JP5028639B2 - ミトコンドリア病の予防又は治療薬 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はミトコンドリア病、特に慢性進行性外眼筋麻痺症候群(CPEO)、MERRF(赤色ぼろ線維を持つミトコンドリア異常を伴うミオクローヌスてんかん)、MELAS(ミトコンドリア筋症脳症高乳酸血症、脳卒中様症状)、ミトコンドリア遺伝子変異による糖尿病、心筋症、アルツハイマー痴呆症、聴覚障害、網膜変性疾患等の予防又は治療薬に関する。
【0002】
【従来技術】
ミトコンドリア病は具体的には慢性進行性外眼筋麻痺症候群(CPEO)、MERRF(赤色ぼろ線維を持つミトコンドリア異常を伴うミオクローヌスてんかん)、MELAS(ミトコンドリア筋症脳症高乳酸血症、脳卒中様症状)等の疾患を指し(太田;生化学 67 15 1995,太田、安川;細胞工学 19 596 2000)、ミトコンドリア遺伝子、特にt−RNAの変異による遺伝子病全体を意味する(Yasukawa,T.et.al.:J Biol Chem 275 4254 2000,FEBS Letters 467 175 2000)。最近、糖尿病(van den Ouweland,JM et.al.:Nat Genet 1 368 1992,Kadowaki,T. et.al.:N Engl J Med 330 962 1994,Hirai,M et.al.:J Clin Endocrinol Metab 83 992 1998)やアルツハイマー痴呆症(Ito,S. et.al.:Proc Natl Acad Sci USA 96 2099 1999)にもミトコンドリア遺伝子変異の関与が知られるようになってきた。
【0003】
ミトコンドリアの機能で最も重要なのは、エネルギー産生の為の好気的・酸化反応機能とアポトーシスである。特に酸化代謝機能はアポトーシス機能と異なり関与する蛋白がミトコンドリア遺伝子に基づくものが多く、変異が起こった場合の影響が強く現れる。従って、多くのミトコンドリア病はエネルギー産生を目的とする細胞の内呼吸・酸化代謝機構の異常に基づくと考えられる。一般に遺伝子病の治療は遺伝子治療を除けば根本的治療法がないものが多く、対症療法に頼らざるを得ない。ミトコンドリア病もその例外ではなく、遺伝子治療法が確立していない現在対症療法の範囲に留まっているのが現状で、殆ど有効な薬物療法はないといっても過言でなく、患者に肉体的、経済的にはもちろん精神的にも多大な苦痛を与えている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、安全かつ経口投与で高い効力を有するミトコンドリア病、特に慢性進行性外眼筋麻痺症候群(CPEO)、MERRF(赤色ぼろ線維を持つミトコンドリア異常を伴うミオクローヌスてんかん)、MELAS(ミトコンドリア筋症脳症高乳酸血症、脳卒中様症状)、ミトコンドリア遺伝子変異による糖尿病、心筋症、アルツハイマー痴呆症、聴覚障害、網膜変性疾患等の予防・治療薬を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
ミトコンドリア病はミトコンドリア遺伝子、特にミトコンドリアt-RNA遺伝子の変異に因る細胞機能の異常に基づく疾病である。そこで、本発明者は、まずミトコンドリアDNAを欠如したHela細胞を用意し、これとは別に患者のミトコンドリア遺伝子変異細胞の核を抜き取った脱核細胞を作成し、ついで両者を融合させてミトコンドリアのみ異常でその他は正常な細胞(サイブリッド)を作り、この細胞の呼吸能(酸素消費量)が障害されていることを確認した。さらに本発明者はこの回復作用を指標に、変異ミトコンドリア遺伝子による機能異常を改善するものを鋭意探索した結果、意外にもタウリン及びその関連物質がその効果を有することを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、タウリン、タウリンクロラミン、これらの生体内での前駆物質となる含流アミノ酸及びそれらの薬理学的に許容できる塩並びにタウリン誘導体からなる群から選ばれる1種又は2種以上を有効成分とするミトコンドリア病又はミトコンドリア遺伝子変異が関与する疾患の予防又は治療薬である。
【0007】
本発明において、ミトコンドリア病とは慢性進行性外眼筋麻痺症候群(CPEO)、MERRF(赤色ぼろ線維を持つミトコンドリア異常を伴うミオクローヌスてんかん)、MELAS(ミトコンドリア筋症脳症高乳酸血症、脳卒中様症状)、を意味し、ミトコンドリア遺伝子変異が関与する疾患とはミトコンドリア遺伝子変異による糖尿病、ミトコンドリア遺伝子変異による心筋症、ミトコンドリア遺伝子変異によるアルツハイマー痴呆症、ミトコンドリア遺伝子変異による聴覚障害、ミトコンドリア遺伝子変異による網膜変性疾患を意味する。
【0008】
本発明において、生体内でタウリン、タウリンクロラミンの前駆物質となる含流アミノ酸とは、メチオニン、S−アデノシルメチオニン、S−アデノシルホモシステイン、ホモシステイン、シスタチオニン、システイン、シスチン、シスチンジスルホキシド、シスタミンジスルホキシド、シスタミン、補酵素A、システアミン、シスタルジミン、チオシステアミン、システインスルフィン酸、無機硫酸塩、システイン酸、ヒポタウリンである。
タウリンクロラミンとは白血球などの細胞内で過酸化水素からミエロペルオキシダーゼの作用により生じた次亜塩素酸がタウリンと反応することにより生ずるタウリンの塩素付加産物である。付加した塩素が1つの場合にはタウリンモノクロラミン、2つの場合にはタウリンジクロラミンと呼び、本件におけるタウリンクロラミンとはそのいずれも含む。
【0009】
また、タウリン誘導体とはN−メチルタウリン、N、N−ジメチルタウリン、N、N、N−トリメチルタウリン、グアニジノエタンスルフォン酸、グアニジノエタンスルフィン酸、N−(2−アセタミド)−2−アミノエタンスルホン酸、ピペラジノ−N,N'−ビス(2−エタンスルホン酸)、N−[1'−アザ−シクロヘプタン−2'−イル]−2−アミノエタンスルホン酸、N−[1'−アザ−シクロペンタン−2'イル]−2−アミノエタンスルホン酸、N−[1'アザ−シクロヘプタン−2'−イル]−3−アミノプロパンスルホン酸、N−[1'−アザ−シクロペンタン−2'−イル]−3−アミノプロパンスルホン酸、2−アミノエチルホスホン酸、3−アミノプロピオン酸、エタノ−ルアミン−O−サルフェート、アミノメタンスルホン酸、ホモタウリン、ピリジン−3−スルホン酸、ピペリジン−3−スルホン酸、アニリン−2−スルホン酸、(±)−2−アミノシクロヘキサンスルホン酸、2−アミノシクロペンタンスルホン酸、キノリン−8−スルホン酸、1,2,3,4−テトラヒドロキノリン−8−スルホン酸、3−アミノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−スルホン酸、6−アミノメチル−3−メチル−4−1,2,4−ベンゾチアジアジン−、1−ジオキサイド(TAG)、グリシン、レチニリデンタウリン(TAURET)3−アセタミド−1−プロパンスルホン酸Ca塩(ACAMPROSATE)、5−タウリノメチルウリジン、5−タウリノメチル−2−チオウリジン、イセチオン酸、システインスルホン酸、リトラロン、2−アミノ−3−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸、N−(2,3−ジヒドロキシ−n−プロピル)タウリン、デカノイルサルコシルタウリン、セリリピン、GABAのいずれも含む。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の有効成分であるタウリン等は、一般には1日1回又は数回に分け服用することができる。投与量は症状によって異なるが、0.1g/日〜15g/日である。
本発明の有効成分であるタウリン等は、そのままあるいは必要に応じて他の公知の添加剤、例えば賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、抗酸化剤、コーティング剤、着色剤、矯味矯臭剤、界面活性剤、可塑剤などを混合して常法により、顆粒剤、散剤、カプセル剤、錠剤、ドライシロップ剤、チュアブル錠、アメ、液剤、ゼリーなどの経口製剤とすることができる。
【0011】
賦形剤としては、例えばマンニトール、ブドウ糖、白糖、乳糖、セルロース、デンプン、カルボキシビニルポリマー、軽質無水ケイ酸、酸化チタン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどが挙げられる。
崩壊剤としては、例えば低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプン、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、部分アルファー化デンプンなどが挙げられる。
結合剤としては、例えばメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、寒天などが挙げられる。
滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、サラシミツロウなどが挙げられる。
【0012】
抗酸化剤としては、例えばジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、没食子酸プロピル、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)が挙げられる。
コーティング剤としては、例えばヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートなどが挙げられる。
着色剤としては、例えばタール色素、酸化チタンなどが挙げられる。
矯味矯臭剤としては、例えばクエン酸、アジピン酸、アスコルビン酸、メントールなどが挙げられる。
界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノステアリン酸グリセリン、ラウリル硫酸ナトリウム、マクロゴール類、ショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられる。
可塑剤としては、例えばクエン酸トリエチル、トリアセチン、セタノールなどが挙げられる。
【0013】
【発明の効果】
本発明により、ミトコンドリア病及びミトコンドリア遺伝子異常が関与する疾患にタウリン等が予防薬又は治療薬として有効であることが見出された。
【0014】
【実施例】
以下、実施例と試験例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
実施例1
処方例(1包中)
タウリン 3000mg
粉糖 600mg
エロジール 36mg
アスパルテーム 9mg
低置換ヒドロキシプロピルセルロース 54mg
常法により、上記処方からなる顆粒剤を製造した。
【0015】
実施例2
処方例(1包中)
タウリン 3000mg
ビタミンE 100mg
粉糖 600mg
アスパルテーム 9mg
低置換ヒドロキシプロピルセルロース 54mg
ステアリン酸マグネシウム 24mg
色素 微量
香料 微量
常法により、上記処方からなる顆粒剤を製造した。
【0016】
実施例3
処方例(1包中)
システイン 160mg
粉糖 600mg
エロジール 36mg
アスパルテーム 9mg
低置換ヒドロキシプロピルセルロース 54mg
常法により、上記処方からなる顆粒剤を製造した。
【0017】
実施例4
処方例(1包中)
シスチン 0.3mg
ビタミンE 100mg
粉糖 600mg
アスパルテーム 9mg
低置換ヒドロキシプロピルセルロース 54mg
ステアリン酸マグネシウム 24mg
色素 微量
香料 微量
常法により、上記処方からなる顆粒剤を製造した。
【0018】
実施例5
処方例(1包中)
メチオニン 200mg
粉糖 600mg
エロジール 36mg
アスパルテーム 9mg
低置換ヒドロキシプロピルセルロース 54mg
常法により、上記処方からなる顆粒剤を製造した。
【0019】
試験例[ミトコンドリア遺伝子変異をもつ機能異常細胞に対するタウリンの作用]
(試験方法)
ミトコンドリアtRNALeu(UUR)を支配するDNA塩基配列の3243番あるいは3271番の点変異によるミトコンドリア病であるMELAS患者、及びtRNALysの8344点変異であるMERRF患者の線維芽細胞から細胞核を抜き去った3種類の脱核細胞(各々MELAS3243,MELAS3271,MERRF8344と表記)を作成し、次いでこれにミトコンドリアDNAを含まないHeLa細胞を融合させて、ミトコンドリアのみに異常を有するそれぞれ3種類のサイブリッド細胞を作成した。
【0020】
このようなミトコンドリア遺伝子に変異を有するサイブリッド細胞は呼吸能(酸素消費量)が低下していることを既に確認している。これらの細胞を4日間10〜50mMのタウリンと共に培養した。培養後一回細胞を洗浄し、10%仔ウシ血清を含む正常培地に懸濁した。細胞数を顕微鏡下で1ml当たり5×107個に調整し、その2mlを取り、37℃でクラーク型電極を用いて酸素消費速度を測定した。
対照の細胞として正常のヒト線維芽細胞とHeLa細胞を用いて同様に作成したサイブリッド細胞を用いた。結果を図1に示した。
【0021】
(実験結果及び考察)
ミトコンドリアtRNAに変異のない対照細胞はタウリンによってその呼吸能が何の影響も受けないが、tRNA変異を持つ細胞はいずれもタウリンによって呼吸能が亢進した。既にミトコンドリアtRNA遺伝子の変異はMELASやMERRFの原因になること、これらの変異細胞は呼吸能が正常細胞に比べ低下していることを確認しているので、この試験例はタウリンがミトコンドリア遺伝子変異による酸素消費能等の機能異常を改善することを示すものである。
【0022】
【図面の簡単な説明】
【図1】縦軸に酸素消費速度比をタウリンの添加しない時を1として、横軸に培地中に添加したタウリン濃度を取った。
図中各々のグラフは対照細胞(□)、MELAS3243(◇)、MELAS3271(△)、MERRF8344(○)の各サイブリッドの酸素消費速度比が種々の濃度のタウリンによってどう変化するかを表した。
Claims (2)
- ミトコンドリア病であってミトコンドリア遺伝子塩基番号8344のAがGに変異したことで発症する病型MERRF(赤色ぼろ線維を持つミトコンドリア異常を伴うミオクローヌスてんかん)を対象とするタウリンを有効成分とするミトコンドリア病の予防又は治療薬。
- ミトコンドリア病であってミトコンドリア遺伝子塩基番号が3243または3271のそれぞれAがG、またはTがCに変異したことで発症する病型MELAS(ミトコンドリア筋症脳症高乳酸血症、脳卒中様症状)を対象とするタウリンを有効成分とするミトコンドリア病の予防又は治療薬。
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