JP5008818B2 - ポリエステルフィルム - Google Patents

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Description

本発明は、各種食品包装用、一般工業用、光学用、電気材料用、成形加工用などの各種用途に適し、また、フィルムラミネート金属板の構成材料として有用なポリエステルフィルムに関する。
例えば飲食料の包装容器の一形態である金属缶は、機械的強度に優れることから、内容物の長期保存が可能であり、また、内容物を高温で充填しそのまま密封したり、レトルト処理等の殺菌処理も容易に行えるため、包装容器としての安全衛生性に対する信頼性も高く、更に加温状態で内容物を保存できたり、使用後の缶体分別回収が比較的容易であるという多くの長所を有するため、近年様々な内容物が充填され多量に使用されている。
飲食用金属缶の内面及び外面には、内容物の風味を保ち、金属缶の腐食を防止するため、あるいは缶外面の美粧性向上、印刷面保護を目的として、従来より熱硬化性樹脂を主成分とする塗料が塗布されていた。しかし、このような金属缶は、製造時に多量の溶剤を使用するため、製造時の脱溶剤による環境への影響、塗膜中の残留溶剤による衛生面での問題、熱硬化時の反応不良で残留するオリゴマーによるフレーバー性の低下等の問題を有する。
これらの問題点を克服するために、プラスチックフィルムを金属板にラミネートすることが提案されている。熱可塑性樹脂のなかでも、接着性、耐熱性、力学的強度、フレーバー性、加工適性等の点で他の樹脂よりも優れた点が多いので、ポリエステルフィルムを金属板にラミネートすることが多く行われている。そして、ポリエステルフィルムラミネート金属板から加工した金属缶として、いわゆる3ピース缶(以下、3P缶と略す)や2ピース缶(以下、2P缶と略す)が提案されている。缶のシームレス化という観点では、2P缶の普及が望まれている。
2P缶の一般的な製造方法として、プラスチックフィルムを金属板にラミネートした後、ラミネート金属板を製缶機で打ち抜き、絞りしごき工程によりシームレス缶とする方法が一般的である。この製缶工程において、プラスチックフィルムは絞りしごきのせん断を受けながら、亀裂や金属板からの剥離を生じることなく、金属板の延展に追従しうる成形性が要求される。また、製缶工程における加熱によりフィルムの白化が起こらないことも要求される。
これらの要求特性に対して、特定の還元粘度を有するポリエチレンテレフタレート(PET)系ポリエステル樹脂と特定の還元粘度を有するポリブチレンテレフタレート(PBT)系ポリエステル樹脂とを配合したポリエステルフィルムが提案されている。
例えば、特許第2882985号公報、特許第3020731号公報においては、ポリエチレンテレフタレート系ポリエステル樹脂とポリブチレンテレフタレート系ポリエステル樹脂とを配合したポリエステルフィルムが提案されている。配合する両ポリエステルの半結晶化温度、半結晶化時間を最適化することにより、金属板の変形に対するフィルムの追従性とレトルト白化を抑えている。
また、特開平10−195210号公報、特開平10−110046号公報においても、ポリエチレンテレフタレート系ポリエステル樹脂とポリブチレンテレフタレート系ポリエステル樹脂とを配合したポリエステルフィルムが提案されている。フィルムの熱特性と面配向度を最適化することにより、金属板の変形に対するフィルムの追従性と、ラミネート後の熱処理(結晶化処理)によるフレーバー性を向上させている。このとき、フィルムにおける上記2種のポリエステル相互間でエステル交換反応が進行しすぎていると結晶化度を大きくすることができないため、フィルム形成時の樹脂の溶融時間やそれ以降の延伸、熱処理工程においてフィルムにかかる熱量を下げるような工夫がされている。
さらに、特開2002−179892号公報、特開2002−321277号公報においても、PETとPBTのブレンドフィルムが提案されており、成形転写用、成形容器用、金属貼り合わせ用などに使用できることが開示されている。これらは、ブレンドフィルムでありながら、PET相とPBT相が独立した結晶を有することにより、熱融着と成形性を維持することができるとあり、そのために、ベント式押出機を使用してブレンド樹脂を押出すことが開示されている。
しかしながら、上述した公知のポリエステルブレンドフィルムでは、実質的にフィルムをその融点付近又は融点よりも高い温度で溶融して金属板などに貼り合わせてから降温した場合に、フィルムに白化が生じてしまい、フィルムの意匠性が損なわれるという問題が避けられなかった。また、フィルムをそのまま成形加工する場合においても、フィルムの融点付近又は融点よりも高い温度で溶融する場合は、冷却と共にフィルムに白化が生じてしまい、フィルムの意匠性が損なわれるという問題が避けられなかった。
また、缶の種類によっては、その原材料であるラミネート金属板の製造の際に、フィルムと金属板とのより高い溶融接着温度を必要とするものがある。その場合、フィルムの熱収縮が大きいと金属板との接着時にしわが入り加工適性が不良となる。そのため、加工速度を遅くする必要があり、生産効率上、フィルムの熱収縮を小さくする必要があった。
特許第2882985号公報 特許第3020731号公報 特開平10−195210号公報 特開平10−110046号公報 特開2002−179892号公報 特開2002−321277号公報
公知のポリエステルブレンドフィルムにおける前記白化の問題は、以下のとおりと推察される。上述した公知のポリエステルブレンドフィルムの製造においては、ブレンドすべき複数種のポリエステル樹脂チップを溶融前から混合(ドライブレンド)して、得られた混合チップを押出機に投入し、溶融・混合する。そのため、複数種のポリエステル樹脂チップは実質的にほぼ同時に溶融が開始され、長時間にわたって溶融、混合される。長時間の溶融、混合によって、共重合化(エステル交換反応の進行)が起こっているか、又は共重合化が起こっていなくても実質的に相溶性の複数種のポリエステルは非常に微分散された状態となると考えられる。複数種のポリエステルが共重合化せず、互いに実質的に独立した分散状態での結晶性を有していても、非常に微分散された状態において相互の影響を受け合いやすい。そのため、個々のポリエステルについて、より高いレベルでの結晶性の独立性が維持されず、その結果、溶融状態からの降温時において結晶化が進みにくく、フィルムの白化が生じると推察される。
前記白化の問題を解決するためには、ブレンドすべき複数種のポリエステル、例えばPETとPBTの分散状態を粗くすることにより、個々のポリエステルの結晶化速度を高めることが望まれる。
本発明の目的は、機械的特性に優れ、高い結晶性を有し、金属板との貼合わせにおいてフィルムの融点付近又は融点以上に熱処理しても白化せず意匠性に優れ、耐擦傷性にも優れ、フィルムの熱収縮の少ないポリエステルフィルムを提供することにある。本発明の目的は、前記特性に優れ、各種食品包装用、一般工業用、光学用、電気材料用、成形加工用などの各種用途に適し、また、フィルムラミネート金属板の構成材料として有用なポリエステルフィルムを提供することにある。
本発明には、次の発明が含まれる。
(1) ポリエチレンテレフタレート系樹脂(A)と、ポリブチレンテレフタレート系樹脂及びポリトリメチレンテレフタレート系樹脂から選ばれる結晶性ポリエステル樹脂(B)とを、樹脂(A)と樹脂(B)の合計量を基準として、樹脂(A)10〜90重量%及び樹脂(B)90〜10重量%の割合で配合したポリエステル系樹脂組成物からなるフィルムであって、
示差走査熱量計(DSC)における20℃/分での降温時の再結晶化ピークの半値幅w(℃)と高さh(mW)の比w/hが0.78℃/mW以上1.25℃/mW以下であり、かつ150℃、30分間での縦方向と横方向の熱収縮率の差[縦方向の熱収縮率−横方向の熱収縮率]が0.8%以下であることを特徴とするポリエステルフィルム。
(2) 前記再結晶化ピークのピーク温度(Tc2)が180℃以上250℃以下である、(1)に記載のポリエステルフィルム。
(3) ポリエステルフィルムの還元粘度が0.80以上2.2以下である、(1)又は(2)に記載のポリエステルフィルム。
(4) 金属板ラミネート用である、(1)〜(3)のうちのいずれかに記載のポリエステルフィルム。
(5) (1)〜(3)のうちのいずれかに記載のポリエステルフィルムを金属板にラミネートしたフィルムラミネート金属板。
本発明によれば、機械的特性に優れ、高い結晶性を有し、金属板との貼合わせにおいてフィルムの融点付近又は融点以上に熱処理しても白化せず意匠性に優れ、耐擦傷性にも優れ、フィルムの熱収縮の少ないポリエステルフィルムが提供される。本発明のポリエステルフィルムは、前記特性に優れ、各種食品包装用、一般工業用、光学用、電気材料用、成形加工用などの各種用途に適し、特に、フィルムラミネート金属板の構成材料として有用である。本発明のポリエステルフィルムは、特に熱収縮度合いが小さいので、フィルムと金属板とのラミネート時の高い温度を必要とする用途にも適している。
本発明のポリエステルフィルムは、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(A)と、ポリブチレンテレフタレート及びポリトリメチレンテレフタレートから選ばれる結晶性ポリエステル樹脂(B)とを、樹脂(A)と樹脂(B)の合計量を基準として、樹脂(A)10〜90重量%及び樹脂(B)90〜10重量%の割合で配合したポリエステル系樹脂組成物から構成される。
本発明において用いられるポリエチレンテレフタレート系樹脂(A)は、ポリエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするものであり、ポリエチレンテレフタレート(PET)のホモポリマーであってもよく、他の共重合可能な成分が共重合されたコポリマーであってもよい。コポリマーの場合には、ポリエチレンテレフタレート構成成分をポリエステル成分の80モル%以上含むことが好ましく、90モル%以上含むことがより好ましい。共重合可能な酸成分としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェン酸、フタル酸などの芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、アジピン酸、ダイマー酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、エイコ酸などの脂肪族ジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多官能酸、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(2−オキシ酪酸)、及びそれらの誘導体が挙げられる。共重合可能なアルコール成分としては、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、及びそれらの誘導体が挙げられる。
ポリエチレンテレフタレート系樹脂(A)の還元粘度は、好ましくは0.55〜0.90であり、より好ましくは0.58〜0.80である。樹脂(A)の還元粘度が0.55より小さくなると、実用に供することのできる機械的強度を有するフィルムが得られにくくなり、一方、樹脂(A)の還元粘度が0.80を超えると、フィルムの金属板への熱圧着性が損なわれやすい。
また、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(A)の重量平均分子量Mwは、好ましくは1万〜20万であり、より好ましくは5万〜10万である。樹脂(A)の分子量Mwが1万より小さくなると、製缶時のフィルムの金属板変形への追従性が損なわれやすく、また分子量Mwが20万より大きくなると、オリゴマー量が多くなりフレーバー性が損なわれやすい。
本発明において用いられる結晶性ポリエステル樹脂(B)は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂及びポリトリメチレンテレフタレート(PTT)系樹脂のうちから選ばれる。PBT系樹脂及びPTT系樹脂の両者が用いられてもよい。
ポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂は、ポリブチレンテレフタレートのホモポリマーであってもよく、他の共重合可能な成分が共重合されたコポリマーであってもよい。コポリマーの場合には、ポリエステルの高結晶性を損なわないために、ポリブチレンテレフタレート構成成分をポリエステル成分の80モル%以上含むことが好ましく、90モル%以上含むことがより好ましい。同様に、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)系樹脂は、ポリブチレンテレフタレートのホモポリマーであってもよく、他の共重合可能な成分が共重合されたコポリマーであってもよい。コポリマーの場合には、ポリエステルの高結晶性を損なわないために、ポリトリメチレンテレフタレート構成成分をポリエステル成分の80モル%以上含むことが好ましく、90モル%以上含むことがより好ましい。
PBT系樹脂やPTT系樹脂について、共重合可能な酸成分としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェン酸、フタル酸などの芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、アジピン酸、ダイマー酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、エイコ酸などの脂肪族ジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多官能酸、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(2−オキシ酪酸)、及びそれらの誘導体が挙げられる。共重合可能なアルコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、及びそれらの誘導体が挙げられる。
樹脂(B)の還元粘度は、好ましくは0.80〜2.20であり、より好ましくは0.85〜1.50である。樹脂(B)の還元粘度が0.80より小さくなると、実用に供することのできる機械的強度を有するフィルムが得られにくく、一方、樹脂(B)の還元粘度が2.20を超えると、フィルムの金属板への熱圧着性が損なわれやすい。
本発明のポリエステルフィルムにおいて、ポリエチレンテレフタレート系樹脂(A)と結晶性ポリエステル樹脂(B)との配合割合は、樹脂(A)と樹脂(B)の合計量を基準として、樹脂(A)10〜90重量%及び樹脂(B)90〜10重量%であり、好ましくは樹脂(A)10〜70重量%及び樹脂(B)90〜30重量%であり、より好ましくは樹脂(A)35〜65重量%及び樹脂(B)65〜35重量%である。樹脂(A)が90重量%よりも多い(すなわち、樹脂(B)が10重量%よりも少ない)と、フィルムの成形加工性が低下し、特にフィルムが金属板にラミネートされたラミネート金属板の製缶時に製缶不良を起こし、フィルムが損傷しやすくなる。一方、樹脂(A)が10重量%よりも少ない(すなわち、樹脂(B)が90重量%よりも多い)と、フィルムをその融点付近又は融点よりも高い温度で溶融した後に降温した場合に、フィルムに白化が生じやすい。
本発明のポリエステルフィルムは、示差走査熱量計(DSC)における降温時の再結晶化ピークの半値幅w(℃)と高さh(mW)の比w/hが1.30℃/mW以下である。
図1は、結晶性ポリエステルフィルムの示差走査熱量計(DSC)による降温時の再結晶化ピークを示すチャートを簡略化して示した図である。この図において、再結晶化ピーク1のベースラインLからピークトップtまでの高さをh(mW)とし、高さh/2での温度幅すなわち半値幅をw(℃)としたとき、半値幅wと高さhの比w/h(℃/mW)が定義される。
このように定義される再結晶化ピークの半値幅wと高さhの比w/hの値によって、ポリエステルフィルムの降温時における再結晶化過程での結晶化の速さを知ることができる。前記比w/hの値が小さいほど、発熱反応が速やかに起こり、結晶化速度が速いことを示すと考えられる。前記比w/hの値が小さいほど、フィルム系内においてポリエステル樹脂(A)と樹脂(B)とが適度に粗く分散されており、フィルムの結晶化速度が速いことを示すと考えられる。
本発明のポリエステルフィルムにおいて、前記比w/hの値が1.30℃/mW以下であると、フィルムの融点付近又は融点以上からの降温時における冷却過程でのフィルムの結晶化速度が速いために、可視光の散乱には寄与しない程度に小さい微結晶がフィルム内部に素早く且つ多量にできるため、加工特性を維持しつつフィルムが白化しない。一方、前記比w/hの値が1.30℃/mWより大きくなると、降温時における冷却過程でのフィルムの結晶化速度が遅いために、微結晶が可視光を散乱させる大きさにまで成長し、そのためにフィルムの白化が生じると考えられる。
本発明のポリエステルフィルムにおいて、降温時の再結晶化ピークの前記比w/hの値は、1.10℃/mW以下が好ましく、1.00℃/mW以下がより好ましい。このような好ましい前記比w/hを有するポリエステルフィルムは、より好ましい耐白化性を示す。なお、前記比w/hの下限値は、特に定められないが、一般的に0.30℃/mW程度である。
また、本発明のポリエステルフィルムにおいて、示差走査熱量計(DSC)における降温時の再結晶化ピークのピーク温度(Tc2)は、180℃以上が好ましく、185℃以上がより好ましく、190℃以上がさらに好ましく、192℃以上が最も好ましい。前記再結晶化ピークの温度(Tc2)が180℃以上の場合、融点からの降温時における冷却過程でのフィルムの結晶化速度がより速いために、可視光の散乱には寄与しない程度に小さい微結晶がフィルム内部により素早く且つ多量にできる。そのため、このような好ましい前記再結晶化ピーク温度(Tc2)を有するポリエステルフィルムは、より好ましい耐白化性を示す。なお、あまり高すぎる前記再結晶化ピーク温度(Tc2)を有するポリエステルフィルムは、成形加工性が低下し、特にこのポリエステルフィルムを金属板にラミネートしたラミネート金属板の製缶時に製缶不良を起こしてフィルムが損傷しやすくなる。このことから、前記再結晶化ピーク温度(Tc2)は250℃以下が好ましい。
本発明のポリエステルフィルムは、150℃、30分間での縦方向と横方向の熱収縮率の差〔すなわち、(縦方向の熱収縮率)−(横方向の熱収縮率)〕が1.1%以下である。ポリエステルフィルムの製造において、横方向の熱収縮率は、一般に比較的小さく抑えることができる。縦方向の熱収縮率は、一般に横方向の熱収縮率よりも大きくなる。このことから、ポリエステルフィルム全体としての熱収縮率を小さくする観点から、本発明のポリエステルフィルムは、縦方向と横方向の熱収縮率の差が1.1%以下とされる。この縦方向と横方向の熱収縮率の差が1.1%を超えると、ラミネート時のフィルム収縮が大きくなり、金属板との接着時にしわが入り加工適性が不良となる。本発明のポリエステルフィルムにおいて、縦方向と横方向の熱収縮率の差は、0.9%以下が好ましく、0.6%以下がより好ましく、0.3%以下がさらに好ましい。このような好ましい前記熱収縮率差を有するポリエステルフィルムは、高温でのラミネート時においても、フィルム収縮が非常に小さく、加工適性に非常に優れる。
また、フィルムの熱収縮率の値としては、縦方向の熱収縮率については、0.0〜5.0%が好ましく、0.0〜3.0%がより好ましく、0.0〜1.7%がさらに好ましい。横方向の熱収縮率については、0.0〜3.9%が好ましく、0.0〜2.0%がより好ましく、0.0〜1.4%がさらに好ましい。縦方向と横方向の熱収縮率が前記好ましい範囲よりも大きな値となると、両者の熱収縮率の差が1.1%以下であっても、加工適性は良くない。
また、本発明のポリエステルフィルムの還元粘度(ηsp/c)は、好ましくは0.80以上、より好ましくは0.85以上、さらに好ましくは0.90以上、最も好ましくは0.95以上である。フィルムの還元粘度を0.80以上とすることにより、フィルムの耐擦傷性が向上する。フィルムの還元粘度が0.80未満では、金属板にラミネート後のフィルムの硬度が不足し、ラミネート金属板の加工時に傷がつきやすくなったり、製缶時にアルミやスチール板が変形したり、部分的に破壊される原因となる。ポリエステルフィルムの還元粘度の上限については、特に限定されることはないが、例えば2.2以下、好ましくは1.3以下である。フィルムの還元粘度がこのような数値範囲0.80以上2.2以下を満たし、且つ、フィルムの前記再結晶化ピーク温度(Tc2)が180℃以上250℃以下を満たすことにより、フィルムの耐擦傷性がさらに向上する。
次に、本発明のポリエステルフィルムの製造について説明する。
本発明の再結晶化ピークの前記比w/hの値が1.30℃/mW以下とされたポリエステルフィルムを製造するために、フィルム系内においてポリエステル(A)と(B)の適度に粗い分散度を達成し、速い結晶化速度を達成することが必要となる。そのために、以下のような製造方法をとることが好ましい。
本発明において、PET(A)とPBT及び/又はPTT(B)とをそれぞれ個別に溶融し、溶融状態のPET(A)とPBT及び/又はPTT(B)とを所定の配合割合で混合し、得られた混合樹脂を成形する。具体的には、(A)と(B)とを別々の押出機に投入し個別にそれぞれの適温(融点+30℃以下)で溶融し、溶融状態の(A)と(B)とを所定の配合割合で混合して、得られた混合樹脂をダイに導き、溶融押出する方法である。
従来からの一般的なポリエステルフィルムの製造において、単一のフィルム層を構成する材料は単一の押出機に投入され、溶融、押出されて、フィルムが成形される。背景技術の欄で例示した特許文献においても、2種類以上の異なるポリエステル材料が用いられているが、押出機としては単一の押出機が使用され、前記2種類以上の異なるポリエステル材料は一括して溶融混合されている。これは、製膜時の安定性及び経済性を考慮した結果と推察される。そのため、より高い品質のフィルムの製造は困難であったようである。
従来法において、例えば、一軸又は二軸スクリューを有する単一の押出機のみを使用して、PET(融点255℃)とPBT(融点220℃)とのブレンドフィルムを作成する場合では、両者の融点の差が30℃以上あることから、両者を樹脂チップの段階からブレンドすると押出機の温度は、PETの融点以上に設定する必要があり、通常は、生産の安定性などを考慮し280℃以上に設定される。PBTは260℃以上で分解が始まり、さらには280℃付近から分解速度がより速くなるため、280℃以上に設定された押出機の熱によりPBTの分子量が小さくなる。その結果、PBTとPETとの相溶性が向上し、より均一化の方向に進むため、共重合化(エステル交換反応)しやすくなる。あるいは、PBTとPETとが共重合化せず、独立に近い状態の結晶性を有していても、非常に微分散された状態において相互の影響を受けやすく、より高いレベルでの結晶性の独立性が維持されない。そのため溶融状態からの降温時において結晶化が進みにくく、結果としてより高いレベルでの白化の防止ができなかったと推察される。
PET樹脂(A)とPBT及び/又はPTT樹脂(B)との間でエステル交換反応が起こると、樹脂(A)と樹脂(B)との共重合体が生成することになり、PET樹脂(A)の主成分構造であるエチレンテレフタレート構造がランダム化し、その特徴である剛直性が損なわれ、一方、PBT及び/又はPTT樹脂(B)の主成分構造であるブチレンテレフタレート構造、又はトリメチレンテレフタレート構造がランダム化し、その特徴である高結晶性が損なわれる。その結果、結晶化速度が遅くなり、白化の原因となる粗大球晶が発生しやすい。
従来法において、特に緩圧縮型の押出機を使用した場合、圧縮比の大きい(例えば、2.0より大きい圧縮比)押出機を使用した場合、及びL/Dの大きい(例えば、35より大きいL/D)押出機を使用した場合には、見かけの設定温度は低くできるが、押出機の圧縮部(コンプレッションゾーン)における自己発熱量が大きくなり、設定温度以上に樹脂の温度は高くなり、そのために融点の低いPTT、PBTなどは分解しやすいようである。
このような従来法の問題を解消すべく、本方法では、PET(A)とPBT及び/又はPTT(B)とをそれぞれ個別に溶融し、溶融状態の(A)と(B)とを混合する。この製造方法を採ることにより、(A)と(B)との共重合化(エステル交換反応)や、微分散化を抑制でき、製膜の安定性を維持しつつ、品質の向上したフィルムが得られることがわかった。
PET(A)とPBT及び/又はPTT(B)の個別の溶融工程では、2台以上の押出機を並列に使用することが好ましい。このような押出機としては、公知の種々のものを用いることができる。また、2台以上の押出機の並列使用に代わりに、単一の押出機を使用して個別の溶融を行うことも可能である。
ただし、単一の押出機を使用して個別の溶融を行う場合には、一軸押出機においてスクリューの圧縮部(コンプレッションゾーン)がダブルフライト型のもので、且つ急圧縮型で圧縮比の小さいもの(2.0以下の圧縮比)のものを使用する必要がある。ここで、「ダブルフライト型」とは、スクリューの圧縮部(コンプレッションゾーン)を二重らせん構造にし、主フライト間に主フライト外径よりもやや小さい外径のサブフライトを設けた構成を意味し、サブフライトによってポリマーの固相部と溶融部とが分離されるという特徴を有する。スクリューの圧縮部がダブルフライト型であれば、先に溶融を始めたPBT(及び/又はPTT)(B)とその時点では固体を維持しているPET(A)とは、圧縮部の前半のフライトで分離されるため、(A)と(B)との個別の溶融が行われる。そして、(A)と(B)との溶融状態での接触時間が短くなり、適度に粗い分散が達成されると考えられる。このような圧縮部(コンプレッションゾーン)がダブルフライト型のスクリューを有する押出機としては、例えば、三菱重工社製のUBシリーズ(商品名)が挙げられるが、その全てで本発明に合致するポリエステルフィルムの製造が達成されるとは限らず、前述した条件を満たす必要がある。単一の押出機の使用方法では、条件の許容範囲が狭いため、2台以上の押出機を並列で使用する方法が好ましい。
溶融状態の(A)と(B)との混合工程において、それぞれ溶融したポリエステルを混合する機台としては、通常の一軸押出機、二軸押出機、ダイナミックミキサー、スタティックミキサー(ノリタケカンパニー製など)などを用いる。この際、溶融状態の(A)と(B)とがあまり均一に混合され相溶化しすぎないように、通常の一軸押出機や二軸押出機を使用する場合は、圧縮比の小さいもの(例えば1.1〜3.8、好ましくは1.3〜3.0)、押出機スクリュー全体のL/Dが小さいもの(例えば20〜35、好ましくは20〜30)及び圧縮部のL/Dが小さいもの(例えば5〜25、好ましくは10〜20)が望ましい。
この混合工程において、より最適な(A)と(B)との分散度を得るために、スタティックミキサーを用いることも好ましい。スタティックミキサーのエレメント数を12以上32以下とすることが好ましく、15以上28以下とすることがより好ましい。このようなエレメント数のスタティックミキサーを用いることによって、適度に粗い分散度が得られやすく、白化が生じることのない良好なフィルムが得られる。
また、本発明において、樹脂(A)及び樹脂(B)を含むフィルム組成物中に、エステル交換等の副反応を抑制するために、特定のリン化合物を添加することも好ましい。従来より、PET系樹脂とその他の結晶性ポリエステル樹脂とを含むフィルム組成物中でのエステル交換等の副反応を抑制する手段として、さまざまな手段が公知となっている。しかし、工業的フィルム生産の場で応用するには、特定のリン化合物をフィルム組成物中に添加することにより、触媒作用によるエステル交換反応を抑制することが好ましい。また、混合する際の樹脂チップのサイズを制御することも好ましい。
このようなリン化合物としては、また押出機内での安定性を考えると融点が200℃以上、分子量は200以上のものがよい。例えば、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジエチル、フェニルホスホン酸ジフェニル、ベンジルホスホン酸ジメチル、ベンジルホスホン酸ジエチル、ジフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸メチル、ジフェニルホスフィン酸フェニル、フェニルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸メチル、フェニルホスフィン酸フェニル、ジフェニルホスフィンオキシド、メチルジフェニルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィンオキシド等が挙げられる。これらの有機リン化合物の1種又は2種以上を用いることができる。リン化合物はあらかじめ樹脂に予備混練しておくことが好ましく、ポリエチレンテレフタレート樹脂のチップに予備混練しておくことがより好ましい。
リン化合物の添加量はリン化合物の種類によっても異なるが、エステル交換反応抑制の観点から、樹脂(A)及び樹脂(B)の合計量に対して0.01〜0.3重量%程度が好ましい。なお、ポリエステルフィルムを飲料缶など食品用途に使用する場合はFDA(米国食品医薬品局)、ポリオレフィン等衛生協議会などの基準を満たす化合物及び量で使用する必要がある。
また、本発明において、樹脂(A)及び樹脂(B)を含むフィルム組成物中に、結晶化の核剤となるものを添加するとさらに好ましい。そのための核剤としては、有機微粒子、無機微粒子のいずれもが使用でき、シリカ、カオリン、炭酸カルシウム、二酸化チタン、ポリエチレングリコール、タルクなどが挙げられ、好ましくはタルクである。これら結晶核剤の1種又は2種以上を用いることができる。結晶核剤の添加量は、一般的に、樹脂(A)及び樹脂(B)の合計量に対して0.0001〜1.0重量%程度が適当である。
得られた溶融状態の混合樹脂を押し出す。樹脂の押出条件において、樹脂温度は265℃以下で且つシリンダ部からT−ダイまでの温度設定において275℃以上、好ましくは270℃以上の領域を作らないことが必要である。温度が高くなった時点で、ポリエステル樹脂(A)及び樹脂(B)の相溶性が高まり、微分散状態となる。その結果、フィルムの白化が生じやすく、粘度低下の原因となり、フィルム硬度が低下しやすい。
本発明のポリエステルフィルムは、以上の条件を満たし、且つ縦方向と横方向の前記熱収縮率の差が1.1%以下を満たせば、通常のフィルムの製膜設備によってインフレーション法、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法などで製造することが可能である。また溶融押出されたシートを未延伸のまま使用したり、1軸だけ延伸してもよい。
一般の逐次二軸延伸方式を例にとると以下の方法が例示される。溶融状態の混合樹脂(A)及び(B)をT−ダイより押出し、シートを静電密着することにより、未延伸シートを得る。そのシートを50〜100℃の周速差のあるロールに導き、2.5〜5倍に縦方向に延伸し、その延伸シートをテンターへ導き60〜120℃で2.5〜5倍延伸し、そのまま180〜230℃で熱固定する。
本発明においては、縦方向と横方向の前記熱収縮率の差が1.1%以下のポリエステルフィルムを得るために製膜条件が重要となる。通常の逐次二軸延伸における方法では、前述したとおり二軸目の延伸終了後にテンター内でそのまま、横方向に弛緩しながら熱固定をすることにより熱収縮率を抑える。しかし、縦方向の弛緩が困難なため、縦方向と横方向の熱収縮率には差が生じることが多い。そのため、本発明においては、テンターのクリップを用いて縦方向に弛緩させる方法や、テンターを出たあとに、周速差のある加熱ロールを用いて弛緩させる方法を採用するとよい。弛緩させる条件は、延伸倍率や速度などに関係するため、個々に条件を設定する必要があるが、熱固定温度は180〜230℃、緩和率は2〜8%とし、縦方向及び横方向の差は温度で20℃以下、緩和率で2%以下(例えば、横方向の弛緩率を4%と設定したなら、縦方向は2〜6%に設定)とすることが好ましい。このような方法によって、縦方向と横方向の前記熱収縮率の差が1.1%以下のポリエステルフィルムを得ることができる。
本発明のポリエステルフィルムの厚みは、好ましくは3〜1000μm、より好ましくは5〜70μmである。また、通常、溶融混合に際し、ポリエステル組成物に滑剤を添加して成形してフィルムとされる。滑剤としては、シリカ、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、テレフタル酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、リン酸カルシウム等の無機系滑剤、シリコーン粒子等の有機系滑剤が挙げられるが、無機系滑剤が好ましい。滑剤の添加量は、一般的に、樹脂(A)及び樹脂(B)の合計量に対して0.01〜5重量%程度、好ましくは0.02〜0.2重量%が適当である。また、溶融混合に際し、滑剤の他に、必要に応じて、安定剤、着色剤、酸化防止剤、消泡剤、帯電防止剤等の各種添加剤を含有させることができる。
以上の製造方法によって、示差走査熱量計(DSC)における降温時の再結晶化ピークの前記比w/hが1.30℃/mW以下であり、かつ150℃、30分間での縦方向と横方向の熱収縮率の差が1.1%以下である本発明のポリエステルフィルムを得ることができる。
得られたポリエステルフィルムを金属板にラミネートすることにより、ラミネート金属板とする。この場合、ローラー又は金属板を150〜270℃に加熱しておき、金属板とポリエステルフィルムとをローラーによって貼り合わせた後、急冷し、金属板に接するフィルムの少なくとも表層部を溶融融着させればよい。ラミネート速度は、例えば1〜200m/分、好ましくは2〜150m/分である。また、ポリエステルフィルムを金属板上に載置した後、フィルムを金属板にラミネートしてもよい。
本発明のポリエステルフィルムは、金属板ラミネート用途のみならず、各種食品包装用、一般工業用、光学用、電気材料用、成形加工用などの各種用途に用いることができる。より詳しくは、一般包装用、帯電防止用、ガスバリア用、ヒートシール用、防曇、金属蒸着、易引裂性、易開封、製袋包装用、レトルト包装用、ボイル包装用、薬包装用、易接着性、磁気記録用、コンデンサ用、インクリボン用、転写用、粘着ラベル用、スタンピングホイル用、金銀糸用、トレーシング材料用、離形用、シュリンクフィルム用などの各種用途に用いることができる。これらのうちでも、本発明のポリエステルフィルムは、成形加工用(フィルム単独を成形して目的の物品とする際の成形材料)、金属板ラミネート用(フィルムラミネート金属板の構成材料)に特に好適である。本発明のポリエステルフィルムは、特に熱収縮度合いが小さいので、フィルムと金属板とのラミネート時の高い温度を必要とする用途にも適している。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、実施例においてポリエステルの各特性値は、次のようにして測定した。
1.還元粘度(ηsp/C)
ポリマー0.125gをフェノール/テトラクロロエタン=6/4(重量比)25mlに溶解し、ウベローデ粘度管を用いて25℃で測定した。単位はdl/gである。
2.フィルムの融点、結晶化温度、及び結晶化ピークの前記比w/h
マックサイエンス社製DSC3100Sを使用し、ポリエステルフィルムをサンプルパンに入れ、パンのふたをし、窒素ガス雰囲気下で室温から280℃まで20℃/分の速度で昇温測定した。このときに現れる融解ピークのピークトップの温度をポリエステルフィルムの融点とし、樹脂(B)由来の低温側ピークのピークトップの温度をTmL(℃)、樹脂(A)由来の高温側ピークのピークトップの温度をTmH(℃)として示した。
次に、280℃になったサンプルをそのまま1分間保持し、その後に20℃/分の速度で室温まで降温測定した。このときの再結晶化ピークのピークトップの温度を結晶化温度Tc2とした。また、図1に示されるように、この再結晶化ピーク1のベースラインLからピークトップtまでの高さをh(mW)とし、高さh/2での半値幅をw(℃)としたとき、半値幅wと高さhの比w/h(℃/mW)を求めた。
3.フィルムの白化
フィルムを以下の条件でアルミ板にラミネートし、280℃及び290℃(2水準)でそれぞれ、1分間ギアオーブン中に放置した。その後、25℃の空気を風速20m/分でラミネート板のフィルム面に当てることにより冷却した。冷却後のフィルムを目視で次のように判定した。
(ラミネート条件)
ラミネート温度:220℃
線圧:10N/cm
◎:全く白化がなく、フィルム面の光沢度合いが高い
○:僅かに白化が見られるが、フィルム面の光沢度合いは高い
△:白化が見られ、フィルム面の光沢度合いは低い
×:白化が著しく、フィルム面の光沢度合いは低い
本発明においては、280℃での評価○が少なくとも必要であり、280℃での評価◎が好ましくは求められる。
4.硬度
上記3.において280℃での加熱、冷却で処理したラミネート板のフィルム面を、鉛筆の芯の先端を尖らしで強くこすった。そのときキズのつかなかった最も高い鉛筆の硬度で評価した。
5.製缶性
フィルムを上記3.で示したラミネート条件でアルミ板にラミネートし、240℃で処理後、缶体を成形した。成形後のフィルムの剥離、切れ、クラック等の損傷の有無を目視及び蛍光顕微鏡で(倍率80倍)で観察し、以下の基準に基づき評価した。
◎:缶体100個のうち、95個以上に損傷なし
○:缶体100個のうち、80〜94個に損傷なし
△:缶体100個のうち、70〜79個に損傷なし
×:缶体100個のうち31個以上になんらかの損傷あり
本発明においては、評価△が、好ましくは評価○が、より好ましくは評価◎が求められる。
6.熱収縮率
次のようにして、縦方向及び横方向それぞれについて、熱収縮率を測定した。
サンプルフィルムを10mm×150mmにカットし、これに間隔100mmとなるように2本の標線を入れた試験片を10本作成した。試験片を無荷重下で150℃のギアオーブン中に30分間放置した後、取り出して室温に戻して標線の間隔を測定した。熱収縮率を下式に従い求め、10本の平均値を各サンプルフィルムの熱収縮率とした。
熱収縮率(%)=[(A−B)/A]×100
ここで、A:加熱前の標線間の距離、B:加熱後の標線間の距離である。
7.ラミネート適性
アルミ板を200℃に加熱し、アルミ板上にローラーで抑えながらフィルムをラミネートした。そのときにシワや欠陥がなくラミネートできれば○、シワや欠陥が発生すれば×とした。
[実施例1]
ポリエステル樹脂(A)として、予めシリカ(富士シリシア製、サイリシア310)2000ppm(重量)を重合時に添加したポリエチレンテレフタレート樹脂(還元粘度0.75、触媒は二酸化ゲルマニウム)を60mmφ押出機I(L/D=29、圧縮比4.2)に投入し、275℃で溶融した。一方、ポリエステル樹脂(B)としてポリブチレンテレフタレート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック社製、ノバドゥール5010、還元粘度1.10)及び有機リン化合物(アデカスタブPEP−45、旭電化工業(株)製)300ppm(樹脂(B)の重量を基準として)を別の60mmφ押出機II(L/D=29、圧縮比4.2)に投入し、242℃で溶融した。その後、押出機I及び押出機IIの溶融物を、I/II=5/5(重量比)となるように溶融状態のまま90mmφ押出機III (L/D=25、圧縮部のL/D=12、圧縮比1.5)にそれぞれ導き、投入し、混合、溶融し、T−ダイから押出し、厚さ200μmの未延伸シートを得た。このとき押出機III のシリンダ部及びフィルタ部(200メッシュ)の温度は260℃とし、押出機III のスクリュー先端部からT−ダイまでは255℃とし、T−ダイから出た樹脂の温度は257℃となるようにした。また、T−ダイに入る直前の樹脂の圧力は、8 .8 MPa(90kgf/cm2 )となるようにした。
この未延伸シートを、ロール延伸機に導き、縦方向に68℃で3.3倍に延伸し、さらにテンターにて横方向に93℃で3.5倍に延伸し、さらにテンターにて横方向に93℃で3.4倍に延伸し、そのままテンター内で横方向に3%緩和しながら210℃で熱固定を行った。さらにそのまま、周速差のあるロールにフィルムを導き、縦方向に3%緩和させながら220℃で熱固定し、厚さ18μmのフィルムを得た。
[比較例1]
押出機III のフィルタ部の温度を285℃とし、押出機III のスクリュー先端部からT−ダイまでは282℃とし、最終的にT−ダイから出た樹脂の温度を266℃とした以外は、実施例1と全く同様の操作で未延伸シートを得て、さらにフィルムを得た。
[実施例2]
押出機III の圧縮比を4.0とした以外は、実施例1と全く同様の操作で未延伸シートを得て、さらにフィルムを得た。押出機III の温度設定条件は全て実施例1の場合と同一であったが、T−ダイから出た樹脂の温度は263℃であった。
[比較例2]
シリカ含有PET樹脂(A)、PBT樹脂(B)及び有機リン化合物を実施例1の場合と同一重量比となるように直接、押出機III (L/D=25、圧縮部のL/D=12、圧縮比4.0)にペレット状態で投入し、混合、溶融した。実施例1と同じ温度条件で押出し、未延伸シートを得て、さらにフィルムを得た。押出機III の温度設定条件は実施例1の場合と同一であったが、T−ダイから出た樹脂の温度は265℃であった。
[実施例3]
ポリブチレンテレフタレートの代わりに、ポリトリメチレンテレフタレート(還元粘度0.98)を用いた以外は、実施例1と全く同様の操作で未延伸シートを得て、さらにフィルムを得た。T−ダイから出た樹脂の温度は260℃であった。
[実施例4]
押出機III の代わりにスタティックミキサー(ノリタケカンパニーリミテッド製、N20、エレメント数12、シリンダ温度258℃)を用いた以外は、実施例1と全く同様の操作で未延伸シートを得て、さらにフィルムを得た。T−ダイから出た樹脂の温度は258℃であった。
[実施例5]
実施例1と同様の方法で厚さ38μmのフィルムを得た。その後、得られたフィルムを、金型を用い90℃で成形し、深さ5mm×幅50mm×長さ50mmの携帯電話用の液晶の表面カバーを作成した。フィルムに白化は見られず良好なものであった。このことから、本実施例で得られたフィルムは、成形加工用としても良好であることが確認できた。
[比較例3]
シリカ含有PET樹脂(A)及びPBT樹脂(B)をPET/PBT=42/58(重量比)となるようにペレット状態で混合し、これを押出機III (L/D=25、圧縮部のL/D=12、圧縮比4.0)にペレット状態で投入し、押出機III の温度設定条件を全て290℃とした以外は実施例1と同じ操作で未延伸シートを得て、さらに厚さ18μmのフィルムを得た。T−ダイから出た樹脂の温度は290℃であった。
比較例3のフィルムでは、押出し樹脂温度が高かったためか、DSCでの融点ピークが1つしか見えなかった。
[比較例4]
PET(シリカ含有なし)30重量%とPBT70重量%とを用いて、押出機に投入した。この押出機は75mmφ、L/D=45、圧縮比3.5、圧縮部のL/D=30の緩圧縮スクリューを有するものであった。さらに温度条件を全て265℃とした以外は実施例1と同じ操作で未延伸シートを得て、さらに厚さ12μmのフィルムを得た。T−ダイから出た樹脂の温度は290℃であった。
比較例4のフィルムでは、DSCでの融点ピークは2つ見えたが、圧縮比が大きく、緩圧縮スクリューの押出機を用いたためか、再結晶化ピークの比w/hは大きく、白化が多く見られた。
[比較例5]
PET(シリカ含有なし)50重量%とPBT50重量%とを用いて、押出機に投入した。この押出機はベント式押出機(池貝工機製、PCM−45)であり、溶融物をT−ダイより押出した。押出機の温度条件を全て280℃とし、T−ダイから出た樹脂温度も280℃であった。得られた未延伸シートを、68℃で3.4倍縦延伸し、そのあとテンターで80℃で4.0倍横延伸し、さらに引き続きテンターで240℃で1秒間熱固定し、さらに160℃で5%幅弛緩をほどこし、厚さ25μmのフィルムを得た。
比較例5のフィルムでは、DSCでの融点ピークは2つ見えたが、温度がやや高く、2軸スクリュー押出機を用いたためか、再結晶化ピークの比w/hは大きく、白化が多く見られた。
[実施例6及び7]
押出機I及び押出機IIの溶融物の混合重量比をそれぞれ、I/II=75/25(実施例6)、25/75(実施例7)とした以外は、実施例1と全く同様の操作で未延伸シートを得て、さらにフィルムを得た。
[比較例6及び7]
PET(2000ppmシリカ含有)のみ(比較例6)、又はPBT(2000ppmシリカ含有)のみ(比較例7)を原料とした以外は、比較例4と全く同様の操作で未延伸シートを得て、さらにフィルムを得た。
[比較例8、実施例8及び9、比較例9]
縦方向の緩和率を0.02%(比較例8)、2%(実施例8)、4%(実施例9)、10%(比較例9)とした以外は、実施例1と全く同様の操作で未延伸シートを得て、さらにフィルムを得た。比較例9では、製膜中にしわが入り、2軸延伸フィルムが得られなかった。
各ポリエステルフィルムの製造条件を表1に示し、特性結果を表2に示す。
Figure 0005008818
Figure 0005008818
表1及び表2より、本発明のポリエステルフィルム(実施例1〜9)はいずれも、白化の問題がなく、硬度、製缶性、ラミネート特性にも優れていた。比較例1〜5では、再結晶化ピークの比w/hが1.30℃/mWを超えているために、白化の問題が見られた。比較例5及び8では、縦方向と横方向の熱収縮率の差が1.1%を超えているために、ラミネート特性に劣っていた。
本発明において、結晶性ポリエステルフィルムの示差走査熱量計(DSC)による降温時の再結晶化ピークを示すチャートの模式図である。
符号の説明
1:再結晶化ピーク
L:ベースライン
t:ピークトップ
h:ベースラインLからピークトップtまでの高さ
w:h/2での温度幅(半値幅)

Claims (5)

  1. ポリエチレンテレフタレート系樹脂(A)と、ポリブチレンテレフタレート系樹脂及びポリトリメチレンテレフタレート系樹脂から選ばれる結晶性ポリエステル樹脂(B)とを、樹脂(A)と樹脂(B)の合計量を基準として、樹脂(A)10〜90重量%及び樹脂(B)90〜10重量%の割合で配合したポリエステル系樹脂組成物からなるフィルムであって、
    示差走査熱量計(DSC)における20℃/分での降温時の再結晶化ピークの半値幅w(℃)と高さh(mW)の比w/hが0.78℃/mW以上1.25℃/mW以下であり、かつ150℃、30分間での縦方向と横方向の熱収縮率の差[縦方向の熱収縮率−横方向の熱収縮率]が0.8%以下であることを特徴とするポリエステルフィルム。
  2. 前記再結晶化ピークのピーク温度(Tc2)が180℃以上250℃以下である、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
  3. ポリエステルフィルムの還元粘度が0.80以上2.2以下である、請求項1又は2に記載のポリエステルフィルム。
  4. 金属板ラミネート用である、請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
  5. 請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載のポリエステルフィルムを金属板にラミネートしたフィルムラミネート金属板。
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