図1は、実施例に係る電磁アクチュエータを備えた変速装置の要部詳細図である。なお、以下の説明では、軸線方向とは、どの軸線かを記載していない場合、後述する変速装置1の入力軸5や出力軸6が回転をする際に回転の中心となる軸である中心軸7に平行な方向をいう。また、同様な場合における径方向とは、中心軸7と直交する方向をいい、周方向とは、中心軸7が中心となる円周方向をいう。実施例に係る電磁式作動装置である電磁アクチュエータ40は、車両(図示省略)に搭載された変速装置1に設けられている。この変速装置1には、当該変速装置1と同様に車両に搭載されたエンジン(図示省略)と発電機(図示省略)とが接続されており、変速装置1は、エンジンからの動力が入力される入力軸5と、入力軸5に入力された動力を分割する動力分割機構10と、動力分割機構10で分割された動力の一部を出力する出力軸6とが設けられている。また、動力分割機構10で分割された動力の一部は発電機に伝達される。また、変速装置1の出力軸6はモータ(図示省略)に接続されている。
このように設けられる変速装置1が有する動力分割機構10は、第1遊星歯車機構11と第2遊星歯車機構21とを有しており、第1遊星歯車機構11は、互いに同軸的に配置されたサンギア12及びリングギア14と、これらのギアの間に介在する複数のプラネタリギア13と、プラネタリギア13を回転自在に支持するプラネタリキャリア15とを有している。同様に、第2遊星歯車機構21は、互いに同軸的に配置されたサンギア22及びリングギア24と、これらのギアの間に介在する複数のプラネタリギア23と、プラネタリギア23を回転自在に支持するプラネタリキャリア25とを有している。入力軸5は、これらのように設けられる第1遊星歯車機構11と第2遊星歯車機構21とのうち、第1遊星歯車機構11のプラネタリキャリア15と一体回転可能に接続されている。また、変速装置1に接続される発電機は、この動力分割機構10に接続されており、発電機の駆動軸18は入力軸5と同軸の中空状に形成され、且つ、第1遊星歯車機構11のサンギア12と一体回転可能に接続されている。
また、第1遊星歯車機構11のリングギア14は第2遊星歯車機構21のプラネタリキャリア25と一体回転可能に接続され、さらに、第2遊星歯車機構21のプラネタリキャリア25は、出力軸6と一体回転可能に接続されている。また、第2遊星歯車機構21のリングギア24は連結部材26を介して第1遊星歯車機構11のプラネタリキャリア15と一体回転可能に接続されている。さらに、第2遊星歯車機構21のサンギア22は、出力軸6の外周に相対回転可能に配設されている。このように設けられるサンギア22の軸端部には、クラッチホイール35が一体回転可能に設けられており、クラッチホイール35の外周には、クラッチホイール35の歯部であるクラッチ歯36が複数形成されている。また、電磁アクチュエータ40は、動力分割機構10の外周に設けられている。これらの動力分割機構10や電磁アクチュエータ40は、変速装置1のハウジング3に内設されている。
図2は、電磁アクチュエータの詳細図である。電磁アクチュエータ40は、電磁駆動部41と操作部90とを備えている。電磁駆動部41は、フロントカバー45と、フロントカバー45の内部に収容されたアウターヨーク55と、アウターヨーク55の内部に収容された電磁コイル50と、アウターヨーク55の一端部に固定されたインナーヨーク60と、アウターヨーク55の内周に嵌め合わされた駆動対象としてのプランジャ70と、プランジャ70の内周に嵌め合わされたスリーブ80とを備えている。電磁駆動部41の外周において、フロントカバー45とアウターヨーク55、及びアウターヨーク55とインナーヨーク60は、それらの全周に亘って互いに密着しており、これにより、フロントカバー45、アウターヨーク55及びインナーヨーク60は、実質的に電磁駆動部41の外周側のハウジングを形成する。また、アウターヨーク55、インナーヨーク60及びプランジャ70は、磁性材料により構成されている。
また、アウターヨーク55の内周面56は、円筒面状に設けられており、アウターヨーク55の内周に嵌め合わされたプランジャ70の外周面71も、円筒面状に設けられている。これにより、プランジャ70は、アウターヨーク55に対して相対的に内周面56の軸方向に移動可能になっている。即ち、プランジャ70は、アウターヨーク55の内周面56に沿って軸線方向に移動可能になっている。
このように設けられるプランジャ70の、インナーヨーク60側の先端部の内周には、プランジャ70の軸線方向においてインナーヨーク60から離れるに従って内径が減少する形状で形成されたテーパ部72が設けられている。また、テーパ部72におけるインナーヨーク60から離れている側の端部には、プランジャ70の移動方向と直交する面、即ち軸線方向と直交する面で形成されたストッパ面73が設けられている。
これに対し、インナーヨーク60におけるプランジャ70に対向している側の面には、プランジャ70に向かって延びる筒状部61が設けられている。筒状部61の外周には、プランジャ70のテーパ部72と同一方向に傾斜した面で形成されたテーパ部62が設けられている。さらに、筒状部61におけるプランジャ70の方向の先端には、プランジャ70の移動方向と直交する面、即ち軸線方向と直交する面で形成されたストッパ面63が設けられている。
また、プランジャ70の軸線方向におけるインナーヨーク60側の端部の反対側に位置する端部には、内周方向側にリング状に突出する形状で形成されたスリーブ受け74が設けられている。また、スリーブ80は、フロントカバー45における内周側に円筒形状に設けられた円筒部46の外周に嵌め合わされる円筒部81を有している。また、インナーヨーク60の内周面64は円筒面状に形成されており、この内周面64は、スリーブ80の円筒部81の径方向における外方に位置している。これらのため、スリーブ80は、フロントカバー45及びインナーヨーク60に対して相対的に軸線方向に移動可能になっている。
また、スリーブ80には、円筒部81のインナーヨーク60側の先端から、インナーヨーク60におけるアウターヨーク55側の面の反対側に位置する面に沿って径方向外方側に伸ばされて形成されたフランジ部82が設けられている。このフランジ部82には、軸線方向におけるインナーヨーク60側の面の反対側に位置する面に、円柱形状の形状でインナーヨーク60から離れる方向に突出したばね保持部83が複数設けられている。
また、プランジャ70の内周には、軸線方向に亘って形成された溝である油溝75が複数形成されている。この油溝75は、プランジャ70の周方向に等間隔に配設されている。また、フロントカバー45には、当該フロントカバー45の円筒部46とスリーブ80との間をシールするOリング85が装着されており、インナーヨーク60には、当該インナーヨーク60の筒状部61とスリーブ80との間をシールするOリング86が装着されている。これらのOリング85、86により、電磁駆動部41は、外部、即ち第1遊星歯車機構11(図1参照)や第2遊星歯車機構21(図1参照)側に対してシールされている。シールされたフロントカバー45の内部の空間には、電磁駆動部41の可動部材であるプランジャ70及びスリーブ80の摩擦抵抗を減少させるための適量の潤滑油が封入されている。
また、操作部90には、リアカバー95と、リアカバー95の内周側に配設されるドグ100とを備えている。リアカバー95の内周には外側スプライン歯96が一体に形成され、ドグ100の外周には外側スプライン歯96と噛み合う内側スプライン歯101が形成されている。外側スプライン歯96及び内側スプライン歯101は、軸線方向に相対移動が可能に形成されている。
また、ドグ100の内周には、ドグ100の歯部であるドグ歯102が複数形成されている。このドグ歯102は、クラッチホイール35に形成されたクラッチ歯36と噛み合い可能に形成されており、且つ、クラッチ歯36に対して軸線方向に移動可能に設けられている。このように、ドグ歯102及びクラッチ歯36が設けられるドグ100とクラッチホイール35は、係合手段であるドグクラッチ30を構成している。即ち、ドグ100は、ドグクラッチ30の第1係合要素として設けられており、クラッチホイール35は、ドグクラッチ30の第2係合要素として設けられている。
また、ドグ100とスリーブ80の円筒部81との間には、止め輪105が設けられている。止め輪105は、ドグ100及びスリーブ80に対して周方向に相対的に滑ることができるように設けられている。これにより、ドグ100とスリーブ80とは、軸線方向に相対移動不能、且つ、周方向には相対回転可能に組み合わされている。
リアカバー95とスリーブ80のばね保持部83との間には、圧縮ばねからなるリターンスプリング110が、適度に圧縮された状態で保持されている。具体的には、リアカバー95におけるスリーブ80と対向している面には、周方向及び径方向においてスリーブ80のばね保持部83と同じ位置となる位置に、ばね受け部97が設けられている。このばね受け部97は、リアカバー95におけるスリーブ80と対向している面からスリーブ80の方向に突出した円筒形状の形状で形成されている。ばね保持部83とばね受け部97とのうち、ばね保持部83は、当該ばね保持部83の形状である円柱形の外径が、リターンスプリング110の内径よりも若干小さい径となって形成されている。また、ばね受け部97は、当該ばね受け部97の形状である円筒形の内径が、リターンスプリング110の外径よりも若干大きい径となって形成されている。
また、リターンスプリング110は、フロントカバー45及びインナーヨーク60に対して相対的に軸線方向に移動可能なスリーブ80が最もフロントカバー45寄りに位置した状態におけるスリーブ80のフランジ部82と、リアカバー95におけるリターンスプリング110の接触面98との距離よりも、自由長が長くなっている。このため、リターンスプリング110がリアカバー95とスリーブ80との間に保持される場合には、リターンスプリング110は圧縮した状態で保持される。
圧縮した状態で保持されるリターンスプリング110は、スリーブ80側はリターンスプリング110の内側にばね保持部83が入り込むことにより保持され、リアカバー95側はリターンスプリング110がばね受け部97の内側に入り込むことにより保持される。このようにリアカバー95とスリーブ80との間で保持されるリターンスプリング110の圧縮に対する弾性復元力により、スリーブ80はプランジャ70のスリーブ受け74に向かって押し込まれている。即ち、圧縮した状態で保持されるリターンスプリング110は、リアカバー95とスリーブ80とに、双方が離間する方向の付勢力を付与した状態で保持される。
また、プランジャ70にはスリーブ受け74が設けられているため、スリーブ80に付与したリターンスプリング110の付勢力は、スリーブ受け74に伝達されることによりプランジャ70にも付与される。スリーブ80を介してプランジャ70に付与される付勢力は、プランジャ70がインナーヨーク60から離間する方向の力になっている。このようにリターンスプリング110は、電磁作動部43を構成するプランジャ70に、プランジャ70とインナーヨーク60とが離間する方向の付勢力を付与する第1付勢手段として設けられている。
さらに、ドグ100とスリーブ80とは、軸線方向に相対移動不能に組み合わされているため、スリーブ80に付与したリターンスプリング110の付勢力は、ドグ100にも付与される。スリーブ80を介してドグ100に付与される付勢力は、ドグ100がクラッチホイール35から離間する方向の力になっている。このようにリターンスプリング110は、ドグクラッチ30に、ドグ100とクラッチホイール35とが離間する方向の付勢力を付与することが可能に設けられている。
また、リアカバー95とスリーブ80との間には、さらに、圧縮ばねからなる緩衝スプリング111が配設されている。この緩衝スプリング111は、内径がリアカバー95のばね受け部97よりも若干大きい径で形成されており、自由長は、スリーブ80が最もフロントカバー45寄りに位置した状態におけるスリーブ80のフランジ部82とリアカバー95における緩衝スプリング111との接触面98よりも短くなっている。
緩衝スプリング111は、リアカバー95とスリーブ80との間に設けられているため、リターンスプリング110と同様にスリーブ80とリアカバー95とに、双方が離間する方向の付勢力を付与することができるが、緩衝スプリング111は、上記のように自由長が、スリーブ80が最もフロントカバー45寄りに位置した状態における緩衝スプリング111が配設されている部分のスリーブ80とリアカバー95との間の距離よりも短くなっている。このため緩衝スプリング111は、緩衝スプリング111が配設されている部分のスリーブ80とリアカバー95との距離が所定の距離以下、即ち、緩衝スプリング111の自由長以下の場合に、スリーブ80とリアカバー95とに、双方が離間する方向の付勢力を付与することができる。
また、プランジャ70にはスリーブ受け74が設けられているため、緩衝スプリング111がスリーブ80に付勢力を付与する場合には、スリーブ受け74に伝達されることによりリターンスプリング110の付勢力と同様にプランジャ70にも付与される。スリーブ80を介してプランジャ70に付与される付勢力は、プランジャ70がインナーヨーク60から離間する方向の力になっている。
また、この緩衝スプリング111の付勢力は、スリーブ80とリアカバー95との距離が所定の距離以下の場合に付与することができ、スリーブ80に付与した付勢力は、プランジャ70にも付与することができる。このため換言すると、緩衝スプリング111の付勢力は、プランジャ70とインナーヨーク60との距離が所定の距離以下の場合に、プランジャ70に付与することができる。これらのように、緩衝スプリング111は、プランジャ70とインナーヨーク60との距離が所定の距離以下の場合に、電磁作動部43を構成するプランジャ70に、プランジャ70とインナーヨーク60とが離間する方向の付勢力を付与する第2付勢手段として設けられている。
また、ドグ100とスリーブ80とは、軸線方向に相対移動不能に組み合わされているため、緩衝スプリング111がスリーブ80に付勢力を付与する場合には、緩衝スプリング111の付勢力は、リターンスプリング110の付勢力と同様にドグ100にも付与される。スリーブ80を介してドグ100に付与される緩衝スプリング111の付勢力は、ドグ100がクラッチホイール35から離間する方向の力になっている。また、この緩衝スプリング111の付勢力は、スリーブ80とリアカバー95との距離が所定の距離以下の場合に付与することができ、スリーブ80は、ドグ100と軸線方向に相対移動不能に組み合わされている。このため換言すると、緩衝スプリング111の付勢力は、ドグ100とクラッチホイール35との距離が所定の距離以下の場合に付与することができる。
このように形成される緩衝スプリング111をリアカバー95とスリーブ80との間に配設する場合は、緩衝スプリング111をリアカバー95のばね受け部97の外側に位置させる、即ち、緩衝スプリング111の内側にばね受け部97を入り込ませることにより配設する。その際に、ばね受け部97は、緩衝スプリング111に対して圧入することにより入り込ませる。これにより、緩衝スプリング111はばね受け部97に保持される。
さらに、リアカバー95は、固定手段としてのボルト115により変速装置1のハウジング3(図1参照)に固定されている。このようにハウジング3に固定されるリアカバー95は、操作部90の支持部材として機能する。
図3は、図2のA−A断面の概略図である。また、リターンスプリング110及び緩衝スプリング111は、それぞれ複数設けられており、クラッチホイール35の回転方向における位置が同じ位置に配設されている。つまり、リアカバー95のばね受け部97は、クラッチホイール35の回転方向、即ち、周方向において複数設けられており、リターンスプリング110と緩衝スプリング111とは、各ばね受け部97にそれぞれ設けられている。このため、リターンスプリング110と緩衝スプリング111とは、それぞれ複数設けられており、周方向における位置、及び径方向における位置が同じ位置で、緩衝スプリング111がリターンスプリング110を覆うように設けられている。
この実施例に係る電磁アクチュエータ40を備える変速装置1は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。この変速装置1は、当該変速装置1に備えられる電磁アクチュエータ40を制御し、ドグ100のドグ歯102とクラッチホイール35のクラッチ歯36を噛み合わせた状態である係合状態と、ドグ100のドグ歯102とクラッチホイール35のクラッチ歯36とを離間させた状態である解放状態とを切り替えることにより制御する。即ち、変速装置1は、ドグクラッチ30を係合状態と解放状態とに切り替えることにより制御する。ドグクラッチ30を係合状態にした場合には、クラッチホイール35の回転が阻止されるため、クラッチホイール35と一体回転可能に設けられている第2遊星歯車機構21のサンギア22も回転が阻止された状態になる。反対に、ドグクラッチ30を解放状態にした場合には、クラッチホイール35は回転が許容された状態になるため、第2遊星歯車機構21のサンギア22も回転が許容された状態になる。
このように、ドグクラッチ30を切り替えることにより制御される変速装置1にエンジンの動力が伝達される場合には、エンジンの動力は変速装置1の入力軸5に伝達される。これにより入力軸5は回転するが、入力軸5が回転した場合、第1遊星歯車機構11のプラネタリキャリア15、及び第2遊星歯車機構21のリングギア24は、入力軸5の回転に伴って入力軸5と等速で回転する。
ここで、ドグクラッチ30を解放状態にすることにより第2遊星歯車機構21のサンギア22の回転が許容された状態となっている場合は、モータの動力による出力軸6及び第2遊星歯車機構21のプラネタリキャリア25の回転速度と、エンジンの動力による第1遊星歯車機構11のプラネタリキャリア15及び第2遊星歯車機構21のリングギア24の回転速度とに応じた速度で、第2遊星歯車機構21のサンギア22が出力軸6の周りを空転する。さらに、第2遊星歯車機構21のプラネタリキャリア25と等速で第1遊星歯車機構11のリングギア14が回転することにより、当該リングギア14の回転速度と第1遊星歯車機構11のプラネタリキャリア15の回転速度とに応じた速度で第1遊星歯車機構11のサンギア12が回転して発電機の駆動軸18が回転し、発電機が駆動される。この場合、モータの動力による出力軸6の回転速度とエンジンの動力による入力軸5の回転速度とは、互いに自由に設定することができ、第2遊星歯車機構21のサンギア22は、それらの回転速度差を吸収するように出力軸6の周りを空転する。
一方、ドグクラッチ30を係合状態にすることにより第2遊星歯車機構21のサンギア22の回転が阻止された状態となっている場合は、第2遊星歯車機構21におけるリングギア24またはプラネタリキャリア25のいずれか一方の回転速度が定まれば他方も定まる関係になる。この場合、エンジンの動力による入力軸5の回転速度と、モータの動力による出力軸6の回転速度とが互いに関連付けられ、且つ、それらの回転速度のいずれか一方が定まれば、第1遊星歯車機構11のサンギア12による発電機の駆動軸18の回転速度も定まる。このような状態になるドグクラッチ30の係合状態は、例えば出力軸6の回転速度を高速度域に設定する場合に使用される。
変速装置1は、このようにドグクラッチ30を切り替えることにより作動状態が切り替わるが、このドグクラッチ30は、電磁アクチュエータ40を作動させることにより状態が切り替わる。まず、ドグクラッチ30を解放状態にする場合について説明すると、ドグクラッチ30を解放状態にする場合には、電磁アクチュエータ40に設けられる電磁コイル50を非励磁の状態にする。これにより、スリーブ80にはリターンスプリング110の付勢力が作用することにより、リアカバー95から離れる方向、即ち、フロントカバー45の方向に向かう方向の力が作用し、フロントカバー45の方向に押し込まれる。これにより、スリーブ80は、フロントカバー45側に位置する端部がプランジャ70のスリーブ受け74に当接し、スリーブ80と共にプランジャ70もフロントカバー45の方向に押し込まれる。フロントカバー45の方向に押し込まれたプランジャ70は、フロントカバー45に当接することにより停止し、スリーブ80もプランジャ70の停止と共に停止して保持される。このように、電磁コイル50を非励磁の状態にした場合におけるプランジャ70及びスリーブ80は、インナーヨーク60から離れた位置である待機位置(図2の位置)に保持される。
また、ドグ100は、止め輪105を介してスリーブ80と軸線方向に相対移動不能に組み合わされているので、スリーブ80がフロントカバー45の方向に押し込まれた場合には、ドグ100も同一方向に移動する。この場合、ドグ100の内側スプライン歯101とリアカバー95の外側スプライン歯96との噛み合いは維持されるが、ドグ歯102は、軸線方向におけるクラッチホイール35のクラッチ歯36との位置が完全に離れ、ドグ歯102とクラッチ歯36とは、完全に離れる。即ち、ドグ歯102とクラッチ歯36とは噛み合わない状態になり、ドグ歯102とクラッチ歯36との間で、トルクの伝達が行なわれない状態になる。従って、電磁コイル50を非励磁の状態にした場合には、ドグ100とクラッチホイール35とが離間することにより、クラッチホイール35の回転方向のトルクがドグ100とクラッチホイール35との間で伝達されない状態である解放状態になる。
これに対し、電磁コイル50を励磁した場合は、電磁コイル50の周囲に磁界が発生する。このように磁界が発生した場合、電磁コイル50を囲むように配設されるアウターヨーク55、インナーヨーク60及びプランジャ70を周回する磁路Mが形成される。これにより、アウターヨーク55、インナーヨーク60、プランジャ70は、磁路Mに沿って磁化される。また磁路Mは、プランジャ70のテーパ部72とインナーヨーク60のテーパ部62との隙間を横切るように形成される。このため、磁化されたプランジャ70は、アウターヨーク55の内周面56に案内されつつ、インナーヨーク60に向かって引き寄せられる。即ち、プランジャ70には、インナーヨーク60に向かって引き寄せられる力である吸引力が作用する。これらのように、プランジャ70とインナーヨーク60とは、電磁コイル50で発生した吸引力が作用した際に双方が近付くように作動する作動手段である電磁作動部43として設けられており、プランジャ70は電磁作動部43を構成する第1吸引手段として設けられており、インナーヨーク60は電磁作動部43を構成する第2吸引手段として設けられている。また、電磁コイル50は、この吸引力を発生する吸引力発生手段として設けられている。
このようにプランジャ70に吸引力が作用することによってインナーヨーク60の方向に移動する場合、プランジャ70のスリーブ受け74に当接しているスリーブ80には、スリーブ受け74からプランジャ70の移動方向の力が作用し、換言すると、スリーブ80にはプランジャ70を介して吸引力が作用する。吸引力が作用するスリーブ80には、リターンスプリング110によりフロントカバー45の方向への付勢力が付与されているが、吸引力は付勢力よりも大きな力でスリーブ80に作用するので、プランジャ70及びスリーブ80は、吸引力が作用する方向、即ち、フロントカバー45から離れ、リアカバー95に近付く方向に移動する。
スリーブ80がリアカバー95に近付く方向に移動した場合、ドグ100も同一方向に移動する。このため、ドグ100のドグ歯102と、クラッチホイール35のクラッチ歯36とは、軸線方向における位置が重なり始める。これにより、ドグ歯102とクラッチ歯36とは互いに噛み合った状態になり、ドグ歯102とクラッチ歯36との間で、トルクの伝達が可能になり始める。従って、電磁コイル50を励磁した場合には、クラッチホイール35の回転方向のトルクがドグ100とクラッチホイール35との間で伝達可能な状態である係合状態に切り替わる。また、このように電磁コイル50は、ドグクラッチ30に対して、電磁力を用いることにより、離間した状態のドグ100とクラッチホイール35とを近付けさせる力である吸引力をプランジャ70やスリーブ80を介して付与することができるように設けられている。つまり、プランジャ70は、電磁コイル50が発生した吸引力が付与された際にインナーヨーク60との距離が近付くことによりドグクラッチ30に吸引力を伝達可能に設けられている。
また、スリーブ80がリアカバー95に近付く方向に移動した場合、スリーブ80のフランジ部82とリアカバー95との距離は小さくなり、リターンスプリング110は圧縮される。この状態でスリーブ80を移動させ続けると、ドグ歯102とクラッチ歯36との噛み合っている部分の軸線方向における長さが長くなるため、ドグ歯102とクラッチ歯36との間で伝達可能なトルクの許容量が大きくなる。このため、スリーブ80がリアカバー95に近付くに従って、ドグ100とクラッチホイール35との間で伝達できるトルクの許容量が大きくなる。
また、スリーブ80のフランジ部82とリアカバー95との間には、リアカバー95のばね受け部97で保持された緩衝スプリング111が配設されているため、スリーブ80が移動してスリーブ80のフランジ部82とリアカバー95との距離が小さくなった場合には、スリーブ80のフランジ部82は緩衝スプリング111に接触する。
図4は、電磁アクチュエータのスリーブが緩衝スプリングに接触した状態を示す説明図である。吸引力が作用することにより移動するスリーブ80は、フランジ部82が緩衝スプリング111に接触した場合でも移動を続けるため、スリーブ80とリアカバー95との距離は小さくなり、緩衝スプリング111を圧縮する。このため、スリーブ80とリアカバー95とには、緩衝スプリング111の圧縮に対する弾性復元力により、双方が離間する方向の付勢力が付与される。これにより、リアカバー95の方向に移動するスリーブ80が緩衝スプリング111に接触した後は、スリーブ80とリアカバー95とには、リターンスプリング110の付勢力と緩衝スプリング111の付勢力との双方の付勢力が付与される。従って、リアカバー95の方向に移動するスリーブ80が緩衝スプリング111に接触した後は、スリーブ80とリアカバー95とには、大きな付勢力が付与される。
また、このようにスリーブ80とリアカバー95との距離が小さくなっている状態では、プランジャ70とインナーヨーク60との距離も小さくなっている。このため、磁化されたプランジャ70とインナーヨーク60との吸引力は、プランジャ70とインナーヨーク60との距離が大きい状態における吸引力よりも大きくなっている。これにより、スリーブ80をリアカバー95の方向に移動させる方向に作用する力も大きくなるが、リターンスプリング110の付勢力と緩衝スプリング111の付勢力とが付与されることにより、スリーブ80の移動速度は抑制される。このため、スリーブ80と一体となって移動するプランジャ70のインナーヨーク60方向への移動速度も抑制される。
図5は、電磁アクチュエータのプランジャとインナーヨークが当接した状態を示す説明図である。プランジャ70に吸引力が作用し続け、インナーヨーク60の方向に移動し続けた場合には、プランジャ70はインナーヨーク60に接触し、詳しくは、プランジャ70のストッパ面73とインナーヨーク60のストッパ面63とが当接する。即ち、プランジャ70はインナーヨーク60に衝突する。その際に、プランジャ70は、リターンスプリング110の付勢力と緩衝スプリング111の付勢力とにより移動速度が抑えられたスリーブ80と共に移動するため、プランジャ70も移動速度が抑えられた状態で衝突する。このため、プランジャ70は、衝突速度が抑えられた状態でインナーヨーク60に衝突する。このように、プランジャ70がインナーヨーク60に衝突した場合、プランジャ70の移動は停止する。これに伴い、スリーブ80やドグ100のリアカバー95方向への移動も停止する。
このように、プランジャ70とインナーヨーク60とは、電磁コイル50が発生した吸引力が付与された際にプランジャ70とインナーヨーク60との距離が近付くことによって双方が当接することにより、吸引力による作動を規制することができるように設けられている。また、ドグ歯102とクラッチ歯36とは、プランジャ70の移動が停止することに伴い軸線方向におけるドグ100の移動が停止した状態になった場合に、完全に噛み合った状態になるように設けられている。このため、プランジャ70がインナーヨーク60に衝突した場合には、ドグ歯102とクラッチ歯36とは、完全に噛み合った状態になり、クラッチホイール35の回転方向のトルクがドグ100とクラッチホイール35との間で伝達可能な状態である係合状態になる。
図6は、磁気ギャップやストローク量に対する付与力の関係を示す説明図である。次に、磁化されたプランジャ70とインナーヨーク60との距離である磁気ギャップ、または、プランジャ70やスリーブ80の移動量であるストローク量に対するスリーブ80やプランジャ70への付与力との関係について説明する。図6における横軸は、磁気ギャップやストローク量を示しており、図における右側方向は解放状態であることを示しており、左方向に向かうに従って係合状態に近付く。このため、磁気ギャップは、解放状態である右側に向かうに従って大きくなり、係合状態である左側に向かうに従って小さくなる。反対に、ストローク量は、解放状態である右側に向かうに従って小さくなり、係合状態である左側に向かうに従って大きくなる。また、図6における縦軸は、電磁コイル50を励磁した際の電磁力による吸引力や、リターンスプリング110や緩衝スプリング111の付勢力の大きさである付与力を示しており、図の上方に向かうに従って付与力が大きくなった状態を示している。
解放状態のドグクラッチ30を係合させるために電磁コイル50を励磁した場合、励磁した初期の段階では磁気ギャップが大きいため、電磁コイル50を励磁することにより発生する、プランジャ70をインナーヨーク60に引き寄せる力である吸引力Faは小さくなっている。
また、プランジャ70には、リターンスプリング110の付勢力であるリターンスプリング付勢力Fb1がスリーブ80に付与されることを介して付与される。このリターンスプリング付勢力Fb1は、吸引力が作用する方向の反対方向の力となって作用する。また、リターンスプリング付勢力Fb1は、ドグクラッチ30を解放状態から係合状態にする場合における作動開始時のプランジャ70のストローク量をストローク開始L1とし、ドグクラッチ30が係合状態になり、プランジャ70がインナーヨーク60に当接した場合におけるプランジャ70のストローク量をストローク終端L0とした場合に、ストローク開始L1からストローク終端L0に近付くに従って少しずつ大きくなる。
プランジャ70は、このようにリターンスプリング付勢力Fb1が付与されつつ、電磁コイル50を励磁することによる吸引力Faによりインナーヨーク60の方向に移動してインナーヨーク60に近付くため、磁気ギャップは小さくなり、ストローク量は大きくなる。吸引力Faは、このように磁気ギャップが小さくなるに従って大きくなる。
ドグ100のドグ歯102とクラッチホイール35のクラッチ歯36は、プランジャ70のストローク量がストローク開始L1からストローク終端L0に向かう途中で、係合し始める。即ち、ドグクラッチ30は、係合開始ストローク量Lsで係合を開始する。
磁気ギャップがさらに小さくなり、ストローク量が大きくなった場合には、プランジャ70と共に移動するスリーブ80は緩衝スプリング111に接触するため、緩衝スプリング111が作動を開始する。作動を開始した緩衝スプリング111は、当該緩衝スプリング111の付勢力である緩衝スプリング付勢力Fb2を、スリーブ80に付与することを介してプランジャ70に付与する。
ここで、ドグクラッチ30は、解放状態から係合状態に切り替わる場合には、ドグ100のドグ歯102とクラッチホイール35のクラッチ歯36とが徐々に噛み合うが、この噛み合いが所定量以上になった場合には、ドグクラッチ30でトルクを十分に伝達することが可能になる。つまり、ドグクラッチ30は、プランジャ70のストローク量が所定のストローク量であるトルク伝達可能ストローク量Laより大きくなった場合に、確実にトルクを伝達することが可能になる。
また、プランジャ70に吸引力Faが作用することにより移動する場合、プランジャ70と共にスリーブ80も移動し、さらに、スリーブ80とドグ100とは軸線方向に相対移動不能に設けられているため、プランジャ70が移動した場合、ドグ100も移動する。このため、プランジャ70のストローク量は、ドグ100のストローク量でもあり、このストローク量は、解放状態から係合状態に切り替える場合におけるドグ100とクラッチホイール35との距離の変化の大きさと同じになっている。即ち、ドグ100とクラッチホイール35との距離は、プランジャ70のストローク量が大きくなるに従って小さくなっており、ドグ100とクラッチホイール35との距離の変化の大きさは、プランジャ70とインナーヨーク60との距離である磁気ギャップの変化の大きさと同じ大きさになっている。
また、緩衝スプリング111が作動を開始するストローク量である緩衝スプリング作動開始ストローク量L2は、トルク伝達可能ストローク量Laよりも大きくなっている。つまり、緩衝スプリング111は、ドグクラッチ30を解放状態から係合状態に切り替える場合に、ドグクラッチ30で確実にトルクの伝達が可能な状態になった後、作動を開始し、プランジャ70に対して吸引力Faが作用する方向と反対方向の付勢力を付与する。
このように、緩衝スプリング111はプランジャ70のストローク量がトルク伝達可能ストローク量Laよりも大きくなった場合に作動を開始するため、換言すると、緩衝スプリング111は、磁気ギャップが、ドグ100とクラッチホイール35との間で確実にトルクを伝達することができる場合における磁気ギャップよりも小さくなった場合に作動する。つまり、緩衝スプリング111がプランジャ70に付勢力を付与することができる所定の磁気ギャップは、ドグ100とクラッチホイール35との間で確実にトルクを伝達することができる場合における磁気ギャップよりも小さくなっている。
また、ドグ100とクラッチホイール35との距離の変化の大きさは、プランジャ70とインナーヨーク60との距離である磁気ギャップの変化の大きさと同じ大きさになっているため、緩衝スプリング111は、ドグ100とクラッチホイール35との距離が、ドグ100とクラッチホイール35との間で確実にトルクを伝達することができる距離よりも小さくなった場合に、プランジャ70に付勢力を付与する。
吸引力Faは、磁気ギャップが小さくなるに従って大きくなるが、磁気ギャップが所定の距離よりも小さくなった場合、吸引力Faは急激に大きくなり、例えば、プランジャ70のストローク量がトルク伝達可能ストローク量Laよりも大きくなる付近で、吸引力Faは急激に大きくなる。緩衝スプリング111は、このように吸引力Faが大きくなる付近で作動を開始し、付勢力を付与し始める。このため、吸引力Faが急激に大きくなる付近では、プランジャ70にはリターンスプリング110の付勢力と緩衝スプリング111との付勢力とが付与される。
図7は、磁気ギャップやストローク量に対するプランジャの推力の関係を示す説明図である。ドグクラッチ30を解放状態から係合状態に切り替える場合には、これらのようにプランジャ70には、電磁コイル50の電磁力による吸引力Fa(図6参照)と、リターンスプリング110や緩衝スプリング111による付勢力Fb1、Fb2(図6参照)とが作用するが、このためプランジャ70は、吸引力Faと付勢力Fb1、Fb2との差分の力に基づいて作動する。つまり、プランジャ70は、吸引力Faと付勢力Fb1、Fb2との差の大きさでプランジャ70に作用する力である推力Fcによって作動し、この推力Fcによりインナーヨーク60の方向に移動する。その際に、緩衝スプリング作動開始ストローク量L2までは、プランジャ70に作用する付勢力はリターンスプリング付勢力Fb1のみであるため、プランジャ70に作用する推力Fcは吸引力Faとリターンスプリング付勢力Fb1との差の力になる。
このうち吸引力Faは、電磁コイル50に励磁した初期の段階、即ち、プランジャ70のストローク量がストローク開始L1から、トルク伝達可能ストローク量La(図6参照)になる付近までは、磁気ギャップが大きいため力の大きさが比較的小さくなっており、ストローク量が大きくなり、磁気ギャップが小さくなるに従って徐々に大きくなる(図6参照)。また、リターンスプリング付勢力Fb1は、ストローク開始L1からストローク終端L0に近付くに従って少しずつ大きくなる(図6参照)。
プランジャ70の推力Fcは、これらの吸引力Faとリターンスプリング付勢力Fb1との差の力であるため、プランジャ70のストローク量がストローク開始L1からトルク伝達可能ストローク量Laになる付近までは、磁気ギャップが小さくなるに従って徐々に大きくなる。
また、プランジャ70のストローク量が緩衝スプリング作動開始ストローク量L2になった場合には、リターンスプリング付勢力Fb1のみでなく、緩衝スプリング付勢力Fb2も付与される。緩衝スプリング作動開始ストローク量L2付近では、磁気ギャップが小さくなっているため、吸引力Faが急激に大きくなるが(図6参照)、プランジャ70に緩衝スプリング付勢力Fb2も付与されることにより、吸引力Faが作用する方向の反対方向に作用する力が大きくなる。このため、プランジャ70の推力Fcは、緩衝スプリング111が作動を開始した時点で小さくなる。吸引力Faは、磁気ギャップが0になる直前では大幅に大きくなるため、緩衝スプリング111が作動することにより小さくなった推力Fcは、磁気ギャップが0になる直前で再び大きくなり、プランジャ70はインナーヨーク60に接触する。つまり、プランジャ70のストローク量がストローク終端L0になり、ドグクラッチ30は係合状態になる。
このように、実施例に係る電磁アクチュエータ40の推力Fcの特性は、プランジャ70のストローク量が緩衝スプリング作動開始ストローク量L2になった場合に力の大きさが小さくなるため、従来の電磁アクチュエータのように緩衝スプリング111が設けられていない場合における推力である緩衝スプリング非作動推力Fdよりも、プランジャ70がインナーヨーク60に接触する際の力の大きさが小さくなる。このため、プランジャ70の速度は低減し、プランジャ70は、インナーヨーク60に当接して衝突する際の速度である衝突速度が低下する。
以上の電磁アクチュエータ40は、プランジャ70とインナーヨーク60とが離間する方向の付勢力を付与する付勢手段としてリターンスプリング110と緩衝スプリング111とを用いており、このうち緩衝スプリング111は、プランジャ70とインナーヨーク60との距離である磁気ギャップが所定の磁気ギャップ以下の場合に、スリーブ80を介してプランジャ70に対して付勢力を付与することができるように設けられている。つまり、緩衝スプリング111は、磁気ギャップが比較的小さい場合にのみ、プランジャ70に付勢力を付与することができる。このため、解放状態のドグクラッチ30を係合状態にする場合に、離間している状態のプランジャ70とインナーヨーク60とを電磁コイル50で発生した吸引力で近付けさせる場合は、リターンスプリング110によって付勢力を付与した状態で磁気ギャップが所定の磁気ギャップまで小さくなった後、緩衝スプリング111によって付勢力を付与することになる。これにより、ドグクラッチ30を解放状態から係合状態にする場合において、磁気ギャップが小さくなり始める初期段階では、リターンスプリング110のみで付勢力を付与するので付勢力が大きくなり過ぎることを抑制できる。このため、ドグクラッチ30を係合状態にするためにプランジャ70とインナーヨーク60とを電磁コイル50の吸引力で近付けさせる際に、付勢力を付与することに起因して作動時間が遅くなることを抑制できる。
また、ドグクラッチ30を係合状態にする場合において、磁気ギャップがさらに小さくなった場合には、リターンスプリング110と緩衝スプリング111との2種類の付勢手段によって付勢力を付与するので、大きな付勢力を付与できる。ここで、電磁コイル50は、吸引する部材間の距離が近くなるに従って吸引する力が大きくなる電磁力を用いてプランジャ70とインナーヨーク60とに吸引力を付与するため、プランジャ70とインナーヨーク60とに付与する吸引力は、磁気ギャップが小さくなるに従って増大する。このため、磁気ギャップが小さくなった場合には、リターンスプリング110と緩衝スプリング111との2種類の付勢手段によって大きな付勢力を付与することにより、増大した吸引力によって吸引されるプランジャ70の移動速度が速くなり過ぎることを抑制できる。従って、吸引力による作動を規制するためにプランジャ70とインナーヨーク60とが当接する際における衝突速度を、より確実に遅くすることができ、当接時の運動エネルギ、即ち衝突時の運動エネルギを低減することができるため、衝突時の衝突音を低減することができる。この結果、ドグクラッチ30の係合時の作動時間を遅らせることなく、衝突音をより確実に低減することができる。
また、リターンスプリング110と緩衝スプリング111との2種類の付勢手段を用いて、磁気ギャップに応じて段階的に付勢力を作用させることにより、構造を簡素化することができる。つまり、電磁コイル50の電磁力は、電磁力が作用する部材間の距離が小さくなるに従って、部材に作用する力が大きくなる特性を有しているため、衝突時の運動エネルギを低減することを目的として、この部材間の距離に応じて電磁力を増減させる場合には、装置が複雑化する場合がある。これに対し、リターンスプリング110と緩衝スプリング111との2種類の付勢手段を用いて段階的にプランジャ70とインナーヨーク60とが離れる方向の付勢力が作用させることにより、構造を簡素化することができ、容易に衝突時の運動エネルギを低減することができる。この結果、製造コストの低減を図ることができる。
また、緩衝スプリング111が付勢力を付与することができる磁気ギャップは、ドグ100とクラッチホイール35との間で確実にトルクを伝達することができる場合における磁気ギャップよりも小さくなっているので、ドグクラッチ30を係合する際に、ドグ100とクラッチホイール35との距離が確実にトルクを伝達することができる距離になるまでは、比較的速い速度でプランジャ70とインナーヨーク60とを近付けさせることができる。即ち、解放状態のドグクラッチ30を係合状態にする場合においてプランジャ70とインナーヨーク60とを近付けさせる際に、緩衝スプリング111がプランジャ70に付勢力を付与することができる所定の磁気ギャップまでは、リターンスプリング110による付勢力のみが付与されるので、大きな付勢力は付与されないようになっている。このため、この段階では、プランジャ70への付勢力が小さいため、プランジャ70とインナーヨーク60とを近付けさせる際の速度を確保できる。また、緩衝スプリング111がプランジャ70に付勢力を付与するのは、磁気ギャップが、ドグクラッチ30によって確実にトルクを伝達することができる場合における磁気ギャップよりも小さくなった後に付与するので、ドグクラッチ30の係合時に、早期にドグクラッチ30でトルクを伝達することができる状態にすることができる。この結果、より確実にドグクラッチ30の係合時における作動時間の遅れを抑制し、早期にドグクラッチ30をトルクの伝達が可能な状態にすることができる。
また、ドグクラッチ30は、ドグ100に複数設けられたドグ歯102と、クラッチホイール35に複数設けられたクラッチ歯36とが噛み合うことによりドグ100とクラッチホイール35との間でトルクを伝達可能な状態になるように設けられているため、緩衝スプリング111でプランジャ70に付勢力を付与することができる距離である所定の磁気ギャップを、より確実に容易に設定することができ、より適切な付勢力を付与することができる。つまり、ドグ歯102やクラッチ歯36などの歯部が噛み合うことによってドグ100とクラッチホイール35との間でトルクの伝達が可能になるように設けられている場合、ドグクラッチ30の解放状態におけるドグ100とクラッチホイール35との距離と、係合状態におけるドグ100とクラッチホイール35との距離との差は、比較的大きな差になる。これに伴い、ドグクラッチ30の解放状態の場合における磁気ギャップと、ドグクラッチ30の係合状態の場合における磁気ギャップとの差も、比較的大きな差になる。このため、緩衝スプリング111でプランジャ70に付勢力を付与することができる所定の磁気ギャップを、より確実に容易に設定することができる。
従って、緩衝スプリング111でプランジャ70に付勢力を付与することができる所定の磁気ギャップを、より適切な磁気ギャップで設定することができ、離間している状態のドグ100とクラッチホイール35とを係合させる際に、リターンスプリング110によって付勢力を付与した後、緩衝スプリング111によっても付勢力を付与することができる。このため、プランジャ70とインナーヨーク60とを電磁コイル50で発生した吸引力で近付けさせる際に、付勢力を付与することに起因してドグクラッチ30の係合時における作動時間が遅くなることを抑制しつつ、プランジャ70とインナーヨーク60とが衝突する際における衝突速度を遅くすることにより、衝突時の衝突音を低減することができる。この結果、ドグクラッチ30の係合時の作動時間を遅らせることなく、衝突音をより確実に低減することができる。
また、リターンスプリング110と緩衝スプリング111とをそれぞれ複数設け、クラッチホイール35の回転方向において同じ位置に配設しているので、リターンスプリング110と緩衝スプリング111とを、共に多数設けることができる。このため、リターンスプリング110全体の付勢力と緩衝スプリング111全体の付勢力とを、共に大きな力にすることができるので、プランジャ70とインナーヨーク60とに対して付与する吸引力が大きな吸引力の場合でも、リターンスプリング110と緩衝スプリング111との付勢力で受けることができる。従って、電磁コイル50で発生した吸引力が大きな吸引力の場合でも、プランジャ70とインナーヨーク60とが衝突する際における衝突速度を、より確実に遅くすることができる。この結果、より確実にドグクラッチ30の係合時の衝突音を低減することができる。
なお、実施例に係る電磁アクチュエータ40では、リターンスプリング110と緩衝スプリング111とは、クラッチホイール35の回転方向における位置が同じ位置に配設されているが、リターンスプリング110と緩衝スプリング111とは、クラッチホイール35の回転方向において異なる位置に配設してもよい。図8は、変形例に係る電磁アクチュエータのリターンスプリングと緩衝スプリングとの配置を示す説明図である。図9は、図8のB−B断面の概略図である。図10は、図9のC−C断面図である。リターンスプリング110と緩衝スプリング111とを、クラッチホイール35の回転方向において異なる位置に配設ける場合には、例えば、リアカバー95に設けるばね受け部120は、リターンスプリング110や緩衝スプリング111の径よりも若干大きい径で、且つ、所定の深さからなる穴により形成し、このばね受け部120を、クラッチホイール35の回転方向において複数設ける。リターンスプリング110及び緩衝スプリング111は、このように複数設けられるばね受け部120に、クラッチホイールの回転方向において交互に配設される。
このように、リターンスプリング110と緩衝スプリング111とをそれぞれ複数設け、クラッチホイール35の回転方向において異なる位置に配設することにより、リターンスプリング110の付勢力と緩衝スプリング111の付勢力とが同じ部分に作用することを抑制でき、応力が集中することを抑制できる。つまり、リターンスプリング110の付勢力と緩衝スプリング111の付勢力とを分散して作用させることができるため、リアカバー95やスリーブ80においてリターンスプリング110の付勢力や緩衝スプリング111の付勢力が作用する部分に、双方が作用することに起因して大きな応力が発生することを抑制できる。この結果、耐久性の向上を図ることができる。
なお、上述した電磁アクチュエータ40では、電磁アクチュエータ40で作動させるドグクラッチ30は第1係合要素であるドグ100は停止し、クラッチホイール35は回転可能に設けられているが、ドグ100が回転し、クラッチホイール35が停止していてもよく、または、双方が回転可能に設けられていてもよい。また、上述した電磁アクチュエータ40では、係合手段としてドグクラッチ30を作動させることができるように設けられているが、係合手段はドグクラッチ30以外のものでもよい。本発明に係る電磁アクチュエータ40で係合状態と解放状態とに切り替える係合手段は、少なくとも一方が回転可能に設けられた第1係合要素と第2係合要素とを有しており、且つ、双方が接触することにより第1係合要素と第2係合要素との間でトルクの伝達可能な状態である係合状態と、双方が離間することにより第1係合要素と第2係合要素との間でトルクが伝達されない状態である解放状態とに切り替え可能に設けられていればよい。
また、リターンスプリング110や緩衝スプリング111の付勢力は、スリーブ80を介してプランジャ70に付与可能に設けられているが、リターンスプリング110や緩衝スプリング111の付勢力が、プランジャ70とインナーヨーク60とが離れる方向に作用する構造であれば、実施例に係る電磁アクチュエータ40以外の構造であってもよい。