以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を越えない限り、これらの内容に特定されない。
[炭化水素化合物]
本発明の化合物は、炭化水素化合物であって、すなわち、炭素原子および水素原子のみからなる化合物である。
本発明の炭化水素化合物は、分子内に、一般式(I)で表される部分構造(以下「部分構造I」と称す場合がある。)を有することを特徴とする。
[式中、Gは、下記一般式(II)で表される置換基を表し、R
1、R
2は、各々独立に任意の炭化水素基を表す。尚、式(I)中、R
1、R
2およびGが結合しているベンゼン環は、R
1、R
2およびG以外に置換基を有さない。
(式中、R
3〜R
5は、各々独立に水素原子または任意の炭化水素基を表す。尚、式(II)で表されるターフェニル基は、R
3〜R
5以外に置換基を有さない。)]
なお、本発明の炭化水素化合物が、1分子内に、上記部分構造Iを2個以上有し、従って、一般式(I)におけるG,R1,R2がそれぞれ2個以上存在する場合、1分子内に複数存在するGは同一であっても異なるものであってもよく、また、1分子内に複数存在するR1,R2は同一であっても異なるものであってもよい。また、G,R1,R2は、それぞれ結合して環を形成してもよい。
また、一般式(II)のR3〜R5についても、1分子中に上記部分構造Iが2個以上存在することにより、或いは、R1,R2が一般式(II)で表される置換基であることにより、1分子内にこれらが複数存在する場合、これらは同一であっても異なるものであってもよい。
[1]構造上の特徴
本発明の炭化水素化合物は、フェニレン基がm−位で直鎖状に複数連結された部分構造(上記一般式(II)で表される置換基G)を1つ以上有することで、優れた非晶質性、芳香族炭化水素系の有機溶剤に対する高い溶解性を有する。
優れた非晶質性、芳香族炭化水素系の有機溶剤に対する高い溶解性の観点、高い一重項および三重項励起準位を得る観点および電気的な酸化還元電位差を広くする観点からは、フェニレン基がm−位で直鎖状に複数連結された部分構造(上記一般式(II)で表される置換基G)を、2つ以上有することが、より好ましく、3つ以上有することが、最も好ましい。さらに、部分構造として、1,3,5−位に置換基を有するベンゼン環(上記一般式(I))が存在することによって、上述のような優れた特徴を損なうことなく、高いガラス転移温度を併せ持つことが可能となる。
高い電荷輸送性の観点、優れた電気化学的耐久性の観点あるいは高いガラス転移温度の観点では、分子内に、部分構造としてp−ターフェニル骨格を1つ以上有しているのがより好ましく、2つ以上有していることが更に好ましい。p−ターフェニル骨格としては、特に下記一般式(IV)で表されるものが好ましい((IV)式中、R6およびR7は、各々独立に水素原子または任意の炭化水素基を表す)。
[2]R1、R2
一般式(I)において、R1およびR2は、各々独立に任意の炭化水素基を表す。
この任意の炭化水素基の具体例として、好ましくは、
炭素数1〜30のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ノルマルヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基など)、
炭素数2〜30のアルケニル基(例えば、ビニル基、2,2−ジメチルエテニル基など)、
炭素数2〜30のアルキニル基(例えば、エチニル基など)、
炭素数6〜30の芳香族炭化水素基(例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、フルオランテン環などの、6員環の単環または2〜5縮合環由来の1価の基、あるいは、それらが複数個連結されて形成された1価の基(ビフェニル基、ターフェニル基など))
が挙げられ、より好ましくは、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数6〜30の芳香族炭化水素基であり、最も好ましくは、R1および/またはR2は一般式(II)で示される置換基である。
上記置換基は、更に任意の数の置換基を有していてもよい。その置換基として、好ましい具体例は、上記置換基と同様である。
[3]R3〜R7
一般式(II)におけるR3〜R7は、各々独立に、水素原子または任意の炭化水素基を表す。
この任意の炭化水素基の具体例として、好ましくは、
炭素数1〜30のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ノルマルヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基など)、
炭素数2〜30のアルケニル基(例えば、ビニル基、2,2−ジメチルエテニル基など)、
炭素数2〜30のアルキニル基(例えば、エチニル基など)、
炭素数6〜30の芳香族炭化水素基(例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、フルオランテン環などの、6員環の単環または2〜5縮合環由来の1価の基、あるいは、それらが複数個連結されて形成された1価の基(ビフェニル基、ターフェニル基など))
が挙げられ、より好ましくは、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数6〜30の芳香族炭化水素基であり、最も好ましくは、フェニル基またはそれらが複数個連結されて形成された1価の基である。
上記置換基は、更に任意の数の置換基を有していてもよいが、その置換基として、好ましい具体例は、上記置換基の具体例と同様である。
R3として、特に好ましくは、水素原子、炭素数1〜30のアルキル基または炭素数6〜30の芳香族炭化水素基であり、最も好ましくは、水素原子または炭素数1〜30の芳香族炭化水素基である。
R4として、特に好ましくは、水素原子、炭素数1〜30のアルキル基または炭素数6〜30の芳香族炭化水素基であり、有機溶剤に対する溶解性を損なわない観点から、最も好ましくは、水素原子または炭素数1〜30のアルキル基である。
R5として、特に好ましくは、水素原子、炭素数1〜30のアルキル基または炭素数6〜30の芳香族炭化水素基であり、電気的酸化還元耐性の観点から、最も好ましくは、水素原子である。
R6として、特に好ましくは、水素原子、炭素数1〜30のアルキル基または炭素数6〜30の芳香族炭化水素基であり、最も好ましくは、水素原子または炭素数6〜30の芳香族炭化水素基である。
R7として、特に好ましくは、水素原子、炭素数1〜30のアルキル基または炭素数6〜30の芳香族炭化水素基であり、最も好ましくは、素原子または炭素数6〜30の芳香族炭化水素基である。
[4]1分子内の部分構造Iの数
本発明の炭化水素化合物は、部分構造Iを1分子内に1以上有するものであればよく、その数には特に制限はないが、1分子内の部分構造Iの数は、好ましくは1〜10の範囲であり、より好ましくは1〜3の範囲である。
部分構造Iの数がこの上限を超えると、不純物の除去が困難となったり、気化温度が上昇して蒸着法による製膜が困難になったり、有機溶剤に対する溶解性が低下して湿式法による製膜に支障が出る恐れがあり、好ましくない。
[5]炭化水素化合物の分子量
本発明の炭化水素化合物の分子量は、5000以下が好ましく、3000以下が更に好ましい。炭化水素化合物の分子量がこの上限を上回ると、不純物の除去が困難となったり、気化温度が上昇して蒸着法による製膜が困難になったり、有機溶剤に対する溶解性が低下して湿式法による製膜に支障が出る恐れがあり、好ましくない。
また、炭化水素化合物の分子量は、500以上が好ましく、600以上がさらに好ましく、800以上が特に好ましい。炭化水素化合物の分子量がこの下限を下回ると、耐熱性が低下して、実用性が制限されたり、気化温度が低下して蒸着法による製膜が困難になったり、湿式法による製膜において、膜質低下などで支障が出る恐れがあり、好ましくない。
[6]炭化水素化合物の好適構造
本発明の炭化水素化合物は、特に、下記一般式(III),(IV−1),(IV−2)のいずれかで表される化合物であることが好ましい。
[式中、R
3およびR
4は上記式(II)におけると同義である。一分子中に含まれる複数のR
3およびR
4は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
[式中、R
3およびR
4は前記式(II)におけると同義である。一分子中に含まれる複数のR
3およびR
4は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。R
6およびR
7は、各々独立に水素原子または任意の炭化水素基を表す。]
[式中、R
3およびR
4は前記式(II)におけると同義である。R
6およびR
7は、各々独立に水素原子または任意の炭化水素基を表す。一分子中に含まれる複数のR
6およびR
7は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
[7]炭化水素化合物の例示
以下に、本発明の炭化水素化合物として好ましい具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[8]炭化水素化合物の合成法
本発明の炭化水素化合物は、公知の手法の組合せにより、合成することが出来る。
合成方法の具体例を以下に示す。
尚、中間体が一般に入手可能である場合、合成の前段階を省くことができることは言うまでもない。
以下の反応式中、R0は、任意の炭化水素基であり、本発明に記載のR1,R2と同義であってもよく、一分子中にR0が複数個ある場合、それぞれは互いに同一であっても異なっていても良い。
Qは任意の炭化水素基または炭化水素基に置換可能な任意の脱離性置換基(例えば、ヨウ素、臭素、塩素、フッ素、トリフルオロメタンスルフォニル基、p−トルエンスルフォニル基など)を表し、Yは、−B(OH)2、−B(OR)2などの置換ホウ素原子、−MgX基、−ZnX基、−SnX2基(但し、ここでXは、ヨウ素、臭素、塩素、フッ素などのハロゲン原子を表す)などのハロゲン化金属元素を表す。
本発明の一般式(I)で表される部分構造は、例えば、以下の1)〜3)のような手法により、合成することができる。
本反応に用いられる酸触媒としては、四塩化チタン、四塩化珪素、塩酸、硫酸、三塩化アルミニウム、塩化チオニル、ボロントリフルオリド・エーテラート、硫酸、K2S2O7、Nafion H(Catalysis Letters, 6(3-6), 341-344, (1990)参照)などが挙げられ、原料のアセチル基1モルに対して、通常、0.1〜100モル程度用いられる。上記反応は無溶媒で実施しても良いが、用いられる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジエチレングリコール、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、エチレングリコールモノエチルエーテル、硫酸、酢酸など、あるいはこれらの2種以上の混合溶媒が用いられる。温度条件は、−20〜200℃の範囲であり、好ましくは0〜100℃の範囲である。反応時間は、通常、30分〜48時間程度である。反応系中の雰囲気は、大気、乾燥空気、窒素、アルゴンなどであるが、好ましくは、乾燥空気、窒素、アルゴンである。また、必要に応じ、トリメトキシメタンなどを共存させることも可能である。
上記反応に関連する文献には、
Journal of Chemical Research, Synopses, (12), 778-779, (2003)、
Polymer Preprints (American Chemical Society, Division of Polymer Chemistry), 44(2), 811, (2003)、
Huaxue Tongbao, 67(9), 700-701, (2004)、
Journal of Chinese Chemical Society (Taipei, Taiwan), 49(1), 91-94, (2002)、
Synlett, (12), 1947-1949, (2001)、
Huaxue Shiji, 22(6), 331-332, 359, (2000)、
Huaxue Tongbao, (8), 21-22, (2000)、
Huaxue Shiji, 41(3), 130-131, (2000)、
Journal Chemical Research Synopses, (7), 232-233, (1997)、
Tetrahedron Letters, 38(6), 1071-1074, (1997)、
Tetrahedron Letters, 32(33), 4175-4176, (1991)、
Catalysis Letters, 6(3-6), 341-344, (1990)、
Chemische Berichte, 121(12), 2179-2185, (1988)、
Journal of Organic Chemistry, 69, 6050-6058, (2004)
などが挙げられ、これらに記載される具体的条件を必要に応じ、利用することが出来る。
更に、ここで得られた化合物が、中間体である場合(即ち、QがXに相当する場合)、公知のアリール−アリールカップリング手法を用いて、3−ビフェニル基若しくはその類縁基を導入することにより、本発明の炭化水素化合物を得ることができる。
公知のアリール−アリールカップリング手法としては、具体的には、「Palladium in Heterocyclic Chemistry : A guide for the Synthetic Chemist」(第二版、2002、Jie Jack Li and Gordon W. Gribble、Pergamon社)、「遷移金属が拓く有機合成 その多彩な反応形式と最新の成果」(1997年、辻二郎、化学同仁社)、「ボルハルト・ショアー現代有機化学 下」(2004年、K.P.C.Vollhardt、化学同人社))などに記載または引用されている、ハロゲン化アリールとアリールボレートとのカップリング反応などの、環同士の結合(カップリング)反応)を用いることができる。
2)ピリリニウム塩からの合成
例えば、Journal fuer Praktische Chemie(Liepzig), 327(5), 775-788, (1985)に記載の下記反応が利用可能である。
更に、ここで得られた化合物が、中間体である場合(即ち、QがXに相当する場合)、前述した公知のアリール−アリールカップリング手法を用いて、3−ビフェニル基若しくはその類縁基を導入することにより、本発明の炭化水素化合物を得ることができる。
3)ポリハライドからの合成
例えば、下記反応などが利用可能である。
不活性ガス雰囲気下、ハロゲン化アリールをアリールボロン酸、アリールボロン酸エステル、アリールチンクロライド、アリールジンククロライド、アリールマグネシウムブロマイド、アリールマグネシウムアイオダイドなど(Xに対して、1.0〜1.5当量)と、テトラキス(トリフェニルフォスフィン)パラジウムなどの0価のパラジウム触媒(Xに対して、0.0001〜0.2当量)、tert−ブトキシナトリウム、tert−ブトキシカリウム、炭酸セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸三カリウム、トリエチルアミン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどの塩基(Xに対して、2〜10当量)、水、メタノール、エタノール、ノルマルヘキサノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジクロロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、エチルベンゾエート、酢酸エチルなどの溶剤(Xに対して、0.01〜100リットル/モル程度)などと共に、−40〜150℃の温度条件下、1〜60時間ほど撹拌することにより、上記反応を行うことができる。
上記反応式中の中間体1あるいは2を経る必要がある場合の合成手法の文献として具体的には、Bull. Chem. Soc. Jpn., 62(10), 3122-3126, (1989)、Synthesis, 13, 2181-2185, (2004)、Journal of the American Chemical Society, 114(3), 1018-1025, (1992)、Chem. Mater., 2, 346-349, (1990)などが挙げられる。
また、上記合成方法例で示した構造は、任意の公知連結手段を用いて、より大きな分子量の化合物にすることが出来る。
化合物の精製方法としては、「分離精製技術ハンドブック」(1993年、(財)日本化学会編)、「化学変換法による微量成分および難精製物質の高度分離」(1988年、(株)アイ ピー シー発行)、あるいは「実験化学講座(第4版)1」(1990年、(財)日本化学会編)の「分離と精製」の項に記載の方法をはじめとし、公知の技術を利用可能である。
具体的には、抽出(懸濁洗浄、煮沸洗浄、超音波洗浄、酸塩基洗浄を含む)、吸着、吸蔵、融解、晶析(溶剤からの再結晶、再沈殿を含む)、蒸留(常圧蒸留、減圧蒸留)、蒸発、昇華(常圧昇華、減圧昇華)、イオン交換、透析、濾過、限外濾過、逆浸透、圧浸透、帯域溶解、電気泳動、遠心分離、浮上分離、沈降分離、磁気分離、各種クロマトグラフィー(形状分類:カラム、ペーパー、薄層、キャピラリー。移動相分類:ガス、液体、ミセル、超臨界流体。分離機構:吸着、分配、イオン交換、分子ふるい、キレート、ゲル濾過、排除、アフィニティー)などが挙げられる。
生成物の確認や純度の分析方法としては、ガスクロマトグラフ(GC)、高速液体クロマトグラフ(HPLC)、高速アミノ酸分析計(AAA)、キャピラリー電気泳動測定(CE)、サイズ排除クロマトグラフ(SEC)、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)、交差分別クロマトグラフ(CFC)質量分析(MS、LC/MS,GC/MS,MS/MS)、核磁気共鳴装置(NMR(1HNMR,13CNMR))、フーリエ変換赤外分光高度計(FT−IR)、紫外可視近赤外分光高度計(UV.VIS,NIR)、電子スピン共鳴装置(ESR)、透過型電子顕微鏡(TEM−EDX)電子線マイクロアナライザー(EPMA)、金属元素分析(イオンクロマトグラフ、誘導結合プラズマ−発光分光(ICP−AES)原子吸光分析(AAS)蛍光X線分析装置(XRF))、非金属元素分析、微量成分分析(ICP−MS,GF−AAS,GD−MS)等を必要に応じ、適用可能である。
[9]炭化水素化合物の用途
本発明の炭化水素化合物は、高い電荷輸送性を有するため、電荷輸送材料として電子写真感光体、有機電界発光素子、光電変換素子、有機太陽電池、有機整流素子等に好適に使用できる。
また、高い三重項励起準位を有することから、本発明の炭化水素化合物からなる電荷輸送材料を用いることにより、耐熱性に優れ、長期間安定に駆動(発光)する有機電界発光素子が得られるため、本発明の炭化水素化合物および電荷輸送材料は有機電界発光素子材料として、とりわけ好適である。
[電荷輸送材料組成物]
本発明の電荷輸送材料組成物は、前述の本発明の炭化水素化合物と溶剤とを含むものであり、好ましくは、有機電界発光素子用に使用される。
[1]溶剤
本発明の電荷輸送材料組成物に含まれる溶剤としては、溶質である本発明の電荷輸送材料等が良好に溶解する溶剤であれば特に限定されない。
本発明の電荷輸送材料は溶解性が非常に高いため、種々の溶剤が適用化能である。例えば、トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル;シクロヘキサノン、シクロオクタノン等の脂環を有するケトン;メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン;メチルエチルケトン、シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環を有するアルコール;ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル等が利用できる。これらのうち、水の溶解度が低い点、容易には変質しない点で、トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素が好ましい。
有機電界発光素子には、陰極等の水分により著しく劣化する材料が多く使用されているため、組成物中の水分の存在は、乾燥後の膜中に水分が残留し、素子の特性を低下させる可能性が考えられ好ましくない。
組成物中の水分量を低減する方法としては、例えば、窒素ガスシール、乾燥剤の使用、溶剤を予め脱水する、水の溶解度が低い溶剤を使用する等が挙げられる。なかでも、水の溶解度が低い溶剤を使用する場合は、湿式製膜工程中に、溶液膜が大気中の水分を吸収して白化する現象を防ぐことができるため好ましい。この様な観点からは、本実施の形態が適用される電荷輸送材料組成物は、例えば、25℃における水の溶解度が1重量%以下、好ましくは0.1重量%以下である溶剤を、組成物中10重量%以上含有することが好ましい。
また、湿式製膜時における組成物からの溶剤蒸発による、製膜安定性の低下を低減するためには、電荷輸送材料組成物の溶剤として、沸点が100℃以上、好ましくは沸点が150℃以上、より好ましくは沸点が200℃以上の溶剤を用いることが効果的である。また、より均一な膜を得るためには、製膜直後の液膜から溶剤が適当な速度で蒸発することが必要で、このためには通常沸点80℃以上、好ましくは沸点100℃以上、より好ましくは沸点120℃以上で、通常沸点270℃未満、好ましくは沸点250℃未満、より好ましくは沸点230℃未満の溶剤を用いることが効果的である。
上述の条件、即ち溶質の溶解性、蒸発速度、水の溶解度の条件を満足する溶剤を単独で用いてもよいが、すべての条件を満たす溶剤が選定できない場合は、2種類以上の溶剤を混合して用いることもできる。
[2]発光材料
本発明の電荷輸送材料組成物は、発光材料を含有することが好ましい。
発光材料とは、本発明の電荷輸送材料組成物において、主として発光する成分を指し、有機ELデバイスにおけるドーパント成分に当たる。該電荷輸送材料組成物から発せられる光量(単位:cd/m2)の内、通常10〜100%、好ましくは20〜100%、より好ましくは50〜100%、最も好ましくは80〜100%が、ある成分材料からの発光と同定される場合、それを発光材料と定義する。
発光材料としては、任意の公知材料を適用可能であり、蛍光発光材料あるいは燐光発光材料を単独若しくは複数を混合して使用できるが、内部量子効率の観点から、好ましくは、燐光発光材料である。
尚、溶剤への溶解性を向上させる目的で、発光材料分子の対称性や剛性を低下させたり、あるいはアルキル基などの親油性置換基を導入したりすることも、重要である。
青色発光を与える蛍光色素としては、ペリレン、ピレン、アントラセン、クマリン、p−ビス(2−フェニルエテニル)ベンゼンおよびそれらの誘導体等が挙げられる。緑色蛍光色素としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体等が挙げられる。黄色蛍光色素としては、ルブレン、ペリミドン誘導体等が挙げられる。赤色蛍光色素としては、DCM系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン等が挙げられる。
燐光発光材料としては、例えば周期表7ないし11族から選ばれる金属を含む有機金属錯体が挙げられる。
周期表7ないし11族から選ばれる金属を含む燐光性有機金属錯体における金属として好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられる。これらの有機金属錯体として、好ましくは下記一般式(V)または下記一般式(VI)で表される化合物が挙げられる。
ML(q−j)L’j (V)
(一般式(V)中、Mは金属を表し、qは上記金属の価数を表す。また、LおよびL’は二座配位子を表す。jは0、1または2を表す。)
(一般式(VI)中、M
dは金属を表し、Tは炭素または窒素を表す。R
92〜R
95は、それぞれ独立に置換基を表す。ただし、Tが窒素の場合は、R
94およびR
95は無い。)
以下、まず、一般式(V)で表される化合物について説明する。
一般式(V)中、Mは任意の金属を表し、好ましいものの具体例としては、周期表7ないし11族から選ばれる金属として前述した金属が挙げられる。
また、一般式(V)中の二座配位子LおよびL’は、それぞれ、以下の部分構造を有する配位子を示す。
L’として、錯体の安定性の観点から、特に好ましくは、下記のものが挙げられる。
上記L,L’の部分構造において、環A1は、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表し、これらは置換基を有していてもよい。また、環A2は、含窒素芳香族複素環基を表し、これらは置換基を有していてもよい。
環A1,A2が置換基を有する場合、好ましい置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アセチル基等のアシル基;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;シアノ基;フェニル基、ナフチル基、フェナンチル基等の芳香族炭化水素基等が挙げられる。
一般式(V)で表される化合物として、さらに好ましくは、下記一般式(Va)、(Vb)、(Vc)で表される化合物が挙げられる。
(一般式(Va)中、M
aはMと同様の金属を表し、wは上記金属の価数を表す。また、環A1は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、環A2は置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。)
(一般式(Vb)中、M
bはMと同様の金属を表し、wは上記金属の価数を表す。また、環A1は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、環A2は置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。)
(一般式(Vc)中、M
cはMと同様の金属を表し、wは上記金属の価数を表す。また、jは0、1または2を表す。さらに、環A1および環A1’は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。また、環A2および環A2’は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。)
上記一般式(Va)、(Vb)、(Vc)において、環A1および環A1’の基としては、好ましくは、例えばフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、チエニル基、フリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフリル基、ピリジル基、キノリル基、イソキノリル基、カルバゾリル基等が挙げられる。
また、環A2、環A2’の基としては、好ましくは、例えばピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、トリアジル基、ベンゾチアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾイミダゾール基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基、フェナントリジル基等が挙げられる。
さらに、一般式(Va)、(Vb)、(Vc)で表される化合物が有していてもよい置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アセチル基等のアシル基;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;シアノ基等が挙げられる。
上記置換基がアルキル基である場合は、その炭素数は通常1以上6以下である。さらに、置換基がアルケニル基である場合は、その炭素数は通常2以上6以下である。また、置換基がアルコキシカルボニル基である場合は、その炭素数は通常2以上6以下である。さらに、置換基がアルコキシ基である場合は、その炭素数は通常1以上6以下である。また、置換基がアリールオキシ基である場合は、その炭素数は通常6以上14以下である。さらに、置換基がジアルキルアミノ基である場合は、その炭素数は通常2以上24以下である。また、置換基がジアリールアミノ基である場合は、その炭素数は通常12以上28以下である。さらに、置換基がアシル基である場合は、その炭素数は通常1以上14以下である。また、置換基がハロアルキル基である場合は、その炭素数は通常1以上12以下である。
なお、これら置換基は互いに連結して環を形成してもよい。具体例としては、環A1が有する置換基と環A2が有する置換基とが結合するか、または、環A1’が有する置換基と環A2’が有する置換基とが結合するかして、一つの縮合環を形成してもよい。このような縮合環基としては、7,8−ベンゾキノリン基等が挙げられる。
中でも、環A1、環A1’、環A2および環A2’の置換基として、より好ましくはアルキル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、シアノ基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、ジアリールアミノ基、カルバゾリル基が挙げられる。
また、一般式(Va)、(Vb)、(Vc)におけるMa,Mb,Mcとして好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金または金が挙げられる。
上記一般式(V)、(Va)、(Vb)または(Vc)で示される有機金属錯体の具体例を以下に示すが、下記の化合物に限定されるものではない(以下において、Phはフェニル基を表す。)。
上記一般式(V)、(Va)、(Vb)、(Vc)で表される有機金属錯体の中でも、特に、配位子Lおよび/またはL’として2−アリールピリジン系配位子、即ち、2−アリールピリジン、これに任意の置換基が結合したもの、および、これに任意の基が縮合してなるものを有する化合物が好ましい。
次に、前記一般式(VI)で表される化合物について説明する。
一般式(VI)中、Mdは金属を表し、具体例としては、周期表7ないし11族から選ばれる金属として前述した金属が挙げられる。中でも好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金または金が挙げられ、特に好ましくは、白金、パラジウム等の2価の金属が挙げられる。
また、一般式(VI)において、R92およびR93は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、シアノ基、アミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、ハロアルキル基、水酸基、アリールオキシ基、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。
さらに、Tが炭素の場合、R94およびR95は、それぞれ独立に、R92およびR93と同様の例示物で表される置換基を表す。また、前述の如く、Tが窒素の場合はR94およびR95は無い。
また、R92〜R95はさらに置換基を有していてもよい。この場合のさらに有していてもよい置換基には特に制限はなく、任意の基を置換基とすることができる。
さらに、R92〜R95は互いに連結して環を形成してもよく、この環がさらに任意の置換基を有していてもよい。
一般式(VI)で表される有機金属錯体の具体例(T−1,T−10〜T−15)を以下に示すが、下記の例示化合物に限定されるものではない。なお、以下において、Meはメチル基を表し、Etはエチル基を表す。
また、有機金属錯体としては、WO2005/019373号公報に記載の化合物も使用することができる。
[3]その他の成分
本発明の電荷輸送材料組成物中には、前述した溶剤および発光材料以外にも、必要に応じて、各種の他の溶剤を含んでいてもよい。このような他の溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
また、レベリング剤や消泡剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
また、2層以上の層を湿式製膜法により積層する際に、これらの層が相溶することを防ぐため、製膜後に硬化させて不溶化させる目的で光硬化性樹脂や、熱硬化性樹脂を含有させておくこともできる。
[4]電荷輸送材料組成物中の材料濃度と配合比
本発明の電荷輸送材料組成物中の電荷輸送材料、発光材料および必要に応じて添加可能な成分(レベリング剤など)などの固形分濃度は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上、最も好ましくは1重量%以上であり、通常80重量%以下、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下、最も好ましくは20重量%以下である。この濃度が下限を下回ると、薄膜を形成する場合、厚膜を形成するのが困難となり、上限を超えると、薄膜を形成するのが困難となる。
また、本発明の電荷輸送材料組成物において、発光材料/電荷輸送材料の重量混合比は、通常、0.1/99.9以上であり、より好ましくは0.5/99.5以上であり、さらに好ましくは1/99以上であり、最も好ましくは2/98以上で、通常、50/50以下であり、より好ましくは40/60以下であり、さらに好ましくは30/70以下であり、最も好ましくは20/80以下である。この比が下限を下回ったり、上限を超えたりすると、著しく発光効率が低下するおそれがある。
[5]電荷輸送材料組成物の調製方法
本発明の電荷輸送材料組成物は、電荷輸送材料、発光材料、および必要に応じて添加可能なレベリング剤や消泡剤等の各種添加剤よりなる溶質を、適当な溶剤に溶解させることにより調製される。溶解工程に要する時間を短縮するため、および組成物中の溶質濃度を均一に保つため、通常、液を撹拌しながら溶質を溶解させる。溶解工程は常温で行ってもよいが、溶解速度が遅い場合は加熱して溶解させることもできる。溶解工程終了後、必要に応じて、フィルタリング等の濾過工程を経由してもよい。
[6]電荷輸送材料組成物の性状、物性等
(水分濃度)
本発明の電荷輸送材料組成物を用いた湿式製膜法により層形成して有機電界発光素子を製造する場合、用いる電荷輸送材料組成物に水分が存在すると、形成された膜に水分が混入して膜の均一性が損なわれるため、本発明の電荷輸送材料組成物中の水分含有量はできるだけ少ない方が好ましい。また一般に、有機電界発光素子は、陰極等の水分により著しく劣化する材料が多く使用されているため、電荷輸送材料組成物中に水分が存在した場合、乾燥後の膜中に水分が残留し、素子の特性を低下させる可能性が考えられ好ましくない。
具体的には、本発明の電荷輸送材料組成物中に含まれる水分量は、通常1重量%以下、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.01重量%以下である。
電荷輸送材料組成物中の水分濃度の測定方法としては、日本工業規格「化学製品の水分測定法」(JIS K0068:2001)に記載の方法が好ましく、例えば、カールフィッシャー試薬法(JIS K0211−1348)等により分析することができる。
(均一性)
本発明の電荷輸送材料組成物は、湿式製膜プロセスでの安定性、例えば、インクジェット製膜法におけるノズルからの吐出安定性を高めるためには、常温で均一な液状であることが好ましい。常温で均一な液状とは、組成物が均一相からなる液体であり、かつ組成物中に粒径0.1μm以上の粒子成分を含有しないことをいう。
(物性)
本発明の電荷輸送材料組成物の粘度については、極端に低粘度の場合は、例えば製膜工程における過度の液膜流動による塗面不均一、インクジェット製膜におけるノズル吐出不良等が起こりやすくなり、極端に高粘度の場合は、インクジェット製膜におけるノズル目詰まり等が起こりやすくなる。このため、本発明の組成物の25℃における粘度は、通常2mPa・s以上、好ましくは3mPa・s以上、より好ましくは5mPa・s以上であり、通常1000mPa・s以下、好ましくは100mPa・s以下、より好ましくは50mPa・s以下である。
また、本発明の電荷輸送材料組成物の表面張力が高い場合は、基板に対する製膜用液の濡れ性が低下する、液膜のレベリング性が悪く、乾燥時の製膜面乱れが起こりやすくなる等の問題が発生するため、本発明の組成物の20℃における表面張力は、通常50mN/m未満、好ましくは40mN/m未満である。
さらに、本発明の電荷輸送材料組成物の蒸気圧が高い場合は、溶剤の蒸発による溶質濃度の変化等の問題が起こりやすくなる。このため、本発明の組成物の25℃における蒸気圧は、通常50mmHg以下、好ましくは10mmHg以下、より好ましくは1mmHg以下である。
[7]電荷輸送材料組成物の保存方法
本発明の電荷輸送材料組成物は、紫外線の透過を防ぐことのできる容器、例えば、褐色ガラス瓶等に充填し、密栓して保管することが好ましい。保管温度は、通常−30℃以上、好ましくは0℃以上で、通常35℃以下、好ましくは25℃以下である。
[有機電界発光素子]
本発明の有機電界発光素子は、基板上に少なくとも陽極、陰極およびこれらの両極間に設けられた発光層を有するものであって、本発明の炭化水素化合物を含有する層を有することを特徴とする。この層は、本発明の電荷輸送材料組成物を用いて湿式製膜法により形成された層であることが好ましく、特にこの層は発光層であることが好ましい。
また、特に本発明の炭化水素化合物は、発光層または正孔阻止層に含有されることが好ましい。
図1〜9は本発明の有機電界発光素子に好適な構造例を示す断面の模式図であり、図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は発光層、5は電子注入層、6は陰極を各々表す。
[1]基板
基板1は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシートなどが用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホンなどの透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機電界発光素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
[2]陽極
基板1上には陽極2が設けられる。陽極2は発光層側の層(正孔注入層3または発光層4など)への正孔注入の役割を果たすものである。
この陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウムおよび/またはスズの酸化物などの金属酸化物、ヨウ化銅などのハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子などにより構成される。
陽極2の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法などにより行われることが多い。また、銀などの金属微粒子、ヨウ化銅などの微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末などを用いて陽極を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。さらに、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板1上に薄膜を形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
陽極2は通常は単層構造であるが、所望により複数の材料からなる積層構造とすること
も可能である。
陽極2の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが望ましい。この場合、陽極の厚みは通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常1000nm以下、好ましくは500nm以下程度である。不透明でよい場合は陽極2の厚みは任意であり、陽極2は基板1と同一でもよい。また、さらには上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
陽極に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的に、陽極表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理したりすることは好ましい。
[3]正孔注入層
正孔注入層3は陽極2から発光層4へ正孔を輸送する層であるため、正孔注入層3には正孔輸送性化合物を含むことが好ましい。
正孔注入層3では、電気的に中性の化合物から電子が一つ除かれたカチオンラジカルが、近傍の電気的に中性な化合物から一電子を受容することによって、正孔が移動する。素子非通電時の正孔注入層3にカチオンラジカル化合物が含まれない場合は、通電時に、正孔輸送性化合物が陽極2に電子を与えることにより正孔輸送性化合物のカチオンラジカルが生成し、このカチオンラジカルと電気的に中性な正孔輸送性化合物との間で電子の授受が行われることにより正孔を輸送する。
正孔注入層3にカチオンラジカル化合物が含まれると、陽極2による酸化によって生成する以上の濃度で正孔輸送に必要なカチオンラジカルが存在することになり、正孔輸送性能が向上するため、正孔注入層3にカチオンラジカル化合物を含むことが好ましい。カチオンラジカル化合物の近傍に電気的に中性な正孔輸送性化合物が存在すると、電子の受け渡しがスムーズに行われるため、正孔注入層3にカチオンラジカル化合物と正孔輸送性化合物とを含むことがさらに好ましい。
ここで、カチオンラジカル化合物とは、正孔輸送性化合物から一電子取り除いた化学種であるカチオンラジカルと、対アニオンからなるイオン化合物であり、移動しやすい正孔(フリーキャリア)を既に有している。
また、正孔輸送性化合物に電子受容性化合物を混合することによって、正孔輸送性化合物から電子受容性化合物への一電子移動が起こり、上述のカチオンラジカル化合物が生成する。このため、正孔注入層3に正孔輸送性化合物と電子受容性化合物とを含むことが好ましい。
以上の好ましい材料についてまとめると、正孔注入層3に正孔輸送性化合物を含むことが好ましく、正孔輸送性化合物と電子受容性化合物とを含むことがさらに好ましい。また、正孔注入層3にカチオンラジカル化合物を含むことが好ましく、カチオンラジカル化合物と正孔輸送性化合物とを含むことがさらに好ましい。
さらに、必要に応じて、正孔注入層3には電荷のトラップになりにくいバインダー樹脂や、塗布性改良剤を含んでいてもよい。
但し、正孔注入層3として、電子受容性化合物のみを湿式製膜法によって陽極2上に製膜し、その上から直接、本発明の電荷輸送材料組成物を塗布、積層することも可能である。この場合、本発明の電荷輸送材料組成物の一部が電子受容性化合物と相互作用することによって、正孔注入性に優れた層が形成される。
(正孔輸送性化合物)
正孔輸送性化合物としては、4.5eV〜6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。
正孔輸送性化合物の例としては、本発明の電荷輸送材料の他、芳香族アミン化合物、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。中でも非晶質性、可視光の透過率の点から、芳香族アミン化合物が好ましい。
芳香族アミン化合物の中でも、特に、本発明の電荷輸送材料などの芳香族三級アミン化合物が好ましい。ここで、芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
芳香族三級アミン化合物の種類は特に制限されないが、表面平滑化効果の点から、重量平均分子量が1000以上、1000000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なる重合型炭化水素化合物)がさらに好ましい。
芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例として、下記一般式(VII)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物が挙げられる。
(一般式(VII)中、Ar
21,Ar
22は各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Ar
23〜Ar
25は、各々独立して、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基、または置換基を有していてもよい2価の芳香族複素環基を表す。Yは、下記の連結基群の中から選ばれる連結基を表す。また、Ar
21〜Ar
25のうち、同一のN原子に結合する二つの基は互いに結合して環を形成してもよい。)
(上記各式中、Ar
31〜Ar
41は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、または置換基を有していてもよい芳香族複素環由来の1価または2価の基を表す。R
31およびR
32は、各々独立して、水素原子または任意の置換基を表す。))
Ar21〜Ar25およびAr31〜Ar41としては、任意の芳香族炭化水素環または芳香族複素環由来の、1価または2価の基が適用可能である。これらは各々同一であっても、互いに異なっていてもよい。また、任意の置換基を有していてもよい。
その芳香族炭化水素環としては、5または6員環の単環または2〜5縮合環が挙げられる。具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環などが挙げられる。
また、その芳香族複素環としては、5または6員環の単環または2〜4縮合環が挙げられる。具体例としては、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環などが挙げられる。
また、Ar23〜Ar25、Ar31〜Ar35、Ar37〜Ar40としては、上に例示した1種類または2種類以上の芳香族炭化水素環および/または芳香族複素環由来の2価の基を2つ以上連結して用いることもできる。
Ar21〜Ar41の芳香族炭化水素環および/または芳香族複素環由来の基は、さらに置換基を有していてもよい。置換基の分子量としては、通常400以下、中でも250以下程度が好ましい。置換基の種類は特に制限されないが、例としては、次の置換基群Wから選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
〈置換基群W〉
メチル基、エチル基等の、炭素数が通常1以上、通常10以下、好ましくは8以下のアルキル基;ビニル基等の、炭素数が通常2以上、通常11以下、好ましくは5以下のアルケニル基;エチニル基等の、炭素数が通常2以上、通常11以下、好ましくは5以下のアルキニル基;メトキシ基、エトキシ基等の、炭素数が通常1以上、通常10以下、好ましくは6以下のアルコキシ基;フェノキシ基、ナフトキシ基、ピリジルオキシ基等の、炭素数が通常4以上、好ましくは5以上、通常25以下、好ましくは14以下のアリールオキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の、炭素数が通常2以上、通常11以下、好ましくは7以下のアルコキシカルボニル基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の、炭素数が通常2以上、通常20以下、好ましくは12以下のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、N−カルバゾリル基等の、炭素数が通常10以上、好ましくは12以上、通常30以下、好ましくは22以下のジアリールアミノ基;フェニルメチルアミノ基等の、炭素数が通常6以上、好ましくは7以上、通常25以下、好ましくは17以下のアリールアルキルアミノ基;アセチル基、ベンゾイル基等の、炭素数が通常2以上、通常10以下、好ましくは7以下のアシル基;フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;トリフルオロメチル基等の、炭素数が通常1以上、通常8以下、好ましくは4以下のハロアルキル基;メチルチオ基、エチルチオ基等の、炭素数が通常1以上、通常10以下、好ましくは6以下のアルキルチオ基;フェニルチオ基、ナフチルチオ基、ピリジルチオ基等の、炭素数が通常4以上、好ましくは5以上、通常25以下、好ましくは14以下のアリールチオ基;トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基等の、炭素数が通常2以上、好ましくは3以上、通常33以下、好ましくは26以下のシリル基;トリメチルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基等の、炭素数が通常2以上、好ましくは3以上、通常33以下、好ましくは26以下のシロキシ基;シアノ基;フェニル基、ナフチル基等の、炭素数が通常6以上、通常30以下、好ましくは18以下の芳香族炭化水素環基;チエニル基、ピリジル基等の、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、通常28以下、好ましくは17以下の芳香族複素環基。
Ar21、Ar22としては、高分子化合物の溶解性、耐熱性、正孔注入・輸送性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、チオフェン環、ピリジン環由来の1価の基が好ましく、フェニル基、ナフチル基がさらに好ましい。
また、Ar23〜Ar25としては、耐熱性、酸化還元電位を含めた正孔注入・輸送性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環由来の2価の基が好ましく、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基がさらに好ましい。
R31、R32としては、水素原子または任意の置換基が適用可能である。これらは互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。置換基の種類は、特に制限されないが、適用可能な置換基を例示するならば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、シリル基、シロキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、ハロゲン原子が挙げられる。これらの具体例としては、前記の置換基群Wにおいて例示した各基が挙げられる。
一般式(VII)で表される繰り返し単位を有する芳香族三級アミン高分子化合物の具体例としては、WO2005/089024号に記載のものが挙げられ、その好適例も同様であり、例えば下記構造式で表される化合物(PB−1)が挙げられるが、何らそれらに限定されるものではない。
他の芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例として、下記一般式(VIII)および/または一般式(IX)で表される繰り返し単位を含む高分子化合物が挙げられる。
(一般式(VIII)、(IX)中、Ar
45,Ar
47およびAr
48は各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Ar
44およびAr
46は各々独立して、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基、または置換基を有していてもよい2価の芳香族複素環基を表す。また、Ar
45〜Ar
48のうち、同一のN原子に結合する2つの基は互いに結合して環を形成してもよい。R
41〜R
43は各々独立して、水素原子または任意の置換基を表す。)
Ar45,Ar47,Ar48およびAr44、Ar46の具体例、好ましい例、有していてもよい置換基の例および好ましい置換基の例は、それぞれ、Ar21,Ar22およびAr23〜Ar25と同様である。R41〜R43は好ましくは水素原子または[置換基群W]に記載されている置換基であり、さらに好ましくは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、芳香族炭化水素基、芳香族炭化水素基である。
一般式(VIII)および/または(IX)で表される繰り返し単位を含む芳香族三級アミン高分子化合物の具体例としては、WO2005/089024号に記載のものが挙げられ、その好適例も同様であるが、何らそれらに限定されるものではない。
また、湿式製膜法により正孔注入層を形成する場合には、種々の溶剤に溶解し易い正孔輸送性化合物が好ましい。芳香族三級アミン化合物としては、例えば、ビナフチル系化合物(特開2004−014187)および非対称1,4−フェニレンジアミン化合物(特開2004−026732)が好ましい。
また、従来、有機電界発光素子における正孔注入・輸送性の薄膜精製材料として利用されてきた芳香族アミン化合物の中から、種々の溶剤に溶解し易い化合物を適宜選択してもよい。正孔注入層の正孔輸送性化合物に適用可能な芳香族アミン化合物としては、例えば、有機電界発光素子における正孔注入・輸送性の層形成材料として利用されてきた、従来公知の化合物が挙げられる。例えば、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン等の3級芳香族アミンユニットを連結した芳香族ジアミン化合物(特開昭59−194393号公報);4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族アミン化合物(特開平5−234681号公報);トリフェニルベンゼンの誘導体でスターバースト構造を有する芳香族トリアミン化合物(米国特許第4,923,774号);N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)ビフェニル−4,4’−ジアミン等の芳香族ジアミン化合物(米国特許第4,764,625号);α,α,α’,α’−テトラメチル−α,α’−ビス(4−ジ(p−トリル)アミノフェニル)−p−キシレン(特開平3−269084号公報);分子全体として立体的に非対称なトリフェニルアミン誘導体(特開平4−129271号公報);ピレニル基に芳香族ジアミノ基が複数個置換した化合物(特開平4−175395号公報);エチレン基で3級芳香族アミンユニットを連結した芳香族ジアミン化合物(特開平4−264189号公報);スチリル構造を有する芳香族ジアミン(特開平4−290851号公報);チオフェン基で芳香族3級アミンユニットを連結した化合物(特開平4−304466号公報);スターバースト型芳香族トリアミン化合物(特開平4−308688号公報);ベンジルフェニル化合物(特開平4−364153号公報);フルオレン基で3級アミンを連結した化合物(特開平5−25473号公報);トリアミン化合物(特開平5−239455号公報);ビスジピリジルアミノビフェニル(特開平5−320634号公報);N,N,N−トリフェニルアミン誘導体(特開平6−1972号公報);フェノキサジン構造を有する芳香族ジアミン(特開平7−138562号公報);ジアミノフェニルフェナントリジン誘導体(特開平7−252474号公報);ヒドラゾン化合物(特開平2−311591号公報);シラザン化合物(米国特許第4,950,950号公報);シラナミン誘導体(特開平6−49079号公報);ホスファミン誘導体(特開平6−25659号公報);キナクリドン化合物等が挙げられる。これらの芳香族アミン化合物は、必要に応じて2種以上を混合して用いてもよい。
また、正孔注入層の正孔輸送性化合物に適用可能なフタロシアニン誘導体またはポルフィリン誘導体の好ましい具体例としては、ポルフィリン、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィリン、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィリンコバルト(II)、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィリン銅(II)、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィリン亜鉛(II)、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィリンバナジウム(IV)オキシド、5,10,15,20−テトラ(4−ピリジル)−21H,23H−ポルフィリン、29H,31H−フタロシアニン銅(II)、フタロシアニン亜鉛(II)、フタロシアニンチタン、フタロシアニンオキシドマグネシウム、フタロシアニン鉛、フタロシアニン銅(II)、4,4’,4”,4'''−テトラアザ−29H,31H−フタロシアニン等が挙げられる。
また、正孔注入層の正孔輸送性化合物として適用可能なオリゴチオフェン誘導体の好ましい具体例としては、α−ターチオフェンとその誘導体、α−セキシチオフェンとその誘導体、ナフタレン環を含有するオリゴチオフェン誘導体(特開平6−256341)等が挙げられる。
また、本発明における正孔輸送性化合物として適用可能なポリチオフェン誘導体の好ましい具体例としては、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)等が挙げられる。
なお、これらの正孔輸送性化合物の分子量は、高分子化合物(繰り返し単位が連なる重合性化合物)の場合を除いて、通常9000以下、好ましくは5000以下、また、通常200以上、好ましくは400以上の範囲である。正孔輸送性化合物の分子量が高過ぎると合成および精製が困難であり好ましくない一方で、分子量が低過ぎると耐熱性が低くなるおそれがありやはり好ましくない。
正孔注入層の材料として用いられる正孔輸送性化合物は、このような化合物のうち何れか1種を単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。2種以上の正孔輸送性化合物を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、芳香族三級アミン高分子化合物1種または2種以上と、その他の正孔輸送性化合物1種または2種以上とを併用するのが好ましい。
(電子受容性化合物)
電子受容性化合物とは、酸化力を有し、上述の正孔輸送性化合物から一電子受容する能力を有する化合物が好ましく、具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、5eV以上の化合物である化合物がさらに好ましい。
例としては、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート等の有機基の置換したオニウム塩、塩化鉄(III)(特開平11−251067)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の高原子価の無機化合物、テトラシアノエチレン等のシアノ化合物、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(特開2003−31365)等の芳香族ホウ素化合物、フラーレン誘導体、ヨウ素等が挙げられる。
上記の化合物のうち、強い酸化力を有する点で有機基の置換したオニウム塩、高原子価の無機化合物が好ましく、種々の溶剤に可溶で湿式塗布に適用可能である点で有機基の置換したオニウム塩、シアノ化合物、芳香族ホウ素化合物が好ましい。
電子受容性化合物として好適な有機基の置換したオニウム塩、シアノ化合物、芳香族ホウ素化合物の具体例としては、WO2005/089024号に記載のものが挙げられ、その好適例も同様であり、例えば下記構造式で表される化合物(A−2)が挙げられるが、何らそれらに限定されるものではない。
(カチオンラジカル化合物)
カチオンラジカル化合物とは、正孔輸送性化合物から一電子取り除いた化学種であるカチオンラジカルと、対アニオンからなるイオン化合物である。但し、カチオンラジカルが正孔輸送性の高分子化合物由来である場合、カチオンラジカルは高分子化合物の繰り返し単位から一電子取り除いた構造となる。
カチオンラジカルは、正孔輸送性化合物に前述した化合物から一電子取り除いた化学種であることが好ましく、正孔輸送性化合物としてさらに好ましい化合物から一電子取り除いた化学種であることが非晶質性、可視光の透過率、耐熱性、溶解性などの点からさらに好ましい。
カチオンラジカル化合物は、前述の正孔輸送性化合物と電子受容性化合物を混合することにより生成させることができる。即ち、前述の正孔輸送性化合物と電子受容性化合物を混合することにより、正孔輸送性化合物から電子受容性化合物へと電子移動が起こり、正孔輸送性化合物のカチオンラジカルと対アニオンからなるカチオンイオン化合物が生成する。
PEDOT/PSS(Adv.Mater.,2000年,12巻,481頁)やエメラルジン塩酸塩(J.Phys.Chem.,1990年,94巻,7716頁)等の高分子化合物由来のカチオンラジカル化合物は、酸化重合(脱水素重合)、即ち、モノマーを酸性溶液中で、ペルオキソ二硫酸塩等を用いて化学的に、または、電気化学的に酸化することによっても生成する。この酸化重合(脱水素重合)の場合、モノマーが酸化されることにより、高分子化されるとともに、酸性溶液由来のアニオンを対アニオンとする、高分子の繰り返し単位から一電子取り除かれたカチオンラジカルが生成する。
正孔注入層3は、湿式製膜法または真空蒸着法により陽極2上に形成される。
陽極2として一般的に用いられるITO(インジウム・スズ酸化物)は、その表面粗さが10nm程度の粗さ(Ra)を有するのに加えて、局所的に突起を有することが多く、短絡欠陥を生じ易いという問題があった。陽極2の上に形成される正孔注入層3は湿式製膜法により形成することは、真空蒸着法より形成する場合と比較して、これら陽極表面の凹凸に起因する、素子の欠陥の発生を低減する利点を有する。
湿式製膜法による層形成の場合は、前述した各材料(正孔輸送性化合物、電子受容性化合物、カチオンラジカル化合物)の1種または2種以上の所定量を、必要により電荷のトラップにならないバインダー樹脂や塗布性改良剤を添加して、溶剤に溶解させて、塗布溶液を調製し、スピンコート、スプレーコート、ディップコート、ダイコート、フレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット法等の湿式製膜法により陽極上に塗布し、乾燥して、正孔注入層3を形成させる。
湿式製膜法による層形成のために用いられる溶剤としては、前述の各材料(正孔輸送性化合物、電子受容性化合物、カチオンラジカル化合物)を溶解することが可能な溶剤であれば、その種類は特に限定されないが、正孔注入層に用いられる各材料(正孔輸送性化合物、電子受容性化合物、カチオンラジカル化合物)を失活させる恐れのある、失活物質または失活物質を発生させるものを含まないものが好ましい。
これらの条件を満たす好ましい溶剤としては、例えば、エーテル系溶剤およびエステル系溶剤が挙げられる。具体的には、エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等が挙げられる。エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル等が挙げられる。これらは何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いてもよい。
上述のエーテル系溶剤およびエステル系溶剤以外に使用可能な溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらは何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いてもよい。また、これらの溶剤のうち1種または2種以上を、上述のエーテル系溶剤およびエステル系溶剤のうち1種または2種以上と組み合わせて用いてもよい。特に、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤は、電子受容性化合物およびカチオンラジカル化合物を溶解する能力が低いため、エーテル系溶剤およびエステル系溶剤と混合して用いることが好ましい。
塗布溶液中における溶剤の濃度は、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50%重量以上、また、通常99.999重量%以下、好ましくは99.99重量%以下、さらに好ましくは99.9重量%以下の範囲である。なお、2種以上の溶剤を混合して用いる場合には、これらの溶剤の合計がこの範囲を満たすようにする。
真空蒸着法による層形成の場合には、前述した各材料(正孔輸送性化合物、電子受容性化合物、カチオンラジカル化合物)の1種または2種以上を真空容器内に設置されたるつぼに入れ(2種以上材料を用いる場合は各々のるつぼに入れ)、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度まで排気した後、るつぼを加熱して(2種以上材料を用いる場合は各々のるつぼを加熱して)、蒸発量を制御して蒸発させ(2種以上材料を用いる場合はそれぞれ独立に蒸発量を制御して蒸発させ)、るつぼと向き合って置かれた基板の陽極上に正孔注入層を形成させる。なお、2種以上の材料を用いる場合は、それらの混合物をるつぼに入れ、加熱し蒸発させて正孔注入層形成に用いることもできる。
このようにして形成される正孔注入層3の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
なお、正孔注入層3は、図6に示す如く、これを省略しても良い。
[4]発光層
正孔注入層3の上には通常発光層4が設けられる。発光層4は例えば前述の発光材料を含む層であり、電界を与えられた電極間において、陽極2から正孔注入層3を通じて注入された正孔と、陰極6から電子輸送層5を通じて注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。発光層4は発光材料(ドーパント)と1種または2種以上のホスト材料を含むことが好ましく、発光層4は本発明の炭化水素化合物をホスト材料として含むことがさらに好ましく、真空蒸着法で形成しても良いが、本発明の電荷輸送材料組成物を用い、湿式製膜法によって作製された層であることが特に好ましい。
ここで、湿式製膜法とは、前述の如く、溶剤を含む組成物を、スピンコート、スプレーコート、ディップコート、ダイコート、フレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット法等により製膜するものである。
なお、発光層4は、本発明の性能を損なわない範囲で、他の材料、成分を含んでいてもよい。また、発光層4は、2層または3層以上からなる複層構造であってもよく、その場合、それぞれの層の組成比が異なっていてもよいし、異なる材料を含有するものであってもよい。また、層間に五酸化バナジウムなどからなる電荷発生層を設けることも可能である。
一般に有機電界発光素子において、同じ材料を用いた場合、電極間の膜厚が薄い方が、実効電界が大きくなる為、注入される電流が多くなるので、駆動電圧は低下する。その為、電極間の総膜厚は薄い方が、有機電界発光素子の駆動電圧は低下するが、あまりに薄いと、ITO等の電極に起因する突起により短絡が発生する為、ある程度の膜厚が必要となる。
本発明においては、発光層4以外に、正孔注入層3および後述の電子輸送層5等の有機層を有する場合、発光層4と正孔注入層3や電子輸送層5等の他の有機層とを合わせた総膜厚は通常30nm以上、好ましくは50nm以上であり、さらに好ましくは100nm以上で、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下であり、さらに好ましくは300nm以下である。また、発光層4以外の正孔注入層3や後述の電子注入層5の導電性が高い場合、発光層4に注入される電荷量が増加する為、例えば正孔注入層3の膜厚を厚くして発光層4の膜厚を薄くし、総膜厚をある程度の膜厚を維持したまま駆動電圧を下げることも可能である。
よって、発光層4の膜厚は、通常10nm以上、好ましくは20nm以上で、通常300nm以下、好ましくは200nm以下である。なお、本発明の素子が、陽極および陰極の両極間に、発光層4のみを有する場合の発光層4の膜厚は、通常30nm以上、好ましくは50nm以上、通常500nm以下、好ましくは300nm以下である。
[5]電子注入層
電子注入層5は陰極6から注入された電子を効率よく発光層4へ注入する役割を果たす。電子注入を効率よく行うには、電子注入層5を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましく、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属が用いられる。
電子注入層5の膜厚は0.1〜5nmが好ましい。
また、陰極6と発光層4または後述の電子輸送層8との界面に、図8,9に示す如く、LiF、MgF2、Li2O、Cs2CO3等の陰極バッファ層10(厚さ0.1〜5nm程度)を挿入することも、素子の効率を向上させる有効な方法である(Appl.Phys.Lett.,70巻,152頁,1997年;特開平10−74586号公報;IEEETrans.Electron.Devices,44巻,1245頁,1997年;SID 04 Digest,154頁)。
さらに、後述するバソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送材料に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10−270171号公報、特開2002−100478号公報、特開2002−100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は通常5nm以上、好ましくは10nm以上で、通常200nm以下、好ましくは100nm以下である。
電子注入層5は、発光層4と同様にして湿式製膜法、或いは真空蒸着法により発光層4上に積層することにより形成される。真空蒸着法の場合には、真空容器内に設置されたるつぼまたは金属ボートに蒸着源を入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度にまで排気した後、るつぼまたは金属ボートを加熱して蒸発させ、るつぼまたは金属ボートと向き合って置かれた基板上に電子注入層を形成する。
アルカリ金属の蒸着は、クロム酸アルカリ金属と還元剤をニクロムに充填したアルカリ金属ディスペンサーを用いて行う。このディスペンサーを真空容器内で加熱することにより、クロム酸アルカリ金属が還元されてアルカリ金属が蒸発される。有機電子輸送材料とアルカリ金属とを共蒸着する場合は、有機電子輸送材料を真空容器内に設置されたるつぼに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度にまで排気した後、各々のるつぼおよびディスペンサーを同時に加熱して蒸発させ、るつぼおよびディスペンサーと向き合って置かれた基板上に電子注入層を形成する。
このとき、電子注入層5の膜厚方向において均一に共蒸着されるが、膜厚方向において濃度分布があっても構わない。
なお、電子注入層5は、図5〜9に示す如く、これを省略しても良い。
[6]陰極
陰極6は、発光層側の層(電子注入層5または発光層4など)に電子を注入する役割を果たす。陰極6として用いられる材料は、前記陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行うには、仕事関数の低い金属が好ましく、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属またはそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。
陰極6の膜厚は通常、陽極2と同様である。低仕事関数金属から成る陰極を保護する目的で、この上にさらに、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層することは素子の安定性を増す。この目的のために、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。
[7]その他の構成層
以上、図1に示す層構成の素子を中心に説明してきたが、本発明の有機電界発光素子における陽極2および陰極6と発光層4との間には、その性能を損なわない限り、上記説明にある層の他にも、任意の層を有していてもよく、また発光層4以外の任意の層を省略してもよい。
有してもよい層としては例えば、電子輸送層7が挙げられる。電子輸送層7は素子の発光効率をさらに向上させることを目的として、図2に示す如く、発光層4と電子注入層5との間に設けられる。
電子輸送層7は、電界を与えられた電極間において陰極6から注入された電子を効率よく発光層4の方向に輸送することができる化合物より形成される。電子輸送層7に用いられる電子輸送性化合物としては、陰極6または電子注入層5からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物であることが必要である。
このような条件を満たす材料としては、本発明の電荷輸送材料が挙げられる。また、その他、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−または5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5,645,948号)、キノキサリン化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
電子輸送層7の膜厚は、通常下限は1nm、好ましくは5nm程度であり、上限は通常300nm、好ましくは100nm程度である。
電子輸送層7は、正孔注入層3と同様にして湿式製膜法、或いは真空蒸着法により発光層4上に積層することにより形成される。通常は、真空蒸着法が用いられる。
また、特に、発光物質として燐光材料を用いたり、青色発光材料を用いたりする場合、図3,4,7〜9に示す如く、正孔阻止層8を設けることも効果的である。正孔阻止層8は正孔と電子を発光層4内に閉じこめて、発光効率を向上させる機能を有する。即ち、正孔阻止層8は、発光層4から移動してくる正孔が電子輸送層7に到達するのを阻止することで、発光層4内で電子との再結合確率を増やし、生成した励起子を発光層4内に閉じこめる役割と、電子輸送層7から注入された電子を効率よく発光層4の方向に輸送する役割がある。
正孔阻止層8は、陽極2から移動してくる正孔を陰極6に到達するのを阻止する役割と、陰極6から注入された電子を率よく発光層4の方向に輸送することができる化合物により、発光層4の上に、発光層4の陰極6側の界面に接するように積層形成される。
正孔阻止層8を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。
このような条件を満たす正孔阻止層材料としては、本発明の電荷輸送材料を用いることが好ましい。その他、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11−242996)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7−41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10−79297号公報)が挙げられる。
さらに、WO2005/022962号公報に記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も正孔阻止材料として好ましい。
正孔阻止層8の膜厚は、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上で、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
正孔阻止層8も正孔注入層3と同様の方法で形成することができるが、通常は真空蒸着法が用いられる。
電子輸送層7および正孔阻止層8は必要に応じて、適宜設ければよく、1)電子輸送層のみ、2)正孔阻止層のみ、3)正孔阻止層/電子輸送層の積層、4)用いない、等、用法がある。
正孔阻止層8と同様の目的で、図4,9に示す如く、正孔注入層3と発光層4の間に電子阻止層9を設けることも効果的である。電子阻止層9は、発光層4から移動してくる電子が正孔注入層3に到達するのを阻止することで、発光層4内で正孔との再結合確率を増やし、生成した励起子を発光層4内に閉じこめる役割と、正孔注入層3から注入された正孔を効率よく発光層4の方向に輸送する役割がある。
電子阻止層9に求められる特性としては、正孔輸送性が高く、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。また、発光層4を湿式製膜法で形成する場合、電子阻止層9も湿式製膜法で形成することが、素子製造が容易となるため、好ましい。
このため、電子阻止層9も湿式製膜適合性を有することが好ましく、このような電子阻止層9に用いられる材料としては、本発明の電荷輸送材料の他、F8−TFBに代表されるジオクチルフルオレンとトリフェニルアミンの共重合体(WO2004/084260号公報記載)等が挙げられる。
なお、発光層を乾式成膜法(蒸着法など)で形成する場合、電子阻止層9に用いられる材料としては、本発明の電荷輸送材料以外には、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4’,4''−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(J. Lumin., 72−74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chem. Commun.,2175頁、1996年)、2,2’,7,7’−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synth. Metals, 91巻、209頁、1997年)、4,4'−N,N'−ジカルバゾールビフェニルなどのカルバゾール誘導体、あるいは下記一般式(a)で示されるモノアミン化合物などが挙げられる。これらの化合物は、1種を単独で用いてもよいし、必要に応じて複数種混合して用いてもよい。
[式中、R
11〜R
19は、水素原子、アリール基またはアルキル基を表す。R
11〜R
19はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。R
11〜R
19がアリール基またはアルキル基の場合には、R
11〜R
19はさらに置換基としてアリール基またはアルキル基を有していてもよい。]
上記の化合物以外に、電子阻止層9の材料として、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルトリフェニルアミン(特開平7−53953号公報)、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン(Polym. Adv. Tech., 7巻、33頁、1996年)等の高分子材料が挙げられる。
真空蒸着法の場合には、電子阻止層9の材料を真空容器内に設置されたルツボに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10-4Pa程度にまで排気した後、ルツボを加熱して、正孔輸送材料を蒸発させ、ルツボと向かい合って置かれた、基板1上に形成された正孔注入層3の上に、電子阻止層9を形成させる。
なお、図1とは逆の構造、即ち、基板1上に陰極6、電子注入層5、発光層4、正孔注入層3、陽極2の順に積層することも可能であり、既述したように少なくとも一方が透明性の高い2枚の基板の間に本発明の有機電界発光素子を設けることも可能である。同様に、図2〜図9に示した前記各層構成とは逆の構造に積層することも可能である。
さらには、図1に示す層構成を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その際には段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合はその2層)の代わりに、例えばV2O5等を電荷発生層(CGL)として用いると段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
本発明は、有機電界発光素子が、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構造のいずれにおいても適用することができる。
次に、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
なお、以下において、ガラス転移温度はDSC測定により、気化温度はTG−DTA測定により、融点はDSC測定またはTG−DTA測定によりそれぞれ求めた。
[合成例1:本発明の炭化水素化合物(I−1)の合成]
200mL四つ口フラスコに、3’−ブロモアセトフェノン(11.9g)、脱水エタノールを窒素下で加え、更にテトラクロロシラン(20.3g)を滴下して加えた。6時間室温で攪拌した後、氷に空け析出した固体を濾取した。濾取物をトルエンに溶かし、不溶物を除去しエタノールとトルエンの混合溶剤にて再結晶を行ったところ、化合物(I−1a)の白色針状結晶(6.4g)を得た。
300mL四つ口フラスコに、化合物I−1a(1.7g)、3−ビフェニルボロン酸(2.5g)、1,2−ジメトキシエタン(96mL)、水(14mL)を加え、窒素バブリングを行った。この系に、炭酸カリウム(4.0g)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(332mg)を加え6時間加熱還流した。ジクロロメタンで抽出し、活性白土を入れて撹拌した。固形分を濾過で除去した後、濃縮し、これをカラムクロマトグラフィー、ついで昇華精製を行い、目的物である炭化水素化合物(I−1)(1.7g)を得た。
このもののガラス転移温度は83℃であった。
・DEI−MS m/z=762(M+)
[合成例2:本発明の炭化水素化合物(I−2)の合成]
窒素雰囲気下、300mLの四つ口フラスコに、化合物I−1a(6.99g)、3−ビフェニルボロン酸(5.10g)、トルエン(64mL)、エタノール(16mL)の混合溶液に、炭酸カリウム(8.90g)と水(32mL)の混合溶液、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(744mg)を、順次加え、加熱還流下、8時間撹拌した。得られた溶液から、トルエンで抽出し、抽出溶液を炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄後、無水硫酸マグネシウムを加えてから、固形分を濾過で除去し、濃縮した。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n−ヘキサン/塩化メチレン=3/1〜1/1)およびメタノール溶媒中での懸濁洗浄で精製し、目的物I−2a(3.33g)および目的物I−3a(1.17g)を得た。
目的物I−2aおよび目的物I−3aは、1H−NMR(400MHz;重アセトン溶媒)およびDEI−MSにより、同定した。
目的物I−2a
・DEI−MS m/z=688(M+)
・1H−NMR(400MHz,CD3COCD3)7.29〜8.24ppm(33H,m)
目的物I−3a
・DEI−MS m/z=614(M+)
・1H−NMR(400MHz,CD3COCD3)7.27〜8.25ppm(24H,m)
窒素雰囲気下、200mLの四つ口フラスコに、化合物I−2a(3.26g)、4−ビフェニルボロン酸(1.13g)、トルエン(24mL)、エタノール(6mL)の混合溶液に、炭酸カリウム(1.63g)と水(6mL)の混合溶液、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(274mg)を、順次加え、加熱還流下、6.5時間撹拌した。得られた溶液から、トルエンで抽出し、抽出溶液を炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄後、無水硫酸マグネシウムを加えてから、固形分を濾過で除去し、濃縮した。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n−ヘキサン/塩化メチレン=5/1〜4/1)で精製し、目的物I−2(3.00g)を得た。これを更に、高真空下、最高加熱温度400℃の条件で昇華精製し、高純度の目的物I−2(1.89g)を得た。
このもののガラス転移温度は87℃、結晶化温度および融点は観測されず、気化開始温度は531℃であった。
・DEI−MS m/z=762(M+)
・1H−NMR(400MHz,CD3COCD3)7.33〜8.27ppm(42H,m)
[合成例3:本発明の炭化水素化合物(I−3)の合成]
窒素雰囲気下、100mLの四つ口フラスコに、化合物I−3a(1.10g)、4−ビフェニルボロン酸(1.06g)、トルエン(9mL)、エタノール(3mL)の混合溶液に、炭酸カリウム(1.23g)と水(4.4mL)の混合溶液、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(103mg)を、順次加え、加熱還流下、6時間撹拌した。得られた混合溶液の一部を、薄層シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n−ヘキサン/塩化メチレン)で精製し、目的物I−3を得た。
・DEI−MS m/z=762(M+)
[合成例4:本発明の炭化水素化合物(I−4)の合成]
窒素気流中、300mLの三つ口フラスコに、3−ブロモヨードベンゼン(12.99g)、3−ビフェニルボロン酸(10g)、1,2−ジメトキシエタン(184mL)の混合溶液に、炭酸カリウム(15.9g)と水(60mL)の混合溶液、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(1.59g)を順次加え、加熱還流下、5.5時間撹拌した。得られた溶液から、ジクロロメタンで抽出し、抽出溶液を食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムおよび活性白土を加えてから、固形分を濾過で除去し、濃縮した。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、目的物I−4aを得た。
300mL四つ口フラスコに、化合物I−4a(7.9g)、脱水エーテル(50ml)を窒素下で加えた。ドライアイスバスにて系を−70℃付近まで冷やしながら攪拌し、n−ブチルリチウムの1.58mol/Lヘキサン溶液(17.7ml)をゆっくりと加えた。その後系を室温まで戻した後、再び−70℃付近まで冷やし、トリイソプロピルボレート(11.7ml)を加え、ゆっくりと室温に戻したところ、白濁していた。氷にあけ、中和した後トルエン・Brineにて抽出洗浄、その後減圧濃縮し、ヘキサンで懸洗することにより白色粉末である化合物I−4b(5.1g)を得た。
300mL四つ口フラスコに、化合物I−4b(4.3g)、化合物I−1a(2.1g)、1,2−ジメトキシエタン(120mL)、水(18mL)を加え、窒素バブリングを行った。系に、炭酸カリウム(5.0g)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(418mg)を加え6時間加熱還流した。ジクロロメタンで抽出し、活性白土処理した後、固形分を濾過で除去した。減圧濃縮し、これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し目的物I−4(3.8g)を得た。これの一部を更に、高真空下、最高加熱温度490℃の条件で昇華精製し、高純度の目的物I−4(1.4g)を得た。
このもののガラス転移温度は99℃、結晶化温度および融点は観測されず、気化開始温度は561℃であった。
・DEI−MS m/z=990(M+)
[実施例1:本発明の炭化水素化合物の評価]
〈トルエンへの溶解性評価〉
炭化水素化合物(I−1),(I−2),(I−4)の常温常圧下におけるトルエンに対する溶解度を調べた。結果を表1に示した。
〈酸化還元電位の評価〉
炭化水素化合物(I−1)の酸化還元電位をサイクリックボルタンメトリーにより測定した。
支持電解質として、過塩素酸テトラブチルアンモニウム0.1mol/Lを、アセトニトリルとテトラヒドロフランを25℃で容量比1:1で混合した溶剤に溶解させたものに、さらに炭化水素化合物(I−1)を1mmol/L溶解した液について測定を行った。
作用電極はグラッシーカーボン(ビー・エー・エス社製)、対電極として白金線、参照電極として銀線を用い、走引速度を100mV/sとして測定した。
酸化還元電位は、内部標準としてフェロセン/フェロセニウム(Fc/Fc+)を用い、この電位が+0.41V vs.SCEであるとして電位を対飽和甘コウ電極(SCE)に換算した。
上記評価結果を表2に示した。
〈三重項励起準位の評価〉
炭化水素化合物(I−1)および(I−4)について、窒素雰囲気下、希薄エタノール溶媒中、温度77Kでの燐光スペクトルにより三重項励起準位を測定した。
得られた燐光スペクトルにおいて、最も波長の短い位置に観測されたピークトップの波長を、三重項励起準位(nm)とした。
上記評価結果を表3に示した。
[比較例1:従来化合物(C−1)の評価]
前掲の化合物(C−1)について、実施例1と同様にしてトルエンへの溶解性と酸化還元電位と三重項励起準位の評価を行って、結果を表1〜3に示した。
表1〜3より、本発明の炭化水素化合物は、特徴的に優れた溶剤溶解性を示し、また、酸化還元電位差も、従来化合物よりも大きいことが明らかである。また、本発明の炭化水素化合物は従来化合物よりも、三重項励起準位が大きいことが明らかである。
[実施例2:有機電界発光素子の製造・評価]
図8に示す構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
ガラス基板1の上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を150nm堆積したもの(スパッター製膜品;シート抵抗15Ω)を通常のフォトリソグラフィ技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極2を形成した。パターン形成したITO基板を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
次いで、正孔注入層3を以下のように湿式製膜法によって形成した。正孔注入層3の材料として、下記に示す構造式の芳香族アミノ基を有する非共役系高分子化合物(PB−1(重量平均分子量:29400,数平均分子量:12600))と下記に示す構造式の電子受容性化合物(A−2)とを用い、下記の条件でスピンコートした。
スピンコート条件
溶剤 安息香酸エチル
塗布液濃度 PB−1 2.0重量%
A−2 0.4重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
乾燥条件 230℃×15分
上記のスピンコートにより膜厚30nmの均一な薄膜が形成された。
続いて、発光層4を以下のように湿式製膜法によって形成した。発光層4の材料として、合成例1で合成した本発明の炭化水素化合物(I−1)を、下記に示す構造式のイリジウム錯体(D−1)と共に溶剤としてトルエンを用いた電荷輸送材料組成物を調製し、この電荷輸送材料組成物を用いて下記の条件でスピンコートした。
スピンコート条件
溶剤 トルエン
組成物中濃度 I−1 2.0重量%
D−1 0.1重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 60秒
乾燥条件 80℃×60分(減圧下)
上記のスピンコートにより膜厚60nmの均一な薄膜が形成された。
次に、正孔阻止層8として下記に示すピリジン誘導体(HB−1)をるつぼ温度260〜264℃として、蒸着速度0.05nm/秒で5nmの膜厚で積層した。蒸着時の真空度は3.9×10−4Pa(約3.0×10−6Torr)であった。
次に、正孔阻止層8の上に、電子輸送層7として下記に示すアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体(ET−1)を同様にして蒸着した。この時のアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体のるつぼ温度は213〜247℃の範囲で制御し、蒸着時の真空度は3.9×10−4Pa(約3.0×10−6Torr)、蒸着速度は0.1nm/秒で膜厚は30nmとした。
上記の正孔阻止層8および電子輸送層7を真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
ここで、電子輸送層7までの蒸着を行った素子を一度前記真空蒸着装置内より大気中に取り出して、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極2のITOストライプとは直交するように素子に密着させて、別の真空蒸着装置内に設置して有機層と同様にして装置内の真空度が2.0×10−6Torr(約2.6×10−4Pa)以下になるまで排気した。
次に、陰極バッファ層10として、フッ化リチウム(LiF)を、モリブデンボートを用いて、蒸着速度0.07nm/秒、真空度2.2×10−6Torr(約3.0×10−4Pa)で、0.5nmの膜厚で電子輸送層7の上に製膜した。次に、陰極6としてアルミニウムを同様にモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度0.3nm/秒、真空度4.3×10−6Torr(約5.6×10−4Pa)で膜厚80nmのアルミニウム層を形成して陰極6を完成させた。以上の陰極バッファ層10及び陰極6の蒸着時の基板温度は室温に保持した。
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。
この素子の発光特性は表4に示す通りであった。
素子の発光スペクトルのピーク波長は470nmであり、イリジウム錯体(D−1)からのものと同定された。
[実施例3:有機電界発光素子の製造・評価]
イリジウム錯体(D−1)の代わりに下記構造式のイリジウム錯体(D−2)を用いた以外は、実施例1と同様に有機電界発光素子を作製した。
この素子の発光特性は表4に示す通りであった。
素子の発光スペクトルの極大波長は512nmであり、イリジウム錯体(D−2)からのものと同定された。発光のCIE色度は(0.295,0.616)であった。
表4より明らかなように、本発明の炭化水素化合物(I−1)を発光材料のホスト材料として用いた有機電界発光素子は、電荷輸送性に優れ、容易には結晶化しないため、均一な発光が得られ、発光効率が高く、低い電圧で駆動可能であった。
[実施例4:有機電界発光素子の製造]
図9に示す構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
ガラス基板1の上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜2を150nm堆積したもの(スパッター成膜品;シート抵抗15Ω)を通常のフォトリソグラフィ技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極を形成した。パターン形成したITO基板を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
正孔注入層3の材料として、実施例2で用いた芳香族アミノ基を有する非共役系高分子化合物(PB−1)と電子受容性化合物(A−2)を用い、実施例2と同様の条件でスピンコートして、膜厚30nmの均一な薄膜を形成した。
次に正孔注入層3を成膜した基板を真空蒸着装置内に設置した。上記装置の粗排気を油回転ポンプにより行った後、装置内の真空度が約3.0×10−4Pa以下になるまでクライオポンプを用いて排気した。上記装置内に配置されたセラミックるつぼに入れた、下記に示すアリールアミン化合物(EB−1)をるつぼの周囲のタンタル線ヒーターで加熱して蒸着を行った。蒸着時の真空度2.4×10−4Pa、蒸着速度は0.1nm/秒で膜厚30nmの電子阻止層9を得た。
引続き、発光層4の主成分(ホスト材料)として下記に示す化合物(H−1)を、副成分(ドーパント)として前記有機イリジウム錯体(D−1)を、別々のセラミックるつぼに設置し、2元同時蒸着法により成膜を行った。
化合物(H−1)の蒸着速度は0.1nm/秒に、イリジウム錯体(D−1)のるつぼ温度は251〜254℃、蒸着速度は0.008nm/秒にそれぞれ制御し、膜厚30nmでイリジウム錯体(D−1)が7重量%含有された発光層4を電子阻止層9の上に積層した。蒸着時の真空度は2.0×10−4Paであった。
さらに、正孔阻止層8として本発明の炭化水素化合物(I−1)をるつぼ温度449〜452℃として、蒸着速度0.1nm/秒で5nmの膜厚で積層した。蒸着時の真空度は1.8×10−4Paであった。
正孔阻止層8の上に、電子輸送層7として前記アルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体(ET−1)を同様にして蒸着した。この時のアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体のるつぼ温度は239〜244℃の範囲で制御し、蒸着時の真空度は1.5×10−4Pa、蒸着速度は0.1nm/秒で膜厚は15nmとした。
上記の電子阻止層9、発光層4、正孔阻止層8及び電子輸送層7を真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
ここで、電子輸送層7までの蒸着を行った素子を一度前記真空蒸着装置内より大気中に取り出して、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極2のITOストライプとは直交するように素子に密着させて、別の真空蒸着装置内に設置して有機層と同様にして装置内の真空度が2.0×10−4Pa以下になるまで排気した。陰極バッファ層10として、先ず、フッ化リチウム(LiF)をモリブデンボートを用いて、蒸着速度0.01nm/秒、真空度4.7×10−5Paで、0.5nmの膜厚で電子輸送層7の上に成膜した。次に、陰極6として、アルミニウムを同様にモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度0.4nm/秒、真空度2.5×10−4Paで膜厚80nmのアルミニウム層を積層した。以上の陰極バッファ層10及び陰極6の蒸着時の基板温度は室温に保持した。
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。
[実施例5:有機電界発光素子の製造]
図9に示す構造を有する有機電界発光素子を作製した。電子輸送層7の膜厚を30nmとした以外は実施例4と同様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
[実施例6:有機電界発光素子の製造]
図9に示す構造を有する有機電界発光素子を作製した。電子輸送層7として下記に示す(ET−2)をるつぼ温度を190〜191℃として、蒸着速度0.1nm/秒で5nmの膜厚で積層した以外は、実施例4と同様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
[実施例7:有機電界発光素子の製造]
図9に示す構造を有する有機電界発光素子を作製した。電子輸送層7に使用した材料を上記化合物(ET−2)とした以外は実施例5と同様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
[実施例8:有機電界発光素子の製造]
図9に示す構造を有する有機電界発光素子を作製した。正孔阻止層8の膜厚を10nmとした以外は実施例7と同様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
[実施例9:有機電界発光素子の製造]
図9に示す構造を有する有機電界発光素子を作製した。電子輸送層7として下記に示す化合物(ET−3)をるつぼ温度を222〜225℃として、蒸着速度0.1nm/秒で5nmの膜厚で積層した以外は実施例7と同様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
[実施例10:有機電界発光素子の製造]
図9に示す構造を有する有機電界発光素子を作製した。正孔阻止層8の膜厚を10nmとした以外は実施例9と同様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
[実施例11:有機電界発光素子の製造]
図9に示す構造を有する有機電界発光素子を作製した。実施例4〜11と同様にして、電子阻止層9までの各層を形成した。次に、発光層4の主成分(ホスト材料)として化合物(H−1)及び本発明の炭化水素化合物(I−1)を、副成分(ドーパント)として有機イリジウム錯体(D−1)を、別々のセラミックるつぼに設置し、3元同時蒸着法により成膜を行った。化合物(H−1)の蒸着速度は0.05nm/秒に、化合物(I−1)のるつぼ温度は376〜382℃、蒸着速度は0.05nm/秒に、イリジウム錯体(D−1)のるつぼ温度は251〜254℃、蒸着速度は0.008nm/秒にそれぞれ制御し、膜厚30nmでイリジウム錯体(D−1)が7重量%含有された発光層4を電子阻止層9の上に積層した。蒸着時の真空度は9.4×10−5Paであった。
引き続き、正孔阻止層8として化合物(ET−2)をるつぼ温度を225〜226℃として、蒸着速度0.1nm/秒で5nmの膜厚で積層した。蒸着時の真空度は6.8×10−5Paであった。
この正孔阻止層8の上に、電子輸送層7として化合物(ET−1)を同様にして蒸着した。この時の化合物(ET−1)のるつぼ温度は235〜238℃の範囲で制御し、蒸着時の真空度は6.4×10−5Pa、蒸着速度は0.1nm/秒で膜厚は15nmとした。
上記の電子阻止層9、発光層4、正孔阻止層8及び電子輸送層7を真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
最後に、実施例4〜11と同様にして、陰極バッファ層10及び陰極6を形成することにより、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
[実施例12:有機電界発光素子の製造]
図9に示す構造を有する有機電界発光素子を作製した。電子輸送層7の膜厚を30nmとした以外は実施例11と同様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
[実施例13:有機電界発光素子の製造]
図9に示す構造を有する有機電界発光素子を作製した。発光層4の上に正孔阻止層8を積層しないこと以外は実施例11と同様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
[実施例14:有機電界発光素子の製造]
図9に示す構造を有する有機電界発光素子を作製した。発光層4の上に正孔阻止層8を積層しないこと以外は実施例12と同様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
[実施例15:有機電界発光素子の製造]
図9に示す構造を有する有機電界発光素子を作製した。実施例4〜14と同様に、電子阻止層9までの各層を形成した。
引続き、発光層4を更に2層の積層構造として蒸着した。まず第1層として、主成分(ホスト材料)として化合物(H−1)を、副成分(ドーパント)として有機イリジウム錯体(D−1)を、別々のセラミックるつぼに設置し、2元同時蒸着法により成膜を行った。
化合物(H−1)の蒸着速度は0.1nm/秒に、イリジウム錯体(D−1)のるつぼ温度は255〜256℃、蒸着速度は0.008nm/秒にそれぞれ制御し、膜厚20nmでイリジウム錯体(D−1)が7重量%含有された発光層4の第1層を電子阻止層9の上に積層した。蒸着時の真空度は2.3×10−4Paであった。
次いで、発光層4の第2層として、主成分(ホスト材料)として本発明の化合物(I−1)を、副成分(ドーパント)として有機イリジウム錯体(D−1)を、別々のセラミックるつぼに設置し、2元同時蒸着法により成膜を行った。
化合物(I−1)のるつぼ温度は396〜397℃、蒸着速度は0.1nm/秒に、イリジウム錯体(D−1)のるつぼ温度は256〜257℃、蒸着速度は0.008nm/秒にそれぞれ制御し、膜厚10nmでイリジウム錯体(D−1)が7重量%含有された発光層4の第2層を発光層4の第1層の上に積層した。蒸着時の真空度は2.1×10−4Paであった。
引き続き、正孔阻止層8として化合物(ET−2)をるつぼ温度を225〜226℃として、蒸着速度0.1nm/秒で5nmの膜厚で積層した。蒸着時の真空度は1.6×10−4Paであった。
正孔阻止層8の上に、電子輸送層7として化合物(ET−1)を同様にして蒸着した。この時の化合物(ET−1)のるつぼ温度は233〜236℃の範囲で制御し、蒸着時の真空度は1.6×10−4Pa、蒸着速度は0.1nm/秒で膜厚は30nmとした。
上記の電子阻止層9、発光層4、正孔阻止層8及び電子輸送層7を真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
最後に、実施例4〜14と同様にして、陰極バッファ層10及び陰極6を形成することにより、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
[実施例16:有機電界発光素子の製造]
図9に示す構造を有する有機電界発光素子を作製した。発光層4を形成する際、第1層の膜厚を10nm、第2層の膜厚を20nmとした以外は実施例15と同様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
[実施例17:有機電界発光素子の製造]
図9に示す構造を有する有機電界発光素子を作製した。発光層4の上に正孔阻止層8を積層しないこと以外は実施例15と同様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
[実施例18:有機電界発光素子の製造]
図9に示す構造を有する有機電界発光素子を作製した。発光層4の上に正孔阻止層8を積層しないこと以外は実施例16と同様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
[実施例19:有機電界発光素子の製造]
図9に示す構造を有する有機電界発光素子を作製した。実施例4と同様にして、電子阻止層9までの各層を形成した後、発光層4を以下の通り形成した。発光層4の主成分(ホスト材料)として本発明の化合物(I−1)を、副成分(ドーパント)として実施例3で用いた有機イリジウム錯体(D−2)を、別々のセラミックるつぼに設置し、2元同時蒸着法により成膜を行った。
化合物(I−1)の蒸着速度は0.08nm/秒に、イリジウム錯体(D−2)の蒸着速度は0.005nm/秒にそれぞれ制御し、膜厚32nmでイリジウム錯体(D−2)が6重量%含有された発光層4を成膜した。このとき化合物(I−1)のるつぼの温度は396〜436℃、イリジウム錯体(D−2)のるつぼの温度は271〜273℃、真空度は1.2×10−4Paであった。
次に、正孔阻止層8として前記ピリジン誘導体(HB−1)を蒸着速度0.09nm/秒で5nmの厚さに成膜した。このときのピリジン誘導体(HB−1)のるつぼの温度は262〜264℃、真空度は1.0×10−4Paであった。
上記の発光層4及び正孔阻止層8を真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
引き続き、実施例4と同様にして、電子輸送層7、陰極バッファ層10及び陰極6を形成することにより、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
[実施例20:有機電界発光素子の製造]
図9に示す構造を有する有機電界発光素子を作製した。実施例4と同様にして、電子阻止層9までの各層を形成した後、発光層4を以下の通り形成した。発光層4の主成分(ホスト材料)として合成例3で合成した本発明の炭化水素化合物(I−3)を、副成分(ドーパント)として有機イリジウム錯体(D−2)を、別々のセラミックるつぼに設置し、2元同時蒸着法により成膜を行った。
化合物(I−3)の蒸着速度は0.1nm/秒に、イリジウム錯体(D−2)の蒸着速度は0.006nm/秒にそれぞれ制御し、膜厚32nmでイリジウム錯体(D−2)が6重量%含有された発光層4を成膜した。このときイリジウム錯体(D−2)のるつぼの温度は272〜275℃、真空度は1.1×10−4Paであった。
次に、正孔阻止層8としてピリジン誘導体(HB−1)を蒸着速度0.09nm/秒で5nm成膜した。このときの(HB−1)のるつぼの温度は262〜264℃、真空度は1.0×10−4Paであった。
上記の発光層4及び正孔阻止層8を真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
引き続き、実施例4と同様にして、電子輸送層7、陰極バッファ層10及び陰極6を形成することにより、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
[実施例21:有機電界発光素子の製造]
図9に示す構造を有する有機電界発光素子を作製した。実施例4と同様にして、正孔注入層3を形成した後、正孔注入層3を成膜した基板を真空蒸着装置内に設置した。上記装置の粗排気を油回転ポンプにより行った後、装置内の真空度が約3.0×10−4Pa以下になるまでクライオポンプを用いて排気した。上記装置内に配置されたセラミックるつぼに入れた、下記に示すアリールアミン化合物(HT−1)をるつぼの周囲のタンタル線ヒーターで加熱して蒸着を行った。蒸着時の真空度2.4×10−5Pa、蒸着速度は0.1nm/秒で膜厚40nmの電子阻止層9を得た。このときのるつぼの温度は247〜263℃、真空度は2.4×10−5Paであった。
次に、発光層4の成膜を行った。発光層4の主成分(ホスト材料)として本発明の炭化水素化合物(I−1)を、副成分(ドーパント)として有機イリジウム錯体(D−2)を、別々のセラミックるつぼに設置し、2元同時蒸着法により成膜を行った。
化合物(I−1)の蒸着速度は0.08nm/秒に、イリジウム錯体(D−2)の蒸着速度は0.005nm/秒にそれぞれ制御し、膜厚32nmでイリジウム錯体(D−2)が6重量%含有された発光層4を成膜した。このとき化合物(I−1)のるつぼの温度は333〜334℃、イリジウム錯体(D−2)のるつぼの温度は269〜271℃、真空度は3.5×10−5Paであった。
次いで、正孔阻止層8としてピリジン誘導体(HB−1)を蒸着速度0.09nm/秒で5nmの厚さに成膜した。このときのピリジン誘導体(HB−1)のるつぼの温度は239〜242℃、真空度は3.1×10−5Paであった。
上記の発光層4及び正孔阻止層8を真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
引き続き、実施例4と同様にして、電子輸送層7、陰極バッファ層10及び陰極6を形成することにより、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
[実施例22:有機電界発光素子の製造]
図9に示す構造を有する有機電界発光素子を作製した。実施例4と同様にして、電子阻止層9までの各層を形成した後、発光層4を以下の通り形成した。発光層4の主成分(ホスト材料)として以下のカルバゾール誘導体(EM−1)を、副成分(ドーパント)として有機イリジウム錯体(D−2)を、別々のセラミックるつぼに設置し、2元同時蒸着法により成膜を行った。
化合物(EM−1)の蒸着速度は0.07nm/秒に、イリジウム錯体(D−2)の蒸着速度は0.004nm/秒にそれぞれ制御し、膜厚32nmでイリジウム錯体(D−2)が6.4重量%含有された発光層4を成膜した。このときイリジウム錯体(D−2)のるつぼの温度は243℃、真空度は7.1×10−5Paであった。
次に、正孔阻止層8として本発明の炭化水素化合物(I−1)を蒸着速度0.08nm/秒で5nm成膜した。このときの化合物(I−1)のるつぼの温度は342〜357℃、真空度は6.9×10−5Paであった。
上記の発光層4及び正孔阻止層8を真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
引き続き、実施例4と同様にして、電子輸送層7、陰極バッファ層10及び陰極6を形成することにより、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
[実施例23:有機電界発光素子の製造]
図9に示す構造を有する有機電界発光素子を作製した。実施例4と同様にして、電子阻止層9までの各層を形成した後、発光層4を以下の通り形成した。発光層4の主成分(ホスト材料)としてカルバゾール誘導体(EM−1)を、副成分(ドーパント)として有機イリジウム錯体(D−2)を、別々のセラミックるつぼに設置し、2元同時蒸着法により成膜を行った。
化合物(EM−1)の蒸着速度は0.07nm/秒に、イリジウム錯体(D−2)の蒸着速度は0.004nm/秒にそれぞれ制御し、膜厚32nmでイリジウム錯体(D−2)が6.4重量%含有された発光層4を成膜した。このときイリジウム錯体(D−2)のるつぼの温度は243℃、真空度は7.1×10−5Paであった。
次に、正孔阻止層8として合成例2で合成した本発明の炭化水素化合物(I−2)を蒸着速度0.08nm/秒で5nm成膜した。このときの化合物(I−2)のるつぼの温度は398〜405℃、真空度は6.5×10−5Paであった。
上記の発光層4及び正孔阻止層8を真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
引き続き、実施例4と同様にして、電子輸送層7、陰極バッファ層10及び陰極6を形成することにより、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
[比較例2:有機電界発光素子の製造]
発光層4の主成分として、以下に示すカルバゾール誘導体(EM−1)を用いたこと以外は、実施例21と同様に素子を作製した。このときの発光層4の成膜は、主成分(ホスト材料)として化合物(EM−1)を、副成分(ドーパント)として有機イリジウム錯体(D−2)を、別々のセラミックるつぼに設置し、2元同時蒸着法により成膜を行った。
化合物(EM−1)の蒸着速度は0.08nm/秒に、イリジウム錯体(D−2)の蒸着速度は0.005nm/秒にそれぞれ制御し、膜厚32nmでイリジウム錯体(D−2)が6重量%含有された発光層4を成膜した。このときイリジウム錯体(D−2)のるつぼの温度は261〜265℃、真空度は1.2×10−4Paであった。
次いで、正孔阻止層8としてピリジン誘導体(HB−1)を蒸着速度0.09nm/秒で5nm成膜した。このときのピリジン誘導体(HB−1)のるつぼの温度は239〜242℃、真空度は3.1×10−5Paであった。
引き続き、実施例21と同様にして、電子輸送層7、陰極バッファ層10及び陰極6を形成することにより、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
[比較例3:有機電界発光素子の製造]
発光層4の主成分として、化合物(C−1)を用いたこと以外は、実施例19と同様に素子を作製した。このときの発光層4の成膜は、主成分(ホスト材料)として化合物(C−1)を、副成分(ドーパント)として有機イリジウム錯体(D−2)を、別々のセラミックるつぼに設置し、2元同時蒸着法により成膜を行った。
化合物(C−1)の蒸着速度は0.08nm/秒に、イリジウム錯体(D−2)の蒸着速度は0.005nm/秒にそれぞれ制御し、膜厚32nmでイリジウム錯体(D−2)が6重量%含有された発光層4を成膜した。このとき化合物(C−1)のるつぼの温度は331〜337℃、イリジウム錯体(D−2)のるつぼの温度は240〜241℃、真空度は7.5×10−5Paであった。
次いで、正孔阻止層8としてピリジン誘導体(HB−1)を蒸着速度0.09nm/秒で5nm成膜した。このときのピリジン誘導体(HB−1)のるつぼの温度は231〜236℃、真空度は6.6×10−5Paであった。
引き続き、実施例19と同様にして、電子輸送層7、陰極バッファ層10及び陰極6を形成することにより、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
[有機電界発光素子の評価]
実施例4〜18で得られた素子の発光特性を表5にまとめて示す。表5において、最大発光輝度は電流密度0.25A/cm2での値、発光効率、輝度/電流、電圧は輝度100cd/m2での値、電圧@2500cd、輝度/電流@2500cdは輝度2500cd/m2での値を各々示す。素子の発光スペクトルの極大波長は471nmであり、有機イリジウム錯体(D−1)からのものと同定された。
実施例19〜23及び比較例2〜3で得られた素子の発光特性を表6にまとめて示す。表6において、最大発光輝度は電流密度0.25A/cm2での値、発光効率、輝度/電流、電圧は輝度100cd/m2での値、電圧@2500cd、輝度/電流@2500cdは輝度2500cd/m2での値を各々示す。素子の発光スペクトルの極大波長は512nmであり、有機イリジウム錯体(D−2)からのものと同定された。
[実施例24]
実施例20、実施例21及び比較例2で作製した素子について、以下の条件で連続通電試験を行った。
通電電流波形 DC(直流)定電流
通電電流密度 30mA/cm2 (一定)
試験環境温度 23℃
それぞれの素子について、輝度が開始時輝度の半分の値となる時間(輝度半減時間)を測定した。結果を表7に示す。
このことより、本発明の化合物は、従来知られている化合物EM−1に対して、連続通電時すなわち連続点灯時の安定性に優れていることが明らかである。
[実施例22]
実施例19及び比較例3で作製した素子について、以下の条件で連続通電試験を行った。
通電電流波形 DC(直流)定電流
通電電流密度 250mA/cm2 (一定)
試験環境温度 23℃
それぞれの素子について、通電40秒後の輝度を、通電開始時の輝度で除した値を測定した。結果を表8に示す。
このことより、本発明の化合物は、従来知られている化合物C−1に対して、連続通電時すなわち連続点灯時の安定性に優れていることが明らかである。