の表面修復用部材において、
前記繊維は布の繊維であり、前記修復用組成物は布に含浸または付着されていることを特徴とする光学物品の表面修復用部材。 - 請求項8に記載された光学物品の表面修復用部材において、
前記微粒子は前記布に対して0.01質量%以上10質量%以下であることを特徴とする光学物品の表面修復用部材。 - 請求項8または請求項9に記載された光学物品の表面修復用部材を製造する方法において、
前記修復用組成物から前記有機膜層を形成するためのコーティング液を作製し、このコーティング液を水で希釈し、この希釈したコーティング液を前記布に含浸させ、その後、前記布を乾燥させることを特徴とする光学物品の表面修復用部材の製造方法。
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