JP5028850B2 - 高立体選択性l−スレオニンアルドラーゼおよびそれをコードする遺伝子 - Google Patents
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Description
一方、L−threo−CHSも非天然型のL型アミノ酸で、医薬品や農薬等の中間体として有用な化合物であり、L−threo−DOPSの合成法と同様に、化学合成法として、シクロヘキシルアルデヒドとグリシンを強アルカリ存在下で縮合させ、ラセミ−スレオ/エリスロ−3−シクロヘキシルセリンを得た後、スレオ/エリスロ体の煩雑な相互分離処理を行わなければならない。又、D−スレオニンアルドラーゼを用いる酵素的分割法が知られている(特許第3240011号公報;特許文献6)。即ち、ラセミ−スレオ/エリスロ−3−シクロヘキシルセリンにD−スレオニンアルドラーゼを作用させ、D−スレオ/エリスロ−3−シクロヘキシルセリンをグリシンとシクロヘキシルアルデヒドに分解し、さらに、L−アロスレオニンアルドラーゼを作用させ、L−エリスロ−3−シクロヘキシルセリンを分解し、L−スレオ−3−シクロヘキシルセリンを得る方法である。しかし、この方法は反応の基質の濃度が限定される上、得られる生成物の単離が難しく、これも工業的製法とは言い難い。
一方、光学活性3−シクロヘキシルセリンの酵素による一段階合成法は、D−スレオニンアルドラーゼを用いて、シクロヘキシルアルデヒドとグリシンから、D−3−シクロへキシルセリンを合成する方法が知られているがその合成量は0.1mMと極わずかで(特許文献7)ある。又、L−3−シクロへキシルセリンの酵素による一段階合成法の報告はなかった。その他のL−β−ヒドロキシアミノ酸誘導体の合成量も1.0〜10g/L(特許文献1)、0.6〜4.4g/L(特許文献2)と低く、満足できるものではなかった。
[1] 下記の(1)、(2)、(3)または(4)に示す遺伝子:
(1)配列番号4に示す塩基配列のDNAからなる遺伝子:
(2)配列番号4に示す塩基配列のDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつL−スレオニンアルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子:
(3)配列番号5に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子:
(4)配列番号5に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつL−スレオニンアルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子、
[2] 下記の(1)または(2)に示すタンパク質:
(1)配列番号5に示すアミノ酸配列からなるタンパク質:
(2)配列番号5に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつL−スレオニンアルドラーゼ活性を有するタンパク質、
[3] 前項1に記載の遺伝子を含有する組換えベクター、
[4] 前項3に記載の組換えベクターを含む微生物、
[5] 宿主が大腸菌である前項4に記載の微生物、
[6] 受託番号NITE P−110として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託された微生物、
[7] 前項4、5または6に記載の微生物またはその調製物を、3,4−ジヒドロキシベンズアルデヒドおよびグリシンを含有する液と接触せしめ、前記液中にL−スレオ−3,4−ジヒドロキシフェニルセリンを生成蓄積せしめ、これを採取することを特徴とするL−スレオ−3,4−ジヒドロキシフェニルセリンの製造法、
[8] 前項4、5または6に記載の微生物またはその調製物を、シクロヘキシルアルデヒドおよびグリシンを含有する液と接触せしめ、前記液中にL−スレオ−3−シクロヘキシルセリンを生成蓄積せしめ、これを採取することを特徴とするL−スレオ−3−シクロヘキシルセリンの製造法、および
[9] 前項4、5または6に記載の微生物またはその調製物を、炭素数7以上の直鎖脂肪族アルデヒドまたはカルボキシ基もしくは臭素置換芳香族アルデヒド、およびグリシンを含有する液と接触せしめ、前記液中に対応するL−β−ヒドロキシアミノ酸誘導体を生成蓄積せしめ、これを採取することを特徴とするL−β−ヒドロキシアミノ酸誘導体の製造法からなる。
クローニングベクターとしては、商業的に入手可能なクローニングベクター例えばpCR2.1−TOPO(TOPO TA Cloning kit;Invitrogene社製)、pT7 Blue T−Vector(Novage社製)、pCITE−4 T−Vector(Novage社製)などを好ましく挙げることができる。
上記のようにして、L−スレオニンアルドラーゼをコードするDNAの塩基配列を決定し、配列番号4に示す塩基配列を決定し得る。次いで該塩基配列をアミノ酸配列に翻訳して解析し、配列番号5に示すL−スレオニンアルドラーゼの全アミノ酸配列を決定することができる。
発現用ベクターとしては、例えば細菌プラスミド(pBluescript SK+、pBluescript KS+、pUC18、pUC19、pBR322、pET 16b、pET 32a(+)、pCITE 4a、pGEX−5X−1、pGEX−5X−3、pMAL−p2、pMAL−c2、pBridge Vecto、pKF18k DNA、pKF19k DNA、pTrc99A、pSPORT 1、Charmomid 9−36 DNA、pEU−DFR、pIVEX 2.3−MCS、pIVEX 2.4c、pIVEX 2.3、pIVEX 2.4b Nde、pIVEX 2.4aなど)、ファージDNA(ラムダファージなど)、酵母プラスミド(pG−1など)、哺乳類細胞用のベクターとしてのバキュロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルスなどのウイルスDNA、SV40とその誘導体などが挙げられ、宿主において複製可能である限り他のいかなるベクターも用いることができる。
ベクターへの遺伝子導入は、公知の手段で行なうことができる。具体的には、ベクター中の特定の制限酵素部位を特定の制限酵素によって切断し、その切断部位に本発明の遺伝子を挿入するのが好ましい。このようにして、本発明の遺伝子を含む組換えベクターを調製できる。
宿主としては、例えば細菌、例えば大腸菌(例えば、エシェリヒア・コリJM109菌株等)、コリネバクテリウム属菌、バチルス属菌、ストレプトミセス、枯草菌など;真菌細胞、例えばアスペルギルス属菌株など;酵母細胞、例えばパン酵母、メタノール資化性酵母など;昆虫細胞、例えばドロソフィラS2、スポドプテラSf9など;ヒト培養細胞を含む哺乳類細胞、例えばCHO、COS、BHK、3T3、C127など;あるいはこれらのコンピテントセルなどが挙げられ、好ましくは大腸菌のコンピテントセルである。
形質転換は、例えば塩化カルシウム/塩化ルビジウム法、リン酸カルシウム法、DEAE−デキストラン介在トランスフェクション、電気穿孔法などの公知の方法で行うことができる。
具体的には、例えば本発明の遺伝子を含む組換えベクターとエシェリヒア・コリJM109(以下、大腸菌JM109ともいう。)のコンピテントセルとを混合することにより、形質転換された微生物を得ることができる。
すなわち、本発明のL−threo−DOPS、L−threo−CHSあるいはその他のL−β−ヒドロキシアミノ酸誘導体の製造方法において、形質転換された微生物またはその調製物を用いて、グリシンと3,4−ジヒドロキシベンズアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、あるいは炭素数7以上の直鎖脂肪族アルデヒドまたはカルボキシ基もしくは臭素置換芳香族アルデヒドから一段階で収率よくL−threo−DOPS、L−threo−CHSあるいはその他のL−β−ヒドロキシアミノ酸誘導体を得ることができる。
炭素源としては、例えばグルコース、フルクトース、シュークロース、マンノース、マルトース、マンニトール、キシロース、ガラクトース、澱粉、糖蜜、ソルビトールまたはグリセリン等の糖質および糖アルコール、酢酸、クエン酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸またはグルコン酸等の有機酸、エタノールまたはプロパノール等のアルコール等が挙げられる。また、所望によりノルマルパラフィン等の炭化水素等も用いることができる。炭素源は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
これら炭素源の培地における濃度は通常約0.1〜10%(wt)程度である。
窒素源の培地濃度は、使用する窒素化合物によっても異なるが、通常約0.1〜10%(wt)程度である。
無機塩類の培地濃度は、使用する無機塩によっても異なるが、通常約0.01〜1.0%(wt)程度である。
栄養物質の培地濃度は、使用する栄養物質によっても異なるが、通常約0.1〜10%(wt)程度である。
培地のpHは約5.0〜8.0程度が好ましい。
反応液と微生物との接触方法は、公知の方法、例えばバッチ方式または連続方式(例えば、カラム法、固定化微生物、固定化酵素法等)など、いずれの方法も用いることができる。
また、反応液と微生物をフィルターなどにより分離し、微生物を連続的に回収し、繰り返し再使用することもできる。
また、本発明の反応は、好気、嫌気いずれの条件でも行なうことができる。また、反応液と微生物の反応は、微生物が生存できる条件、例えば上記微生物の培養における条件と同様の条件で実施することが好ましい。
また。反応液には、所望により例えば2−メルカプトエタノールのような還元剤を添加することもできる。
なお、本発明において配列中、Aはアデニン、Gはグアニン、Cはシトシン、Tはチミンを示し、Wはアデニンまたはチミンを、Kはグアニンまたはチミンを、Yはチミンまたはシトシンを示す。本明細書において%は特に断らない限り質量%を意味する。
まず、斜面培養したエンシファー・アルボリス(Ensifer arboris)NBRC100383(以下、NBRC100383という。)のコロニーから白金耳を用いて採取した菌体を、ポリペプトン1.0%、酵母エキス0.2%および硫酸マグネシウム0.1%を含む培地10mL(pH7.0)に植菌し、30℃、2日間振騰培養した。この培養液5mLを15mLのファルコンチューブへ移し、10,000rpmで5分間遠心した。上清を捨て、得られたペレットをキットに添付のCell Lysis Solution 3mLに懸濁した。80℃、5分間の熱処理により細胞を溶菌させた。その後、15μLのRNase A Solutionを添加し、溶液を良く混合の後、37℃、30分間静置処理を行なった。次に1mLのProtein Precipitation Solutionを添加し、溶液を激しく混合した後、15,000×g、3分間の遠心分離によりゲノムDNAを含む溶液を上清として回収した。更に、回収した溶液に3mLのイソプロパノール(Isopropanol)を添加し混合の後、15,000×g、1分間の遠心分離によりゲノムDNAを白いペレットとして回収した。得られたゲノムDNAは、DNA Hydration Solution 500μLに溶解し、1μLをアガロース電気泳動して確認後、4℃または−20℃で保存した。
取得したNBRC100383のゲノムDNAよりL−スレオニンアルドラーゼをコードする遺伝子をPCR反応より増幅するためのプライマーを合成した。現在、L−スレオニンアルドラーゼをコードする遺伝子の塩基配列は様々な細菌のゲノム解析の結果、様々な微生物にてその推定塩基配列が公開されている。また、16S rDNAの分析の結果から、NBRC100383と高い相同性を示すMesorhizobium lotiやSinorhizobium属(例えばSinorhizobium meliloti 1021等)のゲノム解析もすでに公開され、それぞれL−スレオニンアルドラーゼをコードする遺伝子が存在することも示されている。そこで、この遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)のN末端およびC末端部分の共通塩基配列を利用し表1のDNAプライマーを合成しPCRによる増幅反応を行った。
なお、Mesorhizobium lotiおよびSinorhizobium meliloti 1021のゲノムは、それぞれGeneBankに登録番号BA000012およびAL591688として登録されている。
PCR条件:1μL上記NBRC100383ゲノムDNA(350.5ng/μL;鋳型DNA)、0.5μL(5U/μL)TaKaRa LA Taq DNA polymerase、25μL LA−Taq DNA polymerase添付のHigh GCバッファー(I)(1X)、8μL dNTP(各2.5mM)、0.5μL 5’プライマー(配列番号1)25pmol/mL、0.5μL 3’プライマー(配列番号2)または0.5μL プライマー(配列番号3)25pmol/mLに水を加え、総量50μLの溶液を作製し、94℃で2分間熱処理後、94℃で1分、50℃で30秒、72℃で2分の条件で30サイクルのプログラムで増幅を行い、その後72℃で5分間処理した。また、増幅の確認は1%のアガロース電気泳動を行った。その結果、2種類の遺伝子が増幅された(約1kbpと約0.8kbp)。
PCRにより増幅された約1kbpと約0.8kbpの遺伝子をTAクローニングベクターpCR2.1−TOPO(TOPO TA Cloning kit, Invitrogne製)に挿入することによりクローン化させた。即ち、PCRにより増幅された約1kbpと約0.8kbpの遺伝子を含むPCR溶液4μLに塩溶液(Salt solution:1.2M NaCl、0.06M MgCl2)1 μLとTOPOクローニングベクターpCR2.1−TOPOを1μL加え、室温で5分間連結反応を行った。反応後の溶液5μLを用いて大腸菌JM109を形質転換した。形質転換細胞を含む溶液を100μg/mLのアンピシリン、0.1mMのIPTGおよび0.004%のX−galを含むLB寒天培地上に塗布し、37℃で一晩培養してコロニーを形成させた。それぞれについて白色の陽性コロニーを選択し、3mLの100μg/mLのアンピシリンを含んだLB液体培地(1% Bacto Tripton、0.5% Yeast Extract、1% NaCl)に植菌し、37℃で一晩培養した。培養液を遠心分離して集菌後、QIAquick plasmid purification kit(Qiagen社製)により約3μgのプラスミドDNAを精製した(pCR−ensi1とpCR−ensi2)。
上記にて精製したNBRC100383のクローンpCR−ensi1とpCR−ensi2より挿入断片の塩基配列の決定を行った。シークエンス反応は、GeneAmp PCR System 9700(アプライドバイオシステム社製)、 Dyeterminator Cycle Sequencing FS Ready Reaction Kit (アプライドバイオシステム社製)を用い、96℃ 10秒、50℃ 5秒、60℃ 4分、25サイクルで行った。反応生成物のシークエンスは全自動シークエンサー ABI Prism 3700 DNA Analyzer(アプライドバイオシステム社製)にて解析することにより決定した。その結果、pCR−ensi2に含まれている挿入断片の配列はpCR−ensi1に含まれている挿入断片の一部分であることが明らかになった。pCR−ensi1に含まれている挿入断片は、配列番号4に示す塩基配列の1番目から1047番目に相当する配列になっていることが分かった。
上記の塩基配列解析により確認されたPCRにより増幅されたNBRC100383由来のL−スレオニンアルドラーゼ(pCR−ensi1)を大腸菌内で発現させるために、発現ベクターpTrc99A(アマシャムバイオサイエンス製)にサブクローニングした。即ち、NBRC100383由来のL−スレオニンアルドラーゼをコードする遺伝子の塩基配列を鋳型として、該塩基配列の全長である1047kbpのN末端の前にKpnI認識配列を追加したDNAプライマー配列:
5’−AAAGGTACCATGATCTTTTCCTCCGACAAC−3’(配列番号6)、
C末端の後にHindIII認識配列を追加したDNAプライマー配列:
5’−AGAATTCAAGCTTTCAGCAGGCGGCGACGAAACGG−3’(配列番号7)
を合成し、PCRを行った。PCRの条件は以下の通りである。
挿入断片が確認されたplth−EAを含む大腸菌JM109株を100μg/mLのアンピシリンを含む3mLの液体培地に植菌し、一晩37℃で培養した。この培養液のうち、0.1mLを10mLのLB培地(100μg/mLのアンピシリンを含む)に接種した。約3時間後、培養液の菌体濃度(OD600)が0.4〜0.7に上昇したことを確認後、最終濃度で2mMになるように1MのIPTGを添加し組換えL−スレオニンアルドラーゼの大腸菌での発現を誘導させた。その培養液をさらに、一晩37℃で培養し、培養液を10,000×g,5分間の遠心操作により細胞を沈殿させ、上清を除いた後、0.85%のNaClで1回洗浄した。遠心操作により細胞を沈殿させ、大腸菌形質転換体を得た。(この形質転換体は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託されている。寄託番号:受託番号NITE P−110)
反応液の組成は1gのグリシン、100mgの3,4−ジヒドロキシベンズアルデヒド、10μLのメルカプトエタノ−ル(2−Mercaptoethanol)、250μLのピリドキサール−5’−リン酸(PLP、0.6mg/mL)、4.74mL 0.1Mリン酸緩衝液(pH7.5)、0.0158gの亜硫酸ナトリウムおよび0.0375gのTriton X−100であって、1N塩酸で最終pHを6.5に調整した。この反応液に−80℃で凍結保存しておいた前記菌体全量を加え15℃で5時間酵素反応を開始させ、3倍量のメタノールを加えることにより反応を停止させた。合成産物であるL−threo−DOPSの合成量はHPLC(日立L2000シリーズ、日立製作所製)で測定した。HPLC分析は、COSMOSIL 5C18−MS−II(Φ4.6×150mm)カラム、カラム温度30℃、移動相は0.1% 1−ヘプタンスルホン酸Na(pH2.5)/メタノール/1,4−ジオキサン=[500:50:15(V/V/V)]で行った。HPLCの移動相流速は0.75mL/分で、分離産物の検出はUV=220nmの吸光で分析した。その結果、NBRC100383のゲノムDNAよりクローニングしたL−スレオニンアルドラーゼ組換え大腸菌は1.5g/LのL−threo−DOPSの合成活性能を有していることがわかった。NBRC100383由来のL−スレオニンアルドラーゼはスレオ体/エリスロ体に対するスレオ体過剰率が73%(%d.e.)であり(図1)、従来の酵素に比べ立体選択性が非常に高く、今まで問題になっていたL−エリスロ−DOPSがほとんど合成されていないことが分かった。尚、ここで、スレオ体過剰率(%d.e.)は以下の計算式により求めた。
実施例6と同様の方法で100mLのLB培地より得られた形質転換体をL−threo−CHSの合成反応に用いた。すなわち、反応液の組成は7.5gのグリシン、1gのシクロヘキシルアルデヒドおよび0.125gのTriton X−100に0.1Mリン酸緩衝液(pH7.5)を加え全量を50mLに調整した。この反応液に−80℃で凍結保存しておいた100mLのLB培地より得られた前記菌体全量を加え10℃で酵素反応を行い、32時間後に1gのシクロヘキシルアルデヒドを添加し、さらに酵素反応を行わせ53時間で反応を1/4倍量の2N塩酸を加えることにより停止させた。合成産物であるL−threo−CHSの合成量はHPLC(日立L2000シリーズ、日立製作所製)で測定した。HPLC分析は、COSMOSIL 5C18−MS−II(Φ4.6×150mm)カラム、カラム温度30℃、移動相は0.1% 1−ヘプタンスルホン酸Na(pH2.5)/アセトニトリル=[85:15(V/V)]で行った。HPLCの移動相流速は1.0mL/分で、分離産物の検出はUV=210nmの吸光で分析した。その結果、39g/L(208mM)のL−threo−CHSが生成していることがわかった。NBRC100383由来のL−スレオニンアルドラーゼはスレオ体/エリスロ体に対するスレオ体過剰率が95%(%d.e.)であり、立体選択性が非常に高く、しかも高濃度のL−threo−CHS合成されていることが分かった。
反応液の組成は50gのグリシン、10gの1−ヘプタナールおよび1.25gのTriton X−100を0.1Mりん酸ナトリウム緩衝液pH7.5に添加し全量を500mLに調整した。この反応液に−80℃で凍結保存しておいた1Lの培養液から集めた菌体全量を加え、10℃で15時間合成反応を行なった。合成産物である2−アミノ−3−ヒドロキシノナン酸の合成量は、実施例7で、移動相を0.1% 1−ヘプタンスルホン酸Na(pH2.5)/アセトニトリル=[80:20(V/V)]に変えた以外は同様の方法で測定した。その結果、29g/Lの2−アミノ−3−ヒドロキシノナン酸を合成していることがわかった。
上記実施例8で得られた反応液500mLをヌッチェでろ過し、更に100mLの水で固形分を洗浄した。2−アミノ−3−ヒドロキシノナン酸は固形分として回収した。固形分を800mLの2N塩酸で溶解し、15gのハイフロスーパーセルでプレコートしたヌッチェでろ過し、菌体を含む不溶物を除去した。更に、2N塩酸50mLで洗浄し、850mLの2−アミノ−3−ヒドロキシノナン酸を含む濾液を得た。濾液をスターラーで攪拌しながら27%水酸化ナトリウム溶液230mLを滴下し、pH6.3に中和した。溶解していた2−アミノ−3−ヒドロキシノナン酸は、中和することにより沈殿させることができる。4℃に冷却後30分静置した後、ろ過を行い沈殿を回収した。沈殿を50mLの水で2回、10mLのアセトンで2回洗浄した。得られた沈殿を50℃に加熱しながら真空乾燥を行った。7.92gの2−アミノ−3−ヒドロキシノナン酸の結晶が得られた。収率は54.8%であった。
上記実施例8でアルデヒドを1−デカナールに代えて、5℃、33時間合成反応を行った。合成産物である2−アミノ−3−ヒドロキシドデカン酸の分析は、実施例7で移動相を0.1% 1−ヘプタンスルホン酸Na(pH2.5)/アセトニトリル=[75:25(V/V)]に代えた以外は同様の方法で行った。その結果、25g/Lの2−アミノ−3−ヒドロキシドデカン酸が合成していることがわかった。この反応液から、実施例9記載の方法と同様の方法により、2−アミノ−3−ヒドロキシドデカン酸の結晶11.5gを得た。収率は90%であった。
反応液の組成は3.75gのグリシン、0.5gのテレフタルアルデヒド酸および0.0625gのTriton X−100を0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液pH7.5に添加し全量を25mLに調整した。この反応液に−80℃で凍結保存しておいた前記50mLの培養液から集めた菌体全量を加え10℃で22時間合成反応を行った。合成産物であるp−カルボキシフェニル−L−セリンの合成量は実施例6と同様のHPLC法で測定した。その結果、30g/Lのp−カルボキシフェニルセリンが合成されていることがわかった。
実施例11と同様の方法でアルデヒドをm−ブロムベンズアルデヒドに代えて0.625gを添加し、10℃、24時間酵素反応を行った。合成産物であるm−ブロムフェニル−L−セリンの分析は、実施例7で移動相を0.1% 1−ヘプタンスルホン酸Na(pH2.5)/アセトニトリル=[80:20(V/V)]、移動相流速を0.75mL/分、検出はUV=220nmに代えた方法で行った。その結果、34g/Lのm−ブロムフェニル−L−セリンを合成していることがわかった。
Claims (9)
- エンシファー・アルボリス由来の、下記の(1)、(2)、または(3)に示す遺伝子:
(1)配列番号4に示す塩基配列のDNAからなる遺伝子:
(2)配列番号5に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子:
(3)配列番号5に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつL−スレオニンアルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子。 - 下記の(1)または(2)に示すタンパク質:
(1)配列番号5に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(2)配列番号5に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつL−スレオニンアルドラーゼ活性を有するタンパク質 - 請求項1に記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
- 請求項3に記載の組換えベクターを含む微生物。
- 宿主が大腸菌である請求項4に記載の微生物。
- 受託番号NITE P−110として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託された微生物。
- 請求項4、5または6に記載の微生物またはその調製物を、3,4−ジヒドロキシベンズアルデヒドおよびグリシンを含有する液と接触せしめ、前記液中にL−スレオ−3,4−ジヒドロキシフェニルセリンを生成蓄積せしめ、これを採取することを特徴とするL−スレオ−3,4−ジヒドロキシフェニルセリンの製造法。
- 請求項4、5または6に記載の微生物またはその調製物を、シクロヘキシルアルデヒドおよびグリシンを含有する液と接触せしめ、前記液中にL−スレオ−3−シクロヘキシルセリンを生成蓄積せしめ、これを採取することを特徴とするL−スレオ−3−シクロヘキシルセリンの製造法。
- 請求項4、5または6に記載の微生物またはその調製物を、炭素数7以上の直鎖脂肪族アルデヒドまたはカルボキシ基もしくは臭素置換芳香族アルデヒド、およびグリシンを含有する液と接触せしめ、前記液中に対応するL−β−ヒドロキシアミノ酸誘導体を生成蓄積せしめ、これを採取することを特徴とするL−β−ヒドロキシアミノ酸誘導体の製造法。
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