なお、この明細書において、「記録」とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。また、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わない。
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
さらに、「インク」とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきもので、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理に供され得る液体を表すものとする。インクの処理としては、例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化させることが挙げられる。
またさらに、「記録素子」(「ノズル」という場合もある)とは、特にことわらない限りインク吐出口乃至これに連通する液路及びインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。なお、インク吐出口列を記録素子列という場合もある。
〔記録装置の構成〕
図3を用いて、本実施形態に適用できるインクジェット記録装置について説明する。インクジェット記録装置100は、紙などの記録媒体を装置本体内へと自動的に給送する自動給送部101と、自動給送部101から1枚ずつ送出される記録媒体を所定の記録位置へと導くとともにそれを記録位置から排出部102へと導く搬送部103を備えている。また、記録位置に搬送された記録媒体に所望の記録を行う記録部と、記録部に対して回復処理を行う回復部108とを備えている。
記録部は、キャリッジ軸104によって矢印Xの主走査方向に移動可能に支持されたキャリッジ105と、このキャリッジ105に着脱可能に搭載される記録ヘッド11(不図示)とから成る。
キャリッジ105には、そのキャリッジ105と係合して、記録ヘッド11をキャリッジ105上の所定の装着位置に案内するためのキャリッジカバー106が設けられている。またさらに、記録ヘッド11のタンクホルダー113と係合して、記録ヘッド11を所定の装着位置にセットさせるよう押圧するヘッドセットレバー107も設けられている。
キャリッジ105の上部にヘッドセットレバー軸に対して回動可能に設けられるとともに、記録ヘッド11との係合部には、ばね付勢されるヘッドセットプレート(不図示)が備えられている。そのばね力によって、ヘッドセットレバー107は、記録ヘッド11を押圧しながら、それをキャリッジ105に装着する構成となっている。
〔記録ヘッドの構成〕
図4及び図5に、本実施形態に適用可能な記録ヘッド11を示す。記録ヘッド11は、ヒータ基板の略垂直方向に液滴を吐出するサイドシュータ型であるバブルジェット(登録商標)方式の記録ヘッド11である。この記録ヘッド11は、記録素子ユニット111とインク供給ユニット112とタンクホルダー113から成る。また、記録素子ユニット111は、第1の記録素子114、第2の記録素子115、第1のプレート116、電気配線テープ118、電気コンタクト基板119、第2のプレート117で構成されている。また、インク供給ユニット112は、インク供給部材120、流路形成部材121、ジョイントゴム122、フィルター123、シールゴム124から構成されている。
次に、記録素子ユニット111について説明する。記録素子ユニット111は、第1のプレート116と第2のプレート117の接合によるプレート接合体125の形成、第1の記録素子114と第2の記録素子115のプレート接合体125へのマウントの順に実装される。そして、さらに電気配線テープ118の積層、第1の記録素子114と第2の記録素子115との電気接合、該電気接続部等の封止の順に実装される。
液滴の吐出方向に影響するため平面精度を要求される第1のプレート116は、厚さ0.5〜10mmのアルミナ(Al2O3)材料で構成されている。第1のプレート116には、第1の記録素子114及び第2の記録素子H1101にインクを供給するためのインク供給口126が形成されている。
第2のプレート117は、厚さ0.5〜1mmの1枚の板状部材であり、第1のプレート116に接着固定される第1の記録素子114と第2の記録素子115の外形寸法よりも大きな窓状の開口部127を有する。第2プレート117は第1プレート116に接着剤を介して積層固定され、プレート接合体125を形成する。
第1の記録素子114と第2の記録素子115は、開口部127内に形成された第1のプレート116の表面に接着固定される。しかし、このマウントする際の精度や、接着剤の動きなどにより精度良く実装することが極めて難しく、本発明の課題となる記録ヘッドの組み付け誤差の要因の一つとして挙げられる。
複数のインク吐出口から成るインク吐出口列14を有する第1の記録素子114と第2の記録素子115は、サイドシュータ型バブルジェット(登録商標)基板として公知の構造である。第1の記録素子114と第2の記録素子115は、厚さ0.5〜1mmのSi基板にインク流路として長溝状の貫通口から成るインク供給口と、インク供給口を挟んだ両側にそれぞれ1列ずつ千鳥状に配列されたエネルギー発生手段であるヒータ列を有している。さらに、このヒータ列に直交する第1の記録素子114と第2の記録素子115の辺には、ヒータに接続され基板の両外側に接続パッドが配列された電極部を有する。
電気配線テープ118として、TABテープが採用される。TABテープは、テープ基材(ベースフィルム)、銅箔配線、カバー層の積層体である。
第1の記録素子114と第2の記録素子115の電極部に対応するデバイスホールの2つの接続辺には、接続端子としてインナーリード129が延出する。電気配線テープ118は、カバー層の側を第2プレート117の表面に熱硬化型エポキシ樹脂接着層を介して接着固定され、電気配線テープ118のベースフィルムは、記録素子ユニット111のキャッピング部材が当接する平滑なキャッピング面となる。
電気配線テープ118と2つの記録素子114及び115は、それぞれ熱超音波圧着法や異方性導電テープを介して電気的に接続される。TABテープの場合は、熱超音波圧着法によるインナーリードボンディング(ILB)が好適である。記録素子ユニット111においては、電気配線テープ118のリードと第1の記録素子114と第2の記録素子115上のスタッドバンプとがILB接合される。
電気配線テープ118と2つの記録素子114及び115の電気接合の後、電気接続部分をインクによる腐食や外的衝撃から保護するため、第1の封止剤130及び第2の封止剤H131により封止される。第1の封止剤130は、主にマウントされた記録素子の外周部を封止し、第2の封止剤131は、電気配線テープ118と記録素子114及び115の電気接続部の表側を封止している。
図6(A)に、記録ヘッド11のインク吐出口面140におけるインク吐出口13の配列を示す。インク吐出口13が複数配列したインク吐出口列141、142、143、144は、それぞれインク吐出口13が128個配列して成り、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローのインク滴を吐出する。
なお、記録ヘッド11の構成については、例えば各色のインク吐出口列141,142,143,144が、副走査方向にインク吐出口13を交互に配置した二列から成る構成であってもよい。また、ブラックのインク吐出口列141が他色のインク吐出口列142、143、144よりも、インク吐出口13の数が多い構成であってもよい。
これ以降、1つのインク吐出口列(例えば、黒のインク吐出口列141)に注目して説明を行うが、他のインク吐出口列についても、同様に傾きずれ補正を行うことが可能である。
図6(B)は、128個のインク吐出口13から成るインク吐出口列141を有する記録ヘッド11を示している。インク吐出口列14の上側のインク吐出口13は副走査方向下流側にあたり、このインク吐出口13から順に上流側に向かって0〜127のノズル番号を仮想的に付ける。さらに、これらインク吐出口13をノズル番号の小さい方から16個ずつグループ0からグループ7に分けて、各グループでノズル番号の小さいインク吐出口に対応する記録素子から、順にブロック0からブロック15を割り当てるものとする。このようにしてブロック番号の割り当てられた記録素子を時分割して選択し、選択された記録素子を駆動することにより画像の記録を行う。なお、以降の説明では、記録ヘッド11の全インク吐出口13を用いて、1カラム目から3カラム目までの3カラム分のドットを形成して画像を記録する場合を例に説明を行う。
〔記録装置のブロック図〕
図7は、インクジェット記録装置1における制御回路の構成を示すブロック図である。インクジェット記録装置100において、201はCPU、202はCPU201が実行する制御プログラムを格納するROMである。ホスト200から受信したラスタ単位の記録データは、まず受信バッファ203に格納される。受信バッファ203に格納された記録データは、ホスト200からの送信データ量を減らすために圧縮されており、展開された後に第1の記録メモリ204に格納される。第1の記録メモリ204に格納された記録データは、HV変換回路205によってHV変換処理が行われ、第2の記録メモリ211(図8)に格納される。
図9に、第1の記録メモリ204における記録データの配置を模式的に示す。
第1の記録メモリ204に格納される記録データは、縦方向が128個の記録素子に対応したアドレス000〜0FEにより対応付けられている。また、第1の記録メモリ204は、横方向が記録解像度×記録媒体のサイズに対応しており、例えば記録解像度を1200dpi、記録媒体のサイズを8inchとした場合、横方向には9600dot分のデータが記録可能なサイズのメモリ領域となる。
同図において、アドレス000のb0にはノズル番号0の記録素子の記録データが保持されている。そして、同じアドレス000のb1にはノズル番号0の次カラムの記録データが保持されており、同様にしてアドレス000の横方向には次カラムに記録するデータが順に保持されている構成となっている。また、アドレス0FEにはノズル番号127の記録データが同様にして保持されている。
このように、第1の記録メモリ204の同一アドレス内には、同一のノズル番号のデータが保持されている。しかし、実際にはアドレス000から0FEまでのb0のデータが第1カラムとして記録され、次にアドレス000から0FEまでのb1のデータが第2カラムとして記録されている。そこで、HV変換回路205は、第1の記録メモリ204のラスタ方向に格納されている記録データに対してHV(Horizontal−Vertical)変換を行い、記録データを第2の記録メモリ211のカラム方向に格納する。
ここで、図35を用いてHV変換の動作を説明する。HV変換は、16×16の単位で行っていき、まず第1の記録メモリ204のアドレスN+0からN+1Eのb0に保持されているデータを読み出し、第2の記録メモリ211のアドレスM+0に書き込む。次に、アドレスN+0からN+1Eのb1に保持されているデータを読み出し、第2の記録メモリ211のアドレスM+2に書き込む。同様にして、この動作をM+0からM+1eまで16回繰り返し行うことで、16×16の単位のHV変換を完成する。このように、HV変換は時分割駆動のグループ単位で行われ、グループ0からグループ7まで順に行われる。
図36に、第2の記録メモリ211の構成を模式的に示す。HV変換は記録動作中に行われるため、第2の記録メモリ211への書き込み動作と第2の記録メモリ211からの読み込み動作が排他動作となるように、第2の記録メモリ211は16カラムを1Bankとした2Bankの構成となっている。そのため、書き込みにBank0が使用されるとき読み込みはBank1から行われ、書き込みにBank1が使用されるとき読み込みはBank0から行われる。また、図37には第2の記録メモリ211に保持されている記録データを示している。第2の記録メモリ211の記録データは、127個の記録素子に対応付けられるように保持されている。
図8は、ASIC206の内部ブロック図である。同図を用いて、記録素子を時分割して順次駆動するための構成について説明する。データ並び替え回路212は、記録データを並び替えるための回路である。この回路は、127個の記録素子に対応付けられて第2の記録メモリ211に保持されている記録データを、略同時に記録されるブロック毎の7ビットの記録データにまとめて、第3の記録メモリ213に書き込みを行う。
図38は、第3の記録メモリ213の構成を示す図である。同図において、アドレス0からFまでにはブロック0から15までの記録データが順番に保持されている。ブロック0にはグループ0からグループ7までのb0のデータが保持されており、同様にブロック1にはグループ0からグループ7までのb1のデータが保持されている。また、書き込み動作と読み込み動作が排他動作となるように、第3の記録メモリ213は16ブロック分のデータを1Bankとした3Bankの構成となっている。
書き込みにBank0が使用されるとき読み込みはBank1とBank2から行われる。また、書き込みにBank1が使用されるとき読み込みはBank2とBank0から行われ、書き込みにBank2が使用されるとき読み込みはBank0とBank1から行われる。なお、このように読み込み時に2Bnakを使用する構成としている理由については後ほど説明を行う。
図8に戻って、転送回数カウンタ216は記録タイミング信号の回数をカウンタするカウンタ回路であり、記録タイミング信号毎にインクリメントされる。転送回数カウンタは0から15までカウントして0に戻る。さらに、転送回数カウンタ216は第3の記録メモリのBank値をカウントしており、転送回数カウンタが16回カウントされるとBank値を+1インクリメントする。
ブロック駆動順データメモリ214は、16分割されたブロック番号0から15の記録素子を駆動する順番がアドレス0から15に記録されている。例えば、ブロック番号0から順次駆動する場合には、アドレス0から15に0→1→2→・・・→15の順でブロック番号が記憶されている。
記録データ転送回路219は、例えば、光学式リニアエンコーダに基づいて生成される記録タイミング信号をトリガに、転送回数カウンタ216のインクリメントを行う。データ選択回路215は、記録タイミング信号を起点にブロック駆動順データメモリ214の値と転送回数カウンタ216のカウントしたBank値に応じた記録データを第3のメモリ213より読み出す。そして、記録データを補正値記憶手段217に保持されている補正値に応じて補正を行い、この補正を行った記録データをデータ転送CLK生成器218によって生成されたデータ転送CLK信号(HD_CLK)に同期して、記録ヘッド11に転送する。
図10は、ブロック駆動順データメモリ214のアドレス0〜アドレス15に書き込まれたブロック駆動順データの一例を示している。同図では、ブロック駆動順データメモリ214のアドレス0、アドレス1には、それぞれブロック0、ブロック1を示すブロックデータが記憶されている。同様に、アドレス2〜アドレス15には、ブロック2〜ブロック15を示すブロックデータが順次記憶されている。
データ選択回路215は、記録タイミング信号をトリガに、ブロック駆動順データメモリ214のアドレス0からブロックイネーブル信号としてブロックデータ0001(ブロック1を示す数値)を読み出す。そして、このブロックデータ0001に対応した記録データを第3の記録メモリ213から読み出し、この記録データを記録ヘッド11に転送する。
同様にして、次の記録タイミング信号で、ブロック駆動順データメモリ214のアドレス1からブロックイネーブル信号としてブロックデータ1011(ブロック1を示す数値)を読み出す。そして、ブロックデータ0011に対応した記録データを第3の記録メモリ213から読み出し、記録ヘッド11に転送する。
同様にして、次の記録タイミング信号212をトリガに、ブロック駆動順データメモリ214のアドレス2からアドレス15まで順にブロックデータを読み出す。そして、各ブロックデータに対応した記録データを第3の記録メモリ213から読み出し、記録ヘッド11に転送する。
このようにして、データ選択回路215は、ブロック駆動順データメモリ214のアドレス0から15までに設定されたブロックデータを読み出しを行う。そして、それぞれのブロックデータに対応した記録データを第3の記録メモリ213から読み出して記録ヘッド11に転送することで1カラム分の記録を行う。
図11は、記録ヘッド11を駆動する駆動回路図であり、記録ヘッド11は128個の記録素子15を16のブロックに分割して駆動し、同じブロックに割り当てられた16個の記録素子を駆動する。記録データ信号313はHD_CLK信号314によって記録ヘッド11へシリアル転送で送られる。記録データ信号313は、16ビットのシフトレジスタ301で受け取った後、16ビットラッチ302にてラッチ信号312の立ち上がりでラッチされる。ブロックの指定は4本のブロックイネーブル信号310で示され、デコーダ303で展開された指定ブロックの記録素子15が選択される。
ブロックイネーブル信号310と記録データ信号313の両方で指定された記録素子15のみが、ANDゲート305を通過したヒータ駆動パルス信号311によって駆動され、インク滴を吐出して画像記録が行われる。
図12に、ブロックイネーブル信号310の駆動タイミングを示す。分割ブロック選択回路では、ブロック駆動順データメモリ214に格納されているブロック駆動順データに基づいてブロックイネーブル信号310を生成することができる。そこで、同図のブロックイネーブル信号310に示すように、分割ブロック選択回路では、ブロック駆動順データメモリ214により生成されるブロック駆動順は、ブロック0から始まりブロック15までの16ブロックを順番に指定するように設定されている。従って、片方向記録及び双方向記録の際の往走査記録では、駆動タイミングを示すブロックイネーブル信号310は、記録ヘッド11に対して、ブロック0→1→2→・・・→15の駆動順序で駆動させることになる。なお、ブロックイネーブル信号310は、各ブロックが1周期の中で等間隔のタイミングで指定されるように生成されている。
〔傾きずれ補正〕
次に、上述のインクジェット記録装置における傾きずれ補正の概略を説明する。傾きずれに関する情報の検出は、どのような方法によって行っても構わないが、図13以降では光学式センサを用いて傾きずれに関する情報を検出する場合を例に説明を行う。
図13は、ドットの傾きずれ補正の概略を示すフローチャートである。まずS11で、傾きずれに関する情報を検出するためのテストパターンを作成する。このテストパターンの作成では、吐出タイミングを異ならせて複数のテストパッチが記録される。そして、各テストパッチの光学特性の差を利用することで、傾きずれに関する情報を取得することができる。次にS12で、光学式センサを用いてそれぞれのテストパッチの光学特性(例えば、反射光学濃度)を測定し、傾きずれに関する情報を検出する。そして、S13で検出した傾きずれに関する情報から補正情報を決定し、補正値記憶手段217に設定する。そして、S14では、補正値記憶手段217に設定された補正情報に基づいて記録データの読み出し位置を変更し、S15により記録媒体に画像を記録する。
次に、S11のテストパターンの作成、及びS12の光学特性測定による傾きずれに関する情報の検出について説明する。ここでは、傾きずれに関する情報としてインク吐出口列141の上流側の3個のインク吐出口13から形成されるドットと下流側の3個のインク吐出口13から形成されるドットの主走査方向に対するずれ量を検出する。
図14には、S11で記録媒体12に形成されたテストパターンの一例を図示しており、テストパターンは例えば7つのテストパッチ401〜407から成る。ここで、各テストパッチを作成する手順について図34を用いて説明する。まず1回目の記録ヘッドの走査で、上流側3個のインク吐出口を用いて副走査方向3ドット×主走査方向4ドットの画像411を走査方向に4ドット分の間隔を空けて2つ記録する(同図(A))。その後、記録媒体12を搬送し、2回目の記録ヘッドの走査で、1回目の走査で間隔を空けた副走査方向3ドット×走査方向4ドット分の領域に下流側3個のインク吐出口を用いて画像412を記録する。なお、テストパッチの作成の際、1回目と2回目の走査を異なる走査方向で記録すると、この走査方向の違いによってドットの形成位置にずれが生じることがあるため、1回目と2回目を同一方向の走査で記録することが望ましい。ここでは、1回目と2回目の走査をともに図面の左から右へと記録ヘッドを走査させて記録している(片方向記録)。
7つのテストパッチのうち基準のテストパッチ404は、1回目の走査で間隔を空けた領域をちょうど埋めるように2回目の走査で画像を記録する。一方、テストパッチ405、406、407は、2回目の走査で下流側のインク吐出口13の駆動タイミングを遅らせて画像を記録する。つまり、下流側のインク吐出口で記録される画像が、1回目の走査で間隔を空けた領域から主走査方向の右方向に1/2画素、1画素、3/2画素ずれるように作成する。一方、テストパッチ403、402、401は、2回目の走査で下流側インク吐出口13の駆動タイミングを早めて画像を記録する。つまり、下流側のインク吐出口で記録される画像が、1回目の走査で間隔を空けた領域から主走査方向の左方向に1/2画素、1画素、3/2画素ずれるように作成する。
図15(A)、(B)は、傾きずれがある場合のテストパッチ404で得られる画像と、そのときのドット配列を示す図である。傾きずれがあると、同図(A)に示すようにテストパッチ404には黒スジ409および白スジ410が発生する。そして、黒スジ409と白スジ410に対応して、同図(B)のようにドットの重なった部分413とドットのない部分414が生じる。傾きずれがある場合は、図16で示すように上流側のドット408と下流側のドット415の間に主走査方向のずれLが存在する。テストパッチ404では、1回目の走査で間隔を空けた領域をちょうど埋めるように、2回目の走査で下流側インク吐出口13を用いて画像を記録している。そのため、図15(B)に示すように、1回目の走査による画像411と2回目の走査による画像412の間に重複部やドットの形成されていない空白部が発生して、図15(A)のような黒スジ409、白スジ410のあるテストパッチとなる。このように、傾きずれが発生すると基準のテストパッチ404には黒スジ及び白スジが発生してしまう。
次に、傾き量、ここでは上流側ドットと下流側ドットの主走査方向のずれ量の検出について説明する。なお、図17(A)で示すように、7つのテストパッチのうち“−2”のテストパッチ402が黒スジおよび白スジのない一様な記録濃度の記録デあるとして説明する。
テストパッチ402は、下流側のインク吐出口の駆動タイミングを早めて、1回目の走査で間隔を空けた領域から主走査方向左側に1画素ずれるように2回目の走査による画像412を記録した。そのため、傾きずれがなければ、間隔を空けた領域の左側では上流側ドット408と下流側ドット415が重なって黒スジが表れ、また右側では上流側ドットと下流側ドットが存在しない白スジが表れるはずである。しかし、傾きずれが発生しているために、図16で示すような上流側ドット408と下流側ドット415の間に主走査方向のずれLが発生している。そして、このずれLが下流側のインク吐出口13の駆動タイミングを早めた際にできるはずのドットの位置ずれを相殺して、一様な記録濃度のテストパッチとなる。このようにして、上流側ドット408と下流側ドット415の主走査方向のずれLがL=1画素であり、このような主走査方向のずれを有する時計回り方向の傾きずれが発生していることが検出できる。
以上のようにして、下流側のインク吐出口の駆動タイミングを遅らせて、または早めて作成したテストパッチの中から、一様な記録濃度の画像を選択することにより、傾きずれに関する情報としての主走査方向のドットずれ量を検出することができる。なお、S12では、これら7つのテストパッチについて、光学式センサを用いて反射光学濃度を測定している。そして、光学式センサを用いた光学測定で、反射光学濃度の高い出力値を得ることの出来たテストパッチを選択することにより、黒スジ、白スジがなく、ドット配置が一様なテストパッチを検出することができる。
また、ここでは、説明の簡略化のために、上述したようなテストパターンの作成及び傾きずれに関する情報の検出の構成を示した。つまり、上述の説明では、単純にドット配置が最も一様なテストパッチを光学センサにより選択し、そのテストパッチを形成した際の上流側のドットと下流側のドットの主走査方向のずれ量を元に傾きずれに関する情報として検出する構成としている。しかし、この構成に限らず、例えば各パッチの光学特性を測定し、反射光学濃度の最も高いテストパッチと2番目に高いテストパッチを選択し、この2つのテストパッチの反射光学濃度差を算出する。そして、この反射光学濃度差が所定値以上であれば反射光学濃度の最も高いテストパッチのずれ量をそのまま傾きずれに関する情報として採用し、所定値以下であれば最も高いテストパッチと2番目のテストパッチのずれ量の平均を採用するようにしても良い。またさらには、反射光学濃度の最も高いテストパッチの左右それぞれで、各テストパッチの光学特性のデータから直線近似や多項式近似によって近似直線または近似曲線を求める。そして、これら左右2つの直線または曲線の交点から傾きずれに関する情報を検出するようにしても良い。
なお、以降の説明では、“−2”のテストパッチ402が最も一様な画像として検出されたものとして、そのときの補正方法を説明する。
S13では、S12の光学特性の測定によって検出した主走査方向に対するドット配置のずれ量に応じて、傾きずれを補正するための補正情報を補正値記憶手段217に設定する。ここでは、グループ0からグループ7の各グループに対して、記録データの読み出し位置を変更する記録素子数(補正値)を対応づけた情報を補正情報としている。この補正情報は、図18に示すように補正値記憶手段217にテーブルで設定される。上述の構成で“−2”の傾きずれが生じた場合の補正情報によれば、基準となるグループ0に対して0、グループ1に対して2というような補正値が設定される。同様にして、グループ2に4、グループ3に6、グループ4に8、グループ5に10、グループ6に12、グループ7に14が補正値として設定される。
なお、補正情報の決定方法、つまり各グループに対する補正値の決定方法としては、傾きずれに関する情報に応じた複数のテーブル情報を予め保持しておく方法がある。また、基準のグループ0の補正値を0とし、傾きずれに関する情報からグループ7おける補正値を決定し、簡易計算によって中間に位置するグループの補正値を決定するようにしてもよい。
また、ここでは、補正値が0となる基準をグループ0としたが、基準となるグループ0以外のグループであってもよい。例えば、グループ4を基準とすれば、グループ0に−8、グループ1に−6、グループ2に−4、グループ3に−2がそれぞれの補正値として設定される。また、グループ5には2、グループ6には4、グループ7には6がそれぞれの補正値として設定される。
S14では、以上のようにして補正値記憶手段217に設定された補正情報に基づいて記録データの読み出し位置が変更される。そして、S15により、読出し位置の変更された記録データに基づいて記録媒体に画像が記録される。
図1は、グループ0からグループ7の記録素子に割り当てられるノズル番号、ブロック、記録データ、ドット配置を示す図である。同図において、記録データは各記録素子に割り当てられた1〜3カラム目の記録データを読み出すタイミングを示すものであり、ドット配置は傾きずれがない場合にこのタイミングで記録を行った場合に記録媒体に形成されるドット配置を模式的に示すものである。記録データの読み出し位置を変更した場合、傾きずれがなければ同図に示すドット配置となるが、後述するように、傾きずれによってそれぞれのドットが本来配置されるべきカラムに収まるようになる。
ここでは、同図における記録データの欄からもわかるように、各グループでブロック番号0の記録素子から補正値により指定された数の記録素子について、その記録データの読み出しを変更している。例えば、グループ1には補正値2が設定されており、ブロック0からブロック1までの記録データが本来の1〜3カラム目から2〜4カラム目のタイミングに読み出し位置が変更されている。同様にして、グループ2はブロック3まで、グループ3はブロック5まで、グループ4はブロック7までの記録データの読み出し位置が1カラム分オフセットされて2〜4カラム目に変更されている。同様にして、グループ5はブロック9まで、グループ6はブロック11まで、グループ7はブロック13までの記録データの読み出し位置が1カラム分オフセットされて2〜4カラム目に変更されている。
図2は、上述の傾きずれ補正により、記録媒体12に形成されるドットの配置を示したものである。図中の白抜きのドットは、傾きずれ補正を行わなかった場合に形成されるドットの位置を示したものである。図に示すように、傾きずれが発生すると本来配置されるカラムから外れて形成されるドットが発生する。“−2”の傾きずれが発生した場合、本来の位置から外れるドットの数は、グループ1でブロック0から1までの2個のドット、グループ2ではブロック0から3までの4個のドットというようにグループ番号に応じて増加していく。このように傾きずれが発生すると、記録ヘッドの一端から他端に向けて各グループで本来配置されるカラムから外れて形成されるドット数が変化するため、各グループでこのドット数に合わせてドット位置をオフセットさせるドットを決定する必要がある。
さらには、傾き量によって同じグループであっても、本来配置されるカラムから外れて形成されるドット数は変化する。つまり、同じグループに対しても、傾き量が大きいほど大きな補正値が設定され、記録データの読み出し位置がオフセットされる記録素子数は増大する。
そこで、ここでの傾きずれ補正では、記録素子に割り当てる記録データの読み出し位置を記録素子毎に主走査方向に変更可能な構成となっている。つまり、傾き量に合わせて、記録データの読み出し位置を変更するドットを決定することを可能としている。
例えば、“−2”の傾きずれでは、グループ2はブロック0から3までの4個のドットが本来の位置から外れて形成されてしまう。しかし、グループ2には補正値2が設定されており、ブロック0から3までの記録素子に割り当てる記録データの読み出し位置を1カラム分オフセットすることができる。このように、記録素子に割り当てる記録データの読み出し位置を記録素子毎に変更できるため、傾きずれの大きさに合わせて各グループで本来の位置から外れたドット位置を主走査方向にオフセットさせて補正することができる。
以上のように、傾きずれによって本来の位置から外れるドット数はグループによって異なっているが、グループ毎に補正値を設定し、補正値に応じた数の記録素子に対応する記録データの読み出し位置を変更することが可能となる。そのため、傾きずれに伴う画質の悪化を軽減することが可能となる。
なお、上述の説明では、本来配置されるカラムから外れて形成されるドットすべてを補正できる場合を示した。しかし、傾き量によっては、外れて形成されるドットのなかに補正できないドットが発生する場合もある。その場合には、補正可能なドット数が最大となるような補正値を設定して補正を行うようにすればよい。
以下に、この傾きずれ補正を実行するための装置構成の一例を示す。
図27は、第3のメモリ213から記録データの読み出しを行うタイミングを示したタイミング図である。なお、同図において、累計回数とは基準からの記録タイミング信号の個数を表した時間軸の指標である。また、転送回数カウンタ値は、先に説明したとおり、転送回数カウンタ216により記録タイミング信号毎にインクリメントされる値であり、0から15までカウントされるとまた0に戻る。さらに、トリガ信号の下の四角枠の中に記載されている番号は、そのタイミングで転送するブロック番号を示している。
ここで、薄いグレーに塗り潰されている四角枠は本来の1カラム目で記録されるべき記録データを示している。また、塗り潰し無しの四角枠は本来の2カラム目で記録されるべき記録データ、濃いグレーで塗り潰されているのは本来の3カラム目で記録されるべき記録データである。
“−2”の傾きずれの場合、補正値記憶手段217には、グループ0に0、グループ1に2、グループ2に4、グループ3に6、グループ4に8、グループ5に10、グループ6に12、グループ7に14が各グループの補正値として設定されている。図27を参照すると、補正値0の設定されているグループ0は、累計回数0から15までの間に1カラム目の記録データが記録される。また、補正値2が設定されているグループ1は、記録タイミングが累計回数2回分ずれて、累計回数2から17までの間に1カラム目の記録データが記録される。
次に、上述の傾きずれ補正において、記録データを生成する工程の説明を行う。
まず、データ選択回路215は、累計回数0から15のタイミングでは第3の記録メモリ213からBank0とBank2のデータの読み出しを行う。また、累計回数16から31までのタイミングではBank1とBank0のデータの読み出しを行う。また、累計回数32から47までのタイミングではBank2とBank1のデータの読み出しを行う。また、累計回数48から63までのタイミングではBank1とBank0のデータの読み出しを行う。このように、データ選択回路215は、累計回数に応じて、Bank0、1、2のうち2つからデータの読み出しを行う。
例えば、累計回数0ではBank0とBank2のデータの読み出しを行うため、ブロック0の記録データであるアドレス0の記録データ(Bank0)とアドレス20の記録データ(Bank2)の読み出しを行う(図27参照)。同様に、累計回数22のタイミングではBank1とBank0のデータの読み出しを行うため、ブロック6の記録データであるアドレス16(Bank1)とアドレス6の記録データ(Bank0)が読み出される。
図28は、累計回数22のタイミングにおいて、記録ヘッド11に転送される記録データ(転送用データ)の生成を模式的に示した模式図である。同図において、転送される記録データb0はグループ0の累計回数に対応するブロックの記録素子用データである。ここでは、転送するブロックが6であるためグループ0のブロック6の記録データ、つまり記録ヘッド11のseg6から記録されるデータに該当する。また、b7はグループ7のブロック6の記録素子用データ、つまり記録ヘッド11のseg118から記録されるデータとなる。
図39は、データ選択回路215における記録データの選択フロー図である。このフロー図を用いて、累計回数22のタイミングにおける転送用データの生成方法を説明する。
記録タイミング信号が入力されると(S301)、第3の記録メモリ213のBank1のアドレス16から記録データの読み出しを行い、内部の第1のラッチ手段(不示図)により一時的にデータを保持する(S302)。続いて、同様にBank0のアドレス6から記録データの読み出しを行い、第二のラッチ手段(不示図)に一時的にデータを保持する(S303)。
次に、グループ0の補正値と転送回数カウンタの値の比較を行う(S304)。そして、グループ0の補正値は0であり、転送回数6と比較すると0≦6の条件を満たしているので、アドレス16のb0のデータが第三のラッチ手段に保持される(S305)。
そして、同様の処理をグループ0からグループ7まで実行する。例えば、グループ4では、補正値が8、転送回数6であり、S304の条件を満たしていないため、アドレス6のb4のデータが第三のラッチ手段に保持される(S306)。以上のようにして、グループ0からグループ7まで処理を行うことで、転送用データb0からb7が出来上がる。
図28に戻ると、グループ0からグループ3までの転送用データb0からb3は累積回数22で本来記録されるべき記録データ、すなわち第2カラムの記録データとなっている。これに対し、グループ4から7までの転送用データb4からb7には、16タイミング前で記録されるべき第1カラムの記録データとなる。そして、生成された記録データは、データ転送CLK生成機218で生成されたHCLとともに、記録データ転送回路219によって記録ヘッド11に送信される。
図29は、別のタイミングである累計回数34のタイミングにおいて、記録ヘッド11に転送される記録データ(転送用データ)の生成を模式的に示した模式図である。なお、累計回数34のタイミングでは、第3の記録メモリ213からブロック2の記録データであるアドレス22とアドレス12の記録データが読み出される。
図39の記録データの選択フロー図により、グループ0からグループ7までの補正値と転送回数カウンタ値を比較すると、S304の補正値と転送回数との関係を満たすのは、グループ0と1となる。そのため、グループ0とグループ1の転送用データb0とb1にはアドレス21の記録データが選択され、グループ2からグループ7の転送用データにはアドレス11の記録データが選択される。
なお、第3の記録メモリ213から2Bnak分のデータを読み出し、それぞれを第1、第2のラッチ手段で保持を行ってからデータの選択を行い、選択したデータを転送用データとして第3のラッチを行っている。しかし、以上の制御と同等の制御を、1つのラッチ手段のみで行うことも可能である。
図26は、1つのラッチ手段のみで制御を行う場合のフロー図である。記録タイミング信号が入力後(S401)、第3の記録メモリ213のBank1のアドレス16から記録データを読み出す(S402)。そして、グループ0の補正値と転送回数カウンタの値の比較する(S403)。そして、グループ0の補正値は0であり、転送回数6を比較すると、0≦6の条件を満たしているので、アドレス16のb0のデータがラッチ手段に保持される(S404)。同様の処理がグループ1からグループ7まで行われ、S404では補正値≦転送回数カウンタ値のS403の条件を満たすグループのデータのみがラッチされる。
次に、第3の記録メモリ213のBank0のアドレス16から記録データの読み出しを行う(S405)。ここでは、S403で条件を満たさなかったグループのラッチを行う(S406)。つまり、補正値>転送回数カウンタ値の条件を満たすグループのデータがラッチされる。同様の処理がグループ0からグループ7まで行われることで、転送用データb0からb7が出来上がる。
同様の制御を累計回数22タイミングについてみると、S404ではアドレス13のb0からb3のデータのみがラッチされ、S406でアドレス3のb4からb7がラッチされる。
以上のように、第3の記録メモリ213から2Bank分のデータを読み出している。しかし、1カラム目ではBank0と1カラム前のデータとしてBank2の記録データの読み出しを行うが、記録開始直後のカラムであるため1カラム前のデータは存在しない。そこで、Bank2から読み出したデータは読み捨てを行い、1カラム目の記録動作では使用しない構成としている。同様に、4カラム目ではBank0と1カラム前データとしてBnak2の記録データの読み出しを行うが、記録終了のカラムであるため現カラムで記録するデータは存在しない。そこで、Bnak0から読み出したデータは読み捨てを行い、4カラム目の記録動作では使用しないようにしている。
以上のように、例えば上述の装置構成によって、記録素子に割り当てる記録データの読み出し位置を記録素子毎に主走査方向に変更となる。そして、傾き量とグループとによって異なる本来配置されるべきカラムから外れて形成されるドット数に合わせて、記録データの読み出し位置を変更するドットを決定する。そのため、傾きずれに伴う画質の悪化を軽減することが可能となる。
〔傾きずれに関する情報の手動検出〕
上述の説明では、傾きずれに関する情報として上流側、下流側のそれぞれ3個のインク吐出口13から形成されるドットの主走査方向に対するずれ量を光学式センサにより検出する構成を示した。しかし、この構成に限らず、光学式センサを搭載しないインクジェット記録装置の構成であっても構わない。その場合には、図14で示したよう7つのテストパッチの中から、ユーザーが目視によって黒スジ、白スジのない一様なテストパッチを選択する。そして、ユーザーが、選択したテストパッチの情報をPC等のホストに入力し、その情報がインクジェット記録装置へ転送されるような構成とすればよい。若しくは、ユーザーが、インクジェット記録装置に設けられた入力部から選択したテストパッチの情報を設定する構成とすればよい。
なお、インクジェット記録装置が光学式センサを搭載している構成でも、光学式センサが故障した場合を考慮し、光学センサを用いて検出するモード加え、上述のようなユーザーの目視によって傾きずれに関する情報を検出するモードを持っていてもよい。
〔反時計回り方向の傾きずれ補正〕
上述の説明では、記録ヘッドが時計回り方向に傾いた場合の傾きずれについて、その補正方法の説明を行ったが、記録ヘッドが反時計回り方向に傾いた場合についても当然適用できるものである。ここでは、上流側のドットに対して下流側のドットが主走査方向の左方向に1画素分のずれが生じたときの傾きずれ(“+2”)について説明を行う。なお、既に説明した構成については省略する。
この傾きずれ補正では、補正値記憶手段217に、グループ0に対して14、グループ1に対して12、グループ2に対して10、グループ3に対して8が補正値として設定される。同様に、グループ4に対して6、グループ5に対して4、グループ6に対して2、グループ7に対して0が補正値として設定される。
図19は、グループ0からグループ7の記録素子に割り当てられるノズル番号、駆動順番、記録データ、ドット配置を示す図である。各グループで吐出順番の早い記録素子から、補正情報により指定された数の記録素子に割り当てられる記録データの読み出し位置がオフセットされる。つまり、グループ0がブロック0から13まで、グループ1はブロック0から11まで、グループ2はブロック0から9まで、グループ3はブロック0から7までの記録素子に割り当てられる記録データが2カラム目から4カラム目に変更される。同様に、グループ4はブロック5まで、グループ5はブロック3まで、グループ6はブロック1までの記録素子に割り当てられる記録データが2カラム目から4カラム目に変更される。
図20は、図19に示す傾きずれ補正を行った際、記録媒体上に形成されるドットの配置を示したものである。このようにして、反時計回り方向の傾きずれ補正においても、グループ毎に補正値を設定し、補正値に応じた数の記録素子に対応する記録データの読み出し位置を変更することが可能となる。そのため、反時計回り方向の傾きずれであっても、傾きずれに伴う画質の悪化を軽減することが可能となる。
〔分散駆動における傾きずれ補正〕
インクジェット記録方法では、記録素子にヒータやピエゾ素子を用いてインクにエネルギーを与え、インク滴を吐出して画像を記録する。これらのインクジェット記録方法では、あるインク吐出口からインク滴を吐出する際、隣接するインク吐出口のノズル部は圧力波等の影響を受け、隣接するインク吐出口からのインク吐出が不安定になる、いわゆるクロストークと呼ばれる現象が生じる。そのため、隣接するインク吐出口から連続してインク滴を吐出させないように、離散した位置の記録素子を駆動していく順序の時分割駆動方式(分散駆動)が望ましい。
この傾きずれ補正では、補正値記憶手段217に、グループ0に対して0、グループ1に対して2、グループ2に対して4、グループ3に対して6が各グループの補正値として設定される。同様に、グループ4に対して8、グループ5に対して10、グループ6に対して12、グループ7に対して14が各グループの補正値として設定される。
図21、22は、隣接する2つのインク吐出口から連続してインク滴を吐出させないような駆動順で記録を行う際、そのときの傾きずれ補正を説明する図である。図21は、各グループの記録素子に割り当てられる、ノズル番号、駆動順番、記録データ、ドット配置を示す図である。図22は、図21に示す傾きずれ補正を行った際、記録媒体上に形成されるドットの配置を示したものである。
分散駆動の構成では、ブロック番号の順に駆動する構成とは駆動順序が異なっているため、記録データの読み出し位置を変更する記録素子が異なる。しかし、この場合にも、各グループで吐出順番の早い記録素子から補正値により指定された数の記録素子に割り当てられる記録データの読み出し位置がオフセットされる。
図22からもわかるように、分散駆動の構成に対してもグループ毎に補正値を設定し、補正値に応じた数の記録素子に対応する記録データの読み出し位置を変更することが可能となる。そして、グループごとに本来配置すべきカラム領域から外れた位置のドットだけを主走査方向にオフセットして、傾きずれに伴う画質の悪化を軽減することが可能となる。
〔1カラム未満の傾きずれ補正〕
上流側ドットと下流側ドットの主走査方向のずれ量が1カラムよりも小さい傾きずれの補正方法について、上流側のドットに対して下流側のドットが主走査方向の右方向に1/2画素分ずれたときの傾きずれ(“−1”)を例に説明を行う。
この“−1”の傾きずれ補正では、補正値記憶手段217に、グループ0に対して0、グループ1に対して1、グループ2に対して2、グループ3に対して3に対して7が補正値として設定される。同様に、グループ4に対して4、グループ5に対して4、グループ6に対して6、グループ7に対して7が補正値として設定される。そして、各グループで吐出順番の早い記録素子から、補正値により指定された数の記録素子に割り当てられる記録データの読み出し位置がオフセットされる。つまり、グループ1はブロック0まで、グループ2はブロック1まで、グループ3はブロック2までの記録素子に割り当てられる記録データが2カラム目から4カラム目に変更される。同様に、グループ4はブロック3まで、グループ5はブロック4まで、グループ6はブロック5まで、グループ7がブロック6までの記録素子に割り当てられる記録データが2カラム目から4カラム目に変更される。
このように、傾き量が小さくなれば、各グループで記録データの読み出し位置がオフセットされる記録素子数を少なくなる。そして、各グループ毎に傾き量に合わせた補正値を設定することにより、1カラム未満の傾きずれを補正することが可能となる。
〔記録データの格納位置変更による傾きずれ補正〕
上述の説明では、第3の記録メモリ213から補正値により指定された記録素子の記録データの読み出し位置を主走査方向に変更して、傾きずれの補正を行った。しかし、傾きずれに関する情報に基づき、第3の記録メモリから別の記録メモリへ記録データの格納位置を変更するようにしても良い。つまり、各グループとに補正値に応じた数のドットが主走査方向にオフセットされるように別に設けた記録メモリに格納位置を変更し、この記録メモリから記録データを従来どおり読み出して記録を行うようにしても、傾きずれ補正は実現できる。
(第1の実施形態)
以上説明してきたように、上述の構成によって、傾きずれに伴う画質の悪化を軽減することが可能となる。しかしながら、上述のテストパターンから取得できる傾き量、つまり上流側のインク吐出口から形成されたドットと下流側のインク吐出口から形成されたドットとの主走査方向のずれ量が記録ヘッドの往走査と復走査とで異なる場合が存在する。この問題は、例えば、キャリッジシャフトのたわみ等によって記録ヘッドのインク吐出口面と記録媒体との相対的な距離が副走査方向において異なることにより生じる。以上の理由から、記録ヘッドの往方向の走査と復方向の走査とで異なる補正情報を用いて傾きずれ補正を実施することが望ましい。そこで、本実施形態では、記録ヘッドの往方向走査及び復方向走査により記録を行う構成において、往方向走査と復方向走査とで異なる補正情報により傾きずれ補正を実施することを特徴とする。
まず、上流側のインク吐出口から形成されたドットと下流側のインク吐出口から形成されたドットとの主走査方向のずれ量が記録ヘッドの往走査と復走査とで異なる問題について説明する。
図23には、記録部の副走査方向に対する断面図を示す。図23(a)は、キャリッジ105と記録媒体12との距離が副走査方向において一定である状態を示している。同図において、104はキャリッジ軸、151は下流側プラテン、152は上流側プラテンを示す。また、キャリッジレール153はインクジェット記録装置に固定されて、キャリッジ軸104とともにキャリッジ105を主走査方向に案内する役割を果たす。この状態は、記録ヘッド11の上流側のノズルと下流側ノズルで記録ヘッドから記録媒体12までの距離が一定である。図24(a)は、傾きずれがない場合に、この状態で記録媒体上に記録されるドットの配置を示す図である。同図に示されるように、上流側ノズルによるドットと下流側ノズルによるドットは、主走査方向にずれることなく記録媒体上に配置される。
図23(b)には、記録ヘッド11の上流側のノズルと下流側ノズルで記録ヘッドから記録媒体12までの距離が異なる場合として、下流側プラテン151が上流側プラテン152に対して高い位置に配置された状態を示す。この状態では、下流側ノズルから吐出されたインクが記録媒体に到達するまでの時間は、上流側ノズルから吐出されたインクが記録媒体に到達するまでの時間よりも短くなる。よって、キャリッジ105が往方向に走査する際は、図24(b)のように下流側ノズルにより記録されるドットは本来記録すべき画素に記録されるが、上流側ノズルにより記録されるドットは本来記録すべき画素からキャリッジ105の進行方向にずれて記録される。また、キャリッジ105が復方向に走査する際も、図24(c)のように下流側ノズルにより形成されるドットは本来記録すべき画素に記録されるが、上流側ノズルにより記録されるドットは本来記録すべき画素列からキャリッジの進行方向にずれて記録される。
ここで、仮に下流側ノズルで記録したドットを基準として、上流側ノズルで記録したドットが往走査の進行方向にずれている場合を+、上流側ノズルで記録したドットが往走査の進行方向とは逆向きにずれている場合を−とする。そうすると、往走査で記録したときの相対的なずれ量は+になり、復走査で記録したときの相対的なずれ量は−になる。このように、記録ヘッドから記録媒体までの距離が上流側ノズルと下流側ノズルとで異なる場合、下流側ノズルにより形成されるドットに対する上流側ノズルによって形成されるドットの相対的なずれ量は主走査方向における往走査と復走査の間で異なることになる。
図24(c)は、キャリッジレール153にたわみが発生して、主走査方向の両端部では点線で示される本来の位置に配置されているのに対し、中央部では本来の位置より副走査方向に突き出て配置されている状態を示している。同図において、キャリッジ105が副走査方向に傾き、記録ヘッドから記録媒体までの距離が上流側ノズルと下流側ノズルとで異なっている。この場合もまた、下流側ノズルにより形成されるドットに対する上流側ノズルによって形成されるドットの相対的なずれ量は、主走査方向における往走査と復走査の間で異なることになる。
またさらに、キャリッジ軸104とキャリッジ105の軸穴との間にはクリアランスが設けられている。そのため、キャリッジ105に対して主走査方向の駆動力が加えられると、キャリッジ105は移動方向の逆向きに傾いて移動してしまい、下流側ノズルによるドットと上流側ノズルによるドットとの相対的なずれ量が往走査と復走査の間で異なる場合がある。
以上の説明のように、上流側のインク吐出口から形成されたドットと下流側のインク吐出口から形成されたドットとの主走査方向の相対的なずれ量が往走査と復走査とで異なる場合が存在する。そこで、本実施形態では、記録ヘッドの往方向走査及び復方向走査により記録を行う構成において、往方向走査と復方向走査とで異なる補正情報により傾きずれ補正を実行する。なお、以降の説明では、既に説明した構成についてはその説明を省略し、上述の構成との差の部分を中心に説明を行う。
図25は、本実施形態において、傾きずれに関する情報を取得するためのテストパターンの一例を示した図である。同図に示すように、本実施形態のテストパターンは上段の7個のテストパッチ501〜507と下段の7個のテストパッチ508〜514とを作成する。テストパッチの作成の手順は、まず下段の7個のテストパッチを2回の往方向の走査により作成し、記録媒体を搬送したのち上段の7個のテストパッチを2回の復方向の走査により作成する。つまり、下段のテストパッチ508〜514より往方向記録時における傾きずれの補正情報が得られ、上段のテストパッチ501〜507より復方向記録時における傾きずれの補正情報が得られる。
なお、上段及び下段の7つのテストパッチの作成方法、往方向記録時及び復方向記録時の傾きずれの情報を取得する手順は既に説明したとおりである。ここでは、下段のテストパッチの組では“−2”のテストパッチ409が、上段のテストパッチの組では“−1”のテストパッチ403が一様な記録濃度の画像として検出されたものとして説明を続ける。
そして、テストパターンから検出された傾きずれに関する情報は、補正値記憶手段217にテーブルで設定される。“−2”の傾きずれが検出された往方向記録時の補正情報は図18に示すとおりであり、“−1”の傾きずれが検出された復方向記録時の補正情報についても往方向記録時の補正情報と同様にしてテーブルの形で設定可能である。
そして、“−2”の傾きずれが生じた往方向記録では、補正情報として、基準となるグループ0に対して0、グループ1に対して2というような補正値が設定される。また、グループ2に4、グループ3に6、グループ4に8、グループ5に10、グループ6に12、グループ7に14が補正値として設定される。一方、“−1”の傾きずれが生じた復方向記録時の補正情報としては、基準となるグループ0に対して0、グループ1に対して1が補正値として設定される。また、グループ2に2、グループ3に3、グループ4に4、グループ5に5、グループ6に6、グループ7に7が補正値として設定される。
そして、各グループで吐出順番の早い記録素子から、補正情報により指定された数の記録素子に割り当てられる記録データの読み出し位置がオフセットされる。なお、ここでは、記録ヘッドの各記録素子は0→1→2→・・・→15の順序で駆動されているものとする。つまり、往方向記録時では、グループ1には補正値2が設定されており、ブロック0からブロック1までの記録データが本来の1〜3カラム目から2〜4カラム目のタイミングに読み出し位置が変更される。同様にして、グループ2はブロック3まで、グループ3はブロック5まで、グループ4はブロック7までの記録データの読み出し位置が1カラム分オフセットされて2〜4カラム目に変更される。同様にして、グループ5はブロック9まで、グループ6はブロック11まで、グループ7はブロック13までの記録データの読み出し位置が1カラム分オフセットされて2〜4カラム目に変更される。
また、復方向記録時も往方向記録と同様にして、各グループで吐出順番の早い記録素子から補正情報により指定された数の記録素子に割り当てられる記録データの読み出し位置がオフセットされる。ただし、復方向記録時は、復方向記録時と逆の駆動順序、つまりブロック15→14→13→・・・→0の駆動順序で駆動される。そのため、データ選択回路215は記録タイミング信号をトリガに、ブロック駆動順データメモリ214のアドレス15からアドレス14、・・・、アドレス0の順にブロックイネーブル信号として各ブロックデータを読み出す。以上のことから、“−1”の傾きずれが生じた復方向記録では、グループ1はブロック0まで、グループ2はブロック1まで、グループ3はブロック2までの記録素子に割り当てられる記録データが2カラム目から4カラム目に変更される。同様に、グループ4はブロック3まで、グループ5はブロック4まで、グループ6はブロック5まで、グループ7がブロック6までの記録素子に割り当てられる記録データが2カラム目から4カラム目に変更される。
以上のように、往方向走査と復方向走査とで異なる補正情報により傾きずれ補正を行うことで、上流側ノズルによるドットとの相対的なずれ量が往走査と復走査の間で異なる場合にも、それぞれの走査における傾きずれ量に合わせた補正を行うことができる。なお、上述した分散駆動の構成等においても、往方向走査と復方向走査とで異なる補正情報により傾きずれ補正を行うことが可能である。