JP5023477B2 - ステンレス熱延鋼帯の酸洗方法及びステンレス熱延鋼帯 - Google Patents
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それとは別に、近年、ステンレス熱延鋼帯の酸洗に際し、硫酸や混酸ではなく、普通鋼と同じ塩酸を用いて酸洗することで、普通鋼と同じ酸洗ラインを共用できないか、という試みも行われている。塩酸の場合、表面の白色度、光沢度、あるいは、耐食性は著しく劣るが、これらの特性が要求されない、機能品を対象にすれば、塩酸による酸洗でも十分であるからである。
ショットブラスト処理の目的は、ステンレス熱延鋼帯の表層に付着している酸化物のスケールに、酸洗するのに先立って、予めクラックを入れることであり、これにより、硫酸槽、混酸槽などでの酸洗の際に、スケール中のクラックに酸を浸透させ、地鉄とスケールの界面からスケールを剥離、除去する作用を促進する、というのが、ショットブラスト処理を併用した、ステンレス熱延鋼帯の酸洗による脱スケールのメカニズムである。
ところで、普通鋼の熱延鋼帯(JIS G 3131)を脱スケールする場合も、ショットブラスト処理を行う場合があるが、これは、スケールを機械的に破壊して除去する作用による。
普通鋼の場合、ステンレス鋼に比べ、スケールが緻密でなく、脱スケールは比較的容易である。このため、ショットブラスト処理により、スケールを機械的に破壊して除去することができ、ほぼ全量を除去することも可能である。
ステンレス熱延鋼帯のショットブラスト処理では、普通鋼のように全量のスケールを機械的に破壊、除去することは困難であるため、緻密な酸化スケールにクラックを入れることに主眼を置く。
しかしながら、ショットブラスト処理を行った場合、ショット粒がステンレス熱延鋼帯に衝突した際、同鋼帯表層に微小な凹み(以下、ショット痕)が多数形成されるため、その影響が酸洗後にも残存し、酸洗後のステンレス熱延鋼帯の表面粗さが粗くなる原因となっている。さらには、ショット痕は、その後、冷間圧延が行われるような場合、オイルピットとなり、冷延鋼帯の光沢度低下の原因となる。
また、特許文献3には、熱間仕上圧延終了後、巻取りまでの間に、高圧水による脱スケールを施し、スケール厚を薄くする方法が記載されている。後述するように、ショットブラスト処理では、ショット粒の投射速度を低速にすることにより、脱スケール性は低下し、酸洗後のステンレス熱延鋼帯の表面粗さは細かくなるが、上記特許文献3に記載の方法では、スケール厚が薄いため、ショット粒を従来より低速で投射した場合でも、脱スケール性を低下させることなく表面粗さを細かくすることができる。
しかしながら、こうした対策を採った場合、スケールにクラックが入り難くなり、酸洗の際の脱スケール促進が十分でなくなる。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[請求項2] フェライト系またはマルテンサイト系ステンレス熱延鋼帯に、平均粒径が0.05mm以上0.30mm未満のショット粒を投射速度45〜100m/sec、投射密度30〜200kg/m 2 で投射して、鋼帯表面の酸化スケールにクラックを入れるショットブラスト処理を行った後、硫酸にて酸洗し、しかる後、硝酸と弗酸の混酸にて酸洗してクラックに酸を浸透させて酸化スケールを剥離除去し、脱Cr層を溶解除去することを特徴とするステンレス熱延鋼帯の酸洗方法。
第1の課題を解決する発明を完成するに至った実験1について述べる。実験には、熱間圧延後、箱型の焼鈍炉にて焼鈍したSUS430熱延鋼帯より切り出した、4mm厚×50mm幅×50mm長さのサンプルを用いた。SUS430の化学成分は表1に示す通りである。
さらに、SAE911規格で規定されるPPIを測定した。PPIとは、1インチ当たりの凹凸のピーク数であり、PPIが大きいということは、表面のミクロ的な凹凸の中で短周期の凹凸が多いということを意味する。
図2に、ショットブラスト処理での脱スケール量、酸洗による脱スケール量に及ぼすショット粒の平均粒径の影響を示す。なお、SUS430鋼の場合、スケール、及び、脱Cr層除去の観点から、例えば、スケールの厚みを6μm、密度を5500kg/m3、脱Cr層の厚みを6μm、密度を7800kg/m3と仮定すると、この両者を除去するため、酸洗工程(ショットブラスト工程を含む)の際に必要な脱スケール量は80g/m2以上である。ショット粒の平均粒径が小さい方が、ショットブラスト処理による脱スケール量はやや少ない。ただし、全脱スケール量に対するショットブラスト処理による脱スケール量の割合は小さく、10〜12%である。
なお、比較のために、ショットブラスト処理を行わない場合の例も示すが、スケールにクラックが入っていないため、酸洗でほとんど脱スケールできていないことが分かる。
このように、従来に比べ、粒径の小さいショット粒を用いた場合、ショットブラスト処理による脱スケール量はやや少なくなるものの、酸洗での脱スケール量は、従来のショット粒を用いた場合と同程度かあるいはそれ以上になる。このため、酸洗ラインでの生産性を低下させることなく、表面粗さを細かくすることができる。
しかしながら、ステンレス熱延鋼帯の酸洗においては、酸洗での脱スケール量の割合が大きい。ショット粒の平均粒径を小さくすると、上述のように、ショットブラスト処理そのものによる脱スケール量はやや少なくなるものの、酸洗での脱スケールは従来以上に促進できる。このため、ショットブラスト処理による脱スケールと酸洗での脱スケールの合計で考えると、従来のショット粒の平均粒径の場合と同程度以上の酸洗能率を確保できることを、本発明では見出したのである。
ステンレス熱延鋼帯の脱スケールでは、同鋼帯を酸洗槽中に満たした酸に浸漬した際に、スケール中のクラックに酸が浸透し、地金とスケールの界面を含む部分を溶解して分離することにより、スケールを剥離、除去する効果が大きい。このため、スケール中に多数のクラックを入れることが、酸の浸透に有効なのである。
第2の課題を解決する発明を完成させるに至った実験2について述べる。実験は、実験1同様の手順で実施した。表3にショットブラスト条件を示す。ショット粒には、平均粒径0.4mm、0.25mm、0.2mm、0.05mmの4種を用いた。実験1同様に、ショットブラスト処理、酸洗処理の際の脱スケール量の測定、表面性状の評価(Ra、PPIの測定)を実施した。
また、表3にも示すように、ショットブラスト処理による脱スケール量を大きくするためには、投射速度、投射密度を大きくすることが有効であるが、この場合、表面粗さも大きくなり、好ましくない。
以下に、ステンレス熱延鋼帯を酸洗する際の、脱スケール、及び、脱Cr層の溶解について、より定量的、かつ、詳細な調査を実施した。
一方、本発明例である、ショット粒の平均粒径が0.20mmの場合、スケール残りの有無は、脱スケール量合計が21g/m2を境として決まり、ショット粒の平均粒径が小さい方が、少ない脱スケール量合計でもスケール残りが生じないようにできることがわかった。
以下に、ショット粒の平均粒径が小さい場合に脱スケールが促進するメカニズムについて説明する。
これは、ショット粒の平均粒径が大きいと、ショットブラスト後の鋼板表面が粗くなり、ショット粒が衝突した部分と衝突しなかった部分の差が大きくなることが原因であると考えられる。
これは、ショット粒の平均粒径が小さいと、鋼板表面全体に均一にショット粒が衝突し、ショットブラスト後の鋼板表面が均一にならされるためと考えられる(このことは、鋼板表面のPPIの値が大きくなることに相当する)。例えば、ショット粒の平均粒径が半分になると、同一投射重量で比較すると、ショット粒の個数は8倍になるため、鋼板表面に衝突するショット粒の個数が著しく増大するのである。
次に、脱Cr層の溶解について示す。実験には、実験1同様の表1に示す化学組成のSUS430サンプルを用いた。SUS430は、表面の白色度、耐食性が要求される場合が多い。実験1同様の遠心投射機を用い、表6に示す各条件でショットブラスト処理を施した。ショット粒には、平均粒径0.45mm、0.28mm、0.18mmの3種を用いた。その後、(20mass%、80℃の硫酸にて40sec)+(15mass%硝酸+3mass%弗酸、80℃の混酸にて20sec)の酸洗、あるいは、(20mass%、80℃の硫酸にて60sec)+(15mass%硝酸+3mass%弗酸、80℃の混酸にて30sec)の酸洗を施した。ショットブラスト前後の重量測定、酸洗前後の重量測定により、それぞれの脱スケール量を求めた。
本発明において、ショット粒の平均粒径を0.30mm未満に限定したのは、ショット粒の平均粒径が0.30mm以上の場合、酸洗後のステンレス熱延鋼帯の表面粗さを細かくする作用が顕著に現れないからである。さらに、酸による溶解が深さ方向に均一に進行する作用が顕著に得られず、生産性の向上などに有効でないためである。
ショットブラスト処理後、酸洗する際の酸の種類であるが、表面の白色度、光沢度、あるいは、耐食性が要求される場合、硫酸と混酸(硝酸+弗酸)を用いるのが好ましい。そうでない場合、硫酸のみ、あるいは、硫酸と硝酸でも良い。あるいは、普通鋼の酸洗ラインとの共用を考慮した場合、塩酸を用いても良い。以上のように、本発明は、ショットブラスト処理後の酸洗の際の酸の種類を特に限定するものではない。
ショット粒の投射密度を30kg/m2以上に限定したのは、投射密度が30kg/m2未満の場合、脱スケール量を十分に確保できず、生産性を維持、さらには、生産性を向上することができないからである。なお、投射密度の上限は、通帯速度やショット粒の投射重量から、200kg/m2を上限とする。
なぜなら、PPIが大きいほど、スケールへのショット粒の衝突が多いこと、すなわち、スケールに入ったクラックの数が多いことを意味し、ショット粒の平均粒径が0.05mm以上0.30mm未満の場合、ステンレス熱延鋼帯表層のスケールに、多くのクラックを入れ、酸洗での脱スケール、脱Cr層溶解を促進するためには、180以上のPPIが必要であり、PPIが180未満では、クラックの数が十分でなく、酸洗での脱スケール、脱Cr層溶解の促進が十分に促進できないからである。また、PPIを300以下に限定したのは、本発明の方法で、300を超えるPPIを得ることは困難だからである。
なお、図7に示した酸洗ライン100は、一般的な酸洗ラインを示したものであり、本実施例では、それを用いて酸洗したが、本発明は、これに限らず、焼鈍ライン、圧延ラインと連続した酸洗ラインにて実施しても良い。また、ショットブラストラインと酸洗ラインがそれぞれ独立のラインであっても良い。
得られた酸洗後のステンレス熱延鋼帯について、長手方向全長の表裏面について、スケール残りの有無を確認した。また、スケール残りのなかったステンレス熱延鋼帯については、同鋼帯表面の長手方向中央部、幅方向中央部より採取したサンプルについて、前述同様のRa、PPIの測定、及び、耐食性の評価を行った。さらに、ステンレス冷延鋼帯については、同鋼帯表面の長手方向中央部、幅方向中央部からサンプルを採取し、JIS Z 8741に準拠して同鋼帯の光沢度(GS45゜)を測定した。
図8に従来例であるNo.22、及び、本発明例であるNo.24の熱延鋼帯表面の3次元的な粗さのようすを示す。これより、本発明例では、従来例に比べ、表面粗さが格段に細かく、また、PPIが大きいことが分かる。
得られた結果を表8に併せて示す。
ショットブラストラインには、OP(オペレータ)側上面、DR(ドライブ)側上面、OP側下面、DR側下面にそれぞれ2台の遠心式投射装置を備えており、それぞれ1000kg/minの投射量とした。投射速度は70m/sec、投射距離は1200mmとした。また、ショット粒には、平均粒径0.50mm、及び、0.20mmのスチール製ショット粒を用いた。
2 溶接機
3 入側ルーパー
4 ショットブラスト設備
5 酸洗槽
6 出側ルーパー
7 巻取り機
10 サンプル
11 マスキング
12 断面プロフィール測定方向
100 ステンレス熱延鋼帯の酸洗ライン
Claims (4)
- フェライト系またはマルテンサイト系ステンレス熱延鋼帯に、平均粒径が0.05mm以上0.30mm未満のショット粒を投射速度45〜100m/sec、投射密度30〜200kg/m 2 で投射して、鋼帯表面の酸化スケールにクラックを入れるショットブラスト処理を行った後、酸にて酸洗して前記クラックに前記酸を浸透させて前記酸化スケールを剥離除去し、脱Cr層を溶解除去することを特徴とするステンレス熱延鋼帯の酸洗方法。
- フェライト系またはマルテンサイト系ステンレス熱延鋼帯に、平均粒径が0.05mm以上0.30mm未満のショット粒を投射速度45〜100m/sec、投射密度30〜200kg/m 2 で投射して、鋼帯表面の酸化スケールにクラックを入れるショットブラスト処理を行った後、硫酸にて酸洗し、しかる後、硝酸と弗酸の混酸にて酸洗して前記クラックに前記酸を浸透させて前記酸化スケールを剥離除去し、脱Cr層を溶解除去することを特徴とするステンレス熱延鋼帯の酸洗方法。
- フェライト系またはマルテンサイト系ステンレス熱延鋼帯に、平均粒径が0.05mm以上0.30mm未満のショット粒を投射速度45〜100m/sec、投射密度30〜200kg/m 2 で投射して、鋼帯表面の酸化スケールにクラックを入れるショットブラスト処理を行った後、塩酸にて酸洗して前記クラックに前記酸を浸透させて前記酸化スケールを剥離除去し、脱Cr層を溶解除去することを特徴とするステンレス熱延鋼帯の酸洗方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の方法で酸洗されたことを特徴とする表面粗さRaが1.0μm以上2.0μm以下、PPIが180以上300以下のステンレス熱延鋼帯。
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