JP5005054B2 - 発進クラッチ制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、車両の発進時に当該車両の駆動源が出力するトルクを制御する発進クラッチ制御装置に関する。
従来、車両の発進時にクラッチの伝達トルクを制御する制御装置として、例えば、下記特許文献1に記載された発進クラッチ制御装置が知られている。これによれば、車両の発進時に良好な発進性能を得るために、大きい入力トルクが得られるエンジン回転数が低い状態で発進制御を行なっている。
特開平9−72353号公報
しかしながら、クラッチを作動させる力を伝達する媒体としてオイルを使用し、オイルポンプからクラッチ内部にオイルを供給する場合、エンジンが回転する度にオイルを供給するため、オイルの流量は、エンジンの回転数にほぼ比例する。このため、エンジン回転数が低いときには、供給されるオイルの量が減少し、オイルによる冷却力も低下する。この状態が継続すると、クラッチの温度が許容できる温度よりも高い状態が継続して、クラッチの劣化を早める原因になる。
特に、登坂発進時など、連続ストール状態が継続するときには、高温の状態が継続することによりクラッチの劣化を早める恐れがある。これを回避するには、大容量のオイルポンプを用いることが考えられる。しかしながら、大容量のオイルポンプではポンプフリクションが増大し、燃費が低下する。
本発明は、登坂発進時など連続ストール状態が継続することによるクラッチの劣化と燃費の低下とを防止することができる発進クラッチ制御装置を提供することを目的とする。
本発明は、車両の駆動側と被駆動側との間に設けられた発進クラッチによって双方間の接続を制御する制御装置であって、前記発進クラッチの駆動軸の回転数を検知する駆動軸回転数検知手段と、前記発進クラッチの被駆動軸の回転数を検知する被駆動軸回転数検知手段と、前記発進クラッチに作用している圧力、前記駆動軸回転数及び前記被駆動軸回転数に基づいて前記発進クラッチの仕事率を算出する仕事率算出手段と、前記発進クラッチに作用している圧力前記駆動軸回転数及び前記被駆動軸回転数に基づいて前記発進クラッチの累積仕事量を算出する累積仕事量算出手段と、前記発進クラッチが締結過渡状態にあって、前記累積仕事量が第1の所定値を超え、且つ前記仕事率が第2の所定値を超えたとき、当該車両の駆動源の出力トルクを制限するトルク出力制限手段とを備え、前記累積仕事量算出手段は、前記発進クラッチが締結過渡状態のときは、前記仕事率に基づいて、現時点の累積仕事量以上になるように前記累積仕事量を算出し、前記発進クラッチが締結過渡状態でないときは、前記仕事率に基づいて、現時点の累積仕事量以下になるように前記累積仕事量を算出し、当該車両がイグニッションオン直後の場合には、外気温が所定の値未満か否かを判定し、前記駆動源を冷却する冷却水の温度が所定の値未満か否かを判定し、且つ前記外気温と前記冷却水の温度の差が所定の値未満か否かを判定し、該3つの判定が全て肯定的である場合には前記累積仕事量を0に設定し、該3つの判定のうち少なくとも1つが否定的である場合には前記累積仕事量を保持することを特徴とする。
本発明において、累積仕事量算出手段は、前記発進クラッチに作用している圧力と、前記駆動軸回転数検知手段で検知された駆動軸回転数と、前記被駆動軸回転数検知手段で検知された被駆動軸回転数とに基づいて前記発進クラッチの累積仕事量を算出する。そして、トルク出力制限手段は、前記発進クラッチが締結過渡状態にあって前記累積仕事量が第1の所定値を超えたときに当該車両の駆動源の出力トルクを制限する。
従って、本発明によれば、発進クラッチの累積仕事量(具体的には、発進クラッチに溜まった熱量)が所定値より大きいとき、駆動源の出力トルクを制限することによって累積仕事量の増加が抑えられる。これにより、発進クラッチの温度が許容できない温度になるのを阻止して、発進クラッチの劣化を防止することができる。また、冷却のために大容量のオイルポンプを必要とせず、燃費の低下を防止することができる。
更に、前記累積仕事量算出手段は、前記発進クラッチに作用している圧力と前記駆動軸回転数及び前記被駆動軸回転数に基づいて前記発進クラッチの仕事率を算出する仕事率算出手段を備え、前記トルク出力制限手段は、前記発進クラッチが締結過渡状態にあって、前記累積仕事量が第1の所定値を超え且つ前記仕事率が第2の所定値を超えたときに当該車両の駆動源の出力トルクを制限するように構成されている。
換言すると、累積仕事量算出手段は、発進クラッチに作用している圧力と前記駆動軸回転数及び被駆動軸回転数に基づいて前記発進クラッチの仕事率を算出する仕事率算出手段を備える。トルク出力制限手段は、発進クラッチが締結過渡状態にあって前記累積仕事量が第1の所定値を超え且つ前記仕事率が第2の所定値を超えたときに、当該車両の駆動源の出力トルクを制限する。
すなわち、前記発進クラッチの累積仕事量(具体的には、発進クラッチに溜まった熱量)が所定値より大きいときに、更に仕事率の高い負荷(具体的には、オイルの冷却力に対して大きい熱量)が発生した場合には、駆動源の出力トルクを制限することによって、累積仕事量の更なる増加(具体的には、発進クラッチに更に熱量が溜まること)が抑えられる。これにより、前記発進クラッチの温度が許容できない温度になることを防ぎ、前記発進クラッチの劣化を防止することができる。また、冷却用に大容量のオイルポンプを必要とせず、燃費の低下を防止することができる。
更に、前記累積仕事量算出手段は、前記発進クラッチが締結過渡状態のときには、前記仕事率に基づいて、現時点の累積仕事量以上になるように前記累積仕事量を算出し、前記発進クラッチが締結過渡状態でないときは、前記仕事率に基づいて、現時点の累積仕事量以下になるように前記累積仕事量を算出するように構成されている。
これによれば、前記発進クラッチが締結過渡状態のときは、前記仕事率に基づいて、現時点の累積仕事量以上になるように算出する。すなわち、前記発進クラッチが締結過渡状態の間は、累積仕事量は増加するか同じ値になる。
また、前記発進クラッチが締結過渡状態でないときは、前記仕事率に基づいて、現時点の累積仕事量以下になるように算出する。すなわち、前記発進クラッチが締結過渡状態でない間は、累積仕事量は減少するか同じ値になる。
これによると、熱が発生する発進クラッチの締結過渡状態では累積仕事量が増加し、熱が発生しない発進クラッチの非締結過渡状態では累積仕事量が減少する。かくして、累積仕事量の増減が発進クラッチに発生する熱に対応するため、適切に累積仕事量の算出ができる。
更に、イグニッションオン直後のときは、外気温が所定の値未満か否かを判定し、前記駆動源を冷却する冷却水の温度が所定の値未満か否かを判定し、且つ前記外気温と前記冷却水の温度の差が所定の値未満か否かを判定し、該3つの判定が全て肯定的である場合には前記累積仕事量を0に設定し、該3つの判定のうち少なくとも1つが否定的である場合には前記累積仕事量を保持するように構成されている。
これにより、車両が充分長い時間放置された状態であると判断されたときのみ、累積仕事量Qscが0に初期化される。これは、発進クラッチが充分に冷えていない状態でイグニッションがオンされたときに、累積仕事量Qscが0に初期化されることを回避できる。従って、適切に累積仕事量の算出ができる。
本発明において、前記発進クラッチの作動流体の温度を推定する温度推定手段を備え、前記トルク出力制限手段は、前記作動流体の温度に応じて前記第1の所定値を決定することが好ましい。
これによれば、温度推定手段により、前記発進クラッチの作動流体の温度を推定し、前記作動流体の温度に応じて適切に駆動源の出力トルクの制限を行なうことができる。
本発明において、前記作動流体の温度が第3の所定値を超えたときに当該車両の駆動源の出力トルクを制限する第2のトルク出力制限手段を備えることが好ましい。これによれば、第2のトルク出力制限手段により、前記温度が第3の所定値を超えたことにより、累積仕事量が小さいときでも許容できない温度になっていたときは、適切に駆動源の出力トルクを制限することができる。
本発明の実施形態に係る発進クラッチ制御装置の概略構成を示す図。 図1の変速機制御装置のCPUが実行する発進クラッチの制御処理の手順を示すフローチャート。 図2のステップST1の前条件確認処理の手順を示すフローチャート。 図2のステップST2の仕事量・仕事率算出処理の手順を示すフローチャート。 図2のステップST3の制御状態選択処理の手順を示すフローチャート。 図2のステップST4のトルク協調制御処理の手順を示すフローチャート。 本発明の実施形態に係る発進クラッチの仕事率PWSC、協調トルクTQSC、エンジンの回転数NE、発進クラッチの累積仕事量Qsc、及び発進クラッチの油温OTの時間変化に対する各パラメータの変化の一例を示す図。
図1は、本発明の実施形態に係る発進クラッチ制御装置の構成を示す図である。本実施形態は、エンジン(内燃機関)を駆動源とする車両のクラッチ制御装置であり、当該車両の変速機は無段変速機(CVT)を用いている。
図1において、車両のエンジン1からの出力を伝達する駆動軸2は、前後進切換機構3及び前進クラッチ4を介して変速機の入力軸5に連結されている。入力軸5には、可変油圧シリンダ6によりV溝幅すなわち伝動ベルト7の巻き径が変更可能な可変プーリ(以下、「駆動側プーリ」という)8が設けられている。
伝動ベルト7は、変速機の駆動側プーリ8と、変速機の従動軸9に設けられた可変プーリ(以下、「従動側プーリ」という)11とに、巻き掛けられている。従動側プーリ11も、可変油圧シリンダ10によってV溝幅すなわち伝動ベルト7の巻き径が変更可能になっている。
以上の構成要素3〜11により無段変速機が構成される。従動軸9は、図示しないクラッチピストンを有する発進クラッチ12を介して、出力歯車13を設けた出力軸14と連結され、出力歯車13は、中間歯車15及び16を介して差動装置17に連結されている。
インギヤ時には、エンジン1から駆動軸2に伝達された回転力は、前進クラッチ4を介して駆動側プーリ8に伝達され、更に伝動ベルト7を介して従動側プーリ11に伝達される。そして、アクセルペダルの踏み込みに応じて、従動側プーリ11の回転力が発進クラッチ12を介して出力軸14に伝達され、出力軸14の回転力は、出力歯車13、中間歯車15、16及び差動装置17を介して、図示しない左右の駆動車輪に伝達される。
発進クラッチ12は、発進クラッチ12のクラッチピストンに油圧がかかることによって動作し、この油圧は発進クラッチ油圧制御装置34によって制御される。発進クラッチ油圧制御装置34の油吸入側は、油圧ポンプ35を介して油タンク36に接続されている。発進クラッチ油圧制御装置34は、ソレノイドへの通電によって動作するリニアソレノイド弁(LS)を備えており、油タンク36に溜まっているオイルを使用してクラッチピストンの油圧を発生させるものである。
エンジン1は、電子コントロールユニット(ECU)20によって回転が制御される。ECU20には、前記油圧シリンダ6及び10等の油圧を制御するための変速機制御装置31が接続されている。
変速機制御装置31は、各種演算処理を実行するCPU31aと、該CPU31aで実行される各種演算プログラム、後述する各種テーブル及び演算結果等を記憶するROM及びRAMからなる記憶装置(メモリ)31bと、前記各種電気信号を入力すると共に、演算結果等に基づいて駆動信号(電気信号)を外部に出力するための入出力インタフェース31cとで構成されている。
本実施形態では、変速機制御装置31が、発進クラッチ制御も行なう発進クラッチ制御装置として構成されている。従って、変速機制御装置31のCPU31aによって、発進クラッチ制御処理が実行される。
変速機制御装置31には、ECU20が出力するエンジン回転数NE、スロットル弁開度AP、吸気管内絶対圧PBAの各値が供給される。
また、変速機制御装置31には、入力軸5の回転数Ndrを検出するために駆動側プーリ8の近傍に取り付けられた入力軸回転センサ21からの出力、従動軸9の回転数Ndnを検出するために従動側プーリ11の近傍に取り付けられた従動軸回転センサ22からの出力、及び車速VELを検出するために出力軸14の近傍に取り付けられた出力軸回転センサ23からの出力も供給される。
また、変速機制御装置31は、上記発進クラッチ油圧制御装置34のリニアソレノイド弁を作動させるための電流信号を供給すると共に、そのソレノイドにかかる電圧値LSVを検知するようになっている。
更に、変速機制御装置31には、自動変速機のセレクタ(減速比選択装置)40が接続され、該セレクタ40のセレクトレバー(図示せず)の状態が検出されて変速機制御装置31に供給される。本実施形態では、セレクタ40は、ニュートラル(N)、パーキング(P)、ドライブ(D)、リバース(R)、セカンド(S)及びロー(L)の6種類のレンジを選択可能になっている。
変速機制御装置31は、制御油圧発生装置33a、33bに対し、駆動側プーリ油圧(DR)及び従動側プーリ油圧(DN)を発生させるための信号、発進クラッチ油圧制御装置34のリニアソレノイド弁を作動させる信号、及び、ECU20に対しエンジン1の出力トルクを制御するための信号をそれぞれ出力する。
PH発生装置32の油吸入側は、油圧ポンプ35を介して油タンク36に接続されている。PH発生装置32の油供給側は制御油圧発生装置33a、33bの油吸入側に接続され、PH発生装置32から油圧が制御油圧発生装置33a、33bに供給される。
制御油圧発生装置33aの油供給側は前記油圧シリンダ6に接続され、制御油圧発生装置33bの油供給側は前記油圧シリンダ10の油吸入側に接続され、変速機制御装置31からの制御信号に応じて調圧された油圧が、それぞれ油圧シリンダ6及び10に供給される。
こうして制御油圧発生装置33a、33bから油圧シリンダ6及び10へ供給された油圧に応じて、それぞれ駆動側プーリ8及び従動側プーリ11のV溝幅が決定されることで、無段変速機の変速比が決定される。
次に、発進クラッチ制御装置としての変速機制御装置31のCPU31aによって実行される発進クラッチ制御処理について説明する。本実施形態では、このCPU31aが本発明における被駆動軸回転数検知手段、累積仕事量算出手段、トルク出力制限手段、仕事率算出手段、温度推定手段、及び第2のトルク出力制限手段として動作する。
図2は、変速機制御装置31のCPU31aが実行する制御処理の手順を示すフローチャートである。本フローチャートで示される制御処理プログラムは、所定時間(例えば、10msec)毎に呼び出されて実行される。
この制御処理において、初めのステップST1では、車両の状態が正常か否かを判定する前条件確認を行なう。次に、ステップST2に進み、仕事量・仕事率の算出を行なう。次に、ステップST3に進み、制御状態の選択を行なう。次に、ステップST4に進み、トルク協調制御を行ない、本制御処理を終了する。
以下、図3〜図6を参照してステップST1〜4の処理を説明する。
図3は、図2のステップST1で行なわれる前条件確認処理の手順を示すフローチャートである。
まず、ステップST11では、車両の動作状態が正常か否かの判定を行なう。例えば、エンジン回転数NE、駆動側回転数Ndr、被駆動側回転数Ndn、車速VELなどの値が正常か否かの判定、及び、発進クラッチのリニアソレノイドなどの動作が正常か否かの判定を行なう。これらのどれか一つに異常があったときは仕事率の算出ができないため、正常でないと判断してステップST12に進み、仕事率・仕事量算出モードをオフにする。続いて、ステップST13に進み、前条件不成立状態に設定し、処理を終了する。
前記ステップST11で正常と判断されたときは、ステップST14に進み、仕事率・仕事量算出モードをオンにする。続いて、ステップST15に進み、ドライブバイワイヤDBWが正常か否かの判定を行い、正常でないときは、前記ステップST13に進む。
前記ステップST15で正常と判断されたときは、ステップST16に進み、前記セレクタ40のセレクトレバーがリバース(R)に入っているか否かの判定を行い、入っているときは、前記ステップST13に進む。
ステップST16でリバース(R)に入っていないときは、ステップST17に進み、前記セレクタ40のセレクトレバーがドライブ(D)、セカンド(S)、ロー(L)のいずれかのギヤにインギヤが完了しているか否かの判定を行い、完了していなかったときは、前記ステップST13に進む。ステップST17でインギヤが完了していたときは、ステップST18に進み、前条件成立状態に設定し、処理を終了する。
以上の処理により、車両の状態が正常であり、前進段に入っているときは前条件成立状態に設定され、それ以外のときは前条件不成立状態に設定される。
図4は、図2のステップST2で行なわれる仕事量・仕事率算出処理の手順を示すフローチャートである。
まず、ステップST101では、前記ステップST12、ST14で設定された仕事率・仕事量算出モードがオンかオフかを判定する。オンのときは、ステップST102に進み、車両がイグニッションオン直後の状態か否かの判定を行なう。イグニッションオン直後の状態のときは、ステップST103に進む。
ステップST103は、外気温TAが所定の値TA2未満か否か、エンジンを冷却する冷却水の水温TWが所定の値TW2未満か否か、そして、前記外気温TAと前記水温TWとの差(絶対値)が所定の値TDAW2未満であるか否かの判定を行なう。所定値TA2及びTW2は、外気温TA及び水温TWが充分冷えていることを判定できるような値に設定される。所定値TDAW2は、エンジンをオフにしてから長時間放置されていることを判定できるような値に設定される。すなわち、外気温TAと水温TWとの差が殆どないことにより、長時間放置されているか否かの判定を行なう。
前記ステップST103の判定結果がYESであったときは、ステップST104に進み、発進クラッチの累積仕事量Qscを0に初期化して、ステップST105に進む。NOであったときは、前記ステップST105に進む。すなわち、車両が充分長い時間放置された状態であると判断されたときのみ、累積仕事量Qscが0に初期化される。これは、発進クラッチが充分に冷えていない状態でイグニッションがオンされたときに、累積仕事量Qscが0に初期化されることを回避するための処理である。
前記ステップST105はイグニッションオン直後の状態をオフにする。このため、前記ステップST102の判定結果がYESの状態になるのは、イグニッションオン直後の最初の一回だけになり、前記ステップST103〜ST105の処理は、一回だけ実行される。これ以降は、後述するステップST106〜ST110の処理が実行されることになる。
すなわち、累積仕事量Qscが0に初期化される可能性があるのはイグニッションオン後の最初だけになり、充分長い時間放置されていない状態でイグニッションがオンされたときは、累積仕事量Qscは0に初期化されない。
前記ステップST102の判定結果がイグニッションオン直後の状態でないときは、ステップST106に進み、現制御周期における発進クラッチの仕事率PWSCを算出する。その算出方法は、次のとおりである。
まず、次式1により発進クラッチのクラッチピストンの推力FSCを算出する。
FSC=(PCCMD+Pcf−PCRP)×ASC …式1
ここで、PCCMDは、発進クラッチに作用する圧力の目標値、Pcfは、発進クラッチ内部のオイルが回転して発生する遠心力によって発生する圧力、PCRPは、発進クラッチのクリープ力発生圧、ASCは発進クラッチのピストンの面積である。
上式1の(PCCMD+Pcf−PCRP)によって、発進クラッチの駆動側と被駆動側とに作用する圧力が求められ、前記クラッチピストンの面積を乗算することによって、発進クラッチのクラッチピストンの推力FSCが算出される。
次に、式2によって仕事率PWSCを算出する。
PWSC=FSC×(従動側プーリ11の回転数−車体側回転数)×K …式2
ここで、従動側プーリ11の回転数は、従動側回転センサ22の出力であり、発進クラッチの駆動軸の回転数を表し、車体側回転数は、発進クラッチの被駆動軸の回転数を表す。また、Kは、発進クラッチのクラッチピストンの推力に従動側プーリ11の回転数と車体側回転数の差を乗算した結果を発進クラッチの仕事率に換算するための係数である。発進クラッチの被駆動軸と車両の車輪の間は、固定されたギア比の歯車のみで構成されているため、発進クラッチの被駆動軸の回転数は、車速VELから算出することによって決定される。
従動側回転センサ22が本発明における駆動軸回転数検知手段に相当し、出力軸回転センサ23の出力から発進クラッチの被駆動軸の回転数を決定する処理が本発明における被駆動軸回転数検知手段に相当する。また、ステップST106の処理が本発明における仕事率算出手段に相当する。
上記のように仕事率を算出後、ステップST107に進み、前記ステップST106で算出した仕事率PWSCが所定の値PW以上であるか否かの判定を行なう。所定値PWについては後述する。
前記ステップST107の判定結果がYESのときは、ステップST108に進み、累積仕事量Qscに前記ステップST106で算出した仕事率PWSCから所定の値PW2を引いた値を時間軸で制御周期分積分し、現時点の累積仕事量Qscに加算した値と、予め定めた仕事量上限値QscMaxとで、値の小さい方を新たな累積仕事量Qscとして設定する。
所定値PW2は、仕事率PWSCの補正が目的であり、通常は0に設定される。仕事量上限値QscMaxは、累積仕事量Qscが増え続けないようにするために設定される。これは、発進クラッチの温度の上昇は、発進クラッチが滑り続けている間、上昇し続けることはなく、ある程度の温度で上昇が飽和するためである。
以上により、累積仕事量Qscが現時点の累積仕事量以上になるように算出される。
前記ステップST101、ST107のいずれかの判定結果がNOのときは、ステップST109に進み、仕事率減算値PWDNを設定する。仕事率減算値PWDNは、累積仕事量Qscを減算するための値である。エンジン回転数NEと発進クラッチの作動流体(本実施例では、油タンク36に溜まっているオイル)の温度(以下、「油温」という)OTに基づいてオイルによるクラッチの冷却力が決定される。仕事率減算値PWDNは、この冷却力に基づいて決定される値である。
前記油温OTは、CPU31aによって実行される本発明の温度推定手段によって、次のようにして推定される。温度推定手段は、前述のようにCPU31aから発進クラッチ油温制御装置34のソレノイドに供給される電流値とソレノイドにかかる電圧値LSVとからソレノイドの抵抗値を求め、ソレノイドの抵抗値と温度との関係を表したテーブルに基づいてソレノイドの温度を決定し、この温度を油温OTと推定している。
前記ステップST109の終了後、ステップST110に進み、仕事率減算値PWDNを時間軸で制御周期分積分し、累積仕事量Qscから減じた値を新たな累積仕事量Qscとして設定する。但し、累積仕事量Qscが負になったときは、0を設定する。よって、累積仕事量Qscが現時点の累積仕事量以下になるように算出される。
以上のように、累積仕事量Qscは、ステップST108で増加し、ST110で減少する。現制御周期の仕事率PWSCが小さいときはクラッチへの負荷が低い(クラッチに発生する熱が少ない)から、オイルによる冷却が十分機能するため、仕事量(クラッチに溜まる熱)を累積する必要がない。前記所定値PWは、この切り替えを行なえるような値に設定される。
ステップST105、ST108、ST110の処理が終了すると、仕事量・仕事率算出の処理は終了する。
ステップST106〜110の処理が、本発明における累積仕事量算出手段に相当する。
図5は、図2のステップST3で行なわれる制御状態選択処理の手順を示すフローチャートである。
まず、ステップST200では、前記ステップST106で算出した仕事率PWSCが所定の値PW3を超えているか否かを判定する。超えていないときは、ステップST201に進み、油温OTに基づいてタイマーの値を設定して、ステップST202に進む。超えているときは、タイマーの値は設定せずにステップST202に進む。超えているときにタイマーの値を設定しない理由は後述する。
前記ステップST201は、タイマーの値を、油温OTが低いときは大きく、油温OTが高いときは小さく設定し、ステップST202に進む。このように設定する理由は後述する。
ステップST202は、タイマーの値が0か否かを判定する。タイマーの値が0でないときはステップST203に進み、油温OTに基づいて所定の値Qsc1を設定し、ステップST204に進む。所定値Qsc1の値を、油温OTが低いときは大きく、油温OTが高いときは小さく設定する。このように設定する理由は後述する。
前記ステップST204は、ステップST108又はST110で設定された累積仕事量QscがステップST203で設定された前記所定値Qsc1より大きいか否かを判定する。大きくないときはステップST205に進み、保護制御モードをオフにする。
前記ステップST202でタイマーの値が0のときか、前記ステップST204で累積仕事量Qscが所定値Qsc1より大きいときは、ステップST206に進み、保護制御モードをオンにする。
ステップST205、ST206の処理が終わったら、ステップST207に進み、タイマーの値を更新し、処理を終了する。タイマーの値は、現在の値より小さくなるように設定され、現在の値が0のときは0が設定される。
以上より、保護制御モードがオンになる条件は、タイマーが0になるか、累積仕事量Qscが所定値Qsc1より大きいかである。
仕事率PWSCが所定値PW3を超えているとき(例えば、ストール状態)には、タイマーの値は設定されずにステップST207で更新された値のままになる。ストール状態が続いたときは、タイマーの値が更新されていき、ある期間続くとタイマーが0になる。すなわち、タイマーの値は、ストール状態になっていない状態での油温OTに対するストール状態の継続を許容できる期間を意味している。よって、ステップST201で、タイマーの値は、油温OTが低いときは大きく、油温OTが高いときは小さく設定している。
また、ステップST203で、所定値Qsc1の値を、油温OTが低いときは大きく、油温OTが高いときは小さく設定している理由は、ストール状態が短期間でも、油温OTが高いことにより、オイルの潤滑量が少なく冷却力が不充分であるため、発進クラッチの劣化の原因になるため、油温OTが高いときには保護制御モードをオンにしたほうがよいからである。なお、油温OTがある所定の温度を超えたときには、所定値Qsc1を0に設定することにより、保護制御モードを強制的にオンにすることもできる。
図6は、図2のステップST4で行なわれるトルク協調制御処理の手順を示すフローチャートである。
まず、ステップST300では、ステップST13、ST18で設定した前条件が成立状態にあるか否かの判定を行ない、成立状態にあるときは、ステップST301に進む。
前記ステップST301は、前記ステップST205、ST206で設定した保護制御モードがオンかオフかの判定を行ない、オンのときは、ステップST302に進む。
ステップST302は、前記ステップST106で算出した仕事率PWSCが所定の値PW4を超えているか否かの判定を行ない、超えているときはステップST303に進む。所定値PW4は、現制御周期で発進クラッチに発生する熱がオイルの冷却力に対してトルク制限をする必要があるか否かを判別できるように設定される。
ステップST303は、アクセルペダルの踏み込みに応じて決定されるアクセルペダル要求トルクTQAPが、目標トルクを超えているか否かの判定を行なう。超えていたときはステップST304に進む。目標トルクは、エンジンの出力トルクやクラッチの耐熱性能によって決定される値である。
図7に、本実施例での急登坂発進時(連続ストール状態)の、仕事率PWSC、協調トルクTQSC、エンジン回転数NE、累積仕事量Qsc、油温OTの各値の時間変化(以下、「パターン」という)の一例を示す。縦軸は各パラメータの値であり、横軸は時間軸である。
時刻T0からエンジン回転数NEが徐々に上がるに従って、他のパラメータも徐々に上がる。
時刻T1は、協調トルクTQSCが、TQ1を超えた時刻を示し、時刻T2は、累積仕事量Qscが出力トルクを制限するための値Qsc1(トルク制限実行閾値)を超えた時刻を示し、時刻T3は、協調トルクTQSCがTQ1の値に制限された時刻を示す。
時刻T1で協調トルクTQSCがTQ1を超えているが、累積仕事量QscがQsc1を超えていないため、時刻T2まではトルク制限は行なわれない。
時刻T2以降、仕事率PWSC、協調トルクTQSC、累積仕事量Qsc、油温OTについては、それぞれ破線と実線で2つのパターンが示されている。実線は本実施形態によりエンジンの出力トルクを制限するときのパターンであり、破線は制限しないときに発生するパターンである。
エンジンの出力トルクを制限しないとき(破線)は、時刻T2以降、累積仕事量Qsc、油温OTは徐々に上がる。一方、出力トルクを制限するとき(実線)は、協調トルクTQSCが時刻T2からT3の期間、徐々に下がるため、仕事率PWSCも徐々に下がり、累積仕事量Qsc、油温OTは出力トルクを制限するときに比べて上昇が緩やかになる。時刻T3以降、協調トルクTQSCはTQ1で一定になり、仕事率PWSCも一定になる。図7では、前記目標トルクはTQ1を示す。
ステップST304は、前回の協調トルクTQSCと減算値DTQの差の値と、目標トルクとで、値の大きい方を協調トルクTQSCとして設定し、ステップST305に進む。減算値DTQは、減算用の一定値として予め設定されている。図7の時刻T2からT3の期間では、協調トルクTQSCが徐々に下がり、時刻T3以降はTQ1で一定になっている。前回の協調トルクTQSCと減算値DTQの差の方が大きいときが、時刻T2からT3の間に相当し、目標トルクの方が大きいときが、時刻T3以降の期間に相当する。
ステップST305は、連続協調状態をオンに設定し、ステップST306に進む。連続協調状態とは、前回の協調トルク設定時に、アクセルペダル要求トルクTQAPよりも小さなトルクに設定した状態を指す。
ステップST306は、設定された協調トルクTQSCがエンジンの出力トルクとなるように制御を行い、処理を終了する。
前記ステップST303がNOであったときは、ステップST307に進み、アクセルペダル要求トルクTQAPを協調トルクTQSCとして設定し、ステップST308に進む。
ステップST308は、協調トルクTQSCの制限を行なわない状態であるため、連続協調状態をオフに設定し、ステップST306に進む。
前記ST300で前条件が成立状態にないとき、前記ST301で保護制御モードがオフのとき、前記ST302で仕事率PWSCが所定値PW4を超えていないときのいずれかであるときは、ステップST309に進む。
ステップST309は、連続協調状態にあるか否かを判定し、連続協調状態でないときは、出力トルクを制限する必要がないため、前記ステップST307に進む。連続協調状態のときは、ステップST310に進む。
ステップST310は、前回の協調トルクTQSCと加算値DTQの和と、アクセルペダル要求トルクTQAPとで値の小さい方を協調トルクTQSCとして設定し、ステップST311に進む。ここでは、現時点で出力トルクの制限をかける必要がないときでも、前時点で出力トルクの制限を行なっていたときに、アクセルペダル要求トルクTQAPを協調トルクTQSCとして設定することにより出力トルクの急激な変化が発生する。この急激な変化を防止するため、加算値DTQを設定し、出力トルクを徐々に増加させている。
ステップST311は、ステップST310で設定された協調トルクTQSCがアクセルペダル要求トルクTQAPより小さいか否かを判定し、小さいときは、前記ステップST306に進み、大きいときは、前記ステップST308に進む。すなわち、現制御周期で、エンジンの出力トルクに制限をかけなかったときは、連続協調状態をオフに設定している。
ステップST301〜304及びステップST309〜310の処理が、本発明におけるトルク制限手段に相当する。
以上のように、本実施形態では、クラッチ締結過渡状態にあって、油温OTが所定値より高いか又は累積仕事量Qscが油温OTによって決定された所定値Qsc1を超えたときに、発進クラッチの仕事率PWSCが高い場合には、エンジンの出力トルクを制限する。
従って、登坂発進時など連続ストール状態が継続したときには、エンジンの出力トルクを制限するため、クラッチの劣化を防止することができる。また、クラッチの温度が高い状態では、エンジンの出力トルクを制限することにより、温度上昇が抑えられるので、冷却力を増大する必要がなくなり、オイルポンプを小型化できる。そのため、オイルフリクションの増大と燃費の低下を防止することができる。
1…エンジン、9…発進クラッチの駆動軸、12…発進クラッチ、22…従動軸回転センサ、23…出力軸回転センサ、31…変速機制御装置、31a…CPU、31b…記憶装置、34…クラッチ油圧制御装置。

Claims (3)

  1. 車両の駆動側と被駆動側との間に設けられた発進クラッチによって双方間の接続を制御する制御装置であって、
    前記発進クラッチの駆動軸の回転数を検知する駆動軸回転数検知手段と、
    前記発進クラッチの被駆動軸の回転数を検知する被駆動軸回転数検知手段と、
    前記発進クラッチに作用している圧力、前記駆動軸回転数及び前記被駆動軸回転数に基づいて前記発進クラッチの仕事率を算出する仕事率算出手段と、
    前記発進クラッチに作用している圧力、前記駆動軸回転数及び前記被駆動軸回転数に基づいて前記発進クラッチの累積仕事量を算出する累積仕事量算出手段と、
    前記発進クラッチが締結過渡状態にあって、前記累積仕事量が第1の所定値を超え、且つ前記仕事率が第2の所定値を超えたとき、当該車両の駆動源の出力トルクを制限するトルク出力制限手段とを備え、
    前記累積仕事量算出手段は、
    前記発進クラッチが締結過渡状態のときは、前記仕事率に基づいて、現時点の累積仕事量以上になるように前記累積仕事量を算出し、前記発進クラッチが締結過渡状態でないときは、前記仕事率に基づいて、現時点の累積仕事量以下になるように前記累積仕事量を算出し、
    当該車両がイグニッションオン直後の場合には、外気温が所定の値未満か否かを判定し、前記駆動源を冷却する冷却水の温度が所定の値未満か否かを判定し、且つ前記外気温と前記冷却水の温度の差が所定の値未満か否かを判定し、該3つの判定が全て肯定的である場合には前記累積仕事量を0に設定し、該3つの判定のうち少なくとも1つが否定的である場合には前記累積仕事量を保持することを特徴とする発進クラッチ制御装置。
  2. 請求項1に記載の発進クラッチ制御装置において、前記発進クラッチの作動流体の温度を推定する温度推定手段を備え、前記トルク出力制限手段は、前記作動流体の温度に応じて前記第1の所定値を決定することを特徴とする発進クラッチ制御装置。
  3. 請求項2に記載の発進クラッチ制御装置において、前記作動流体の温度が第3の所定値を超えたときに当該車両の駆動源の出力トルクを制限する第2のトルク出力制限手段を備えることを特徴とする発進クラッチ制御装置。
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