JP6579534B2 - バイオガスの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、菌類を用いた植物バイオマスからのバイオガスの製造方法に関するものである。特に、Wickerhamomyces属に属する不完全菌を用いた植物バイオマスからのバイオガスの製造装置および方法に関するものである。
未利用の植物バイオマス資源の有効活用が求められている。従来技術においても植物バイオマス資源のうち比較的利用しやすいとされているトウモロコシやジャガイモなどのデンプン質原料、サトウキビなどの糖質原料を用いたバイオマスエタノール生産などが進められている。
しかし、比較的利用がまだ緒についていない植物バイオマス資源、たとえば、間伐材、建築廃材、稲藁などのリグノセルロース系バイオマス資源は、燃焼させることによる熱源として利用はされている例があるが、リグノセルロース系植物バイオマス資源からバイオエタノールを生成してバイオ燃料を得ることは比較的困難とされている。
リグノセルロース系バイオマス資源を直接、分解してエタノールを生産する自然界に存在する菌はまだ一般には知られていない。そのため従来技術では、木質系セルロースに対して物理的処理や化学的処理を施して一旦グルコースに分解し、その後、グルコースを基材にした酵母菌によるアルコールを得るサイクルが知られている。広く知られた従来手法として、酸加水分解法と酵素糖化法が知られている。
まず、酸加水分解法は、図12の上図に示すようなサイクルでエタノールを得る。
第1の工程として、固相のまま、木質に対して物理的・化学的方法で脱リグニン処理を施し、処理しやすいセルロースを得る。第2の工程として、セルロースに対して強酸を加えて加水分解し、グルコースを得る。強酸を添加した加水分解であるのでこの段階で処理状態は液相となる。第3の工程として、液相のグルコースを基材として酵母菌を播種してアルコール発酵させてアルコール含有発酵液を得る。この状態も液相のままである。
次に、酵素糖化法は、図12の下図に示すようなサイクルでエタノールを得る。
第1の工程として、固相のまま、木質に対して物理的・化学的方法で脱リグニン処理を施し、処理しやすいセルロースを得る。第2の工程として、セルロースに対して物理的・化学的処理を加えてより分解が進んだセルロース(β−1,4−グルカン)とする。例えば、オゾン水を作用させる手法、超臨界水を作用させる手法、爆砕する手法など多様なものがあり得る。この段階で液相になる。第3の工程として、処理済みのセルロース(β−1,4−グルカン)を基材として、酵素の一種であるセルラーゼを用いてグルコースを得る。セルラーゼは、セルロース(β−1,4−グルカン)のグリコシド結合を加水分解する酵素であり、グルコースを得ることができる。この段階も液相のままである。第4の工程として、液相のグルコースを基材として酵母菌を播種してアルコール発酵させてアルコール含有発酵液を得る。この状態も液相のままである。
次に、従来技術において、物理的工程・化学的工程に頼らず、菌を用いて木質系セルロースの分解からエタノール発酵まで行うサイクルを開示した文献例は、その数が少ないものの、例えば、WO2012/2164990号公報が存在する。これはPhlebia属に属する担子菌を用いて木質系セルロースを分解してエタノールを製造する方法を開示したものである。当該出願の発明者亀井一郎らは、Phlebia属に属する担子菌がリグニン分解能及び多糖類の糖化能を有するだけでなく、糖からエタノールを生成する能力を有すること、並びに、グルコースだけでなくキシロースを炭素源とした場合でもエタノールを生成する能力を有することを開示しており、更に、Phlebia属に属する担子菌をリグニン含有の炭素源と共に好気的条件において発酵する前処理工程を行った後に、半好気的条件又は嫌気的条件において、当該Phlebia属に属する担子菌を炭素源とともに更に発酵して炭素源を基質とするエタノール発酵を行うことにより、エタノールの生成効率を更に高めることができることを開示している。
上記に示すように、従来の酸加水分解法、酵素糖化法は、複数の物理的工程・化学的工程、さらに酵素の生分解工程や酵母の発酵工程を必要とするものであるが、間伐材などの木質を原料としてバイオエタノールを得る方法として知られていた。また、菌を用いて間伐材などの木質を原料としてバイオエタノールを得る方法も数は少ないが報告がある。
WO2012/2164990号公報 FEMS Yeast Res., 2013年8月12日, Vol.13, pp.609-617 Enzyme and Microbial Technology, 2012年12月16日, Vol.52, pp.105-110
ここで、上記の従来技術における、リグノセルロース系バイオマス資源を原料としてエタノールを生産する酸加水分解法、酵素糖化法、WO2012/2164990号公報に開示された方法には、下記に示すような問題があった。
まず、従来の酸加水分解法には以下の問題がある。
従来の酸加水分解法は、第1の工程として、木質に対して物理的・化学的方法で脱リグニン処理を施す必要があるが、この脱リグニン処理は容易ではなくコストがかかり、また、物理的・化学的処理にエネルギーを必要とするものである。
また、従来の酸加水分解法は、第2の工程として、セルロースに対して強酸を加えて加水分解する必要があるが、この強酸添加による加水分解は、コストがかかり、また、物理的・化学的処理にエネルギーを必要とするものであり、反応後の強酸を処理するための物理的・化学的コストがかかっていた。また、セルロースの分解速度の制御が難しいという問題がある。また、グルコースが強酸で分解されてしまうおそれもある。
また、従来の酸加水分解法は、第3の工程として、液相のグルコースを基材として酵母菌を播種してアルコール発酵させる必要があるが、第1の工程の脱リグニン処理や第2の工程の強酸による加水分解処理において液相中の酵母菌に対して悪影響を与える物質が混在しているため、そのままではアルコール発酵が阻害されるためにグルコースを洗浄する必要があり、コスト向上、エネルギー消費増加を招いていた。
次に、従来の酵素糖化法には以下の問題がある。
従来の酵素糖化法は、第1の工程として、木質に対して物理的・化学的方法で脱リグニン処理を施す必要があるが、上記に指摘したように、この脱リグニン処理は容易ではなくコストがかかり、また、物理的・化学的処理にエネルギーを必要とするものである。
従来の酵素糖化法は、第2の工程として、セルロースに対して物理的・化学的処理を加えてより分解が進んだセルロースとする必要があるが、オゾン水を作用させる手法、超臨界水を作用させる手法、爆砕する手法などいずれの手段も物理的・化学的コストがかかるものであり、反応釜や処理装置も特殊なものとなり製造設備にもコストがかかっていた。
また、従来の酵素糖化法は、第4の工程として、液相のグルコースを基材として酵母菌を播種してアルコール発酵させる必要があるが、上記したように、第1の工程の脱リグニン処理や第2の工程の強酸による加水分解処理において生じるアルコール発酵が阻害物質の除去のためコスト向上、エネルギー消費増加を招いていた。
次に、Phlebia属に属する担子菌を用いて木質を原料から直接バイオエタノールを得るWO2012/2164990号公報に記載の方法には以下の問題がある。
Phlebia属に属する担子菌を用いて木質から直接バイオエタノールを得る方法は、従来の酸加水分解法や酵素糖化法には必須の手順であった物理的・化学的処理を伴わないため、その点は注目すべき技術ではある。
しかし、Phlebia属に属する担子菌を用いて木質から直接バイオエタノールを得る方法は、担子菌がバイオエタノールを生産する相が液相であることである。エタノールは親水性が大きく、一度液相になってしまえば、物理的な蒸留工程を経なければエタノールを単離することができない。その蒸留工程のためコスト増、エネルギー増を招いていた。
この液相のバイオエタノールからエタノールを単離する問題は、上記した酸加水分解法や酵素糖化法にも共通の問題点となっている。
また、Phlebia属に属する担子菌と、利用出来る木質の組み合わせの点である。同公報には炭素源として利用可能な糖類としては、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース等の六炭糖、キシロース、アラビノース等の五炭糖等の単糖類、セロビオース等の二糖類が挙げられており、植物バイオマス資材は特に限定されていない。しかし、担子菌はいわゆるキノコであるところ、キノコは種類によって生える場所、寄生する木材の種類が限られることが広く知られている。キノコの栽培は、相性の合う木の原木を利用する原木栽培や、その原木を粉砕した木粉にフスマやコメヌカなどの栄養源を混合した菌床を利用する菌床栽培で行われていることから、いわゆる樹木、その粉砕物である菌床との相性は良いと考えられる。
キノコは相性の良い樹木に寄生して発生するが、一般には、竹林、スギ林、ヒノキ林にはごく一部のキノコしか育たないとされている。近年、経済林への竹の侵入が問題となっているが、竹は担子菌との相性は良くないとされている。
このように、Phlebia属に属する担子菌を用いる植物バイオマスを原料とするバイオエタノール生産方法は、利用出来る植物バイオマスの種類が限定されるおそれがある。
次に、非特許文献1は、Wickerhamomyces anomalus を用いたバイオエタノール産生について開示されているが、開示された生産工程を見れば、最初の工程として炭素源に加水分解処理を施してセルロース等をグルコースまで分解する工程が前提となっており、多大なエネルギーや化学薬品の投入が必要であり、かつ、液相での処理となっている。非特許文献1はグルコースに対してWickerhamomyces anomalusを播種してエタノール発酵するものである。グルコースからエタノールを生産する工程は、酵母菌など他の菌を用いた発酵手段が知られており、非特許文献1のWickerhamomyces anomalusの利用は、そのグルコースからエタノールを産出する工程の代替手段に過ぎないものである。
なお、非特許文献1は、液相での炭素源の加水分解処理が前提となっているため、Wickerhamomyces anomalusの利用段階も液相である。エタノールは親水性が大きく、一度液相になってしまえば、物理的な蒸留工程を経なければエタノールを単離することができない。その蒸留工程のためコスト増、エネルギー増を招く。
次に、非特許文献2は、全体の目的は麦藁からのエタノール発酵となっておりますが、Wickerhamomycesが関与する部分は、冬季前に大量に採れる麦藁の炭素源を冬季期間中に如何に保存するかという保存工程であり、炭素源の麦藁からエタノールを生成する発酵工程には一切関与していないものである。非特許文献2では、ISP処理と呼ばれるWickerhamomyces anomalusを利用した冬季保存を行うものの、春季になればエタノール発酵前にWickerhamomyces anomalusの分離が行われて除去され、エタノール発酵自体は、酸処理と、熱分解処理と、液相でのDUET酵素播種による発酵となっており、Wickerhamomyces anomalusは発酵に関与しておらず、また、発酵自体は液相での発酵となっている。
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、従来の酸加水分解法や酵素糖化法では必須の手順である物理的・化学的処理を伴わない形で、原料となる植物バイオマスから直接エタノールや酢酸エチルなどのバイオガスを得ることを目的とする。
また、本発明は、植物バイオマスからバイオガスを発生させて固相から気相にて回収することを目的とし、従来の酸加水分解法や酵素糖化法や非特許文献などのように液相での回収とはせず、固相状態の炭素源から直接気相状態のバイオガスを回収することにより、回収コストを低減することを目的とする。
本発明者は、Wickerhamomyces属の不完全菌が、セルロース分解能、リグニン分解能及び多糖類の糖化能を備えるだけでなく、糖からエタノールを生成する能力を備えること、さらに、エタノールを経て酢酸エチルを生成する能力を備えることを発見した。一般にこのWickerhamomyces属の不完全菌は、加工食品を腐敗させることで知られており、如何に生育を抑制するかという制御方法について各種検討、報告がなされていた。しかし本発明者はこの細菌を有効利用し、各種のバイオマスを用いて有用なバイオガスを固相にて発生させ、容易に回収する技術を初めて開発、構築したものである。
例えば、Wickerhamomyces属に属する不完全菌としてはPichiaなどがある。
Wickerhamomyces属に属する不完全菌は、糸状菌担子菌様生活環と、酵母様生活環の異なった生活環を遷移するものである。本発明はこのWickerhamomyces属に属する不完全菌の性質に着目したものである。
本発明のバイオガスの製造方法は、Wickerhamomyces属に属する不完全菌を炭素源とともに培養することによりバイオガスを生成するバイオガス生成工程を含むバイオガスの製造方法であって、前記Wickerhamomyces属に属する不完全菌が、糸状菌担子菌様生活環と、酵母様生活環の異なった生活環を遷移するものであり、前記バイオガス生成工程が、前記Wickerhamomyces属に属する不完全菌を糸状菌担子菌様生活環にて培養して固相状態の前記炭素源のセルロースをグルコースに分解する第1工程と、前記Wickerhamomyces属に属する不完全菌を酵母様生活環にて培養して前記第1の工程において固相状態の前記炭素源から生成された固相状態の前記グルコースを分解して気相状態のメタノール、エタノール、それらのエステル類のいずれかまたはそれらの混合物であるバイオガスを生成する第2工程を備え、前記第1の工程および前記第2の工程において、前記Wickerhamomyces属に属する不完全菌の前記糸状菌担子菌様生活環と前記酵母様生活環を遷移させつつ、液相を介することなく前記炭素源から直接、気相状態の前記バイオガスを発生させる工程としたものである、バイオガスの製造方法である。
炭素源を材料として、前記第1の工程と前記第2の工程を経ればバイオガスが発生するが、さらに、前記第1の工程と前記第2の工程を連続して交互に繰り返す連続処理工程とし、前記固相状態の前記炭素源から液相を介することなく直接気相状態の前記バイオガスを生産することもできる。
ここで、前記第1の工程から前記第2の工程へ遷移させる条件が、前記Wickerhamomyces属に属する不完全菌の酵母菌様生活環を活性化させる酵母菌様生活環活性条件であり、前記第2の工程から前記第1の工程へ遷移させる条件が、前記Wickerhamomyces属に属する不完全菌の糸状菌担子菌様生活環を活性化させる糸状菌担子菌様生活環活性条件であり、培養槽の培養条件として、前記酵母菌様生活環活性条件と、前記糸状菌担子菌様生活環活性条件とを適宜切り替えることにより、前記第1の工程と前記第2の工程を交互に切り替えつつバイオガスの生成を進める。
例えば、前記酵母菌様生活環活性条件が常温かつ嫌気条件であり、前記糸状菌担子菌様生活環活性条件が常温かつ好気条件とする。
上記バイオガス製造方法は、固相発酵を実現している。固相発酵とは、炭素源を粉体または破砕体の固相とし、バイオガス発生工程が固相状態の炭素源から気相状態にてバイオガスを発生させるものであり、液相を介することなく炭素源から直接、バイオガスを発生させる発酵である。前記Wickerhamomyces属に属する不完全菌を用いた固相発酵技術を実現できたことにより、様々な技術的効果が得られる。
固相発酵技術の第1の技術的効果は、発酵サイクルの阻害要因となり得る、生成過程で生じるアルコール成分による発酵サイクルへ与える悪影響の排除である。生成過程で生じるアルコール成分は、殺菌力が高い。液相発酵の場合は高い親水性により液中にアルコール成分が溶け出して系内に存在するため、アルコール濃度が菌の増殖限界を超えてしまうと菌の繁殖を抑制してしまうことがあり得る。しかし、本発明では固体発酵技術を完成したので、当該菌にとって有害なアルコール類は液相に移行せずに、固相の炭素源から直接揮発して気相として系外に排出されるため、菌の発酵阻害要因にはならない。
固相発酵技術の第2の技術的効果は、アルコール成分、エステル成分の回収コストの低減である。もし、液相発酵の場合は生成可能なアルコール濃度も15%程度が上限であり、工業的に利用するためには蒸留等の濃縮工程が必須となってしまう。しかし、本発明の固体発酵技術を用いれば、発酵生成物はガス状に生成されるため、冷却トラップ等の凝集装置によって簡単に直接濃縮液化することができる。また冷却温度をコントロールすることで、バイオガスはアルコール成分とエステル成分などが混気状態で生産されても、冷却トラップ等の凝集装置の温度設定により簡単に目的とする成分ごとに選択濃縮できる利点もある。
Wickerhamomyces属に属する不完全菌は、自然界に存在する菌であるが、本発明のように炭素源からアルコール類およびエステル類を固相発酵することは報告されていない。それは、自然界の状態では、Wickerhamomyces属に属する不完全菌は基本的に生育速度が遅い一方、普遍的な常在菌である乳酸菌などの増殖には追いつけず、乳酸菌類等普遍的に存在する菌類と、共棲させた場合どうしても増殖速度で劣勢となり、乳酸などの発酵生産物によってWickerhamomyces属に属する不完全菌は生育阻害を受けてしまうため、Wickerhamomyces属に属する不完全菌の潜在能力が十分に活性化されることがなかったためと考えられる。つまり、Wickerhamomyces属に属する不完全菌は、糸状菌担子菌様生活環と酵母様生活環との間を遷移しながら、グルコースの生成反応と、アルコール類・エステル類の生成反応を十分に発揮できるが、その条件や環境が自然に揃うことはなかったためと考えられる。また、自然環境では、たとえWickerhamomyces属に属する不完全菌が乳酸菌に打ち勝ち、ある炭素源のもとで優勢に繁殖したとしても、大気中の好気条件下での糸状菌担子菌様生活環にてセルロースをグルコース化したあと、自然と嫌気条件に切り替わることがなく、Wickerhamomyces属に属する不完全菌が酵母様の生活環に遷移することがないため、固相状態の炭素源の表面のセルロースがグルコースに変化した部分がそれ以上分解されることがないか、極めて緩慢にしか変化が進まなかったためと考えられる。
本発明では、Wickerhamomyces属に属する不完全菌の生活環を人為的に繰り返し遷移させることにより、その潜在能力を発揮せしめ、固相状態の炭素源のセルロースからグルコース、グルコースからエタノールという変化を繰り返して起こして固相状態の炭素源から直接気相状態のバイオガスを繰り返し生成することを可能としたものである。
ここで、最初の第1の工程についても後続に繰り返し出てくる第1の工程と同様に好気条件から始めても良いが、好気条件から始めるのではなく嫌気条件から始める工夫もあり得る。それは、炭素源に混入している抗菌スペクトルの広い乳酸菌が優勢に繁殖することを人為的に防止する工夫である。つまり、上記した前記第1の工程と前記第2の工程の交互の繰り返しにおいて、最初の第1の工程では、培養条件を、前記糸状菌担子菌様生活環活性条件とはせずに、当初から前記酵母菌様生活環活性条件である常温かつ嫌気条件とし、炭素源に混入している乳酸菌の増殖を抑制するとともに、Wickerhamomyces属に属する不完全菌が前記炭素源のセルロースからグルコースを生産しつつも、酵母菌様生活環活性条件下であるので、やがてその生活環が酵母菌様生活環へ自然と遷移し、第2の工程に遷移してゆくようコントロールするものである。
最初の第1の工程の時点で、嫌気条件からスタートすることで好気性の乳酸菌の繁殖を抑えることができ、最初の第1の工程の時点では乳酸菌よりWickerhamomyces属に属する不完全菌が繁殖し優勢になることができる。その後の第2の工程で引き続き、酵母様の生活環に遷移したWickerhamomyces属に属する不完全菌の優勢が大きくなるため、それ以降、第1の工程に遷移する際の糸状菌担子菌様生活環活性条件、つまり、好気的条件が与えられてもWickerhamomyces属に属する不完全菌が十分に優勢となっており、乳酸菌に負けることなく、発酵を継続することができる。
第1の工程と第2の工程の繰り返しにおいて、第1の工程から第2の工程への切り替えは、炭素源の表面のセルロールがグルコースへの変化速度がピークを過ぎた後の任意のタイミングであり、第2の工程から第1の工程への切り替えは、グルコースからエタノールまたは酢酸エチルまたはその混合物であるバイオガスへの変化速度がピークを過ぎた後の任意のタイミングとすれば良い。
なお、本発明のバイオガス製造装置における炭素源は、木材、稲藁、竹などを含む広く植物バイオマス資材を利用することができる。リグノセルロース系の植物バイオマス資材を広く用いることができる。なお、後述するように、本発明者は本発明のバイオガス製造方法を用いることにより、一般には植物バイオマス資材のうちでも発酵利用が難しいと考えられる竹粉を炭素源として固相でのバイオガス生成に成功している。
本発明のバイオガス製造方法において生成されるバイオガスは、アルコール類およびそのエステル類、揮発性有機酸類およびそのエステル類のいずれかまたはその任意の組み合わせが含まれ得る。アルコール類としては、メチルアルコール、エチルアルコールなどが含まれる。なお、可能性としては、ブチルアルコール、アミルアルコールなどの他のアルコール類、揮発性有機酸類としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸などが生成できると考えられる。エステル類としては上記したアルコール類のエステル類や揮発性有機酸のエステル類が含まれ得る。
例えば、エタノールはバイオエタノール燃料として既に注目されており、また、酢酸エチルガスも工業用の各種原料としての需要が大きいものである。
本発明者は、本発明のバイオガス製造方法を実現させる素材として、Wickerhamomyces属に属する不完全菌と、当該Wickerhamomyces属に属する不完全菌を担持する担体とを含む、炭素源からバイオガスを生成するための種菌を製作することにも成功した。
本発明のバイオガス生成装置は、上記したWickerhamomyces属に属する不完全菌の培養条件を保持するよう制御できる装置であることが好ましい。具体的には、前記炭素源と当該炭素源に播種した前記Wickerhamomyces属に属する不完全菌を培養する培養槽と、前記培養槽の培養条件を前記酵母菌様生活環活性条件および前記糸状菌担子菌様生活環活性条件で切り替え自在とした培養条件設定手段と、生成された前記バイオガスを回収するバイオガス回収手段を備えたものとする。炭素源の撹拌装置を伴う構成も好ましい。
本発明にかかるバイオガス製造方法によれば、Wickerhamomyces属に属する不完全菌を有効利用し、各種のバイオマスを用いて有用なバイオガスを固相のまま分解・発酵し、気相のバイオガスを生成させ、容易に回収することができる。
固相のまま分解・発酵するので、炭素源を粉体または破砕体などの固相の炭素源とし、バイオガス発生工程がその固相状態の炭素源から直接気相状態のバイオガスを発生させるものであり、液相を介することなく固相状態の炭素源から直接気相状態のバイオガスを発生させることが可能となる。固相発酵であるので、バイオガス生成過程で生じるアルコール成分による発酵サイクルへ与える悪影響を排除でき、また、バイオガスがアルコール成分とエステル成分などが混気状態で生産されても冷却トラップ等の凝集装置の温度設定により簡単に目的とする成分ごとに選択濃縮できる。
本発明のバイオガス製造装置および製造方法で用いるWickerhamomyces属に属する不完全菌に関する生活環を説明する図である。 実施例1にかかる本発明のバイオガスの製造装置および当該装置の中で行われる本発明のバイオガス製造方法を簡単に示した図である。 本発明のバイオガス製造方法を検証するための実験器具の構成を簡単に示した図である。 実証実験に用いた竹粉のサンプルの拡大写真を示す図である。 実証実験におけるバイオガスの回収結果を示す図である。 発生するバイオガスの種類の時系列変化を示す図である。 実験終了直後のバイオガス生成部110を想定した固相発酵用フラスコの底面近くの様子を示した図および培地を用いた培養結果を示す図である。 実施例2にかかる本発明のバイオガスの製造装置および当該装置の中で行われる本発明のバイオガス製造方法を簡単に示した図である。 最初の第1の工程から第2の工程を経て、次に第1の工程に戻ることを簡単に示した図および培地を用いた培養結果を示す図である。 再度第1の工程に戻った状態から再度第2の工程に移行することを簡単に示した図およびその後第1の工程と第2の工程と繰り返して行く様子を示す図である。 炭素源の変化を簡単に示した図である。 従来技術において、木質系セルロースを原料としてアルコールを得る酸加水分解法および酵素糖化法を説明する図である。
以下、図面を参照しつつ、本発明のバイオガス製造方法、および、バイオガスを生成するための種菌の実施例について説明する。
なお、以下の実施例は一例であり、本発明の内容は実施例の具体的内容には限定されない。
本発明は、Wickerhamomyces属に属する不完全菌の活性を制御し、糸状菌担子菌様生活環と、酵母様生活環の異なった生活環の遷移を制御し、炭素源を原料として固相発酵を可能とし、アルコール類やエステル類を含むバイオガスを生成させるものである。
本発明に用いるWickerhamomyces属に属する不完全菌は、糸状菌担子菌様生活環と、酵母様生活環の異なった生活環を遷移することにより、以下の固相発酵サイクルが可能である。
図1は、本発明のバイオガス製造方法で用いるWickerhamomyces属に属する不完全菌に関する生活環を説明するものである。
図1に示すように、炭素源の分解進度において、糸状菌担子菌様生活環は好気条件下でセルロースリッチな状態で発現しやすく、セルロース→グルコース→アルコール類への進度を進め、酵母様生活環は嫌気条件下でグルコースリッチな状態で発現しやすくグルコース→アルコール類→エステル類への進度を進めてゆく。
なお、本発明者は、このWickerhamomyces属に属する不完全菌の2つの生活環の間を遷移させて炭素源の分解進度を進める手法を発明した。バイオガスの発生は、糸状菌担子菌様生活環によるセルロースのグルコースへの分解と、酵母様生活環によるグルコースからバイオガスへの生成がなされれば良いので、糸状菌担子菌様生活環から始めて酵母様生活環へ遷移すればバイオガスの生成が見られる。さらに、図1に示すように、糸状菌担子菌様生活環から酵母様生活環への遷移のコントロールと、酵母様生活環から糸状菌担子菌様生活環への遷移のコントロールを人為的に操って炭素源の分解進度を繰り返して実行することにより繰り返しバイオガスを生成することもできる。
このように、Wickerhamomyces属に属する不完全菌の2つの生活環の間の遷移を人為的に制御した炭素源からのバイオガスの発生という技術は、今までにない画期的なものである。
図2は、実施例1にかかるバイオガスの製造装置および当該装置の中で行われる本発明のバイオガス製造方法を簡単に示したものである。
図2(a)は、実施例1にかかる本発明で用いるバイオガス製造装置100の構成を簡単に示したものである。
図2(a)に示すように、培養槽110を中心とし、炭素源投入手段120により適宜、固相状態の炭素源を投入できるものとなっている。また、培養条件設定手段130を備え、培養槽110における培養条件を制御できる。この実施例では培養条件の制御は嫌気条件と好気条件の切り替えで行うものとなっており、培養条件設定手段130は窒素供給手段140のバルブ141の制御を行うものとなっている。バイオガス回収手段160は培養槽110により炭素源の分解が進み、セルロースからグルコースを経て、発生した気相状態のメタノール、エタノール、酢酸エチルなどのバイオガスを受け取り、気相のまま回収する装置である。
図2(b)は、本発明のバイオガス製造方法として第1の工程と第2の工程が行われる様子を示したものである。
第1の工程は、Wickerhamomyces属に属する不完全菌を固相状態の炭素源とともに培養し、炭素源のセルロースからグルコースを生成する工程である。
第2の工程は、第1の工程に引き続き、前記Wickerhamomyces属に属する不完全菌を培養して前記第1の工程で生成された固相状態のグルコースを分解して気相状態のメタノール、エタノール、酢酸エチルのいずれかまたはそれらの混合物であるバイオガスを生成する工程である。
この第1の工程と第2の工程を行うことにより、固相状態の炭素源から液相を介することなく直接気相状態のバイオガスを生産する工程となっている。
培養条件設定手段130は、第1の工程から第2の工程へ遷移させる場合、酵母菌様生活環活性条件、つまり、培養槽110内を常温かつ嫌気条件を保つため、必要に応じて窒素供給手段140のバルブ141の開放制御を行って適度な嫌気条件を維持する。
なお、最初の第1の工程は、この例では、嫌気条件から始める例となっている。好気条件であると炭素源に混入している乳酸菌が優勢に繁殖してしまう可能性があるためである。嫌気条件であったとしても、Wickerhamomyces属に属する不完全菌が炭素源のセルロースからグルコースを生産しつつも、酵母様生活環活性条件であるので、糸状菌担子菌様の生活環がやがて酵母菌様生活環へ自然と遷移してゆき、第2の工程に遷移してゆく。
以下、本発明のバイオガス製造方法を実験により実証する。
[実証実験に用いた器具構成]
図3は、バイオガス製造方法を検証するための実験器具の構成を示す図である。
固相発酵用フラスコは培養槽110を想定したものである。
固相発酵用フラスコは、炭素源となる竹粉を封入し、70℃で1週間窒素乾留し、Wickerhamomyces属に属する不完全菌を播種したものである。
人手で実験器具を操作することにより、培養条件設定手段130を省略した。
酸素ボンベは酸素供給手段150、窒素ボンベは窒素供給手段140を模したものである。なお、実証実験の後段に使用する酸素ボンベは培養槽に見立てた固相発酵用フラスコ内を好気条件にする際に使用するものであるが、滅菌した空気を投入する空気ボンベであっても良い。
嫌気条件は、窒素ボンベからは毎分2mlにて窒素ガスを供給することで維持する。
好気条件は、酸素ボンベまたは空気ボンベから毎分2mlにて酸素ガスまたは空気を供給することで維持する。
バイオガス回収装置160はクールトラップ器具により代替した。クールトラップ器具は、ガストラップ瓶にガラス玉を入れて配管したものを、予め−20℃で予冷しておく。
なお、上記の実験器具の構成により、本発明のバイオガス製造装置の基本的構造を想定した実験となっている。
[実証実験に用いた菌]
以下、実証実験に用いるWickerhamomyces属に属する不完全菌を同定して確認した。
菌の分析は、微生物同定試験を受託している株式会社テクノスルガ・ラボに実証実験に用いる菌を持ち込んで微生物同定試験を依頼した。具体的な同定方法は、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(Denaturing gradient gel electrophoresis:DGGE)法を用いて微生物群集構造解析を行った。DGGE法は、同じ長さの二本鎖DNA断片を塩基配列の違いに基づいて分離する電気泳動法である。切り出したバンドからDNAを抽出し、これを鋳型としてPCR増幅した産物を用いて再度DGGEを行うことによりバンドの純度確認を行いつつDNA型の解析をした。DGGE解析によって得られた7バンドの28SrDNA部分塩基配列および1バンドの16SrDNA部分塩基配列を決定し、それら結果により簡易系統解析を行い、各バンドに由来する細菌群の帰属分類群を決定した。
サイクルシーケンス:Big Dye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit
(Applied Biosystems, CA, USA)
使用プライマー:DGGE band sequencing kit for analysis of the bacterial v3 region
(DS-0001)(TechnoSuruga Laboratory Co., Ltd, Shizuoka)
Lac1, Lac3, Lac2 (Lactobacillales 目増幅用) Lac1, Lac 3は等量混合使用
シーケンス:ABI 3130xl Genetic Analyzer System (Applied Biosystems, CA, USA)
配列決定 :ChromasPro 1.4 (Technelysium Pty Ltd., Tewantin, AUS)
相同性検索及び簡易分子系統解析:ソフトウェアアポロン3.0(テクノスルガ・ラボ、静岡)
データベース:国際塩基配列データベース(GenBank/DDBJ/EMBL)
アポロンDB−BA10.0(テクノスルガ・ラボ静岡)
アポロンDB−FU(D1/D2)8.0(テクノスルガ・ラボ静岡)
以下、本発明のバイオガス製造方法で用いるWickerhamomyces属に属する不完全菌として、実証実験に用いた菌に関する同定結果を示す。
試験サンプルは、試験区分1と試験区分2の2つを用意してダブルチェックした。
[試験区分1のサンプルの分析]
試験1 塩基配列と上位15株との相同率
アポロンDB−FU(D1/D2)8.0検索結果
試験2 塩基配列と上位20株との相同率
GenBank/DDBJ/EMBL国際塩基配列データベース検索結果
[試験区分2のサンプルの分析]
試験1 塩基配列と上位15株との相同率
アポロンDB−FU(D1/D2)8.0検索結果
試験2 塩基配列と上位20株との相同率
GenBank/DDBJ/EMBL国際塩基配列データベース検索結果
[表1]及び[表3]のアポロンDB−FU(D1/D2)に対する相同性検索の結果、バンド由来の28SrDNA塩基配列は、Wickerhamomyces arborariusに由来する28rDNAに対して最も高い相同性が示された。
また、[表2]及び[表4]のGenBank/DDBJ/EMBL国際塩基配列データベース検索の結果において、Wickerhamomyces anomalusなどの28SrDNAに対して高い相同性が示された。
それらを総合して判断すると、バンド由来の塩基配列はWickerhamomyces属の28SrDNAのクラスターに含まれると結論付けられた。
その結果、実証実験に用いられた菌は、Wickerhamomyces属に属する不完全菌であると結論付けられた。
なお、本発明に用いるWickerhamomyces属に属する不完全菌は、Wickerhamomyces属に属し、固相での培養条件にて炭素源とともに培養した場合に、糸状菌担子菌様生活環と酵母様生活環の異なった生活環を遷移し、炭素源を原料として固相発酵によりアルコール類やそのエステル類、揮発性有機酸類やそのエステル類を含むバイオガスを生成させる菌であれば特に限定されない。
本発明者は、この同定された当該Wickerhamomyces属に属する不完全菌の株と同じ株の菌を用いて実証実験に使用した。
[実証実験に用いた炭素源]
本発明で利用するWickerhamomyces属に属する不完全菌は、糸状菌担子菌様生活環と、酵母様生活環の異なった生活環を遷移することができるため、特に、炭素源は限定されない。
例えば、植物バイオマス資材としてはリグノセルロース系バイオマス等があり、樹木系バイオマス資材であってもよいし、草系バイオマス資材であってもよい。樹木系バイオマス資材としては針葉樹、広葉樹、裸子植物等の樹木に由来する木材(建築廃材、間伐材等を含む)、またはそれらの樹皮、おがくず、葉、きのこ廃菌床等が挙げられる。草系バイオマス資材としては稲、麦、トウモロコシ、サトウキビ、竹、ススキ等に由来する資材、例えば農産物の収穫や加工処理の際に生じる残渣等が挙げられる。
広葉樹木材、稲藁、竹等のリグノセルロース系バイオマス等を含む植物バイオマス資材は、キシロース等の五炭糖と、グルコース等の六単糖とを構成単位とするヘミセルロースと、グルコースを構成単位とするセルロースを多く含んでいる。つまり、本発明のバイオガス製造方法の炭素源としては、セルロース、ヘミセルロースを利用できるが、もちろん、もっと分解の進んだ糖類、つまり、デンプン、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース等の六炭糖、キシロース、アラビノース等の五炭糖等の単糖類、セロビオース等の二糖類なども炭素源として利用可能である。
本発明では固相のまま直接炭素源を材料とし、気相のバイオガスを発生するものであるので、従来のリグノセルロース系の炭素源の利用に必要とされていた物理的処理や化学的処理は不要である。
以下の実証実験では、比較的バイオマス利用が難しいとされている竹粉を用いて行った。
図4は実証実験に用いた竹粉のサンプルの拡大写真である。
[実証実験における固相発酵工程、培養条件]
本発明のバイオガス製造装置および製造方法の実証は、以下の固相発酵工程、培養条件で行った。
まず、本発明の実施例1にかかるバイオガス製造方法における、第1の工程と第2の工程への遷移によるバイオガスの製造を実証する実験を行った。
・固相発酵工程:竹粉を固相のままとし、Wickerhamomyces属に属する不完全菌を播種
・培養条件:常温、嫌気的条件に維持
なお、本来の固相の培養条件としては、炭素源を粉体または破砕体の固相状態とすることおよび嫌気的条件とすることに加え、炭素源に既に混入している自然界の乳酸菌の活性化を阻害することが条件として入るが、後述するように、十分に嫌気性が保たれていれば、乳酸菌は好気性菌であるので活性化が阻害されるよう配慮して実験を行えば、上記培養条件にて固相での培養条件が満たされる。
炭素源は竹を粒状体または粉体の固相体とした。なお、本発明のバイオガス製造方法では材料は炭素源のみで良いが、必要に応じて窒素源、無機塩類等の必要な成分とともに含有させることも除外されない。
菌の播種は、固相状態の適当な培地にWickerhamomyces属に属する不完全菌を播種して培養する。ここで、乳酸菌や、他の糸状菌、担子菌、酵母菌などの菌が混入しないようにする。
菌の培養温度は、25℃〜35℃の常温が好ましく、培養時間は24時間〜2000時間程度とすることができる。なお、実施した実証実験では培養温度30℃、培養時間1440時間(60日)とした。
菌の培養は、嫌気的培養とする。嫌気的培養とは具体的には、Wickerhamomyces属に属する不完全菌を播種した培地を、外気と実質的に通気させることなく培養することを指す。本発明において嫌気的条件とは、実質的に遊離酵素が存在しない培養条件を指し、例えば、Wickerhamomyces属に属する不完全菌と培地とを容器内に収容し、容器内の雰囲気を窒素ガス等で置換するなどして実質的に酵素を含まない状態とし、容器内と外気とが実質的に通気しない状態で培養する培養条件が挙げられる。
後述する考察で述べるように、本発明のバイオガス製造方法では、嫌気的条件において培養することにより炭素源に混入している自然界の乳酸菌の活性化を阻害するよう制御する。乳酸菌は好気性細菌であり、好気的条件ではWickerhamomyces属に属する不完全菌より繁殖力が優位であり、Wickerhamomyces属に属する不完全菌の繁殖を抑制してしまう。そこで、本発明では嫌気的条件に維持することにより乳酸菌の繁殖を抑え、Wickerhamomyces属に属する不完全菌の繁殖を優位に維持できるようコントロールするものである。
このことを確認する意図も込めて、比較実験として、好気的条件にて培養した結果も示す。ここで、好気的条件とは、具体的には、Wickerhamomyces属に属する不完全菌を播種した培地を、外気と実質的に通気させる状態で培養することを指す。
[実証実験における固相発酵の結果]
培養試験及びバイオガス生成実験は、公設の試験研究機関である兵庫県立工業技術センターにおいて行なった。
図5に、実証実験におけるバイオガスの回収結果を示す。
図5は、培養を始めて3日目あたりで放出されているバイオガスのGC−MSの測定結果である。
ガスの種類の特定は、GC−MS(Gas Chromatography Mass Spectrometry:ガスクロマトグラフィー質量分析法)により行った。
GC−MSの測定結果を分析した。
図5の中で、明瞭に検出されている2.53分のピークはメタノール、2.92分のピークはエタノールである。これらは、バイオガス生成部110を想定した固相発酵用フラスコ内で発生したバイオガスと考えられる。なお、その他のものはバイオガスではないとみられる。例えば、2分付近の大きなピークと8.5分のピークは、トラップ液の溶媒に使用したアセトン由来ピークと考えられる。18.04分の2つのピークはプラスチックの可塑剤のピークでコンタミネーションした物質由来と推測される。その他の小さなピークの多くは再現性の無いノイズと考えられる。
次に、培養日数を通じて観察した発生するバイオガスの種類の時系列変化について調べた。
図6は、培養日数を通じて観察した発生するバイオガスの種類の時系列変化を示す図である。培養日数を横軸にとり、縦軸にバイオガス生成濃度(mg/l)を取ったものである。
図6に示すように、培養日数が浅いうちは、メタノールやエタノールのアルコール類の発生が盛んに見られ、アルコール濃度が高くなっているが、培養日数が経過してゆくにつれ、エステル濃度が上がって来たことが分かる。つまり、培養によって先にアルコール濃度が向上してゆき、遅れるようにエステル濃度が次第に向上していることが読み取れる。つまり最初にエタノール発酵が進み、その後に続いてエステル発酵が起こっていることが分かる。
なお、気中に放出されたバイオガス成分をGC−MSで調べたところ、気中に放出されたアルコール類の主成分はエタノールであり、エステル類は酢酸エチルであることが分かった。
この実験結果から、本発明のバイオガス生成装置を想定した実験装置で実行した用いた本発明のバイオガス製造方法により、Wickerhamomyces属に属する不完全菌により、嫌気状態等の固相発酵条件下で竹粉の炭素源からバイオガスを得られることが実証できた。
ここで、本発明のバイオガス製造方法が固相発酵を可能とした点を確認した。
図7(a)は、実験終了直後のバイオガス生成部110を想定した固相発酵用フラスコの底面近くの様子を写したものである。図7(a)に示すように、固相発酵用フラスコ内は固相のままで液溜まりが見られなかった。固相発酵用フラスコ内部の竹粉を直接確認しても液体で濡れたような状態は確認できなかった。クールトラップで捕捉されたメタノールやエタノールは気相状態でバイオガス回収装置130を想定したクールトラップ器具に到達しているので、固相発酵から液相を介することなく気相のバイオガスを発生するサイクルで固相発酵が進んだことが分かる。
ここで、第2の工程でのバイオガスの製造を終了した時点でのWickerhamomyces属に属する不完全菌の生活環を確認した。
生活環の確認は、培地を用いた培養により確認した。
抽出液の調整は、試料25gを滅菌水500mlに分散・静置し、上澄液を回収して抽出した。
培地の種類は、ポテトデキストロース培地とYPD培地を用いた。ポテトデキストロース培地は糸状菌担子菌様生活環にあるWickerhamomyces属に属する不完全菌の繁殖に適しており、ポテトデキストロース培地で繁殖が大きければWickerhamomyces属に属する不完全菌の生活環が糸状菌担子菌様生活環であったと推定できる。YPD培地は酵母様生活環にある菌の繁殖に適しており、YPD培地で繁殖が大きければ菌の生活環が酵母菌様生活環であったと推定できる。
いずれも培養条件は、抽出液200μLを培地表面に播種し、シールテープで密封した後29℃で3日間静置することで培養した。
図7(b)の左図は、ポテトデキストリン培地を用いた培養結果である。播種したWickerhamomyces属に属する不完全菌の増殖は見られるものの比較的限られていることが分かる。
図7(b)の右図は、YPD培地を用いた培養結果である。播種したWickerhamomyces属に属する不完全菌の増殖が大きく、活発に繁殖していることが分かる。
以上から第2の工程でのバイオガスの製造を終了した時点でのWickerhamomyces属に属する不完全菌の生活環が酵母菌様生活環に遷移していることが確認できた。
[結果および考察]
上記の実証実験の結果を考察する。
バイオガス発生工程は、固相状態の炭素源から気相状態にてバイオガスが発生し、液相を介することなく炭素源から直接、バイオガスを発生させる固相発酵であることが確認できたことから、本発明のバイオガス製造方法は、Wickerhamomyces属に属する不完全菌は繁殖する過程における固相発酵サイクルでアルコール類や揮発性有機酸やそれらのエステル類が製造されたものと考えられる。
Wickerhamomyces属に属する不完全菌を利用する固相発酵サイクルは、糸状菌担子菌様生活環と、酵母様生活環の異なった生活環の間を遷移させることで実行される。
第1の反応が、固相発酵サイクルの当初に起こる反応であり、炭素源が竹粉などセルロースリッチかつグルコース欠乏の状態であり、嫌気条件下におくことでWickerhamomyces属に属する不完全菌の『糸状菌担子菌様生活環』にてセルロースが分解されグルコースが生成される。
このグルコースの生成にあたり、まず『糸状菌担子菌様生活環』にあるWickerhamomyces属に属する不完全菌は、セルロースとリグニンを分解する脱リグニン反応が起こると考えられる。このことは、実証実験において、リグニンの減少を測定することにより検証できる。
次に、脱リグニン反応に続いて、『糸状菌担子菌様生活環』にあるWickerhamomyces属に属する不完全菌は、セルロースをグルコースに分解するグルコース分解反応を起こすものと考えられる。
第2の反応は、第1の反応でグルコース分解反応が進み、周辺環境におけるグルコース濃度が高くなってくると、Wickerhamomyces属に属する不完全菌は次第に生活環を『糸状菌担子菌様生活環』から『酵母様生活環』に遷移させる。つまり、炭素源がグルコースリッチの条件下におくことでWickerhamomyces属に属する不完全菌の生活環が『酵母様生活環』に遷移して活性化され、グルコースをアルコール類(エタノール)への分解、さらにエステル類(酢酸エチル)の生成が促進される。
以上の第1の反応および第2の反応とも、固相で行われ、一度も液相を介することがない。放出されるアルコール類、エステル類は気相として放出されるため、固相状態の炭素源から気相状態のバイオガスが生成されることが検証できた。
実施例2は、第1の工程と第2の工程を連続して交互に繰り返すことにより、固相状態の炭素源から液相を介することなく直接気相状態のバイオガスを生産するバイオガスの製造方法である。
図8は、実施例2にかかる本発明のバイオガスの製造装置および当該装置の中で行われる本発明のバイオガス製造方法を簡単に示した図である。
図2に比べて、酸素供給手段150およびバルブ151が追加された構成となっている。 なお、酸素供給手段150は、工業用の酸素ボンベなどでも良いが、本発明における好気条件は大気中の空気と同様の酸素濃度でも良いので、大気中の空気を送り出すポンプ、または大気を通気させるベンチレーションでも良い。
実施例2のバイオガス製造方法では、最初の第1の工程から第2の工程を経て、最初のサイクルにおいてバイオガスが回収した後、引き続き、第2の工程から第1の工程へ再遷移させて次のバイオガス生成サイクルを行う。
図8(b)は、第1の工程と第2の工程が繰り返される様子を示したものである。この第1の工程と第2の工程を連続して交互に繰り返すことにより、固相状態の炭素源から液相を介することなく直接気相状態のバイオガスを連続して生産する工程となっている。
なお、この例では、最初の第1の工程における条件と、2回目以降の第1の工程における条件が異なる例となっている。
実施例2の場合も、最初の第1の工程を経て第2の工程に遷移してバイオガスを生成する方法は、実施例1と同様であるのでここでは説明を省略する。
実施例2の場合、第2の工程から引き続き、第1の工程に再度遷移する。
図9は、最初の第1の工程から第2の工程を経て、次に第1の工程に戻ることを簡単に示したものである。図9に示すように、培養条件設定手段130は、窒素供給手段140のバルブ141を閉じるとともに、酸素供給手段150のバルブ151を開いて培養槽110内に酸素を供給し、培養槽110の内部を好気条件とする。なお、工業的な量産システムでは 酸素供給手段150は、大気中の空気を送り出すポンプ、または大気を通気させるベンチレーション、工業用の酸素ボンベなどでも良い。
この第2の工程から第1の工程に戻る手順を実証する実証実験は、図3に示した実験器具構成において、空気ボンベより空気で置換することにより行った。その他の実験器具構成はそのままとした。
空気が置換された固相発酵用フラスコを30℃インキュベータにて1週間培養を続けた。
図9(b)は1週間の培養を経て得られたWickerhamomyces属に属する不完全菌の生活環を調べたものである。生活環の確認は前出の確認と同様、培地を用いた培養により確認した。
抽出液の調整は、試料25gを滅菌水500mlに分散・静置し、上澄液を回収して抽出した。培地の種類は、ポテトデキストロース培地とYPD培地を用いた。いずれも培養条件は、抽出液200μLを培地表面に播種し、シールテープで密封した後29℃で3日間静置することで培養した。
図9(b)の左図は、ポテトデキストリン培地を用いた培養結果である。播種したWickerhamomyces属に属する不完全菌の増殖が大きく、活発に繁殖していることが分かる。
図9(b)の右図は、YPD培地を用いた培養結果である。播種したWickerhamomyces属に属する不完全菌の増殖が大きく、活発に繁殖していることが分かる。
以上から、第2の工程の後、好気条件にすることにより、Wickerhamomyces属に属する不完全菌の一部はその生活環を、酵母様生活環から糸状菌担子菌様生活環へ再遷移したことが確認できた。つまり、第2の工程から第1の工程へ戻ることができたことが確認できた。
なお、この実証実験では、図9(b)の右側の実験からWickerhamomyces属に属する不完全菌の一部の生活環は酵母様生活環のまま維持されていたようであるが、好気条件の培養期間を長くすればより多くの割合のWickerhamomyces属に属する不完全菌の生活環が糸状菌担子菌様生活環へ再遷移することが期待できる。また、たとえ一部のWickerhamomyces属に属する不完全菌の生活環が酵母様生活環を維持し続けたとしてもセルロースのグルコースへの分解に対して大きく阻害するようなものではない。
以上、第2工程の後、第1の工程に戻ってセルロースのグルコースへの分解工程に再度遷移することができることが確認できた。
次に、実施例2では、第1の工程に戻った後、再び第2の工程に移行する。
図10は、図9のように第1の工程に戻った状態から再度第2の工程に移行することを簡単に示したものである。図10(a)に示すように、培養条件設定手段130は、酸素供給手段150のバルブ151を閉じるとともに、窒素供給手段140のバルブ141を開いて培養槽110内に窒素を供給し、培養槽110の内部を嫌気条件とする。実証実験では、図3に示した実験器具構成において、窒素ボンベより発酵用フラスコ内を窒素で置換した。その他の実験器具構成はそのままで良い。
この実験は、前出したものと同じであり、バイオガスの発生・回収ができることが確認できた。
その後も図10(b)に示すように、第1の工程、第2の工程と繰り返して行けば良い。
ここで、第1の工程、第2の工程を交互に繰り返す利点について説明する。
一般に他で行われている炭素源を用いたバイオエタノールを得る発酵技術は、炭素源を加水分解処理など物理的に大量のエネルギーを投入してグルコース化を終えてから、そのグルコースを発酵によりエタノールに変化させるものがほとんどであるため、本発明のように発酵工程を繰り返すという概念がない。しかし、本発明は、炭素源のセルロースからグルコース、グルコースからエタノールという2工程を、Wickerhamomyces属に属する不完全のみで行うものである。
ここで、炭素源のセルロースをWickerhamomyces属に属する不完全のみでほとんどグルコースになるまで発酵させるとすると長時間を要するものと考えられる。そこで、発酵進度を効率的に進めるため、炭素源のセルロースからグルコース、グルコースからエタノールという2工程を交互に進める手法を想起した。
図11は炭素源の変化を簡単に示した図である。本発明の炭素源の例は、竹粉などの粉体であり、表面積は大きく確保されているが、拡大してみれば、図11のごとく、セルロースの塊状のものである。ここで、図11の上段から中段に示すように、Wickerhamomyces属に属する不完全菌が糸状菌担子菌様の生活環でセルロースを分解してグルコースに変化させるとグルコースが表面を覆ってくる。本発明は固相発酵を前提としているので、グルコースが溶出せず表面を覆ってくるものと考えられる。このまま、Wickerhamomyces属に属する不完全菌の生活環を糸状菌担子菌様生活環に維持した状態で培養を継続しても、その活性が低下してくるおそれがある。そこで、本発明では、Wickerhamomyces属に属する不完全菌の生活環を遷移させ、グルコースを活発に分解する酵母様生活環にし、図11中段から下段のように、表面の固相状態のグルコースをエタノールに発酵させ、蒸散させて先にバイオガスとして回収するものである。このように適度なところで表面の固相状態のグルコースを発酵してしまうことにより、再びセルロースが表面近くに露出するので、再度、図11下段から上段へ戻って、Wickerhamomyces属に属する不完全菌の生活環を糸状菌担子菌様生活環に戻してセルロースのグルコースへの発酵工程とするものである。このように、第1の工程と第2の工程を繰り返すことにより、全体としての発酵の活性効率を高くするものである。
以上、本発明のバイオガス製造方法、バイオガス製造装置について好ましい実施例を図示して説明してきたが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されるであろう。
本発明のバイオガス製造方法は、植物バイオマス資源、たとえば、樹木、草木、竹、稲藁などのリグノセルロース系バイオマス資源を利用したバイオマス処理を伴う技術分野に広く適用することができる。
100 バイオガス製造装置
110 培養槽
120 炭素源投入手段
130 培養条件設定手段
140 窒素供給手段
141 バルブ
150 酸素供給手段
151 バルブ
160 バイオガス回収部

Claims (5)

  1. Wickerhamomyces属に属する不完全菌を炭素源とともに培養することによりバイオガスを生成するバイオガス生成工程を含むバイオガスの製造方法であって、
    前記Wickerhamomyces属に属する不完全菌が、糸状菌担子菌様生活環と、酵母様生活環の異なった生活環を遷移するものであり、
    前記バイオガス生成工程が、
    前記Wickerhamomyces属に属する不完全菌を培養条件を常温かつ好気条件の糸状菌担子菌様生活環活性条件として糸状菌担子菌様生活環にて培養して固相状態の前記炭素源のセルロースをグルコースに分解する第1工程と、
    前記Wickerhamomyces属に属する不完全菌を培養条件を常温かつ嫌気条件の酵母菌様生活環活性条件として酵母様生活環にて培養して前記第1の工程において固相状態の前記炭素源から生成された固相状態の前記グルコースを分解して気相状態のメタノール、エタノール、それらのエステル類のいずれかまたはそれらの混合物であるバイオガスを生成する第2工程を備え、
    前記第1の工程および前記第2の工程において、前記培養条件を前記糸状菌担子菌様生活環活性条件から前記酵母菌様生活環活性条件へ変更することにより、前記Wickerhamomyces属に属する不完全菌の前記糸状菌担子菌様生活環と前記酵母様生活環を遷移させつつ、液相を介することなく前記炭素源から直接、気相状態の前記バイオガスを発生させる工程としたものである、バイオガスの製造方法。
  2. 前記糸状菌担子菌様生活環活性条件と前記酵母菌様生活環活性条件の間で前記培養条件の切り替えを適宜繰り返し、前記第1の工程と前記第2の工程を連続して交互に繰り返すことにより、前記固相状態の前記炭素源から液相を介することなく直接気相状態の前記バイオガスを生産する請求項1に記載のバイオガスの製造方法。
  3. 前記第1の工程と前記第2の工程の交互の繰り返しにおいて、
    最初の前記第1の工程は、培養条件を、前記糸状菌担子菌様生活環活性条件とはせずに、当初から前記酵母菌様生活環活性条件である常温かつ嫌気条件とし、前記Wickerhamomyces属に属する不完全菌の生活環を前記糸状菌担子菌様生活環にコントロールしたものを播種し、前記炭素源に混入している乳酸菌の増殖を抑制するとともに、前記Wickerhamomyces属に属する不完全菌が前記炭素源のセルロースをグルコースに分解しつつも、前記酵母菌様生活環活性条件下、やがてその生活環が前記糸状菌担子菌様生活環から前記酵母菌様生活環へ自然と遷移してゆき、前記第2の工程に遷移してゆくようコントロールすることを特徴とした請求項2に記載のバイオガス製造方法。
  4. 前記第1の工程と前記第2の工程の交互の繰り返しにおいて、
    最初の前記第1の工程から前記第2の工程への遷移を除き、
    前記第1の工程から前記第2の工程への切り替えは、前記炭素源の表面のセルローからグルコースへの分解速度がピークを過ぎた後の任意のタイミングであり、
    前記第2の工程から前記第1の工程への切り替えは、前記グルコースから前記エタノールまたはそれらのエステル類またはそれらの混合物である前記バイオガスへの分解速度がピークを過ぎた後の任意のタイミングであることを特徴とする請求項2または3に記載のバイオガス製造方法。
  5. 前記炭素源が、植物バイオマス資材である請求項1から4のいずれかに記載のバイオガスの製造方法。
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