JP5007998B2 - リグノセルロース系植物材料腐朽物を用いる糖化方法 - Google Patents

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Description

本発明はリグノセルロース系植物材料の糖化方法に関する。より詳細には、本発明は、リグノセルロース系植物材料の腐朽物を使用して、環境負荷、処理に要するエネルギーやコストを低減しながら、安全に且つ効率よく処理して、リグノセルロース系植物材料から糖を高率で得ることのできる糖化方法に関する。
急激な人口増加、各国における産業発達などの種々の要因により、近年、石油、天然ガス、石炭などの化石資源の消費がますます増加しており、それに伴って化石資源の埋蔵量の減少、排出された炭酸ガスなどによる地球の温暖化や環境汚染などの問題が地球的規模で生じている。
そのような化石資源の減少や地球環境の悪化に対処するために、繰り返して生産が可能な植物を原料に用いてエタノールなどの燃料を製造することが色々行われるようになっており、より実効性の高い技術の開発が強く求められている。
植物を原料として燃料を製造する技術の代表例の1つとして、植物から糖を製造し、その得られた糖から燃料として有用なエタノールを製造する技術が知られている。その際に、糖を得るための原料植物としては、サトウキビのような糖を高濃度で含む植物やトウモロコシ、サツマイモなどのような糖化の容易な澱粉質を多く含む植物よりなる澱粉系植物材料が従来一般に使用されている。一方、リグニンなどの難分解性成分を含むリグノセルロース系植物材料(木質系植物材料および草本系植物材料)はあまり使用されていない。かかる点から、リグニンなどの難分解性成分を含むリグノセルロース系植物材料を原料とする実効性のある糖化技術の開発が求められている。
リグノセルロース系材料から糖を製造する技術は、一般に(1)リグノセルロース系植物材料に濃硫酸、希硫酸などの酸を加えてセルロースを直接糖にする酸糖化法、(2)リグノセルロース系植物材料に前処理を施してリグニンなどの難分解性成分からなる植物の細胞壁や細胞間層の分解、損傷を生じさせた後に、セルラーゼのような糖化酵素を加えてセルロースを加水分解して糖にする酵素糖化方法の2つに大別される。
上記(2)の酵素糖化方法では、その前処理方法によって、更に、(2a)リグノセルロース系植物材料を粉砕、蒸煮(蒸煮爆砕、蒸煮、熱水分解・加圧熱水処理など)、エネルギー線(電子線、γ線、マイクロウエーブ)の照射などの物理的方法で処理して植物の細胞壁に分解、損傷を生じさせる物理的前処理を行う酵素糖化法、(2b)リグノセルロース系植物材料を酸(硫酸、亜硫酸、リン酸)、アルカリ(カセイソーダ、アンモニアなど)などを用いて化学的に分解、損傷を生じさせる化学的前処理を行う酵素糖化法、および(2c)リグノセルロース系植物材料を白色腐朽菌などのリグニン分解菌を用いて生物的前処理を行う酵素糖化法に分類される(非特許文献1を参照)。
上記した方法のうち、上記(1)の酸糖化法および上記(2b)の化学的前処理を行う酵素糖化法は、いずれも、リグノセルロース系植物材料の糖化または前処理に当たって、酸、アルカリなどの化学薬品を用いるため、それらの薬品に耐え得る設備を使用する必要があることから設備費が高くなるという問題がある。しかも、糖化または前処理に用いた酸やアルカリの中和処理とそれによって発生する大量の中和廃棄物(例えば硫酸カルシウムなど)の処理、或いは前処理に用いた溶媒の除去を行う必要があるため、手間やコストがかかり、しかも地球環境の汚染の問題がある。
また、白色腐朽菌などのリグニン分解菌を用いて生物的前処理を行う上記(2c)の従来の酵素糖化法は、リグニンの分解に通常2カ月〜半年という極めて長い時間を要するため、リグノセルロース系植物材料の分解−糖化を短期間で行うことができず、効率の良い糖化方法であるとは言い難い。
上記(2a)の物理的前処理を行う酵素糖化法の場合は、糖化または前処理に酸、アルカリなどの化学薬品を用いないために、安全性に優れ、地球環境の汚染の問題が少なく、また処理に用いた化学薬品の後処理やそれにより生じた廃棄物の処理などの問題がない。しかしながら、上記(2a)の物理的前処理を行う酵素糖化法のうち、物理的前処理として蒸煮(蒸煮爆砕、蒸煮、熱水分解・加圧熱水処理など)、またはエネルギー線照射を行うものでは、蒸煮のための高温・高圧装置や、電子線、γ線、マイクロウエーブなどのエネルギー線の照射装置などの高価な装置が必要なため、設備費が高くなり、しかも前処理工程の管理を厳密に行う必要がある。
それに対して、上記(2a)の物理的前処理を行う酵素糖化法のうち、リグノセルロース系植物材料を粉砕により前処理した後に糖化酵素で処理する方法は、前処理に酸、アルカリなどの特別の化学薬品を使用する必要がないばかりでなく、高価で管理を厳密に行う必要のある蒸煮装置(高温・高圧装置)やエネルギー線照射装置を使用する必要がなく、従来汎用の粉砕装置のうちから適当な粉砕装置を選択使用して粉砕するだけで、植物の細胞を形成するリグニンを分解、損傷させて、糖化酵素によるセルロースの加水分解を受け易くできることから、簡便で、地球環境の汚染が少なく、しかも設備費を低くでき、望ましい方法である。
そこで、本発明者らは、上記(2a)の物理的前処理を行う酵素糖化法のうち、リグノセルロース系植物材料を粉砕により前処理した後に糖化酵素で処理する方法について検討を行ったところ、この方法を実用価値のあるものにするためには、リグノセルロース系植物材料の糖化率をより高くすることが極めて望ましいことが判明した。
「バイオエネルギー技術と応用展開」、2003年10月31日発行、シーエムシー出版発行、p.165−171
本発明の目的は、難分解性のリグニンを含有するリグノセルロース系植物材料を粉砕し、それにより得られるリグノセルロース系植物材料の粉砕物を糖化酵素で処理して糖を製造する糖化方法において、エネルギー効率の向上、糖化酵素による糖化作用の促進、処理時間の短縮等の効率化を図りながら、従来よりも糖をより高い収率で得ることのできる方法を提供することである。
本発明者らは、上記の目的を達成すべく検討を重ねてきた。その結果、リグノセルロース系植物材料を腐朽菌によって腐朽処理した後に糖化処理を行う方法とリグノセルロース系植物材料を粉砕により前処理してから糖化する方法を組み合わせ、その際に水分含量を特定の範囲に調節して腐朽処理した後に、それにより得られるリグノセルロース系植物材料腐朽物に、小麦フスマおよび/または末粉を添加して特定量の水分下に粉砕処理してリグノセルロース系植物材料腐朽物の水性粉砕物をつくり、その水性粉砕物を糖化酵素で処理して糖化すると、リグノセルロース系植物材料の腐朽菌による腐朽処理に要する時間を従来よりも大幅に短縮しながら、リグノセルロース系植物材料を効率良く糖化できることを見出した。
さらに、本発明者らは、前記した方法を採用してリグノセルロース系植物材料の糖化処理を行うと、リグノセルロース系植物材料を粉砕処理のためにわざわざ乾燥する必要がなくなり、水分を多く含むリグノセルロース系植物材料であっても乾燥せずにそのまま使用することができ、エネルギー効率が向上すること、その上、腐朽菌による腐朽処理と水分の存在下での粉砕処理によってリグノセルロース系植物材料の細胞壁の破壊および損傷が促進されて、糖化酵素による糖化作用の促進、処理時間の短縮等の効率化を図りながら、高い糖化率を達成できることを見出した。
また、本発明者らは、前記した糖化方法において、リグノセルロース系植物材料の腐朽菌による腐朽処理を、小麦フスマおよび/または末粉を添加して行うと、腐朽処理が一層促進されること、また特定pHの乳酸緩衝液を添加して行うと、腐朽処理が一層促進されることを見出した。
さらに、本発明者らは、前記した糖化方法において、リグノセルロース系植物材料腐朽物に小麦フスマおよび/または末粉を添加してリグノセルロース系植物材料腐朽物の固液混合物を調製する工程、リグノセルロース系植物材料腐朽物の固液混合物を粉砕処理する工程およびリグノセルロース系植物材料腐朽物の水性粉砕物を糖化酵素で糖化する工程ののうちの少なくとも1つを、界面活性剤および/またはマンガン塩を更に添加して行うと、リグニンから主として形成されている植物材料の細胞壁の破壊および損傷が一層促進され、また糖化酵素による糖化作用の促進、処理時間の短縮等の酵素処理の効率化を図りながら、糖が一層高い収率で得られることを見出した。
そして、本発明者らは、その際に界面活性剤の添加量は、リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して0.5〜5質量部が好ましく、またマンガン塩の添加量はリグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して0.05〜0.5質量部が好ましいことを見出し、それらの種々の知見に基づいて本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
(1)(i)リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して小麦フスマおよび/または末粉を1〜100質量部(乾物換算)の割合で混合し且つ水分含量を60〜80質量%に調節した混合物に、腐朽菌を接種して腐朽処理を行って、リグノセルロース系植物材料腐朽物を調製し;
(ii)(a)前記(i)で調製したリグノセルロース系植物材料腐朽物に加水して、リグノセルロース系植物材料腐朽物を含有する水分含量85〜95質量%の固液混合物を調製するか;または、
(b)前記(i)で調製したリグノセルロース系植物材料腐朽物に、小麦フスマおよび/または末粉を1〜20質量部(乾物換算)の割合で混合すると共に加水して、リグノセルロース系植物材料腐朽物と小麦フスマおよび/または末粉を含有する水分含量85〜95質量%の固液混合物を調製し;
(iii)前記(ii)の(A)または(B)で調製した固液混合物を粉砕処理して、リグノセルロース系植物材料腐朽物の水性粉砕物を調製し;次いで、
(iv)前記(iii)で調製したリグノセルロース系植物材料腐朽物の水性粉砕物を糖化酵素で処理して糖を製造する;
ことを特徴とするリグノセルロース系植物材料の糖化方法である。
そして、本発明は、
(2) 前記(i)の腐朽処理を、白色腐朽菌を用いて温度20〜40℃で10〜40日間行う、前記(1)の糖化方法;
(3) 前記(i)の腐朽処理を、リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して小麦フスマおよび/または末粉を1〜100質量部(乾物換算)の割合で混合すると共に加水して水分含量60〜80質量%の混合物にし、当該混合物にpH3〜4の乳酸緩衝液を前記混合物の容量に対して1〜10容量%の割合で添加して温度90〜120℃で1〜5分間加熱処理を行った後に、腐朽菌を接種して行う、前記(1)または(2)の糖化方法;および、
(4) 前記(i)の腐朽処理において、リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して小麦フスマおよび/または末粉を1〜100質量部(乾物換算)の割合で混合した後に摩砕処理してリグノセルロース系植物材料の粒径を1cm以下にしてから水分含量60〜80質量%の混合物に調節する、前記(1)〜(3)のいずれかの糖化方法;
である。
さらに、本発明は、
(5) 前記(ii−a)または(ii−b)の固液混合物の調製、前記(iii)の固液混合物の粉砕処理および前記(iv)のリグノセルロース系植物材料腐朽物の水性粉砕物の糖化酵素による処理の少なくとも1つを、界面活性剤および/またはマンガン塩を更に添加して行う前記(1)〜(4)のいずれかの糖化方法;および、
(6) リグノセルロース系植物材料腐朽物100質量部(乾物換算)に対して、界面活性剤を0.5〜5質量部および/またはマンガン塩を0.05〜0.5質量部の割合で添加する前記(5)の糖化方法;
である。
本発明による場合は、含水リグノセルロース系植物材料に小麦フスマおよび/または末粉を加え且つ水分含量を特定の範囲に調節した混合物に腐朽菌を接種して腐朽処理し、それにより得られるリグノセルロース系植物材料腐朽物に加水して特定の水分含量を有する固液混合物を調製し、その固液混合物を湿式粉砕という機械的方法で処理した後に糖化酵素で処理して糖化するので、腐朽菌によるリグノセルロース系植物材料の腐朽処理を伴う従来の糖化方法に比べて、リグノセルロース系植物材料の糖化に要する期間を大幅に短縮しながら、リグノセルロース系植物材料の糖化率を向上させることができる。
特に、本発明において、腐朽処理して得られるリグノセルロース系植物材料腐朽物に加水して固液混合物を調製するに当たって、小麦フスマおよび/または末粉を加えてリグノセルロース系植物材料腐朽物並びに小麦フスマおよび/または末粉を含有する固液混合物を調製し、それを用いて以後の粉砕処理および糖化酵素による糖化処理を行う場合は、リグノセルロース系植物材料腐朽物の細胞壁の破壊(分解)および損傷がより促進され、糖をさらに高い収率で得ることができる。
本発明においては、リグノセルロース系植物材料の腐朽処理を、リグノセルロース系植物材料に対して小麦フスマおよび/または末粉を本発明で規定する割合で加えて且つ水分含量を前記特定の範囲に調節した混合物に対して、pH3〜4の乳酸緩衝液を1〜10容量%の割合で添加して温度90〜120℃で1〜5分間加熱処理を行った後に、腐朽菌を接種して行うことにより、リグノセルロース系植物材料の糖化率がより高くなる。
また、本発明においては、リグノセルロース系植物材料の腐朽処理を、リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して小麦フスマおよび/または末粉を本発明で規定する割合で混合した後に摩砕処理してリグノセルロース系植物材料の粒径を1cm以下にしてから水分含量60〜80質量%に調節した混合に腐朽菌を接種して行うことにより、リグノセルロース系植物材料の糖化率が一層向上する。
本発明において、前記したリグノセルロース系植物材料腐朽物の固液混合物の調製、当該固液混合物の粉砕処理およびそれにより得られるリグノセルロース系植物材料腐朽物の水性粉砕物の糖化酵素による糖化処理の少なくとも1つを、界面活性剤およびマンガン塩から選ばれる少なくとも1種の成分を更に添加して行った場合には、糖を一層高い収率で得ることができる。
本発明による場合は、リグノセルロース系植物材料の腐朽菌による腐朽処理およびそれにより得られる含水リグノセルロース系植物材料腐朽物の粉砕処理を、水分を含有する湿式条件下で行った後、リグノセルロース系植物材料腐朽物の水性粉砕物を乾燥することなくそのまま用いて糖化酵素で糖化処理するので、糖化原料であるリグノセルロース系植物材料を乾燥する必要がなく、湿ったリグノセルロース系植物材料であっても乾燥せずにそのまま用いることでき、そのためリグノセルロース系植物材料を乾燥するために余分のエネルギーが要らず、エネルギー効率の向上を図りながらリグノセルロース系植物材料を糖化することができる。
さらに、本発明による場合は、リグノセルロース系植物材料の糖化に当たって、酸やアルカリなどの化学薬品による前処理、および蒸煮装置(高温・高圧装置)やエネルギー線照射装置を使用しての前処理を行う必要がないため、前処理に用いた化学薬品の中和処理や除去処理、化学薬品の中和処理によって生じた中和廃棄物の処理やそれによる環境汚染の問題がなく、しかも蒸煮装置やエネルギー照射装置のような高価な前処理装置の設置や、厳密な工程管理の必要がない。
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明で用いるリグノセルロース系植物材料は、リグニンおよびセルロースを主体成分とする植物材料であればいずれでもよい。
本発明で用いるリグノセルロース系植物材料としては、例えば、木質系材料(木の幹、枝、根、木の葉など)、草本系材料(稲、麦、トウモロコシ、サトウキビ、豆類などの作物や雑草の茎や葉、刈草など)を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
リグノセルロース系植物材料は、湿っていてもまたは乾燥していてもいずれでもよい。
また、リグノセルロース系植物材料は、腐朽菌による腐朽処理および粉砕処理を容易にするために、予め5cm以下、更には2cm以下、特に1cm以下の寸法のチップなどにしておくことが好ましい。
リグノセルロース系植物材料は、通常、植物を構成する細胞壁や細胞間層にリグニンを多量に含み、リグニンを多く含む細胞壁の内側にセルロースの多い層が存在する。植物細胞の細胞壁や細胞間層に多量に含まれるリグニンは難分解性であり、リグノセルロース系植物材料をそのまま糖化酵素で処理しても細胞壁内のセルロースにまで糖化酵素が到達しにくく、糖への分解が行われにくい。
本発明では、糖化率の向上のために、リグノセルロース系植物材料に腐朽菌を接種して腐朽処理する。
リグノセルロース系植物材料の腐朽処理に用いる腐朽菌としては、リグノセルロース系植物材料中のリグニンを酸性から中性域(pH2.5〜7)の好気的条件下で分解することのできる腐朽菌のいずれもが使用でき、特に限定されない。そのうちでも、本発明では腐朽菌として白色腐朽菌が好ましく用いられ、具体例としては、担子菌:SKM2102株(独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター 寄託番号 FERM P−20591)などを挙げることができる。
リグノセルロース系植物材料に対する腐朽菌の接種量は、腐朽菌の種類、リグノセルロース系植物材料の種類、リグノセルロース系植物材料の状態、水分含量、温度などによって異なり得るが、一般的には、リグノセルロース系植物材料1g(湿物換算)に対する腐朽菌の接種量を103〜108CFU、特に105〜106CFUの範囲であることが、腐朽化の促進などの点から好ましい。
腐朽処理に当たっては、腐朽処理を短期間で円滑に行うために、リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して、小麦フスマおよび/または末粉を1〜100質量部(乾物換算)、好ましくは特に3〜30質量部(乾物換算)の割合で添加し且つ水分含量を60〜80質量%、好ましくは65〜75質量%に調節した混合物を用いて行う。
小麦フスマおよび/または末粉を添加して腐朽処理を行うことで、小麦フスマおよび/または末粉が腐朽菌の栄養分となり、腐朽菌の働きを一層活性化して腐朽化を促進することができる。腐朽処理に当たっては、小麦フスマおよび末粉の一方のみを用いてもよいし、または両方を併用してもよい。そのうちでも、小麦フスマを用いることが、コスト、入手容易性などの点から好ましい。
なお、本明細書において、「リグノセルロース系植物材料の質量(乾物換算)」、「リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)」とは、リグノセルロース系植物材料を135℃で2時間乾燥したときの質量、当該質量のものから得られるリグノセルロース系植物材料腐朽物の質量に基づく質量または質量割合を意味する。
また、本明細書において、リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対する小麦フスマおよび/または末粉の質量(乾物換算)は、小麦フスマおよび/または末粉を135℃で2時間乾燥したときの質量いう。
リグノセルロース系植物材料に対して、小麦フスマおよび/または末粉を添加した、腐朽処理を行うための前記混合物において、水分含量が少なすぎると、腐朽菌の働きが弱くなり、腐朽化に長時間を要するようになったり、腐朽化が十分に行われなくなり、一方水分含量が多すぎると、酸素が供給されなくなり、腐朽が進行しなくなる。
腐朽処理に用いるリグノセルロース系植物材料が、水分を含有している場合には、腐朽処理を行うための混合物における上記した60〜80質量%という水分含量は、リグノセルロース系植物材料が元々含有していた水分、小麦フスマおよび/または末粉が元々有している水分および腐朽処理のために外部から加えた水の合計含有割合をいう。
そのため、リグノセルロース系植物材料の腐朽処理に当たっては、水分含量を上記した範囲内にするために、リグノセルロース系植物材料が元々水分を多く有している場合には外部から加える水の量を少なくし、一方リグノセルロース系植物材料が乾燥していて水分が少ない場合には外部から加える水の量を多くして、リグノセルロース系植物材料における水の含有割合を本発明で規定する上記した範囲に調節すればよい。
また、リグノセルロース系植物材料の腐朽処理に当たって、リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して小麦フスマおよび/または末粉を上記1〜100質量部(乾物換算)の割合で添加した後、摩砕処理を行ってリグノセルロース系植物材料の粒径を1cm以下にしてから、加水などを行って水分含量を60〜80質量%に調整した混合物にして腐朽処理に用いると、摩砕処理によってリグノセルロース系植物材料の木材繊維中に小麦フスマおよび/または末粉が入り込んで、リグニンの分解がより進み、また腐朽菌が植物細胞中により深く侵入して、腐朽処理が一層促進される。
また、リグノセルロース系植物材料の腐朽処理に当たって、リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して小麦フスマおよび/または末粉を上記1〜100質量部(乾物換算)の割合で添加し且つ水分含量を60〜80質量%に調節した混合物に、pH3〜4の乳酸緩衝液を、前記混合物の容量に対して1〜10容量%、好ましくは1〜5容量%の割合で添加して温度90〜120℃で1〜5分間加熱処理を行った後に、それに腐朽菌を接種して腐朽処理を行うと、腐朽菌が選択的に増殖されて、リグノセルロース系植物材料の腐朽を一層促進することができる。
その際のpH3〜4の乳酸緩衝液としては、例えば、50%乳酸と50%乳酸ナトリウムの5:3(v/v)混合液などを用いることができる。
腐朽処理時の温度としては、腐朽菌の活性を高く維持するために、一般に、温度20〜40℃、特に25〜35℃で行うことが好ましい。
腐朽処理の期間は、腐朽菌の種類、リグノセルロース系植物材料の種類、リグノセルロース系植物材料の状態、小麦フスマおよび/または末粉の添加量、水分含量、温度などによって異なり得るが、一般的には10〜40日間、特に15〜30日間行うことが好ましい。
かかる腐朽処理の期間は、上記した従来の腐朽処理期間(2カ月〜半年)に比べて、大幅に短い期間である。
次いで、
(a) 上記腐朽処理によって調製したリグノセルロース系植物材料腐朽物に加水して、リグノセルロース系植物材料腐朽物を含有する水分含量85〜95質量%(固形分含量15〜5質量%)の固液混合物を調製するか[上記した工程(ii)の(a)];または、
(b) 上記腐朽処理によって調製したリグノセルロース系植物材料腐朽物に、小麦フスマおよび/または末粉を1〜20質量部(乾物換算)、好ましくは5〜15質量部(乾物換算)の割合で混合すると共に加水して、リグノセルロース系植物材料腐朽物と小麦フスマおよび/または末粉を含有する水分含量85〜95質量%(固形分含量15〜5質量%)の固液混合物を調製する[上記した工程(ii)の(b)]。
リグノセルロース系植物材料腐朽物の固液混合物の調製に当たっては、上記(a)を採用した場合にも、小麦フスマおよび/または末粉を混合せずに、リグノセルロース系植物材料腐朽物に加水して水分含量85〜95質量%の固液混合物にし、それを後記するように粉砕処理して水性粉砕物にしてから糖化酵素によって糖化処理を行っても、リグノセルロース系植物材料が腐朽処理されていることによって、かなり高い糖化率を得ることができる。しかし、より一層高い糖化率を得るためには、リグノセルロース系植物材料腐朽物に小麦フスマおよび/または末粉を混合し、加水して水分含量85〜95質量%の固液混合物を調製する上記(b)を採用することが好ましい。
上記(b)を採用した場合には、リグノセルロース系植物材料腐朽物に加えた小麦フスマおよび/または末粉が、細胞壁の破壊(分解)および損傷をより促進し、糖化酵素による糖化反応を促進する。
上記(b)に従ってリグノセルロース系植物材料腐朽物の固液混合物を調製する場合は、小麦フスマおよび末粉の一方のみを用いてもよいし、または両方を併用してもよい。そのうちでも、小麦フスマを用いることが、コスト、入手容易性などの点から好ましい。
上記の(a)または(b)で調製するリグノセルロース系植物材料腐朽物の固液混合物は、糖化率の向上、エネルギー効率などの点から、水分含量が88〜92質量%(固形分含量12〜8質量%)であることが好ましい。
リグノセルロース系植物材料腐朽物の固液混合物において、水の含有量が少なすぎても、多すぎても糖化率の向上効果が得られなくなる。また、水の含有量が多すぎると、糖化処理して得られる生成物からの糖の回収に要するエネルギー量が多くなり、エネルギー効率が低下する。
リグノセルロース系植物材料腐朽物の固液混合物の調製方法は特に制限されず、リグノセルロース系植物材料腐朽物および水が均一に混合している固液混合物、またはリグノセルロース系植物材料腐朽物、小麦フスマおよび/または末粉並びに水が均一に混合している固液混合物を調製し得る方法であればいずれでもよい。一般的には、撹拌手段(例えば撹拌翼、撹拌用スクリューなど)を有する混合装置を用いて、2〜50℃で、リグノセルロース系植物材料腐朽物と水を混合するか、またはリグノセルロース系植物材料腐朽物に小麦フスマおよび/または末粉並びに水を同時にまたは逐次に混合することによって、リグノセルロース系植物材料腐朽物の固液混合物を調製することができる。
次いで、上記で得られるリグノセルロース系植物材料腐朽物の固液混合物を粉砕処理する。リグノセルロース系植物材料腐朽物の固液混合物の粉砕方法および粉砕装置は特に制限されず、上記した方法で調製したリグノセルロース系植物材料腐朽物の固液混合物を粉砕処理したときに、細かく且つ十分に粉砕されたリグノセルロース系植物材料腐朽物を含む水性粉砕物が、生産性良く得られる粉砕方法および装置であればいずれも採用可能である。一般的には、剪断応力や圧力がかかる粉砕方法および粉砕装置が、リグノセルロース系植物材料腐朽物の細胞壁や細胞間層の破壊、分解、損傷などを効果的に行うことができるので好ましく採用される。リグノセルロース系植物材料腐朽物の粉砕に好適に用いる粉砕装置としては、例えば、ボールミル、石ウス、ロールミル、ロッドミルなどを挙げることができる。
リグノセルロース系植物材料腐朽物の固液混合物の粉砕処理は、水性粉砕物中に含まれるリグノセルロース系植物材料腐朽物の粉砕物の平均粒径が500μm以下、更には200μm以下、特に100μm以下になるようにして行うことが好ましい。粉砕後のリグノセルロース系植物材料腐朽物の平均粒径が大きすぎると、リグノセルロース系植物材料の細胞壁や細胞間層の破壊、分解、損傷などが不十分で、次の糖化酵素による処理が十分に行われにくくなる。粉砕後のリグノセルロース系植物材料腐朽物の粉砕物の平均粒径の下限値は特に制限されないが、あまり小さすぎると、粉砕に長い時間や高いコストを要するため、平均粒径が10μm以上であることが好ましい。
上記によって得られるリグノセルロース系植物材料腐朽物の水性粉砕物を糖化酵素によって糖化処理して、リグノセルロース系植物材料を糖化する。
リグノセルロース系植物材料腐朽物の水性粉砕物の糖化酵素による糖化処理は、リグノセルロース系植物材料腐朽物に糖化酵素を作用させて糖を製造する従来既知の糖化方法と同様にして行うことができる。
リグノセルロース系植物材料腐朽物の水性粉砕物の糖化処理に用いる糖化酵素としては、リグノセルロース系植物材料の糖化処理で従来から用いられているのと同様の糖化酵素を用いることができ、その代表例としてはセルラーゼ、ヘミセルラーゼなどを挙げることができ、これらの酵素の混合物が好ましく用いられる。
糖化酵素は、既に色々市販されており、具体例としては、例えば、ヤクルト薬品工業社製「オノズカ」、明治製菓社製「メイセラーゼ」などを挙げることができ、市販のものを購入して使用することができる。市販の糖化酵素は、一般にセルラーゼおよびヘミセルラーゼの両方を含んでいるものが多い。
糖化酵素の使用量は、糖化処理時の処理条件、リグノセルロース系植物材料の種類、リグノセルロース系植物材料腐朽物の水性粉砕物中におけるリグノセルロース系植物材料腐朽物の粉砕物の粒径、セルロース含量などに応じて異なり得るが、一般的には水性粉砕物中に含まれるリグノセルロース系植物材料腐朽物の粉砕物1g(乾物換算)に対して、1000ユニット以下、更には10〜500ユニット、特に100〜300ユニットであることが、糖化を円滑に行う点から好ましい。
なお、本明細書におけるセルラーゼの「ユニット」とは、FPU(Filter Paper Unit)のことであり、1FPU=1μmol Glucose/minで規定される。
糖化処理は、リグノセルロース系植物材料に糖化酵素を作用させて糖を製造する際に従来から採用されている方法および条件に準じて行うことができる。
限定されるものではないが、例えば、リグノセルロース系植物材料腐朽物の水性粉砕物を用いてなる糖化処理液における水分含量およびpHを調整した後、そこに糖化酵素を前記の割合で添加して、30〜80℃の温度で、撹拌下に0.5日〜3日間程度加水分解処理を行うことにより、リグノセルロース系植物材料中に含まれていたセルロースを加水分解させて糖を生成させることができる。
糖化酵素による糖化処理に当たっては、リグノセルロース系植物材料腐朽物の水性粉砕物に水を加えてリグノセルロース系植物材料腐朽物の粉砕物(乾物換算)の濃度が0.1〜20質量%、特に0.5〜15質量%の水性懸濁液をつくり、そのpHを4〜5程度に調整して、糖化酵素を用いて糖化処理を行うことが、糖化の円滑な進行などの点から好ましい。
上記した糖化処理によって糖を含む反応液が生成する。これにより得られる糖を含有する反応液は、そのままで又は未反応の反応残渣(固形残渣)を分離して液状のままでアルコール発酵(エタノールの製造)などの次の反応に用いてもよいし、または反応液から固形分(固形残渣)を濾過などの適当な手段で分離除去して水溶液を分取し、その水溶液を乾燥して糖を回収してもよい。回収された糖は、そのままで用いてもよいし、アルコールや他の化合物などの製造原料としても用いてもよい。
上記で得られた糖を含む反応液を用いてアルコール発酵を行う場合は、従来既知の方法と同様にして行うことができ、何ら制限されない。
また、本発明では、必要に応じて、糖化酵素による糖化処理時にアルコール発酵を同時に行うようにしてもよい。
上記した一連の工程からなる本発明の糖化方法では、リグノセルロース系植物材料腐朽物の固液混合物の調製、リグノセルロース系植物材料腐朽物の固液混合物の粉砕処理およびリグノセルロース系植物材料腐朽物の水性粉砕物の糖化酵素による処理の少なくとも1つの工程を、界面活性剤およびマンガン塩の一方または両方を更に添加して行うことが、糖化率が高くなる点から好ましい。
特に、リグノセルロース系植物材料腐朽物の固液混合物の調製および/またはリグノセルロース系植物材料腐朽物の固液混合物の粉砕処理の段階に、界面活性剤およびマンガン塩の少なくとも一方、好ましくは両方を添加して、リグノセルロース系植物材料腐朽物の固液混合物の粉砕処理を、界面活性剤およびマンガン塩の少なくとも一方、好ましくは両方の存在下で行なうようにすることが、糖化率が一層高くなるので好ましい。
その際に使用する界面活性剤としては、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤および非イオン系界面活性剤のいずれもが使用できる。陰イオン系界面活性剤の例としては、高級脂肪酸アルカリ塩、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン塩、スルホコハク酸エステル塩などを挙げることができ、陽イオン系界面活性剤の例としては、高級アミンハロゲン酸塩、ハロゲン化アルキルピリジニミウム、第四級アンモニウム系界面活性剤などを挙げることができ、非イオン系界面活性剤の例としては、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリドなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
そのうちでも、非イオン系界面活性剤が、他の界面活性剤と併用しやすく、電解質の影響を受けにくいなどの点から好ましく用いられ、その具体例としては、モノラウリル酸ポリオキシエチレンソルビタンなどのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを挙げることができる。
マンガン塩としては、無機酸のマンガン塩および有機酸のマンガン塩のいずれもが使用でき、具体例としては、硫酸マンガン、塩化マンガンなどの無機酸のマンガン塩、酢酸マンガンなどの有機酸のマンガン塩などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
そのうちでも、本発明では、硫酸マンガンが、価格、保存性などの点から好ましく用いられる。
界面活性剤を添加する場合は、界面活性剤の添加量は、糖化率の向上、コストなどの点から、リグノセルロース系植物材料(リグノセルロース系植物材料腐朽物)100質量部(乾物換算)に対して、0.5〜5質量部であることが好ましく、1〜3質量部であることがより好ましい。
また、マンガン塩を添加する場合は、マンガン塩の添加量は、糖化率の向上、コストなどの点から、リグノセルロース系植物材料(リグノセルロース系植物材料腐朽物)100質量部(乾物換算)に対して、0.05〜0.5質量部であることが好ましく、0.1〜0.2質量部であることがより好ましい。
界面活性剤およびマンガン塩の添加量が多すぎると、却って糖化反応を妨げることがあるので好ましくない。
本発明において、リグノセルロース系植物材料の糖化率が向上する理由は明確ではないが、以下のように推測される。
すなわち、腐朽菌によるリグノセルロース系植物材料の腐朽処理によって、リグノセルロース系植物材料の組織の部分的な破壊や脆弱化がなされると共に、小麦フスマ等に含まれる何らかの活性成分および/または界面活性剤およびマンガン塩から選ばれる少なくとも1種の成分が、腐朽化されたリグノセルロース系植物材料腐朽物の粉砕時および/または糖化時、特に粉砕時に、リグノセルロース系植物材料中のリグニンなどの難分解性成分に直接作用して、該難分解成分を多く含む細胞壁や細胞間層の破壊、分解、損傷などを一層促進し、また糖化反応時にも小麦フスマ等に含まれる何らかの活性成分および/または界面活性剤およびマンガン塩から選ばれる少なくとも1種の成分が腐朽処理や粉砕によって分解、損傷などを受けた細胞壁や細胞間層の破壊、分解、損傷などを更に促進することによって、糖化酵素が細胞壁内に存在するセルロース層に到達し易くなって、極めて高い糖化率が得られるものと推測される。
以下に実施例などにより本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のものに限定されない。
以下の実施例および比較例で用いた杉チップ中の水分含量は次のようにして測定した。
[杉チップおよび小麦フスマ中の水分含量の測定]
杉チップまたは小麦フスマのW0(g)を採取して、温度135℃の加熱炉に入れて、質量の減少がなくなって一定の質量になるまで加熱乾燥して(約2時間加熱)、そのときの質量(W1)(g)を測定し、下記の数式(1)により杉チップまたは小麦フスマ中の水分含量を求めた。

杉チップ又は小麦フスマの水分含量(質量%)={(W0−W1)/W0}×100 (1)
《調製例1》[杉チップの腐朽物の調製]
(1) 担子菌SKM2102(FERM−20591)を、ポテトデキストロース寒天培地(日水製薬株式会社製「ニッスイ」)を用いて、27℃で15日間培養した。
(2) 杉チップ(径約1cm)(乾物)100質量部に小麦フスマ(水分含量10質量%)(日清製粉社製)20質量部を加えて120℃で5分間滅菌処理した水分含量75質量%の混合物に、上記(1)で培養した担子菌SKM2102(FERM−20591)を接種した。接種は、上記(1)で得られた培養済みのポテトデキストロース寒天培地を、混合物に1質量%の割合で添加することにより行った。腐朽菌の接種後、小型発酵リアクターで、容器温度30℃、通気量500ml/min・Dry・kgの条件にて15日間の腐朽処理を行って、杉チップ腐朽物を得た。
《実施例1〜5》
(1) ボールミル(FRITSH社製「P−5型」)にアルミナ製ボール(径2cm)15個を入れ、ボールミルを静止した状態で、調製例1で調製した杉チップ腐朽物(水分含量68.5質量%)4gに対して、調製例1で使用したのと同じ小麦フスマ、界面活性剤[関東化学社製「TWEEN20」(モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンよりなる非イオン系界面活性剤)]および硫酸マンガンを下記の表1に示す量で添加した後、水を加えて、杉チップ腐朽物の固液混合物(固形分含量9質量%、水分含量91質量%)をそれぞれ調製した。
(2) 次いで、ボールミルを稼働させて、300rpmの条件下で、ボールミル内の固液混合物を1時間粉砕処理して、杉チップの水性粉砕物をそれぞれ調製した。
(3) 上記(2)で得られた杉チップ腐朽物の水性粉砕物5g(固形分含量450mg)を反応容器に入れ、そこにBritton−Robinson緩衝液(pH4.5)を加えて、液のpHを4.5に調整すると共に液中の杉チップ腐朽物粉砕物の濃度(杉チップでの乾物換算)を1質量%に調整し、杉チップ腐朽物粉砕物1g(乾物換算)当たりにつき糖化酵素(ヤクルト薬品工業社製「オノズカ P−1500」)の360U(ユニット)を添加した後、40℃で45時間振とうして酵素反応を行った。
(4) 上記(3)で得られた酵素反応液について、以下の数式(2)により糖化率を求めた。

糖化率(%)=100−(W3/W2)×100 (2)
式中、
2=糖化処理に供した杉チップ腐朽物の乾物量=A0−B0−C−D−E
3=糖化処理後の杉チップ腐朽物の乾物残渣量=A1−B1
0=糖化に供した試料(固液混合物)の質量
0=添加した小麦フスマの乾物質量
1=糖化処理後の固形残渣の乾燥後の質量
1=糖化処理後の乾燥固形残渣中に含まれる小麦フスマ由来の乾燥固形残渣の質量
C=糖化に供した試料(固液混合物)の水分値から求められる水の質量
D=添加した硫酸マンガンの乾物質量
E=添加した界面活性剤の乾物質量
ここで、上記の数式(2)において、B0(添加した小麦フスマの乾物質量)、D(添加した硫酸マンガンの乾物質量)およびE(添加した界面活性剤の乾物質量)は、小麦フスマ、硫酸マンガンまたは界面活性剤のそれぞれを135℃で2時間加熱乾燥したときのそれぞれの試料の質量である。
また、A1(糖化処理後の固形残渣の乾燥後の質量)は、上記(3)で得られた、糖化物を含む反応液を濾過して分離し、固形残渣を135℃で2時間乾燥してその質量(mg)を測定してA1とした。
また、上記式(2)において、B1は、B1=B0×(1−フスマの糖化率/100)の式から求めた。その際の「フスマの糖化率」は、フスマ4g、硫酸マンガン0.08g、界面活性剤0.12gおよび水47.4gを混合して得られる混合物を、ボールミルを用いて1時間粉砕し、それにより得られる粉砕物5gを採取して、Britton−Robinson緩衝液(pH4.5)50mlおよび糖化酵素(ヤクルト薬品工業社製「オノズカ P−1500」)の180U(ユニット)/乾物1gの割合で添加した後、40℃で45時間振とうして酵素反応を行って求めた。
上記(2)において、Cを求めるための「水分値」は、水分値(%)={(試料量−乾燥後の試料量)/試料量}×100の式から求められる。
例えば、糖化処理に供する試料(固液混合物)の水分含量が90質量%で、糖化に供した試料(固液混合物)の質量が5gであれば、Cは4.5gとなる。
《実施例6》
実施例5において、界面活性剤および硫酸マンガンを、杉チップ腐朽物の固液混合物の調製時に添加する代わりに、杉チップ腐朽物の固液混合物の粉砕後に添加(杉チップ腐朽物の水性粉砕物の糖化処理の直前に添加)した以外は、実施例5と同様にして杉チップの糖化を行い、実施例5と同様にして糖化率を求めたところ、下記の表1に示すとおりであった。
《比較例1》
(1) 実施例1で用いたボールミルに、腐朽処理を行っていない杉チップ4g(水分含有量6質量%、径約1cm)4gおよび水38gを加え、ボールミルを稼働させて、300rpmの条件下でボールミル内の固液混合物を1時間粉砕処理して、杉チップの水性粉砕物を調製した。
(2) 上記(1)で得られた杉チップの水性粉砕物5g(固形分含量450mg)を反応容器に入れ、そこにBritton−Ribinson緩衝液(pH4.5)を加えて、液のpHを4.5に調整すると共に液中の杉チップ粉砕物の濃度を(杉チップでの乾物換算)を1質量%に調整し、杉チップ粉砕物1g(乾物換算)当たりにつき糖化酵素(ヤクルト薬品工業社製「オノズカ P−1500」)の360U(ユニット)を添加した後、40℃で45時間振とうして酵素反応を行った。次いで実施例1と同様にして糖化率を求めたところ、下記の表1に示すとおりであった。
なお、この比較例1における糖化率の算出は、上記の数式(2)において、「杉チップ腐朽物」を「杉チップ」に置き換えて、数式(2)に従って求めた。
Figure 0005007998
上記の表1の結果にみるように、実施例1〜6では杉チップに小麦フスマを添加し且つ水分含量を60〜80質量%の範囲内に調製した混合物に腐朽菌を接種して腐朽処理した後に、それにより得られる杉チップ腐朽物に加水して水分含量を85〜95質量%の範囲内の固液混合物を調製し、それを粉砕処理して水性粉砕物とし、その水性粉砕物を、糖化酵素を用いて糖化処理したことによって、いずれも糖化率が30%を超えていて、高い糖化率を示す。
特に、実施例2〜6では、杉チップ腐朽物の固液混合物の調製時に小麦フスマを添加したことによって糖化率が35%以上と一層高くなっている。
そのうちでも、杉チップ腐朽物に対して、小麦フスマと共にマンガン塩および/または界面活性剤を配合して固液混合物を調製した後に粉砕を行って得られる水性粉砕物に糖化酵素を接種して糖化処理を行った実施例3〜5では糖化率が40%を超えており、特にマンガン塩(硫酸マンガン)と界面活性剤の両方を杉チップ腐朽物の調製時に配合した実施例5では糖化率が51.7%と極めて高くなっている。
また、実施例5および6の結果の対比から、マンガン塩および界面活性剤を、杉チップ腐朽物(リグノセルロース系植物材料腐朽物)に小麦フスマを加えて粉砕する前または粉砕時に添加しておくと、糖化率が一層高くなることが分る。
それに対して、杉チップを腐朽化せずに、そのまま用いて杉チップを含有する固液混合物を調製し、それを粉砕した後に糖化酵素により糖化処理を行った比較例1は、糖化率が11.1%と低い。
《実験例》
実施例1の(1)において、杉チップ腐朽物の固液混合物を調製する際の加水量を変えて、以下の表2に示す水分含量を有する杉チップ腐朽物の固液混合物を調製した以外は、実施例1の(1)〜(3)と同様にして、杉チップ腐朽物の糖化をそれぞれ行い、実施例1と同様にして糖化率を求めたところ、下記の表2に示すとおりであった。
Figure 0005007998
上記の表2の結果にみるように、実験番号1〜3では、杉チップ腐朽物(乾物換算)の固液混合物における水分含量を85〜95質量%の範囲内に調節し、その固液混合物を粉砕して得られる水性粉砕物を用いて糖化酵素による糖化処理を行ったことにより、高い糖化率が得られている。
本発明の方法による場合は、グノセルロース系植物材料を乾燥せずに、湿ったリグノセルロース系植物材料であってもそのまま用いて、エネルギー効率の向上を図りながらリグノセルロース系植物材料を高率で糖化することができ、しかも酸、アルカリなどの化学薬品や、設備コストの高い蒸煮装置(高温・高圧装置)やエネルギー線照射装置を使用することなく、リグノセルロース系植物材料の腐朽菌および従来汎用の装置を使用して、リグノセルロース系植物材料を簡単に且つ効率よく糖化できるので、リグノセルロース系植物材料からの糖の製造技術として実用性が高く有用である。

Claims (6)

  1. (i)リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して小麦フスマおよび/または末粉を1〜100質量部(乾物換算)の割合で混合し且つ水分含量を60〜80質量%に調節した混合物に、腐朽菌を接種して腐朽処理を行って、リグノセルロース系植物材料腐朽物を調製し;
    (ii)(a)前記(i)で調製したリグノセルロース系植物材料腐朽物に加水して、リグノセルロース系植物材料腐朽物を含有する水分含量85〜95質量%の固液混合物を調製するか;または、
    (b)前記(i)で調製したリグノセルロース系植物材料腐朽物に、小麦フスマおよび/または末粉を1〜20質量部(乾物換算)の割合で混合すると共に加水して、リグノセルロース系植物材料腐朽物と小麦フスマおよび/または末粉を含有する水分含量85〜95質量%の固液混合物を調製し;
    (iii)前記(ii)の(a)または(b)で調製した固液混合物を粉砕処理して、リグノセルロース系植物材料腐朽物の水性粉砕物を調製し;次いで、
    (iv)前記(iii)で調製したリグノセルロース系植物材料腐朽物の水性粉砕物を糖化酵素で処理して糖を製造する;
    ことからなるリグノセルロース系植物材料の糖化方法であって、
    前記(ii−a)または(ii−b)の固液混合物の調製、前記(iii)の固液混合物の粉砕処理および前記(iv)のリグノセルロース系植物材料腐朽物の水性粉砕物の糖化酵素による処理の少なくとも1つを、界面活性剤および/またはマンガン塩を更に添加して行うことを特徴とするリグノセルロース系植物材料の糖化方法。
  2. リグノセルロース系植物材料腐朽物100質量部(乾物換算)に対して、界面活性剤を0.5〜5質量部および/またはマンガン塩を0.05〜0.5質量部の割合で添加する請求項1に記載の糖化方法。
  3. (i)リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して小麦フスマおよび/または末粉を1〜100質量部(乾物換算)の割合で混合し且つ水分含量を60〜80質量%に調節した混合物に、腐朽菌を接種して腐朽処理を行って、リグノセルロース系植物材料腐朽物を調製し;
    (ii)前記(i)で調製したリグノセルロース系植物材料腐朽物に、小麦フスマおよび/または末粉を1〜20質量部(乾物換算)の割合で混合すると共に加水して、リグノセルロース系植物材料腐朽物と小麦フスマおよび/または末粉を含有する水分含量85〜95質量%の固液混合物を調製し;
    (iii)前記(ii)で調製した固液混合物を粉砕処理して、リグノセルロース系植物材料腐朽物の水性粉砕物を調製し;次いで、
    (iv)前記(iii)で調製したリグノセルロース系植物材料腐朽物の水性粉砕物を糖化酵素で処理して糖を製造する;
    ことを特徴とするリグノセルロース系植物材料の糖化方法。
  4. 前記(i)の腐朽処理を、白色腐朽菌を用いて温度20〜40℃で10〜40日間行う、請求項1〜3のいずれか1項に記載の糖化方法。
  5. 前記(i)の腐朽処理を、リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して小麦フスマおよび/または末粉を1〜100質量部(乾物換算)の割合で混合すると共に加水して水分含量60〜80質量%の混合物にし、当該混合物にpH3〜4の乳酸緩衝液を前記混合物の容量に対して1〜10容量%の割合で添加して温度90〜120℃で1〜5分間加熱処理を行った後に、腐朽菌を接種して行う、請求項1〜4のいずれか1項に記載の糖化方法。
  6. 前記(i)の腐朽処理において、リグノセルロース系植物材料100質量部(乾物換算)に対して小麦フスマおよび/または末粉を1〜100質量部(乾物換算)の割合で混合した後に摩砕処理してリグノセルロース系植物材料の粒径を1cm以下にしてから水分含量60〜80質量%の混合物に調節する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の糖化方法。
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