JP5010328B2 - 改質木材の製造方法 - Google Patents

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Description

この発明は、木材中に注入、浸透させた防腐防蟻化合物や不燃化化合物の溶出を防止又は抑制し、防腐防蟻性能、不燃・難燃化性能を長期に亘って維持させる改質木材に関する。
木材は、軽さ、加工性の良さ、意匠性の高さなどの利点から、家屋等の建築物、橋梁、柵などの土木建築物に多く利用されてきた。しかし一方で、腐る、燃える、膨張や収縮で寸法が狂う等の欠点も有しているために、そのままでは用途が制限される場合があった。これらの欠点を克服して用途を広げるために、防腐防蟻処理、不燃・難燃化処理、寸法安定性付与などの様々な技術が開発されて利用されている。
一般に、防腐防蟻処理は、防腐防蟻化合物を木材に浸透させやすくするために、水や溶剤に溶解又は分散させて乳剤、油剤、フロアブル剤、水和剤などとして木材に塗工又は加圧注入する。その後防腐防蟻化合物を溶解又は分散させていた水や溶剤を揮発させて乾燥させることにより、防腐防蟻化合物を木材細胞中に沈着させ、防腐防蟻効果を発揮させている。この防腐防蟻化合物としては、クレオソート油、ホウ素化合物、無機クロム化合物、無機銅化合物、有機酸金属塩、有機金属化合物、4級アンモニウム塩系化合物、フェノール系化合物、有機ヨード系化合物、有機リン系化合物、ヒドロキシアミン系化合物、ナフタリン系化合物、キノリン系化合物、アニリド系化合物、ハロアルキルチオ系化合物、ベンツチアゾール系化合物、ベンゾイミダゾール系化合物、チオシアネート系化合物、トリアゾール系化合物、カーバメート系化合物、ピレスロイド系化合物、ネオニコチノイド系化合物などが単独又は混合して用いられている。このような処理については、JIS K 1570「木材保存剤」の1頁から7頁、及び非特許文献1(11頁〜12頁に製剤の種類、18頁〜39頁に防腐防黴成分一覧、59頁〜64ページに表面処理用木材保存材、70頁〜78頁に加圧注入用木材保存剤、79頁〜82頁に木材防カビ剤が記載)に記載されている。
また、不燃・難燃化処理は、ホウ素化合物、リン化合物、ハロゲン化合物などの有機系難燃剤、三酸化アンチモンなどの無機系難燃剤などの不燃化化合物を単独、又は混合して、水に溶解させ、浸漬や減圧加圧などにより木材に注入する。その後乾燥させて不燃化化合物を木材細胞に沈着させることにより、不燃効果を発揮させている。このような方法は、例えば特許文献1乃至3に記載されている。
しかし、このような防腐化合物や不燃化化合物は、木材細胞中に沈着されているのみであるため、木材に水や空気が流入して流出した際に、その水や空気とともに溶脱して、防腐防蟻性能、不燃性能が経時的に低下するおそれがある。また、それらの化合物の結晶が木材表面に析出し、外観を損ねることもあった。さらに、ホウ素化合物のように溶脱が速いために適用範囲が大幅に制限されている化合物もあり、溶脱した化合物がシックハウス症候群や化学物質過敏症、生態系への悪影響の原因となるおそれもあった。
この溶脱を抑えるために、化合物を木材内に定着させたり、木材表面に塗装を行ったり、木材細胞を封孔したり、特殊シリケートにより防腐したりするといった様々な方法が検討されている。
例えば、化合物を木材内に定着させる方法としては次のような方法が挙げられる。ホウ酸化合物を注入処理した木材に、酢酸マグネシウムと水酸化マグネシウムの水溶液を塗布、含浸してホウ素を固定化する方法が特許文献4に記載されている。また、銅化合物、亜鉛化合物又はホウ酸化合物と、珪酸ナトリウム又は珪酸カリウムの水溶液を木材に含浸させた後、低濃度の酸を含浸させて中和処理をして化合物を定着させる方法が特許文献5に記載されている。さらに、水溶性ホウ素化合物に変性ポリビニルアルコール及びコロイダルシリカを配合し、この水溶液に木材を含浸、又は減圧・加圧注入した後加熱処理を行って定着させる方法が特許文献6に記載されている。
また、木材表面に塗装を行う方法としては、特許文献7に、木材表面にエチレン酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル、アクリルスチレン共重合体のいずれかのエマルジョン液を付着させ、エマルジョン液を表層部に浸透して固化することにより、木材内部への水分侵入を防ぐと共に、内部の水分蒸発を減少させる方法が記載されている。
さらに、木材細胞を封孔する方法として、例えば特許文献8に、木材中に防腐防虫剤を含浸注入して乾燥した後、合成樹脂を含浸した木材を、重合反応により硬化させて防腐防虫剤の流出を防ぐ方法が記載されている。また、二重結合を有する官能基を有する有機化合物と、ホウ素含有化合物と重合触媒とを多孔質物品に含浸又は塗布して、その有機化合物をホウ素含有化合物の存在下で重合する方法が特許文献9に記載されている。さらにまた、シリコン系オリゴマーとオリゴエステルアクリレートを木材中に含浸させ重合硬化させることにより、含水率を低下させて防腐性を付与する方法が特許文献10に記載されている。
さらにまた、特殊シリケートによる防腐を行う方法として、例えば特許文献11に、リンやホウ素を含むメチルシロキサンオリゴマーを含浸硬化させることにより、難燃、撥水、耐腐朽性を付与する方法が記載されており、特許文献12には、ケイ素アルコキシドと抗菌防カビと撥水性を持つアルコキシシリル基含有の有機ケイ素化合物とを木材に含浸させ、分解後に重縮合させて、ケイ素アルコキシドをケイ素酸化物に変えるとともに、重縮合させて、抗菌防カビ性能を付与する方法が記載されている。さらに、第4級アンモニウム塩基を有する特殊シロキサンオリゴマーを木材に含浸し、加熱することにより、オリゴマー中のアルコキシドやシラノールを、加水分解、自己縮合によりゲルとして、抗菌防カビ性無機質複合化木材を得る方法が特許文献13に記載されており、アルコキシシラン、アミノ基含有アルコキシシラン、4級アミノ基含有アルコキシシラン又はそれらの部分加水分解物とホウ酸化合物を、酸存在下で共加水分解縮合させて防菌防黴防蟻性を木材に付与する付与剤が特許文献14に記載されている。
一方、難燃剤を固定化する方法として、無機元素の酸化物の塩類溶液のpHをイオン交換又は酸添加により変化させることにより、無機元素の酸化物を木材中や木材表面で凝集させたり、ゲル化したりして難燃剤である無機元素の酸化物を固定化する方法が特許文献15に記載されている。
特開平5−77207号公報 特開2001−303060号公報 特許第3538194号公報 特開平10−323807号公報 特開2003−266406号公報 特開2001−277207号公報 特開2000−238011号公報 特開平8−336811号公報 特開平10−265508号公報 特開2000−158413号公報 特開平9−38915号公報 特開平10−337705号公報 特開平11−70507号公報 特開2002−348567号公報 特開平8−174512号公報
(社)日本木材保存協会「木材保存剤ガイドライン」
しかしながら、化合物を木材内に定着させる方法では、特許文献4乃至6のいずれもJIS K 1570「木材保存剤」における耐候操作の条件を満たす溶脱試験は、行っていないか、又は耐候操作の条件を満たしておらず、十分に溶脱を防止、抑制しているとはいえないし、防腐防蟻性能の評価もされていない。また、表面に塗装を行う特許文献7の方法はあくまで吸水性の低下が主眼であり、防腐効果等の維持は検討されていなかった。
さらに、木材細胞を封孔する特許文献8乃至10の方法はいずれも、含浸の際に高圧環境が必要だったり、重合させる際に100℃以上の高温の環境が1日以上に亘る長時間必要であったりして、手順を実行する際の負担が大きかった。また、耐候操作を含めた防腐防蟻評価はいずれも行なわれていなかった。
さらにまた、特殊シリケートにより防腐する特許文献11及び12の方法では、ケイ素化合物を硬化させるために二日間に亘って高温環境に置く必要があり、手順を実行する際の負担が大きかった。また、特許文献13の方法では得られる改質木材の防蟻性が不十分であり、特許文献13の方法によるものより防蟻性が高い特許文献14の方法でも、シリケートのみで撥水効果とともに防腐効果等を発揮させようとするため、防腐効果等は不十分なものとなってしまった。
一方、特許文献15に記載の難燃剤の固定化は、処方によりゲル化時間が大きく変動してしまい、処方から使用までの経過時間によって含浸条件を調製し直す必要があるため使用しにくく、また、屋外の暴露に対応する条件での溶脱には対応していなかった。
そこでこの発明は、木材の防腐性能や不燃化性能を、JIS K 1570「木材保存剤」における耐候操作の条件下でも長期間維持でき、その改質手順が短時間かつ簡便に行える、改質木材の製造方法を提供することを目的とする。
この発明は、木材の内部に、防腐防蟻処理剤や不燃化処理剤を沈着させた後、木材の表面に、アルコキシシラン化合物やその部分加水分解縮合物と硬化触媒とを含む一液常温硬化型封孔剤を、塗布又は注入し硬化させることで、内部に沈着させた防腐防蟻処理剤や不燃化処理剤の溶出を抑制、防止することにより、上記の課題を解決したのである。
具体的には、防腐防蟻化合物や不燃化化合物を水や揮発性物質とともに、木材に塗工又は減圧加圧注入させた後、その水や揮発性物質を乾燥させて防腐防蟻化合物や不燃化化合物を木材内部に含浸させ、これらが木材表層の空孔から漏出しないように、アルコキシシラン化合物と硬化触媒とを前記空孔を塞ぐ封孔剤として用いて、木材内部に防腐防蟻化合物や不燃化化合物を固定させることで、十分な防腐防蟻性能や不燃化性能を確保するとともに、十分な耐候条件での溶出防止を達成することができる。
この発明にかかる方法によると、木材細胞内に浸透した防腐防蟻化合物や不燃化化合物を木材細胞に含浸させた後で、アルコキシシラン化合物と硬化触媒からなる一液常温硬化型封孔剤を塗布又は含浸させることにより、短期間で簡便に木材細胞の空孔を封じることができる。これにより、防腐防蟻化合物や不燃化化合物を溶脱させる水、空気が木材細胞内に侵入することを防ぎ、長期間にわたって安定して防腐防蟻性能、不燃化性能を維持することができる。この防腐防蟻性能や不燃化性能の維持は、屋外での暴露に対応する条件でも実現することができる。
以下、この発明について詳細に説明する。この発明は、木材中に、防腐防蟻化合物、不燃化化合物、又はそれらの両方を沈着させた後、アルコキシシラン化合物、その部分加水分解縮合物、又はそれらの両方と、硬化触媒とを含む一液常温硬化型封孔剤を前記木材細胞内、木材表面、又はその両方で硬化させて、前記防腐防蟻化合物、前記不燃化化合物、又はそれらの両方の溶出を防止又は抑制する改質木材の製造方法である。
この発明で用いる木材は特に限定されるものではなく、一般的な木材について制限なく用いることができる。
上記防腐防蟻化合物とは、木材に沈着させることで防腐効果及び防蟻効果を発揮させる化合物である。
この防腐防蟻化合物としては、クレオソート油、ホウ素化合物、無機銅化合物、無機クロム化合物、有機酸金属塩、有機金属化合物、4級アンモニウム塩系化合物、フェノール系化合物、有機ヨード系化合物、有機リン系化合物、ヒドロキシアミン系化合物、ナフタリン系化合物、キノリン系化合物、アニリド系化合物、ハロアルキルチオ系化合物、ベンツチアゾール系化合物、ベンゾイミダゾール系化合物、チオシアネート系化合物、トリアゾール系化合物、カーバメート系化合物、ピレスロイド系化合物、ネオニコチノイド系化合物等から選ばれる化合物があげられる。これらの化合物は、単独で使用してもよく、また、2種類以上を混合して用いてもよい。
この化合物の20℃における水への溶解度は、42.0重量%以下であることが好ましい。溶解度が42.0重量%より高いと、木材中に流入した水に溶解する量が多くなるため、この水の流出と共に、この防腐防蟻化合物が流出し、防腐防蟻性能の低下が著しくなる傾向がある。なお、この防腐防蟻化合物が水に溶解しないと、流出をより確実に防止できるので、この水への溶解度の下限は、0重量%がよい。
上記ホウ素化合物の具体例としては、ホウ砂、オルトホウ酸、メタホウ酸、InBO、Mg(BO等のオルトホウ酸塩、Mg、Co等の二ホウ酸塩、NaBO・2HO、NaBO・4HO、KBO、LiBO、Ca(BO等のメタホウ酸塩、Na・5HO等の四ホウ酸塩、KB・4HO、NH・4HO等の五ホウ酸塩、Na13・4HO等の八ホウ酸塩、モクボーベネザーブ(商品名)等があげられる。
上記無機銅化合物の具体例としては、硫酸銅、酸化第二銅等があげられる。上記無機クロム化合物の具体例としては、無水クロム酸、重クロム酸ナトリウム等があげられる。上記有機酸金属塩の具体例としては、ナフテン酸銅、ナフテン酸亜鉛、バーサチック酸亜鉛等があげられる。
上記有機金属化合物の具体例としては、オキシキノリン銅、ビストリブチルスズオキシド、トリブチルスズフタレート、トリス−(N−シクロヘキシルジアゼニウムジオキシ)−アルミニウム(略称:NCH−Al)等があげられる。上記4級アンモニウム塩系化合物の具体例としては、塩化ベンザルコニウム、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド等があげられる。
上記フェノール系化合物の具体例としては、2−フェニルフェノール、2,4,6−トリブロモフェノール、トリクロロフェノール、4−ブロム−2,5−ジクロロフェノール(略称:BDCP)、p−(2−フェニル−i−プロピル)フェノール(一般名:p−クミルフェノール)等があげられる。
上記有機ヨード系化合物の具体例としては、p−クロロフェニル−3−ヨードプロパギルホルマール(一般名:IF−1000)、3−ブロモ−2,3−ジヨード−2−プロペニルエチルカルボナート(一般名:サンプラス)等があげられる。
上記有機リン系化合物の具体例としては、0,0−ジエチル−0−(α−シアノベンジリデンアミノ)チオホスフェート(一般名:ホキシム)、0,0−ジメチル−0−(3−メチル−4−ニトロフェジル)チオホスフェート(一般名:フェニトロチオン)、0,0−ジエチル−0−(3−オキシ−2−フェニル−2Hピリダジン−6−イル)ホスホロチオエート(一般名:ピリダフェンチオン)、0,0−ジエチル−0−3,5,6−トリクロル−2−ピリジルホスホロチオエート(一般名:クロルピリホス)、0,0−ジエチル−0−2,4−ジクロロフェニルチオホスフェート(一般名:ジクロロフェンチオン)、0−[(E)−2−イソプロポキシカルボニル−1−メチルビニル]−0−メチルエチルホスホラミドチオエート(一般名:プロペタンホス)、2−クロロ−1−(2,4,5−トリクロロフェニル)ビニルメチルホスフェート(一般名:テトラクロルビンホス)等があげられる。
上記ヒドロキシアミン系化合物の具体例としては、N−ニトロソ−N−シクロヘキシルヒドロキシルアミンカリウム、N−ニトロソ−N−シクロヘキシルヒドロキシルアミンアルミニウム(一般名キシラザンAL)等があげられる。
上記ナフタリン系化合物の具体例としては、モノクロロナフタリン等があげられる。上記キノリン系化合物の具体例としては、8−キノリノール(一般名:オキシン)等があげられる。
上記アニリド系化合物の具体例としては、N−メトキシ−N−シクロヘキシル−4−(2,5−ジメチルフラン)カルボアニリド、3−i−ブロボキシ−3’−トリフルオロメチルカルボアニリド等があげられる。
上記ハロアルキルチオ系化合物の具体例としては、N,N−ジメチル−N‘−(ジクロロフルオロメチルチオ)スルファミド、テトラクロロエチルチオテトラヒドロフタルイミド等があげられる。上記ベンツチアゾール系化合物の具体例としては、2−メルカプトベンズチアゾール、2−(チオシアノメチルチオ)ベンズチアゾール(略称:TCMTB)等があげられる。
上記ベンゾイミダゾール系化合物の具体例としては、2−ベンズイミダゾールカルバミン酸メチル、2−(4−チオシアノメチルチオ)ベンズイミダゾール、2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾール(略称:TBZ)等があげられる。上記チオシアネート系化合物の具体例としては、メチレンビスチオシアネート(略称:MBT)等があげられる。
上記トリアゾール系化合物の具体例としては、1−[2−(2,4−ジクロロフェニル−4−プロピル−1,3−ジオキソラン−2−イルメチル)]−1H−1,2,4−トリアゾール(一般名:プロピコナゾール)、1−(p−クロロフェニル)−4,4−ジメチル−3−(1,2,4−トリアゾール−1−イル)メチルペンタン−3−オール(一般名:テブコナゾール)、2−(4−クロロフェニル)−3−シクロプロピル−1−(1,2,4−トリアゾールー1−イル)ブタンー2−ジオール(一般名:シプロコナゾール)、1−[{2−(2,4−ジクロロフェニル)−1,3−ジオキシソラン−2−イル}メチル]−1H−1,2,4−トリアゾールと1−[{2−(2,4−ジクロロフェニル)−1,3−ジオキシソラン−2−イル}メチル]−1H−1,3,4−トリアゾールとの混合物である一般名アザコナゾール等があげられる。
上記カーバメート系化合物の具体例としては、1−ナフチル−N−メチルカーバメート(一般名:カルバリル)、2−イソプロポキシフェニル−N−メチルカーバメート(一般名:ブロボクスル)、2−sec−ブチルフェニル−N−メチルカーバメート(一般名:フェノブカルブ)等があげられる。
上記ピレスロイド系化合物の具体例としては、3−フェノキシベンジル−dl−シス/トランス−3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチル−1−シクロプロパンカルボキシラート(一般名:ペルメトリン)、(2−メチル[1,1−ビフェニル]−3−イル)メチル3−(2−クロロ−3,3,3−トリフルオロ−1−プロペニル)−2,2−ジメチルシロクロプロパンカルボキシラート(一般名:ビフェントリン)、α−シアノ−3−フェノキシベンジル−2,2−ジメチル−3−(1,2,2,2−テトラブロモエチル)シクロプロパンカルボキシラート(一般名:トラロメスリン)、2,2−ジメチル−3−(2−メチル−1−プロペニル)シクロプロパンカルボキシリックアシドシアノ(3−フェノキシフェニル)メチルエステル(一般名:シフェノトリン)、α−シアノ(4−フルオロ−3−フェノキシ)ベンジル=2−(2,2−ジクロロビニル)−3,3−ジメチルシクロプロパン−1−カルボキシラート(一般名:シフルトリン)、2−(4−エトキシフェニル)−2−メチルプロピル−3−フェノキシベンジルエーテル(一般名:エトフェンブロックス)、α−シアノ−3−フェノキシベンジル−3−(2,2−ヂクロロビニル)−2,2−ジメチルクロロプロパンカルボキシラート(一般名:α−シペルメトリン)及びその異性体混合物等があげられる。
上記ネオニコチノイド系化合物の具体例としては、1−[(6‘−クロロ−3’−ピリジル)メチル]イミダゾリジン−2−(N−ニトロ)イミン(一般名イミダクロブリド)、(E)−N[6−クロロ−3−ピリジル]メチル]−N−シアノ)−N−メチルアセトアミジン(一般名アセタミプリド)等があげられる。
上記不燃化化合物とは、木材に沈着させることで難燃化、又は不燃化させる化合物である。例えば、ホウ砂、ホウ酸、ホウ酸アンモニウムなどのホウ素化合物、リン酸アンモニウム、リン酸グアニジン、リン酸などのリン系化合物、臭化アンモニウム、臭化カルシウム、塩化カルシウムなどのハロゲン化合物の他、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられ、これらを単独で使用しても良いし、2種類以上を混合して用いても良い。また、前記リン系化合物とともに、尿素、ジシアンジアミド、メラミンなどの窒素系化合物を併用してもよい。
この発明にかかる改質木材の製造方法では、上記防腐防蟻化合物や上記不燃化化合物を木材中に沈着させた後に、それらの化合物の溶脱を抑制することが主目的である。このため用いる上記防腐防蟻化合物や上記不燃化化合物の溶脱について、現在最も厳しい基準であると考えられる、木材保存剤の性能試験方法及び性能基準であるJIS K 1571:2004 4.3.1.1.3 a)耐候操作を終えた後に、さらにJIS K 1571に規定される防腐防蟻性能試験の性能基準をクリアーするか、コーン熱量計法ISO5660や建築物の内装材料及び工法の難燃性試験方法JIS A 1321、建築用薄物材料の難燃性試験JIS A 1322の難燃・不燃基準の少なくとも一つをクリアーするか、または、それらの防腐防蟻性能と難燃不燃性能の両方をクリアーすることを基準とする。このため、用いる上記防腐防蟻化合物や上記不燃化化合物は、20℃における水への溶解度が、飽和溶液換算で42.0重量%以下であると好ましい。これは、上記一液常温硬化型封孔剤により生じる無機系ポリマー塗膜でも、一般的な有機系ポリマー塗膜と同様にごく僅かな透水が認められ、木材中に浸透させた上記防腐防蟻化合物や上記不燃化化合物がその溶解度に応じて、流入出する水に同伴して溶脱し得るので、その影響をできるだけ防ぐ必要があるためである。溶解度が42.0重量%以下であると、上記の条件のほとんどを満たすことができる。なお、木材に沈着させるにあたっては、水に溶解可能である必要はないため、溶解度は0重量%でもよい。
上記の防腐防蟻化合物のうち、一般に溶解度が42.0重量%以下であるものは、
クレオソート油、ホウ素化合物、無機銅化合物、有機酸金属塩、有機金属化合物、フェノール系化合物、有機ヨード系化合物、有機リン系化合物、ヒドロキシアミン系化合物、ナフタリン系化合物、キノリン系化合物、アニリド系化合物、ハロアルキルチオ系化合物、ベンツチアゾール系化合物、ベンゾイミダゾール系化合物、チオシアネート系化合物、トリアゾール系化合物、カーバメート系化合物、ピレスロイド系化合物、ネオニコチノイド系化合物が挙げられる。すなわち、無機クロム化合物や4級アンモニウム塩系化合物は溶解度が高すぎるため、上記防腐防蟻化合物として用いても、溶脱しやすくなるおそれがあるため、溶出を抑制する観点からは好適ではない。
これらの化合物は、そのまま用いるのではなく、それぞれの化合物を木材に含浸させやすくするために水や揮発性物質に溶解又は分散させて、溶液や、乳剤、油剤、フロアブル剤、水和剤などの状態にした、防腐防蟻処理剤、不燃化処理剤として使用するとよい。具体的には、防腐防蟻処理剤には水、又は揮発性物質として灯油、キシレン、トルエン、ブタノールなどを用いて、これらに上記防腐防蟻化合物を分散させた乳剤、油剤、フロアブル剤、水和剤等の状態にして用いると扱いやすく好ましい。この中でも特に、水を用いると、前記揮発性物質を用いるよりも作業環境がより安全となり、安価であるので好ましい。一方で、不燃化処理剤としては、水に上記不燃化化合物を溶解させて溶液として用いると扱いやすく好ましい。
この発明にかかる改質木材の製造方法においては、上記防腐防蟻処理剤と上記不燃化処理剤とを、それぞれ単独で処理剤として使用してもよいし、それぞれの処理剤を連続して用いて、防腐防蟻効果と不燃化効果の両方を付与してもよい。また、それぞれ別個の化合物である上記防腐防蟻化合物と上記不燃化化合物を、一つの水溶媒に入れてまとめた混合処理剤として用いて、その処理剤による処理のみで防腐防蟻効果と不燃化効果との両方の処理効果が得られるようにしてもよい。
さらに、上記のホウ素化合物のように、上記防腐防蟻化合物と上記不燃化化合物との効果を兼ねる化合物を水と混合したものを、上記防腐防蟻処理剤兼上記不燃化処理剤である兼用処理剤として用いてもよい。この場合、別途他の処理剤を用いなくても、その処理剤を塗工又は減圧加圧注入するだけで、防腐防蟻効果と不燃化効果とを付与することができ、作業工程を簡略化することができる。また、このホウ素化合物を用いた兼用処理剤は、ホウ素化合物以外の上記防腐防蟻化合物や上記不燃化化合物を含有していてもよい。それにより、防腐防蟻効果や不燃化効果を相乗させることができる。以下、上記防腐防蟻処理剤、上記不燃化処理剤、上記混合処理剤、上記兼用処理剤をまとめて処理剤と表記する。
なお、これらの処理剤による塗工又は減圧加圧注入は、同じ処理剤による処理を二回以上繰り返すことによって、化合物の沈着量を向上させるとよい。上記の混合処理剤や兼用処理剤を用いる場合でも、同一の混合処理剤や兼用処理剤を複数回使用して塗工又は減圧加圧注入すると、別個の処理剤をそれぞれ塗工又は減圧加圧注入する場合に比べて、処理剤や設備等の準備負担を軽減することができる。
一方、これとは逆に、上記処理剤による処理を、それぞれについて二回以上行ってもよい。繰り返し行うことで、より多くの上記防腐防蟻化合物や上記不燃化化合物を木材に沈着でき、一度の処理では沈着量が不十分な場合に有効である。複数回処理を行っても、処理剤の準備作業は一度で済むため、複数の処理剤を併用するよりも作業負担は小さいものとなる。特に、上記混合処理剤や兼用処理剤を用いる場合は、一つの処理剤による処理を繰り返し行うだけで、防腐防蟻効果と不燃化効果の両方を十分に付与することができ、好ましい。
上記の防腐防蟻化合物及び上記不燃化化合物を木材に沈着させるための、上記処理剤の木材への注入方法は、刷毛塗りによる塗布、吹きつけ、浸漬などの塗工や、加圧・減圧注入などの注入等、いずれの方法によってもよい。また、好ましい注入量としては、それぞれの化合物により違うが、基準としては、JIS K 1571:2004 4.3.1.1.3 a)耐候操作を行わない条件で、上記のJIS K1571に規定される防腐・防蟻性能試験性能基準をクリアーするか、又はコーン熱量計法ISO5660や建築物の内装材料及び工法の難燃性試験方法JIS A 1321、建築用薄物材料の難燃性試験JIS A 1322の難燃・不燃基準の少なくとも一つをクリアーする薬剤吸収量以上の量を注入するとよい。
上記の防腐防蟻化合物及び上記不燃化化合物が十分な効果を発揮するために必要な含有量はそれぞれ異なる。上記防腐防蟻化合物による防腐防蟻化が有効に働くには、化合物の種類にもよるが、概ね1kg/m〜10kg/m程度の沈着量で十分である。一方で、上記不燃化化合物による不燃化が有効に働くには、100kg/m以上の沈着量が必要となる場合が多い。このため、上記防腐防蟻化合物の沈着は、一般的な塗工で十分であるが、上記不燃化化合物の沈着には、減圧加圧注入のように、大量の化合物を注入可能な方法を採ることが好ましい。すなわち、ホウ素化合物のように兼用できる化合物を用いた場合は、不燃化処理に必要な量を注入することで、十分な防腐防蟻効果を得ることができる。
上記処理剤を、木材に塗工、注入した後、水又は揮発性物質を乾燥、揮散させることにより、上記処理剤を構成する水又は揮発性物質が除外される。水又は揮発性物質が除外されると、木材中に残された上記防腐防蟻化合物や上記不燃化化合物が、木材細胞中に沈着される。
この沈着させた上記防腐防蟻化合物や上記不燃化化合物が上記木材から溶脱しないように、処理後の上記木材に一液常温硬化型封孔剤を塗工して、木材の表面全体を塞ぐように硬質塗膜を形成させるか、塗膜を形成させず木材の表層空孔を封孔することにより、木材細胞中に沈着された上記防腐防蟻化合物や上記不燃化化合物の漏出を防ぎ、且つ水などが上記木材に侵入することを防ぐ。
この一液常温硬化型封孔剤とは、アルコキシシラン化合物、その部分加水分解縮合物、又はそれらの両方と、硬化触媒とを含むものである。
上記一液常温硬化型封孔剤は、アルコキシシラン化合物、その部分加水分解縮合物またはその両方と、硬化触媒とを含むものである。具体的には、アルコキシシラン化合物又はその部分加水分解縮合物としては下記の(A)成分及び(B)成分を含むことが好ましい。なお、これらに対して上記硬化触媒を(C)成分とする。
[(A)成分]
上記(A)成分は、下記式(1)で示されるアルコキシシラン化合物、及びその部分加水分解縮合物から選ばれる1種の化合物又は複数種の化合物の混合物である。この(A)成分を用いることにより、硬化後、木材表層に存在する気孔を気孔内部から、又は気孔表面で封する、すなわち、封孔作用を発揮することができる。なお、(A)成分としては、下記式(1)の構造を有する1種類の化合物でもよいし、2種類以上の化合物を併用してもよい。
Si(OR4−n (1)
上記の式(1)中、Rは、置換基を有してもよい、炭素数1〜10の脂肪族又は芳香族炭化水素基を示す。Rは、炭素数1〜4のアルキル基を示す。上記のRとRとは、同一であってもよく、異なってもよい。また、nは、1〜3の整数を示す。
上記Rとしては、メチル基、エチル基、ブチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基等の芳香族基等が挙げられる。これらの中でも、Rの少なくとも1つがフェニル基であるのがより好ましい。
この(A)成分を構成するアルコキシシラン化合物の例としては、ブチルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン等のアルキルトリアルコキシシランやジアルキルジアルコキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン等のフェニル基含有アルコキシシラン等があげられる。
また、アルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物とは、上記アルコキシシラン化合物の単一物又は混合物に水を加え、塩酸、酢酸、蟻酸等の触媒の存在下で撹拌しながら昇温することにより、部分的に加水分解を生じさせて縮合させることにより得られた化合物をいう。
上記の複数種の化合物の混合物とは、上記アルコキシシラン化合物と、その部分加水分解縮合物から選ばれる1種の化合物との混合物、上記部分加水分解縮合物から選ばれる複数種の化合物の混合物、上記アルコキシシラン化合物と、その部分加水分解縮合物から選ばれる複数種の化合物との混合物をいう。上記のうち、上記部分加水分解縮合物から選ばれる化合物を複数種用いて混合する場合、上記の各アルコキシシラン化合物を、別々に加水分解縮合してから混合してもよく、複数種の上記アルコキシシラン化合物を混合してから加水分解縮合してもよい。
上記加水分解を行う際に必要に応じて溶媒を用いることができる。溶媒としては、上記混合物を溶解して均一な溶液を与えるものであれば特に制限はないが、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素化合物、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート等のセロソルブ類等が用いられる。
[(B)成分]
次に、上記(B)成分は、下記式(2)で示されるアルコキシシラン化合物、及びその部分加水分解縮合物から選ばれる1種の化合物又は複数種の化合物の混合物である。この(B)成分を用いることにより、(A)成分のみを使用した場合に比べて、上記一液常温硬化型封孔剤を木材に塗布等して注入・浸透させたとき、得られる硬化物又はこの硬化物からなる塗膜と木材との密着力がより向上し、この発明にかかる製造方法で得られた改質木材の実環境暴露時の耐久性がより向上する。なお、(B)成分としては、下記式(2)の構造を有する1種類の化合物でもよいし、2種類以上の化合物を併用してもよい。
(R−RSi(OR (2)
上記式(2)中、Rは、メルカプト基、アミノ基、フェニルアミノ基、アミノエチルアミノ基、メタクリロキシ基、グリドキシ基、イソシアネート基、又はビニル基を示す。Rは、炭素数0〜4の二価の炭化水素基を示す。Rは、炭素数1〜4のアルキル基を示す。上記Rは、炭素数1〜10の芳香族基を含む炭化水素基を示す。また、mは、1〜3の整数を、pは1〜3の整数を、qは0〜2の整数、m+p+q=4を示す。
上記(B)成分としてのアルコキシシラン化合物を加水分解縮合する方法、加水分解縮合の程度や使用する溶媒の種類等については、上記した(A)成分の場合と同様な方法、程度、溶媒の種類等を採用することができる。
この(B)成分を構成するアルコキシシラン化合物の例としては、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等があげられる。
また、アルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物とは、上記アルコキシシラン化合物の単一物又は混合物に水を加え、塩酸、酢酸、蟻酸等の触媒の存在下で撹拌しながら昇温することにより、部分的に加水分解を生じさせて縮合させることにより得られた化合物をいう。
上記の複数種の化合物の混合物とは、上記アルコキシシラン化合物と、その部分加水分解縮合物から選ばれる1種の化合物との混合物、上記部分加水分解縮合物から選ばれる複数種の化合物の混合物、上記アルコキシシラン化合物と、その部分加水分解縮合物から選ばれる複数種の化合物との混合物をいう。上記のうち、上記部分加水分解縮合物から選ばれる化合物を複数種用いて混合する場合、上記の各アルコキシシラン化合物を、別々に加水分解縮合してから混合してもよく、複数種の上記アルコキシシラン化合物を混合してから加水分解縮合してもよい。
[(A)成分と(B)成分の混合]
上記(A)成分及び(B)成分の混合比は、重量比で、(B)成分/(A)成分=5/95〜60/40がよく、7/93〜20/80が好ましい。(B)成分が5重量%より少ないと、この発明で用いる一液常温硬化型封孔剤を木材内で硬化させたときに得られる硬化物の木材への密着がかける傾向があり、また、耐久性も低下する傾向がある。一方、(B)成分が60重量%より多いと、一液常温硬化型封孔剤を木材内で硬化させたときに得られる硬化物の硬度が低下したり、耐久性が低下する傾向がある。
上記(A)成分及び(B)成分の組合せとして好ましいものとしては、(A)成分を構成するアルコキシシラン化合物として、メチルトリメトキシシランオリゴマー及びフェニルトリメトキシシランオリゴマーを用い、(B)成分を構成するアルコキシシラン化合物として、グリシドキシプロピルトリメトキシシランを用いる場合が挙げられる。
さらに、上記一液常温硬化型封孔剤は、アルコキシシラン化合物やその部分加水分解縮合物である(A)成分及び(B)成分とは別の、(C)成分となる上記硬化触媒を有する。この硬化触媒は、上記のアルコキシシラン化合物やその部分加水分解物を常温で速やかに十分に縮合させて硬化させるために必要な成分である。上記硬化触媒である(C)成分の例としては、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート等の有機スズ化合物、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン等の有機チタン化合物、トリイソプロポキシアルミニウム、トリ−n−ブトキシアルミニウム等の有機アルミニウム化合物、テトラ−n−ブトキシジルコニウム、テトラ−n−プロポキシジルコニウム等の有機ジルコニウム化合物等の有機金属化合物、塩酸、クロム酸等の無機酸、酢酸、蟻酸、グリコール酸等の有機カルボン酸等から選ばれる1種の化合物又は2種以上の化合物の混合物が挙げられる。
上記硬化触媒の中でも、常温で硬化可能となり、木材への腐蝕の影響がなく、使用条件に応じた硬化時間の調整が可能である点で、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート等の有機スズ化合物、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン等の有機チタン化合物、トリイソプロポキシアルミニウム、トリ−n−ブトキシアルミニウム等の有機アルミニウム化合物、テトラ−n−ブトキシジルコニウム、テトラ−n−プロポキシジルコニウム等の有機ジルコニウム化合物が好ましい。
上記(C)成分となる上記硬化触媒の使用量(固形分)は、上記アルコキシシラン化合物又はその部分加水分解縮合物である(A)成分及び(B)成分の合計量100重量部(固形分)に対し、0.1〜10重量部が好ましく、0.5〜5重量部がより好ましい。0.1重量部より少ないと、常温での硬化速度が遅くなったり、硬化塗膜の強度が不足したりする場合がある。一方、10重量部より多いと、硬化速度が速くなりすぎて、ポットライフ(可使時間)が短くなるため、実用的でない。
[一液常温硬化型封孔剤の粘度]
この一液常温硬化型封孔剤は、温度25℃における粘度が、2mPa・s以上であると好ましく、6mPa・s以上であるとより好ましい。一方で、100mPa・s以下であると好ましく、20mPa・s以下であるとより好ましい。この範囲とすることによって、この発明で用いる一液常温硬化型封孔剤として、溶剤を含まない無溶剤系の保存剤としても、流動性を保持することができ、木材内部への注入・浸透が可能となる。
[(D)成分]
この発明で用いる一液常温硬化型封孔剤には、必要に応じて、(D)成分として無機顔料及び/又は有機顔料を含有させることができる。すなわち、無機顔料と有機顔料とのどちらか一方でもよいし、併用してもよい。上記無機顔料は、得られる塗膜の着色の他、防食性、耐熱性などの諸性能を付与するために使用される。この無機顔料としては、特に制限されないが、金属及び合金並びにこれらの酸化物、水酸化物、炭化物、硫化物、窒化物等があげられる。また、上記有機顔料は、得られる塗膜の着色のために使用されるものであり、アゾ化合物、フタロシアニン化合物、染色レーキ、キノン化合物等があげられる。
具体例としては、酸化チタン、酸化クロム、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化コバルト、ケイ酸鉛、クロム酸鉛、モリブデン酸鉛、硫酸鉛、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭化珪素、窒化珪素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫化銅、水酸化アルミニウム、水酸化鉄、雲母、カーボンブラック等の無機顔料や、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、溶性アゾ顔料、フタロシアニンブルー、染色レーキ、イソインドリン、キナクリドリン、ジオキサジンバイオレット等の有機顔料をあげることができる。これらは、目的とする色彩を得るために、1種のみを使用することができる他、2種以上を併用して使用することができる。
なお、上記の一液常温硬化型封孔剤の粘度条件は、一液常温硬化型封孔剤が(D)成分を含む場合、(D)成分を除いたときの粘度が上記条件を満たすものであるとよい。顔料により粘度が大きく変動するためである。
上記無機顔料及び有機顔料の平均粒子径は、体積換算のメジアン径で0.1〜5μmが好ましく、0.2〜2μmがより好ましい。平均粒子径が0.1μm未満では得られる塗膜の隠蔽性が低くなりやすく、5μmを超えると顔料の沈降が起こりやすくなったり、細孔への浸透性が低下したりする傾向となり良好な封孔剤が得られない。
また、上記無機顔料及び有機顔料の配合量は、アルコキシシラン化合物やその部分加水分解縮合物である(A)成分及び(B)成分の合計量100重量部に対して、5〜100重量部が好ましく、10〜40重量部がより好ましい。添加量が5重量部未満では得られる塗膜の隠蔽性が低くなりやすく、100重量部を超えると顔料の沈降が起こりやすくなったり、塗膜の可撓性が低下したりするなど良好な塗膜が得られない場合がある。
上記無機顔料及び有機顔料の分散方法は、特に指定はないが、ビーズミル、ボールミル、三本ロール、ペイントシェーカー、サンドミルなど既知の湿式または乾式の分散機によって微粒子化され、分散されることが好ましい。また、この発明における着色木材保存剤は、顔料の分散の際に特に分散剤を必要としないが、必要に応じて既存の顔料分散剤を使用することも可能である。
[一液常温硬化型封孔剤の製造]
この発明で用いる一液常温硬化型封孔剤は、アルコキシシラン化合物やその部分加水分解縮合物と、上記硬化触媒とを混合することで製造することができる。具体的には上記(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び必要に応じて(D)成分を、それぞれ上記した範囲の量ずつ混合することにより製造することができる。
また、上記(D)成分を含む上記一液常温硬化型封孔剤の粘度は、当該一液常温硬化型封孔剤から、(D)成分を除いたときに、上記の粘度範囲を満たせばよい。これは、(D)成分を含有する場合、この(D)成分は、塗工対象の木材表面に残るが、残りの(A),(B),及び(C)の各成分は、木材内部へ注入・浸透していくので、(A),(B),及び(C)の各成分の混合物のみが、上記粘度条件を満たせば十分だからである。
[無溶剤型一液常温硬化型封孔剤]
上記一液常温硬化型封孔剤は上記の(A)乃至(D)の各成分以外に、溶剤を用いてもよいが、溶剤を用いない無溶剤型とした方が、木材に注入又は浸透させて硬化させることにより、溶剤の揮散を行うことなく、木材細胞内の気孔を一液常温硬化型封孔剤が反応して生じる封孔剤樹脂によってより確実に閉塞でき、上記防腐防蟻化合物や上記不燃化化合物の溶出をさらに抑制し、防腐防蟻性能や不燃化性能をより長期に維持することができる。また、揮発を起こさせないことで、木材表面に形成される硬質塗膜に、溶剤の揮発による気孔が生じることを防止でき、上記防腐防蟻化合物や上記不燃化化合物の溶出をさらに抑制し、防腐防蟻性能や不燃化性能をより長期に維持できる。
上記無溶剤型の一液常温硬化型封孔剤とは、上記の(A)成分〜(C)成分、及び必要に応じて(D)成分を混合した後、また、必要に応じて、部分加水分解した後、使用していた溶剤を留出させ、この溶剤の留出がなくなった状態の一液常温硬化型封孔剤をいう。具体的には、一般的に溶剤と呼ばれる化合物、例えば、沸点が145℃以下の炭化水素化合物や、酸素含有炭化水素化合物、窒素含有炭化水素化合物等の含有割合が、0.1重量%以下の一液常温硬化型封孔剤をいう。この溶剤としては、上記の沸点が145℃以下の炭化水素化合物、酸素含有炭化水素化合物、及び窒素含有炭化水素化合物の例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、トリエチルアミン、トリメチルアミン等があげられる。
[一液常温硬化型封孔剤による塗膜の形成]
上記の防腐防蟻処理剤や上記不燃化処理剤を注入する防腐防蟻処理や不燃化処理を行って、上記処理剤に含まれたり元々の木材が含んでいたりする水を乾燥させた後、上記一液常温硬化型封孔剤を、刷毛塗り、ローラー塗り、吹きつけ、浸漬等の方法によって木材の表面全体に塗工することにより、この一液常温硬化型封孔剤を木材内に注入又は浸透させる。注入、浸透後は速やかに上記硬化触媒が反応し、上記アルコキシシラン化合物やその部分分解縮合物を加水分解縮合させて硬化することにより、木材表層部気孔内に封孔剤樹脂を固定化させると共に、必要に応じて木材表面に封孔剤の硬化塗膜を形成させた改質木材を速やかに得ることが出来る。
また、塗工量の調節、又は塗工後、硬化前にウェス等で木材表面の塗膜を拭い去ることにより、木材表面に塗膜を形成させることなく、木材表層部気孔内に封孔剤樹脂を固定化した改質木材を得ることが出来る。
上記一液常温硬化型封孔剤の木材への注入量又は浸透量は、木材の樹種や木材の乾燥程度によって大きく左右される。このため、木材としては、気乾材なみに乾燥されているものが好ましい。上記木材の樹種としては、スギ、ヒノキ、サワラ、マツ、ヒバ等があげられる。また、上記木材としては、上記の各単独樹種からなるものや、合板、パーティクルボード、ファイバーボード、集成材等、複数樹種を用いたもの等があげられる。
また、上記一液常温硬化型封孔剤を塗工する際の、上記木材の乾燥の程度は、木材の完全乾燥体重量(すなわち、木材の細胞壁重量)に対する含有水分量、すなわち、含水率は、10〜20%が好ましい。20%より大きいと、上記一液常温硬化型封孔剤の注入量又は浸透量が十分でない場合がある。一方、10%より少なくともよいが、乾燥に手間がかかるとともに、無駄なコストをかけてしまうことになるので、10%あれば十分である。乾燥させる方法は、自然乾燥でも加熱乾燥でもよい。
なお、上記の含水率は、重量Wの木材を、換気の良い炉を使って100〜105℃にて恒量になるまで乾燥した状態(全乾状態)にし、そのときの重量Wを測定して、下記式(3)により算出する。
含水率(%)=(W−W)/W×100 ……(3)
上記一液常温硬化型封孔剤の木材への注入量又は浸透量は、20〜400g/mがよく、50〜150g/mが好ましい。20g/mより少ないと、上記防腐防蟻化合物や上記不燃化化合物の溶出が起こりやすく、防腐防蟻性能や不燃化性能の持続時間が短くなるおそれがある。一方、400g/mより多くてもよいが、注入又は浸透処理に無駄なコストを掛けてしまうこととなり、得策ではない。
また、無機顔料及びまたは有機顔料を含有した上記一液常温硬化型封孔剤からなる硬質塗膜を木材表面にも形成させる場合、得られる硬化塗膜の厚みは、10〜300μmが好ましく、40〜120μmがより好ましい。10μmより薄いと、隠蔽性が不十分で、意匠性を発揮できない場合がある。一方、300μmより厚いと、経時的に、塗膜にクラックを発生することがある。
無機顔料及びまたは有機顔料を含まず、(A)成分〜(C)成分のみからなる上記一液常温硬化型封孔剤によって硬質塗膜を木材表面にも形成させる場合、得られる硬化塗膜の厚みは、1〜300μmが好ましく、5〜120μmがより好ましい。1μmより薄いと、塗膜の存在が明確ではなく、意匠性を発揮できない場合がある。一方、300μmより厚いと、経時的に、塗膜にクラックを発生することがある。
さらに、上記一液常温硬化型封孔剤を木材中に注入又は浸透させ、かつ、木材表面に硬質塗膜を形成させる場合、上記一液常温硬化型封孔剤の塗工量は、40〜1000g/mがよく、100〜300g/mが好ましい。40g/mより少ないと、上記防腐防蟻化合物や上記不燃化化合物の溶出が起こりやすく、防腐防蟻性能や不燃化性能の持続期間が短くなるおそれがある。一方、1000g/mより多いと、塗膜が厚くなりすぎ、経時的に、塗膜にクラックが発生する場合がある。
この発明で用いる一液常温硬化型封孔剤は、常温で十分硬化可能であり、速やかに改質木材を得ることができるが、必要に応じて加熱処理を行うと、より速く硬化を行うことができる。目安としては、常温硬化では、20℃50%RHの環境で、触ってもくっつき感は無いが軽くなでると跡が残る程度、すなわちタックフリーの状態になるまでの所要時間が2時間程度であるように調整するとよく、実際にこの発明で用いる封孔剤はその程度に調整可能である。また、加熱硬化では、120℃の環境で30分程度に亘って加熱することで、爪で軽く擦っても傷が残らない程度に硬化することができ、工場ラインでの生産では塗布乾燥後速やかに得られた改質木材を段積み可能とすることができる。
このように、上記化合物を沈着させた木材全体に一液常温硬化型封孔剤を塗工して、上記アルコキシシラン化合物やその部分加水分解縮合物を木材内部で固定化したり、必要に応じて表面に塗膜を形成させたりすることで、この内部の固定層や塗膜により表面部分全体を塞いで水の浸入及び浸出を抑制し、予め木材内部に塗工又は注入した、上記防腐防蟻化合物や上記不燃化化合物が溶脱することを抑え、長期間に亘って防腐防蟻性能や不燃化性能を維持した改質木材を得ることができる。
この発明によって得られる改質木材は、プレスカット部材、屋外製品部材、足場板、合板、集成材、単板積層材等に使用することができ、また、既存の木造構築物に使用することもできる。さらに、この発明にかかる改質木材の製造方法を、既存の木造建築物に適用して、防腐防蟻性能や不燃化性能を持たせることもできる。
以下、実施例を提示してこの発明をより具体的に説明する。
(実施例1,2、比較例1,2、不燃化処理剤の固定)
[試験体の調製]
スギの辺材(99mm×99mm×25mm)4個を、温度60℃の循環式乾燥機で7日間乾燥し、質量を測定後、吸湿しないようにデシケーターに保管した。
[不燃化処理]
上記のように調整した試験体を、加圧減圧用の密閉容器(3リットル)に入れ、4kPaまで減圧して60分間放置し、その後減圧された状態にて、密閉容器ジャケットに80℃の温水を供給して加温しつつ、密閉容器の中へ80℃に加熱された不燃化処理剤を10分間かけて1.5リットル注入する減圧加圧注入を行った。次に、不燃化処理剤を注入した密閉容器を1MPaまで加圧して90分間保持した後、試験体を取り出し軽く表面の水切りを行い、温度60℃の循環式乾燥機で7日間乾燥した。
その後、乾燥された試験体を再度、加圧減圧用の密閉容器(3リットル)に入れ、4kPaまで減圧して60分間放置し、その後減圧された状態にて、密閉容器ジャケットに80℃の温水を供給して加温しつつ、密閉容器の中へ80℃に加熱された不燃化処理剤を10分間かけて1.5リットル注入する減圧加圧注入を行った。次に、不燃化処理剤を注入した密閉容器を1MPaまで加圧して180分間保持した後、試験体を取り出し軽く表面の水切りを行い、温度60℃の循環式乾燥機で7日間乾燥し、質量を測定後、デシケーター内に保管した。この不燃化処理の前後における試験体の質量差を、不燃化化合物の沈着量として計算すると、表1に記載のように、278kg/mとなった。
Figure 0005010328
なお、上記の不燃化処理剤は下記の成分比による。
・ホウ砂(Na・10HO、U.S.ボラックス社製)……20重量部
・ホウ酸(HBO、U.S.ボラックス社製)……10重量部
・脱イオン水……70重量
[一液常温硬化型封孔剤の調製]
(A)成分、(B)成分、(C)成分として、それぞれ以下の化合物を使用し、表2の成分で混合して一液常温硬化型封孔剤を調製した、その粘度を測定した。
・(A)成分……メチル基及びフェニル基含有アルコキシシランオリゴマー(信越化学工業(株)製:KR−213)
・(A)成分……メチルトリメトキシシランオリゴマー(信越化学工業(株)製:KC−89S)
・(B)成分……γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製:KBM−803)
・(B)成分……3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング(株)製:SH6040)
・(C)成分……テトラ−n−ブトキシチタン(日本曹達(株)製:B−1)
Figure 0005010328
[粘度の測定]
東機産業(株)製:TVE−22H型粘度計を用い、コーン:1°34’(R:24)、20rpmの条件下で測定した。なお、封孔剤の混合直後に測定を行った。
[一液常温硬化型封孔剤による封孔処理]
上記の不燃化処理を行った試験体4個のうち、2個をデシケーターより取り出し(実施例1,2)、上記で調製した一液常温硬化型封孔剤を刷毛により、試験体の全面に塗布量120g/mとなるように塗布し、塗布から10分後に、清浄な布で試験体表面に残存している封孔剤を拭き取り、質量を量り、その後、10日間デシケーター内に放置した。
[耐候操作による溶脱試験]
不燃化処理と封孔処理とを行った試験体のうちの1つ(実施例1)と、不燃化処理を行いかつ封孔処理を行わなかった試験体のうちの1つ(比較例1)とを、木材保存剤の性能試験方法及び性能基準JIS K 1571 4.2.1.1.3.a)に準拠して以下のように耐候操作を行った。なお、準拠の際の変更点はビーカーを500mlから3000mlに変更したのみである。これは、試験体の大きさをJIS K1571より大きくし、不燃性評価試験の試験体に合わせたためである。
すなわち、試験体をそれぞれ3000mlビーカーに入れ、試験体容積の10倍量の脱イオン水を加え、試験体をこの脱イオン水の中に沈めた。マグネチックスターラーを用いて、温度25±3℃で回転子を毎分400〜450回転させて8時間攪拌した後で取り出し、直ちに試験体の表面の水切りを行った。続いて60±2℃の循環式乾燥機中に16時間静置し、揮発分を揮散させた。以上の操作を交互に10回繰り返した。
[溶脱量の測定]
上記のごとく、溶脱操作を行ったそれぞれの試験体の各々10回の試験体の操作後のビーカー中の脱イオン水を各々50ml採取し、試験体ごとに10回分の脱イオン水をまとめて、500mlの脱イオン水を得た。この溶脱後の脱イオン水2検体を、JIS K 1570「7.5.3ほう素化合物の測定法(ICP発光分光分析)」に基づきホウ砂及びホウ酸の溶脱量を測定した。その結果を表1に示す。
[難燃・不燃試験]
表1のように封孔処理及び耐候操作の実施の有無が異なる上記の試験体4個を、それぞれ、温度23±2℃、相対湿度50±5%の恒温恒湿器中で4日間放置した後、ISO5660発熱性試験(コーンカロリメーター試験)を実施した。この試験の評価は、輻射強度50kW/mで、判定基準として(1)総発熱量が8MJ/m以下であり、(2)防火上有害な裏面まで貫通する亀裂及び穴がなく、(3)最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/mを超えないことを条件とする。その条件で、輻射時間が5分以上のものを「難燃材料」、10分以上のものを「準不燃材料」、20分以上のものを「不燃材料」と判定する。その結果を表1に示す。
(結果)
封孔処理を行った実施例1及び2は、耐候操作を行った実施例1の発熱性試験結果が、耐候操作を行わなかった実施例2と比べてほとんど変化が無く、耐候操作の条件下であっても、ホウ素の一部のみが溶脱しただけで、不燃化処理による効果を保持し続けていることがわかった。これに対して、封孔処理を行わなかった比較例1及び2は、耐候操作を行わない条件の比較例2では発熱性試験の結果が優良であるのに、耐候操作を行った比較例1はホウ素が全て溶脱してしまい、その後の発熱性試験では、まったく不燃効果を示すことが出来なかった。
(実施例3、比較例3、防腐防蟻処理剤の固定)
[試験体の調製]
すぎ辺材(5mm×20mm×40mm(木口面:5mm×20mm、まさ目面:20mm×40mm)、温度60±2℃の循環式乾燥器で48時間乾燥し、30分間デシケーター中に放置した後、吸湿しないようにデシケーター中に保管したもの)を用いた。まず、このすぎ辺材の木口面をエポキシ樹脂塗料(コニシ(株)製:ボンドクイックメンダー)でシールし、3日間デシケーター中に保管した。
[防腐防蟻処理]
上記保管後の試験体28個をデシケーターより取り出し、まさ目に防腐防蟻処理剤を刷毛にて120g/mとなるように塗布し、温度60℃の循環式乾燥機で2日間乾燥し、質量を測定後、デシケーター内に保管した。その結果の平均値を表3に示す。
Figure 0005010328
なお、ここで用いた防腐防蟻処理剤(表中「処理剤1」と表記する。)は下記の成分比による。
・ホウ砂(Na・10HO、U.S.ボラックス社製、20℃における水への溶解度、3.6重量%)……5重量部
・脱イオン水……95重量部
[一液常温硬化型封孔剤の調製]
実施例1と同様の一液常温硬化型封孔剤を使用した。
[一液常温硬化型封孔剤による封孔処理]
防腐防蟻処理を行った試験体のうち14個をデシケーターより取り出し、上記の一液常温硬化型封孔剤を刷毛により、試験体の全面に塗布量120g/mとなるように塗布し、塗布から10分後に、清浄な布で試験体表面の封孔剤を拭き取り、質量を量り、その後、10日間デシケーター内に放置した。塗布前の質量との差から、拭き取られずに試験体内部に浸透した封孔剤の量を、表3に封孔剤浸透量として示す。
[耐候操作による溶脱と測定]
上記の防腐防蟻処理と封孔処理を行った14個(実施例3)と、防腐防蟻処理のみを行った14個(比較例3)とを、木材保存剤の性能試験方法及び性能基準JIS K1571 4.2.1.1.3.a)に従って、500mlのビーカーを用いた以外は実施例1と同様に耐候操作を行った。得られた試験体について、実施例1と同様にホウ砂及びホウ酸の溶脱量を測定した。その結果を表3に示す。
(実施例4〜7、比較例4〜7、水への溶解度が異なる別の防腐防蟻化合物による防腐防蟻処理を行った試験体)
実施例3及び比較例3において、用いる防腐防蟻化合物を下記の組成(表中「処理剤2〜5」と表記する。)とした以外は同様の手順により試験体をそれぞれ14個ずつ調製し、耐候操作を行った。それぞれを実施例4〜7及び比較例4〜7とする。その防腐防蟻試験を行った測定結果を表3に示す。
・処理剤2:四ホウ酸リチウム(Li):キシダ化学(株)製
・処理剤3:四ホウ酸カリウム(K・4HO):キシダ化学(株)製
・処理剤4:メタホウ酸ナトリウム(NaBO・4HO):キシダ化学(株)製
・処理剤5:モクボーベネザーブ:大日本木材防腐(株)製
(比較例8,9、防腐防蟻処理を行わない試験体)
実施例3において、防腐防蟻処理を行わずに封孔処理のみを同様に行った試験体14個を比較例8と、さらに封孔処理も行わなかった試験体14個を比較例9とする。その測定結果を表3に示す。
(実施例8)
実施例3と同様の試験体を使用し、防腐防蟻処理剤として実施例3と同様のホウ砂を用いて実施例3と同様の手順により防腐防蟻処理を行った。一方で、(A)成分乃至(C)成分を実施例1と同様の混合率で混合するとともに、表2に記載の量のアサヒ化成工業(株)製:コバルトブルーグリーン1250(以下「コバルト」と称する。)を(D)成分として、(A)成分乃至(C)成分の合計量:(D)成分=7:3となる重量混合比で混合させた一液常温硬化型封孔剤を調製した。なお、表2の混合比は(D)成分追加後の値である。この一液常温硬化型封孔剤を用いて、試験体の全面に刷毛で230g/mとなるように塗布した後、拭き取りを行わず、秤量し、ウェット膜厚を測定した後、10日間デシケーター内に放置した。なお、ウェット膜厚の測定においては、BYK−Gardner社製:ウェット膜厚計3504(測定レンジ 5〜150μm)にて、ウェット膜厚を測定した。
なお、コバルトブルーグリーン1250は、酸化コバルト:20wt%、酸化クロム:65wt%、酸化亜鉛:13wt%、酸化アルミ:2wt%の混合物である。
(実施例3〜8,比較例3〜9、防腐防蟻試験)
[防腐試験]
上記の実施例3〜8,比較例3〜9の試験体のうち、それぞれ9個について、温度60±2℃の循環式乾燥機で48時間乾燥し、30分間デシケーター内に放置した後に、その質量を量った。その結果を表3に示す。その後、木材保存剤の性能試験方法及び性能基準JIS K1571 4.2.1.1.3 b)に準拠して下記のような抗菌操作を行った。なお、準拠する際の変更点は、カワラタケの培養菌についての抗菌操作を行わず、オオウズラタケの培養菌のみとすることである。
すなわち、培養瓶にJIS K 1571 4.2.1.1.1 e)に規定するオオウズラタケ培養菌を、1培養瓶ごとに3個ずついれ、その上に殺菌した厚さ1mmの耐熱性プラスチックの網を置き、試験体を1培養瓶ごとに3個、繊維方向を鉛直方向に向けて載せて、温度26±2℃、相対湿度70%以上の環境で、12週間置いた。
上記の抗菌操作が終了した後、試験体を取り出し、表面の菌糸その他の付着物を十分に取り除き、24時間風乾した後、温度60±2℃の循環式乾燥機で48時間乾燥し、30分間デシケーター中に放置して、その質量を量り、試験前後での質量減少率を算出した。その結果を表3に示す。この試験の前後での、質量減少率が3%以下であると、JIS K 1571の性能基準を満たすものとなる。
[防蟻試験]
上記の実施例3〜8,比較例3〜9の試験体のうち、それぞれ5個について、温度60±2℃の循環式乾燥機で48時間乾燥し、30分間デシケーター内に放置した後に、その質量を量った。その結果を表3に示す。その後、木材保存剤の性能試験方法及び性能基準JIS K1571 4.2.1.1.3 c)に従い、下記のような食害操作を行った。
すなわち、飼育容器の硬質石膏の上に厚さ1mmのプラスチック製の網を置き、その上に試験体1個を木口面が上下になるように置く。次いでシロアリを飼育容器1個に職蟻150頭と兵蟻15頭を投入し、28±2℃の暗所に21日間静置する食害操作を行った。終了後、試験体を飼育容器から取り出し、試験体表面の付着物を十分に取り除き、24時間風乾した後、60±2℃の循環式乾燥機で48時間乾燥し、30分間デシケーター中に放置して、質量を量り、試験前後での質量減少率を算出した。食害操作の前後での質量減少率が3%以下であると、JIS K 1571の性能基準を満たすものとなる。
(結果)
封孔処理を行わなかったそれぞれの比較例では、いずれも防腐防蟻化合物が100%溶脱してしまっていた。溶解度が低いものほど防腐防蟻試験の両方で質量減少率が低くなる傾向は見られたものの、いずれも性能基準を満たすには至らず、ほとんどの場合、防腐防蟻化合物を沈着させなかった比較例8,9と大差無い結果となった。これに対して、封孔処理を行った実施例では、溶解度が∞であるモクボーベネザーブを用いた実施例7以外の防腐防蟻化合物を用いた実施例では、防腐効果及び防蟻効果共に十分に効果を発揮した。

Claims (9)

  1. 木材中に防腐防蟻化合物、不燃化化合物、又はそれらの両方を沈着させた後、アルコキシシラン化合物、その部分加水分解縮合物、又はそれらの両方と、硬化触媒とを含む無溶剤型一液常温硬化型封孔剤を前記木材細胞内、木材表面、又はその両方で硬化させて、前記防腐防蟻化合物、前記不燃化化合物、又はそれらの両方の溶出を防止又は抑制することを特徴とする、改質木材の製造方法。
  2. 上記防腐防蟻化合物と揮発性物質又は水とを含有した防腐防蟻処理剤、及び、上記不燃化化合物と水とを含有した不燃化処理剤の少なくとも一方を、木材に塗工又は減圧加圧注入した後、前記防腐防蟻処理剤及び前記不燃化処理剤に含まれる前記揮発性物質又は水を揮散、乾燥させた後、上記無溶剤型一液常温硬化型封孔剤を前記木材に塗工して硬化させる、請求項1に記載の改質木材の製造方法。
  3. 上記防腐防蟻化合物が、クレオソート油、ホウ素化合物、無機銅化合物、無機クロム化合物、有機酸金属塩、有機金属化合物、4級アンモニウム塩系化合物、フェノール系化合物、有機ヨード系化合物、有機リン系化合物、ヒドロキシアミン系化合物、ナフタリン系化合物、キノリン系化合物、アニリド系化合物、ハロアルキルチオ系化合物、ベンツチアゾール系化合物、ベンゾイミダゾール系化合物、チオシアネート系化合物、トリアゾール系化合物、カーバメート系化合物、ピレスロイド系化合物、及びネオニコチノイド系化合物から選ばれ、かつ、20℃における水への溶解度が42.0重量%以下である化合物の1種又は2種以上の混合物である請求項1又は2に記載の改質木材の製造方法。
  4. 上記不燃化化合物が、ホウ素化合物、リン化合物、ハロゲン化合物、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、及び水酸化マグネシウムのうち20℃における水への溶解度が42.0重量%以下である化合物の1種または2種以上の混合物からなる、請求項1乃至3のいずれかに記載の改質木材の製造方法。
  5. 上記防腐防蟻化合物でありかつ上記不燃化化合物であるホウ素化合物と水とを含む処理剤を上記防腐防蟻処理剤兼上記不燃化処理剤として木材に塗工又は減圧加圧注入し、他の上記防腐防蟻処理剤及び上記不燃化処理剤での処理を行うことなく、防腐防蟻効果と不燃化効果とを木材に付与することを特徴とする、請求項2乃至3のいずれかに記載の改質木材の製造方法。
  6. 上記硬化触媒が、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物及び有機アルミニウム化合物から選ばれる1種の化合物又は2種以上の化合物の混合物である、請求項1乃至5のいずれかに記載の改質木材の製造方法。
  7. 上記無溶剤型一液常温硬化型封孔剤が、
    上記のアルコキシシラン化合物、その部分加水分解縮合物、又はそれらの混合物として、下記式(1)の構造を有する(A)成分と、下記式(2)の構造を有する(B)成分とを含み、
    かつ、上記硬化触媒である(C)成分を含み、温度25℃における粘度が2mPa・s以上100mPa・s以下である、請求項1乃至6のいずれかに記載の改質木材の製造方法。
    (A)成分:
    Si(OR4−n……(1)
    (上記式(1)中、Rは、置換基を有してもよい、炭素数1〜10の脂肪族又は芳香族炭化水素基を示す。Rは、炭素数1〜4のアルキル基を示し、Rと同一でもよい。nは1〜3の整数を示す。)
    (B)成分:
    (R−RSi(OR ……(2)
    (上記式(2)中、Rは、メルカプト基、アミノ基、フェニルアミノ基、アミノエチルアミノ基、メタクリロキシ基、グリシドキシ基、イソシアネート基又はビニル基を示す。Rは、炭素数0〜4の二価炭化水素基を示す。Rは、炭素数1〜4のアルキル基を示す。Rは、置換基を有していてもよい、炭素数1〜10の脂肪族又は芳香族炭化水素基を示す。mは1〜3の整数を示す。pは1〜3の整数を示す。qは0〜2の整数を示す。また、m+p+q=4である。なお、m、p、qが2以上のとき、それぞれの置換基を構成するR,R,R,Rは、それぞれが互いに違うものであってもよい。)
  8. 上記無溶剤型一液常温硬化型封孔剤が(D)成分として無機顔料及び/又は有機顔料を含み、この(D)成分を除いたときの25℃における粘度が2〜100mPa・sである、請求項1乃至7のいずれかに記載の改質木材の製造方法。
  9. 上記(D)成分を構成する無機顔料及び/又は有機顔料の平均粒子径が0.1〜5μmである、請求項8に記載の改質木材の製造方法。
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